(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172596
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】分光特性予測方法および分光特性予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01J 3/46 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
G01J3/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078537
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100114247
【氏名又は名称】奥田 邦廣
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】横内 健一
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020AA08
2G020DA05
2G020DA12
2G020DA14
2G020DA34
2G020DA43
(57)【要約】
【課題】本発明は、予測対象色に関して分光特性が既知である中間階調値が存在している場合に既知の分光特性の情報を利用することによって予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の高精度での予測を可能にすることを目的とする。
【解決手段】各サンプル色の特性を表す第1関係式を求め(S110)、各サンプル色について、第1関係式を用いて予測対象色についての特性取得済み階調値の分光特性の予測値を求める(S120)。予測値と実測値との差値を求め(S130)、最小の差値が得られたサンプル色を参照色として選定する(S140)。参照色の特性を表す第2関係式を求め(S150)、第2関係式を用いて予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の予測値を求める(S160)。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを基材に塗ることによって得られる分光特性を予測する分光特性予測方法であって、
最大階調値の分光特性、最小階調値の分光特性、および少なくとも1つの中間階調値の分光特性が得られているインクの色を予測対象色に設定する予測対象色設定ステップと、
前記予測対象色に関して分光特性が得られている中間階調値を特性取得済み階調値として、前記最大階調値の分光特性、前記最小階調値の分光特性、および少なくとも1つの中間階調値の分光特性が得られている複数のインクの色である複数のサンプル色のそれぞれについて、前記最大階調値の分光特性と前記特性取得済み階調値の分光特性との関係を表す第1関係式を求める第1関係式算出ステップと、
前記複数のサンプル色のそれぞれについて、対応する第1関係式に前記予測対象色についての前記最大階調値の分光特性を当てはめることによって前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の予測値を求める第1予測ステップと、
前記複数のサンプル色のそれぞれについて、前記第1予測ステップで求められた予測値と前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の実測値との差値を求める差値算出ステップと、
前記複数のサンプル色のうち前記差値算出ステップで最小の差値が得られたサンプル色を参照色として選定する参照色選定ステップと、
前記最大階調値または前記特性取得済み階調値を基準階調値とし、前記参照色に関して分光特性が得られている階調値または前記特性取得済み階調値を処理対象階調値として、前記参照色について前記基準階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す第2関係式を求める第2関係式算出ステップと、
前記第2関係式を用いて前記予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の予測値を求める第2予測ステップと
を含むことを特徴とする、分光特性予測方法。
【請求項2】
前記特性取得済み階調値の数は1であって、
前記第2関係式算出ステップでは、
前記最大階調値と前記特性取得済み階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記最大階調値の分光特性を第1の基準とし前記特性取得済み階調値の分光特性を第2の基準として前記最大階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記特性取得済み階調値と前記最小階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記特性取得済み階調値の分光特性を第1の基準とし前記最小階調値の分光特性を第2の基準として前記特性取得済み階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められることを特徴とする、請求項1に記載の分光特性予測方法。
【請求項3】
前記予測対象色に関して分光特性が得られている前記少なくとも1つの中間階調値は、第1階調値と、前記第1階調値よりも小さい第2階調値とを含み、
前記第2関係式算出ステップでは、
前記最大階調値と前記第1階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記最大階調値の分光特性を第1の基準とし前記第1階調値の分光特性を第2の基準として前記最大階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第1階調値と前記第2階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記第1階調値の分光特性を第1の基準とし前記第2階調値の分光特性を第2の基準として前記第1階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第2階調値と前記最小階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記第2階調値の分光特性を第1の基準とし前記最小階調値の分光特性を第2の基準として前記第2階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められることを特徴とする、請求項1に記載の分光特性予測方法。
【請求項4】
前記予測対象色に関して分光特性が得られている前記少なくとも1つの中間階調値は、mを3以上の整数として第1階調値から第m階調値までのm個の階調値を含み、
kを1以上(m-1)以下の整数として、第k階調値は第(k+1)階調値よりも大きく、
前記第2関係式算出ステップでは、
前記最大階調値と前記第1階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記最大階調値の分光特性を第1の基準とし前記第1階調値の分光特性を第2の基準として前記最大階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第k階調値と前記第(k+1)階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記第k階調値の分光特性を第1の基準とし前記第(k+1)階調値の分光特性を第2の基準として前記第k階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第m階調値と前記最小階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記第m階調値の分光特性を第1の基準とし前記最小階調値の分光特性を第2の基準として前記第m階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められることを特徴とする、請求項1に記載の分光特性予測方法。
【請求項5】
前記第2関係式算出ステップでは、前記第2の基準とされる分光特性の値が1となるように分光特性のデータに正規化が施されることを特徴とする、請求項2から4までのいずれか1項に記載の分光特性予測方法。
【請求項6】
前記第2関係式算出ステップでは、前記参照色について前記最大階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第2予測ステップでは、前記予測対象色についての前記最大階調値の分光特性を前記第2関係式に当てはめることによって、前記予測対象色についての前記予測対象階調値の分光特性の予測値が求められることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の分光特性予測方法。
【請求項7】
前記予測対象階調値の数は2以上であって、
前記第2予測ステップは、
2つ以上の前記予測対象階調値のうちの前記参照色に関して分光特性が得られている階調値の分光特性の予測値を、対応する第2関係式に前記予測対象色についての前記基準階調値の分光特性を当てはめることによって求める第2関係式利用ステップと、
2つ以上の前記予測対象階調値のうちの前記参照色に関して分光特性が得られていない階調値の分光特性の予測値を、前記第2関係式利用ステップで求められた予測値に基づくスプライン補間を行うことによって求める補間ステップと
を含むことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の分光特性予測方法。
【請求項8】
前記参照色に関して分光特性が得られている階調値と前記予測対象色に関して分光特性が得られている階調値との和集合を作成する和集合作成ステップを含み、
前記第2関係式算出ステップでは、前記和集合に含まれている階調値が前記処理対象階調値とされ、
前記予測対象階調値の数は2以上であって、
前記第2予測ステップは、
2つ以上の前記予測対象階調値のうちの前記和集合に含まれている階調値の分光特性の予測値を、対応する第2関係式に前記予測対象色についての前記基準階調値の分光特性を当てはめることによって求める第2関係式利用ステップと、
2つ以上の前記予測対象階調値のうちの前記和集合に含まれていない階調値の分光特性の予測値を、前記第2関係式利用ステップで求められた予測値に基づくスプライン補間を行うことによって求める補間ステップと
を含むことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の分光特性予測方法。
【請求項9】
前記和集合作成ステップと前記第2関係式算出ステップとの間に、前記参照色についての前記処理対象階調値の分光特性であって前記参照色に関して分光特性が得られていない階調値の分光特性の予測値を前記参照色についての既知の分光特性に基づくスプライン補間を行うことによって求める第3予測ステップを含むことを特徴とする、請求項8に記載の分光特性予測方法。
【請求項10】
前記差値算出ステップで求められる差値は、前記第1予測ステップで求められた予測値と前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の実測値との2乗誤差であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の分光特性予測方法。
【請求項11】
前記差値算出ステップで求められる差値は、前記第1予測ステップで求められた予測値と前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の実測値とに基づく色差であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の分光特性予測方法。
【請求項12】
前記分光特性は、分光反射率、分光吸収率、および分光吸収係数のいずれかであることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の分光特性予測方法。
【請求項13】
インクを基材に塗ることによって得られる分光特性を予測する分光特性予測プログラムであって、
