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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172671
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】蓄電デバイス電極用分散剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221110BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221110BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221110BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20221110BHJP
   C08F 220/44 20060101ALI20221110BHJP
   C08F 226/06 20060101ALI20221110BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20221110BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20221110BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221110BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20221110BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
C08F220/12
C08F220/44
C08F226/06
C08F220/56
C08L33/08
C08K3/04
B01F17/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078723
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】井樋 昭人
(72)【発明者】
【氏名】木下 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】代田 協一
【テーマコード(参考)】
4D077
4J002
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4D077AA01
4D077AB01
4D077AC05
4D077BA01
4D077BA07
4D077DD10X
4D077DD18X
4D077DD19X
4J002BG071
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002FD116
4J002GQ00
4J100AL05P
4J100AM02Q
4J100AM15R
4J100AQ12Q
4J100CA05
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100JA45
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA18
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA24
5H050EA27
5H050EA28
5H050FA12
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スラリー温度が高くなっても粘度上昇を抑制し、低粘度でスラリー調製時のハンドリング性が良好で炭素材料系導電材の分散が良好であるため低い抵抗値が得られる電池用導電材スラリーの作製を可能とする、蓄電デバイス正極用分散剤を提供する。
【解決手段】カルボン酸アルキルエステルを置換基として有するオレフィン系の構成単位と、炭素材料系導電材への吸着率が10.0%以上を示す官能基を置換基として有するオレフィン系構成単位と、アミド基を置換基として有するオレフィン系構成単位と、を含む共重合体である、蓄電デバイス正極用分散剤に関する。また、当該蓄電デバイス正極用分散剤を含む、分散剤組成物、電池用導電材スラリーおよびその製造方法、電池用正極ペースト、または電池用正極に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位と、下記式(2)で表される構成単位と、下記式(3)で表される構成単位と、を含む共重合体である、蓄電デバイス正極用分散剤。
【化1】
上記式(1)中、R1、R2、R3は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R4は、炭素数8~30の炭化水素基を示す。
【化2】
上記式(2)中、R5、R6、R7は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、官能基X1は、炭素材料系導電材への吸着率が10.0%以上を示す式(2)のホモポリマーのモノマー単位に含まれる官能基である。
【化3】
上記式(3)中、R8、R9、R10は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。
【請求項2】
下記式(1)で表される構成単位と、下記式(2)で表される構成単位と、下記式(3)で表される構成単位と、を含む共重合体である、蓄電デバイス正極用分散剤。
【化4】
上記式(1)中、R1 、R2 、R3 は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R4は、炭素数8~30の炭化水素基を示す。
【化5】
上記式(2)中、R5 、R6、R7は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、官能基X1は、炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基、ピロリドン基、又はシアノ基である。
【化6】
上記式(3)中、R8、R9、R10は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。
【請求項3】
蓄電デバイス正極用分散剤の全構成単位中における、前記式(3)で表される構成単位の含有量が、5質量%以上45質量%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項4】
蓄電デバイス正極用分散剤の全構成単位中における、前記式(2)で表される構成単位の含有量が、10質量%以上60質量%以下である、請求項1から3のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項5】
前記式(2)で表される構成単位に対する前記式(1)で表される構成単位との質量比が、0.3以上2.3以下である、請求項1から4のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項6】
前記式(3)で表される構成単位に対する式(2)で表される構成単位の質量比が、0.5以上7.0以下である、請求項1から5のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項7】
蓄電デバイス正極用分散剤の全構成単位中における、前記式(2)で表される構成単位と前記式(3)で表される構成単位の含有量の合計が、30質量%以上75質量%以下である、請求項1から6のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤、及び溶媒を含む、分散剤組成物。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤、炭素材料系導電材、及び溶媒を含む電池用導電材スラリー。
【請求項10】
前記炭素材料系導電材が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及びグラフェンから選ばれる1種以上である、請求項9に記載の電池用導電材スラリー。
【請求項11】
請求項1から7のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤、炭素材料系導電材、及び溶媒を含む混合物中の各成分を、メディア撹拌型分散機を用いて分散させる工程を含む、電池用導電材スラリーの製造方法。
【請求項12】
請求項1から7のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤、炭素材料系導電材、正極活物質、結着剤、及び溶媒を含む、電池用正極ペースト。
【請求項13】
