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特開2022-172695音響カプラ、超音波画像処理方法、及び超音撮像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172695
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】音響カプラ、超音波画像処理方法、及び超音撮像装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
A61B8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078765
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川畑 健一
(72)【発明者】
【氏名】竹島 啓純
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE11
4C601GA18
4C601GA26
4C601GA27
4C601GC01
(57)【要約】
【課題】画像上から超音波プローブの姿勢を検出できる超音波撮像用の音響カプラを提供する。
【解決手段】音響カプラ10は、超音波撮像装置の超音波プローブが接する第1の層11と、撮像対象に接する第2の層12と、第1の層と第2の層との間にあって弾性率の高い材料からなる中間層13とを含む。中間層13は、超音波の進行方向について異なる位置に、例えば隣接する2つの層との境界近傍に、超音波を反射する材料からなる複数のマーカを含む。超音波撮像装置は、超音波画像に含まれるマーカの像から超音波プローブの姿勢を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波撮像装置のプローブが接する第1の層と、撮像対象に接する第2の層とを有し、前記第1の層と前記第2の層との間であって、超音波の進行方向に対し異なる位置に、それぞれ複数のマーカを含むことを特徴とする音響カプラ。
【請求項2】
請求項1に記載の音響カプラであって、
前記第1の層と前記第2の層との間に、前記第1の層及び前記第2の層よりも弾性率が高い中間層を有することを特徴とする音響カプラ。
【請求項3】
請求項2に記載の音響カプラであって、
前記複数のマーカは、前記第1の層と前記中間層との間及び前記第2の層と前記中間層との間に、それぞれ配置されていることを特徴とする音響カプラ。
【請求項4】
請求項2に記載の音響カプラであって、
前記複数のマーカは、前記中間層内に埋め込まれていることを特徴とする音響カプラ。
【請求項5】
請求項2に記載の音響カプラであって、
前記中間層は、ヤング率10kPa以上の弾性率を有することを特徴とする音響カプラ。
【請求項6】
請求項1に記載の音響カプラであって、
前記複数のマーカは、線条体、粒子、及び気泡のいずれかであることを特徴とする音響カプラ。
【請求項7】
請求項6に記載の音響カプラであって、
前記マーカは格子状の線条体であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項8】
請求項1記載の音響カプラであって、シート状であることを特徴とする音響カプラ。
【請求項9】
検査対象と超音波探触子との間に音響カプラを配置して、検査対象に超音波探触子を介して超音波の送受信を行い、生成した前記検査対象の超音波画像を処理する超音波画像処理方法であって、
前記音響カプラとして、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の音響カプラを用い、
前記超音波画像における前記音響カプラの複数のマーカを特定するステップと、特定された前記複数のマーカの位置関係を用いて、前記超音波探触子の位置情報を算出するステップとを含む超音波画像処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載の超音波画像処理方法であって、
前記超音波探触子の第1の位置及び第2の位置でそれぞれ取得した超音波画像における前記音響カプラの複数のマーカを特定するステップと、
前記第1の位置の超音波画像における前記マーカの位置と前記第2の位置の超音波画像における前記マーカの位置とを用いて、前記超音波探触子の移動方向及び移動角度を算出するステップとを含む超音波画像処理方法。
【請求項11】
超音波プローブが接続され、前記超音波プローブを介して超音波を送受信する送受信部と、受信した検査対象からの反射波である超音波を用いて超音波画像を生成する画像生成部と、を備え、
前記超音波画像は、前記検査対象と前記超音波プローブとの間に請求項1記載の音響カプラを介在させて撮像した画像であって、
前記超音波画像に含まれるマーカの像の位置をもとに前記超音波プローブの位置情報を算出する撮像位置算出部をさらに備えることを特徴とする超音波撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の超音波診断装置などの超音波撮像装置において、超音波探触子と検査対象との間に介在させる音響カプラに関する。
【背景技術】
