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特開2022-17263アンジェルマン症候群および関連する障害の処置方法
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  • 特開-アンジェルマン症候群および関連する障害の処置方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017263
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】アンジェルマン症候群および関連する障害の処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220118BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20220118BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220118BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20220118BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P3/04
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/18
A61P25/20
A61P25/28
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K45/06
A61K48/00
A61K31/40
A61K31/4184
A61K31/44
A61K31/675
A61K31/713
A61K33/24
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021164660
(22)【出願日】2021-10-06
(62)【分割の表示】P 2018520430の分割
【原出願日】2016-10-24
(31)【優先権主張番号】62/245,038
(32)【優先日】2015-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517169735
【氏名又は名称】カビオン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Cavion, Inc.
【住所又は居所原語表記】600 East Water Street, Suite E, Charlottesville, VA 22902, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】マリシック,ユリ.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA051
4C084ZA061
4C084ZA062
4C084ZA151
4C084ZA181
4C084ZA221
4C084ZA701
4C084ZC411
4C084ZC421
4C084ZC422
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG08
4C085GG10
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086BC17
4C086BC39
4C086DA38
4C086EA16
4C086GA16
4C086HA10
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA05
4C086ZA06
4C086ZA15
4C086ZA18
4C086ZA22
4C086ZA70
4C086ZC41
4C086ZC42
4C086ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アンジェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候群を処置する方法を提供する。
【解決手段】アンジェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候群を処置する方法であって、かかる処置を必要とする対象に治療有効量のT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む方法による。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンジェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候群を処置する方法であって、かか
る処置を必要とする対象に治療有効量のT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与す
ることを含む方法。
【請求項2】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、T型カルシウムチャネルを選択的に標
的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが小分子である、請求項1または2に記載
の方法。
【請求項4】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが抗体である、請求項1または2に記載の
方法。
【請求項5】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがsiRNAである、請求項1から3に記
載の方法。
【請求項6】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.1を選択的に標的とする、請
求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.2を選択的に標的とする、請
求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.3を選択的に標的とする、請
求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば約-40mVであるとき
、前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、前記細胞でT型カルシウムチャネルを
アンタゴナイズする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、ミベフラジル、MK-8998、ジル
チアゼム、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニモジピン、ニルジピン、ニグルジピン、ニ
カルジピン、ニソルジピン、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、リオシジン、
ガロパミル、ベラパミル、チアパミル、ピモジド、チオリダジン、NNC55-0396
、TTL-1177、アナンダミド、ピモジド、ペンフルリドール、クロピモジド、フル
スピリレン、ハロペリドール、ドロペリドール、ベンペリドール、トリペリドール、メル
ペロン、レンペロン、アザペロン、ドンペリドン、アントラフェニン、アリピペラゾール
、シプロフロキサシン、ダピプラゾール、ドロプロピジン、エトペリドン、イトラコナゾ
ール、ケトコナゾール、レボドロプロピジン、メピプラゾール、ナフトピジル、ネファゾ
ドン、ニアプラジン、オキシペルチン、ポサコナゾール、トラゾドン、ウラピジル、ベス
ナリノン、マニジピン、ニルバジピン、ベニジピン、エホニジピン、フルナリジン、アナ
ンダミド、ロメリジン、フェニトイン、ゾニサミド、U-92032、テトラロール、ミ
ベフラジル、NNC55-0396、TTA-A2、TTA-A8、TTA-P1、4-
アミノメチル-4-フルオロピペリジン(TTA-P2)、TTA-Q3、TTA-Q6
、MK-5395、MK-6526、MK-8998、Z941、Z944、フェンスク
シミド、メスクシミド、デスメチルメトスクシミド、エホニジピン、トリメタジオン、ジ
メタジオン、ABT-639、TTL-1177、KYSO5044、ニッケルおよびク
ルトキシン、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1から9のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、ミベフラジル、MK-8998、エホ
ニジピン、TTL-1177およびニッケル、ならびにそれらの組合せからなる群から選
択される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、ミベフラジルまたはMK-8998で
ある、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
疾患がアンジェルマン症候群である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
疾患がプラダー・ウィリー症候群である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方
法。
【請求項15】
前記処置が、前記対象で少なくとも1つの神経症状を低減または改善することを含む、
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記神経症状が、活動過多、異常な睡眠パターン、発作、ジストニアおよび運動失調の
1つまたは複数を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記処置が、前記対象の発作の頻度を減少させることを含む、請求項1から16のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記処置が、前記対象の発作の重症度を低下させることを含む、請求項1から17のい
ずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記処置が、前記対象のジストニアの頻度を減少させることを含む、請求項1から18
のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記処置が、前記対象のジストニアの重症度を低下させることを含む、請求項1から1
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記処置が、前記対象の運動失調の頻度を減少させることを含む、請求項1から20の
いずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記処置が、前記対象の運動失調の重症度を低下させることを含む、請求項1から21
のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記処置が、前記対象における認知を改善するかまたは認知障害を減少させることを含
む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記処置が、前記対象における記憶を改善するかまたは記憶障害を減少させることを含
む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記処置が、前記対象における注意を改善するかまたは注意欠陥を減少させることを含
む、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記処置が、前記対象の肥満を減少させることを含む、請求項1から25のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項27】
前記処置が、前記対象の体重増加の量または速度を減少させることを含む、請求項1か
ら26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記処置が、前記対象の体重を減少させることを含む、請求項1から27のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項29】
前記処置が、前記対象の空腹感を減少させるかまたは満腹感を増加させることを含む、
請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記選択的T型カルシウムチャネル調節物質が実質的に血液脳関門を通過する、請求項
1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記選択的T型カルシウムチャネル調節物質が実質的に血液脳関門を通過しない、請求
項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記対象に更なる治療薬を投与することを更に含む、請求項1から31のいずれか一項
に記載の方法。
【請求項33】
前記更なる治療薬が更なるT型カルシウムチャネル阻害剤である、請求項32に記載の
方法。
【請求項34】
前記更なる治療薬が抗痙攣剤である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
物理療法、作業療法、コミュニケーション療法および行動療法からなる群から選択され
る更なる療法を行うことを更に含む、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
それを必要とする対象におけるCaMKII自己リン酸化に関連する疾患または障害を
処置する方法であって、前記対象にT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与するこ
とを含む方法。
【請求項37】
前記疾患または障害がアンジェルマン症候群である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記疾患または障害がプラダー・ウィリー症候群である、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、T型カルシウムチャネルを選択的に標
的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである、請求項36から38のいずれか一項
に記載の方法。
【請求項40】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが小分子である、請求項36から39のい
ずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが抗体である、請求項36から40のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがsiRNAである、請求項36から41
のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.1を選択的に標的とする、請
求項36から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.2を選択的に標的とする、請
求項36から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.3を選択的に標的とする、請
求項36から42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば約-40mVであるとき
、前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、前記細胞でT型カルシウムチャネルを
アンタゴナイズする、請求項36から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
それを必要とする対象における肥満を処置する方法であって、前記対象にT型カルシウ
ムチャネルアンタゴニストを投与することを含む方法。
【請求項48】
前記処置が、前記対象の体重を減少させることを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記処置が、前記対象の体重増加の量または速度を減少させることを含む、請求項47
または48に記載の方法。
【請求項50】
前記処置が、前記対象の体重を減少させることを含む、請求項47から49のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項51】
前記処置が、前記対象の空腹感を減少させるかまたは満腹感を増加させることを含む、
請求項47から50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、T型カルシウムチャネルを選択的に標
的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである、請求項47から51のいずれか一項
に記載の方法。
【請求項53】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが小分子である、請求項47から52のい
ずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが抗体である、請求項47から52のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがsiRNAである、請求項47から52
のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.1を選択的に標的とする、請
求項47から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.2を選択的に標的とする、請
求項47から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCa3.3を選択的に標的とする、請
求項47から55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば約-40mVであるとき
、前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、前記細胞でT型カルシウムチャネルを
アンタゴナイズする、請求項47から58のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により全開示内容が本明細書に組み込まれる、2015年10月22日
に出願の米国仮特許出願第62/245,038号の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本開示は、医薬化合物を投与することによる疾患の処置に関する。具体的には、本開示
は、T型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することによる、アンジェルマン症候
