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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172633
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/00 20060101AFI20221110BHJP
   G01N 15/02 20060101ALI20221110BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221110BHJP
   G01N 33/552 20060101ALI20221110BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20221110BHJP
   C12Q 1/6816 20180101ALN20221110BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20221110BHJP
【FI】
G01N15/00 A
G01N15/02 D
G01N33/53 M
G01N33/552
G01N33/553
C12Q1/6816 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078624
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮川 晃尚
(72)【発明者】
【氏名】中谷 清治
(72)【発明者】
【氏名】長友 重紀
(72)【発明者】
【氏名】押山 健悟
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR83
4B063QS34
4B063QS39
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】超音波放射力を利用して、測定対象物である粒子の密度などの特性を高感度でかつ精度よく測定することができる分析装置を提供する。
【解決手段】複数個の粒子が超音波放射力を受けることによって離脱可能に保持される試料保持面を有する基板と、前記粒子に超音波放射力を付与する超音波トランスデューサーと、前記超音波トランスデューサーに印加する電圧値を調整する電圧調整器と、前記粒子が超音波放射力を受けることによって前記基板の前記試料保持面から離脱したときの前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電圧値を出力する出力部と、を備える、分析装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の粒子が超音波放射力を受けることによって離脱可能に保持される試料保持面を有する基板と、
前記粒子に超音波放射力を付与する超音波トランスデューサーと、
前記超音波トランスデューサーに印加する電気信号の電圧値を調整する電圧調整器と、
前記粒子が超音波放射力を受けることによって前記基板の前記試料保持面から離脱したときの前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値を出力する出力部と、を備える、分析装置。
【請求項2】
さらに、前記基板の前記試料保持面に保持されている前記粒子の個数を計測する粒子個数計測部を備え、
前記出力部は、前記基板の前記試料保持面に保持させた粒子のうちの50%以上の粒子が超音波放射力を受けることによって前記基板の前記試料保持面から離脱したときの前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値を出力する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
さらに、前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値に基づいて、前記粒子の密度を算出する算出部を備える、請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
さらに、前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値と、前記粒子の質量とに基づいて、前記粒子の体積を算出する算出部を備える、請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項5】
さらに、前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値と、前記粒子の体積とに基づいて、前記粒子の質量を算出する算出部を備える、請求項1また2に記載の分析装置。
【請求項6】
前記粒子は、前記基板の前記試料保持面に保持されるマイクロ粒子と、前記マイクロ粒子に捕捉された複数個の生体物質と、前記生体物質に結合した修飾微粒子とを含み、