【0002】
現代の医療において、体内の情報を非観血的に得られる画像診断は必須の技術であり、広く用いられている。画像診断モダリティの中で、小型で安価なソリューションを提供可能な超音波診断装置への期待は大きい。
【0003】
特に肺炎などのスクリーニング検査には、簡便な超音波診断装置の必要性が高い。しかし被検体の体表には、体毛や毛穴が存在するため、超音波探触子(以下、プローブという)を体表に押し当てる際の角度や走査の仕方、また被検体体表に塗布するゼリーの厚み等によって画質の良否が左右され、熟練者でないと高画質が得られないという術者依存性の問題がある。ゼリーに代わって高変形ゲルを用いた音響カプラも開発されており、高変形ゲルを用いることで、ゼリー塗布の術者依存性の問題を低減し、また塗布や除去に伴う作業を軽減することができる。
【0004】
音響カプラを用いる場合には、プローブの接触面側に配置される音響レンズ等と被検体との間の超音波の減衰を低減するために音響インピーダンスを最適化することが必要であり、特許文献1には、音響インピーダンスが異なる材料を積層して音響カプラを構成することが提案されている。
【0005】
しかし超音波診断装置に用いる場合、音響カプラには、検査対象の表面の凹凸に追従して変形でき且つ被検体との音響マッチングに優れることが要求されるが、従来の音響カプラでは、この両方の要請を満たすことが困難であり、臨床現場ではほとんど使用されていない。
【0006】
この問題に対し、本出願人は音響特性が優れ且つ高変形性の音響カプラ用樹脂を開発し提案している(特許文献2等)。このような高変形性の樹脂を用いることで、被検体の表面を歪ませることなく凹凸のある形状に追従して撮像を行うことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05-27784号公報
【特許文献2】特開2021-10571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スクリーニング目的で超音波撮像を行う場合、対象部位を漏れなく撮像することが重要である。しかし、体表に凹凸があるため、例えば、プローブを動かしながら走査した場合に、超音波ビームの方向が変化し、スキャンとスキャンとの間に隙間を生じ、対象部位を網羅できない可能性がある。このようなスキャンとスキャンとの間に生じる隙間を各スキャンの画像間の比較によって確認することは難しい。そのため、隣接する撮像面と撮像面との間に走査できなかった隙間が生じてもそれを確認できず、結果として対象部位の撮像に漏れを生じる可能性がある。
【0009】
本発明は、対象部位を漏れなく撮像できる手段を提供すること、具体的には超音波撮像によって得られた複数の画像から画像間の位置関係を把握することを可能にする音響カプラを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、音響カプラを構成する樹脂(ゲル)中に超音波を反射する材料からなるマーカを埋め込むことにより上記課題を解決する。マーカは、超音波進行方向について2以上の異なる位置に配置することで、超音波進行方向で決まる撮像面を確実に特定できる。
【0011】
即ち本発明の音響カプラは、超音波撮像装置の超音波探触子(以下、単にプローブともいう)が接する第1の層と、撮像対象に接する第2の層とを有し、前記第1の層と前記第2の層との間であって、超音波の進行方向に対し異なる位置に、それぞれ複数のマーカを含むことを特徴とする。例えば、第1の層と第2の層との間に、弾性率の高い中間層を配置し、この中間層の上下にマーカを配置する。
【0012】
また本発明の超音波画像処理方法は、検査対象と超音波探触子との間に音響カプラを配置して、検査対象に超音波探触子を介して超音波の送受信を行い、生成した前記検査対象の超音波画像を処理する超音波画像処理方法であって、音響カプラとして、本発明の音響カプラを用い、超音波画像における音響カプラの複数のマーカを特定するステップと、特定された複数のマーカの位置関係を用いて、超音波探触子の位置情報を算出するステップとを含む。
【0013】
本発明の超音波撮像装置は、超音波プローブが接続され、前記超音波プローブを介して超音波を送受信する送受信部と、受信した検査対象からの反射波である超音波を用いて超音波画像を生成する画像生成部と、を備え、超音波画像は、検査対象と超音波プローブとの間に本発明の音響カプラを介在させて撮像した画像であって、超音波画像に含まれるマーカの像の位置をもとに超音波プローブの位置情報を算出する撮像位置算出部をさらに備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、音響カプラにマーカを埋め込むことで、音響カプラを介在させて撮像した超音波画像に含まれるマーカの位置から、プローブの位置と走査方向を確認することができる。これによりプローブで走査された面(すなわち撮像面)の位置を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の音響カプラの一実施形態を示す断面図。
図2】(a)、(b)は、それぞれ、マーカの種類と配置例を示す図。
図3】本発明の音響カプラの製造方法の一例を示す図。
