(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172786
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】流体送出装置
(51)【国際特許分類】
F24F 9/00 20060101AFI20221110BHJP
F15D 1/08 20060101ALI20221110BHJP
F24F 13/06 20060101ALI20221110BHJP
B05B 1/28 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F24F9/00 L
F15D1/08
F24F9/00 D
F24F13/06 A
B05B1/28 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021078990
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 知実
(72)【発明者】
【氏名】高牟禮 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 恭晃
【テーマコード(参考)】
3L080
4F033
【Fターム(参考)】
3L080BA01
4F033BA02
4F033DA01
4F033EA01
4F033LA02
4F033NA01
(57)【要約】
【課題】流体送出装置において、流出口から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることが可能な技術を提供する。
【解決手段】流体送出装置は、外部に流体を送出する送出口を有する流体通路と、前記流体通路に設けられており、前記送出口に向けて前記流体を流動させる流体輸送機械と、前記流体通路の内部において前記送出口の近傍に配置された流体加速部材と、を備えていてもよい。前記流体加速部材は、前記送出口における前記流体の流速に比べ、前記送出口から送出された後の前記流体の流速を大きくするように構成されていてもよい。
【選択図】
図12B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部に流体を送出する送出口を有する流体通路と、
前記流体通路に設けられており、前記送出口に向けて前記流体を流動させる流体輸送機械と、
前記流体通路の内部において前記送出口の近傍に配置された流体加速部材と、を備えた流体送出装置であって、
前記流体加速部材が、前記送出口における前記流体の流速に比べ、前記送出口から送出された後の前記流体の流速を大きくするように構成されている、流体送出装置。
【請求項2】
前記流体加速部材の上流側の部分が、流線型の輪郭形状を有する、請求項1の流体送出装置。
【請求項3】
前記流体加速部材の下流側の部分が、流線型よりも内側に入り込んだ輪郭形状を有する、請求項2の流体送出装置。
【請求項4】
前記流体加速部材が、対称翼型の下流側の部分が切断されたカムテール形状を有する、請求項3の流体送出装置。
【請求項5】
前記流体加速部材が、前記対称翼型の翼弦長に対する前記対称翼型の最大翼厚の比率が、21%から30%の範囲内にあるように構成されている、請求項4の流体送出装置。
【請求項6】
前記流体加速部材が、前記対称翼型の翼弦長に対する前記対称翼型の上流端から切断端までの長さの比率が、65%から90%の範囲内にあるように構成されている、請求項4または5の流体送出装置。
【請求項7】
前記流体加速部材が、前記流体加速部材の下流端と前記送出口の送出面とが面一となるように配置されている、請求項1から6の何れか一項の流体送出装置。
【請求項8】
前記流体通路が、前記送出口に向かうにつれて幅が縮小する縮流部をさらに有しており、
前記流体加速部材の少なくとも一部が、前記縮流部内に配置されている、請求項1から7の何れか一項の流体送出装置。
【請求項9】
前記送出口から送出された後の前記流体において形成されるポテンシャルコア領域の先端と前記送出口の間の距離をxとし、前記送出口の幅をdとした場合に、x/dが6以上となる、請求項1から8の何れか一項の流体送出装置。
【請求項10】
前記流体が、空気であり、
前記流体輸送機械が、送風ファンであり、
エアカーテン装置として機能する、請求項1から9の何れか一項の流体送出装置。
【請求項11】
