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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172852
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】免震構造
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20221110BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F16F15/04 E
F16F15/04 P
E04H9/02 331A
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079135
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】山下 真吾
(72)【発明者】
【氏名】曽根 孝行
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA02
2E139CA21
2E139CB04
2E139CB20
2E139CC02
3J048AA03
3J048BA08
3J048BG04
3J048BG10
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】上部構造体と下部構造体とが相対変位する方向に関わらず、変位を抑制できる免震構造を提供する。
【解決手段】免震構造20は、下部構造体12と、下部構造体12の上方に配置された上部構造体14と、上部構造体14と下部構造体12との間に設けられ、上部構造体14を下部構造体12と相対移動可能に支持すると共にフランジ36が固定された積層ゴム32と、上部構造体14又は下部構造体12に設けられ、フランジ36が滑動するすべり板38と、すべり板38が設けられた上部構造体14又は下部構造体12に取付けられると共にフランジ36に取り囲まれ、上部構造体14と下部構造体12とが相対移動した際、フランジ36と当接して積層ゴム32を水平変形させるストッパー40と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と、
前記下部構造体の上方に配置された上部構造体と、
前記上部構造体と前記下部構造体との間に設けられ、前記上部構造体を前記下部構造体と相対移動可能に支持すると共にフランジが固定された積層ゴムと、
前記上部構造体又は前記下部構造体に設けられ、前記フランジが滑動するすべり板と、
前記すべり板が設けられた前記上部構造体又は前記下部構造体に取付けられると共に前記フランジに取り囲まれ、前記上部構造体と前記下部構造体とが相対移動した際、前記フランジと当接して前記積層ゴムを水平変形させるストッパーと、
備えた免震構造。
【請求項2】
下部構造体と、
前記下部構造体の上方に配置された上部構造体と、
前記上部構造体と前記下部構造体との間に設けられ、前記上部構造体を前記下部構造体と相対移動可能に支持すると共にフランジが固定された積層ゴムと、
前記上部構造体又は前記下部構造体に設けられ、前記フランジが滑動するすべり板と、
前記すべり板が設けられた前記上部構造体又は前記下部構造体に取付けられると共に前記フランジを取り囲んで配置され、前記上部構造体と前記下部構造体とが相対移動した際、前記フランジと当接して前記積層ゴムを水平変形させるストッパーと、
備えた免震構造。
【請求項3】
前記上部構造体と前記下部構造体とが相対移動する前の状態において、前記フランジと前記ストッパーとの離隔距離が、上方からみて全ての方向で等しい、請求項1又は請求項2に記載の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、滑り支承を備えた免震装置によって上部構造体が支持された免震建物が記載されている。この免震建物では、上部構造体が下部構造体に対して水平方向に所定距離だけ変位した際に、上部構造体に設けられたストッパー部材が免震装置の台座部に衝突し、上部構造体の動きが規制される。また、免震装置の台座部には変形層が形成され、ストッパー部材が台座部に衝突した際の衝撃を緩和することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-203143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の免震建物では、ストッパー部材が設けられた方向に上部構造体が相対変位した際には、上部構造体の動きが規制される。しかし、ストッパー部材が設けられた方向以外の方向に上部構造体が相対変位した際には、上部構造体の動きを規制することはできない。また、上部構造体の変位を抑制することもできない。