(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017268
(43)【公開日】2022-01-25
(54)【発明の名称】核酸増幅プロセスの改善または核酸増幅プロセスに関する改善
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20220118BHJP
C12Q 1/6848 20180101ALI20220118BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220118BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220118BHJP
【FI】
C12N15/10 Z
C12Q1/6848 Z ZNA
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021164854
(22)【出願日】2021-10-06
(62)【分割の表示】P 2018565020の分割
【原出願日】2017-06-30
(31)【優先権主張番号】1611469.6
(32)【優先日】2016-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】516247269
【氏名又は名称】ルミラディーエックス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プロビンス,ジャロッド
(72)【発明者】
【氏名】シェン,ダイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】クレイナック,ブライアン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB16
4B029BB20
4B029FA12
4B063QA13
4B063QQ28
4B063QQ34
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】反応時間の短縮、および/または収率の増加および/または非特異的増幅産物の減少を含む、既存の技術に対して1つ以上の利点を有する改善された核酸増幅技術を提供する。
【解決手段】非等温核酸増幅反応を実施する方法であって、前記方法が、以下のステップ:(a)プライマーが標的にハイブリダイズするハイブリダイゼーション事象を可能にする条件下で、標的配列を1つ以上の相補的一本鎖プライマーと混合するステップであって、ハイブリダイゼーション事象が、直接的または間接的に、二重鎖の反対側の末端またはその近くに配置された2つのニッキング部位を含む二重鎖構造の形成を導くステップ;および(b)二重鎖の鎖中の前記ニッキング部位の各々にニックを発生させるステップ;を含んでよい、方法である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非等温核酸増幅反応を実施する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
(a)プライマーが標的にハイブリダイズするハイブリダイゼーション事象を可能にする条件下で、標的配列を1つ以上の相補的一本鎖プライマーと混合するステップであって、ハイブリダイゼーション事象が、直接的または間接的に、二重鎖の反対側の末端またはその近くに配置された2つのニッキング部位を含む二重鎖構造の形成を導くステップ;
および以下のステップ:
(b)二重鎖の鎖中の前記ニッキング部位の各々にニックを発生させるステップ;
(c)新たな合成核酸を形成するように、ポリメラーゼを使用して前記ニックの入った鎖を伸長し、前記ポリメラーゼとの伸長がニッキング部位を形成するステップ;
(d)新たな合成核酸の複数のコピーを産生するように、所望によりステップ(b)および(c)を反復するステップ;
による増幅プロセスを実施するステップを含み、
前記方法が実施される温度が非等温であり、ステップ(b)~(d)の前記増幅プロセスの間に少なくとも2℃の低下を受けることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ステップ(a)において、前記標的が核酸の2つの相補鎖を含み、前記プライマーが、フォワードおよびリバースプライマーを含み、それらは、対応する前記標的の鎖にそれぞれ相補的であり、その結果、前記フォワードおよびリバースプライマーの3’末端が互いに向かって配向される、方法。
【請求項3】
前記温度が、前記増幅反応中に、少なくとも5℃、好ましくは少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも15℃の制御された低下を受ける、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記増幅反応中の温度低下の平均速度が、-0.10~-6.0℃/分-1、好ましくは-0.20~-3.5℃/分-1、より好ましくは-0.30~-3.5℃/分-1、最も好ましくは-0.40~-3.5℃/分-1の範囲にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)~(d)が実質的にステップ(a)の直後に実施され、ステップ(a)~(d)は好ましくは同一の反応容器中または同一の固体支持体上で実施される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)が、55~62℃、好ましくは57~61℃、より好ましくは58~60℃の範囲の温度で実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
新たな合成核酸を直接的または間接的に検出するステップをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記検出ステップが、分子ビーコンまたは蛍光色素、側方流動標識プローブ、または電気化学反応を触媒する酵素の使用を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(b)が、ニッキング酵素の使用を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
最適温度を有する第1のポリメラーゼおよび/または第1のニッキング酵素、および最適温度を有する第2のポリメラーゼおよび/または第2のニッキング酵素、の使用を含み、前記第2のポリメラーゼおよび/または第2のニッキング酵素の前記最適温度が、それ
ぞれの第1のポリメラーゼおよび/または第1のニッキング酵素の前記最適温度よりも低い、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のポリメラーゼが、DNAポリメラーゼのBsuポリメラーゼまたはクレノウ断片である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記増幅反応の前記初期温度が前記第1のニッキング酵素の前記最適温度以上であり、前記増幅反応の過程で、前記温度が前記第1のニッキング酵素の前記最適温度より低い温度に低下する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記増幅反応の前記温度が、前記第2のポリメラーゼおよび/または第2のニッキング酵素の前記最適温度以下に低下する、請求項10、11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法の実施により得られた前記混合物を、核酸を分解する易熱性酵素と接触させるステップをさらに含み、前記混合物を、前記易熱性酵素が実質的に活性である温度で、前記易熱性酵素と接触させる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素が、codウラシル-DNAグリコシラーゼ(UDG)または南極易熱性UDGである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(a)の前に逆転写ステップを実施し、目的のRNA分析物のDNA転写物を形成するように、前記目的のRNA分析物を逆転写酵素と接触させることを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記DNA転写物から二本鎖DNAを作製するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前増幅または濃縮ステップをさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記プライマーの1つ以上が修飾ヌクレオチドを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記修飾ヌクレオチドが、前記プライマーの標的相補的部分に存在する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記1つ以上のプライマーが2’-修飾ヌクレオチドを含む、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記1つ以上のプライマーが2’O-メチル修飾ヌクレオチドを含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記1つ以上のプライマーが複数の2’O-メチル修飾ヌクレオチドを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記1つ以上のプライマーが7個までの2’O-メチル修飾ヌクレオチドを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(b)~(d)の間の前記反応の前記温度が、ステップ(a)が実施される前記温度に戻ることのない、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記反応の前記温度が所定の温度に戻ることのない、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記プライマーのうちの1つ以上が自己相補的部分を含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記自己相補的部分がヘアピン構造を形成する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ヘアピンが5~10塩基対を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
実質的に前述のように、および添付の図面を参照した、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置であって、前記装置が温度調節手段と、前記方法を実施するために用いられる反応混合物の増幅プロセスの間、少なくとも2℃、好ましくは少なくとも5℃の温度低下を実施するように温度調節手段を操作するようプログラムされる、プログラム可能な制御手段とを備える、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸を増幅する方法、および本方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、最初に広く使用された、インビトロでのDNAの増幅方法であった。非常に強力ではあるが、本技術は、増幅をもたらすために、反応混合物を周期的な温度変化に付す熱サイクル装置の使用を要する。従って、PCRは、例えば、ポイントオブケア(PoC)診断装置の文脈において、実験室環境外での使用に特に適しているわけではない。
【0003】
一部にはこの欠点を克服するために、熱サイクルの必要性を回避した多数の異なる等温増幅技術が考案された。そのような技術には、例えば以下が含まれる:RNA技術のシグナル媒介増幅(「SMART」;国際公開第99/037805号パンフレット);核酸配列に基づく増幅(「NASBA」Compton 1991 Nature 350,91-92);ローリングサークル増幅(「RCA」、例えば、Lizardi et al.,1998 Nature Genetics 19,225-232を参照);ループ媒介増幅(「LAMP」Notomiら、Notomi et al.,2000
