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特開2022-172888冷間圧延用の鋼板の製造方法および冷間圧延鋼板の製造方法
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  • 特開-冷間圧延用の鋼板の製造方法および冷間圧延鋼板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172888
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】冷間圧延用の鋼板の製造方法および冷間圧延鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20221110BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221110BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20221110BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20221110BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20221110BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
C21D9/46 S
C21D9/46 E
C22C38/00 301W
C22C38/00 301R
C22C38/58
B21B45/02 320T
B21B3/00 A
B21B1/22 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079218
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】北川 冬馬
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 貴志
(72)【発明者】
【氏名】米田 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】原田 駿
(72)【発明者】
【氏名】中山 啓太
(72)【発明者】
【氏名】石飛 克馬
(72)【発明者】
【氏名】小林 正宜
(72)【発明者】
【氏名】福島 浩樹
【テーマコード(参考)】
4E002
4K037
【Fターム(参考)】
4E002AD05
4E002BC05
4E002CB04
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB05
4K037FC03
4K037FC04
4K037FD06
4K037FD08
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG01
(57)【要約】
【課題】高張力冷間圧延鋼板の製造の中間過程における鋼板の製造方法であって、後の冷間圧延時における鋼板の端部割れを抑制することができる冷間圧延用の鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】冷間圧延用の鋼板の製造方法は、所定の化学組成を含有するスラブを、仕上げ圧延機の出側温度が800℃以上940℃以下となるように熱間圧延することと、前記熱間圧延後の鋼板の少なくとも一部分が前記仕上げ圧延機の最終スタンドを通過してランナウトテーブル上に送り出されてから3.0秒以内に、前記鋼板の少なくとも一部分を100L/分/m以上の水量密度で0.1秒間以上冷却することと、550℃以上の巻取り温度において前記冷却後の熱延鋼板を巻取ることと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成において、
C:0.15質量%以上、0.25質量%以下、
Si:0.8質量%以上、3.0質量%以下、
Mn:1.8質量%以上、3.0質量%以下、
Ni、Cu、Cr、Mo:1.0質量%以下(0質量%を含む)、
Ti、Nb、V:1.0質量%以下(0質量%を含む)、および
B:0.01%以下(0質量%を含む)
を含有するスラブを、仕上げ圧延機の出側温度が800℃以上940℃以下となるように熱間圧延することと、
前記熱間圧延後の鋼板の少なくとも一部分が前記仕上げ圧延機の最終スタンドを通過してランナウトテーブル上に送り出されてから3.0秒以内に、前記鋼板の少なくとも一部分を100L/分/m以上の水量密度で0.1秒間以上冷却することと、
550℃以上の巻取り温度において前記冷却後の熱延鋼板を巻取ることと、を含む、冷間圧延用の鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記スラブは、
P:0.1質量%以下(0質量%を含む)、
S:0.01質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.10質量%以下(0質量%を含む)、および
N:0.01質量%以下(0質量%を含む)