前記流体通路が、前記送出口に対向して配置されており、外部から前記流体を吸い込む吸込口をさらに有している、請求項10の流体送出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、流体送出装置に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、流体送出装置が開示されている。前記流体送出装置は、外部に流体を送出する送出口を有する流体通路と、前記流体通路に設けられており、前記送出口に向けて前記流体を流動させる流体輸送機械と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の流体送出装置では、送出口から送出された流体の流速は単調に減少していくため、流出口から送出された流体が高い流速を維持する距離が短い。本明細書では、流体送出装置において、流出口から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書では、流体送出装置を開示する。流体送出装置は、外部に流体を送出する送出口を有する流体通路と、前記流体通路に設けられており、前記送出口に向けて前記流体を流動させる流体輸送機械と、前記流体通路の内部において前記送出口の近傍に配置された流体加速部材と、を備えていてもよい。前記流体加速部材は、前記送出口における前記流体の流速に比べ、前記送出口から送出された後の前記流体の流速を大きくするように構成されていてもよい。なお、ここでいう流体は、空気のような気体であってもよく、水のような液体であってもよい。また、流体輸送機械は、気体を流動させる送風ファンであってもよいし、液体を流動させるポンプであってもよい。
【0006】
上記の流体送出装置では、流体通路の内部において送出口の近傍に流体加速部材が配置されていることにより、送出口における流体の流速に比べて、送出口から送出された後の流体の流速を大きくすることができる。これによって、送出口から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができる。
【0007】
流体加速部材の上流側の部分は、流線型の輪郭形状を有していてもよい。
【0008】
上記の構成では、流体が流体通路を流れる際の圧力損失をそれほど大きくすることなく、流体通路内に流体加速部材を配置することができる。
【0009】
流体加速部材の下流側の部分は、流線型よりも内側に入り込んだ輪郭形状を有していてもよい。
【0010】
上記の構成では、流体加速部材の下流側の部分に負圧領域が生じ、その負圧によって流体加速部材に沿った流れを集流することができる。これによって、送出口から送出された流体が高い流速を維持する距離をより長くすることができる。
【0011】
流体加速部材は、対称翼型の下流側の部分が切断されたカムテール形状を有していてもよい。
【0012】
上記の構成では、流体加速部材の下流側の部分における負圧領域が強大になり、流れを集流する効果をより向上させることができる。これによって、送出口から送出された流体は、流れが合流した直後から運動量が増大し、高い流速を維持する距離をより長くすることができる。
【0013】
流体加速部材は、対称翼型の翼弦長に対する対称翼型の最大翼厚の比率が、21%から30%の範囲内にあるように構成されていてもよい。
【0014】
流体通路に流体加速部材を配置した場合、送出口から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができるものの、流体が流体通路を通過する際の圧力損失が増大して、流体輸送機械が消費するエネルギーの増大を招いてしまう。上記の構成によれば、流体が流体通路を通過する際の圧力損失をそれほど大きくすることなく、送出口から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができる。
【0015】
流体加速部材は、対称翼型の翼弦長に対する対称翼型の上流端から切断端までの長さの比率が、65%から90%の範囲内にあるように構成されていてもよい。
【0016】
流体加速部材の下流側の部分の負圧領域による集流効果の大きさは、対称翼型の上流端から切断端までの長さに応じて変化する。上記の構成によれば、流体加速部材の下流側の部分の負圧領域による集流効果をより高めることができる。
【0017】
流体加速部材は、流体加速部材の下流端と前記送出口の送出面とが面一となるように配置されていてもよい。
【0018】
流体加速部材を送出口よりも上流側に送出口から離れて配置すると、それだけ送出口から送出された流体が高い流速を維持する距離が短くなってしまう。一方で、流体加速部材が送出口よりも外側に突出してしまうと、流体送出装置の使用時に流体加速部材が邪魔になるおそれがある。上記の構成によれば、流体送出装置の使用時に流体加速部材が邪魔になることなく、送出口から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができる。
【0019】
流体通路は、送出口に向かうにつれて幅が縮小する縮流部をさらに有していてもよい。流体加速部材の少なくとも一部は、縮流部内に配置されていてもよい。
【0020】
上記の構成では、流体通路を流れる流体が流体加速部材の面に沿って流れやすくすることができる。これによって、送出口から送出された流体が高い流速を維持する距離をより長くすることができる。
