(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172990
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】発熱装置
(51)【国際特許分類】
F24V 30/00 20180101AFI20221110BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20221110BHJP
F28F 3/08 20060101ALI20221110BHJP
F28F 3/04 20060101ALI20221110BHJP
F28F 23/00 20060101ALI20221110BHJP
F25B 17/12 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F24V30/00 302
F28D20/00 H
F28F3/08 301Z
F28F3/04 A
F28F23/00 B
F25B17/12 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079382
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 翔一
(72)【発明者】
【氏名】大畑 豊治
(72)【発明者】
【氏名】岩村 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 英樹
【テーマコード(参考)】
3L093
【Fターム(参考)】
3L093NN05
3L093RR01
(57)【要約】
【課題】発熱効率と熱交換効率が高くて耐久性の高い発熱装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る発熱装置は、水素の吸蔵と放出によって熱を発生する平板状の発熱体5と、前記水素を含む水素系ガスが導入され、前記発熱体5に水素を供給する第1流路6と、前記発熱体5を透過した水素を含む透過ガスが流動する第2流路7を備え、前記発熱体5の両側に前記第1流路6と前記第2流路7をそれぞれ配置して構成されるものであって、前記発熱体5との間に前記第2流路7を形成する第1の隔壁24に、変形した前記発熱体5を受けるためのサポート25を前記発熱体5に向かって突設している。ここで、サポート25は、金属製の複数のピンまたはプレートで構成されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の吸蔵と放出によって熱を発生する平板状の発熱体と、前記水素を含む水素系ガスが導入され、前記発熱体に水素を供給する第1流路と、前記発熱体を透過した水素を含む透過ガスが流動する第2流路を備え、
前記発熱体の両側に前記第1流路と前記第2流路をそれぞれ配置して構成される発熱装置であって、
前記発熱体との間に前記第2流路を形成する第1の隔壁に、変形した前記発熱体を受けるためのサポートを前記発熱体に向かって突設した発熱装置。
【請求項2】
前記サポートは、金属製の複数のピンまたはプレートで構成されている請求項1に記載の発熱装置。
【請求項3】
熱媒体が流通する第3流路を前記第2流路に隣接して配置し、前記第1の隔壁との間に前記第3流路を形成する第2の隔壁または前記第1の隔壁の少なくとも一方の隔壁に、他方の隔壁に向かって突出して前記他方の隔壁に接触する放熱部材を設けた請求項1または2に記載の発熱装置。
【請求項4】
前記放熱部材は、金属製の複数の放熱ピンまたは放熱フィンで構成されている請求項3に記載の発熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の吸蔵と放出によって発熱する発熱体を備える発熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、一定の反応条件の下で多量の水素を繰り返して吸蔵及び放出する特性を有しており、この水素の吸蔵と放出時にかなりの反応熱を伴うことが知られている。この反応熱を利用したヒートポンプシステム、熱輸送システム、冷熱(冷凍)システムなどの熱利用システムや水素貯蔵システムが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
ところで、本出願人などは、水素吸蔵合金などを用いた発熱体を備える発熱装置において、発熱体を、支持体とこの支持体に支持された多層膜とで構成することによって、当該発熱体への水素の吸蔵時と当該発熱体からの水素の放出時において熱が発生する知見を得た。そして、本出願人などは、このような知見に基づいて熱利用システム及び発熱装置を先に提案した(特許文献3参照)。
【0004】
具体的には、発熱装置の発熱体が備える支持体は、多孔質体、水素透過膜、プロトン誘電体の少なくとも何れかで構成され、この支持体に支持される多層膜は、例えば、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金で構成された厚さ1000nm未満の第1層と、この第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスで構成された厚さ1000nm未満の第2層とを交互に積層することによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56-100276号公報
【特許文献2】特開昭58-022854号公報
【特許文献3】特許第6749035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3において提案された発熱装置においては、熱を発生する発熱体が高密度で集積した状態で組み込まれていないため、発熱体が効率良く熱を発生することができず、改善の余地が残されている。
【0007】
そこで、
図15に示すように、発熱体105の両側に、発熱体105に水素を含む水素系ガスを導入するための第1流路106と、発熱体105を透過した水素が流入する第2流路107をそれぞれ配置してこれらの発熱体105と第1流路106及び第2流路107を高密度で積層することによって、発熱装置101を小型・コンパクトで発熱効率の高い高出力のものとすることが考えられる。このような構成を有する発熱装置101においては、第1流路106へと導入された水素が発熱体105を透過することによって発熱体105が発熱する。この場合、発熱体105を透過した水素(以後、「透過水素」と称することがある)は、第2流路107へと流れ込むことから、第2流路107の圧力の方が第1流路106の圧力よりも低い。
【0008】
ここで、発熱体105は、非常に薄くて撓み易い水素吸蔵金属または水素吸蔵合金によって構成されているため、
図16に示すように、圧力の低い第2流路107側へ向かって膨出するように円弧曲面状に撓み変形すると同時に、膜面の横方向に引張応力を受ける。この応力が発熱体105の素材の降伏応力を超えると、該発熱体105に大きな塑性変形が生じる。このため、発熱体105における水素の透過量や第1流路106と第2流路107の断面形状の変化によって水素の流量や圧力損失などが当初の値から変化し、最悪の場合には、第2流路107の閉塞により水素の流れが停止したり、発熱体105に亀裂が発生して第1流路106から第2流路107への多量の水素の流出が生じるとともに、第1流路106と第2流路107の圧力差が大幅に減少して発熱装置が機能停止に至ってしまう可能性がある。このような不具合の発生を防ぐために、発熱体105の厚さを厚くすることが考えられるが、発熱体105の厚さを厚くすると、該発熱体105における水素の拡散が阻害され、所要の発熱量が得られないという問題が発生する。
【0009】
また、発熱体105から発生した熱が外部に伝達される経路は、発熱体105と不図示の容器の締結部での固体熱伝導と、容器内の第1流路106と第2流路107での熱輻射及び水素ガスの対流と熱伝導となる。これらの輻射と水素ガスの対流・熱伝導による単位面積当たりの熱伝導率は、金属などの固体熱伝導よりも相対的に小さく、上記のような発熱体105の変形を防ぐために水素ガスの密度(圧力)を低くした動作条件では熱伝導がさらに小さくなるため、発熱体105の温度を適切に維持する熱流を得ることが困難になる場合がある。換言すれば、発熱体105が過熱してしまう可能性がある。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、発熱効率と熱交換効率が高くて耐久性の高い発熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る発熱装置は、水素の吸蔵と放出によって熱を発生する平板状の発熱体と、前記水素を含む水素系ガスが導入され、前記発熱体に水素を供給する第1流路と、前記発熱体を透過した水素を含む透過ガスが流動する第2流路を備え、前記発熱体の両側に前記第1流路と前記第2流路をそれぞれ配置して構成されるものであって、前記発熱体との間に前記第2流路を形成する第1の隔壁に、変形した前記発熱体を受けるためのサポートを前記発熱体に向かって突設している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発熱体が第1流路と第2流路との差圧によって圧力の低い第2流路側に向かって膨出するように撓み変形しても、この発熱体の撓み変形は、当該発熱体を受けるサポートによって小さく抑えられる。このため、発熱体に発生する変形に伴う応力が小さく抑えられて当該発熱体の耐久性が高められるとともに、発熱体の発熱作用が変形によって阻害されることがなく、発熱体は、安定して発熱作用を行うことができるために高い発熱効率と熱交換効率が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る発熱装置の基本構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明に係る発熱装置の発熱モジュールの分解斜視図である。
