IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立工機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-打撃工具 図1
  • 特開-打撃工具 図2
  • 特開-打撃工具 図3
  • 特開-打撃工具 図4
  • 特開-打撃工具 図5
  • 特開-打撃工具 図6
  • 特開-打撃工具 図7
  • 特開-打撃工具 図8
  • 特開-打撃工具 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172946
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】打撃工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
B25B21/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079310
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 悟史
(72)【発明者】
【氏名】豊田 慎也
(57)【要約】      (修正有)
【課題】打撃を正確に検出することが可能な打撃工具を提供する。
【解決手段】モータ3と、モータによって回転されるスピンドル6と、スピンドルに対して軸方向及び回転方向に相対的に移動可能なハンマ7と、ハンマの前方に設けられハンマによって打撃されるアンビル8と、モータの起動及び停止を指示するとともに、操作量に応じてモータの回転数の変更を指示するトリガスイッチ9と、モータの回転を制御する制御部と、を備え、制御部は、モータに流れる電流が電流閾値以上で、且つ、トリガスイッチの操作量の変化率が変化率閾値以下となる条件を満足した場合に、モータを停止するよう構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、 前記モータによって回転されるスピンドルと、 前記モータの起動及び停止を指示するとともに、操作量に応じて前記モータの回転数の変更を指示するトリガスイッチと、 前記モータに流れる電流を検出する電流検出部と、 前記モータの回転を制御する制御部と、 を備えた打撃工具であって、 前記制御部は、前記モータに流れる電流が電流閾値以上で、且つ、前記トリガスイッチの操作量の変化率が変化率閾値以下となる条件を満足した場合に、前記モータを停止するよう構成される、ことを特徴とする打撃工具。
【請求項2】
モータと、 前記モータによって回転されるスピンドルと、 前記モータの起動及び停止を指示するとともに、操作量に応じて前記モータの回転数の変更を指示するトリガスイッチと、 前記モータの回転数を検出する回転数検出部と、 前記モータの回転を制御する制御部と、 を備えた打撃工具であって、 前記制御部は、前記モータの回転数が回転数閾値以下で、且つ、前記トリガスイッチの操作量の変化率が変化率閾値以下となる条件を満足した場合に、前記モータを停止するよう構成される、ことを特徴とする打撃工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の打撃工具であって、 前記制御部は、前記トリガスイッチの操作量にかかわらず、前記条件を満足すると前記モータを停止するよう構成される、ことを特徴とする打撃工具。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の打撃工具であって、 前記制御部は、前記条件を満足してから所定時間経過後に前記モータを停止するよう構成される、ことを特徴とする打撃工具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の打撃工具であって、 前記スピンドルに対して軸方向及び回転方向に相対的に移動可能なハンマと、 前記ハンマの前方に設けられ前記ハンマによって打撃されるアンビルと、 を備え、 前記制御部は、前記条件を満足してから前記ハンマと前記アンビルの打撃が複数回行われた後に前記モータを停止するよう構成される、ことを特徴とする打撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
