(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172678
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】再生研磨剤スラリーの調製方法及び研磨剤スラリー
(51)【国際特許分類】
B24B 57/02 20060101AFI20221110BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20221110BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221110BHJP
C02F 11/12 20190101ALI20221110BHJP
C02F 11/143 20190101ALI20221110BHJP
B01D 29/25 20060101ALI20221110BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B24B57/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622A
C02F11/12 ZAB
C02F11/143
B01D37/06
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078740
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 篤
(72)【発明者】
【氏名】前澤 明弘
(72)【発明者】
【氏名】月形 扶美子
(72)【発明者】
【氏名】溝口 啓介
【テーマコード(参考)】
3C047
3C158
4D059
4D116
5F057
【Fターム(参考)】
3C047FF08
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5F057EA28
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、研磨速度の低下が少なく、傷やヤケの発生が少ない再生研磨剤スラリーの調製方法及び研磨剤スラリーを提供することである。
【解決手段】
本発明の再生研磨剤スラリーの調製方法は、酸化セリウム研磨剤と分散剤とを含有する基準研磨剤スラリーを用いてケイ素が主成分である被研磨物を研磨した後、使用済み研磨剤スラリーから、再生研磨剤スラリーを調製する再生研磨剤スラリーの調製方法であって、
スラリー回収工程と、分離濃縮工程と、
該分離して濃縮した前記酸化セリウム研磨剤にpH調整剤と前記分散剤を添加することにより、25℃換算のpH値を6.0~10.5の範囲内に、及び電気伝導率の値を前記基準研磨剤スラリーに対して0.10~10.00倍の範囲内になるように再生研磨剤スラリーを調整する研磨剤再生工程と、
を経て、再生研磨剤スラリーを調製することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウム研磨剤と分散剤とを含有する基準研磨剤スラリーを用いてケイ素が主成分である被研磨物を研磨した後、使用済み研磨剤スラリーから、再生研磨剤スラリーを調製する再生研磨剤スラリーの調製方法であって、
研磨機から排出される前記使用済み研磨剤スラリーを回収するスラリー回収工程と、
前記回収した研磨剤スラリーに対し、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離して濃縮する分離濃縮工程と、
該分離して濃縮した前記酸化セリウム研磨剤にpH調整剤と前記分散剤を添加することにより、25℃換算のpH値を6.0~10.5の範囲内に、及び電気伝導率の値を前記基準研磨剤スラリーに対して0.10~10.00倍の範囲内になるように再生研磨剤スラリーを調整する研磨剤再生工程と、
を経て、再生研磨剤スラリーを調製することを特徴とする再生研磨剤スラリーの調製方法
【請求項2】
前記基準研磨剤スラリーが、未使用の研磨剤スラリーであることを特徴とする請求項1に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【請求項3】
前記分散剤が、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤又は水溶性両性分散剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【請求項4】
前記分離濃縮工程において、フィルター濾過により、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【請求項5】
前記分離濃縮工程において、前記回収した研磨剤スラリーに対し、当該研磨剤スラリーの25℃換算のpH値が6.5以上、10.0未満の範囲内で、無機塩として2価のアルカリ土類金属塩を添加し、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【請求項6】
前記2価のアルカリ土類金属塩が、マグネシウム塩であることを特徴とする請求項5に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【請求項7】
前記pH調整剤が、無機酸、カルボン酸、アミン塩基又は水酸化アンモニウムであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【請求項8】
分散剤とpH調整剤とからなる添加剤、酸化セリウム研磨剤及びガラス成分を含有する研磨剤スラリーであって、
25℃換算のpH値が6.0~10.5の範囲内であり、
前記ガラス成分に対する前記添加剤の質量の比の値が、0.8~5500の範囲内であることを特徴とする研磨剤スラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生研磨剤スラリーの調製方法及び研磨剤スラリーに関し、より詳しくは、研磨速度の低下が少なく、傷やヤケの発生が少ない再生研磨剤スラリーの調製方法及び研磨剤スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスの精密研磨加工や、半導体製造の化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)加工において、酸化セリウムなどの希土類酸化物が研磨剤(「研磨材」又は「砥粒」ともいう。)として使用されている。光学ガラス、スマートフォンのカバーガラス及び車載用ディスプレイのカバーガラス等の多様な製品の仕上げ工程や、半導体のシリコン酸化膜等のCMP加工において、研磨剤として酸化セリウムを用いた研磨加工が実施されている。
【0003】
ガラスの研磨加工、あるいは、半導体のCMP加工において、酸化セリウムは、一般的に次のような方法で使用される。酸化セリウムの微粒子を水等に分散させたスラリーを、研磨布やブラシ等をガラスに押し当てて、圧力を加えながら相対運動させることで研磨加工が実施される。
【0004】
CMP加工においては、砥粒と被研磨物が接触した際に、物理的な力に加えて、化学的な作用を生じさせることで、優れた研磨性能が得られる。このため、CMP加工を行う上では、砥粒が、スラリーの中で、凝集せずに、安定に分散していることが重要となる。また、砥粒が研磨剤スラリー中で凝集し粗大な粒子となると、研磨加工により、被研磨物に傷等の欠陥を発生させる可能性が高まるため、加工品質の観点からも砥粒を研磨剤スラリー中で安定に分散させることは重要となる。
【0005】
近年、CMP加工における要求精度はますます高まっている。例えば、半導体であれば、配線の幅は、数nmまで微細化しており、加えて、配線の3次元化、積層化が行われるようになっている。従来は許容されていた、数nmの微小な傷、欠陥でさえ、発生した場合製品が不良品となることから、CMP加工後の品質に対する要求は非常に高くなっている。したがって、研磨剤スラリーの適切な管理は重要度を増している。
【0006】
ケイ素酸化物を主成分とする被研磨物のCMP加工においては、酸化セリウムが一般的に用いられる。酸化セリウムは、産出される地域が世界的に見ても遍在しており、また、酸化セリウムを含む鉱物から酸化セリウムを抽出するプロセスは環境負荷が高いものであるため、その利用にあたっては、貴重な資源を有効に利用することが強く望まれている。
【0007】
酸化セリウムを有効に利用する方法として、CMP加工に供された酸化セリウム研磨剤スラリーから研磨剤を回収して再生利用する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ケイ素が主成分である被研磨物を研磨した、酸化セリウム研磨剤を含有する使用済み研磨剤スラリーから、酸化セリウム研磨剤を再生する研磨剤の回収方法が開示されている。具体的には、回収した酸化セリウム研磨剤スラリーに対して、母液の25℃換算のpHが7~10の条件で無機塩を添加し、研磨剤を被研磨物由来成分から分離して凝集させ、該研磨剤を母液より分離して濃縮したのち、分散剤等を添加し、研磨剤成分を再分散させることにより、酸化セリウム研磨剤を回収する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2及び特許文献3には、使用済み研磨剤スラリーから、酸化セリウム研磨剤を回収する方法が開示されている。具体的には、ケイ素を主成分として含む被研磨物を研磨した研磨剤スラリーから研磨剤を回収する方法であって、pH調整剤を使用しない条件下で、溶媒を添加し、被研磨物粒子を溶解したのち、研磨剤スラリーを濾過して研磨剤を回収する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、上記先行技術文献に記載の方法で回収又は再生した研磨剤を含有する研磨剤スラリーを用いて、CMP加工を実施したところ、研磨速度の低下や、傷やヤケ(被研磨物の外観が白く曇ったり、干渉膜が生じる現象)が発生してしまうことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6292119号公報
【特許文献2】特許第5850192号公報
【特許文献3】特許第5843036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、研磨速度の低下が少なく、傷やヤケの発生が少ない再生研磨剤スラリーの調製方法及び研磨剤スラリーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、再生研磨剤に含まれる、被研磨物成分、あるいは被研磨物成分から溶出したイオン成分、研磨剤としての使用から回収に至る過程で混入した金属イオン等成分により、研磨剤スラリーに含まれる砥粒の分散安定性が低下し、砥粒成分が凝集状態になってしまうこと。また、再生した研磨剤スラリーのpHが変動することが原因であることが推察された。この対応として、最終的に再生研磨剤スラリーを調製する研磨剤再生工程において、再生研磨剤スラリーに混入した被研磨物成分、被研磨物成分から溶出したイオン成分又は研磨剤としての使用から回収に至る過程で混入した金属イオン等成分と相互作用する成分を含有するpH調整剤と分散剤を添加し、再生研磨剤スラリーのpH値と電気伝導率の値を特定範囲に調整することにより、再生した研磨剤スラリーごとの研磨速度の低下や、傷の発生を少なくできることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.酸化セリウム研磨剤と分散剤とを含有する基準研磨剤スラリーを用いてケイ素が主成分である被研磨物を研磨した後、使用済み研磨剤スラリーから、再生研磨剤スラリーを調製する再生研磨剤スラリーの調製方法であって、