Nucl.Acids Res.28,(12)e63を参照);リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(「RPA」Piepenberg et al.,2006 PLoS Biology 4(7)e204を参照);鎖置換増幅(「SDA」);ヘリカーゼ依存性増幅(「HDA」Vincent et al.,2004 EMBO Rep.5,795-800):転写媒介増幅(「TMA」)、単一プライマー等温増幅(「SPIA」、Kurn et al.,2005 Clinical Chemistry 51,1973-81を参照);自己持続性配列複製(「3SR」);およびニッキング酵素増幅反応(「NEAR」)。
【0004】
SDAは、一対の短い「バンパー」プライマーを、標的相補的部分、ならびに標的相補的部分の5’、エンドヌクレアーゼの認識および切断部位を含むプライマー対の上流に使用することを含む技術である(Walker et al.,1992 Nucl.Acids Res.20,1691-1696に開示される)。「バンパー」プライマーは、プライマー増幅のための相補的な一本鎖標的を生成することによってSDA反応を開始するのに役立つ。プライマーは、それぞれ相補的な一本鎖標的分子にハイブリダイズする。標的鎖の3’末端は、鋳型としてプライマーを使用してDNAポリメラーゼおよび少なくとも1つの修飾ヌクレオチド三リン酸を含む反応混合物を用いて伸長される(および同様にプライマーの3’末端は鋳型として標的を用いて伸長される)。
【0005】
標的鎖の伸長は、エンドヌクレアーゼの二本鎖認識部位を生成する。しかし、標的は修飾三リン酸を用いて伸長されるため、エンドヌクレアーゼは両方の鎖を切断するのではなく、代わりにプライマーに一本鎖のニックを作る。次いで、ニックにおける3’末端は、DNAポリメラーゼ(典型的には、エキソヌクレアーゼ活性を欠くDNAポリメラーゼIのクレノウ断片)によって伸長される。ニックの入ったプライマーが伸長すると、これは初期産生伸長産物を置換する。次に、置換された産物は、反対側のプライマーの標的の配列を本質的に複製するため、反対側のプライマーに自由にハイブリダイズすることができる。このようにして、標的配列の両方の鎖の指数関数的な増幅が達成される。
【0006】
SDAプロセスの増幅段階は本質的に等温であり、典型的にはエンドヌクレアーゼおよびポリメラーゼの最適温度である37℃で実施される。しかしながら、増幅段階に達する
前に、プライマー対がその相補的標的鎖にハイブリダイズすることを可能にするために、二本鎖標的を、それを構成する一本鎖へと完全に解離させることが必要である。
【0007】
この解離または「融解」は、標的の2つの鎖の間の水素結合を破壊するために、通常、二本鎖標的を高温(通常約90℃)に加熱することによって達成される。次いで、増幅反応に必要な酵素の添加を可能にするため、反応混合物を冷却する。一本鎖標的を生成するために高温が使用されるため、SDA技術はPoCの文脈につき理想的に適するものではない。
【0008】
米国特許第6,191,267号明細書は、N.BstNBIニッキング酵素のクローニングおよび発現、ならびに制限エンドヌクレアーゼおよび修飾三リン酸の代わりのSDAにおけるその使用を開示する。
【0009】
SDAに類似した別の増幅技術はニッキング酵素増幅反応(または「NEAR」)である。
【0010】
「NEAR」(例えば、米国特許出願公開第2009/0017453号明細書および欧州特許第2,181,196号明細書に開示されるもの)では、フォワードおよびリバースプライマー(「鋳型」として米国特許第2009/0017453号明細書および欧州特許第2,181,196号明細書で言及されている)が、二本鎖標的のそれぞれの鎖にハイブリダイズし、伸長される。フォワードおよびリバースプライマー(過剰に存在)のさらなるコピーは、反対側のプライマーの伸長産物にハイブリダイズし、それ自体が伸長され、「増幅二重鎖」を生成する。そのように形成された各増幅二重鎖は、各鎖の5’末端に向かうニッキング部位を含み、これはニッキング酵素によりニックされ、さらなる伸長産物の合成を可能にし、一方、以前に合成された伸長産物は、相補的プライマーのさらなるコピーとハイブリダイズすることができ、これはプライマーを伸長させ、それにより「増幅二重鎖」のさらなるコピーを作製する。このようにして、指数関数的増幅を達成することができる。
【0011】
NEARは、特に、「バンパー」プライマーおよび初期熱解離ステップが必要でない点で、SDAとは異なる。増幅プロセスを誘発するために必要な初期プライマー/標的ハイブリダイゼーション事象は、標的が依然として実質的に二本鎖である間に起こる:初期プライマー/標的ハイブリダイゼーションは、標的鎖の局部的解離(「ブリージング」として知られている現象)を利用すると考えられる(Alexandrov et al.,2012 Nucl.Acids Res.、およびVon Hippel et al.のレビュー,2013 Biopolymers 99(12),923-954を参照)。ブリージングはDNA鎖間の塩基対形成の局部的かつ一時的な緩みである。初期プライマー/標的ヘテロ二重鎖の融解温度(Tm)は、典型的には反応温度よりもはるかに低いので、プライマーは解離する傾向にあるが、一時的なハイブリダイゼーションは、ポリメラーゼがプライマーを伸長させるのに十分なほど長く続き、これはヘテロ二重鎖のTmを増加させ、安定化させる。
【0012】
NEARにおける増幅ステージは、一定温度で等温的に実施される。実際、同じ一定温度、通常54~56℃の範囲で、初期標的/プライマーハイブリダイゼーションおよびその後の増幅ラウンドの両方を行うことは従来行われている。
【0013】
熱サイクルの必要性を回避することは、等温技術が、PoCの文脈においてPCRより潜在的に有用であることを意味する。さらに、非常に低いコピー数の標的分子(例えば、わずか10個の二本鎖標的分子)から出発しても、有意な量の増幅産物の合成を達成することができる。
【0014】
国際公開第2011/030145号パンフレット(Enigma Diagnostics Limited)は、温度振動条件下で行われる「等温」核酸増幅反応を開示しており、ここで、反応は最初に所定温度で実施され、温度は所定温度から上または下にずらすことができ、そして、増幅反応中に少なくとも1回は温度が所定温度に戻ることになる。より典型的には、温度は、所定の温度から少し(約5℃)上下に「揺らぐ」ことが可能である。
【0015】
本発明は、例えば、反応時間の短縮、および/または収率の増加および/または非特異的増幅産物の減少を含む、既存の技術に対して1つ以上の利点を有する改善された核酸増幅技術を提供することをとりわけ目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の態様では、本発明は、非等温核酸増幅反応を実施する方法を提供し、本方法は、以下のステップ:
(a)プライマーが標的にハイブリダイズするハイブリダイゼーション事象を可能にする条件下で、標的配列を1つ以上の相補的一本鎖プライマーと混合するステップであって、ハイブリダイゼーション事象が、直接的または間接的に、二重鎖の反対側の末端またはその近くに配置された2つのニッキング部位を含む二重鎖構造の形成を導くステップ;
および以下のステップ:
(b)二重鎖の鎖中の前記ニッキング部位の各々にニックを発生させるステップ
(c)新たな合成核酸を形成するように、ポリメラーゼを使用してニックの入った鎖を伸長し、ポリメラーゼとの伸長が前記ニッキング部位を再形成するステップ;
(d)新たな合成核酸の複数のコピーを産生するように、所望によりステップ(b)および(c)を反復するステップ;
による増幅プロセスを実施するステップを含み、
方法が実施される温度が非等温であり、ステップ(b)~(d)の増幅プロセスの間に少なくとも2℃、好ましくは少なくとも5℃の低下を受けることを特徴とする。
【0017】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様の方法を実施するための装置を提供し、装置は温度調節手段とプログラム可能な制御手段とを備え、プログラム可能な制御手段は、第1の態様の方法を実施するために用いられる反応混合物の増幅プロセスの間、少なくとも2℃、好ましくは少なくとも5℃の温度低下を実施するように温度調節手段を操作するようプログラムされる。
【0018】
本発明の方法の増幅プロセスは、SDAおよびNEARを含む一般的に知られている従来の増幅技術に適用され得る。
【0019】
従って、例えば、増幅プロセスは、鎖置換増幅において使用される増幅プロセスに基づくか、またはNEARで使用される増幅プロセス、もしくは実際上、一本鎖ニックの形成およびニックの入った鎖の3’末端からのその後の伸長に依存する任意の他の核酸増幅プロセスに基づき得る。従って、SDAまたはNEARの増幅段階に関連する先行技術の教示は、一般に、本発明の方法の増幅プロセスに等しく適用可能である(増幅中に一定温度を維持することに関連する先行技術の教示以外)。
【0020】
好ましくは、ステップ(a)は、二本鎖標的を含有する試料を2つの一本鎖プライマーと混合することを含み、前記プライマーの1つが標的の第1の鎖に相補的であり、前記プライマーの他方は標的の第2の鎖に相補的であり、その結果、2つのプライマーが標的にハイブリダイズし、前記プライマーの遊離の3’末端が互いに向かい合う。
【0021】
2つのプライマーは、便宜上、「フォワード」および「リバース」プライマーとして記載され得る。
【0022】
望ましくは、フォワードプライマーおよびリバースプライマーの両方が、ニッキング酵素認識部位の配列を含む。典型的には、ニッキング酵素によって生成されるニックは、ニッキング酵素認識部位のすぐ外側および典型的には3’である。
【0023】
好ましい実施形態では、フォワードプライマーは、標的配列アンチセンス鎖の3’末端に相補的であり、それとハイブリダイズすることができるその3’末端またはその付近の部分を含む一方、リバースプライマーは、標的配列センス鎖の3’末端に相補的であり、それとハイブリダイズすることができるその3’末端またはその付近の部分を含む。
【0024】
このようにして、ニッキング酵素認識部位が標的配列の両端に導入され、標的配列の増幅(ニック部位の下流のプライマーの任意の介在配列と共に)は、二本鎖ニック部位を形成するようにフォワードおよびリバースプライマーのポリメラーゼ伸長の複数のサイクルを実施することによって、およびニッキング酵素でニック部位をニッキングし、ニックの入ったプライマーのポリメラーゼなどによるさらなる伸長を可能にすることによって達成され、これは本質的に、例えば、米国特許出願公開第2009/0017453号明細書に開示されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
発明の詳細な説明
本発明は、とりわけ、選択された標的核酸の増幅方法に関する。
【0025】
標的は、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、またはそれら2つの混合物を含んでいてもよい。標的は、RNA、DNAまたはこれら2つの混合物を含み得る。特に、標的は、必須ではなく実際には好ましくないが、1つ以上の修飾ヌクレオチド三リン酸(すなわち、天然に存在する核酸には通常見られないヌクレオチド三リン酸)を組み込んでもよい。
【0026】
標的は、以下の非網羅的なリストから選択され得る:ゲノム核酸(この用語は、任意の動物、植物、真菌、細菌またはウイルスのゲノム核酸を包含する)、プラスミドDNA、ミトコンドリアDNA、cDNA、mRNA、rRNA、tRNA、または合成オリゴヌクレオチドまたは他の核酸分子。
【0027】
