(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172992
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】発熱セル、発熱装置及び熱利用システム
(51)【国際特許分類】
F24V 30/00 20180101AFI20221110BHJP
C01B 3/00 20060101ALI20221110BHJP
F28F 9/02 20060101ALI20221110BHJP
F28F 9/22 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
F24V30/00 302
C01B3/00 B
F28F9/02 E
F28F9/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079384
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 了紀
(72)【発明者】
【氏名】岩村 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 英樹
【テーマコード(参考)】
3L065
4G140
【Fターム(参考)】
3L065DA14
4G140AA33
4G140AA34
(57)【要約】
【課題】耐久性が高くて安定して発熱することができる発熱セルと、小型・コンパクトでありながら高出力で耐久性の高い発熱装置及びこの発熱装置において発生した熱を効率良く回収してこれを有効に利用することができる熱利用システムを提供する。
【解決手段】筒状の支持体の内周面に、水素の吸蔵と放出によって発熱する多層膜を形成して発熱セル1を構成する。また、密閉容器21内において、複数の発熱セル1をセパレータ22に貫通させ、これらの発熱セル1の軸方向両端を第1空間S1と第2空間S2に開口させるとともに、各発熱セル1を加熱するためのヒータ2を設けて発熱装置20を構成する。さらに、発熱装置20と、水素供給ラインと、水素回収ラインと、熱利用装置と、熱媒体供給ライン及び熱媒体回収ラインを含んで熱利用システムを構成する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の支持体の内周面に、水素の吸蔵と放出によって発熱する多層膜を形成して構成される発熱セル。
【請求項2】
請求項1に記載の発熱セルを複数備え、
密閉容器内を複数のセパレータによって軸方向に、第1空間と第2空間と第3空間とに区画し、
複数の前記発熱セルを前記セパレータに貫通させ、複数の前記発熱セルの軸方向両端を前記密閉容器内の軸方向両端の前記第1空間と前記第2空間にそれぞれ開口させるとともに、
前記各発熱セルを加熱するためのヒータを設けて構成される発熱装置。
【請求項3】
前記ヒータを加熱ワイヤーで構成し、前記加熱ワイヤーが前記発熱セルの内部に設けられた請求項2に記載の発熱装置。
【請求項4】
前記ヒータを加熱ワイヤーで構成し、前記加熱ワイヤーを前記発熱セルの前記支持体の外周に巻装した請求項3に記載の発熱装置。
【請求項5】
前記第3空間には、複数のバッフルプレートによって迷路状の流路が形成されている請求項2~4の何れか1項に記載の発熱装置。
【請求項6】
請求項2~5の何れか1項に記載の発熱装置と、
前記発熱装置の前記第1空間に水素を供給する水素供給ラインと、
前記発熱装置の前記第2空間から排出される水素を回収してこれを前記水素供給ラインへと戻す水素回収ラインと、
前記発熱装置において発生した熱を利用する熱利用装置と、
前記発熱装置の前記第3空間から排出される熱媒体を前記熱利用装置に供給する熱媒体供給ラインと、
前記熱利用装置から排出される熱媒体を回収してこれを前記発熱装置の前記第3空間へと戻す熱媒体回収ラインと、
を備える熱利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の吸蔵と放出によって発熱する発熱セルと、この発熱セルを複数備える発熱・熱交換一体式の発熱装置及びこの発熱装置において発生する熱を利用する熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、一定の反応条件の下で多量の水素を繰り返して吸蔵及び放出する特性を有しており、この水素の吸蔵と放出時にかなりの反応熱を伴うことが知られている。この反応熱を利用したヒートポンプシステム、熱輸送システム、冷熱(冷凍)システムなどの熱利用システムや水素貯蔵システムが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
ところで、本出願人などは、水素吸蔵合金などを用いた発熱体を備える発熱装置において、前記発熱体を、支持体とこの支持体に支持された多層膜とで構成することによって、当該発熱体への水素の吸蔵時と当該発熱体からの水素の放出時において熱が発生する知見を得た。そして、本出願人などは、このような知見に基づいて熱利用システム及び発熱装置を先に提案した(特許文献3参照)。
【0004】
具体的には、発熱装置の発熱体が備える支持体は、多孔質体、水素透過膜またはプロトン誘電体の少なくとも何れかで構成され、この支持体に支持される多層膜は、例えば、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金で構成された厚さ1000nm未満の第1層と、前記第1層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスで構成された厚さ1000nm未満の第2層とを交互に積層することによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56-100276号公報
【特許文献2】特開昭58-022854号公報
【特許文献3】特許第6749035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3において提案された発熱装置においては、熱を発生する発熱体が高密度で集積した状態で組み込まれていないため、発熱体が効率良く熱を発生することができず、改善の余地が残されている。
【0007】
そこで、
図17に示すように、発熱体105の両側に、発熱体105に水素を導入するための第1流路106と、発熱体105を透過した水素を受ける第2流路107をそれぞれ配置してこれらの発熱体105と第1流路106及び第2流路107とを高密度で積層することによって、発熱装置101を小型・コンパクトで発熱効率の高い高出力のものとすることが考えられる。このような構成を有する発熱装置101においては、第1流路106へと導入された水素が発熱体105を透過することによって発熱体105が発熱する。この場合、発熱体105を透過した水素(以後、「透過水素」と称することがある)は、第2流路107へと流れ込むことから、第2流路107の圧力の方が第1流路106の圧力よりも低い。
【0008】
ここで、発熱体105は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金によって構成された非常に薄い平板で構成されているため、
