(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172544
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ジャッキアップポイントの構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
B62D25/20 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078389
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】植松 洋一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 佳則
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕章
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA01
3D203AA31
3D203CB34
3D203DA14
3D203DB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ジャッキアップ時における車両の歪みや損傷などの抑制を図る。
【解決手段】車両に搭載される電動機のハウジングの下部には、鋳物成形によりジャッキアップポイント13が成形されている。このジャッキアップポイント13の底部13aは、ジャッキ装置により最初に持ち上げられるジャッキアップポイント面20と、ジャッキアップ面20の周囲に形成された片当たり面22a~22dとを備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両底面から突出状に配置され、ジャッキ装置によりジャッキアップされるジャッキアップポイントの構造であって、
前記ジャッキアップポイントの底部は、前記ジャッキ装置に最初に持ち上げられるジャッキアップポイント面と、前記ジャッキアップポイント面の周囲に形成された片当たり面と、
を備えることを特徴とするジャッキアップポイントの構造。
【請求項2】
前記ジャッキアップポイントの底部は、断面逆凹状の窪みが形成され、
前記ジャッキアップポイント面は、前記窪みの底面からなり、
前記片当たり面は、前記窪みの傾斜状の内側面からなり、
前記両面は平面に構成されている一方、前記両面間に曲面が形成され、
前記曲面の曲率半径は、平面に近似していることを特徴とする請求項1記載のジャッキアップポイントの構造。
【請求項3】
前記ジャッキアップポイントの根元外周には、横揺れを抑制する音振対策形状部が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載のジャッキアップポイントの構造。
【請求項4】
前記ジャッキアップポイントの両端部の少なくとも一方に肉抜部が形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のジャッキアップポイントの構造。
【請求項5】
少なくとも一つの肉抜部の内面が曲面に形成され、
前記曲面は、「曲面半径/前記内面から側面までの肉厚≧0.8」に形成されている
ことを特徴とする請求項4記載のジャッキアップポイントの構造。
【請求項6】
前記ジャッキアップポイントの根元外周には、前記ジャッキアップ時の応力を緩和する曲面が形成され、
前記曲面は、「曲面半径/前記肉厚≧5」に形成されていることを特徴とする請求項5記載のジャッキアップポイントの構造。
【請求項7】
車両衝突時の衝撃を緩和するプロテクタを設けたことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のジャッキアップポイントの構造。
【請求項8】
前記ジャッキアップポイントは、鋳物成形時にスライド金型の鋳抜きで形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のジャッキアップポイントの構造。
【請求項9】
前記ジャッキアップポイントは、電動機または電力変換器・電動機の一体品に鋳物成形されている
ことを特徴とする請求項8記載のジャッキアップポイントの構造。
【請求項10】
前記ジャッキアップポイントは、減速機、ギアケース、オイルパンに鋳物成形されている
ことを特徴とする請求項8記載のジャッキアップポイントの構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のジャッキアップ時に使用されるジャッキアップポイントの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の構造では、