さらに、前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値に基づいて、前記生体物質もしくは前記修飾微粒子の量を算出する算出部を備える、請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項7】
前記マイクロ粒子がシリカ粒子であって、前記生体物質がDNAであり、前記修飾微粒子が金ナノ粒子である、請求項6に記載の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
媒質中の粒子に超音波を照射すると、超音波放射力(音響放射力ともいう)と呼ばれる圧力が粒子に付与される。この超音波放射力を利用して、DNAなどの生体物質の特性を評価することが検討されている。例えば、DNAを介して基板に固定した粒子に超音波放射力を付与することによって、DNAの力学測定を行う分析装置が検討されている(非特許文献1)。また、超音波放射力を受けることによって浮揚した粒子の位置から粒子の密度変化を測定する分析装置が検討されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】G.Sitters、外5名、「Acoustic force spectroscopy」、Nature Methods、2015年、vol.12、No.1、p.47-50
【非特許文献2】宮川晃尚、岡田哲男、「超音波による単一粒子浮揚を利用する微量反応計測」、分析化学、2019年、vol.68、No.8、p.549-558
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献2に記載されている分析装置では、生体物質を粒子に付着させて、粒子の密度を変化させることにより、粒子に付着した生体物質の量を測定することが可能となる。しかしながら、非特許文献2に記載されている分析装置では、超音波放射力を受けることによって浮揚した粒子の位置を正確に測定することが難しく、付着した生体物質の量を高感度で精度よく測定することが困難となる場合があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、超音波放射力を利用して、測定対象物である粒子の密度などの特性を高感度でかつ精度よく測定することができる分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
[1]複数個の粒子が超音波放射力を受けることによって離脱可能に保持される試料保持面を有する基板と、前記粒子に超音波放射力を付与する超音波トランスデューサーと、前記超音波トランスデューサーに印加する電気信号の電圧値を調整する電圧調整器と、前記粒子が超音波放射力を受けることによって前記基板の前記試料保持面から離脱したときの前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値を出力する出力部と、を備える、分析装置。
【0007】
[2]さらに、前記基板の前記試料保持面に保持されている前記粒子の個数を計測する粒子個数計測部を備え、前記出力部は、前記基板の前記試料保持面に保持させた粒子のうちの50%以上の粒子が超音波放射力を受けることによって前記基板の前記試料保持面から離脱したときの前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値を出力する、[1]に記載の分析装置。
【0008】
[3]さらに、前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値に基づいて、前記粒子の密度を算出する算出部を備える、[1]または[2]に記載の分析装置。
【0009】
[4]さらに、前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値と、前記粒子の質量とに基づいて、前記粒子の体積を算出する算出部を備える、[1]または[2]に記載の分析装置。
【0010】
[5]さらに、前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値と、前記粒子の体積とに基づいて、前記粒子の質量を算出する算出部を備える、[1]または[2]に記載の分析装置。
【0011】
[6]前記粒子は、前記基板の前記試料保持面に保持されるマイクロ粒子と、前記マイクロ粒子に捕捉された複数個の生体物質と、前記生体物質に結合した修飾微粒子とを含み、さらに、前記粒子に付与した超音波放射力もしくは前記超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値に基づいて、前記生体物質もしくは前記修飾微粒子の量を算出する算出部を備える、[1]または[2]に記載の分析装置。
【0012】
[7]前記マイクロ粒子がシリカ粒子であって、前記生体物質がDNAであり、前記修飾微粒子が金ナノ粒子である、[6]に記載の分析装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超音波放射力を利用して、測定対象物である粒子の密度などの特性を高感度でかつ精度よく測定することができる分析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る分析装置の模式図である。