をさらに含有する、請求項1に記載の冷間圧延用の鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で製造された鋼板を、30%~80%の圧下率で冷間圧延することをさらに含む、冷間圧延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度が980MPa以上の高張力冷間圧延鋼板の製造の中間過程における冷間圧延用の鋼板の製造方法、およびその方法により製造された鋼板を用いる冷間圧延鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延した鋼板を冷間圧延すると、板幅方向の端部(以下、「幅方向端部」または「幅方向両端部」とも言う)および圧延方向に対して平行な方向の端部(以下、「長手方向の先端」または「長手方向の尾端」とも言う)に割れが発生することがある。これらの端部割れはMn等の焼入れ性を向上させる元素を多く含む高張力冷間圧延鋼板の製造の際に生じやすい。このように生じた端部割れは、当該冷間圧延時、さらには、焼鈍工程、めっき工程等のその後の工程において、この端部割れを起点とした鋼板の破断の原因となるおそれがある。そこで、このような端部割れを原因とするリスクを低減するために、熱間圧延した鋼板における端部割れが生じやすい部分は除去されており、その結果、歩留が低下して問題となっている。
【0003】
一方、巻取り後の熱間圧延鋼板の冷却過程では、コイル状鋼板の幅方向端部の冷却速度が、熱間圧延鋼板の板幅方向の中央部(以下、「幅方向中央部」とも言う)と比較して、速くなっている。そのため、Mn等の焼入れ性を向上させる元素を多く含む熱間圧延鋼板では、鋼板の幅方向両端部のフェライト・パーライト変態が十分に進行せず、当該幅方向両端部はマルテンサイトを比較的多く含む硬質組織となる。鋼板の長手方向の先端および長手方向の尾端についても同様である。このような理由のため、高張力冷間圧延鋼板の冷間圧延時等において、鋼板の端部割れが発生し易くなっていると考えられる。
【0004】
上述した鋼板の端部割れを抑制する方法として、例えば、特許文献1には、コイル状に巻き取られて冷却された帯状の熱間圧延鋼板を冷間圧延する方法であって、上記熱間圧延鋼板をコイルから繰り出す繰出工程と、上記繰り出された熱間圧延鋼板の幅方向両端部を熱間圧延鋼板材料のA1点以下400℃以上の温度に加熱する加熱工程と、上記加熱工程後の熱間圧延鋼板を酸によって洗浄する酸洗工程と、上記酸洗工程後の熱間圧延鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程とを備える冷間圧延方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-141888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、加熱によって鋼板の幅方向両端部のミクロ組織におけるマルテンサイトを焼戻しマルテンサイトに変性させ、適度に軟質化することによって、鋼板の端部割れを抑制する。
【0007】
しかしながら、鋼板をA1点以下400℃以上もの温度に加熱するためには、高温での加熱を可能にする装置および当該装置の設置にかかるコストが必要となる。さらに、冷間圧延鋼板の生産ラインに必要となる電力も大きくなるため、それによるコストもかかる。従って、そのような追加の高温加熱工程による設備コストおよびランニングコストを必要としない、冷間圧延時の端部割れを抑制することができる新規な手法が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、高張力冷間圧延鋼板の製造の中間過程における鋼板の製造方法であって、後の冷間圧延時における鋼板の端部割れを抑制することができる冷間圧延用の鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0010】
本発明の第一の局面に係る冷間圧延用の鋼板の製造方法は、化学組成において、
C:0.15質量%以上、0.25質量%以下、
Si:0.8質量%以上、3.0質量%以下、
Mn:1.8質量%以上、3.0質量%以下、
Ni、Cu、Cr、Mo:1.0質量%以下(0質量%を含む)、
Ti、Nb、V:1.0質量%以下(0質量%を含む)、および
B:0.01%以下(0質量%を含む)
を含有するスラブを、仕上げ圧延機の出側温度が800℃以上940℃以下となるように熱間圧延することと、
前記熱間圧延後の鋼板の少なくとも一部分が前記仕上げ圧延機の最終スタンドを通過してランナウトテーブル上に送り出されてから3.0秒以内に、前記鋼板の少なくとも一部分を100L/分/m以上の水量密度で0.1秒間以上冷却することと、
550℃以上の巻取り温度において前記冷却後の熱延鋼板を巻取ることと、を含む。
【0011】
前述の冷間圧延用の鋼板の製造方法において、前記スラブは、
P:0.1質量%以下(0質量%を含む)、
S:0.01質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.10質量%以下(0質量%を含む)、および
N:0.01質量%以下(0質量%を含む)
をさらに含有することが好ましい。
【0012】
本発明の第二の局面に係る冷間圧延鋼板の製造方法は、前述の第一の局面に係る方法で製造された鋼板を、30%~80%の圧下率で冷間圧延することをさらに含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高張力冷間圧延鋼板の製造の中間過程における鋼板の製造方法であって、後の冷間圧延時における鋼板の端部割れを抑制することができる冷間圧延用の鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態における冷間圧延用の鋼板の製造方法の一例を示す概略図である。
