(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022172993
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】耐力壁
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20221110BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
E04B2/56 643A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079385
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】599026418
【氏名又は名称】千代川 健裕
(71)【出願人】
【識別番号】520499720
【氏名又は名称】鈴木 克実
(71)【出願人】
【識別番号】520499731
【氏名又は名称】道場 信義
(71)【出願人】
【識別番号】520499742
【氏名又は名称】細矢 卓生
(74)【代理人】
【識別番号】100133802
【弁理士】
【氏名又は名称】富樫 竜一
(74)【代理人】
【識別番号】100197181
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 泰子
(72)【発明者】
【氏名】千代川 健裕
【テーマコード(参考)】
2E002
2E139
【Fターム(参考)】
2E002FA03
2E002JB01
2E002MA12
2E139AA01
2E139AC23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】強度を高めた耐力壁の構造と耐力壁の取り付け構造を提供することにより、耐震性の高い建築物を構築できるようにすること。
【解決手段】単体若しくは構造体の一部として縦枠材2、3と縦枠材2、3の上下に横架された水平材4、5からなる矩形の壁枠6を有し、縦枠材2、3、水平材4、5は断面形状が矩形の柱状部材によって構成され、壁枠6内に縦枠材2、3と平行に間隔を隔てて隣接配置した断面形状が矩形の角柱材7、8を設け、一方の縦枠材2、3とこれに隣接配置した角柱材7、8の双方に貫通孔13、14又は側面を切り欠いた切欠部を形成するとともに、一方の縦枠材2と前記隣接配置した角柱材7を、両端に貫通孔13、14又は切欠部に嵌合可能な嵌合部を設けた結合部材15によって連結し、結合部材15を基礎コンクリート11に固定されたアンカーボルト12bに固定したことを特徴する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単体若しくは構造体の一部として縦枠材と当該縦枠材の上下に横架された水平材からなる矩形の壁枠を有し、
前記縦枠材および水平材は断面形状が矩形の柱状部材によって構成され、
前記壁枠内に前記縦枠材の少なくとも一方と平行に間隔を隔てて隣接配置した断面形状が矩形の角柱材を設け、
前記一方の縦枠材とこれに隣接配置した角柱材の双方に貫通孔又は側面を切り欠いた切欠部を形成するとともに、
前記一方の縦枠材と前記隣接配置した角柱材を、両端に前記貫通孔又は切欠部に嵌合可能な嵌合部を設けた結合部材によって連結し、
前記結合部材を基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトに固定したことを特徴とする耐力壁。
【請求項2】
前記貫通孔又は切り欠きの断面形状が矩形であることを特徴とする請求項1記載の耐力壁。
【請求項3】
前記結合部材が鋼材を角管状に形成した金具であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の耐力壁。
【請求項4】
前記結合部材が、
端部に前記切欠部に嵌合可能な装着部を有した一方の挟持部材と、
端部に前記切欠部に嵌合可能な装着部を有した他方の挟持部材によって構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の耐力壁。
【請求項5】
