(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172665
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシート
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20221110BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20221110BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20221110BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20221110BHJP
C08F 292/00 20060101ALI20221110BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221110BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20221110BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20221110BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221110BHJP
【FI】
C01G33/00 A
C09C3/08
C08F8/00
C08F2/44 A
C08F292/00
C08K3/013
C08L101/14
B82Y30/00
B82Y40/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078716
(22)【出願日】2021-05-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・第69回高分子学会年次大会ホームページ(https://main.spsj.or.jp/nenkai/69nenkai/jp/nenkai_home.html)のコピー(2020年8月27日検索) ・第69回高分子学会年次大会WEB予稿集(発行日:2020年5月12日、発行:公益社団法人高分子学会、3Pb070、タイトル:「分解性ゲルを利用したシリル化ナノシートの合成」) ・令和2年度 物理化学インターカレッジセミナー兼日本油化学会界面科学部会九州地区講演会 講演要旨集の表紙、及び掲載ページのコピー(発行日:2021年2月5日、発行:物理化学インターカレッジ、09、タイトル:「分解性ゲルを利用したシリル化ナノシートの合成」) ・令和2年度 物理化学インターカレッジセミナー兼日本油化学会界面科学部会九州地区講演会のプログラムのコピー
(71)【出願人】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151688
【弁理士】
【氏名又は名称】今 智司
(72)【発明者】
【氏名】宮元 展義
(72)【発明者】
【氏名】田中 一輝
【テーマコード(参考)】
4G048
4J002
4J011
4J026
4J037
4J100
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB04
4G048AC08
4G048AD01
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE08
4J002AA031
4J002BC131
4J002DE236
4J002DJ036
4J002FD016
4J002GD00
4J002GE00
4J002GN00
4J002GQ00
4J011AA05
4J011BA04
4J011PA07
4J011PA13
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC08
4J026AC00
4J026BA32
4J026DB08
4J026DB30
4J026DB36
4J026FA09
4J037AA08
4J037CB23
4J037EE02
4J037FF30
4J100AJ02P
4J100AM19P
4J100AQ01Q
4J100BA77H
4J100CA01
4J100CA23
4J100CA31
4J100EA03
4J100HA53
4J100HC59
4J100HC77
4J100HC78
4J100JA15
4J100JA24
(57)【要約】
【課題】実質的に完全剥離した無機ナノシートのそれぞれを修飾できる修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートを提供する。
【解決手段】修飾無機ナノシートの製造方法は、無機ナノシートと水とを含む無機ナノシート分散液中で重合開始剤を用いてモノマーを重合させ、モノマーによる分解性ゲルを生成する分解性ゲル生成工程と、分解性ゲルに修飾剤を加え、修飾剤で無機ナノシートを修飾する修飾工程と、分解性ゲルを除去するゲル除去工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ナノシートと水とを含む無機ナノシート分散液中で重合開始剤を用いてモノマーを重合させ、前記モノマーによる分解性ゲルを生成する分解性ゲル生成工程と、
前記分解性ゲルに修飾剤を加え、前記修飾剤で前記無機ナノシートを修飾する修飾工程と、
前記分解性ゲルを除去するゲル除去工程と
を備える修飾無機ナノシートの製造方法。
【請求項2】
前記無機ナノシート分散液が、実質的に完全剥離している前記無機ナノシートを含んでなる請求項1に記載の修飾無機ナノシートの製造方法。
【請求項3】
前記無機ナノシートが、表面若しくは辺縁部に修飾可能な水酸基を有する請求項1又は2に記載の修飾無機ナノシートの製造方法。
【請求項4】
前記分解性ゲル生成工程後、所定の溶媒を添加することで溶媒置換する溶媒置換工程
を更に備える請求項1~3のいずれか1項に記載の修飾無機ナノシートの製造方法。
【請求項5】
前記ゲル除去工程が、水中に前記分解性ゲルを添加して前記分解性ゲルを分解し、前記分解性ゲルを除去する請求項1~4のいずれか1項に記載の修飾無機ナノシートの製造方法。
【請求項6】
前記モノマーが、酸アミド類であり、
前記分解性ゲル生成工程が、架橋剤
を更に含む請求項1~5のいずれか1項に記載の修飾無機ナノシートの製造方法。
【請求項7】
実質的に完全剥離状態の無機ナノシートを含有し、前記無機ナノシートの前記完全剥離状態を固定する分解性ゲルからなる構造体。
【請求項8】
前記無機ナノシートが、修飾剤により修飾されている請求項7に記載の構造体。
【請求項9】
実質的に完全剥離している無機ナノシートであって、前記無機ナノシートの表面が修飾剤により修飾されている修飾無機ナノシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートに関する。特に、本発明は、分解性ゲルを用いた修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートに関する。
【背景技術】
【0002】
