(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172974
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】無人飛行体のエンジン装置
(51)【国際特許分類】
F01B 1/08 20060101AFI20221110BHJP
F02B 75/18 20060101ALI20221110BHJP
F01B 1/10 20060101ALI20221110BHJP
F01L 1/02 20060101ALI20221110BHJP
F01N 13/08 20100101ALI20221110BHJP
F16D 47/04 20060101ALI20221110BHJP
F16D 41/12 20060101ALI20221110BHJP
F16D 43/04 20060101ALI20221110BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20221110BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F01B1/08
F02B75/18 J
F01B1/10
F01L1/02 B
F01N13/08 Z
F16D47/04
F16D41/12
F16D43/04
B64C39/02
B64C27/08
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079355
(22)【出願日】2021-05-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】521197184
【氏名又は名称】アラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒瀬 国男
【テーマコード(参考)】
3G004
3G016
3J068
【Fターム(参考)】
3G004DA01
3G016AA11
3G016AA19
3G016BA20
3G016BA22
3G016CA42
3G016CA43
3G016GA00
3J068AA01
3J068AA05
(57)【要約】
【課題】機体の重量バランスが良く、ジャイロ効果が相殺でき、プロペラのオートローテーションが可能な無人飛行体のエンジン装置を提供する。
【解決手段】左右方向に対向して配置され、シリンダ内のピストンが互いに逆向きに進退する第1気筒及び第2気筒と、上下方向に配置され、第1気筒と第2気筒によってそれぞれ駆動され互いに逆向きに回転する第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトと、互いに逆向きに回転する第1遠心クラッチ及び第2遠心クラッチと、プロペラシャフトを回転させる直交変換ギアからなるギア機構に回転力を伝達するファイナルドライブシャフトと、第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトとファイナルドライブシャフトの間に配置され、第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトの両方で駆動されるワンウェイクラッチと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向の軸線上に対向して水平に配置され、シリンダ内のピストンが互いに逆向きに進退する第1気筒及び第2気筒と、
前記軸線と直交する上下方向に配置され、前記第1気筒と前記第2気筒のそれぞれによって駆動され互いに逆向きに回転する第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトと、
前記第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトの上方に配置され、互いに逆向きに回転する第1遠心クラッチ及び第2遠心クラッチと、
プロペラシャフトを回転させる直交変換ギアからなるギア機構に回転力を伝達するファイナルドライブシャフトと、
前記第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトと前記ファイナルドライブシャフトの間に配置され、前記第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトの両方で駆動されるワンウェイクラッチと、
が備えられることを特徴とする無人飛行体のエンジン装置。
【請求項2】
前記第1気筒からの排気管と前記第2気筒からの各排気管が、等長の箇所で結合され、Uターンして下部に配置されたマフラーに連結されることを特徴とする請求項1に記載の無人飛行体のエンジン装置。
【請求項3】
