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  • 特開-金属固定材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172845
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】金属固定材
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/24 20060101AFI20221110BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20221110BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20221110BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B01J20/24 B
C02F1/28 B
C02F1/42 H
C08L1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079125
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩
(72)【発明者】
【氏名】武隈 基浩
(72)【発明者】
【氏名】中窪 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】眞塩 麻彩実
(72)【発明者】
【氏名】前田 勝浩
(72)【発明者】
【氏名】谷口 剛史
(72)【発明者】
【氏名】西村 達也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 克
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆
【テーマコード(参考)】
4D025
4D624
4G066
4J002
【Fターム(参考)】
4D025AA09
4D025AB21
4D025AB22
4D025AB23
4D025AB24
4D025AB25
4D025AB28
4D025AB29
4D025BA17
4D025DA02
4D624AA04
4D624AB16
4D624BA17
4D624BA19
4D624BB01
4D624BC04
4D624DB21
4G066AC02B
4G066AC31B
4G066AC33B
4G066BA36
4G066CA21
4G066CA46
4G066DA08
4G066FA37
4J002AB021
4J002BG072
4J002GD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有価金属や有害金属を、簡便な方法で、選択的且つ効率よく回収するのに有用な金属固定材を提供する。
【解決手段】本開示の金属固定材は、下記A成分、B成分、及びC成分の組み合わせからなる。
A成分:繰り返し単位を有するセルロース誘導体[酸素上の置換基Raは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全ての酸素上の置換基Raのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]を含む金属吸着材。
B成分:凝結剤
C成分:高分子凝集剤

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A成分、B成分、及びC成分の組み合わせからなる金属固定材。
A成分:下記式(I)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体を含む金属吸着材
【化1】
[式中、Raは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのRaのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]
【化2】
(式中、環Zはヘテロ原子として窒素原子を含む複素環を示し、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示す。4つのR2は同一又は異なって炭素数1~10のアルキル基を示す)
B成分:凝結剤
C成分:高分子凝集剤
【請求項2】
前記凝結剤がカチオン性凝結剤である、請求項1に記載の金属固定材。
【請求項3】
前記高分子凝集剤がアニオン性高分子凝集剤である、請求項1又は2に記載の金属固定材。
【請求項4】
前記アニオン性高分子凝集剤が、アニオン性モノマー由来のモノマー単位を含むポリマーであり、前記ポリマーを構成する全モノマー単位における、前記アニオン性モノマー由来のモノマー単位の占める割合が30重量%以上である、請求項3に記載の金属固定材。
【請求項5】
前記A成分1重量部に対して、前記B成分を0.1~10重量部含有する、請求項1~4の何れか1項に記載の金属固定材。
【請求項6】
前記A成分1重量部に対して、前記C成分を0.1~10重量部含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の金属固定材。
【請求項7】
前記B成分と前記C成分の含有量の比(B/C;重量比)が20/80~80/20である、請求項1~6の何れか1項に記載の金属固定材。
【請求項8】
金属固定材が下記金属の固定材である、請求項1~7の何れか1項に記載の金属固定材。
金属:カチオンが、HSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する金属
【請求項9】
金属固定材が、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ヒ素、セレン、カドミウム、インジウム、鉛、ビスマス、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、及び金から選択される少なくとも1種の金属の固定材である、請求項1~7の何れか1項に記載の金属固定材。
【請求項10】
溶解した金属を含む水溶液に、下記A成分を添加し、その後、下記B成分及びC成分を添加して、前記金属、A成分、B成分、及びC成分を含むフロックを形成する工程を有する金属固定方法。
A成分:下記式(I)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体を含む金属吸着材
【化3】
[式中、Raは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのRaのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]
【化4】
(式中、環Zはヘテロ原子として窒素原子を含む複素環を示し、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示す。4つのR2は同一又は異なって炭素数1~10のアルキル基を示す)
B成分:凝結剤
C成分:高分子凝集剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属固定材、及び前記金属固定材を用いた金属の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒ素は人体に対して有害な元素として知られている。無機ヒ素のなかでも特にAs(III)は強い毒性を示す。排水中のAs(III)は、凝集剤によりAs(III)を凝集沈殿させて液中から分離される(凝集沈殿法)。しかし、As(III)は、広いpH領域において低分子無電荷種として液中に溶存するため、除去効率が低いことが問題であった。また、As(III)を凝集沈殿させるには多量の凝集剤を必要とし、その結果、多量のスラッジが生成する。そのため、大掛かりな設備やスラッジの処理にコストがかかることも問題であった。