【
図3】本発明に係る発熱装置の積層構造体の分解斜視図である。
【
図4】本発明に係る発熱装置の電気ヒータの平面図である。
【
図7】本発明に係る発熱装置の別実施形態を示す
図5と同様の図である。
【
図8】本発明に係る発熱装置の発熱体の構成を示す断面図である。
【
図9】本発明に係る発熱装置の発熱体における過剰熱の発生メカニズムを説明する模式図である。
【
図10】発熱体の構成の変形例1を示す断面図である。
【
図11】発熱体の構成の変形例2を示す断面図である。
【
図12】本発明に係る発熱装置の発熱体の撓み変形とこれを抑える機構を説明する模式的断面図である。
【
図13】本発明の別実施形態に係る発熱装置の発熱体の撓み変形とこれを抑える機構を説明する模式的断面図である。
【
図14】本発明に係る発熱装置を備える熱利用システムの構成を示すブロック図である。
【
図15】平板状の発熱体を備える発熱装置の基本構成を示す断面図である。
【
図16】
図15に示す発熱装置の発熱体の変形を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
[発熱装置]
図1は本発明に係る発熱装置の基本構成を示すブロック図であり、図示の発熱装置1は、発熱モジュールMと、温度調整部Tと、水素循環ラインL1と、制御部2と、密閉容器3とを備えている。なお、
図1において、黒丸の接続点は、複数の配管の接続部を示している。
【0016】
発熱モジュールMは、密閉容器3の内部に収容されており、2つの積層構造体4と、1つの電気ヒータ9とを備えている。各積層構造体4は、水素の吸蔵と放出によって熱を発生する発熱体5と、水素を含む水素系ガスが導入され、発熱体5に水素を供給する第1流路6と、発熱体5を透過した水素(以下、「透過水素」と称する)を含む水素系ガス(以下、「透過ガス」と称する)が流動する第2流路7と、第2流路7を流れる透過ガスとの間で熱交換を行う熱媒体が流動する第3流路8とを有し、第3流路8の両側に、当該第3流路8から順に第2流路7、発熱体5、第1流路6を順次対称的に積層して構成されている。電気ヒータ9は、発熱体5を加熱する加熱手段の一例であって、これに限定される訳ではない。
【0017】
ここで、水素系ガスには、水素の同位体が含まれ、水素系ガスとしては、軽水素ガスと重水素ガスとの少なくとも何れかが含まれる。軽水素ガスは、天然に存在する軽水素と重水素との混合物、すなわち、軽水素の割合が99.985%、重水素の割合が0.015%である混合物を含む。
図1においては、発熱体5に水素を供給する水素系ガスを「水素」、発熱体5を透過した透過水素を含む透過ガスを「透過水素」と表示している。なお、発熱モジュールMの製作においては、各部材を拡散接合することが望ましい。発熱モジュールMの詳細については後述する。
【0018】
温度調整部Tは、発熱体5の温度を調整して当該発熱体5を発熱可能な温度(例えば、50℃~1500℃)に維持する機能を果たす。この温度調整部Tは、電気ヒータ9と、該電気ヒータ9に電力を供給する電源10と、電気ヒータ9の温度を検出する熱電対などの温度センサ11と、温度センサ11によって検出された温度に基づいて電源10の出力を制御する制御部2とを備えている。
【0019】
水素循環ラインL1は、発熱モジュールMの各積層構造体4にそれぞれ設けられた第1流路6に水素を含む水素系ガスを導入するとともに、第1流路6から発熱体5を透過することによって当該発熱体5の発熱に供されて第2流路7へと流入する透過水素を含む透過ガスを回収して第1流路6へと戻す動作を繰り返すものである。
【0020】
水素循環ラインL1は、発熱モジュールMの積層構造体4に設けられた第1流路6に水素系ガスを導入する導入配管12と、発熱モジュールMの積層構造体4に設けられた第2流路7から透過ガスを回収する回収配管13と、導入配管12と回収配管13とに接続された循環ポンプ14とを有している。発熱装置1においては、発熱モジュールMと水素循環ラインL1とによって、水素系ガスが循環する閉ループが構成されている。
【0021】
導入配管12は、循環ポンプ14の吐出側から延びており、発熱モジュールMの各積層構造体4に設けられた各第1流路6に分岐管15によってそれぞれ接続されている。したがって、水素系ガスは、導入配管12から分岐管15を経て各第1流路6にそれぞれ導入される。
【0022】
回収配管13は、循環ポンプ14の吸入口に接続されており、発熱モジュールMの各積層構造体4に設けられた各第2流路7に分岐管16によってそれぞれ接続されている。したがって、第2流路7を流動する透過ガスは、発熱体5によって加熱されて高温となり、各分岐管16を経て回収配管13へと回収され、発熱体5に水素を供給するための水素系ガスとして再利用される。
【0023】
循環ポンプ14は、閉ループを構成する発熱モジュールMと水素循環ラインL1との間で水素系ガスを循環させるものであって、例えば、メタルベローズポンプが使用される。循環ポンプ14は、制御部2に電気的に接続されており、制御部2からの制御信号によって動作が制御される。
【0024】
導入配管12の途中には、バッファタンク17、圧力調整弁18及びフィルタ19が設けられている。バッファタンク17は、水素系ガスを貯留して当該水素系ガスの流量変動を吸収するためのものである。圧力調整弁18は、制御部2に電気的に接続されており、制御部2からの制御信号によって開度が調整されることによって、バッファタンク17から供給される水素系ガスの圧力を調整する機能を果たす。
【0025】
フィルタ19は、水素系ガスに含まれる不純物を除去するためのものである。ここで、発熱モジュールMの各積層構造体4にそれぞれ設けられた発熱体5を透過する水素の量(水素透過量)は、発熱体5の温度、発熱体5の両面側における圧力差、発熱体5の表面状態に依存するが、水素に不純物が含まれている場合には、不純物が発熱体5の表面に付着して該発熱体5の表面状態を悪化させることがある。発熱体5の表面状態が悪化した場合には、該発熱体5の表面における水素分子の吸着及び解離が阻害されて水素透過量が減少するという不具合が発生する。発熱体5の表面における水素分子の吸着及び解離を阻害するものとしては、例えば、水(水蒸気を含む)、炭化水素(メタン、エタン、メタノール、エタノールなど)、C、S、Siなどが考えられる。フィルタ19が水素に含まれる不純物としての水(水蒸気を含む)、炭化水素、C、S、Siなどを除去することによって、発熱体5における水素透過量の減少が抑制される。
【0026】
制御部2は、発熱装置1の各部と電気的に接続されており、各部の動作を制御する。この制御部2は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶部などを備えており、CPUにおいては、ROMやRAMに格納されているプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理が実行される。
【0027】
密閉容器3は、例えば、ステンレス鋼(SUS)の中空容器として構成されている。密閉容器3の材料としては、高い耐食性と耐圧性を有する材料、例えば、炭素鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、耐食性非鉄合金鋼などが好ましい。また、密閉容器3の材料は、後述する発熱体5が発生する輻射熱を反射する材料、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)などであっても良い。密閉容器3の形状は、本実施の形態では四角筒状であるが、これに限定されず、四角筒状以外の角筒状、円筒状、楕円筒状などであっても良い。
【0028】
(発熱モジュール)
次に、発熱モジュールMの構成を
図2~
図4に基づいて以下に説明する。
【0029】
図2は発熱モジュールMの分解斜視図、
図3は発熱モジュールMを構成する積層構造体4の分解斜視図、
図4は発熱モジュールMに設けられた電気ヒータ9の平面図である。
【0030】
図2に示すように、発熱モジュールMは、2つの積層構造体4を上下方向(
図2のZ軸方向)に2段に重ねて構成されている。上側の積層構造体4の最下部の第1流路6と下側の積層構造体4の最上部の第1流路6とは相対面している。発熱モジュールMは、
図2に示す例では四角柱状に形成されている。以下の説明では、発熱装置1と該発熱装置1を構成する各部材において、Z軸方向における上側の面を上面、Z軸方向における下側の面を底面、Y軸方向における左側の面を正面、Y軸方向における右側の面を背面、X軸方向における右側の面を右側面、X軸方向における左側の面を左側面とする。
【0031】
図3に示すように、第1流路6は、平板状に形成された平板部6aと、平板部6aに設けられた壁部6bとによって構成されている。平板部6a及び壁部6bは、例えば、ステンレス鋼で構成されている。平板部6aは、平面視において四角形状に形成されている。壁部6bは、平板部6aの4辺の縁部分のうち、3辺の縁部分に設けられている。