コンピュータに、
最大階調値の分光特性、最小階調値の分光特性、および少なくとも1つの中間階調値の分光特性が得られているインクの色を予測対象色に設定する予測対象色設定ステップと、
前記予測対象色に関して分光特性が得られている中間階調値を特性取得済み階調値として、前記最大階調値の分光特性、前記最小階調値の分光特性、および少なくとも1つの中間階調値の分光特性が得られている複数のインクの色である複数のサンプル色のそれぞれについて、前記最大階調値の分光特性と前記特性取得済み階調値の分光特性との関係を表す第1関係式を求める第1関係式算出ステップと、
前記複数のサンプル色のそれぞれについて、対応する第1関係式に前記予測対象色についての前記最大階調値の分光特性を当てはめることによって前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の予測値を求める第1予測ステップと、
前記複数のサンプル色のそれぞれについて、前記第1予測ステップで求められた予測値と前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の実測値との差値を求める差値算出ステップと、
前記複数のサンプル色のうち前記差値算出ステップで最小の差値が得られたサンプル色を参照色として選定する参照色選定ステップと、
前記最大階調値または前記特性取得済み階調値を基準階調値とし、前記参照色に関して分光特性が得られている階調値または前記特性取得済み階調値を処理対象階調値として、前記参照色について前記基準階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す第2関係式を求める第2関係式算出ステップと、
前記第2関係式を用いて前記予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の予測値を求める第2予測ステップと
を実行させるための分光特性予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを基材に塗ることによって得られる分光特性(例えば分光反射率)を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷業界では、デジタル印刷装置の普及が進んでいる。しかしながら、ラベル・パッケージの分野では、近年でも印刷版を使用した印刷装置(以下、「従来方式の印刷装置」あるいは単に「印刷装置」という。)による印刷(オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷など)が行われることが多い。ところが、デザインやコンテンツの制作の短納期化の要求が高まっており、従来方式の印刷装置を使用している場合にはデザイン等の変更があったときに印刷版の再作製や工程の後戻りによって生じるコストが大きいことが問題となっている。この点、デジタル印刷装置によれば、印刷版を使用しないため、印刷版の交換・再作製という作業が発生することがない。すなわち、デジタル印刷装置を採用することにより、特に小ロットの印刷を低コストで行うことが可能となり、デザインやコンテンツの制作の短納期化の要求へも低コストで対応することが可能となる。
【0003】
ところで、ラベル・パッケージの分野では、色の表現力を高めるために特色が多用される傾向にある。このため、従来方式の印刷装置での印刷用に生成された印刷データを用いてデジタル印刷装置で印刷を行うためには、特色のインクの重ね刷りによって得られる色の予測を行って、その予測した色をデジタル印刷装置で再現する必要がある。なお、以下においては、複数の色のインクの重ね刷りによって得られる色を特定する値(具体的には、反射率、あるいは、CIE1931XYZ色空間における三刺激値X,Y,およびZ)の予測値のことを「オーバープリント予測値」という。
【0004】
後述する非特許文献1には、特色を含む複数の色のインクの重ね刷りによって得られる色(オーバープリント予測値)を比較的簡単に予測する手法(以下、「Deshpandeらの手法」という。)が開示されている。Deshpandeらの手法では、オーバープリント予測値は、三刺激値X,Y,およびZを用いて次式(1)~(3)のように表される(
図19参照)。
X=j
x×(X
b×X
f)+k
x ・・・(1)
Y=j
y×(Y
b×Y
f)+k
y ・・・(2)
Z=j
z×(Z
b×Z
f)+k
z ・・・(3)
ここで、X
b,Y
b,およびZ
bは背景色の三刺激値であり、X
f,Y
f,およびZ
fは前景色の三刺激値であり、j
x,j
y,およびj
zはスケーリング係数であり、k
x,k
y,およびk
zは定数である。以下、j
x,j
y,j
z,k
x,k
y,およびk
zをまとめて「オーバープリント係数」という。
【0005】
ところで、色の再現方法には加法混色と減法混色とがあるが、印刷の場合には減法混色によって色の再現が行われる。これに関し、仮に理想的な減法混色が行われると、例えば、重ね刷りによって得られる色の刺激値Xは「Xb×Xf」で表される(刺激値Y,Zについても同様である)。しかしながら、より正確な値を得るためには、不透明インクの使用や表面での光の反射などに起因する誤差を考慮した補正が必要となる。そこで、Deshpandeらの手法では、上式(1)~(3)に示したように、一次式を用いた補正が行われている。
【0006】
Deshpandeらの手法では、例えば、模式的には
図20に示すようなカラーチャートが使用される。このカラーチャートは「CxFチャート」と呼ばれている。
図20に示す例では、CxFチャートは22個のパッチによって構成されている。上段の11個のパッチは、網点パーセントを10%刻みにして対象の特色のインクを紙などの基材上に印刷することによって得られるパッチである。下段の11個のパッチは、網点パーセントを10%刻みにして対象の特色のインクを黒色(墨ベタ)上に印刷することによって得られるパッチである。このようにCxFチャートには複数段階のインク濃度に対応する複数のパッチが含まれている。このようなCxFチャートのパッチの測色で得られる値(測色値)を用いて、オーバープリント予測値が算出される。
【0007】
以下、
図21に示すフローチャートを参照しつつ、背景色が網点パーセントを40%とする特色(便宜上「特色1」という。)であって前景色が網点パーセントを60%とする別の特色(便宜上「特色2」という。)である場合のオーバープリント予測値の算出を例に挙げて、Deshpandeらの手法について詳しく説明する。
【0008】
まず、特色1のインクを用いてCxFチャートの印刷が行われ、さらに、特色2のインクを用いてCxFチャートの印刷が行われる(ステップS900)。
【0009】
次に、特色2のインクを用いて印刷されたCxFチャート(便宜上「特色2チャート」という。)を使用して、特色2に関する上式(1)~(3)のオーバープリント係数j
x,j
y,j
z,k
x,k
y,およびk
zが算出される(ステップS910)。これに関し、例えば、上式(1)に着目すると、X
b×X
fについての実用上の最大値および最小値は、それぞれ、基材上および黒色(墨ベタ)上に特色2のインクが塗られたことによって得られる値である。Y
b×Y
fおよびZ
b×Z
fについても同様である。そこで、オーバープリント係数を算出するために、上式(1)~(3)を表す座標系(
図22参照:但し、
図22には上式(1)を表す座標系のみを示している。)において、黒色上に網点パーセントを60%とする特色2のインクが塗られた状態の刺激値を表す座標が第1校正点P91とされ、基材上に網点パーセントを60%とする特色2のインクが塗られた状態の刺激値を表す座標が第2校正点P92とされる。
【0010】
三刺激値のうちの例えばXに着目すると、第1校正点P91については、上式(1)に対して次のように値の代入が行われる。特色2チャートのパッチPA93の測色によって得られる値(黒色の刺激値)がX
bに代入され、特色2チャートのパッチPA92の測色によって得られる値(基材上に網点パーセントを60%とする特色2のインクが塗られた状態の刺激値)がX
fに代入され、特色2チャートのパッチPA91の測色によって得られる値(黒色上に網点パーセントを60%とする特色2のインクが塗られた状態の刺激値)がXに代入される(
図20参照)。また、第2校正点P92については、上式(1)に対して次のように値の代入が行われる。特色2チャートのパッチPA94の測色によって得られる値(基材の刺激値)がX
bに代入され、特色2チャートのパッチPA92の測色によって得られる値(基材上に網点パーセントを60%とする特色2のインクが塗られた状態の刺激値)がX
fおよびXに代入される(
図20参照)。
【0011】
第1校正点P91に関する方程式と第2校正点P92に関する方程式との連立方程式を解くことによってオーバープリント係数j
x,k
xが算出される。すなわち、
図22で符号L91を付した直線を表す式が得られる。オーバープリント係数j
y,j
z,k
y,およびk
zについても、同様にして算出される。
【0012】
なお、
図20に示すCxFチャートでは10%刻みでパッチが設けられているが、線形補間によって得られる測色値に基づいて、左右方向に隣接する2つのパッチ間の網点パーセントに対応するオーバープリント係数を求めることができる。
【0013】
次に、特色1のインクを用いて印刷されたCxFチャート(便宜上「特色1チャート」という。)を使用して、最終的なオーバープリント予測値を算出するための上式(1)~(3)中のX
b,Y
b,およびZ
bの値(背景色の三刺激値)が取得される(ステップS920)。具体的には、特色1チャートのパッチPA95(
図20参照)の測色によって、X
b,Y
b,およびZ
bの値が取得される。
【0014】
次に、特色2チャートを使用して、最終的なオーバープリント予測値を算出するための上式(1)~(3)中のX
f,Y
f,およびZ
fの値(前景色の三刺激値)が取得される(ステップS930)。具体的には、特色2チャートのパッチPA92(
図20参照)の測色によって、X
f,Y
f,およびZ
fの値が取得される。
【0015】
最後に、ステップS910~S930で得られた値を上式(1)~(3)に代入することによって、オーバープリント予測値としての三刺激値X,Y,およびZが算出される(ステップS940)。これは、例えば、
図22で符号L91を付した直線において横軸が「ステップS920で取得されたX
b」と「ステップS930で取得されたX
f」との積であるときの縦軸の値をXの値として算出することに相当する。
【0016】
上記の処理では、特色2チャートのパッチPA91,PA92,およびPA93をそれぞれ測色することによって、第1校正点P91(
図22参照)に関するX,X
f,およびX
bの値を取得している。しかし、高精度のオーバープリント予測値が必要とされないのであれば、簡単のために第1校正点P91を
図22のグラフの原点に位置するとみなすこともできる。この場合には、特色2チャートのパッチPA91およびPA93の測色が不要になる(第2校正点P92のXおよびX
fの値の取得のためにパッチPA92の測色は依然として必要である)。この場合、
図20に示すCxFチャートのパッチPA91およびPA93等を含む下段のパッチ群を印刷しなくても、オーバープリント予測値としての三刺激値X,Y,およびZを算出することができる。このように、
図20に示す上段のパッチ群を有し下段のパッチ群を備えないCxFチャートを本明細書では便宜上「簡易CxFチャート」という。
【0017】
以上のように、Deshpandeらの手法によれば、例えば
図20に示したようなCxFチャートを用いて色の予測が行われる。ところが、特色を用いた印刷が行われる場合であっても、通常、このようなCxFチャートは事前には印刷されていない。このため、特色の数に等しい数のCxFチャートを印刷して各パッチの測色を行う必要性が生じる。これにより、コストの増加や工数の増加が引き起こされる。
【0018】
