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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172566
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
B23K9/29 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078455
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LB06
4E001LH02
4E001MC01
(57)【要約】
【課題】シールドガスの流量を増加する場合においてシールドガスの偏流を抑制するのに適した溶接トーチを提供する。
【解決手段】溶接トーチA1は、軸線Ox方向に延びる筒状のチップボディ2と、チップボディ2の径方向外側に配置され、チップボディ2との間に環状の第1空間34が形成されたオリフィス部材3と、オリフィス部材3の径方向外側に配置され、かつオリフィス部材3との間に環状の第2空間43が形成されており、軸線Ox方向の一方側に位置する先端41を有するノズル4と、を備え、チップボディ2は、当該チップボディ2の内側空間22と第1空間34とに通じる第1通気孔24を有し、オリフィス部材3は、第1通気孔24に対して軸線Ox方向の他方側に位置し、かつ第1空間34と第2空間43とに通じる第2通気孔35を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる筒状のチップボディと、
前記チップボディの径方向外側に配置され、前記チップボディとの間に環状の第1空間が形成されたオリフィス部材と、
前記オリフィス部材の径方向外側に配置され、かつ前記オリフィス部材との間に環状の第2空間が形成されており、前記軸線方向の一方側に位置する先端を有するノズルと、を備え、
前記チップボディは、当該チップボディの内側空間と前記第1空間とに通じる第1通気孔を有し、
前記オリフィス部材は、前記第1連通孔に対して前記軸線方向の他方側に位置し、かつ前記第1空間と前記第2空間とに通じる第2通気孔を有する、溶接トーチ。
【請求項2】
前記第1通気孔に対して前記軸線方向の一方側に位置し、前記チップボディと前記オリフィス部材との間において前記第1空間を塞ぐシール手段を備える、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
前記オリフィス部材は、前記軸線方向の一方側に位置するオリフィス先端部を有し、
前記オリフィス先端部は、前記軸線方向の一方側に向かうにつれて外径寸法が小であるテーパー外周面を含み、
前記軸線方向に見て前記シール手段は前記テーパー外周面と重なる、請求項2に記載の溶接トーチ。
【請求項4】
前記オリフィス部材は絶縁性材料からなり、
前記オリフィス部材は、前記軸線方向の他方側に位置するオリフィス基端部を有し、
前記チップボディは、他の部位よりも径方向外方に突出する鍔部を有し、
前記ノズルは、前記軸線方向の他方側に位置するノズル基端部を有し、
前記オリフィス基端部は、前記軸線方向において前記鍔部と前記ノズル基端部とに挟まれている、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶接トーチ。
【請求項5】
前記ノズル基端部の外周にねじ接続され、かつ前記オリフィス基端部において前記軸線方向の他方側を向く端面に当接するナット部材を備え、
径方向において鍔部と前記ナット部材との間に介在する絶縁部を有する、請求項4に記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば消耗電極アーク溶接において使用される溶接トーチは、給電チップからの給電を受けつつ溶接ワイヤが送り出されるように構成される。溶接ワイヤは、給電チップが有するワイヤ挿通孔に通され、このワイヤ挿通孔の内面に接触することにより給電を受ける。溶接トーチは、たとえば特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1にも示されるように、溶接トーチは、トーチボディ、チップボディ、インシュレータ、オリフィス部材、給電チップおよびノズルを備えている。これらはいずれも筒状であり、チップボディはトーチボディの先端部に取り付けられている。チップボディの周りにインシュレータが設けられ、オリフィス部材がチップボディの先端部を取り囲んでいる。チップボディの先端部に給電チップが取り付けられており、インシュレータの先端部にノズルがねじ止めされている。