図18に示すように、この発熱体105が圧力の低い第2流路107側へ膨出するように円弧曲面状に撓み変形し、この撓み変形に伴って大きな応力が発生するために当該発熱体105の支持体から多層膜が剥がれる可能性があり、発熱体105の耐久性が低下するとともに、発熱体105が安定した発熱作用を行うことができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、耐久性が高くて安定して発熱することができる発熱セルと、小型・コンパクトでありながら高出力で耐久性の高い発熱装置及びこの発熱装置において発生した熱を効率良く回収してこれを有効に利用することができる熱利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る発熱セルは、筒状の支持体の内周面に、水素の吸蔵と放出によって発熱する多層膜を形成して構成される。
【0011】
また、本発明に係る発熱装置は、前記発熱セルを複数備え、密閉容器内を複数のセパレータによって軸方向に、第1空間と第2空間と第3空間とに区画し、複数の前記発熱セルを前記セパレータに貫通させ、複数の前記発熱セルの軸方向両端を前記密閉容器内の軸方向両端の前記第1空間と前記第2空間にそれぞれ開口させるとともに、前記各発熱セルを加熱するためのヒータを設けて構成される。
【0012】
さらに、本発明に係る熱利用システムは、前記発熱装置と、前記発熱装置の前記第1空間に水素を供給する水素供給ラインと、前記発熱装置の前記第2空間から排出される水素を回収してこれを前記水素供給ラインへと戻す水素回収ラインと、前記発熱装置において発生した熱を利用する熱利用装置と、前記発熱装置の前記第3空間から排出される熱媒体を前記熱利用装置に供給する熱媒体供給ラインと、記熱利用装置から排出される熱媒体を回収してこれを前記発熱装置の前記第3空間へと戻す熱媒体回収ラインと、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る発熱セルは、剛性が高い筒状の支持体の内周面に多層膜を形成することによって構成されているため、これが外力を受けても容易に変形することがなく、支持体の内周面に形成された多層膜が剥がれることがない。このため、発熱セルが安定して発熱するとともに、その耐久性が高められる。
【0014】
また、本発明に係る発熱装置は、耐久性の高い複数の発熱セルを密閉容器内に集約して備えるため、小型・コンパクトでありながら、その発熱量が増えて高出力化が図られるとともに、その耐久性が高められる。また、複数の発熱セルによって加熱された水素と第3空間を流れる熱媒体との熱交換によって熱媒体が加熱されるため、複数の発熱セルが発生する熱が熱媒体によって効率良く回収される。つまり、当該発熱装置は、シェルアンドチューブ式の熱交換器を兼備する発熱・熱交換一体式のものとして機能する。
【0015】
さらに、本発明に係る熱利用システムによれば、シェルアンドチューブ式熱交換器としての機能を兼備する高出力の発熱装置において発生した熱が熱媒体によって効率良く回収されるため、この熱媒体が回収した熱を有効に利用して熱利用装置を駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】本発明に係る発熱セルの多層膜の構成を示す
図2のB部拡大詳細図である。
【
図4】本発明に係る発熱セルの多層膜における過剰熱発生のメカニズムを説明する模式図である。
【
図5】本発明に係る発熱セルの多層膜の変形例1を示す断面図である。
【
図6】本発明に係る発熱セルの多層膜の変形例2を示す断面図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る発熱装置の側断面図である。
【
図9】1/チューブ充填比と抜熱量(発熱量)との関係を示す図である。
【
図10】所定のチューブ充填比を得るためのチューブ本数とシェル内径との関係を示す図である。
【
図11】1/チューブ充填比とDi(シェル内径)/L(チューブ長さ)比との関係を示す図である。
【
図12】Di/L比とシェル側流体圧力損失との関係を示す図である。
【
図13】1/チューブ充填比とバッフル抜け流れ/クロス流れ比との関係を示す図である。
【
図14】本発明の第2実施形態に係る発熱装置の側断面図である。
【
図15】本発明の第3実施形態に係る発熱装置の側断面図である。
【
図16】本発明に係る熱利用システムの構成を示すブロック図である。
【
図17】平板状の発熱体を備える発熱装置の基本構成を示す断面図である。
【
図18】
図17に示す発熱装置の発熱体の変形を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
[発熱セル]
本発明に係る発熱セルの構成を
図1及び
図2に基づいて以下に説明する。
【0019】
図1は本発明に係る発熱セルの側断面図、
図2は
図1のA-A線拡大断面図であり、図示の発熱セル1は、多孔質金属焼結体、多孔質セラミックス焼結体または金属で構成された円筒状(丸パイプ状)の支持体1Aの内周面に、水素の吸蔵と放出によって発熱する多層膜1Bを形成して構成されている。ここで、支持体1Aを構成する多孔質金属焼結体または多孔質セラミックス焼結体には、水素の透過を許容する大きさの多数の孔が形成されている。そして、多孔質金属焼結体または多孔質セラミックス焼結体の材質には、水素と多層膜1Bとの発熱反応を阻害しないものが使用される。具体的には、多孔質金属焼結体には、例えば、Ti、SUS、Moなどが使用され、セラミックス焼結体には、例えば、Al
2O
3、MgO、CaOなどが使用される。また、支持体1Aを構成する金属としては、例えば、ステンレス(SUS)が使用される。
【0020】
なお、本実施の形態では、支持体1Aとして円筒状(丸パイプ状)のものを用いたが、多角筒状(角パイプ状)のものを使用しても良い。
【0021】
ところで、水素には、該水素の同位体を含む水素系ガスが含まれ、水素系ガスとしては、重水素ガスと軽水素ガスの何れかが使用される。軽水素ガスは、天然に存在する軽水素と重水素との混合物、すなわち、軽水素の割合が99.985%、重水素の割合が0.015%である混合物を含む。なお、以下の説明においては、水素系ガスを含むガスを「水素」と総称する。
【0022】
ここで、多層膜1Bの構成を
図3に基づいて説明する。
【0023】
<多層膜の構成>
図3は
図2のB部拡大詳細図であり、同図に示す支持体1Aの内周面に形成される多層膜1Bは、本実施の形態では、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金によって構成された第1層11と、この第1層11とは異なる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金またはセラミックスによって構成された第2層12とを備えており、これらの第1層11と第2層12との間には異種物質界面13が形成されている。
図3に示す例では、多層膜1Bは、支持体1Aの内周面に、各5つの第1層11と第2層12とがこの順に交互に積層されて計10層の膜構造として形成されている。なお、第1層11と第2層12の数は任意であって、