前記結合部材を、両端部に前記貫通孔に嵌合可能な嵌合部を設けた木材によって形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の耐力壁。
【請求項6】
前記結合部材を、両端部に前記切欠部に嵌合可能な嵌合部を設けた木材によって形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の耐力壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に使用する耐力壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家屋等の建築物において、耐震強度を高めることを目的とした耐力壁が知られている。耐力壁は、建築物の外壁や内壁の一部として配置される強度を高めた壁体のことであり、主として地震による揺れや風圧等によって生じる横方向(水平方向)の力に抵抗して建築物の変形を防止するために用いられるものである。耐力壁には特許文献1に記載されているようなダンパーを内蔵させたもの等が知られている。
また、横架材となる土台や基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトに対して柱を固定する手段としてホールダウン金物が知られている。ホールダウン金物は特許文献2に記載されているように、基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトに固定する部分と、ビスによって柱や壁に取り付けるためのプレート状の部分から成っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-204200号公報
【特許文献2】特開2015-161060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐力壁は一般的に基礎コンクリートの上若しくは基礎コンクリートの上に配置した横架材(土台)の上に設けられる矩形の壁枠を有している。壁枠は縦枠材と水平材(横枠材)を有しているが、壁枠を歪めるような横荷重を受けた場合には、縦枠材と水平材の接合部分に対して強い力が作用する。また、歪みが少なくなるように耐力壁単体の強度を高めた場合であっても、耐力壁の下部や土台が破損したり、耐力壁を固定するアンカーボルトに取り付けたホールダウン金物が破壊したりする場合があった。すなわち、単に耐力壁の強度が高いだけでは家屋全体としての耐震性が十分であるとは言えない場合があった。
【0005】
本発明は当該事情に鑑み発明されたものであって、強度を高めた耐力壁の構造と耐力壁の取り付け構造を提供することにより、耐震性の高い建築物を構築できるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。すなわち、
単体若しくは構造体の一部として縦枠材と当該縦枠材の上下に横架された水平材からなる矩形の壁枠を有し、前記縦枠材および水平材は断面形状が矩形の柱状部材によって構成され、前記壁枠内に前記縦枠材の少なくとも一方と平行に間隔を隔てて隣接配置した断面形状が矩形の角柱材を設け、前記一方の縦枠材とこれに隣接配置した角柱材の双方に貫通孔又は側面を切り欠いた切欠部を形成するとともに、前記一方の縦枠材と前記隣接配置した角柱材を、両端に前記貫通孔又は切欠部に嵌合可能な嵌合部を設けた結合部材によって連結し、前記結合部材を基礎コンクリートに固定されたアンカーボルトに固定したことを特徴とする耐力壁。
【0007】
また、上記発明において、
前記貫通孔又は切り欠きの断面形状が矩形であることを特徴とする。
【0008】
また、上記発明において、
前記結合部材が鋼材を角管状に形成した金具であることを特徴とする。
【0009】
また、上記発明において、
前記結合部材が、端部に前記切欠部に嵌合可能な装着部を有した一方の挟持部材と、端部に前記切欠部に嵌合可能な装着部を有した他方の挟持部材によって構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記発明において、
前記結合部材を、両端部に前記貫通孔に嵌合可能な嵌合部を設けた木材によって形成したことを特徴とする。
【0011】
また、上記発明において、