群およびプラダー・ウィリー症候群の処置に関する。
【背景技術】
【0003】
アンジェルマン症候群は、遺伝子の父性コピーのインプリントを通じたサイレンシング
による、母性遺伝の第15番染色体上の遺伝子の欠失または不活性化に起因する遺伝病で
ある。当該症候群は、知性および発達上の障害、睡眠障害、発作、ぎくしゃくした挙動、
ならびに頻繁な笑いまたは微笑みを伴う幸せな態度によって特徴付けられる。アンジェル
マン症候群の影響を受ける人数は男性と女性で同等であり、一般集団のうちの約15,0
00分の1の疾患率である。
【0004】
アンジェルマン症候群は、最も一般には第15番染色体の母親由来領域の欠失による損
失により生じるが、その領域の片親性ダイソミー、転座または一遺伝子変異によっても生
じる。アンジェルマン症候群にとって決定的であると理解されている染色体の領域におい
ては、母親由来であるか父親由来であるかにより特定の遺伝子の発現が非常に異なり、そ
れはDNAメチル化を通じた性特異的な後成的インプリンティングに起因する。正常な個
体においては、ユビキチン経路の一部である遺伝子UBE3A母性対立遺伝子が発現し、
父性対立遺伝子は発育過程の脳にいて特異的にサイレンシングを受ける。母性由来部分が
喪失または変異するとき、アンジェルマン症候群が生じる。父性由来部分が喪失または変
異する場合、関連する症候群(プラダー・ウィリー症候群)が生じる。
【0005】
アンジェルマン症候群をもたらす最も一般的な遺伝的障害は、インプリントされた父性
の脳領域のUBE3Aの発現の欠如を生じさせる、染色体領域15q11~13の約4メ
ガベースの母性部分の欠失である。UBE3AはE6-APユビキチンリガーゼをコード
する。母性のUBE3Aを発現しないマウスは、海馬依存的な文脈的恐怖条件付けを伴う
学習パラダイムにおける海馬記憶形成の欠如を含む重度の機能障害を示す。海馬領域CA
1の長期シナプス可塑性の維持もインビトロで阻害される。
【0006】
アンジェルマン症候群の症候としては、機能的に重度の発育遅延、言語機能障害(最小
限の言語使用または言語使用不能)、運動およびバランスの障害(足取りの運動失調およ
び/または四肢の震えを含む)、頻繁な笑い/微笑み、外観上幸せそうな態度、興奮し易
い人格(しばしば手をバタバタさせる挙動を示す)、運動過剰的な行動、ならびに集中力
の欠如が挙げられる。頻繁に観察される症状(80%またはそれ超のケース)としては、
頭囲の遅れた不相応な成長、発作および異常な脳波(EEG)が挙げられる。EEGにお
いて、前頭部誘導における最も目立つ非常に大規模な振幅の2~3Hzのリズム、対称な
4~6Hzの高電圧のリズム、ならびに後頭部誘導におけるスパイクおよびシャープな波
により中断される、眼閉鎖と関係する3~6Hzの活動、の3つの異なった発作間パター
ンがアンジェルマン症候群で見られる。更に、アンジェルマン症候群と関連して生じる症
状のうち、約20~80%のケースとして、後頭部扁平、後頭動脈溝、舌突出、摂食障害
、上顎前突(prognathia)、大きな口(wide mouth)、流涎、おしゃぶり行動(mouthing
behavior)、色素脱失症、極度に活動性の下肢深部腱反射、熱に対する感覚過敏、異常
な睡眠パターン、水に対する感応、異常な摂食関連の行動、肥満、脊柱側弯症および便秘
が挙げられる。癲癇は典型的には3歳までにアンジェルマン症候群を有する患者85%で
生じる一方、1歳までに発作を示す患者は25%未満に留まる。発作のタイプとしては、
異型欠神、全般化強直性間代性発作、強直性発作およびミオクローヌス発作が挙げられる
。一部の患者は、複数のタイプの発作を示す。
【0007】
アンジェルマン症候群に対する治療法は、現在存在しない。アンジェルマン症候群は、
複数の種類の発作をもたらしうるため、癲癇を処置するための適切な鎮痙性の薬物投与の
選択は困難となりうる。アンジェルマン症候群は睡眠パターンに影響を及ぼすため、メラ
トニンが睡眠促進に用いられる場合がある。また規則的な便通を促すために穏やかな緩下
薬がしばしば用いられる。薬物投与以外に、物理療法が、関節の可動性改善および関節の
硬化防止に用いられる。言語聴覚療法が、コミュニケーション問題への対処に一般的に用
いられる。
【0008】
T型カルシウムチャネルは膜脱分極の間に開口する低電圧活性化型カルシウムチャネル
であり、活動電位または脱分極シグナル後に細胞へのカルシウム流入を媒介する。心筋お
よび平滑筋内に存在することが知られているT型カルシウムチャネルは、更に、中枢神経
系内の多くのニューロン細胞にも存在する。T型カルシウムチャネル(一過性開口型カル
シウムチャネル)は、より陰性側の膜電位によって活性化される能力、それらの単一チャ
ネルコンダクタンスの小ささ、および、L型カルシウムチャネルを標的とする従来のカル
シウムチャネルアンタゴニスト薬に対するそれらの非反応性により、L型カルシウムチャ
ネル(長時間作用性カルシウムチャネル)とは異なっている。
【0009】
T型カルシウムチャネルは、小規模な膜脱分極の後で開口する。T型カルシウムチャネ
ルは、主にニューロンおよび心筋細胞の機能に関連して研究されており、癲癇や心機能不
全などの過興奮性障害との関係が知られている。電位開口型カルシウムチャネルは、非興
奮性細胞では一般的に発現しないが、T型カルシウムチャネルが非興奮性系列の癌細胞で
発現することを示す証拠が存在する。
【0010】
T型カルシウムチャネルは、小規模な膜脱分極により活性化、不活性化され、また遅い
非活性化速度を示す。ゆえに、これらのチャネルは低膜電位で脱分極電流を担い、細胞の
「ウインドウ」電流(window current)を媒介することができるが、この電流は低膜電位
または静止膜電位における、活性化と定常状態不活性化との間での電圧の重なり範囲内で
生じる。T型カルシウムチャネルは、ウインドウ電流を非刺激または静止膜電位に維持す
ることができ、それにより、不活性化されない一部のチャネルによる持続的なカルシウム
内向き流を可能にする。ウインドウ電流の媒介により、非刺激または静止細胞条件下で、
ニューロンなどの電気的な発火細胞および非興奮性組織の両方における、T型カルシウム
チャネルによる細胞内カルシウムレベルの制御が可能となる。
【0011】
電位開口型カルシウムチャネルは、幾つかのサブユニットから構成される。αサブユ
ニットは、チャネルの膜貫通孔を形成する主なサブユニットである。αサブユニットは
また、カルシウムチャネルのタイプを決定する。あるタイプのカルシウムチャネルのみに
存在するβ、αδおよびγサブユニットは、チャネルにおける第2の役割を果たす補助
サブユニットである。αサブユニットは4つのドメイン(I~IV)から構成され、各
ドメインが6つの膜貫通部分(S1~S6)を含み、各ドメインのS5およびS6セグメ
ント間の疎水性ループがチャネルの孔を形成する。T型カルシウムチャネルのサブタイプ
は、表1に示すような特定のαサブユニットによって定義される。
【0012】
【表1】
【0013】
Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(カルモジュリンキナーゼI
IまたはCaMKII)は、Ca2+/カルモジュリン複合体によって制御されるセリン
/スレオニン特異的プロテインキナーゼである。CaMKIIは、28のアイソフォーム
を有し、多くのシグナリングカスケードに関係し、学習および記憶の調節物質である場合
があり、また心筋細胞におけるホメオスタシスおよび再吸収、上皮における塩化物イオン
輸送、陽性T細胞の選択およびCD8 T細胞活性化において役割を果たしうる。CaM
KIIの誤制御は、アルツハイマー病、アンゲルマン症候群および心臓の不整脈をもたら
す場合がある。CaMKIIはまた、長期増強(LTP)、すなわち記憶のプロセスに関
与しうる活性化シナプスを強化する分子的プロセスに関連しており、したがって、記憶形
成にとって重要であると考えられる。
【0014】
カルシウムおよびカルモジュリンに対するCaMKII酵素の感受性は、可変的および
自己会合ドメインにより左右される。最初に、当該酵素は、カルシウム/カルモジュリン
複合体と結合することにより活性化され、それはスレオニン286部位のリン酸化、およ
び触媒ドメインの活性化をもたらす。活性化された後、カルシウムおよびカルモジュリン
が高レベルで蓄積すると、自己リン酸化が生じ、それによりCaMKII酵素の持続的な
活性化が生じうる。ホロ酵素が環構造で累積することにより、これらの環の近接した位置
関係により隣接するCaMKII酵素のリン酸化が可能となり、それにより自己リン酸化
が強化される。スレオニン286残基の脱リン酸化により、CaMKIIが不活性化され
る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の開示は、アンジェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候群を処置する方
法を提供する。方法は、かかる処置を必要とする対象に治療有効量のT型カルシウムチャ
ネルアンタゴニストを投与することを含む。また、アンジェルマン症候群またはプラダー
・ウィリー症候群を処置するための、T型カルシウムチャネルアンタゴニストの使用も提
供される。本開示はまた、アンジェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候群を処置
するための医薬の製造におけるT型カルシウムチャネルアンタゴニストの使用を提供する
【0016】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチ
ャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである。
【0017】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは小分子である。
【0018】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは抗体である。
【0019】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはsiRNAである。
【0020】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.1を選択
的に標的とする。
【0021】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.2を選択
的に標的とする。
【0022】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCaV3.3を選択
的に標的とする。
【0023】
幾つかの実施形態では、細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば
約-40mVであるとき、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、細胞でT型カルシ
ウムチャネルをアンタゴナイズする。
【0024】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ミベフラジル、ジ
ルチアゼム、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニモジピン、ニルジピン、ニグルジピン、
ニカルジピン、ニソルジピン、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、リオシジン
、ガロパミル、ベラパミル、チアパミル、ピモジド、チオリダジン、NNC55-039
6、TTL-1177、アナンダミド、ピモジド、ペンフルリドール、クロピモジド、フ
ルスピリレン、ハロペリドール、ドロペリドール、ベンペリドール、トリペリドール、メ
ルペロン、レンペロン、アザペロン、ドンペリドン、アントラフェニン、アリピペラゾー
ル、シプロフロキサシン、ダピプラゾール、ドロプロピジン、エトペリドン、イトラコナ
ゾール、ケトコナゾール、レボドロプロピジン、メピプラゾール、ナフトピジル、ネファ
ゾドン、ニアプラジン、オキシペルチン、ポサコナゾール、トラゾドン、ウラピジル、ベ
スナリノン、マニジピン、ニルバジピン、ベニジピン、エホニジピン、フルナリジン、ア
ナンダミド、ロメリジン、フェニトイン、ゾニサミド、U-92032、テトラロール(
tetralol)、ミベフラジル、NNC55-0396、TTA-A2、TTA-A8、TT
A-P1、4-アミノメチル-4-フルオロピペリジン(TTA-P2)、TTA-Q3
、TTA-Q6、MK-5395、MK-6526、MK-8998、Z941、Z94
4、エトスクシミド、フェンスクシミド、メスクシミド(mesuximide)、デスメチルメト
スクシミド(desmethylmethsuximide)、エホニジピン、トリメタジオン、ジメタジオン
、ABT-639、TTL-1177、KYSO5044、ニッケルおよびクルトキシン
(kurtoxin)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0025】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ミベフラジル、エ
ホニジピン、TTL-1177およびニッケル、ならびにそれらの組合せからなる群から
選択される。
【0026】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはミベフラジルである
【0027】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはMK-8998であ
る。
【0028】
幾つかの実施形態では、疾患はアンジェルマン症候群である。
【0029】
幾つかの実施形態では、疾患はプラダー・ウィリー症候群である。
【0030】
幾つかの実施形態では、処置は、活動過多、異常な睡眠パターン、発作および運動失調
の1つまたは複数でありうる神経症状を低減または改善することを含む。
【0031】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の発作の頻度を減少させることを含む。
【0032】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の発作の重症度を低下させることを含む。
【0033】
幾つかの実施形態では、処置は、対象のジストニアの頻度を減少させることを含む。
【0034】
幾つかの実施形態では、処置は、対象のジストニアの重症度を低下させることを含む。
【0035】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の運動失調の頻度を減少させることを含む。
【0036】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の運動失調の重症度を低下させることを含む。
【0037】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の振戦(例えば四肢の震え)の頻度を減少させる
ことを含む。
【0038】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の振戦(例えば四肢の震え)の重症度を低下させ
ることを含む。
【0039】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の運動失調の重症度を低下させることを含む。
【0040】
幾つかの実施形態では、処置は、対象における認知を改善するかまたは認知障害を減少
させることを含む。
【0041】
幾つかの実施形態では、処置は、対象における記憶を改善するかまたは記憶障害を減少
させることを含む。
【0042】
幾つかの実施形態では、処置は、対象における注意を改善するかまたは注意欠陥を減少
させることを含む。
【0043】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の肥満を減少させることを含む。
【0044】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の体重増加の量または速度を減少させることを含
む。
【0045】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の体重を減少させることを含む。
【0046】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の空腹感を減少させるかまたは満腹感を増加させ
ることを含む。
【0047】
幾つかの実施形態では、選択的なT型カルシウムチャネル調節物質は、実質的に血液脳
関門を通過する。他の実施形態では、T型カルシウムチャネル調節物質は、血液脳関門を
実質的に通過しない。
【0048】
幾つかの実施形態では、処置は、対象に更なる治療薬を投与することを含み、その治療
薬は例えば、更なるT型カルシウムチャネル阻害剤または抗痙攣剤でありうる。
【0049】
幾つかの実施形態では、処置は、更なる療法を行うことを含み、その療法は例えば、物
理療法、作業療法、コミュニケーション療法および行動療法からなる群から選択されうる
【0050】
本開示は、CaMKII自己リン酸化を伴う疾患または障害を処置する方法を提供する
。方法は、かかる処置を必要とする対象に治療有効量のT型カルシウムチャネルアンタゴ
ニストを投与することを含む。また、CaMKII自己リン酸化を伴う疾患または障害を
処置するための、T型カルシウムチャネルアンタゴニストの使用も提供される。本開示は
また、CaMKII自己リン酸化を伴う疾患または障害を処置するための医薬の製造にお
けるT型カルシウムチャネルアンタゴニストの使用を提供する。
【0051】
幾つかの実施形態では、疾患または障害はアンジェルマン症候群またはプラダー・ウィ
リー症候群である。
【0052】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチ
ャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである。
【0053】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは小分子である。
【0054】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは抗体である。
【0055】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはsiRNAである。
【0056】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCa3.1を選択
的に標的とする。
【0057】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCa3.2を選択
