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特開2022-172810共振器構造およびそれを用いたメタマテリアル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172810
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】共振器構造およびそれを用いたメタマテリアル
(51)【国際特許分類】
   H01P 7/08 20060101AFI20221110BHJP
   H01P 1/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01P7/08
H01P1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079047
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 智宏
(72)【発明者】
【氏名】高木 茉佑
【テーマコード(参考)】
5J006
5J011
【Fターム(参考)】
5J006HB03
5J006LA11
5J006MB01
5J011CA11
(57)【要約】
【課題】設計が容易な共振器構造を提供する。
【解決手段】共振器構造100において、第1層110には、第1方向に離間し、第1方向と実質的に垂直な第2方向を長手として、第1配線要素のペア112a,112bが形成される。また第2層120には、第2方向に離間し、第1方向を長手として第2配線要素122a,122bが形成される。第1配線要素のペア112a,112bは、第2配線要素のペア122a,112bと交差する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層に、第1方向に離間し、前記第1方向と実質的に垂直な第2方向を長手として形成される第1配線要素のペアと、
第2層に、前記第2方向に離間し、前記第1方向を長手として形成される第2配線要素のペアと、
を備え、
前記第1配線要素のペアが、前記第2配線要素のペアと交差していることを特徴とする共振器構造。
【請求項2】
前記第1配線要素のペアおよび前記第2配線要素のペアは、矩形であることを特徴とする請求項1に記載の共振器構造。
【請求項3】
前記第1配線要素のペアおよび前記第2配線要素のペアは、同じ寸法を有することを特徴とする請求項1または2に記載の共振器構造。
【請求項4】
前記第1配線要素のペアの間隔と、前記第2配線要素のペアの間隔は等しいことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の共振器構造。
【請求項5】
平面上に配列される請求項1から4のいずれかに記載の共振器構造を複数個、備え、
前記複数の共振器構造それぞれの、少なくとも前記第1配線要素のペアの間隔をパラメータとして、透磁率の分布が形成されることを特徴とするメタマテリアル。
【請求項6】
前記複数の共振器構造それぞれにおいて、前記第1配線要素のペアの間隔と前記第2配線要素のペアの間隔は等しいことを特徴とする請求項5に記載のメタマテリアル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メタマテリアルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然界に存在しない物質の特性を示すメタマテリアルに注目が集まっている。物質の電磁気学的な性質は、誘電率εと透磁率μの組み合わせによって規定される。代表的なものとしては、負の透磁率と負の誘電率を実現すると、負の屈折率を実現できることが知られている。
【0003】
メタマテリアルは、対象とする波長よりも小さい構造(メタ原子という)によって、透磁率および誘電率を制御することで実現される。透磁率μの制御のために、メタ原子として、分割リング共振器(SRR:Split Ring Resonator)が利用される。SRRは、金属のリングに、ギャップを形成したものであり、ギャップ部分が容量C、金属部分がインダクタンスLとなり、LC共振器を形成している。このSRRを、入射電磁場の磁場が貫くと、電磁誘導により起電力が生じて、電流が流れ、この電流が磁気モーメントを生じさせる。このようにしてSRRは、磁気的な応答を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第13/133175号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LC共振器をメタマテリアルとして利用する場合、制御対象とする電磁波の周波数の近傍で、LC共振器の共振周波数を変化させることで、電磁波に対する透磁率を制御することができる。
【0006】
ここで一般に、LC共振回路の共振周波数は、
f=1/{2π√(LC)}
で表される。
【0007】
