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特開2022-172935澱粉組成物、フライ食品用衣材およびフライ食品
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  • 特開-澱粉組成物、フライ食品用衣材およびフライ食品 図1
  • 特開-澱粉組成物、フライ食品用衣材およびフライ食品 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172935
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】澱粉組成物、フライ食品用衣材およびフライ食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20221110BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20221110BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20221110BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079297
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】591219566
【氏名又は名称】青葉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】石川 禎将
(72)【発明者】
【氏名】千葉 克則
【テーマコード(参考)】
4B025
4B035
4B036
【Fターム(参考)】
4B025LB06
4B025LD04
4B025LG28
4B035LC03
4B035LE05
4B035LG21
4B035LK14
4B035LP07
4B035LP27
4B036LC01
4B036LE03
4B036LF13
4B036LH12
4B036LP03
4B036LP13
(57)【要約】
【課題】クリスピーな食感に優れたフライ食品を製造可能な新規な澱粉組成物、フライ食品用衣材およびクリスピーな食感に優れた新規なフライ食品を提供する。
【解決手段】澱粉組成物が馬鈴薯澱粉と、α-1,6結合による分枝構造を有する糖類とを1~9:9~1の割合で含む。馬鈴薯澱粉は加工馬鈴薯澱粉から成ってもよい。前記糖類はイソマルトデキストリンまたはイソマルトオリゴ糖から成ることが好ましい。フライ食品用衣材は前述の澱粉組成物を含む。フライ食品は前述のフライ食品用衣材を付着させた具材を油調して成る。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
馬鈴薯澱粉と、α-1,6結合による分枝構造を有する糖類とを1~9:9~1の割合で含むことを特徴とする澱粉組成物。
【請求項2】
前記馬鈴薯澱粉は加工馬鈴薯澱粉から成ることを特徴とする請求項1記載の澱粉組成物。
【請求項3】
前記糖類はイソマルトデキストリンまたはイソマルトオリゴ糖から成ることを特徴とする請求項1または2記載の澱粉組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の澱粉組成物を含むことを特徴とするフライ食品用衣材。
【請求項5】
請求項4項記載のフライ食品用衣材を付着させた具材を油調して成ることを特徴とするフライ食品。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉組成物、フライ食品用衣材およびフライ食品に関する。
【背景技術】
【0002】
フライ食品には、一般にサクサク、カリカリまたはパリパリしたクリスピーな食感が求められる。サクサクした食感のフライ食品を製造する目的で、穀粉及び澱粉からなる群から選択される少なくとも1種、トランスグルタミナーゼならびに油脂を含有する、バッター組成物が開発されている(特許文献1参照)。また、ポテトチップスなどのスナック菓子の水抜け向上剤として、イソマルトデキストリンを有効成分とするものが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-36567号公報
【特許文献2】特開2018-201371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のバッター組成物では、穀粉やトランスグルタミナーゼ、油脂が必須であるという課題があった。また、特許文献2に記載の水抜け向上剤は、食用油を用いてクリスピーな食感のフライ食品を製造するためのものではなく、カリカリしたクリスピーな食感に乏しいという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、クリスピーな食感に優れたフライ食品を製造可能な新規な澱粉組成物、フライ食品用衣材およびクリスピーな食感に優れた新規なフライ食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る澱粉組成物は、馬鈴薯澱粉と、α-1,6結合による分枝構造を有する糖類とを1~9:9~1の割合で含むことを特徴とする。