【0021】
送出口から送出された後の流体において形成されるポテンシャルコア領域の先端と送出口の間の距離をxとし、送出口の幅をdとした場合に、x/dが6以上となるように構成されていてもよい。なお、本明細書において「ポテンシャルコア領域」とは、送出口から送出された後の流体の流速が、送出口における流体の流速以上である領域のことをいう。
【0022】
通常、流体通路の内部において送出口の近傍に流体加速部材が配置されていない構成では、x/dは6よりも低くなる。上記の構成では、流体通路の内部において送出口の近傍に流体加速部材を配置して、x/dを6以上とすることで、送出口から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができる。
【0023】
流体は、空気であってもよい。流体輸送機械は、送風ファンであってもよい。流体送出装置は、エアカーテン装置として機能してもよい。
【0024】
上記の構成では、エアカーテン装置において、送出口から送出された空気が高い流速を維持する距離を長くすることができ、高い空間遮断能力を実現することができる。
【0025】
流体通路は、送出口に対向して配置されており、外部から流体を吸い込む吸込口をさらに有していてもよい。
【0026】
上記の構成では、送出口から送出された空気が拡散する前に吸込口で吸い込むことができ、エアカーテン装置における空間遮断能力をより向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】流体通路31の直線部31aの断面図である。
【
図4】従来技術の流体送出装置11において送出口14から送出された流体におけるポテンシャルコア領域20を模式的に示す図である。
【
図5】実施例1に係る流体送出装置1において送出口4から送出された流体におけるポテンシャルコア領域20を模式的に示す図である。
【
図6A】流体送出装置1において、流体加速部材7を配置しない場合の、送出口4から送出された流体の流速をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図6B】流体送出装置1において、ある形状の流体加速部材7を配置した場合の、送出口4から送出された流体の流速をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図6C】流体送出装置1において、別の形状の流体加速部材7を配置した場合の、送出口4から送出された流体の流速をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図6D】流体送出装置1において、さらに別の形状の流体加速部材7を配置した場合の、送出口4から送出された流体の流速をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図8A】流体送出装置1において、下流側の部分が切断された流体加速部材7を配置した場合の、送出口4から送出された流体の流速をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図8B】流体送出装置1において、下流側の部分が切断されていない流体加速部材7を配置した場合の、送出口4から送出された流体の流速をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図10】ポテンシャルコア領域20の延伸距離ΔLと圧力損失の増加量ΔPの比率ΔL/ΔPと、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率との関係を示すグラフである。
【
図11】ポテンシャルコア領域20の延伸距離ΔLと圧力損失の増加量ΔPの比率ΔL/ΔPと、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率との関係を示すグラフである。
【
図12A】流体送出装置1において、流体加速部材7を配置しない場合の、送出口4から送出された流体の流速をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図12B】流体送出装置1において、最適な形状の流体加速部材7を配置した場合の、送出口4から送出された流体の流速をシミュレーションした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施例)
図1に示すように、本実施例に係る流体送出装置1は、流体輸送機械2と、流体通路31~34を備えている。
【0029】