無機ナノシートは多彩な機能を有し、また極めて大きな比表面積を有することから吸着・分離・触媒・センサー等へ広く応用されている。また、高分子と複合化することで、当該複合材料の耐熱性、機械的強度、ガスバリア性等を著しく向上させる観点から様々な研究が進められている。更に、コロイド分散系が液晶性を示すことから、光学素子等に利用可能なスマートコロイド材料としての応用も検討されている。高分子との複合体を合成する場合、無機ナノシートが親水性である一方で多くの工業的に用いられる有機高分子は疎水性であることから、両者を混合するだけでは複合材料は形成されない。そこで、親水性の無機ナノシートと疎水性の有機高分子との複合化を実現するためには、無機ナノシートを凝集させずに有機溶媒に分散させることが要求される。そのため、有機化合物等を用いて無機ナノシート表面を表面修飾することで、有機溶媒との親和性を高める必要がある。また、吸着・分離材等として応用するためには、無機ナノシートの凝集による比表面積の減少を抑制し、ターゲット分子等の吸着特性を調節する等の目的で、用途に合わせて表面修飾する必要がある。スマートなコロイド材料として応用するためには、用途に合わせて、望まれる溶媒中で分散し、機能化される必要がある。例えば、シリル化した無機ナノシートをクロロホルムに分散させることにより、クロロホルム中で無機ナノシートの液晶相が発現することが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Nakato,T.;Hashimoto,S.,Chem.Lett.2007,36,1240-1241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1に記載の技術や従来の無機ナノシートの修飾方法においては、無機層状化合物に有機アンモニウム塩等をインターカレートさせて層間を拡げた後、この層間に修飾剤を導入して修飾し、無機ナノシートを剥離させている。そのため、使用できる修飾剤の種類が層間に導入できる化合物に制限されることや無機ナノシート表面に修飾剤を均一に修飾できないこと、及び修飾剤の修飾率が低いこと等の問題が指摘されている。また、修飾後の層状物質を単層剥離することは困難であり、数層~数十層の積層体は得られるものの、単層剥離状態の修飾無機ナノシートの回収は不可能であるか、回収率が極めて低い問題が指摘されている。
【0005】
したがって、本発明の目的は、実質的に完全剥離した無機ナノシートのそれぞれを修飾できる修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、無機ナノシートと水とを含む無機ナノシート分散液中で重合開始剤を用いてモノマーを重合させ、モノマーによる分解性ゲルを生成する分解性ゲル生成工程と、分解性ゲルに修飾剤を加え、修飾剤で無機ナノシートを修飾する修飾工程と、分解性ゲルを除去するゲル除去工程とを備える修飾無機ナノシートの製造方法が提供される。
【0007】
また、上記修飾無機ナノシートの製造方法において、無機ナノシート分散液が、実質的に完全剥離している無機ナノシートを含んでなることが好ましい。そして、無機ナノシートが、表面若しくは辺縁部に修飾可能な水酸基を有することが好ましい。
【0008】
また、本発明は上記目的を達成するため、実質的に完全剥離状態の無機ナノシートを含有し、無機ナノシートの完全剥離状態を維持する分解性ゲルからなる構造体が提供される。更に、本発明は上記目的を達成するため、実質的に完全剥離している無機ナノシートであって、無機ナノシートの表面が修飾剤により修飾されている修飾無機ナノシートが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートによれば、実質的に完全剥離した無機ナノシートのそれぞれを修飾できる修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】溶媒置換後の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルの観察図である。
【
図2】比較サンプル及び実施例に係るサンプルのクロスニコル観察図である。
【
図3】溶媒置換後の無機ナノシート/pAA分解性ゲルの観察図である。
【
図4】比較サンプル及び実施例に係るサンプルのクロスニコル観察図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
<修飾無機ナノシート、及びその製造方法の概要>
本発明者は、無機層状物質の化学に軸足を置きつつ、高分子合成、ソフトマター物理等の幅広い分野とリンクしながら基礎応用両面から検討を進めていく過程で本発明に想到した。すなわち、本発明者は、無機ナノシートと高分子材料との複合材料を構成するためには、無機ナノシートの完全剥離状態を一度構成して当該完全剥離状態を何らかの方法で固定化した後、ここに修飾剤を作用させることができれば、完全剥離状態の無機ナノシートの一枚一枚それぞれの表面を修飾剤により修飾し得ることを発想した。また、本発明者は、水中において無機ナノシートを実質的に完全剥離状態にし得ること、所定のゲルを形成することで当該状態を当該ゲル中に固定できること、無機ナノシートより粒径の小さな微粒子や分子が当該ゲル内を拡散しやすいこと等の知見を得、本発明に想到した。
【0012】
具体的に、本発明の実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法は、無機ナノシートを例えば水中で完全剥離させ、この完全剥離状態の無機ナノシートを所定のゲル(つまり、高分子ネットワーク)により固定化し、固定化された無機ナノシートをゲル中で修飾(例えば、シリル化)する製造方法である。無機ナノシートの横方向のサイズ(数百nmから数十μm)は高分子ネットワークの網目サイズ(数nmから数十nm)に比べて大きいため、一旦固定化されれば、凝集を抑制でき完全剥離状態を保持することができる。修飾後、ゲルは分解等により除去できる。本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法によれば、実質的に完全剥離した無機ナノシートのそれぞれが修飾された修飾無機ナノシートを合成できる。
【0013】
このように、無機ナノシートが完全剥離した状態をゲルにより固定し、そこに修飾剤を加えて無機ナノシートを修飾するので、無機ナノシートの表面若しくは辺縁部に水酸基が存在している限り、用いる無機ナノシートの種類に限定はない。また、無機ナノシートの水酸基と反応する限り、ゲル中に加える修飾剤の種類にも限定がない。したがって、無機ナノシートの1枚1枚に修飾剤を修飾させることができるだけでなく、様々な無機ナノシートに様々な修飾剤を修飾させることができるので、複合材料の精密デザインができるようになる。
【0014】
以下、本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートについて詳細に説明する。
【0015】
<修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートの詳細>
本実施形態に係る修飾無機ナノシートは、概略、以下の工程を経て得られる。すなわち、まず、無機ナノシートと、水若しくは無機ナノシートの完全剥離状態を維持できる溶媒(ジメチルホルムアミド等/水混合溶媒)と、剥離剤(テトラブチルアンモニウム等。不要の場合もある。)とを含む無機ナノシート分散液を調製する(無機ナノシート分散液調製工程)。続いて、この分散液にモノマー、架橋剤、及び/又は重合開始剤を導入して重合反応させる。これにより所定のゲルが形成され、無機ナノシートがゲル中に固定される(分解性ゲル生成工程)。更に、得られたゲルに所定の溶媒を添加して溶媒置換する(溶媒置換工程)。そして、溶媒置換後のゲルを所定の溶媒に入れ、ここに修飾剤を添加することでゲル中の無機ナノシートを修飾剤で修飾する(修飾工程)。その後、ゲルを除去し、修飾された無機ナノシートを回収する(ゲル除去工程)。
【0016】
すなわち、本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法においては、無機ナノシート分散液中で無機ナノシートは実質的に完全剥離している。この状態の無機ナノシート分散液にモノマー、架橋剤、及び/又は重合開始剤を添加してモノマーの重合を進行させることでゲルが生成する。これにより、無機ナノシートの剥離状態が生成したゲルにより固定される。このゲルに修飾剤を添加すると、完全剥離した無機ナノシートのそれぞれが修飾剤により修飾される。その後、ゲルを分解除去することで、完全剥離(つまり、単層剥離)した無機ナノシートのそれぞれが修飾剤により修飾された修飾無機ナノシートが得られる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0017】