【0003】
また、近年、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金等の有価金属は、電子材料、電子部品、工業用触媒、金属メッキ等に多用されている。医療分野においては、白金が抗がん剤に使用され、パラジウムが歯の治療に使用されている。
【0004】
日本では、有価金属を多量に消費するにもかかわらず、そのほとんどを輸入に依存している。そのため、資源の有効利用の観点から、工場排水や廃棄物に含まれる有価金属を回収し、再利用することが望まれている。
【0005】
特許文献1には、結晶化度が70%以下のセルロースにイミノジ酢酸又はジアルキルアミンを結合させると、有価金属とキレートを形成可能な官能基を多く導入することができること、このようにして得られたセルロース誘導体によれば、有価金属を効率よく回収できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-247981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記セルロース誘導体は、アルカリ金属やアルカリ土類金属と塩を形成しやすい。このため、前記セルロース誘導体は、有価金属と共に、自然界に多く存在するアルカリ金属やアルカリ土類金属を吸着してしまい、有価金属を選択的に回収することができない。
【0008】
そして、本発明者等は、HSAB則において軟らかい塩基に該当するジチオカルバメート基が導入されたセルロース誘導体は、カチオンが、HSAB則において硬い酸に該当するアルカリ金属やアルカリ土類金属は吸着せず、軟らかい酸又は中間の酸に該当する有価金属や有害金属を選択的に吸着することを見いだした。
【0009】
しかし、ジチオカルバメート基が導入されたセルロース誘導体は水に易溶解性を示すため、前記セルロース誘導体に有価金属や有害金属を吸着させたものを、液中から回収することが困難であった。
【0010】
従って、本開示の目的は、有価金属や有害金属を、簡便な方法で、選択的且つ効率よく回収するのに有用な金属固定材を提供することにある。
本開示の他の目的は、前記金属固定材を使用して金属を固定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、水溶液中にて、HSAB則において軟らかい塩基に該当するジチオカルバメート基が導入されたセルロース誘導体に、カチオンが、HSAB則において軟らかい酸又は中間の酸に該当する有価金属や有害金属を選択的に吸着させた後、特定の凝結剤及び高分子凝集剤を添加すれば、前記セルロース誘導体は速やかにフロック(塊)を形成し、濾過等の簡便な方法により、水溶液から容易に分離できるようになることを見いだした。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0012】
すなわち、本開示は、下記A成分、B成分、及びC成分の組み合わせからなる金属固定材を提供する。
A成分:下記式(I)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体を含む金属吸着材
【化1】
[式中、Raは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのRaのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]
【化2】
(式中、環Zはヘテロ原子として窒素原子を含む複素環を示し、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示す。4つのR2は同一又は異なって炭素数1~10のアルキル基を示す)
B成分:凝結剤
C成分:高分子凝集剤
【0013】
本開示は、また、前記凝結剤がカチオン性凝結剤である前記金属固定材を提供する。
【0014】
本開示は、また、前記高分子凝集剤がアニオン性高分子凝集剤である前記金属固定材を提供する。
【0015】
本開示は、また、前記アニオン性高分子凝集剤が、アニオン性モノマー由来のモノマー単位を含むポリマーであり、前記ポリマーを構成する全モノマー単位における、前記アニオン性モノマー由来のモノマー単位の占める割合が30重量%以上である前記金属固定材を提供する。
【0016】
本開示は、また、前記A成分1重量部に対して、前記B成分を0.1~10重量部含有する前記金属固定材を提供する。
【0017】
本開示は、また、前記A成分1重量部に対して、前記C成分を0.1~10重量部含有する前記金属固定材を提供する。
【0018】
本開示は、また、前記B成分と前記C成分の含有量の比(B/C;重量比)が20/80~80/20である前記金属固定材を提供する。
【0019】
本開示は、また、下記金属の固定材である前記金属固定材を提供する。
金属:カチオンが、HSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する金属
【0020】
本開示は、また、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ヒ素、セレン、カドミウム、インジウム、鉛、ビスマス、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、及び金から選択される少なくとも1種の金属の固定材である前記金属固定材を提供する。
【0021】
本開示は、また、溶解した金属を含む水溶液に、下記A成分を添加し、その後、下記B成分及びC成分を添加して、前記金属、A成分、B成分、及びC成分を含むフロックを形成する工程を有する金属固定方法を提供する。
A成分:下記式(I)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体を含む金属吸着材
【化3】
[式中、Raは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a)で表される基である。尚、セルロース誘導体に含まれる全てのRaのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]
【化4】
(式中、環Zはヘテロ原子として窒素原子を含む複素環を示し、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示す。4つのR2は同一又は異なって炭素数1~10のアルキル基を示す)
B成分:凝結剤
C成分:高分子凝集剤
【発明の効果】
【0022】
本開示の金属固定材は、前記成分A、成分B、及び成分Cの組み合わせからなる。そして、前記成分Aは、カチオンが、HSAB則において軟らかい酸又は中間の酸に該当する金属(例えば、有価金属及び有害金属)を吸着し易く、硬い酸に該当する金属(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属)は吸着し難い特性を有する。
そして、前記金属が吸着した成分Aを含む液中に、成分B及び成分Cを添加すれば、前記金属を吸着した成分Aは、成分B、成分Cと共に速やかにフロックを形成し、濾過等の簡便な方法によって液中から分離できるようになる。また、液中から分離されたフロックは、加熱処理に付すことで大幅に減容化することができる。
【0023】
そのため、前記金属固定材を使用すれば、有害金属で汚染された水から、有害金属を効率よく且つ選択的にフロック中に固定することができ、濾過等によりフロックを容易に回収することができる。また、回収されたフロックを加熱処理に付して減容することで、埋め立て等の処分費用を大幅に削減することができる。
【0024】
また、前記金属固定材を使用すれば、工場排水や廃棄物の中から、有価金属を選択的に且つ効率よくフロック中に固定することができ、濾過等によりフロックを容易に回収することができる。また、回収されたフロックを燃焼処理に付せば、フロック中に固定された有価金属を容易に回収することができ、再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】調製例1で得られたセルロース誘導体1のIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[金属固定材]