図2図2は、本実施例における硬度測定のための鋼板の試験片の位置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、後の冷間圧延時における鋼板の端部割れを抑制することができる新たな鋼板の製造方法について、様々な研究を重ねた。そして、特に、熱間圧延における仕上げ圧延機の出側温度および仕上げ圧延機の最終スタンドを通過した後における水冷制御工程に着目し、本発明を完成した。
【0016】
具体的には、本実施形態に係る冷間圧延用の鋼板の製造方法は、所定の化学組成を満たすスラブを用い、仕上げ圧延機の出側温度が所定の温度範囲となるように熱間圧延を行い、次いで、仕上げ圧延機の最終スタンドを通過した後に鋼板を所定の条件下で水冷し、その後、鋼板を所定の温度以上で巻取る。このような方法によると、熱間圧延鋼板の幅方向両端部、先端または尾端のフェライト・パーライト変態を促進することができ、これらの端部を適度に軟質化することができる。その結果、製造された鋼板は、後の冷間圧延時の端部割れを抑制することができる。製造された鋼板に、続けて冷間圧延、任意での熱処理等を施すことによって、高張力冷間圧延鋼板、特に980MPa以上の引張強度(TS:Tensile Strength)の高張力冷間圧延鋼板を得ることができる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0018】
1.冷間圧延用の鋼板の製造方法
図1に、本実施形態における冷間圧延用の鋼板の製造方法の一例の概略図を示す。図1に示すように、例えば、本実施形態における冷間圧延用の鋼板の製造方法では、圧延設備1において、まず、特定の化学組成を含有するスラブが加熱炉2に装入され、熱間圧延機3によって仕上げ圧延機32の出側温度が特定の温度範囲内になるように制御されながら熱延される。次いで、ランナウトテーブル4上に送り出された熱延後の鋼板は、特定の条件下で冷却設備5により水冷される。その後、巻取り温度が特定の温度以上となるように調整されながら、鋼板が巻取られる。
【0019】
以下、これらの工程および任意にて含まれる工程について詳細に説明する。
【0020】
(スラブの準備)
まず、所定の化学組成を満たすスラブを準備する。スラブは既知の任意の方法により準備することができる。スラブの作製方法としては、以下に述べる化学組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造によって、スラブを作製する方法を挙げられる。必要に応じて、造塊または連続鋳造により得た鋳造材を分塊圧延してスラブを得てもよい。
【0021】
本実施形態における冷間圧延用の鋼板の製造方法で用いられるスラブは、その化学組成において、C:0.15質量%以上、0.25質量%以下、Si:0.8質量%以上、3.0質量%以下、Mn:2.0質量%以上、3.0質量%以下、Ni、Cu、Cr、Mo:1.0質量%以下(0質量%を含む)、Ti、Nb、V:1.0質量%以下(0質量%を含む)、およびB:0.01%以下(0質量%を含む)を含有する。また、スラブは、P:0.1質量%以下(0質量%を含む)、S:0.01質量%以下(0質量%を含む)、Al:0.10質量%以下(0質量%を含む)、およびN:0.01質量%以下(0質量%を含む)をさらに含有することが好ましい。
【0022】
以下、スラブの化学組成をより詳細に説明する。
【0023】
[C:0.15質量%以上0.25質量%以下]
Cは、鋼板の強度を向上させるために重要な元素である。C含有量を0.15質量%以上にすることによって、強度向上作用を発揮させることができ、最終的に980MPa以上の高張力冷間圧延鋼板を得ることができる。C含有量を0.25質量%以下とすることによって、焼入れ性が向上して、フェライト・パーライト変態の促進が不十分となることを防ぐことができ、かつ、C含有量が過剰になることによる鋼板の溶接性の低下を抑制することができる。C含有量は、好ましくは0.16質量%以上、より好ましくは0.17質量%以上、さらに好ましくは0.18質量%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.23質量%以下、より好ましくは0.21質量%以下、さらに好ましくは0.19質量%以下である。
【0024】
[Si:0.8質量%以上3.0質量%以下]
Siは、固溶強化元素として鋼板の強度上昇に寄与する元素である。Si含有量を0.8質量%以上にすることによって、強度向上作用を発揮させることができ、最終的に980MPa以上の高張力冷間圧延鋼板を得ることができる。Si含有量を3.0質量%以下にすることによって、Si量が過剰になることによる鋼板の溶接性の著しい低下を抑制することができる。Si含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは1.8質量%以上である。また、Si含有量は、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.1質量%以下、さらに好ましくは1.9質量%以下である。
【0025】
[Mn:1.8質量%以上3.0質量%以下]
Mnは、固溶強化元素として鋼板の強度上昇に寄与する元素であり、かつ、焼入れ性を高めて鋼板の強度を向上させるために有効な元素でもある。Mn含有量を1.8質量%以上にすることによって、強度向上作用を発揮させることができ、最終的に980MPa以上の高張力冷間圧延鋼板を得ることができる。Mn含有量を3.0質量%以下にすることによって、焼入れ性が向上して、フェライト・パーライト変態の促進が不十分となることを防ぐことができる。Mn含有量は、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.3質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは2.9質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下、さらに好ましくは2.7質量%以下である。