的に標的とする。
【0058】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCa3.3を選択
的に標的とする。
【0059】
幾つかの実施形態では、細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば
約-40mVであるとき、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、細胞でT型カルシ
ウムチャネルをアンタゴナイズする。
【0060】
また、それを必要とする対象における肥満を処置する方法であって、対象にT型カルシ
ウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む方法が提供される。
【0061】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の体重を減少させることを含む。
【0062】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の体重増加の量または速度を減少させることを含
む。
【0063】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の体重を減少させることを含む。
【0064】
幾つかの実施形態では、処置は、対象の空腹感を減少させるかまたは満腹感を増加させ
ることを含む。
【0065】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチ
ャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである。
【0066】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは小分子である。
【0067】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは抗体である。
【0068】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはsiRNAである。
【0069】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCa3.1を選択
的に標的とする。
【0070】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCa3.2を選択
的に標的とする。
【0071】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCa3.3を選択
的に標的とする。
【0072】
幾つかの実施形態では、細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば
約-40mVであるとき、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、細胞でT型カルシ
ウムチャネルをアンタゴナイズする。
【0073】
本明細書に記載のものと類似するかまたは同等の方法および材料が、本発明の実施また
は試験に使用できるが、適切な方法および材料については後述する。本明細書に記載の全
ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照によりそれらの全開示内容が組
み込まれる。参考文献の最初のページ番号のみが引用される場合には、その参照はその文
献の全ページに及ぶことを理解すべきである。不一致が生じた場合には、定義を含め、本
明細書が優先する。更に、材料、方法および実施例は例示のみを目的とし、限定を目的と
するものではない。
【0074】
本発明の他の特徴および効果は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らか
となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】ミベフラジル(10mg/kg、40mg/kg)またはMK-8998(別名「CX-8998」)(10mg/kg、30mg/kg、60mg/kg)による処置を受けたUBE3/129svマウスを用いた聴原性癲癇試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
本発明の開示は、T型電位開口型カルシウムチャネルがアンジェルマン症候群に関係し
ていることを記載する。本発明の開示は更に、T型電位開口型カルシウムチャネルの調節
がアンジェルマン症候群およびプラダー・ウィリー症候群などの関連する状態の処置にと
って効果的でありうることを記載する。
【0077】
いかなる理論にも拘束されないが、本明細書に記載の、ミベフラジルなどのT型カルシ
ウムチャネルアンタゴニストは、Ca2+/カルモジュリン複合体により制御され、様々
なシグナリングカスケードに関係するセリン-スレオニン特異的プロテインキナーゼであ
るCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(すなわちCaMKII)の
阻害的な自己リン酸化を阻害することができる。ニューロン脱分極は、CaMKII自己
リン酸化のレベルを上昇させ、また細胞外カルシウムのキレート化はベースのCaMKI
I自己リン酸化を強力に減少させ、サイトゾル画分における全CaMKIIのレベルを上
昇させる。ミベフラジル(5μM)またはNiCl(100μM)によるT型カルシウ
ムチャネルの阻害が、CaMKIIαのスレオニン自己リン酸化を、それぞれ37%また
は35%と顕著に減少させ、線状体におけるベースのCaMKIIα活性化および自己リ
ン酸化が、T型カルシウムチャネル阻害剤を通じたカルシウム流入により少なくとも部分
的に支えられることが示唆される旨、示されている。Pasek et al., Mol. Cell. Neurosc
i., 2015, 68. 234-43。
【0078】
CaMKIIの制御不全は、限定されないがアンジェルマン症候群、プラダー・ウィリ
ー症候群、脳虚血およびアルツハイマー病などの神経障害を伴い、CaMKII自己リン
酸化のベースレベルの維持にはT型カルシウムチャネル活性が必要であることが見出され
ている。T型カルシウムチャネルのブロックにより、カルシウムとCamKIIとの結合
がブロックでき、阻害性自己リン酸化を低下させ、それによりCamKIIの更なる活性
化および有効な治療効果の提供が可能になると考えられる。
【0079】
したがって、本願は、CaMKIIの自己リン酸化を阻害でき、および/またはT型カ
ルシウムチャネルを阻害できる、T型カルシウムチャネルアンタゴニストを提供するもの
であり、それにより、アンジェルマン症候群などのCaMKIIの制御不全を伴う障害の
処置に有用となる。
【0080】
I.定義
特に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての専門および科学用語は、本開示の
属する分野の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。
【0081】
「例えば」および「~など」の用語ならびにその文法的に同等の用語については、特に
明確に記載されない限り、「限定されないが」のフレーズが後に続くものと解釈される。
【0082】
単数形の「1つの」(a/anおよびthe)には、特に明記されない限りその複数形が包含
される。
【0083】
「約」という用語は、「およそ」(例えば、示される数値のプラスマイナスおよそ10
%)を意味する。
【0084】
「小分子」という用語は、約1000またはそれ未満の分子量の有機化合物を意味する
【0085】
処置の対象としての「対象」という用語は、例えばヒトなどの哺乳動物を含むあらゆる
動物を意味する。
【0086】
「治療有効量」というフレーズは、研究者、獣医師、医師または他の臨床医により、組
織、系、動物、個体またはヒトにおいて検討される生物学的または医薬的反応を誘発する
活性化合物または医薬品の量を指す。
【0087】
「処置すること」または「処置」という用語は、(1)疾患を予防すること;例えば、
疾患、状態または障害の体質を有しうるが、疾患の病理または症候を未だ経験しないかま
たは示さない個体において当該疾患、状態または障害を予防すること;(2)疾患を阻害
すること;例えば、疾患、状態または障害の病理または症候を経験しているかまたは示し
ている個体において、当該疾患、状態または障害を阻害すること(すなわち、病理および
/または症候の更なる進行を抑制すること);ならびに(3)疾患を改善すること;例え
ば疾患、状態または障害の病理または症候を経験しているかまたは示している個体におい
て、疾患の重症度を低下させるか、または疾患の1つもしくは複数の症状を低減もしくは
軽減することなど、当該疾患、状態または障害を改善すること(すなわち、病理および/
または症候を好転させること)の1つまたは複数を指す。
【0088】
「T型カルシウムチャネルアンタゴニスト」という用語は、例えば、チャネルへの結合
、またはさもなければその活性の阻害もしくはブロックを通じて、あるいはT型カルシウ
ムチャネルの発現を低下させることを通じて、T型カルシウムチャネルの活性を低下させ
る物質を指す。
【0089】
「薬学的に許容できる」というフレーズは、本明細書では、堅実な医学的判断の範囲内
で、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症がなく、妥当な利
益/危険率に相応する、ヒトおよび動物の組織に接触させる使用に適する化合物、材料、
組成物および/または剤形を指すものとして用いられる。
【0090】
念のために述べると、別々の実施形態の文脈において記載される本発明の特定の特徴は
、1つの実施形態中において組合せでも提供されうると認められる。言い換えると、簡潔
に述べると、1つの実施形態の文脈で記載される本発明の様々な特徴は、別々に、または
いかなる適切なサブコンビネーションにおいても提供できる。
【0091】
以下の略語および記号が、本発明の開示において用いられる場合がある:CaMKII
(カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII);DNA(デオキシリボ
核酸);dsRNA(二本鎖RNA);g(グラム);IC50(最大に対する半数阻害
濃度);kg(キログラム);mg(ミリグラム);mRNA(メッセンジャーRNA)
;RNA(リボ核酸);RNAi(RNA干渉);siRNA(小分子干渉RNA);w
t(重量)。
【0092】
II.処置方法
本明細書では、それを必要とする対象におけるCaMKIIの制御不全、T型カルシウ
ムチャネルの制御不全、またはCaMKIIの制御不全およびT型カルシウムチャネルの
制御不全の組合せを伴う疾患を処置する方法が提供される。対象には、マウス、ラット、
他の齧歯動物、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、霊長類およびヒトが含
まれうる。幾つかの実施形態では、対象はヒトである。幾つかの実施形態では、処置は、
CaMKIIの制御不全を伴う神経症状を低減または改善することを含む。幾つかの実施
形態では、神経症状は、精神遅滞、認知機能不全、長期増強の悪化(例えばアンジェルマ
ン症候群、プラダー・ウィリー症候群またはアルツハイマー病と関連する悪化)、および
運動失調からなる群から選択される。幾つかの実施形態では、方法は、治療有効量の、本
明細書に記載されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストまたはその薬学的に許容でき
る塩を、CaMKIIの阻害的自己リン酸化のブロックするために、それを必要とする対
象に投与することを含む。
【0093】
本発明の開示は更に、それを必要とする対象におけるアンジェルマン症候群およびプラ
ダー・ウィリー症候群から選択される疾患を処置する方法を提供する。幾つかの実施形態
では、方法は、処置を必要とする対象に、治療有効量の、本明細書に記載のT型カルシウ
ムチャネルアンタゴニストを投与することを含む。幾つかの実施形態では、疾患はアンジ
ェルマン症候群である。幾つかの実施形態では、疾患はプラダー・ウィリー症候群である
【0094】
幾つかの実施形態では、処置は、アンジェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候
群を伴う神経症状を低減または改善することを含む。神経症状には、限定されないが、活
動過多、異常な睡眠パターン、発作および運動失調のいずれか1つまたは複数が含まれう
る。幾つかの実施形態では、神経症状は発作を含む。本明細書で用いられる用語「発作」
は、限定されないが、欠神発作(例えば定型および異型欠神)、アトニー発作、生理的発
作、群発発作、偶発性発作、ドラベ症候群(すなわち乳児重症ミオクロニー癲癇、または
SMEI)、焦点性発作(すなわち部分発作)、二次性全般化を伴う焦点性発作、二次性
全般化間代性発作を伴う焦点性発作、点頭てんかん、ミオクローヌス発作、強直性発作お
よび強直性間代性発作のいずれか1つまたは複数を含み、それらのいずれか1つまたは複
数でありうる。
【0095】
幾つかの実施形態では、処置される対象は活動過多を含む症状を有する。幾つかの実施
形態では、処置される対象は異常な睡眠パターンを含む症状を有する。幾つかの実施形態
では、処置される対象は、上記で定義されるタイプの発作のいずれか1つまたは複数を含
む症状を有する。幾つかの実施形態では、処置される対象は運動失調を含まない症状を有
する。幾つかの実施形態では、処置される対象は異常な睡眠パターンを含まない症状を有
する。幾つかの実施形態では、処置される対象は、発作を含まないか、または、異型欠神
発作、定型欠神、アトニー発作、生理的発作、群発発作、偶発性発作、ドラベ症候群、焦
点性発作(二次性全般化または二次性全般化間代性発作の有無を問わない)、点頭てんか
ん、ミオクローヌス発作、強直性発作または強直性間代性発作の1つまたは複数を含まな
い症状を有する。
【0096】
また、それを必要とする対象における肥満を処置する方法であって、対象にT型カルシ
ウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む方法が提供される。幾つかの実施形態
では、処置は、対象の体重を減少させることを含む。幾つかの実施形態では、処置は、対
象の体重増加の量または速度を減少させることを含む。幾つかの実施形態では、処置は、
対象の体重を減少させることを含む。幾つかの実施形態では、処置は、対象の空腹感を減
少させるかまたは満腹感を増加させることを含む。
【0097】
処置は、特定の化合物を有効用量で投与することにより実施できる。ヒトにおける適切
な用量の例としては、約1mgから約2000mg、例えば、約1mgから約2000m
g、約2mgから約2000mg、約5mgから約2000mg、約10mgから約20
00mg、約20mgから約2000mg、約50mgから約2000mg、約100m
gから約2000mg、約150mgから約2000mg、約200mgから約2000
mg、約250mgから約2000mg、約300mgから約2000mg、約400m
gから約2000mg、約500mgから約2000mg、約1000mgから約200
0mg、約1mgから約1000mg、約2mgから約1000mg、約5mgから約1
000mg、約10mgから約1000mg、約20mgから約1000mg、約50m
gから約1000mg、約100mgから約1000mg、約150mgから約1000
mg、約200mgから約1000mg、約250mgから約1000mg、約300m
gから約1000mg、約400mgから約1000mg、約500mgから約1000
mg、約1mgから約500mg、約2mgから約500mg、約5mgから約500m
g、約10mgから約500mg、約20mgから約500mg、約50mgから約50
0mg、約100mgから約500mg、約150mgから約500mg、約200mg
から約500mg、約1mgから約250mg、約2mgから約250mg、約5mgか
ら約250mg、約10mgから約250mg、約20mgから約250mg、約50m
gから約250mg、約100mgから約250mg、約1mgから約100mg、約2
mgから約100mg、約5mgから約100mg、約10mgから約100mg、約2
0mgから約100mg、約50mgから約100mgの投与量範囲が挙げられる。用量
は、例えば約1mg、約2mg、約5mg、約10mg、約20mg、約50mg、約1
00mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約400mg、
約500mg、約1000mg、約1500mgまたは約2000mgでありうる。用量
は、約2000mg未満、約1500mg未満、約1000mg未満、約5000mg未
満、約400mg未満、約250mg未満、約200mg未満、約150mg未満、約1
00mg未満、約50mg未満、約20mgまたは約10mg未満でありうる。各用量は
、1日1回、1日2回、1日3回もしくは1日4回、または1日1回未満の周期で投与さ
れる用量でありうる。各用量はまた、小児患者への投与用と同等の(スケールの)用量を
、成人に投与する用量であってもよい。
【0098】
用量は、約100ng/mL、約200ng/mL、500ng/mL、約1μg/m
L、約2μg/mL、約5μg/mL、約10μg/mL、約20μg/mL、約50μ
g/mL、約100μg/mL、約200μg/mL、約250μg/mL、もしくは約
500μg/mL、約1000μg/mL、または、これらの数値間の範囲、またはそれ
はこれらの数値より少ない濃度の血漿中レベル(例えば定常状態または最大レベル)を提
供する用量でありうる。
【0099】
幾つかの実施形態では、処置は約1週間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実
施形態では、処置は約2週間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、
処置は約3週間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約4週
間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約8週間またはそれ
よりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約12週間、もしくは約13週間
、またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約24週間、もしく
は約26週間、またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約6カ