特に、本方法は、初期逆転写ステップをさらに含み得る。例えば、当業者に周知の方法によって、逆転写酵素を用いてDNAまたはcDNAを合成するために、RNA(例えば、ウイルスゲノムRNA、または細胞mRNA、または他の供給源由来のRNA)を使用してもよい。次いで、DNAは、本発明の方法における標的配列として使用し得る。元のRNAは、典型的には、逆転写酵素のリボヌクレアーゼ活性によって分解されるが、必要に応じて、逆転写が完了した後にさらなるRNAseHを添加してもよい。RNA分子は、対応する(例えば、ゲノム)DNA配列よりも大きなコピー数で試料中に存在することが多く、それゆえに、DNA配列のコピー数を効果的に増加させるためにRNA分子からDNA転写物を作製することが便利であり得る。
【0028】
「標的配列」とは、標的核酸中の塩基の配列であり、二本鎖標的のセンス鎖および/またはアンチセンス鎖を指し得、また、文脈上他の記載がない限り、初期標的核酸の増幅されたコピー、伸長産物または増幅産物において再現または複製されるものと同じ塩基配列も包含する。
【0029】
標的配列は、任意の種類の試料、例えば、生物学的または環境的試料(水、空気など)
中に存在してもよい。生物学的試料は、例えば、食品試料または臨床試料であってもよい。臨床サンプルには、以下が含まれ得る:尿、唾液、血液、血清、血漿、粘液、喀痰、涙液または便。
【0030】
試料は、プライマーと接触する前に処理されてもよく、されなくてもよい。そのような処理は、濾過、濃縮、部分精製、超音波処理、溶解などの1つ以上を含み得る。そのようなプロセスは、当業者に周知である。
【0031】
本発明の方法は、ニック部位の使用およびニック部位にニックを作製するための手段を含む。「ニック」は、完全に、または少なくとも部分的に二本鎖核酸分子のうち一本鎖のみのホスホジエステル骨格の切断である。ニック部位は、ニックが形成される分子内の位置である。
【0032】
好ましい実施形態において、「ニッキング認識部位」は、ニック部位、またはその中、またはその近くに存在する。(この文脈において、「の近く」はニッキング認識部位の最も近い塩基がニック部位の10塩基以内、好ましくはニック部位の5塩基以内であることを意味する)。
【0033】
ニッキング認識部位は、制限エンドヌクレアーゼの認識部位の少なくとも1つの鎖を含んでもよく、ニック部位は、二本鎖分子として存在する場合に制限エンドヌクレアーゼによって切断される核酸塩基配列の少なくとも1つの鎖を含んでもよい。典型的には、制限エンドヌクレアーゼは、二本鎖核酸分子の両方の鎖を切断する。本発明では、ニック部位またはその近くに1つ以上の修飾塩基を組み込むことによって二本鎖切断を回避することができ、修飾塩基は核酸の鎖を制限エンドヌクレアーゼによる切断の影響を受けないようにする。このようにして、二本鎖核酸分子の両方の鎖を通常切断する制限エンドヌクレアーゼを用いて、一本鎖ニックを二本鎖分子に導入することができる。これを達成するのに適した修飾塩基等は、当業者に周知であり、例えば、全てのアルファホスフェート修飾ヌクレオシド三リン酸およびアルファボラノ修飾ヌクレオシド三リン酸、具体的には、2’-デオキシアデノシン5’-O-(チオ三リン酸)、5-メチルデオキシシチジン5’-三リン酸、2’-デオキシウリジン5’三リン酸、7-デアザ-2’-デオキシグアノシン5’-三リン酸、2’-デオキシグアノシン-5’-O-(1-ボラノ三リン酸)などが含まれる。修飾塩基を含む三リン酸は、増幅プロセスを実施するために使用される反応混合物中に存在してもよく、その結果、修飾塩基は、その後の増幅ラウンドの間に、対応する位置に組み込まれ、エンドヌクレアーゼによって切断可能な部位の形成を妨げる。
【0034】
しかしながら、好ましい実施形態では、ニックは、ニッキング酵素によってニック部位に作られる。これらは、通常の状況下では、二本鎖核酸分子中の一本鎖切断のみを生じる酵素である。ニッキング酵素はニッキング認識部位を有し、ニック部位はニッキング認識部位内にあってもよく、または認識部位の5’または3’のいずれかであってもよい。多くのニッキング酵素が当業者に知られており、市販されている。ニッキング酵素の例の非網羅的なリストは、Nb.Bsml、Nb.Bts、Nt.Alwl、Nt.BbvC、Nt.BstNBI、およびNt.Bpu101を含む。後者の酵素はThermoFisher Scientificから市販されており、他のものは、例えば、New England Biolabsから入手可能である。
【0035】
好ましい実施形態において、ニッキング酵素は、方法の初めに(例えば、試料をプライマーおよびDNAポリメラーゼと接触させて1分以内に)反応混合物に導入される。しかし、場合によっては、より長い遅延(例えば、温度がニッキング酵素の最適温度に近づくことを可能にする)の後にニッキング酵素を反応混合物に導入することが望ましいことがあり得る。
【0036】
本発明の方法は、DNAポリメラーゼの使用を含む。好ましくは、本発明の方法は、少なくとも1つの好熱性DNAポリメラーゼ(すなわち、60℃を超える最適温度を有する)の使用を含む。好ましくは、DNAポリメラーゼは鎖置換ポリメラーゼである。好ましくは、DNAポリメラーゼはエキソヌクレアーゼ活性を有しない。好ましくは、DNAポリメラーゼは、エキソヌクレアーゼ活性を有しない鎖置換ポリメラーゼであり、また、好ましくは好熱性である。
【0037】
好ましいDNAポリメラーゼの例には、Bstポリメラーゼ、Vent(登録商標)DNAポリメラーゼ、9oNポリメラーゼ、Manta1.0ポリメラーゼ(Qiagen)、BstXポリメラーゼ(Qiagen)、およびBsm DNAポリメラーゼ、大きな断片(ThermoFisher Scientific)が含まれる。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、好都合には、前増幅または濃縮ステップを含み得る。これは、標的配列をフォワードおよびリバースプライマーならびにDNAポリメラーゼと接触させるが、ニッキング酵素とは接触させないステップである。これは典型的には約2~5分間持続し、約1,000倍の標的配列の初期(線形)増幅を産生し、これは標的配列が低コピー数で試料中に存在する場合に特に有用であり得る。
【0039】
いくつかの実施形態において、前増幅または濃縮ステップは、50℃未満の温度で、ケナルカエウム・シュンビオスム(Cenarchaeum symbiosum)由来のExo-MinusクレノウDNAポリメラーゼまたはExo-Minus好冷菌DNAポリメラーゼなどの中温性DNAポリメラーゼを用いて実施され、その後、混合物を、易熱性DNAポリメラーゼを変性または不活性化するために50℃でインキュベートし、次いで、好熱性DNAポリメラーゼを下流増幅のために添加する。
【0040】
典型的には、本発明の方法は、増幅プロセスの直接的または間接的産物の1つ以上が検出され、任意選択により定量化される検出ステップを含み、これは試料中の標的の存在および/または量を示す。ゲル電気泳動、質量分析、側方流動捕捉、標識ヌクレオチドの組み込み、インターカレート色素、分子ビーコンおよび他のプローブ、特に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドまたは他の核酸含有分子を含む、多くの優れた適切な検出および/または定量技術が知られている。
【0041】
検出ステップにおいて検出される産物は、本明細書において「検出対象」と称され得る。検出ステップに関する「標的」は、増幅プロセスにおける「標的」と必ずしも同じではなく、実際には、2つの分子は、いくつかの配列(通常10~20塩基)を共通で有し得るが、通常少なくともある程度異なっており、ここで、検出標的は核酸分子またはオリゴヌクレオチドを含む。
【0042】
核酸検出法は、二本鎖DNAの特異的検出を可能にする色素の使用を採用し得る。DNAまたはRNAへの結合の際に増強された蛍光を示すインターカレート色素は周知である。色素は、例えば、DNAまたはRNAインターカレート・フルオロフォアであってもよく、とりわけ、以下を含み得る:アクリジンオレンジ、臭化エチジウム、Pico Green、ヨウ化プロピジウム、SYBR I、SYBR II、SYBR Gold、TOTO-3(チアゾールオレンジダイマー)、Oli GreenおよびYOYO(オキサゾールイエローダイマー)。
【0043】
核酸検出法はまた、検出標的配列、または目的の検出標的に相補的または実質的に相補的な配列を含むプローブ、に直接的に組み込まれた標識ヌクレオチドの使用を採用し得る。適切な標識は、放射性および/または蛍光性であってもよく、当技術分野で慣用的な任
意の方法で分解され得る。検出することができるが、他の点では天然ヌクレオチドとして機能する(例えば、天然酵素の基質として認識され、基質として作用する)標識ヌクレオチドは、天然ヌクレオチドとして機能しない修飾ヌクレオチドとは区別されるべきである。
【0044】
標的核酸および核酸配列の存在および/または量は、分子ビーコンを用いて検出およびモニターし得る。分子ビーコンは、一端にフルオロフォアおよび反対側にクエンチング色素(「クエンチャー」)を含む、ヘアピン型オリゴヌクレオチドである。ヘアピンのループは、検出標的配列に相補的または実質的に相補的なプローブ配列を含み、ステムは、プローブ配列のいずれかの側に位置する自己相補的または実質的に自己相補的な配列のアニーリングによって形成される。
【0045】
フルオロフォアおよびクエンチャーはビーコンの反対側の端部に結合されている。分子ビーコンがその標的にハイブリダイズするのを妨げる条件下で、または分子ビーコンが溶液中に遊離状態である場合、フルオロフォアおよびクエンチャーは互いに近接して、蛍光を妨げる。分子ビーコンが検出標的分子に遭遇すると、ハイブリダイゼーションが起こり、ループ構造は、フルオロフォアおよびクエンチャーの分離を引き起こして、蛍光が起こることを可能にする、安定でより堅固な立体構造に変換される(Tyagi et al.1996,Nature Biotechnology 14:303-308)。プローブの特異性により、蛍光の生成は、実質的に、意図された増幅産物/検出標的の存在にのみ起因する。
【0046】
分子ビーコンは非常に特異的であり、単一の塩基(例えば一塩基多型)で異なる核酸配列を区別することができる。分子ビーコンは、異なる着色フルオロフォアおよび異なる検出標的相補配列を用いて合成することができ、同じ反応における複数の異なる検出標的を同時に検出および/または定量することを可能にし、単一のPoCアッセイの「多重化」が複数の異なる病原体または生化学マーカーを検出することを可能にする。定量的増幅プロセスにつき、分子ビーコンは、増幅後に増幅された検出標的に特異的に結合することができ、ハイブリダイズされていない分子ビーコンは蛍光を発しないため、増幅産物の量を定量的に決定するためにプローブ-標的ハイブリッドを単離する必要はない。生じるシグナルは、増幅産物の量に比例する。これはリアルタイムで行うことができる。他のリアルタイムフォーマットと同様に、特定の反応条件は、正確さおよび精度を保証するため、各プライマー/プローブセットにつき最適化されなければならない。
【0047】
検出標的核酸および核酸配列の産生または存在はまた、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)によって検出およびモニターされてもよい。FRETは、2つのフルオロフォア:ドナーおよびアクセプター分子、の間のエネルギー転移機構である。簡潔には、ドナーフルオロフォア分子が特定の励起波長で励起される。ドナー分子がその基底状態に戻るときのドナー分子からのその後の放出は、(遠距離双極子-双極子相互作用を介して)アクセプター分子に励起エネルギーを転移し得る。FRETは、例えば分子ビーコンで見られるDNA-DNA相互作用において、分子動態を定量するのに有用なツールである。特定の産物の産生をモニターするため、一方の末端にドナー分子、他方の末端にアクセプター分子でプローブを標識することができる。プローブ検出標的ハイブリダイゼーションは、ドナーおよびアクセプターの距離または配向の変化を生じ、FRET特性の変化が観察される。(Joseph R. Lakowicz.“Principles of Fluorescent Spectroscopy”, Plenum Publishing Corporation,第2版(1999年7月1日))。