図4】本発明の音響カプラの製造方法の他の例を示す図。
図5】本発明の音響カプラの使用状態の例を示す図。
図6】超音波プローブの長軸方向が音響カプラのマーカの配列に平行な場合を説明する図で、(a)はマーカと長軸方向との関係を示す図、(b)は超音波プローブが(a)の位置にあるときの超音波画像におけるマーカの像(点像)を示す図。
図7】(a)、(b)は、マーカが一つの面にのみ存在する場合の画像を説明する図。
図8】(a)、(b)は、マーカが二つの面に存在する場合の画像を説明する図。
図9】超音波プローブの長軸方向が音響カプラのマーカに対し角度θで傾いている場合を示す図で、(a)はマーカと長軸方向との関係を示す図、(b)は超音波プローブが(a)の位置にあるときの超音波画像におけるマーカの像(点像)を示す図。
図10】メッシュ状のマーカについて、縦糸と横糸を識別する方法を説明する図。
図11】超音波プローブが長軸方向に沿って移動した場合の検出方法を説明する図で、(a)はマーカと長軸方向との関係を示す図、(b)は超音波プローブの移動前後のマーカの像(点像)の変化を示す図。
図12】超音波プローブが短軸方向に沿って移動した場合の検出方法を説明する図で、(a)はマーカと長軸方向との関係を示す図、(b)は超音波プローブの移動前後のマーカの像(点像)の変化を示す図。
図13】撮像面が基準面に対し傾いた場合の検出方法を説明する図で、(a)は撮像面が基準面に対し垂直な場合、(b)は撮像面が基準面に対し傾いた場合を示す。
図14】本発明の超音波撮像装置の一実施形態を示す全体図。
図15】撮像位置算出部の動作の一例を示すフロー図。
図16】撮像位置算出部が算出した位置情報の表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の音響カプラと、それを用いた超音波撮像方法の実施形態を説明する。
【0017】
最初に音響カプラの実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
本実施形態の音響カプラ10は、それぞれ高分子ゲルからなる複数の層で構成され、層間或いは層の内部に、超音波画像において識別可能なマーカが配置されている。例えば、図1に示すように、超音波撮像装置(超音波プローブ)との介在を行う層(第1の層)11と、撮像対象との介在を行う層(第2の層)12と、第1の層11と第2の層12との間に介在する中間層13とを備えている。図1に示す例では、中間層13の第1の層11との境界近傍及び第2の層12との境界近傍の2箇所に、それぞれ複数のマーカ15が保持され固定されている。
【0018】
なお図1では三層からなる音響カプラを示しているが、これらの層と層との間或いは層内にさらに別の層が挿入されるなど多層構造であってもよく、マーカ15は第1の層11と第2の層12との間に配置されていれよい。
【0019】
音響カプラ10の各層の材料である高分子ゲルは、超音波撮像に必要とされる音響特性と機械的特性とを両立することのできるものあることが望ましい。音響特性については、例えば、音速値が水の音速値に対して同等(偏差5%以内)、さらに超音波減衰率が0.1 dB/MHz/cm以下であることが望ましい。機械的特性は、層の機能によって異なり、撮像対象30との介在を行う層(第2の層)12は、高変形性であること、マーカ15を保持する中間層は高弾性率であることが好ましい。
【0020】
高分子ゲルの材料として、具体的には、アガロース(寒天)、アクリルアミド、多糖類或いはアクリルアミドと多糖類との混合物などの架橋高分子と水とからなるハイドロゲルや、アルコールなどの有機溶媒を含む非ハイドロゲルを用いることができる。特に、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N-ヒドロキシジエチルアクリルアミド、N-(3-メトキシプロピル)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミドなどのアクリルアミド類を重合性モノマーとして用いたハイドロゲルは、音響特性が水に近いため、超音波を減衰させることなく深部まで到達させることができ、好ましい。アクリルアミドを重合性モノマーとして用いる場合、架橋剤として、N,N’-メチレン(ビス)アクリルアミド、N,N’-エチレン(ビス)アクリルアミドなどの(ビス)アクリルアミドを用いることが好ましい。
【0021】
さらに、撮像対象との介在を行う第2の層12については、特許文献2に開示される、網目構造のポリアクリルアミドとアルギン酸とを含み、ポリアクリルアミドの網目構造の網目内にアルギン酸が保持されている構造のハイドロゲルを用いることが好ましい。このゲルは、超音波計測に必要とされる小さい弾性率(10kPa以下)と高い変形性(100%以上)とを兼ね備え、被検体表面の凹凸に追従して変形することができる。
【0022】