【0026】
[Ni、Cu、Cr、Mo:1.0質量%以下(0質量%を含む)]
Ni、Cu、CrまたはMoは、固溶強化元素として鋼板の強度上昇に寄与する元素である。また、これらの元素は、焼入れ性を高めて鋼板の強度を向上させるために有効な元素でもある。そのため、これらの元素から選択される1つ以上の元素が、スラブの化学組成に含まれていてもよい。強度向上作用を有効に発揮させるためには、Ni、Cu、CrおよびMoから選択される1つ以上の各々の元素の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましい。また、Ni、Cu、CrおよびMoから選択される1つ以上の各々の元素の含有量は、焼入れ性が向上して、フェライト・パーライト変態の促進が不十分となることを防ぐために、1.0質量%以下(0質量%を含む)である。Ni、Cu、CrおよびMoから選択される1つ以上の各々の元素の含有量は、より好ましくは0.1質量%以上である。また、Ni、Cu、CrおよびMoから選択される1つ以上の各々の元素の含有量は、好ましくは0.5質量%以下である。
【0027】
[Ti、Nb、V:1.0質量%以下(0質量%を含む)]
Ti、NbまたはVは、析出強化元素として鋼板の強度上昇に寄与する元素である。そのため、これらの元素から選択される1つ以上の元素が、スラブの化学組成に含まれていてもよい。析出強化作用を有効に発揮させるためには、Ti、NbおよびVから選択される1つ以上の各々の元素の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。また、Ti、NbおよびVから選択される1つ以上の各々の元素の含有量は、前述の強度上昇の効果が飽和し、費用が無駄になることを避けるために、1.0質量%以下である。Ti、NbおよびVから選択される1つ以上の各々の元素の含有量は、好ましくは0.02質量%以上である。また、Ti、NbおよびVから選択される1つ以上の各々の元素の含有量は、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0028】
[B:0.01質量%以下(0質量%以上)]
Bは、焼入れ性を高めて鋼板の強度を向上させるために有効な元素であるため、スラブの化学組成に含まれていてもよい。焼入れ性を有効に発揮させるためには、B含有量は、0.0001質量%以上であることが好ましい。また、B含有量は、焼入れ性が向上して、フェライト・パーライト変態の促進が不十分となることを防ぐために、0.01質量%以下であり、好ましくは0.005質量%以下である。
【0029】
[P:好ましくは0.1質量%以下(0質量%を含む)]
Pは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。Pは、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで端部割れの原因となる。そのため、P含有量を、0.1質量%以下に抑制することが好ましく、0.05質量%以下に抑制することがより好ましい。
【0030】
[S:好ましくは0.01質量%以下(0質量%を含む)]
Sは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。SはMnS介在物を形成して、亀裂の起点となることで端部割れの原因となる。そのため、S含有量を、0.01質量%以下に抑制することが好ましく、0.005質量%以下に抑制することがより好ましい。
【0031】
[Al(S-Al):好ましくは0.10質量%以下(0質量%を含む)]
Alは、脱酸材として添加される。脱酸材としての作用を有効に発揮させるためには、Al(S-Al)含有量は、0.001質量%以上であることが好ましい。また、Alは鋼の清浄度を悪化させるおそれがあるので、Al(S-Al)含有量は、0.10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
[N:好ましくは0.01質量%以下(0質量%を含む)]
Nは、不純物元素として不可避的に存在する元素である。Nは粗大窒化物を形成して、亀裂の起点となることで端部割れの原因となる。そのため、N含有量を、0.01質量%以下に抑制することが好ましく、0.005質量%以下に抑制することがより好ましい。
【0033】
また、本実施形態におけるスラブの化学組成は、上記成分のほか、フェライト・パーライト変態の促進、必要とされる強度、十分な加工性等を阻害しない範囲で、他の周知の任意成分(例えば、Zr、Hf、Ca、Mg、REM(希土類元素)等)をさらに含有することもできる。
【0034】
[残部]
残部はFeおよび不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Sn等)の混入が許容される。なお、前述したようなP、SおよびNは、通常含有量が少ないほど好ましいため、不可避不純物ともいえる。しかし、これらの元素は特定の範囲まで含有量を抑えることによって本発明がその効果を発揮することができるため、上記のように規定している。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」は、その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
【0035】
(スラブの均熱処理)
その後、一般的な圧延前の工程として、準備したスラブを加熱炉に装入する。