前記結合部材を、両端部に前記切欠部に嵌合可能な嵌合部を設けた木材によって形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る結合部材を用いた耐力壁の構造は、地震や風圧によって家屋を揺らすような振動が生じた場合であっても変形しにくい強度を有するとともに破損防止に効果があるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1として示した耐力壁の構造を表した説明図である。
【
図2】実施例1として示した耐力壁の要部を拡大して表した説明図である。
【
図3】実施例1として示した耐力壁の作用を表した説明図である。
【
図4】実施例1の耐力壁の構造と他の耐力壁の構造との違いを表した説明図である。
【
図5】実施例2として示した耐力壁の構造を表した説明図である。
【
図6】実施例3として示した耐力壁の構造を表した説明図である。
【
図7】実施例4として示した耐力壁に用いる結合部材の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0014】
以下、本発明を実施するための形態をいくつかの実施例を用いて説明する。
図1は、本発明の第1の実施例として形成した耐力壁1の斜視図を表している。二点鎖線Z1で囲んだ部分については、その部分の分解した状態を拡大図として
図2に示している。
耐力壁1は、2本の縦枠材2、3と水平材(横枠材)4、5からなる角柱材を骨格として四辺に設けた矩形の壁枠6を有し、壁枠6内に縦枠材2と間隔を開けて平行に隣接配置した角柱材7および縦枠材3と間隔を開けて平行に隣接配置した角柱材8を設けた構造を有している。
縦枠材2、3及び水平材4、5及び角柱材7、8は、ともに断面矩形の木材の長尺材を所定寸法に切断したものである。各木材の断面寸法は、一例として1インチの整数倍を基準にした2×4(ツーバイフォー)規格に準じた寸法を採用している。具体的な寸法値を含めて説明すると、縦枠材2、3の断面は各辺が4インチ×4インチの正方形、水平材4、5の断面は縦2インチ×横4インチの長方形である。なお、壁枠6の下辺を構成する水平材5は、基礎コンクリート11上に配置される壁全体を支える土台(木材による横架材)によって構成してもよい。
【0015】
縦枠材2、3及び角柱材7、8は、それぞれ上端が水平材4の側面(下面)に接合および結合され、下端が水平材5の側面(上面)に接合および結合されている。各部材は釘9の打込によって固定されている。釘9には、一般的な丸釘やネジ釘が用いられる。耐力壁1は、家屋等の建築物を搭載する基礎コンクリート11上に設けられる壁の一部として設けられるものであり、建築物の耐震性能や耐風性能を向上させる目的で設置されるものである。
【0016】
耐力壁1は、ゴム素材によって形成した板状のパッド10の上若しくは土台(図示せず)の上に配置される。なお、前述の通り土台が耐力壁1の一部を構成してもよい。耐力壁1は基礎コンクリート11(パッド10)の上面に載置された後、基礎コンクリート11に沿って配置された2本のアンカーボルト12a、12bを使用して固定される。アンカーボルト12a、12bは基礎コンクリート11に対して強固に固定されている。
アンカーボルト12a、12bに対する耐力壁1の固定は、金具15を使用した縦枠材2と角柱材7および縦枠材3と角柱材8の固定によって行われる。なお、本実施例においては縦枠材2と角柱材7および縦枠材3と角柱材8の双方を金具15によって基礎コンクリート11に固定する例を示しているが、金具15を用いた固定は縦枠材2と角柱材7若しくは縦枠材3と角柱材8の一方のみに行ってもよい。
【0017】
以下、主に縦枠材2と角柱材7の取り付けを中心に説明するが、縦枠材3と角柱材8についても同様の方法で取り付けが行われるものであり、縦枠材3と角柱材8に関して特に言及していない説明については縦枠材2と角柱材7の説明によって代替されるものである。
図2は、
図1において二点鎖線Z1で囲んだ領域を拡大して表したものであり、耐力壁1における金具15の構造および金具15の装着部位における構造を表した説明図である。金具15は矩形の断面を有した中空の鋼管状の部材として形成されている。金具15は、鉄鋼やステンレス鋼等の鋼材によって形成したものであり、引き抜き管、押し出し管、鋼板を曲げ合わせて形成した管状体でもよい。金具15は設計上において荷重に耐える十分な強度を有するように肉厚が選定され、強度および製造コストを加味して素材や形成方法が選定される。なお、本実施例において管状に形成したのは、中実体として構成すると重量が重く価格が高価になるからであり、強度を損なうことなくかつ重量や価格を考慮する必要がなければ中実体として形成してもよい。