SRRでは、インダクタンスLは、主として、SRRの金属リングの長さをパラメータとして設計することができ、キャパシタンスCはギャップの面積をパラメータとして設計される。たとえば、金属リングの長さlを長くすると、インダクタンスLが大きくなり、共振周波数が低くなる。
【0008】
従来のSRRでは、金属リングの長さlをわずかに変化させただけで、共振周波数fが大きくシフトしてしまい、対象とする電磁波に対する透磁率を細かく制御することが難しい。
【0009】
透磁率を細かく制御したい場合には、インダクタンスLを変化させると同時に、キャパシタCを変化させる必要がある。つまり、金属リングの長さlと、ギャップのサイズの両方を、設計パラメータとして、共振周波数fを設計する必要があり、その設計は非常に複雑となる。
【0010】
また、プロセスばらつきによって、配線やギャップの寸法がばらつくと、共振周波数がシフトし、透磁率が設計値から大きく逸脱してしまう。
【0011】
また、従来のSRRは、C字型で構成される場合が多く、曲線部分を有し、あるいは非直角の部分を有していた。このような構成では、所望の透磁率を実現するためのSRRの形状およびサイズの設計が非常に複雑となる。
【0012】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、設計が容易な共振器構造の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示のある態様の共振器構造は、第1層に互いに離間して設けられ、第1方向に伸びる第1配線要素のペアと、第2層に互いに離間して設けられ、第1方向と実質的に垂直な第2方向に伸びる第2配線要素のペアと、を備える。第1配線要素のペアは、第2配線要素のペアと交差している。
【発明の効果】
【0014】
本開示のある態様によれば、交差する位置に応じて、共振周波数を高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る共振器構造の斜視図である。
図2図2(a)、(b)は、図1の共振器構造の平面図および断面図である。
図3】共振器構造の動作を説明する図である。
図4】共振器構造の等価回路図である。
図5】比較技術に係る共振器構造を示す図である。
図6図5の共振器構造の磁気的特性の設計を説明する図である。
図7図5の共振器構造の磁気的特性の設計を説明する図である。
図8】共振器構造の第1設計例を説明する図である。
図9図9(a)~(c)は、共振器構造の電界分布のシミュレーション結果を示す図である。
図10】第1設計例による共振器構造の共振周波数の制御の一例を示す図である。
図11図11(a)、(b)は、第1設計例による共振器構造の透磁率の制御を説明する図である。
図12】第1設計例による共振器構造の共振周波数の制御の別の一例を示す図である。
図13図13(a)、(b)は、第1設計例による共振器構造の透磁率の制御を説明する図である。
図14】第1設計例による共振器構造の共振周波数の制御の別の一例を示す図である。
図15図15(a)、(b)は、第1設計例による共振器構造の透磁率の制御を説明する図である。
図16】共振器構造の第2設計例を説明する図である。
図17】変形例1に係る共振器構造を示す図である。
図18】変形例2に係る共振器構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0017】
一実施形態において、共振器構造は、第1層に互いに離間して設けられ、第1方向に伸びる第1配線要素のペアと、第2層に互いに離間して設けられ、第1方向と実質的に垂直な第2方向に伸びる第2配線要素のペアと、を備える。第1配線要素のペアは、第2配線要素のペアと交差している。
【0018】
この構成では、4つの交点を含むリングの部分が、インダクタンスを形成し、第1配線要素のペアと第2配線要素のペアの間にキャパシタンスが形成される。第1配線要素のペアの間隔と、第2配線要素のペアの間隔を変化させることで、交点の位置を制御することができ、インダクタンスとキャパシタンスを同時に、かつ逆極性で制御することができる。つまり、インダクタンスの増加(または減小)の一部分が、キャパシタンスの減小(または増加)によってキャンセルされるため、共振周波数を細かく制御することが可能となる。
【0019】
第1配線要素のペアおよび第2配線要素のペアは、矩形であってもよい。これにより曲線部分が存在しなくなるため、設計が容易となる。
【0020】
第1配線要素のペアの寸法は等しく、第2配線要素のペアの寸法は等しくてもよい。さらに、第1配線要素のペアと、第2配線要素のペアは、すべて同じ寸法を有してもよい。これにより設計が容易となる。
【0021】
第1配線要素のペアの間隔と、第2配線要素のペアの間隔は等しくてもよい。これによりさらに設計が容易となる。なお、第1配線要素のペアの間隔と、第2配線要素のペアの間隔は、独立変数として設計してもよい。
【0022】
一実施形態に係るメタマテリアルは、平面上に配列される共振器構造を複数個、備えてもよい。複数の共振器構造それぞれの、少なくとも第1配線要素のペアの間隔をパラメータとして、透磁率の分布が形成されてもよい。