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、上部構造体と下部構造体とが相対変位する方向に関わらず、変位を抑制できる免震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の免震構造は、下部構造体と、前記下部構造体の上方に配置された上部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に設けられ、前記上部構造体を前記下部構造体と相対移動可能に支持すると共にフランジが固定された積層ゴムと、前記上部構造体又は前記下部構造体に設けられ、前記フランジが滑動するすべり板と、前記すべり板が設けられた前記上部構造体又は前記下部構造体に取付けられると共に前記フランジに取り囲まれ、前記上部構造体と前記下部構造体とが相対移動した際、前記フランジと当接して前記積層ゴムを水平変形させるストッパーと、備えている。
【0007】
請求項1の免震構造によると、地震時に、積層ゴムに固定されたフランジが、すべり板の上を滑動する。このフランジは、ストッパーを取り囲んで配置されている。このため、上部構造体と下部構造体との相対移動方向に関わらず、滑動したフランジとストッパーとが当接する。
【0008】
また、上部構造体と前記下部構造体とが相対移動した際、ストッパーは、フランジと当接して積層ゴムを水平変形させる。この際、積層ゴムのせん断抵抗により、上部構造体と下部構造体との相対移動が抑制される。すなわち、上部構造体と下部構造体とが相対変位する方向に関わらず、変位を抑制できる。
【0009】
請求項2の免震構造は、下部構造体と、前記下部構造体の上方に配置された上部構造体と、前記上部構造体と前記下部構造体との間に設けられ、前記上部構造体を前記下部構造体と相対移動可能に支持すると共にフランジが固定された積層ゴムと、前記上部構造体又は前記下部構造体に設けられ、前記フランジが滑動するすべり板と、前記すべり板が設けられた前記上部構造体又は前記下部構造体に取付けられると共に前記フランジを取り囲んで配置され、前記上部構造体と前記下部構造体とが相対移動した際、前記フランジと当接して前記積層ゴムを水平変形させるストッパーと、備えている。
【0010】
請求項2の免震構造によると、地震時に、積層ゴムに固定されたフランジが、すべり板の上を滑動する。このフランジは、ストッパーに取り囲まれて配置されている。このため、上部構造体と下部構造体との相対移動方向に関わらず、滑動したフランジとストッパーとが当接する。
【0011】
また、上部構造体と前記下部構造体とが相対移動した際、ストッパーは、フランジと当接して積層ゴムを水平変形させる。この際、積層ゴムのせん断抵抗により、上部構造体と下部構造体との相対移動が抑制される。すなわち、上部構造体と下部構造体とが相対変位する方向に関わらず、変位を抑制できる。
【0012】
請求項3の免震構造は、請求項1又は請求項2に記載の免震構造において、前記上部構造体と前記下部構造体とが相対移動する前の状態において、前記フランジと前記ストッパーとの離隔距離が、上方からみて全ての方向で等しい。
【0013】
請求項3の免震構造によると、積層ゴムに固定されたフランジとストッパーとの離隔距離が、上方からみて全ての方向で等しい。このため、上部構造体と下部構造体とが相対移動する方向に関わらず、フランジとストッパーとが当接するタイミングが等しくなる。これにより、全ての方向において、等しい相対移動の抑制効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、上部構造体と下部構造体とが相対変位する方向に関わらず、変位を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)は第一実施形態に係る免震構造を示した断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
図2】(A)は上部構造体と下部構造体とが相対移動してフランジとストッパーとが当接した状態を示す断面図であり、(B)は積層ゴムが変形している状態を示す断面図である。
図3】(A)は免震装置とストッパーとの上下関係を入れ替えた変形例を示す断面図であり、(B)は積層ゴムが変形している状態を示す断面図である。
図4】(A)は積層ゴムを円柱状に形成した変形例を示す平面図であり、(B)はフランジを四角形の枠状に形成した変形例を示す平面図である。
図5】(A)は第二実施形態に係る免震構造を示した断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
図6】(A)は上部構造体と下部構造体とが相対移動してフランジとストッパーとが当接した状態を示す断面図であり、(B)は積層ゴムが変形している状態を示す断面図である。
図7】(A)は免震装置とストッパーとの上下関係を入れ替えた変形例を示す断面図であり、(B)は積層ゴムが変形している状態を示す断面図である。
図8】上部構造体と下部構造体との相対変位、及び、積層ゴムに作用するせん断力の関係の一例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る免震構造について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0017】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