流体輸送機械2は、流入口2aから流出口2bへ向けて流体を流動させる。流体輸送機械2の流出口2bには、流体通路32の上流端が接続されている。流体通路32の下流端には、流体通路31の上流端が接続されている。流体通路31の下流側の部分には、細長い略直方体形状の直線部31aが形成されている。直線部31aの下面には、送出口4が形成されている。送出口4は、細長い略長方形状の開口であって、下方を向いて配置されている。流体通路31を流れる流体は、直線部31aを長手方向に流れるとともに、送出口4に向けて下方に向けて流れて、送出口4を介して外部に送出される。流体輸送機械2の流入口2aには、流体通路34の下流端が接続されている。流体通路34の上流端には、流体通路33の下流端が接続されている。流体通路33の上流側の部分には、細長い略直方体形状の直線部33aが形成されている。直線部33aの上面には、吸込口5が形成されている。吸込口5は、細長い略長方形状の開口であって、上方を向いて配置されている。外部から吸込口5を介して流体通路33に流入する流体は、直線部33aを長手方向に流れて、流体通路33を流れる。吸込口5は送出口4に対向して配置されている。
【0030】
流体送出装置1において、流体輸送機械2が駆動すると、外部の流体が吸込口5を介して流体通路33に吸い込まれるとともに、流体通路33から流体通路34を経由して流体輸送機械2に流体が流れ、かつ、流体輸送機械2から流体通路32を経由して流体通路31に流体が流れ、流体通路31から送出口4を介して外部に流体が送出される。送出口4と吸込口5は対向して配置されているので、送出口4から送出された流体は吸込口5から吸い込まれる。
【0031】
本実施例では、流体送出装置1が送出する流体は空気であり、流体輸送機械2は空気を流動させる送風ファンである。本実施例の流体送出装置1は、エアカーテン装置として機能する。
【0032】
次に、
図2を用いて、送出口4の近傍の構成について説明する。送出口4の近傍において、流体通路31の直線部31aは、送出口4に向かうにつれて幅が縮小する縮流部6を有している。また、送出口4の近傍には、流体通路31の内部において、流体加速部材7が配置される。流体加速部材7は、流体通路31の縮流部6に配置されている。
【0033】
流体通路31に縮流部6が設けられていることで、送出口4へ向かって流れる流体の流路面積を小さくすることができ、送出口4から送出される流体の流速を速めることができる。また、流体通路31に縮流部6が設けられていることで、流体の流れを整流して、流体加速部材7の面に沿って流れやすくすることができる。
【0034】
流体通路31の内部に流体加速部材7を配置することで、送出口4へ向かって流れる流体の流路面積をさらに小さくすることができ、送出口4から送出される流体の流速をさらに速めることができる。また、流体加速部材7の周囲を通過する流体を、流体加速部材7よりも下流側で集流させることができる。これによって、送出口4から送出された後の流体が、送出口4から送出される時の流速以上の流速を維持することのできる領域(以下ではポテンシャルコア領域ともいう)を延伸することができる。
【0035】
流体加速部材7は、流体通路31の縮流部6において、その長手方向の中心軸が送出口4の送出面に対して垂直であるように配置されている。また、流体加速部材7の下流端が、送出口4の送出面と面一になるように配置されている。これによって、流体加速部材7が送出口4からはみ出して邪魔にならない範囲で、ポテンシャルコア領域を最大限に延伸することができる。
【0036】
次に、
図3を用いて、流体加速部材7の具体的な形状について説明する。本実施例の流体加速部材7は、長手方向の中心軸を含む面に関して対称な形状を有する対称翼型(例えば、NACA翼型)について、下流側の部分が切断されたカムテール形状を有する。流体加速部材7の形状は、その翼弦長7a、最大翼厚7b、及び上流端から切断端までの長さ7cによって特定される。流体加速部材7を、対称翼型の下流側の部分が切断されたカムテール形状とすることにより、切断した領域に発生する負圧領域が合流する流体の流れによって閉じ込められるので、圧力損失を低減することができる。また、負圧領域による集流効果によって、ポテンシャルコア領域を延伸することができる。
【0037】
次に、
図4及び
図5を用いて、従来技術と本実施例に開示される技術との比較説明を行う。
【0038】
図4に示すように、従来技術の流体送出装置11は、送出口14の近傍に流体加速部材7が配置されていない。この場合、送出口14から送出された流体は、周囲の流体との混合により流速が徐々に低下していく。このため、送出口14から送出された流体の流速は単調に減少していき、ポテンシャルコア領域20は短いものとなる。
【0039】
これに対して、
図5に示すように、本実施例に係る流体送出装置1では、送出口4の近傍に流体加速部材7が配置されている。このため、流体が流体加速部材7を通過した後の合流点Gにおいて流体の運動量が増大し、送出口4から送出された後の流体の流速が、送出口4での流体の流速よりも大きくなる。したがって、本実施例に係る流体送出装置1におけるポテンシャルコア領域20は、
図4に示す従来技術の流体送出装置11のポテンシャルコア領域20よりも、送出口4からより離れた距離まで延伸する。