[無機ナノシート分散液調製工程]
無機ナノシート分散液調製工程は、無機ナノシートを溶媒に添加し、実質的に完全剥離した無機ナノシートを含む無機ナノシート分散液を調製する工程である。
【0018】
(無機ナノシート)
本実施の形態に係る無機ナノシートは、積層構造若しくは層状構造を構成する無機材料を構成する薄板形状の無機結晶である。無機ナノシートは、無機層状化合物を剥離させて得られる無機ナノシート、若しくは所定の化合物を用いて合成される無機ナノシートのいずれも用いることができる。
【0019】
例えば、無機層状化合物の剥離により無機ナノシートを得る場合、まず、無機層状化合物を所定の溶媒や所定の塩(例えば、アンモニウム塩)を含む水溶液に添加する。すると、無機層状化合物の層間に溶媒が侵入し、溶媒中で無機層状化合物の層間が膨潤する。これにより、無機層状化合物から無機ナノシートが剥離する。剥離した無機ナノシートは、溶媒中で分散コロイドを形成する。この無機ナノシートの分散コロイドを後述する無機ナノシート分散液の出発原料にすることができる。
【0020】
また、無機ナノシートを合成により得る場合、無機層状化合物の出発原料である所定の塩(例えば、炭酸塩)と金属酸化物とを混合して焼成する方法や、所定の溶媒中に原料(例えば、アンモニウム塩及び金属アルコキシド)を混合して得られる混合溶液を撹拌若しくは還流する方法等、様々な合成法を採用できる。なお、無機ナノシートの粒径の制御がしやすい等の観点からは、合成される無機ナノシートを用いることが好ましい。
【0021】
無機ナノシートの組成及び形状は、無機材料の種類に応じて決定される。すなわち、無機ナノシートの組成は出発物質である無機材料(無機ナノシートを合成する場合は、合成に用いる材料)の組成を反映しており、無機ナノシートの形状は出発物質である無機材料の結晶学的構造(無機ナノシートを合成する場合は、合成により得られる無機化合物の結晶学的構造)を反映している。したがって、無機ナノシートは、例えば、数nmの厚さ(例えば、フルオロヘクトライト等の粘土鉱物においては約1nm)及び数十nm以上数百μm以下程度の横幅を有する。これにより無機ナノシートは、異方性が極めて大きな形状(すなわち、非常に高いアスペクト比を有する形状)を有することになる。本実施形態に係る無機ナノシートの横幅(粒径)は、数十nm以上数百μm以下程度の範囲であり、当該範囲内の様々な無機ナノシートを用いることができる。ここで、本実施形態に係る無機ナノシートの「粒径」は以下のように定義する。
【0022】
無機ナノシートの「粒径」は、実質的には無機ナノシートの横幅である。無機ナノシートの平面視における最大幅を横幅とした場合、この横幅の平均値(例えば、算術平均値)を本実施形態における「粒径」とする。無機ナノシートの「粒径」は、例えば、動的光散乱法や透過型電子顕微鏡等の測定手段を用いて計測及び算出できる。なお、無機ナノシートの厚さは、無機ナノシートの出発原料である無機材料の結晶構造に応じて決定される。
【0023】
無機ナノシートの出発材料としての無機材料は無機層状化合物である。無機層状化合物としては、表面又は辺縁部に修飾可能な水酸基(OH基)を有する無機ナノシートが得られる無機層状化合物を用いる。具体的に、(1)表面に修飾可能な水酸基を有する無機層状化合物としては、層状ケイ酸塩(カネマイト、オクトシリケート、マガディアイト等)、層状遷移金属酸素酸塩(K4Nb6O17、Na2Ti3O7、KCaNb3O10等)、及び層状リン酸塩(α-Zr(HPO4)2、K3Sb3P2O14等)等が挙げられ、(2)辺縁部に修飾可能な水酸基を有する無機層状化合物としては、スメクタイト型粘土鉱物(モンモリロナイト、バーミキュライト、サポナイト、ヘクトライト等)、及び層状複水酸化物(ハイドロタルサイト等)等が挙げられる。
【0024】
(溶媒)
無機ナノシート分散液において、無機ナノシートの分散媒である溶媒は、例えば、純水を用いることができる。
【0025】
(無機ナノシート分散液)
無機ナノシート分散液は、無機ナノシートが実質的に完全剥離して溶媒中に存在している(つまり、単体として存在している)分散液である。例えば、無機層状化合物の剥離処理により得られた無機ナノシート、若しくは合成により得られた所定量の無機ナノシートを溶媒(例えば、純水)に添加することで、無機ナノシート分散液を容易に調製できる。
【0026】
無機ナノシート分散液における無機ナノシートの濃度に特に限定はない。無機ナノシート濃度が数十wt%以上である場合においては無機ナノシート分散液の流動性が低下し、撹拌等の処理がし難くなるものの、無機ナノシートが実質的に完全剥離した状態は保たれる。
【0027】
ここで、無機ナノシート分散液において無機ナノシートが完全剥離した状態であるか否かの評価方法は以下に挙げる5つの方法のうち、1つ以上を用いて評価できる。
【0028】
((a)原子間力顕微鏡による観察)
所定濃度に希釈した無機ナノシート分散液をマイカ等の平滑基板上にキャストして乾燥し、観察する。これにより、実質的に同一の厚さの複数の無機ナノシートが観察され、その厚さが、結晶学的に予想される値と同一であれば完全剥離した状態であると評価できる。
【0029】
((b)小角X線散乱による散乱ベクトルqに対する散乱強度Iの測定)
希薄した無機ナノシート分散液の測定で、無機ナノシートのフォームファクター(結晶学的に予想される厚さL(nm)を有する平板状粒子)に一致する散乱曲線が小角X線散乱測定で得られれば、完全剥離の可能性が高いと判断できる。具体的には、q=2π/Lの位置に他にピークが観察され、q<2π/Lの範囲でI=q-2のベキ則があれば完全剥離の可能性が高いと判断できる。一方、2π/Lの範囲のベキ則がq-4に近づいた場合、凝集体や未剥離粒子が混入している可能性が高いと判断できる。
【0030】
((c)透過型電子顕微鏡観察)
透過型電子顕微鏡観察において、コントラストが低く、一様の無機ナノシートが観察される場合、完全剥離の状態である可能性が高いと判断できる。ただし、透過型電子顕微鏡観察では厚さの評価ができないので、同一の厚さの無機ナノシート積層体である可能性もある。
【0031】
((d)光学顕微鏡観察)
光学顕微鏡観察において、粗大な粒子が見えない場合、完全剥離の可能性が高いと判断できる。
【0032】
((e)無機ナノシート分散液試料(コロイド試料)での巨視的なクロスニコル観察)
1wt%程度の無機ナノシート分散液試料(コロイド試料)での巨視的なクロスニコル観察(つまり、偏光板2枚を直交させ、偏光板の間にサンプルを挟んで観察)又は偏光顕微鏡観察において、試料の複屈折に起因する干渉色が観察され、液晶性が認められる場合、完全剥離である可能性が高いと判断できる。直径Dnm、厚さLnmのナノシートの場合、オンサーガーの理論では、体積分率濃度φ=4.2L/D以上で液晶相が発現するとされる。例えば、D=1000nm、L=1nm、密度2.5g/cm3の無機ナノシートの場合、0.0042(=0.42vol%~1wt%)が、液晶相転移濃度となる。無機ナノシートが完全剥離しておらず、例えば平均n層の積層体である場合、相転移濃度はn倍(約n wt%)になるので、1wt%程度では液晶相は発現しない。
【0033】
なお、本明細書において「実質的に完全剥離」した状態とは、無機層状化合物を構成する無機ナノシートの全てが文字通り100%剥離したことを指す意味ではなく、一部に剥離していない無機ナノシートが存在している場合であっても、上記(e)の評価により溶液やコロイド若しくはゲル状態において複屈折を示すこと、及び/又は上記(a)乃至(d)の評価により完全剥離の可能性が高いと判断されることにより、その内容や本質において完全剥離している状態であると認められることをいう。
【0034】