図2図1に示す分析装置において基板から測定対象物の粒子が離脱する状態を示す概念図である。
図3】本発明の別の一実施形態に係る分析装置において基板から測定対象物の粒子が離脱する状態を示す概念図である。
図4】実施例1で作製した分析用基板No.1を用いて測定した超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値と粒子の浮揚率との関係を示すグラフである。
図5】実施例1で作製した分析用基板No.1を用いて撮影した超音波トランスデューサーに電気信号を印加したときの基板に保持されている粒子の顕微鏡写真であり、(a)は電圧値が17Vのとき、(b)は電圧値が22Vのとき、(c)は電圧値が34Vのときの顕微鏡写真である。
図6】実施例1で作製した分析用基板No.1~6を用いて測定した超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧と粒子の浮揚率との関係を示すグラフである。
図7】実施例1で作製した分析用基板No.1~6を用いた測定した1個のDNA修飾シリカマイクロ粒子当たりのDNA修飾金ナノ粒子の結合個数と、浮揚率が50%となったときの超音波トランスデューサーの電気信号の印加電圧との関係を示すグラフである。
図8】実施例1~3で作製した分析用基板を用いて測定した1個のDNA修飾シリカマイクロ粒子当たりのDNA修飾金ナノ粒子の結合個数と、浮揚率が50%となったときの超音波トランスデューサーの電気信号の印加電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る分析装置について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴を分かりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る分析装置の模式図である。
図1において、分析装置100は、基板10と、基板10を保持する基板ホルダー15と、超音波トランスデューサー20と、電圧調整器30と、電源40と、出力部50と、粒子個数計測部60と、算出部(不図示)とを備える。
【0017】
基板10は、分析対象である複数個の粒子が、超音波放射力を受けることによって離脱可能に保持される試料保持面11を有する。本実施形態の分析装置100において、試料保持面11は、基板10の下面とされている。基板10としては、例えば、ガラス基板を用いることができる。
【0018】
基板ホルダー15は、溝部16を有する。基板10は、試料保持面11が溝部16と対向するように基板ホルダー15に支持されている。溝部16には、媒質17が充填されている。媒質17は、超音波を伝播する液体であれば、特に制限はない。媒質17としては、例えば、水、アルコールを用いることができる。
【0019】
超音波トランスデューサー20は、電気信号を超音波に変換して、粒子に超音波放射力を付与する超音波放射力発信部として作用する。超音波トランスデューサー20としては、放射される超音波の周波数が、溝部16の媒質17内にて定在波が生成する周波数とされていることが好ましい。超音波の周波数は、500kHz以上2000kHzの範囲内にあることが好ましい。
【0020】
電圧調整器30は、電源40から供給された電気エネルギーを、超音波トランスデューサー20に付与する電気信号に変換し、電気信号の電圧値を調整する。電圧調整器30としては、超音波トランスデューサー20に付与する入力信号の波形と電圧を有する電気信号を生成する関数発生部と、電気信号の電圧を増幅する電力増幅部とを有する装置を用いることができる。電圧調整器30から超音波トランスデューサー20に付与する電気信号の電圧値もしくはその電気信号を付与することによって生じる超音波放射力は、出力部50に送られる。
【0021】
粒子個数計測部60は、基板10の試料保持面11に保持されている粒子の個数を計測する。粒子個数計測部60は、顕微鏡61と、顕微鏡61に接続する計測器62とを含む。顕微鏡61は、基板10の試料保持面11に保持されている粒子に焦点が合わされていて、試料保持面11に保持された粒子を検出できるようにされている。計測器62は、顕微鏡61で検出された粒子の個数を計測する。超音波放射力を付与する前の試料保持面11に保持された粒子の個数から、超音波放射力を付与する後の試料保持面11に保持された粒子の個数を減ずることによって、基板10の試料保持面11から離脱した粒子の個数を算出することができる。計測器62で計測された粒子の個数に関するデータは、出力部50に送られる。
【0022】