【0004】
溶接トーチは、ノズルの先端から不活性ガスなどからなるシールドガスが噴出するように構成されている。特許文献1に記載された溶接トーチにおいて、チップボディには通気孔が形成されており、当該通気孔は、チップボディの内側空間とオリフィス部材およびチップボディの間の環状空間とに通じている。オリフィス部材においても通気孔が形成されている。オリフィス部材の通気孔は、チップボディの通気孔よりもノズルの先端寄りに位置しており、オリフィス部材およびチップボディの間の環状空間と、ノズルおよびオリフィス部材の間の環状空間とに通じている。溶接トーチにシールドガスが送られると、当該シールドガスは、トーチボディの内側空間およびチップボディの内側空間を通過し、その後チップボディの通気孔、オリフィス部材の内側空間、オリフィス部材の通気孔を順次通過してノズルの内側空間に送られ、ノズルの先端から噴出させられる。
【0005】
近年では、たとえばレーザ・アークハイブリッド溶接などにおいて高速で溶接を行うことが求められる。高速で溶接を行う場合、必要なガスシールド性を確保するためにシールドガスの流量を増やす対応がなされる。上記特許文献1に記載された溶接トーチにおいて、シールドガスの流量を増やす場合、オリフィス部材の先端部付近においてチップボディとオリフィス部材との間からシールドガスがノズルの内側空間に漏れやすくなり、シールドガスの偏流が生じやすかった。また、上記従来の溶接トーチにおいては、オリフィス部材の通気孔からノズルの先端までの長さが比較的短い。したがって、ガス流量を増加する場合、ノズルの内側空間を流れるシールドガスが偏流状態のままノズル先端から噴出され、溶接時のガスシールド性の向上の妨げとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-213359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、シールドガスの流量を増加する場合においてシールドガスの偏流を抑制するのに適した溶接トーチを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0009】
本発明によって提供される溶接トーチは、軸線方向に延びる筒状のチップボディと、前記チップボディの径方向外側に配置され、前記チップボディとの間に環状の第1空間が形成されたオリフィス部材と、前記オリフィス部材の径方向外側に配置され、かつ前記オリフィス部材との間に環状の第2空間が形成されており、前記軸線方向の一方側に位置する先端を有するノズルと、を備え、前記チップボディは、当該チップボディの内側空間と前記第1空間とに通じる第1通気孔を有し、前記オリフィス部材は、前記第1連通孔に対して前記軸線方向の他方側に位置し、かつ前記第1空間と前記第2空間とに通じる第2通気孔を有する。
【0010】
好ましい実施の形態においては、前記第1通気孔に対して前記軸線方向の一方側に位置し、前記チップボディと前記オリフィス部材との間において前記第1空間を塞ぐシール手段を備える。
【0011】
好ましい実施の形態においては、前記シール手段は、前記チップボディの外周に形成された第1ねじ部と、前記オリフィス部材の内周に形成され、前記第1ねじ部に螺合する第2ねじ部と、を含む。
【0012】
好ましい実施の形態においては、前記オリフィス部材は、前記軸線方向の一方側に位置するオリフィス先端部を有し、前記オリフィス先端部は、前記軸線方向の一方側に向かうにつれて外径寸法が小であるテーパー外周面を含み、前記軸線方向に見て前記シール手段は前記テーパー外周面と重なる。
【0013】
好ましい実施の形態においては、前記オリフィス部材は絶縁性材料からなり、前記オリフィス部材は、前記軸線方向の他方側に位置するオリフィス基端部を有し、前記チップボディは、他の部位よりも径方向外方に突出する鍔部を有し、前記ノズルは、前記軸線方向の他方側に位置するノズル基端部を有し、前記オリフィス基端部は、前記軸線方向において前記鍔部と前記ノズル基端部とに挟まれている。
【0014】