【0048】
検出標的核酸の生成または存在は、側方流動装置によってモニターおよび監視することもできる。横流装置は周知である。これらの装置は、一般に、毛管力によって流体が流れ
る固相流体透過性流路を含む。例としては、ディップスティックアッセイおよび様々な適切なコーティングを有する薄層クロマトグラフィープレートが含まれるが、これらに限定されない。試料に関する様々な結合試薬、試料に関する結合パートナーまたは結合パートナーを含むコンジュゲート、およびシグナル産生システムが、流路中または流路上に固定化される。分析物の検出は、酵素検出、ナノ粒子検出、比色検出、および蛍光検出を含むいくつかの異なる方法で達成することができる。酵素検出は、側方流動装置の表面上の相補的または実質的に相補的な核酸検出標的にハイブリダイズされる酵素標識プローブを含み得る。得られた複合体は、読み取り可能なシグナルを発生させるために適切なマーカーで処理することができる。ナノ粒子検出は、金コロイド、ラテックスおよび常磁性ナノ粒子を使用し得るビーズ技術を含む。一例では、ビーズを抗ビオチン抗体にコンジュゲートすることができる。標的配列は直接ビオチン化されてもよく、または標的配列は配列特異的ビオチン化プローブにハイブリダイズされてもよい。金およびラテックスは、裸眼で見える比色シグナルを発生し、常磁性粒子は、磁場中で励起されたときに非可視シグナルを発生し、専門のリーダーによって解釈され得る。
【0049】
蛍光ベースの側方流動検出法、例えば、二重フルオレセインおよびビオチン標識オリゴプローブ法、または量子ドットの使用もまた知られている。
【0050】
核酸は、側方流動装置で捕捉することもできる。捕捉の手段は、抗体依存性および抗体非依存性の方法を含み得る。抗体非依存性捕捉は、一般に、2つの結合パートナー間の非共有結合的相互作用、例えば、ビオチン化プローブとストレプトアビジン捕捉分子との間の高親和性および不可逆的結合を使用する。捕捉プローブは、側方流動膜に直接固定されてもよい。
【0051】
本発明の方法全体、または少なくとも本方法の増幅プロセス部分は、反応容器(例えばEppendorf(登録商標)による、従来の実験室用プラスチック試薬チューブなど)中で実施されてもよく、または固体支持体中および/または固体支持体上で実施されてもよい。固体支持体は、多孔質でも非多孔質でもよい。特定の実施形態では、固体支持体は、多孔質膜材料(ニトロセルロースなど)を含み得る。より特定的には、固体支持体は、上記のように、多孔質側方流動アッセイ装置を含むかまたはその一部を形成し得る。あるいは、固体支持体は、アッセイ装置に沿って液体を輸送するために、1つ以上の固体細孔毛細管を使用するマイクロ流体型アッセイを含むかまたはその一部を構成してもよい。
【0052】
好ましい実施形態では、本発明の方法の全部または少なくとも一部は、ポイントオブケア(PoC)アッセイ装置を使用して実施され得る。PoCデバイスは、典型的には、製造が安価であり、単回使用後に処分され、一般にアッセイを実行または解釈するために他の装置または機器を必要としない自己内蔵型であり、望ましくは、使用に臨床知識または訓練を必要としない、という特徴を有する。
【0053】
本発明における使用に適したプライマーの例は、本明細書に開示されている。本発明の方法での使用に適切であり得る他の例は、とりわけ、米国特許出願公開第2009/0017453号明細書および欧州特許第2,181,196号明細書に開示されており、両方の内容は参照により本明細書に組み込まれる。当業者は、過度の実験をすることなく、他の標的配列の増幅に適した他のプライマーを容易に設計することができよう。
【0054】
他で説明されるように、本発明における使用のプライマーは、好ましくは、標的相補的部分だけでなく、ニッキングエンドヌクレアーゼ結合部位およびニッキング部位、ならびに安定化部分も含む。好ましいプライマーは、プライマー分子中にステムループ構造を形成し得る自己相補的配列を含み得る。
【0055】
本発明の方法における使用のプライマーは、修飾ヌクレオチド(すなわち、天然に存在する核酸分子には見られないヌクレオチド)を含み得る。そのような修飾ヌクレオチドは、好都合には、プライマーの標的相補部分および/またはプライマーの他の部分に存在し得る。多くの他の修飾ヌクレオチドが当業者に知られているが、修飾ヌクレオチドの好ましい例は、2’-修飾ヌクレオチド、特に2’O-メチル修飾ヌクレオチドである。
温度プロファイル
本発明の方法は、等温ではないが、熱サイクルを必要としない。結果として、本発明の方法は、PCRにおいて使用される比較的複雑な熱サイクル装置の使用を必要とせず、従って、PoCの文脈での適用がより容易になる。
【0056】
「熱サイクル」または温度サイクルは、特に、反応混合物の温度が特定の時間(典型的には少なくとも30秒間)、特定の温度(例えばt1)に保持されることを意味する。次いで、温度を以前に維持された温度に戻す前に(上方または下方に)調節する。
【0057】
典型的には、PCRなどの非等温核酸増幅反応は、1サイクルあたり複数(すなわち、少なくとも2つ以上)の熱ステップ、および1反応あたり複数の熱サイクルの実施を必要とする。
【0058】
本発明の方法における温度低下は、温度低下の大きさが所定の最小レベルを超え、所定の最大レベルよりも低いという意味で、計画的であり、制御されたものである。また、降温速度は、好ましくは所定の範囲内である。
【0059】
本発明の方法における初期ステップ(a)は、プライマーが標的配列と少なくとも一時的にハイブリダイズすることを許容する条件下で、標的配列を、標的配列に相補的な少なくとも一部を有するプライマーと接触させることを含む。これは、「開始」段階として説明され得る。
【0060】
このステップは、典型的には、50~65℃の範囲、好ましくは52~62℃の範囲、より好ましくは54~62℃の範囲、最も好ましくは58~62℃の範囲の温度で達成される。標的とプライマーとを含む反応混合物は、この温度で適切な時間保持され得る。反応混合物がこの温度で保持される最適温度および最適時間は、本開示の利益を考慮して当業者によって決定されてもよく、これらは、標的配列の長さ、プライマーの長さ、および特に、標的に相補的なプライマー部分の長さ、標的:プライマーハイブリッドのG:C含量、反応混合物のpHおよび塩濃度、に影響され得る。典型的な初期温度保持時間は、5秒~5分、好ましくは10秒~3分の範囲内であり得る。ステップ(a)における初期ハイブリダイゼーション事象を可能にする典型的な条件は、当業者には公知であり、添付の実施例に記載されている。
【0061】
58~62℃の温度範囲が開始段階に好ましい。これは、プライマー二量体の形成を最小限に抑え(従って、非特異的増幅の量を減少させる)、標的二重鎖に潜在的な「開始部位」を作り出す確率を高めるために十分に高く、他方でプライマー分子の少なくともいくつかが標的にハイブリダイズすることを可能にするのに十分なほど低いと考えられる。
【0062】
その後の温度低下は、元の標的分子へのプライマーのハイブリダイゼーションよりもむしろ、比較的短いプライマーおよび伸長産物のハイブリダイゼーションを安定化させるのに役立つ。反応混合物をさらに冷却すると、検出プローブの検出標的に対するハイブリダイゼーションが促進されることがさらに仮定される。
【0063】
本方法のステップ(b)~(d)に記載の増幅プロセスの間、反応混合物の温度は低下する。これは、例えば所定の温度プロファイルに従って反応混合物の温度を低下させるた
めの温度調節手段を使用して、調節された方法で行われ得る。温度低下は、開始段階の直後に始まり得る(ステップa)。有利には、反応混合物の容積は小さく、反応混合物(および反応が行われる反応容器または基質)の熱容積は減少する。
【0064】
好都合には、反応混合物は、100μl未満、好ましくは50μl未満、より好ましくは25μl未満、最も好ましくは20μl未満の容積を有する。このようにして、反応混合物の温度は、温度調節手段によってより正確かつより迅速に調節することができる。適切な実施形態では、温度調節手段は、非常に単純(例えばファン)であってもよく、または受動手段によって(例えば、反応混合物からの熱放射によって)大規模にまたは全面的に達成される十分な冷却を用いて、全体的に供給されてもよい。典型的には、反応混合物の容積は、1~50μl、好ましくは1~20μl、より好ましくは1~10μlの範囲であり得る。
【0065】
反応混合物の容積は10μl未満であってもよい。特に、本発明の方法は、試料を希釈して、並行して処理される多く(通常数百、数千、さらには百万)のアリコートに分割する「デジタルPCR」型アプローチ(Morley 2014 Biomolecular Detection and Quantification 1,1-2によるレビューを参照)を採用することができる。いくつかのアリコートは標的配列を含み、いくつかは含まない。無標的配列が存在する場合、シグナルは生成されない。陰性アリコートの割合は、元の中の標的配列の数および/または濃度を推定するのに用いることができる。そのような実施形態では、各アリコート中の反応混合物容積は非常に小さくてもよいが、典型的には最小容積は2500nl、好ましくは少なくとも50μlである。
【0066】
温度は、任意の所望のプロファイルにおいて低減され得る。例えば、温度は、実質的に線形的なプロファイル(すなわち、本質的に一定速度の温度低下を有する)に従って低下させてもよく、または任意の非線形的な様式で低下させてもよく、これは、曲線または段階的な方法、または線形および非線形プロファイルの任意の組み合わせを含む(例えば、相対的に高い速度の温度低下の期間と交互する、速度がゼロまたは比較的低くてもよい一定速度の温度低下の1つ以上の期間)。
【0067】
本発明による反応の温度プロファイルは、反応の温度を「開始」段階が実施される温度に戻らせないようなものである。このように、本発明の方法では、所定温度付近では振動がなく、例えば国際公開第2011/030145号パンフレットの開示に反した所定温度に「戻る」ことはない。
【0068】
増幅プロセスの開始時の反応混合物の温度は、典型的には、ステップ(a)におけるものと同じであり、例えば、好ましくは54~62℃の範囲内、最も好ましくは58~62℃の範囲内である。絶対的な意味での温度降下の好ましい大きさは、増幅プロセスの開始時に選択された初期温度に少なくとも部分的に依存してもよく、より低い初期温度(例えば、45~55℃の範囲)は、より低い温度降下および/またはより低い温度低下速度に基づき得ることが理解されるが、増幅プロセスの間、温度は、少なくとも2℃、好ましくは少なくとも3、4または5℃、より好ましくは少なくとも8、9または10℃、最も好ましくは少なくとも13、14または15℃低下する。典型的には、増幅プロセス中の温度低下の最大の大きさは約20℃であるが、最大温度低下はこれより小さくてもよく(例えば16、17、18または19℃)、またはこれより大きくてもよい(例えば25または30℃)。
【0069】
好ましい実施形態では、増幅プロセス中の反応混合物の温度低下の大きさは、5~40℃の範囲であってもよく、好ましくは8~35℃の範囲であり、より好ましくは8~30℃の範囲であり、さらには8~25℃の範囲であり、最も好ましくは8-20℃の範囲内
である。増幅プロセスの開始時の反応混合物の典型的な初期温度は、50~62℃の範囲であり、好ましくは54~62℃であり、より好ましくは56~60℃の範囲であり、最も好ましくは58~60℃の範囲である。
【0070】
好ましい実施形態では、増幅プロセス(本発明の方法のステップ(b)~(d))中の温度低下は、54~50℃、56~50または58~50、より好ましくは58~45、58~40、さらには60~40℃の範囲を包含する低下を含む。増幅プロセス中の温度低下は、上記で定義される規定範囲よりも大きくてもよいことが理解されよう。すなわち、最高温度は、記載された範囲の上限温度を超えてもよく、および/または最低温度は、記載された範囲の低い方の温度より下であってもよい。
【0071】