出力部50は、超音波トランスデューサー20から粒子に付与された超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値が入力される。また、計測器62で計測された基板10の試料保持面11に保持された粒子の個数、試料保持面11から離脱した粒子の個数などの粒子の個数に関するデータが入力される。出力部50は、例えば、基板10の試料保持面11に保持された粒子の個数あるいは試料保持面11から離脱した粒子の個数と、そのときの粒子に付与した超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電圧値を集計して出力する。粒子の個数などのデータを出力するタイミングは、例えば、離脱した粒子の割合が、個数基準で基板10の試料保持面11に保持させた粒子のうちの50%以上となったときとしてもよい。具体的には、出力部50は、基板10の試料保持面11に保持させた粒子のうちの50%の粒子が基板10の試料保持面11から離脱したときの超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値(V50)を出力してもよい。
【0023】
算出部は、出力部50から出力された粒子に付与した超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値に基づいて粒子の密度を算出する。次に、粒子の密度の算出方法について説明する。
【0024】
図2は、図1に示す分析装置において基板から測定対象物の粒子が離脱する状態を示す概念図である。
図2において、超音波トランスデューサー20にて生成した超音波は、基板ホルダー15を介して媒質17に伝播する。媒質17内において、超音波は節2を有する定在波1を形成する。
【0025】
粒子5がマイクロ粒子6からなる場合について密度の算出方法を説明する。マイクロ粒子6は、表面に第1有機物6aと、第2有機物6bとを有する。基板10の試料保持面11は、マイクロ粒子6の第1有機物6aに対して親和性を持つ有機物11aを有する。マイクロ粒子6は、第1有機物6aと試料保持面11の有機物11aとが結合することによって、基板10の試料保持面11に保持されている。
【0026】
マイクロ粒子6としては、例えば、無機物粒子、有機物粒子を用いることができる。無機物粒子の例としては、シリカ粒子を挙げることができる。有機物粒子の例としては、ポリスチレン粒子、ポリメチルメタクリレート粒子を挙げることができる。マイクロ粒子6は、平均粒子径が1μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましく、平均粒子径が5μm以上50μm以下の範囲内にあることがより好ましい。平均粒子径は、顕微鏡とマイクロスケーラーを用いて計測した粒子5の粒径の平均値である。マイクロ粒子6の第1有機物6a及び試料保持面11の有機物11aは、例えば、塩基数が3以上10以下の範囲内にあるDNAである。
【0027】
粒子5(マイクロ粒子6)に働く超音波放射力Facは、下記の式(1)で表される。
【0028】
【数1】
【0029】
式(1)において、Rは、粒子5の半径を表す。kは、超音波の波数(=2π/λ、λは、超音波の波長)を表す。Eacは、平均超音波エネルギーを表す。平均超音波エネルギーは、αV(αは、装置依存定数を表し、Vは、超音波トランスデューサー20に印加される電気信号の電圧値を表す)で定義される関数である。αで表される装置依存定数は、分析装置100で使用されている各種の機器及び機器のジオメトリなどによって変化する値である。zは、粒子5の定在波1の節2からの距離を表す。Aは、下記の式(2)で算出される数を表す。
【0030】
【数2】
【0031】
式(2)において、ρは、粒子5の密度を表し、γは、粒子5の圧縮率を表す。ρは、媒質17の密度を表し、γは、媒質17の圧縮率を表す。
【0032】
上記の式(1)と式(2)とから、超音波放射力は、粒子5の密度及び圧縮率と超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値の関数であることがわかる。また、粒子5の密度が大きくなるに伴って、粒子5を基板10の試料保持面11から離脱させるために要する超音波放射力は低くなることがわかる。
【0033】
粒子5がマイクロ粒子6のみである場合、粒子5に働く超音波放射力Facが、マイクロ粒子6の第1有機物6aと試料保持面11の有機物11aとの結合エネルギーよりも大きくなると、第1有機物6aと有機物11aとの結合が切れて、粒子5が基板10の試料保持面11から離脱する。すなわち、超音波トランスデューサー20に印加される電気信号の電圧値を徐々に大きくして、平均超音波エネルギーを増加させることによって、ある電圧値で粒子5が基板10の試料保持面11から離脱するようになる。よって、例えば、予め密度が既知の粒子を用いて、密度と、その粒子が基板10の試料保持面11から離脱したときの超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値との関係を示す検量線を作成しておくことによって、分析対象の粒子5の密度を求めることができる。
【0034】