好ましい実施の形態においては、前記ノズル基端部の外周にねじ接続され、かつ前記オリフィス基端部において前記軸線方向の他方側を向く端面に当接するナット部材を備え、径方向において鍔部と前記ナット部材との間に介在する絶縁部を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る溶接トーチによれば、チップボディの内側空間をノズルの先端側(軸線方向の一方側)に向けて流れるシールドガスは、チップボディの第1通気孔を通過した後の第1空間においてはノズルの先端から遠ざかるように軸線方向の他方側に流れる。その後、シールドガスは、オリフィス部材の第2通気孔を通過し、第2空間においてはノズルの先端側(軸線方向の一方側)に向けて流れる。したがって、第1空間においてシールドガスの流れが逆流しており、オリフィス部材の第2通気孔を通過した後の第2空間におけるノズルの先端までのガス流路の長さが長く確保されている。これにより、たとえば高速溶接に対応するためにシールドガスのガス流量を増加する場合であっても、ノズル内側(第2空間)の長いガス流路によって当該第2空間を流れるシールドガスの偏流は抑制され、その結果、溶接時のガスシールド性が向上する。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る溶接トーチの一実施形態を示す要部縦断面図である。
図2図1のII-II線に沿う拡大断面図である。
図3図1のIII-III線に沿う拡大断面図である。
図4図1のIV-IV線に沿う拡大断面図である。
図5図1に示した溶接トーチの第1変形例を示す要部縦断面図である。
図6図1に示した溶接トーチの第2変形例を示す要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る溶接トーチの一実施形態を示す。本実施形態の溶接トーチA1は、トーチボディ1と、チップボディ2と、オリフィス部材3と、ノズル4と、ナット部材5と、絶縁リング6と、給電チップ7と、ガイドライナ8と、を含んで構成される。
【0020】
トーチボディ1は、筒状であり、軸線Oxに沿って延びている。トーチボディ1は、円筒状の内周面11を有し、この内周面11で囲まれた領域がトーチボディ1の内側空間12に相当する。トーチボディ1は、導電性金属材料からなる。
【0021】
チップボディ2は筒状であり、トーチボディ1の先端に取り付けられている。チップボディ2は、軸線Ox方向(軸線Oxが沿う方向)に延びており、円筒状の内周面21を有する。この内周面21で囲まれた領域は、チップボディ2の内側空間22に相当する。チップボディ2は、トーチボディ1の先端に対し、ねじ手段23によって取り付けられている。チップボディ2は、導電性金属材料からなり、トーチボディ1から溶接電流の給電を受ける。図1に示した例では、チップボディ2の内周面21の内径寸法はトーチボディ1の内周面11の内径寸法と同程度である。なお、内周面21の内径寸法と内周面11の内径寸法とが異なっていてもよい。
【0022】
チップボディ2は、第1通気孔24、鍔部25および第1ねじ部26を有する。第1通気孔24は、チップボディ2の厚さ方向(径方向)に貫通している。本実施形態では、図1図3および図4に示すように、チップボディ2は、複数の第1通気孔24を有する。複数の第1通気孔24は、チップボディ2の軸線Ox方向における中間に位置しており、チップボディ2の周方向において一定角度毎に形成されている。図示した例では、複数の第1通気孔24は、複数の第1通気孔241および複数の第1通気孔242を含む。図3に示すように、複数の第1通気孔241は、チップボディ2の周方向において90°毎に配置されている。図4に示すように、複数の第1通気孔242は、チップボディ2の周方向において90°毎に配置されている。複数の第1通気孔241と複数の第1通気孔242とは、軸線Ox方向において僅かな間隔を隔てて配置されている。複数の第1通気孔241は、複数の第1通気孔242よりもチップボディ2の先端側(軸線Ox方向の一方側、図1における図中下側)に位置する。複数の第1通気孔241と複数の第1通気孔242とは、チップボディ2の周方向において互いに45°ずれた位置にある。このような構成により、複数の第1通気孔241と複数の第1通気孔242とは、軸線Ox方向に見て互いに重ならない。
【0023】
図1に示すように、鍔部25は、チップボディ2の他の部位よりも径方向外方に突出する部位である。鍔部25は、第1通気孔24に対して軸線Ox方向の他方側(図1における図中上側)に位置する。第1ねじ部26は、チップボディ2の外周に形成されている。第1ねじ部26は、第1通気孔24よりもノズル4の先端寄り(軸線Ox方向の一方側)に位置する。
【0024】
オリフィス部材3は、筒状とされており、チップボディ2の径方向外側に配置されている。オリフィス部材3は、軸線Ox方向に延びている。オリフィス部材3は、オリフィス先端部31、オリフィス基端部32および環状溝33を有する。
【0025】
オリフィス先端部31は、オリフィス部材3において軸線Ox方向の一方側(図1における図中下側)に位置する部分である。オリフィス先端部31は、チップボディ2との間に殆ど隙間のない状態で当該チップボディ2に外嵌されている。オリフィス先端部31は、テーパー外周面311を含む。テーパー外周面311は、軸線Ox方向の一方側に向かうにつれて外径寸法が小とされている。