図3に示す例とは異なり、支持体1Aの内周面に複数の第2層12と第1層11とをこの順に交互に積層して多層膜を形成しても良い。また、多層膜1Bは、第1層11と第2層12をそれぞれ少なくとも1層以上有し、第1層11と第2層12との間に形成される異種物質界面13が1つ以上設けられていれば良い。
【0024】
ここで、第1層11は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co及びこれらの合金のうちの何れかによって構成されている。ここで、第1層11を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうちの2種以上から成るものが好ましい。また、第1層11を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加物を添加したものであっても良い。
【0025】
また、第2層12は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co及びこれらの合金或いはSiCのうちの何れかによって構成されている。ここで、第2層12を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうちの2種以上から成るものが好ましい。また、第2層12を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加物を添加したものであっても良い。
【0026】
そして、第1層11と第2層12との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層-第2層」として表示すると、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coの組み合わせが好ましい。なお、第2層12をセラミックスで構成する場合には、Ni-SiCの組み合わせが望ましい。
【0027】
ここで、発熱セル1の発熱(過剰熱の発生)のメカニズムを
図4に基づいて説明する。
【0028】
図4は発熱セルにおける過剰熱発生のメカニズムを説明する模式図であり、発熱セル1の多層膜1Bの第1層11と第2層12との間に形成された異種物質界面13は、水素原子を透過させる。発熱セル1にその内周面側から水素が供給されると、面心立方構造を有する第1層11と第2層12、すなわち多層膜1Bが水素が吸蔵する。ここで、発熱セル1は、水素の供給が停止しても、多層膜1Bによって水素を吸蔵した状態を維持する。
【0029】
そして、発熱セル1の不図示のヒータによる加熱が開始されると、
図4に示すように、第1層11の金属格子中の水素原子が異種物質界面13を透過して第2層12の金属格子中に移動し、多層膜1Bに吸蔵されている水素が放出され、この水素は、多層膜1Bの内部をホッピングしながら量子拡散する。ここで、水素は軽く、或る物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)を水素原子がホッピングしながら量子拡散していることが知られている。このため、発熱セル1がヒータによって加熱されることによって、水素が異種物質界面13を量子拡散によって透過し、或いは、水素が異種物質界面13を拡散によって透過することによって、発熱セル1が発熱し、ヒータによる加熱量以上の熱量の熱が過剰熱として発生する。
【0030】
ところで、発熱セル1の多層膜を構成する第1層11と第2層12の厚さは、各々1000nm未満であることが望ましい。第1層11と第2層12の各厚さが1000nm未満であると、第1層11と第2層12は、バルク特性を示すことのないナノ構造を維持することができる。因みに、第1層11と第2層12の各厚さが1000nm以上である場合には、水素が多層膜1Bを透過しにくくなる。なお、第1層11と第2層12の各厚さは、500nm未満であることが望ましい。このように第1層11と第2層12の各厚さが500nm未満であると、これらの第1層11と第2層12は、バルク特性を全く示さないナノ構造を維持することができる。
【0031】
<発熱セルの製造方法>
ここで、発熱セル1の製造方法の一例について説明する。
【0032】
発熱セル1は、円筒状(丸パイプ状)の支持体1Aを準備し、この支持体1Aをその軸中心回りに回転させながら、蒸着装置を用いて、第1層11や第2層12となる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を気相状態とし、この気相状態の水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の凝集や吸着によって支持体1Aの内周面に、第1層11と第2層12を交互に成膜することによって製造される。この場合、第1層11と第2層12を真空状態で連続的に成膜することが好ましく、このようにすることによって、第1層11と第2層12との間に、自然酸化膜が形成されることなく異種物質界面13が形成される。
【0033】
蒸着装置としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を物理的な方法で蒸着させる物理蒸着装置が用いられ、この物理蒸着装置としては、スパッタリング装置、真空蒸着装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置が使用される。また、電気めっき法によって支持体1Aの内周面に水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を析出させて第1層11と第2層12を交互に成膜しても良い。
【0034】
ここで、発熱セルの多層膜の構成の変形例1,2を
図5と
図6にそれぞれ示す。なお、
図5、
図6は変形例1,2に係る多層膜60B,70Bの層構造を示す断面図である。
【0035】
<多層膜の層構造の変形例1>
以上説明した本実施の形態では、
図3に示すように、発熱セル1の多層膜1Bを、各5つの第1層11と第2層12を交互に積層することによって構成したが、
図5に示す発熱セル60においては、第1層61と第2層62に加えて第3層63をさらに有している。ここで、第3層63は、第1層61及び第2層62とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスによって構成され、その厚さは、1000nm未満であることが望ましい。
【0036】
図5に示す発熱セル60においては、支持体60Aの内周面に、多層膜60Bを構成する第1層61、第2層62、第1層61、第3層63がこの順に積層されている。この発熱セル60においては、第1層61と第2層62との間に形成された異種物質界面64と、第1層61と第3層63との間に形成された異種物質界面65は、水素原子を透過させる。なお、第1層61と第2層62及び第3層63は、支持体60Aの内周面に、第1層61、第3層63、第1層61、第2層62の順に積層されていても良い。すなわち、多層膜60Bは、第2層62と第3層63との間に第1層61を設けた積層構造とされている。なお、多層膜60Bは、第3層63を1つ以上有していれば良い。
【0037】