次に、粒子5がマイクロ粒子6と、マイクロ粒子6に捕捉された複数個の生体物質7と、生体物質7に結合した修飾微粒子8を含む場合について密度の算出方法を説明する。マイクロ粒子6の第2有機物6bは、生体物質7に対して親和性を有する。生体物質7は、第2有機物6bを介してマイクロ粒子6の表面と結合している。生体物質7は、超音波放射力が付与されることによって、マイクロ粒子6から離脱しないように捕捉されている。すなわち、マイクロ粒子6の第2有機物6bと生体物質7の結合エネルギーが、マイクロ粒子6の第1有機物6aと試料保持面11の有機物11aとの結合エネルギーよりも大きくなるように、マイクロ粒子6の第1有機物6aと第2有機物6bを選定する。生体物質7の例としては、細菌、ウイルス、DNA、タンパク質を挙げることができる。修飾微粒子8としては、例えば、生体物質7に対して親和性を有する無機物粒子を用いることができる。無機物粒子の例としては、金ナノ粒子を挙げることができる。マイクロ粒子6は、平均粒子径が1μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましく、平均粒子径が5μm以上50μm以下の範囲内にあることがより好ましい。平均粒子径は、顕微鏡とマイクロスケーラーを用いて計測した粒子5の粒径の平均値である。
【0035】
粒子5がマイクロ粒子6と、マイクロ粒子6に捕捉された複数個の生体物質7と、生体物質7に結合した修飾微粒子8を含む場合、粒子5に働く超音波放射力Facが、マイクロ粒子6の第1有機物6aと試料保持面11の有機物11aとの結合エネルギーよりも大きくなると、第1有機物6aと有機物11aとの結合が切れて、粒子5が基板10の試料保持面11から離脱する。粒子5の密度は、マイクロ粒子6と、生体物質7と、修飾微粒子8を含む粒子全体の密度である。よって、例えば、予め修飾微粒子8の量が既知の粒子を用いて、密度と、その粒子が基板10の試料保持面11から離脱したときの超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値との関係を示す検量線を作成しておくことによって、分析対象の粒子5の修飾微粒子8の量を求めることが可能となり、さらに修飾微粒子8の量から生体物質7の量を算出することができる。また、マイクロ粒子6に捕捉された生体物質7を介して修飾微粒子8を含む粒子5は、マイクロ粒子6のみを含む粒子5と比較して、密度が大きくなる。このため、マイクロ粒子6に捕捉された生体物質7を介して修飾微粒子8を含む粒子5は、マイクロ粒子6のみを含む粒子5と比較して、超音波放射力Facが働きやすくなる。よって、マイクロ粒子6に捕捉された生体物質7を介して修飾微粒子8を含む粒子5は、マイクロ粒子6のみを含む粒子5と比較して、試料保持面11から離脱させるのに必要な超音波トランスデューサー20に印加する電気信号の電圧値が低くなる。
【0036】
生体物質7を含有する試験溶液中の生体物質7の含有量は、例えば、次のようにして測定することができる。
まず、生体物質7に対して親和性を有する第2有機物6bを有するマイクロ粒子6が試料保持面11に保持された基板10を用意する。また、試験溶液に生体物質7に対して親和性を有する修飾微粒子8を投入して、生体物質7に修飾微粒子8を結合させる。次に、基板10の試料保持面11に、所定量の試験溶液を接触させて、試験溶液中の生体物質7を第2有機物6bで捕捉する。次いで、基板10の試料保持面11を洗浄して、試験溶液を除去した後、基板10を、試料保持面11が下を向くように基板ホルダー15の上に配置する。基板ホルダー15の溝部16を媒質17で満たした後、電圧調整器30にて生成させた電気信号を超音波トランスデューサーに印加して、超音波放射力を発生させ、マイクロ粒子6に超音波放射力を付与する。超音波放射力の付与中、顕微鏡61を用いて基板10の試料保持面11に保持されている粒子5を観察し、その粒子5の個数を計測する。出力部50にて基板10の試料保持面11に保持されている粒子5の個数が所定値となったときの超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値を出力し、その値と予め作成した検量線とから修飾微粒子8の量を算出し、その修飾微粒子8に結合している生体物質7の量を算出する。
【0037】
以上のような構成とされた本実施形態の分析装置100は、出力部50にて、基板10の試料保持面11に保持された粒子5が超音波放射力を受けることによって基板10の試料保持面11から離脱したときの粒子5に付与した超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値を出力する。粒子5が基板10の試料保持面11から離脱したか否かは比較的に精度よく判断できるので、出力部50にて出力された値を利用することによって、測定対象物である粒子5の密度などの特性を高感度でかつ精度よく測定することができる。
【0038】
また、本実施形態の分析装置100は、さらに、基板10の試料保持面11に保持されている粒子5の個数を計測する粒子個数計測部60を備える。これにより、出力部50が、基板10の試料保持面11に保持させた粒子5のうちの50%以上の粒子が基板10の試料保持面11から離脱したときの粒子5に付与した超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値を出力することができる。そして、その出力された値を利用することによって、測定対象物である粒子5の密度などの特性をより高感度でかつ精度よく測定することができる。