研磨機から排出される前記使用済み研磨剤スラリーを回収するスラリー回収工程と、
前記回収した研磨剤スラリーに対し、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離して濃縮する分離濃縮工程と、
該分離して濃縮した前記酸化セリウム研磨剤にpH調整剤と前記分散剤を添加することにより、25℃換算のpH値を6.0~10.5の範囲内に、及び電気伝導率の値を前記基準研磨剤スラリーに対して0.10~10.00倍の範囲内になるように再生研磨剤スラリーを調整する研磨剤再生工程と、
を経て、再生研磨剤スラリーを調製することを特徴とする再生研磨剤スラリーの調製方法。
【0014】
2.前記基準研磨剤スラリーが、未使用の研磨剤スラリーであることを特徴とする第1項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【0015】
3.前記分散剤が、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤又は水溶性両性分散剤であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【0016】
4.前記分離濃縮工程において、フィルター濾過により、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮することを特徴とする第1項又から第3項までのいずれか一項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【0017】
5.前記分離濃縮工程において、前記回収した研磨剤スラリーに対し、当該研磨剤スラリーの25℃換算のpH値が6.5以上、10.0未満の範囲内で、無機塩として2価のアルカリ土類金属塩を添加し、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮することを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【0018】
6.前記2価のアルカリ土類金属塩が、マグネシウム塩であることを特徴とする第5項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【0019】
7.前記pH調整剤が、無機酸、カルボン酸、アミン塩基又は水酸化アンモニウムであることを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の再生研磨剤スラリーの調製方法。
【0020】
8.分散剤とpH調整剤とからなる添加剤、酸化セリウム研磨剤及びガラス成分を含有する研磨剤スラリーであって、
25℃換算のpH値が6.0~10.5の範囲内であり、
前記ガラス成分に対する前記添加剤の質量の比の値が、0.8~5500の範囲内であることを特徴とする研磨剤スラリー。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記手段により、研磨速度の低下が少なく、傷やヤケの発生が少ない再生研磨剤スラリーの調製方法及び研磨剤スラリーを提供することができる。
【0022】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0023】
例えば、未使用の研磨剤スラリーを用いて研磨加工した後、使用済み研磨剤スラリーから研磨剤スラリーを再生させる場合を考える。再生される研磨剤スラリーは、CMP装置に供給され、加工に用いられた後、使用済みスラリーとして回収される。そして再生処理において、各種方法で、使用済みスラリーに含まれる被研磨物成分を取り除いたのち、分散剤等を添加することで、再生研磨剤スラリーとして再生される。CMP加工での使用から、スラリー回収工程、分離濃縮工程及び研磨剤再生工程に至るプロセスの中で、未使用の研磨剤スラリーには様々な成分が再生研磨剤スラリーに混入する。
【0024】
例えば、回収された使用済み研磨剤スラリーにおいては、スラリー中に存在する被研磨物成分の他に、被研磨物成分から溶解したイオン成分、研磨パット等の屑が混入する。また、研磨剤スラリーを分散させる溶媒として超純水を用いる場合では、大気に含まれる二酸化炭素を由来とする炭酸イオン等の混入がある。
【0025】
再生処理された研磨剤スラリーにおいては、再生処理のためにアルカリ金属イオン(又は、アルカリ土類金属イオン)や、分散剤等が投入される。これらの混入物のうち、再生された研磨剤スラリーの中に溶解状態で含まれる被研磨物からの溶解成分や、大気から混入する炭酸イオン、再生処理で加えたアルカリ金属イオン(又は、アルカリ土類金属イオン)、分散剤成分等の影響により、再生処理の度に、再生研磨剤スラリーに含まれる砥粒の表面状態、及び再生研磨剤スラリーのpH値や分散剤濃度が変動してしまう。その結果、再生した研磨剤スラリーに含まれる酸化セリウム研磨剤成分の分散安定性が低下し、再生研磨剤スラリー中の砥粒成分の凝集が発生してしまうと、再生した研磨剤スラリーごとの研磨速度の低下、傷の発生及び被研磨物表面が白く曇ったり、干渉膜により着色する「白ヤケ」や「青ヤケ」と呼ばれる「ヤケ」が発生しやすいことが分かった。
【0026】
このため、再生研磨剤を調製する研磨剤再生工程において、pH調整剤と分散剤を添加することによって、再生研磨剤スラリーのpH値を特定の範囲内に、及び分散剤の濃度の指標として再生研磨剤スラリーの電気伝導率の値を、基準研磨剤スラリーに対して特定範囲に調整することにより、pH値と分散剤の濃度が、最適な範囲に保たれ、再生した研磨剤スラリーごとの研磨速度の低下や、品質のばらつきを軽減することができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】再生研磨剤スラリーの調製方法の基本的な工程フローの一例を示す模式図
【
図2】分離濃縮工程(凝集沈殿法)のフローの一例を示した概略図
【
図3】分離濃縮工程(フィルター濾過法)の一例を示した概略図
【
図4】超音波分散機を用いた研磨剤再生工程の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の再生研磨剤スラリーの調製方法は、酸化セリウム研磨剤と分散剤とを含有する基準研磨剤スラリーを用いてケイ素が主成分である被研磨物を研磨した後、使用済み研磨剤スラリーから、再生研磨剤スラリーを調製する再生研磨剤スラリーの調製方法であって、研磨機から排出される前記使用済み研磨剤スラリーを回収するスラリー回収工程と、前記回収した研磨剤スラリーに対し、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離して濃縮する分離濃縮工程と、該分離して濃縮した前記酸化セリウム研磨剤にpH調整剤と前記分散剤を添加することにより、25℃換算のpH値を6.0~10.5の範囲内に、及び電気伝導率の値を前記基準研磨剤スラリーに対して0.10~10.00倍の範囲内になるように再生研磨剤スラリーを調整する研磨剤再生工程とを経て、再生研磨剤スラリーを調製することを特徴とする。この特徴は、下記各実施態様(形態)に共通する技術的特徴である。
【0029】
本発明の実施態様としては、前記基準研磨剤スラリーが、未使用の研磨剤スラリーであることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0030】
また、本発明の効果発現の観点から、前記分散剤が、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤又は水溶性両性分散剤であることが好ましい。
【0031】
また、前記分離濃縮工程において、フィルター濾過により、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮することが、セリウム濃度が高い再生研磨剤スラリーを回収できることから好ましい。
【0032】
さらに、本発明においては、前記分離濃縮工程において、前記回収した研磨剤スラリーに対して、無機塩を添加する事により、酸化セリウム研磨剤粒子と、非研磨物成分を分離する場合は、前記回収した研磨剤スラリーに対し、当該研磨剤スラリーの25℃換算のpH値が6.5以上、10.0未満の範囲内で、無機塩として2価のアルカリ土類金属塩を添加し、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮することが好ましい。これにより、回収した、使用済み研磨剤スラリーに含まれる、酸化セリウム研磨剤粒子と、被研磨物成分を効果的に分離することができる。
【0033】
また、前記2価のアルカリ土類金属塩が、マグネシウム塩であることが、回収した、使用済み研磨剤スラリーに含まれる、酸化セリウム研磨剤粒子と、被研磨物成分を分離する観点から好ましい。
【0034】
また、前記pH調整剤が、無機酸、カルボン酸、アミン塩基又は水酸化アンモニウムであることが、研磨加工において、不要である余分な金属イオンのコンタミネーションを抑える観点から好ましい。
【0035】
また、本発明の研磨剤スラリーは、分散剤とpH調整剤とからなる添加剤、酸化セリウム研磨剤及びガラス成分を含有する研磨剤スラリーであって、25℃換算のpH値が6.0~10.5の範囲内であり、前記ガラス成分に対する前記添加剤の質量の比の値が、0.8~5500の範囲内であることを特徴とする。
【0036】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
また、本発明において「基準研磨剤スラリー」とは、再生研磨剤スラリーの調製において基準となる研磨剤スラリーであり、研磨剤スラリー加工の目的・用途に応じて新たに調製される研磨剤スラリーをいう。基準研磨剤スラリーを用いて研磨加工したのち、使用済みの研磨剤スラリーから再生研磨剤スラリーを調製する際、電気伝導率の値の調整の基準となる研磨剤スラリーである。
基準研磨剤スラリーは、未使用の研磨剤スラリーであることが好ましいが、再生研磨剤スラリーであっても良い。すなわち、再生研磨剤スラリーを、目的用途により基準研磨剤スラリーとして新たに調製し、基準研磨剤スラリーとすることができる。
【0037】
《再生研磨剤スラリーの調製方法》