月間またはそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約12カ月間また
はそれよりも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約18カ月間またはそれよ
りも長く継続される。幾つかの実施形態では、処置は約24カ月間またはそれよりも長く
継続される。
【0100】
III.T型カルシウムチャネルアンタゴニスト
本明細書に記載の方法のいずれか、またはその実施形態のいずれかで用いられるT型カ
ルシウムチャネルアンタゴニストは、後述するT型カルシウムチャネルアンタゴニストの
1つまたは複数でありうる。
【0101】
T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、処置される対象がヒトであるとき、ヒトT
型カルシウムチャネルのアンタゴニストでありうる。
【0102】
T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、小分子でありうる。本発明で提供される方
法で用いられうる小分子のT型カルシウムチャネルアンタゴニストの例としては、限定さ
れないが、ミベフラジル、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニモジピン、
ニルジピン、ニグルジピン、ニカルジピン、ニソルジピン、アムロジピン、フェロジピン
、イスラジピン、リオシジン、ガロパミル、ベラパミル、チアパミル、ピモジド、チオリ
ダジン、NNC55-0396、TTL-1177、アナンダミド、ベンザゼピン誘導体
、ジフェニルブチルピペリジン誘導体(例えばピモジド、ペンフルリドール、クロピモジ
ドおよびフルスピリレン)、ブチロフェノン誘導体(例えばハロペリドール、ドロペリド
ール、ベンペリドール、トリペリドール、メルペロン、レンペロン、アザペロンおよびド
ンペリドン)、およびフェニルピペラジン誘導体(例えばアントラフェニン、アリピプラ
ゾール、シプロフロキサシン、ダピプラゾール、ドロプロピジン、エトペリドン、イトラ
コナゾール、ケトコナゾール、レボドロプロピジン、メピプラゾール、ナフトピジル、ネ
ファゾドン、ニアプラジン、オキシペルチン、ポサコナゾール、トラゾドン、ウラピジル
およびベスナリノン)、ジヒドロピリジン誘導体(例えばマニジピン、ニルバジピン、ベ
ニジピンおよびエホニジピン)、フルナリジン、アナンダミド、ロメリジン、フェニトイ
ン、ゾニサミド、U-92032、テトラロール、テトラロール誘導体(例えばミベフラ
ジル)、ミベフラジル誘導体(例えばNNC55-0396ジヒドロクロライド)、TT
A-A2、TTA-A8、TTA-P1、4-アミノメチル-4-フルオロピペリジン(
TTA-P2)、TTA-Q3、TTA-Q6、MK-5395、MK-6526、MK
-8998、Z941、Z944、スクシンイミド鎮痙剤の誘導体(例えばエトスクシミ
ド、フェンスクシミドおよびメトスクシミドとしても知られているメスクシミド、(α)
-メチル-(α)-フェニル-スクシンイミドとしても知られているN-デスメチルメト
スクシミド)、およびエホニジピン(例えば(R)-エホニジピン)、トリメタジオン、
ジメタジオン、ABT-639、TTL-1177、KYSO5044、クルトキシンが
挙げられる。T型カルシウムチャネル阻害剤のいずれも、薬学的に許容できる塩の形態と
することができる。特定のT型カルシウムチャネル阻害剤の構造を以下に示す:
【0103】
【化1】
【0104】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネル小分子調節物質は、Giordanetto et a
l, "T-type calcium channels inhibitors: a patent review," Expert Opin. Ther. Pat
., 2011, 21, 85-101に列記される、各々の全内容が参照により組み込まれる特許明細書
および特許出願公開明細書、例えば国際公開第2004/035000号パンフレット、
国際公開第93/04047号パンフレット、国際公開第2006/098969号パン
フレット、国際公開第2009/009015号パンフレット、国際公開第2007/0
02361号パンフレット、国際公開第2007/002884号パンフレット、国際公
開第2007/120729号パンフレット、国際公開第2009/054982号パン
フレット、国際公開第2009/054983号パンフレット、国際公開第2009/0
54984号パンフレット、米国特許出願公開第2009/0270413号明細書、国
際公開第2008/110008号パンフレット、国際公開第2009/146539号
パンフレット、国際公開第2009/146540号パンフレット、米国特許第8133
998号明細書、国際公開第2010/083264号パンフレット、国際公開第200
6/023881号パンフレット、国際公開第2006/023883号パンフレット、
国際公開第2005/007124号パンフレット、国際公開第2005/009392
号パンフレット、米国特許出願公開第2005/245535号明細書、国際公開第20
07/073497号パンフレット、国際公開第2007/07852号パンフレット、
国際公開第2008/033447号パンフレット、国際公開第2008/033456
号パンフレット、国際公開第2008/033460号パンフレット、国際公開第200
8/033464号パンフレット、国際公開第2008/033465号パンフレット、
国際公開第2008/050200号パンフレット、国際公開第2008/117148
号パンフレット、国際公開第2009/056934号パンフレット、欧州特許第156
8695号明細書、国際公開第2008/007835号パンフレット、韓国特許第75
4325号明細書、米国特許第7319098号明細書、米国特許出願公開第2010/
0004286号明細書、欧州特許第1757590号明細書、韓国特許出願公開第20
09/044924号明細書、米国特許出願公開第2010/094006号明細書、国
際公開第2009/035307号パンフレット、米国特許出願公開第2009/032
5979号明細書、韓国特許第75758317号明細書、国際公開第2008/018
655号パンフレット、米国特許出願公開第2008/0293786号明細書および米
国特許出願公開第2010/0056545号明細書などに記載されたものからなる群か
ら選択されうる。
【0105】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは小分子である。幾つ
かの実施形態では、小分子は1000もしくはそれ未満の分子量、例えば約900もしく
はそれ未満、約800もしくはそれ未満、約700もしくはそれ未満、約600もしくは
それ未満、約500もしくはそれ未満、約400もしくはそれ未満の分子量、または、約
100から約500、約200から約500、約200から約400、約300から約4
00もしくは約300から約500の範囲の分子量を有する。
【0106】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、選択的なT型カル
シウムチャネルアンタゴニストである。本文脈における「選択的」とは、T型カルシウム
チャネルアンタゴニストが、L型、N型、P型、Q型および/またはR型カルシウムチャ
ネルのいずれか1つまたは複数などの、他のタイプのカルシウムチャネル、例えばL型カ
ルシウムチャネルと比較し、より強力にT型カルシウムチャネルをアンタゴナイズするこ
とを意味する。選択性は、例えば、T型カルシウムチャネルを阻害する際の化合物のIC
50を、他のタイプのカルシウムチャネルを阻害する際のIC50と比較することにより
測定でき、T型チャネルを阻害するためのIC50が他のタイプのカルシウムチャネルを
阻害するためのIC50より低い場合、化合物は、選択的であるとみなされる。0.1(
またはそれ未満)のIC50比は、10倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.0
1(またはそれ未満)のIC50比は、100倍(またはそれ超)の選択性を意味する。
0.001(またはそれ未満)のIC50比は、1000倍(またはそれ超)の選択性を
意味する。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カル
シウムチャネルに対して、L型、N型、P型、Q型および/またはR型カルシウムチャネ
ルのいずれか1つまたは複数などの他のタイプのカルシウムチャネル、例えばL型カルシ
ウムチャネルと比較し、10倍もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超または1000
倍もしくはそれ超の選択性を有する。
【0107】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、フェンスクシミド
、メトスクシミド、メチルl-フェニル-スクシンイミド、エホニジピンのR異性体、ト
リメタジオン、ジメタジオン、ミベフラジル、TTA-A2、TTA-A8、TTA-P
1、TTA-P2、TTA-Q3、TTA-Q6、MK-5395、MK-6526、M
K-8998、Z941、Z944、ABT-639、TTL-1177、KYSO50
44、NC55-0396ジヒドロクロライド、クルトキシンまたはその誘導体からなる
群から選択される選択的なT型カルシウムチャネル阻害剤である。
【0108】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ミベフラジル、エ
ホニジピン、TTL-1177、ニッケル、およびそれらの組合せからなる群から選択さ
れる。
【0109】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはミベフラジルである
【0110】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはMK-5395であ
る。
【0111】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはMK-6526であ
る。
【0112】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはMK-8998であ
る。
【0113】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはZ944である。
【0114】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはエトスクシミド以外
でありうる。
【0115】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチ
ャネルの孔ブロッカーとして作用しない分子でありうる。T型カルシウムチャネルアンタ
ゴニストは、例えばT型カルシウムチャネルのアロステリック阻害剤でありうる。
【0116】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、Na1.1、N
1.2、Na1.3、Na1.4、Na1.5、Na1.6、Na1.7
、Na1.8もしくはNa1.9αサブユニット、および/またはNaβ1、Na
β2、Naβ3、Naβ4サブユニットを有するナトリウムチャネルなどの、1つ
または複数のナトリウムチャネルに実質的に影響を及ぼさないものでありうる。T型カル
シウムチャネルアンタゴニストは、ナトリウムチャネルの阻害と比較し、T型カルシウム
チャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばKに換算して表すとき)少なくと
も2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも100倍、
少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。T型カルシウムチャ
ネル阻害剤は、視床皮質のニューロンにおける非不活性化ナトリウム電流を実質的に減少
させない、例えば、約20%もしくはそれ未満、約10%もしくはそれ未満、約5%もし
くはそれ未満、約2%もしくはそれ未満または約1%もしくはそれ未満で不活性化ナトリ
ウム電流を減少させるものでありうる。
【0117】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、カルシウム活性化
型カリウムチャネル(BKチャネル、SKチャネル、IKチャネル)、内向き整流カリウ
ムチャネル(ROMK、GPCR制御型、ATP感受性型)、直列ポアドメインカリウム
チャネル(TWIK(TWIK-1、TWIK-2、KCNK7)、TREK(TREK
-1、TREK-2、TRAAK)、TASK(TASK-1、TASK-3、TASK
-5)、TALK(TASK-2、TALK-1、TALK-2)、THIK(THIK
-1、THIK-2)、TRESK)、または電位開口型カリウムチャネル(hERG、
KvLQT)などの1つまたは複数のカリウムチャネルに実質的に影響を及ぼさないもの
でありうる。T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、カリウムチャネルの阻害と比較
し、T型カルシウムチャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばKに換算して
表すとき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少
なくとも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0118】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、GABA受容体
、GABA-ρサブクラス(GABA)受容体またはGABA受容体などの1つま
たは複数のGABA受容体に実質的に影響を及ぼさないものでありうる。幾つかの実施形
態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、例えばα-サブユニット(GABR
A1、GABRA2、GABRA3、GABRA4、GABRA5、GABRA6)、β
-サブユニット(GABRB1、GABRB2、GABRB3)、γ-サブユニット(G
ABRG1、GABRG2、GABRG3)、δ-サブユニット(GABRD)、ε-サ
ブユニット(GABRE)、π-サブユニット(GABRP)、θ-サブユニット(GA
BRQ)、特にGABARA5、GABRB3およびGABRG5などのGABA受容
体の1つまたは複数のサブユニットに実質的に影響を及ぼさないものでありうる。T型カ
ルシウムチャネルアンタゴニストは、GABA受容体の阻害と比較し、T型カルシウムチ
ャネルに対して選択的でありえ、例えば、(例えばKまたは結合親和性に換算して表す
とき)少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なく
とも100倍、少なくとも500倍または少なくとも1000倍の選択性を有する。
【0119】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、ヒトなどの動物へ
の投与後に、以下の副作用または有害事象の1つまたは複数を生じさせないものでありう
る:肝損傷、動物の肝臓の形態的変化、動物の肝臓の機能的変化、腎障害、動物の腎臓の
形態的変化、動物の腎臓の機能的変化、全身性エリテマトーデス、自殺志向、自殺行為、
自殺念慮、自殺リスク増加、鬱の発症または悪化、異常な情緒または行動の変化、出産時
欠損、アレルギー反応。
【0120】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、動物への投与後に
、以下の副作用または有害事象の1つまたは複数を生じさせないものでありうる:胃腸系
の有害事象(例えば摂食障害、漠然とした異常亢進、悪心嘔吐、痙攣、上腹部および腹部
の疼痛、体重減少、下痢、歯肉肥大ならびに舌の腫大);白血球減少、無顆粒球症、汎血
球減少などの造血系の有害事象(骨髄抑制および好酸球増加の有無は問わない);神経学
的反応、感覚的反応または精神医学的もしくは心因性変調を含む、神経系の有害事象(例
えば嗜眠状態、頭痛、眩暈感、多幸感、しゃっくり、過敏性、活動過多、嗜眠、疲労、運
動失調、錯乱、睡眠障害、夜驚、集中力の欠如、攻撃性、妄想性精神病、性欲亢進、また
は明白な自殺意図を伴う悪化した鬱状態);皮膚病理学的徴候を含む外皮系の有害事象(
例えばじんま疹、スティーブンス・ジョンソン症候群、全身性エリテマトーデス、そう痒
性紅斑性の発疹および多毛);近視などの特殊感覚器官の有害事象;ならびに、性器出血
または顕微鏡的血尿などの尿生殖器系の有害事象。
【0121】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは抗体である。抗体の
調製のための様々な方法が当分野で公知である。Antibodies: A Laboratory Manual, CSH
Press, Eds., Harlow, and Lane (1988);Harlow, Antibodies, Cold Spring Harbor Pr
ess, NY (1989)を参照。例えば、抗体は、患者から単離された細胞を丸ごと含むサンプル
で適切な哺乳動物の宿主を免疫することにより調製することができる。抗体は、本明細書
に記載のモノクローナル抗体の作製を含む細胞培養技術によって、または組換え抗体の製
造を可能にするために、適切な細菌細胞もしくは哺乳動物細胞宿主に抗体遺伝子をトラン
スフェクションすることによって製造できる。
【0122】
幾つかの実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」は
、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体であり、すなわち、当該集団を構成する抗
体は、少ない量で存在しうる天然に生じる突然変異を除き同一である。
【0123】
幾つかの実施形態では、本発明で提供される抗体は、組換え法により製造できる。幾つ
かの実施形態では、抗体は「ヒト化」またはヒト抗体である。「ヒト化」またはヒト抗体
は、また製造することもでき、治療の状況での使用が好ましい。マウスおよび他の非ヒト
抗体をヒト化する方法は、非ヒト抗体配列の1つまたは複数を対応するヒト抗体配列で置
換することによりなされ、また当該方法は周知である。例えば、Jones et al., Nature,
1986, 321, 522-25;Riechmann et al., Nature, 1988, 332, 323-27;Verhoeyen et al.