そこで、本願出願人は、CxFチャートに含まれるべきパッチの色を予測する色予測方法の発明についての出願を行った(特開2020-159821号公報を参照)。特開2020-159821号公報に記載された色予測処理の概略手順は以下のとおりである。まず、複数のパッチの分光反射率が得られている複数のサンプル色の中から予測対象色に近い色を類似色として選択する。次に、類似色について、ベタパッチ(インク濃度が最大のパッチ)の分光反射率と色予測対象パッチの分光反射率との関係を表す関係式を求める。最後に、予測対象色についてのベタパッチの分光反射率を関係式に当てはめることによって、予測対象色についての色予測対象パッチの分光反射率の予測値を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】K. Deshpande, P. Green、"Recommendations for predicting spot colour overprints"、[online]、[平成30年6月7日検索]、インターネット<URL: http://www.color.org/ICC_white_paper_43_Draft2kd.doc>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
特開2020-159821号公報に開示された発明によれば、予測対象色についてのベタパッチの分光反射率が得られていれば、中間調のパッチの分光反射率を予測することができる。従って、CxFチャートを印刷することなくCxFチャートが印刷されたと仮定した場合の中間調のパッチの分光反射率の予測値を得ることが可能となる。ところが、実際には、色玉などによって中間調のパッチの分光反射率が得られることがある。すなわち、一部の中間調のパッチについてはCxFチャートを印刷することなく測色値が得られることがある。このとき、測色値が得られる中間調のパッチに関し、実測値(測色値)と予測値との間には誤差がある。このため、例えば網点パーセントを50%とするパッチに対応する測色値が得られる場合に、
図23に示すように、実測値に基づく色と予測値に基づく色との関係に大きな不整合が生じることがある。これに関し、測色値が既知である中間調のパッチが存在しているのであれば、その測色値の情報を利用することによって予測精度が向上することが考えられる。
【0022】
また、Deshpandeらの手法によれば10%刻みの網点パーセントに対応する測色値が得られていることが前提となっているが、近年では、測色を行う対象に関して様々な運用がなされている。例えば、或る色に関して網点パーセントをそれぞれ100%、50%、0%とする3つのパッチに対応する3つの測色値のみが得られている場合に、当該或る色についての3つの測色値の情報に基づいて他の色についての任意のパッチの分光反射率が予測されることもある。それ故、予測対象色に関して任意の階調値の分光反射率を予測できることが好ましい。
【0023】
以上のような事情に鑑み、本発明は、予測対象色に関して分光反射率などの分光特性が既知である中間階調値が存在している場合に既知の分光特性の情報を利用することによって予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の高精度での予測を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
第1の発明は、インクを基材に塗ることによって得られる分光特性を予測する分光特性予測方法であって、
最大階調値の分光特性、最小階調値の分光特性、および少なくとも1つの中間階調値の分光特性が得られているインクの色を予測対象色に設定する予測対象色設定ステップと、
前記予測対象色に関して分光特性が得られている中間階調値を特性取得済み階調値として、前記最大階調値の分光特性、前記最小階調値の分光特性、および少なくとも1つの中間階調値の分光特性が得られている複数のインクの色である複数のサンプル色のそれぞれについて、前記最大階調値の分光特性と前記特性取得済み階調値の分光特性との関係を表す第1関係式を求める第1関係式算出ステップと、
前記複数のサンプル色のそれぞれについて、対応する第1関係式に前記予測対象色についての前記最大階調値の分光特性を当てはめることによって前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の予測値を求める第1予測ステップと、
前記複数のサンプル色のそれぞれについて、前記第1予測ステップで求められた予測値と前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の実測値との差値を求める差値算出ステップと、
前記複数のサンプル色のうち前記差値算出ステップで最小の差値が得られたサンプル色を参照色として選定する参照色選定ステップと、
前記最大階調値または前記特性取得済み階調値を基準階調値とし、前記参照色に関して分光特性が得られている階調値または前記特性取得済み階調値を処理対象階調値として、前記参照色について前記基準階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す第2関係式を求める第2関係式算出ステップと、
前記第2関係式を用いて前記予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の予測値を求める第2予測ステップと
を含むことを特徴とする。
【0025】
第2の発明は、第1の発明において、
前記特性取得済み階調値の数は1であって、
前記第2関係式算出ステップでは、
前記最大階調値と前記特性取得済み階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記最大階調値の分光特性を第1の基準とし前記特性取得済み階調値の分光特性を第2の基準として前記最大階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記特性取得済み階調値と前記最小階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記特性取得済み階調値の分光特性を第1の基準とし前記最小階調値の分光特性を第2の基準として前記特性取得済み階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められることを特徴とする。
【0026】
第3の発明は、第1の発明において、
前記予測対象色に関して分光特性が得られている前記少なくとも1つの中間階調値は、第1階調値と、前記第1階調値よりも小さい第2階調値とを含み、
前記第2関係式算出ステップでは、
前記最大階調値と前記第1階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記最大階調値の分光特性を第1の基準とし前記第1階調値の分光特性を第2の基準として前記最大階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第1階調値と前記第2階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記第1階調値の分光特性を第1の基準とし前記第2階調値の分光特性を第2の基準として前記第1階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第2階調値と前記最小階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記第2階調値の分光特性を第1の基準とし前記最小階調値の分光特性を第2の基準として前記第2階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められることを特徴とする。
【0027】
第4の発明は、第1の発明において、
前記予測対象色に関して分光特性が得られている前記少なくとも1つの中間階調値は、mを3以上の整数として第1階調値から第m階調値までのm個の階調値を含み、
kを1以上(m-1)以下の整数として、第k階調値は第(k+1)階調値よりも大きく、
前記第2関係式算出ステップでは、
前記最大階調値と前記第1階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記最大階調値の分光特性を第1の基準とし前記第1階調値の分光特性を第2の基準として前記最大階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第k階調値と前記第(k+1)階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記第k階調値の分光特性を第1の基準とし前記第(k+1)階調値の分光特性を第2の基準として前記第k階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第m階調値と前記最小階調値との間の前記処理対象階調値に関し、前記第m階調値の分光特性を第1の基準とし前記最小階調値の分光特性を第2の基準として前記第m階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められることを特徴とする。
【0028】
第5の発明は、第2から第4までのいずれかの発明において、
前記第2関係式算出ステップでは、前記第2の基準とされる分光特性の値が1となるように分光特性のデータに正規化が施されることを特徴とする。
【0029】
第6の発明は、第1から第5までのいずれかの発明において、
前記第2関係式算出ステップでは、前記参照色について前記最大階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す式が前記第2関係式として求められ、
前記第2予測ステップでは、前記予測対象色についての前記最大階調値の分光特性を前記第2関係式に当てはめることによって、前記予測対象色についての前記予測対象階調値の分光特性の予測値が求められることを特徴とする。
【0030】
第7の発明は、第1から第5までのいずれかの発明において、
前記予測対象階調値の数は2以上であって、
前記第2予測ステップは、
2つ以上の前記予測対象階調値のうちの前記参照色に関して分光特性が得られている階調値の分光特性の予測値を、対応する第2関係式に前記予測対象色についての前記基準階調値の分光特性を当てはめることによって求める第2関係式利用ステップと、
2つ以上の前記予測対象階調値のうちの前記参照色に関して分光特性が得られていない階調値の分光特性の予測値を、前記第2関係式利用ステップで求められた予測値に基づくスプライン補間を行うことによって求める補間ステップと
を含むことを特徴とする。
【0031】
第8の発明は、第1から第5までのいずれかの発明において、
前記参照色に関して分光特性が得られている階調値と前記予測対象色に関して分光特性が得られている階調値との和集合を作成する和集合作成ステップを含み、
前記第2関係式算出ステップでは、前記和集合に含まれている階調値が前記処理対象階調値とされ、
前記予測対象階調値の数は2以上であって、
前記第2予測ステップは、
2つ以上の前記予測対象階調値のうちの前記和集合に含まれている階調値の分光特性の予測値を、対応する第2関係式に前記予測対象色についての前記基準階調値の分光特性を当てはめることによって求める第2関係式利用ステップと、
2つ以上の前記予測対象階調値のうちの前記和集合に含まれていない階調値の分光特性の予測値を、前記第2関係式利用ステップで求められた予測値に基づくスプライン補間を行うことによって求める補間ステップと
を含むことを特徴とする。
【0032】
第9の発明は、第8の発明において、
前記和集合作成ステップと前記第2関係式算出ステップとの間に、前記参照色についての前記処理対象階調値の分光特性であって前記参照色に関して分光特性が得られていない階調値の分光特性の予測値を前記参照色についての既知の分光特性に基づくスプライン補間を行うことによって求める第3予測ステップを含むことを特徴とする。
【0033】
第10の発明は、第1から第9までのいずれかの発明において、
前記差値算出ステップで求められる差値は、前記第1予測ステップで求められた予測値と前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の実測値との2乗誤差であることを特徴とする。
【0034】
第11の発明は、第1から第9までのいずれかの発明において、
