(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172933
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】乾電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/128 20210101AFI20221110BHJP
C23C 18/48 20060101ALI20221110BHJP
H01M 50/164 20210101ALI20221110BHJP
H01M 50/159 20210101ALI20221110BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20221110BHJP
【FI】
H01M50/128
C23C18/48
H01M50/164
H01M50/159
H01M50/119
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079290
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 隼司
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
【テーマコード(参考)】
4K022
5H011
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA43
4K022BA14
4K022BA16
4K022BA18
4K022BA32
4K022DA01
4K022EA01
5H011AA01
5H011AA02
5H011AA05
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD09
5H011DD18
(57)【要約】
【課題】低い接触抵抗を維持し、耐食性や耐摩耗性にも優れた電極端子を備えた乾電池を提供する。
【解決手段】乾電池は、電池缶と、前記電池缶の一端に配置された電極端子と、前記電極端子の表面に形成された拡散層と、前記拡散層の表面に形成された無電解パラジウム‐ニッケル‐リン合金メッキと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池缶と、
前記電池缶の一端に配置された電極端子と、
前記電極端子の表面に形成された拡散層と、
前記拡散層の表面に形成された無電解パラジウム‐ニッケル‐リン合金メッキと、
を有することを特徴とする乾電池。
【請求項2】
前記電極端子は、
前記電池缶の一端に配置された正極端子と、
前記電池缶の他端に配置された負極端子と、を有し、
前記拡散層は、
前記正極端子の表面に形成された第1の拡散層と、
前記負極端子の表面に形成された第2の拡散層と、を有し、
前記無電解パラジウム‐ニッケル‐リン合金メッキは、
前記第1の拡散層の表面に形成された無電解パラジウム‐ニッケル‐リン合金の第1のメッキ層と、
前記第2の拡散層の表面に形成された無電解パラジウム‐ニッケル‐リン合金の第2のメッキ層と、を有することを特徴とする請求項1に記載の乾電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾電池に関する。
【背景技術】
【0002】
乾電池では、電池缶と、電池缶内に格納する正極材料と、電池缶内に格納する負極材料と、正極材料と負極材料との間を隔離する、円筒状のセパレータ部材と、電池缶の負極端子側の開口を封口するガスケット部材とを有する。更に、乾電池は、電極端子として、電池缶の一端に配置された正極端子と、電池缶の他端に配置された負極端子とを有する。
【0003】
乾電池の電極端子である正極端子及び負極端子の表面は、例えば、ニッケル(Ni)でメッキされているため、安価で錆の発生を防止しながら、機器との接触抵抗の上昇を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-062013号公報
【特許文献2】特開2009-129664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、Niメッキは湿度や温度の影響により酸化され、Niでメッキした電極端子の表面に酸化皮膜が発生し、機器との接触抵抗が上昇してしまう。更に、Niの代わりに、酸化しにくい金(Au)を電極端子の表面にメッキすることも考えられるが、Auメッキは表面硬度が低いため剥がれるおそれがある。つまり、低い接触抵抗を維持しながら、耐食性や耐摩耗性に優れた電極端子を備えた乾電池が求められている。
【0006】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、低い接触抵抗を維持しながら、耐食性や耐摩耗性にも優れた電極端子を備えた乾電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の開示する乾電池の一態様は、電池缶と、前記電池缶の一端に配置された電極端子と、前記電極端子の表面に形成された拡散層と、前記拡散層の表面に形成された無電解パラジウム‐ニッケル‐リン合金メッキと、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本願の開示する乾電池の一態様によれば、低い接触抵抗を維持しながら、耐食性や耐摩耗性にも優れた電極端子を備えた乾電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例の乾電池を示す縦断面図である。