第1の層11、中間層13及び第2の層12は、それぞれ材料を異ならせてもよいが、同種のゲル材料を用いることで、層と層との結合性を高めることができる。なお、同種のゲル材料を用いる場合であっても、音響インピーダンスに勾配を持たせるためあるいはそれ以外の使用目的への対応のために、各層を構成するゲルのゲル化や水の割合などを異ならたり、層中に、微粒子などの添加物を添加したり、その量を調整することで、各層の音響インピーダンスを調整してもよい。層の組成を調整することで、音響インピーダンスだけでなく、例えばプローブに接触させる側は滑りやすく、生体に接触させる側は粘着性を挙げる等の物性の調整を行うことができる。
【0023】
中間層13は、マーカ15をゲル内で移動しないように固定するための層であり、弾性率が第1の層11及び第2の層12の弾性率よりも高いことが好ましい。具体的には、ヤング率で10kPa前後或いはそれ以上であることが好ましく、プローブ操作をロボットで行う(ロボット用)か用手かに応じて、ロボット用では10kPa以上、用手では10kPa前後とするなど適宜調整してもよい。いずれの場合にも、中間層13の弾性率を比較的高いものとすることにより、例えば、プローブ押圧時しても中間層13の変形が抑制され、中間層13に保持されたマーカが動くことなく、超音波走査方向の位置の指標として機能することができる。
【0024】
このような弾性率を持つ中間層13は、第1の層11や第2の層12とは異なる材料のゲルで構成することも可能であるが、層と層との結合性を高めるために、同種の材料で構成することが好ましく、その場合、重合性モノマーの濃度、重合性モノマーと架橋剤との比、ゲル化の際に添加する添加物等を調整することにより、弾性率を調整することができる。例えば、前述の重合性モノマーとしてアクリルアミドを用い、架橋剤として(ビス)アクリルアミドを用いたゲルの場合、アクリルアミドあるいは(ビス)アクリルアミドのいずれかあるいは両方の濃度を高くすることで弾性率(ヤング率)を大きくすることができる。
【0025】
マーカ15は、例えば、線条体(ワイヤ)、粒子、気泡など超音波を反射する材料から構成することができる。超音波を反射する材料として、具体的には、音響インピーダンスが撮像対象の音響インピーダンスと大きく異なる材料であればよく、金属、金属酸化物、ガラス或いはセラミックス、空気などの気体が挙げられ、マーカ15の形態に応じて適宜選択することができる。超音波を反射する材料が、撮像対象よりも超音波プローブに近接した位置に配置されることで、撮像対象から反射される超音波よりも強い反射信号として超音波撮像装置に受信され、超音波画像上でマーカの位置を把握可能になる。マーカ位置を検出することで、超音波プローブの角度や傾きを検出することができ、撮像面を特定することができる。超音波プローブ位置の検出方法については後述する。
【0026】
マーカ15は、図2(a)、(b)に示すように、音響カプラの平面方向に対し、2次元方向に配置される。図2(a)はワイヤの例、図2(b)は粒子或いは気泡の例である。図2は、一つの平面における配置を示しているが、図1に示したように、マーカ15は、超音波の照射方向の異なる位置(異なる面)に、それぞれ、配置される。マーカ15の配置は、異なる面で同じ配置としてもよいが、面によって異なる配置にすることも可能であり、それによって、後述する超音波プローブの位置検出においてマーカの配列方向に対する超音波プローブの角度がどのような角度であっても超音波プローブの移動量を検出することが可能になる。なお図2では、音響カプラ10の上面形状が長方形或いは正方形の場合を示しているが、音響カプラ10の形状はこれに限定されず円形や楕円形など任意である。
【0027】
マーカ15が配置される面(層)は、図1に示したように中間層13の内部でもよいし、中間層13と第1の層11との境界面及び中間層13と第2の層12との境界面でもよい。但し、いずれの場合にも、第1の層11及び第2の層12が変形しても、中間層13に対する位置が固定されているように配置される。これにより第1の層11や第2の層12が変形しても、プローブとマーカとの位置関係が保持される。
【0028】
なお音響カプラ10を構成する各層の厚みや、マーカの大きさについては特に限定されないが、被検体の凹凸を第2の層12で吸収しつつ、音響カプラによる超音波の減衰をできるだけ少なくし、且つ被検体の撮像領域をできるだけ確保するために、音響カプラ10全体として厚みを5mm~20mm程度とすることが好ましい。なお、ロボット等により自動的に計測を行う場合には、計測システムの構成に応じて至適値が変化する。各層の厚みは、同じでも異なっていてもよいが、第2の層は、少なくとも被検体の凹凸を吸収できる厚みがあることが好ましい。
【0029】
マーカの大きさについて、画像上で点像或いは線像として検出できる大きさであればよく、線条体であれば線幅0.1mm~5mm程度が好ましい。気泡或いは粒子についても粒子径0.01mm~0.1mm程度とすることが好ましい。
【0030】
このように構成される音響カプラは、例えば、次のような製造方法により製造することができる。
【0031】
マーカ15を中間層13内に配置する場合には、図3に示すように、まず、中間層成型用の型40にマーカ(例えばワイヤメッシュ)を配置し、中間層を構成するゲルあるいは樹脂の組成物を型に入れて化学的あるいは物理的操作により硬化させて、内部の2箇所(2層)にマーカ15が配置された中間層用シート131を作製する。
【0032】