図3においては、壁部6bは、平板部6aの4辺の縁部分のうち、X軸方向における左右の縁部分とY軸方向における右側の縁部分に設けられている。下側の第1流路6を構成する壁部6bは、Z軸方向の上側に向けて突出しており、上側の第1流路6を構成する壁部6bは、Z軸方向の下側に向けて突出している。第1流路6の正面(Y軸方向における左側の面)、すなわち、平板部6aの4辺縁部分のうち、壁部6bが設けられていない1辺の縁部分には、水素導入口6cが設けられている。この水素導入口6cは、水素供給ラインL1の分岐管15に接続されている(
図1参照)。
【0032】
第2流路7は、平板状に形成された平板部7aと、平板部7aに設けられた壁部7bとによって構成されている。平板部7a及び壁部7bは、例えば、ステンレス鋼によって構成されている。平板部7aは、平面視において四角形状に形成されている。壁部7bは、平板部7aの4辺の縁部分のうち、3辺の縁部分に設けられている。
図3においては、壁部7bは、平板部7aの4辺の縁部分のうち、X軸方向における左右の縁部分とY軸方向における左側の縁部分に設けられている。下側の第2流路7を構成する壁部7bは、Z軸方向の下側に向けて突出し、上側の第2流路7を構成する壁部7bは、Z軸方向の上側に向けて突出している。第2流路7の背面(Y軸方向における右側の面)、すなわち、平板部7aの4辺の縁部分のうち、壁部7bが設けられていない1辺の縁部分には、水素回収口7cが設けられている。
図3においては、下側の第2流路7の背面に設けられている水素回収口7cが紙面奥側に隠れている。水素回収口7cは、水素循環ラインL1の分岐管16に接続されている(
図1参照)。
【0033】
第3流路8は、平板状に形成されており、互いに隙間を開けて配置された2つの平板部8aと、2つの平板部8aの間に設けられて互いに隙間を開けて配置された2つの壁部8bとによって構成されている。平板部8a及び壁部8bは、例えば、ステンレス鋼で構成されている。平板部8aは、平面視において四角形状に形成されており、Z軸方向の上下に配置されている。壁部8bは、平板部8aの4辺の縁部分のうち、互いに対向する2辺の縁部分に設けられている。
図3においては、壁部8bは、平板部8aの4辺の縁部分のうち、Y軸方向における左右の縁部分に設けられている。第3流路8の右側面(X軸方向における右側の面)には、熱媒体導入口8cが設けられており、第3流路8の左側面(X軸方向における左側の面)には、熱媒体回収口8dが設けられている。熱媒体導入口8cは、後述する熱媒体循環ラインL2の分岐管31e(
図1参照)に接続されている。熱媒体回収口8dは、後述する熱媒体循環ラインL2の分岐管31f(
図1参照)に接続されている。第3流路8は、熱媒体循環ラインL2の一部を構成している。
【0034】
電気ヒータ9は、上下に重ねられた2つの積層構造体4の相対面する2つの第1流路6の間、つまり、上側の積層構造体4の最下部の第1流路6と下側の積層構造体4の最上部の第1流路6との間に設けられている(
図2参照)。電気ヒータ9は、第1流路6を介して発熱体5を発熱可能な温度(例えば、50℃~1500℃)に加熱する。本実施の形態では、発熱モジュールMの上下方向の中心部分に電気ヒータ9が設けられているため、発熱モジュールM全体の温度が効率良く上昇する。
【0035】
図4に示すように、電気ヒータ9は、耐熱温度の高い、モリブデン、ニッケルなどの金属や高耐熱合金、または高耐熱かつ水素と反応性のないアルミナ、炭化ケイ素などのセラミックスによって構成された矩形平板状のベース9aの両面に加熱ワイヤー9bを矩形波状に繰り返し屈曲させた状態で取り付けることによって構成されている。ベース9aの素材が金属など導電性の場合、加熱ワイヤー9bは、絶縁性セラミックスを介してベース9aに取り付けられる。ここで、加熱ワイヤー9bは、電気抵抗の高いモリブデンやタングステンによって構成されており、この加熱ワイヤー9bを前述のように矩形波状に繰り返し直角に屈曲させた状態で取り付けることによって、電気ヒータ9の発熱面積が増えて発熱量が高められる。なお、本実施の形態では、電気ヒータ9を、ベース9aの両面に加熱ワイヤー9bを取り付けて構成したが、加熱ワイヤー9bをベース9aの片面のみに取り付けても良い。
図4には図示していないが、電気ヒータ9のベース9aには温度センサ11(
図1参照)が設けられており、加熱ワイヤー9bには電源10(
図1参照)が電気的に接続されている。また、電気ヒータ9においては、過熱ワイヤー9bに代えて薄いリボン状の面ヒータを用いても良い。
【0036】
ここで、本実施の形態に係る発熱装置1の特徴的な構成を
図5及び
図6に基づいて以下に説明する。
【0037】
図5は
図1のA部拡大詳細図、
図6は
図5のB-B線断面図であり、以下においては、一方(上側)の積層構造体4における特徴的な構成のみを図示及び説明するが、他方(下側)の積層構造体4の特徴的な構成も同様であるため、これについての図示及び説明は省略する。
【0038】
図5に示すように、積層構造体4において、発熱体5との間に第2流路7を形成する第1の隔壁(第1流路6と第2流路7とを区画する隔壁)24の発熱体5と対向する面(
図5においては下面)には、変形した発熱体5を受けるためのサポート25が発熱体5に向かって突設されている。ここで、本実施の形態では、サポート25は、
図6に示すように、複数の金属製プレートを格子状に組み付けて構成されており、その突出長さL(
図5参照)は、第2流路7の高さHよりも小さく設定されている(L<H)。したがって、当該発熱装置1の非作動時(発熱体5が撓み変形していないとき)には、このサポート25の先端は、発熱体5に接触しておらず、両者の間には図示の隙間δが形成されている。
【0039】
サポート25は、第1の隔壁24に一体に突設しても良く、第1の隔壁24とは別体のサポート25を第1の隔壁24に取り付けても良い。ここで、サポート25には、耐熱性と耐圧性及び熱伝導率の高い金属であれば任意のものを使用することができるが、本実施の形態では、ニッケル(Ni)を使用している。また、サポート25としては、プレート以外に金属製の複数のピンなどを使用することができるが、本実施の形態のようにサポート25を金属プレートで構成する場合には、後述のように発熱体5を透過して第2流路7へと流れ込む水素(透過水素)の流れを阻害しないように、各金属プレートには、
図5及び
図6に示すように、水素(透過水素)が通過するための孔25aを形成しておく必要がある。なお、各金属プレートには、孔25aに代えて切欠きを形成しても良い。
【0040】
ところで、積層構造体4においては、
図5に示すように、第1の隔壁24との間に第3流路8を形成する第2の隔壁26が第1の隔壁24と平行に配置されているが、第1の隔壁24の第2の隔壁26に対向する面(
図5においては上面)には、放熱ピンや放熱フィンなどの複数の金属製の放熱部材27が熱媒体の流れ方向(
図5の左右方向)に等間隔で突設されている。ここで、各放熱部材27の先端は、第2の隔壁26に接触している。なお、本実施の形態では、第1の隔壁24と第2の隔壁26には、ステンレス鋼(SUS)を使用している。また、放熱部材27には、サポート25と同様に、耐熱性と耐圧性及び熱伝導率の高い金属であれば任意のものを使用することができるが、本実施の形態では、ニッケル(Ni)を使用している。各放熱部材27には、サポート25と同様に、熱媒体が通過するための孔や切欠きを形成しても良い。
【0041】
また、複数の放熱部材27は、本実施の形態では、第1の隔壁24に一体に突設されているが、放熱部材27を第1の隔壁24とは別体に構成し、これらの放熱部材27を第1の隔壁24に取り付けるようにしても良い。また、本実施の形態では、放熱部材27を第1の隔壁24に設けたが、第2の隔壁26側に放熱部材27を設け、各放熱部材27の先端を第1の隔壁24に接触させても良い。
【0042】
ところで、本実施の形態では、
図5に示すように、第1の隔壁24から一体に突出する複数のサポート25の先端は、発熱装置1の非作動時(発熱体5が撓み変形していないとき)には、発熱体5に接触しておらず、両者の間には隙間δが形成されているが、
図7に示すように、発熱装置1の非作動時において、複数のサポート25の先端を発熱体5に接触させても良い。
【0043】
<発熱体の構成と発熱のメカニズム>
次に、発熱体5の構成を
図8に基づいて以下に説明する。
【0044】
図8は発熱体5の構成を示す断面図であり、同図に示すように、発熱体5は、支持体5Aと多層膜5Bとを有しており、支持体5Aは、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはプロトン誘電体によって構成されている。ここで、水素吸蔵金属としては、例えば、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiなどが用いられる。水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi
5、CaCu
5、MgZn
2、ZrNi
2、ZrCr
2、TiFe、TiCo、Mg
2Ni、Mg
2Cuなどが用いられる。プロトン誘電体としては、例えば、BaCeO
3系(例えば、Ba(Ce
0.95Y
0.05)O
3-6)、SrCeO
3系(例えば、Sr(Ce
0.95Y
0.05)O
3-6)、CaZrO
3系(例えば、Ca(Zr
0.95Y
0.05)O
3ーα)、SrZrO
3系(例えば、Sr(Zr