【0040】
次に、
図6A-
図6Dを用いて、流体送出装置1における送出口4から送出された流体の流速が、流体加速部材7の有無および形状によってどのように変化するかをシミュレーションした結果について説明する。なお、シミュレーションにおいては、送出口4の幅を50mmとし、縮流部6に流入する流体の流速を0.33m/sとしている。
【0041】
図6Aは、流体加速部材7を配置しない場合のシミュレーション結果S1を示す。
図6Bは、流体加速部材7として、翼弦長7aが80mmであるNACA翼型について、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率を12%とし、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率を75%とした場合のシミュレーション結果S2を示す。
図6Cは、流体加速部材7として、翼弦長7aが80mmであるNACA翼型について、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率を12%とし、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率を85%とした場合のシミュレーション結果S3を示す。
図6Dは、流体加速部材7として、翼弦長7aが80mmであるNACA翼型について、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率を18%とし、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率を75%とした場合のシミュレーション結果S4を示す。
【0042】
図6A-
図6Dから分かるように、流体加速部材7を配置しない場合(シミュレーション結果S1)に比べて、流体加速部材7を配置した場合(シミュレーション結果S2,S3,S4)の方が、長い距離にわたって送出口4から送出された流体が高い流速を維持している。また、シミュレーション結果S2に比べて、シミュレーション結果S3の方が、わずかに長い距離にわたって送出口4から送出された流体が高い流速を維持している。さらに、シミュレーション結果S2,S3に比べて、シミュレーション結果S4の方が、長い距離にわたって送出口4から送出された流体が高い流速を維持している。
【0043】
図7は、シミュレーション結果S1-S4について、送出口4から送出された流体の中心軸における流速Ucを縦軸、送出口4からの距離xと送出口4の幅dの比率x/dを横軸とするグラフにまとめたものである。なお、シミュレーション結果S1-S4において、送出口4での流速Ucは1m/sとなっているので、流速Ucが1m/s以上である箇所が、ポテンシャルコア領域20(
図5参照)に対応する。
【0044】
シミュレーション結果S1では、x/dが5.2のところまでポテンシャルコア領域20が維持されるのに対し、その他のシミュレーション結果S2-S4では、x/dがそれぞれ8.8、9.0、9.7のところまでポテンシャルコア領域20が維持される。すなわち、流体加速部材7が配置されることにより、ポテンシャルコア領域20は約1.69-1.87倍にまで延伸され得る。
【0045】
また、シミュレーション結果S1では、流速Ucは送出口4で最大値である1m/sとなり、送出口4からの距離が大きくなるにつれて単調に減少していくのに対し、シミュレーション結果S2-S4では、流速Ucは送出口4の近傍では1m/sよりも低いものの、送出口4からの距離が大きくなるにつれて増大し、ピークを迎えた後に減少していく。シミュレーション結果S2-S4において、流速Ucの最大値はいずれも1m/sを上回り、中でもシミュレーション結果S4では、流速Ucの最大値は1.15m/sとなっている。すなわち、流体加速部材7が配置されることにより、流速Ucは1.15倍にまで増加され得る。
【0046】
以上のように、流体加速部材7が送出口4の近傍に配置されることによって、ポテンシャルコア領域20が延伸する。従って、特に、流体送出装置1をエアカーテン装置として用いる場合、高い空間遮断能力を実現することができる。
【0047】
次に、
図8A、
図8Bを用いて、流体送出装置1における送出口4から送出された流体の流速が、流体加速部材7における切断の有無によってどのように変化するかをシミュレーションした結果について説明する。なお、シミュレーションにおいては、
図6A-
図6Dと同様の前提条件を用いている。
【0048】
図8Aは、流体加速部材7として、翼弦長7aが80mmであるNACA翼型について、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率を18%とし、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率を75%とした場合のシミュレーション結果S4を示す。