ここで、第3層63は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coまたはこれらの合金、或いはSiC、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成されている。第3層63を構成する合金としては、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうちの2種以上から成るものが望ましい。なお、第3層63を構成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加したものを用いても良い。
【0038】
特に、第3層63は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかにより構成されることが望ましい。CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成された第3層63を有する発熱セル60は、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面64,65を透過する水素の量が増加し、過剰熱の高出力化が図られる。
【0039】
CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成された第3層63は、厚さが10nm以下であることが望ましい。これにより、多層膜60Bは、水素原子を容易に透過させることができる。なお、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成された第3層63は、完全な膜状に形成されることなくアイランド状に形成されていても良い。なお、第1層61と第3層63は、真空状態で連続的に成膜されることが望ましい。このようにすることによって、第1層61と第3層63との間には、自然酸化膜が形成されることなく、異種物質界面65のみが形成される。
【0040】
第1層61と第2層62及び第3層63の組み合わせとしては、元素の種類を「第1層-第3層-第2層」として表示すると、Pd-CaO-Ni、Pd-Y2O3-Ni、Pd-TiC-Ni、Pd-LaB6-Ni、Ni-CaO-Cu、Ni-Y2O3-Cu、Ni-TiC-Cu、Ni-LaB6-Cu、Ni-Co-Cu、Ni-CaO-Cr、Ni-Y2O3-Cr、Ni-TiC-Cr、Ni-LaB6-Cr、Ni-CaO-Fe、Ni-Y2O3-Fe、Ni-TiC-Fe、Ni-LaB6-Fe、Ni-Cr-Fe、Ni-CaO-Mg、Ni-Y2O3-Mg、Ni-TiC-Mg、Ni-LaB6-Mg、Ni-CaO-Co、Ni-Y2O3-Co、Ni-TiC-Co、Ni-LaB6-Co、Ni-CaO-SiC、Ni-Y2O3-SiC、Ni-TiC-SiC、Ni-LaB6-SiCの何れかであることが望ましい。
【0041】
<多層膜の層構造の変形例2>
本形態に係る発熱セル70の多層膜70Bは、
図6に示すように、第1層71と第2層72及び第3層73に加えて第4層74をさらに有している。ここで、第4層74は、第1層71と第2層72及び第3層73とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスによって構成されており、その厚さは、1000nm未満であることが望ましい。
【0042】
図6においては、支持体70Aの内周面に、第1層71、第2層72、第1層71、第3層73、第1層71、第4層74の順に積層されている。なお、支持体70Aの内周面に、第1層71、第4層74、第1層71、第3層73、第1層71、第2層72をこの順に積層しても良い。すなわち、多層膜70Bは、第2層72、第3層73、第4層74を任意の順に積層するとともに、第2層72、第3層73、第4層74のそれぞれの間に第1層71を設けた積層構造とされている。ここで、第1層71と第2層72との間に形成された異種物質界面75と、第1層71と第3層73との間に形成された異種物質界面76及び第1層71と第4層74との間に形成された異種物質界面77は、水素原子を透過させる。なお、多層膜70Bは、第4層74を1つ以上有していれば良い。
【0043】
ところで、第4層74は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coまたはこれらの合金、或いはSiC、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成されている。ここで、第4層74を構成する合金は、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coのうちの2種以上から成るものであることが望ましい。なお、第4層74を構成する合金として、Ni、Pd、Cu、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加したものを用いても良い。
【0044】
特に、第4層74は、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成されることが望ましい。ここで、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成される第4層74を有する発熱セル70においては、水素の吸蔵量が増加し、異種物質界面75,76,77を透過する水素の量が増加するため、当該発熱セル70が発生する過剰熱の高出力化が図られる。また、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成される第4層74の厚さは、水素原子を容易に透過させるために10nm以下であることが望ましい。
【0045】
また、CaO、Y2O3、TiC、LaB6、SrO、BaOの何れかによって構成される第4層74は、完全な膜状に形成されることなく、アイランド状に形成されても良い。さらに、第1層71と第4層74は、真空状態で連続的に成膜されることが望ましく、このようにすることによって、第1層71と第4層74との間には、自然酸化膜が形成されることなく異種物質界面77のみが形成される。
【0046】
第1層71、第2層72、第3層73及び第4層74の組み合わせとしては、元素の種類を「第1層-第4層-第3層-第2層」として表示すると、Ni-CaO-Cr-Fe、Ni-Y2O3-Cr-Fe、Ni-TiC-Cr-Fe、Ni-LaB6-Cr-Feの組み合わせが望ましい。なお、多層膜70Bの構成、例えば、各層の厚さの比率、各層の数、材料は、加熱される温度に応じて適宜任意に設定することができる。
【0047】
以上のように、本実施の形態に係る
図1に示す発熱セル1は、剛性が高い円筒状(丸パイプ状)の支持体1Aの内周面に多層膜1Bを形成することによって構成されているため、外力を受けても容易に変形することがなく、支持体1Aの内周面に形成された多層膜1Bが剥がれることがない。このため、発熱セル1が安定して発熱するとともに、その耐久性が高められる。
【0048】