本発明の再生研磨剤スラリーの調製方法は、酸化セリウム研磨剤と分散剤とを含有する基準研磨剤スラリーを用いてケイ素が主成分である被研磨物を研磨した後、使用済み研磨剤スラリーから、再生研磨剤スラリーを調製する再生研磨剤スラリーの調製方法であって、研磨機から排出される前記使用済み研磨剤スラリーを回収するスラリー回収工程と、前記回収した研磨剤スラリーに対し、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離して濃縮する分離濃縮工程と、該分離して濃縮した前記酸化セリウム研磨剤にpH調整剤と前記分散剤を添加することにより、25℃換算のpH値を6.0~10.5の範囲内に、及び電気伝導率の値を前記基準研磨剤スラリーに対して0.10~10.00倍の範囲内になるように再生研磨剤スラリーを調整する研磨剤再生工程と、を経て、再生研磨剤スラリーを調製することを特徴とする。
【0038】
このようにして、研磨剤再生工程において、再生研磨剤スラリーに混入した被研磨物成分、被研磨物成分から溶出したイオン成分又は研磨剤としての使用から回収に至る過程で混入した金属イオン等成分と相互作用するpH調整剤と前記分散剤を添加することにより、再生研磨剤スラリーのpH値と、電気伝導率の値を指標として分散剤濃度を特定範囲内に規定することにより、本発明の課題を達成することができる。
【0039】
はじめに、本実施形態の再生研磨剤スラリーの調製方法の工程フローについて説明する。
図1は、本実施形態の再生研磨剤スラリーの調製の基本的な工程フローの一例を示す模式図である。
【0040】
図1に示した研磨工程においては、研磨装置1は、不織布、合成樹脂発泡体、合成皮革などから構成される研磨布Fを貼付した研磨定盤2を有しており、この研磨定盤2は回転可能となっている。研磨作業時には、被研磨物(例えば、ガラス)3を所定の押圧力で上記研磨定盤2に押し付けながら、研磨定盤2を回転させる。同時に、スラリーノズル5から、ポンプを介して酸化セリウムを含む研磨剤液4を供給する。酸化セリウムを含む研磨剤液4は、流路6を通じてスラリー槽T
1に貯留され、研磨装置1とスラリー槽T
1との間を繰り返し循環する。
【0041】
また、研磨装置1を洗浄するための洗浄水7は、洗浄水貯蔵槽T2に貯留されており、洗浄水噴射ノズル8より、研磨部に吹き付けて洗浄を行い、研磨剤を含む洗浄液10は、ポンプを介し、流路9を通じて、洗浄液貯蔵槽T3に貯留される。この洗浄液貯蔵槽T3は、洗浄(リンス)で使用された後の洗浄水を貯留するための槽であり、沈殿、凝集を防止するため、常時撹拌羽根によって撹拌されている。
【0042】
上記研磨工程で生じたスラリー槽T1に貯留され、循環して使用された研磨剤液4(後述する研磨剤スラリー2)と、洗浄液貯蔵槽T3に貯留された研磨剤を含む洗浄液10(後述する研磨剤スラリー1)は、共に、研磨剤である酸化セリウム粒子と共に、研磨工程1で研磨された被研磨物(例えば、ガラス)3より削り取られた非研磨剤を含有した状態になっている。
【0043】
次いで、この研磨剤液4と研磨剤を含む洗浄液10は、両者を混合液、あるいはそれぞれ個別の液として、回収される。この工程を、スラリー回収工程と称す。
【0044】
次いで、スラリー回収工程で回収された研磨剤液4と研磨剤を含む洗浄液10の混合液、あるいはそれぞれの単独液(以降、これらの液を母液と称す)に対し、被研磨物(例えば、ガラス成分)を凝集させない状態で、該研磨剤のみを母液より分離して濃縮する(分離濃縮工程)。
【0045】
分離濃縮する方法としては、回収した母液に、凝集剤として2価のアルカリ土類金属塩を添加し、前酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮する方法(以下「凝集沈殿法」ともいう)と、フィルター濾過により、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮する方法(以下「フィルター濾過法」ともいう)を用いることが好ましい。または、これらを併用して用いることもできる。
【0046】
凝集沈殿法においては、分離操作は、強制的な分離手段は適用せずに、自然沈降による固液分離を行うことが好ましい。このようにして母液を、被研磨物等を含む上澄み液と、下部に沈殿した酸化セリウムを含む濃縮物とに分離した後、デンカンテーション法、例えば、釜を傾斜させて上澄み液を排液する、あるいは、排液パイプを分離した釜内の上澄み液と濃縮物の界面近くまで挿入し、上澄み液のみを釜外に排出して研磨剤を回収する。
【0047】
フィルター濾過法においては、研磨剤のみを濾過するため、必要に応じて水等の溶媒を用いて、非研磨剤成分をあらかじめ溶解しておくことが好ましい。
【0048】
次いで、分離して濃縮した前記酸化セリウム研磨剤に再生研磨剤スラリーに混入した被研磨物成分、被研磨物成分から溶出したイオン成分又は研磨剤としての使用から回収に至る過程で混入した金属イオン等成分と相互作用するpH調整剤と前記分散剤を添加することにより、25℃換算のpH値を6.0~10.5の範囲内に、及び電気伝導率の値を基準研磨剤スラリーに対して0.10~10.00倍の範囲内になるように再生研磨剤スラリーを調整する(研磨剤再生工程)。
【0049】
このようにpH調整剤と分散剤を添加することによって、再生研磨剤スラリーのpH値と、分散剤の濃度の指標として再生研磨剤スラリーの電気伝導率の値を、基準研磨剤スラリーに対して特定範囲に調整することにより研磨速度の低下や、品質のばらつきを軽減することができるものと推定される。
【0050】
また、濃縮した酸化セリウムを含む濃縮物で、酸化セリウム粒子が凝集体(二次粒子)を形成している場合は、独立した一次粒子に近い状態まで解きほぐすため、研磨剤再生工程では、分散剤と、pH調整剤を添加した後、分散装置を用いて、所望の粒子径まで分散して粒子径を制御することが好ましい。
以上のようにして、高品位の再生研磨剤スラリーを、簡易な方法で得ることができる。 次いで、本実施形態の再生研磨剤スラリーの調製方法及び構成技術の詳細について説明する。
【0051】
〔研磨剤〕
一般に、光学ガラスや半導体基板等の研磨剤としては、ベンガラ(αFe2O3)、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、コロイダルシリカ等の微粒子を水や油に分散させてスラリー状にしたものが用いられているが、本発明においては、半導体基板の表面やガラスの研磨加工において、高精度に平坦性を維持しつつ、十分な加工速度を得るために、物理的な作用と化学的な作用の両方で研磨を行う、化学機械研磨(CMP)加工に適用が可能な酸化セリウムを主成分とする研磨剤を用いる。
【0052】
研磨剤として使用される酸化セリウムは、酸化セリウムの含有量がほぼ100%である、高純度の酸化セリウムを用いる場合と、それ以外に、純粋な酸化セリウムではなく、バストネサイトと呼ばれる、セリウム以外の希土類元素を含む鉱石を焼成した後、粉砕したものが利用されるケースがある。その他希土類成分として、ランタンやネオジウム、プラセオジウム等の希土類元素を含有し、酸化物以外にフッ化物等が含まれることもある。
【0053】
本発明に使用される酸化セリウムは、その成分及び形状に関しては、特に限定はなく、一般的に研磨剤として市販されているものを使用することができ、酸化セリウム含有量が50質量%以上である場合に、効果が大きく好ましい。
【0054】
〔研磨工程〕
研磨剤としては、下記に示すような使用形態(研磨工程)を有する。
被研磨物としては、ケイ素を主成分とする被研磨物を用いる。例えば、光学ガラス、情報記録媒体用ガラス基板、スマートフォンのカバーガラス及び車載用ディスプレイのカバーガラス、シリコンウェハー等を用いることができる。ガラス基板の研磨を例にとると、前記
図1で説明したように、研磨工程は、研磨剤スラリーの調製、研磨加工及び洗浄で一連の工程を構成していることが一般的である。
【0055】
(1)基準研磨剤スラリーの調製
基準研磨剤スラリーは、再生研磨剤スラリーの調製において基準となる研磨剤スラリーであり、研磨剤スラリー加工の目的・用途に応じて新たに調製される研磨剤スラリーである。
【0056】
基準研磨剤スラリーが、未使用の研磨剤スラリーの場合、酸化セリウムを主成分とする研磨剤の粉体と分散剤を用いて、研磨剤の含有量が、水等の溶媒に対して0.1~40質量%になるように、研磨剤スラリーを調製することが好ましい。研磨剤として使用される酸化セリウム微粒子は、平均粒子径(粒子径(D50))が数十nmから数μmの大きさの粒子が使用される。
【0057】
本発明においては、分散剤を添加することにより、酸化セリウム粒子の凝集を防止するとともに、沈降を防止するために、撹拌機等を用いて常時撹拌して分散状態を維持する。一般には、研磨機の横に研磨剤スラリー用のタンクを設置し、撹拌機等を使用して常時分散状態を維持し、供給用ポンプを使用して研磨機に循環供給する方法を採用することが好ましい。
【0058】
基準研磨剤スラリーは、未使用の研磨剤スラリーであることが好ましいが、再生研磨剤スラリーであっても良い。すなわち、再生研磨剤スラリーを、目的や用途により基準研磨剤スラリーとして新たに調製し、基準研磨剤スラリーとすることができる。
例えば、石英ガラスの研磨加工に用いた使用済み研磨剤スラリーを回収して本発明に従い再生研磨剤スラリーを調製し、これを、新たにアルミノシリケートガラス研磨用の基準研磨剤スラリーとして異なる添加剤等を添加して、アルミのシリケートガラス研磨用の基準研磨剤スラリーとして用いることができる。このような再生研磨剤スラリーを基準研磨剤スラリーとして、本発明に従いアルミのシリケートガラス研磨用の再生研磨剤スラリーをさらに調製することができる。
【0059】
このように、基準研磨剤スラリーとして新たに調製する場合としては、上記のように被研磨物が異なる場合や、同じ製品を研磨加工する際でも、粗研磨や精密研磨のように複数の研磨工程を有する場合が挙げられる。新たに調製する基準研磨剤スラリーに添加する添加剤としては、pH調製剤、分散剤が挙げられる。
【0060】
(分散剤)
分散剤として、例えば、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤、水溶性両性分散剤等が挙げられる。また、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリル酸アミドとアクリル酸アンモニウムとの共重合体及びポリアクリル酸マレイン酸共重合体等の分散剤も好ましい。
【0061】
また、共重合成分としてアクリル酸アンモニウム塩を含む高分子分散剤の少なくとも1種類と、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤、水溶性両性分散剤から選ばれた少なくとも1種類とを含む2種類以上の分散剤を併用してもよい。
【0062】
これらの中でも、本発明に用いる分散剤は、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤又は水溶性両性分散剤であることが、再生した研磨剤スラリーに含まれる分散剤の量を、電気伝導率の値を指標に、計測、及び制御する観点から好ましい。
【0063】
また、半導体素子の製造に係る研磨に使用する場合、分散剤中のナトリウムイオン、カリウムイオン等の金属電素の含有率は10ppm以下に抑えることが好ましい。
【0064】