【0036】
スラブを加熱する際、スラブの加熱炉抽出温度を1180℃以上1280℃以下とすることが好ましい。スラブの加熱炉抽出温度を1280℃以下とすることによって、鋼板のミクロ組織の粗大化を抑制することができる。その結果、フェライト・パーライト変態の抑制を防ぎ、端部硬化の原因となることを防ぐことができる。スラブの加熱炉抽出温度を1180℃以上とすることによって、圧延荷重が過度に大きくなり、熱間圧延が困難となることを防ぐことができる。本明細書において、加熱炉抽出温度は、後の実施例で記す方法により算出される温度とする。
【0037】
(熱間圧延)
次いで、加熱炉から抽出したスラブを用いて熱間圧延を行い、熱延鋼板を得る。熱間圧延は、仕上げ圧延機の出側温度が800℃以上940℃以下となるように行えば、その他の条件に関しては特に限定されず、本実施形態における効果を損なわない範囲で適宜設定することができる。
【0038】
一般的に、熱間圧延は、粗圧延と仕上げ圧延とを含むことができる。以下、各々の圧延について説明する。
【0039】
粗圧延は、例えば図1に示す粗圧延機31を用いて行うことができる。粗圧延は、例えば図1に示す粗圧延機31の出側温度、具体的には粗圧延機の最終スタンド311の出側における鋼板の温度が1000℃以上1200℃以下となるように行うことが好ましい。
【0040】
粗圧延機の出側温度を1200℃以下にすることによって、鋼板のミクロ組織の粗大化を抑制することができる。その結果、フェライト・パーライト変態が抑制されてしまい、端部硬化の原因となることを防ぐことができる。粗圧延機の出側温度を1000℃以上とすることによって、圧延荷重が過度に大きくなり、熱間圧延が困難となることを防ぐことができる。本明細書において、粗圧延機の出側温度は、後の実施例で記す方法により測定することができる。放射温度計を配置する位置は、粗圧延機の最終スタンドから0.1m~20mの位置であればよい。
【0041】
また、加熱炉抽出を行ってから粗圧延が完了するまでの時間(抽出‐粗圧延間の時間)は、240秒以下であることが好ましい。加熱炉抽出を行ってから粗圧延が完了するまでの時間を240秒以下にすることによって、鋼板のミクロ組織の粗大化を抑制することができる。その結果、フェライト・パーライト変態が抑制されてしまい、端部硬化の原因となることを防ぐことができる。本明細書において、粗圧延機の出側温度は、後の実施例で記す方法により測定することができる。
【0042】
仕上げ圧延は、例えば図1に示す仕上げ圧延機32を用いて行うことができる。仕上げ圧延は、例えば図1に示す仕上げ圧延機32の出側温度、具体的には仕上げ圧延機の最終スタンド321の出側で測定される鋼板の温度が800℃以上940℃以下となるように行う。
【0043】
仕上げ圧延を高温で行うと、熱間圧延で形成された加工組織が回復、再結晶および/または粒成長することによって、巻取り後のフェライト・パーライト変態が抑制され、鋼板の端部硬化の原因となる。従って、仕上げ圧延機の出側温度を940℃以下にすることによって、オーステナイトの回復、再結晶および/または粒成長を抑制し、鋼板の端部硬化を抑制することができる。仕上げ圧延機の出側温度を800℃以上にすることによって、圧延荷重が大きくなってしまい、熱間圧延が困難となることを防ぐことができる。
【0044】
仕上げ圧延機の出側温度は、好ましくは930℃以下、より好ましくは920℃以下である。また、仕上げ圧延機の出側温度は、好ましくは850℃以上、より好ましくは870℃以上である。本明細書において、仕上げ圧延機の出側温度は、後の実施例で記す方法により測定することができる。放射温度計を配置する位置は、仕上げ圧延機の最終スタンドから0.1m~10mの位置であればよい。
【0045】
また、粗圧延機の最終スタンドから仕上げ圧延機の最初のスタンドまでの時間(粗圧延‐仕上げ圧延間の時間)は、50秒以下とすることが好ましい。粗圧延機の最終スタンドから仕上げ圧延機の最初のスタンドまでの時間を50秒以下にすることよって、熱間圧延で形成された加工組織が回復、再結晶および/または粒成長することを抑制することができ、巻取り後のフェライト・パーライト変態の抑制をより確実に防ぐことができる。本明細書において、粗圧延機の最終スタンドから仕上げ圧延機の最初のスタンドまでの時間は、後の実施例で記す方法により求めることができる。
【0046】
仕上げ圧延機の最終スタンドを出た熱延後の鋼板は、例えば図1に示すように、ランナウトテーブル4上に送り出される。この際、熱延後の鋼板のランナウトテーブル4上における板速度は、鋼板の長手方向における位置によって差異を有するが、300m/分~1000m/分程度となっている。
【0047】
(ランナウトテーブル上における冷却制御)
次に、熱間圧延後の鋼板の少なくとも一部分が仕上げ圧延機の最終スタンドを通過してランナウトテーブル上に送り出されてから3.0秒以内に、当該鋼板の少なくとも一部分を100L/分/m以上の水量密度で0.1秒間以上冷却する。
【0048】
ランナウトテーブル上での冷却中に鋼板が高温で保持されていると、熱間圧延で形成された加工組織が回復、再結晶および/または粒成長することによって、巻取り後のフェライト・パーライト変態が抑制され、鋼板の端部硬化を引き起こす。そのため、このようなランナウトテーブル上における冷却制御を行うことによって、オーステナイトの回復、再結晶および/または粒成長を抑制し、鋼板の端部硬化を抑制することができる。
【0049】
冷却される熱延後の鋼板の板厚は、特に限定されず、本技術分野で一般的な熱延鋼板の板厚である、1.0mm~5.0mm程度であればよい。
【0050】