【0026】
オリフィス基端部32は、オリフィス部材3において軸線Ox方向の他方側(図1における図中上側)に位置する部分である。本実施形態において、オリフィス基端部32は、径方向外方に環状に突出する部分を含む。オリフィス基端部32は、軸線Ox方向の他方側を向く端面321を有する。
【0027】
環状溝33は、オリフィス先端部31よりも軸線Ox方向の他方側(オリフィス基端部32寄り)に位置し、その内径寸法がオリフィス先端部31の内径寸法よりも大とされた部位である。本実施形態において、チップボディ2の外周面と環状溝33の内周面との間に環状の第1空間34が形成されている。図1図3図4に示すように、上記のチップボディ2の複数の第1通気孔24(複数の第1通気孔241および複数の第1通気孔242)はいずれも、チップボディ2の内側空間22と第1空間34との双方に通じる。
【0028】
図1に示すように、オリフィス部材3は、第2通気孔35および第1ねじ部26を有する。第2通気孔35は、オリフィス部材3の厚さ方向(径方向)に貫通している。本実施形態では、図1および図2に示すように、オリフィス部材3は、複数の第2通気孔35を有する。複数の第2通気孔35は、チップボディ2の複数の第1通気孔24に対して軸線Ox方向の他方側(図1における図中上側)に位置する。複数の第2通気孔35は、オリフィス部材3の周方向において一定角度毎に形成されている(図2参照)。図示した例では、複数の第2通気孔35は、オリフィス部材3の周方向において45°毎に配置されている。
【0029】
第2ねじ部36は、オリフィス部材3の内周に形成されている。第2ねじ部36は、チップボディ2の第1通気孔24よりもノズル4の先端寄り(軸線Ox方向の一方側)に位置する。第2ねじ部36は、チップボディ2の第1ねじ部26に螺合している。第1ねじ部26および第2ねじ部36は、軸線Ox方向に見てオリフィス部材3のテーパー外周面311と重なっている。上記構成のオリフィス部材3は、たとえば樹脂あるいはセラミックスなどの絶縁性材料からなる。
【0030】
ノズル4は、筒状とされており、オリフィス部材3の径方向外側に配置されている。ノズル4は、軸線Ox方向に延びている。ノズル4の先端41(軸線Ox方向の一方側端、図1におけるノズル4の下端)は、外部に開放している。ノズル4は、導電性金属材料からなる。
【0031】
ノズル4は、ノズル基端部42を有する。ノズル基端部42は、ノズル4において軸線Ox方向の他方側(図1における図中上側)に位置する部分である。本実施形態において、ノズル基端部42は、他の部位よりも径方向外方に環状に突出している。
【0032】
本実施形態において、オリフィス部材3の外周面とノズル4の内周面との間に環状の第2空間43が形成されている。図1図2に示すように、上記のオリフィス部材3の複数の第2通気孔35はいずれも、上記第1空間34と第2空間43との双方に通じる。
【0033】
ナット部材5は、ノズル基端部42に外嵌されている。本実施形態において、ナット部材5は、ノズル基端部42の外周に対してねじ手段51によって取り付けられている。本実施形態において、ナット部材5は、ノズル4を溶接トーチA1に組み付けるための部材である。本実施形態においては、オリフィス部材3におけるオリフィス基端部32の端面321に当接している。ナット部材5を締め込むことで、ノズル4は軸線Ox方向の他方側(図1における図中上側)に引き寄せられる。このようにして、図1に示すように、オリフィス基端部32は、軸線Ox方向においてチップボディ2の鍔部25とノズル基端部42とに挟まれている。
【0034】
絶縁リング6は、絶縁性材料からなる環状部材である。本実施形態において、絶縁リング6は、オリフィス基端部32の端面321に当接し、かつ径方向においてチップボディ2の鍔部25とナット部材5との間に介在している。絶縁リング6は、本発明の絶縁部の一例に相当する。
【0035】
給電チップ7は、チップボディ2の先端(軸線Ox方向の一方側端)に取り付けられている。給電チップ7は、その基端部(軸線Ox方向の他方側端部)がチップボディ2の先端部に対してねじ手段71によって取り付けられている。給電チップ7には、溶接ワイヤを通すためのワイヤ挿通孔72が基端から先端まで貫通状に形成されている。給電チップ7の基端部において、ワイヤ挿通孔72はテーパー状であり、溶接トーチA1に送給される溶接ワイヤ(図示略)は、当該テーパー状部分で芯出し案内されながら給電チップ7の先端側に送られる。
【0036】