請求項1から7のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤を含む電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス電極用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化抑制の観点から二酸化炭素を排出しない電気自動車の開発が盛んに行われている。電気自動車には、ガソリン車に比べて、走行距離が短く、バッテリーの充電に時間がかかるという課題がある。充電時間を短くするためには、正極中での電子の移動速度を速める必要がある。現在、非水電解質電池用の正極には、導電助剤(導電材)として、炭素材料が使用されているが、導電材が有機溶媒に分散された導電材スラリーにおいて、導電材の分散性が良好であることは、正極において良好な導電パスを形成する上で重要である。
【0003】
特許文献1には、導電材としてカーボンナノチューブ(CNT)を用い、導電材スラリーにおいて、CNTを高分散させるために、メタクリル酸ステアリル(SMA)と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の共重合体等の特定の共重合体を添加することが開示されている。そして、実施例には、SMAとHEMAとメタクリルアミド(MAAm)の共重合体が開示されている。
特許文献2には、正極ペーストに含まれる分散剤の電解液に対する溶解性が高いと、電解液に溶出した共重合体によってセパレーターに目詰まりが生じ、抵抗が増大するため、メタクリル酸ステアリル(SMA)とメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(PEG(2)MA)とメタクリルアミド(MAAm)の共重合体等の特定の共重合体を、分散剤として添加することが開示されている。
また、特許文献3には、高電位向けの活物質を用いた場合でもサイクル特性を良好なものとするために、アクリロニトリル(AN)由来の構成単位とラウリルアクリレート由来の構成単位を含む粒子状結着剤と分散媒とを含む電気化学素子電極用導電性接着剤組成物が開示されている。そして、電気化学素子電極用導電性接着剤組成物は、電極活物質層と集電体との間に設ける導電性接着剤層を形成するために用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2020/208880号公報
【特許文献2】特開2018-170218号公報
【特許文献3】特開2014-137816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1や特許文献2に開示の分散剤を使用しても、炭素材料系導電材の分散溶媒への分散工程において、スラリーの温度が高くなるに伴いスラリーが増粘するという問題がある。スラリー温度が高くなって粘度が上昇すると、分散効率が低下しCNT等の炭素材料系導電材の解繊が進まず抵抗値が高くなるため、スラリーを調製する際には、溶媒を追加添加する等の方法で粘度を下げて分散効率を改善することが必要となる。
【0006】
そこで、本開示は、一態様において、電解液に対する溶解性が低く、炭素材料系導電材の分散工程等でスラリー温度が高くなっても粘度上昇を抑制し、低粘度でスラリー調製時のハンドリング性が良好な電池用導電材スラリーの作製を可能とする蓄電デバイス正極用分散剤を提供する。また、本開示は、一態様において、当該蓄電デバイス正極用分散剤を含む、分散剤組成物、電池用導電材スラリーおよびその製造方法、電池用正極ペースト、または電池用正極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、下記式(1)で表される構成単位と、下記式(2)で表される構成単位と、下記式(3)で表される構成単位と、を含む共重合体である、蓄電デバイス正極用分散剤に関する。
【化1】
上記式(1)中、R1、R2、R3は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R4は、炭素数8~30の炭化水素基を示す。
【化2】
上記式(2)中、R5、R6、R7は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、官能基X1は、炭素材料系導電材への吸着率が10.0%以上を示す式(2)のホモポリマーのモノマー単位に含まれる官能基である。
【化3】
上記式(3)中、R8、R9、R10は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。
【0008】
本開示は、一態様において、下記式(1)で表される構成単位と、下記式(2)で表される構成単位と、下記式(3)で表される構成単位と、を含む共重合体である、蓄電デバイス正極用分散剤に関する。
【化4】
上記式(1)中、R1、R2、R3は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R4は、炭素数8~30の炭化水素基を示す。
【化5】
上記式(2)中、R5、R6、R7は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、官能基X1は、炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基、ピロリドン基、又はシアノ基である。
【化6】
上記式(3)中、R8、R9、R10は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス正極用分散剤、及び溶媒を含む、分散剤組成物に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス正極用分散剤、炭素材料系導電材、及び溶媒を含む、電池用導電材スラリーに関する。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス正極用分散剤、導電材、及び溶媒を含む混合物中の各成分を、メディア撹拌型分散機を用いて分散させる工程を含む、電池用導電材スラリーの製造方法に関する。
【0012】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス正極用分散剤、炭素材料系導電材、正極活物質、結着剤、及び溶媒を含む、電池用正極ペーストに関する。
【0013】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス正極用分散剤を含む電池用正極に関する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、一態様において、電解液に対する溶解性が低く、炭素材料系導電材の分散工程等でスラリー温度が高くなっても粘度上昇を抑制し、低粘度でスラリー調製時のハンドリング性が良好で炭素材料系導電材の分散が良好であるため低い抵抗値が得られる電池用導電材スラリーの作製を可能とする、蓄電デバイス正極用分散剤を提供できる。また、本開示によれば、一態様において、当該蓄電デバイス正極用分散剤を含む、分散剤組成物、電池用導電材スラリーおよびその製造方法、電池用正極ペースト、または電池用正極を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記の通り、特許文献1や特許文献2に開示の分散剤では、炭素材料系導電材(以下「導電材」と略称する場合もある。)の分散溶媒への分散工程において、増粘するという問題がある。これは、導電材の分散溶媒への分散工程において、スラリーの温度が経時的に上昇することに起因している。具体的には、メディア撹拌型分散機を用いて分散処理を行う際、メディア間には強力な剪断力が発生するとともに発熱する。スラリーが高温になると分散剤(共重合体)の導電材への吸着性能が十分に担保できず、分散が進まなくなる。例えば、メディア撹拌型分散機による分散処理では、処理前の25℃の液が分散機のスラリー出口温度では50℃にまで達する。
【0016】
本開示は、分散剤の構成単位に特定の官能基を導入することで、上記のようなスラリー温度が50℃となっても、増粘が抑制される、という新たな知見に基づく。
【0017】
[蓄電デバイス正極用分散剤]
本開示は、一態様において、下記式(1)で表される構成単位(以下「構成単位a」と称する場合がある。)と、下記式(2)で表される構成単位(以下「構成単位b」と称する場合がある。)と、下記式(3)で表される構成単位(以下「構成単位c」と称する場合がある。)と、を含む共重合体である、蓄電デバイス正極用分散剤(以下、「分散剤」または「分散剤(A)」と略称する場合もある。)に関する。
【化7】
上記式(1)中、R1 、R2 、R3 は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R4は、炭素数8~30の炭化水素基を示す。
【化8】
上記式(2)中、R5 、R6、R7は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、官能基X1は、炭素材料系導電材への吸着率が10.0%以上を示す式(2)のホモポリマーのモノマー単位に含まれる官能基である。
【化9】
上記式(3)中、R8、R9、R10は、互いに同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。
【0018】