【
図2A】
図2Aは、正極端子の部位の一例を示す説明図である。
【
図2B】
図2Bは、負極端子の部位の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本願の開示する乾電池等の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例によって、本願の開示する乾電池が限定されるものではない。
【実施例0011】
(乾電池の構成)
図1は、実施例の乾電池1を示す縦断面図である。
図1に示すように、実施例の乾電池1は、例えば、水溶液系一次電池、いわゆる乾電池である。乾電池1は、開口3aを有する円筒状の電池缶3と、集電棒4と、正極材料5と、負極材料6と、正極材料5と負極材料6とを仕切るセパレータ部材7と、電池缶3の開口3aを封止するガスケット部材8とを備える。また、乾電池1は、電極端子として、電池缶3の一端に形成された正極端子11と、電池缶3の他端に配置された負極端子12とを有する。
【0012】
電池缶3の一端には、正極端子11が一体に形成されている。電池缶3の他端には、電池缶3の外周に沿ってビーディング加工されたくびれ部(ビーディング部)3bが形成されている。電池缶3のくびれ部3bには、開口3aを塞ぐように負極端子12及びガスケット部材8が設けられている。集電棒4は、電池缶3の内部の中央に配置されている。集電棒4は、基端部がガスケット部材8に支持されており、先端部が正極端子11側に向かって延びている。集電棒4は、例えば、真鍮等で形成する。
【0013】
負極材料6は、電池缶3の内部における集電棒4の周囲に設けられた円筒状の材料であり、セパレータ部材7の内側に装填されている。また、負極材料6は、例えば、亜鉛を主成分とするゲル状の負極合剤が用いられる。正極材料5は、電池缶3内に、その内周面に沿って装填されている。そして、正極材料5は、電池缶3の内部に収容された負極材料6の外周側に、セパレータ部材7を挟んで設けられている。正極材料5としては、例えば、リング状の正極合剤が用いられており、集電棒4の軸方向に沿って複数のリング状の正極合剤が積層されて配置されている。セパレータ部材7は、例えば、不織布等によって円筒状に形成されており、正極材料5の内側、かつ、集電棒4の軸方向に沿って配置されている。
【0014】
(ガスケット部材の構成)
乾電池1のガスケット部材8は、集電棒4の一端部を支持する円筒状の支持部15と、支持部15の外周に沿って形成された環状の安全弁16と、電池缶3の開口3aに支持される環状の外周部17とを有する。また、ガスケット部材8は、安全弁16と外周部17との間の安全弁16側に形成された環状の中間部18と、中間部18と外周部17との間に形成され、外周部17を中間部18に対して弾性変形可能にする緩衝部19とを有する。
【0015】
支持部15は、集電棒4が通される支持穴15aを有しており、集電棒4が負極端子12に接するように支持穴15aに支持されている。外周部17は、電池缶3のくびれ部3b近傍と負極端子12の外周部との間に加締めで挟み込まれることで、ガスケット部材8が電池缶3に支持されている。
【0016】
中間部18には、セパレータ部材7の端部が突き当てられており、負極材料6が収容された空間が、セパレータ部材7によって塞がれている。安全弁16は、電池缶3の内部ガスの圧力で破断される溝状の肉薄部分である。
【0017】
緩衝部19は、中間部18と外周部17との間に形成されており、セパレータ部材7の外周側に配置されている。緩衝部19は、集電棒4の軸方向において外周部17から延びると共に、折り返して中間部18に連結されることで、底部19aを有するひだ状の突形状である。
【0018】
ガスケット部材8の緩衝部19は、横締め方式で、電池缶3のくびれ部3b近傍と負極端子12の外周部との間にガスケット部材8の外周部17が挟み込まれることで、外周部17を中間部18に対して弾性変形する。つまり、ガスケット部材8は、電池缶3の開口3aの封口後に直径方向に撓むことになる。
【0019】
(電極端子部位の構成)
図2Aは、正極端子11の部位の一例を示す説明図である。電池缶3の一端に形成された正極端子11の部位は、正極端子11と、正極端子11の表面に形成された第1の拡散層21Aと、第1の拡散層21Aの表面に形成された無電解パラジウム(Pd)‐ニッケル(Ni)‐リン(P)合金の第1のメッキ層22Aとを有する。正極端子11は、無電解メッキ法で無電解Pd‐Ni‐P合金メッキを施した後、焼鈍処理を実行することで、正極端子11と第1のメッキ層22Aとの間に合金層である第1の拡散層21Aが形成されることになる。
【0020】