[分解性ゲル生成工程]
分解性ゲル生成工程は、無機ナノシート分散液に、モノマー、架橋剤、及び/又は重合開始剤を添加してゲル化させることで、無機ナノシートの完全剥離状態を高分子ネットワークにより固定した分解性ゲル(分解性ゲルからなる構造体)を生成する。例えば、分解性ゲル生成工程は、無機ナノシート分散液に、モノマー、架橋剤、光ラジカル重合開始剤を添加し、光照射してゲル化させることで分解性ゲルを生成する。
【0035】
なお、「分解性ゲル」は、所定の処理を施すことにより分解し得るゲルであれば特に限定されず、エネルギー(例えば、光や熱)で分解し得るゲル、分解剤の添加により分解し得るゲル等を挙げることができる。
【0036】
(モノマー)
モノマーとしては、アミド基を有するモノマー、例えば、酸アミド類等が挙げられる。例えば、(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリルは、メタクリル又はアクリルを示す。
【0037】
((メタ)アクリルアミド誘導体)
(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、又はメタクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0038】
(架橋剤)
架橋剤としては、2個以上の架橋性官能基、及び/又は1個以上の極性基を分子内に有する化合物であれば各種の化合物を用いることができる。
【0039】
架橋剤としては、例えば、ジアリルアミン、N,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリアリルアミン、ビス(ビニルスルホニル)メタン、1,3-ビス(ビニルスルホニル)-2-プロパノール、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,6-ビス(アクリロイルオキシ)ヘキサン、N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン、ビス(ビニルスルホニル)メタン、1,3-ビス(ビニルスルホニル)-2-プロパノール、N,N’-ビス(ビニルスルホニルアセチル)エチレンジアミン、アジピン酸ジアリル、10-ウンデセン酸ビニル、trans,cis-2,6-ノナジエナール、アジピン酸ジビニル、cis-3-ヘキセン酸cis-3-ヘキセニル、2-イソプロペニル-5-メチル-5-ビニルテトラヒドロフラン、(2,7-オクタジエン-1-イル)こはく酸無水物、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル(cis-,trans-混合物);ジビニルグリコール、ジビニルスルホン、アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジアクリル酸エチレングリコール、ビスアクリル酸1,4-フェニレン、ジアクリル酸ポリエチレングリコール、N,N’-ジアクリロイルエチレンジアミン、N,N’-ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド;ジアクリル酸1,4-ブタンジオール等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独で用いても、複数種類を併用してもよい。
【0040】
架橋性官能基としては、例えば、ビニル基、アクリル基等が挙げられる。また、極性基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エポキシ基、オキシカルボニル基、含窒素複素環基、含酸素複素環基、スズ含有基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0041】
本実施形態において、モノマーと架橋剤とのモル比は、モノマーのモル比が架橋剤のモル比より多ければよい。具体的に、モノマーと架橋剤との添加割合は、モノマーのモル数を100とした場合に架橋剤のモル数が0.1以上であり、0.5以上であってよく、1以上であってもよく、6以上であってもよく、10以上であってもよい。
【0042】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、分解性ゲルを構成する高分子の合成方法に応じ、光開始剤、熱開始剤、又はレドックス開始剤等を用いることができる。
【0043】
光開始剤としては、光ラジカル発生剤や、光塩基発生剤、光酸発生剤等を用いることができる。光ラジカル発生剤は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生させる化合物である。
【0044】
光開始剤としては、例えば、チオキサントン等を含む芳香族ケトン類、α-アミノアルキルフェノン類、α-ヒドロキシケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、オキシムエステル類、芳香族オニウム塩類、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物等が挙げられる。これらのうち、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤、α-アミノアルキルフェノン系重合開始剤、α-ヒドロキシケトン系重合開始剤、及びオキシムエステル系重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種の開始剤を用いることが好ましい。
【0045】
アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤として、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド等が挙げられる。また、α-アミノアルキルフェノン系重合開始剤として、例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
【0046】
また、α-ヒドロキシケトン系重合開始剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル〕-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン}等が挙げられる。
【0047】
オキシムエステル系重合開始剤としては、1.2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)、メタノン,エタノン,1-[9-エチル-6-(1,3-ジオキソラン,4-(2-メトキシフェノキシ)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0048】
熱開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過安息香酸t-ブチル、クメンハイドロパーオキサイト等の有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0049】
レドックス開始剤としては、例えば、過硫酸塩開始剤と還元剤(メタ亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ尿素化合物等)との組み合わせ;有機過酸化物と第3級アミンとの組み合わせ(例えば、過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンとの組み合わせ、クメンハイドロパーオキサイドとアニリン類との組み合わせ等);有機過酸化物と遷移金属との組み合わせ等が挙げられる。
【0050】
本実施形態において、開始剤は、モノマー1モルに対して、0.001モル以上添加することが好ましく、0.02モル以上添加することがより好ましく、0.05モル以下添加することが好ましく、0.03モル以下添加することがより好ましい。