0.9Y
0.1)O
3ーα)、βAl
2O
3、βGa
2O
3などが用いられる。
【0045】
支持体5Aは、多孔質体または水素透過膜によって構成しても良い。多孔質体は、水素系ガスの通過を許容する大きさの多数の孔を有している。多孔質体は、例えば、金属、非金属、セラミックスなどの材料で構成されている。多孔質体は、水素と多層膜5Bとの発熱反応を阻害しない材料で構成されることが望ましい。水素透過膜は、水素を透過させる材料で構成されている。水素透過膜の材料としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金が好ましい。水素透過膜にはメッシュ状のシートを有するものも含まれる。
【0046】
多層膜5Bは、支持体5Aに形成されている。多層膜5Bは、本実施の形態では支持体5Aの一方の面(
図8の左端面及び右端面)に形成されている。
図8においては、支持体5Aの一方の面(
図8の左端面)に形成されている多層膜5Bのみを図示し、支持体5Aの他方の面(
図8の右端面)に形成されている多層膜5Bの図示を省略している。なお、多層膜5Bは、支持体5Aの両面に形成される場合に限られず、支持体5Aの一方の面のみ、または支持体5Aの他方の面のみに形成しても良い。
【0047】
多層膜5Bは、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金によって構成された第1層51と、この第1層51とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスによって構成された第2層52とを備えており、これらの第1層51と第2層52との間には異種物質界面53が形成されている。
図8に示す例では、多層膜5Bは、支持体5Aの一方の面(
図8の左端面)に、各5つの第1層51と第2層52とがこの順に交互に積層されて計10層の膜構造として形成されている。なお、第1層51と第2層52の数は任意であって、
図8に示す例とは異なり、支持体5Aの一方の面(
図8の左端面)に複数の第2層52と第1層51とをこの順に交互に積層して多層膜を形成しても良い。また、多層膜5Bは、第1層51と第2層52をそれぞれ少なくとも1層以上有し、第1層51と第2層52との間に形成される異種物質界面53が1つ以上設けられていれば良い。
【0048】
第1層51は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co及びこれらの合金のうちの何れかによって構成されている。ここで、第1層51を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうちの2種以上から成るものが好ましい。また、第1層51を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加物を添加したものであっても良い。
【0049】
第2層52は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co及びこれらの合金或いはSiCのうちの何れかによって構成されている。ここで、第2層52を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうちの2種以上から成るものが好ましい。また、第2層52を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加物を添加したものであっても良い。
【0050】
第1層51と第2層52との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層-第2層」として表示すると、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coの組み合わせが好ましい。なお、第2層52をセラミックで構成する場合には、Ni-SiCの組み合わせが望ましい。
【0051】
発熱体5の多層膜5Bを構成する第1層51と第2層52の厚さは、各々1000nm未満であることが好ましい。第1層51と第2層52の各厚さが1000nm未満であると、第1層51と第2層52は、バルク特性を示すことのないナノ構造を維持することができる。因みに、第1層51と第2層52の各厚さが1000nm以上である場合には、水素が多層膜5Bを透過しにくくなる。第1層51と第2層52の各厚さは、500nm未満であることが望ましい。第1層51と第2層52の各厚さが500nm未満であると、第1層51と第2層52は、バルク特性を全く示さないナノ構造を維持することができる。発熱体5は、
図8に示すように、多層膜5B内を水素がホッピングしながら透過するように構成されている。すなわち、第1層51と第2層52との間に形成された異種物質界面53は、水素を透過させる。
図8においては、多層膜5B内を水素がホッピングしながら透過する様子を破線矢印で示している。
【0052】
ここで、発熱体5を水素が透過する際の発熱(過剰熱の発生)のメカニズムを
図9に基づいて説明する。
【0053】
図9は発熱体5における過剰熱発生のメカニズムを説明する模式図である。
図9は、発熱体5の多層膜5Bの第1層51と第2層52が面心立方構造を有する水素吸蔵金属によって構成されており、第1層51の金属格子中の水素が異種物質界面53を透過して、第2層52の金属格子中に移動している様子を示している。発熱体5に水素が供給されると、支持体5Aと多層膜5Bが水素を吸蔵する。ここで、発熱体5は、水素の供給が停止しても、支持体5Aと多層膜5Bによって水素を吸蔵した状態を維持する。
【0054】
そして、電気ヒータ9による発熱体5の加熱が開始されると、支持体5Aと多層膜5Bに吸蔵されている水素が放出される。ここで、水素は軽く、或る物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)を水素がホッピングしながら量子拡散していることが知られている。発熱体5は、異種物質界面53を水素が量子拡散によって透過し、或いは、異種物質界面53を水素が拡散によって透過することによって、電気ヒータ9による加熱量以上の熱量の熱が過剰熱として発生する。
【0055】
本実施の形態では、発熱体5の一方の面(表面)が第1流路6と対面し、発熱体5の他方の面(裏面)が第2流路7と対面するように、第1流路6、発熱体5及び第2流路7がこの順に積層されている。このため、第1流路6が水素系ガスの導入により昇圧され、第2流路7が透過ガスの回収によって減圧される。これにより、第1流路6の水素の圧力(「水素分圧」と称する)が第2流路7の水素分圧よりも高くなり、発熱体5の両側に水素の圧力差(「水素分圧の差」と称する)が生じる。
【0056】
上述のように発熱体5の両側に水素分圧の差が生じると、第1流路6に導入された水素系ガスに含まれる水素分子が発熱体5の一方の面(表面)に吸着し、この水素分子が2つの水素原子に解離し、解離した水素原子が発熱体5の内部に侵入する。すなわち、発熱体5に水素が吸蔵される。発熱体5の内部に侵入した水素原子は、量子拡散によって異種物質界面53を透過し、或いは、拡散によって異種物質界面53を透過する。発熱体5の低圧側に配された他方の面(裏面)では、発熱体5を透過した水素原子が再結合し、水素分子となって第2流路7へと放出される。すなわち、発熱体5から水素が放出される。
【0057】
以上のように、発熱体5は、高圧側の第1流路6から低圧側の第2流路7へと水素を透過させることによって過剰熱を発生する。第1流路6が第2流路7よりも高圧の状態を維持することによって、発熱体5の表面での水素の吸蔵と、発熱体5の裏面での水素の放出とが同時に行われる状態を維持することができる。なお、同時とは、完全に同時であることに限られず、実質的に同時であるとみなせる程度に僅かな時間内を意味する。水素の吸蔵と放出とが同時に行われることによって、水素が発熱体5を連続的に透過するため、発熱体5から過剰熱が効率良く発生する。
【0058】
<発熱体の製造方法>
ここで、発熱体5の製造方法の一例について説明する。
【0059】
発熱体5は、板状の支持体5Aを準備し、蒸着装置を用いて、第1層51や第2層52となる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を気相状態とし、この気相状態の水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を支持体5Aの表面に付着させ、第1層51と第2層52を交互に成膜することによって発熱体5が製造される。この場合、第1層51と第2層52を真空状態で連続的に成膜することが好ましく、このようにすることによって、第1層51と第2層52との間に、自然酸化膜が形成されることなく異種物質界面53のみが形成される。支持体5Aとしては、例えば、Ni板が使用される。
【0060】
蒸着装置としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を物理的な方法で支持体5Aの表面に蒸着させる物理蒸着装置や、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を化学的な方法で支持体5Aの表面に蒸着させる化学蒸着装置などが用いられる。物理蒸着装置としては、スパッタリング装置、真空蒸着装置などが使用される。化学蒸着装置としては、ALD(Atomic Layer Deposition)装置などが使用される。また、溶射法、スピンコート法、スプレーコート法、ディピング法、電気めっき法などによって支持体5Aの表面に第1層51と第2層52を交互に成膜しても良い。