図2Bは、負極端子12の部位の一例を示す説明図である。負極端子12の部位は、負極端子12と、負極端子12の表面に形成された第2の拡散層21Bと、第2の拡散層21Bの表面に形成された無電解Pd‐Ni‐P合金の第2のメッキ層22Bとを有する。負極端子12は、無電解メッキ法で無電解Pd‐Ni‐P合金メッキを施した後、焼鈍処理を実行することで、負極端子12と第2のメッキ層22Bとの間に合金層である第2の拡散層21Bが形成されることになる。尚、電極端子は、正極端子11及び負極端子12、拡散層21は、第1の拡散層21A及び第2の拡散層21B、第1のメッキ層22A及び第2のメッキ層22Bは、無電解Pd‐Ni‐P合金メッキ22である。
【0021】
そこで、出願人は、電極端子部位の表面に各種金属をメッキした場合の接触抵抗、耐食性、表面硬度の評価を検証した。(表1)は、各種検証結果を表にまとめたものである。
【0022】
【0023】
無電解Pd-Ni-P合金のメッキ方法としては、例えば、メッキ浴にPdCl2(塩化パラジウム)、NiSO4・6H2O(硫酸ニッケル六水和物)、エチレンジアミン、クエン酸ナトリウム、(NH4)2SO4(硫酸アンモニウム)、NaH2PO2・H2O(リン酸二水素ナトリウム)、チオグリコール酸の混合液を用い、pH9、温度60℃の条件下で電極端子を浸漬した。メッキ厚は浸漬時間で制御し、Pd/Ni比率はメッキ浴中のNiSO4・6H2O濃度で制御した。Pd/Ni比率は、全体(Pd+Ni)に占めるPdの割合である。また、焼鈍処理を行う場合は、350℃で2時間とした。
【0024】
接触抵抗の評価としては、各サンプルを60℃90%R.H.条件下で1週間保存し、保存後の各サンプルの接触抵抗を測定した。接触抵抗は四端子法により、測定用リード線、コネクタ部の固有抵抗を除き、接触圧力を100gとしたときの抵抗値を接触抵抗として評価した。
【0025】
耐食性の評価としては、各サンプルを40個ずつ用意して60℃90%R.H.条件下で1週間保存し、保存後の各サンプルの錆の発生の有無を目視で確認して耐食性を評価した。
【0026】
表面硬度の評価としては、例えば、試験力を0.4903N、保持時間を15秒とした試験条件下で。各サンプルについて、ビッカース微小硬度計により測定し、耐摩耗性を評価する表面硬度を評価した。
【0027】
従来例は、メッキ種「-」、メッキ厚「0μm」、Pd/Ni比率「-」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「-」の条件サンプルである。従来例では、接触抵抗「150mΩ」、耐食性(錆発生)「有」、表面硬度「150HV」との評価結果を得た。
【0028】
比較例1は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.1μm」、Pd/Ni比率「40%」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「無」の条件サンプルである。比較例1では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「250HV」との評価結果を得た。
【0029】
比較例2は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.2μm」、Pd/Ni比率「40%」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「無」の条件サンプルである。比較例2では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「300HV」との評価結果を得た。
【0030】
比較例3は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.2μm」、Pd/Ni比率「100%(Pd-Pメッキ)」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。比較例3では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「300HV」との評価結果を得た。
【0031】
比較例4は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.2μm」、Pd/Ni比率「0%(Ni-Pメッキ)」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。比較例4では、接触抵抗「150mΩ」、耐食性(錆発生)「有」、表面硬度「900HV」との評価結果を得た。
【0032】
比較例5は、メッキ種「無電解Pd-Ni合金」、メッキ厚「1.5μm」、Pd/Ni比率「60%」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。比較例5では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「300HV」との評価結果を得た。
【0033】