, Science, 1988, 239, 1534-36、Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1993,
89, 4285;およびSims et al., J. Immunol., 1993, 151, 2296を参照。これらのヒト化
抗体は、齧歯目の抗ヒト抗体分子に対する望ましくない免疫学的応答を最小化するよう設
計され、それにより、ヒト受容者へのそれらの部分の治療的適用の期間および効果が制限
される。したがって、本明細書に記載の治療方法で用いられる好ましい抗体は、完全なヒ
ト抗体であるか、または高い親和性を有するが対象における抗原性が低いかもしくは存在
しない、ヒト化抗体である。
【0124】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはオリゴヌクレオチド
阻害剤である。オリゴヌクレオチド阻害剤の例としては、限定されないが、アンチセンス
オリゴヌクレオチド、RNAi、dsRNA、siRNAおよびリボザイムが挙げられる
。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはsiRNAである。
本明細書で用いられる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、通常化学的に修飾され
た、一本鎖のDNAまたはRNAの伸長体を指し、その配列(3’-5’)はmRNA分
子のセンス配列と相補的である。アンチセンス分子は、RNA/DNAデュプレックスを
形成することによって、効果的に遺伝子発現を阻害する。アンチセンスとは、メッセンジ
ャーRNAに沿ってリボソームが移動する能力を物理的にブロックすることや、mRNA
がサイトゾル中で分解される速度を高めることを含む様々な機序による作用であると理解
されている。
【0125】
DNAseによる分解を回避するため、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、化学的に
修正されうる。例えば、ホスホロチオネートオリゴデオキシヌクレオチドは、DNAの非
架橋ホスホリル酸素の1つを硫黄部分で置換することにより安定化し、ヌクレアーゼによ
る分解が防止される。アンチセンスオリゴヌクレオチドの安定性増加は、参照により組み
込まれる米国特許第6451991号明細書および米国特許出願公開第2003/015
8143号明細書に概して記載のような、2-メトキシエチル(MOE)置換された骨格
を有する分子を用いても実施できる。このように、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、
修飾されることにより、同じ配列の未修飾オリゴヌクレオチドと比較し、インビボでの安
定性が強化されうる。修飾は、例えば(2’-O-2-メトキシエチル)修飾であっても
よい。オリゴヌクレオチドは全体的にホスホロチオネート骨格を有してもよく、ヌクレオ
チド1~4および18~21の糖部分は2’-O-メトキシエチル修飾を有してもよく、
その他のヌクレオチドは2’-デオキシヌクレオチドであってもよい。
【0126】
アンチセンスオリゴヌクレオチドが効果を発揮するために、その標的配列の相補配列と
100%の同一性を有する必要がないことは、当分野で理解されている。アンチセンスオ
リゴヌクレオチドはしたがって、標的配列の相補配列と少なくとも約70%同一である配
列を有しうる。一実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的配列の相補配
列と少なくとも約80%同一である配列を有しうる。他の実施形態では、それらは、幾つ
かの塩基のギャップまたはミスマッチを考慮に入れ、標的配列の相補配列と少なくとも約
90%同一であるか、または少なくとも約95%同一である配列を有する。同一性は、例
えばウィスコンシン大学のComputer Group(GCG)のソフトウェアであ
るBLASTNプログラムを用いて決定できる。
【0127】
本発明に係るアンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的には7から100ヌクレオチ
ド長の間である。一実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約7から約50
ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。別の実施形態では、アンチセンスオリゴ
ヌクレオチドは、約7から約35ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含む。他の実
施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、約12から約35ヌクレオチドまたは
ヌクレオチド類似体、また約15から約25ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含
む。
【0128】
本発明に係るオリゴヌクレオチド阻害剤は、その配列が前記遺伝子の一部に対応するよ
うな、目的の遺伝子を標的とするsiRNA分子であってもよい。本発明で用いられるR
NA分子は一般的に、RNA部分と、若干の更なる部分(例えばデオキシリボヌクレオチ
ド部分)とを含む。
【0129】
本発明の開示は更に、T型カルシウムチャネルを含むタンパク質などの、目的のタンパ
ク質をコードするmRNAを特異的に標的とするリボザイムオリゴヌクレオチド調節物質
を包含する。リボザイムは酵素活性を有するRNA分子であり、その活性により、当該リ
ボザイムが、ヌクレオチド配列特異的な方法で、繰り返し他の別個のRNA分子を切断す
ることを可能にする。そのような酵素的RNA分子は実質的にいかなるmRNA転写産物
も標的とすることができ、効果的な切断がインビトロで実施できる。Kim et al., Proc.
Natl. Acad. Sci. USA, 1987, 84, 8788;Haseloff et al., Nature, 1988, 334, 585;C
ech, JAMA, 1988, 260, 3030;およびJefferies et al., Nucleic Acids Res., 1989, 17
, 1371。
【0130】
典型的に、リボザイムは、近接する位置に保持される2つの部分、すなわち、標的mR
NA配列と相補的な配列を有するmRNA結合部分と、当該標的mRNAを切断するよう
作用する触媒部分とを含む。リボザイムは、最初に、リボザイムの標的mRNAとの結合
部分を通じて、相補的塩基対形成により標的mRNAを認識し、結合する作用を示す。そ
の標的と特異的に結合した後、リボザイムは標的mRNAの切断を触媒する。そのような
戦略的な切断により、コードされたタンパク質の合成を導く標的mRNAの能力を無効化
する。そのmRNA標的と結合し、切断した後、当該リボザイムは放出され、また繰り返
し新たな標的mRNA分子と結合し、切断することができる。
【0131】
幾つかの実施形態では、選択的なT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、実質的に
血液脳関門を通過する。
【0132】
幾つかの実施形態では、選択的なT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、血液脳関
門を実質的に通過しない。
【0133】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチ
ャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形
態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、本明細書に記載の小分子である。
【0134】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCa3.1を選択
的に標的とする。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストはCa
3.2を選択的に標的とする。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタ
ゴニストはCa3.3を選択的に標的とする。この文脈における「選択的」とは、T型
カルシウムチャネルアンタゴニストが別のタイプのカルシウムチャネルよりも、あるタイ
プのT型カルシウムチャネルをより強力にアンタゴナイズすること、例えば、Ca3.
2またはCa3.3またはその両方よりもCa3.1を強力にアンタゴナイズ、Ca
3.1またはCa3.3またはその両方よりもCa3.2を強力にアンタゴナイズ
、Ca3.1またはCa3.2またはその両方よりもCa3.3を強力にアンタゴ
ナイズすることを意味する。選択性は、例えば、あるタイプのT型カルシウムチャネルを
阻害する際の化合物のIC50を、他のタイプのT型カルシウムチャネルを阻害する際の
IC50と比較することにより測定でき、あるタイプのT型チャネルを阻害するためのI
50が他のタイプのT型カルシウムチャネルを阻害するためのIC50より低い場合、
化合物は、選択的であるとみなされる。0.1(またはそれ未満)のIC50比は、10
倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.01(またはそれ未満)のIC50比は、
100倍(またはそれ超)の選択性を意味する。0.001(またはそれ未満)のIC
比は、1000倍(またはそれ超)の選択性を意味する。幾つかの実施形態では、Ca
3.1、Ca3.2またはCa3.3に対する選択性は、10倍もしくはそれ超、
100倍もしくはそれ超または1000倍もしくはそれ超である。
【0135】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、例えばNa1.
1、Na1.2、Na1.3、Na1.4、Na1.5、Na1.6、Na
1.7、Na1.8もしくはNa1.9αサブユニット、および/またはNaβ1
、Naβ2、Naβ3、Naβ4サブユニットを有するナトリウムチャネルなどの
ナトリウムチャネルよりも、T型カルシウムチャネル(例えばCa3.1、Ca3.
2および/またはCa3.3)を選択的に標的とする。T型カルシウムチャネルアンタ
ゴニストは、ナトリウムチャネルの阻害と比較し、T型カルシウムチャネルに対して選択
的でありうる。選択性は、例えば、1つまたは複数のタイプのT型カルシウムチャネルを
阻害する際の化合物のIC50を、1つまたは複数のタイプのナトリウムチャネルを阻害
する際のそのIC50と比較することにより測定でき、T型カルシウムチャネルを阻害す
る際のIC50が、ナトリウムチャネルを阻害する際のIC50より低い場合、化合物は
選択的であるとみなされる。0.1(またはそれ未満)のIC50比は、10倍(または
それ超)の選択性を意味する。0.01(またはそれ未満)のIC50比は、100倍(
またはそれ超)の選択性を意味する。0.001(またはそれ未満)のIC50比は、1
000倍(またはそれ超)の選択性を意味する。幾つかの実施形態では、T型カルシウム
チャネルに対する選択性は、10倍もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超または10
00倍もしくはそれ超である。
【0136】
T型カルシウムチャネルを阻害する化合物の効果は、T型カルシウムチャネルアンタゴ
ニストが阻害するT型カルシウムチャネルの状態によって変化しうる。T型カルシウムチ
ャネルは、細胞膜の電位によって異なる状態を示す場合がある。本明細書に記載の方法に
効果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニストには、膜電位が約-60mVから約
-30mVの範囲、例えば好ましくは約-40mVであるときに、T型カルシウムチャネ
ルをブロックするT型カルシウムチャネルアンタゴニストが含まれうる。「約-60から
約-30mVの範囲」の膜電位には、-70mVから-20mVの範囲、または-65m
Vから-25mVの範囲の膜電位が含まれえ、また例えば約-40mVから約-30mV
、約-50mVから約-30mV、約-70mVから約-30mV、約-50mVから約
-40mV、約-60mVから約-40mV、約-70mVから約-40mV、約-60
mVから約-50mV、および約-70から約-50mVの膜電位の範囲、ならびに約-
30mV、約-40mV、約-50mVおよび約-60mVも包含されうる。幾つかの実
施形態では、本明細書に記載の方法に効果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニス
トには、膜電位が約-100mVから約-80mVの範囲、例えば好ましくは約-90m
VであるときにT型カルシウムチャネルをブロックするT型カルシウムチャネルアンタゴ
ニストが含まれうる。「約-100から約-80mVの範囲」の膜電位には、-110m
Vから-70mVの範囲、または-105mVから-75mVの範囲の膜電位が含まれえ
、また、例えば約-100mVから約-80mV、約-90mVから約-80mVおよび
約-100mVから約-90mVの膜電位の範囲、ならびに約-100mV、約-90m
Vおよび約-80mVも包含されうる。
【0137】
いかなる理論にも拘束されないが、本明細書に記載の方法に効果的であるT型カルシウ
ムチャネルアンタゴニストには、膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば
-40mVであるときにT型カルシウムチャネルを、膜電位が約-100mVから約-8
0mVの範囲、例えば約-90mVであるときのT型カルシウムチャネルのブロックと比
較して選択的にブロックするT型カルシウムチャネルアンタゴニストが含まれうると考え
られる。
【0138】
効果的であるT型チャネル阻害剤は、膜電位が約-40mVであるときのT型カルシウ
ムチャネルを阻害するためのIC50で、すなわち約10μMもしくはそれ未満、例えば
、約1μMもしくはそれ未満、約500nMもしくはそれ未満、約100nMもしくはそ
れ未満、約50nMもしくはそれ未満、約10nMもしくはそれ未満、約5nMもしくは
それ未満、または約1nMもしくはそれ未満で、T型カルシウムチャネルを阻害しうる。
効果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、約-90mVの膜電位における
T型カルシウムチャネルの阻害と比較し、選択的に、約-40mVの膜電位においてT型
カルシウムチャネルを阻害しうる。例えば、約-40mVの膜電位においてT型カルシウ
ムチャネルを選択的に阻害するT型カルシウムチャネルアンタゴニストのIC50の、約
-90mVの膜電位におけるT型カルシウムチャネルの阻害時のそれに対する比率は、約
1:2またはそれ未満、例えば約1:5またはそれ未満、約1:10またはそれ未満、約
1:20またはそれ未満、約1:50またはそれ未満、約1:100またはそれ未満、約
1:500またはそれ未満、約1:1000またはそれ未満でありうる。幾つかの実施形
態では、約-90mVのT型カルシウムチャネルの阻害と比較し、約-40mVのT型カ
ルシウムチャネルを阻害する選択性は、2倍もしくはそれ超、5倍もしくはそれ超、10
倍もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超、または1000倍もしくはそれ超である。
【0139】
効果的であるT型チャネル阻害剤は、膜電位が約-90mVであるときのT型カルシウ
ムチャネルを阻害するためのIC50で、すなわち約10μMまたはそれ未満、例えば、
約1μMもしくはそれ未満、約500nMもしくはそれ未満、約100nMもしくはそれ
未満、約50nMもしくはそれ未満、約10nMもしくはそれ未満、約5nMもしくはそ
れ未満、または約1nMもしくはそれ未満で、T型カルシウムチャネルを阻害しうる。効
果的であるT型カルシウムチャネルアンタゴニストは、約-40mVの膜電位におけるT
型カルシウムチャネルの阻害と比較し、選択的に、約-90mVの膜電位においてT型カ
ルシウムチャネルを阻害しうる。例えば、約-90mVの膜電位においてT型カルシウム
チャネルを選択的に阻害するT型カルシウムチャネルアンタゴニストのIC50の、約-
40mVの膜電位におけるT型カルシウムチャネルの阻害時のそれに対する比率は、約1
:2またはそれ未満、例えば約1:5またはそれ未満、約1:10またはそれ未満、約1
:20またはそれ未満、約1:50またはそれ未満、約1:100またはそれ未満、約1
:500またはそれ未満、約1:1000またはそれ未満でありうる。幾つかの実施形態
では、約-40mVのT型カルシウムチャネルの阻害と比較し、約-90mVのT型カル
シウムチャネルを阻害する選択性は、2倍もしくはそれ超、5倍もしくはそれ超、10倍
もしくはそれ超、100倍もしくはそれ超、または1000倍もしくはそれ超である。
【0140】
全ての化合物およびその薬学的に許容できる塩は、水および溶媒などの他の物質と共に