【0061】
本実施の形態に係る発熱体5は、
図8に示すように、支持体5Aに対して第1層51と第2層52を交互に積層することによって多層膜5Bを構成したが、発熱体5の構成はこれに限らない。ここで、発熱体5の構成の変形例1及び変形例2をそれぞれ
図10と
図11に基づいて説明する。なお、
図10は変形例1に係る発熱体60の構成を示す断面図であり、
図11は変形例2に係る発熱体70の構成を示す断面図である。
【0062】
<発熱体の変形例1>
図10に示すように、発熱体60は、支持体60Aと多層膜60Bとを有している。ここで、支持体60Aの構成は、
図8に示す発熱体5の支持体5Aの構成と同じであるため、この支持体60Aについての説明は省略する。
【0063】
多層膜60Bは、支持体60Aに形成されている。多層膜60Bは、第1層61と第2層62に加えて、第1層61及び第2層62とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスによって構成された第3層63をさらに有している。第1層61の構成は、
図7に示す発熱体5の第1層51と同じであり、第2層62の構成は、発熱体5の第2層52の構成と同じであるため、第1層61と第2層62の説明は省略する。
【0064】
第1層61と第2層62との間には異種物質界面64が形成されている。そして、第1層61と第3層63との間には、異種物質界面65が形成されている。異種物質界面64及び異種物質界面65は、発熱体5の異種物質界面53と同様に、水素を透過させる。発熱体60においては、水素が異種物質界面64及び異種物質界面65を透過し、或いは、水素が異種物質界面64及び異種物質界面65で拡散することによって過剰熱が発生する。
【0065】
多層膜60Bは、第2層62と第3層63との間に第1層61を設けた多層の膜構造として支持体60Aに形成されている。
図10に示す例では、多層膜60Bは、支持体60Aの一方の面(
図10の上端面)に、第1層61、第2層62、第1層61、第3層63がこの順に交互に積層されている。多層膜60Bは、
図10に示す例とは異なる膜構造、すなわち、支持体60Aの一方の面(
図10の上端面)に、第1層61、第3層63、第1層61,第2層62がこの順に交互に積層された膜構造として形成しても良い。多層膜60Bは、支持体60Aの一方の面(
図10の上端面)に形成される場合に限らず、支持体60Aの他方の面(
図10の下端面)または支持体60Aの両面(
図10の上端面と下端面)に形成しても良い。なお、第1層61,第2層62、第3層63の数は任意である。多層膜60Bとしては、第3層63を1つ以上有していれば良い。
【0066】
ここで、第3層63は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coまたはこれらの合金、或いはSiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成されている。第3層63を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうちの2種以上から成るものが望ましい。なお、第3層63を構成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加したものを用いても良い。
【0067】
特に、第3層63は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかにより構成されることが望ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成された第3層63を有する発熱体60は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面64及び異種物質界面65を透過する水素の量が増加するため、当該発熱体60が発生する過剰熱が増えて高出力化が図られる。
【0068】
第3層の厚さは、1000nm未満であることが望ましい。第3層63の厚さが1000nm未満であると、第3層63は、バルク特性を示すことのないナノ構造を維持することができる。特に、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOのうちの何れかによって構成される第3層63は、厚さが10nm以下であることが望ましい。第3層63の厚さが10nm以下であると、多層膜60Bは、水素を容易に透過させることができる。
【0069】
CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成される第3層63は、完全な厚さが10nm以下であることが望ましい。これにより、多層膜60Bは、完全な膜状に形成されることなくアイランド状に形成されていても良い。また、第1層61と第3層63は、真空状態で連続的に成膜されることが望ましい。このようにすることによって、第1層61と第3層63との間には、自然酸化膜が形成されることなく、異種物質界面65のみが形成される。
【0070】
第1層61と第2層62及び第3層63の組み合わせとしては、元素の種類を「第1層-第3層-第2層」として表示すると、Pd-CaO-Ni、Pd-Y2O3-Ni、Pd-TiC-Ni、Pd-LaB6-Ni、Ni-CaO-Cu、Ni-Y2O3-Cu、Ni-TiC-Cu、Ni-LaB6-Cu、Ni-Co-Cu、Ni-CaO-Cr、Ni-Y2O3-Cr、Ni-TiC-Cr、Ni-LaB6-Cr、Ni-CaO-Fe、Ni-Y2O3-Fe、Ni-TiC-Fe、Ni-LaB6-Fe、Ni-Cr-Fe、Ni-CaO-Mg、Ni-Y2O3-Mg、Ni-TiC-Mg、Ni-LaB6-Mg、Ni-CaO-Co、Ni-Y2O3-Co、Ni-TiC-Co、Ni-LaB6-Co、Ni-CaO-SiC、Ni-Y2O3-SiC、Ni-TiC-SiC、Ni-LaB6-SiCの何れかであることが望ましい。
【0071】
<発熱体の変形例2>
本変形例に係る発熱体70の多層膜70Bは、
図11に示すように、支持体70Aと多層膜70Bとを有しているが、支持体70Aの構成は、
図8に示す発熱体5の支持体5Aの構成と同じであるため、該支持体70Aについての説明は省略する。
【0072】
多層膜70Bは、支持体70Aに形成されており、第1層71と第2層72及び第3層73に加えて、これらの第1層71と第2層72及び第3層73とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスによって構成された第4層74をさらに有している。第1層71と第2層72及び第3層73の構成は、
図10に示す発熱体60の第1層61、第2層62及び第3層63の構成と同じであるため、これらの第1層71と第2層72及び第3層73についての説明は省略する。
【0073】
第1層71と第2層72との間には、異種物質界面75が形成されており、第1層71と第3層73との間には、異種物質界面76が形成されている。また、第1層71と第4層74との間には、異種物質界面77が形成されている。これらの異種物質界面75,76,77は、発熱体5の異種物質界面53と同様に水素を透過させる。発熱体70においては、水素が量子拡散によって異種物質界面75,76,77を透過し、或いは水素が異種物質界面75,76,77で拡散することによって過剰熱が発生する。
【0074】
図11においては、支持体70Aの表面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層73、第1層71、第4層74の順に積層されている。なお、支持体70Aの表面に、第1層71、第4層74、第1層71、第3層73、第1層71、第2層72をこの順に積層しても良い。すなわち、多層膜70Bは、第2層72、第3層73、第4層74を任意の順に積層するとともに、第2層72、第3層73、第4層74のそれぞれの間に第1層71を設けた積層構造とされている。ここで、第1層71と第4層74との間に形成された異種物質界面75は、水素原子を透過させる。なお、多層膜70Bは、第4層74を1つ以上有していれば良い。
【0075】
ところで、第4層74は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coまたはこれらの合金、或いはSiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成されている。ここで、第4層74を構成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうちの2種以上から成るものであることが望ましい。なお、第4層74を構成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加したものを用いても良い。
【0076】
特に、第4層74は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成されることが望ましい。ここで、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成される第4層74を有する発熱体70においては、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面75,76,77を透過する水素の量が増加するため、当該発熱体70が発生する過剰熱の高出力化が図られる。