本開示の分散剤による、電解液への溶解抑制及び増粘抑制のメカニズムの詳細については明らかではないが、以下のように推察される。
本開示の分散剤(A)のうちの、構成単位aは、疎水基である炭素数8~30の炭化水素基を有することにより、炭素材料系導電材に吸着し、分散性を発現すると考えられる。構成単位bは、後述する官能基X1を含んでいるので、構成単位aでは被覆しきれなかった前記導電材に吸着し、加えて、例えば、50℃以上という高温下でもその吸着状態を保持可能とする。また、分散剤(A)に、構成単位cが含まれていることにより、電解液への分散剤(A)の溶解が抑制される。したがって、本開示の分散剤は、上記構成単位a~cを含むことにより、電解液に対する溶解性が低く、炭素材料系導電材の分散工程でスラリー温度が高くなっても粘度上昇を抑制し、低粘度でスラリー調製時のハンドリング性が良好で炭素材料系導電材の分散が良好であるため低い抵抗値が得られる電池用導電材スラリー(以下「導電材スラリー」と略称する場合もある。)の提供を可能とする。ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されない。
【0019】
<構成単位a>
本開示の分散剤に含まれる構成単位aは、上記式(1)で表される構成単位である。構成単位aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。本開示において、構成単位aは、本開示の共重合体のうちの、導電材の表面に吸着する成分である。
【0020】
構成単位aを与えるモノマー(以下、「モノマーa」ともいう)としては、一又は複数の実施形態において、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のエステル化合物;2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ラウリル(メタ)アクリルアミド、ステアリル(メタ)アクリルアミド、ベヘニル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物が挙げられる。なかでも、導電材の分散性向上の観点及び分散剤(共重合体)への構成単位aの導入の容易性の観点から、モノマーaは、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及びベヘニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ステアリル(メタ)アクリレート及びベヘニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ステアリルメタクリレート(SMA)及びベヘニルメタクリレート(BeMA)から選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、ステアリルメタクリレートが更に好ましい。
【0021】
本開示の分散剤の全構成単位中における構成単位aの含有量は、導電材表面に対する吸着性及び導電材の分散性向上の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは39質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは75質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。本開示の分散剤の全構成単位中における構成単位aの含有量は、同様の観点から、好ましくは10~75質量%、より好ましくは35~55質量%、更に好ましくは39~50質量%である。構成単位Aが2種以上の組合せである場合、構成単位aの含有量はそれらの合計含有量である。
本開示において、分散剤の全構成単位中における構成単位aの含有量は、重合に用いるモノマー全量に対するモノマーaの使用量の割合とみなすことができる。
【0022】
<構成単位b>
本開示の分散剤に含まれる構成単位bは、上記式(2)で表される構成単位である。構成単位bは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。本開示において、構成単位bは、本開示の分散剤のうちの、導電材表面に吸着する成分であり、特に、高温時でも、導電材への吸着状態が安定しており、有効な分散性能を実現する成分である。
【0023】
上記式(2)中、官能基X1は、炭素材料系導電材への吸着率が10.0%以上を示す式(2)のホモポリマーのモノマー単位に含まれる官能基であるが、例えば、炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基、ピロリドン基、又はシアノ基が該当する。
【0024】
導電材への前記ホモポリマーの吸着率は、下記方法により得られる値である。
例えば、ホモポリマー0.3gを溶媒(NMP)29.4gと混合して得られる1.0質量%ポリマー溶液と炭素材料系導電材(Nanocyl製CNT NC7000)0.3gの混合物(1.0質量%導電材スラリー)に、超音波振動を1分間与えて、導電材の凝集解離を行う。得られた凝集解離液に対して、遠心分離機(KUBOTA テーブルトップ高速冷却遠心機3K30C、ローターS12158を使用)を用いて、回転数25000rpmで3時間の遠心分離処理を行い、導電材を沈降させる。上澄み液W1(g)をデカンテーション法で分離し、それを140℃にて12時間かけて乾燥し、得られる乾燥物の重量測定値W2(g)を、導電材に吸着しなかったポリマーの重量(非吸着ポリマー重量)とする。初期のポリマー重量(0.3g)との差分を吸着ポリマーとして、下記式にて吸着率を算出する。
【数1】
【0025】
構成単位bを与えるモノマー(以下、「モノマーb」ともいう)としては、具体的には、メタクリロニトリル(MeAN)(ホモポリマーの吸着率:12.1%)、アクリロニトリル(AN)(ホモポリマーの吸着率:14.8%)、4-ビニルピリジン(4-Vpy)(ホモポリマーの吸着率:18.5%)、2-ビニルピリジン(2-Vpy)(ホモポリマーの吸着率:16.6%)等が挙げられる。
【0026】
本開示の分散剤の全構成単位中における構成単位bの含有量は、導電材表面に対する吸着性及び高温時の分散性向上の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは質量20%以上、更に好ましくは24質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは38質量%以下である。本開示の分散剤の全構成単位中における構成単位bの含有量は、同様の観点から、好ましくは10~60質量%、より好ましくは20~45質量%、更に好ましくは24~38質量%である。構成単位Bが2種以上の組合せである場合、構成単位Bの含有量はそれらの合計含有量である。
本開示において、分散剤の全構成単位中における構成単位bの含有量は、重合に用いるモノマー全量に対するモノマーbの使用量の割合とみなすことができる。
【0027】
<構成単位c>
本開示の分散剤に含まれる構成単位cは、上記式(3)で表される構成単位である。本開示の分散剤は、側鎖にアミド基を有する上記構成単位cを含むため、電解液への溶解性が低い。従って、本開示の分散剤を含む電池用正極ペースト(以下「正極ペースト」と略称する場合もある。」)によれば、電解液への分散剤(共重合体)の溶出が少ない正極を形成でき、その結果、充放電の繰り返しに伴う抵抗増加率が低減された電池を得ることができる。構成単位cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0028】
構成単位cを与えるモノマー(以下、「モノマーc」ともいう)としては、具体的には、アクリルアミド(AAm)またはメタクリルアミド(MAAm)である。
【0029】
本開示の分散剤の全構成単位中における構成単位cの含有量は、電解液への溶解抑制及び重合溶媒への溶解性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。本開示の分散剤の全構成単位中における構成単位cの含有量は、同様の観点から、好ましくは5~45質量%、より好ましくは15~40質量%、更に好ましくは20~35質量%である。構成単位cが2種以上の組合せである場合、構成単位cの含有量はそれらの合計含有量である。
本開示において、分散剤の全構成単位中における構成単位cの含有量は、重合に用いるモノマー全量に対するモノマーcの使用量の割合とみなすことができる。
【0030】
本開示の分散剤の全構成単位中における、構成単位bに対する構成単位aの質量比(構成単位a/構成単位b)は、導電材スラリーの分散安定性及び高温時の分散性向上の観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1.0以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは2.3以下、より好ましくは2.2以下、更に好ましくは2.1以下である。本開示の分散剤の全構成単位中における、前記質量比(構成単位a/成単位b)は、同様の観点から、好ましくは0.3~2.3、より好ましくは0.5~2.2、更に好ましくは1.0~2.1である。