【0023】
複数の共振器構造それぞれにおいて、第1配線要素のペアの間隔と第2配線要素のペアの間隔は等しくてもよい。
【0024】
(実施形態)
以下、実施形態についていくつかの図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0025】
図1は、実施形態に係る共振器構造100の斜視図である。この共振器構造は、メタマテリアルのメタ原子として利用することができ、主として、透磁率の制御に利用される。共振器構造100は、少なくとも第1層110と第2層120を含む2層の配線層を有し、第1層110と第2層120の間には、絶縁層130が挿入される。第1層110には、第1配線要素のペア112a,112bが形成され、第2層120には、第2配線要素のペア122a,122bが形成されている。
【0026】
図2(a)、(b)は、図1の共振器構造100の平面図および断面図である。第1配線要素のペア112a,112bは、第1方向(図中、x方向)に離間し、第1方向(x方向)と実質的に垂直な第2方向(図中、y方向)を長手として形成される。第1配線要素のペア112a,112bは、図中、上から見たときに矩形状であり、平行に形成することが好ましい。
【0027】
第2配線要素のペア122a,122bは、第2方向(y方向)に離間し、第1方向(x方向)を長手として形成される。第2配線要素のペア122a,122bは、図中、上から見たときに矩形状であり、平行に形成することが好ましい。
【0028】
第1配線要素のペア112a、112bは、第2配線要素のペア122a,112bと交差しており、井桁構造をなしている。
【0029】
以上が共振器構造100の基本構成である。続いて、共振器構造100の動作原理を説明する。
【0030】
図3は、共振器構造100の動作を説明する図である。第1配線要素112aと第2配線要素122aのオーバーラップ領域を、第1クロスセクションCS1と称する。第1配線要素112aと第2配線要素122bのオーバーラップ領域を、第2クロスセクションCS2と称する。第1配線要素112bと第2配線要素122bのオーバーラップ領域を、第3クロスセクションCS3と称する。第1配線要素112bと第2配線要素122aのオーバーラップ領域を、第4クロスセクションCS4と称する。
【0031】
第1配線要素112aのうち、第1クロスセクションCS1と第2クロスセクションCS2の間の部分は、インダクタンスL2を有する。第2配線要素122bのうち、第2クロスセクションCS2と第3クロスセクションCS3の間の部分は、インダクタンスL3を有する。第1配線要素112bのうち、第3クロスセクションCS3と第4クロスセクションCS4の間の部分は、インダクタンスL4を有する。第2配線要素122aのうち、第4クロスセクションCS4と第1クロスセクションCS1の間の部分は、インダクタンスL1を有する。
【0032】
また、各クロスセクションCS1~CS4を含むコーナー領域141~144では、オーバーラップする第1配線要素112#と第2配線要素122#(#=a,b)の間に、寄生容量C1~C4が形成される。具体的には、コーナー領域142では、第1配線要素112aと第2配線要素122bの間に、キャパシタンスC2が形成され、コーナー領域143では、第1配線要素112bと第2配線要素122bの間に、キャパシタンスC3が形成される。同様にして、コーナー領域141では、第1配線要素112aと第2配線要素122aの間に、キャパシタンスC1(図3に不図示)が形成され、コーナー領域144では、第1配線要素112bと第2配線要素122aの間に、キャパシタンスC4(不図示)が形成される。
【0033】
図4は、共振器構造100の等価回路図である。共振器構造100は、インダクタンスL1~L4およびキャパシタンスC1~C4が交互に直列に接続されたLC直列共振回路とみなすことができる。インダクタンスL1~L4は、クロスセクションとクロスセクションの距離に応じて設計することができ、またキャパシタンスC1~C4は、クロスセクションを含むコーナー領域141~144の面積に応じて設計することができる。
【0034】
この共振器構造100は、従来のC字型のSRRと異なり、直線要素のみで構成され、さらにすべての要素が、直交している。したがって、従来のC型のSRRに比べて構造がシンプルであり、共振周波数、ひいては透磁率の設計が容易であるという利点を有する。
【0035】
(比較技術)
共振器構造100の利点は、比較技術との対比によって一層明確となる。そこで先に、比較技術について説明する。
【0036】
図5は、比較技術に係る共振器構造200を示す図である。なお、この比較技術を公知技術と認定してはならない。この共振器構造200は、4分割のSRRを、直線のみで構成したものであり、同一の層に形成される4つの配線要素202a~202dと、4つのギャップ204a~204dを含む。主に配線要素202a~202dがインダクタンスとして、ギャップ204a~204dがキャパシタンスを形成する。共振器構造200の等価回路図は、図4と同じである。