前記第1気筒及び第2気筒には、それぞれバルブを制御する第1カムシャフトと第2カムシャフトが設けられ、一方が前記第1クランクシャフトで駆動され、他方が前記第2クランクシャフトの反転ギアを介して駆動され、前記第1カムシャフトと前記第2カムシャフトが同じ方向に回転されることを特徴とする請求項1に記載の無人飛行体のエンジン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人飛行体のエンジン装置に関し、より詳しくは、左右の水平対向エンジンに設けられた2本のクランクシャフトに対応して、2つの遠心クラッチを取り付けた無人飛行体のエンジン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無人飛行体(ドローン)にレシプロエンジンが使用される場合が増えている。レシプロエンジンは、代表的には直列エンジンと水平対向エンジンが知られる。水平対向エンジンは、クランクシャフトの左右両側に、水平にピストンとシリンダのブロックが配置される。水平対向エンジンは、直列エンジンに比べエンジン振動が少なく、エンジンの前後方向の長さが短くできるとの利点がある。
【0003】
特許文献1には、上下方向に縦向きに第1ピストンと第2ピストンを配置し、その下部に各ピストンに対応した第1クランクシャフトと第2クランクシャフトを水平に配置したエンジンが開示される。第1クランクシャフトと第2クランクシャフトは、回転方向が互いに逆で、機体のジャイロ効果を相殺するように構成される。
【0004】
複数のプロペラを有する無人飛行体のレシプロエンジンでは、機体の安全性と姿勢制御を良好に保つため、以下が求められる。(1)機体の重量バランスを良くすること。具体的には、エンジンの出力軸が機体の中心にあり、エンジンの重心位置が機体の重心位置と一致していること。(2)エンジン内の回転部品は、そのジャイロ効果が、機体の制御性に悪影響を与えないこと。(3)トラブルによりエンジンが停止した場合でも、機体をより安全に着陸できること。すなわちエンジンが停止しても、プロペラが空気流を受けてオートローテーションできること。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、(1)機体の重量バランスが良く、(2)機体の制御に悪影響を与えるジャイロ効果が相殺でき、(3)エンジンが停止した場合でもプロペラのオートローテーションが可能な無人飛行体のエンジン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による無人飛行体のエンジン装置は、左右方向の軸線上に対向して水平に配置され、シリンダ内のピストンが互いに逆向きに進退する第1気筒及び第2気筒と、前記軸線と直交する上下方向に配置され、前記第1気筒と前記第2気筒のそれぞれによって駆動され互いに逆向きに回転する第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトと、前記第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトの上方に配置され、互いに逆向きに回転する第1遠心クラッチ及び第2遠心クラッチと、プロペラシャフトを回転させるギア機構に回転力を伝達するファイナルドライブシャフトと、前記第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトと前記ファイナルドライブシャフトの間に配置され、前記第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトの両方で駆動されるワンウェイクラッチと、が備えられることを特徴とする。
【0008】
前記第1気筒からの排気管と前記第2気筒からの各排気管が、等長の箇所で結合され、Uターンして下部に配置されたマフラーに連結されることを特徴とする。(請求項2)
【0009】
前記第1気筒及び第2気筒には、それぞれバルブを制御する第1カムシャフトと第2カムシャフトが設けられ、一方が前記第1クランクシャフトで駆動され、他方が前記第2クランクシャフトの反転ギアを介して駆動され、前記第1カムシャフトと前記第2カムシャフトが同じ方向に回転されることを特徴とする。(請求項3)
【発明の効果】
【0010】
本発明による無人飛行体のエンジン装置によれば、
(1)第1遠心クラッチ及び第2遠心クラッチの2つを設け、慣性モーメントの大きな第1遠心クラッチ及び第2遠心クラッチを互いに逆向きに回転させるので、ジャイロ効果を相殺でき、姿勢制御が容易となる。
(2)半径が大きく高さもある1つの遠心クラッチを設ける場合より、遠心クラッチを2つ設けた方が高さを低くできる。また、第1遠心クラッチと第2遠心クラッチをエンジン中心の対称な位置に配置でき、重心を中央に維持できる。