【0031】
本開示の分散剤の全構成単位中における、構成単位cに対する構成単位bの質量比(構成単位b/構成単位c)は電解液への溶解抑制及び高温時の分散性向上の観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは7.0以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは2.5以下である。本開示の分散剤の全構成単位中における、前記質量比(構成単位b/成単位c)は、同様の観点から、好ましくは0.5~7.0、より好ましくは0.6~4.0、更に好ましくは0.7~2.5である。
【0032】
本開示の分散剤の全構成単位中における、構成単位bと構成単位cの含有量の合計は、電解液への溶解抑制及び高温時の分散性向上の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは56質量%以下である。本開示の分散剤の全構成単位中における、構成単位bと構成単位cの含有量の合計は、同様の観点から、好ましくは30~75質量%、より好ましくは45~60質量%、更に好ましくは50~56質量%である。
【0033】
本開示の分散剤は、構成単位a~cと共重合可能な、構成単位a~c以外の構成単位をさらに含んでいてもよい。構成単位a~c以外の構成単位を与えるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレン等が挙げられる。本開示の分散剤の全構成単位中における構成単位a~c以外の構成単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0034】
本開示の分散剤における、構成単位a、構成単位b、構成単位cの好ましい組み合わせとしては、電解液への溶解抑制及び高温時の分散性向上の観点から、下記が挙げられる。後述する本開示の導電材スラリーまたは正極ペーストに含まれる分散剤は、下記構成単位a~cを含む分散剤のうちの、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
・SMA/AN/MAAm
・SMA/AN/AAm
・SMA/MeAN/MAAm
・SMA/MeAN/AAm
・SMA/4-Vpy/MAAm
・SMA/4-Vpy/AAm
・SMA/2-Vpy/MAAm
・SMA/2-Vpy/AAm
【0035】
本開示の分散剤における、構成単位a、構成単位b、構成単位cの配列は、各々、ランダム、ブロック又はグラフトのいずれでも良い。
【0036】
本開示の分散剤の重量平均分子量は、導電材の分散性向上と重合溶媒に対する分散剤の溶解性の観点から、5000以上が好ましく、7000以上がより好ましく、1万以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、50万以下が好ましく、20万以下がより好ましく、10万以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の分散剤の重量平均分子量は、5000~50万が好ましく、7000~20万がより好ましく、1万~10万が更に好ましい。本開示において、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値であり、測定条件の詳細は実施例に示す通りである。
【0037】
[分散剤の製造方法]
本開示の分散剤の合成方法は特に限定されず、通常の(メタ)アクリル酸エステル類、及びビニルモノマーの重合に使用される方法が用いられる。本開示の分散剤の合成方法としては、例えば、フリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等が挙げられる。例えば、フリーラジカル重合法を用いる場合は、モノマーa、モノマーb、及びモノマーcを含むモノマー成分を溶液重合法で重合させる等の公知の方法で得ることができる。
【0038】
前記重合に用いられる溶媒(以下「重合溶媒」とも言う。)としては、例えば炭化水素(ヘキサン、ヘプタン)、芳香族系炭化水素(トルエン、キシレン等)、低級アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル)、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶媒を使用できるが、正極ペーストの調製時に結着剤を溶解できる、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0039】
溶媒量は、モノマー全量に対する質量比で、0.5~10倍量が好ましい。前記重合に用いられる重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、例えばアゾ系重合開始剤、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、過酸化ジアシル類、ケトンぺルオキシド類等が挙げられる。重合開始剤量は、モノマー成分全量に対し、0.01~5モル%が好ましく、0.05~4モル%がより好ましく、0.1~3モル%が更に好ましい。重合反応は、窒素気流下、40~180℃の温度範囲で行うのが好ましく、反応時間は0.5~20時間が好ましい。また、前記重合の際、公知の連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、イソプロピルアルコールや、メルカプトエタノール等のメルカプト化合物が挙げられる。
【0040】
[分散剤組成物]
本開示は、一態様において、上記本開示の分散剤(A)、及び溶媒(C)を含む、分散剤組成物に関する。
【0041】
<溶媒>
溶媒(C)は、正極ペーストの調製時に結着剤を溶解できるものであることが好ましい。具体的には、前記有機溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-ブタノール(n-ブタノール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブタノール)、2-ブタノール(sec-ブタノール)、1-メチル-2-プロパノール(tert-ブタノール)、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、またはオクタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、またはヘキシレングリコールなどのグリコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、またはソルビトールなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、またはテトラエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、またはシクロペンタノンなどのケトン類;酢酸エチル、γ-ブチルラクトン、およびε-プロピオラクトンなどのエステル類などが挙げられ、これらのいずれか1種または2種以上の混合物が使用できる。
正極ペースト中の結着剤がPVDF(ポリフッ化ビニリデン樹脂)である場合、前記有機溶媒は、結着剤に対して高い溶解性を示す観点から、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が好ましい。
【0042】
≪分散剤組成物中の分散剤(A)の含有量≫
本開示の分散剤組成物中の分散剤(A)の含有量は、後工程での配合マージンの観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、後工程での配合時のハンドリングの観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。本開示の分散剤組成物中の分散剤(A)の含有量は、同様の観点から、10~80質量%が好ましく、15~60質量%がより好ましく、20~50質量%が更に好ましい。
【0043】
[分散剤組成物の製造方法]
本開示の分散剤組成物の製造方法は、分散剤(A)と必要に応じて添加される任意成分を溶媒(C)に溶解させる工程を含む。分散剤(A)は、前記[分散剤の製造方法]で用いられる重合溶媒を揮発させて得られた乾燥状態で溶媒(C)に添加してもよいが、前記重合溶媒と上記溶媒(C)とが、例えば同じであれば、前記分散剤(A)が重合溶媒に溶解されたポリマー溶液の状態で他の成分と混合されてもよい。
【0044】
[電池用導電材スラリー]
本開示は、一態様において、分散剤(A)、炭素材料系導電材(D)、及び溶媒(C)を含有する、導電材スラリーに関する。本開示の導電材スラリーには、必要に応じて有機塩基性化合物(B)(以下「化合物(B)」と略称する場合もある。)が含まれていてもよい。
【0045】
<炭素材料系導電材>