〈水溶性陰イオン性分散剤〉
陰イオン性分散剤としては、例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリカルボン酸型高分子分散剤等が挙げられる。
【0065】
前記ポリカルボン酸型高分子分散剤としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和二重結合を有するカルボン酸単量体の重合体、不飽和二重結合を有するカルボン酸単量体と他の不飽和二重結合を有する単量体との共重合体、及びそれらのアンモニウム塩やアミン塩などが挙げられる。
【0066】
〈水溶性陽イオン性分散剤〉
陽イオン性分散剤としては、例えば、第一~第三脂肪族アミン、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウムアルキルピリジニウム、2-アルキル-1-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウム、N,N-ジアルキルモルホリニウム、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウム及びこれらの塩等が挙げられる。
【0067】
〈水溶性両性分散剤〉
水溶性両性分散剤としては、ベタイン性分散剤が好ましい。ベタイン性分散剤としては、例えば、N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N-トリアルキル-N-スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N-ジアルキル-N,N-ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2-アルキル-1-カルボキシメチル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどのベタイン類;N,N-ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩などのアミノカルボン酸類等が挙げられる。
【0068】
〈分散剤の添加量〉
これらの分散剤の添加量は、研磨剤スラリー中の研磨剤粒子の分散性及び沈降防止、さらに研磨傷と分散剤添加量との関係から、酸化セリウム粒子100質量部に対して、0.01~5.0質量部の範囲内が好ましい。分散剤の分子量は、100~50000の範囲内が好ましく、1000~10000がより好ましい。分散剤の分子量が100以上であれば、十分な研磨速度を得ることができ、分散剤の分子量が50000以下であれば、粘度の上昇を抑制し、CMP研磨剤の保存安定性を確保することができる。
【0069】
これらの研磨剤粒子を水中に分散させる方法としては、通常の撹拌機による分散処理の他にホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミルなどを用いることができる。こうして作製された研磨剤スラリー中の研磨剤粒子の粒子径(D50)は、0.01~1.0μmの範囲内であることが好ましい。研磨剤粒子の粒子径(D50)が0.01μm以上であれば、高い研磨速度を得ることができ、1.0μm以下であれば、研磨時の被研磨膜表面のすり傷等の発生を防止することができる。
【0070】
(2)研磨
図1に示すように、研磨パット(研磨布)と、被研磨物として例えばガラス基板を接触させ、接触面に対して研磨剤スラリーを供給しながら、加圧条件下で研磨パットとガラス基板を相対運動させて、ガラス基板を研磨する。
【0071】
(3)洗浄
研磨された直後のガラス基板及び研磨機には大量の研磨剤が付着している。そのため、
図1で説明したように、研磨した後に研磨剤スラリーの代わりに水等を供給し、ガラス基板及び研磨機に付着した研磨剤の洗浄が行われる。この際に、研磨剤を含む洗浄液は系外に排出される。
【0072】
この洗浄操作で、一定量の研磨剤が系外に排出されるため、系内の研磨剤量が減少する。この減少分を補うために、スラリー槽T1に対して新たな研磨剤スラリーを追加することができる。追加の方法は1回の加工毎に追加を行っても良いし、一定加工毎に追加を行っても良いが、溶媒に対して十分に分散された状態の研磨剤を供給することが望ましい。
【0073】
〔使用済み研磨剤スラリー〕
本発明でいう使用済み研磨剤スラリーとは、研磨機及び研磨剤スラリー用タンクからなる系の外部に排出される研磨剤スラリーであって、主として以下に示す二種類ある。
【0074】
一つ目は洗浄工程で排出される洗浄液を含む研磨剤スラリー1(リンススラリー)であり、二つ目は一定加工回数使用された後に廃棄される、スラリー槽T1に貯留されている使用済み研磨剤スラリー2(ライフエンド)である。本発明では、それぞれ研磨剤スラリー1、研磨剤スラリー2と称す。なお、本発明は、研磨剤スラリー1及び2の両方に適用することが好ましいが、どちらか一方にのみ適用してもよい。
【0075】
洗浄水を含む研磨剤スラリー1の特徴として、以下の2点が挙げられる。
1)洗浄時に排出されるために洗浄水が大量に流入し、タンク内のスラリーと比較して研磨剤濃度が低下している。
2)研磨布等に付着しているガラス成分も、洗浄時にこの研磨剤スラリー1中に流入する。
【0076】
一方、使用済み研磨剤スラリー2の特徴としては、使用前の研磨剤スラリーと比較して被研磨物成分濃度が高くなっていることが挙げられる。
【0077】
〔再生研磨剤スラリーの調製〕
本発明の再生研磨剤スラリー調製方法では、
図1で概要を説明したように、概ねスラリー回収工程、分離濃縮工程及び研磨剤再生工程の3つの工程から構成されている。
【0078】
(1:スラリー回収工程)
研磨機及びスラリー用タンクからなる系から排出される研磨剤スラリーを回収する工程である。回収する研磨剤スラリーには、前記洗浄水を含む研磨剤スラリー1と使用済み研磨剤スラリー2の2種類が含まれる。
【0079】
一般に回収した研磨剤スラリーには、0.01~40質量%の範囲内で酸化セリウム研磨剤が含まれる。
【0080】
研磨剤スラリーは回収された後、直ちに分離工程に進めても良いし、一定量を回収するまで貯蔵しても良いが、いずれの場合も回収されたスラリーは常時撹拌し、分散状態を維持することが好ましい。
【0081】
本発明においては、スラリー回収工程で回収した研磨剤スラリー1と研磨剤スラリー2とを混合して母液を調製した後、以降の分離濃縮工程で処理する方法であっても、あるいはスラリー回収工程で回収した研磨剤スラリー1と研磨剤スラリー2とを、それぞれ独立した母液として、以降の分離濃縮工程で処理してもよい。
【0082】
(2:分離濃縮工程)
前述したように、分離濃縮工程では、凝集沈殿法又はフィルター濾過法を用いることができる。
【0083】
〈凝集沈殿法〉
凝集沈殿法は、スラリー回収工程で回収した研磨剤スラリー(母液)に、無機塩として2価のアルカリ土類金属塩又は1価のアルカリ金属塩を添加し、酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮する方法である。
【0084】
具体的には、回収した研磨剤スラリー(母液)に対し、当該研磨剤スラリーの25℃換算のpH値が6.5以上、10.0未満の範囲内で、無機塩として2価のアルカリ土類金属塩を添加し、酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮することが好ましい。これにより、酸化セリウムを主成分とする研磨剤成分のみを凝集沈殿させた後、ガラス成分をほとんど上澄みに存在させて凝集物を分離することで、酸化セリウム成分とガラス成分との分離と、研磨剤スラリーの濃縮を同時に行うことが可能である。アルカリ土類金属塩は、使用済み研磨剤スラリーに含まれる酸化セリウムを選択的に凝集、沈殿させる凝集剤として用いる。
【0085】
なお、pH値を調整するために用いるpH調整剤は、後述する研磨剤再生工程に記載のpH調整剤と同じものを用いることができる。
具体的な操作について、
図2を用いて説明する。
【0086】
図2は、本発明の再生研磨剤スラリーの調製方法における分離濃縮工程(凝集沈殿法)のフローの一例を示した概略図である。
【0087】
工程(B-1)として前工程であるスラリー回収工程で回収した研磨剤スラリー(母液)13を、撹拌機15を備えた調整釜14に投入する、次いで、工程(B-2)において、研磨剤スラリー(母液)13に対し、撹拌しながら、研磨剤スラリー13の25℃換算のpH値を6.5以上、10.0未満に調整した後、無機塩として2価のアルカリ土類金属塩を添加容器16より添加する。次いで、工程(B-3)で、無機塩の添加により、研磨剤スラリー(母液)13中に含まれる酸化セリウム粒子のみが凝集し、底部に沈降し、凝集体18を形成する。酸化セリウムが分離沈降した上澄み液17には、ガラス等の非研磨剤が含有され、ここで、研磨剤と非研磨剤とが分離される。
【0088】
〈2価のアルカリ土類金属塩〉
本発明においては、酸化セリウムの凝集に用いる無機塩が、2価のアルカリ土類金属塩であることが好ましい。
【0089】
本発明に係る2価のアルカリ土類金属塩としては、例えば、カルシウム塩、バリウム塩、ベリリウム塩、マグネシウム塩等を挙げることができるが、その中でも、本発明の効果をより発現することができる観点から、2価のアルカリ土類金属塩は、マグネシウム塩であることが好ましい。
【0090】
本発明に適用可能なマグネシウム塩としては、電解質として機能するものであれば限定はないが、水への溶解性が高い点から、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどが好ましく、溶液のpH変化が小さく、沈降した研磨剤及び廃液の処理が容易である点から、塩化マグネシウム及び硫酸マグネシウムが特に好ましい。
【0091】
〈2価のアルカリ土類金属塩の添加方法〉
2価のアルカリ土類金属塩であるマグネシウム塩の添加方法を説明する。
a)マグネシウム塩の濃度
添加するマグネシウム塩は、粉体を回収スラリーに直接供給しても良いし、水等の溶媒に溶解させてから研磨剤スラリーに添加してもよいが、研磨剤スラリーに添加した後に均一な状態になるように、溶媒に溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0092】
好ましい濃度は、0.5~50質量%の水溶液とすることである。系のpH変動を抑え、ガラス成分との分離を効率化するためには、1~10質量%であることがより好ましい。
【0093】
b)マグネシウム塩の添加温度
マグネシウム塩を添加する際の温度は、回収した研磨剤スラリーが凍結する温度以上であって、90℃までの範囲で有れば適宜選択することができるが、ガラス成分との分離を効率的に行う観点からは、10~40℃の温度範囲内であることが好ましく、15~35℃の温度範囲内であることがより好ましい。
【0094】
c)マグネシウム塩の添加速度
マグネシウム塩を添加する速度は、回収した研磨剤スラリー中でのマグネシウム濃度が局所的に高濃度になることがなく、均一になるように添加することが好ましい。1分間当たりの添加量が全添加量の20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0095】