本開示の金属固定材は、下記A成分、B成分、及びC成分の組み合わせからなる。
A成分:金属吸着材
B成分:凝結剤
C成分:高分子凝集剤
【0027】
A成分は、カチオンが、HSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する有価金属や有害金属に対して優れた吸着力を有する。一方、カチオンが、HSAB則において硬い酸に該当する金属の吸着力は低い。
【0028】
そのため、前記金属固定材によれば、種々の金属を含む水溶液(例えば、工業廃水、鉱山廃水、温泉水等)から、カチオンが、HSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する有価金属や有害金属を、選択的に且つ効率よく固定することができる。
【0029】
カチオンが、HSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する有価金属(例えば、コバルト、セレン、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、亜鉛、銀、及び金から選択される金属)の固定率は、例えば85%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0030】
カチオンが、HSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する有害金属(例えば、ヒ素、カドミウム、及び鉛から選択される金属)の固定率は、例えば85%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
【0031】
前記金属固定材による、カチオンがHSAB則において硬い酸に該当する金属(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属)の固定率は、例えば10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0032】
前記金属固定材による、卑金属(特に、鉄、アルミニウム、マンガン)の固定率は、例えば60%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下、とりわけ好ましくは5%以下である。
【0033】
尚、本開示において、金属の固定率は、25℃において、金属元素濃度が2mMの水溶液(pH7)10mLに、A成分10mgを添加し、200rpmで20分間撹拌し、その後、B成分20mg、C成分10mgを添加し、200rpmで60分間撹拌した場合の固定率であり、実施例に記載の方法で算出できる。
【0034】
(A成分)
前記A成分は金属吸着材であり、下記式(I)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(以後、「セルロース誘導体(I)」と称する場合がある)を少なくとも含む。
【化5】
[式中、Raは、同一又は異なって、水素原子又は下記式(a)で表される基である。尚、セルロース誘導体(I)に含まれる全てのRaのうち、少なくとも1つは下記式(a)で表される基である]
【化6】
(式中、環Zはヘテロ原子として窒素原子を含む複素環を示し、R1は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基を示す。4つのR2は同一又は異なって炭素数1~10のアルキル基を示す)
【0035】
環Zはヘテロ原子として窒素原子を含む複素環である。環Zは窒素原子以外のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0036】
環Zとしては、なかでも、ヘテロ原子として窒素原子のみを含む複素環(特に、非芳香族性複素環)が好ましい。また、環Zは例えば3~10員環であり、なかでも4~8員環が好ましく、とりわけ4~6員環が好ましい。
【0037】
環Zとしては、例えば、ピロリジン環等の5員環;ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環等が挙げられる。
【0038】
1における炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、2-メチルエチレン基、1,2-ジメチルエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、2-メチル-トリメチレン基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が挙げられる。
【0039】
1としては、好ましくは単結合又は炭素数1~2のアルキレン基である。
【0040】
2における炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0041】
2としては、好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。
【0042】
式(a)で表される基としては、なかでも下記式(a-1)で表される基又は下記式(a-2)で表される基が好ましい。下記式中、R2は前記に同じである。
【化7】
【0043】
式(a)で表される基としては、なかでも下記式(a-1’)で表される基又は下記式(a-2’)で表される基が好ましい。下記式中、R1は前記に同じである。
【化8】
【0044】
式(a)で表される基(好ましくは式(a-1),(a-2),(a-1'),又は(a-2')で表される基)の総平均置換度(セルロースを構成するグルコース単位の2,3および6位の水酸基の水素原子の、前記基への置換度の平均値)は、例えば0.1~3.0、好ましくは1.0~3.0、特に好ましくは2.0~3.0である。セルロース誘導体(I)が前記基を前記範囲で含有すると、優れた金属吸着力を発揮することができる点で好ましい。
【0045】
前記セルロース誘導体(I)の重量平均分子量は、例えば5000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは5万以上である。前記重量平均分子量の上限値は、例えば500万、好ましくは200万、特に好ましくは100万、最も好ましくは50万である。
【0046】
前記セルロース誘導体(I)は、上記式(a)で表される基を有し、前記基がHSAB則における軟らかい塩基に該当するジチオカルバメート基を含む。そのため、HSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する、金属(例えば、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、セレン、ガリウム、ヒ素、カドミウム、インジウム、鉛、ビスマス、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銀、及び金から選択される少なくとも1種の金属)由来の金属イオンに対して優れた吸着力を有する。すなわち、セルロース誘導体(I)は、カチオンがHSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する金属の吸着材として作用する。
【0047】
前記セルロース誘導体(I)の、カチオンがHSAB則における軟らかい酸又は中間の酸に該当する金属の(飽和)吸着容量は、例えば1mol/kg以上、好ましくは2mol/kg以上、より好ましくは2.5mol/kg以上、さらに好ましくは3mol/kg以上、特に好ましくは3.5mol/kg以上、最も好ましくは5mol/kg以上である。
【0048】