【0051】
[溶媒置換工程]
溶媒置換工程は、分解性ゲル生成工程で得られる分解性ゲルに所定の溶媒を添加して、溶媒置換する工程である。溶媒置換工程は、分解性ゲルに用いた溶媒(分解性ゲルに含まれる溶媒)を、後述の修飾工程において修飾に用いる化合物に応じ、適切な溶媒に置換する。また、溶媒置換工程は、修飾に用いる化合物に応じ、pH等の条件を調整した溶媒に置換することもできる。したがって、修飾に用いる化合物によっては、溶媒を置換しなくてもよく、その場合、溶媒置換工程は省略できる。本実施形態では、取り扱いの容易性から分解性ゲルの溶媒は水であることが好ましく、この場合において無機ナノシートを修飾する場合、溶媒置換工程において水を所定の有機溶媒に置換することが好ましい。
【0052】
ここで、分解性ゲルに所定の溶媒を添加すると分解性ゲルの溶媒がゲル外に移動する。したがって、溶媒置換工程においては、分解性ゲルに所定の溶媒を添加する溶媒置換操作を繰り返すことで、分解性ゲル内の溶媒を所定の溶媒に置換する。
【0053】
なお、分解性ゲルを用いずに無機ナノシートが分散した溶液を用いた場合、溶媒を交換するためには溶液から溶媒を蒸発させる工程や濾過工程等を要する。この場合、無機ナノシートが凝集して完全剥離状態を維持できない。また、無機ナノシートと親和性の低い溶媒と交換した場合、無機ナノシートは凝集する。また、pHや塩濃度の条件が適切でない場合、無機ナノシートは凝集する。したがって、無機ナノシートの完全剥離状態を維持する観点から、本実施形態に係る分解性ゲルを用いることが最も好ましい。
【0054】
(溶媒)
溶媒置換工程に用いる溶媒としては有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、炭素数が1~12程度の常温で液体の炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類、エーテル類、エステル類、N,N-二置換アミド類、ニトリル類、三級アミン類等が挙げられる。有機溶媒としては、一例として、ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルスルフォキシド等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、複数種類を混合してもよい。
【0055】
[修飾工程]
修飾工程は、分解性ゲル若しくは溶媒置換後の分解性ゲルに修飾剤を加え、修飾剤で無機ナノシートを修飾する工程である。修飾剤は、分解性ゲルに侵入して無機ナノシート表面の水酸基と反応することで、無機ナノシートを修飾する。なお、修飾工程後、所定の溶媒(例えば、溶媒置換に用いた溶媒)に修飾工程後の分解性ゲルを浸漬することで、分解性ゲル表面及び分解性ゲル内部の未反応の修飾剤を除去してよい。
【0056】
修飾剤としては、シリル化剤、有機ホスホン酸、アルコール等が挙げられる。なお、溶媒置換工程において用いる溶媒は、これら修飾剤の種類に応じた溶媒を選択することができる。
【0057】
(シリル化剤)
シリル化剤は、シリル化剤が有するアルコキシ基が加水分解することで生成するシラノール基が、無機ナノシート表面の水酸基と脱水縮合するシリル化剤であれば、様々なシリル化剤を用いることができる。シリル化剤としては、例えば、クロロジメチルイソプロピルシラン、クロロジメチルブチルシラン、クロロジメチルオクチルシラン、クロロジメチルドデシルシラン、クロロジメチルオクタデシルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロ(1-ヘキセニル)ジメチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロヘプチルメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,3-ジフェニル-1,3-ジメチル-ジシラザン、1,3-N-ジオクチルテトラメチル-ジシラザン、ジイソブチルテトラメチルジシラザン、ジエチルテトラメチルジシラザン、N-ジプロピルテトラメチルジシラザン、N-ジブチルテトラメチルジシラザン又は1,3-ジ(パラ-t-ブチルフェネチル)テトラメチルジシラザン、N-トリメチルシリルアセトアミド、N-メチルジフェニルシリルアセトアミド、N-トリエチルシリルアセトアミド、t-ブチルジフェニルメトキシシラン、メトキシ(ジメチル)オクタデシルシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0058】
また、シリル化剤としては、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン等を用いることもできる。
【0059】
これらの中でも、反応性、安定性等の観点から、ヘキサメチルジシラザン、メトキシ(ジメチル)オクタデシルシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、及び3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシラン等を用いることが好ましい。ただし、無機ナノシート表面の修飾目的に応じ、これらと異なるシリル化剤を用いることもできる。
【0060】
(有機ホスホン酸)
有機ホスホン酸としては、例えば、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、シクロヘキシルホスホン酸、フェニルホスホン酸等が挙げられる。
【0061】
(アルコール)
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、オクタノール、n-デカノール、ラウリルアルコール、及びステアリルアルコール等のモノアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びジエチレングリコール等のジオール、グリセリン、及びトリメチロールプロパン等のトリオール、ペンタエリトリトール等のテトラオール等が挙げられる。一分子中に水酸基を5つ以上有するポリオールでもよい。
【0062】
[ゲル除去工程]
ゲル除去工程は、無機ナノシート表面を修飾した後の分解性ゲルの高分子ネットワークを分解して除去する工程である。具体的に、ゲル除去工程は、所定の酸、及び水からなる群から選択される少なくとも1つの中に分解性ゲルを添加し、分解性ゲルを分解することで分解性ゲルを除去する工程である。例えば、修飾後の分解性ゲルを所定の酸中において所定温度で所定時間、撹拌することで分解性ゲルを分解できる。また、耐圧容器内に修飾後の分解性ゲルと水とを入れ、所定温度で所定時間、加熱することで分解性ゲルを分解できる。本実施形態では、分解性ゲルを分解した後における無機ナノシートの凝集等を防止する観点から、水を用いて分解性ゲルを分解することが好ましい。そして、分解性ゲルを分解した後、例えば、濾過等の方法で分解生成物を除去することで修飾剤で修飾された修飾無機ナノシート分散コロイドを回収できる。その後、乾燥させ、修飾剤で修飾された修飾無機ナノシートを回収してもよい。
【0063】
[応用分野]
本実施形態に係る修飾無機ナノシート(例えば、シリル化無機ナノシート)は、修飾する化学種に応じて様々な応用が可能である。表面を長鎖アルキル基や高分子鎖で修飾した場合、疎水性溶媒への分散性が向上することから、工業的に用いられる多くの種類の高分子材料と複合化したナノコンポジット材料として用いることができ、軽量、高い力学強度、ガスバリア性、耐火性、耐熱性、絶縁性を有するプラスチックやゴム等として、高燃費の自動車や航空機等の構造材となる。また、吸着・分離、センサー、触媒、電極材料等の様々な分野に応用可能である。特に、疎水性の高分子との複合材料(コンポジット材料)等、機械的強度や耐熱性等の物性制御が要求される素材への応用が容易である。
【0064】