図9に示すように、車両をジャッキアップする際にフロアジャッキ3が使用されている。フロアジャッキ3を設置するため、周辺部品との高さを考慮して別パーツ2を取り付けてジャッキアップポイント面4として突出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ジャッキアップ時に車両を持ち上げていくに従って車両が傾くため、フロアジャッキ3の当たる箇所がジャッキアップポイント面4から外れてしまう場合がある。この状態のままジャッキアップを継続すると車両が歪んだり、損傷などが生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、ジャッキアップ時における車両の歪みや損傷などの抑制を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、車両底面から突出状に配置され、ジャッキ装置によりジャッキアップされるジャッキアップポイントの構造であって、
前記ジャッキアップポイントの底部は、前記ジャッキ装置に最初に持ち上げられるジャッキアップポイント面と、前記ジャッキアップポイント面の周囲に形成された片当たり面と、
を備えることを特徴としている。
【0007】
(2)本発明の一態様において、
前記ジャッキアップポイントの底部は、断面逆凹状の窪みが形成され、
前記ジャッキアップポイント面は、前記窪みの底面からなり、
前記片当たり面は、前記窪みの傾斜状の内側面からなり、
前記両面は平面に構成されている一方、前記両面間に曲面が形成され、
前記曲面の曲率半径は、平面に近似していることを特徴としている。
【0008】
(3)本発明の他の態様において、
前記ジャッキアップポイントの根元外周には、横揺れを抑制する音振対策形状部が形成されていることを特徴としている。
【0009】
(4)本発明のさらに他の態様において、
前記ジャッキアップポイントの両端部の少なくとも一方に肉抜部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
(5)本発明のさらに他の態様において、
少なくとも一つの肉抜部の内面が曲面に形成され、
前記曲面は、「曲面半径/前記内面から側面までの肉厚≧0.8」に形成されていることを特徴としている。
【0011】
(6)本発明のさらに他の態様において、
前記ジャッキアップポイントの根元外周には、前記ジャッキアップ時の応力を緩和する曲面が形成され、
前記曲面は、「曲面半径/前記肉厚≧5」に形成されていることを特徴している。
【0012】
(7)本発明のさらに他の態様において、
車両衝突時の衝撃を緩和するプロテクタを設けたことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のジャッキアップポイントの構造。
【0013】
(8)本発明のさらに他の態様において、
前記ジャッキアップポイントは、鋳物成形時にスライド金型の鋳抜きで形成されていることを特徴としている。
【0014】
(9)本発明のさらに他の態様において、
前記ジャッキアップポイントは、電動機または電力変換器・電動機の一体品に鋳物成形されていることを特徴としている。
【0015】
(10)本発明のさらに他の態様において、
前記ジャッキアップポイントは、減速機、ギアケース、オイルパンに鋳物成形されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ジャッキアップ時における車両の歪みや損傷などを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1のジャッキアップポイントを備えた電動機を車両に搭載した状態を示す概略図。
【
図4】(a)は
図3のP-P線断面図、(b)は(a)のG-G線断面図、(c)はH-H線断面図およびI-I線断面図、(c)はJ-J線断面図、(d)はK-K線断面図。
【
図5】(a)はジャッキアップポイントの底面斜視図、(b)(c)は(a)の前後面図。
【
図6】(a)は実施例2のジャッキアップポイントを備えた電動機の側面図、(b)は同正面図。
【
図7】(a)は実施例3のジャッキアップポイントを備えた電動機の側面図、(b)は同正面図。
【
図8】(a)は実施例4のジャッキアップポイントを示す部分断面図、(b)は実施例5のジャッキアップポイントを示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るジャッキアップポイントの構造を実施例1~4に基づき説明する。
【0019】
≪実施例1≫
図1~
図5に基づき実施例1を説明する。本実施例の前記ジャッキアップの構造は、
図1に示すように、車両(乗用車)10に搭載された電動機(モータ/モータ・インバータ一体型品/増減速機・モータ・インバータ一体型品)11に適用されている。
【0020】
電動機11は、
図2に示すように、車両10の後輪駆動用のモータ本体12と、モータ本体12に一体形成されたジャッキアップポイント(ジャッキアップ座)13とを備えている。なお、
図1および