別の成型用の型41に中間層用シート131を垂直に配置し、その両側に第1の層のゲルあるいは樹脂組成物と第2の層のゲルあるいは樹脂組成物とを注入し、両組成物を化学的あるいは物理的操作により硬化させてゲル化し、中間層13の一側面に第1の層11、他側面に第2の層12が形成された音響カプラ10を作製する。この方法では、中間層の内部にマーカが配置された音響カプラを製造することができる。
【0033】
また別の製造方法として、図4に示すように、まず第1の層(または第2の層)を構成するゲルあるいは樹脂組成物を化学的あるいは物理的操作により硬化してゲルシート111を作製した後、このゲルシート111を成型用型42に配置し、その上面にマーカ15を配置する。次いで、成型用型42に中間層を構成する樹脂組成物を注入し、ゲル化して中間層13を形成する。中間層13の上面に、マーカ15を配置し、その上から第2の層(または第1の層)を構成する樹脂組成物を注入して硬化させる。中間層13の上面にマーカ15を配置するタイミングは、中間層を構成する樹脂が完全にゲル化する前が好ましい。この方法では、中間層13とその両側の層11、12との間(境界)にマーカ15が配置された音響カプラを製造することができる。
【0034】
図3の方法は、マーカがワイヤの場合に好適であり、また中間層内部にマーカが保持されるので、第2の層を構成するゲルの変形に対してもマーカが移動せず、位置の指標としての信頼性が高い。図4の方法は、平面上にマーカを配置するので、マーカの形態の自由度が高く、また順次ゲルの層を積層する方法なので製法も容易である。
【0035】
但し、図3及び図4は、音響カプラの製造方法の単なる例示であり、本発明の音響カプラを製造する方法は、これら製造方法に限られるものではない。また図3図4では、第1の層11及び第2の層12は、いずれも表面が平面状のものを示したが、表面の形状は必ずしも平面状である必要はなく、球面状など曲面であってもよい。
【0036】
本実施形態の音響カプラは、超音波プローブを被検体表面に当接して撮像を行う際に、図5に示すように、音響カプラ10の第2の層12が被検体30に体表に接するように被検体30の上に載せて、第1の層11側に超音波プローブ20を押し当てて撮像を行う。この際、第1の層11が、高変形性のゲルで構成されているため、ゲルの変形によって凹凸があったり曲面になっている被検体の体表面に隙間なく音響カプラを接触させることができる。
【0037】
また中間層13は、高弾性の硬いゲルで構成されているため、超音波プローブ20を音響カプラ10に押し当てても、その押圧力は第1の層11及び第2の層12の変形によって吸収され、中間層13のフラットな形状が保たれる。従って、中間層13に保持されるマーカ15の配列が歪むのが抑制され、超音波プローブとマーカとの位置の関係性が保たれる。この状態で超音波撮像を行った場合、マーカ15からの反射波を超音波撮像装置が受信することで、超音波画像中にマーカ15の像が重畳され、このマーカ15の像から超音波プローブの姿勢、即ち超音波プローブの位置(平面内の角度)や傾き(平面に対する角度)、を確認することができる。
【0038】
次に、上記構成の音響カプラ10を用いた超音波撮像において、マーカ15を利用した超音波プローブの位置(姿勢)の検出方法について説明する。ここではマーカ15が格子状ワイヤ(メッシュ)である場合を例に説明する。
【0039】
超音波画像は、超音波の照射範囲が撮像領域であり、撮像面は超音波プローブから照射される超音波の方向と広がりで決まる。超音波の広がりは超音波プローブにおけるトランスデユーサの配列と超音波撮像装置のビームフォーマによって決まり、照射方向は超音波プローブの姿勢で決まる。従って、超音波プローブの姿勢がわかれば、その時に得られた撮像面の位置を知ることができる。つまり、超音波プローブの姿勢として、超音波プローブが当接される被検体の表面を基準面としたときに、その基準面内における超音波プローブの位置及び角度と、基準面に対する超音波プローブの傾斜を検出することで、照射領域が確定される。音響カプラを介在して撮像を行う場合、基準面は、音響カプラの主平面で規定される。
【0040】
最初に図6を参照して、超音波プローブ20の長軸方向が、メッシュの縦糸15A或いは横糸15Bと並行な場合を説明する。図6(a)は、基準面を上から見た図であり、超音波プローブの長軸方向をラインLで示している。図6(b)は、超音波の照射方向が基準面に対し垂直である場合のマーカの像を示している。すなわち図6(a)において撮像面(S)はラインLを含み紙面に垂直な面となる。後述の説明で用いる図9図11図12においても、図6と同様に、(a)は、マーカ(メッシュ)を上から見た図、(b)は撮像面を示すものとする。
【0041】
図6(a)に示すように、例えば、超音波プローブがメッシュの縦糸15Aと並行で縦糸15Bと重ならない場合、撮像面は、上下に配置されたメッシュの横糸15Bと交差し、超音波画像では、図6(b)に示すように、横糸15Bが等間隔に並んだ像として現れる。ここで、図7に示すように、仮にマーカ15が音響カプラの一つの面にしか存在しないとすると、撮像面(超音波照射方向)が基準面に対し垂直な場合(a)と、撮像面が傾き隣接するマーカからの反射波を受信した場合(b)とで、いずれも画像には同様の点像が現れるため、両ケースを区別することができない。