図8Bは、流体加速部材7として、翼弦長7aが80mmであるNACA翼型について、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率を18%とし、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率を100%とした場合、すなわち流体加速部材7が切断されていないNACA翼型である場合のシミュレーション結果S5を示す。
【0049】
図8A、
図8Bから分かるように、流体加速部材7が切断されていないNACA翼型である場合(シミュレーション結果S5)に比べて、流体加速部材7が切断されたNACA翼型である場合(シミュレーション結果S4)の方が、長い距離にわたって送出口4から送出された流体が高い流速を維持している。
【0050】
図9は、シミュレーション結果S4,S5について、
図7と同様に、送出口4から送出された流体の中心軸における流速Ucを縦軸、送出口4からの距離xと送出口4の幅dの比率x/dを横軸とするグラフにまとめたものである。なお、シミュレーション結果S4,S5において、送出口4での流速Ucは1m/sとなっているので、流速Ucが1m/s以上である箇所が、ポテンシャルコア領域20(
図5参照)に対応する。
【0051】
シミュレーション結果S5では、x/dが8.3のところまでポテンシャルコア領域20が維持されるのに対し、シミュレーション結果S4では、x/dが9.7のところまでポテンシャルコア領域20が維持される。すなわち、流体加速部材7を切断されたNACA翼型形状とすることにより、ポテンシャルコア領域20は1.17倍にまで延伸され得る。
【0052】
また、シミュレーション結果S5では、流速Ucの最大値は1.06m/sであるのに対し、シミュレーション結果S4では、流速Ucの最大値は1.15m/sとなっている。すなわち、流体加速部材7を切断されたNACA翼型形状とすることにより、流速Ucは約1.08倍にまで増加され得る。
【0053】
以上のように、流体加速部材7を切断されたNACA翼型形状とすることによって、流体加速部材7を切断されていないNACA翼型形状とする場合に比べて、ポテンシャルコア領域20が延伸する。このため、特に流体送出装置1をエアカーテン装置として用いる場合、流体加速部材7を切断されたNACA翼型形状とすることによって、高い空間遮断能力を実現することができる。
【0054】
流体通路31に流体加速部材7を配置した場合、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができるものの、流体が流体通路31を通過する際の圧力損失が増大して、流体輸送機械2が消費するエネルギーの増大を招いてしまう。
【0055】
図10は、流体通路31に流体加速部材7が配置された場合のポテンシャルコア領域20の延伸距離と、流体通路31に流体加速部材7が配置されない場合のポテンシャルコア領域20の延伸距離との差をΔLとし、流体通路31に流体加速部材7が配置された場合の圧力損失と、流体通路31に流体加速部材7が配置されない場合の圧力損失との差をΔPとした場合のΔL/ΔPについて、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率を変えながらシミュレーションした結果をグラフにまとめたものである。なお、ここでは、流体加速部材7の翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率を75%に固定している。
【0056】
図10に示すように、ΔL/ΔPは、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率に対して、極大値を持つ上に凸の曲線となる。ΔL/ΔPを最大化する翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率は24%であり、その近傍の21から30%の範囲であれば、ΔL/ΔPを高い値とすることができる。
【0057】
また、流体加速部材7による集流効果は、切断した領域に発生する負圧領域によるものであるから、ポテンシャルコア領域20の延伸距離は、流体加速部材7における切断位置にも依存して変化する。
【0058】
図11は、
図10と同様のΔL/ΔPについて、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率を変えながらシミュレーションした結果をグラフにまとめたものである。なお、ここでは、流体加速部材7の翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率を24%に固定している。
【0059】
