(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172866
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ウレアグリースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 177/00 20060101AFI20221110BHJP
C10M 115/08 20060101ALI20221110BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20221110BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221110BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20221110BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20221110BHJP
【FI】
C10M177/00
C10M115/08
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N50:10
C10N70:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079178
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】000228486
【氏名又は名称】日本グリース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】光岡 雅之
(72)【発明者】
【氏名】前田 十世
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BE02R
4H104BE06R
4H104BE07R
4H104BE13B
4H104BE16R
4H104LA20
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】音響特性および耐フレッチング性に優れたウレアグリースの製造方法を提供すること。
【解決手段】流体を合流させて混合可能な流路およびガイドベーンを備えたミキサーを用いて、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物と、ジイソシアネート化合物とを含む流体を混合させる工程を含む、ウレアグリースの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を合流させて混合可能な流路およびガイドベーンを備えたミキサーを用いて、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物と、ジイソシアネート化合物とを含む流体を混合させる工程を含む、ウレアグリースの製造方法。
【請求項2】
鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物を含有する基油1と、ジイソシアネート化合物を含有する基油2のうち少なくとも一方を、前記ガイドベーンを通過させる工程、および
前記基油1と前記基油2とを合流させる工程を含む、請求項1記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項3】
前記ミキサーが前記ガイドベーンの上流で合流する少なくとも2つの前記流路を有し、
前記流体を混合させる工程が、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種の前記モノアミン化合物を含有する基油1と、ジイソシアネート化合物を含有する基油2とを前記ガイドベーンの上流で合流させる工程、および
前記基油1および前記基油2を合流させた流体を、前記ガイドベーンを通過させる工程を含む、請求項1または2記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項4】
前記基油1と前記基油2が合流する2つの流路の合流点から前記ガイドベーンの下流方向端までの距離をX(mm)、前記流路の合流点から前記ガイドベーンの下流方向端までの前記流体の平均流速をVx(mm/s)としたとき、X/Vxが1.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項5】
前記Vxが100mm/s以上である、請求項4記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項6】
前記ガイドベーンには流体を流入する流入口が複数独立して存在し、
鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種の前記モノアミン化合物を含有する基油1、およびジイソシアネート化合物を含有する基油2を、それぞれ独立した前記流入口を経由して前記ガイドベーンを通過させ、前記ガイドベーンの下流で合流させる工程を含む、請求項1または2記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項7】
前記ガイドベーンの下流方向端から前記ミキサーの吐出口までの距離をY(mm)、前記ガイドベーンの下流方向端から前記ミキサーの吐出口までの前記流体の平均流速をVy(mm/s)としたとき、Y/Vyが0.0005以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項8】
前記ミキサーが、前記ガイドベーンの下流側の流路の内壁に、さらに突起状の衝突体を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項9】
前記ウレアグリースがさらに清浄分散剤を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項10】
前記ウレアグリース中の基油の含有量が、50~95質量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載のウレアグリースの製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたウレアグリースを塗布する工程を含む、軸受、ギア、またはスピンドルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレアグリースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリース、特にウレアグリースには、一般にダマと呼ばれる不均一な粒子が混在していることが知られ、これには、イソシアネートとアミンの反応物に由来すると思われるものが含まれる。ダマはグリースの音響特性を悪化させることから、ダマの発生を抑制するためのウレアグリースの製造方法が種々検討されている。
【0003】
特許文献1には、モノアミン化合物とジイソシアネート化合物の混合液に102s-1以上の最低せん断速度でせん断を与えることにより、ダマが少なく、音響特性に優れたウレアグリースを製造できることが記載されている。しかしながら、この方法では、処理速度が遅い等の問題があり、商業生産において必ずしも満足のいく方法ではない。
【0004】
また、転がり軸受等には、その用途に応じて、耐フレッチング性、高温高速耐久性、回転トルクの低減等に優れていることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、基油およびジウレア化合物の種類や量が同じであるグリースを比較したときに、音響特性および耐フレッチング性がともに向上した、新規なウレアグリースの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、流体を混合可能な流路およびガイドベーンを備えたミキサーを用いて、所定のモノアミン化合物とジイソシアネート化合物とを含む流体を混合させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕流体を合流させて混合可能な流路およびガイドベーンを備えたミキサーを用いて、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物と、ジイソシアネート化合物とを含む流体を混合させる工程を含む、ウレアグリースの製造方法、
〔2〕鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物を含有する基油1と、ジイソシアネート化合物を含有する基油2のうち少なくとも一方を、前記ガイドベーンを通過させる工程、および前記基油1と前記基油2とを合流させる工程を含む、上記〔1〕記載のウレアグリースの製造方法、
〔3〕前記ミキサーが前記ガイドベーンの上流で合流する少なくとも2つの前記流路を有し、前記流体を混合させる工程が、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種の前記モノアミン化合物を含有する基油1と、ジイソシアネート化合物を含有する基油2とを前記ガイドベーンの上流で合流させる工程、および前記基油1および前記基油2を合流させた流体を、前記ガイドベーンを通過させる工程を含む、上記〔1〕または〔2〕記載のウレアグリースの製造方法、
〔4〕前記基油1と前記基油2が合流する2つの流路の合流点から前記ガイドベーンの下流方向端までの距離をX(mm)、前記流路の合流点から前記ガイドベーンの下流方向端までの前記流体の平均流速をVx(mm/s)としたとき、X/Vxが1.0以下である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のウレアグリースの製造方法、