【0018】
金具15の全長は、間隔を開けて隣接配置した縦枠材2から角柱材7までの全幅に一致し、矩形を成した外形は縦枠材2の側面に形成した角穴13および角柱材7の側面に形成した角穴14の内面形状と一致するように形成されている。金具15の全長である間隔を開けて隣接配置した縦枠材2から角柱材7までの全幅とは、本実施例ではおおよそ縦枠材2を3~4本並べた程度の幅である。
金具15は矩形断面を有するが、矩形断面の縦幅(高さ)と横幅の寸法比は略3:1であり、横幅は装着する縦枠材2および角柱材7の一辺の幅に対して1/4~1/2の寸法であり、好ましくは1/3の寸法である。
縦枠材2と角柱材7には、縦枠材2と角柱材7を貫通する角穴13、14が設けられている。角穴13、14は、縦枠材2と角柱材7の下部において同軸線上に設けられている。角穴13、14の内面には、金具(結合部材)15の両端部がそれぞれ嵌合部として装着(嵌合)されるようになっている。
【0019】
前述したように、金具15は矩形の断面を有した中空の鋼管として形成されており、嵌合部を構成する両端部の側面には表裏貫通した複数の孔18が設けられている。この孔18は、縦枠材2の角穴13および角柱材7の角穴14に挿通されるドリフトピン(鉄製の丸棒)19と係合させる孔である。ドリフトピン19は、縦枠材2の角穴13および角柱材7の角穴14に対して直交するように貫通させた孔20に挿通させるようになっており、挿通に伴って金具15の孔18と係合し金具15を角穴13および角穴14内に固定するようになっている。
ドリフトピン19によって金具15を固定することで、水平方向から見てH型の構造体を成すように縦枠材2と角柱材7を強固に連結する。縦枠材2と角柱材7の間には概ね15cm程度の間隔が設けられており、この部分に金具15が露出するようになっている。
【0020】
縦枠材2と角柱材7の間において露出した金具15の上面16と下面17には、アンカーボルト12a、12bを挿通させることができる孔(長孔)21が形成されている。本実施例では、2本のアンカーボルト12を挿通させることができるように、金具の長手方向に沿った2カ所(表裏併せて4カ所)に上下に貫通させた孔21を設けている。また、孔21と同軸を成す水平材5にもアンカーボルト12a、12bを挿通させる孔22が設けられている。
金具15は、上面16と下面17の両面が、2本のアンカーボルト12a、12bに対してそれぞれ螺合されたナット24、27、ナット25、28によって固定されるようになっている。金具15は一方のアンカーボルト12aに対してナット24によって上方への移動が制限され、ナット27によって下方への移動が制限される。また、金具15は他方のアンカーボルト12bに対してナット25によって上方への移動が制限され、ナット28によって下方への移動が制限される。
【0021】
金具15は平行して配置したアンカーボルト12a、12bに対してそれぞれ上方向への変位および下方への変位が制限されるようになっているので、回転させるようなモーメントが生じても回転しないようになっている。また、結合した各部材が互いの移動を拘束するため、横方向への平行移動を含め様々な方向への移動が制限されるようになっており、金具15を使用して連結された縦枠材2と角柱材7によるH型状もその形状を保持するようになっている。
上記縦枠材2と角柱材7に対する金具15による固定構造は、壁枠6の他方を構成する縦枠材3と角柱材8についても同様に用いられており、耐力壁1は両側縁部分において変形しにくい強固な構造を有するものとなっている。
【0022】
耐力壁1の上辺に対して横方向の荷重が作用した場合に、各部材にどのような力が作用するのかを説明する。横方向に作用する実際の荷重は、地震や風圧に伴う可逆的な揺動として生じる動的な荷重であるが、最も振幅(揺れ幅)が大きい時点における主要な静的な力の釣り合いを想定して説明する。