各図において矢印X、Yで示す方向は水平面に沿う方向であり、互いに直交している。また、矢印Zで示す方向は鉛直方向(上下方向)に沿う方向である。各図において矢印X、Y、Zで示される各方向は、互いに一致するものとする。
【0019】
[第一実施形態]
<免震構造>
図1(A)には、本発明の第一実施形態に係る免震構造20が適用された建物10が部分的に示されている。建物10は、下部構造体12と、下部構造体12の上方に配置された上部構造体14と、を備えた免震建築物である。
【0020】
免震構造20は、建物10における下部構造体12、上部構造体14、免震装置30及びストッパー40を備えて形成されている。建物10において、免震装置30が設置された層は、免震層と称される。
【0021】
下部構造体12には、免震装置30を固定する台座12Aが形成されている。同様に、上部構造体14において台座12Aと対向する位置には、免震装置30に載置する台座14Aが形成されている。なお、台座12A及び14Aは省略してもよい。
【0022】
(免震装置)
免震装置30は、上部構造体14と下部構造体12との間に設けられ、上部構造体14を免震支持する弾性すべり支承である。免震装置30は、上部構造体14と下部構造体12との間において、X方向及びY方向に所定の間隔で配置されている。「所定の間隔」とは、一例として、上部構造体14を形成する柱(不図示)の間隔と等しい間隔である。
【0023】
免震装置30は、積層ゴム32、フランジ34、フランジ36及びすべり板38を備えて形成されている。フランジ34は、台座12Aに固定された鋼板である。フランジ34の上面には、積層ゴム32が固定されている。
【0024】
積層ゴム32は、ゴム32A及び鋼板32Bが上下方向に交互に積層されて形成された支承である。換言すると、積層ゴム32は、ゴム32Aの内部に、鋼板32Bが上下方向に間隔を空けて埋設されて形成された支承である。
【0025】
積層ゴム32を形成するゴム32Aは、所定量以上せん断変形すると、ハードニングする。「ハードニング」とは、ゴム材料にひずみ硬化が生じる現象のことである。「ひずみ硬化」とは、単位量変形させるために必要なせん断力が大きくなることである。
【0026】
ゴム32Aを形成するゴムとしては、一例として、天然ゴム、又は、天然ゴムと合成ゴムとを混合した高減衰ゴムを用いることができる。また、このような天然ゴム又は高減衰ゴムには、せん断ひずみが約200%を超えた際にハードニング特性を示すものを用いることができる。
【0027】
また、積層ゴム32は、図1(B)に示すように、後述するストッパー40を取り囲む円環状に形成されている。より具体的には、積層ゴム32は、平面視での(Z方向からみた)外形が、ストッパー40の中心点Oを中心とする2つの同心円によって形成されている。なお、積層ゴム32を形成する鋼板32B(図1(A)参照)も、ゴム32Aの内部において円環状に形成されている。
【0028】
積層ゴム32の上面には、フランジ36が固定されている。フランジ36は、積層ゴム32と同様に円環状に形成された鋼板のすべり材である。つまり、フランジ36は、平面視での(Z方向からみた)外形が、ストッパー40の中心点Oを中心とする2つの同心円によって形成されている。なお、フランジ36の径方向(中心点Oを中心とする円の径方向)に沿う幅W1は、積層ゴム32の径方向に沿う幅W2より大きい。また、この幅W1と幅W2とは、同じ値とすることができる(すなわち、W1≧W2)。
【0029】
図1(A)に示すように、フランジ36は、上部構造体14の台座14Aに固定されたすべり板38と接して配置されている。フランジ36の上面は、すべり板38の表面との摩擦力を低減するために、平滑に形成されている。
【0030】
フランジ36の上面を平滑に形成する方法としては、研磨等によって上面の表面粗さを小さくする方法、上面をフッ素系の樹脂等でコーティングする方法、上面にフッ素系の樹脂等で形成されたすべり材を接合する方法等がある。また、フランジ36自体を、鋼板ではなくフッ素系の樹脂で形成してもよい。
【0031】
すべり板38は、フランジ36と同様に、下面が平滑に形成された円環状の鋼板である。また、すべり板38も、ストッパー40の中心点Oを中心とする2つの同心円によって形成されている。すべり板38の径方向に沿う幅W3は、フランジ36の径方向に沿う幅W1より大きい(すなわち、W3>W1)。
【0032】
(ストッパー)
ストッパー40は、すべり板38に囲まれる位置において上部構造体14の台座14Aに固定された高剛性部材である。「高剛性部材」とは、せん断剛性が積層ゴム32より大きい部材のことであり、ストッパー40は、一例として、コンクリートによって形成されている。また、ストッパー40は、鋼などを用いて形成してもよい。
【0033】