前記馬鈴薯澱粉は加工馬鈴薯澱粉から成ってもよい。
前記糖類はイソマルトデキストリンまたはイソマルトオリゴ糖から成ることが好ましい。
【0007】
本発明に係る澱粉組成物は、そのまま、または加水したものを、油の存在下で加熱することで、吸油率が低く経時変化に強い、サクサク、カリカリまたはパリパリしたクリスピーな食感に優れた衣状のものが形成される。本発明に係る澱粉組成物は、フライ食品用パン粉と混合したフライ食品用衣材や、加水せずに具材に付着させて使用するブレッダー、バッターなどに有用である。また、本発明に係る澱粉組成物は、餃子の皮の経時的劣化を防止するための添加剤や、餃子の「羽根」の劣化防止剤として有効に機能する。
【0008】
本発明に係るフライ食品用衣材は、前述の澱粉組成物を含むことを特徴とする。フライ食品用衣材の材料としては、例えば、パン粉、小麦粉などの穀粉や、食塩、ぶどう糖などの調味料、着色料が挙げられる。
本発明に係るフライ食品は、前述のフライ食品用衣材を付着させた具材を油調して成ることを特徴とする。本発明において、「油調」には、油に具材を浸漬して揚げる調理のほか、油に具材を付着させて加熱する調理が含まれる。油は、サラダ油、パーム油、オリーブ油、その他いかなる食用油であってもよい。具材は、鳥獣肉、魚介類、野菜、その他いかなる食材であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クリスピーな食感に優れたフライ食品を製造可能な新規な澱粉組成物、フライ食品用衣材およびクリスピーな食感に優れた新規なフライ食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1のフライ食品であるトンカツのレンジアップ後の状態を比較例とともに示す状態写真である。
図2】本発明の実施例1のフライ食品であるトンカツの油調後の衣のマイクロスコープ画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各種の試験に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の澱粉組成物は、馬鈴薯澱粉と、α-1,6結合による分枝構造を有する糖類とを1~9:9~1の割合で含む。馬鈴薯澱粉は、加工馬鈴薯澱粉から成ってもよい。糖類は、イソマルトデキストリンまたはイソマルトオリゴ糖から成ることが好ましい。本発明の実施の形態のフライ食品用衣材は、前述の澱粉組成物を含む。本発明の実施の形態のフライ食品は、前述のフライ食品用衣材を付着させた具材を油調して成る。
【0012】
以下、本明細書において、数値は質量部を意味する。
〔試験〕
(1)各種澱粉とα-1,6結合による分枝構造を有する糖類とを組み合わせた際の効果検証
(A)試験方法
表1に示す各種澱粉(小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、米澱粉、甘藷澱粉)と、イソマルトデキストリン(ID)、イソマルトオリゴ糖(IO)と、各種澱粉と各糖類とを1:1の割合で混合した澱粉組成物とについて、それぞれ170℃の食用油で油調加熱を行った。その結果を表2に示す。表2において、衣が形成されたものを〇、ペースト状または溶解したものを×で示す。表2に示すように、衣が形成されたものは、馬鈴薯澱粉と、イソマルトデキストリン(ID)およびイソマルトオリゴ糖(IO)の一方または両方との組合せのみであった。
【0013】
【表1】
【0014】
(B)結果
【表2】
【0015】
(2)加工馬鈴薯澱粉とα-1,6結合による分枝構造を有する糖類とを組み合わせた際の効果検証
(A)試験方法
表3に示す馬鈴薯由来の加工澱粉(加工馬鈴薯澱粉)と、イソマルトデキストリン(ID)、イソマルトオリゴ糖(IO)と、各種澱粉と各糖類とを1:1の割合で混合した澱粉組成物とについて、それぞれ170℃の食用油で油調加熱を行った。その結果を表4に示す。表4において、衣が形成されたものを〇、ペースト状または溶解したものを×で示す。表4に示すように、衣が形成されたものは、加工馬鈴薯澱粉の種類にかかわらず、加工馬鈴薯澱粉とイソマルトデキストリン(ID)またはイソマルトオリゴ糖(IO)との組合せであった。
【0016】
【表3】
【0017】
(B)結果
【表4】
【0018】
(3)馬鈴薯澱粉とα-1,6結合による分枝構造を有する糖類との配合割合と、形成される衣との関係についての検討
(A)試験方法
馬鈴薯澱粉とイソマルトデキストリン(ID)とを表5に示す割合で混合した澱粉組成物について170℃の食用油で油調加熱を行った。その結果を表6に示す。表6において、クリスピーな衣が形成されたものを◎、衣が形成されたものを〇、ペースト状または溶解したものを×で示す。表6に示すように、馬鈴薯澱粉とイソマルトデキストリン(ID)とを1~9:9~1の割合で含むものでは衣が形成され、特に5~7:3~5の割合で含むものではクリスピーな衣が形成された。
【0019】
【表5】
【0020】
(B)結果
【表6】
【0021】
(4)馬鈴薯澱粉とα-1,6結合による分枝構造を有する糖類との配合割合と、吸油率との関係についての検討
(A)試験方法