図11に示すように、ΔL/ΔPは、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率に対して、極大値を持つ上に凸の曲線となる。ΔL/ΔPを最大化する翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率は85%であり、その近傍の65から90%の範囲であれば、ΔL/ΔPを高い値とすることができる。
【0060】
以上のように、本実施例に係る流体送出装置1においては、流体加速部材7の形状を、翼弦長7aに対する最大翼厚7bの比率を24%とし、翼弦長7aに対する上流端から切断端までの長さ7cの比率を85%として、最適な形状としたときに、最高の性能を実現することができる。
【0061】
図12Aは、流体加速部材7を配置しない場合のシミュレーション結果S1を示す。
図12Bは、最適な形状の流体加速部材7を配置した場合のシミュレーション結果S6を示す。
【0062】
図12A、
図12Bから分かるように、流体加速部材7を配置しない場合(シミュレーション結果S1)に比べて、最適な形状の流体加速部材7を配置した場合(シミュレーション結果S6)の方が、非常に長い距離にわたって送出口4から送出された流体が高い流速を維持している。
【0063】
(変形例)
流体送出装置1が送出する流体は、空気に限られず、その他の気体であってもよいし、水のような液体であってもよい。さらに、気体と液体が混ざったものや、これらに微量の個体が混ざった混相流体であってもよい。
【0064】
流体輸送機械2は、流体の種類に応じて適宜変更することができ、例えばポンプであってもよい。
【0065】
流体通路31,32,33,34の形状および配置は、流体送出装置1の用途に応じて適宜変更することができる。流体通路31,32,33,34は、金属製または樹脂製の通路であってもよい。あるいは、流体通路31,32,33,34は、ゴム製の伸縮自在の通路であってもよい。
【0066】
送出口4および吸込口5の形状および配置は、流体送出装置1の用途に応じて適宜変更することができる。送出口4は、例えば、送出面がホースのような円形のものであってもよい。送出口4と吸込口5は対向して配置されていなくてもよい。
【0067】
流体送出装置1は、流体通路33,34を備えていなくてもよく、吸込口5を備えていなくてもよい。この場合、流体輸送機械2の流入口2aを介して外部の流体が吸い込まれてもよい。
【0068】
流体加速部材7の翼弦長7a、最大翼厚7b、上流端から切断端までの長さ7cは、適宜変更し得る。流体加速部材7は、流体通路31の縮流部6において、その長手方向の中心軸が送出口4の送出面に対して垂直であるように配置されていなくてもよい。また、流体加速部材7の下流端が、送出口4の送出面と面一になるように配置されていなくてもよい。
【0069】
流体加速部材7は、対称翼型以外の流線型の輪郭形状を有していてもよい。例えば、流体加速部材7は、
図3に示す形状を中心軸周りに回転させた三次元形状を有していてもよい。
【0070】
以上のように、一またはそれ以上の実施形態において、流体送出装置1は、外部に流体を送出する送出口4を有する流体通路31,32,33,34と、流体通路31に設けられており、送出口4に向けて流体を流動させる流体輸送機械2と、流体通路31の内部において送出口4の近傍に配置された流体加速部材7と、を備えている。流体加速部材7は、送出口4における流体の流速に比べ、送出口4から送出された後の流体の流速を大きくするように構成されている。
【0071】
上記の流体送出装置1では、流体通路31の内部において送出口4の近傍に流体加速部材7が配置されていることにより、送出口4における流体の流速に比べて、送出口4から送出された後の流体の流速を大きくすることができる。これによって、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができる。
【0072】
一またはそれ以上の実施形態において、流体加速部材7の上流側の部分は、流線型の輪郭形状を有している。
【0073】
上記の構成では、流体が流体通路31を流れる際の圧力損失をそれほど大きくすることなく、流体通路31内に流体加速部材7を配置することができる。
【0074】
一またはそれ以上の実施形態において、流体加速部材7の下流側の部分は、流線型よりも内側に入り込んだ輪郭形状を有している。
【0075】
上記の構成では、流体加速部材7の下流側の部分に負圧領域が生じ、その負圧によって流体加速部材7に沿った流れを集流することができる。これによって、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離をより長くすることができる。
【0076】
一またはそれ以上の実施形態において、流体加速部材7は、対称翼型の下流側の部分が切断されたカムテール形状を有している。
【0077】