ストッパー40は、中心点Oを中心とする円柱状に形成されており、下面が、免震装置30におけるフランジ36より低い位置に形成されている。これにより、ストッパー40は、フランジ36に取り囲まれて配置される。
【0034】
図1(B)に示すように、ストッパー40とフランジ36との離隔距離は、平面視で(上方からみて)全ての方向で等しい(距離H1)。「全ての方向」とは、中心点Oを中心とする円の周方向における全ての方向である。
【0035】
(地震時の挙動)
地震時に、上部構造体14と下部構造体12とがX-Y平面上を横方向に相対移動する際には、フランジ36が、すべり板38の上を滑動する。なお、「すべり板38の上を滑動」とは、フランジ36がすべり板38と接触しながら滑動することを示す。
【0036】
ここで、フランジ36とすべり板38との間の摩擦係数は、積層ゴム32が水平変形する前に、フランジ36がすべり板38の上を滑動するように調整されている。そして、積層ゴム32が水平変形する前に、フランジ36とストッパー40とが当接する。換言すると、ストッパー40は、積層ゴム32が水平変形する前にフランジ36と当接する。
【0037】
また、フランジ36とストッパー40とが当接した後、積層ゴム32が水平変形する。換言すると、上部構造体と下部構造体とが相対移動した際、ストッパーは、フランジと当接して積層ゴムを水平変形させる。
【0038】
地震時において、建物10に、上部構造体14と下部構造体12とを相対移動させるせん断力(横方向の力)が作用した場合について、具体的に説明する。
【0039】
図8に示すように、積層ゴム32に作用するせん断力が、フランジ36とすべり板38との間の最大静止摩擦係数に対応する摩擦力T1以下の状態では、上部構造体14と下部構造体12とは相対移動しない。また、積層ゴム32は水平変形しない。
【0040】
なお、「積層ゴム32が水平変形しない」とは、積層ゴム32が微小変形する態様を含む。積層ゴム32が微小変形する場合は、上部構造体14と下部構造体12とは僅かに相対移動する。このため、「上部構造体14と下部構造体12とが相対移動しない」とは、上部構造体14と下部構造体12とが僅かに相対移動する態様を含む。
【0041】
「微小変形」する際の変形量は、フランジ36とすべり板38との間の摩擦係数に応じて適宜の値に定まる。
【0042】
さらに「積層ゴム32が水平変形する前に」フランジ36がすべり板38の上を滑動する、フランジ36とストッパー40とが当接する、等の表現は、「積層ゴム32が微小変形した後で」フランジ36がすべり板38の上を滑動する、フランジ36とストッパー40とが当接する、等の態様を含む。なお、これらの表現が定義する態様は、後述する第二実施形態においても同様である。
【0043】
そして、積層ゴム32に作用するせん断力が、フランジ36とすべり板38との間の摩擦力T1を超えると、フランジ36がすべり板38の上を滑動する。そして、滑動距離が距離H1となった時点で、フランジ36とストッパー40とが当接する。
【0044】
フランジ36とストッパー40とが当接した後は、積層ゴム32に作用するせん断力に応じて、積層ゴム32がせん断変形する。積層ゴム32のせん断変形量(フランジ34とフランジ36との相対変位量)が所定の変形量ΔG以下の状態では、積層ゴム32はハードニングしない。
【0045】
そして、積層ゴム32のせん断変形量が所定の変形量ΔGを超えると、積層ゴム32はハードニングして、積層ゴム32を単位量変形させるために必要なせん断力が大きくなる。
【0046】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る免震構造20によると、図2(A)に示すように、地震時に、積層ゴム32に固定されたフランジ36が、すべり板38の上を滑動する。このフランジ36は円環状に形成され、ストッパー40を取り囲んで配置されている。このため、上部構造体14と下部構造体12との相対移動方向に関わらず、滑動したフランジ36とストッパー40とが当接する。
【0047】
また、ストッパー40は、積層ゴム32が水平変形する前にフランジ36と当接する。換言すると、積層ゴム32は、すべり板38の上を滑動したフランジ36がストッパー40と当接した後、図2(B)に示すように水平変形する。この際、積層ゴム32のせん断抵抗により、上部構造体14と下部構造体12との相対移動が抑制される。
【0048】
また、免震構造20によると、図1(B)に示すように、積層ゴム32に固定されたフランジ36とストッパー40との離隔距離が、上方からみて全ての方向で等しい(距離H1)。このため、図1(A)に示す上部構造体14と下部構造体12とが相対移動する方向に関わらず、フランジ36とストッパー40とが当接するタイミングは等しくなる。これにより、全ての方向において、等しい相対移動の抑制効果が得られる。
【0049】
また、免震構造20によると、積層ゴム32を形成するゴム32Aは、所定量以上せん断変形すると、ハードニングする。これにより、積層ゴム32の水平剛性が高くなるため、ハードニングしないゴムを用いる場合と比較して、相対移動の抑制効果を高められる。
【0050】