図3に示すように、上端に設けた水平材4が、その長手方向である左横方向へ荷重Fxrを受けた場合、金具15によって固定された縦枠材2と角柱材7(および縦枠材3と角柱材8)には様々な応力が作用する。例えば、縦枠材2には長手方向に沿って下向きの力Fydが作用し、角柱材7には長手方向に沿って上向きの力Fyuが作用する。これとは逆に、水平材4が右横方向への荷重Fxlを受けた場合には、縦枠材2には長手方向に沿って上向きの力が作用し、角柱材7には長手方向に沿って下向きの力が作用する。
【0023】
荷重Fxrが生じた場合、壁枠6には反時計方向へ回転させようとする力が生じ、この力の成分によって縦枠材2には下向きの力が作用する。また、壁枠6全体として見た場合に角柱材7にも下向きの力が生じるが、縦枠材2と角柱材7を金具15によって結合した剛体として考えると、金具15を設けた部分には同様に反時計方向へ回転させようとする力が作用する。すなわち、角柱材7には縦枠材2と反対方向の上向きの力が生じる。
なお、アンカーボルト12a、12bは長尺の棒状体であるから、横方向から作用する曲げ応力に対して強い強度を発揮しない。しかしながら、アンカーボルト12a、12bに固定した金具15は、アンカーボルト12a、12bを含めて縦枠材2、角柱材7等の壁枠6を構成する様々な部材によって位置が拘束され移動を制限されているので動かない。したがって、アンカーボルト12a、12bの横方向への曲がり量は僅かであるので、本書面ではこの点について言及しないものとする。
【0024】
本実施例では、鋼材によって金具15が形成されており、木材と比較して高い強度の部材として構成することができる。さらに、アンカーボルト12a、12bも鋼材によって構成されているため、想定される地震や風圧によって生じる荷重内では塑性変形を起こさず破壊されない強度に設計されている。
一方、壁枠6を構成する部材は主に木材であり、当然ながら鋼材と比較して強度が低く、局部的に応力が集中すると破損する場合がある。このような観点に鑑み、本実施例では木材によって構成した部材に対して局部的に応力を集中させることなく、壁枠6全体としての強度を高め、変形しにくい構造の提供を目的としている。この目的を達成するために、強度のある金属素材によって形成した剛性の高い構造体に大きな荷重を負担させるとともに、この構造体と木材と結合部分に局部的に強い応力が生じない構造を設けている。
【0025】
本実施例の作用を明確化するために、
図4(a)のように角柱材を用いずに縦枠材のみを金具で固定した例を説明する。すなわち、金具100がアンカーボルト102取り付けた左上ナット103によって、片持ちの状態で上方への移動のみが制限されているような場合を想定する。
図4(a)に示した構造は、縦枠材101に取り付けたホールダウン金具100は、主に縦枠材101の上方への移動を制限するが、縦枠材101の下方への移動や傾斜に対する考慮が無い。すなわち、縦枠材101が下向きの力を受けた場合、縦枠材101の下降を制限するのは縦枠材101の下端104と接する水平材105のみである。このため、縦枠材101の下端104が強い力で水平材105に押しつけられると、接した部分106が木材としての弾性限界を超えて破壊に至る場合がある。
このような現象は、従来のホールダウン金物でも見られる現象である。従来のホールダウン金物は、縦枠材のような垂直材の側面にネジ止めしたプレートを有し、このプレートをアンカーボルトに固定したものである。このような従来のホールダウン金物は、固定力の小さいネジによって固定するものであるから強い荷重には耐えられないものであり、かつ垂直材の傾きや上下動を抑制することはほぼ不可能といえるものである。
【0026】
図4(b)は、本実施例にかかる金具15部分に作用する力のバランスを表した説明図である。金具15の上面部分16は、アンカーボルト12a、12bに対して左上ナット24と右上ナット25によって固定され、下面部分17は左下ナット27と右下ナット28によって固定されている。これにより、金具15は、ほぼ全ての方向に対する力に対して移動が制限された基礎コンクリート11と一体を成す剛体と見做すことができる。