【0039】
また、本実施形態の分析装置100によれば、粒子5がマイクロ粒子6と、生体物質7と、修飾微粒子8とを含む場合は、粒子5に付与した超音波放射力もしくは超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値に基づいて、生体物質7もしくは修飾微粒子8の量を高感度でかつ精度よく算出することができる。
【0040】
なお、図1に示した本実施形態の分析装置100では、基板10の試料保持面11が基板10の下面とされていて、粒子をぶら下げた形で保持するようにされている。また、超音波トランスデューサー20は、基板ホルダーを介して、粒子と対向する位置に配置されている。試料保持面11及び超音波トランスデューサー20の配置はこれに限定されるものではない。例えば、試料保持面11は基板10の上面とされていてもよい。また、超音波トランスデューサー20は基板10を介して粒子と対向する位置に配置されていてもよい。
【0041】
図3は、本発明の別の一実施形態に係る分析装置において基板から測定対象物の粒子が離脱する状態を示す概念図である。図3に示す分析装置では、超音波トランスデューサー20の上に基板10が配置され、試料保持面11が基板の上面とされている。すなわち、超音波トランスデューサー20は基板10を介して粒子5と対向する位置に配置されている。
【0042】
図3に示す分析装置101では、粒子5は超音波放射力を受けることによって基板10の試料保持面11から離脱して、上方にある超音波の定在波の節2に移動する。この構成の分析装置101においても、マイクロ粒子6に捕捉された生体物質7を介して修飾微粒子8を含む粒子5は、マイクロ粒子6のみを含む粒子5と比較して、超音波放射力Facが働きやすくなる。すなわち、マイクロ粒子6のみを含む粒子5を試料保持面11から離脱させるのに必要な超音波トランスデューサー20に印加する電気信号の電圧値Vと比較して、マイクロ粒子6に捕捉された生体物質7を介して修飾微粒子8を含む粒子5を試料保持面11から離脱させるのに必要な超音波トランスデューサー20に印加する電気信号の電圧値Vは低くなる(V<V)。
【0043】
また、本実施形態の分析装置100及び101は、粒子5に付与した超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値から粒子の体積を測定するように構成されていてもよい。この場合は、予め粒子5の質量を求めておき、粒子5の密度と質量とから粒子5の体積を算出するようにしてもよい。
【0044】
また、本実施形態の分析装置100及び101は、粒子5に付与した超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値から粒子5の質量を測定するように構成されていてもよい。この場合は、予め粒子5の体積を求めておき、粒子5の密度と体積とから粒子5の質量を算出するようにしてもよい。
【0045】
さらに、本実施形態の分析装置100及び101は、粒子5の密度と、粒子5に付与した超音波放射力もしくは超音波トランスデューサー20に印加した電気信号の電圧値から媒質の密度を測定するように構成されていてもよい。
【実施例0046】
[実施例1]
(1)DNA修飾ガラス基板の作製
ガラス基板へのDNA修飾は、ガラス基板をエポキシ基含有シランで修飾し、次いで、エポキシ基の開環反応を利用して、エポキシ基含有シランとアミノ基修飾DNA(5塩基)のアミノ基とを結合させることによって行った。
まず、ガラス基板をシランカップリング剤(3-グリシジルプロピルトリエトキシシラン)で1時間の表面処理することによって、ガラス基板をエポキシ基含有シランで修飾した。エポキシ基はpHが9付近でアミノ基と反応するため、エポキシ基含有シランで修飾したガラス基板の表面に、ホウ酸緩衝液30mL(pH9.18)とアミノ基修飾DNA(5塩基)とを加えて、4時間反応させ、DNA(5塩基)修飾ガラス基板を作製した。
【0047】
(2)DNA修飾シリカマイクロ粒子の作製
DNA修飾シリカ粒子へのDNA修飾は、EDC/NHS反応によって行った。
まず、2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)バッファー(10mM、pH=5.5)に、1-エチル-3-(-3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)とを投入し、混合した。こうして、EDC濃度が30mg/mLで、NHS濃度が36mg/mLのEDC/NHS溶液を調製した。次いで、このEDC/NHS溶液100μLとカルボキシル基修飾シリカマイクロ粒子20μL(1.06×10個、シリカマイクロ粒子の平均粒子径:11.5μm)とを混合して、カルボキシル基修飾シリカマイクロ粒子表面上のカルボキシル基を活性化させ、アミノ基修飾DNA(20塩基)を結合できるようにした。活性化させたカルボキシル基修飾シリカマイクロ粒子を水で1回洗浄し、未反応のEDC/NHS溶液を取り除いてカルボキシル基修飾シリカマイクロ粒子の水性分散液を得た。次いで、カルボキシル基修飾シリカマイクロ粒子の水性分散液にアミノ基修飾DNA(20塩基)2nmolとアミノ基修飾DNA(5塩基)2nmolとを投入して、4時間反応させて、DNA(20塩基、5塩基)修飾シリカマイクロ粒子を作製した。