打撃工具は、ハンマによってアンビルを打撃することによって締結部材を締め付ける。特許文献1に記載されている打撃工具は、ハンマがアンビルを所定回数打撃したことを検出したらモータを停止することで、締結部材の締め過ぎを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-067910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、打撃衝撃検出センサを用いて打撃を検出しているため部品点数が増えコスト高となってしまう。そこで、打撃衝撃検出センサを用いずに、モータに流れる電流に基づいて打撃を検出することも考えられる。しかしながら、単純な電流に基づく打撃検出では次のような問題が生じる。
【0005】
すなわち、打撃工具はモータを起動するために作業者によって操作されるトリガを有する。トリガを最大操作量より小さい所定量だけ操作して(引いて)モータを駆動させた後にトリガを所定量から更に操作した(引いた)場合、モータには2回の起動電流が流れる。そのため、2回目の起動電流を打撃による電流と誤検出してしまう虞がある。
【0006】
本発明の目的は、打撃を正確に検出することが可能な打撃工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、モータと、モータによって回転されるスピンドルと、スピンドルに対して軸方向及び回転方向に相対的に移動可能なハンマと、ハンマの前方に設けられハンマによって打撃されるアンビルと、モータの起動及び停止を指示するとともに、操作量に応じてモータの回転数の変更を指示するトリガスイッチと、モータの回転を制御する制御部と、を備えた打撃工具であって、制御部は、モータに流れる電流が電流閾値以上で、且つ、トリガスイッチの操作量の変化率が変化率閾値以下となる条件を満足した場合に、モータを停止するよう構成される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、打撃を正確に検出することが可能な打撃工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る打撃工具の側断面図。
図2】本発明の実施の形態に係る打撃工具の回路ブロック図。
図3】本発明の実施の形態に係る第1の波形図。
図4】本発明の実施の形態に係る第2の波形図。
図5】本発明の実施の形態に係る第3の波形図。
図6】本発明の実施の形態に係る第4の波形図。
図7】本発明の実施の形態に係る第5の波形図。
図8】本発明の実施の形態に係る第6の波形図。
図9】本発明の実施の形態に係る制御フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示である。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
本実施の形態は、打撃工具1に関する。まず打撃工具1の構成を、図1及び図2を用いて説明する。図1により、打撃工具1における互いに直交する前後、上下の各方向を定義する。前後方向は、モータ3の出力軸3aの中心軸と略平行な方向である。打撃工具1は、電動工具であり、具体的には、コードレスタイプのインパクトレンチである。打撃工具1は、ハウジング2を有する。ハウジング2は、胴体部(筒状部)2aと、ハンドル部2bと、電池パック装着部2cと、を含む。胴体部2aは、筒形状であり、その中心軸は前後方向と平行である。胴体部2aの中間部から、ハンドル部2bが下方に延びる。ハンドル部2bの下端部に、電池パック装着部2cが設けられる。胴体部2a、ハンドル部2b、及び電池パック装着部2cにより打撃工具本体が形成される。
【0012】