馬鈴薯澱粉とイソマルトデキストリン(ID)とを表7に示す割合で混合した澱粉組成物を準備した。その澱粉組成物と生パン粉とを、澱粉組成物:生パン粉=0~10:10~0の割合で混合したフライ食品用衣材を作製し、170℃の油で油調加熱を2分間行った。その時の吸油率について比較を行った。また、衣の食感についても評価を行った。吸油率は、以下の式で求めた。
吸油率=油調後フライ食品用衣材重量/油調前フライ食品用衣材重量×100
その結果を表8に示す。表8において、とてもサクサクしている衣を◎、サクサクしている衣を〇、通常の衣を△で示す。表8に示すように、馬鈴薯澱粉とイソマルトデキストリン(ID)とを4~6:6~4の割合で含むものでは、馬鈴薯澱粉のみを含むもの、イソマルトデキストリン(ID)のみを含むもの、その両方を含まないものに比べて、吸油率が低かった。また、とてもサクサクと乾燥している衣であった。
【0022】
【表7】
【0023】
(B)結果
【表8】
【実施例0024】
トンカツ
表9に示す配合で事前に混合したフライ食品用衣材を準備した。澱粉組成物は、馬鈴薯澱粉:イソマルトデキストリン(ID)=7:3の割合で混合したものを用いた。豚肩ロース肉を1.5cm厚にスライスし、打ち粉、バッター、準備したフライ食品用衣材の順に衣付けを行った。衣付けした肉を170℃(中心温度80℃以上)で油調し、トンカツを作製した。
そのトンカツを放冷後、食感を確認した。さらに、油調から6時間後(6h後)の食感の確認も行った。また、放冷後に冷凍し、自然解凍後またはレンジアップ後の食感確認も行った。その食感の結果を表10に示す。表10において、衣がとてもサクサクしているものを◎、サクサクしているものを〇、サクサクしていないものを×で示す。また、レンジアップ後の状態を図1に示す。油調後の衣のマイクロスコープ画像を図2に示す。
【0025】
図1に示すように、試験区2(実施例)は澱粉組成物を含まない試験区1(比較例)に比べて、衣が立っており、試験区3はさらに衣が立っていた。また、図2に示すように、試験区1(比較例)では衣が油で濡れた状態であるのに対し、試験区2(実施例)の衣は乾燥しており、試験区3(実施例)の衣はさらにクリスピーな状態であった。
【0026】
【表9】
【0027】
【表10】
【実施例0028】
フライドポテト
具材原料(キタアカリ)を、フライドポテトにするために短冊状にカットし、90℃、10分間のブランチング処理を行った。ブランチング処理後、液切りし放冷した。放冷後、表11に示す配合に従って混合し170℃で1分30秒間、油調を行った。澱粉組成物は、馬鈴薯澱粉:イソマルトデキストリン(ID)=7:3の割合で混合したものを用いた。油調後、放冷し凍結保管した。凍結されたものを170℃、2分間、油調後、食感確認を行った。また、油調から3時間後(3h後)の食感確認も行った。その食感の結果を表12に示す。表12において、衣がとてもカリカリしているものを◎、カリカリしているものを〇、カリカリしていないものを×で示す。
【0029】
【表11】
【0030】
【表12】
【実施例0031】
餃子の羽根
表13の配合にて溶液を作製した。澱粉組成物は、馬鈴薯澱粉:イソマルトデキストリン(ID)=7:3の割合で混合したものを用いた。餃子焼成の際に、フライパンに溶液をひき、餃子を並べ、火にかけた。蓋をして中火で5~6分間後、蓋を取り、焼き色がつくまで焼成した。焼成した直後と6時間後(6h後)に、食感確認を行った。その食感の結果を表14に示す。表14において、衣がとてもパリパリしているものを◎、パリパリしているものを〇、パリパリしていないものを×で示す。
【0032】
【表13】
【0033】
【表14】
【実施例0034】
フライドチキン(ブレッダー)
バッター液(商品名「バッターミックスT-123」、昭和産業(株)製)を調整し、カットした具材原料の鶏モモ肉をバッター液にくぐらせた。次に表15に示すブレッダー粉を具材原料に対し10~20%の量で塗し、170℃、2~3分間、油調を行った。澱粉組成物は、馬鈴薯澱粉:イソマルトデキストリン(ID)=7:3の割合で混合したものを用いた。油調後、放冷し、食感確認を行った。6時間後(6h後)の経時変化の食感も確認した。また、放冷後に凍結し、自然解凍またはレンジアップ後の食感確認も行った。その食感の結果を表16に示す。表16において、衣がとてもサクサクしているものを◎、サクサクしているものを〇、サクサクしていないものを×で示す。表16に示すように、澱粉組成物を用いたものでは、油調から6時間後でも衣がサクサクしており、凍結後、自然解凍した場合やレンジアップした場合にも衣がサクサクと乾燥していた。
【0035】
【表15】
【0036】
【表16】
【実施例0037】
天ぷら(エビ)
表17の配合にて溶液を調整した。澱粉組成物は、馬鈴薯澱粉:イソマルトデキストリン(ID)=7:3の割合で混合したものを用いた。背ワタ・殻を取り除いた具材原料のエビを、調整した溶液にくぐらせた後、170℃、3~4分間、油調を行った。油調後に放冷し食感確認を行った。6時間後(6h後)の経時変化の食感も確認した。また、放冷後に凍結し、自然解凍またはレンジアップ後の食感確認も行った。その食感の結果を表18に示す。表18において、衣がとてもサクサクしているものを◎、サクサクしているものを〇、通常の衣を△、サクサクしていないものを×で示す。
【0038】
【表17】
【0039】
【表18】
図1
図2