なお、発熱セル1は、支持体1Aと多層膜1Bとから構成されるものに限られず、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはプロトン誘電体によって構成された台座を更に備えるものでも良い。台座を備える発熱セルは、例えば、支持体1Aの内周面に台座を形成し、この台座の内周面に多層膜1Bを形成して構成することができる。多層膜1Bは、台座の内周面のみに形成する場合に限られず、台座の外周面のみ、すなわち支持体1Aと台座との間に形成しても良い。また、多層膜1Bは、台座の内周面及び外周面の両面に形成しても良い。支持体1Aに対し、複数の台座と多層膜1Bとを交互に積層しても良い。台座に使用される水素吸蔵金属としては、例えば、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiなどが用いられる。台座に使用される水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi5、CaCu5、MgZn2、ZrNi2、ZrCr2、TiFe、TiCo、Mg2Ni、Mg2Cuなどが用いられる。台座に使用されるプロトン誘電体としては、例えば、BaCeO3系(例えば、Ba(Ce0.95Y0.05)O3-6)、SrCeO3系(例えば、Sr(Ce0.95Y0.05)O3-6)、CaZrO3系(例えば、Ca(Zr0.95Y0.05)O3ーα)、SrZrO3系(例えば、Sr(Zr0.9Y0.1)O3ーα)、βAl2O3、βGa2O3などが用いられる。台座は、多孔質体または水素透過膜によって構成しても良い。多孔質体は、水素系ガスの通過を許容する大きさの多数の孔を有する。多孔質体は、例えば、金属、非金属、セラミックスなどの材料で構成されている。多孔質体は、水素と多層膜1Bとの発熱反応を阻害しない材料で構成されることが好ましい。水素透過膜は、水素を透過させる材料で構成されている。水素透過膜の材料としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金が好ましい。水素透過膜にはメッシュ状のシートを有するものも含まれる。
【0049】
[発熱装置]
次に、本発明に係る発熱装置について説明する。
【0050】
<第1実施形態>
図7は本発明の第1実施形態に係る発熱装置20の側断面図、
図8は
図7のC-C線断面図であり、図示の発熱装置20は、シェルアンドチューブ式の熱交換器の機能を兼備する発熱・熱交換一体式のものである。
【0051】
具体的には、発熱装置20は、横方向(水平方向)に設置された中空円柱状の密閉容器(シェル)21を備えており、この密閉容器21内は、縦方向に配置された2枚のセパレータ(管板)22によって軸方向(
図7の左右方向)に3つの第1空間S1、第2空間S2及び第3空間S3に区画されている。すなわち、密閉容器21内は、軸方向両端の第1空間S1及び第2空間S2と、これらの第1空間S1及び第2空間S2との間の第3空間S3とに区画されている。
【0052】
そして、密閉容器21の上部には、第1空間S1に開口する水素供給口21aと第3空間S3に開口する熱媒体排出口21bがそれぞれ開口しており、これらの水素供給口21aと熱媒体排出口21bには、水素供給ノズル23と熱媒体排出ノズル24がそれぞれ接続されている。また、密閉容器21の下部には、第2空間S2に開口する水素排出口21cと第3空間S3に開口する熱媒体供給口21dがそれぞれ開口しており、これらの水素排出口21cと熱媒体供給口21dには、水素排出ノズル25と熱媒体供給ノズル26がそれぞれ接続されている。ここで、水素排出ノズル25には、開閉弁27が設けられている。
【0053】
なお、以上の密閉容器21、セパレータ22、水素供給ノズル23、熱媒体排出ノズル24、水素排出ノズル25及び熱媒体供給ノズル26は、耐圧性と耐食性が高くて熱伝導率の低いステンレス(SUS)などで構成されている。また、本実施の形態では、密閉容器21の内部を3つの第1空間S1と第2空間S2及び第3空間S3とに区画したが、密閉容器21の内部を4つ以上の空間に区画しても良い。
【0054】
ところで、密閉容器21内には、
図1に示す複数の前記発熱セル1が2つのセパレータ22を貫通して水平且つ互いに平行に支持されており、これらの発熱セル1の軸方向両端は、第1空間S1と第2空間S2にそれぞれ開口している。ここで、
図8に示すように、複数の発熱セル1は、上下及び左右方向に等間隔で整然と配置されている。なお、本実施の形態においては、発熱セル1として、支持体1Aがステンレス(SUS)で構成されたものが使用されている。
【0055】
そして、各発熱セル1の内部の中心には、加熱手段であるヒータ2がそれぞれ設けられており、これらのヒータ2の両端は、支持部材である導電性を有するブースバー3,4によってそれぞれ支持されている。そして、一方(
図7の左方)のブースバー3には、電気コード5を介して不図示の電源が電気的に接続されており、他方(
図7の右方)のブースバー4から延びる電気コード6はアース(接地)されている。なお,本実施の形態では、ヒータ2は、電気抵抗の高いモリブデンやタングステンなどの加熱ワイヤーで構成されている。
【0056】
また、密閉容器21内の第3空間S3には、複数のバッフルプレート28によって迷路(ラビリンス)状の流路29が形成されている。
【0057】
次に、以上のように構成された発熱装置20の作用について説明する。
【0058】
まず、水素排出ノズル25に設けられた開閉弁27を開いた状態で、水素排出ノズル25に接続された不図示の真空ポンプを駆動して密閉容器21内を所定圧力まで減圧し、その後、開閉弁27を閉じる。
【0059】
次に、水素供給ノズル23から水素系ガスを密閉容器21内に供給する。水素系ガスは、水素供給ノズル23から密閉容器21内の第1空間S1に導入され、この第1空間S1から各発熱セル1の内部を通過して第2空間S2へと流れ込むが、このように水素系ガスが各発熱セル1を通過する過程において、各発熱セル1の内周面に形成された多層膜1B(
図1参照)に吸蔵される。このとき、多層膜1Bの内周面に水素分子が吸着する。そして、多層膜1Bの内周面に吸着した水素分子が2つの水素原子に解離し、解離した水素原子が多層膜1Bの内部に侵入し、この水素原子が異種物質界面13(
図3参照)を量子拡散によって透過し、或いは、水素原子が異種物質界面13を拡散によって透過する。
【0060】
次に、水素排出ノズル25に設けられた開閉弁27を開いた状態で、水素排出ノズル25に接続された不図示の真空ポンプを駆動して密閉容器21内を真空排気し、不図示の電源から電気コード5及びブースバー3を経て各ヒータ2に電流を流すことによって、各ヒータ2が発熱して各発熱セル1が内周側から加熱される。すると、各発熱セル1の多層膜1Bに吸蔵されている水素が放出される。このとき、多層膜1Bの内部に侵入していた水素原子が多層膜1Bの内周面に戻って再結合し、水素分子として放出される。水素原子が多層膜1Bの内周面に戻る過程において、水素原子が異種物質界面13(
図3参照)を量子拡散によって透過し、或いは、水素原子が異種物質界面13を拡散によって透過する。
【0061】