胴体部2a内に、後方から順に、センサ・インバータ回路基板12、モータ3(ロータ及びステータ)、及び回転打撃機構4が設けられる。センサ・インバータ回路基板12は、前後方向と略垂直となるように胴体部2aに支持される。具体的には、モータ3のステータに固定された絶縁部材にねじ止めされている。モータ3の出力軸3aは、センサ・インバータ回路基板12の略中央部分に形成された貫通孔を貫通して後方に延びる。モータ3は、ここではインナーロータ型のブラシレスモータである。回転打撃機構4は、モータ3の回転により先端工具11を回転打撃する。回転打撃機構4は、後方から順に、遊星歯車機構(減速機構)5、スピンドル6、ハンマ7、及びアンビル8を有する。遊星歯車機構5は、モータ3の回転を減速し、スピンドル6に伝達する。ハンマ7は、スピンドル6に対して前後方向(軸方向)に移動可能でスピンドル6と共に又はスピンドル6に対して相対的に回転可能であり、ハンマ7の前方に設けられたアンビル8を回転ないし回転打撃する。ハンマ7はスプリングによってアンビル8側(前方)に付勢されている。アンビル8には、ソケット等の先端工具11が取り付けられる。
【0013】
ハンドル部2bの上端前部に、トリガスイッチ9が設けられる。トリガスイッチ9は、作業者がモータ3の駆動及び停止を指示する(切り替える)ための操作部である。トリガスイッチ9の操作量を変更すればモータ3の回転数を変更することができる。電池パック装着部2cには、電池パック20が接続される。打撃工具1は、電池パック20の電力で駆動する。電池パック装着部2c内の上部に、制御基板10が設けられる。電池パック装着部2cの上面には、操作パネル30が設けられる。操作パネル30は、打撃工具1の駆動モードを連続モードとオートストップモードとの間で切り替え可能な操作部である。
【0014】
連続モードは、トリガスイッチ9が引かれている(オン操作されている)限りモータ3を駆動し続けるモードである。オートストップモードは、ハンマ7によるアンビル8(先端工具11)への打撃開始(以下「打撃開始」)から所定時間が経過した場合、或いは、ハンマ7によるアンビル8への打撃を所定回数行った場合等、打撃を検出するとトリガスイッチ9が引かれていてもモータ3を停止するモードである。なお、所定回数は1回でもよいし2回以上でもよい。
【0015】
操作パネル30には設定切替スイッチ31、オートストップ切替スイッチ32、及び表示部37が設けられている。
【0016】
設定切替スイッチ31は、例えばタクタイルスイッチであり、連続モードではモータ3のパワー又は回転数を切り替えるスイッチとして機能し、オートストップモードではオートストップの設定(条件)を切り替えるスイッチとして機能する。設定切替スイッチ31が押される度に、モータ3のパワー又はオートストップの設定が切り替わる。
【0017】
オートストップ切替スイッチ32は、例えばタクタイルスイッチであり、オートストップモードの有効/無効を切り替えるスイッチである。オートストップ切替スイッチ32が押される度に、打撃工具1の駆動モードが連続モードとオートストップモードとの間で切り替わる。
【0018】
表示部37は、オートストップ機能の有効/無効を表示する表示LEDを有しており、オートストップモードのときに例えば赤色に点灯し、連続モードのときに消灯する。更に表示部37は、パワー又は設定を表示する表示LEDを有し、連続モードではモータ3のパワーを表示するパワー表示部として機能し、オートストップモードではオートストップの設定を表示する設定表示部として機能する。パワー又は設定表示LEDの点灯色は、例えば赤色である。パワー又は設定表示LEDの数は、モータ3のパワーの段階数やオートストップモードの設定の数に応じて任意の変更できる。
【0019】
図2は、打撃工具1の回路ブロック図である。打撃工具1において、センサ・インバータ回路基板12に設けられたスイッチング素子Q1~Q6は、三相ブリッジ接続され、インバータ回路を構成する。スイッチング素子Q1~Q6は、演算部40の制御に従ってスイッチング動作し、モータ3に駆動電力を供給する。センサ・インバータ回路基板12に設けられた磁気センサ13は、モータ3(ロータ)の回転位置検出用であり、モータ3の回転位置に応じた電気信号を回転位置検出回路44に送信する。制御基板10には、制御部としての演算部40、電流検出回路41、スイッチ操作検出回路42、制御信号回路(制御信号出力回路)43、回転位置検出回路44、回転数検出回路45、及び記憶部46が設けられる。
【0020】