【0042】
これに対し、二つの面にマーカを配置した場合には、超音波源から遠くにあるマーカは深度が深いことにより1層目と2層目の点像間の距離が大きくなり、図8に示すように、撮像面が基準面に垂直な場合(a)の距離d1と傾いている場合(b)の距離d2との違いから両者を区別することができる。
【0043】
次に、超音波プローブの長軸方向Lが、メッシュの縦方向或いは横方向に対し、所定の角度を持っているときは、図9(a)に示すように、撮像面はメッシュの縦糸と横糸とを横切ることとなり、超音波ビーム(撮像面)と縦糸及び横糸との交点が、それぞれ縦糸及び横糸の点像として現れる。ここで図9(b)に示すように、撮像面の角度θが縦糸に対し90度未満の場合、横糸の点像が縦糸の点像よりも多く現れ、この例では、縦糸の点像P1,P2、P3と横糸の点像Q1、Q2、Q3、Q4とがP1、Q1、Q2、P2,Q3、Q4、P3のような配置となって現れる。なお90度を超える場合には、縦糸と横糸との関係が逆になるだけで同様である。
【0044】
そして横糸の間隔をα、隣接する縦糸の点像P1、P2との間隔をΔx、隣接する横糸の点像Q1、Q2の間隔をΔyとすると、
Δx=α/sinθ (1)、Δy=α/cosθ (2)
の関係がある。αはメッシュによって決まる定数であり、メッシュが変形しないと仮定とすると一定である。
【0045】
従って画像からΔx、Δyを求めることで、次式(3)
θ=tan-1(Δy/Δx) (3)
より超音波プローブの長軸方向の角度θを知ることができる。
【0046】
ここで画像からΔx、Δyを求めるためには、横糸の点像と縦糸の点像とを区別する必要がある。区別する手法はいくつか考えられるが、その一つの方法として、各点像の距離を総当たりで算出し、その出現頻度(ヒストグラム)を利用する方法がある。図9の例では、縦糸の3つの点像P1,P2、P3と横糸の4つの点像Q1、Q2、Q3、Q4とで合計7つの点像がある。P1と他の6つの点像との距離を算出し、P2と他の5つの点像との距離を算出し、以下同様にして、合計21の距離を算出する。算出された距離のうち、求めようとする隣接する横糸と横糸との間隔Δy、及び、隣接する縦糸と縦糸との間隔Δxは、それぞれ値が一定であり、所定の頻度で出現するが、縦糸の点像と横糸の点像との間の距離は出現頻度が低い。そこで例えば頻度の高さが1番目の距離をΔx(或いはΔy)とし、その距離の算出に用いた点像を除き、残る点像から距離Δy(或いはΔx)を求める。ΔyとするかΔxとするかは、例えば、求めた距離を式(1)または式(2)に代入してθを算出し、その値の妥当性から決めることができる。
【0047】
例えば角度θが小さいときは、隣接する横糸と横糸との間隔Δyの出現頻度が高くなり、隣接する縦糸と縦糸との間隔Δxの出現頻度は低くなる。角度が90度に近づくとその関係は逆になる。仮に、縦糸と縦糸との間隔Δxを用いて、式(1)により角度θを算出し、その角度と横糸と横糸との間隔hを式(2)に代入してαを算出すると、その値は本来のαから大きくずれるので、頻度が1番目の距離はΔxではなくΔyであることがわかる。
【0048】
また、異なる手法として、縦と横いずれかのみに区別用の補助マーカを設置しておき、計測対象にマーカを貼付したにプローブの部位変更を行う際のマーカの表示上のパターンの違いにより縦と横とを区別する方法が考えられる。例えば、計測の前の準備モードとして、術者に特定の方向にプローブを移動させる操作を行わせ、縦方向に設置した補助マーカが連続して見られる場合にそのマーカが縦方向に配置されていると区別することができる。なお、補助マーカとしては配置間隔を他のマーカと違えたマーカ、あるいは超音波画像上のマーカの重なりにより生成する画像を使用することなどが考えられる。
【0049】
また、縦糸と横糸とを識別するさらに別の手法として、縦糸と横糸とに照射される超音波ビームの面積が、角度によって異なることを利用して、縦糸と横糸を識別することも可能である。例えば、図10(a)に示すように、超音波プローブの長軸方向と縦糸との角度が小さい場合には、縦糸に当たる超音波ビームは、縦糸を斜めに横切るように照射されるため、その点像は、離心率が大きくなり楕円形に近い形状となる。一方、横糸に当たる超音波ビームは、横糸に対し垂直に近い角度で照射されるため、円形に近い形状となる。この形状の違いをもとに画像上で縦糸と横糸とを識別する。図9の例では、図10(b)に示すように変形した縦糸15Aの点像が現れ、隣接する横糸と横糸との間隔h、及び、隣接する縦糸と縦糸との間隔wをそれぞれ計測することができる。なお楕円形の点像についてはその中心位置を点像の位置とする。
【0050】
この手法は、超音波ビームの照射角度に縦糸と横糸とで比較的大きな差があるときに有効である。上述した2つの手法を組み合わせて、縦糸と横糸の識別を行ってもよい。
【0051】
次に超音波プローブが平行移動する場合を説明する。
まず超音波プローブが長軸方向に移動した場合は、全ての点像は配列関係を維持した状態で同じ方向に移動する。図11(a)、(b)に、超音波プローブが図9の状態から移動した状態とその場合の点像の変化を示す。図11(b)に示すように、点像は超音波プローブの実際の移動量に対応するシフト量Δξで、この例では左側に移動している。この点像のシフト量Δξをオプティカルフローなどの手法を用いて算出することにより、超音波プローブの長軸方向の移動量を知ることができる。