前記差値算出ステップで求められる差値は、前記第1予測ステップで求められた予測値と前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の実測値とに基づく色差であることを特徴とする。
【0035】
第12の発明は、第1から第11までのいずれかの発明において、
前記分光特性は、分光反射率、分光吸収率、および分光吸収係数のいずれかであることを特徴とする。
【0036】
第13の発明は、インクを基材に塗ることによって得られる分光特性を予測する分光特性予測プログラムであって、
コンピュータに、
最大階調値の分光特性、最小階調値の分光特性、および少なくとも1つの中間階調値の分光特性が得られているインクの色を予測対象色に設定する予測対象色設定ステップと、
前記予測対象色に関して分光特性が得られている中間階調値を特性取得済み階調値として、前記最大階調値の分光特性、前記最小階調値の分光特性、および少なくとも1つの中間階調値の分光特性が得られている複数のインクの色である複数のサンプル色のそれぞれについて、前記最大階調値の分光特性と前記特性取得済み階調値の分光特性との関係を表す第1関係式を求める第1関係式算出ステップと、
前記複数のサンプル色のそれぞれについて、対応する第1関係式に前記予測対象色についての前記最大階調値の分光特性を当てはめることによって前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の予測値を求める第1予測ステップと、
前記複数のサンプル色のそれぞれについて、前記第1予測ステップで求められた予測値と前記予測対象色についての前記特性取得済み階調値の分光特性の実測値との差値を求める差値算出ステップと、
前記複数のサンプル色のうち前記差値算出ステップで最小の差値が得られたサンプル色を参照色として選定する参照色選定ステップと、
前記最大階調値または前記特性取得済み階調値を基準階調値とし、前記参照色に関して分光特性が得られている階調値または前記特性取得済み階調値を処理対象階調値として、前記参照色について前記基準階調値の分光特性と前記処理対象階調値の分光特性との関係を表す第2関係式を求める第2関係式算出ステップと、
前記第2関係式を用いて前記予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の予測値を求める第2予測ステップと
を実行させる。
【発明の効果】
【0037】
上記第1の発明によれば、各サンプル色について最大階調値の分光特性と特性取得済み階調値(予測対象色に関して分光特性が得られている中間階調値)の分光特性との関係を表す第1関係式が求められ、各サンプル色についての第1関係式を用いて予測対象色についての特性取得済み階調値の分光特性の予測値が求められる。そして、予測値と実測値との差値が求められ、最小の差値が得られたサンプル色が参照色として選定される。その参照色の特性を表す第2関係式が求められ、当該第2関係式を用いて予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の予測値が求められる。以上のように、予測対象色についての既知の分光特性を最も精度良く予測することのできた色を参照色として予測対象色についての分光特性の予測が行われるので、高精度の予測値が得られる。以上のように、予測対象色に関して分光特性が既知である中間階調値が存在している場合に、既知の分光特性の情報を利用することによって予測対象色についての予測対象階調値の分光特性の高精度での予測が可能となる。
【0038】
上記第2の発明によれば、いずれの予測対象階調値の分光特性を予測するための第2関係式についても、特性取得済み階調値を基準(第1の基準または第2の基準)にして作成される。このため、予測対象色についての特性取得済み階調値の分光特性の予測値は、その実測値と等しくなる。これにより、最大階調値と特性取得済み階調値との間の階調値および特性取得済み階調値と最小階調値との間の階調値についても、分光特性の予測精度が向上する。以上より、滑らかな濃度変化が得られるように最小階調値から最大階調値までの各階調値の分光特性を予測することが可能となり、トーンジャンプの発生が抑制される。
【0039】
上記第3の発明によれば、いずれの予測対象階調値の分光特性を予測するための第2関係式についても、特性取得済み階調値を基準(第1の基準または第2の基準)にして作成される。このため、予測対象色についての特性取得済み階調値の分光特性の予測値は、その実測値と等しくなる。これにより、最大階調値と最大の特性取得済み階調値との間の階調値、2つの特性取得済み階調値の間の階調値、および最小の特性取得済み階調値と最小階調値との間の階調値についても、分光特性の予測精度が向上する。以上より、滑らかな濃度変化が得られるように最小階調値から最大階調値までの各階調値の分光特性を予測することが可能となり、トーンジャンプの発生が抑制される。
【0040】
上記第4の発明によれば、上記第3の発明と同様の効果が得られる。
【0041】
上記第5の発明によれば、第1の基準や第2の基準とされる分光特性の値に関わらず、第2関係式が好適に求められる。
【0042】
上記第6の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【0043】
上記第7の発明によれば、予測対象階調値のうち参照色に関して分光特性が得られていない階調値についても、比較的精度良く分光特性の予測値が求められる。
【0044】
上記第8の発明によれば、分光特性を予測する実際の処理が複雑になるのを抑制することができる。
【0045】
上記第9の発明によれば、処理対象階調値(参照色に関して分光特性が得られている階調値と予測対象色に関して分光特性が得られている階調値との和集合を構成する階調値)のうち参照色に関して分光特性が得られていない階調値についても、比較的精度良く分光特性の予測値が求められる。
【0046】
上記第10の発明によれば、複数のサンプル色からの参照色の選定が好適に行われるので、分光特性の予測精度が向上する。
【0047】
上記第11の発明によれば、上記第10の発明と同様の効果が得られる。
【0048】
上記第12の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【0049】
上記第13の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】CxFチャートに関して本明細書で用いる用語について説明するための図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態における印刷システムの全体構成図である。
【
図3】上記第1の実施形態における印刷データ生成装置のハードウェア構成図である。
【
図4】上記第1の実施形態における分光反射率予測処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】上記第1の実施形態において、第1関係式を算出する際の正規化について説明するための図である。
【
図6】上記第1の実施形態において、組み合わせデータについて説明するための図である。
【
図7】上記第1の実施形態において、第1関係式の算出について説明するための図である。
【
図8】上記第1の実施形態において、1つのプロットの例を示す図である。
【
図9】上記第1の実施形態において、2乗誤差の求め方について説明するための図である。
【
図10】上記第1の実施形態において、予測対象階調値の中に参照色に関して分光反射率が得られている階調値以外の階調値が含まれているケースにおけるステップS160の手順を示すフローチャートである。
【
図11】特性取得済み階調値近傍でのトーンジャンプの発生について説明するための図である。
【
図12】特性取得済み階調値の分光反射率に関して予測値と実測値との間に誤差が生じることについて説明するための図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態における第2関係式の算出について説明するための図である。
【
図14】上記第2の実施形態における効果について説明するための図である。
【
図15】上記第2の実施形態における効果について説明するための図である。
【
図16】本発明の第3の実施形態において、和集合について説明するための図である。
【
図17】上記第3の実施形態における分光反射率予測処理の手順を示すフローチャートである。
【
図18】上記第3の実施形態において、参照色に関して和集合に含まれている全ての階調値の分光反射率が得られているケースについて説明するための図である。
【
図19】従来例に関し、Deshpandeらの手法について説明するための図である。
【
図20】従来例に関し、CxFチャートの一例を模式的に示す図である。
【
図21】従来例に関し、Deshpandeらの手法について説明するためのフローチャートである。
【
図22】従来例に関し、Deshpandeらの手法について説明するための図である。
【
図23】従来例に関し、実測値に基づく色と予測値に基づく色との関係に大きな不整合が生じることについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
<0.はじめに>
実施形態について説明する前に、
図1を参照しつつ、本明細書で用いる用語や本発明に関わる基本的事項について説明する。
図1に示すCxFチャートに関し、上段のパッチ(符号71を付した段のパッチ)は対象のインクを基材上に印刷することによって得られるパッチであり、下段のパッチ(符号72を付した段のパッチ)は対象のインクを黒色上に印刷することによって得られるパッチである。基材そのものの色を表しているパッチ(
図1で符号PA1を付したパッチ)を「紙白パッチ」といい、基材上に対象のインクがベタで塗られた状態のパッチ(
図1で符号PA2を付したパッチ)を「ベタパッチ」という。但し、以下の各実施形態では、パッチに注目して処理が行われるのではなく、階調値に注目して処理が行われる。また、以下の各実施形態では、対象のインクを基材上に印刷することによって得られる分光反射率の予測が行われる。
【0052】
上述したように、以下の各実施形態では、階調値に注目して処理が行われる。これに関し、最大階調値は1であって最小階調値は0であると仮定する。最大のインク濃度で基材にインクが塗られた状態が最大階調値に相当し、基材にインクが塗られていない状態が最小階調値に相当する。すなわち、最大階調値はベタパッチPA2に対応し、最小階調値は紙白パッチPA1に対応する。階調値と網点パーセントとを対応付けると、例えば、階調値1は網点パーセント100%に相当し、階調値0.5は網点パーセント50%に相当し、階調値0は網点パーセント0%に相当する。
【0053】
特色のインクを含む複数の色のインクの重ね刷りによって得られる色を予測するためには、予測の際に参照する色(以下、「参照色」という。)についての測色値が必要となる。より具体的には、参照色について、最大階調値の分光反射率の情報(測色値)、最小階調値の分光反射率の情報(測色値)、および少なくとも1つの中間階調値の分光反射率の情報(測色値)が必要となる。また、以下の各実施形態では、予測対象色についても、最大階調値の分光反射率の情報(測色値)、最小階調値の分光反射率の情報(測色値)、および少なくとも1つの中間階調値の分光反射率の情報(測色値)が必要となる。ところで、最大階調値および最小階調値については、分光反射率を比較的容易に取得することができる。なお、以下では、分光反射率が380nm~730nmの波長範囲で10nm刻みで得られるケース(すなわち、36個の分光反射率によって1つの色が特定されるケース)を想定して説明を行う。但し、これには限定されず、例えば400nm~700nmの範囲を包含する波長範囲を適宜の大きさの単位波長範囲で除することによって得られる数の分光反射率が得られるケースにも後述する各実施形態(変形例を含む)を適用することができる。
【0054】
最大階調値の分光反射率(ベタパッチPA2の分光反射率)は、例えば、色玉や印刷物に含まれる該当色の部分の測色を行うことによって得られる。また、最大階調値の分光反射率については、該当色の色見本の測色で得られた分光反射率で代用することもできる。何故ならば、色見本は、該当色をベタ塗りしたときの目標とする色を表しているからである。