本明細書において、「鋼板の少なくとも一部分」とは、熱間圧延後の鋼板における水冷対象となる部分を意味し、鋼板全面、鋼板における特定の領域および鋼板における特定の箇所のいずれであってもよい。冷却制御の容易性の観点からは、「鋼板の少なくとも一部分」は、鋼板全体であることが好ましい。あるいは、鋼板の端部割れが生じ易い領域に重点を置く場合は、「鋼板の少なくとも一部分」は、鋼板の幅方向両端部の近傍領域、長手方向の先端の近傍領域および長手方向の尾端の近傍領域から選択される1つ以上の領域を含んでいることが好ましい。言い換えると、これらの領域を鋼板における水冷対象となる部分とすることによって、本実施形態における冷間圧延用の鋼板の製造方法をより効果的に適用することができる。
【0051】
本明細書において、「鋼板の少なくとも一部分が仕上げ圧延機の最終スタンドを通過してランナウトテーブル上に送り出されてから3.0秒以内に冷却する」とは、厳密には、鋼板における冷却対象となる部分が、熱間圧延の仕上げ圧延機の最終スタンドを通過した時点を基準(すなわち0秒地点)として、そのままランナウトテーブル上に送り出されてから3.0秒以内に当該鋼板の冷却対象となる部分が冷却されることを意味する。具体的には、例えば、図1において、鋼板における冷却対象となる部分が仕上げ圧延機の最終スタンド321を通過した時点から3.0秒以内に冷却設備5に到達して冷却されることを意味する。このような冷却が開始されるまでの時間を、以下、「水冷開始時間」とも言う。なお、鋼板の板速度はその長手方向の位置に応じて変動するため、本明細書では、水冷開始時間は、後の実施例で記す方法により求められる時間、すなわち板速度の最小値から算出される時間として定義する。
【0052】
水冷開始時間を3.0秒以内にすることによって、ランナウトテーブル上で熱間圧延後の鋼板が高温で長く保持されてしまうことを避けることができる。熱間圧延後の鋼板が高温で長く保持されてしまうと、熱間圧延で形成された鋼板における加工組織が回復、再結晶および/または粒成長してしまい、最終的に、巻取り後のフェライト・パーライト変態が抑制され、鋼板の端部硬化を引き起こしてしまう。水冷開始時間は、好ましくは2.5秒以内、より好ましくは2.0秒以内、さらに好ましくは1.5秒以内である。
【0053】
冷却の際の水量密度を100L/分/m以上とすることによって、ランナウトテーブル上での鋼板の冷却速度が不十分となることを避けることができる。鋼板の冷却速度が不十分となると、熱間圧延で形成された加工組織が回復、再結晶および/または粒成長し、巻取り後のフェライト・パーライト変態が抑制され、鋼板の端部硬化を引き起こしてしまう。
【0054】
冷却の際の水量密度は、好ましくは200L/分/m以上、より好ましくは250L/分/m以上である。なお、水量密度の上限値は、特に限定されないが、鋼板の通板性を確保する観点から、例えば3000L/分/m以下であることが好ましい。本明細書では、水量密度は、後の実施例で記す方法と同様に、鋼板の冷却対象となる部分(後述の実施例では長手方向の先端から鋼板全長の4/5の位置として算出)における、冷却に用いる水流量(L/分)を、冷却設備等の区画の長さ(m)と幅(m)で除することにより求めることができる。また、冷却に用いる水流量は、冷却設備が備えるバルブ等を調整することにより、制御することができる。
【0055】
冷却時間、具体的には仕上げ圧延機の最終スタンド通過から3秒以内における合計の水冷時間(以下、「3秒以内の総水冷時間」とも言う)を0.1秒間以上にすることによって、鋼板の冷却が不十分となることを避けることができる。鋼板の冷却が不十分となると、熱間圧延で形成された加工組織が回復、再結晶および/または粒成長し、巻取り後のフェライト・パーライト変態が抑制され、鋼板の端部硬化を引き起こしてしまう。
【0056】
3秒以内の総水冷時間は、好ましくは0.2秒間以上、より好ましくは0.4秒間以上である。なお、3秒以内の総水冷時間の上限値は、特に限定されず、3秒未満である。3秒以内の総水冷時間も、前述の水冷開始時間と同様に、鋼板の長手方向の位置に応じて変動し得る。そのため、本明細書において、3秒以内の総水冷時間は、後の実施例で記す方法により求められる時間、すなわち板速度の最大値から算出される時間として定義する。
【0057】
また、ランナウトテーブル全長を1とした場合、仕上げ圧延機の最終スタンドから1/4~3/4の位置において測定される温度(以下、「中間温度」とも言う)は、好ましくは650℃以上、より好ましくは700℃以上、更に好ましくは750℃以上である。中間温度を650℃以上とすることによって、冷却速度が過度に速くなり、巻取り温度の確保が難しくなることを防ぐことができる。本明細書において、このような中間温度は、後の実施例で示す方法と同様に、ランナウトテーブル全長を1とした場合、仕上げ圧延機の最終スタンドから1/4~3/4の位置の位置において設置した放射温度計によって測定されるコイルの幅方向中央部の温度とする。
【0058】
このような冷却は、公知の任意の方法を適用すればよく、特に限定されない。例えば、上面ラミナー設備、下面スプレー設備等を適用して水冷することができる。
【0059】
(巻取り)
その後、550℃以上の巻取り温度において冷却後の熱延鋼板を巻取る。
【0060】
巻取り温度を550℃以上にすることによって、巻取り後にフェライト・パーライト変態が進行する温度領域で鋼板が保持される時間を十分確保することができ、鋼板が端部硬化を抑制することができる。
【0061】