上記の構成では、流体加速部材7の下流側の部分における負圧領域が強大になり、流れを集流する効果をより向上させることができる。これによって、流体が流体加速部材7を通過した後の合流点Gにおいて流体の運動量が増大し、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離をより長くすることができる。
【0078】
一またはそれ以上の実施形態において、流体加速部材7は、対称翼型の翼弦長7aに対する対称翼型の最大翼厚7bの比率が、21%から30%の範囲内にあるように構成されている。
【0079】
流体通路31に流体加速部材7を配置した場合、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができるものの、流体が流体通路31を通過する際の圧力損失が増大して、流体輸送機械2が消費するエネルギーの増大を招いてしまう。上記の構成によれば、流体が流体通路31を通過する際の圧力損失をそれほど大きくすることなく、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができる。
【0080】
一またはそれ以上の実施形態において、流体加速部材7は、対称翼型の翼弦長7aに対する対称翼型の上流端から切断端までの長さ7cの比率が、65%から90%の範囲内にあるように構成されている。
【0081】
流体加速部材7の下流側の部分の負圧領域による集流効果の大きさは、対称翼型の上流端から切断端までの長さ7cに応じて変化する。上記の構成によれば、流体加速部材7の下流側の部分の負圧領域による集流効果をより高めることができる。
【0082】
一またはそれ以上の実施形態において、流体加速部材7は、流体加速部材7の下流端と送出口4の送出面とが面一となるように配置されている。
【0083】
流体加速部材7を送出口4よりも上流側に送出口4から離れて配置すると、それだけ送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離が短くなってしまう。一方で、流体加速部材7が送出口4よりも外側に突出してしまうと、流体送出装置1の使用時に流体加速部材7が邪魔になるおそれがある。上記の構成によれば、流体送出装置1の使用時に流体加速部材7が邪魔になることなく、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができる。
【0084】
一またはそれ以上の実施形態において、流体通路31は、送出口4に向かうにつれて幅が縮小する縮流部6をさらに有している。流体加速部材7の少なくとも一部は、縮流部6内に配置されている。
【0085】
上記の構成では、流体通路31を流れる流体が流体加速部材7の面に沿って流れやすくすることができる。これによって、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離をより長くすることができる。
【0086】
一またはそれ以上の実施形態において、送出口4から送出された後の流体において形成されるポテンシャルコア領域20の先端と送出口4の間の距離をxとし、送出口4の幅をdとした場合に、x/dが6以上となるように構成されている。
【0087】
通常、流体通路31の内部において送出口4の近傍に流体加速部材7が配置されていない構成では、x/dは6よりも低くなる。上記の構成では、流体通路31の内部において送出口4の近傍に流体加速部材7を配置して、x/dを6以上とすることで、送出口4から送出された流体が高い流速を維持する距離を長くすることができる。
【0088】
一またはそれ以上の実施形態において、流体は、空気である。流体輸送機械2は、送風ファンである。流体送出装置1は、エアカーテン装置として機能する。
【0089】
上記の構成では、エアカーテン装置として機能する流体送出装置1において、送出口4から送出された空気が高い流速を維持する距離を長くすることができ、高い空間遮断能力を実現することができる。
【0090】
一またはそれ以上の実施形態において、流体通路33は、送出口4に対向して配置されており、外部から流体を吸い込む吸込口5をさらに有している。
【0091】
上記の構成では、送出口4から送出された空気が拡散する前に吸込口5で吸い込むことができ、エアカーテン装置として機能する流体送出装置1における空間遮断能力をより向上することができる。
【0092】
以上、実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0093】
1 :流体送出装置
2 :流体輸送機械
2a :流入口
2b :流出口
4 :送出口
5 :吸込口
6 :縮流部
7 :流体加速部材
7a :翼弦長
7b :最大翼厚
7c :上流端から切断端までの長さ
11 :流体送出装置
14 :送出口
20 :ポテンシャルコア領域
31、32、33、34:流体通路
31a、33a:直線部
G :合流点
S1、S2、S3、S4、S5、S6:シミュレーション結果