<実施の形態の効果>
本実施の形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法においては、実質的に完全剥離した無機ナノシートを分解性ゲル中に固定して無機ナノシートの凝集を防止し、ここに修飾剤を加えることで無機ナノシートを修飾後、分解性ゲルを分解除去する。これにより、本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法によれば、無機層状化合物に有機アンモニウム塩等をインターカレートさせて層間を拡げた後に修飾し、修飾した層を剥離させる従来の手法と異なり、1枚1枚それぞれの表面(つまり、表面若しくは裏面)を修飾剤で均一に修飾した無機ナノシートを得ることができる。したがって、本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法によれば、無機ナノシートに対する修飾剤の修飾率が高いだけでなく、単層剥離した修飾無機ナノシートの回収率も高めることができる。
【0065】
また、本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法においては、完全剥離した状態の無機ナノシートを分解性ゲルにより固定し、この分解性ゲル中に修飾剤を導入して無機ナノシートを修飾するので、修飾剤の選択の自由度を向上させることや、修飾剤による修飾率の制御等を容易にすることができる。なお、修飾剤の種類に応じ、無機ナノシートを固定する分解性ゲルの種類や溶媒置換に用いる溶媒の種類も適宜選択できるので、無機ナノシートを修飾し、いかなる特性を発揮させるかについての設計が容易になる。
【0066】
更に、本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法によれば、無機ナノシートの1枚1枚を修飾(例えば、シリル化)できるので、無機ナノシートの溶媒中での凝集を抑えることができ、疎水性の有機高分子中に実質的に均一に分散させることができる。これにより、本実施形態に係る修飾無機ナノシートによれば、無機ナノシートと、有機高分子とのコンポジット化や、吸着・分離、センサー、スマートコロイドへの応用を容易に実現することができる。
【実施例0067】
以下、実施例を用い、本実施形態に係る修飾無機ナノシートの製造方法、及び修飾無機ナノシートについて具体的に説明する。実施例では、修飾としてシリル化の例を説明する。
【0068】
[六ニオブ酸塩ナノシートの合成]
まず、炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、分子式:K2CO3、分子量:138.20)と酸化ニオブ(富士フイルム和光純薬株式会社製、分子式:Nb2O5、分子量:265.81)とを120℃で1日間、乾燥させた。次に、炭酸カリウムと酸化ニオブとをアセトン湿潤下で混合した後、室温(23℃)で乾燥させて混合試料とした。なお、用いた炭酸カリウムと酸化ニオブとのモル比は、1.1:1.25である。続いて、混合試料を大気中、1150℃で10時間、焼成した。これにより、六ニオブ酸(K4Nb6O17)単結晶を得た。
【0069】
なお、得られた六ニオブ酸単結晶をX線散乱装置で測定したところ、K4Nb6O17・3H2Oに帰属するピークが観察されたことから、K4Nb6O17単結晶が合成されていることが確認された。ここで、X線回折装置による構造解析はShimadzu XRD-7000L(CuKα、30V、40mA)を用いた。測定は、合成したサンプルを乾燥させた粉体を深さ1mmのガラス製試料ホルダに入れ、測定した。
【0070】
次に、得られた六ニオブ酸単結晶をプロピルアンモニウムクロリド(東京化成工業製、分子式:C3H9N・HCl、分子量:95.57)の水溶液に加えた。ここで、C3H7NH2・HCl:K+のモル比を3:1に調整した。そして、この溶液を80℃で7日間保存することで、溶液中にK4Nb6O17を剥離させて分散させた(以下、この溶液を「分散溶液」と称する。)。続いて、分散溶液を遠心分離した(HITACHI製CF-15RXII、遠心分離の条件:20℃、11000rpm、15分間)。遠心分離後、上澄み液を廃棄し、純水を加えて撹拌した。遠心分離の操作、上澄み液の廃棄、及び純水添加を3回繰り返した。そして、得られた沈殿物に純水を加えて透析した。透析においては、純水を5時間ごとに5回交換した後、24時間ごとに2回交換した。これにより、実施例に係る六ニオブ酸塩ナノシートを得た。
【0071】
[分解性ゲルの合成]
実施例に係る六ニオブ酸塩ナノシートに純水を加え、3wt%の六ニオブ酸塩ナノシート/水コロイド(以下、「無機ナノシート分散液」と称する場合がある。)を調製した。この無機ナノシート分散液をクロスニコル観察したところ、複屈折が観察された。したがって、無機ナノシートが実質的に完全剥離している状態が確認された。なお、クロスニコル観察には、偏光顕微鏡(OLYMPUS BX51)を用いた。
【0072】
(実施例1及び実施例2)
まず、無機ナノシート分散液にモノマーとしてのN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA;東京化成工業製、分子式:C5H9NO、分子量:99.13)を6.44×10-3モル、架橋剤としての3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキソスピロ[5.5]ウンデカン(DVTO;東京化成工業製、分子式:C11H16O4、分子量:212.24)を1.93×10-4モル、光ラジカル重合開始剤としての2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)―2-メチルプロピオフェノン(東京化成工業製、分子式:C12H16O4、分子量:224.26)を1.64×10-4モル加えて撹拌した。なお、モノマー:架橋剤のモル比は100:3にした。その後、東芝製のブラックライト10W FL10BLBを用いて紫外線照射(ピーク波長:352nm、放射強度:13μW/cm2)することで無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルを合成した。そして、合成後、分解性ゲル中の水をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF;富士フイルム和光純薬株式会社製、分子式:C3H7NO、分子量:73.10)に置換した。
【0073】
図1(a)に溶媒置換後の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルの透明性の観察結果を示し、
図1(b)に溶媒置換後の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルの目視観察結果を示す。また、
図1(c)に、溶媒置換後の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルのクロスニコル観察結果を示す。
【0074】
図1(a)を参照すると分かるように、溶媒置換後の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルは透明性を有していた。また、
図1(b)を参照すると分かるように、溶媒置換後の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルは少なくともピンセットで持ち上げることができる程度の強度を有していた。更に、
図1(c)に示すように、溶媒置換後の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルは、クロスニコル観察により複屈折が認められた。
【0075】
したがって、無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルにおいて複屈折が観察されたことから、実質的に完全剥離し、液晶状態の無機ナノシートが分解性ゲル中に固定化されていることが示された。