各発熱セル1は、水素を吸蔵する過程で異種物質界面13を水素原子が量子拡散により透過し、或いは、異種物質界面13を水素原子が拡散により透過して熱を発生し、また、水素を放出する過程で異種物質界面13を水素原子が量子拡散により透過し、或いは、異種物質界面13を水素原子が拡散により透過して熱を発生する。密閉容器21に対して水素を間欠的に供給及び排出し、水素の吸蔵と放出によって発熱セル1を発熱させる方式をバッチ式という。バッチ式の発熱装置20においては、密閉容器21内への水素系ガスの供給と、密閉容器21内の真空排気及び各発熱セル1の加熱とを繰り返し、各発熱セル1における水素の吸蔵と放出とを繰り返し行うようにしても良い。
【0062】
他方、密閉容器21の第3空間S3には、熱媒体が熱媒体供給ノズル26から供給され、この熱媒体は、第3空間S3に形成された迷路状の流路29を流れる過程において、各発熱セル1から発生する熱によって加熱されて温度上昇する。つまり、熱媒体は、各発熱セル1を流れる過程で各発熱セル1との熱交換によって加熱され、各発熱セル1において発生した熱を効率良く回収する。このとき、熱媒体は、密閉容器21内の第3空間S3に形成された迷路状の流路29に沿って、方向を上下に交互に変えながら流れるため、該熱媒体と各発熱セル1との熱交換効率が高められる。このように密閉容器21の第3空間S3を流れる熱媒体が各発熱セル1との熱交換によって加熱され、この熱媒体によって回収された熱が後述の熱利用システムに供される。なお、熱媒体としては、熱伝導率に優れかつ化学的に安定したものが好ましく、例えば、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの希ガス、水素ガス、窒素ガス、水蒸気、空気、二酸化炭素、水素化物を形成するガスなどが使用される。
【0063】
以上のように、本実施の形態に係る発熱装置20は、耐久性の高い複数の発熱セル1を密閉容器21内に集約して備えるため、その発熱量が増えて高出力化が図られるとともに、その耐久性が高められる。また、複数の発熱セル1と第3空間S3を流れる熱媒体との熱交換によって熱媒体が加熱されるため、複数の発熱セル1が発生する熱が熱媒体によって効率良く回収される。つまり、当該発熱装置20は、シェルアンドチューブ式の熱交換器の機能を兼備する発熱・熱交換一体式のものとして構成されている。
【0064】
ここで、発熱装置20の諸元(支持体1A(以下、「チューブ」または「ステンレスチューブ」と称する)の外径と内径)を変化させた場合の抜熱量(発熱量)などの変化を
図9~
図13に基づいて以下に説明する。なお、
図9は1/チューブ充填比と抜熱量(発熱量)との関係を示す図、
図10は所定のチューブ充填比を得るためのチューブ本数とシェル内径との関係を示す図、
図11は1/チューブ充填比とDi(シェル内径)/L(チューブ長さ)比との関係を示す図、
図12はDi/L比とシェル側流体圧力損失(熱媒体の圧力損失)との関係を示す図、
図13は1/チューブ充填比とバッフル抜け流れ/クロス流れ比との関係を示す図である。
【0065】
ところで、発熱装置20の各種諸元のうち、ステンレスチューブ(支持体1A)の外径と内径を表1に示すように変化させた場合をそれぞれcase1、case2、case3として種々の検討を行った。具体的には、ステンレスチューブの外径と内径が27.2mm、23.2mmである場合をcase1、34mm、30mmである場合をcase2、45mm、41mmである場合をcase3とし、何れのcaseにおいてもステンレスチューブの長さを1000mm(一定)とした。
【0066】
【0067】
また、チューブ充填比とDi/L比は、チューブ外径をdo、チューブ本数をNt、シェル(密閉容器)内径をDiとすると、チューブ充填比は、次式にて求められる値である。
チューブ充填比=総チューブ断面積/シェル内側断面積
=Nt×do2/Di2 (1)
【0068】
発熱装置20において、1/チューブ充填比に対する各case1,2,3における抜熱量(発熱量)(kW)の変化を
図9に示す。各case1,2,3についてシェル側圧力損失が小さく、且つ、熱交換効率が高い望ましい領域は、1/チューブ充填比≦1.8の範囲である。なお、
図9に示す抜熱量(発熱量)(kW)の算出に際しては、熱媒体(アルゴンガス)の流入温度を650℃、発熱素子温度(チューブ内温度)を800℃とした。
【0069】
ここで、前記(1)式にて求められるチューブ充填比を所定の値に保つためのチューブ本数とシェル内径との関係を
図10に示す。
図10に示す結果は、チューブ(支持体1A)の外径doを一定(27.2)mmに設定した場合に、チューブ充填比が2.0になるためのシェル内径とチューブ本数との関係を示している。
【0070】
また、各case1,2,3における1/チューブ充填比に対するDi/L比の変化を
図11に、Di/L比に対するシェル側流体圧力損失(熱媒体の圧力損失)の変化を
図12にそれぞれ示す。Di/L比が0.4を超えると、つまり、シェル(密閉容器)21内の短い区間に複数のバッフルプレート28を配置すると、熱媒体の圧力損失が大きくなる傾向がある。このため、熱媒体の圧力損失を一定値以下に抑えるためには、Di/L比を0.4以下に抑えるべきである。熱媒体の循環用に軸流ファンの使用を想定すると、熱媒体の圧力損失は、3000Pa(305mmHg)以下であることが望ましい。逆に、Di/L比が0.15以下になると、熱媒体の流動抵抗による配管の振動が懸念されるが、このような場合には、
図7に示すように、密閉容器(シェル)21内の熱媒体供給口21dの近傍に突入防止板28Aを配置することによって問題を解決することができる。
【0071】
したがって、
図9~
図12に示す結果を考慮すると、
図11に示す1/チューブ充填比が1.8以下で且つDi/L比が0.4以下の範囲が望ましい範囲となる。
【0072】
ところで、1/チューブ充填比が1.8を超えると、シェル(密閉容器)21内においてバッフルプレート28とチューブ(支持体1A)との径方向隙間を熱媒体が抜けて流れる(この流れを「バッフル抜け流れ」または「無効流れ」と称する)が、このバッフル抜け流れの流量がシェル21内の迷路状の流路29における熱媒体の有効流れ(以下、「クロス流れ」と称する)の流量の40%を超えると、熱交換効率が著しく低下する。ここで、各case1,2,3における1/チューブ充填比に対するバッフル抜け流れ/クロス流れ比の関係を
図13に示す。
【0073】
したがって、高い熱交換効率を確保しつつ、熱媒体の圧力損失を3000Pa以下に抑えるためには、
図13に示す1/チューブ充填比が1.8以下で且つバッフル抜け流れ/クロス流れ比が0.4以下の範囲が望ましいこととなる。
【0074】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る発熱装置20Aを
図14に基づいて以下に説明する。
【0075】
図14は本発明の第2実施形態に係る発熱装置20Aの側断面図であり、本図においては、
図7において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0076】
本実施形態に係る発熱装置20Aの基本構成は前記第1実施形態に係る発熱装置20のそれと同じであるが、ヒータ2を各発熱セル1の外周に螺旋状に巻装した点のみが異なっている。発熱装置20Aは、発熱装置20と同様に、密閉容器21に対して水素を間欠的に供給及び排出するバッチ式の発熱装置である。
【0077】