【0037】
(200THz)
図6は、図5の共振器構造の磁気的特性の設計を説明する図である。対象周波数は200THzとしており、配線材料には金を用いている。配線要素202a~202dの幅wを30nmに、ギャップ長dを30nmに、配線の厚みtを30nmに固定している。配線要素202a~202dの長さlをパラメータとして165nm~195nmの範囲で変化させている。この場合、長さlに応じて、インダクタンスL1~L4のみが変化するが、ギャップ長dおよび配線幅wは一定であるから、キャパシタンスC1~C4は実質的に不変である。したがって、長さlを5nm変化させると、共振周波数fはおよそ5THz変化する。つまり、長さlの単位変化に対する共振周波数fのシフト量は、5THz/5nm=1THz/nmとなる。寸法変化に対する透磁率の変化量が大きすぎて(感度が高すぎて)、透磁率を精細に制御することが難しい。
【0038】
(320THz)
図7は、図5の共振器構造の磁気的特性の設計を説明する図である。対象周波数は320THzとしており、配線材料には金を用いている。配線要素202a~202dの幅wを30nmに、ギャップ長dを30nmに、配線の厚みtを30nmに固定している。配線要素202a~202dの長さlをパラメータとして80nm~100nmの範囲で変化させている。この場合、長さlを5nm変化させると、共振周波数fはおよそ13THz変化する。つまり、長さlの単位変化に対する共振周波数fのシフト量は、13THz/5nm=2.6THz/nmとなり、寸法変化に対する透磁率の変化量が大きすぎて(感度が高すぎて)、透磁率を精細に制御することが難しい。
【0039】
続いて、実施形態に係る共振器構造100における電磁的特性の設計の具体的な手法を説明する。
【0040】
(第1設計例)
図8は、共振器構造100の第1設計例を説明する図である。この設計例では、すべての配線要素112a,112b,122a,122bが同寸法の矩形であり、同じ幅Wと同じ長さLを有している。第1設計例では、第1配線要素のペア112a,112bの間隔dと第2配線要素のペア122a,122bの間隔dが等しいという制約条件(d=d=d)のもと、間隔dをパラメータとして、共振器構造100の電磁的特性が設計される。
【0041】
第1配線要素のペア112a,112bは、それぞれの中点において、x軸と交差するように配置される。同様に第2配線要素のペア122a,122bは、それぞれの中点において、y軸と交差するように配置される。
【0042】
以下、第1設計例による共振器構造100の電磁的特性の設計のシミュレーション結果を説明する。
【0043】
図9(a)~(c)は、共振器構造100の電界分布のシミュレーション結果を示す図である。濃淡は、z軸方向の電界強度を示している。コーナー領域141~144に対応する部分において、紙面垂直方向(z軸方向)の電界が強くなっており、キャパシタンスが形成されていることが分かる。
【0044】
間隔dを減小させると、インダクタンスL1~L4に寄与する部分の長さが短くなるから、インダクタンスL1~L4は減小する。一方で、間隔dを減少させると、コーナー領域141~144の面積は増大するから、キャパシタンスC1~C4は増大する。つまり、間隔dに対して、インダクタンスL1~L4と、キャパシタンスC1~C4が逆極性で変化することが分かる。共振周波数fは、
f=1/{2π√(LC)}
で与えられるところ、Lの変化量と、Cの変化量が不完全に打ち消し合い、残った変化が、共振周波数fを変化させる。したがって、Lのみ、あるいはCのみを変化させる場合に比べて、共振周波数の変化が小さくなる。
【0045】
(200THz)
図10は、第1設計例による共振器構造100の共振周波数の制御の一例を示す図である。ここでは200Tz近傍の電磁波を制御対象とし、配線材料には金を用いている。L=180nm、W=30nmとしており、配線の厚みtは30nmであり、第1層110と第2層120の距離(絶縁層の高さ)は30nm、絶縁層の誘電率を1.5としている。図10の横軸は周波数を、縦軸はSパラメータのS21成分(透過特性)を示している。配線要素のペアの間隔dは、90nm~120nmの間を、5nm間隔で変化させている。
【0046】
この設計例では、配線要素のペアの間隔dを30nm変化させたときの、共振周波数fのシフト幅は2.5THzであり、変化量1nm当たりのシフト量(感度)は、2.5THz/30nm=0.08THz/nmである。これは、比較技術を200THzターゲットで設計した場合の感度1THz/nmに比べて1/10以下となっている。特定の周波数1.95THzに着目すると、S21成分は、1dBから-9dBの範囲で良好に制御できていることが分かる。
【0047】
図11(a)、(b)は、第1設計例による共振器構造100の透磁率の制御を説明する図である。図11(a)の横軸は周波数を、縦軸は透磁率の実部を示しており、図11(b)の横軸は、間隔dを、縦軸は透磁率の実部を示す。間隔dを90nmから120nmまで増大させると、透磁率の実部を、0.45から0.1の範囲で、細かく制御することができる。