【0055】
最小階調値の分光反射率(紙白パッチPA1の分光反射率)は、基材上の何も印刷されていない部分の測色を行うことによって得られる。また、印刷の際に基材として同じ用紙が使用されるのであれば、インクの色に関わらず、最小階調値の分光反射率は一定である。従って、複数の色のインクについての処理が行われる場合であっても、同じ用紙が使用される限り、最小階調値の分光反射率の測定は一度だけ行われれば良い。
【0056】
中間階調値については、実際に基材上に印刷されたCxFチャート等の測色を行わなければ正確な分光反射率は得られない。但し、上述したように、色玉などによって一部の中間階調値の分光反射率が得られることもある。
【0057】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
【0058】
<1.第1の実施形態>
<1.1 印刷システムの全体構成>
図2は、本発明の第1の実施形態における印刷システムの全体構成図である。この印刷システムは、PDFファイルなどの入稿データに対して各種処理を施して印刷データを生成する印刷データ生成装置100と、印刷データに基づいて印刷版を作製する製版装置200と、その製版装置200で作製された印刷版を使用して印刷を行う印刷装置300と、印刷版を用いることなくデジタルデータである印刷データに基づいて印刷を行うインクジェット印刷機・コピー機等のデジタル印刷装置350と、色の測定を行う測色機(例えば、分光測色機)400とによって構成されている。印刷データ生成装置100と製版装置200とデジタル印刷装置350と測色機400とは、通信回線CLによって互いに通信可能に接続されている。
【0059】
本実施形態では、印刷データ生成装置100において、予測対象色のインク(典型的には、特色のインク)を基材に塗ることによって得られる分光反射率を予測する分光反射率予測処理が行われる。その分光反射率予測処理では、少なくとも1つの階調値が予測対象階調値として指定され、予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率の予測値が求められる。
【0060】
また、印刷データ生成装置100では、複数の色のインクの重ね刷りによって得られる色(典型的には、複数の特色のインクの重ね刷りが行われた部分あるいは特色のインクとプロセスカラーのインクとの重ね刷りが行われた部分の色)を予測するオーバープリント予測処理が行われる。オーバープリント予測処理では、必要に応じて、分光反射率予測処理の結果(分光反射率の予測値)が用いられる。さらに、印刷データ生成装置100では、オーバープリント予測処理で得られたデータをデジタル印刷装置350での印刷出力が可能な形式の印刷データに変換する処理も行われる。なお、オーバープリント予測処理の具体的な手法については、上述したDeshpandeらの手法を採用しても良いし、それとは別の手法を採用しても良い。
【0061】
<1.2 印刷データ生成装置の構成>
図3は、本実施形態における印刷データ生成装置100のハードウェア構成図である。この印刷データ生成装置100は、パソコンによって実現されており、CPU11と、ROM12と、RAM13と、補助記憶装置14と、キーボード等の入力操作部15と、表示部16と、光学ディスクドライブ17と、ネットワークインタフェース部18とを有している。通信回線CL経由で送られてくる入稿データは、ネットワークインタフェース部18を介して印刷データ生成装置100の内部へと入力される。印刷データ生成装置100で生成された印刷データは、ネットワークインタフェース部18を介して通信回線CL経由でデジタル印刷装置350に送られる。
【0062】
分光反射率予測処理を実行するための分光反射率予測プログラム141は補助記憶装置14に格納されている。分光反射率予測プログラム141は、CD-ROMやDVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体(非一過性の記録媒体)に格納されて提供される。すなわちユーザは、例えば、分光反射率予測プログラム141の記録媒体としての光学ディスク(CD-ROM、DVD-ROM等)170を購入して光学ディスクドライブ17に装着し、その光学ディスク170から分光反射率予測プログラム141を読み出して補助記憶装置14にインストールする。また、これに代えて、通信回線CLを介して送られる分光反射率予測プログラム141をネットワークインタフェース部18で受信して、それを補助記憶装置14にインストールするようにしてもよい。
【0063】
<1.3 分光反射率予測方法(分光特性予測方法)>
以下、本実施形態に係る分光反射率予測方法(分光特性予測方法)を実現する分光反射率予測処理について説明する。なお、この分光反射率予測処理は、印刷データ生成装置100で分光反射率予測プログラム141が実行されることによって行われる。
【0064】
図4は、本実施形態における分光反射率予測処理の手順を示すフローチャートである。なお、この分光反射率予測処理が実行されるまでに、適宜の数のインクの色(以下、「サンプル色」という。)に関して、最大階調値の分光反射率、最小階調値の分光反射率、および少なくとも1つの中間階調値の分光反射率が得られている必要がある。但し、ここでは、複数のサンプル色のそれぞれに関して、最小階調値(階調値0)から最大階調値(階調値1)までの0.1刻みの全ての階調値の分光反射率が得られているものと仮定する。これを実現するためには、例えば、各サンプル色について、
図1に示したようなCxFチャート(簡易CxFチャートでも良い)の印刷およびそれらの測色が行われていれば良い。サンプル色としては、例えば32個の特色が用いられる。なお、サンプル色にプロセスカラーが含まれていても良い。以下、
図4に示すフローについて説明する。
【0065】
まず、予測対象色の設定が行われる(ステップS100)。本実施形態においては、最大階調値の分光反射率、最小階調値の分光反射率、および少なくとも1つの中間階調値の分光反射率が得られているインクの色が予測対象色として設定される。これに関し、例えば、所定の画面上で予測対象色に関する情報をユーザが入力することによってステップS100の処理が実現されるようにしても良いし、予測対象色に関する情報を含むデータファイルを分光反射率予測プログラム141が読み込むことによってステップS100の処理が実現されるようにしても良い。なお、以下では、予測対象色に関して分光反射率が得られている中間階調値のことを「特性取得済み階調値」という。例えば、予測対象色に関して階調値0.3の分光反射率および階調値0.5の分光反射率が得られていれば、0.3および0.5が特性取得済み階調値である。
【0066】
次に、上述した複数のサンプル色のそれぞれについて、最大階調値の分光反射率と特性取得済み階調値の分光反射率との関係を表す関係式(以下、「第1関係式」という。)が求められる(ステップS110)。このステップS110では、各サンプル色について、特性取得済み階調値の数に等しい数の第1関係式が求められる。上記の例のように0.3および0.5が特性取得済み階調値である場合には、各サンプル色について、2つの第1関係式が求められる。
【0067】
第1関係式の求め方について詳しく説明する。上述したように、サンプル色に関しては、最小階調値(階調値0)から最大階調値(階調値1)までの0.1刻みの全ての階調値の測色値(分光反射率)が得られている。すなわち、模式的には
図5のA部に示すような曲線(分光反射率を表す曲線)に相当するデータが、0から1までの0.1刻みの11個の全ての階調値について得られている(
図5に関し、横軸は波長(単位:nm)であり、縦軸は反射率である。)。なお、
図5のA部には、11個の階調値のうちの4つの階調値に対応する曲線のみを示している(
図5のB部も同様である)。符号51を付した曲線は最小階調値についての曲線であり、符号52を付した曲線は最大階調値についての曲線である。このようなデータに対して、最小階調値の分光反射率を1とする正規化が施される。これにより、模式的には
図5のB部に示すような曲線(分光反射率を表す曲線)(但し、正規化の基準となった最小階調値については直線)に相当するデータが得られる。
【0068】
ここで、9個の中間階調値のうち特性取得済み階調値である1つの中間階調値(以下、「着目階調値」という。)に着目する。
図5のB部に示したようなグラフに関し、波長480nmの近傍で最大階調値および着目階調値についての曲線が
図6に示すようなものであったと仮定する。このとき、最大階調値の反射率は0.15で、着目階調値の反射率は0.52である。本実施形態では、最大階調値の反射率と着目階調値の反射率とを組み合わせたこのようなデータを「組み合わせデータ」として扱う。上述したように分光反射率のデータは36個の反射率によって構成されているので、最大階調値の反射率(正規化後の反射率)と着目階調値の反射率(正規化後の反射率)との組み合わせデータは36個得られる。各組み合わせデータは、
図7に示すように、横軸を最大階調値の反射率とし縦軸を着目階調値の反射率とするグラフ(以下、便宜上「関係グラフ」という。)上に1つのプロットとして表される。例えば、
図6に示したデータに基づく組み合わせデータは、関係グラフ上に、
図8で符号53を付したプロットとして表される。このように、本実施形態においては、関係グラフ上に36個のプロットが表される。第1関係式の算出は、これら36個のプロットの位置にできるだけ近い位置を通る曲線(例えば、
図7において符号54を付した曲線)を求めることに相当する。
【0069】
なお、
図5のB部に示す例では、波長560nm近傍で反射率は最小の値を取り、560nmよりも大きい波長と560nmよりも小さい波長で同じ反射率が現れている。従って、例えば波長の高いものから関係グラフ上へのプロットを順次に行った場合、その軌跡に折り返しが生じる。しかしながら、
図7から把握されるように、最大階調値の反射率と着目階調値の反射率との関係性については折り返し前後で変化はない。以上のことから、サンプル色と予測対象色とが近い色であれば、当該サンプル色についての「最大階調値の反射率と着目階調値の反射率との関係」を利用して予測対象色についての最大階調値の反射率から予測対象色についての着目階調値の反射率を精度良く求めることができると考えられる。
【0070】
以上に鑑み、
図4のステップS110では、上述のような36個の組み合わせデータに基づいて、最大階調値の分光反射率と着目階調値の分光反射率との関係を表す第1関係式(最大階調値の分光反射率から着目階調値の分光反射率の近似値を求める近似式)が求められる。なお、第1関係式は公知の手法によって求められる。例えば、36個の組み合わせデータによって得られる連立方程式をガウス消去法やガウス・ジョルダン法で解くことによって第1関係式は求められる。
【0071】
本実施形態においては、第1関係式(近似式)として5次式が採用される。一例を挙げると、次式(4)のような5次式が
図4のステップS110の処理で求められる。なお、次式(4)に関し、yは着目階調値(特性取得済み階調値)の反射率であり、xは最大階調値の反射率である。
【数1】
【0072】
ところで、特性取得済み階調値がサンプル色に関して分光反射率が得られている階調値の中に含まれていないというケースが想定される。上記の例ではサンプル色に関して0から1までの0.1刻みの全ての階調値の分光反射率が得られているが、特性取得済み階調値が0.25であるということが考えられる。このような場合、本実施形態では、階調値0.2に対応する5次式と階調値0.3に対応する5次式とが求められた後に、階調値0.25に対応する5次式の係数が補間によって求められる。そして、その補間によって求められた係数を有する5次式が第1関係式として採用される。
【0073】
ステップS110の終了後、複数のサンプル色のそれぞれについての第1関係式に予測対象色についての最大階調値の分光反射率を当てはめることによって、予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率の予測値が求められる(ステップS120)。仮に32個の色がサンプル色として用意されていれば、ステップS120では1つの特性取得済み階調値につき32個の予測値が求められる。
【0074】