【0077】
第4層74の厚さは、1000nm未満であることが望ましい。第4層74の厚さが1000nm未満であると、第4層74は、バルク特性を示すことのないナノ構造を維持することができる。特に、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成される第4層74は、水素原子を容易に透過させるために10nm以下であることが望ましい。第4層74の厚さが10nm以下であると、多層膜70Bは、水素を容易に透過させることができる。
【0078】
また、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成される第4層74は、厚さが完全な膜状に形成されることなく、アイランド状に形成されても良い。さらに、第1層71と第4層74は、真空状態で連続的に成膜されることが望ましく、このようにすることによって、第1層71と第4層74との間には、自然酸化膜が形成されることなく異種物質界面75のみが形成される。
【0079】
第1層71、第2層72、第3層73及び第4層74の組み合わせとしては、元素の種類を「第1層-第4層-第3層-第2層」として表示すると、Ni-CaO-Cr-Fe、Ni-Y2O3-Cr-Fe、Ni-TiC-Cr-Fe、Ni-LaB6-Cr-Feの組み合わせが望ましい。なお、多層膜70Bの構成、例えば、各層の厚さの比率、各層の数、材料は、加熱される温度に応じて適宜任意に設定することができる。
【0080】
(発熱装置の作用)
次に、以上のように構成された発熱装置1の作用について説明する。
【0081】
制御部2からの制御信号によって循環ポンプ14が駆動されると、該循環ポンプ14から吐出される水素(水素系ガス)は、水素供給ラインL1の導入配管12と該導入配管12から分岐する4本の分岐管15から発熱モジュールMの各積層構造体4に形成された各第1流路6へと導入される。なお、水素(水素系ガス)は、導入配管12を流れる過程においてバッファタンク17によって圧力変動が抑制されるとともに、圧力調整弁18によって所定値に減圧される。
【0082】
また、発熱モジュールMに設けられた電気ヒータ9は、電源10から供給される電力によって発熱し、第1流路6内の水素を介して発熱体5を所定温度(例えば、50℃~1500℃)に加熱する。なお、前述のように発熱体5の温度は、温度センサ11によって検出される温度に基づいて電源10の出力が制御部2で制御されることによって適正な値に調整される。ここで、電気ヒータ9は、発熱モジュールM内の2つの積層構造体4の間、具体的には、2つの積層構造体4の対面する第1流路6の間に介装したため、この電気ヒータ9の熱が密閉容器3からの放熱によって周囲に散逸することがない。このため、発熱体5が効率良く適正温度に加熱され、その消費電力が低く抑えられる。
【0083】
ところで、発熱モジュールMの各第1流路6へと導入された水素は、前述のように発熱体5を透過して第2流路7へと流入するが、この水素が発熱体5を透過することによって該発熱体5が発熱する。この発熱体5が発熱するメカニズムについては前述したが(
図9参照)、各発熱体5の一方の面(表面)においては、水素分子が吸着され、この水素分子が2つの水素原子に解離し、解離した水素原子は、発熱体5の内部に侵入する。すなわち、発熱体5に水素が吸蔵され、水素原子は、発熱体5の内部を拡散しながら通過する。また、発熱体5の他方の面(裏面)においては、該発熱体5を通過した水素原子が再結合し、水素分子となって放出される。すなわち、発熱体5から水素が放出される。そして、発熱体5は、水素を吸蔵することによって発熱し、また、水素を放出することによっても発熱する。
【0084】
上述のように、発熱モジュールMの各発熱体5を透過(通過)して該発熱体5の発熱に供された水素(透過水素)は、各分岐管16へと流出して回収配管13において合流した後、循環ポンプ14に吸引されて回収される。以下、同様の動作が繰り返されて水素が水素循環ラインL1を循環し、その過程で発熱モジュールMの各発熱体5の発熱に供される。このように、本実施の形態においては、水素が閉ループを構成する水素循環ラインL1を連続して循環するため、水素の補給が不要となって経済的である。また、発熱体5を通過した高温の水素(透過水素)によって各発熱体5の過冷却が防がれるため、各発熱体5の発熱が促進される。
【0085】
ところで、
図1に示すように、水素が導入される第1流路6は、分岐管15と導入配管12を介して循環ポンプ14の吐出側に接続され、透過水素が流れ込む第2流路7は、分岐管16と回収配管13を介して循環ポンプ14の吸入側に接続されているため、第1流路6の圧力の方が第2流路7の圧力よりも高く、したがって、第1流路6と第2流路7との間には差圧が生じる。
【0086】
ここで、発熱体5は、非常に薄いために変形し易く、第1流路6と第2流路7との差圧によって、
図12に示すように、この発熱体5が圧力の低い第2流路7側(
図12の上方)に向かって膨出するように円弧曲面状に撓み変形することは前述の通りである(
図16参照)。
【0087】
本実施の形態に係る発熱装置1においては、
図5及び
図6に示すように、第1の隔壁24の発熱体5に対向する面に複数のサポート25を発熱体5に向かって突設したため、
図12に模式的に示すように、撓み変形した発熱体5がサポート25に接触して該サポート25によって受けられる。このため、発熱体5のそれ以上の変形が防がれ、発熱体5の撓み変形がサポート25によって小さく抑えられる。すなわち、発熱体5の最大撓み量は、δ(隙間)に抑えられる。この結果、発熱体5の変形に伴う多層膜5Bの支持体5A(
図8参照)からの剥がれが防がれて当該発熱体5の耐久性が高められるとともに、発熱体5の発熱作用が変形によって阻害されることがなく、発熱体5は、安定して発熱作用を行うことができるために高い発熱効率と熱交換効率が得られる。
【0088】
また、本実施の形態に係る発熱装置1においては、発熱モジュールMを構成する各積層構造体4において、第3流路8を第2流路7に隣接して配置したため、第3流路8を流れる熱媒体が第2流路7を流れる透過水素(透過ガス)との熱交換によって効率良く加熱される。すなわち、第2流路7と第3流路8が熱交換器として機能し、発熱体5において発生した熱が透過水素(透過ガス)を介して熱媒体に効率良く回収される。そして、発熱体5において発生した熱の一部は、透過水素(透過ガス)から第1の隔壁24を経て複数の放熱部材27へと伝達され、これらの放熱部材27からの放熱によって熱媒体が効率良く加熱される。すなわち、複数の放熱部材27によって第1の隔壁24の伝熱面積が大きくなるため、発熱体5と透過水素(透過ガス)との熱交換効率が高められ、発熱体5おいて発生した熱が熱媒体によって一層効率良く回収される。
【0089】
さらに、発熱体5において発生した熱の一部は、該発熱体5に接触してこれを支持するサポート25を経て第1の隔壁24に伝導し、この熱は、第1の隔壁24から放熱部材27へと伝導して熱媒体の加熱に供されるため、発熱体5において発生した熱が熱媒体によって一層効果的に回収される。
【0090】
(伝熱量の計算結果とその考察)
ここで、サポート25を設けない場合と、格子状に配置されたサポート25を設けた場合について第1の隔壁24と第2の隔壁26の温度および伝熱量(放射熱量と伝導熱量及びそれらの合計)を計算した結果を表1に示す。また、サポート25と放熱部材27に使用したニッケルの物性データと、第1の隔壁24及び第2の隔壁26に使用したステンレス鋼(SUS)の物性データは、それぞれ表2、表3に示す通りであり、これらの物性データを用いて温度と伝熱量を計算した。なお、サポート25としては、
図5に示すように、プレートを格子状に配置したものを使用し、そのサポート25の数、格子の区画数と区画サイズをそれぞれ表1に示すように変化させ、それぞれCase0、Case1、Case2、Case3とした。なお、サポート25の高さは1mm、厚さは0.1mmとした。
【0091】
表1に示すCase0は、サポート無しの場合、Case1は、サポート25の数が2、格子の分割数が4、格子の区画サイズが10.5mmである場合、Case2は、サポート25の数が6、格子の分割数が16、格子の区画サイズが5.25mmである場合、Case3は、サポート25の数が14、格子の分割数が64、格子の区画サイズが2.625mmである場合である。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
表1に示す結果から、サポート25の数が多い方が第1の隔壁24と第2の隔壁26に伝わる熱量が大きいことが分かる。例えば、サポート無しであるCase0の場合の第2の隔壁26の温度が768.4℃であるのに対して、サポート25の数が14(64分割)であるCase3では、第2の隔壁26の温度が894.8℃となり、サポート無しのCase0の場合よりも120°以上も高くなることが分かる。
【0096】
また、後述の熱利用システム(
図14参照)の熱媒体循環ラインL2の第4配管31dから発熱モジュールMへと戻される熱媒体は、第4配管31dから2本の分岐管31eを経て各第3流路8へとそれぞれ導入され、各第3流路8を流れる過程において、第3流路8の両側に配置された2つの第2流路7を流れる高温の透過水素との間で熱交換して加熱される。すなわち、熱媒体は、第2流路7を流れる高温の透過ガスから熱を奪って加熱され、その熱を熱利用装置30(