増幅反応の最終温度は、好ましくは、選択された検出方法との適合性について選択される。例えば、検出方法が酵素標識の使用を含む場合、増幅反応の最終温度を酵素と適合するように、そして例えば酵素の最適温度の+5℃以内に、調整することが望ましいことがあり得る。あるいは、検出方法が、分子ビーコンなどのようなハイブリダイゼーション検出プローブの使用を伴う場合、選択されるべき増幅反応の最終温度を、増幅反応の最終温度が、検出プローブ/検出対象二本鎖のTmに適合するよう調節することが有利である。
【0072】
例えば、終了温度は、プローブの検出標的へのハイブリダイゼーションを容易にするために、検出プローブ/検出標的二重鎖のTm未満、好ましくは少なくとも2℃下であることが好都合である。
【0073】
増幅プロセス中の典型的な温度低下の平均速度は、-0.10~-6.0℃/分-1の範囲にあり、好ましくは-0.20~-3.5℃/分-1の範囲にあり、より好ましくは-0.30~-3.5℃/分-1の範囲にあり、最も好ましくは-0.40~-3.5℃/分-1の範囲にある。前述から明らかなように、増幅プロセス中のいずれかの瞬間における実際の温度低下速度は、温度低下勾配の性質に応じて、好ましい平均速度から逸脱してもよい。
【0074】
いくつかの実施形態では、温度低下勾配は、少なくとも3分、より好ましくは少なくとも4分、最も好ましくは増幅プロセスの持続時間のほとんどにわたって、実質的に線形である。典型的には、温度低下勾配は、3~12分の範囲、好ましくは4~10分の範囲、より好ましくは4~8分の範囲にわたって実質的に線形である。本発明の目的において、「実質的に線形である」とは、温度勾配を記述する任意の二次多項式について、Xの係数の大きさがYの係数の値の5%未満であることを意味する。
【0075】
増幅プロセス中に所望の温度低下を達成するために、多数の異なる技術を想定することができる。これらには、次のいずれかまたは両方を含み得る:(a)反応混合物への加熱の停止、ならびに/または、加熱されたおよび/もしくは遮蔽された環境から反応混合物を除去すること、ならびに反応混合物を本質的に周辺環境への受動的熱損失によって冷却させること;(b)反応混合物への能動的冷却の適用。能動的冷却は、反応混合物を冷却された環境に暴露すること、例えば、反応混合物を冷却媒体、特に流体と熱的に連絡した(伝導、放射または対流)接触下に配置することを含み得る。これは、例えば、反応混合物を冷却水浴と接触させること、冷たい空気または他のガスを反応混合物の上またはこれを通って吹き付けるファンを使用すること、反応混合物を、気体、液体または固体であり得る反応混合物適合性冷却剤と接触させること、またはペルチェ型冷却装置の使用を含み得る。例えば、反応混合物適合性冷却剤は、凍結または冷却液体形態の反応混合物適合性緩衝液であってもよい。低温緩衝液の添加は、反応混合物を希釈しがちであるため、このアプローチを採用する場合、反応混合物の温度より十分に低い温度(すなわち、反応混合物の温度より20℃より低い温度)で冷却剤を少量(例えば、1~2μl未満)使用する
ことが好ましいことがあり得る。
【0076】
所望の温度低下レベルおよび/または所望の温度低下プロファイルを達成するために、任意の能動的冷却ステップを増幅プロセス中に不連続的に適用してもよい。特に、能動的冷却は、増幅プロセスの間に2つ以上の散在した間隔で実行されてもよく、任意選択により同時にまたは交互に受動的冷却と組み合わせられてもよい。
【0077】
一般に、純粋に受動的な手段によって実質的に所望の量および速度の温度低下を達成することが好ましい。これは、本方法および本方法を実施するために必要な任意の装置またはキットを単純化するからである。実質的に純粋に受動的な手段による所望の量および速度の冷却を達成するためには、前述のように、その熱容量を減少させるために、反応混合物の容積が小さいことが望ましい。
【0078】
増幅プロセスは、最適温度を有する第1のポリメラーゼと、最適温度を有する第2のポリメラーゼを利用することができ、第2のポリメラーゼの最適温度は、第1のポリメラーゼの最適温度よりも低いことが、本発明の方法の好ましい特徴である。従って、第1のポリメラーゼは、反応混合物の温度が第1のポリメラーゼの最適温度またはそれに近い温度であり得るため、増幅プロセスの開始付近で特に活性であり得る。
【0079】
従って、例えば、第1のポリメラーゼは、好都合には、「好熱性」酵素(すなわち、60℃を超える最適温度を有する)であり得る。
【0080】
逆に、第2のポリメラーゼは第1のポリメラーゼより低い最適温度を有する。増幅プロセスが継続するにつれて、反応混合物の温度が低下し、第2のポリメラーゼの最適温度に近づく。従って、第2のポリメラーゼは、ますます活性化され、これは、反応速度の低下を少なくとも部分的に補償し、この減少は、(i)より低い温度に起因する反応の一般的な熱力学的減速、および(ii)反応混合物の温度が第1のポリメラーゼの最適温度を下回る可能性があり、それにより触媒作用が低下することに起因する。
【0081】
有利には、第2のポリメラーゼの最適温度は、30~55℃の範囲、より好ましくは30~45℃の範囲である。
【0082】
特定の実施形態では、第2のポリメラーゼは、DNAポリメラーゼIのクレノウ断片またはBsuポリメラーゼであってもよい。
【0083】
好ましくはさらに低い第3の最適温度を有する、第3またはそれ以上のポリメラーゼも使用し得ることが考えられる。
【0084】
第2のポリメラーゼは、好ましくは、増幅プロセスの初めから反応混合物中にあるが、所望の場合、遅延の後に第2のポリメラーゼを添加することができ、これは、反応混合物の温度を高い初期温度から低下させることを可能にする。これは、例えば、第2のポリメラーゼが特に熱に不安定であり、増幅プロセスの開始時に通常使用される比較的高い温度で存在する場合には実質的に変性する可能性がある場合に、有利であり得る。
【0085】
上記と全く同様に、増幅プロセスは、より高い最適温度およびより低い最適温度をそれぞれ有する第1および第2のニッキング酵素を利用し得る。第1および第2のニッキング酵素は、場合により、単一のポリメラーゼまたは複数のポリメラーゼと組み合わせて使用し得る。
【0086】
上記のように、より低い最適温度を有する第2のニッキング酵素の使用は、温度が増幅
プロセス中に低下する場合に予想される反応速度の低下を少なくとも部分的に相殺し得る。
【0087】
従って、いくつかの実施形態では、反応混合物の温度は、第1のポリメラーゼおよび/または第1のニッキング酵素の最適温度より低い温度で開始してもよく、または増幅プロセスの経過中にそこまで低下してもよく、第2のポリメラーゼおよび/または第2のニッキング酵素の最適温度に近づく傾向があり、到達さえし得る。
【0088】
好都合には、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、反応混合物を核酸を分解する分解酵素と接触させるステップを含み得る。望ましくは、このステップは、ユーザが増幅反応の所望の結果(例えば、病原体の検出)を得るまで起こらない。従って、典型的には、増幅プロセスが所望の終点に達した後、分解酵素を反応混合物に添加する。好ましくは、増幅プロセスが所望のエンドポイントに達する前に、反応混合物に不注意に導入されるかまたは接触する事象において、温度が、酵素を実質的に変性させるか、さもなければ不活性化するのに十分であるよう、分解酵素は易熱性である。適切な例には、ArcticZymes(登録商標)から入手可能なcodウラシル-DNAグリコシラーゼ(「UDG」)、および南極易熱性UDG(New England BioLabsから入手可能)が含まれる。これらの酵素は、それぞれ55℃または50℃の温度に曝されると急速かつ不可逆的に不活性化され、分解酵素に関する「耐熱性」という用語は、それに応じて解釈されるべきである。あるいは、熱感受性分解酵素を使用することができる(すなわち、少なくとも部分的に50℃未満で活性であるが、55℃より上で可逆的、実質的に不活性なもの)。
【0089】
ここで、本発明を、例示的な実施例および添付の図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【
図1A】本発明の方法を実施するのに有用なプライマーの典型的な実施形態の概略図である。
【
図1B】本発明の方法を実施するのに有用なプライマーの典型的な実施形態の概略図である。
【
図1C】本発明の方法を実施するのに有用なプライマーの典型的な実施形態の概略図である。
【
図2A-1】本発明の方法を実施するのに適切な核酸増幅反応のそれぞれの開始段階および指数関数的増殖段階の概略図である。
【
図2A-2】本発明の方法を実施するのに適切な核酸増幅反応のそれぞれの開始段階および指数関数的増殖段階の概略図である。
【
図2B】本発明の方法を実施するのに適切な核酸増幅反応のそれぞれの開始段階および指数関数的増殖段階の概略図である。
【
図3】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図4】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図5】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図6】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図7】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図8】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図9】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図10】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図11】時間(分)に対する(バックグラウンド減算)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図12A】増幅反応の個々の反復についての時間に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図12B】増幅反応の個々の反復についての時間に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図12C】増幅反応の個々の反復についての時間に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。
【
図13】本発明による「STAR」条件下または等温条件下での鋳型配列の10コピーからの増幅を達成するのに要した時間を比較する散布図である。
【
図14A】等温増幅条件(それぞれ63℃または49℃)を用いた、時間に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図14B】等温増幅条件(それぞれ63℃または49℃)を用いた、時間に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図15A】様々な温度プロファイルの下での本発明による増幅反応の個々の反復(10コピーまたは100コピー;それぞれ破線および実践)についての時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図15B】様々な温度プロファイルの下での本発明による増幅反応の個々の反復(10コピーまたは100コピー;それぞれ破線および実践)についての時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図15C】様々な温度プロファイルの下での本発明による増幅反応の個々の反復(10コピーまたは100コピー;それぞれ破線および実践)についての時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図16A】異なる温度プロファイルの下での本発明による増幅反応の時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度のグラフである。
【
図16B】異なる温度プロファイルの下での本発明による増幅反応の時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度のグラフである。