【0076】
[分解性ゲル中に固定化された無機ナノシート表面のシリル化]
30.0mLのDMFに、溶媒置換後の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲル(体積:0.9mL)と、シリル化剤としての1.88×10-4モルのメトキシ(ジメチル)オクタデシルシラン(東京化成工業製、分子式:C21H46OSi、分子量:342.68)又は3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシラン(東京化成工業製、分子式:C6H16O2SSi、分子量:180.34)とを添加し、窒素雰囲気下、60℃で1週間反応させた。これにより、シリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルを合成した。つまり、メトキシ(ジメチル)オクタデシルシランで修飾したシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲル(実施例1)と、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシランで修飾したシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲル(実施例2)とを合成した。
【0077】
[分解性ゲルの分解とシリル化無機ナノシートの回収]
合成して得られた実施例1及び実施例2に係るシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルそれぞれをDMF中に浸漬させ、未反応のシリル化剤を除去した。その後、以下の分解方法により、分解性ゲルを分解してサンプルを得た。
【0078】
耐圧容器内にシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルと共に水30mLを入れ、200℃で1日間、加熱分解する方法(水分解方法)。
【0079】
実施例1及び実施例2に係るシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルを分解して得られたサンプルそれぞれをアセトン及びクロロホルムで洗浄し、分解したポリマー及びDMFを除去した後、実施例1及び実施例2に係るシリル化無機ナノシートを回収し、回収した実施例1及び実施例2に係るシリル化無機ナノシートを乾燥させて粉末にしてそれぞれについてFT-IR測定を実施した。FT-IR測定には、アジレントテクノロジー株式会社製のフーリエ赤外分光光度計(FT-IR)Cary670を用いた。なお、測定条件はKBr法である。
【0080】
[回収したシリル化無機ナノシートのIRスペクトル分析]
まず、実施例1及び実施例2に係るシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルの水分解方法による分解後に回収したシリル化された無機ナノシートのIRスペクトルそれぞれには、無機ナノシート由来のピーク、対カチオン由来のピーク、及びシリル化剤に由来するピークが観察された。具体的には、無機ナノシート由来のNb―O伸縮振動(920cm-1)、対カチオンであるプロピルアンモニウム由来のC―N伸縮振動(1160cm-1)、及び第一級アミン塩のNH3
+のH―N―H変角振動(1504cm-1)、並びにシリル基に由来するSi-C変角振動(1200cm-1)、メチレン基のC―H伸縮振動(2853cm-1及び2926cm-1)、及びメチル基のC―H伸縮振動(2962cm-1)が実施例1及び実施例2のそれぞれで観察された。
【0081】
したがって、実施例1及び実施例2に係るシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルに固定された無機ナノシートそれぞれには十分な量のシリル化剤が修飾されていることが示された。
【0082】
図2(a)に比較サンプルのクロスニコル観察結果を示し、
図2(b)にメトキシ(ジメチル)オクタデシルシランを用いた実施例1に係るサンプルのクロスニコル観察、
図2(c)に3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシランを用いた実施例2に係るサンプルのクロスニコル観察を示す。
【0083】
まず、シリル化前の無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルについて、水分解方法により分解性ゲルを分解した比較サンプルを用意した。この比較サンプルをクロスニコル観察したところ、
図2(a)に示すように複屈折が観察された。すなわち、分解性ゲルが分解され、元の無機ナノシート分散液が得られることが示された。
【0084】
一方、メトキシ(ジメチル)オクタデシルシランを用いた実施例1に係るシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルを水分解方法により分解した後のサンプルをクロスニコル観察したところ、
図2(b)に示すように複屈折は観察されなかった。また、当該サンプルには濁りがあり、静止させると沈殿物が生じた(つまり、シリル化無機ナノシートは水中では分散しなかった。)。したがって、実施例1に係るシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルのゲルを分解して得られるシリル化無機ナノシートにおいては、無機ナノシート表面がシリル化されて疎水性になり、水への分散性が減少したことが示された。
【0085】
更に、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシランを用いた実施例2に係るシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルを水分解方法により分解した後のサンプルをクロスニコル観察したところ、
図2(c)に示すように流動複屈折が観察された。また、当該サンプルは白色光下で比較用サンプルと類似のわずかに濁った液体であり、静止しても沈殿物は生じなかった(つまり、シリル化無機ナノシートは水中で分散していた。)。したがって、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシランを修飾したシリル化無機ナノシート/pDMAA分解性ゲルのゲルを分解して得られるシリル化無機ナノシートにおいては、無機ナノシート表面がシリル化された後も、メルカプト基によって親水性が保たれて、水への分散性が維持されたことが示された。以上より、実施例1及び実施例2においては、実質的に完全剥離した状態のシリル化無機ナノシートが得られることが示された。
【0086】
(実施例3)
実施例に係る六ニオブ酸塩ナノシートに純水を加えて3wt%の六ニオブ酸塩ナノシート/水コロイド(無機ナノシート分散液)を調製後、この無機ナノシート分散液にモノマーとしてのアクリル酸(AA;東京化成工業製、分子式:C3H5O2、分子量:72.06)を6.44×10-3モル、架橋剤としての3,9-ジビニル-2,4,8,10-テトラオキソスピロ[5.5]ウンデカン(DVTO;東京化成工業製、分子式:C11H16O4、分子量:212.24)を6.44×10-4モル、光ラジカル重合開始剤としての2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)―2-メチルプロピオフェノン(東京化成工業製、分子式:C12H16O4、分子量:224.26)を5.47×10-4モル加えて撹拌した。なお、モノマー:架橋剤のモル比は100:10にした。その後、東芝製のブラックライト10W FL10BLBを用いて紫外線照射(ピーク波長:352nm、放射強度:13μW/cm2)することで無機ナノシート/pAA分解性ゲルを合成した。そして、合成後、分解性ゲルを0.01Mの塩酸水溶液に浸漬して、室温で5日間、静置することで、無機ナノシートの対カチオンであるプロピルアンモニウムをプロトンに交換した。この間、1日毎に、塩酸水溶液を交換した。そして、その後、分解性ゲル中の水をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF;富士フイルム和光純薬株式会社製、分子式:C3H7NO、分子量:73.10)に置換した。