【0048】
(3)DNA修飾金ナノ粒子の作製
DNA修飾金ナノへのDNA修飾は、上記(2)のDNA修飾シリカマイクロ粒子の作製と同様にEDC/NHS反応によって行った。
上記(2)のDNA修飾シリカマイクロ粒子の作製と同様にEDC/NHS溶液を調製した。次いで、このEDC/NHS溶液100μLとカルボキシル基修飾金ナノ粒子35μL(6.72×10個)とを混合して、カルボキシル基修飾金ナノ粒子表面上のカルボキシル基を活性化させた。活性化させたカルボキシル基修飾金ナノ粒子を水で1回洗浄し、未反応のEDC/NHS溶液を取り除いて、カルボキシル基修飾金ナノ粒子の水性分散液を得た。次いで、カルボキシル基修飾金ナノ粒子の水性分散液にアミノ基修飾DNA(20塩基)2nmolを投入し、4時間反応させて、DNA(20塩基)修飾金ナノ粒子分散液を作製した。
【0049】
(4)DNA修飾シリカマイクロ粒子付きガラス基板(分析用基板)の作製
DNA修飾ガラス基板の表面に、DNA修飾シリカマイクロ粒子分散液10μL(1.06×10個)を滴下した。その後、4時間静置して、DNA修飾シリカマイクロ粒子を自然沈降させた。こうして、DNA修飾シリカマイクロ粒子のDNA(5塩基)とDNA修飾ガラス基板のDNA(5塩基)とを相互作用させることによって、ガラス基板にDNA修飾シリカマイクロ粒子を保持させた。得られたガラス基板を分析用基板No.1とした。
【0050】
分析用基板No.1に、上記(4)で作製したDNA修飾シリカマイクロ粒子付きガラス基板のDNA修飾シリカマイクロ粒子にDNA修飾金ナノ粒子を結合させて、分析用基板No.2~6を作製した。分析用基板No.2~6は、分析用基板No.1に、DNA修飾金ナノ粒子懸濁液を滴下し、その後、4時間反応させることによって作製した。1個のDNA修飾シリカマイクロ粒子に対して結合させたDNA修飾金ナノ粒子の個数が1000個のものを分析用基板No.2とした。2500個のものを分析用基板No.3とした。5000個のものを分析用基板No.4とした。7500個のものを分析用基板No.5とした。10000個のものを分析用基板No.6とした。
【0051】
(5)DNA修飾シリカマイクロ粒子の離脱試験
DNA修飾シリカマイクロ粒子の離脱試験は、図1に示す分析装置を用いて実施した。
分析用基板を、DNA修飾シリカマイクロ粒子を保持させた面(試料保持面)が下を向くように基板ホルダーの上に配置した。基板ホルダーの溝部をホウ酸緩衝液で満たした後、分析装置の電圧調整器にて生成させた1MHzのsin波電圧を超音波トランスデューサーに印加して、超音波放射力を発生させ、DNA修飾シリカマイクロ粒子に超音波放射力を付与した。超音波放射力の付与中、顕微鏡を用いてガラス基板に保持されているDNA修飾シリカマイクロ粒子を観察し、ガラス基板に保持されているDNA修飾シリカマイクロ粒子の個数を計測した。超音波トランスデューサーに印加するSin波電圧の電圧値は、電圧調整器を用いて1分間の間隔で1Vずつ上昇させた。
【0052】
分析用基板No.1の試験結果を、図4図5に示す。図4は、超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値と、ガラス基板から離脱したDNA修飾シリカマイクロ粒子との関係を示すグラフである。図5は、ガラス基板の顕微鏡写真であり、(a)は電圧値が17Vのとき、(b)は電圧値が22Vのとき、(c)は電圧値が34Vのときの顕微鏡写真である。
【0053】
図4のグラフの縦軸の浮揚率は、下記の式(3)より算出した値である。
浮揚率(%)=(1-Kv/K0)×100・・・(3)
式(3)において、Kvは、超音波トランスデューサーに電圧を印加したときのガラス基板に保持されているDNA修飾シリカマイクロ粒子の個数を表す。K0は、超音波トランスデューサーに電圧を印加する前のガラス基板に保持されているDNA修飾シリカマイクロ粒子の個数を表す。浮揚率は、ガラス基板から離脱したDNA修飾シリカマイクロ粒子の割合を表す。すなわち、浮揚率が大きいことは、ガラス基板から離脱したDNA修飾シリカマイクロ粒子の割合が大きいことを意味する。
【0054】
図4のグラフ及び図5の顕微鏡写真から、超音波トランスデューサーへの印加電圧値の上昇に伴って、浮揚率が大きくなること、すなわち、ガラス基板から離脱したDNA修飾シリカマイクロ粒子の割合が増加することがわかる。これは、超音波トランスデューサーへの印加電圧値を大きくすることによって、超音波放射力Facが増大し、ある閾値(ガラス基板とDNA修飾シリカマイクロ粒子の結合エネルギー)を超えるとDNA修飾シリカマイクロ粒子が超音波の定在波の節に向かって浮揚するためである。結合エネルギーは分布を持つため、超音波トランスデューサーへの印加電圧に対する粒子の浮揚率の関係はガウス関数で表される。