比較例6は、メッキ種「無電解Auメッキ」、メッキ厚「0.2μm」、Pd/Ni比率「-」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。比較例6では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「120HV」との評価結果を得た。
【0034】
これに対して、実施例1は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.1μm」、Pd/Ni比率「40%」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。実施例1では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「800HV」との評価結果を得た。
【0035】
実施例2は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.2μm」、Pd/Ni比率「80%」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。実施例2では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「800HV」との評価結果を得た。
【0036】
実施例3は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.2μm」、Pd/Ni比率「40%」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。実施例3では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「900HV」との評価結果を得た。
【0037】
実施例4は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.2μm」、Pd/Ni比率「20%」、下地電解Niメッキ厚「1.5μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。実施例4では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「900HV」との評価結果を得た。
【0038】
実施例5は、メッキ種「無電解Pd-Ni-P合金」、メッキ厚「0.2μm」、Pd/Ni比率「60%」、下地電解Niメッキ厚「0μm」、焼鈍処理の有無「有」の条件サンプルである。実施例5では、接触抵抗「1.5mΩ」、耐食性(錆発生)「無」、表面硬度「900HV」との評価結果を得た。
【0039】
これらの評価結果から次のことが判明した。先ず、従来例では、下地の電解Niメッキのみであるため、60℃90%R.H.1週間保存後に錆が発生し、接触抵抗が増大してしまう。
【0040】
比較例1及び2では、無電解Pd-Ni-Pメッキ合金を0.1μm、0.2μmの厚さでメッキしたので、高温多湿保存後の錆の発生がなくなり、保存後の接触抵抗は低い値となった。しかしながら、表面硬度は従来例や比較例6の無電解Auメッキ(焼鈍あり)からの劇的な増加は見られなかった。これに対して、実施例1及び3では、350℃2時間の焼鈍処理を行ったので、耐食性はそのままに、表面硬度が大幅に増加していることが判明した。
【0041】
比較例3及び4、実施例2~4では、無電解Pd-Ni-Pメッキ合金のPd/Ni比率を変化させた。比較例4では表面硬度が増加しているものの、錆が発生するため、接触抵抗が大幅に増加している。また、比較例3(Pd-Pメッキ)では錆の発生はないものの、表面硬度は従来例や、比較例6の無電解Auメッキ(焼鈍あり)からの劇的な増加は見られなかった。これに対して、実施例2~4では、比較例3に比較して、耐食性はそのままに、表面硬度が大幅に増加していることが判明した。
【0042】
比較例4(Ni-Pメッキ)では、高い表面硬度が得られたが、高温多湿保存後に錆が発生した。しかし、実施例2~4では、PdとNiを両方含むメッキを使用するため、錆の発生がなく、表面硬度が高い値を示した。
【0043】
実施例5では、下地の電解Niメッキをせず、鋼板に直接無電解Pd-Ni-Pメッキを施した。この場合でも、錆の発生がなく、表面硬度は高い値を示した。
【0044】
比較例5では、電解Pd-Niメッキを施した。電解Pd-Niメッキでは錆の発生はないが、表面硬度は低く、さらにメッキ厚が厚くなるため、Pdの使用量が10倍以上増えて非常に高価になるため、無電解メッキの方が電極端子には望ましいといえる。
【0045】
以上のことから、実施例1~5では、無電解Pd-Ni-Pメッキを施した電極端子に焼鈍処理を行うことで、低い接触抵抗を維持しながら、耐食性及び表面硬度に優れた電極端子を得られることが判明した。
【0046】
電極端子のメッキ種に貴金属であるパラジウム(Pd)を用いることで、耐食性が向上し(錆びにくくなり)、高温多湿条件下でも接触抵抗が上がりにくくなる。さらに、メッキ方法を電解メッキ法ではなく、無電解メッキ法を採用することで、さらに耐食性の向上を図ることができる。尚、電解メッキ法では端子表面に析出するメッキ金属は柱状結晶となるため、その柱状結晶間には微細な隙間が生じ、その隙間から錆が発生することになる。これに対して、無電解メッキ法では、メッキ金属が端子面に沿って平行に析出するため、電解メッキ法のような隙間が生じず錆が発生しにくくなる。