【0087】
図3(a)に溶媒置換後の無機ナノシート/pAA分解性ゲルの目視観察結果を示す。また、
図3(b)に、溶媒置換後の無機ナノシート/pAA分解性ゲルのクロスニコル観察結果を示す。
【0088】
図3(a)を参照すると分かるように、溶媒置換後の無機ナノシート/pAA分解性ゲルは透明性を有していた。更に、
図3(b)に示すように、溶媒置換後の無機ナノシート/pAA分解性ゲルは、クロスニコル観察により複屈折が認められた。
【0089】
したがって、無機ナノシート/pAA分解性ゲルにおいて複屈折が観察されたことから、実質的に完全剥離し、液晶状態の無機ナノシートが分解性ゲル中に固定化されていることが示された。
【0090】
[分解性ゲル中に固定化された無機ナノシート表面のシリル化]
30.0mLのDMFに、溶媒置換後の無機ナノシート/pAA分解性ゲル(体積:0.9mL)と、シリル化剤としての3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシラン(東京化成工業製、分子式:C6H16O2SSi、分子量:180.34)とを添加し、窒素雰囲気下、100℃で1週間反応させた。これにより、シリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲルを合成した。つまり、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシランで修飾したシリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲル(実施例3)を合成した。
【0091】
[分解性ゲルの分解とシリル化無機ナノシートの回収]
合成して得られた実施例3に係るシリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲルをDMF中に浸漬(室温、1日)させ、その後、純水中に浸漬(室温、1日)させ、未反応のシリル化剤を除去した。その後、以下の分解方法により、分解性ゲルを分解してサンプルを得た。
【0092】
耐圧容器内にシリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲルと共に水100mLを入れ、140℃で8時間、加熱分解する方法(水分解方法)。
【0093】
実施例3に係るシリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲルを分解して得られたサンプルを水で洗浄し、分解したポリマー及びDMFを除去した後、実施例3に係るシリル化無機ナノシートを回収し、回収した実施例3に係るシリル化無機ナノシートを乾燥させて粉末にしてFT-IR測定を実施した。FT-IR測定には、アジレントテクノロジー株式会社製のフーリエ赤外分光光度計(FT-IR)Cary670を用いた。なお、測定条件はKBr法である。また、フッ化水素酸水溶液を用いて粉末試料を溶解し、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、組成分析した。
【0094】
[回収したシリル化無機ナノシートのIRスペクトル分析]
まず、実施例3に係るシリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲルの水分解方法による分解後に回収したシリル化された無機ナノシートのIRスペクトルには、無機ナノシート由来のピーク、対カチオン由来のピーク、及びシリル化剤に由来するピークが観察された。具体的には、無機ナノシート由来のNb―O伸縮振動(920cm-1)、対カチオンであるプロピルアンモニウム由来のC―N伸縮振動(1160cm-1)、及び第一級アミン塩のNH3
+のH―N―H変角振動(1504cm-1)、並びにシリル基に由来するSi-C変角振動(1200cm-1)、Si-O-Si伸縮振動(1085cm-1)、Si-O-Nb伸縮振動(1015cm-1)、メチレン基のC―H伸縮振動(2853cm-1及び2926cm-1)、及びメチル基のC―H伸縮振動(2962cm-1)が観察された。
【0095】
更に、ICPによる組成分析の結果、Si/Nb比が0.064であることにより、無機ナノシートのNb6O17ユニットに対しシリル化剤が0.38分子結合していることが明らかとなった。この修飾量は、すなわち、修飾可能な表面OH基の38%がシリル化されたことに相当している。
【0096】
したがって、実施例3に係るシリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲルに固定された無機ナノシートに十分な量のシリル化剤が修飾されていることが示された。
【0097】
図4(a)に比較サンプルのクロスニコル観察結果を示し、
図4(b)に3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシランを用いた実施例3に係るサンプルのクロスニコル観察を示す。
【0098】
まず、プロトン交換後でシリル化前の無機ナノシート/pAA分解性ゲルについて、水分解方法により分解性ゲルを分解した比較サンプルを用意した。この比較サンプルをクロスニコル観察したところ、
図4(a)に示すように目視できる大きさの凝集物が観察され、複屈折が観察されなかった。すなわち、分解性ゲルが分解されたが、剥離剤であるプロピルアンモニウムがプロトンで置換されたため、分散状態を維持できずに、無機ナノシートが凝集することが示された。
【0099】
一方、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシランを用いた実施例3に係るシリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲルを水分解方法により分解した後のサンプルをクロスニコル観察したところ、
図4(b)に示すように流動複屈折が観察された。また、当該サンプルは白色光下で比較用サンプルと類似のわずかに濁った液体であり、静止しても沈殿物は生じなかった(つまり、シリル化無機ナノシートは水中で分散していた。)。したがって、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)ジメチルシランを修飾したシリル化無機ナノシート/pAA分解性ゲルのゲルを分解して得られるシリル化無機ナノシートにおいては、剥離剤が除去され、無機ナノシート表面がシリル化された後も、メルカプト基によって親水性が保たれて、水への分散性が維持されたことが示された。以上より、実施例3においては、実質的に完全剥離した状態のシリル化無機ナノシートが得られることが示された。
【0100】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
前記ゲル除去工程が、水中に前記分解性ゲルを添加して前記分解性ゲルを分解し、前記分解性ゲルを除去する請求項1~4のいずれか1項に記載の修飾無機ナノシートの製造方法。
前記ゲル除去工程が、水中に前記分解性ゲルを添加して前記分解性ゲルを分解し、前記分解性ゲルを除去する請求項1~4のいずれか1項に記載の修飾無機ナノシートの製造方法。
前記ゲル除去工程が、水中に前記分解性ゲルを添加して前記分解性ゲルを分解し、前記分解性ゲルを除去する請求項1~4のいずれか1項に記載の修飾無機ナノシートの製造方法。