〔5〕前記Vxが100mm/s以上である、上記〔4〕記載のウレアグリースの製造方法、
〔6〕前記ガイドベーンには流体を流入する流入口が複数独立して存在し、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種の前記モノアミン化合物を含有する基油1、およびジイソシアネート化合物を含有する基油2を、それぞれ独立した前記流入口を経由して前記ガイドベーンを通過させ、前記ガイドベーンの下流で合流させる工程を含む、上記〔1〕または〔2〕記載のウレアグリースの製造方法、
〔7〕前記ガイドベーンの下流方向端から前記ミキサーの吐出口までの距離をY(mm)、前記ガイドベーンの下流方向端から前記ミキサーの吐出口までの前記流体の平均流速をVy(mm/s)としたとき、Y/Vyが0.0005以上である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のウレアグリースの製造方法、
〔8〕前記ミキサーが、前記ガイドベーンの下流側の流路の内壁に、さらに突起状の衝突体を有する、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のウレアグリースの製造方法、
〔9〕前記ウレアグリースがさらに清浄分散剤を含有する、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のウレアグリースの製造方法、
〔10〕前記ウレアグリース中の基油の含有量が、50~95質量%である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のウレアグリースの製造方法、
〔11〕上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の製造方法により製造されたウレアグリースを塗布する工程を含む、軸受、ギア、またはスピンドルの製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基油およびジウレア化合物の種類や量が同じであるグリースを比較したときに、音響特性および耐フレッチング性がともに向上したウレアグリースを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るミキサーの配管の長手方向に沿って配管を切断した部分断面図である。
【
図2】ミキサーの他の実施形態を示す部分断面図である。
【
図3】ミキサーの他の実施形態を示す部分断面図である。
【
図4】ミキサーの他の実施形態を示す部分断面図である。
【
図5】ミキサーの他の実施形態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るウレアグリースの製造方法は、流体を合流させて混合可能な流路およびガイドベーンを備えたミキサーを用いて、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物と、ジイソシアネート化合物とを含む流体を混合させる工程を含むことを特徴とする。
【0012】
本実施形態に係るウレアグリースの製造方法は、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物を含有する基油1と、ジイソシアネート化合物を含有する基油2のうち少なくとも一方を、前記ガイドベーンを通過させる工程、および前記基油1と前記基油2とを合流させる工程を含むことが好ましい。
【0013】
本実施形態に係るウレアグリースの製造方法は、前記ミキサーが前記ガイドベーンの上流で合流する少なくとも2つの流路を有し、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物を含有する基油1と、ジイソシアネート化合物を含有する基油2とを前記ガイドベーンの上流で合流させる工程、および前記基油1および前記基油2を合流させた流体を、前記ガイドベーンを通過させる工程を含むことがより好ましい。
【0014】
本発明の一実施形態に係るウレアグリースの製造方法について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0015】
<ウレアグリースおよびその製造方法>
本実施形態に係るウレアグリースは、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物と、ジイソシアネート化合物とを反応させて得られるジウレア化合物、および基油を含有する。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記成分以外の成分(その他の成分)を含有してもよい。
【0016】
(ジウレア化合物)
本実施形態に係るジウレア化合物は、鎖式脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物と、ジイソシアネート化合物とを反応させることにより得られる。