その後、複数のサンプル色のそれぞれについて、ステップS120で求められた予測値と予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率の実測値との差値が求められる(ステップS130)。本実施形態においては、差値として、ステップS120で求められた予測値と予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率の実測値との2乗誤差が求められる。その2乗誤差の求め方について以下に説明する。
【0075】
ここでは、複数のサンプル色を互いに区別するために変数Ci(iは1以上の整数)を用い、サンプル色Ciについて求められた分光反射率の予測値(36個の反射率の予測値)をVp(i)(1)~Vp(i)(36)と表す(
図9参照)。また、予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率の実測値(36個の反射率の実測値)をVr(1)~Vr(36)と表す。そうすると、第1番目のサンプル色C1について求められた予測値と予測対象色についての実測値との間での2乗誤差E(1)は、次式(5)で求められる。
【数2】
【0076】
同様にして、第i番目のサンプル色Ciについて求められた予測値と予測対象色についての実測値との間での2乗誤差E(i)は、次式(6)で求められる。但し、波長毎に重み係数を付加するようにしても良い。
【数3】
【0077】
ところで、特性取得済み階調値の数が1である場合(例えば、階調値0.5のみが特性取得済み階調値である場合)には、上式(6)で求められた2乗誤差E(i)をそのまま第i番目のサンプル色Ciについての差値として採用することができる。
【0078】
これに対して、特性取得済み階調値の数が2以上である場合には、特性取得済み階調値毎に上式(6)によって2乗誤差が求められ、例えばそれらの2乗誤差の平均値が差値として採用される。例えば、特性取得済み階調値の数が3であれば、2乗誤差が3つ求められ、その3つの2乗誤差の平均値が差値として採用される。なお、2乗誤差の単純な平均値に代えて2乗誤差の加重平均値を差値として採用しても良い。
【0079】
ステップS130の終了後、複数のサンプル色のうちステップS130で最小の差値(2乗誤差)が得られたサンプル色が参照色として選定される(ステップS140)。すなわち、本実施形態においては、複数のサンプル色のうち第1関係式を用いて予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率を最も精度良く予測できたサンプル色が参照色として選定される。
【0080】
次に、参照色について最大階調値の分光反射率と予測対象階調値の分光反射率との関係を表す関係式(以下、「第2関係式」という。)が求められる(ステップS150)。なお、ここでは、階調値0から階調値1までの0.1刻みの11個の階調値が予測対象階調値であると仮定する。第2関係式を求める具体的な手法については、第1関係式を求める手法と同じである。第2関係式は予測対象階調値毎に求められるので、ここでは11個の第2関係式が求められる。
【0081】
最後に、第2関係式を用いて、予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率の予測値が求められる(ステップS160)。具体的には、予測対象色についての最大階調値の分光反射率をステップS150で求められた第2関係式に当てはめることによって、予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率の予測値が求められる。ここでは、予測対象階調値の数が11であるので、予測対象色についての最大階調値の分光反射率が11個の第2関係式に当てはめられる。これにより、予測対象色について、11個の予測対象階調値のそれぞれの分光反射率の予測値が求められる。
【0082】
分光反射率の予測値を求める処理(ステップS160の処理)について更に詳しく説明する。ステップS160の処理の開始時点には、参照色についての予測対象階調値毎に、第2関係式として例えば上式(4)のような5次式が得られている。また、上述したように、分光反射率のデータは36個の反射率で構成されている。そこで、ステップS160では、予測対象階調値毎に、対応する第2関係式(最大階調値の分光反射率と該当の予測対象階調値の分光反射率との関係を表す関係式)に予測対象色についての最大階調値の分光反射率のデータである36個の反射率を1つずつ代入することによって、予測対象色についての該当の予測対象階調値の分光反射率のデータとなる36個の反射率が求められる。本実施形態においては、第2関係式を算出する際に、最小階調値の分光反射率が1となるように正規化が行われている。従って、第2関係式から得られた36個の反射率に対して、最小階調値の実際の分光反射率に基づく逆正規化(正規化が施された状態のデータを正規化されていない状態のデータに戻す処理)が施される。
【0083】
なお、上記の例では、参照色に関して分光反射率が得られている階調値と予測対象階調値とが一致していた。しかしながら、予測対象階調値の中に参照色に関して分光反射率が得られている階調値以外の階調値が含まれているケースも想定される。参照色に関して分光反射率が得られている階調値以外の階調値については、第2関係式から直接的に分光反射率を求めることができない。そこで、そのような階調値の分光反射率は、第2関係式から直接的に求められた分光反射率のデータに基づくスプライン補間(例えば、3次スプライン補間)を行うことによって求められる。このようなケースでは、上記ステップS160は
図10に示すようにステップS162とステップS164とによって構成される。ステップS162では、予測対象階調値としての複数の階調値のうち参照色に関して分光反射率が得られている階調値の分光反射率の予測値が、それに対応する第2関係式に予測対象色についての最大階調値の分光反射率を当てはめることによって求められる。その後、ステップS164で、予測対象階調値としての複数の階調値のうち参照色に関して分光反射率が得られていない階調値の分光反射率の予測値が、ステップS162で求められた予測値に基づくスプライン補間を行うことによって求められる。なお、スプライン補間に代えて線形補間を用いることもできるが、線形補間よりもスプライン補間の方が精度良く予測値が求められる。
【0084】
以上のようにして、予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率の予測値が得られる。これにより、分光反射率予測処理は終了する。
【0085】
なお、本実施形態においては、ステップS100によって予測対象色設定ステップが実現され、ステップS110によって第1関係式算出ステップが実現され、ステップS120によって第1予測ステップが実現され、ステップS130によって差値算出ステップが実現され、ステップS140によって参照色選定ステップが実現され、ステップS150によって第2関係式算出ステップが実現され、ステップS160によって第2予測ステップが実現されている。また、ステップS162によって第2関係式利用ステップが実現され、ステップS164によって補間ステップが実現されている。
【0086】
<1.4 効果>
本実施形態によれば、各サンプル色について最大階調値の分光反射率と特性取得済み階調値(予測対象色に関して分光反射率が得られている中間階調値)の分光反射率との関係を表す第1関係式が求められ、各サンプル色についての第1関係式を用いて予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率の予測値が求められる。そして、予測値と実測値との差値が求められ、最小の差値が得られたサンプル色が参照色として選定される。その参照色について最大階調値の分光反射率と予測対象階調値の分光反射率との関係を表す第2関係式が求められ、予測対象色についての最大階調値の分光反射率を第2関係式に当てはめることによって当該予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率(予測値)が求められる。以上のように、予測対象色についての既知の分光反射率を最も精度良く予測することのできた色を参照色として予測対象色についての分光反射率の予測が行われるので、高精度の予測値が得られる。以上のように、本実施形態によれば、予測対象色に関して分光反射率が既知である中間階調値が存在している場合に、既知の分光反射率の情報を利用することによって予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率の高精度での予測が可能となる。
【0087】
<1.5 変形例>
以下、上記第1の実施形態の変形例について説明する。なお、以下の第1~第5の変形例は、後述する第2および第3の実施形態に適用することもできる。
【0088】
<1.5.1 第1の変形例>
上記第1の実施形態においては、複数のサンプル色の中からの参照色の選定(
図4のステップS140)が予測値と実測値との2乗誤差に基づいて行われていた。しかしながら、本発明はこれに限定されず、色差に基づいて参照色の選定を行うこともできる。これについて以下に説明する。
【0089】
本変形例においては、
図4のステップS130において、ステップS120で求められた予測値と予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率の実測値とに基づく色差が求められる。そして、
図4のステップS140において、最小の色差が得られたサンプル色が参照色として選定される。
【0090】
なお、或る1つの予測値と実測値とに基づく色差は、例えば次のようにして求められる。まず、予測値および実測値について、それぞれ、所定の計算式によって三刺激値X,Y,およびZを求める。次に、予測値および実測値について、それぞれ、三刺激値X,Y,およびZから所定の変換式によってCIELAB値(L*値、a*値、およびb*値)を求める。次に、L*値、a*値、およびb*値のそれぞれについて、予測値と実測値との差を求める。それによって得られた3つの差の2乗和の平方根の値(正の値)が色差である。
【0091】
<1.5.2 第2の変形例>
上記第1の実施形態においては、関係式(第1関係式および第2関係式)として、5次式が採用されていた。しかしながら、関係式の次数は5には限定されない。nを2以上の整数とするn次式を関係式として採用しても良い。
【0092】
これに関し、色毎に異なる次数の関係式を採用するようにしても良い。例えば、最大階調値の分光反射率の数値範囲が狭い色については、関係式の次数が高いと過剰適合を引き起こして近似精度が悪化することがある。そこで、そのような色については、関係式の次数を低くすることによって過剰適合に起因する近似精度の悪化を抑制することができる。
【0093】
<1.5.3 第3の変形例>
また、関係式(第1関係式および第2関係式)として、累乗関数を用いて表される式を採用しても良い。この場合、上述した組み合わせデータ(関係グラフ上にプロットとして表されるデータ)に基づいて、例えば次式(7)の変数A,Bの値が求められる。そして、その変数A,Bの値を反映した式が関係式として用いられる。なお、第1関係式が次式(7)で表される場合には、yは特性取得済み階調値の反射率であり,xは最大階調値の反射率である。また、第3関係式が次式(7)で表される場合には、yは予測対象階調値の反射率であり,xは最大階調値の反射率である。
【数4】
【0094】
<1.5.4 第4の変形例>
上記第1の実施形態では、分光特性として分光反射率を予測する処理が行われていた。しかしながら、本発明はこれに限定されず、分光反射率以外の分光特性を予測する処理が行われても良い。分光反射率以外の分光特性としては、例えば、分光吸収率(1から分光反射率を減ずることによって得られる値)や次式(8)から得られる分光吸収係数αが挙げられる。ある波長における紙白(最小階調値)での反射率をR0とし、該当階調値の反射率をRとし、インクの厚みをxとすると、多重反射を考慮しない場合には、分光吸収係数αは次式(8)で表される。
α=-(1/(2x))・ln(R/R0) ・・・(8)
【0095】
<1.5.5 第5の変形例>