(3)ワンウェイクラッチを設けたので、オートローテーションが可能になり、墜落の危険が大幅に低減できる。例としてエンジン故障となっても、ワンウェイクラッチのプロペラ側の軸は、回転を続けることができる。
(4)第1気筒及び第2気筒を左右方向の軸線上に水平に配置し、シリンダ内のピストンを互いに逆向きに進退させたので、ピストンの振動が相殺され、低振動にできる。
(5)第1クランクシャフト及び第2クランクシャフトを上下方向、縦向きに配置したので、エンジン装置の前後方向の長さを抑えることができる。
【0011】
請求項2によれば、(1)マフラーをエンジンの下部に配置したので、エンジンの重心を中央付近に維持できる。(2)マフラーが1本なので、軽量かつコンパクトにできる。(3)等長の箇所で1本に絞ったので、排気管の容積を節約できる。
【0012】
請求項3によれば、第1カムシャフトと第2カムシャフトが同じ方向に回転されるとしたので、第1気筒及び第2気筒のシリンダ、ピストン及びバルブ制御部を共通にできる。同じ方向の回転であってもジャイロ効果は、極めて小さいため無視できる。部材の共通化の効果の方が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による無人飛行体のエンジン装置の斜視図である。
【
図2】本発明による無人飛行体のエンジン装置の斜視図である。
【
図3】無人飛行体のエンジン装置の主要部材の回転方向を示す図である。
【
図4】補機を含む無人飛行体のエンジン装置の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の無人飛行体のエンジン装置を詳しく説明する。
【実施例0015】
図1は、本発明による無人飛行体のエンジン装置100の斜視図である。右後方上部から斜め下方向を見た斜視図である。外側カバーを外して内部が見えるように図示した。エンジン装置100は、2気筒のエンジンで、第1気筒10及び第2気筒20が左右方向の軸線上に対向して水平に配置される。第1気筒10には第1ピストン11が備えられ、第2気筒20には第2ピストン21が備えられる。例として第2気筒20には、第2ベルト28で駆動される第2ギア27により、第2カムシャフト26が回転し、排気バルブと給気バルブを制御している。
【0016】
図1に示すように、第1クランクシャフト30及び第2クランクシャフト40は、軸線と直交する上下方向に立設される。第1クランクシャフト30は、第1気筒10の第1ピストン11によって駆動され回転する。第2クランクシャフト40は、第2気筒20の第2ピストン21によって駆動され回転する。第1クランクシャフト30と第2クランクシャフト40は、回転方向が互いに逆方向でジャイロ効果を相殺できる。第1クランクシャフト30の下部には、第1発電機64が設けられ、第2クランクシャフト40の下部には、第2発電機65が設けられる。第1発電機64及び第2発電機65は、第1クランクシャフト30及び第2クランクシャフト40の回転で電気を発電し、エンジンの点火装置、燃料供給装置及び無人飛行体の制御部などに給電する。スターター75は、後方下側に設けられる。
【0017】
第1遠心クラッチ80及び第2遠心クラッチ90は、第1クランクシャフト30及び第2クランクシャフト40の上方に配置される。第1遠心クラッチ80には、第1クランクシャフト30の回転力が伝達される。第2遠心クラッチ90には第2クランクシャフト40の回転力が伝達される。第1遠心クラッチ80は、第1クランクシャフト30の回転力が高くなると、内部の錘に遠心力が作用して、クラッチ板が結合し、図面下方向に突出する出力ギアを回転させる。第2遠心クラッチ90も第2クランクシャフト40の回転力が高くなると、同様に図面下方向に突出する出力ギアを回転させる。
【0018】
ワンウェイクラッチ50は、第1遠心クラッチ80及び第2遠心クラッチ90の下側に配置される。ワンウェイクラッチ50は、外側のギアが第1遠心クラッチ80及び第2遠心クラッチ90の両方で駆動される。第1遠心クラッチ80及び第2遠心クラッチ90は、回転方向が互いに逆方向なので、この実施例では、第1遠心クラッチ80の出力ギアが反転ギア34で回転方向が反転され、ワンウェイクラッチ50を駆動する。第2遠心クラッチ90の出力ギアは、直接、ワンウェイクラッチ50を駆動する。ワンウェイクラッチ50は、第1遠心クラッチ80及び第2遠心クラッチ90の回転力が内部で爪により伝達され、出力軸が一方向に回転される。出力軸は、爪で一方向に駆動されなくても、一方向には回転でき、いわいるワンウェイクラッチとして作用する。
【0019】
ワンウェイクラッチ50の出力軸は、ギアを介して、回転力がファイナルドライブシャフト60に伝達される。ファイナルドライブシャフト60には、直交変換ギアからなるギア機構70により、4方向のプロペラシャフト71~74に回転力が伝達される。
【0020】
図2は、本発明による無人飛行体のエンジン装置100の斜視図である。右後方の下部から斜め上方向を見た斜視図である。