図3中のA-B方向は車両10の前後方向を示し、C-D方向は同左右方向を示し、E-F方向は同垂直方向を示している。
【0021】
モータ本体12は、ハウジング16に回転自在に軸支された回転軸15と、回転軸15に固定された図示省略の回転子と、ハウジング16内にて前記回転子と対向配置された図示省略の固定子とを備えている。この回転軸15には増減速機40が連結され、またモータ本体12には図示省略のインバータにより変換された電力が供給されている。
【0022】
ジャッキアップポイント13は、フロアジャッキ3などのジャッキ装置を用いて車両10をジャッキアップする際に使用される。すなわち、後輪14のタイヤ交換や後輪14側の下回り検査などの際には車両10を一時的に持ち上げる必要がある。
【0023】
このときジャッキアップポイント13がハウジング16の下部にモータ本体12の自重方向かつジャッキアップ時の圧縮方向に沿って形成され、車両10底面から突出している(
図1参照)。したがって、フロアジャッキ3をジャッキアップポイント13の下側に設置してジャッキアップすればよい。
【0024】
具体的にはジャッキアップポイント13は、
図3および
図4に示すように、横断面(P-P断面)略矩形状に形成され、車両10の前後方向に配置される両端に重量軽減用の肉抜部17~19が形成されている。また、ジャッキアップポイント13は、側面部13b,13cと両側面部(柱)13b,13c間の底部13aとを備えている。この底部13aは、前記ジャッキ装置の受け部として構成されている(以下、受け部13aとする。)。
【0025】
<受け部13a>
図3に基づき受部13aを説明する。受け部13aは、どの位置からでも前記ジャッキ装置による車両10のジャッキアップを可能に構成されている。
【0026】
すなわち、受け部13aの下面は、略中央に断面凹状の窪みが形成され、長方形状の平面に形成された前記窪みの底面20と、底面20の長辺から上り勾配に連続する曲面に形成された下側の内側面21a,21cと、内側面20a,20cの上縁から上り勾配に連続する傾斜状の平面に形成された上側の内面22a,22cと、底面20の短辺から上り勾配に連続する曲面に形成された下側の内側面21b,21dと、下側の内側面21b,21dの上縁から平坦状に延設された上端面22b,22dとを備えている。
【0027】
したがって、受け部13aは5平面と4曲面とを備え、前記各面21a,21c,22a,22cは車両10の幅方向側に配置され、前記各面21b,21d,22b,22dは同前後方向側に配置されている。また、内側面21a~21dは底面20を囲繞する一方、内側面22a,22cおよび上端面22b,22dは内側面21a~21dを囲繞し、底面20と前記各面22a~22dとの間に内側面21a~21dが配置されている。
【0028】
このとき底面20は、前記ジャッキ装置の設置時に最初に持ち上げられるジャッキアップポイント面(平面)であって、前記各面21a~21d,22a~22dよりも大きな面積に形成されている(以下、ジャッキアップポイント面20とする。)。
【0029】
また、前記各面22a~22dは、ジャッキアップ時に車両10が最大に傾いた場合に片当たりする平面となっている。すなわち、車両10をジャッキアップしていくに従って車両10が傾くため、前記ジャッキ装置がジャッキアップポイント面20から外れ、前記各面22a~22dに斜めに片当たりする。この意味で前記各面22a~22dは前記ジャッキ装置の片当たり面といえる。
【0030】
さらに内側面21a~21dは、平面に近い形状になるように曲率半径Rを可能な限り大きくして形成されている。すなわち、内側面21a~21dを平面に近づけることによって、ジャッキアップによる集中荷重が分散され、応力緩和の可能な形状に形成されている。特に曲率半径Rの大きい曲面に形成すれば、ジャッキアップにより潰れて平面に変形するため、この点で応力を緩和できる形状となり易い。
【0031】
このようなジャッキアップポイント13を中実に成形すれば剛性(強度)を保証でき、応力を小さくすることができるが、モータ11の製品重量が増加する欠点、内部に引け巣が生じる。そこで、ジャッキアップポイント13は、剛性を保証された薄肉形状、かつスライド金型で成形できる形状とする。すなわち、ジャッキアップポイント13の形状は鋳物成形によりハウジング16と一体に成形される。このとき薄肉形状にするために断面二次モーメントを規定値以上となる
図4(b)~(e)の断面形状を複数組み合わせて構成されている。これによりジャッキアップポイント13の破損のおそれを抑制できる。
【0032】
<応力緩和・音振対策>
ジャッキアップポイント13の側面部13b,13cの根元は、ジャッキアップ時の応力が過大となり易いこと等から次の応力緩和・音振対策形状が施されている。
【0033】
(1)ジャッキアップポイント13は、