【0047】
更に、下地に電解Niメッキを施しておくと、そのNiメッキが隙間を埋めることになるため、さらに耐食性の効果が高くなる。尚、下地メッキがなくても、耐食性につき、十分な効果が期待できることは言うまでもない。加えて、無電解メッキ法は上述した析出結晶の違いにより、耐摩耗性も向上することになる。
【0048】
また、電極端子のメッキ種は、パラジウム(Pd)のみではなく、Pd-Ni-Pの合金メッキを使用することで、高い耐食性を維持したまま、耐摩耗性を大幅に向上させることができる。その結果、乾電池1を機器へ挿入する際に、機器側の端子と擦れて乾電池1の電極端子に傷がつくと、そこから錆が発生して接触抵抗が増加して放電不良を招くことも考えられる。しかしながら、乾電池1の電極端子では耐摩耗性も高くなるため、低い接触抵抗を維持できる。
【0049】
乾電池1の電極端子表面に厚さ0.2μmの無電解Pd-Ni-P合金メッキを使用し、350℃で2時間の焼鈍処理を実行した場合に、耐食性及び耐摩耗性が良好となる。さらに、下地に電解Niメッキを施し、無電解Pd-Ni-P合金メッキのPd/Ni比率を40%にしたとき、最も高い効果が期待できる。
【0050】
(電極端子の部位の製造工程)
電池缶3の正極端子11表面に無電解メッキ法で無電解Pd‐Ni‐P合金メッキを施す。更に、正極端子11表面に無電解Pd‐Ni‐P合金メッキを形成した後、焼鈍処理を行うことで、電池缶3の正極端子11と無電解Pd‐Ni‐P合金の第1のメッキ層22Aとの間に第1の拡散層21Aを形成する。その結果、正極端子11の部位は、正極端子11と、正極端子11表面に形成された第1の拡散層21Aと、第1の拡散層21Aに形成された第1のメッキ層22Aとを有することになる。
【0051】
更に、負極端子12表面に無電解メッキ法で無電解Pd‐Ni‐P合金メッキを施す。更に、負極端子12表面に無電解Pd‐Ni‐P合金メッキを形成した後、焼鈍処理を行うことで、負極端子12と無電解Pd‐Ni‐P合金の第2のメッキ層22Bとの間に第2の拡散層21Bを形成する。その結果、負極端子12の部位は、負極端子12と、負極端子12表面に形成された第2の拡散層21Bと、第2の拡散層21Bに形成された第2のメッキ層22Bとを有することになる。
【0052】
(乾電池1の製造工程)
以上のように構成された乾電池1の製造工程について、工程順に説明する。
(1)例えば、電解二酸化マンガン、黒鉛、バインダー、水酸化カリウム溶液を用いて、正極材料5としての正極合剤を作り、正極合剤をリング状に成型する。
(2)亜鉛合金粉、電解液等を用いて、負極材料6としてのゲル状の負極合剤を作る。
(3)第1の拡散層21A及び第1のメッキ層22Aが形成された正極端子11を備えた電池缶3の内部に、リング状の正極合剤を収容する。
(4)電池缶3の端部にビーディング加工によってくびれ部3bを形成し、ガスケット部材8と電池缶3との接触面にシール剤を塗布する。
(5)電池缶3に収容した正極合剤の内側にセパレータ部材7を挿入する。
(6)セパレータ部材7に水酸化カリウム電解液を含浸させる。
(7)電池缶3に設けられたセパレータ部材7の内側に負極端子12側の開口3aからゲル状の負極合剤を注入する。
(8)ガスケット部材8、集電棒4、第2のメッキ層22B及び第2の拡散層21Bが形成された負極端子12を組み付けた集電体を作る。
(9)集電体を電池缶3の開口3aに組み付けて、電池缶3の開口3aに対して集電体のガスケット部材8をガスケット部材8の直径方向である横方向から加締めることで、ガスケット部材8で開口3aを封口する。
【0053】
(実施例の効果)
本実施例の乾電池1では、電池缶3の一端に配置された電極端子と、電極端子の表面に形成された拡散層21と、拡散層21の表面に形成された無電解Pd‐Ni‐P合金メッキ22とを有する。その結果、高温多湿状況下でも、低い接触抵抗を維持しながら、耐食性や耐摩耗性にも優れた電極端子を備えた乾電池1を提供できる。
【0054】
乾電池1では、例えば、正極端子11の表面に形成された第1の拡散層21Aと、第1の拡散層21Aの表面に形成された無電解Pd‐Ni‐P合金メッキの第1のメッキ層22Aとを有する。その結果、高温多湿状況下でも、低い接触抵抗を維持しながら、耐食性や耐摩耗性にも優れた正極端子11を備えた乾電池1を提供できる。
【0055】
乾電池1では、例えば、負極端子12の表面に形成された第2の拡散層21Bと、第2の拡散層21Bの表面に形成された無電解Pd‐Ni‐P合金メッキの第2のメッキ層22Bとを有する。その結果、高温多湿状況下でも、低い接触抵抗を維持しながら、耐食性や耐摩耗性にも優れた負極端子12を備えた乾電池1を提供できる。
【0056】
尚、説明の便宜上、アルカリ電池等の乾電池1を例示したが、アルカリ電池に限定されるものではなく、マンガン、リチウム等の乾電池に適用しても良く、適宜変更可能である。また、円筒状の乾電池1を例示したが、円筒状に限定されるものではなく、四角状の乾電池に適用しても良く、適宜変更可能である。