前記セルロース誘導体(I)の、前記有害金属の(飽和)吸着容量は、例えば0.2mol/kg以上、好ましくは0.3mol/kg以上、より好ましくは0.5mol/kg以上、さらに好ましくは0.6mol/kg以上、特に好ましくは1mol/kg以上、最も好ましくは2mol/kg以上である。
【0049】
ヒ素の吸着容量は、例えば0.2mol/kg以上、好ましくは0.5mol/kg以上、より好ましくは1mol/kg以上である。
【0050】
前記セルロース誘導体(I)は、カチオンがHSAB則における硬い酸に該当する金属(特に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、卑金属)の吸着力が低い。
【0051】
カチオンが、HSAB則において硬い酸に該当する金属(例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムン、バリウム等のアルカリ土類金属;鉄、アルミニウム、マンガン等の卑金属)の(飽和)吸着容量は、例えば2.0mol/kg以下、より好ましくは1.6mol/kg以下、更に好ましくは0.8mol/kg以下、特に好ましくは0.4mol/kg以下、最も好ましくは0.1mol/kg以下、とりわけ好ましくは0.01mol/kg以下である。
【0052】
また、前記セルロース誘導体(I)は、上記式(a)で表される基中の環Z(例えば、ピペリジン、ピロリジン等の複素環)のひずみにより、ジチオカルバミン酸基の分解の起点となる、窒素原子へのプロトン移動が抑制されるため、保存安定性に優れる。例えば、前記セルロース誘導体(I)を、40℃の空気雰囲気下に2週間静置する試験に付した後でも、試験に付す前と変わらず高い金属吸着量を有する。金属吸着量の維持率は、例えば95%以上である。
【0053】
A成分は、セルロース誘導体(I)以外にも他の成分を含有していてもよいが、セルロース誘導体(I)の占める割合は、A成分全量の例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上、とりわけ好ましくは90重量%以上である。セルロース誘導体(I)の占める割合が前記範囲を下回ると、金属を効率よく且つ選択的に吸着することが困難となる傾向がある。また、保存安定性が低下する傾向がある。
【0054】
A成分の剤形としては、効果を奏する範囲において特に制限が無く、例えば、粉末状、ペレット状、糸状、不織布状などが挙げられる。
【0055】
セルロース誘導体(I)は、例えば、下記工程[1][2][3]を経て製造することができる。
【化9】
【0056】
前記式中のR1、R2、環Z、Raは上記に同じ。
【0057】
前記式中のR0は1価の炭化水素基又は1価の複素環式基を示す。
【0058】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの結合した基が含まれる。
【0059】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基等の炭素数1~10(特に好ましくは炭素数1~3)のアルキル基;ビニル基、アリル基、1-ブテニル基等の炭素数2~10(特に好ましくは炭素数2~3)のアルケニル基等が挙げられる。
【0060】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の3~10員(特に好ましくは5~8員)のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等の3~15員(特に好ましくは5~8員)のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基等の橋かけ環式炭化水素基等が挙げられる。
【0061】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の炭素数6~20のアリール基が挙げられる。また、前記芳香族炭化水素基を構成する芳香環には、他の環(例えば、脂環等)が縮合して縮合環を形成していてもよい。このような縮合環を含む基としては、例えば、フルオレン基等が挙げられる。
【0062】
前記複素環式基は複素環の構造式から1個の水素原子を除いた基である。そして前記複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、イオウ原子、窒素原子等)を有する3~10員環(好ましくは4~6員環)、及びこれらの縮合環が挙げられる。具体的には、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、γ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、モルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、イソクロマン環等の縮合環;3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環等の縮合環等)等が挙げられる。
【0063】
前記炭化水素基や複素環式基は、種々の置換基[例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(例えば、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基等)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基等]を有していてもよい。
【0064】
前記式中のRbは、同一又は異なって、水素原子又は上記式(b)で表される基である。尚、セルロース誘導体(II)に含まれる全てのRbのうち、少なくとも1つは上記式(b)で表される基である。
【0065】
前記式中のRcは、同一又は異なって、水素原子又は上記式(c)で表される基である。尚、セルロース誘導体(III)に含まれる全てのRcのうち、少なくとも1つは上記式(c)で表される基である。また、上記式(c)で表される基は、塩を形成していてもよい。
【0066】
工程[1]は、セルロース(1-1)(=上記式(1-1)で表される繰り返し単位を有する化合物)の水酸基に、上記式(2)で示される化合物(以後、「イミノ酸(2)」と称する場合がある)を反応させる工程である。
【0067】
イミノ酸(2)は、イミノ酸のイミノ基がカルバメート系保護基(COOR0基)で保護された化合物(若しくは、環状のアミノ酸の第二級アミノ基がカーバメート系保護基で保護された化合物)である。前記イミノ酸としては、例えば、プロリン、3-ピロリジンカルボン酸、2-ピペリジンカルボン酸、4-ピペリジンカルボン酸、(4-ピペリジニル)酢酸等が挙げられる。
【0068】
前記カーバメート系保護基としては、なかでも、t-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(CBZ)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)等が、温和な条件で脱保護できる点で好ましい。
【0069】
工程[1]で使用されるセルロース(1-1)としては、例えば、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)やコットンリンターパルプ由来のセルロース、結晶性セルロース等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。尚、前記パルプには、ヘミセルロースなどの異成分が含まれていてもよい。前記パルプは、例えば解砕処理を施す等により、細かく粉砕した状態で使用することが好ましい。
【0070】
前記セルロース(1-1)とイミノ酸(2)との反応は、触媒の存在下で行うことが好ましい。前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
前記触媒の使用量としては、イミノ酸(2)1モルに対して、例えば0.01~1.0モル程度である。