【0017】
鎖式脂肪族モノアミンの炭素数は、沸点と溶解性の観点から、6~24が好ましく、6~20がより好ましく、8~18がさらに好ましい。鎖式脂肪族モノアミンの具体例としては、例えば、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミンおよびエイコシルアミン等が挙げられる。これらの鎖式脂肪族モノアミンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
脂環式モノアミンの具体例としては、例えば、炭素数が4~12のシクロアルキルアミンまたは置換アルキルシクロアルキルアミンが挙げられ、具体的には、シクロヘキシルアミン、4-アルキル置換シクロヘキシルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘプチルアミン等が挙げられる。これらの脂環式モノアミンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
芳香族モノアミンの具体例としては、例えば、トリルアミン、アニリン、トリメチルアニリン等が挙げられる。これらの芳香族モノアミンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ジイソシアネート化合物としては、グリースの耐熱性が良好な点から、芳香族ジイソシアネートが好適に用いられ、例えば、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートおよび2,6-トリレンジイソシアネートの混合物、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。特に入手性が良好な点から、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートが好ましく、さらに耐熱性が良好な点からジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートがより好ましい。
【0021】
前記反応により得られる反応生成物であるジウレア化合物は、下記一般式(I)で示される。式中、R
2は前記ジイソシアネート化合物に由来する炭化水素基である。また、R
1およびR
3は、それぞれ独立して、前記鎖式脂肪族アミン、前記脂環式アミン、または前記芳香族アミンに由来する炭化水素基である。
【化1】
【0022】
ジウレア化合物の含有量は、ウレアグリースが所望の混和ちょう度となるように適宜調整することができ、例えば、ウレアグリース中1~40質量%、2~30質量%、3~25質量%、4~20質量%の範囲とすることができる。
【0023】
(基油)
基油としては特に制限されず、通常のグリース製造に使用される鉱油系基油や合成系基油が挙げられる。鉱油系基油としては、減圧蒸留、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、および水素化精製等を適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。合成系基油としては、ポリアルファオレフィン(PAO)系基油、その他の炭化水素系基油、エステル系基油、アルキルジフェニルエーテル系基油、ポリアルキレングリコール系基油(PAG)、アルキルベンゼン系基油等が挙げられる。
【0024】
基油の40℃における動粘度は、グリースとして通常使用される粘度範囲であれば特に限定されないが、5~3300mm2/sが好ましく、10~2000mm2/sがより好ましく、15~1000mm2/sがさらに好ましく、20~500mm2/sが特に好ましい。
【0025】
基油の含有量は、ウレアグリース中50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましい。基油の含有量が50質量%未満の場合は、グリース組成物の混和ちょう度が低下し、トルクの増大を起こす傾向がある。また、基油の含有量は、95質量%以下が好ましく、94質量%以下がより好ましく、93質量%以下がさらに好ましい。基油の含有量が95質量%を超える場合は、過剰な油分離を引き起こし、使用箇所からの漏洩、飛散などが起こる傾向がある。
【0026】
本実施形態に係るウレアグリースには、本発明の効果を損なわない範囲で、清浄分散剤、耐摩耗剤、酸化防止剤、極圧添加剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、防錆添加剤等の各種添加剤を適量添加してもよい。なお、これらの各種添加剤を含有する場合は、添加剤の合計含有量が、ウレアグリース中10質量%以下となるように含有することが好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下がさらに好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0027】