図14参照)へと輸送して該熱利用装置30の熱源としての利用に供する。この場合、第3流路8を流れる熱媒体は、第3流路8の両側に配置された2つの第2流路7を流れる透過ガスによって効果的に加熱されるため、この熱媒体の熱回収効率が高められる。したがって、発熱モジュールMは、熱交換器としての機能を兼備しており、この発熱モジュールMを備える発熱装置1は、発熱・熱交換一体式の形態を備えている。
【0097】
すなわち、発熱モジュールMの各第3流路8を流れる過程において透過ガスとの熱交換によって加熱された熱媒体は、各第3流路8から分岐管31fを経て第1配管31aに合流し、この第1配管31aを経て熱利用装置30へと供給され、熱利用装置30は、熱媒体から供給される熱を利用して発電などの所要の仕事を行う。そして、熱利用装置30に熱を供給して温度の下がった熱媒体は、第4配管31d及び分岐管31eを経て発熱モジュールMへと戻され、この発熱モジュールMにおいて再び加熱される。以後、同様の作用が連続的に繰り返されて熱利用装置30が連続的に駆動される。
【0098】
以上のように、本実施の形態に係る発熱装置1は、熱媒体が流通する第3流路8の両側に、当該第3流路8から順に、発熱体5を透過した水素(透過水素)を受ける第2流路7、発熱体5、発熱体5に水素を導入するための第1流路6を順次対称的に積層して構成される積層構造体4と、発熱体5を加熱する電気ヒータ9とを備え、積層構造体4は、発熱体5と第1流路6、第2流路7及び第3流路8が高密度に積層されて構成されているため、この積層構造体4は、熱を効率良く発生することができるとともに、積層構造体4とこれを含む発熱装置1の小型・コンパクト化が図られる。
【0099】
また、積層構造体4においては、発熱体5が発生する熱は、第3流路8を流れる熱媒体と、第3流路8の両側に配置された第2流路7を流れる水素(透過ガス)との熱交換によって熱媒体に効率良く与えられるため、発熱体5において発生した熱を熱媒体によって効率良く回収することができる。
【0100】
なお、本実施の形態では、2つの積層構造体4を2段に重ねて発熱モジュールMを構成したが、3つ以上の積層構造体4を3段以上に重ねて多段構造の発熱モジュールMとしても良く、このようにすることによって、発熱モジュールMは、一層効率良く熱を発生し、その高出力化が図られる。
【0101】
発熱装置1は、各第1流路6へと導入された水素のうち、発熱体5を透過しなかった水素(「非透過水素」とも称する)を図示しない非透過水素回収ラインを用いて回収し、回収配管13の循環ポンプ14の上流側(低圧側)へと戻し、導入配管12及び分岐管15から再び各第1流路6へと導入されて各発熱体5の発熱に供されるように構成しても良い。
【0102】
ところで、
図5に示すように、第1の隔壁24から突出する複数のサポート25の先端が発熱装置1の非作動時に発熱体5に接触せず、両者の間に図示の隙間δが形成されている場合には、発熱体5は、発熱装置1の作動時には、
図12に示すように、図の上方に向かって膨出するように湾曲する。これに対して、発熱装置1の非作動時において複数のサポート25の先端が
図7に示すように発熱体5に接触している場合には、
図13に示すように、発熱体5は、隣接するサポート25の間においてそれぞれ上方に膨出するように撓み変形する。この場合、発熱体5の各サポート25間での撓み変形量は、
図12に示す場合の撓み変形量に対して小さく抑えられるため、発熱体5に作用する応力が小さく抑えられ、該発熱体5の塑性変形が防がれてその耐久性が高められる。また、全てのサポート25の先端が発熱体5に接触しているため、これらのサポート25を経て第1の隔壁24側への熱伝導が促進される。
【0103】
ここで、サポート25が
図6に示すような格子状の金属プレートで構成されている場合、つまり、ニッケル製の発熱体5が格子状のサポート25によって区画された部分(四周が金属プレートによって拘束されている部分)に作用する最大応力を試算した。試算においては、サポート25を構成する金属プレートの格子間隔を10mm、厚さを0.1mm、発熱体5に作用する圧力を100KPaとした場合、発熱体5の区画された各部分に作用する最大応力は、287MPaであった。
【0104】
ところで、発熱体5の材料であるニッケルの強度(引張強度と降伏強度)は、温度依存性を有し、例えば、温度900℃での降伏応力は、約16MPaとなる。このため、発熱体5の各区画部分に作用する最大応力287MPaは、ニッケルの温度900℃における降伏応力16MPaを超えてしまい、発熱体5が塑性変形する可能性がある。
【0105】
そこで、上記塑性変形の発生を防ぐため、安全係数を見込み、例えば、降伏応力16MPaの3/4以下の12MPa(最大応力287MPaの1/24)に応力を低減する必要がある。したがって、発熱体5の各格子部分に作用する最大応力を12MPa以下に抑えるには、サポート25の間隔(発熱体5の格子間隔)aを、10mm/√24=1.8mm以下に設定する必要がある。
【0106】
ところで、発熱体5の厚さtと各格子部分に作用する圧力pが一定である場合、発熱体5の各格子部分に作用する最大応力は、サポート25の間隔(格子間隔)aの二乗に比例する。また、発熱体5の動作温度が低くなるほど、降伏応力が大きくなるため、サポート25の間隔aを大きくすることができる。また、発熱体5に作用する圧力差が小さい場合には、これに比例して発熱体5に作用する応力も小さくなるため、やはりサポート25の間隔aを大きくすることができる。
【0107】
以上の関係を温度をTとして近似式で表すと、サポート25の間隔aは、
a<0.866t{(177-0.183T)/(0.287p)}0.5
を満足することが望ましい。
【0108】
[熱利用システム]
次に、本発明に係る発熱装置1において発生する熱を利用するための熱利用システムを
図12に基づいて以下に説明する。
【0109】
図12に示す熱利用システムは、本発明に係る前記発熱装置1と熱利用装置30とを備えている。ここで、熱利用装置30は、発熱装置1において発生する熱によって加熱された熱媒体を熱源として発電する装置であって、熱媒体循環ラインL2と、ガスタービン32と、蒸気発生器33と、蒸気タービン34と、スターリングエンジン35及び熱電変換部36を備えている。以下、これらの熱媒体循環ラインL2と、ガスタービン32と、蒸気発生器33と、蒸気タービン34と、スターリングエンジン35及び熱電変換部36について以下にそれぞれ説明する。
【0110】
(熱媒体循環ライン)
熱媒体循環ラインL2は、発熱装置1の発熱モジュールM、ガスタービン32、蒸気発生器33、蒸気タービン34、スターリングエンジン35及び熱電変換部36との間で熱媒体を循環させる閉ループを構成している。具体的には、この熱媒体循環ラインL2は、発熱モジュールMの第3流路8の出口側から延びてガスタービン32に接続された第1配管31aと、ガスタービン32と蒸気発生器33とを接続する第2配管31bと、蒸気発生器33とスターリングエンジン35とを接続する第3配管31cと、スターリングエンジン35から延びて発熱モジュールMの第3流路8の入口側に接続された第4配管31dを備えている。ここで、第1配管31aの途中には、循環ポンプ37と流量制御弁38が設けられている。なお、循環ポンプ37には、メタルベローズポンプなどが用いられ、流量制御弁38には、バリアブルリークバルブなどが用いられる。
【0111】
(ガスタービン)
ガスタービン32は、同軸によって連結されたコンプレッサ32aとタービン32bを備えており、タービン32bの出力軸には発電機40が連結されている。
【0112】
(蒸気発生器)
蒸気発生器33は、蒸気タービン34を駆動するための高圧蒸気を発生するものであって、第2配管31bに連なる内部配管33aと、この内部配管33aに対向する熱交換配管33bを備えている。ここで、熱交換配管33bは、蒸気配管33cを介して蒸気タービン34の入口側に接続されるとともに、給水配管33dを介して蒸気タービン34の出口側に接続されている。なお、図示しないが、給水配管33dには復水器と給水ポンプが設けられている。また、蒸気タービン34の出力軸には、発電機50が接続されている。
【0113】
(スターリングエンジン)
スターリングエンジン35は、シリンダ35aと、ディスプレーサピストン35bと、パワーピストン35cと、流路35dと、クランク部35eを備えている。ここで、シリンダ35aの内部は、ディスプレーサピストン35bによって膨張空間S1と圧縮空間S2とに区画されており、これらの膨張空間S1と圧縮空間S2には作動流体が封入されている。なお、作動流体としては、ヘリウムガス、水素系ガス、空気などが用いられるが、本実施の形態では、ヘリウムガスを用いている。
【0114】
また、流路35dは、シリンダ35aの外部に設けられており、膨張空間S1と圧縮空間S2とを連通させている。そして、この流路35dは、膨張空間S1と圧縮空間S2との間で作動流体を流通させる機能を果たし、高温部35fと、低温部35g及び再生器35hを備えている。膨張空間S1の作動流体は、高温部35f、再生器35h、低温部35gを順次通過して圧縮空間S2へと流入する。そして、圧縮空間S2の作動流体は、低温部35g、再生器35h、高温部35fを順次通過して膨張空間S1に流入する。
【0115】