【0055】
図6は、分析用基板No.1~6の超音波トランスデューサーの印加電圧値と、ガラス基板から離脱したDNA修飾シリカマイクロ粒子との関係を示すグラフである。
図6のグラフから、DNA修飾金ナノ粒子の結合個数が多くなるに伴って、浮揚率が超音波トランスデューサーへの印加電圧が低電圧で大きくなることがわかる。これは、DNA修飾金ナノ粒子の結合個数が多くなるに伴って、ガラス基板に保持される粒子全体(DNA修飾シリカマイクロ粒子+DNA修飾金ナノ粒子)の密度が大きくなり、粒子全体に働く超音波放射力が大きくなったことによると考えられる。
【0056】
図6のグラフから浮揚率が50%となったときの超音波トランスデューサーの電気信号の印加電圧を読み取った。そして、横軸を1個のDNA修飾シリカマイクロ粒子当たりのDNA修飾金ナノ粒子の結合個数(nAuNP)とし、縦軸を浮揚率が50%となったときの超音波トランスデューサーの電気信号の印加電圧(V50)としたグラフを作成した。そのグラフを図7に示す。
【0057】
図7のグラフから、nAuNPとV50とは、相関係数rが0.988と高い値を示すことがわかる。また、DNA修飾金ナノ粒子の検出限界を分析用基板No.1のV50の標準偏差の3倍とすると、その個数は約1700個であった。この結果から、本発明の分析装置によれば、粒子の密度などの特性をより高感度でかつ精度よく測定することができることが確認された。
【0058】
下記の表1に、分析用基板No.1~6の1個のDNA修飾シリカマイクロ粒子当たりのDNA修飾金ナノ粒子の結合個数(nAuNP)、粒子の密度(ρ*)、上記の式(2)で算出されるA値、浮揚率が50%となったときの超音波トランスデューサーの電気信号の印加電圧(V50)、超音波放射力(Fac)を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例2]
(1)DNA修飾ガラス基板の作製及び(2)DNA修飾シリカマイクロ粒子の作製において、アミノ基修飾DNA(5塩基)の代わりに、アミノ基修飾DNA(4塩基)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして分析用基板を作製した。この分析用基板は、DNA修飾シリカマイクロ粒子が4塩基のDNAを介してガラス基板に保持されている。
【0061】
[実施例3]
(1)DNA修飾ガラス基板の作製及び(2)DNA修飾シリカマイクロ粒子の作製において、アミノ基修飾DNA(5塩基)の代わりに、アミノ基修飾DNA(6塩基)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして分析用基板を作製した。この分析用基板は、DNA修飾シリカマイクロ粒子が4塩基のDNAを介してガラス基板に保持されている。
【0062】
[評価]
実施例2及び実施例3で作製した分析用ガラス基板について、DNA修飾シリカマイクロ粒子の離脱試験を実施例1と同様にして行った。分析用基板としては、1個のDNA修飾シリカマイクロ粒子当たりのDNA修飾金ナノ粒子の結合個数が10000個の基板とDNA修飾金ナノ粒子を結合させなかった基板を用いた。浮揚率が50%となったときの超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値(V50)を、実施例1で作製した分析用ガラス基板の結果と共に、図8に示す。
【0063】
図8の結果から、ガラス基板とDNA修飾シリカマイクロ粒子とを結合するDNAの塩基数が増加するに伴ってV50が大きくなることがわかる。これは、DNAの塩基数が増加するに伴って、ガラス基板とDNA修飾シリカマイクロ粒子との間の結合エネルギーが大きくなり、DNA修飾シリカマイクロ粒子をガラス基板から離脱させるために要するエネルギーが大きくなるためである。一方、1個のDNA修飾シリカマイクロ粒子当たりのDNA修飾金ナノ粒子の結合個数が10000個の基板のV50と、DNA修飾金ナノ粒子を結合させなかった基板のV50を結んだ線の傾きは、ガラス基板とDNA修飾シリカマイクロ粒子とを結合するDNAの塩基数に関わらずほぼ同じであることがわかる。すなわち、粒子の密度の増加量に対する超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値の変化量は、ガラス基板とDNA修飾シリカマイクロ粒子との間の結合エネルギーの影響を受けないことがわかる。これは、超音波放射力が、粒子の密度と超音波トランスデューサーに印加した電気信号の電圧値の関数であるためである。
【符号の説明】
【0064】
1 定在波
2 節
5 粒子
6 マイクロ粒子
6a 第1有機物
6b 第2有機物
7 生体物質
8 修飾微粒子
10 基板
11 試料保持面
11a 有機物
15 基板ホルダー
16 溝部
17 媒質
20 超音波トランスデューサー
30 電圧調整器
40 電源
50 出力部
60 粒子個数計測部
61 顕微鏡
62 計測器
100、101 分析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8