静的な力のバランスについて説明すると、縦枠材2に作用する下向きの力Fydに対抗する上向きの反力は、金具15の上面部分16と接触する縦枠材2に設けた角穴13の上側の内面(上面)29とドリフトピン(鉄製の丸棒)19を介して伝達される。同時に、角柱材7に作用する上向きの力Fyuに対抗する下向きの反力は角柱材7に設けた角穴14の下側の内面(下面)30とドリフトピン(鉄製の丸棒)19を介して伝達される。
【0027】
金具15の外形は縦枠材2の角穴13および角柱材7の角穴14の内形状とほぼ一致しており隙間無く嵌合した状態である。このため金具15、縦枠材2および角柱材7は変形しにくいH型の構造体を構成している。金具15は基礎コンクリート11によって固定されているので、嵌合によって金具15に固定された縦枠材2と角柱材7も変形に対して高い耐性を有している。
【0028】
一方において、比較的自由に強度の設定ができる金属性の金具15は破損する可能性は極めて低いが、金具15と結合させた木材は結合の方法如何によっては破損しやすくなる。例えば、木材の結合を丸釘やネジ釘等の釘によって行うタイプの金物を用いた場合、荷重が限度を超えた場合には釘が抜けたり、釘を打ち込んだ部位が割れる等の破損が発生する。
これに対して本実施例の構造は、縦枠材2の角穴13と角柱材7の角穴14を金具15と結合させる部位において、金具15から力を受ける部分を角穴13、14の上面29若しくは下面といった広い面積の平面で構成することができる。すなわち、荷重を分散させることで局部的な応力の集中を防ぐことができるようになっている。
【0029】
角穴13および角穴14の上面および下面の形状は、幅が角材の全幅に対して約1/2~1/4の寸法であり、最適な幅の寸法は全幅の略1/3である。また、長さは貫通させた角穴の長さであるから、正方形の角柱の場合には全幅と同一の寸法である。言い換えるならば、縦枠材2と角柱材7それぞれの断面積の略1/2~1/4、最適値としては略1/3の面積によって、縦枠材2と角柱材7に作用する荷重を支えるようになっている。
従来型のホールダウン金物の場合は固定に使用するネジ釘によって荷重を支えることになるので応力は木材に打ち込んだネジ釘に集中する。しかし、本実施例の場合には平面である金具15の上面、下面によって荷重を支えることになるため、ネジ釘を使用した場合と比較して同じ荷重を負担する場合であっても木材に及ぼす応力は遙かに小さなものとなる。これは、釘を使用した場合には破損するような応力であっても、平面によって荷重を受けるものであるため破損には至らないということを意味している。
【0030】
以上説明したように、水平材4が荷重Fxrを受けて左方向へ揺動する場合、又は荷重Fxlを受けて右方向へ揺動する場合、左右方向への揺動が連続的に生じて振動する場合のいずれであっても、縦枠材2とこれに平行して配置した角柱材7に作用する荷重の大半は金具15によって受け止められる。アンカーボルト12a、12bによって基礎コンクリートに固定された金具15は、両端に取り付けた縦枠材2および角柱材7の上下動および傾きを制限する働きを有し、これにより耐力壁1自体の歪みを防止する作用を有している。
そして、金具15と耐力壁1を構成する木材との結合部位は、応力が局部的に集中しないように広い面積を有する平面を介して行われているので、強い荷重を受けた場合であっても、耐力壁1自体の破損を防止する効果が高いものとなっている。
耐力壁1aに使用する金具49は、対称形状の2つの挟持部材50、51から構成されている。挟持部材50、51は、鋼板を所定形状に曲げ加工することで形成されている。金具49は、挟持部材50と挟持部材51を対向させることによって、両端に縦枠材2aと角柱材7a(縦枠材3aと角柱材8aも同様)を挟持するように装着する装着部52、53を構成する。装着部52と装着部53の間には、アンカーボルト12a、12bに対する固定手段を兼ねた連結部54(54a、54b)が設けられている。
金具49を構成する一方の挟持部材50には、装着部52の一方を構成する装着片52a、装着部53の一方を構成する装着片53a、連結部54の一方を構成する連結部54aが設けられている。同様に、金具49を構成する他方の挟持部材51には、装着部52の一方を構成する装着片52b、装着部53の一方を構成する装着片53b、連結部54の一方を構成する連結部54bが設けられている。