d)マグネシウム塩添加時のpH値
離濃縮工程では、マグネシウム塩を添加し、母液の25℃換算のpH値が、6.5以上、10.0未満の条件で分離濃縮を行うことが好ましい。
【0096】
e)マグネシウム塩添加後の撹拌
マグネシウム塩を添加した後、少なくとも10分以上撹拌を継続することが好ましく、より好ましくは30分以上である。マグネシウム塩を添加すると同時に研磨剤粒子の凝集が開始されるが、撹拌状態を維持することで凝集状態が系全体で均一となり凝集物の粒度分布が狭くなり、その後の分離が容易となる。
【0097】
図2に示すように、ガラス成分を含む上澄み液17と酸化セリウム粒子を含む凝集体18に分離した後、凝集体18を回収する。
【0098】
f)研磨剤凝集物の分離の方法
マグネシウム塩の添加により凝集した研磨剤の凝集体と上澄み液とを分離する方法としては、一般的な凝集物の分離方法をいずれも採用することができる。すなわち、自然沈降を行って上澄みだけを分離することができ、また遠心分離機等の物理的な方法を行うこともできる。再生酸化セリウム含有研磨剤の純度の点から、自然沈降を行うことが好ましい。
【0099】
この状態では上澄み液が分離されていることから、回収スラリーと比較して比重が増加し、濃縮されていることとなる。このスラリーには、回収されたスラリー以上の濃度の酸化セリウムが含有されている。
【0100】
凝集した研磨剤の凝集体と上澄み液とを分離する方法の一例としては、
図2において、工程(B-3)で示したように、自然沈降により、非研磨剤等を含む上澄み液17と、下部に沈殿した酸化セリウムを含む濃縮物である凝集体18とに分離した後、工程(B-4)として、排液パイプ19を釜14内の上澄み液17と凝集体18の界面近くまで挿入し、上澄み液17のみを、ポンプ20を用いて、釜外に排出して、工程(B-5)で研磨剤を含有する凝集体18を回収する。
【0101】
<フィルター濾過法>
フィルター濾過法は、フィルター濾過により、前記酸化セリウム研磨剤を被研磨物由来成分から分離濃縮する方法である。凝集沈殿法により研磨剤を分離濃縮して得られた再生研磨剤スラリーを用いて研磨すると、被研磨物に金属元素が混入する場合がある。
【0102】
半導体の分野における、例えばシリコン酸化膜の研磨では、金属元素の混入を避けるために、分離濃縮工程にはフィルター濾過法を用いることが好ましい。
【0103】
フィルター濾過法においては、非研磨剤を凝集させない状態で、研磨剤のみを濾過するため、必要に応じて水等の溶媒を用いて、非研磨剤成分をあらかじめ溶解しておくことが好ましい。また、必要に応じ、研磨パットの破片などの異物を除去しておくこともできる。
【0104】
(異物除去)
スラリー回収工程で回収した研磨剤スラリー(母液)には、洗浄水と使用済み研磨剤スラリー以外の研磨パッド等の異物が含まれる場合があり、異物を除去するために、20~100μmのフィルターを使用して、これを除去することが好ましい。
【0105】
(溶解)
異物除去により異物を除去した研磨剤回収スラリー22を、温度調節部を備え付けたフィルター濾過装置内のタンク21に投入する(
図3参照)。
【0106】
ここで、回収スラリー中の被研磨物成分、例えば、シリカ濃度を確認するために、ICP発光分光プラズマによる成分分析を行うことも好ましい。成分分析を行うことにより、被研磨物成分の含有量がわかるため、添加する溶媒量の調整や、溶解及び濾過の繰り返し回数を調整することができる。
被研磨物成分の濃度を確認した回収スラリーに溶媒を添加し、撹拌機23により撹拌して、被研磨物を溶解させる。
【0107】
添加する溶媒量は、研磨剤スラリーに含有される被研磨物成分の濃度に応じて調整することが好ましく、特に、前記被研磨物の飽和溶解度の1.8倍以下になるように溶媒を研磨剤スラリーに加えて調整することが好ましい。被研磨物成分の飽和溶解度の1.8倍以下であれば、回収した研磨剤を容易に再利用できる。
【0108】
また、回収スラリーは、前記タンク内で加温することも好ましく、40~90℃の範囲内に加温することが特に好ましい。
溶媒を添加し、場合によっては加温することにより、被研磨物成分の溶解が進み、一方で研磨剤成分は溶媒に溶解しないため、フィルターによって分離することができる。
【0109】
添加する溶媒としては、水であることが好ましいが、少量のアセトン、エタノール、メタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等金属イオンを含まない溶媒が添加されていてもよい。
【0110】
(濾過)
被研磨物成分を溶解させた研磨剤スラリーを、濾過フィルター24を用いて、濾過を行う。濾過により、被研磨物成分を溶解させた濾液は排出し、研磨剤が分散する分散液は回収する。
【0111】
濾過で用いる濾過フィルターとしては、特に制限はなく、例えば、中空糸フィルター、金属フィルター、糸巻フィルター、セラミックフィルター、ロール型ポリプロピレン製フィルター等を挙げることができる。
【0112】
適用可能なセラミックフィルターとしては、例えば、フランスTAMI社製のセラミックフィルター、ノリタケ社製セラミックフィルター、日本ガイシ社製セラミックフィルター(例えば、セラレックDPF、セフィルト等)、Pall社製セラミックフィルター等が好ましい。
【0113】
また、溶解の前に濾過を行い、濾液を分離した後に溶解を行うことも好ましい。これにより、効率的に被研磨物成分を除去することができる。
【0114】
(連続溶解)
前記溶解及び濾過を繰り返し行う、連続溶解を経ることも好ましい。連続溶解を行う場合、異物除去を経て濾過を行った後、溶解と濾過を繰り返し行う連続溶解を経てもよい。
前記被研磨物成分の濃度が、前記被研磨物の飽和溶解度の1.8倍以下になるように前記溶媒を前記研磨剤スラリーに加えて調整することが好ましい。
【0115】
具体的には、シリカの各温度における溶解度の1.8倍以下となるように、添加する溶媒量を調整することが好ましく、さらに好ましくは、溶解度以下となるように添加する溶媒量を調整する。また、溶解量を調整する方法としては、加温をすることにより調整することも好ましい。
【0116】
ここで、被研磨物の飽和溶解度の1.8倍以下とは、溶媒に溶解及び分散する被研磨物成分が、各温度での被研磨物の飽和溶解度の1.8倍以下となっていることである。1.8倍以下とすることで、溶媒に分散する被研磨物成分の凝集が分散状態になりやすく、分離精製の効率が向上するためである。
【0117】
(濃縮)
連続溶解工程を含めた濾過を経た後、研磨剤濃度が0.1~40質量%の範囲で所望の濃度となるように濃縮を行う。
研磨剤濃度を0.1質量%以上とすることで、高い研磨性能を有する研磨剤を得ることができ、40質量%以下とすることで、フィルターに詰まることなく適度な濃度の研磨剤スラリーとして再生することができる。
【0118】
(3:研磨剤再生工程)
研磨剤再生工程は、分離濃縮工程で濃縮した酸化セリウム研磨剤に再生研磨剤スラリーに混入した被研磨物成分、被研磨物成分から溶出したイオン成分又は研磨剤としての使用から回収に至る過程で混入した金属イオン等成分と相互作用するpH調整剤と分散剤を添加することにより、25℃換算のpH値を6.0~10.5の範囲内に、及び電気伝導率の値を基準研磨剤スラリーに対して0.10~10.00倍の範囲内になるように再生研磨剤スラリーを調整する工程である。
【0119】
このようにpH調整剤と分散剤を添加することによって、再生研磨剤スラリーのpH値と、分散剤の濃度の指標として再生研磨剤スラリーの電気伝導率の値を、基準研磨剤スラリーに対して特定範囲に調整することにより研磨速度の低下や、品質のばらつきを軽減することができる。
【0120】
なお、基準研磨剤スラリーを用いて、再生研磨剤スラリーを調製し、その再生研磨剤スラリーを用いて研磨加工した後、さらに回収済みの研磨剤スラリーから本発明に従い再生研磨剤スラリーを調製することもできる。このように研磨剤スラリーの再生を複数回行うことも可能であるが、都度調製する再生研磨剤スラリーの電気伝導率の調整は、基準研磨剤スラリーに対して行う。
【0121】
〈電気伝導率の値とpH値の調整〉
次いで、上記工程で調製した濃縮した研磨剤スラリーに対し、補充すべき分散剤の添加量を決定する。本発明において、分散剤の補充量は、電気伝導率の値を基準研磨剤スラリーに対して0.10~10.00倍の範囲内になるように、及び25℃換算のpH値を6.0~10.5の範囲内になるように再生研磨剤スラリーを調整する。より好ましくは、pH値を7.0~10.0の範囲内に、さらに好ましくは、pH値を8.0~9.5の範囲内になるように調整することである。
【0122】
添加する分散剤は、研磨工程で用いた分散剤と同じものを用いることが好ましい。研磨剤スラリー中の分散剤の含有量を増加させると、電気伝導率は比例的に増加するので、電気伝導率を測定することにより、研磨剤スラリー中の分散剤含有量を簡便に把握することができる。
【0123】
添加する分散剤の量は、基準研磨剤スラリーの電気伝導率に対して上記の電気伝導率の範囲に入るように調整する。
例えば、基準研磨剤スラリーが再生研磨剤スラリーの場合、金属イオン等、電気伝導率に影響する物質が含有している場合があるため、基準研磨剤スラリーが未使用の研磨剤スラリーの場合と比べ、添加する分散剤の量は、それぞれ調整する必要がある。
【0124】
電気伝導率の測定は、例えば、電気伝導率計(株式会社堀場製作所製ES-51)、電気伝導率計((株)東亜電波工業製CM-30G)、ラコムテスターハンディータイプの導電率計CyberScan CON110(アズワン株式会社)、コンパクト電気伝導率計LAQUAtwin B-771(HORIBA社製)等を用い、サンプル液を25℃に温調して測定して求めることができる。
【0125】
〈pH調整剤〉
pH調整剤として添加される酸又はアルカリは、特に限定されるものではなく、無機酸、有機酸などを用いることができる。ただし、半導体分野において使用される、シリコン酸化膜等の被研磨物を研磨する場合、金属元素を含有しないpH調整剤を用いることが好ましい。
【0126】
pH調整剤は、無機酸、カルボン酸、アミン塩基又は水酸化アンモニウムであることが好ましい。
pH値は、25℃で、ラコムテスター卓上型pHメーター(アズワン(株)製pH1500)を使用して測定された値を用いることができる。
【0127】
〈粒子径制御〉
研磨剤再生工程において、酸化セリウム粒子の粒子径分布を調整することが好ましい。
特に、マグネシウム塩等を用いて、酸化セリウム粒子を凝集して回収した場合は、凝集した粒子を解きほぐすため、再分散を施すことが好ましい。凝集した研磨剤成分を再分散させて、処理前の研磨剤スラリーと同等の粒度分布になるように調整する。
【0128】
凝集した研磨剤粒子を再分散させる方法としては、分散機等を使用して、凝集した研磨剤粒子を解砕する方法がある。分散機としては、超音波分散機、サンドミルやビーズミルなどの媒体撹拌ミルが適用可能であり、特には、超音波分散機を用いることが好ましい。
【0129】