清浄分散剤としては、例えば、過塩基性金属スルホネート、金属スルホネート、金属フェネート、金属サリシレート、金属フォスファネート、コハク酸イミド類等が挙げられ、金属スルホネートおよびコハク酸イミド類が好ましい。過塩基性金属スルホネート、金属スルホネート、金属フェネート、金属サリシレート、および金属フォスファネートを構成するとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム等が挙げられ、カルシウムが好ましい。前記の清浄分散剤を用いることより、ダマの発生をより効果的に抑制することができる。
【0028】
清浄分散剤の含有量は、ダマの発生を抑制するように適宜調整することができ、例えば、ウレアグリース中0.1~5.0質量%、0.2~3.0質量%、0.3~1.5質量%の範囲とすることができる。
【0029】
耐摩耗剤としては、例えば、メチレンビスジチオカーバメート、ポリカルボキシレート、亜鉛系耐摩耗剤、硫黄系耐摩耗剤、リン系耐摩耗剤等が挙げられる。
【0030】
酸化防止剤としては、一般的にグリース組成物に添加されるものであればとくに限定されないが、芳香族系アミン系酸化防止剤が好ましく、例えば、ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、フェノチアジン、N-フェニル-α-ナフチルアミン、p,p’-ジアミノジフェニルメタン、アルドール-α-ナフチルアミン、p-ドデシルフェニル-1-ナフチルアミン等が挙げられる。
【0031】
極圧添加剤としては、無灰型ジチオカーバメート(無灰型DTC)、硫化油脂、リン酸塩、無灰型ジチオリン酸塩(無灰型DTP)、S-P系極圧添加剤等の無灰型極圧添加剤;アンチモンジチオカーバメート(SbDTC)、ビスマスジブチルジチオカーバメート(BiDTC)、ジンクジチオカーバメート(ZnDTC)等の無灰型極圧添加剤以外の極圧添加剤が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係るウレアグリースの混和ちょう度は特に限定されず、用途に合わせて調整することができ、例えば220~385に調整することが好ましい。なお、本明細書における混和ちょう度は、JIS K 2220 7に準拠し、25℃の環境下で、ちょう度計に取り付けた円錐をグリース組成物に落下させ、5秒間かけて進入した深さ(mm)を10倍した値をいう。
【0033】
本実施形態に係るウレアグリースは、減速機・増速機、ギア、チェーン、モーター等の動力伝達装置;走行系部品;ABS等の制御系部品;操舵系部品;変速機等の駆動系部品、パワーウィンドウモーター、パワーシートモーター、サンルーフモーター等の自動車補強部品;電子情報機器、携帯電話等のヒンジ部品;食品工業、薬品工業、鉄鋼業、建設工業、ガラス工業、セメント工業、フィルムテンター等化学・ゴム・樹脂工業、環境・動力設備、製紙・印刷工業、木材工業、繊維・アパレル工業における各種部品や相対運動する機械部品等に塗布し、使用することができる。また、転がり軸受、スラスト軸受、動圧軸受、樹脂軸受、直動装置等の軸受等にも適用可能である。本実施形態に係るウレアグリースは、音響特性および耐フレッチング性に優れることから、軸受、ギア、スピンドル等に塗布し、使用することが好ましい。
【0034】
〔ウレアグリースの製造方法〕
本実施形態に係るウレアグリースの製造方法は、流体を合流させて混合可能な流路およびガイドベーンを備えたミキサーを用いて、脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンのうちの少なくとも1種のモノアミン化合物と、ジイソシアネート化合物とを含む流体を混合させる工程を含むことを特徴とする。
【0035】
本実施形態に係るウレアグリースの製造に使用されるミキサーは、流体を合流させて混合可能な流路およびガイドベーンを備えたミキサーであれば特に制限されない。流体の混合は、流体を合流させる工程、流体をガイドベーン12通過後のらせん流により撹拌する工程、また必要に応じて、流体を衝突体16に衝突させることにより微細粒子化する工程により行われる。
【0036】
本明細書において「ガイドベーン」とは、流体を流入させる流入口が存在し、入り口から角度を変化させながららせん流を発生させるための機構である。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態に係るミキサーの構成を示す断面図であるが、本発明はこのような態様に限定されない。ミキサー1は、配管内に設けられたガイドベーン12と、ガイドベーン12の上流で合流する流路2a、2bとを備える。流路2a、2bは、互いに合流する異なる2つの配管(
図1~