存在することができ(例えば水和物と溶媒和化合物)、または単離されうる。幾つかの実
施形態では、本発明で提供される化合物またはその薬学的に許容できる塩は、実質的に単
離されている。「実質的に単離されている」とは、化合物が、それが形成されたかまたは
検出された環境から、少なくとも部分的にまたは実質的に分離されていることを意味する
。部分的な分離としては、例えば、本発明で提供される化合物が富化された組成物を挙げ
ることができる。実質的な分離としては、本発明で提供される化合物またはその塩を、重
量ベースで少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも
約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%または少なく
とも約99%含有する組成物を挙げることができる。化合物およびそれらの塩を単離する
方法は、当分野ではルーチンである。
【0141】
本明細書で用いられる「薬学的に許容できる塩」とは、親化合物中の既存の酸または塩
基部分が、その塩の形に変換されることによって修飾された、開示された化合物の誘導体
を指す。薬学的に許容できる塩の例としては、限定されないが、アミンなどの塩基性残基
の無機または有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリまたは有機塩などが挙げら
れる。本願の薬学的に許容できる塩としては、例えば無毒性の無機または有機酸から形成
される、親化合物の従来の無毒性の塩が挙げられる。本願の薬学的に許容できる塩は、従
来の化学的方法によって、塩基性または酸性部分を含有する親化合物から合成することが
できる。通常、そのような塩は、これらの化合物の遊離の酸または塩基の形態と、これの
化学量論量の適切な塩基または酸とを、水、または有機溶媒、またはそれら2つの混合液
中で、反応させることにより調製でき、通常、エーテル、酢酸エチル、アルコール(例え
ばメタノール、エタノール、イソプロパノールまたはブタノール)またはアセトニトリル
などの非水性媒体が好ましい。適切な塩のリストは、Remington's Pharmaceutical Scien
ces, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985, p. 1418およびJournal
of Pharmaceutical Science, 66, 2 (1977)に見出される。塩形態の調製方法は、例えばH
andbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use, Wiley-VCH, 2002
に記載されている。
【0142】
IV.併用療法
アンジェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候群の処置のために、1つまたは複
数の更なる治療薬が、本発明で提供される化合物との組合せで使用できる。更なる治療薬
の例としては、限定されないが、カルシウムチャネルアンタゴニスト(L型およびT型ア
ンタゴニストを含む)、抗痙攣剤、GABA(A)受容体アゴニストおよび陽性アロステ
リック調節物質、または遺伝子治療もしくは遺伝子再活性化療法(Bailus et al., The p
rospect of molecular therapy for Angelman syndrome and other monogenic neurologi
c disorders, BMC Neuroscience, 2014, 15, 76)が挙げられる。
【0143】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストによる処置は、アンジ
ェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候群を処置するための更なる薬物がない場合
にも提供することができる。幾つかの実施形態では、処置は、1つのT型カルシウムチャ
ネルアンタゴニストで実施できる。幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアン
タゴニストによる処置は、抗痙攣剤がない場合に提供することができる。
【0144】
1つまたは複数の更なる医薬品を、同じ投与計画または異なる投与計画を使用して、同
時にまたは経時的に、患者に投与することができ、それは使用する特定の組合せおよび処
方する医師の判断により決定される。
【0145】
カルシウムチャネルアンタゴニストの例としては、限定されないが、本明細書に記載の
T型カルシウムチャネルアンタゴニストおよびL型カルシウムチャネルアンタゴニストが
挙げられる。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストは、本発
明で提供されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストから選択される。幾つかの実施形
態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストはL型カルシウムチャネルアンタゴニ
ストである。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストはT型カ
ルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャ
ネルアンタゴニストは、ミベフラジル、MK-5395、MK-6526、MK-899
8およびZ944からなる群から選択されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストであ
る。幾つかの実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウ
ムチャネルアンタゴニストおよびL型カルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つか
の実施形態では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストは、T型カルシウムチャネル
アンタゴニスト、またはACT-28077、ミベフラジルおよびTTL-1177から
なる群から選択されるL型カルシウムチャネルアンタゴニストである。幾つかの実施形態
では、更なるカルシウムチャネルアンタゴニストはミベフラジルである。
【0146】
抗痙攣剤の例としては、限定されないが、アセタゾラミド、カルバマゼピン、クロバザ
ム、クロナゼパム、エスリカルバゼピン酢酸塩、エトスクシミド、ガバペンチン、ラコサ
ミド、ラモトリジン、レベチラセタム、ニトラゼパム、オクスカルバゼピン、ペランパネ
ル(perampanel)、ピラセタム、フェノバルビタール、フェニトイン、プレガバリン、プ
リミドン、レチガビン、ルフィナミド、バルプロエート(例えばバルプロ酸ナトリウム)
、スチリペントール、チアガビン、トピラマート、ビガバトリンおよびゾニサミドが挙げ
られる。
【0147】
GABA(A)受容体アゴニストの例としては、ガボキサドール、バマルゾール、γ-
アミノ酪酸、ガバミド(gabamide)、γ-アミノ-β-ヒドロキシ酪酸、ガボキサドール
、イボテン酸、イソグバシン(isoguvacine)、イソニペコチン(isonipecotic)酸、ム
シモール、フェニブット(phenibut)、ピカミロン(picamilon)、プロガビド、キスカ
ルアミン(quisqualamine)、SL75102およびチオムシモールが挙げられる。
【0148】
GABA(A)受容体の陽性アロステリック調節物質の例としては、エバメクチン(例
えばアイバメクチン)、バルビツール剤(例えばフェノバルビタール)、ベンゾジアゼピ
ン(例えばアジナゾラム、アルプラゾラム、ベンタゼパム、ブレタゼニル、ブロマゼパム
、ブロチゾラム、カマゼパム、クロルジアゼポキシド、シナゼパム(cinazepam)、シノ
ラゼパム、クロバザム、クロナゼパム、クロナゾラム(clonazolam)、クロラゼペート、
クロチアゼパム、クロキサゾラム、デロラゼパム、ジアゼパム、ジクラゼパム(diclazep
am)、エスタゾラム、カルフルゼプ酸エチル、エチゾラム、ロフラゼプ酸エチル、フルブ
ロマゼパム(flubromazepam)、フルブロマゾラム(flubromazolam)、フルニトラゼパム
(flunitrazepam)、フルラゼパム(flurazepam)、フルタゾラム、フルトプラゼパム、
ハラゼパム、ケタゾラム、ロプラゾラム、ロラゼパム、ロルメタゼパム(lormetazepam)
、メダゼパム、メキサゾラム、ミダゾラム、ニフォキシパム(nifoxipam)、ニメタゼパ
ム(nimetazepam)、ニトラゼパム、ノルジアゼパム、オキサゼパム、フェナゼパム(phe
nazepam)、ピナゼパム、プラゼパム、プレマゼパム、ピラゾラム(pyrazolam)、クアゼ
パム、リルマザフォン(rilmazafone)、テマゼパム、チエナルプラゾラム(thienalpraz
olam)、テトラゼパムおよびトリアゾラム)、臭化物(例えば臭化カリウム、カルバメー
ト(例えばメプロバメート、カリソプロドール(carisoprodol))、クロラローゼ、クロ
ルメザノン、クロメチアゾール(clomethiazole)、ジヒドロエルゴリン(例えばエルゴ
ロイド(ジヒドロエルゴトキシン))、エタゼピン、エチホキシン、イミダゾール(例え
ばエトミデート)、カバラクトン(kavaに存在)、ロレクレゾール、神経刺激性ステ
ロイド(例えばアロプレグナノロン、ガナキソロン)、非ベンゾジアゼピン(例えばザレ
プロン、ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン)、ペトリクロラール(petrichloral
)、フェノール類(例えばプロポフォール)、ピペリジンジオン(例えばグルテチミド、
メチプリロン)、プロパニジド(propanidid)、ピラゾロピリジン(例えばエタゾラート
)、キナゾリノン(例えばメタクアロン)、頭蓋冠成分、スチリペントール、スルホニル
アルカン(例えばスルホンメタン、テトロナール(tetronal)、トリオナール(trional
))、およびカノコソウ成分(例えば吉草酸、バレリン(valerenic)酸)が挙げられる
【0149】
幾つかの実施形態では、療法は単独療法として実施できる。幾つかの実施形態では、療
法は、更なる鎮痙性の療法がない場合に実施できる。療法は、本セクションに記載の更な
る薬剤のいずれかがない場合に実施できる。例えば、療法は、アセタゾラミド、カルバマ
ゼピン、クロバザム、クロナゼパム、エスリカルバゼピン酢酸塩、エトスクシミド、ガバ
ペンチン、ラコサミド、ラモトリジン、レベチラセタム、ニトラゼパム、オクスカルバゼ
ピン、ペランパネル、ピラセタム、フェノバルビタール、フェニトイン、プレガバリン、
プリミドン、レチガビン、ルフィナミド、バルプロエート(例えばバルプロ酸ナトリウム
)、スチリペントール、チアガビン、トピラマート、ビガバトリンまたはゾニサミドなど
の更なる鎮痙剤がない場合に実施できる。
【0150】
遺伝子再活性化療法は、UBE3Aの父性(または母性)コピーを活性化させる化合物
投与を含む。その例としては、トポテカン、イリノテカン、エトポシドおよびデクスラゾ
キサンなどのトポイソメラーゼ阻害剤(トポイソメラーゼIおよびII阻害剤を含む)、
ならびにHuang et al., "Topoisomerase inhibitors unsilence the dormant allele of
Ube3a in neurons", Nature, 2011, 481, 185-89によって同定された他の化合物が挙げら
れる。
【0151】
幾つかの実施形態では、本明細書で提供されるT型カルシウムチャネルアンタゴニスト
と組み合わせて使用できる1つまたは複数の更なる療法としては、限定されないが、物理
療法、作業療法、コミュニケーション療法および行動療法が挙げられる。幾つかの実施形
態では、本明細書で提供されるT型カルシウムチャネルアンタゴニストと組み合わせて使
用できる1つまたは複数の更なる治療薬および1つまたは複数の更なる療法としては、物
理療法、作業療法、コミュニケーション療法および行動療法からなる群から選択されるも
のが挙げられる。
【0152】
V.医薬組成物
本明細書に記載の方法で用いられるT型カルシウムチャネル阻害剤は、医薬組成物の形
態で投与することができる。このように、本発明の開示は、特許請求される処置方法、ま
たは本明細書に記載の状態を処置するため医薬の製造に使用される、T型カルシウムチャ
ネル阻害剤と少なくとも1つの薬学的に許容できる担体とを提供する。これらの組成物は
、製薬分野で公知の方法で調製することができ、種々の経路により投与することができる
。投与は、局所投与(経皮、表皮、眼内、ならびに鼻腔内、膣内および直腸内送達を含む
経粘膜を含む)、肺内投与(例えば、ネブライザーなどによる粉末またはエアゾールの吸
入または注入、気管内または鼻腔内)、経口または非経口投与であってもよい。非経口投
与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内または注入もしくは点滴、あるいは
頭蓋内(例えばクモ膜下または脳室内)投与が挙げられる。非経口投与は、単回ボーラス
投与の形態であってもよく、または連続灌流ポンプによるものであってもよい。局所投与
用の医薬組成物および製剤としては、経皮パッチ、軟膏、ローション剤、クリーム、ゲル
、ドロップ、坐薬、スプレー、液剤および粉末剤が挙げられうる。従来の医薬用担体、水
性、粉末性もしくは油性のベース剤、増粘剤などが必要となり、または望ましい場合もあ
る。
【0153】
この医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容できる担体(賦形剤)との組合せで
、有効成分としてのT型カルシウムチャネル阻害剤(薬学的に許容できる塩の形態であっ
てもよい)を含有する。幾つかの実施形態では、組成物は局所投与に適する。本発明の組
成物の調製の際、有効成分は典型的には、賦形剤と混合されるか、賦形剤により希釈され
るか、またはカプセル、サシェ、ペーパーもしくは他の容器などの形態で、かかる担体中
に充填される。賦形剤が希釈剤として用いられるとき、それは固形状、半固形状または液
状の材料であってもよく、それは有効成分のビヒクル、担体または媒体として機能する。
このように、組成物は、錠剤、ピル、粉末、ロゼンジ、サシェ、カシェ、エリキシル、懸
濁液、エマルジョン、溶液、シロップ、エアゾール(固形状または液体媒体中)、例えば
最大10重量%の活性化合物を含有する軟膏、軟質および硬質ゼラチンカプセル、坐薬、
無菌の注射液ならびに無菌包装粉末の形態とすることができる。
【0154】
製剤を調製する際に、T型カルシウムチャネル阻害剤は、他の成分と組み合わせる前に
、適切な粒径とするために粉砕することができる。活性化合物が実質的に不溶性である場
合、200メッシュ未満の粒径に粉砕することができる。活性化合物が実質的に水溶性で
ある場合、粒径は、粉砕により、製剤中で実質的に同一の分布(例えば約40メッシュ)
となるように調整できる。
【0155】
本発明の化合物は、錠剤の形成、および他の剤形とするのに適する粒径を得るため、湿
式ミリングなどの公知の粉砕処理を使用して粉砕してもよい。本発明の化合物の微細粉末
化(ナノ粒子化)調製物を、当分野で公知のプロセスによって調製することができる。
【0156】
幾つかの適切な賦形剤の例としては、ラクトース、ブドウ糖、ショ糖、ソルビトール、
マンニトール、澱粉、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカントゴ
ム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース
、水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。製剤は更に、潤滑剤(例えばタル
ク、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイル)、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、
保存料剤(例えばヒドロキシ安息香酸のメチルおよびプロピルエステル)、甘味料、なら
びに香料を含むことができる。
【0157】
幾つかの実施形態では、医薬組成物は、ケイ化結晶性セルロース(SMCC)と、本明
細書に記載の少なくとも1つの化合物またはその薬学的に許容できる塩を含む。幾つかの
実施形態では、ケイ化結晶性セルロースは、重量ベースで、約98%の結晶性セルロース
と約2%の二酸化ケイ素とを含む。
【0158】
幾つかの実施形態では、組成物の製造に湿式造粒プロセスが用いられる。幾つかの実施
形態では、組成物の製造に乾式造粒プロセスが用いられる。
【0159】
組成物は、各投薬単位が約5から約1,000mg(1g)、より一般的には約100
mgから約500mgの有効成分を含有する単位投与形態で製剤化することができる。幾
つかの実施形態では、各投薬単位は約10mgの有効成分を含有する。幾つかの実施形態