図1を補足する形で説明する。第1気筒10及び第2気筒20は、左右方向に対向して水平に配置される。第1クランクシャフト30及び第2クランクシャフト40は、第1気筒10と第2気筒20を結ぶラインに直交する上下方向に設けられる。
【0021】
図2に示すように、第1気筒10には、第1ベルト18で駆動される第1ギア17により、第1カムシャフト16が回転し、排気バルブと給気バルブを制御している。第1ピストン11は、第1シリンダ内にあって、コンロッドに連結され、第1クランクシャフト30を回転させる。第2ピストン21は、第2シリンダ内にあって、コンロッドに連結され、第2クランクシャフト40を回転させる。第2気筒20の第2ベルト28は、第2クランクシャフト40の回転方向が反転ギア29で反転され、反転ギア29の軸に設けたギアで駆動される。即ち第2カムシャフト26の回転方向は、第2クランクシャフト40の回転方向とは逆になる。
【0022】
第1遠心クラッチ80の下側は次のように構成される。ドリブンギア31は、第1クランクシャフト30のギアで駆動され、第1遠心クラッチシャフト32を回転させる。第1遠心クラッチシャフト32が回転し回転速度が高くなると、第1遠心クラッチ80の内部の錘に遠心力が作用して、内部に設けたクラッチ板が結合する。これにより、第1遠心クラッチ80下側の第1遠心クラッチ出力ギア33を回転させる。第1遠心クラッチ出力ギア33の回転は、シャフト35に設けられた反転ギア34で反転される。反転ギア34は、ワンウェイクラッチ50のワンウェイクラッチギア51に噛み合って、ワンウェイクラッチ50を回転させる。すると、ワンウェイクラッチ出力シャフト52が回転する。ワンウェイクラッチ出力シャフト52に設けられたドライブギア53により、回転力がドリブンギア63を介してファイナルドライブシャフト60に伝達される。第2遠心クラッチ90も同様の構造で、第2遠心クラッチ90の出力は、第2遠心クラッチ出力ギア43で示される。ただし、反転ギアはなく、第2遠心クラッチ出力ギア43がワンウェイクラッチギア51に噛み合って回転力が伝達される。
【0023】
図3は、無人飛行体のエンジン装置100の主要部材の回転方向を示す図である。右前方上部から斜め下方向を見た斜視図である。第1クランクシャフト30を時計回りとし、第2クランクシャフト40は反時計回りと定義する。ギアの配置から、第1遠心クラッチ80が反時計回りで、第2遠心クラッチ90は時計回りになる。いずれも回転方向が互いに逆方向なので、これによりジャイロ効果を相殺できる。第1カムシャフト16と第2カムシャフト26は共に時計回りとなるがジャイロ効果は極めて小さく無視できる。部材の共通化の効果の方が大きい。
【0024】
図3を参照して、第1遠心クラッチ80の下側の構造を補足して説明する。第1遠心クラッチ80のドリブンギア31は、第1クランクシャフト30のドライブギア37で駆動され、第1遠心クラッチシャフト32を回転させる。第1遠心クラッチシャフト32が回転すると、第1遠心クラッチ80の内部の錘に遠心力が作用して、内部のクラッチ板が結合する。すると、第1遠心クラッチ80下側の第1遠心クラッチ出力ギア33(
図2参照)を回転させる。
同様に第2遠心クラッチ90のドリブンギア41は、第2クランクシャフト40のドライブギア47で駆動され、第2遠心クラッチシャフト42を回転させる。第2遠心クラッチシャフト42が回転すると、第2遠心クラッチ90の内部の錘に遠心力が作用して、内部のクラッチ板が結合する。すると、第2遠心クラッチ90下側の第2遠心クラッチ出力ギア43(
図2参照)を回転させる。
【0025】
図3に示すように、第1クランクシャフト30と第2クランクシャフト40の間に歯数が同じギア36、36を配置し、噛み合わせて回転させている。一方のギア36は、第1クランクシャフト30で駆動され、他方のギア36は、第2クランクシャフト40で駆動されるので、第1クランクシャフト30と第2クランクシャフト40が等回転速度となる。
【0026】
図4は、補機を含む無人飛行体のエンジン装置100の外観図で、
図5は
図4の左側面図である。
図4に示すように、第1ラジエータ又はオイルクーラー67と、第2ラジエータ又はオイルクーラー68が、第1気筒10と第2気筒20の冷却に使用される。排気管55は、第1排気管56と第2排気管57からなり、結合部58に集めて1本に絞りUターンさせてマフラー59に至る。第1排気管56と第2排気管57は、結合部までの長さを等長とした。
図5に示すように、マフラー59はエンジンの下部の中央に配置したので、機体の重心位置を保つことができる。
本発明によれば、第1クランクシャフトと第2クランクシャフトに対応して、第1遠心クラッチと第2遠心クラッチを設け、互いに逆向きに回転させたので、ジャイロ効果を相殺でき姿勢制御が容易にでき、無人飛行体のエンジン装置として好適である。