また、超音波分散機としては、例えば、(株)エスエムテー、(株)ギンセン、タイテック(株)、BRANSON社、Kinematica社、(株)日本精機製作所等から市販されており、(株)エスエムテーUDU-1、UH-600MC、(株)ギンセンGSD600CVP、(株)日本精機製作所 RUS600TCVP等を使用することができる。超音波の周波数は、特に限定されない。
【0130】
機械的撹拌及び超音波分散を同時並行的に行う循環方式の装置としては、(株)エスエムテーUDU-1、UH-600MC、(株)ギンセン GSD600RCVP、GSD1200RCVP、(株)日本精機製作所 RUS600TCVP等を挙げることができるが、これに限ったものでない。
【0131】
図4は、超音波分散機を用いた研磨剤再生工程の一例を示す模式図である。
図4に示すように、濃縮した研磨剤に、例えば、水を添加し、酸化セリウム分散液32を調製釜31に貯留した後、撹拌機25で撹拌しながら、添加槽33a及び33bより分散剤及びpH調整剤を添加し、電気伝導率の値及びpH値を所望の値に調整した後、ポンプ30を介して、流路34を経由して、超音波分散機36で分散処理が施され、凝集した酸化セリウム粒子が解きほぐされる。次いで、その下流側に設けた粒子径測定装置37にて、分散後の酸化セリウム粒子の粒子径分布をモニターし、酸化セリウム分散液32の粒子径分布が所望の条件に到達したことを確認した後は、三方弁35を操作し、酸化セリウム分散液32を、流路39を経て、再生研磨剤スラリーとして得ることができる。
【0132】
《研磨剤スラリー》
これまで述べた、再生研磨剤スラリーの調製方法で調製された再生研磨剤スラリーは、研磨剤スラリーとして、含有するガラス成分と添加剤との間に特定の関係のあることがわかった。
すなわち、本発明の研磨剤スラリーは、分散剤とpH調整剤とからなる添加剤、酸化セリウム研磨剤及びガラス成分を含有する研磨剤スラリーであって、25℃換算のpH値が6.0~10.5の範囲内であり、前記ガラス成分に対する前記添加剤の質量の比の値が、0.8~5500の範囲内であることを特徴とする。
【0133】
上記のような構成で、本発明の効果が得られる理由は、明らかではないが、再生スラリーに含まれる被研磨物成分(ガラス成分)及び、被研磨物成分から溶出したイオン成分が、研磨剤スラリーに含まれる砥粒の表面に吸着した場合に、粒子表面状態が変化し、砥粒のスラリー中での分散安定性が低下し、粒子の凝集を引き起こす。その結果として研磨速度の低下や傷の発生を引き起こすことを防止するためではないかと推定している。
【0134】
被研磨物成分あるいは、被研磨物から溶出したイオン成分を含有する研磨剤スラリーに対して、実施例に記載のpH調整剤と分散剤を、規定の量比に従って添加する事で、これらの被研磨物成分、あるいは被研磨物成分から溶出したイオン成分と、添加剤が相互作用し、砥粒成分の表面に吸着する事を阻害し、砥粒成分の分散安定性を高めることに寄与していると推定される。
【0135】
添加剤とガラス成分の量比については、上記に記載の理由から、被研磨物に対してある量以上を加えることで、その効果が発現すると考えられる。
前記ガラス成分に対する前記分散剤の質量の比の値が0.8未満の場合には、期待する効果が得られにくい。一方で、前記ガラス成分に対する前記分散剤の質量の比の値が5500を超える過剰な量の添加剤の投入は、研磨剤スラリーそのもののpHの大きな変化や、酸化セリウム砥粒へのこれら添加剤成分の吸着を引き起こし、研磨加工時に悪影響を及ぼす可能性がある。このため、上記の範囲内であることが必要である。好ましくは、前記ガラス成分に対する前記分散剤の質量の比の値が、10.0~1000の範囲内であり、より好ましくは、50.0~600の範囲内である。
【0136】
[ガラス成分に対する添加剤の質量の比の値の測定]
ガラス成分の質量は、ICP発光分光プラズマによる成分分析で分析することができ、添加剤の質量は、再生処理における投入量を用いることで、この比の値を算出した。
【実施例0137】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0138】
[実施例1]
分離濃縮工程において、凝集沈殿法を用いた再生研磨剤スラリーの調製方法の例を示す。なお、特に断りがない限りは、研磨剤スラリーの調製は、基本的には、25℃、55%RHの条件下で行った。このとき、溶液等の温度も25℃である。
【0139】
<基準研磨剤スラリー1の調製>
純水に、分散剤として、アクリル酸マレイン酸共重合体を添加した後、撹拌機で5分間撹拌した。その後、撹拌しながら、酸化セリウム(E21、三井金属社製)を投入し、撹拌機で30分間撹拌した後、超音波分散機(BRANSON社製)で分散処理を実施した。
酸化セリウムの濃度は、10質量%となるように添加し、分散剤は、酸化セリウムに対して、5質量%の割合になるように添加した。研磨剤スラリーは合計で50Lとなるように調製した。
【0140】
その後、調製した基準スラリー1のpH値及び電気伝導率の値をそれぞれ前述した条件で測定した。次いで、pH調整剤としてアンモニア水を用いて、pH値が8.5となるように調整した。その後、粒子径(D50)を前述した方法で測定した。
測定器は以下を用いた。
pH値:ラコムテスター卓上型PHメーター(アズワン(株)製 pH1500)
電気伝導率:コンパクト電気伝導率計LAQUAtwin B-771(HORIBA社製)
粒子径(D50)は0.96μmであった。
【0141】
<再生研磨剤スラリー1の調製>
以下の製造工程にしたがって、再生研磨剤スラリー1を調製した。
[研磨工程]
〈研磨〉
下記の条件で、アルミノシリケートガラス基板の研磨加工を実施した。
図1に記載の研磨工程で、基準研磨剤スラリーとして、上記調製した未使用の基準研磨剤スラリー1を用いて、研磨対象面に供給しながら、研磨対象面を研磨布で研磨した。基準研磨剤スラリー1を5L/minの流量で循環供給させて研磨加工を行った。研磨対象物として、65mmΦのアルミノシリケートガラス基板を使用し、研磨布は、ポリウレタン製の物を使用した。研磨面に対する研磨時の圧力は、9.8kPa(100g/cm
2)とし、研磨試験機の回転速度は100min
-1(rpm)に設定し、30分間研磨加工を行った。なお、1パッチ70枚を10回、計700枚の研磨加工を実施した。
【0142】
アルミノシリケートガラス基板:酸化ケイ素60質量%含有、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物を15質量%含有、酸化アルミニウム及びその他成分を25質量%含有。
【0143】
[スラリー回収工程]
研磨終了後、研磨剤スラリーを含む洗浄排水と、使用済み研磨剤を含む研磨剤スラリーを回収し、回収スラリー液として、1000Lとした。
【0144】
[分離濃縮工程]
まず、回収したスラリー排液を、25μm、ついで、10μmのカートリッジフィルターでろ過し、異物を除去した。
【0145】
次いで、この回収スラリー液を酸化セリウムが沈降しない程度に撹拌しながら、塩化マグネシウム1.0質量%水溶液2.5リットルを10分間かけて添加した。塩化マグネシウムを添加した直後の25℃換算のpH値は7.80であった。
【0146】
上記の状態で30分撹拌を継続した後、1.5時間静置し、自然沈降法により、上澄み液と凝集物とを沈降・分離した。1.5時間後、
図2の工程(B-4)に従って、排水ポンプを用いて、上澄み液を排出して、
図2の工程(B-5)に示すように凝集物を分離回収した。回収した凝集物は40リットルであった。このようにして、ケイ素成分の除去と、酸化セリウム成分の濃縮を行った。
【0147】
[研磨剤再生工程]
〈pH値と電気伝導率の値の調整〉
上記研磨剤スラリーに対して、分散剤として、アクリル酸マレイン酸共重合体を添加し、基準研磨剤スラリー1の電気伝導率の値と等しくなるように調整を行った。さらに研磨剤スラリーに対しpH上昇剤として、酢酸水溶液を用い、pH値を5.5に調整した。
【0148】
〈粒子径制御〉
その後、分散機撹拌機を用いて、30分撹拌した後、超音波分散機(BRANSON社製)を用いて、凝集物を分散して解きほぐした。
【0149】
分散終了後、10ミクロンのデプスフィルターで濾過を行って、再生酸化セリウムを含有する再生研磨剤スラリー1を得た。酸化セリウム濃度は、10.0質量%で、50Lであった。粒度(D90<2.0μm)であった。得られた最終的な再生研磨剤スラリーのpH値、電気伝導率(相対値)、粒子径(D50)を表Iに示した。
このようにして、再生研磨剤スラリー1を調製した。
【0150】
<再生研磨剤スラリー2~20及び22~25の調製>
再生研磨剤スラリー1の調製において、分散剤の量と、pH調整剤の量とスラリー回収液量を、表Iに示したpH値と、電気伝導率比及び回収スラリー液量になるように調整して再生研磨剤スラリー2~20及び22~25を調製した。電気伝導率比は、基準研磨剤スラリー1の電気伝導率の値を基準(1.00)としたとき再生研磨剤スラリーの電気伝導率の比の値(相対値)を示したものである。
pH値をアルカリ側に調整する場合は、アンモニア水を使用した。
【0151】
<再生研磨剤スラリー21の調製>
基準研磨剤スラリー1の代わりに、再生研磨剤スラリー7を用い再生研磨剤スラリー21を調製した。すなわち上記作製した再生研磨剤スラリー7を用い、再生研磨剤スラリー1の調製と同様にして研磨加工後、回収スラリー液として1000Lを得、再生研磨剤スラリー1調製と同様にして、分離濃縮工程を経て研磨剤再生工程において、分散剤の量とpH調整剤の量とを変えて、表Iに示したpH値と、電気伝導率比になるように調整して再生研磨剤スラリー21を調製した。つまり、基準研磨剤スラリー1をもとにして、再生研磨剤スラリー7を調製し、さらにこれを用い研磨加工後、再生研磨スラリー21を調製した。基準研磨剤スラリー1をもとにして、再生を2回繰り返して再生研磨剤スラリーを調製したことになる。
【0152】
表Iに示した再生研磨剤スラリー21の電気伝導率比は、再生研磨剤スラリー1の電気伝導率の値を基準(1.00)としたとき再生研磨剤スラリー21の電気伝導率の比の値を示したものである。
なお、ガラス成分に対する前記添加剤の質量の比の値は前述した方法で測定し、算出した。
【0153】
《再生研磨剤スラリーの評価》
[研磨速度の測定]
〈基準研磨剤スラリー1の研磨速度の測定〉
上記調製した基準研磨剤スラリー1の50Lを、
図1に記載の研磨機を用い、研磨対象面に供給しながら、研磨対象面を研磨布で研磨した。基準研磨剤スラリー1を5L/minの流量で循環供給させて研磨加工を行った。研磨対象物として、65mmΦのアルミノシリケートガラス基板を使用し、研磨布は、ポリウレタン製の物を使用した。研磨面に対する研磨時の圧力は、9.8kPa(100g/cm
2)とし、研磨試験機の回転速度は100min
-1(rpm)に設定し、30分間研磨加工を行った。
【0154】
スラリーを用いて30分間の研磨加工を行った後、研磨機へのスラリーの供給を停止し、代わりに、純水を供給し、アルミノシリケートガラス基板の洗浄を行った後、ガラス基板を研磨機から取り出した。