【0072】
また、前記反応は、縮合剤の存在下で行うことが好ましい。前記縮合剤としては、例えば、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC-HCl)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
前記縮合剤の使用量としては、イミノ酸(2)1モルに対して、例えば0.01~1.0モル程度である。
【0074】
前記反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0075】
前記溶媒としては、なかでも、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミドが好ましく、前記溶媒に塩化リチウム等のリチウム塩を混合したものを使用するのが、セルロースの溶解性に優れる点で特に好ましい。溶媒中のリチウム塩濃度は、セルロースを溶解させる効果を損なわない範囲において適宜調整することができ、例えば1~30重量%程度である。
【0076】
前記溶媒の使用量としては、反応基質の総量の、例えば0.5~30重量倍程度である。溶媒の使用量が前記範囲を上回ると反応成分の濃度が低くなり、反応速度が低下する傾向がある。
【0077】
工程[1]を経て、上記式(II)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(II)が生成する。
【0078】
工程[2]は、工程[1]を経て生成したセルロース誘導体(II)のイミノ基の脱保護工程(より詳細には、セルロース誘導体(II)に導入された、式(b)で表される基におけるイミノ基の保護基を外す工程)である。
【0079】
工程[2]を経ると、上記式(III)で表される繰り返し単位を有するセルロース誘導体(III)が生成する。
【0080】
前記セルロース誘導体(II)のイミノ基の保護基を外す方法としては、保護基の種類に応じて適宜選択することができる。
【0081】
例えば、保護基としてBoc等を有する場合、塩酸、トリフルオロ酢酸等の強酸を反応させることによって前記保護基を外すことができる。そして、強酸を用いて脱保護した場合に得られるセルロース誘導体(III)は、式(c)で表される基がカウンターアニオンと共に塩を形成している場合がある。例えば強酸としてトリフルオロ酢酸を反応させた場合には、式(c)で表される基の末端イミノ基は、CF3COO-と塩を形成して、「>N+2・CF3COO-」となる場合がある。
【0082】
例えば、保護基としてCBZを有する場合、触媒(例えば、Pd-C)の存在下にて還元反応を行うことで、前記保護基を外すことができる。
【0083】
例えば、保護基としてFmocを有する場合は、ピリジン等の第2級アミンを反応させることにより保護基を外すことができる。
【0084】
工程[2]の反応温度は、例えば0~100℃程度である。反応時間は、例えば1~24時間程度である。反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0085】
工程[3]は、工程[2]を経て生成したセルロース誘導体(III)に、硫黄化合物の存在下、上記式(3)で示される第4級アンモニウム化合物を反応させる工程である。
【0086】
式(3)中のR2は、上記式(a)中のR2に対応する。また、式(3)中のX-はカウンターアニオンを示し、例えば、OH-、Cl-、Br-、I-、F-、SO4 2-、BH4 -、BF4 -、PF6 -等が挙げられる。
【0087】
前記第4級アンモニウム化合物としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0088】
前記第4級アンモニウム化合物の使用量は、前記セルロース誘導体(III)100重量部に対して、例えば50重量部以上である。
【0089】
前記硫黄化合物としては、例えば、二硫化炭素が挙げられる。硫黄化合物の使用量は、前記セルロース誘導体(III)100重量部に対して、例えば20重量部以上である。
【0090】
工程[3]の反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。前記溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。溶媒の使用量は、反応基質の総量の、例えば0.5~30重量倍程度である。
【0091】
工程[3]の反応温度は、例えば0~100℃程度である。反応時間は、例えば1~24時間程度である。反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0092】
(B成分)
前記B成分は凝結剤である。前記凝結剤はA成分の表面電荷を中和し、A成分同士の反発を抑制する。A成分にB成分を添加することで、A成分同士の反発が抑制され、フロックを形成しやすくなる。
【0093】
A成分に含まれるセルロース誘導体(I)は、式(a)で表される基を有する。そのため、A成分の表面はアニオンの電荷を有する。従って、B成分としては、カチオン性を示す凝結剤(=カチオン性凝集剤)を使用することが好ましい。
【0094】
前記凝結剤には無機凝結剤と有機凝結剤が含まれる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0095】
前記無機凝結剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム系凝集剤;塩化第二鉄、塩化第一鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄系凝集剤等が挙げられる。
【0096】
前記有機凝結剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルアミノエステル、ビニルアミン系化合物、アリルアミン系化合物、縮合アミン系化合物、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド系化合物等が挙げられる。
【0097】
前記有機凝結剤の重量平均分子量は、例えば1×106以下、好ましくは1×105以下、より好ましくは1×104以下、特に好ましくは0.5×104以下、最も好ましくは1×103以下である。
【0098】
前記(メタ)アクリル酸アルキルアミノエステルは、例えば、下記式(b)で表されるモノマー由来のモノマー単位を有するポリマーである。
【化10】
【0099】
式(b)中、L1は酸素原子又はNR基を示し、前記Rは水素原子又はアルキル基を示す。前記アルキル基は、例えば炭素数1~10(好ましくは1~5、特に好ましくは1~3)のアルキル基である。
【0100】
式(b)中、L2は炭素数1~4のアルキレン基を示す。Rb1~Rb3は、同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を示す。Rb4は水素原子又はメチル基を示す。Z-は対アニオンを示す。
【0101】
前記炭素数1~4のアルキレン基としては、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。なかでも、炭素数2~4のアルキレン基が好ましく、特に炭素数2~3のアルキレン基が好ましい。
【0102】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらの結合した基が含まれる。なかでも、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基が好ましく、特に脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0103】
前記脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~10(好ましくは1~5、特に好ましくは1~3)のアルキル基が好ましい。