導電材(D)としては、一又は複数の実施形態において、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と表記することもある)、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン等が挙げられ、これらの中でも、高い導電性を実現する観点から、カーボンブラック、CNT、及びグラフェンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、同様の観点から、CNT又はグラフェンがより好ましい。炭素材料系導電材(D)は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0046】
(カーボンナノチューブ)
導電材(D)として使用できるCNTの平均直径は、特に限定されず、CNTの分散性向上及び導電性向上の観点から、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは3nm以上70nm以下がより好ましく、更に好ましくは5nm以上50nm以下である。本開示において、CNTの平均直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により測定できる。
【0047】
本開示において、CNTとは、複数のカーボンナノチューブを含む総体を意味する。導電材スラリーの製造に用いられるCNTの形態は、特に限定されず、例えば、複数のCNTがそれぞれ独立した形態でもよいし、複数のCNTが束状あるいは絡まり合うなどの形態でもよいし、これらの形態の混合物もよい。CNTは、導電性と分散性を両立するために、層数または直径が異なる2種以上CNTの混合物であってもよい。CNTは、CNTの製造におけるプロセス由来の不純物(例えば、触媒やアモルファスカーボン)を含み得る。
【0048】
導電材(D)として使用できるCNTとしては、例えば、Nanocyl社のNC-7000(以下数値は平均直径、9.5nm)NX7100(10nm)、Cnano社のFT6100(9nm)、FT-6110(9nm)、FT-6120(9nm)、FT-7000(9nm)、FT-7010(9nm)、FT-7320(9nm)、FT-9000(12.5nm)、FT-9100(12.5nm)、FT-9110(12.5nm)、FT-9200(19nm)、FT-9220(19nm)、Cabot Performance material(Shenzhen)社のHCNTs4(4.5nm)、CNTs5(7.5nm)、HCNTs5(7.5nm)、GCNTs5(7.5nm)、HCNTs10(15nm)、CNTs20(25nm)、CNTs40(40nm)、韓国CNT社のCTUBE170(13.5nm)、CTUBE199(8nm)、CTUBE298(10nm)、Kumho社のK-Nanos100P(11.5nm)、LG Chem社のCP-1001M(12.5nm)、BT-1003M(12.5nm)、Nano Tech Port社の3003(10nm)、3021(20nm)等が挙げられる。
2種類のCNTを使用する場合の組み合わせとしては、例えば、Cabot Performance material(Shenzhen)社のCNTs40(40nm)とHCNTs4(4.5nm)又はHCNTs5(7.5nm)との組合せ、CNTs40(40nm)とGCNTs5(7.5nm)との組合せ、CNTs40(40nm)とCnano社のFT-7010(9nm)との組合せ、CNTs40(40nm)とFT-9100(12.5nm)との組合せ、CNTs40(40nm)とLG Chem社BT-1003M(12.5nm)との組合せ等が挙げられる。
【0049】
(カーボンブラック)
導電材(D)として使用できるカーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理し、または硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理することより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理である。これらの処理は、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンブラックの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンブラックの使用が好ましい。
【0050】
導電材(D)として使用できるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子同士の接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)は、好ましくは20m2/g以上1500m2/g以下、より好ましくは50m2/g以上1000m2/g以下、更に好ましくは100m2/g以上800m2/g以下である。
【0051】
導電材(D)として使用できるカーボンブラックの一次粒子径(直径)は、導電性の観点から、5~1000nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。本開示において、カーボンブラックの一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0052】
(グラフェン)
導電材(D)として使用できるグラフェンとは、一般には、sp2混成炭素原子が六角形のハニカム格子を形成し、原子1個分の厚みをもつ二次元シート(単層グラフェン)を指すが、本開示においては、単層グラフェンが積層した薄片上の形態を持つ物質も含めてグラフェンと呼ぶことにする。
【0053】
導電材(D)として使用できるグラフェンの厚みについて、特に制限は無いが、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下である。グラフェン層に平行な方向の大きさについて、特に制限はないが、正極における良好な導電性を確保する観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上、更に好ましくは1μm以上である。ここで、グラフェン層に平行な方向の大きさとは、グラフェンの面方向に垂直な方向から観察したときの最大径と最小径の平均を言う。
【0054】
≪導電材スラリー中の導電材(D)の含有量≫
本開示の導電材スラリー中の導電材(D)の含有量は、正極ペーストの濃度調整の利便性向上の観点から、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、そして、導電材スラリーを取り扱いやすい粘度とする観点から、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、6質量%以下が更に好ましい。本開示の導電材スラリー中の導電材(D)の含有量は、同様の観点から、1~10質量%が好ましく、2~7質量%がより好ましく、3~6質量%が更に好ましい。
【0055】
≪導電材スラリー中の分散剤(A)の含有量≫
本開示の導電材スラリー中の分散剤(A)の含有量は、導電材(D)の分散性向上の観点から、導電材(D)100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは5質量部以上であり、そして、高導電性の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部、更に好ましくは50質量部以下である。本開示の導電材スラリー中の分散剤(A)の含有量は、同様の観点から、導電材100質量部に対し、0.1~200質量部が好ましく、1~100質量部がより好ましく、5~50質量部が更に好ましい。
【0056】
<有機塩基性化合物>
有機塩基性化合物(B)としては、一又は複数の実施形態において、アルキルアミン類、アミノ基含有アルコール類、イミダゾール類、ピペラジン類が挙げられる。
【0057】
アルキルアミン類には、分岐または直鎖アルキル基、または脂環式基を有する1~3級アミンが好ましく、より好ましくは分子中の炭素数の合計が15以下となるようにアルキル基を有する。具体的にはヘキシルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N-プロピルエチルアミン、N-ブチルエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン等を挙げることができる。また、アルキル基はアミノ基で置換されていてもよく、その場合2以上の1~3級アミノ基を含有することになり、例えばエチレンジアミン、ジエチレンジアミントリアミン等のジまたはトリアミンを挙げることができる。さらに好ましいのは1級ないし2級アミンが好ましい。ジエチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミンが好ましい。
【0058】
