(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173002
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】新規の塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
C07F7/18 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021099746
(22)【出願日】2021-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】515274413
【氏名又は名称】ケイ素材料開発株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白幡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】内田 広之
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ21
4H049VQ36
4H049VR21
4H049VR43
4H049VS12
4H049VS21
4H049VU02
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】抗菌性を有する新規のアルコキシ基含有ケイ素化合物とその合成方法を提供する。
【解決手段】トリアルコキシシリル基とクロロメチルフェニル基がアルキレン基で結合したクロロメチルフェニル基を持つトリアルコキシシランと長鎖アルキルアミンを反応させることによって得られる新規の塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤。
【効果】本発明は新規の塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤であり、特性として抗菌性、抗ウイルス性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(式中、R
1は炭素数10~18のアルキル基を示し、R
2、R
3は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
4は炭素数2~6のアルキレン基を示す。)で表される新規の塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤。
【請求項2】
上記一般式(1)で表される塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤がトリメトキシシランである塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤。
【請求項3】
上記一般式(1)で表される塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤がトリエトキシシランである塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤。
【請求項4】
上記一般式(1)で表される塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤のR4が炭素数2のアルキレン基である塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤といわれる有機官能基とアルコキシシリル基を同時に持つシラン化合物は基材の表面処理剤として長期にわたって基材表面に有機官能基の機能を付与する材料として活用されてきた。一方、塩化ベンザルコニウムは殺菌消毒剤として広い分野で使用されているが、塩化ベンザルコニウムを有機官能基として持つシランカップリング剤はこれまで開発されてこなかった。
【先行技術】
【0003】
抗菌剤の官能基を持つシランカップリング剤としては長鎖アルキルアンモニウム官能性アルコキシシラン化合物としてのシランカップリング剤があり、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドのメタノール溶液がよく知られており、現在のTHE DOW CHEMICAL COMPANY(旧DOW CORNING CORPORATION)からDC5700抗微生物処理剤という名称で提供され、BIOSIL加工という繊維に抗菌性を付与する処理方法として活用されてきた。また、オクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドのエタノール溶液は抗ウイルス剤としての効果があるとして近年、工業化されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、殺菌消毒剤として広い分野で使用されている塩化ベンザルコニウムを有機官能基として持つ新規のシランカップリング剤を合成することを目的として、材料開発の検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、クロロメチルスチレンとトリアルコキシシランのヒドロシリル化反応によりトリアルコキシシリル基とクロロメチルフェニル基が炭素数2のアルキレン基で結合したクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランが製造できることを見出し、さらに長鎖アルキルジメチルアミンとの反応によって塩化ベンザルコニウム官能性アルコキシシラン化合物が合成できることを見出して本発明をなすに至った。クロロメチルスチレンとトリアルコキシシランのヒドロシリル化反応によって得られたクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランは蒸留で単離純化し、ガスクロマトグラフィーからビニル基に対してケイ素はα付加体とβ付加体の混合物(混合比は約1:6)であることがわかり、
1H-NMRとFT-IRによってクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランであることが確認できた(
図1、
図2、
図3)。
【発明の効果】
【0007】