【0104】
前記対アニオンとしては、例えば、ハロゲンアニオン、硫酸アニオン等が挙げられる。
【0105】
前記式(b)で表されるモノマー単位を形成するモノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートや、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの、塩酸塩、硫酸塩、塩化メチル付加物、塩化ベンジル付加物、硫酸ジメチル付加物等が挙げられる。
【0106】
前記(メタ)アクリル酸アルキルアミノエステルは、上記式(b)で表されるモノマー単位以外にも他のモノマー単位を有していてもよい。他のモノマー単位としては、例えば、ノニオン性モノマー単位、アニオン性モノマー単位が挙げられる。
【0107】
前記ノニオン性モノマー単位を形成するモノマー(=ノニオン性モノマー)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジ(アルキル)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、スチレン等)、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0108】
前記アニオン性モノマー単位を形成するモノマー(=アニオン性モノマー)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、2-アクリルアミド-2-メチルスルフォン酸、及びこれらの塩(例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)が挙げられる。
【0109】
前記(メタ)アクリル酸アルキルアミノエステルを構成するモノマー単位全量における、上記式(b)で表されるモノマー単位の占める割合は、例えば10モル%以上、好ましくは30モル%以上、特に好ましくは50モル%以上、最も好ましくは70モル%以上である。
【0110】
前記(メタ)アクリル酸アルキルアミノエステルは、1種のモノマーを重合、又は2種以上のモノマーを共重合することにより製造することができる。
【0111】
前記ビニルアミン系化合物としては、例えば、N-ビニルカルボン酸アミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等から選択される1種のモノマーの重合体や、2種以上のモノマーの共重合体が挙げられる。
【0112】
前記アリルアミン系化合物としては、例えば、アリルアミン、ジアリルメチルアミン、およびこれらの塩、又はジアリルジメチルアンモニウムクロリド等のモノマーの(共)重合体が挙げられる。
【0113】
前記縮合アミン系化合物としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等から選択される少なくとも1種のアミンとエピクロロヒドリンとの縮合物や、前記縮合物をさらにエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン等のポリアミンと縮合させた化合物等が挙げられる。
【0114】
前記ジシアンジアミド系化合物としては、例えば、ジシアンジアミド/ホルムアルデヒド縮合物、ジシアンジアミド/ホルムアルデヒド/塩化アンモニウム縮合物等が挙げられる。
【0115】
(C成分)
前記C成分は高分子凝集剤である。前記高分子凝集剤は、B成分の添加により表面電荷が中和されたA成分を凝集する。前記高分子凝集剤により凝集された前記A成分は、液中においてフロックを形成し、沈殿する。
【0116】
前記高分子凝集剤には、アニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、及びノニオン性高分子凝集剤が含まれる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0117】
前記高分子凝集剤の重量平均分子量は、例えば2×106以上、好ましくは3×106以上、特に好ましくは4×106以上、最も好ましくは5×106以上である。前記重量平均分子量の上限値は、例えば50×106、好ましくは20×106、好ましくは18×106である。重量平均分子量が前記範囲の高分子凝集剤を使用すれば、速やかにフロックを形成することができる。
【0118】
前記高分子凝集剤の形態は、特に制限はなく、水溶液、分散液、エマルジョン、粉末等、任意の形態のものを使用することができる。
【0119】
<アニオン性高分子凝集剤>
前記アニオン性高分子凝集剤は、アニオン性モノマー由来のモノマー単位を有するポリマーである。前記ポリマーを構成する全モノマー単位における、前記アニオン性モノマー由来のモノマー単位の占める割合は、例えば10重量%以上、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0120】
前記アニオン性高分子凝集剤は、アニオン性モノマー由来のモノマー単位以外にも他のモノマー単位を含んでいても良い。他のモノマー単位としては、例えば、ノニオン性モノマー由来のモノマー単位が挙げられる。
【0121】
前記アニオン性モノマー、ノニオン性モノマーとしては、前記B成分の項で記載のアニオン性モノマー、ノニオン性モノマーの例と同様の例が挙げられる。
【0122】
前記アニオン性高分子凝集剤は、アニオン性モノマーと必要に応じて他のモノマーを(共)重合(例えば、水溶液重合、油中水型エマルジョン重合、或いは油中水型分散重合等)することにより製造できる。
【0123】
<カチオン性高分子凝集剤>
前記カチオ性高分子凝集剤は、カチオン性モノマー由来のモノマー単位を有するポリマーである。前記ポリマーを構成する全モノマー単位における、前記カチオン性モノマー由来のモノマー単位の占める割合は、例えば0重量%を超え、100重量%以下である。前記割合の下限値は、好ましくは1重量%、特に好ましくは5重量%である。前記割合の上限値は、好ましくは90重量%、更に好ましくは70重量%、特に好ましくは50重量%、最も好ましくは30重量%である。
【0124】
前記カチオン性高分子凝集剤は、カチオン性モノマー由来のモノマー単位以外にも他のモノマー単位を含んでいても良い。他のモノマー単位としては、例えば、アニオン性モノマー由来のモノマー単位、ノニオン性モノマー由来のモノマー単位が挙げられる。
【0125】
前記カチオン性モノマーとしては、例えば、前記B成分の項で記載の式(b)で表されるモノマーが挙げられる。前記アニオン性モノマー、ノニオン性モノマーとしては、前記B成分の項で記載のアニオン性モノマー、ノニオン性モノマーの例と同様の例が挙げられる。
【0126】
前記カチオン性高分子凝集剤は、カチオン性モノマーと必要に応じて他のモノマーを(共)重合することにより製造できる。
【0127】
<両性高分子凝集剤>
前記両性高分子凝集剤は、カチオン性モノマー由来のモノマー単位とアニオン性モノマー由来のモノマー単位を有するポリマーである。カチオン性モノマー由来のモノマー単位とアニオン性モノマー由来のモノマー単位の重量比(前者/後者)は、例えば40/60~60/40である。
【0128】
前記ポリマーを構成する全モノマー単位における、前記カチオン性モノマー由来のモノマー単位とアニオン性モノマー由来のモノマー単位の合計の占める割合は、例えば10重量%以上、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0129】
前記両性高分子凝集剤は、カチオン性モノマー由来のモノマー単位、及びアニオン性モノマー由来のモノマー単位以外にも他のモノマー単位を含んでいても良い。他のモノマー単位としては、例えば、ノニオン性モノマー由来のモノマー単位が挙げられる。
【0130】
前記ノニオン性モノマーとしては、前記B成分の項で記載のノニオン性モノマーの例と同様の例が挙げられる。
【0131】