図4参照)によって形成されていてもよいし、1つの配管を仕切り等によって分離することによって形成されていてもよい。ミキサー1は、流路2a、2bのいずれか一方を経由した前記の所定のモノアミン化合物を含有する基油1と、流路2a、2bの他方を経由した前記ジイソシアネート化合物を含有する基油2とを流路中の合流点(例えば、流路2a、2bの軸心が交差する地点)で合流させ、流路中に設けられたガイドベーン12を通過させる。合流させた流体がガイドベーン12を通過すると、流体がらせん流に変換され、猛烈な遠心力が生み出される。このとき、流体の比重差により、重質流体は流路の半径方向外側へ、軽質流体は流路の半径方向内側へそれぞれ振り分けられ、境界層はく離により激しい乱流が生じ、流体が撹拌される。そして、重質流体のミクロ粒子群と、軽質流体のミクロ粒子群が、遠心力、向心力によって連続して激しく衝突し合い反応し、さらに生成したウレアグリースが微細粒子化されると考えられる。
【0038】
ミキサー1は、ウレアグリースの微細粒子化をより促進させるために、ガイドベーン12の下流側の流路内壁に、さらに突起状の衝突体16を設けてもよい。衝突体16は、流路内壁(配管の内面)から、径方向内側へと突出している。本実施形態では、衝突体16は、配管の軸方向に複数設けられている。衝突体16の数、形状、および高さは特に制限されず、任意に変更することができる。衝突体16の高さは
図1のようにミキサー1の管体の軸方向に見て、衝突体16の先端同士の間に隙間が存在するよう設定してもよく、
図3のようにミキサー1の配管の軸方向に見て、衝突体16が重なる、または、交差する(すなわち、衝突体16の長さが、配管内面半径よりも長い)ようにも設定してもよい。
【0039】
ガイドベーン12の上流に位置する流路2aおよび2bの配管の態様は特に限定されないが、例えば、
図1のように、ガイドベーンの下流の流路と同軸上に延びる流路2aを有する第1配管と、流路2aに対して傾斜して延び、流路2aに合流する流路2bを有する第2配管とを備えていてもよく、
図2のように、ガイドベーン12の下流の流路に対して傾斜した流路2aを有する第1配管と、ガイドベーン12の下流の流路に対して第1流路と反対側に傾斜した流路2bを有する第2配管とを備えたY字型の配管であってもよい。このように、ガイドベーン12の上流で流路2aおよび2b合流させる場合は、(1)ガイドベーンにより層流かららせん流に変換されることによるせん断作用に加え、(2)衝突体による境界層はく離によってウレアグリースの分散が促進されるという利点がある。
【0040】
また、
図4のように、ミキサー1の上流側から導いた流路2bを、ガイドベーン12の中心軸に貫通させてもよい。このように、ガイドベーン12の下流で流路2aおよび2bを合流させる場合は、流路2bを経由した流体はガイドベーンによるせん断作用を受けないため微細化効果は劣るが、衝突体16による激しい乱流発生下で反応が開始されるため、生成したウレアグリースの凝集が抑制されるという利点がある。
【0041】
また、流路2a、2bのそれぞれをガイドベーン12の複数の流入口に独立して接続し、前記の所定のモノアミン化合物を含有する基油1と、前記ジイソシアネート化合物を含有する基油2を、それぞれ独立した流路および流入口を経由してガイドベーン12を通過させ、ガイドベーン12の下流で合流させ、反応を開始させてもよい(
図5参照)。この場合は,基油1と基油2がそれぞれガイドベーンによるせん断作用を受けるため微細化効果の低減がなく,かつ衝突体16による激しい乱流発生下で反応が開始されるため,生成したウレアグリースの凝集が抑制されるという利点がある。なお、
図5および
図6においては、ガイドベーン12の上流側において、配管が仕切板15によって径方向で2つに分離されることによって、流路2a、2bが形成されている。流路2aを流れる基油1は、ガイドベーン12の楕円盤13の表面に沿ってガイドベーン12の下流側へと流れ、流路2bを流れる基油12、ガイドベーン12の楕円盤14の表面に沿ってガイドベーン12の下流側へと流れる。
【0042】
図1に示されたガイドベーン12は、一対の二つ割楕円盤13、14の弦側側縁13a、14aをX字状に交差させた構造を有している。また、ガイドベーン12は、交差部上流側の弦側側縁13a、14a間を、ミキサー1内を軸方向に二分する仕切板15で閉塞した構造を有している。仕切板15の形状は特に制限されないが、三角形が好ましい。一対の二つ割楕円盤13、14の円弧側側縁13b、14bは、流路の内壁に接合するようにしてミキサー1内に配設されている。
【0043】
基油1および基油2を構成する基油としては、特に限定はなく、前記の基油を使用することができるが、基油1と基油2の相溶性を考慮し、基油1と基油2は同様な極性ないし粘度特性を有することが好ましい。このことから、基油1と基油2は同一の基油を用いることがより好ましい。
【0044】
前記の所定のモノアミン化合物を含有する基油1の温度は、モノアミン化合物の溶解度の観点から、室温から120℃が好ましい。また、基油1中のモノアミン化合物と基油の質量比は、基油1kgに対し、モノアミン化合物を2kg以下とすることが好ましい。