図5(a)(b)に示すように、前記根元に曲面27が形成されている。この曲面27は、モータ内部のステータ焼き嵌めの応力およびジャッキアップによる根元への応力軽減を図るため、「曲率半径R/側面部13b,13cの肉厚T≧5」に形成されている。
【0034】
(2)ジャッキアップポイント13には肉抜部17~19が形成されているため、垂直方向の剛性が弱く、走行時に横揺れして車両10の走行を妨げるおそれがある。そこで、
図5(a)(c)に示すように、横揺れ幅を抑制する観点から前記根元に音振対策ボス部26が形成されている。
【0035】
ただし、前記ボス部26の構成は音振対策の一例であり、垂直方向のリブや他の構成のボス部を設けてジャッキアップポイント13の揺れ幅を抑制してもよいものとする。なお、前記根元には、前記ボス部26に隣接して応力緩和突起25も形成されている。この突起25は、ジャッキアップ時に前記根元のパーティングライン上への応力集中を抑制している。
【0036】
(3)ジャッキアップポイント13の肉抜部18内は円筒状の空間に形成され、内周面が応力緩和用曲面30に形成されている。この曲面30は、ジャッキアップ時の曲げモーメントを低減させるため、曲率半径Rと肉厚Tとの関係を「R/T≧0.8」に規定されている。
【0037】
<作用効果>
前述の実施例1のジャッキアップポイント13によれば、次の効果を得ることができる。
【0038】
(A)タイヤ交換時などに車両10を一時的に持ち上げる際には、ジャッキアップポイント面20に前記ジャッキ装置が設置される。
【0039】
このとき車両10を持ち上げていくに従って車両10が傾くため、前述のように前記ジャッキ装置がジャッキアップポイント面20から外れるものの、その周囲の片当たり面22a~22dに斜めに片当たりする。したがって、前記ジャッキ装置が受け部13aから外れることが無く、ジャッキアップによる車両の歪みや損傷が防止される。
【0040】
(B)ジャッキアップポイント13の形状は鋳物成形によりハウジング16と一体に成形されているため、特許文献1のように別パーツ2を取り付けてジャッキアップポイント面4として突出させる必要がない。この点で部品点数が抑制され、ジャッキ作業の効率が向上し、またコストを抑えることができる。
【0041】
(C)ジャッキアップポイント13には、前述の応力緩和・音振対策形状が施されているため、ジャッキアップ時の応力・ステータ焼き嵌めによる応力の前記根元への集中が抑制され、また車両走行時における横方向の揺れ幅も抑制される。
【0042】
(D)なお、ジャッキアップポイント13は、前述のように剛性保証された薄肉形状に形成され、かつ肉抜部17~19が形成されているので、質量の軽減が図られている。
【0043】
≪実施例2≫
図6に基づき実施例2を説明する。本実施例では、車両10に搭載される電動機11に板金製の車両プロテクタ41が設けられている。
【0044】
この車両プロテクタ41は、ハウジング16にねじ締結または溶接により固定されている。この車両プロテクタ41は、車両衝突時による電動機11の地絡・短絡からジャッキアップポイント13を保護している。
【0045】
≪実施例3≫
図7に基づき実施例3を説明する。本実施例では、電動機11のハウジング16に鋳物成形されたリブ状の車両プロテクタ42が一体成型されている。この車両プロテクタ42は、車両プロテクタ41と同じく、車両衝突時による電動機11の地絡・短絡からジャッキアップポイント13を保護している。
【0046】
≪実施例4≫
図8に基づき実施例4を説明する。
図8(a)では車両に搭載されるギアケース43にジャッキアップポイント13が適用されている。一方、
図8(b)では同オイルパン44にジャッキアップポイント13が適用されている。
【0047】
このように電動機11以外の車両部品にもジャッキアップポイント13を追加することができる。ただし、
図8(a)(b)は一例を示しているにすぎず、他の車両部品にジャッキアップポイント13を追加してもよいものとする。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載さされた範囲内で変形して実施することができる。例えば肉抜部17~19は、すべて形成する必要は無く、ジャッキアップポイント13の質量に応じて増減することができる。この場合に肉抜部17,18/肉抜部19の一方を省略してもよく、また肉抜部17,18の一方を省略してもよい。ただし、肉抜部18には応力緩和用曲面30が形成されているため、省略しないことが好ましい。
【符号の説明】
【0049】
3…ジャッキアップ装置
10…車両
11…電動機
13…ジャッキアップポイント
16…ハウジング
13a…ジャッキアップポイント面
13b,13c…同 側面部
20…底面(平面)
21a~21d…下側の内側面(曲面)
22a,22c…上側の内側面(平面)
22b,22d…上端面(平面)
27,30…曲面
17~19…肉抜部
25…応力緩和突起
26…音振対策ボス部(音振対策部)
43,44…車両プロテクタ