【
図17A】6個(
図17A)または7個(
図17B)のO-メチル化塩基を含有するプライマーを使用して実施された、本発明による増幅反応の時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図17B】6個(
図17A)または7個(
図17B)のO-メチル化塩基を含有するプライマーを使用して実施された、本発明による増幅反応の時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)および温度(℃)のグラフである。
【
図18】リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)23S RNAの逆転写によって生成したDNA標的を使用して本発明に従い実施された増幅反応の、時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0091】
実施例
実施例1:温度低下を試験するためのプロトコル
増幅反応に対する温度低下の効果を、標準的な等温条件に対する経時的な温度低下を用いた増幅を比較することによって試験した。温度低下増幅は、本明細書では「STAR」
(選択的温度増幅反応)と称される。これらの比較は、記載のない限り、下記のプロトコルを用いて行った。
酵素、オリゴヌクレオチド、および標的
クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)(Ct)は、STAR機構の開発のための初期標的として用いられた。クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)(ATCC VR-886)ゲノムDNAをAmerican Type Culture Collection(Manassas、VA)から入手した。潜在プラスミドのオープンリーディングフレーム6領域を、プライマーSTARctF61a(配列番号1、5-CGACTCCATATGGAGTCGATTTCCCCGAATTA-3’)およびSTARctR61c(配列番号2、5’-GGACTCCACACGGAGTCTTTTTCCTTGTTTAC-3’)で増幅した。得られたDNA鋳型を分子ビーコン、欧州特許第0728218号明細書に記載されるSTARctMB1(配列番号3、5’FAM/ccattCCTTGTTTACTCGTATTTTTAGGaatgg/BHQ1-3’)を用いて検出した。Manta1.0DNAポリメラーゼは、Enzymatics(Beverly、MA)から購入した。米国特許第6,191,267号明細書に記載のNt.BstNBIニッキングエンドヌクレアーゼは、New England BioLabs(Ipswich、MA)から購入した。
【0092】
オリゴヌクレオチドおよび分子ビーコンは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)およびBio-Synthesis(Lewisville、TX)によって合成された。STAR反応に使用したプライマーの一般的特徴は以下の通りであった:
ニック部位の安定化領域5’およびニック部位の標的特異的結合領域3’を用いてプライマーセットを構築した(
図1A)。プライマーは、ステムの少なくとも一部を形成する自己相補的構造を作製することによって、ステムおよびループ構造がオリゴヌクレオチドの5’末端に形成され得るように構築された。この構造のT
mは、所与の時間における反応の温度に依存して、線形的または指数関数的増幅のいずれかを導くように選択された。ステムは、ニッキング酵素認識配列の少なくとも一部をさらに包含した。プライマー中のニッキング酵素認識配列は二本鎖ステム構造の一部であるが、ニッキングを防止するために少なくとも一つのヌクレオチドは一本鎖である。所望の場合、標的配列に相補的な配列は、二次構造を含んでもよく、二次構造を含まなくてもよい。さらに、この配列は、2’修飾またはホスホロチオエート結合などの修飾されたヌクレオチドを含み得る。
【0093】
図1Aを参照すると、「プライマー領域」は、標的配列に相補的であり、標的配列に対してアニールする配列である。「NEB領域」は、ニッキングエンドヌクレアーゼ結合領域、すなわち、この例では、NEB領域の末端の4ヌクレオチド下流の部位でプライマーをニックするニッキング酵素の認識領域である。「増幅ループ」は、増幅プロセスのためのプライマー安定化およびハイブリダイゼーションを提供し、バックグラウンド非特異的増幅を低減するために、開始段階の間に自己相補性を介してそれ自体でループする。
図1Bおよび1Cは、本発明の方法において有用なプライマーのわずかに異なる実施形態を示す。プライマー構造は、
図1Aに示される実施形態と本質的に同一であるが、変更されたプライマーは、「プライマー領域」内の修飾塩基を含む。具体的には、プライマー領域の3’末端に連続した2’O-メチル化塩基のストリングが存在する。
図1Bでは、このストリングは7塩基長であり、
図1Cではストリングは6塩基長である。
図1Bおよび1Cに示した種類のプライマーを以下の実施例8で使用した。
【0094】
反応において見出されるオリゴヌクレオチドおよび増幅機構の概要は、(1)標的核酸分子;(2)標的核酸分子に相補的ないくつかのオリゴヌクレオチドを含む2つ以上のプライマーオリゴヌクレオチド分子、および(3)ニッキング酵素によってニックされ得る
プライマー内の部位を含む。本方法は、標的核酸分子をポリメラーゼ、それぞれが標的ヌクレオチド分子上の相補的配列に特異的に結合する2つ以上のプライマーオリゴヌクレオチド、およびニッキング酵素、と接触させることを含み、非等温条件下で、標的配列に結合するプライマーオリゴヌクレオチドの少なくとも一部を含む検出可能なアンプリコンを生成する。全体的なSTAR反応は、2つの異なる段階、すなわち開始および指数関数的増幅、を経ることが理解され得る。開始段階は、指数関数的な増幅が起こり得る指数関数的鋳型二重鎖の初期形成である。これらの2つの段階は、
図2Aおよび2Bに概略的に示されている。これらの図において、三角形の記号はニッキング酵素を表し、六角形の記号はDNAポリメラーゼを表す。プライマーの標的核酸への初期接触が起こり、続いてフォワード開始鋳型の伸長および生成が起こる。次いで、反対側の鎖のプライマーは、新たに生成したフォワード開始鋳型に結合し、開始鋳型のニック部位に向かって、およびそれを通って伸長する。この初期プロセスは、伸長のためにポリメラーゼが関与すると理解することができ、プライマーの二量体形成および切断型産物またはバックグラウンド産物の誤った増幅が非常に生じ易い。いずれかの鎖でニッキングが開始すると、ポリメラーゼはニック部位に浸透し、反対側のプライマーに向かって、およびニック部位を通って伸長する。
【0095】
このニッキングのサイクルに続いて、ポリメラーゼ伸長がフォワード開始鎖およびリバース開始鎖の両方で起こると、指数関数的二重鎖として知られる二重鎖が形成される。反応の第2段階が始まり、ニックおよび伸長から生成したそれぞれの新しい鋳型は今や別のプライマーの標的になっているため、この指数関数的増幅プロセスは、それ自体にフィードする。
【0096】
第2の段階は、速い鋳型生成のために活性ニッキングエンドヌクレアーゼを要することがここで理解される。このニック鎖置換複製が温度サイクルの必要性を排除したことは、以前から公知であり、従って、反応は一定の温度で実施することができ、そのようにされてきた。本発明の新規な発見は、短時間で高い特異性を伴う生成物の高収率を含む、既存の方法よりも有意に高い性能を有する、独特かつ別個の増幅方法を可能にする。
増幅条件
基本の選択的温度増幅反応(STAR)混合物は、2つのプライマー、ポリメラーゼおよびニッキング酵素(上記参照)を含有する。反応は、0.41μMのフォワードプライマー、0.2μMのリバースプライマー、0.18μMの分子ビーコン、10μlのSTAR Master Mixおよび5μlのDNAサンプルを含む20μlの最終容積で実施した。STARマスターミックスは以下の試薬を含む:15mMのMgSO4、90mMのTris-HCl(pH8.5)、300μMの各dNTP、15mMの(NH4)2SO4、15mMのNa2SO4、1mMのDTT、0.01%のTritonX-100、7Uのニッキングエンドヌクレアーゼ、48Uのポリメラーゼ。反応の温度は、等温であったか、または温度低下の量に基づいて変化した。各反応の増幅中の温度が60℃で開始し、15秒または1分ごとに特定量減少する場合、例えば、速度マイナス0.5℃(すなわち、15秒ごとに0.5℃の温度低下)10分間で、反応の過程で60℃から40℃までの温度低下を生じる。増幅およびSTAR産物の検出は、Agilent Mx3005 P QPCR装置(Agilent)を用いて行った。次の表に、試験した温度プロファイルを示す:
【0097】
【0098】
反応前インキュベーションは、試薬を、増幅動態、酵素性能、およびシグナル蛍光に及ぼす温度低下の効果を試験するための温度になるようにすることである。このようにして反応を進行させることにより、温度上昇の変数を排除し、既存の等温増幅技術と新規STAR法とを直接的に比較することが可能になる。
増幅手順
増幅反応が行われた正確なステップは次の通りである:1)マスターミックスを調製する;2)標的を有するかまたは標的を有しないプライマーを調製する;3)プレートごとに行われる反応の数に依存して96ウェルプレートのA-G列にプライマーミックスを添加する;4)同じ96ウェルプレートのH列にマスターミックスを添加する;5)プレートを封鎖し、反応前インキュベーションを2分間行う;6)H列から各プライマーミックスの列にマスターミックスを転移させ、転移と転移の間に15秒間待つ;7)封鎖して、予め選択した温度プロファイルおよびデータ収集を開始する。
【0099】
反応の過程で、上記のように分子ビーコンを用いて15秒ごとに増幅産物を測定した。反応混合物中の分子ビーコンの蛍光をモニターして、反応中に生成する特定の生成物の量を測定した。反応中に生成する特定の生成物は、フルオロフォアをクエンチャーから分離し、蛍光を生成する、分子ビーコンに結合する。蛍光測定は、増幅が始まる前に、各反応ウェルの最初の3回の読み取りの平均に基づいて、バックグラウンドを差し引いた。ベースライン閾値レベル(TL)からの上昇に基づき、さらなる特徴づけが行われた。TLは、バックグラウンドを差し引いた蛍光のベースラインに近いがランダムな変動の範囲を超えて選択した。温度の低下により、分子ビーコンのベースライン蛍光は、増大したステム強度のため減少し、クエンチャーおよびフルオロフォアがより大きな相互作用を有するため一定の線形ベースライン減少を生じる。すべての反応に対して2000のTLを選択した。比較のため、A
T値と称される、TLに到達する増幅までの時間に基づいて、正確な数を決定した。A
T値を使用することで、あるプレートから別のプレートへの比較が可能となる。
実施例2:未修飾プライマーを用いた結果
現在の等温技術に対しSTARが提供する改善を実証するために、標的につき18個の複製、無標的につき6個の複製を用いて増幅を行った。STAR反応は、等温条件と比較して、速度、感度および全蛍光の劇的な改善を示す。特に、-0.8℃/分~-3.2℃
/分の範囲は、すべての等温条件(
図3~11)よりも著しく良好であった。このような著しい温度の降下が依然として優れた結果を生じることは驚くべきことであり、予想外である。本出願人を特定の理論に制限するものではないが、増幅の改善は、以下でさらに論じる少なくとも3つの特性に起因し得ると考えられる。
【0100】
未修飾のプライマーを用いた実験の結果を
図3~11に示す。これらの図において、温度プロファイルは背景の陰影によって示されている。「非標的」陰性対照についてのシグナル(蛍光)の量は、暗色のプロットによって示される。10または100コピーの標的(C.トラコマティス(C.trachomatis)のゲノムDNA)の存在下で生成されるシグナルの量は、淡色のプロットによって示される。
【0101】
図3、4および5は、それぞれ50、56および60℃での等温増幅(すなわち、本発明の方法によるものでない)の結果を示す。