電流検出回路41は、モータ3の電流経路に設けられた抵抗Rの電圧により、モータ3の電流を検出し、演算部40に送信する。スイッチ操作検出回路42は、トリガスイッチ9の操作及びトリガスイッチ9の操作量を検出し、演算部40に送信する。制御信号回路43は、演算部40の制御に従い、スイッチング素子Q1~Q6の各制御端子に制御信号(例えばPWM信号)を印加する。回転位置検出回路44は、磁気センサ13からの信号によりモータ3の回転位置を検出し、演算部40に送信する。回転数検出回路45は、回転位置検出回路44からの信号によりモータ3の回転数を検出し、演算部40に送信する。
【0021】
記憶部46は、自身に電源が供給されない状況でも記憶された情報を保持できる不揮発性メモリで構成される。記憶部46は、打撃工具1の固有情報や打撃工具1の使用履歴情報、オートストップモードの各設定の設定値等を記憶する。記憶部46は、演算部40と別体であってもよいし、演算部40に内蔵されてもよい。演算部40は、マイクロコントローラ等を含み、作業者によって選択された駆動モードで動作する。演算部40は、駆動モードにおいて、トリガスイッチ9の操作、モータ3の回転位置及び回転数、及びモータ3の電流に応じて、制御信号回路43を介してスイッチング素子Q1~Q6のオンオフを制御(例えばPWM制御)し、モータ3の駆動(出力)を制御する。また、演算部40は、各駆動モードにおいて、表示部37による表示を制御する。
【0022】
電池パック20は、電池セル組21と、演算部22と、記憶部23と、残量表示部26と、を有する。電池セル組21は、リチウムイオン二次電池セル等の複数の電池セルを互いに接続したものである。複数の電池セルの直列接続数及び並列接続数は任意である。演算部22は、マイクロコントローラ等を含み、打撃工具1の演算部40と通信端子を介して通信(有線通信)すると共に、残量表示部26を制御する。記憶部23は、電池パック20の固有情報、例えば形名、製造番号、履歴情報等を記憶する。残量表示部26は、電池セル組21の残容量を表示する。残量表示部26は、複数のLEDと、作業者が操作するための残量スイッチと、を有している。作業者が残量スイッチを操作すると、電池セル組21の残容量(残電圧)に応じた数のLEDが所定時間点灯する。なお、電池セル組21は、接続される打撃工具1等の電気機器本体の定格電圧に応じて、電池パック20を電気機器本体に接続することで
、複数の電池セルの直列接続と並列接続が自動的に切り替わる。本実施の形態では、複数の電池セルが電気機器本体の接続端子を介して直列接続される。
【0023】
演算部40は、連続モードにおいて、モータ3のパワーが最強(パワー4)以外のときに設定切替スイッチ31の押下を検出すると、モータ3のパワーを一段階上げる。演算部40は、連続モードにおいて、モータ3のパワーが最強のときに設定切替スイッチ31の押下を検出すると、モータ3のパワーを最弱(パワー1)とする。なお、モータ3のパワーの段階数は任意である。
【0024】
演算部40は、オートストップモードにおいて、設定切替スイッチ31の押下を検出すると、オートストップの設定を切り替える。例えば、オートストップの設定は設定1~4の4種類である。例えば設定1はハンマ7によるアンビル8の打撃の検出から第1の所定時間、例えば0.5秒経過後にモータ3を停止する。設定2はハンマ7によるアンビル8の打撃の検出から第1の所定時間よりも長い第2の所定時間、例えば1.0秒経過後にモータ3を停止する。設定3はハンマ7によるアンビル8の打撃の検出から第3の所定時間、例えば1.5秒経過後にモータ3を停止する。設定4はハンマ7によるアンビル8の打撃の検出から第3の所定時間、例えば2.0秒経過後にモータ3を停止する。打撃は1回でも良いし、2回以上の複数回でも良く、最初の打撃の発生(検出)から所定時間経過後にモータ3を停止すれば良い。また、所定時間ではなく、打撃数に基づいてモータ3を停止しても良い。打撃回数、打撃発生(打撃検出)からモータ3の停止までの時間の設定は任意でありこれに限定されるものではない。
【0025】
また、演算部40は、連続モードにおいてオートストップ切替スイッチ32の短押しを検出するとオートストップモードに遷移し、オートストップモードにおいてオートストップ切替スイッチ32の短押しを検出すると連続モードに遷移する。
【0026】