前記両性高分子凝集剤は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーと、必要に応じて他のモノマーを共重合することにより製造できる。
【0132】
<ノニオン性高分子凝集剤>
前記両性高分子凝集剤は、ノニオン性モノマーの重合体或いは共重合体である。
【0133】
前記ノニオン性モノマーとしては、前記B成分の項で記載のノニオン性モノマーの例と同様の例が挙げられる。
【0134】
前記両性高分子凝集剤は、ノニオン性モノマーの1種を重合、或いは2種以上を共重合することにより製造できる。
【0135】
前記C成分としては、なかでも、アニオン性高分子凝集剤を使用することが、フロックの形成が速やかであり、効率よく金属を固定することができる点で好ましい。また、アニオン性高分子凝集剤のなかでも、アニオン性モノマー由来のモノマー単位の占める割合が30重量%以上(好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは90重量%以上)であるポリマーを使用することが、フロックの形成が速やかであり、且つ大きいフロックを形成することができるため、液中からの分離が特に容易である点で好ましい。
【0136】
前記C成分全量における前記アニオン性高分子凝集剤の占める割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0137】
[金属固定方法]
本開示の金属固定方法は、溶解した金属を含む水溶液に、前記A成分を添加し、その後、前記B成分及び前記C成分を添加して、前記金属、A成分、B成分、及びC成分を含むフロックを形成する工程を有する。
【0138】
金属は水溶液中において金属イオンとして存在する。そして、水溶液中に、前記A成分を添加すると、金属イオンが、A成分であるセルロース誘導体(I)の、式(a)で表される基とキレート錯体を形成することによって、A成分に吸着する。
【0139】
A成分の使用量は、水溶液に含まれる金属1モルに対して、例えば200~3000g、好ましくは200~2000g、特に好ましくは200~1000gである。
【0140】
金属イオンのA成分への吸着を促進するため、水溶液にA成分を添加した後は、水溶液を、例えば1分~1時間程度、撹拌及び/又は振盪することが好ましい。
【0141】
また、水溶液のpHを例えば1~9(なかでも1~7、とりわけ2~6)に調整することが、金属イオンのA成分への吸着をより一層向上することができる点で好ましい。尚、水溶液のpH調整は、周知慣用のpH調整剤(硝酸等の酸や、水酸化ナトリウム等のアルカリ)を用いて行うことができる。
【0142】
水溶液中において、A成分へ金属イオンを吸着させた後は、B成分及びC成分を水溶液に添加する。B成分及びC成分は同時に添加しても良いし、B成分を添加し、その後C成分を添加してもよい。
【0143】
フロックの形成を促進するため、水溶液にB成分及びC成分を添加した後は、水溶液を、例えば30分~2時間程度、撹拌及び/又は振盪することが好ましい。
【0144】
B成分の使用量は、A成分1重量部に対して、例えば0.1~10重量部、好ましくは0.1~5重量部、特に好ましくは0.1~3重量部、最も好ましくは0.1~2.0重量部である。B成分を前記範囲で使用することにより、A成分同士の反発を抑制することができ、フロックの形成を促進する効果が得られる。
【0145】
前記C成分の使用量は、A成分1重量部に対して、例えば0.1~10重量部、好ましくは0.1~5重量部、特に好ましくは0.1~2重量部、最も好ましくは0.1~1.5重量部である。C成分を前記範囲で使用することにより、B成分によって表面電荷が中和されたA成分同士を凝集させることができ、フロックを速やかに形成させることができる。
【0146】
前記B成分と前記C成分の使用量の比(B/C;重量比)は、例えば20/80~80/20、好ましくは30/70~80/20、特に好ましくは40/60~75/25、最も好ましくは50/50~75/25、とりわけ好ましくは55/45~75/25である。
【0147】
このようにして水溶液中に形成されたフロックは、濾過等の簡便な方法で水溶液から分離することができる。また、分離されたフロックは、加熱処理を施すことによって、減容化することができる。減容率は、例えば90%以上、好ましくは95%以上である。また、前記フロックを燃焼することで、前記フロック中に固定された金属を回収することができる。
【0148】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。
【実施例0149】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではなく、請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【0150】
調製例1(セルロース誘導体の調製)
二口ナスフラスコにセルロース(1-1)(0.501g、3.08mmol)を入れ、90℃で2時間真空乾燥した。窒素雰囲気下、N,N-ジメチルアセトアミド(15mL)、塩化リチウム(0.99g)を加えセルロースを溶解させた。この反応容器に、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(2.26g、18.5mmol)、N-Boc-L-プロリン(3.98g、18.5mmol)、1-エチル3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(3.55g、18.5mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド(15mL)を添加した後室温で24時間撹拌した。反応液を水に注いで再沈殿することにより得られた固体を吸引ろ過により回収した。得られた固体をエタノールに溶解させ、水で再沈殿させ吸引ろ過により回収した。固体を真空乾燥し、下記式で表されるDMC-Pro-II(1.81g、収率78%)を白色固体として得た。
1H-NMR測定の結果から、N-Boc-プロリンの総平均置換度は3.0と算出された。
【0151】
【化11】
(DMC-Pro-II)
1H-NMR (500 MHz, CDCl3 ,55℃):δ4.00-5.30 (br, 8H), 2.95-4.00 (br, 8H), 1.60-2.56 (br, 12H), 1.43 (br, 27H)
【0152】
窒素雰囲気下、二口ナスフラスコにトリフルオロ酢酸(6.6mL)、DMC-Pro-II(1.00g、1.33mmol)を加え、室温で7.5時間撹拌した。ジエチルエーテルを用いて再沈殿することにより析出した固体を遠心分離により回収し、ジエチルエーテルで洗浄した。得られた固体を真空乾燥することにより、下記式で表されるDMC-Pro-IIIの塩を白色固体(979mg、収率92%)として得た。DMC-Pro-IIIの1H-NMR測定の結果を以下に示す。
【0153】
【化12】
(DMC-Pro-III)
1H-NMR (500 MHz, D2O, r.t.):δ 5.24 (br, 1H), 4.91 (br, 1H), 4.80 (br, overlapped with HDO), 4.45 (br, 3H), 4.21 (br, 1H), 4.06 (br, 1H), 3.81 (br, 1H), 3.67 (br, 1H), 3.32(br, 6H), 2.18-2.54 (br, 3H), 1.60-2.16 (br, 9H)
【0154】
窒素雰囲気下、二口ナスフラスコにDMC-Pro-IIIの塩(0.500g、0.628mmol)をジメチルスルホキシド(3.1mL)に溶解させ、二硫化炭素(0.57mL、9.4mmol)を加えた。遮光下、約10℃に冷却し、10%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液(3.77mL,3.77mmol)を滴下し、室温まで昇温しながら7時間撹拌した。エタノール中に再沈殿することにより得られた固体を遠心分離により回収し、エタノールで洗浄した。得られた固体を真空乾燥し、下記式で表されるセルロース誘導体1(DMC-Pro、重量平均分子量:約10万)を白色固体として得た(453mg、収率80%)。セルロース誘導体1(DMC-Pro)のIRスペクトルを図1に示す。