図3から分かるように、50℃での特異的増幅は本質的になく、少なくとも100コピーの標的コピー数につき、56℃で強力な増幅(
図4)があり、60℃で低い増幅があった(
図5)。
【0102】
図6~10は、増幅中に温度が低下した、本発明による非等温(STAR)増幅反応について得られた結果を示す。温度低下の速度は直線的であり、
図6での15秒あたり-0.1℃(すなわち、1分あたり-0.4℃)から
図10での15秒あたり-1.0℃(すなわち、1分あたり-4.0℃)までの範囲であった。全ての例において、100コピーの標的を伴う反応は、予想されるように、10コピーの標的を伴う反応よりも多くの蛍光シグナルを生成したことが分かる。より有意には、反応は、特に標的コピー数10の反応について、同等の等温増幅よりもはるかに多くのシグナルを生成した。さらに、検出可能なシグナルは、同等の等温反応よりも迅速に生成された。
【0103】
本発明の方法を、非線形的、段階的温度低下(
図11に示す)を用いて実施した場合も、同様の結果が得られた。
【0104】
本発明者らはまた、STAR反応における異なる複製間のシグナル量の変動が、等温反応における複製間のシグナル量の変動よりはるかに小さいことを見出し(簡略化のためデータは省略した)、本発明の方法がはるかに一貫した結果を生じたことを証明した。以下のコメントは、本発明の方法が上記の利点をもたらし得る可能な機構を提供する。
【0105】
ほとんどの核酸増幅反応において、プライマー二量体は最終的に形成され、限定された試薬に対して競合し、低標的濃度ではプライマー二量体が反応の主増幅経路になり得る。プライマー二量体の形成を、たとえ少量であっても、制限または遅延させることで、反応に対し有意な利益がもたらされる。増幅反応が迅速であるという性質のために、プライマー二量体形成の遅延により、増幅の全ての局面を改善する有利な好ましい増幅経路(すなわち、鋳型生成)が可能となる。高温で反応を開始することにより、これらの鋳型経路が有利となり、さらに好ましい。これは、STAR法における改善された感度、改善された蛍光シグナル、より制限された複製のグループ分け(すなわち、より優れた再現性)および向上した速度により示される。
【0106】
反応の開始段階の後、指数関数的段階が始まる。鋳型経路は不規則な経路よりも有利であったため、できる限り迅速に同量の生成物を生成することが望ましく、これはSTARによって促進される。この生成にとって最も可能性が高い制限段階の1つは、ニッキングエンドヌクレアーゼによる、部位のニッキングである。反応混合物の温度が低下するにつれて、ニッキングエンドヌクレアーゼにとって最も有利な温度に近づき、反応効率が高まり、検出のために出来る限り多くの鋳型を生成する。
【0107】
温度がさらに低下するにつれて、分子ビーコンは鋳型検出および蛍光バックグラウンドの減少に有利となる。分子ビーコンに対する鋳型の融解温度は、検出温度よりも著しく高くなり、分子ビーコンから融解する鋳型が少なくなるため改善されたシグナルを生成する。さらに、この温度低下により、ステムの融解温度は反応温度よりも高くなる。従って、分子ビーコンは、鋳型が存在しない場合、閉鎖段階に有利であり、生じるバックグラウンドシグナルは、より少ない。
【0108】
本発明の新規な非等温反応方法は、既存の等温および熱サイクル条件に対して実質的な改善を提供する。酵素活性および最適反応動態に有利であることにより、本方法はATの変化を改善し、生成される蛍光の総量を増加させ、増幅の一貫性を改善し、検出感度を高めた。
実施例3:SYBR Green IIを用いた結果
分子ビーコンは特定の一本鎖DNA産物の総量の増加のみを測定するため、非特異的増幅産物は、意図された増幅産物と独立して測定されることがない。非特異的増幅産物の産生(例えば、プライマー二量体形成から生じる)を測定するため、SYBR Green
IIの存在下で別個の反応を行った。SYBR Green IIは、一本鎖DNA、RNA、および二本鎖DNAを検出するための最も高感度な色素の1つである。SYBR
Green IIは低い固有蛍光を有するため、増幅が標的の不存在下で行われる場合、反応または非特異的増幅における全増幅の検出のためには自然な選択である。反応は、以下の表2に示すように、等温および非等温(STAR)の2つの条件下で直接行った。
【0109】
【0110】
さらに、この反応は、無標的に対し、50コピーのゲノムDNAを比較した。SYBR
Green IIを10,000x濃度で得、0.5xを反応ごとに使用した(Life Technologies、Carlsbad)。インターカレート色素の固有の性質のため、より高いTL、9000を用いてATを計算した。SYBR Green IIは温度に対し反比例する関係の蛍光を有する。“Comparison of multiple DNA dyes for real-time PCR: effects of dye concentration and sequence composition on DNA amplification and melting
temperature”(Gudnason et al.,2007 Nucl.Acids Res.35(19)e127)に記載されるように、温度が低いほど、蛍光シグナルが高い。結果を以下の表3に示す。
【0111】
【0112】
STAR法は複数の改善を示す。第1に、「無標的」が標的シグナルに対してSYBR
Green II増幅を示すのに要する時間がより長いことから明らかであるように、バックグラウンド産生を減少させる。第2に、産物の増幅が改善され、これは、標的が存在する場合、増幅時間がより速いことからわかる。組み合わせると、これらの改善により、ATと等温法との差が4倍以上になる。
【0113】
等温反応からのAT値は、STARからのAT値よりも変動性が大きいことに留意されたい。これは、新しい方法が増幅プロセスを制御する上で有益であることを示し、従来の方法を用いた非特異的増幅経路の予測不可能性を反映する。
実施例4:2’O-メチル修飾プライマーを用いた結果
米国特許第6,794,142号明細書および米国特許第6,130,038号明細書に記載されているように、2’O-メチル修飾プライマーの使用は、増幅中のプライマー二量体形成を減少させることが知られている。米国特許出願公開第2005-0059003号公報は、SDAプライマーの3’に位置する2’O-メチル修飾の使用を記載しており、このように、Bst DNAポリメラーゼIおよび誘導体は、DNA合成のためのプライマーとして2’-修飾リボヌクレオチドを効率的に利用することができる。1つ以上の2’修飾ヌクレオチド(例えば、2’-O-メチル、2’-メトキシエトキシ、2’-フルオロ、2’-アリル、2’-O-[2(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、2’-ヒドロキシル(RNA)、4’-チオ、4’-CH3-O-2’-架橋、4’-(CH3)3-O-2’-架橋、2’-LN Aおよび2’-O-(N-メチルカルバメート2’-Suc-OH))は、等温反応を改善するはずである。2’修飾ヌクレオチドがプライマー二量体形成を完全に排除するならば、STAR法が増幅をさらに改善できることは驚くべきことであろう。反応は、以下に示すように、等温および非等温(STAR)の2つの条件間で直接行った。
【0114】
【0115】
プライマーの3’末端上の2’修飾ヌクレオチドを用いた増幅の結果を以下の表5に示
す。反応は、無標的反応において最低6個の複製および標的反応での12個の複製を伴って行われた。
【0116】
【0117】
このデータは、2’O-メチルヌクレオチドを組み込んだ少なくとも1つのプライマーの使用が、反応を改善するがそれを遅くする、プライマー二量体の形成を遅延させることを示す。さらに、STAR法の使用は、2’O-メチル増幅の使用を改善し、失われた速度の一部を回復するだけでなく、標的増幅と無標的増幅との差を3倍改善した。これは、2’O-メチル修飾は非特異的、不規則な増幅の産生を減少させるが、それを排除しないことを示す。このデータはさらに、STAR法が、以前に開示された既存の技術よりも、2’O-メチル修飾によって生じる改善をより有効に利用していることを示唆する。
【0118】
本発明をいかなる特定の理論にも限定するものではないが、プライマー領域中の1つ以上の2’修飾ヌクレオチドを用いることによって得られる潜在的改善は、増幅の開始段階における増強に大きく起因すると仮定される。
【0119】
標的上のプライマー領域の初期伸長の間、STARのプライマー領域における1つ以上の2’修飾ヌクレオチドの組み込みにより、これらのヌクレオチドは、プライマーの相互作用によって形成された非特異的複合体におけるポリメラーゼ伸長の鋳型として機能するのに不適切なものとなり、バックグラウンドシグナルを減少させる。ヌクレオチドが結合ポケットに入ると、ポリメラーゼが機能停止する可能性が高い。非生産的反応(すなわち、オフターゲットまたはプライマーダイマー形成)では、鋳型結合がその融解温度に近いため、機能停止効果は、異常伸長を最小限にするのに十分である。その結果、反応が進まないため、2’修飾は望ましくない増幅経路を制限することができる。しかし、有利な増幅の間、2’修飾は融解温度を低下させ、増幅に負の影響を与え、増幅時間を遅くする。STARは、陰性標的の増幅という欠点を最小限に抑えながら、2’修飾の利点を活かすことができる。
【0120】
このポリメラーゼの機能停止は、STARが2’O-メチル修飾と併せて互いに改善する理由をさらに説明する。STAR法で見出される初期温度上昇は、自然にプライマー二量体を還元する他に、不規則な増幅が起こり得る前にプライマーの2’修飾の機能停止および溶融を悪化させ、従って、両方法は互いに補完し合う。さらに、STARは温度低下が関与するため、反応が進行する際に、プライマーの2’修飾によって生じる融解温度の低下を最小限に抑えることができる。
実施例5:複数のポリメラーゼを用いた結果
既存の増幅技術は熱サイクルであるか、または一定温度で行う。本発明の方法はどちらでもなく、むしろ、サイクルなしで温度を低下させることによって行う。本発明の特定の新規な特徴は、類似の機能を有するが異なる最適温度を有する酵素を使用する能力である
。例えば、この技術は、異なる最適条件を有する異なる鎖置換ポリメラーゼと共に、異なる最適温度で機能するニッキングエンドヌクレアーゼのために設計された複数のプライマーの使用を可能にする。本発明をいかなる特定の理論にも限定するものではないが、この方法は、既存の技術には見られない酵素とプライマーとの新しい組み合わせを可能にする迅速な増幅方法を開発する。下記反応(表6)は、以下に示すように、等温、非等温(STAR)、およびBSUポリメラーゼ(初期のManta1.0ポリメラーゼに加えて)を伴う非等温(STAR)、の3つの条件間で直接行った。BSUポリメラーゼはNew
England BioLabs(Ipswich、MA)から購入し、0.5U/反応で実験した。すべての条件は、18個の標的複製物および6個の無標的複製物を用いて行われた。
【0121】
【0122】
増幅反応は、10コピーのC.トラコマティス(C.trachomatis)ゲノムDNAを含む試料を用いて実施した。その結果を
図12A~12Cに示す。
【0123】
図12Aは等温反応(本発明によらない)の結果を示す。
図12Bは、Mantaポリメラーゼ単独の存在下でのSTAR反応の結果を示し、
図12Cは、さらなるBSUポリメラーゼの存在下でのSTAR反応の結果を示す。
【0124】
第1の明らかな違いは、等温法によるゲノムDNAの10コピーの検出の欠如であり、18個の複製のうち9個のみが蛍光閾値レベル(TL)を超え、増幅したと言い得る。両方のSTAR法は18個のうち17個の複製を検出した。(各STAR法における複製の欠落は、マルチチャネルピペットの欠陥によるものであったことに留意されたい)。
【0125】
STAR法間の違いはより不明確であるが、より低い最適温度37℃での第2のポリメラーゼの添加により、10分後の全蛍光が改善された。さらに、第2のポリメラーゼは複製を制限し、A