次に、打撃工具1の制御、特に、打撃した後に自動的にモータ3を停止するオートストップモード(単発モード)の制御について図3図9を用いて説明する。演算部40は、電流検出回路41からの情報と、スイッチ操作検出回路42からの情報と、の両情報に基づいて、ハンマ7によるアンビル8の打撃を検出する。この2つの情報により、モータ3の駆動中の誤検出を抑制することができ、正確な打撃検知を行うことができる。オートストップモードにおいては、打撃検知後、設定切替スイッチ31で設定された条件にてモータ3を停止する。
【0027】
図3図5は、トリガスイッチ9を所定量だけ操作してモータ3を駆動させた後に再びトリガスイッチ9を操作した状態における、上から順に、モータ3に流れる電流、トリガスイッチ9の操作量(引き量、Tr1、Tr2、Tr3及び実線で示す)及びトリガスイッチ9の操作量の変化率(ΔT1、ΔT2及び一点鎖線で示す)、スイッチング素子Q1~Q6のPWM信号のデューティ、及び、モータ3の回転数を示している。横軸は時間、縦軸はそれぞれ、電流値、トリガスイッチの操作量(引き量)及びトリガスイッチの操作量の変化率、デューティ、モータ3の回転数を示している。
【0028】
図3は、トリガスイッチ9の操作量(引き量)が小さい第1の状態(例えば、操作量の4分の1程度)から、操作量を最大にした第2の状態へ変更した状態を示す。時刻t0において、作業者がトリガスイッチ9を少しだけ操作して初期状態Tr1とすると、トリガスイッチ9の操作量に応じたデューティD1によりモータ3が回転数N1で回転する(時刻t1まで)。モータ3は止まった状態から回転し始めるため、時刻t0でトリガスイッチ9が操作されると起動電流が流れる。起動電流は打撃検知閾値より大きい値となるが、トリガスイッチ9の最初の操作から所定時間はこの起動電流を無視する。これにより、起動電流を打撃による電流と誤検出することなくモータ3の回転が継続される。
【0029】
その後、時刻t1において、作業者がトリガスイッチ9を初期状態Tr1から更に操作すると(操作量Tr3)、トリガスイッチ9の操作に伴ってデューティと回転数が上昇する。そのとき、モータ3には低速回転から高速回転になるため、時刻t0と同様、起動電流が流れる。この起動電流もトリガスイッチ9が操作量Tr2となる時刻t2で打撃検知閾値を超える。そのため、モータ3に流れる電流のみに基づいて打撃を検出する構成では、この2回目の起動電流を打撃による電流と誤検出してしまう虞がある。
【0030】
そこで本発明は、この電流に加え、トリガスイッチ9の操作量(引き量)の変化率を演算部40で算出し、電流が打撃検知閾値以上、且つ、トリガスイッチ9の操作量の変化率が閾値(ΔT)以下、の2つの条件を満たす場合にハンマ7によるアンビル8の打撃と判断するように構成した。
【0031】
図3において、時刻t2で電流が打撃検知閾値以上となるが、トリガスイッチ9の操作量の変化率ΔT2が閾値ΔTより大きいため、打撃とは検知されない。すなわち、演算部40は、時刻t2での電流の増加は、トリガスイッチ9が大きく操作されたことに起因するものと判断して打撃と判断しない。
【0032】
時刻t2で2回目の起動電流が流れた後は、トリガスイッチ9の操作量が最大の状態Tr3であり、モータ3の回転数が最大回転数N3になる。そのときのデューティも最大デューティD3となり、電流も時刻t1までの電流より大きい値となる。
【0033】
時刻t3までは、ハンマ7とアンビル8が一体的に回転して締結材(例えばボルト)を締め付ける。時刻t3において、ボルトが締め付けられ、アンビル8の回転が阻止されるとハンマ7がスプリングの付勢力に抗してアンビル8に対して後退する。それにより、時刻t3から時刻t5にわたり、モータ3の回転数がN4から徐々に低下すると共に電流も上昇する。時刻t5でハンマ7の爪がアンビル8の爪を乗り越えると、ハンマ7はスプリングにより付勢されて前方に移動しながら回転し、モータ3の回転数がN4からN3に再度上昇すると共に電流が下降し、時刻t6でハンマ7(の爪)がアンビル8(の爪)を打撃する。打撃の動作に移行する時刻t4において、電流が打撃検知閾値以上となり、且つ、トリガスイッチ9の操作量は最大の状態であるためトリガスイッチ9の操作量の変化率はゼロ、すなわち、トリガスイッチ9の操作量の変化量の閾値ΔT以下となる。従って、演算部40は、時刻t4で打撃(打撃開始)と判断する。