高温部35fは、作動流体を加熱するための熱交換器であって、この高温部35fの外部には伝熱管35iが設けられている。この伝熱管35iは、第3配管31cと第4配管31dとを接続しており、第3配管31cから第4配管31dへと熱媒体を流通させる機能を果たす。そして、第3配管31cから伝熱管35iへと熱媒体が流れることによって、熱媒体の熱が高温部35fへと伝達され、高温部35fを通過する作動流体が加熱される。
【0116】
低温部35gは、作動流体を冷却するための熱交換器であって、この低温部35gの外部には冷却管35jが設けられている。この冷却管35jは、水などの冷却媒体を供給する不図示の冷却媒体供給部に接続されており、冷却媒体供給部から供給される冷却媒体を通過させる。そして、冷却管35jに冷却媒体が流れることによって、低温部35gを通過する作動流体が冷却媒体に熱を奪われて冷却される。
【0117】
再生器35hは、蓄熱用の熱交換器であって、高温部35fと低温部35gとの間に設けられている。この再生器35hは、作動流体が膨張空間S1から圧縮空間S2へと移動する際に、高温部35fを通過した作動流体から熱を受け取って蓄積する。また、再生器35hは、作動流体が圧縮空間S2から膨張空間S1へと移動する際に、低温部35gを通過した作動流体に対して、蓄積している熱を与えて作動流体を加熱する。
【0118】
クランク部35eは、シリンダ35aの他端に設けられており、不図示のクランクケースに回転可能に支持されたクランクシャフト、ディスプレーサピストン35bに接続されたロッド、パワーピストン35cに接続されたロッド、各ロッドとクランクシャフトとを連結する連結部材などを備えており、ディスプレーサピストン35bとパワーピストン35cの往復直線運動を回転運動に変換する機能を果たす。そして、当該スターリングエンジン35のクランクシャフトには発電機80が接続されている。
【0119】
(熱電変換部)
熱電変換部36は、第4配管31dを流通する熱媒体の熱をゼーベック効果を利用して電力に変換するものであって、例えば、300℃以下の熱媒体の熱を電力に変換する。この熱電変換部36は、筒状に形成されており、第4配管31dの外周を覆うように配置されている。
【0120】
そして、熱電変換部36は、内面に設けられた熱電変換モジュール36aと、外面に設けられた冷却部36bとを備えている。ここで、熱電変換モジュール36aは、第4配管31dに対向する受熱基板、この受熱基板に設けられた受熱側電極、冷却部36bに対向する放熱基板、この放熱基板に設けられた放熱側電極、p型半導体によって形成されたp型熱電素子、n型半導体によって形成されたn型熱電素子などを備えている。本実施の形態では、熱電変換モジュール36aは、p型熱電素子とn型熱電素子とが交互に配列され、隣接するp型熱電素子とn型熱電素子とが受熱側電極と放熱側電極によって電気的に接続されている。
【0121】
また、熱電変換モジュール36aは、一端に配置されたp型熱電素子と他端に配置されたn型熱電素子に対して、リードが放熱側電極を介して電気的に接続されている。ここで、冷却部36bは、例えば、冷却水が流通する配管によって構成されており、当該熱電変換部36は、内面と外面との間に発生する温度差に応じた電力を発生する。
【0122】
(熱利用システムの作用)
次に、以上のように構成された熱利用システムの作用について説明する。
【0123】
本発明に係る発熱装置1において、前述のように発熱モジュールMの各発熱体5を水素が透過することによって発生した熱は、第3流路8を流れる熱媒体に与えられて該熱媒体が所定の温度に加熱される。そして、熱利用装置30の第1配管31aに設けられた循環ポンプ37が駆動されると、加熱された熱媒体は、閉ループを構成する発熱モジュールMの第3流路8、第1配管31a、第2配管31b、第3配管31c及び第4配管31dを循環し、この熱媒体からの熱の供給を受けてガスタービン32、蒸気タービン34、スターリングエンジン35及び熱電変換部36が順次駆動されて所要の発電がなされる。なお、このとき、流量制御弁38は、温度センサ11(
図1参照)によって検出された温度に基づいて熱媒体の流量を制御する。すなわち、流量制御弁38は、温度センサ11によって検出される発熱体5の温度が適正な上限温度を超えた場合には、熱媒体の循環流量を増やして発熱体5の温度上昇を抑える。また、流量制御弁38は、逆に温度センサ11によって検出される発熱体5の温度が適正な下限温度未満である場合には、熱媒体の循環流量を減らして発熱体5の温度低下を抑える。
【0124】
発熱装置1の発熱モジュールMによって加熱されて第3流路8から第1配管31aへと流れる高温(例えば、600℃~1500℃)の熱媒体は、ガスタービン32に導入され、このガスタービン32のコンプレッサ32aによって圧縮される。そして、圧縮された熱媒体が膨張しながらタービン32bを流れることによって、該タービン32bが回転駆動され、このタービン32bの出力軸に連結された発電機40が回転駆動されて所要の発電がなされる。すなわち、熱媒体が有する熱の一部がガスタービン32の運動エネルギーに変換され、この運動エネルギーが発電機40によって電気エネルギーに変換される。
【0125】
そして、ガスタービン32から第2配管31bへと吐出される熱媒体は、蒸気発生器33の内部配管33aを流れる過程で、熱交換配管33bを流れる缶水との間で熱交換して缶水を加熱する。この結果、蒸気発生器33において、高温(300℃~700℃)・高圧の蒸気が発生し、この蒸気が蒸気配管33cを経て蒸気タービン34に供給される。この結果、蒸気タービン34が蒸気によって回転駆動され、この蒸気タービン34の回転によって発電機50も同時に回転駆動されて所要の発電がなされる。すなわち、熱媒体が有する熱の一部が蒸気タービン34の運動エネルギーに変換され、この運動エネルギーが発電機50によって電気エネルギーに変換される。なお、蒸気タービン34の駆動に供されて温度の下がった蒸気は、不図示の復水器において冷却されて缶水に戻され、この缶水が給水配管33dから蒸気発生器33の熱交換配管33bへと流れ、その過程において、缶水が内部配管33aを流れる熱冷媒によって加熱されて蒸気となる。
【0126】
また、蒸気発生器33の内部配管33aを流れる過程で蒸気の発生に供された温度300℃~1000℃の熱媒体は、内部配管33aから第3配管31cを経てスターリングエンジン35へと供給され、前述の作用によってスターリングエンジン35の駆動に供される。この結果、スターリングエンジン35のクランクシャフトが回転駆動され、このクランクシャフトに連結された発電機80も回転駆動されて所要の発電がなされる。すなわち、熱媒体が有する熱の一部がスターリングエンジン35の運動エネルギーに変換され、この運動エネルギーが発電機80によって電気エネルギーに変換される。
【0127】
上述のようにスターリングエンジン35の駆動に供された熱媒体は、第4配管31dを経て熱電変換部36へと供給され、この熱媒体の熱の一部が前述のようにゼーベック効果によって電力に変換される。すなわち、熱媒体が有する熱の一部が熱電変換部36によって電気エネルギーに変換される。
【0128】
そして、熱電変換部36において発電に供されて温度が低下した熱媒体は、第4配管31dから発熱モジュールMの第3流路8の入口側へと戻され、以後、同様の作用が連続的に繰り返され、発熱モジュールMにおいて発生した熱が熱媒体によって回収され、その熱エネルギーが電気エネルギーに変換される。
【0129】
なお、本実施の形態では、熱媒体によって回収された熱によってガスタービン32と蒸気タービン34及びスターリングエンジン35を駆動し、その運動エネルギーを発電機40,50,80によって電気エネルギーに変換するとともに、熱電変換部36によって熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する構成を採用したが、ガスタービン32、蒸気タービン34、スターリングエンジン35及び熱電変換部36を任意に組み合わせて熱利用装置30を構成しても良い。
【0130】
また、以上の実施の形態では、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱利用装置30について説明したが、本発明に係る発熱装置1によって発生する熱は、発電以外の他の用途、例えば、ボイラーに供給される燃焼用空気の予熱、化学吸収法によってCO2を吸収した吸収液の加熱、メタン製造装置におけるCO2とH2を含む原料ガスの加熱などの他、ヒートポンプシステム、熱輸送システム、冷熱(冷凍)システムなどに利用することができる。
【0131】
ところで、以上説明した熱利用システムにおいては、発熱装置1において発生する熱を第3流路8を流れる熱媒体によって回収して熱利用装置30に供するように構成したが、第3流路8を設けないで、第2流路7を流れる透過ガスによって直接熱回収しても良い。この場合は、第2の隔壁26と放熱部材27が不要となり、第1の隔壁24とサポート25が放熱部材として機能するため、伝熱面積が増えて熱回収効率が高められる。このような構成を採用する場合、第2流路7に別の熱媒体を導入し、第2流路7から透過ガスと熱媒体を回収し、水素透過膜などによって透過ガスと熱媒体とを分離し、透過ガスを水素循環ラインL1に戻すとともに、熱媒体を熱利用装置30に供するよう構成することが望ましい。
【0132】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0133】
1 発熱装置
5 発熱体
6 第1流路
7 第2流路
8 第3流路
24 第1の隔壁
25 サポート
26 第2の隔壁
27 放熱部材