新しいアルミノシリケートガラス基板を研磨機に再び設置し、同様にして研磨加工を実施した。1パッチ70枚を10回、計700枚の研磨加工を実施した。
研磨前後のガラス基板の厚さをNikon Digimicro(MF501)にて全数測定し、厚さ変位から1分間当たりの研磨量(μm)を算出して研磨速度(μm/分)を測定し、全数の平均をとり、これを1.00として下記評価基準で評価した。
【0155】
〈再生研磨剤スラリー1~25の研磨速度の測定〉
再生研磨剤スラリー1~25について、上記と同様の方法で研磨速度を測定し、基準研磨剤スラリー1の研磨速度を基準(1.0)とした時の相対研磨速度を求め、下記評価基準で評価した。
◎:基準研磨剤スラリー1に対して、0.95以上
○:基準研磨剤スラリー1に対して、0.90以上0.95未満
×:基準研磨剤スラリー1に対して、0.90未満
【0156】
傷及びヤケの発生については、加工後のガラスを目視により全数(350枚)評価した。
〔傷の評価〕
傷の評価は、研磨加工後の各ガラスの表面について、暗幕内で集光ランプを照射して目視検査を行い、ガラス表面に傷が確認されたものを良品、確認できなかったものを不良品とした。基準研磨剤スラリー1を用いて研磨したとき発生した傷の数(基準)に対し、再生研磨剤スラリーで発生した傷の数の比を算出して評価した。
◎:基準研磨剤スラリー1に対して、1.0以下
○:基準研磨剤スラリー1に対して、1.0超1.2以下
×:基準研磨剤スラリー1に対して、1.2超
【0157】
〔ヤケの評価〕
白ヤケや青ヤケ等のヤケは、研磨加工後のガラスを目視で判断し、ヤケの存在が認められなかったものを良品とし、ヤケの存在が認められたものを不良品とした。基準研磨剤スラリー1を用いて研磨したとき発生したヤケの数(基準)に対し、再生研磨剤スラリーで発生したヤケの数の比を算出して評価した。
◎:基準研磨剤スラリー1に対して、1.0以下
○:基準研磨剤スラリー1に対して、1.0超、1.2以下
×:基準研磨剤スラリー1に対して、1.2超
以上の結果を表Iに示す。
【0158】
なお、以下の表で、分散剤とpH調整剤は、以下のように略記した。
分散剤1:アクリル酸マレイン酸共重合体
分散剤2:ポリアクリル酸アンモニウム
分散剤3:ポリエチレンイミン
pH調整剤1:酢酸水溶液
pH調整剤2:アンモニア水
pH調整剤3:硝酸水溶液
pH調整剤4:硫酸水溶液
pH調整剤5:トリエタノールアミン
pH調整剤6:塩酸水溶液
pH調整剤7:クエン酸水溶液
pH調整剤8:マレイン酸水溶液
pH調整剤9:エチレンジアミン4酢酸水溶液
pH調整剤10:エチレンジアミン4酢酸・2NH4水溶液
pH調整剤11:エチレンジアミン4酢酸・2Na水溶液
pH調整剤12:エチドロン酸(HEDP)水溶液
pH調整剤13:水酸化ナトリウム水溶液
pH調整剤14:水酸化カリウム水溶液
pH調整剤15:グリコールエーテルジアミン四酢酸水溶液
pH調整剤16:3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸4ナトリウム
【0159】
また、以下の表で「基準研磨剤スラリー1」は「基準1」、「再生研磨剤スラリー1」は「再生1」と略記した。他の研磨剤スラリーも同様に略記した。
さらに、基準研磨材スラリー1(基準1)には、ガラス成分が入っていないので、ガラス成分に対する前記分散剤の質量の比の値(表中、添加剤/ガラス成分 質量比と略記した。)の欄は空欄にしてある。
【0160】
【0161】
表Iより、本発明の調製方法で得られた再生研磨剤スラリーを用いた場合、研磨速度の低下が少なく、傷やヤケの発生が少ない再生研磨剤スラリーを調製することができる。
【0162】
[実施例2]
分離濃縮工程において、フィルター濾過法を用いた再生研磨剤スラリーの調製方法の例を示す。なお、特に断りがない限りは、研磨剤スラリーの調製は、基本的には、25℃、55%RHの条件下で行った。このとき、溶液等の温度も25℃である。
【0163】
<基準研磨剤スラリー101の調製>
純水に、分散剤として、ポリアクリル酸アンモニウムを添加した後、撹拌機で5分間撹拌した。その後、撹拌しながら、酸化セリウム(E21、三井金属社製)を投入し、撹拌機で30分間撹拌した後、超音波分散機(BRANSON社製)で分散処理を実施した。
酸化セリウムの濃度は、10質量%となるように添加し、分散剤は、酸化セリウムに対して、5質量%の割合になるように添加した。研磨剤スラリーは合計で50Lとなるように調整した。
【0164】
その後、調製した基準研磨剤スラリー101のpH値及び電気伝導率の値をそれぞれ前述した条件で測定した。次いで、pH調整剤としてアンモニア水を用いて、pH値が8.5となるように調整した。その後、粒子径(D50)を前述した方法で測定した。
測定器は以下を用いた。
pH値:ラコムテスター卓上型PHメーター(アズワン(株)製 pH1500)
電気伝導率:コンパクト電気伝導率計LAQUAtwin B-771(HORIBA社製)
粒子径(D50)は0.93μmであった。
【0165】
<再生研磨剤スラリー101の調製>
以下の製造工程にしたがって、再生研磨剤スラリー101を調製した。
【0166】
[研磨工程]
〈研磨〉
下記に条件で、石英ガラス基板の研磨加工を実施した。
図1に記載の研磨工程で、基準研磨剤スラリーとして、上記調製した未使用の基準研磨剤スラリー101を用いて、研磨対象面に供給しながら、研磨対象面を研磨布で研磨した。基準研磨剤スラリー101を5L/minの流量で循環供給させて研磨加工を行った。研磨対象物として、65mmΦの石英ガラス基板を使用し、研磨布は、ポリウレタン製の物を使用した。研磨面に対する研磨時の圧力は、9.8kPa(100g/cm
2)とし、研磨試験機の回転速度は100min
-1(rpm)に設定し、10分間研磨加工を行った。なお、1パッチ70枚を10回、計700枚の研磨加工を実施した。
石英ガラス基板:酸化ケイ素99.9質量%以上含有、その他成分を0.1質量%以下含有。
【0167】
[スラリー回収工程]
研磨終了後、研磨剤スラリーを含む洗浄排水と、使用済み研磨剤を含む研磨剤スラリーを回収し、回収スラリー液として、1000Lとした。
【0168】
[分離濃縮工程]
まず、回収したスラリー排液を、25μm、ついで、10μmのカートリッジフィルターでろ過し、異物を除去した。
【0169】
次いで、
図3に記載のフィルター濾過装置を用いて、スラリーの溶媒成分の除去を実施した。なお、フィルターろ過装置では、ろ過フィルターとしては、日本ガイシ社製のセラミックフィルター「セフィルト」(細孔径:0.5μm)を用いた。
スラリーを50Lになるまで溶媒の除去を実施した。
【0170】
[研磨剤再生工程]
〈pH値と電気伝導率の値の調整〉
上記スラリーに対して、分散剤として、ポリアクリル酸アンモニウムを添加し、基準研磨剤スラリー101の電気伝導率の値と等しくなるように調整を行った。さらに研磨剤スラリーに対しpH上昇剤として、硝酸水溶液を用い、pH値を5.5に調整した。
【0171】
〈粒子径制御〉
その後、分散機撹拌機を用いて、30分撹拌した。
その後、10ミクロンのメンブランフィルターで濾過を行って、再生酸化セリウムを含有する再生研磨剤スラリーを得た。酸化セリウム濃度は、10.0質量%で52Lであった。
【0172】
得られた最終的な再生研磨剤スラリー101のpH値、電気伝導率の値(相対値)、粒子径(D50)を表IIに示した。
このようにして、再生研磨剤スラリー101を調製した。
【0173】
<再生研磨剤スラリー102~120及び122~125の調製>
再生研磨剤スラリー101の調製において、分散剤の量と、pH調整剤の量とスラリー回収液量を、表Iに示したpH値と、電気伝導率比及び回収スラリー液量になるように調整して再生研磨剤スラリー102~120及び122~125を調製した。電気伝導率比は、基準研磨剤スラリー101の電気伝導率の値を基準(1.00)としたとき再生研磨剤スラリーの電気伝導率の比の値(相対値)を示したものである。
pH値をアルカリ側に調整する場合は、アンモニア水を使用した。
【0174】
<再生研磨剤スラリー121の調製>
基準研磨剤スラリー101の代わりに、再生研磨剤スラリーを用い再生研磨剤スラリー121を調製した。すなわち上記作製した再生研磨剤スラリー107を用い、再生研磨剤スラリー101の調製と同様にして研磨加工後、回収スラリー液として1000Lを得、再生研磨剤スラリー101の調製と同様にして、分離濃縮工程を経て研磨剤再生工程において、pH調整剤の量と、分散剤の量を変えて、表IIに示したpH値と、電気伝導率比になるように調整して再生研磨剤スラリー121を調製した。つまり、基準研磨剤スラリー101をもとにして、再生研磨剤スラリー107を調製し、さらにこれを用い研磨加工後、再生研磨スラリー123を調製した。基準研磨剤スラリー101をもとにして、再生を2回繰り返して再生研磨剤スラリー121を調製したことになる。
【0175】
なお、再生研磨剤スラリー121の電気伝導率比は、再生研磨剤スラリー101の電気伝導率の値を基準(1.00)としたとき再生研磨剤スラリー121の電気伝導率の比の値を示したものである。
なお、ガラス成分に対する前記添加剤の質量の比の値は前述した方法で測定し、算出した。
【0176】
《研磨剤スラリーの評価》
[研磨速度の測定]
〈基準研磨剤スラリー101の研磨速度の測定〉
上記調製した基準研磨剤スラリー101の50Lを、
図1に記載の研磨機を用い、研磨対象面に供給しながら、研磨対象面を研磨布で研磨した。基準研磨剤スラリー101を5L/minの流量で循環供給させて研磨加工を行った。研磨対象物として、65mmΦの石英ガラス基板を使用し、研磨布は、ポリウレタン製の物を使用した。研磨面に対する研磨時の圧力は、9.8kPa(100g/cm
2)とし、研磨試験機の回転速度は100min
-1(rpm)に設定し、10分間研磨加工を行った。
研磨剤スラリーを用いて30分間の研磨加工を行った後、研磨機へのスラリーの供給を停止し、代わりに、純水を供給し、石英ガラス基板の洗浄を行った後、石英ガラス基板を研磨機から取り出した。
【0177】
新しい石英ガラス基板を研磨機に再び設置し、同様にして研磨加工を実施した。1パッチ35枚を20回、計700枚の研磨加工を実施した。
研磨前後の石英ガラス基板の厚さをNikon Digimicro(MF501)にて全数測定し、厚さ変位から1分間当たりの研磨量(μm)を算出して研磨速度(μm/分)を測定し、全数の平均をとり、これを1.00として下記評価基準で評価した。
【0178】
〈再生研磨剤スラリー101~125の研磨速度の測定〉
再生研磨剤スラリー101~125について、上記と同様の方法で研磨速度を測定し、基準研磨剤スラリー101の研磨速度を基準(1.00)とした時の相対研磨速度を求め、下記評価基準で評価した。
◎:基準研磨剤スラリー101に対して、0.95以上
○:基準研磨剤スラリー101に対して、0.90以上0.95未満
×:基準研磨剤スラリー101に対して、0.90未満
【0179】
傷及びヤケの発生については、加工後のガラスを目視により全数(350枚)評価した。
〔傷の評価〕