【0048】
(320THz)
図12は、第1設計例による共振器構造100の共振周波数の制御の別の一例を示す図である。ここでは320Tz近傍の電磁波を制御対象とし、配線材料には金を用いている。L=100nm、W=30nmとしている。また、配線の厚みは30nmであり、第1層110と第2層120の距離(絶縁層の高さ)は40nm、絶縁層の誘電率を1.5としている。図12の横軸は周波数を、縦軸はSパラメータのS21成分(透過特性)を示している。配線要素のペアの間隔dは、24nm~40nmの間を、4nm間隔で変化させている。
【0049】
この設計例では、配線要素のペアの間隔dを16nm変化させたときの、共振周波数fのシフト幅は11THzであり、変化量1nm当たりのシフト量(感度)は、11THz/16nm=0.7THz/nmである。これは、比較技術を320THzターゲットで設計した場合の感度2.6THz/nmに比べて1/3以下となっている。
【0050】
図13(a)、(b)は、第1設計例による共振器構造100の透磁率の制御を説明する図である。図13(a)の横軸は周波数を、縦軸は透磁率の実部を示しており、図13(b)の横軸は、間隔dを、縦軸は透磁率の実部を示す。
【0051】
316THzに着目すると、間隔dを20nmから40nmまで増大させると、透磁率の実部を、0.45から0.1の範囲で、細かく制御することができる。
【0052】
(320THz)
図14は、第1設計例による共振器構造100の共振周波数の制御の別の一例を示す図である。ここでは425Tz近傍の電磁波を制御対象とし、配線材料には銀を用いている。L=155nm、W=30nmとしており、配線の厚みは30nm、第1層110と第2層120の距離(絶縁層の高さ)は、60nm、絶縁層の誘電率を1.5としている。図12の横軸は周波数を、縦軸はSパラメータのS21成分(透過特性)を示している。配線要素のペアの間隔dは、30nm~95nmの間を、5nm間隔で変化させている。
【0053】
この設計例では、配線要素のペアの間隔dを50nm変化させたときの、共振周波数fのシフト幅は25THzであり、変化量1nm当たりのシフト量(感度)は、25THz/50nm=0.5THz/nmである。
【0054】
図15(a)、(b)は、第1設計例による共振器構造100の透磁率の制御を説明する図である。図15(a)の横軸は周波数を、縦軸は透磁率の実部を示しており、図15(b)の横軸は、間隔dを、縦軸は透磁率の実部を示す。
【0055】
410THzに着目すると、間隔dを30nmから95nmまで増大させると、透磁率の実部を、0.75から0の範囲で、細かく制御することができる。
【0056】
(第2設計例)
図16は、共振器構造100の第2設計例を説明する図である。第2設計例では、第1設計例と同様に、すべての配線要素112a,112b,122a,122bが同寸法の矩形であり、同じ幅Wと同じ長さLを有している。第1設計例との違いは、第1配線要素のペア112a,112bの間隔dと第2配線要素のペア122a,122bの間隔dが独立に設計可能である点である。第2設計例では、第1設計例に比べて設計の複雑さは増大する場合もあるが、透磁率などの電磁的特性をより細かく制御することが可能となる。
【0057】
続いて共振器構造100の変形例を説明する。
【0058】
(変形例1)
図17は、変形例1に係る共振器構造100Aを示す図である。第1配線要素のペア112a,112bと、第2配線要素のペア122a,122bのサイズは異なっていてもよい。たとえば、第1配線要素のペア112a,112bの幅Wと、第2配線要素のペア122a,122bの幅Wは異なっていてもよい(W≠W)。また、第1配線要素のペア112a,112bの長さLと、第2配線要素のペア122a,122bの長さLは異なっていてもよい(L≠L)。
【0059】
(変形例2)
第1配線要素、第2配線要素の形状は、矩形には限定されず、コーナーが丸みを帯びていてもよい。あるいはそれらの一部あるいは全部が曲線で構成されてもよい。
【0060】
最後に共振器構造100を備えるメタマテリアル300について説明する。図18は、メタマテリアル300を示す図である。メタマテリアル300は、上述の共振器構造100が二次元的に配列された構造を有する。メタマテリアル300には、共振器構造10に付随して、誘電率を制御する構造体(不図示)が形成されている。なお、二次元的な配列を積層することで、三次元的な配列を形成してもよい。複数の共振器構造100それぞれにおいて、寸法を適切に設計することにより、ある周波数の電磁波に対して、任意の透磁率の分布を形成することができる。
【符号の説明】
【0061】
100 共振器構造
110 第1層
112 第1配線要素
120 第2層
122 第2配線要素
300 メタマテリアル
図1
図2
図3
図4
図5
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図18