アミノ基含有アルコール類には、アルキルアミンにおいて、アルキル基の水素がOHで置換された化合物が好ましく、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノエタノール、N-n-ブチルエタノールアミン、2-(メチルアミノ)エタノール、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、2-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、1-アミノ-2ープロパノール、2-アミノ1,3、プロパンジオール、及びジエタノールアミン等を挙げることができる。さらに好ましいのは1級ないし2級アミンが好ましい。
【0059】
イミダゾール類には、1,2-ジメチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、4-エチル-2-メチルイミダゾール、1-メチル-4-エチルイミダゾール等が挙げられる。
【0060】
ピペラジン類には、ピペラジン、1-メチルピペラジン、1-エチルピペラジン、1-プロピルピペラジン、1,4-ジメチルピペラジン、1,4-ジエチルピペラジン、1,4-ジプロピルピペラジン、2-メチルピペラジン、2-エチルピペラジン、3-プロピルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,6-ジエチルピペラジン、2,6-ジプロピルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,5-ジプロピルピペラジン等を挙げることができる。
【0061】
化合物(B)は、導電材スラリーに含まれていてもよいが、後述する正極ペーストの調製時に添加してもよい。
【0062】
≪導電材スラリー中の化合物(B)の含有量≫
本開示の導電材スラリー中の化合物(B)の含有量は、導電材(D)の分散性向上の観点から、導電材(D)100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましく、そして、高導電性の観点から、200質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましい。同様の観点から、化合物(B)の含有量は、導電材(D)100質量部に対して、0.5~200質量部が好ましく、1.0~100質量部がより好ましく、5~50質量部が更に好ましい。
【0063】
本開示の導電材スラリーの25℃における粘度は、低い方が好ましい。導電材(D)の沈降抑制などの観点から、導電材(D)の含有量が5質量%の場合、例えば、0.01Pa・s以上が好ましく、0.05Pa・s以上がより好ましく、0.1Pa・s以上が更に好ましい。また、導電材スラリーの25℃における粘度は、正極ペースト調製時のハンドリング性向上の観点から、導電材(D)の含有量が5質量%の場合、10Pa・s以下が好ましく、5Pa・s以下より好ましく、2Pa・s以下が更に好ましい。
【0064】
[電池用導電材スラリーの製造方法]
本開示の導電材スラリーは、一又は複数の実施形態において、分散剤(A)と、導電材(D)と、溶媒(C)と、必要に応じて化合物(B)を、混合分散機を用いて混合し、各成分を分散することにより調製できる。前記溶媒(C)としては、上述した本開示の分散剤組成物の調製に用いることができる溶媒(C)と同様のものが挙げられる。
【0065】
前記混合分散機としては、例えば、超音波ホモジナイザー、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、及びペイントシェーカー等から選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、分散均一性という理由から、メディア撹拌型分散機が好ましい。
【0066】
メディア撹拌型分散機とは、粉砕室内でビーズに回転運動を与えビーズ間の衝突やせん断力により対象物を微細化するが、その際発熱を伴う。ビーズ素材は、主にガラス、アルミナ、そしてジルコニアが使用されるが、ビーズの硬度、スラリーへの不純物混入を避ける観点から、ジルコニアが好ましい。ビーズの粒径については大きな対象物であれば大粒径が好ましく、目的粒径が微細になるほど小粒径が好ましい。導電材の分散においては0.1mm~20mmのビーズが好ましい。粉砕室内に投入するビーズ量つまり充填率は、粉砕室内体積に対し50%~90%が好ましく、分散効率、発熱の観点から60%~80%が好ましい。ビーズに与える回転運動つまり周速は、分散効率の観点から5m/s以上、好ましくは7m/s以上、また発熱の観点から16m/s以下、14m/s以下が好ましい。導電材スラリーはタンクからポンプを介して分散機に送られ、高速で撹拌しているビーズにて分散されてタンクへと戻される。これを繰り返すことでスラリーを循環し、分散処理が行える。本開示の電池用導電材スラリーの製造方法は、一態様において、分散剤(A)と、導電材(D)と、溶媒(C)と、必要に応じて化合物(B)を含む混合物中の各成分を、メディア撹拌型分散機を用いて分散させてスラリーとする工程を含み、前記工程おいて、分散途中の混合物(粗分散液)を、メディア撹拌型分散機から容器(タンク)へ送り、当該粗分散液をタンクからポンプを介して前記メディア撹拌型分散機へ送って分散処理し、これを複数回繰り返して、電池用導電材スラリーを得る。
【0067】
本開示の導電材スラリーの製造方法において、導電材スラリーの構成成分のうちの一部成分を混合してから、それを残余と混合してもよいし、各成分は、全量を一度に投入せずに、各々、複数回に分けて投入してもよい。導電材(D)は乾燥状態で、他の成分と混合してもよいし溶媒と混合してから、他の成分と混合してもよい。当該溶媒は、上述した溶媒(C)と同じものが挙げられる。
【0068】
[電池用正極ペースト]
本開示は、一態様において、分散剤(A)、溶媒(C)、導電材(D)、正極活物質、及び結着剤、を含む蓄電デバイス用正極ペーストに関する。本開示の正極ペーストは、一又は複数の実施形態において、本開示の分散剤組成物または本開示の導電材スラリーを含有する。本開示の正極ペーストは、電解液に対する溶解性が低く、導電材スラリーの調製最中にスラリー温度が高くなっても当該スラリーの粘度上昇を抑制可能とし、粘度上昇の抑制により導電材の分散を良好とする、分散剤(A)を含む本開示の導電材スラリーを用いて調製されるので、本開示の正極ペーストを用いて形成される電池用正極において、低い体積抵抗値と、高い放電容量維持率との両立が行える。
分散剤(A)、溶媒(C)、導電材(D)、分散剤組成物、導電材スラリーの好ましい形態は上述のとおりである。本開示の正極ペーストには、一又は複数の実施形態において、炭素材料系導電材(D)以外の導電材が更に含まれていてもよい。炭素材料系導電材(D)以外の導電材としては、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0069】
<正極活物質>
正極活物質としては、無機化合物であれば特に制限はなく、例えば、オリビン構造を有する化合物やリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。オリビン構造を有する化合物としては、一般式LixM1sPO4(但し、M1は3d遷移金属、0≦x≦2、0.8≦s≦1.2)で表される化合物を例示できる。オリビン構造を有する化合物は、非晶質炭素等を被覆して用いてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、スピネル構造を有するリチウムマンガン酸化物、層状構造を有し一般式LixMO2-δ(但し、Mは遷移金属、0.4≦x≦1.2、0≦δ≦0.5)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。前記リチウム遷移金属複合酸化物は、さらに、Al、Mn、Fe、Ni、Co、Cr、Ti、Zn、P、Bから選ばれる一種又は二種以上の元素を含有していてもよい。前記遷移金属Mとしては、Co、Ni又はMnを含むものとすることができる。
【0070】
≪正極ペースト中の正極活物質の含有量≫
本開示の正極ペースト中の正極活物質の含有量は、正極ペーストが集電体に塗布するのに適した粘度に応じて調整することができる限り、特に制限はないが、エネルギー密度の観点と正極ペーストの安定性の観点から、好ましくは40質量%~90質量%、より好ましくは50質量%~85質量%、さらに好ましくは70~80質量%である。
【0071】
本開示の正極ペーストの全固形分における正極活物質の含有量について、特に制限はない。本開示の正極ペーストの全固形分における正極活物質の含有量は、従来公知の正極ペーストの全固形分におけるそれと同じであってもよく、電池のエネルギー密度を高度に保つためには、90.0質量%以上が好ましく、正極合材層の導電性や塗膜性を担保するためには、99.9質量%以下が好ましい。同様の観点から、90.0~99.9質量%が好ましい。
【0072】
<結着剤(バインダー樹脂)>
結着剤(バインダー樹脂)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル等単独で、あるいは混合して用いることができる。
【0073】
≪正極ペースト中の結着剤の含有量≫