【0052】
一方、超音波プローブが短軸方向に移動した場合は、図12(a)、(b)に示すように、縦糸の点像と横糸の点像とではシフトする方向が逆となる。すなわち、横糸の点像Q1,Q2,・・・は、それぞれ画像上で図中左方向にシフトするが、縦糸の点像P1、P2・・・は図中右方向にシフトする。縦糸の点像のシフト量Sp及び横糸の点像のシフト量Sqは、短軸方向の移動量をΔηとすると、それぞれ、前述した基準面に対する長軸方向の角度θを用いて、次式で表される。
【0053】
Sp=Δη/tanθ
Sq=Δη・tanθ
【0054】
従って、式(3)により角度θがわかっていれば、縦糸及び横糸それぞれのシフト量Sp,Sqを用いて、角度θにおいて超音波プローブを短軸方向に移動した場合の移動量Δηを算出することができる。この場合の縦糸と横糸と識別は、上述した距離のヒストグラムを用いる方法を用いることができる。
【0055】
なお、上の式からわかるように、移動量Δηは「tanθ」を用いて算出するので、θが90度の倍数のとき、すなわち超音波プローブの長軸方向が縦糸或いは横糸の方向と平行となっているときには、算出することができないことになるが、音響カプラ10の下側(超音波の進行方向に対し深い側)のメッシュを、上側のメッシュに対し、45度ずらして配置することで、下側のメッシュ(縦糸及び横糸)の点像のシフト量を用いて算出することが可能となる。
【0056】
次に、撮像面Sが基準面S0と垂直な面から傾いた場合の傾きφの検出を説明する。撮像面Sが基準面S0と垂直な場合には、上下(線方向の上下各層)に配置されたメッシュの点像間の距離は最短となるが(図13(a))、撮像面Sが基準面S0に対し傾いている場合には、図13(b)に示すように、1層目と2層目の層間は長くなる。つまり垂直な場合の層間の距離をd1、傾いた時の層間の距離をd2とすると傾きφは、
d2cosφ=d1
となる。層間の距離d1は音響カプラの構造によって決まっているので、d2がわかれば、傾きφを算出することができる。
【0057】
以上、説明したように、内部に厚み方向の位置が異なる2層に、それぞれ、2次元方向に配列したマーカを配置した音響カプラを用いることにより、マーカの画像(点像)を解析することで、撮像面の基準面内での回転(基準方向に対する角度θ)、長軸方向及び短軸方向の移動量(Δξ、Δη)及び基準面に対する傾き(φ)を検出することができる。
【0058】
以上、マーカが縦糸と横糸からなるメッシュである場合を説明したが、マーカが2次元配置されている粒子や気泡についても同様の考え方で超音波プローブの姿勢を検出することができる。
【0059】
次に、本実施形態の音響カプラに対応した超音波撮像装置の構成について説明する。
【0060】
図14は、超音波撮像装置の全体構成を示す図であり、この超音波撮像装置50は、公知の超音波撮像装置と同様に、超音波プローブ20に対し超音波信号を送信する送信部51、超音波プローブ20が検出した撮像対象からのエコー信号を受信する受信部52、受信部52が受信した信号を処理し超音波画像を生成する信号処理部53、送受信を制御する送受信制御部54、信号処理部53が生成した超音波画像を用いて表示装置に表示させる表示画像を生成する表示制御部55などを備えている。また超音波撮像装置50の付属装置として、超音波画像などを表示する表示装置56や、超音波画像など信号処理部53の処理結果を格納する記憶装置57を備えていてもよい。
【0061】
送信部51及び受信部52は、撮像対象に合わせて超音波を整相するビームフォーマを含み、送受信制御部54の制御のもとで取得すべき超音波画像やドプラ情報に対応して、超音波信号を超音波プローブ20に送るとともに超音波プローブからのエコー信号を例えばフレーム毎の信号として信号処理部53に送る。
【0062】
信号処理部53は、通常の超音波撮像装置と同様に、Bモード画像などを生成する画像生成部531やエコー信号をもとに血流情報を算出するドプラ処理部533などを備え、さらに、画像生成部531が生成した画像(Bモード画像)を用いて、超音波プローブ20の位置情報(移動量、角度、傾き)を算出する撮像位置算出部535を備えている。
【0063】
撮像位置算出部535は、画像生成部531が作成した超音波画像を受け取ると、画像に含まれるマーカ像(点像)を特定し、超音波の撮像面を決定するための種々の演算を行う。具体的には、点像間の距離の算出、距離のヒストグラムの作成、点像の形状の判定、点像群の移動量の算出(オプティカルフローの計算)などを行う。
【0064】
このような撮像位置算出部535の機能は、信号処理部53の一機能として、CPUやGPU及びメモリを備えた計算機によりソフトウェアで実現してもよいし、ASICやFPGAなどのハードウェアで実現することも可能である。また信号処理部53とは別の計算機やハードウェアで実現してもよい。
【0065】
撮像位置算出部535による超音波プローブ20の位置情報を算出手順の一例を図15に示す。
【0066】