上記第1の実施形態では、第1関係式として、最大階調値の分光反射率と特性取得済み階調値の分光反射率との関係を表す式が採用されている。しかしながら、第1関係式によって表される関係は、これには限定されない。例えば、最大階調値の分光吸収率と特性取得済み階調値の分光吸収率との関係を表す式や最大階調値の分光反射率と特性取得済み階調値の分光吸収率との関係を表す式などを第1関係式として採用することもできる。同様に、参照色について最大階調値の分光吸収率と予測対象階調値の分光吸収率との関係を表す式や参照色について最大階調値の分光反射率と予測対象階調値の分光吸収率との関係を表す式などを第2関係式として採用することもできる。
【0096】
<2.第2の実施形態>
<2.1 事前検討>
上記第1の実施形態においては、複数のサンプル色のうちそれらの特性に基づく第1関係式を用いて予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率を最も精度良く予測できたサンプル色が参照色として選定され、その参照色の特性に基づく第2関係式を用いて予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率が予測されていた。このような構成によれば、特性取得済み階調値に関して、予測値と実測値との間にいくらかの誤差が生じる。例えば、階調値0から階調値1までの0.1刻みの11個の階調値が予測対象階調値であって、階調値0.5のみが特性取得済み階調値である場合、参照色の特性に基づく第2関係式を用いて11個の階調値(予測対象階調値)の分光反射率が予測される。このとき、階調値0.5に関して、予測値と実測値との間にいくらかの誤差が生じる。ここで、階調値0.5についての誤差を0にするために階調値0.5については実測値を採用することにすると、
図11から把握されるように、階調値0.5の近傍でトーンジャンプが発生する。
【0097】
上記の例において、参照色に関して上記11個の階調値の分光反射率が既知であれば、
図12で符号G(z)(zは0から1までの0.1刻みの値)を付した線(曲線または直線)で表される11個の第2関係式を用いて、予測対象色についての11個の階調値(予測対象階調値)の分光反射率が予測される。なお、最小階調値の分光反射率を1とする正規化が施されているものと仮定する。
図12に示す例では、最大階調値の分光反射率と最小階調値の分光反射率とが基準となっている。このため、参照色の特性に基づく第2関係式を用いて予測対象色についての分光反射率を予測した場合、最大階調値および最小階調値については予測値と実測値との間の誤差は0となる。しかしながら、参照色の特性は予測対象色の特性と完全に一致しているわけではないので、特性取得済み階調値の分光反射率については予測値と実測値との間に誤差が生じる。そこで、本実施形態においては、後述するように、第2関係式を作成する際に特性取得済み階調値の分光反射率を基準に含めるようにしている。
【0098】
<2.2 構成および分光反射率予測方法(分光特性予測方法)>
印刷システムの全体構成および印刷データ生成装置の構成については、上記第1の実施形態と同様(
図2および
図3を参照)であるので、説明を省略する。
【0099】
本実施形態に係る分光反射率予測方法(分光特性予測方法)を実現する分光反射率予測処理の手順については、概略的には上記第1の実施形態と同様である(
図4参照)。但し、
図4のステップS150における第2関係式算出の詳細な手法が上記第1の実施形態とは異なる。これについて、以下に説明する。
【0100】
本実施形態においては、ステップS150では、特性取得済み階調値の分光反射率を基準に含めて第2関係式の算出が行われる。例えば、最小階調値(階調値0)から最大階調値(階調値1)までの0.1刻みの11個の階調値が予測対象階調値であって、参照色に関してそれら11個の階調値の分光反射率が得られており、階調値0.5のみが特性取得済み階調値である場合、階調値が0.5以上の予測対象階調値に対応する第2関係式と階調値が0.5以下の予測対象階調値に対応する第2関係式とで式を作成する際の基準を異ならせる。具体的には、0以上0.5以下の予測対象階調値に対応する第2関係式は、階調値0.5の分光反射率を第1の基準とし階調値0の分光反射率を第2の基準として作成され(
図13のA部を参照)、0.5以上1以下の予測対象階調値に対応する第2関係式は、階調値1の分光反射率を第1の基準とし階調値0.5の分光反射率を第2の基準として作成される(
図13のB部を参照)。なお、予測対象色についての階調値0.5の分光反射率を予測するための第2関係式としては、階調値0.5の分光反射率を第1の基準とし階調値0の分光反射率を第2の基準として作成された第2関係式を採用しても良いし、階調値1の分光反射率を第1の基準とし階調値0.5の分光反射率を第2の基準として作成された第2関係式を採用しても良い。また、階調値0.5は特性取得済み階調値であるので、予測対象色についての階調値0.5の分光反射率については、第2関係式を用いることなく実測値をそのまま適用するようにしても良い。予測対象色についての最大階調値(階調値1)および最小階調値(階調値0)の分光反射率についても、第2関係式を用いることなく実測値をそのまま適用することができる。
【0101】
上記の例では、ステップS150で次のように第2関係式が求められる。但し、以下では、第2関係式によって分光反射率を求める対象の階調値を「処理対象階調値」という。参照色に関して分光反射率が得られている階調値または特性取得済み階調値が処理対象階調値となる。例えば、階調値1の分光反射率を第1の基準とし階調値0.5の分光反射率を第2の基準として階調値1の分光反射率と階調値0.7の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.7の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。また、例えば、階調値0.5の分光反射率を第1の基準とし階調値0の分光反射率を第2の基準として階調値0.5の分光反射率と階調値0.2の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.2の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。
【0102】
以上のように、特性取得済み階調値の数が1である場合、ステップS150では、最大階調値と特性取得済み階調値との間の処理対象階調値に関し、最大階調値の分光反射率を第1の基準とし特性取得済み階調値の分光反射率を第2の基準として最大階調値の分光反射率と処理対象階調値の分光反射率との関係を表す式が第2関係式として求められ、特性取得済み階調値と最小階調値との間の処理対象階調値に関し、特性取得済み階調値の分光反射率を第1の基準とし最小階調値の分光反射率を第2の基準として特性取得済み階調値の分光反射率と処理対象階調値の分光反射率との関係を表す式が第2関係式として求められる。
【0103】
上記の例では、階調値0.5のみが特性取得済み階調値であった。すなわち、特性取得済み階調値の数は1であった。特性取得済み階調値の数が2以上である場合には、以下のように第2関係式が求められる。
【0104】
まず、特性取得済み階調値の数が2である場合について説明する。ここでは、「最小階調値(階調値0)から最大階調値(階調値1)までの0.1刻みの11個の階調値が予測対象階調値であって、参照色に関してそれら11個の階調値の分光反射率が得られており、階調値0.3および階調値0.5が特性取得済み階調値である」というケースに着目する。このケースについては、ステップS150で次のように第2関係式が求められる。例えば、階調値1の分光反射率を第1の基準とし階調値0.5の分光反射率を第2の基準として階調値1の分光反射率と階調値0.7の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.7の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。また、例えば、階調値0.5の分光反射率を第1の基準とし階調値0.3の分光反射率を第2の基準として階調値0.5の分光反射率と階調値0.4の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.4の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。また、例えば、階調値0.3の分光反射率を第1の基準とし階調値0の分光反射率を第2の基準として階調値0.3の分光反射率と階調値0.1の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.1の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。
【0105】
以上のように、第1階調値(上記のケースでは0.5)と該第1階調値よりも小さい第2階調値(上記のケースでは0.3)とが特性取得済み階調値である場合、ステップS150では、最大階調値と第1階調値との間の処理対象階調値に関し、最大階調値の分光反射率を第1の基準とし第1階調値の分光反射率を第2の基準として最大階調値の分光反射率と処理対象階調値の分光反射率との関係を表す式が第2関係式として求められ、第1階調値と第2階調値との間の処理対象階調値に関し、第1階調値の分光反射率を第1の基準とし第2階調値の分光反射率を第2の基準として第1階調値の分光反射率と処理対象階調値の分光反射率との関係を表す式が第2関係式として求められ、第2階調値と最小階調値との間の処理対象階調値に関し、第2階調値の分光反射率を第1の基準とし最小階調値の分光反射率を第2の基準として第2階調値の分光反射率と処理対象階調値の分光反射率との関係を表す式が第2関係式として求められる。
【0106】
次に、特性取得済み階調値の数が3以上である場合について説明する。ここでは、「最小階調値(階調値0)から最大階調値(階調値1)までの0.1刻みの11個の階調値が予測対象階調値であって、参照色に関してそれら11個の階調値の分光反射率が得られており、階調値0.3、階調値0.5、および階調値0.7が特性取得済み階調値である」というケースに着目する。このケースについては、ステップS150で次のように第2関係式が求められる。例えば、階調値1の分光反射率を第1の基準とし階調値0.7の分光反射率を第2の基準として階調値1の分光反射率と階調値0.9の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.9の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。また、例えば、階調値0.7の分光反射率を第1の基準とし階調値0.5の分光反射率を第2の基準として階調値0.7の分光反射率と階調値0.6の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.6の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。また、例えば、階調値0.5の分光反射率を第1の基準とし階調値0.3の分光反射率を第2の基準として階調値0.5の分光反射率と階調値0.4の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.4の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。また、例えば、階調値0.3の分光反射率を第1の基準とし階調値0の分光反射率を第2の基準として階調値0.3の分光反射率と階調値0.1の分光反射率との関係を表す式が、予測対象色についての階調値0.1の分光反射率を求めるための第2関係式として求められる。
【0107】