本開示の正極ペースト中の結着剤の含有量は、正極合材層の塗膜性や集電体との結着性の観点から、0.05質量%以上が好ましく、電池のエネルギー密度を高度に保つ観点からは10質量%以下が好ましい。
【0074】
≪正極ペースト中の分散剤(A)の含有量≫
本開示の正極ペースト中の分散剤(A)の含有量は、正極合材層の低抵抗化の観点から、0.01~2.0質量%が好ましく、0.03~1.0質量%がより好ましく、0.05~0.5質量%がさらに好ましい。
【0075】
≪正極ペースト中の化合物(B)の含有量≫
本開示の正極ペースト中の化合物(B)の含有量は、正極ペーストの固形分濃度を高くする観点、及び粘度低下の観点から、好ましくは0.012質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、そして、化合物(B)の溶媒への溶解性と正極ペーストの安定性の観点から、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。化合物(B)は、導電材スラリーに含まれていてもよいが、後述する正極ペーストの製造時に添加してもよい。
【0076】
≪正極ペースト中の炭素材料系導電材(D)の含有量≫
本開示の正極ペーストの導電材(D)の含有量は、正極合材層の導電性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、そして、電池のエネルギー密度を高度に保つ観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0077】
本開示の正極ペーストは、一又は複数の実施形態において、正極活物質、本開示の導電材スラリー、結着剤(バインダー樹脂)、及び固形分調整等のための溶媒(追加溶媒)等を、混合及び攪拌して、製造することができる。このほかの分散剤や機能性材料等を添加しても良い。上記溶媒(追加溶媒)としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非水系溶媒あるいは水等が使用できる。また、本開示の正極ペーストの製造においては、上記溶媒(追加溶媒)としては非水系溶媒を使用することが好ましく、なかでも、NMPを使用することがより好ましい。混合や攪拌にはプラネタリミキサー、ビーズミル、ジェットミル等を用いることができ、また、これらを併用することもできる。
【0078】
本開示の正極ペーストは、正極ペーストの製造に用いる全成分のうちの一部成分をプレミックスしてから、それを残余と混合することもできる。また、各成分は、全量を一度に投入せずに、複数回に分けて投入しても良い。これにより、攪拌装置の機械的な負荷を抑えることができる。
【0079】
本開示の正極ペーストの固形分濃度や、正極活物質の量、結着剤の量、導電材スラリーの量、添加剤成分の添加量、溶媒の量は、正極ペーストを集電体に塗布するのに適した粘度に応じて調整することができる。乾燥性の観点からは溶媒の量が少ないほうが好ましいが、正極合材層の均一性や表面の平滑性の観点から、正極ペーストの粘度が高すぎないことが好ましい。一方で、乾燥抑制の観点、及び正極合材層の充分な膜厚を得る観点から、正極ペーストの粘度が低すぎないことが好ましい。
【0080】
本開示の正極ペーストは、製造効率の観点からは高濃度であると好ましいが、著しい粘度の増加は作業性の観点から好ましくない。添加剤の添加により、高濃度を保ちつつ、好ましい粘度範囲を保つことができる。
【0081】
<正極ペーストの製造方法>
本開示の正極ペーストの製造方法は、導電材、正極活物質、溶媒、結着剤及び本開示の分散剤組成物を混合する工程を含む。各成分は任意の順で混合しても良い。本開示の正極ペーストの製造方法は、一又は複数の実施形態において、好ましくは本開示の導電材スラリーと結着剤と溶媒と正極活物質とを混合する工程を含む。各成分は任意の順に混合してもよい。また、一又は複数の実施形態において、本開示の導電材スラリーと溶媒と結着剤とを混合し、これらが均質になるまで分散したのち、正極活物質を混合し、これらが均質になるまで攪拌することにより正極ペーストを得る方法が挙げられるが、これら成分の添加順序はこの限りではない。
【0082】
尚、本開示の分散剤組成物、導電材スラリー、及び正極ペーストは、各々、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、中和剤、消泡剤、防腐剤、脱水剤、防錆剤、可塑剤、結着剤等が挙げられる。
【0083】
[電池用正極]
本開示は、一態様において、本開示の正極ペーストを用いて形成された電池用正極に関する。本態様において、本開示の正極ペーストの好ましい形態は上述のとおりである。
【0084】
正極は、上記の正極ペーストをアルミニウム箔等の集電体に塗工し、これを乾燥して作製する。正極の密度を上げるために、プレス機により圧密化を行うこともできる。正極ペーストの塗工には、ダイヘッド、コンマリバース ロール、ダイレクトロール、グラビアロール等を用いることができる。塗工後の乾燥は、加温、エアフロー、赤外線照射等を単独あるいは組み合わせて行うことができる。正極のプレスは、ロールプレス機等により、行うことができる。
【実施例0085】
以下、本開示の実施例及び比較例を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0086】
1.各パラメータの測定方法
[ポリマーの重量平均分子量の測定]
ポリマーの重量平均分子量は、GPC法により測定した。詳細な条件は以下の通りである。
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム:α-M + α-M(東ソー社製)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率
溶離液:60mmol/LのH3PO4及び50mmol/LのLiBrのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液
流速:1mL/min
検量線に用いる標準試料 :ポリスチレン
試料溶液:共重合体の固形分を0.5wt%含有するDMF溶液
試料溶液の注入量:100μL
【0087】
[電解液溶解性]
分散剤(共重合体)の電解液への溶解性を確認する目的で、電解液に使用される溶媒への溶解率を測定した。得られた共重合体溶液をシャーレに入れ、140℃、窒素気流下にて12時間以上減圧乾燥した。得られた共重合体1gにエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとの混合溶媒(体積比50/50)9gを添加し、10%懸濁液を調製した。得られた懸濁液を40℃、1時間静置した。その後、0.5μmのPTFEフィルターでろ過し、溶解していない共重合体を除去した。ろ過した溶液を140℃、減圧、窒素気流下で乾燥することで、混合溶媒に溶解した共重合体の質量を測定した。以下の式より、電解液溶解性として、混合溶媒への溶解率を求めた。得られた溶解率を表6に示す。
【0088】
【数2】
【0089】
[導電材スラリーの粘度測定]
導電材スラリーの25℃の時の粘度、及び50℃の時の粘度は、それぞれ、Anton Paar社のMCR302レオメーターに、コンプレートCP50を装着し、せん断速度10s-1で粘度測定を開始し、5分後の粘度を記録し、それを表6に示した。
【0090】
[正極合材層の体積抵抗値の測定]
正極ペーストを、ポリエステルフィルムに垂らし、100μmのアプリケータで均一に塗工した。この塗工したポリエステルフィルムを100℃で1時間乾燥し厚み40μmの正極合材層を得た。
PSPプローブを装着したLoresta-GP(三菱ケミカルアナリテック製)にて限界電圧10vにて体積抵抗値を測定した。その結果は表6に示した。
【0091】
[放電容量維持率]
まず、負極を製造した。具体的には、負極活物質用に市販されるグラファイト94.8質量部と、アセチレンブラック1.7質量部と、SBR(スチレンブタジエンゴム)2重量部およびCMC(カルボキシメチルセルロース)1.5質量部を混合した。引き続き、この混合物に溶剤である蒸溜水を添加することによってスラリーを製造した。ドクターブレードを利用して前記スラリーを約100μm厚さで電解銅箔表面上に塗布し、120℃で乾燥させた後ロールプレス工程を遂行することによって負極を製造した。
【0092】
正極活物質(日本化学工業社製、NCM523)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、CNT(Cabot Performance material(Shenzhen)社製、GCNTs5)、表2に示す各共重合体、及び化合物Bを、97:2:1:0.225:0.025の重量比で有機溶媒であるNMPと混合してスラリーを製造した。前記スラリーを厚さ20μmのアルミホイルの両面に塗布した後、乾燥させることによって正極を製造した。
【0093】
また、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)を1:1の重量比で混合した非水性有機溶媒に溶質としてLiPF6を1M溶解させたものを電解液として調製した。
【0094】