本発明の音響カプラを用いた撮像であることが設定されると(S101)、撮像位置算出部535が作動し、画像生成部531からの画像の取り込みを開始する(S102)。本発明の音響カプラを用いた撮像であるか否かは、例えば、ユーザが入力装置(不図示)などを介して設定してもよいし、デフォルトで音響カプラを用いた撮像を設定しておき、画像中にマーカが存在しないときに本発明の音響カプラを用いていないことを自動で判断するようにしてもよい。
【0067】
撮像位置算出部535は、最初の超音波画像を取り込むと、それに含まれる点像からマーカの位置を検出し、点像間の距離を検出し、距離のヒストグラムを作成する(S103)。撮像位置算出部535は、ヒストグラムから超音波プローブの長軸方向の角度θを算出する(S104)。例えば、メッシュの縦糸又は横糸に平行或いはほぼ平行な場合には、点像間の距離は一定であり、ヒストグラムにおいてその距離のみがピーク状に現れる。またヒストグラムに複数の距離が現れる場合、その頻度をもとに隣接する縦糸の点像間の距離及び隣接する横糸の点像間の距離を決定し、角度θを算出する。ステップS104で算出した位置及び角度を最初の超音波画像の初期位置として記憶する(S105、S106)。
【0068】
次に、超音波プローブを動かしながら撮像する度に、得られる画像のマーカの点像を検出し、初期の点像の配置と比較し、長軸方向の移動か、短軸方向の移動か、角度の変化か、傾きの変化かを判定する(S107)。すなわち点像が配列パターンに変化がない場合には(S108)、1層目の点像と2層目の点像との間隔が変化したか、または点像のパターンが画像横方向(アジマス方向)にシフトしたかを判断する(S1081)。1層目と2層目との初期位置における間隔と比較し、間隔が変化しているときには(図13)、超音波プローブの傾きφが変化したと判断し、その距離から超音波プローブの傾きを算出する(S1082)。その後、初期位置の傾きを更新し、ステップS102に戻る(S109)。
【0069】
点像が配列パターンを維持したまま、画像横方向(アジマス方向)に点像がシフトしている場合には(S1082)、長軸方向の移動(図11)と判断し、点像のシフト量Δηから長軸方向の移動量を算出する(S1083)。その後、初期位置の長軸方向位置を更新し、ステップS102に戻る(S109)。
【0070】
またステップS108で点像間の距離が変化していると判断された場合は、短軸方向の移動または回転(角度の変化)が行われたと判断し、まず、ステップS103、S104と同様に、各点像間の距離を総当たりで算出し、ヒストグラムを作成し、角度θを算出する(S1084、S1085)。この角度θがステップS104で求めた角度θと同じであれば(S1086)、短軸方向の移動(図12)とみなすことができるので、縦糸の点像のシフト量と横糸の点像のシフト量とを用いて、短軸方向の移動量を算出する(S1087)。その後、初期位置の短軸方向位置を更新し、ステップS102に戻る(S109)。
【0071】
ステップS1085で算出した角度が初期位置として登録された角度と異なる時は(S1086)、この角度で初期位置を更新し、ステップS102に戻る(S109)。
【0072】
このように初期位置について、いずれかの変化があるたびに初期位置を更新しながら、上述したステップを繰り返し、画像毎に撮像面の位置情報を取得する。
【0073】
こうして撮像位置算出部535が算出した超音波プローブ20の位置情報は、その算出に用いた超音波画像とともに、記憶装置57に格納される。或いは表示制御部55に渡され、表示制御部55は、超音波画像とともにそれを撮像したときの超音波プローブの位置を表示装置56に表示する。
【0074】
表示の態様は特に限定されないが、例えば、図16に示すように、2次元画像である超音波画像160とともに3次元の撮像領域を示す画像161を表示し、この3次元画像に超音波プローブで決まる撮像面162を示してもよい。これにより、術者は表示されている超音波画像が被検体のどこを撮像しているのかを一目で確認することができ、またスキャンの漏れがないかあるいはスキャンの順番があらかじめ設定された手順に合致しているかどうかを確認することもできる。
【0075】
このような表示は、撮像中にリアルタイムで行ってもよいし、記憶装置57に格納された超音波画像を用いて行ってもよい。
【0076】
本実施形態の超音波撮像装置によれば、本実施形態の音響カプラを用いて撮像を行う際に、超音波プローブの位置の変化に対応して位置情報を算出し、提示することができる。これにより、術者は漏れを生じることなく撮像範囲をスクリーニングすることができ、また必要に応じて、確認した箇所を再撮像することができる。
【0077】
なお以上の実施形態では、音響カプラ10と超音波プローブ20とは別体である場合を説明したが、本発明の音響カプラ10は、超音波プローブ20に固定して用いることも可能である。
【符号の説明】
【0078】
10:音響カプラ、11:第1の層、12:第2の層、13:中間層、20:超音波プローブ、30:撮像対象、50:超音波撮像装置、53:信号処理部、535:撮像位置算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16