このように、本発明によれば、上部構造体14と下部構造体12とが所定寸法だけ相対移動した後、積層ゴム32が変形し、さらにゴム32Aがハードニングする。つまり、上部構造体14と下部構造体12との相対移動の抑制効果を、段階的に(緩やかに)得ることができる。
【0051】
また、免震構造20によると、積層ゴム32及びフランジ36がすべり板38の上を滑動した後、積層ゴム32が変形し、さらにハードニングする。このため、小規模な地震では、免震構造20は一般的な滑り免震支承として機能し、建物10の振れを長周期化させて、建物10に生じる応答加速度を低減する。一方、規模が大きい地震では、免震装置30が設置された免震層の剛性を大きくして、免震層の過大変形を抑制し、上部構造体14と下部構造体12との相対移動を抑制できる。
【0052】
(変形例)
本実施形態においては、下部構造体12にフランジ34及び積層ゴム32が固定され、上部構造体14にすべり板38及びストッパー40が固定されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0053】
例えば図3(A)に示すように、下部構造体12にすべり板38及びストッパー40を固定し、上部構造体14にフランジ34及び積層ゴム32を固定してもよい。すなわち、図1(A)に示す構造を、上下方向に入れ替えて配置してもよい。
【0054】
免震構造20をこのように形成した場合でも、図3(B)に示すように、フランジ36がすべり板38の上を滑動し、ストッパー40と当接する。さらに、積層ゴム32が水平変形して、上部構造体14と下部構造体12との相対移動を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態においては、図1(B)に示すように、積層ゴム32が円環状に形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0056】
例えば図4(A)に示す積層ゴム33のように、積層ゴムは円柱状に形成してもよい。なお、積層ゴム33は、中心点Oを中心とする円の周方向において、等しい間隔で複数配置することが好ましい。
【0057】
また、本実施形態において、積層ゴム32を形成するゴム32Aを、所定量以上せん断変形するとハードニングするゴムを用いて形成したが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0058】
例えば積層ゴム32を形成するゴムとしては、ハードニングしないゴムを用いてもよい。ゴムがハードニングしなくても、せん断抵抗力によって、上部構造体14と下部構造体12との相対移動を抑制することができる。後述する第二実施形態の積層ゴム52についても同様である。
【0059】
また、本実施形態においては、図1(B)に示すように、積層ゴム32に固定されたフランジ36とストッパー40との離隔距離が、上方からみて全ての方向で等しい(距離H1)が、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0060】
例えば図4(B)に示すフランジ37のように、四角形等の枠状に形成したフランジとストッパー40との離隔距離が、方向によって異なるものとしてもよい(例えば距離H3及び距離H4)。このように形成しても、全ての方向において、上部構造体14と下部構造体12との相対移動の抑制効果が得られる。
【0061】
[第二実施形態]
<免震構造>
図5(A)には、本発明の第二実施形態に係る免震構造22が適用された建物10が部分的に示されている。以下の説明において、第一実施形態に係る免震構造20と等しい構成については、適宜説明を省略する。
【0062】
免震構造22は、建物10における下部構造体12、上部構造体14、免震装置50及びストッパー60を備えて形成されている。
【0063】
(免震装置)
免震装置50は、上部構造体14と下部構造体12との間に設けられ、上部構造体14を免震支持する装置である。また、免震装置50は、上部構造体14と下部構造体12との間において、X方向及びY方向に所定の間隔で配置されている。
【0064】
免震装置50は、積層ゴム52、フランジ54、フランジ56及びすべり板58を備えて形成されている。フランジ54は、台座12Aに固定された鋼板である。フランジ54の上面には、積層ゴム52が固定されている。
【0065】
積層ゴム52は、ゴム52A及び鋼板52Bが上下方向に交互に積層されて形成された支承である。換言すると、積層ゴム52は、ゴム52Aの内部に、鋼板52Bが上下方向に間隔を空けて埋設されて形成されている。
【0066】
積層ゴム52を形成するゴム52Aは、第一実施形態のゴム32Aと同様に、所定量以上せん断変形すると、ハードニングする。
【0067】
また、積層ゴム52は、図5(B)に示すように、円柱状に形成され、後述する円環状のストッパー60に取り囲まれて配置されている。
【0068】