このように製造された負極、正極、および電解液でコイン電池を製造し、電池特性(レート特性5C)を測定した。具体的には、電池を25℃の環境下で下記の条件に従い0.2Cで4.2Vまで充電し、その後0.2Cで3Vになるまで放電し放電容量を求めた。次いで5Cの放電容量を同様にして求め、0.2Cの放電容量を基準に5Cの放電容量維持率を求めた。
(充電条件)
0.2C CC-CV4.2V(0.02C Cut off)
(放電条件)
0.2,0.5,1,3,4,5,10C CC(3V Cut off)
5Cの放電容量維持率(%)=(5Cの放電容量/0.2Cの放電容量)×100
【0095】
2.共重合体の合成
[使用原料]
共重合体の合成に使用した原料の詳細は、下記及び表1、表2に記載の通りである。
(モノマーa)
SMA:ステアリルメタクリレート(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルS)
BeMA:ベヘニルメタクリレート(日油株式会社製、品番:ブレンマーVMA)
(モノマーb)
AN:アクリロニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
4-VPy:4-ビニルピリジン(東京化成工業製)
(モノマーc)
MAAm:メタクリルアミド(東京化成工業社製)
(モノマーd)
MEMA:メトキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製、ホモポリマーの吸着率1.5%)
PEG(2)MA:メトキシジエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルM-20G、エチレンオキサイドの平均付加モル数=2)
(有機塩基性化合物)
オクチルアミン(ファーミン08D 花王株式会社製)
(重合開始剤)
V-65B:2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(溶媒)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
[共重合体Aの合成例]
下記の滴下用モノマー溶液1~3と滴下用開始剤溶液を作製した。モノマーの滴下溶液はモノマー量に対し2倍量のNMPで希釈して調製した。
滴下用モノマー溶液1:44gのSMA(モノマーa1)と88gのNMP(溶媒)からなる混合溶液
滴下用モノマー溶液2:36gのAN(モノマーb1)と72gのNMPからなる混合溶液
滴下用モノマー溶液3:20gのMAAm(モノマーc1)と40gのNMPからなる混合溶液
滴下用開始剤溶液:1.6gのV-65B(重合開始剤)及び16gのNMP(溶媒)からなる混合溶液
【0099】
還流管、攪拌機、温度計、窒素導入管、及び滴下漏斗を取り付けたセパラブルフラスコ内を1時間以上窒素置換した。その後、滴下用モノマー溶液1~3、及び滴下用開始剤溶液を、各々、70℃のフラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、更に槽内を70℃に維持しながら1時間撹拌した。その後、フラスコ内を75℃まで昇温し、更に1時間撹拌した。次いで、21gのNMP(溶媒)を追加し、希釈を行うことで、共重合体Aの30質量%溶液を得た。その不揮発分は30.2質量%で、共重合体Aの重量平均分子量は36500であった。
【0100】
[共重合体C,D,F,G,H,Q,Pの合成例]
滴下用モノマー溶液の調製において、共重合体C,D,F,G,H,Q,Pの合成に使用される各モノマーの質量比を、各々、表2に記載の値とし、重合終了後、[共重合体Aの合成例]と同様にしてNMPで希釈することで、共重合体C,D,F,G,H,Q,Pの30質量%溶液を得た。
【0101】
[共重合体Bの合成例]
滴下用モノマー溶液1として、44gのBeMA(モノマーa2)と88gのNMP(溶媒)からなる混合溶液を用いたこと以外は、[共重合体Aの合成例]と同様にして、共重合体Bの30質量%溶液を得た。
【0102】
[共重合体Eの合成例]
滴下用モノマー溶液2として、36gの4-VPy(モノマーb2)と72gのNMP(溶媒)からなる混合溶液を用いたこと以外は、[共重合体Aの合成例]と同様にして、共重合体Eの30質量%溶液を得た。
【0103】
[共重合体Nの合成例]
滴下用モノマー溶液2に代えて、36gのMEMAと72gのNMP(溶媒)からなる混合溶液を用いたこと以外は、[共重合体Aの合成例]と同様にして、共重合体Nの30質量%溶液を得た。
【0104】
[共重合体Oの合成例]
滴下用モノマー溶液3に代えて、30gのPEG(2)MAと60gのNMP(溶媒)からなる混合溶液を用いたこと以外は、共重合体Dの合成例と同様にして、共重合体Oの30質量%溶液を得た。
【0105】
[共重合体Rの合成例]
滴下用モノマー溶液2に代えて、26gのPEG(2)MAと52gのNMP(溶媒)からなる混合溶液を用いたこと以外は、共重合体Dの合成例と同様にして、共重合体Rの30質量%溶液を得た。
【0106】
3.導電材スラリーの調製
表2に示す共重合体と、下記表3に示す導電材と、有機溶媒(NMP)と、必要に応じて有機塩基性化合物とを、表4に示す組成となるように、均一に混合し、導電材スラリーを得た。
【0107】
具体的には、導電材スラリー(2-1)は、導電材200gと、共重合体A溶液133gと、NMP(追加溶媒)3667gを室温にて混合し、粗分散液を4000g調製した。得られた粗分散液を、メディア撹拌型分散機(ダイノーミルKDL-PILOT型1.4 シンマルエンタープライゼス社製)に流量300g/分で通した。なお、分散装置の条件は、平均直径0.5mmのジルコニアビーズを充填率70%、周速10m/sとした。分散機を通過した粗分散液を容器に回収する一方、その容器から再度分散機に送液した。再度分散機に送液する前の分散機を通過して出てくる液温度は50℃に達していた。液循環を3時間行い導電材スラリー(2-1)を得た。
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
得られた導電材スラリーの粘度を、25℃、50℃で各々測定して、その結果を表6に示した。
各温度での粘度差が大きいほど、分散機中での分散性が低下している。同様にして2-2以降の導電材スラリーを調製した。
【0111】
4.正極ペーストの調製
表4に示す導電性スラリーと、正極活物質と、バインダー溶液と、NMP(追加溶媒)とを、表5に示す組成となるように、均一に混合し、正極ペーストを得た。
具体的には、導電材スラリー(2-1)と、NMP(追加溶媒)と、PVDFのNMP溶液(固形分8% KFポリマーL#7208、株式会社クレハ製、バインダー溶液)を、50mlのサンプルビンに秤取り、スパーテルで均一にかき混ぜた。その後、正極活物質としてNCM523(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、日本化学製)を添加し、再度スパーテルで均一になるまでかき混ぜた。さらに自転公転ミキサー(AR-100 株式会社 シンキー製)にて、10分間撹拌し、正極ペーストを得た。なお、正極活物質、結着剤(PVDF)、導電剤(カーボンナノチューブ)及び分散剤の質量比率は98.85:0.5:0.5:0.1(固形分換算)とし、正極ペーストの固形分量(質量%)は、77質量%とした。ここで、正極ペーストの固形分量とは、正極ペーストが含有する、共重合体、正極活物質、導電剤及び結着剤からなる材料の固形分の質量%である。
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
表6に示されるように、構成単位a、構成単位b、及び構成単位cを含む共重合体A~H,Q,Pを分散剤として含む導電材スラリーの25℃の初期粘度と50℃における粘度の差△は、構成単位bを含まない共重合体N,Rを分散剤として含む導電材スラリーより
も顕著に小さく、体積抵抗値も同等以下となっていることが分かる。構成単位cを含まない共重合体Oを分散剤として含む導電材スラリーについては、前記粘度差△は大きくない
が、電解液に対する溶解性が3.5%と高いため、充放電を繰り返した際に、電池性能において体積抵抗値の増加、放電容量維持率の低下がみられた。
【0115】
また、実施例9の導電材スラリー2-10の粘度及び粘度差△は、各々、実施例1の導
電材スラリー2-1の粘度及び粘度差△よりも小さく、化合物(B)を含むことで、導電
材の分散性が向上していることがわかる。分散剤の全構成単位中の構成成分cの含有量が20~35質量%の実施例については、構成単位a~cを含み、分散剤の全構成単位中の構成成分cの含有量が20質量%未満の実施例及び比較例よりも、体積抵抗値が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示の分散剤は、炭素材料系導電材を良好に分散させることができ、結果、導電材スラリーおよび正極ペーストの低粘度化を可能とする。そして、本開示の分散剤を、導電材ペーストや正極ペーストの調製に用いれば、導電材スラリーおよび正極ペーストの粘度も低く、正極塗膜の低抵抗化に寄与しうる。