ガイドライナ8は、トーチボディ1の内側空間22およびチップボディ2の内側空間22の配置されている。ガイドライナ8は、可撓性を有する筒状とされており、溶接ワイヤ(図示略)を挿通させることによってこの溶接ワイヤを案内する機能を果たす。ガイドライナ8を構成する材料としては、溶接ワイヤの摺動抵抗の小さい合成樹脂材料が適している。ガイドライナ8は、給電チップ7の近くまで延びている。溶接トーチA1に送給される溶接ワイヤ(図示略)は、トーチボディ1の内側空間12およびチップボディ2の内側空間22においてガイドライナ8の内側を通ってガイドされつつ、給電チップ7のワイヤ挿通孔72を通り、給電チップ7の先端から導出される。なお、ガイドライナ8に代えて、金属線材を螺旋状に巻回して構成されたコイルライを用いてもよい。
【0037】
溶接トーチA1は、ノズル4の先端41から不活性ガスなどからなるシールドガスが噴出するように構成されている。溶接トーチA1にシールドガスが送られると、当該シールドガスは、トーチボディ1の内側空間12およびチップボディ2の内側空間22を通過し、その後チップボディ2の複数の第1通気孔24(複数の第1通気孔241および複数の第1通気孔242)、オリフィス部材3の第1空間34、オリフィス部材3の複数の第2通気孔35を順次通過してノズル4の第2空間43に送られ、ノズル4の先端41から噴出させられる。トーチボディ1の内側空間12、チップボディ2の内側空間22、チップボディ2の第1通気孔24、第1空間34、オリフィス部材3の第2通気孔35、第2空間43はそれぞれ、シールドガスが流れるガス流路としての役割を有する。図1において、シールドガスの流れを矢印で表している。
【0038】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0039】
本実施形態において、チップボディ2は第1通気孔24を有する。第1通気孔24は、チップボディ2の内側空間22と、チップボディ2とオリフィス部材3との間の環状の第1空間34とに通じる。オリフィス部材3は第2通気孔35を有する。第2通気孔35は、第1通気孔24に対して軸線Ox方向の他方側に位置する。第2通気孔35は、チップボディ2とオリフィス部材3との間の第1空間34と、オリフィス部材3とノズル4との間の環状の第2空間43とに通じる。ノズル4の先端41は、軸線Ox方向の一方側に位置する。このような構成によれば、チップボディ2の内側空間22をノズル4の先端41側(軸線Ox方向の一方側)に向けて流れるシールドガスは、チップボディ2の第1通気孔24を通過した後の第1空間34においてはノズル4の先端41から遠ざかるように軸線Ox方向の他方側に流れる。その後、シールドガスは、オリフィス部材3の第2通気孔35を通過し、第2空間43においてはノズル4の先端41側(軸線Ox方向の一方側)に向けて流れる。したがって、第1空間34においてシールドガスの流れが逆流しており、オリフィス部材3の第2通気孔35を通過した後の第2空間43におけるノズル4の先端41までのガス流路の長さが長く確保されている。これにより、たとえば溶接トーチA1において高速溶接に対応するためにシールドガスのガス流量を増加する場合であっても、ノズル4内側(第2空間43)の長いガス流路によって当該第2空間43を流れるシールドガスの偏流は抑制され、その結果、溶接時のガスシールド性が向上する。なお、本実施形態のように、チップボディ2に複数の第1通気孔24を設ける構成、およびオリフィス部材3に複数の第2通気孔35を設ける構成は、第1空間34および第2空間43を流れるシールドガスの偏流を抑制するのに適している。
【0040】
チップボディ2は、第1通気孔24に対して軸線Ox方向の一方側に位置する第1ねじ部26を有する。オリフィス部材3は第2ねじ部36を有し、当該第2ねじ部36は第1ねじ部26に螺合している。このような構成によれば、第1ねじ部26および第2ねじ部36は、チップボディ2とオリフィス部材3との間において第1空間34を塞いでいる。したがって、シールドガスのガス流量を増加することで第1空間34におけるガス圧力が高くなっても、チップボディ2およびオリフィス部材3の隙間からのシールドガスの漏れが防止され、シールドガスの偏流を適切に抑制することができる。チップボディ2の第1ねじ部26およびオリフィス部材3の第2ねじ部36は、本発明のシール手段の一例に相当する。
【0041】