では、各投薬単位は約50mgの有効成分を含有する。幾つかの実施形態では、各投薬単
位は約25mgの有効成分を含有する。「単位投与形態」という用語は、ヒト対象および
他の哺乳動物のための単回投与に適する、物理的に分割された単位を指し、各単位は、適
切な医薬賦形剤との組合せで、望ましい治療効果を得るために算出された所定量の活性物
質を含有する。
【0160】
医薬組成物を製剤化するのに用いられる成分は、高純度で、潜在的に有害な混入物を実
質的に含まない(例えば、少なくとも国内の食品グレード、一般には少なくとも分析グレ
ード、より典型的には少なくとも医薬グレードである)。特にヒトが摂取する場合、組成
物は、好ましくは米国食品医薬品局の関連規則において定義される医薬品製造品質管理基
準に従い製造または製剤化される。例えば適切な製剤は無菌で、および/または、実質的
に等張で、および/または、米国食品医薬品局の全ての医薬品製造品質管理基準に完全準
拠したものでありうる。
【0161】
活性化合物は、広範囲な投薬量にわたり有効でありうるが、通常は治療有効量で投与さ
れる。しかしながら、実際に投与される化合物の量は、処置を受ける状態、選択された投
与経路、投与される実際の化合物、個々の患者の年齢、体重および反応、患者の症状の重
症度などの関連する状況に応じて、医師により決定されることが理解されるであろう。
【0162】
本発明の化合物の治療的投薬量は、例えば、処置がなされる際の特定の使用、化合物の
投与方法、患者の健康状態および処方する医師の判断により変化しうる。医薬組成物中の
本発明の化合物の比率または濃度は、投薬量、化学的特性(例えば疎水性)および投与経
路などの多くの要因に応じて変化しうる。例えば、本発明の化合物は、非経口投与の場合
、当該化合物を約0.1~約10%(w/v)で含有する生理的緩衝水溶液として提供さ
れうる。幾つかの典型的な用量範囲は、1日当たり約1μg/kgから約1g/kg体重
である。幾つかの実施形態では、用量範囲は、1日当たり約0.01mg/kgから約1
00mg/kg体重である。投薬量は、そのような変動要因、疾患の重症度、特定の患者
の全体的な健康状態、選択される化合物の相対的な生物学的有効性、賦形剤の組成および
投与経路に依存する傾向を有する。有効用量は、インビトロまたは動物におけるモデル試
験系に由来する用量反応曲線から推定できる。ヒトの場合の有効用量は、例えば約1mg
、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、4
0mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、8
0mg、85mg、90mg、95mg、100mg、110mg、120mg、125
mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、1
90mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、500mg
、600mg、700mg、800mg、900mgまたは1000mgでありうる。用
量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0163】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがミベフラジルである
とき、ミベフラジルは例えば約0.1mg、0.3mg、1mg、3mg、5mg、15
mg、10mgまたは30mgの用量で投与できる。用量は、例えば1日1回、1日2回
、1日3回または1日4回投与されうる。
【0164】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがMK-5395であ
るとき、MK-5395は例えば約0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5
mg/kg、10mg/kg、30mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与でき
る。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0165】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがMK-6526であ
るとき、MK-6526は例えば約0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5
mg/kg、10mg/kg、30mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与でき
る。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0166】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがMK-8998であ
るとき、MK-8998は例えば約0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5
mg/kg、10mg/kg、30mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与でき
る。用量は、例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0167】
幾つかの実施形態では、T型カルシウムチャネルアンタゴニストがZ944であるとき
、Z944は例えば約0.3mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、
10mg/kg、30mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与できる。用量は、
例えば1日1回、1日2回、1日3回または1日4回投与されうる。
【0168】
錠剤などの固形組成物を調製する場合、主要な有効成分を医薬賦形剤と混合し、本発明
の化合物の均一な混合物を含有する固形状の予備処方組成物を形成させる。これらの予備
処方組成物が均一であるとは、典型的には、有効成分が組成物全体に均一に分散している
ことで、組成物が等しく有効な単位投与形態(例えば錠剤、ピルおよびカプセル)に容易
に再分割できる状態のことを指す。この固形状の予備処方剤を、次に、例えば本発明の有
効成分を約0.1から約1000mgで含有する、上記のタイプの単位投与形態に再分割
する。
【0169】
本発明の化合物および組成物を経口投与用または注入用に配合できる溶液形態としては
、水溶液、適切に風味付けしたシロップ、水中または油中懸濁液、ならびに綿実油、胡麻
油、ヤシ油または落花生油などの食用油で風味付けしたエマルジョン、ならびにエリキシ
ルおよび同様の薬学的ビヒクルが挙げられる。
【0170】
吸入またはガス注入用の組成物としては、薬学的に許容できる水性もしくは有機溶媒、
またはその混合物中の溶液および懸濁液、ならびに粉末が挙げられる。液状または固形状
の組成物は、上記のような適切な薬学的に許容できる賦形剤を含有してもよい。幾つかの
実施形態では、組成物は、局所的または全身的効果を得るために経口または鼻呼吸経路で
投与される。組成物は、不活性ガスの使用により霧状にすることができる。霧状にされた
溶液は、ネブライザーから直接呼吸してもよく、または、ネブライザーをマスク、テント
もしくは間欠的陽圧呼吸装置に取り付けることができる。溶液、懸濁液または粉末状の組
成物は、適切な方法で、製剤を送達する装置から経口的に、または鼻腔内に投与すること
ができる。
【0171】
局所用製剤は、1つまたは複数の担体を含有することができる。幾つかの実施形態では
、軟膏は、水と、例えば、流動パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、プロ
ピレングリコール、白色ワセリンなどから選択される1つまたは複数の疎水性担体とを含
有することができる。クリーム状の担体組成物は、グリセロールおよび1つまたは複数の
他の成分(例えばグリセリンモノステアレート、PEG-グリセリンモノステアレートお
よびセチルステアリルアルコール)と組み合わせた水ベースの組成とすることができる。
ゲルは、イソプロピルアルコールおよび水を使用し、適宜他の成分(例えばグリセロール
、ヒドロキシエチルセルロースなど)と組み合わせて製剤化することができる。幾つかの
実施形態では、局所用製剤は、本発明の化合物を少なくとも約0.1、少なくとも約0.
25、少なくとも約0.5、少なくとも約1、少なくとも約2または少なくとも約5重量
%含有する。
【0172】
患者に投与される化合物または組成物の量は、投与する物質や、予防または療法などの
投与目的、患者の状態、投与方法などにより変化する。治療的な使用では、組成物は疾患
およびその合併症の症状を除去するか、または少なくとも部分的に軽減するのに十分な量
で、既に疾患に罹患する患者に投与することができる。有効用量は、処置を行おうとする
疾患の状態、ならびに、疾患の重症度、患者の年齢、体重および全般的状態などの要因を
踏まえた主治医の判断などに応じて変化する。
【0173】
患者に投与される組成物は、上記の医薬組成物の形態とすることができる。これらの組
成物は、従来の滅菌法により滅菌することができ、または濾過滅菌してもよい。水溶液は
包装してそのまま使用するか、または凍結乾燥することができ、当該凍結乾燥した調製物
を、投与前に滅菌した水性担体と合わせる。化合物の調製物のpHは、典型的には3から
11の間、より好ましくは5から9、最も好ましくは7から8である。上記の賦形剤、担
体または安定化剤の適宜の使用により、製薬塩が形成されることが理解されよう。
【0174】
本明細書に記載の方法で用いられるT型カルシウムチャネルアンタゴニストの治療的投
薬量は、例えば、処置がなされる際の特定の使用、化合物の投与方法、患者の健康状態お
よび処方する医師の判断により変化しうる。医薬組成物中の本発明の化合物の比率または
濃度は、投薬量、化学的特性(例えば疎水性)および投与経路などの多くの要因に応じて
変化しうる。例えば、T型カルシウムチャネルアンタゴニストは、非経口投与の場合、当
該化合物を約0.1~約10%(w/v)で含有する生理的緩衝水溶液として提供されう
る。幾つかの典型的な用量範囲は、1日当たり約1μg/kgから約1g/kg体重であ
る。幾つかの実施形態では、用量範囲は、1日当たり約0.01mg/kgから約100
mg/kg体重である。投薬量は、疾患または障害のタイプおよび進行度などの変動要因
、特定の患者の全体的な健康状態、選択される化合物の相対的な生物学的有効性、賦形剤
の組成ならびに投与経路に依存する傾向を有する。有効用量は、インビトロまたはインビ
ボにおけるモデル試験系に由来する用量反応曲線から推定できる。
【実施例0175】
本発明を下記の実施例で更に記載するが、それは特許請求の範囲で定義される本発明の
範囲を限定するものではない。
【実施例0176】
アンジェルマン症候群を有する患者の処置
精神的障害および頻繁な不規則な挙動(例えば発作、手のばたつかせ)を特徴とするア
ンジェルマン症候群の一患者を対象とする。患者に、本発明で提供されるT型カルシウム
チャネルアンタゴニスト(例えばミベフラジル、エホニジピン、TTL-1177、ニッ
ケルなど)を治療有効量で、単独または他の療法との組合せで投与する。T型カルシウム
チャネルアンタゴニストを十分な投薬量で投与した後(例えば一回の投与後、または一連
の投与後)、患者の脳活動をモニターする(例えば脳波測定(EEG)を使用)。患者の
脳活動は、T型カルシウムチャネルアンタゴニストによる処置前の患者の脳活動と比較し
、アンジェルマン症候群に特徴的な脳活動における顕著な改善を示している。患者は、知
的および発達的な障害、睡眠障害、発作およびぎくしゃくした挙動を含む他の症状の改善
を示す可能性もある。
【実施例0177】
アンジェルマンモデルマウスのインビボ試験
アンジェルマン症候群のモデルマウスにおける行動的および生理的欠陥ならびに癲癇に
対する、2つの化合物、すなわちミベフラジルおよびMK-8998の効果を測定するた
め、3つ試験を個別に実施した。当該試験は、聴原性癲癇試験(試験1、Tl)、運動/
行動試験バッテリー(試験2、T2)および長期増強測定(LTP、試験3、T3)であ
った。各試験の完了により、この試験におけるミベフラジルまたはMK-8998効果の
定量的結果が提供された。全3件の試験で、マウスを2つの別々の群に分けた。すなわち
、以下の表2に示すように試験1のための群1と、試験2および3のための群2とし、各
群は6つのサブ群a~fからなる。
【0178】
全ての行動実験および電気生理的実験において、雌のUbe3am/p KOマウ
ス(すなわちASマウス)と野生型の雄とを交配させ、F1雑種129S2-C57BL
/6のバックグラウンドを有するヘテロ接合ASマウス同腹仔コントロールを作製した。
癲癇試験では、ASマウスを129S2/SvPasCrlバックグラウンドのコントロ
ールと交配させる。全体でマウスの2つの群が必要となる:癲癇試験のための群1(表2
、群1a~f)、ならびに行動試験バッテリーおよび電気生理的試験のための群2(表2
、群2a~f)。各群は、2つのコントロールサブ群を含む6つのサブ群からなる:標準
的な食餌を与えられる野生型(a)およびAS変異体(b)マウス、ならびに薬物が添加
された食餌を与えられる4つのサブ群(ミベフラジル(c~d)およびMK-8998(
e~f)群、それぞれ2つの異なる濃度)。試験/サブ群で用いたマウス数を表2に示す
が、電気生理的試験では5~7匹のマウス/サブ群、癲癇試験では10匹のマウス/サブ
群および行動試験バッテリーでは12~15匹のマウス/サブ群の範囲である。成体の雄
および雌マウス(8週齢未満)を全ての実験で用いた。
【0179】
【表2】
【0180】
ミベフラジルおよびMK-8998を、マウスが5gの食餌/日で摂食するという仮定
に基づき、様々な異なる用量(例えば10mg/kg、30mg/kg、40mg/kg
、60mg/kg)で試験した。両方の薬物は、仔(P21、サブ群c~f)を離乳した
後に食餌と一緒に投与を開始した。コントロールマウス(サブ群aおよびb)には標準的
な食餌を与えた。
【0181】
アンジェルマン症候群(AS)マウスモデルにおける、癲癇に対するミベフラジルおよび
MK-8998の効果(試験1)
AS変異体マウス、野生型およびAS変異体マウスを、出産後の21日目(P21)か
ら成体期まで、標準的な食餌(群IaおよびIb)または薬物が添加された食餌(群Ic
~f)を与え、維持した。8週齢(P56)において、全てのマウスを、聴原性の発作の
発生に関して試験した。この試験の結果は、癲癇を経験したマウス/サブ群の数(または
%)で示した。標準的な食餌を与えられた大部分(90%超)のAS変異体マウス(群I
b)は、癲癇を経験すると予想された。対照的に、標準的な食餌を与えられた野生型マウ
ス(群Ia)では、発作を示すと予想されなかった(15%未満)(例えばSilva-santos
et al., J. Clin. Invest., 2015, 125(5), 2069-2076を参照)。試験1のプロトコルの
概要を以下に示す:
【0182】
1.発作の評価:(129S2/SvPasCrl × ASマウス)
a.9匹のマウス/群
b.6つの群(以下の通り):
i.ビヒクル:野生型
ii.ミベフラジル(経口胃管による強制摂取)
1. 10mg/kg
2. 40mg/kg
iii.MK-8998(経口胃管による強制摂取)
1. 10mg/kg
2. 30mg/kg
3. 60mg/kg
c.処置スケジュール:ベースライン癲癇試験 → 7日間の処置を開始、P56→癲
癇試験
d.結果:聴原性の癲癇を経験したマウスの%
【0183】
第一に、ミベフラジルまたはMK-8998による処置の前にマウスを癲癇試験に供し
た。マウスを次に、7日間経口胃管による強制摂取によりミベフラジルまたはMK-89
98を用いて処置し、その後癲癇試験に供した。マウスに以下の通りの投薬を行った:群
1:ミベフラジル10mg/kgおよび40mg/kg;MK-8998:10mg/k
gおよび30mg/kg。群2:ミベフラジル10mg/kgおよび40mg/kg;M
K-8998:10mg/kgおよび30mg/kg。聴原性の癲癇試験の結果を図1
示す。
【0184】
その結果、予想外にも、MK-8998は用量依存的に発作を排除し、60mg/kg
の処置を受けた動物の約80%で発作が完全に排除されることを示す。しかしながら、図
1に示されるデータには見かけの反応が記載されておらず、図1には発作のない動物の数
のみが記録されるため、処置による効果がなかったことを示すわけではない点に注意すべ
きである。動物における発作回数の減少または発作の重症度の低下は見られたが、図1
示されるデータでは未だ発作が記録されている。
【0185】
ミベフラジルまたはMK-8998または他のT型カルシウムチャネル阻害剤による処
置を受ける、発作を起こしやすい動物では、発作回数の減少または発作の重症度の低下、
またはその両方が示されると予想される。
【0186】
試験2:ASマウスの行動的欠陥に対するミベフラジルおよびMK-8998の効果