積層ゴム52の上面には、フランジ56が固定されている。フランジ56は、平面視での(Z方向からみた)外形が、積層ゴム52の中心点Oを中心とする円形状に形成された鋼板のすべり材である。なお、フランジ56の半径W4は、積層ゴム52の半径W5より大きい。また、この半径W4と半径W5とは、同じ値とすることができる(すなわち、W4≧W5)。
【0069】
図5(A)に示すように、フランジ56は、上部構造体14の台座14Aに固定されたすべり板58と接して配置されている。フランジ56の上面は、すべり板58の表面との摩擦力を低減するために、平滑に形成されている。フランジ56の上面を平滑に形成する方法は、第一実施形態のフランジ36と同様である。
【0070】
すべり板58は、下面が平滑に形成され、積層ゴム52の中心点Oを中心とする円形状に形成されている。すべり板58の半径幅W6は、フランジ56の半径W4より大きい(すなわち、W6>W4)。
【0071】
(ストッパー)
ストッパー60は、すべり板58を囲む位置において上部構造体14の台座14Aに固定された高剛性部材である。より具体的には、ストッパー60は、平面視での(Z方向からみた)外形が、積層ゴム52の中心点Oを中心とする2つの同心円によって形成されている。
【0072】
ストッパー60は、第一実施形態のストッパー40と同様に、コンクリートや鋼によって形成されている。ストッパー60は、下面が、免震装置50におけるフランジ56より低い位置に形成されている。これにより、ストッパー60は、フランジ56を取り囲んで配置される。
【0073】
図5(B)に示すように、ストッパー60とフランジ56との離隔距離は、平面視で(上方からみて)全ての方向で等しい(距離H2)。「全ての方向」とは、中心点Oを中心とする円の周方向における全ての方向である。
【0074】
地震時に、上部構造体14と下部構造体12とがX-Y平面上を横方向に相対移動する際には、フランジ56が、すべり板58の下面に沿って滑動する。
【0075】
ここで、第一実施形態と同様に、フランジ56とすべり板58との間の摩擦係数は、積層ゴム52が水平変形する前に、フランジ56がすべり板58の上を滑動するように調整されている。そして、積層ゴム52が水平変形する前に、フランジ56とストッパー60とが当接する。換言すると、ストッパー60は、積層ゴム52が水平変形する前にフランジ56と当接する。
【0076】
また、フランジ56とストッパー60とが当接した後、積層ゴム52が水平変形する。換言すると、上部構造体14と下部構造体12とが相対移動した際、ストッパー60は、フランジと当接して積層ゴム52を水平変形させる。
【0077】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る免震構造20によると、図6(A)に示すように、地震時に、積層ゴム52に固定されたフランジ56が、すべり板58の上を滑動する。このフランジ56は円形状に形成され、円環状のストッパー60に取り囲まれて配置されている。このため、上部構造体14と下部構造体12との相対移動方向に関わらず、滑動したフランジ56とストッパー60とが当接する。
【0078】
また、ストッパー60は、積層ゴム52が水平変形する前にフランジ56と当接する。換言すると、積層ゴム52は、すべり板58の上を滑動したフランジ56がストッパー60と当接した後で、図6(B)に示すように水平変形する。この際、積層ゴム52のせん断抵抗により、上部構造体14と下部構造体12との相対移動が抑制される。
【0079】
また、免震構造22によると、図5(B)に示すように、積層ゴム52に固定されたフランジ56とストッパー60との離隔距離が、上方からみて全ての方向で等しい(距離H2)。このため、図5(A)に示す上部構造体14と下部構造体12とが相対移動する方向に関わらず、フランジ56とストッパー60とが当接するタイミングは等しくなる。これにより、全ての方向において、等しい相対移動の抑制効果が得られる。
【0080】
(変形例)
本実施形態においては、下部構造体12にフランジ54及び積層ゴム52が固定され、上部構造体14にすべり板58及びストッパー60が固定されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0081】
例えば図7(A)に示すように、下部構造体12にすべり板58及びストッパー60を固定し、上部構造体14にフランジ54及び積層ゴム52を固定してもよい。すなわち、図5(A)に示す構造を、上下方向に入れ替えて配置してもよい。
【0082】
免震構造22をこのように形成した場合でも、図7(B)に示すように、フランジ56がすべり板58の上を滑動し、ストッパー60と当接する。さらに、積層ゴム52が水平変形して、上部構造体14と下部構造体12との相対移動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0083】
12 下部構造体
14 上部構造体
32 積層ゴム
33 積層ゴム
36 フランジ
38 すべり板
40 ストッパー
52 積層ゴム
56 フランジ
58 すべり板
60 ストッパー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8