【0155】
【化13】
(DMC-Pro)
1H-NMR (500 MHz, D2O, r.t.):δ 4.40-5.70 (br, overlapped with HDO), 3.35-4.40 (br), 3.15 (br,CH3), 1.20-2.85 (br)
【0156】
実施例1~9
50mLポリエチレン製遠沈管に、セルロース誘導体1を20mg、及び2.0mMのAs(III)水溶液(As(III)初期濃度:Bμmol/L)を10mL加え、200rpm、25℃、20分の条件で振盪した。
その後、凝結剤(CHP295)20mg、及び高分子凝集剤(下記表1に記載のC成分)10mgを添加し、再び1時間振盪した。
振盪後の反応液を遠心分離(3000rpm,25℃,30分)し、孔径0.45μmのシリンジフィルターにより濾過した。
得られた濾液をICP-AES分析に付して、濾液中のAs(III)濃度(Sμmol/L)を定量し、C成分の単位量当たりのAs(III)固定量を、下記式から算出した。
As(III)固定量(μmol/g)=[(B-S)×10/1000]/C成分使用量(g)
【0157】
比較例1~9
セルロース誘導体1を使用せず、且つ高分子凝集剤として下記表1に記載のC成分を使用した以外は実施例1~9と同様に行った。
【0158】
結果を下記表1にまとめて示す。
【表1】
【0159】
表1から、凝結剤及び高分子凝集剤に、セルロース誘導体1を併用することにより、As(III)の吸着量が顕著に向上することが分かる。
【0160】
実施例10~13
50mL遠沈管に、セルロース誘導体1を20mg、及び2.0mMのAs(III)水溶液を10mL加え、200rpm、25℃、20分の条件で、振盪機(BR-30L;タイテック、愛知)を使用して振盪した。
その後、凝結剤(CHP295)を20mg添加し、200rpm、25℃で2分間振盪した。
続いて、高分子凝集剤(下記表2に記載のC成分)10mgを添加し、200rpm、25℃で5分間振盪した。
振盪後の試料を静置してフロックが形成されるまでの時間(秒)を測定し、フロック形成能を評価した。
【0161】
結果を下記表2にまとめて示す。
【表2】
【0162】
表2から、アニオン性高分子凝集剤を使用した場合にフロック形成速度が早く、とりわけ、アニオン性モノマー割合が高いアニオン性高分子凝集剤を使用した場合にフロック形成速度が早いことが分かる。
【0163】
(他の金属の影響について検討)
12種類の金属元素(Mg,Ca,Sr,Ba,Cu,Mn,Co,Ni,Zn,Pb,As,Se)を含む水溶液について、B成分(CHP295)及びC成分(APP199)に、A成分(セルロース誘導体1)を併用する場合と、A成分(セルロース誘導体1)を併用しない場合での各金属元素の固定量を測定した。
測定方法は、2.0mMのAs(III)水溶液に代えて12種類の金属元素を含む水溶液を使用した以外は実施例6と同様に行った。
【0164】
結果を下記表3にまとめて示す。
【表3】
【0165】
表3より、A成分を添加しても、硬い酸に該当するアルカリ土類金属の固定率は80%未満であるのに対し、軟らかい酸又は中間の酸に該当する有価金属や有害金属は何れも97%以上の高い固定率を示した。特に、As(III)及びSe(IV)は、A成分の添加によって、固定率が顕著に上昇した。以上の結果より、本開示の金属固定材によれば、有価金属や有害金属を効率的に固定化できることが分かる。
【0166】
また、セルロース誘導体1、凝結剤(CHP295)、及び高分子凝集剤(APP199)を使用して得られたフロックを3日間乾燥した。乾燥後のフロックの質量は19mgであった。その後、焼結を行った。焼結後の質量は0.2mgであった(減容率97%)。
以上のことから、本開示の金属固定材を使用すれば、フロックの大幅な減容化が可能であり、フロックを減容化することで、廃棄にかかるコストも大幅に削減できるとことが分かる。
【0167】
比較例10,11
吸着材として、セルロース誘導体1に代えて、N-700、又はN,N-ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム三水和物(表4では「モノマー」と称する)を使用した以外は、実施例6と同様にして、As(III)固定量を測定した。
【0168】
結果を下記表4にまとめて示す。
【表4】
【0169】
表4より、吸着材としてセルロース誘導体1を用いた場合は、低分子量の化合物やモノマーを使用した場合よりも多くAs(III)を固定化することができることが分かった。
【0170】
実施例及び比較例で使用した化合物について以下に説明する。
<A成分>
セルロース誘導体1(調製例1にて調製)
<B成分>
CHP295(カチオン性凝結剤、重量平均分子量:1×106以下、カチオン性モノマー割合:100%)、三菱ケミカル(株)製
<C成分>
アニオン性高分子凝集剤
AP199、アニオン性モノマー割合:100%、重量平均分子量:5×106、三菱ケミカル(株)製
AP120CH、アニオン性モノマー割合:20%、重量平均分子量:13×106、三菱ケミカル(株)製
カチオン性高分子凝集剤
KP201C、カチオン性モノマー割合:100%、重量平均分子量:2×106以上、三菱ケミカル(株)製
KP1200B、カチオン性モノマー割合:80%、重量平均分子量:2×106以上、三菱ケミカル(株)製
KP1201B、カチオン性モノマー割合:60%、重量平均分子量:2×106以上、三菱ケミカル(株)製
KP204B、カチオン性モノマー割合:40%、重量平均分子量:14×106、三菱ケミカル(株)製
KP206B、カチオン性モノマー割合:20%、重量平均分子量:14×106、三菱ケミカル(株)製
ノニオン性高分子凝集剤
NP500、重量平均分子量:16×106、三菱ケミカル(株)製
両性高分子凝集剤
KA405D、重量平均分子量:8×106、三菱ケミカル(株)製
<その他>
N,N-ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム三水和物、和光純薬工業(株)製
N-700、水溶性ジチオカルバミン酸塩含有金属固定化剤、重量平均分子量:0.1×106以下、商品名「ニットーガード」、三菱ケミカル(株)製
【0171】
金属元素としては、1000mg/Lヒ素標準液、カルシウム標準液、マグネシウム標準液、マンガン標準液、亜鉛標準液、バリウム標準液、コバルト標準液、セレン標準液、ストロンチウム標準液、鉛標準液(1000mg/L、原子吸光分析用、関東化学)、銅標準液、ニッケル標準液(1000ma/L、試験研究用)を使用した。
【0172】
溶液調製には、超純水製造装置(Arium pro UV、Sartorius)を使用して生成した精製水、硝酸(有害金属測定用;関東化学)、塩酸(ヒ素測定用;関東化学)、水酸化ナトリウム(特級;関東化学)、緩衝材としてGood’s bufferである2-(N-モノホリノ)-エタンスルホン酸(特級;シグマアルドリッチ)、4-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジンエタンスルホン酸(特級;ナカライテスク)、3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノ]-1-プロパンスルホン酸(特級;MP Biomedicals)、3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸を使用した。
【0173】
金属濃度測定には、誘導結合プラズマ発光分析装置(iCAP 6300、Thermo Fisher)を用いた。
図1