AS変異体マウスが強い表現型を示す(Silva-santos et al., J. Clin. Invest., 201
5, 125(5), 2069-2076)、ロータロッド、オープンフィールド、大理石の覆い隠し、営巣
および強制的水泳試験を含む確立された運動協調性および行動試験のバッテリーを行う。
この試験バッテリーでは、12~15匹のマウス/サブ群からなる群(6つのサブ群、表
2を参照)を、一群の72~90匹のマウスとして試験する。繁殖および試験のキャパシ
ティ限界のため、この群を7~8匹のマウス/サブ群からなる2つのバッチ(42~48
匹のマウス/バッチ)に分割する。両方のバッチのマウスを、同じ運動/行動試験のバッ
テリーに供し、両群から得た結果を併合して統計的検出力に到達させる。各試験(例えば
ロータロッド)の後、定量化可能な結果(測定値)をサブ群ごとに得る。試験2のプロト
コルの概要を以下に示す:
【0187】
2.行動評価:ヘテロ接合型ASマウス(雄の野生型 × 雌のUbe3am-/p+
KOマウス)
a.12~15匹のマウス/群
b.6つの群(以下の通り):
i.ビヒクル:野生型
ii.ビヒクル:ヘテロ接合型ASマウス
iii.ミベフラジル
1. 10mg/kg
2. 40mg/kg
iv.MK-8998
1. 30mg/kg
2. 60mg/kg
c.処置スケジュール:6週間の試験期間で2つのバッチの試験を完了させる。
d.評価および結果:
i.加速度ロータロッド:潜時(s)
ii.大理石の覆い隠し:覆い隠されない大理石の数
iii.オープンフィールド試験:路程(m)
iv.営巣:使用した材料(%)
v.強制的水泳試験:浮動時間(%)。
【0188】
試験3:ASマウスのシナプス可塑性の欠陥に対するミベフラジルおよびMK-8998
の効果
次に、AS変異体マウスにおける長期増強(LTP)欠陥に対する、ミベフラジルおよ
びMK-8998の効果を試験する。この実験では、試験2に供されたマウスを使用でき
る。LTPは、5~7匹のマウス/サブ群で測定する。必要な場合、マウスの数を(例え
ば第2のマウスのバッチから)増やすこともできる。試験3のプロトコルの概要を以下に
示す:
【0189】
3.長期増強評価:ヘテロ接合型ASマウス(雄の野生型 × 雌のUbe3am-/p
+ KOマウス)
a.6~7匹のマウス/群
b.6つの群(以下の通り):
i.ビヒクル:野生型
ii.ビヒクル:ヘテロ接合型ASマウス
iii.ミベフラジル
1. 10mg/kg
2. 40mg/kg
iv.MK-8998
1. 30mg/kg
2. 60mg/kg
c.処置スケジュール:1日当たり2匹のマウス、計5週間
d.結果:
i.野生型マウスのLTP誘導および表現(ベースラインに対する%)
ii.ASマウスにおける、薬物によるLTP欠陥のレスキュー可能性(ベースライ
ンに対する%)
【0190】
他の実施形態
本発明を、「発明の詳細な説明」に関連して記載したが、上記の記載は、あくまで例示
を意図するものであり、本発明の範囲を限定することを目的とするものではなく、本発明
の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されると理解すべきである。本発明の多く
の実施形態を記載した。しかしながら、本発明の技術思想および範囲から逸脱することな
く、様々な修飾をなしうることが理解されよう。したがって、他の側面、効果、実施形態
および修飾も、以下の特許請求の範囲内に含まれる。

図1
【手続補正書】
【提出日】2021-11-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0190
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0190】
他の実施形態
本発明を、「発明の詳細な説明」に関連して記載したが、上記の記載は、あくまで例示を意図するものであり、本発明の範囲を限定することを目的とするものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されると理解すべきである。本発明の多くの実施形態を記載した。しかしながら、本発明の技術思想および範囲から逸脱することなく、様々な修飾をなしうることが理解されよう。したがって、他の側面、効果、実施形態および修飾も、以下の特許請求の範囲内に含まれる。
本願は以下の態様にも関する。
(1) アンジェルマン症候群またはプラダー・ウィリー症候群を処置する方法であって、かかる処置を必要とする対象に治療有効量のT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む方法。
(2) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、T型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである、上記(1)に記載の方法。
(3) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが小分子である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが抗体である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(5) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがsiRNAである、上記(1)から(3)に記載の方法。
(6) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.1を選択的に標的とする、上記(1)から(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.2を選択的に標的とする、上記(1)から(5)のいずれかに記載の方法。
(8) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.3を選択的に標的とする、上記(1)から(5)のいずれかに記載の方法。
(9) 細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば約-40mVであるとき、前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、前記細胞でT型カルシウムチャネルをアンタゴナイズする、上記(1)から(8)のいずれかに記載の方法。
(10) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、ミベフラジル、MK-8998、ジルチアゼム、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニモジピン、ニルジピン、ニグルジピン、ニカルジピン、ニソルジピン、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、リオシジン、ガロパミル、ベラパミル、チアパミル、ピモジド、チオリダジン、NNC55-0396、TTL-1177、アナンダミド、ピモジド、ペンフルリドール、クロピモジド、フルスピリレン、ハロペリドール、ドロペリドール、ベンペリドール、トリペリドール、メルペロン、レンペロン、アザペロン、ドンペリドン、アントラフェニン、アリピペラゾール、シプロフロキサシン、ダピプラゾール、ドロプロピジン、エトペリドン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、レボドロプロピジン、メピプラゾール、ナフトピジル、ネファゾドン、ニアプラジン、オキシペルチン、ポサコナゾール、トラゾドン、ウラピジル、ベスナリノン、マニジピン、ニルバジピン、ベニジピン、エホニジピン、フルナリジン、アナンダミド、ロメリジン、フェニトイン、ゾニサミド、U-92032、テトラロール、ミベフラジル、NNC55-0396、TTA-A2、TTA-A8、TTA-P1、4-アミノメチル-4-フルオロピペリジン(TTA-P2)、TTA-Q3、TTA-Q6、MK-5395、MK-6526、MK-8998、Z941、Z944、フェンスクシミド、メスクシミド、デスメチルメトスクシミド、エホニジピン、トリメタジオン、ジメタジオン、ABT-639、TTL-1177、KYSO5044、ニッケルおよびクルトキシン、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、上記(1)から(9)のいずれかに記載の方法。
(11) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、ミベフラジル、MK-8998、エホニジピン、TTL-1177およびニッケル、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、上記(1)から(10)のいずれかに記載の方法。
(12) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、ミベフラジルまたはMK-8998である、上記(1)から(11)のいずれかに記載の方法。
(13) 疾患がアンジェルマン症候群である、上記(1)から(12)のいずれかに記載の方法。
(14) 疾患がプラダー・ウィリー症候群である、上記(1)から(12)のいずれかに記載の方法。
(15) 前記処置が、前記対象で少なくとも1つの神経症状を低減または改善することを含む、上記(1)から(14)のいずれかに記載の方法。
(16) 前記神経症状が、活動過多、異常な睡眠パターン、発作、ジストニアおよび運動失調の1つまたは複数を含む、上記(15)に記載の方法。
(17) 前記処置が、前記対象の発作の頻度を減少させることを含む、上記(1)から(16)のいずれかに記載の方法。
(18) 前記処置が、前記対象の発作の重症度を低下させることを含む、上記(1)から(17)のいずれかに記載の方法。
(19) 前記処置が、前記対象のジストニアの頻度を減少させることを含む、上記(1)から(18)のいずれかに記載の方法。
(20) 前記処置が、前記対象のジストニアの重症度を低下させることを含む、上記(1)から(19)のいずれかに記載の方法。
(21) 前記処置が、前記対象の運動失調の頻度を減少させることを含む、上記(1)から(20)のいずれかに記載の方法。
(22) 前記処置が、前記対象の運動失調の重症度を低下させることを含む、上記(1)から(21)のいずれかに記載の方法。
(23) 前記処置が、前記対象における認知を改善するかまたは認知障害を減少させることを含む、上記(1)から(22)のいずれかに記載の方法。
(24) 前記処置が、前記対象における記憶を改善するかまたは記憶障害を減少させることを含む、上記(1)から(23)のいずれかに記載の方法。
(25) 前記処置が、前記対象における注意を改善するかまたは注意欠陥を減少させることを含む、上記(1)から(24)のいずれかに記載の方法。
(26) 前記処置が、前記対象の肥満を減少させることを含む、上記(1)から(25)のいずれかに記載の方法。
(27) 前記処置が、前記対象の体重増加の量または速度を減少させることを含む、上記(1)から(26)のいずれかに記載の方法。
(28) 前記処置が、前記対象の体重を減少させることを含む、上記(1)から(27)のいずれかに記載の方法。
(29) 前記処置が、前記対象の空腹感を減少させるかまたは満腹感を増加させることを含む、上記(1)から(28)のいずれかに記載の方法。
(30) 前記選択的T型カルシウムチャネル調節物質が実質的に血液脳関門を通過する、上記(1)から(29)のいずれかに記載の方法。
(31) 前記選択的T型カルシウムチャネル調節物質が実質的に血液脳関門を通過しない、上記(1)から(29)のいずれかに記載の方法。
(32) 前記対象に更なる治療薬を投与することを更に含む、上記(1)から(31)のいずれかに記載の方法。
(33) 前記更なる治療薬が更なるT型カルシウムチャネル阻害剤である、上記(32)に記載の方法。
(34) 前記更なる治療薬が抗痙攣剤である、上記(32)に記載の方法。
(35) 物理療法、作業療法、コミュニケーション療法および行動療法からなる群から選択される更なる療法を行うことを更に含む、上記(1)から(34)のいずれかに記載の方法。
(36) それを必要とする対象におけるCaMKII自己リン酸化に関連する疾患または障害を処置する方法であって、前記対象にT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む方法。
(37) 前記疾患または障害がアンジェルマン症候群である、上記(36)に記載の方法。
(38) 前記疾患または障害がプラダー・ウィリー症候群である、上記(36)に記載の方法。
(39) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、T型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである、上記(36)から(38)のいずれかに記載の方法。
(40) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが小分子である、上記(36)から(39)のいずれかに記載の方法。
(41) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが抗体である、上記(36)から(40)のいずれかに記載の方法。
(42) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがsiRNAである、上記(36)から(41)のいずれかに記載の方法。
(43) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.1を選択的に標的とする、上記(36)から(42)のいずれかに記載の方法。
(44) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.2を選択的に標的とする、上記(36)から(42)のいずれかに記載の方法。
(45) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.3を選択的に標的とする、上記(36)から(42)のいずれかに記載の方法。
(46) 細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば約-40mVであるとき、前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、前記細胞でT型カルシウムチャネルをアンタゴナイズする、上記(36)から(43)のいずれかに記載の方法。
(47) それを必要とする対象における肥満を処置する方法であって、前記対象にT型カルシウムチャネルアンタゴニストを投与することを含む方法。
(48) 前記処置が、前記対象の体重を減少させることを含む、上記(47)に記載の方法。
(49) 前記処置が、前記対象の体重増加の量または速度を減少させることを含む、上記(47)または(48)に記載の方法。
(50) 前記処置が、前記対象の体重を減少させることを含む、上記(47)から(49)のいずれかに記載の方法。
(51) 前記処置が、前記対象の空腹感を減少させるかまたは満腹感を増加させることを含む、上記(47)から(50)のいずれかに記載の方法。
(52) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、T型カルシウムチャネルを選択的に標的とするカルシウムチャネルアンタゴニストである、上記(47)から(51)のいずれかに記載の方法。
(53) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが小分子である、上記(47)から(52)のいずれかに記載の方法。
(54) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが抗体である、上記(47)から(52)のいずれかに記載の方法。
(55) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがsiRNAである、上記(47)から(52)のいずれかに記載の方法。
(56) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.1を選択的に標的とする、上記(47)から(55)のいずれかに記載の方法。
(57) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.2を選択的に標的とする、上記(47)から(55)のいずれかに記載の方法。
(58) 前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストがCaV3.3を選択的に標的とする、上記(47)から(55)のいずれかに記載の方法。
(59) 細胞の膜電位が約-60mVから約-30mVの範囲、例えば約-40mVであるとき、前記T型カルシウムチャネルアンタゴニストが、前記細胞でT型カルシウムチャネルをアンタゴナイズする、上記(47)から(58)のいずれかに記載の方法。
【外国語明細書】