【0034】
最初の打撃検知後、複数回の打撃を行うが、詳細な波形は省略している。なお、最初の打撃が最も電流値が大きくなりそれ以降の打撃は図のように電流のピークが発生しないような電流となり、時刻t3までの電流より大きな電流となる場合もある。演算部40は、最初の打撃検知後、打撃検知時刻t4から予め設定された所定時間経過した時刻t7で自動的にモータ3を停止する。これにより、正確に打撃を検出することができる。オートストップモードにおいては、ボルト等の締め過ぎや締め不足を防止することができる。
【0035】
オートストップモードに設定された場合の打撃検知動作を図9のフローチャートを用いて説明する。演算部40により実行される。演算部40が起動すると、打撃検出制御フローの打撃検出処理を実行する(S100)。演算部40は作業者によってトリガスイッチ9が操作されたか否かを判断し(S101)、操作されない場合(S101のNO)はS100に戻る。トリガスイッチ9が操作された場合(S101のYES)、モータ3の起動に伴いモータ3に起動電流が流れる。そのため、演算部40は、この起動電流を打撃による電流と誤検出しないよう、トリガスイッチ9の操作から所定時間(例えば200ミリ秒)の間は電流検出回路41からの信号を処理せず、電流を検出しない(S102)。
【0036】
その後、電流検出回路41からの信号に基づいて、電流が打撃検知閾値以上となったか否かを判断する(S103)。電流が打撃検知閾値以上の場合(S103のYES)、トリガスイッチ9の操作量の変化率が閾値以下か否かを判断する(S104)。トリガスイッチ9の操作量の変化率が閾値以下の場合(S104のYES)、演算部40はハンマ7とアンビル8の打撃が発生したと判断し、オートストップモード制御フローに進む。一方、S103でNOの場合、S104でNOの場合にはS103に戻る。
【0037】
オートストップ制御フローにおいて、演算部40は、打撃工具1の駆動前に設定切替スイッチ31によって設定されたオートストップの設定条件を、例えば記憶部46から読み出して設定する(S105)。そして、S105で設定した条件を満たすか否かを判別する。例えば、最初の打撃を検出してから所定時間となる設定時間1.0秒が経過したか否かを判別する(S106)。設定時間を経過していなければ(S106のNO)、S106を繰り返す。設定時間を経過していれば(S106のYES)、モータ3を停止し(S107)、オートストップの処理を終了する(S108)。
【0038】
図4は、図3と同様の波形を示しており、トリガスイッチ9の最初の操作量が図3より大きく操作量の半分程度を操作した第1の状態から、操作量を最大にした第2の状態に変更した場合である。この場合も図3と同様、時刻t1でトリガスイッチ9を再操作すると、モータ3に起動電流が流れるが、トリガスイッチ9の操作量の変化率が閾値ΔTを超えるため、打撃による電流とは判断しない。時刻t3以降は図3と同様である。
【0039】
図5は、トリガスイッチ9の最初の操作量が図4よりも大きく操作量の4分の3程度を操作した第1の状態から、操作量を最大にした第2の状態に変更した場合である。モータ3はトリガスイッチ9が第1の状態において既に最大回転数N3に近い回転数N1で回転しているため、時刻t1でトリガスイッチ9を第2の状態に変更しても、モータ3に起動電流が流れるものの、打撃検知閾値未満となる。更に、トリガスイッチ9の操作量の変化率も閾値ΔT未満となる。そのため、2回目のトリガスイッチ9の操作による起動電流は無視される。時刻t3以降は図3及び図4と同様である。
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、打撃の検知を、モータ3に流れる電流のみではなく、当該電流に加え、トリガスイッチ9の操作量の変化率に基づいて打撃を検知している。そのため、モータ3の駆動中のトリガスイッチ9の再操作を打撃と誤検出することがなく、正確に打撃を検出することができる。
【0041】