以上のように、mを3以上の整数として第1階調値から第m階調値までのm個の階調値が特性取得済み階調値であって、kを1以上(m-1)以下の整数として第k階調値が第(k+1)階調値よりも大きい場合、ステップS150では、最大階調値と第1階調値との間の処理対象階調値に関し、最大階調値の分光反射率を第1の基準とし第1階調値の分光反射率を第2の基準として最大階調値の分光反射率と処理対象階調値の分光反射率との関係を表す式が第2関係式として求められ、第k階調値と第(k+1)階調値との間の処理対象階調値に関し、第k階調値の分光反射率を第1の基準とし第(k+1)階調値の分光反射率を第2の基準として第k階調値の分光反射率と処理対象階調値の分光反射率との関係を表す式が第2関係式として求められ、第m階調値と最小階調値との間の処理対象階調値に関し、第m階調値の分光反射率を第1の基準とし最小階調値の分光反射率を第2の基準として第m階調値の分光反射率と処理対象階調値の分光反射率との関係を表す式が第2関係式として求められる。
【0108】
ここで、本実施形態において予測対象階調値の中に参照色に関して分光反射率が得られている階調値以外の階調値が含まれているケースに着目する。このケースでは、例えば階調値0.5のみが特性取得済み階調値であれば、最大階調値と特性取得済み階調値との間の予測対象階調値のうちの参照色に関して分光反射率が得られている階調値の分光反射率の予測値が、それに対応する第2関係式に予測対象色についての最大階調値の分光反射率を当てはめることによって求められ、特性取得済み階調値と最小階調値との間の予測対象階調値のうちの参照色に関して分光反射率が得られている階調値の分光反射率の予測値が、それに対応する第2関係式に予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率を当てはめることによって求められる。すなわち、最大階調値または特性取得済み階調値を基準階調値として、2つ以上の予測対象階調値のうちの参照色に関して分光反射率が得られている階調値の分光反射率の予測値が、それに対応する第2関係式に予測対象色についての基準階調値の分光反射率を当てはめることによって求められる。このように、本実施形態においては、
図10のステップS162では、予測対象色についての最大階調値または特性取得済み階調値の分光反射率を第2関係式に当てはめることによって分光反射率の予測値が算出される。そして、
図10のステップS164では、予測対象階調値のうちの参照色に関して分光反射率が得られていない階調値の分光反射率の予測値が、ステップS162で求められた予測値に基づくスプライン補間(例えば、3次スプライン補間)を行うことによって求められる。その際、最大階調値と特性取得済み階調値との間の予測対象階調値の分光反射率の予測値は、最大階調値と特性取得済み階調値との間の3つ以上の階調値のみについての予測値に基づくスプライン補間ではなく、最大階調値と特性取得済み階調値との間の階調値と特性取得済み階調値と最小階調値との間の階調値とを含む3つ以上の階調値についての予測値に基づくスプライン補間を行うことによって求められる。特性取得済み階調値と最小階調値との間の予測対象階調値の分光反射率の予測値についても同様である。なお、スプライン補間に代えて線形補間を用いることもできるが、線形補間よりもスプライン補間の方が精度良く予測値が求められる。
【0109】
<2.3 効果>
本実施形態によれば、いずれの予測対象階調値の分光反射率を予測するための第2関係式についても、特性取得済み階調値を基準(第1の基準または第2の基準)にして作成される。このため、予測対象色についての特性取得済み階調値の分光反射率の予測値は、その実測値と等しくなる。これにより、最大階調値と最大の特性取得済み階調値との間の階調値、2つの特性取得済み階調値の間の階調値、および最小の特性取得済み階調値と最小階調値との間の階調値についても、分光反射率の予測精度が向上する。以上より、模式的には
図14に示すような滑らかな濃度変化が得られるように最小階調値から最大階調値までの各階調値の分光反射率を予測することが可能となり、トーンジャンプの発生が抑制される。このように、上記第1の実施形態よりも高い精度で予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率を予測することが可能となる。
【0110】
図15に、階調値0.5のみが特性取得済み階調値である場合についての25色の予測テストの結果を示す。
図15より、上記第1の実施形態の手法によって従来に比べて全体の予測精度が顕著に高くなることが把握される。また、
図15より、第2の実施形態の手法によって上記第1の実施形態の手法に比べて特性取得済み階調値近傍の階調値の分光反射率の予測精度が顕著に高くなることが把握される。
【0111】
<3.第3の実施形態>
<3.1 概要>
本実施形態では、分光反射率予測処理において、参照色が選定された後、参照色に関して分光反射率が得られている階調値と予測対象色に関して分光反射率が得られている階調値との和集合が求められる。例えば、参照色に関して分光反射率が得られている階調値が0、0.2、0.5、0.8、および1であって、かつ、予測対象色に関して分光反射率が得られている階調値が0、0.3、0.5、および1であれば、和集合は0、0.2、0.3、0.5、0.8、および1である(
図16参照)。和集合に含まれている予測対象階調値については第2関係式によって分光反射率の予測値が求められ、和集合に含まれていない予測対象階調値についてはスプライン補間(例えば、3次スプライン補間)によって分光反射率の予測値が求められる。
【0112】
なお、本実施形態においては、第2関係式は上記第2の実施形態と同様の手法で算出されるものと仮定する。但し、上記第1の実施形態と同様の手法で第2関係式が算出されるようにしても良い。
【0113】
<3.2 構成および分光反射率予測方法(分光特性予測方法)>
印刷システムの全体構成および印刷データ生成装置の構成については、上記第1の実施形態と同様(
図2および
図3を参照)であるので、説明を省略する。
【0114】
図17は、本実施形態における分光反射率予測処理の手順を示すフローチャートである。ステップS200~S240の処理は、上記第1の実施形態におけるステップS100~S140の処理(
図4参照)と同様である。
【0115】
ステップS240の終了後、上述した和集合の作成が行われる(ステップS250)。そして、参照色について、和集合に含まれている階調値の分光反射率のうちの未知の分光反射率の予測値が求められる(ステップS260)。未知の分光反射率の予測値は、例えば、参照色についての既知の分光反射率に基づくスプライン補間を行うことによって求められる。
図16に示した例では、階調値0.3は和集合に含まれているが、参照色に関して階調値0.3の分光反射率は得られていない。従って、ステップS260では、参照色についての階調値0.3の分光反射率が、例えば、参照色についての少なくとも3つの階調値(階調値0、0.2、0.5、0.8、および1のうちの少なくとも3つ)の分光反射率に基づくスプライン補間を行うことによって求められる。ところで、例えば、参照色に関して階調値0から階調値1までの0.1刻みの11個の階調値の分光反射率が得られていて、かつ、予測対象色に関して分光反射率が得られている階調値が0、0.5、および1であれば、
図18から把握されるように、参照色に関して、和集合に含まれている全ての階調値の分光反射率が得られていることになる。このような場合には、ステップS260で求められる分光反射率はない。
【0116】
次に、最大階調値または特性取得済み階調値を基準階調値として、参照色について基準階調値の分光反射率と上述した処理対象階調値の分光反射率との関係を表す第2関係式が上記第2の実施形態と同様の手法で求められる(ステップS270)。なお、本実施形態においては、和集合に含まれている階調値が処理対象階調値となる。
図16に示した例では、このステップS270によって、階調値0、0.2、0.3、0.5、0.8、および1のそれぞれに対応する第2関係式が求められる。これに関し、例えば階調値0.2に対応する第2関係式は、階調値0.3の分光反射率を第1の基準とし階調値0の分光反射率を第2の基準として階調値0.3の分光反射率と階調値0.2の分光反射率との関係を表す。また、例えば階調値0.8に対応する第2関係式は、階調値1の分光反射率を第1の基準とし階調値0.5の分光反射率を第2の基準として階調値1の分光反射率と階調値0.8の分光反射率との関係を表す。
【0117】
第2関係式が求められた後、予測対象階調値としての複数の階調値のうち和集合に含まれている階調値の分光反射率の予測値が、それに対応する第2関係式に予測対象色についての基準階調値(最大階調値または特性取得済み階調値)の分光反射率を当てはめることによって求められる(ステップS280)。階調値0から階調値1までの0.1刻みの11個の階調値が予測対象階調値であれば、
図16に示した例では、このステップS280によって、予測対象色についての階調値0、0.2、0.3、0.5、0.8、および1の分光反射率の予測値が求められる。これに関し、例えば階調値0.2の分光反射率の予測値は、それに対応する第2関係式に予測対象色についての階調値0.3の分光反射率を当てはめることによって求められる。また、例えば階調値0.8の分光反射率の予測値は、それに対応する第2関係式に予測対象色についての階調値1の分光反射率を当てはめることによって求められる。なお、階調値0、0.3、0.5、および1の分光反射率については、第2の関係式を用いることなく実測値をそのまま適用するようにしても良い。
【0118】
最後に、予測対象階調値としての複数の階調値のうち和集合に含まれていない階調値の分光反射率の予測値が、ステップS280で求められた予測値に基づくスプライン補間を行うことによって求められる(ステップS290)。階調値0から階調値1までの0.1刻みの11個の階調値が予測対象階調値であれば、
図16に示した例では、このステップS280によって、予測対象色についての階調値0.1、0.4、0.6、0.7、および0.9の分光反射率の予測値が求められる。その際、階調値0、0.2、0.3、0.5、0.8、および1のうちの少なくとも3つの階調値の分光反射率の予測値(ステップS280で求められた予測値)を用いてスプライン補間が行われる。なお、スプライン補間に代えて線形補間を用いることもできるが、線形補間よりもスプライン補間の方が精度良く予測値が求められる。ところで、予測対象階調値としての複数の階調値の全てが和集合に含まれている場合には、ステップS280の終了時点で、予測対象色についての全ての予測対象階調値の分光反射率が得られているので、ステップS290で求められる分光反射率はない。
【0119】
以上のようにして、予測対象色についての予測対象階調値の分光反射率の予測値が得られる。これにより、分光反射率予測処理は終了する。
【0120】
なお、本実施形態においては、ステップS200によって予測対象色設定ステップが実現され、ステップS210によって第1関係式算出ステップが実現され、ステップS220によって第1予測ステップが実現され、ステップS230によって差値算出ステップが実現され、ステップS240によって参照色選定ステップが実現され、ステップS250によって和集合作成ステップが実現され、ステップS260によって第3予測ステップが実現され、ステップS270によって第2関係式算出ステップが実現され、ステップS280およびステップS290によって第2予測ステップが実現されている。また、ステップS280によって第2関係式利用ステップが実現され、ステップS290によって補間ステップが実現されている。
【0121】
<3.3 効果>
本実施形態によれば、上記第1の実施形態および上記第2の実施形態と同様の効果が得られる。また、和集合を用いることにより、分光反射率予測プログラム141の処理が複雑になるのを抑制することができる。
【0122】
<4.その他>
本発明は、上記各実施形態(変形例を含む)に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上記各実施形態では対象のインクを基材上に印刷することによって得られる分光反射率の予測が行われたが、上記各実施形態の手法を用いて、対象のインクを黒色上に印刷することによって得られる分光反射率を予測することもできる。また、上記各実施形態や上記各変形例を矛盾が生じることのないよう適宜に組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0123】
100…印刷データ生成装置
141…分光反射率予測プログラム
200…製版装置
300…印刷装置
350…デジタル印刷装置
400…測色機