巻取り温度は、好ましくは600℃以上、より好ましくは630℃以上である。また、巻取り温度は、好ましくは750℃以下、より好ましくは700℃以下である。巻取り温度を750℃以下にすることによって、熱間圧延で形成された加工組織が、回復、再結晶および/または粒成長することによる、巻取り後のフェライト・パーライト変態の抑制を防ぐことができる。本明細書において、巻取り温度は、後の実施例で記す方法により測定することができる。放射温度計を配置する位置は、ランナウトテーブル全長を1とした場合、巻取り機側から1/5の位置において配置する。
【0062】
巻取り後のコイル状の熱間圧延鋼板は、常温まで自然冷却してもよい。
【0063】
上述してきたような工程および任意にて含まれる工程を経るによって、コイル状の本実施形態における冷間圧延用の鋼板を得ることができる。このように得られた本実施形態における冷間圧延用の鋼板は、後の冷間圧延時における鋼板の端部割れを抑制することができる。その際、追加の高温加熱のための設備コストおよびランニングコストを必要としない。加えて、本実施形態における冷間圧延用の鋼板の製造方法によると、後の冷間圧延時において端部割れが生じ易い部分の除去による歩留の低下の問題を解消することができる。
【0064】
2.冷間圧延鋼板の製造方法
本実施形態における冷間圧延鋼板の製造方法は、前述の実施形態における方法で製造された鋼板を、冷間圧延することをさらに含む。以下、本実施形態における冷間圧延鋼板の製造方法の一例について説明する。
【0065】
(酸洗)
冷間圧延の前に、前述の実施形態における方法で製造された冷間圧延用の鋼板を、酸洗してもよい。酸洗方法は特に限定されず、公知の任意の方法を適用すればよい。例えば、塩酸等を用いて浸漬させることにより、スケールを除去すればよい。
【0066】
(冷間圧延)
冷間圧延の方法は、特に限定されず、公知の任意の方法を適用すればよい。例えば、所望する板厚にするために、30%~80%の圧下率で冷間圧延することができる。冷間圧延鋼板の板厚は、特に限定されない。
【0067】
上述してきたような工程および任意にて含まれる工程を経ることによって、引張強度(TS)が980MPa以上の高張力冷間圧延鋼板の製造に用いられる冷間圧延鋼板を得ることができる。このように得られた本実施形態における冷間圧延鋼板は、冷間圧延時における端部割れを抑制できているため、端部割れを原因とする鋼板の破断等の後のリスクを低減することができる。そのため、任意の方法を適用して焼鈍を施すことによって、引張強度(TS)が980MPa以上の高張力冷間圧延鋼板を好適に製造することができる。
【実施例0068】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0069】
本実施例では、本実施形態における方法で実際に冷間圧延用の鋼板を製造し、製造した当該鋼板の端部近傍の試験片の硬度から、後の冷間圧延時における鋼板の端部割れの危険率を算出した。
【0070】
[冷間圧延用の鋼板の製造]
後の表1に示す化学組成(狙い化学組成)の鋼を転炉にて溶製した後、連続鋳造によりスラブを製造した。連続鋳造により製造したスラブを表面温度が200℃以上900℃以下の状態で直接加熱炉に装入し、高温に加熱した後、加熱炉から抽出し、粗圧延および仕上げ圧延により熱間圧延を行った。板厚は、最終的に2.3mmとした。熱間圧延に続き、熱延後の鋼板をそのままランナウトテーブル上に送り出し、その先の上面ラミナー設備および/または下面スプレー設備によって、ランナウトテーブル上の鋼板を冷却した。その後、冷却した熱間圧延鋼板をコイル状に巻取って冷却し、冷間圧延用の鋼板を製造した。なお、仕上げ圧延機の最終スタンドから鋼板の巻取り機まで続くランナウトテーブルの全長は、188.3mであった。
【0071】
【表1】
【0072】
上記の製造方法において、熱間圧延、冷却および巻取りの条件を変えて、様々な条件下で冷間圧延用の鋼板を製造した。各種の鋼板の製造時における、熱間圧延時の加熱炉抽出温度、粗圧延機の出側温度、加熱炉抽出を行ってから粗圧延が完了するまでの時間(抽出‐粗圧延間の時間)、粗圧延機の最終スタンドから仕上げ圧延機の最初のスタンドまでの時間(粗圧延‐仕上げ圧延間の時間)、仕上げ圧延機の出側温度、仕上げ圧延機の最終スタンドからランナウトテーブル上での水冷開始までの時間(水冷開始時間)、仕上げ圧延機の最終スタンド通過から3秒以内における合計の水冷時間(3秒以内の総水冷時間)、冷却時における水量密度、ランナウトテーブル中間付近における鋼板の温度(中間温度)、仕上げ圧延機の出側からランナウトテーブル中間付近での温度測定までの時間(仕上げ圧延‐中間温度測定間の時間)、および、巻取り温度を、以下の表2に示す。なお、下記表2において、「‐」は、ランナウトテーブル上に送り出された鋼板は設置された上面ラミナー設備および/または下面スプレー設備によって冷却されてはいるが、水冷開始時間が3.0秒を経過しているため、3.0秒以内の総水冷時間および水量密度が0であることを示している。
【0073】
【表2】
【0074】
上記表2における、各項目の詳細な測定および算出方法は以下の通りである。
・加熱炉抽出温度:加熱炉装入時のスラブ温度、加熱炉内の雰囲気温度および加熱炉内の滞在時間から、熱伝達計算によって抽出温度を算出した。
・粗圧延機の出側温度:粗圧延機の出側に設置された放射温度計によって、コイルの幅方向中央部の温度を測定した。温度計は、粗圧延機の最終スタンドから16.6mの位置において設置した。
・抽出‐粗圧延間の時間:加熱炉抽出を行ってから、鋼板の長手方向の尾端の粗圧延が終了するまでの時間を、抽出‐粗圧延間の時間とした。
・粗圧延‐仕上げ圧延間の時間:鋼板の長手方向の尾端の粗圧延が終了してから、鋼板の長手方向の先端の仕上げ圧延が開始されるまでの時間を、粗圧延時間‐仕上げ圧延間の時間とした。