【0045】
前記ジイソシアネート化合物を含有する基油2の温度は、ジイソシアネート化合物の溶解度の観点から、50~100℃が好ましい。また、基油2中のジイソシアネート化合物と基油の質量比は、基油1kgに対し、ジイソシアネート化合物を2kg以下とすることが好ましい。
【0046】
モノアミン化合物とジイソシアネート化合物との反応温度は、特に限定されず、通常のこの種の反応と同様でよい。反応温度は、モノアミン化合物およびジイソシアネート化合物の溶解性や揮発性の点から、50~170℃が好ましく、60~150℃がより好ましい。
【0047】
モノアミン化合物のアミノ基とジイソシアネート化合物のイソシアネート基の反応は、定量的に進行すると考えられる。モノアミン化合物とジイソシアネート化合物とのモル比は、モノアミン化合物の総量2モルに対してジイソシアネート化合物1.0~1.1モルとすることが好ましい。
【0048】
基油1と基油2が合流する2つの流路の合流点からガイドベーン12の下流方向端までの距離をX(mm)、前記流路の合流点からガイドベーン12の下流方向端までの流体の平均流速をVx(mm/s)としたとき、X/Vx(s)は1.0以下であることが好ましく、0.75以下がより好ましく、0.50以下がさらに好ましい。モノアミン化合物とジイソシアネート化合物との反応は非常に速いため、基油1と基油2の合流点からガイドベーン12までの到達時間が長くなると、モノアミン化合物とジイソシアネート化合物との反応が進行し、ウレアグリースが凝集してダマが発生しやすくなる。X/Vxを前記の範囲とし、モノアミン化合物とジイソシアネート化合物との反応が完結する前に流体を、ガイドベーン12を通過させ、らせん流を起こすことにより、ウレアグリースのせん断が促進されるので、ウレアグリースの効果的に微細粒子化することができる。X/Vxの下限値は特に制限されない。
【0049】
なお、本明細書において「基油1と基油2が合流する2つの流路の合流点」は、流路2aおよび2bの断面中心線(軸心)の交点を意味する。また、上記平均流速Vx(mm/s)は、単位時間あたりの吐出口17から吐出された流体の体積および長さX領域(すなわち、流路の合流点からガイドベーン12の下流方向端まで領域)の配管内の断面積に基づいて算出される。
【0050】
ウレアグリースの凝集によりダマが発生することを抑制する観点および乱流効果により流体の混合性を高める観点から、上記平均流速Vxは大きくすることが好ましく、例えば、100mm/s以上、300mm/s以上、500mm/s以上、700mm/s以上、900mm/s以上、1100mm/s以上とすることができる。また上記平均流速Vxの上限値は、ポンプの能力および流路の耐久性が許容する限り特に制限されないが、例えば、3000mm/s以下、2500mm/s以下、2000mm/s以下とすることができる。
【0051】
ガイドベーンの下流方向端からミキサーの吐出口17までの距離をY(mm)、ガイドベーンの下流方向端からミキサーの吐出口17までの流体の平均流速をVy(mm/s)としたとき、Y/Vy(s)は0.0005以上であることが好ましく、0.001以上がより好ましく、0.002以上がさらに好ましい。Y/Vyを前記の範囲とし、ガイドベーンの下流方向端からミキサーの吐出口17までの到達時間を確保することにより、モノアミン化合物とジイソシアネート化合物との反応を完結させ、かつウレアグリースの効果的に微細粒子化することができる。また、Y/Vy(s)は、0.10以下が好ましく、0.050以下がより好ましく、0.030以下がさらに好ましい。Y/Vy(s)が0.10超であると、微細化作用が不足し粗大粒子が生成しやすくなる。
【0052】
モノアミン化合物の種類によって、ジイソシアネート化合物との反応速度が異なる。このため、反応速度の遅いモノアミン化合物は、Y/Vyを適切な範囲で大きくすることが好ましく、反応速度の速いモノアミン化合物は、Y/Vyを適切な範囲で小さくすることが好ましい。反応速度の遅いモノアミン化合物としては、例えば、ベへニルアミン、パラドデシルアミン、トルイジン等が挙げられる。一方、反応速度の速いモノアミン化合物としては、例えば、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0053】
上記平均流速Vyは、例えば、1000mm/s以上、3000mm/s以上、5000mm/s以上、7000mm/s以上、9000mm/s以上、11000mm/s以上とすることができる。また上記Vyの上限値は、ポンプの能力および流路の耐久性が許容する限り特に制限されないが、例えば、30000mm/s以下、25000mm/s以下、20000mm/s以下とすることができる。
【0054】
なお、上記平均流速Vy(mm/s)は、単位時間あたりの吐出口17から吐出された流体の体積および吐出口17の断面積に基づいて算出される。
【0055】