トリガスイッチ9の操作量の変化率を検出することで、トリガスイッチ9が最大操作量より小さい最初の操作量(第1の状態)のままモータ3を駆動した場合でも、打撃を検出することが可能となる。モータ3の電流の検出に加え、トリガスイッチ9の操作量を検出することも考えられる。例えば、操作量が所定値以上の場合でモータ3の電流が閾値以上の場合に打撃を検出する場合である。しかしながら、この場合では操作量が小さい場合、例えば図3の場合には、操作量が所定値以上の条件を満たすことができず、打撃を検出できない。一方、トリガスイッチ9の操作量が所定値以下の場合でモータ3の電流が閾値以上の場合に打撃を検出する場合も考えられるが、今度は逆に、図5の場合やトリガスイッチ9の操作量を最大にした場合には打撃を検出することができない。そのため、トリガスイッチ9の操作量の変化率を検出することでトリガスイッチ9の操作量の大小にかかわらず正確に打撃を検出することができる。
【0042】
図6図8はトリガスイッチ9の操作量が異なる3つの状態の場合の打撃検出の波形である。図6はトリガスイッチ9の操作量Tr1が小さい(例えば最大操作量の4分の1)場合である。時刻t0でトリガスイッチ9を操作すると起動電流が流れてモータ3が駆動し始め、デューティD1、回転数N1でモータ3が回転する。なお起動電流はトリガスイッチ9の最初の操作又はモータ3の起動から所定時間は検出しない(無視する)。時刻t1において、ボルトが締め付けられ、アンビル8の回転が
阻止されるとアンビル8に対してハンマ7が後退する。それにより、時刻t1から時刻t3にわたり、モータ3の回転数がN1からN2に徐々に低下すると共に電流も上昇する。時刻t3でハンマ7の爪がアンビル8の爪を乗り越えると、モータ3の回転数がN2からN1に再度上昇すると共に電流が下降し、時刻t4でハンマ7(の爪)がアンビル8(の爪)を打撃する。打撃の動作に移行する時刻t2において、電流が打撃検知閾値以上となり、且つ、トリガスイッチ9の操作量は当初のTr1から変化していないトリガスイッチ9の操作量の変化率はゼロ、すなわち、トリガスイッチ9の操作量の変化量の閾値ΔT以下となる。従って、演算部40は、時刻t4で打撃(打撃開始)と判断する。最初の打撃検知後の動作は、図3~5と同様である。
【0043】
図7はトリガスイッチ9の操作量Tr1が中程度(例えば最大操作量の半分)の場合、図8はトリガスイッチ9の操作量Tr1が大きい(例えば最大操作量)の場合である。これらの場合も図6と同様、モータ3が起動した後はトリガスイッチ9の操作量は変更されないため、トリガスイッチ9の操作量の変化率はゼロとなり、図6と同様、モータ3の電流が打撃検知閾値以上となれば、演算部40は打撃と判断する。
【0044】
図6図8の場合も、図9のフローチャートに従って打撃検知、オートストップ制御が実行される。この場合、S104は常にYESとなるため、S103でモータ3の電流が打撃検知閾値以上となれば(S103のYES)、オートストップ制御フローに進むことになる。従って、モータ3の電流と、トリガスイッチ9の操作量の変化率と、の2つの条件を用いることで、トリガスイッチ9の操作量の大小にかかわらず正確に打撃を検知することができる。
【0045】
本実施の形態では打撃工具としてインパクトレンチを例に説明したが、インパクトドライバ、ハンマドリル等、打撃によって先端工具を駆動する機器に適用可能である。また、電流ではなく回転数の変化に基づいても良い。回転数の場合、打撃が発生する際にはこれまでの回転数より低下するため、低下した回転数が回転数閾値以下で且つトリガスイッチの操作量の変化率が閾値以下の条件を満たした際に打撃と判別しても良い。図9のS103において電流に代えて回転数に基づいて打撃を検出すれば良い。
【符号の説明】
【0046】
1…打撃工具、2…ハウジング、3…モータ、4…回転打撃機構、5…減速機構、6…スピンドル、7…ハンマ、9…トリガスイッチ、10…制御基板。11…先端工具、12…センサ・インバータ回路基板、13…磁気センサ、20…電池パック、21…電池セル組、22…演算部、23…記憶部、26…残量表示部、30…操作パネル、31…設定切替スイッチ、32…オートストップ切替スイッチ、37…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9