・仕上げ圧延機の出側温度:仕上げ圧延機の出側に設置された放射温度計によって、コイルの幅方向中央部の温度を測定した。温度計は、仕上げ圧延機の最終スタンドから5.9mの位置において設置した。
・水冷開始時間:仕上げ圧延機の出側の板速度は、鋼板の長手方向の位置に応じて変動するため、長手方向で最も板速度が遅く粒成長しやすい鋼板の長手方向の先端位置に基づき水冷開始時間を定義した。具体的には、水冷開始時間は、仕上げ圧延機の最終スタンドから水冷されるランナウトテーブル上の位置までの距離を、鋼板の長手方向における板速度の最小値で除することにより求めた。
・3秒以内の総水冷時間:長手方向の先端から鋼板全長の4/5の位置(換言すると、長手方向の尾端から鋼板全長の1/5の位置)における冷却を実際に行った冷却設備の区画の長さ(m)を、鋼板の長手方向の板速度の最大値で除することによって、3秒以内の総水冷時間を求めた。
・水量密度:水量密度は、長手方向の先端から鋼板全長の4/5の位置(換言すると、長手方向の尾端から鋼板全長の1/5の位置)における冷却に用いた水流量(L/分)を、冷却を実際に行った冷却設備の区画の長さ(m)と幅(m)で除することで求めた。
・中間温度:ランナウトテーブルの中間付近に設置されている放射温度計によって、コイルの幅方向中央部の温度を測定した。温度計は、仕上げ圧延機の最終スタンドから56.1mの位置において設置した。
・仕上げ圧延‐中間温度測定間の時間:鋼板の長手方向の先端が、仕上げ圧延機の出側に設置された放射温度計に到達してから、ランナウトテーブルの中間付近に設置されている放射温度計に到達するまでの時間を、仕上げ圧延‐中間温度測定間の時間とした。
・巻取り温度:ランナウトテーブルの終端近傍に設置されている放射温度計によって、コイルの幅方向中央部の温度を測定した。温度計は、仕上げ圧延機の最終スタンドから180.1mの位置において配置した。
【0075】
さらに、上記表2の区分において、本発明例は、仕上げ圧延出側温度が800℃以上940℃以下かつ水冷開始時間が3.0秒以下の場合における試験片である。一方、比較例1は、仕上げ圧延出側温度が940℃より高くかつ水冷開始時間が3.0秒以下の場合における試験片である。比較例2は、仕上げ圧延出側温度が940℃以下かつ水冷開始時間が3.0秒より大きい場合における試験片である。比較例3は、仕上げ圧延出側温度が940℃より高くかつ水冷開始時間が3.0秒より大きい場合における試験片である。
【0076】
[冷間圧延用の鋼板の試験片の硬度測定]
上記の方法で得た各冷間圧延用の鋼板の長手方向の尾端から30mの位置を含むように、シャー切断を用いて鋼板の幅方向両端部における試験片を切り取った。試験片のサイズは、10mm(圧延方向に対して平行な方向)×20mm(板幅方向)×2.3mm(板厚)とした。図2は、硬度測定のための鋼板の試験片の位置を示す概略図である。長手方向の尾端の位置を、矢印Xで示す。図2に示すように、具体的には、試験片は、鋼板の長手方向の尾端から30mの位置(破線Yで示す)における鋼板の幅方向両端部から1mmにおける位置(矢印Zで示す)を含むように切り取った。このように切り取った試験片から、冷間圧延用の鋼板の長手方向の尾端から30mの位置における鋼板の幅方向両端部から1mmの位置、かつ、板厚の4分の1における位置でのビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さ試験は、9.807Nの荷重で測定し、当該幅方向両端部のうちの最大値で評価した。このように求められたビッカース硬さが290HVより大きい場合、製造された冷間圧延用の鋼板は端部硬化しており、冷間圧延時に鋼板の端部割れの危険があると評価した。
【0077】
長手方向の尾端から30mの位置は、上述した製造過程において水量密度を求めた位置である長手方向の先端から鋼板全長の4/5の位置よりも尾端に近くなっている。長手方向の尾端に近いほど鋼板の板速度はより速くなり、かつ、一般的により端部硬化は生じ易くなると想定される。そのため、長手方向の尾端から30mの位置において端部硬化が観察されなければ、長手方向の先端から鋼板全長の4/5の位置でも当然に端部硬化は観察されないことが考えられる。加えて、この結果から、必要に応じて鋼板における冷却対象となる部分を適宜調節することによって、長手方向の先端から尾端までの全体にわたっても端部硬化が抑制できることも想定される。
【0078】
以下の表3に、各鋼板の試験片において測定されたビッカース硬さ(HV)およびその評価結果を示す。
【0079】
【表3】
【0080】
上記表3の各区分における試験片の数とそのビッカース硬さによる硬度評価の結果から、端部割れ危険率を算出した。算出結果を以下の表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
(考察)
上記表4に示すように、本発明例の6つの全ての試験片は、ビッカース硬さが290HV以下であったため、端部割れ危険率は0であった。一方、比較例1~比較例3の試験片による端部硬化発生率は、0.33、0.5または1.0であった。これらの結果から、仕上げ圧延機の出側温度を940℃以下かつ水冷開始時間を3.0秒以下にすることによって、オーステナイトの回復、再結晶および/または粒成長を抑制し、鋼板の端部硬化を抑制できることが分かった。
【0083】
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 圧延設備
2 加熱炉
3 熱間圧延機
4 ランナウトテーブル
5 冷却設備
31 粗圧延機
311 粗圧延機の最終スタンド
32 仕上げ圧延機
321 仕上げ圧延機の最終スタンド
図1
図2