装着片52aは、縦枠材2aの側面に形成した矩形断面の切欠部55aの内面に嵌合可能な形状に形成された嵌合部を構成している。具体的には、装着片52aは切欠部55a内の垂直面に接する板状の接触部56aを有し、接触部56aの上下両端に切欠部55a内の上下面に接する矩形平面を有した支持面57a、58aを設けている。同様に、装着片52bは切欠部55b内の垂直面に接する板状の接触部56bを有し、接触部56bの上下両端に切欠部55b内の上下面に接する矩形平面を有した支持面57b、58bを設けている。
上記装着片52aの構造は、反対側に設けている装着片53aについても同様であり、符号を付しての説明は省略するが、角柱材8aの側面に形成した矩形断面の切欠部の内面に嵌合可能な形状に形成されている。
同様に、装着片52bの構造は、反対側に設けている装着片53bについても同様であり、符号を付しての説明は省略するが、角柱材8aの反対側の側面に形成した矩形断面の切欠部の内面に嵌合可能な嵌合部を構成している。また、角柱材8aの側面に形成した矩形断面の切欠部についても、縦枠材2aの側面に形成した矩形断面の切欠部55a、55bと同様であるので符号を付した説明を省略する。
切欠部55aは、縦枠材2aの側面と平行を成す正方形に近い形状の平面部を有するように形成されており、これに接する板状の接触部56aの板面と同形状に形成されている。また、接触部56aの上下には接触部56aと直交する支持面57a、58aを設けており、平面部と同様に切欠部55a内の上面および下面と密接するようになっている。
接触部56aには、止具(木ネジや釘)を打ち込むための小孔59を複数箇所設けており、小孔59を介して打ち込んだ止具によって、接触部56aを切欠部55aの内面に対して強固に取り付けることが出来るようになっている。この際、支持面57a、58aも切欠部55aの内面に密接することになり、縦枠材2aの長手方向に沿った荷重を平面として形成した支持面57a、58aによって支えるようになっている。
切欠部55a内の上面および下面の面積は、これに接する支持面57a、58aの面積と略等しく形成されており、共に縦枠材2aの断面積の1/6~1/4を有するように形成されている。また、反対面の切欠部55bに装着される装着片52bの支持面57b、58bの面積も縦枠材2aの断面積の1/6~1/4を有するように形成されている。
金具49は挟持部材50、51を対向させて縦枠材2aの切欠部55a、55bを形成した部分を挟み込んで装着されるものである。したがって、縦枠材2aの切欠部55aおよび切欠部55bを総合すると、金具49は2つの装着片52a、52bによって縦枠材2aの断面積の1/3~1/2の面積で縦枠材2aの切欠部55aおよび切欠部55bの上面および下面と接するようになっている。これにより、金具49は縦枠材2aの断面積の1/3~1/2の面積で、縦枠材2aの長手方向に作用する成分の荷重を受け止めることが出来るようになっている。これは、縦枠材2aと対を成して平行に配置された角柱材7aについても同様である。
装着部52aと装着部53aを繋ぐ連結部54aおよび装着部52bと装着部53bを繋ぐ連結部54bは、縦枠材2aと角柱材7aに装着した際に、アンカーボルト12a、12bを配置できる程度の隙間を構成できる平行な板状部として形成されている。これにより、金具49は、アンカーボルト12a、12bによって基礎コンクリート11に固定できるようになっている。
具体的には、連結部54aおよび装着部52bの上端縁および下端縁にそれぞれ装着されるU字形状に曲げられた小金具60を設け、小金具60を介して左上ナット24、右上ナット25、左下ナット27、右下ナット28によってアンカーボルト12a、12bに固定される。小金具60は、平行に配置した連結部54aと連結部54bが荷重を受けた際に間隔が広がらないように規制する部材である。
前述した金具15は、分離できない一個の部材として形成され、縦枠材2と角柱材7を貫通する形で装着されるようになっている。これに対して金具49は、分離された2個の部材を対向させることで縦枠材2aと角柱材7aを側面から挟持し一つの金具として作用するものである。
金具49は、形状と取り付け方法において金具15と差異があるものの、耐力壁の一部を構成する縦枠材2aと角柱材7aを強固に固定することで構造体として高い剛性を生じさせるものであり、金具15と同様に耐力壁全体としての強度を向上させるものとなっている。