本実施形態に係る発熱装置20Aにおいては、各発熱セル1がヒータ2によって外周側から加熱されるが、その作用は前記実施形態1に係る発熱装置20のそれと同じであり、発熱装置20によって得られる前記効果と同様の効果が得られる。
【0078】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る発熱装置20Bを
図15に基づいて以下に説明する。
【0079】
図15は本発明の第3実施形態に係る発熱装置20Bの側断面図であり、本図においても、
図7において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略する。
【0080】
本実施形態に係る発熱装置20Bは、発熱セル1として、支持体1A(
図1参照)が水素を透過させる多孔質金属焼結体または多孔質セラミックス焼結体で構成されたものを使用している点のみが前記第1実施形態に係る発熱装置20とは異なっている。
【0081】
次に、発熱装置20Bの作用について説明する。
【0082】
まず、水素排出ノズル25に設けられた開閉弁27を開いた状態で、水素排出ノズル25に接続された不図示の真空ポンプを駆動して密閉容器21内を所定圧力まで減圧する。次に、水素供給ノズル23から水素系ガスを密閉容器21の第1空間S1に供給し、熱媒体供給ノズル26から熱媒体を密閉容器21の第3空間S3に供給する。発熱装置20Bにおいては、各発熱セル1の内部を水素系ガスが流れ、各発熱セル1の外部を熱媒体が流れることによって、各発熱セル1の内外に水素分圧の差が生じ、この水素分圧の差によって水素が各発熱セル1の多層膜1B(
図3参照)を透過し、この水素の透過によって各発熱セル1が発熱する。具体的には、各発熱セル1の多層膜1Bの内周面に水素分子が吸着し、この水素分子が2つの水素原子に解離する。そして、解離した水素原子が多層膜1Bの内部に侵入(吸蔵)し、この水素原子が多層膜1Bの外周面(支持体1Aと接する面)で再結合して水素分子として放出される。このように、水素原子が多層膜1Bの内周面から外周面へと移動する際に、この水素原子が異種物質界面13(
図3参照)を量子拡散によって透過し、或いは、水素原子が異種物質界面13を拡散によって透過することによって各発熱セル1が発熱する。水素分圧の差を利用して水素を透過させることで発熱セル1を発熱させる方式を透過式という。透過式の発熱装置20Bにおいては、水素が各発熱セル1を連続的に透過するので、過剰熱を効率的に発生させることができる。
【0083】
各発熱セル1を透過した高温の水素(透過水素)は、第3空間S3内へと流出し、熱媒体供給ノズル26から第3空間S3へと供給されて該第3空間S3の迷路状の流路29を流れる熱媒体との間で熱交換し、これらの水素と熱媒体との混合ガスは、熱媒体排出ノズル24から密閉容器21外へと排出される。また、各発熱セル1を透過しなかった水素(非透過水素)は、水素排出ノズル25から密閉容器21外へと排出される。
【0084】
本実施形態に係る発熱装置20Bにおいても、前記第1実施形態に係る発熱装置20と同様に、各発熱セル1がヒータ2によってそれぞれ内周側から加熱されるが、その作用は前記実施形態1に係る発熱装置20のそれと同じであり、発熱装置20にて得られる前記効果と同様の効果が得られる。なお、本実施形態においては、開閉弁27を開いて非透過水素を排出しているが、水素の圧力差を発生させることを考えると、開閉弁27を閉じておく方が良い場合もある。
【0085】
[熱利用システム]
次に、本発明に係る熱利用システムを
図16に基づいて以下に説明する。
【0086】
図16は本発明に係る熱利用システムの構成を示すブロック図であり、図示の熱利用システム30は、
図7に示すバッチ式の発熱装置20と、熱利用装置50と、温度調整部Tと、水素供給ラインL1と、水素回収ラインL2と、熱媒体供給ラインL3及び熱媒体回収ラインL4を備えている。なお、本実施の形態においては、バッチ式の発熱装置20を使用しているが、バッチ式の発熱装置20Aや透過式の発熱装置20Bを使用しても良い。
【0087】
以下、温度調整部Tと、水素供給ラインL1と、水素回収ラインL2、熱媒体供給ラインL3及び熱媒体回収ラインL4についてそれぞれ説明する。
【0088】
(温度調整部)
温度調整部Tは、発熱装置20に内蔵された発熱セル1の温度を調整して該発熱セル1を発熱に最適な温度(例えば、50℃~1500℃)に維持するものであって、各発熱セル1の内部に通された複数のヒータ2と、これらのヒータ2に電力を供給する電源31と、ヒータ2の温度を検出する熱電対などの温度センサ32と、該温度センサ32によって検出された温度に基づいて電源31の出力を制御する制御部33を備えている。なお、制御部33は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶部などを備えており、CPUにおいては、ROMやRAMに格納されているプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理が実行される。
【0089】
(水素供給ライン)
水素供給ラインL1は、低温の水素を供給配管34を経て水素供給ノズル23から密閉容器21内の第1空間S1へと供給するものであって、供給配管34は、循環ポンプ35の吐出側から延びており、この供給配管34の途中には、バッファタンク36と電動式の圧力調整弁(減圧弁)37及びフィルタ38が設けられている。そして、循環ポンプ35と圧力調整弁37は、制御部33に電気的に接続されており、これらの循環ポンプ35と圧力調整弁37は、制御部33から出力される制御信号によってその動作が制御される。なお、循環ポンプ35には、例えば、メタルベローズポンプが使用される。
【0090】
バッファタンク36は、水素を一時的に貯留してこの水素の流量の変動を吸収するためのものである。また、圧力調整弁37は、制御部33からの制御信号を受信してその開度が調整されることによって、バッファタンク36から発熱装置20へと供給される水素の圧力を調整する機能を果たす。
【0091】
また、フィルタ38は、水素に含まれる不純物を除去するためのものである。ここで、発熱セル1の多層膜1Bを透過する水素の量(水素透過量)は、発熱セル1の温度、発熱セル1の内外における圧力差、発熱セル1の内周面の表面状態に依存するが、水素に不純物が含まれている場合には、不純物が発熱セル1の内周面に付着して該発熱セル1の表面状態を悪化させることがある。発熱セル1の表面状態が悪化した場合には、該発熱セル1の多層膜1Bの内周面における水素分子の吸着及び解離が阻害されて水素透過量が減少するという不具合が発生する。発熱セル1の多層膜1Bの内周面における水素分子の吸着及び解離を阻害するものとしては、例えば、水(水蒸気を含む)、炭化水素(メタン、エタン、メタノール、エタノールなど)、C、S、Siなどが考えられる。
【0092】
フィルタ38が水素や熱媒体に含まれる不純物としての水(水蒸気を含む)、炭化水素、C、S、Siなどを除去することによって、発熱セル1における水素透過量の減少が抑制される。
【0093】
(水素回収ライン)
水素回収ラインL2は、発熱装置20の第1空間S1から各発熱セル1を通過して第2空間S2へと流れ込んだ水素を回収してこれを水素供給ラインL1へと戻すためのラインであって、密閉容器21の水素排出ノズル25から延びる回収配管39は、循環ポンプ35の吸入側に接続されている。