傷の評価は、研磨加工後の各ガラスの表面について、暗幕内で集光ランプを照射して目視検査を行い、ガラス表面に傷が確認されたものを良品、確認できなかったものを不良品とした。基準研磨剤スラリー101を用いて研磨したとき発生した傷(基準)の数に対し、再生研磨剤スラリーで発生した傷の数の比を算出して評価した。
◎:基準研磨剤スラリー101に対して、1.0以下
○:基準研磨剤スラリー101に対して、1.0超、1.2以下
×:基準研磨剤スラリー101に対して、1.2超
【0180】
〔ヤケの評価〕
白ヤケや青ヤケ等のヤケは、研磨加工後のガラスを目視で判断し、ヤケの存在が認められなかったものを良品とし、ヤケの存在が認められたものを不良品とした。基準研磨剤スラリー101を用いて研磨したとき発生したヤケの数(基準)に対し、再生品で発生したヤケの数の比を算出して評価した。
◎:基準研磨剤スラリー101に対して、1.0以下
○:基準研磨剤スラリー101に対して、1.0超、1.2以下
×:基準研磨剤スラリー101に対して、1.2超
以上の結果を表IIに示す。
なお、基準研磨材スラリー101(基準101)には、ガラス成分が入っていないので、ガラス成分に対する前記分散剤の質量の比の値(表中、添加剤/ガラス成分 質量比と略記した。)の欄は空欄にしてある。
【0181】
【0182】
表IIより、本発明の調製方法で得られた再生研磨剤スラリーを用いた場合、研磨速度の低下が少なく、傷やヤケの発生が少ない再生研磨剤スラリーを調製することができる。
【0183】
[実施例3]
分離濃縮工程において、フィルター濾過法を用いた再生研磨剤スラリーの調製方法の例を示す。なお、特に断りがない限りは、研磨剤スラリーの調製は、基本的には、25℃、55%RHの条件下で行った。このとき、溶液等の温度も25℃である。
【0184】
<基準研磨剤スラリー201の調製>
実施例3では、実施例1及び2とは異なり、再生研磨剤スラリーを基準スラリーとして用いた。具体的には、実施例2における再生研磨材スラリー107の調製において、再生研磨剤スラリー107を用いて石英ガラス基板を研磨材スラリー加工後、回収した使用済み研磨剤スラリーに添加する分散剤をポリアクリル酸アンモニウムからポリエチレンイミンに変えて、分散剤が、酸化セリウムに対して、5質量%の割合になるように添加して、再生研磨剤スラリーを調製し、これをアルミノシリケートガラス基板研磨用の基準研磨剤スラリー201とした。
【0185】
その後、pH調整剤としてトリエタノールアミンを用いて、pH値が8.5となるように調整した。その後、粒子径(D50)を前述した方法で測定した。
測定器は以下を用いた。
pH値:ラコムテスター卓上型PHメーター(アズワン(株)製 pH1500)
電気伝導率:コンパクト電気伝導率計LAQUAtwin B-771(HORIBA社製)
粒子径(D50)は0.99μmであった。
【0186】
<再生研磨剤スラリー201の調製>
以下の製造工程にしたがって、再生研磨剤スラリー201を調製した。
【0187】
[研磨工程]
〈研磨〉
下記に条件で、アルミノシリケートガラス基板の研磨加工を実施した。
図1に記載の研磨工程で、基準研磨剤スラリーとして、上記調製した基準研磨剤スラリー201を用いて、研磨対象面に供給しながら、研磨対象面を研磨布で研磨した。基準研磨剤スラリー201を5L/minの流量で循環供給させて研磨加工を行った。研磨対象物として、65mmΦのアルミノシリケートガラス基板を使用し、研磨布は、ポリウレタン製の物を使用した。研磨面に対する研磨時の圧力は、9.8kPa(100g/cm
2)とし、研磨試験機の回転速度は100min
-1(rpm)に設定し、30分間研磨加工を行った。なお、1パッチ70枚を10回、計700枚の研磨加工を実施した。
アルミノシリケートガラス基板:酸化ケイ素60質量%含有、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物を15質量%含有、酸化アルミニウム及びその他成分を25質量%含有。
【0188】
[スラリー回収工程]
研磨終了後、研磨剤スラリーを含む洗浄排水と、使用済み研磨剤を含む研磨剤スラリーを回収し、回収スラリー液として、1000Lとした。
【0189】
[分離濃縮工程]
まず、回収したスラリー排液を、25μm、ついで、10μmのカートリッジフィルターでろ過し、異物を除去した。
【0190】
次いで、この回収スラリー液を酸化セリウムが沈降しない程度に撹拌しながら、塩化マグネシウム1.0質量%水溶液2.5リットルを10分間かけて添加した。塩化マグネシウムを添加した直後の25℃換算のpH値は7.60であった。
【0191】
上記の状態で30分撹拌を継続した後、1.5時間静置し、自然沈降法により、上澄み液と凝集物とを沈降・分離した。1.5時間後、
図2の工程(B-4)に従って、排水ポンプを用いて、上澄み液を排出して、
図2の工程(B-5)に示すように凝集物を分離回収した。回収した凝集物は40リットルであった。このようにして、ケイ素成分の除去と、酸化セリウム成分の濃縮を行った。
【0192】
[研磨剤再生工程]
〈pH値と電気伝導率の値の調整〉
上記スラリーに対して、分散剤として、ポリエチレンイミンを添加し、基準研磨剤スラリー201の電気伝導率の値と等しくなるように調整を行った。さらに研磨剤スラリーに対しpH上昇剤として、硫酸水溶液を用い、pH値を5.5に調整した。
【0193】
〈粒子径制御〉
その後、分散機撹拌機を用いて、30分撹拌した後、超音波分散機(BRANSON社製)を用いて、凝集物を分散して解きほぐした。
【0194】
分散終了後、10ミクロンのデプスフィルターで濾過を行って、再生酸化セリウムを含有する再生研磨剤スラリー201を得た。酸化セリウム濃度は、10.0質量%で、50Lであった。粒度(D90<2.0μm)であった。
得られた最終的な再生研磨剤スラリー201のpH値、電気伝導率(相対値)、粒子径(D50)を表IIIに示した。
このようにして、再生研磨剤スラリー201を調製した。
【0195】
<再生研磨剤スラリー202~220及び222~236の調製>
再生研磨剤スラリー201の調製において、分散剤の量と、pH調整剤の量とスラリー回収液量を、表IIIに示したpH値と、電気伝導率比及び回収スラリー液量になるように調整して再生研磨剤スラリー202~220及び222~236を調製した。電気伝導率比は、基準研磨剤スラリー201の電気伝導率の値を基準(1.00)としたとき再生研磨剤スラリーの電気伝導率の比の値(相対値)を示したものである。
pH値をアルカリ側に調整する場合は、トリエタノールアミンを使用した。
【0196】
<再生研磨剤スラリー221の調製>
基準研磨剤スラリーとして、再生研磨剤スラリー207を用い再生研磨剤スラリー221を調製した。すなわち上記作製した再生研磨剤スラリー207を、再生研磨剤スラリー201の調製と同様にして研磨加工後、回収スラリー液として1000Lを得、再生研磨剤スラリー201の調製と同様にして、分離濃縮工程を経て研磨剤再生工程において、pH調整剤の量と、分散剤の量を変えて、表IIIに示したpH値と、電気伝導率比になるように調整して再生研磨剤スラリー221を調製した。
【0197】
つまり、基準研磨剤スラリー201をもとにして、再生研磨剤スラリー207を調製し、さらにこれを用い研磨加工後、再生研磨スラリー221を調製した。基準研磨剤スラリー201をもとにして、再生を2回繰り返して再生研磨剤スラリーを調製したことになる なお、再生研磨剤スラリー223の電気伝導率比は、再生研磨剤スラリー201の電気伝導率の値を1.00(基準)としたとき再生研磨剤スラリー221の電気伝導率の比の値を示したものである。
なお、ガラス成分に対する前記添加剤の質量の比の値は前述した方法で測定し、算出した。
【0198】
《研磨剤スラリーの評価》
[研磨速度の測定]
〈基準研磨剤スラリー201の研磨速度の測定〉
上記調製した基準研磨剤スラリー201の50Lを、
図1に記載の研磨機を用い、研磨対象面に供給しながら、研磨対象面を研磨布で研磨した。基準研磨剤スラリー201を5L/minの流量で循環供給させて研磨加工を行った。研磨対象物として、65mmΦのアルミノシリケートガラス基板を使用し、研磨布は、ポリウレタン製の物を使用した。研磨面に対する研磨時の圧力は、9.8kPa(100g/cm
2)とし、研磨試験機の回転速度は100min
-1(rpm)に設定し、30分間研磨加工を行った。
スラリーを用いて30分間の研磨加工を行った後、研磨機へのスラリーの供給を停止し、代わりに、純水を供給し、アルミノシリケートガラス基板の洗浄を行った後、ガラス基板を研磨機から取り出した。
【0199】
新しいアルミノシリケートガラス基板を研磨機に再び設置し、同様にして研磨加工を実施した。1パッチ70枚を10回、計700枚の研磨加工を実施した。
研磨前後のガラス基板の厚さをNikon Digimicro(MF501)にて全数測定し、厚さ変位から1分間当たりの研磨量(μm)を算出して研磨速度(μm/分)を測定し、全数の平均をとり、これを1.00として下記評価基準で評価した。
【0200】
〈再生研磨剤スラリー201~236の研磨速度の測定〉
再生研磨剤スラリー201~236について、上記と同様の方法で研磨速度を測定し、基準研磨剤スラリー201の研磨速度を基準(1.00)とした時の相対研磨速度を求め、下記評価基準で評価した。
◎:基準研磨剤スラリー201に対して、0.95以上
○:基準研磨剤スラリー201に対して、0.90以上0.95未満
×:基準研磨剤スラリー201に対して、0.90未満
【0201】
傷及びヤケの発生については、加工後のガラスを目視により全数(350枚)評価した。
〔傷の評価〕
傷の評価は、研磨加工後の各ガラスの表面について、暗幕内で集光ランプを照射して目視検査を行い、ガラス表面に傷が確認されたものを良品、確認できなかったものを不良品とした。基準研磨剤スラリー201を用いて研磨したとき発生した傷の数(基準)に対し、再生研磨剤スラリーで発生した傷の数の比を算出して評価した。
◎:基準研磨剤スラリー201に対して、1.0以下
○:基準研磨剤スラリー201に対して、1.0超、1.2以下
×:基準研磨剤スラリー201に対して、1.2超
【0202】
〔ヤケの評価〕
白ヤケや青ヤケ等のヤケは、研磨加工後のガラスを目視で判断し、ヤケの存在が認められなかったものを良品とし、ヤケの存在が認められたものを不良品とした。基準研磨剤スラリーを201用いて研磨したとき発生したヤケの数(基準)に対し、再生品で発生したヤケの数の比を算出して評価した。
◎:基準研磨剤スラリー201に対して、1.0以下
○:基準研磨剤スラリー201に対して、1.0超、1.2以下
×:基準研磨剤スラリー201に対して、1.2超
以上の結果を表III及び表IVに示す。
なお、基準研磨材スラリー201は、備考欄に基準と記したように、基準研磨剤スラリーであると同時に、本発明の範囲内のものである。
【0203】
【0204】
【0205】
表III及び表IVより、本発明の調製方法で得られた再生研磨剤スラリーを用いた場合、研磨速度の低下が少なく、傷やヤケの発生が少ない再生研磨剤スラリーを調製することができる。