ミキサー1から吐出したウレアグリースを、例えば120~250℃で10~60分間保持した後、100℃程度まで冷却しホモジナイザーを用いて均質化処理することにより、本実施形態に係るウレアグリースを得ることができる。また、得られたグリースに対し、グリース製造で一般的に使用されるロールミルにより、さらに均質化処理を行なってもよい。
【実施例0056】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
本実施例では、以下の原料を使用した。
MDI:ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート
鉱物油:500N鉱油(40℃動粘度:97.5mm2/s)
【0058】
図1に示すミキサーによりウレアグリースを製造した。下記基油1と下記基油2が合流する2つの流路の合流点からガイドベーンの下流方向端までの距離Xは140(mm)、ガイドベーンの下流方向端からミキサーの吐出口までの距離Yは45(mm)である。具体的な製造方法は以下の通りである。
【0059】
(実施例1~3)
基油1(60℃に加熱した実施例1~3に記載のアミン混合物を含有する500N鉱油、アミン混合物と500N鉱油の質量比は1:11)、および基油2(60℃に加熱したMDIを含有する500N鉱油、MDIと500N鉱油の質量比は1:11)をガイドベーンの上流で合流させ、表1に記載の流速で連続的にガイドベーンを通過させた。ミキサーから吐出したウレアグリースを160℃で30分間保持した後、100℃程度まで冷却し、ホモジナイザーを用いて均質化処理した。得られたウレアグリースの諸特性を、後述する方法で評価した結果を表1に示す。なお、MDIのモル比は、モノアミン化合物の総量2モルに対するMDIのモル比を示す。
【0060】
(実施例4)
基油1(60℃に加熱した実施例4に記載のアミン混合物を含有する500N鉱油、アミン混合物と500N鉱油の質量比は1:5)、および基油2(60℃に加熱したMDIを含有する500N鉱油、MDIと500N鉱油の質量比は1:5)をガイドベーンの上流で合流させ、表1に記載の流速で連続的にガイドベーンを通過させた。ミキサーから吐出したウレアグリースを160℃で30分間保持した後、100℃程度まで冷却し、ホモジナイザーを用いて均質化処理した。得られたウレアグリースの諸特性を、後述する方法で評価した結果を表1に示す。なお、MDIのモル比は、モノアミン化合物の総量2モルに対するMDIのモル比を示す。
【0061】
(比較例1、2)
通常の方法でウレアグリースを製造した。具体的には、表1の処方に従い、アミン化合物の混合物と同質量部の基油とを混合し、60℃に加熱して溶解させ溶液Aを調製した。また、これとは別に、表1に従い、MDIと同質量部の基油とを混合し、さらにカルシウムスルホネートを添加し、60℃に加熱して溶解させ溶液Bを調製した。次に、残りの基油を60℃に加熱後、前記溶液Aを混合し、この混合液を攪拌しつつ、溶液Bを徐々に添加した。160℃で30分間保持した後、100℃程度まで冷却し、ホモジナイザーを用いて均質化処理した。得られたウレアグリースの諸特性を、後述する方法で評価した結果を表1に示す。なお、MDIのモル比は、モノアミン化合物の総量2モルに対するMDIのモル比を示す。
【0062】
<混和ちょう度の測定>
JIS K 2220 7に準拠し、25℃の環境下で、ちょう度計に取り付けた円錐をグリースに落下させ、5秒間かけて進入した深さ(mm)を測定し、測定された値を10倍したものを混和ちょう度とした。
【0063】
<ファフナー摩耗量>
ASTM D4170に準拠して耐フレッチング試験を行い、試験前後の質量差からファフナー摩耗量(mg)を測定した。ファフナー摩耗量が少ないほど、耐フレッチング性において優れることを示す。なお、10mg以下を性能目標値とする。
【0064】
<音響試験>
ISO 21250-3:2020のMore Quiet法(MQ法)に準拠し、音響試験を行なった。SKF社製のグリース専用音響測定機器(Grease Test Rig Be Quiet+)にグリース未封入の音響測定専用ベアリングをセットし、所定速度で回転させながら回転開始から32秒後から64秒後までの音響データを得た。次に、これらのベアリングに所定量の試料(グリース)を封入し、所定速度で回転させながら回転開始から32秒後から64秒後の音響データを得た。これらの操作を5回行ない、音響測定機器に内蔵されたプログラムで解析することでGrease noise classを判定した。
【0065】
【0066】
表1の結果より、流体を混合可能な流路およびガイドベーンを備えたミキサーを用いて、所定のモノアミン化合物とジイソシアネート化合物とを含む流体を混合させることにより得られた、本発明に係るウレアグリースは、基油およびジウレア化合物の種類や量が同じであるグリースを比較したときに、音響特性および耐フレッチング性がともに向上していることがわかる。