【0094】
(熱媒体供給ライン)
熱媒体供給ラインL3は、発熱装置20の第3空間S3から排出される熱媒体を熱利用装置50へと供給するラインであって、密閉容器21の熱媒体排出ノズル24から延びて熱利用装置50の入口側に接続されている供給配管40を備えている。そして、供給配管40の途中には、循環ポンプ41と流量制御弁42が設けられている。なお、循環ポンプ41には、メタルベローズポンプなどが用いられ、流量制御弁42には、バリアブルリークバルブなどが用いられている。
【0095】
(熱媒体回収ライン)
熱媒体回収ラインL4は、熱利用装置50に熱を供給した熱媒体を回収してこれを発熱装置20の第3空間S3へと戻すラインであって、発熱装置20において発生した熱を利用する熱利用装置50の出口側から延びて密閉容器21の熱媒体供給ノズル26に接続される回収配管43を備えている。
【0096】
なお、熱利用装置50としては、例えば、熱エネルギを電気エネルギに変換する発電装置の他、ボイラーに供給される燃焼用空気の予熱、化学吸収法によってCO2を吸収した吸収液の加熱、メタン製造装置におけるCO2とH2を含む原料ガスの加熱などに供される加熱装置、ヒートポンプシステム、熱輸送システム、冷熱(冷凍)システムなどが挙げられる。
【0097】
(熱利用システムの作用)
次に、以上のように構成された熱利用システム30の作用について説明する。
【0098】
制御部33からの制御信号によって循環ポンプ35が駆動されると、該循環ポンプ35から吐出される水素は、供給ラインL1の供給配管34を経て水素供給ノズル23から発熱装置20の第1空間S1内に導入される。なお、水素は、供給配管34を流れる過程においてバッファタンク36によって圧力変動が抑制されるとともに、圧力調整弁37によって所定値に減圧される。
【0099】
また、発熱装置20に設けられた複数のヒータ2は、電源31から供給される電力によって発熱し、各発熱セル1を内周側から所定温度(例えば、50℃~1500℃)に加熱する。なお、前述のように発熱セル1の温度は、温度調整部Tによって所定温度となるよう調整される。具体的には、温度センサ32によって検出される温度に基づいて電源31の出力が制御部33によって制御されることによって各発熱セル1の温度が適正な値に調整される。
【0100】
上述のように、バッチ式の発熱装置20では、各発熱セル1が水素の吸蔵と放出とを行うことにより過剰熱を発生する。この発熱セル1が発熱するメカニズムについては前述したが(
図4参照)、水素供給ノズル23から水素系ガスを密閉容器21内に供給することにより、各発熱セル1の多層膜1Bの内周面においては、水素分子が吸着され、この水素分子が2つの水素原子に解離し、解離した水素原子は、多層膜1Bの内部に侵入する。水素原子は、異種物質界面13(
図3参照)を量子拡散によって透過し、或いは、異種物質界面13を拡散によって透過する。すなわち、発熱セル1に水素が吸蔵される。そして、水素排出ノズル25に設けられた開閉弁27を開いた状態で、水素排出ノズル25に接続された不図示の真空ポンプを駆動して密閉容器21内を真空排気し、各ヒータ2により各発熱セル1を加熱することにより、多層膜1Bの内部に侵入していた水素原子が多層膜1Bの内周面に戻って再結合し、水素分子となって放出される。すなわち、発熱セル1から水素が放出される。水素原子が多層膜1Bの内周面に戻る過程において、水素原子が異種物質界面13(
図3参照)を量子拡散によって透過し、或いは、水素原子が異種物質界面13を拡散によって透過する。したがって、発熱セル1は、水素を吸蔵することによって発熱し、また、水素を放出することによっても発熱する。
【0101】
上述のように、発熱装置20において吸蔵と放出によって各発熱セル1の発熱に供された水素は、密閉容器21内の第2空間S2へと流れ込み、この第2空間S2から水素回収ラインL2の回収配管39を経て循環ポンプ35の吸入側へと戻され、該循環ポンプ35によって所定の圧力に昇圧された後、水素供給ラインL1の供給配管34へと送り出され、以後、同様の経路を経て循環し、複数の発熱セル1の発熱と熱媒体との熱交換に供される。
【0102】
他方、熱媒体供給ラインL3の供給配管40に設けられた循環ポンプ41が駆動されると、熱媒体は、供給配管40、熱利用装置50、回収配管43及び発熱装置20の第3空間S3に形成された迷路状の流路29によって形成される閉ループを連続的に循環する。つまり、回収配管43を経て熱媒体供給ノズル26から密閉容器21の第3空間S3に導入された熱媒体は、第3空間S3の迷路状の流路29を流れる過程で複数の発熱セル1との熱交換によって加熱され、複数の発熱セル1において発生した熱を効率良く回収する。
【0103】
上述のように複数の発熱セル1において発生した熱を回収した熱媒体は、熱媒体排出ノズル24から供給配管40へと排出され、供給配管40に設けられた循環ポンプ41と流量制御弁42を経て熱利用装置50へと供給され、回収した熱を熱利用装置50に供給する。すると、熱利用装置50は、熱媒体から供給される熱を熱源として駆動されて発電などの所要の仕事を行う。そして、熱利用装置50の駆動に供されて温度の下がった熱媒体は、熱利用装置50から回収配管43へと排出され、回収配管43を経て熱媒体供給ノズル26から発熱装置20の第3空間S3へと導入され、以後、同様の作用を繰り返し、複数の発熱セル1において発生した熱を回収して熱利用装置50へと供給し続ける。
【0104】
また、発熱装置20において吸蔵と放出によって発熱セル1の発熱に供された水素は、密閉容器21の第2空間S2から排出され、水素回収ラインL2を経て水素供給ラインL1へと戻され、再び密閉容器21の第1空間S1へと供給されて発熱セル1の発熱と該発熱セル1において発生した熱の熱媒体との熱交換に供され、以後、同様の作用が繰り返される。
【0105】
以上のように作用する本発明に係る熱利用システム30によれば、シェルアンドチューブ式熱交換器としての機能を兼備する高出力の発熱装置20において発生した熱が熱媒体によって効率良く回収されるため、この熱媒体が回収した熱を有効に利用して熱利用装置50を駆動することができるという効果が得られる。
【0106】
なお、以上は
図7に示す第1実施形態に係るバッチ式の発熱装置20を備える熱利用システム30について説明したが、第2実施形態に係る
図14に示すバッチ式の発熱装置20Aや第3実施形態に係る
図15に示す透過式の発熱装置20Bを含んで本発明に係る熱利用システムを構成しても、前記と同様の効果が得られる。
【0107】
本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0108】
1,60,70 発熱セル
1A,60A,70A 支持体
1B,60B,70B 多層膜
2 ヒータ
20,20A,20B 発熱装置
21 密閉容器
22 セパレータ
28 バッフルプレート
29 流路
30 熱利用システム
50 熱利用装置
L1 水素供給ライン
L2 水素回収ライン
L3 熱媒体供給ライン
L4 熱媒体回収ライン
S1 第1空間
S2 第2空間
S3 第3空間