T変動を減少させる。鎖置換ポリメラーゼ商品が45℃~50℃の最適温度で市販されていれば、この差異はさらに実証されるであろう。この結果は、STAR法が等温条件よりも優れており、さらに、この技術が新規な新しい機構、酵素の組み合わせおよびプライマー増幅スキームを可能にすることを示唆している。
実施例6:再現性
STAR技術の一貫性の検証のために、米国特許第9,562,263号明細書に記載されているようにSTARと公表された等温条件とを比較する大規模な複製研究が行われた。増幅(STAR対等温)は、標的を含有する反応については100以上の複製を用い、標的を含まない対照反応混合物については16の複製を用いて行った。どちらの条件も同じ緩衝液、ポリメラーゼ、ニッキング酵素および標的を使用した。
図13の散布図に示されるように、STAR技術は、蛍光の閾値レベル(TL)への増幅を達成するための平
均時間(A
T)の明らかな改善、改善された感度、および複製間の標準偏差の減少を示す。本発明に従って行われた反応のA
T時間は3.35分であった一方、従来の等温プロトコルに従って実施された反応のA
T値は4.88分であり、この差は両側t検定で判断されるように統計学的に有意である。本出願人を特定の理論に制限するものではないが、増幅時間の有意な減少は、反応の開始の改善によるものと考えられ、より効率的な低コピー増幅、最小化されたプライマー二量体事象、および増加した特異的産物の伸長により、以前に開示された方法よりも速く鋳型を生成することが可能となる。
実施例7:従来の等温温度範囲を超えて行われた増幅反応
STAR技術のさらなる利点は、最も一般的な等温増幅温度範囲外で増幅する能力である。米国特許第5,712,124号明細書、米国特許第9,562,263号明細書および米国特許第5,399,391号明細書に記載されているように、大半の等温増幅技術は、増幅が起こり得る厳しい温度範囲を有する。これらの典型的な温度範囲外では、従来の等温技術では増幅が困難である。STARの汎用性を実証するために、以下の表7に記載のように増幅を行った。
【0126】
【0127】
等温反応は、米国特許第9,562,263号明細書に記載されているように行った。
図14Aおよび14Bは、63℃(
図14A)または49℃(
図14B)のいずれかで行われる等温増幅反応につき、時間(分)に対する蛍光シグナル(バックグラウンドを差し引いたもの;任意単位)の量を示すグラフである。両方の図において、点線のプロットは鋳型なしの陰性対照反応から得られた結果を表し、実線のプロットは鋳型を含有する試験反応の結果である。
【0128】
反応温度を63℃に保持した場合、鋳型特異的な増幅は実質的に起こらないことが、
図14Aから明らかである。
図14Bにおいて、結果は、49℃で約9分後から増幅が起こっていることを示唆しているようであるが、実際には分子ビーコンとプライマーとの相互作用から発生する誤シグナルである可能性がある(データは示さず)。
【0129】
等温反応とは対照的に、本発明に従って実施される「STAR」反応は、高温で開始され、なお良好な増幅を達成することができた。これらの反応の結果を
図15A、BおよびCに示す。これらは、時間(分)に対する蛍光(バックグラウンドを差し引いた、任意単位)のグラフである。濃い陰影は、反応中の温度(℃)を示す。点線のプロットは10コピーの標的を用いて得られた結果を表し、実線のプロットは100コピーの標的を用いて得られた結果を表す。
図15Aにおいて、初期温度は62℃であり、温度低下速度は15秒あたり-0.8℃(すなわち、1分あたり-3.2℃)であった。
図15Bにおいて、初期温度は63℃であり、温度低下速度は15秒あたり-0.8℃であった。
図15Cにおいて、初期温度は64℃であり、温度低下速度は15秒あたり-0.9℃(すなわち、1分あたり-3.6℃)であった。図から明らかなように、初期温度62℃または63℃でもSTAR反応について良好な結果が得られ、さらに64℃の初期温度を用いた増幅もあるが、これは明らかに準最適である。
【0130】
さらに、大きな温度降下を用いて実験を実施した。結果を
図16Aおよび16Bに示す。グラフは、無標的陰性対照(閾値レベルを上回る蛍光シグナルなし)について、および10または100コピーの標的C.トラコマティス(C.trachomatis)ゲノムDNAの存在下で行われるSTAR反応についての結果を示す。
【0131】
図16Aは、63℃の初期温度、続いて15秒あたり-0.8℃の温度低下速度を1分間、続いて49℃への急激な低下、次いで、反応の持続時間の間、15秒あたり-0.2℃/分(すなわち、1分あたり-0.8℃)の漸進的な温度低下を用いて得られた結果を示す。グラフは、10コピーの標的反応と比較して100コピーの標的反応についておよそ2倍の蛍光シグナルがあり、グループ内で相当の変動性があったが、10および100コピー数の反応の両方について増幅が達成されたことを示している。
【0132】
図16Bは、同じ63℃の初期温度を1分間、続いて49℃までの急激な低下を用いて得られた結果を示す。その後、実験の間、反応温度を49℃に保持した。このグラフから、良好な特異的増幅およびはるかに少ないグループ内変動(100コピー数の標的または無標的のみで実施された反応)があることが分かる。
【0133】
40℃の温度範囲にわたり増幅するSTARの能力は、STARが従来の増幅反応とは非常に異なることを明確に示している。広い範囲の非定常反応温度は異常であり、機能することは期待されない。本出願人を特定の理論に制限するものではないが、これらの大きな温度範囲は、従来の増幅法よりSTARの増幅について、制限性が少ないようである。STARがより広い温度範囲にわたってより優れた増幅を達成する能力は、酵素の最適温度を戦略的に利用することに加えて、プライマーの特異性および結合を改善することによるものである可能性がある。開始段階により高い温度を用いることにより、真の産物増幅が有利になり、それにより、その後のすべての段階の効率、指数関数的増幅および検出が改善される。この選択およびその後の温度降下は、酵素、プライマー、および温度のための新しいスキーマが実現されるような、増幅のツールボックスを開発する。
実施例8:6-および7-2’-O-メチルを用いた結果
前記したように、2’-O-メチル修飾プライマーは、増幅中のプライマー二量体形成を減少させることが知られている。2’-O-メチル修飾の大きなストリングを組み込み、依然として増幅を達成する能力から、これらの修飾のSTAR技術との協同的性質がさらに示される。典型的には、2’-O-メチル修飾はポリメラーゼを機能停止させ、増幅を永久に遅延させる。6つ以上は、ポリメラーゼが単に機能停止するよりむしろ複合体を「減退」させるものと考えられる。
図17Aおよび17Bは、これらの修飾に耐性を示し、以前に同定されたものよりも長い2’-O-メチル鎖で有意な増幅を達成するSTARの能力を示す。2’-O-メチル化塩基を含有するプライマーの構造を、
図1Bおよび1
Cに示す。
【0134】
図17Aおよび17Bは、時間(分)に対する(バックグラウンドを差し引いた)蛍光(任意単位)のグラフである。陰影は、増幅反応の過程における経時的な温度プロファイル(℃)を示す。
図17Aは、6個の2’-O-メチル修飾塩基を含有するプライマーを用いて実施された反応の結果を示し、
図17Bは、7個の2’-O-メチル修飾塩基を用いて実施された反応の結果を示す。両方の場合において、無標的陰性対照反応は蛍光シグナルを全く生成せず、一方で、平均蛍光シグナルは6個の修飾塩基プライマーについてわずかに高く、グループ内変動は、7個の修飾塩基プライマーからの結果と比較して相当少なかったものの、いずれかの修飾プライマーを用いると良好な増幅が見られた。
【0135】
図に見られるように、6および7の2’O-メチルのストリングを含有するプライマーは、STARとよく増幅する。これは、STARが鎖置換ポリメラーゼの非常に有利な温度領域、約65℃で増幅を開始する能力に起因する可能性がある。この有利な領域により、ポリメラーゼは、他の技術に欠けている開始を可能にする、より長い2’修飾ストリングを伸長させることが可能となり得る。簡潔のため、データは示されていないが、プライマー領域の全長は、より低速でより低い蛍光シグナルを伴うものの、2’-O-メチルおよび示された増幅を用いて修飾されていると説明することもできる。
実施例9:リボ核酸を用いた結果
STARは、DNA(cDNAおよびgDNA)、RNA(mRNA、tRNA、rRNA、siRNA、マイクロRNA)、RNA/DNA類似体、糖類似体、ハイブリッド、ポリアミド核酸および他の既知のアナログの任意の組成物を用いて、任意の核酸から増幅することができる。リボソームRNAの増幅は以下のように行った。
酵素、オリゴヌクレオチド、および標的:
リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)は、STAR RNAアッセイの開発の標的として用いられた。リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)(ATCC VR-886)ゲノムDNAをAmerican Type Culture Collection(Manassas、VA)から入手した。初期スクリーニングをgDNA上で実施し、リボソームRNAの23S領域がプライマーLMONF72(配列番号4、5’GGACTCGATATCGAGTCCAGTTACGATTTGTTG-3’)およびLMONR86(配列番号5、5’-gGACTCCATATGGAGTCCTACGGCTCCGCTTTT-3’)で増幅されることが見出された。得られたDNA鋳型を分子ビーコン、欧州特許第0728218号明細書に記載されるLMONMB1(配列番号6、5’-FAM/gctgcGTTCCAATTCGCCTTTTTCGCagc/BHQ1-3’)を用いて検出した。Mini Bead Mill 4(VWR)での急速機械溶解と組み合わせ、RNeasy PlusミニキットQiagen(Hilden、Germany)を用いて全RNAを単離した。リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)(ATCC BAA-2660)をAmerican
Type Culture Collection(Manassas、VA)から入手し、脳-心臓注入寒天プレート(BHI)上にプレーティングすることによって再生した。単一コロニーを用い、37℃で18時間増殖させて定常段階に達した25mLのBHI培地に接種した。次いで、培養物を逆希釈し、回収前にさらに4時間培養した。細菌ペレットをRLT溶解緩衝液に再懸濁し、Mini Bead Mill(VWR)でホモジナイズした。全RNAを製造業者の指示に従って精製した(Qiagen)。ゲノムDNAは、RNeasy Plus精製キット中に提供されるDNA結合カラムに溶解物を通過させることによって除去した。ゲノムDNA汚染は、RNeasy RNA結合カラムでの試料のカラム上DNAse I消化によってさらに最小限に抑えられた。Bst X DNAポリメラーゼは、Beverly Qiagen(Beverly、MA)から購入した。逆転写酵素であるOmniscriptはQiagen(Hilden、G
ermany)から購入した。米国特許第6,191,267号明細書に記載されるNt.BstNBIニッキングエンドヌクレアーゼは、New England BioLabs(Ipswich、MA)から購入した。オリゴヌクレオチドおよび分子ビーコンは、Integrated DNA Technologies(Coralville、IA)によって合成された。
増幅条件:
基本のSTAR混合物は、上記実施例1に記載されたもの全てを含有し、さらに以下のものを含む:逆転写酵素(上記参照)4U、およびBst.XへのManta1.0の置換。
【0136】
結果を時間(分)に対する蛍光(任意単位)のグラフである
図18に示す。陰影は、反応の進行中の温度プロファイルを示す。陰性対照反応は蛍光シグナルを全く生成しなかったが、10、100または1000コピー数の標的反応は、時間の減少(それぞれおよそ3.5分、3.0および2.75分)で閾値を超える蛍光シグナルを生成した。結果は、STARが逆転写RNA標的から効果的に増幅できたことを示している。
【配列表】
【外国語明細書】