本発明の新規の塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤は高い殺菌消毒剤としての機能を持つ塩化ベンザルコニウムと各種の基材に対する接着性を有するアルコキシシランが化学的に結合した構造を持つため、長期にわたって基材表面に高い殺菌消毒作用を持たせる効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例で合成したクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランのガスクロマトグラフチャートチャートである。
【
図2】実施例で合成したクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランのNMRスペクトルチャートである。
【
図3】実施例で合成したクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランのFT-IRスペクトルチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本願明細書に記載の塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤は、下記一般式(a);
【化1】
(式中、R
3は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
4は炭素数2~6のアルキレン基を示す。)で表されるクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランとアミン化合物を反応させて得られる下記一般式(1);
【化2】
(式中、R
1は炭素数10~18のアルキル基を示し、R
2、R
3は炭素数1~6のアルキル基を示し、R
4は炭素数2~6のアルキレン基を示す。)で表される新規の塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤である。
【0011】
式(a)で示されるクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランはクロロメチルスチレンとトリアルコキシシランの白金触媒によるヒドロシリル化反応で得ることができる。クロロメチルスチレンのベンゼン環に結合するクロロメチル基とビニル基は位置異性体としてオルソ体、メタ体、パラ体があるが、いずれでもビニル基とトリアルコキシシランのSi-H基によるヒドロシリル化反応は進行しクロロメチルフェニル官能性トリアルコキシシランが得られるが、クロロメチルスチレンはメタ体、パラ体がより好ましく、メタ体、パラ体の混合物でもよい。
【0012】
式(1)中のR1の炭素数10~18のアルキル基としてはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が例示される。
【0013】
式(1)中のR2の炭素数1~6のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が例示される。中でもメチル基が好ましい。
【0014】
式(1)中のR3の炭素数1~6のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が例示されるが、中でもメチル基、エチル基が好ましい。
【0015】
式(1)中のR4の炭素数2~6のアルキレン基としてはメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が例示されるが、中でもメチルメチレン基、エチレン基が好ましい。
【0016】
式(1)で示される塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤は室温では粘ちょうの液体又は固体なのでメタノールやエタノールに希釈した溶液として取り扱うことができる。アルコキシシリル基のアルコキシ基がメトキシ基の時にはメタノールでの希釈、アルコキシシリル基のアルコキシ基がエトキシ基の時にはエタノールでの希釈で取り扱うことが好ましい。希釈倍率は5%から80%の固形分の希釈率として用いることができるが、30%から60%程度の固形分の希釈率で用いるのが好ましい。
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0018】
このようにして得られた塩化ベンザルコニウム官能性シランカップリング剤のアルコール溶液はさまざまな基材に塗布や噴霧、あるいは浸漬することによりアルコキシシリル基の特性から塩化ベンザルコニウム官能性シリル基が基材表面の水分や水酸基と化学的に結合し、長期に表面に塩化ベンザルコニウム官能基を有する基材を得ることができる。この表面処理を行うには、さらにアルコールで希釈した希薄溶液でもよく、また数パーセントの水溶液にして表面処理を行ってもよい。
【実施例0019】
窒素雰囲気下、500mLフラスコにメタ体とパラ体の混合物(約45:55)のクロロメチルスチレン123gを仕込み、白金触媒を白金量で全体量の5ppmになるように添加した。磁気撹拌子で撹拌しながら120℃に加熱してトリエトキシシラン120gをゆっくりと滴下した。発熱反応が起こり、滴下後ガスクロマトグラフで反応液を確認すると、クロロメチルスチレンのビニル基にトリエトキシシランがヒドロシリル化反応を起こしたα-付加体とβ-付加体の混合物が合成されていることが確認された。減圧蒸留して沸点110℃~120℃/60Paの留分を採取し170gの液体を得た。ガスクロマトグラフィー(
図1)、NMRスペクトル(
図2)、FT-IRスペクトルからメタ体とパラ体の異性体混合物のトリエトキシシリルエチルベンジルクロリドとメチル-トリエトキシシリルメチルベンジルクロリドの混合物であることが確認できた(屈折率1.4811)。
窒素雰囲気下、磁気撹拌子で撹拌しながら60℃に加熱しジメチルドデシルアミン57gをエタノール214gに溶解した溶液に実施例1で得られたトリエトキシシリル基を置換基として持つベンジルクロリドの混合物85gを滴下した。発熱反応が起こり反応液の温度を70℃前後に滴下速度を調節した。滴下終了後エタノールの還流を30分間行い、冷却して固形分40%の黄色透明液体のエタノール溶液350gを得た。遊離塩素イオン濃度を測定したところ2.7%でアンモニウム塩ができていることが確認できた。