オリフィス部材3は、軸線Ox方向の一方側に位置するオリフィス先端部31を有する。オリフィス先端部31はテーパー外周面311を有し、当該テーパー外周面311は、軸線Oxの一方側に向かうにつれて外径寸法が小とされている。チップボディ2の第1ねじ部26およびオリフィス部材3の第2ねじ部36は、軸線Ox方向に見てテーパー外周面311と重なっている。このような構成によれば、テーパー外周面311については、軸線Ox方向の長さを比較的長くした緩やかな傾斜面とすることができる。これにより、シールドガス流路のうちノズル4内側(第2空間43)については、チップボディ2とオリフィス部材3との嵌合部(第1ねじ部26および第2ねじ部36)を通過した後のシールドガスの偏流を効率よく抑制することが可能である。
【0042】
オリフィス部材3は、絶縁性材料からなり、オリフィス基端部32を有する。オリフィス基端部32は、オリフィス部材3において軸線Ox方向の他方側(図1における図中上側)に位置する。オリフィス基端部32は、軸線Ox方向において、チップボディ2の鍔部25とノズル基端部42とに挟まれている。このような構成によれば、オリフィス基端部32はノズル基端部42に対応する位置まで軸線Ox方向の他方側に向かって長く延びており、オリフィス部材3は、チップボディ2とノズル4とを電気的に絶縁する機能を有する。本実施形態によれば、従来においてチップボディとノズルとを絶縁するために設けていた別部材のインシュレータが不要となるので、溶接トーチA1の全体構造の簡略化を図ることが可能である。
【0043】
本実施形態の溶接トーチA1は、ナット部材5および絶縁リング6を備える。ナット部材5は、ノズル基端部42の外周にねじ接続されており、オリフィス基端部32の端面321(軸線Ox方向の他方側を向く面)に当接している。絶縁リング6は、径方向においてチップボディ2の鍔部25とナット部材5との間に介在している。このような構成によれば、ナット部材5を利用することで、ノズル4を溶接トーチA1に簡単に組み付けることが可能である。また、チップボディ2の鍔部25とナット部材5との間に絶縁リング6が介在することで、チップボディ2とノズル4とをより確実に絶縁することが可能である。
【0044】
図5は、上記実施形態に係る溶接トーチの第1変形例を示している。なお、図5以降の図面において、上記実施形態1と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付しており、適宜説明を省略する。
【0045】
図5に示した溶接トーチA2においては、チップボディ2の外周にはOリング用溝27が形成されており、当該Oリング用溝27にOリング28が収容されている。Oリング用溝27は、第1通気孔24よりもノズル4の先端寄り(軸線Ox方向の一方側)に位置する。このようにチップボディ2に装着されたOリング28により、チップボディ2とオリフィス部材3との間において第1空間34を塞いでいる。したがって、シールドガスのガス流量を増加することで第1空間34におけるガス圧力が高くなっても、チップボディ2およびオリフィス部材3の隙間からのシールドガスの漏れが適切に防止され、シールドガスの偏流を適切に抑制することができる。チップボディ2におけるOリング用溝27およびOリング用溝27に収容されたOリング28は、本発明のシール手段の一例に相当する。
【0046】
図6は、上記実施形態に係る溶接トーチの第2変形例を示している。図6に示した溶接トーチA3においては、上記実施形態の溶接トーチA1と異なり、絶縁リング6を具備していない。その一方、オリフィス部材3のオリフィス基端部32は、延出部322を有する。延出部322は、オリフィス基端部32の他の部位よりも軸線Ox方向の他方側に延びており、環状である。図6に示すように、この延出部322は、径方向においてチップボディ2の鍔部25とナット部材5との間に介在している。このような構成によれば、チップボディ2の鍔部25とナット部材5との間に延出部322が介在することで、チップボディ2とノズル4とをより確実に絶縁することが可能である。オリフィス部材3における延出部322は、本発明の絶縁部の一例に相当する。
【0047】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【符号の説明】
【0048】
A1,A2,A3:溶接トーチ、2:チップボディ、22:内側空間、24,241,242:第1通気孔、25:鍔部、26:第1ねじ部(シール手段)、27:Oリング用溝(シール手段)、28:Oリング(シール手段)、3:オリフィス部材、31:オリフィス先端部、311:テーパー外周面、32:オリフィス基端部、321:端面、322:延出部(絶縁部)、34:第1空間、35:第2通気孔、36:第2ねじ部(シール手段)、4:ノズル、41:先端、42:ノズル基端部、43:第2空間、5:ナット部材、51:ねじ手段、6:絶縁リング(絶縁部)、Ox:軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6