(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173006
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】亜鉛金属電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/26 20060101AFI20221110BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20221110BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221110BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01M10/26
H01M10/30 A
H01M4/38 Z
H01M4/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021099754
(22)【出願日】2021-05-05
(71)【出願人】
【識別番号】518316099
【氏名又は名称】井戸 秀和
(72)【発明者】
【氏名】井戸 秀和
【テーマコード(参考)】
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA06
5H028FF00
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA11
5H050CA17
5H050CB13
(57)【要約】
【課題】水系電解液を用いる電池の中では高電圧であり、比較的低価格で、電解液の二酸化炭素吸収による劣化がなく、亜鉛のデンドライト生成が防止できること、これら課題を解決できる亜鉛系電池を提供する。
【解決手段】正極に鉄、ニッケル、鉛のいずれか1種、負極に亜鉛、電解液にりん酸アルカリ水溶液を用いることにより、上記課題を解決した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極に鉄、ニッケル、鉛のいずれか1種、負極に亜鉛、電解液にりん酸アルカリ水溶液を用いることを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛負極は低コストで比較的エネルギー密度が高く、資源も豊富で入手しやすい。
亜鉛を負極に用いた電池は、一次電池として、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池や亜鉛空気電池などが実用化されている。また、二次電池として亜鉛空気電池やニッケル亜鉛電池も知られている。これら電池の放電時における亜鉛電極の化学反応は
Zn→Zn2++2e- (1)
Zn+2OH-→ZnO+H2O+2e- (2)
Zn+4OH-→Zn(OH)4
2-+2e- (3)
などである。
【0003】
マンガン乾電池では正極集電体に炭素棒(グラファイト)、減極剤に二酸化マンガン、電解液に塩化亜鉛または塩化アンモニウム水溶液が使用され、電圧は1.5Vである。
アルカリマンガン乾電池では正極集電体に炭素棒(グラファイト)、減極剤に二酸化マンガン、電解液に水酸化カリウム水溶液が使用され、電圧は1.5Vである。
空気亜鉛電池では減極剤に空気(酸素)、電解液に水酸化カリウム水溶液が使用され、電圧は1.4~1.68Vである。
【0004】
ニッケル亜鉛電池では正極に水酸化ニッケル、負極に亜鉛、電解液として水酸化ナトリウムや水酸化カリウム水溶液が使用される(特許文献1)。
【0005】
ニッケル亜鉛電池では、亜鉛又は亜鉛化合物を含む負極と、0.025Mないし0.25Mの範囲のりん酸塩と、4Mないし9Mの範囲の遊離アルカリとを含む電解質で、1M以下のほう酸塩を含む電解質とを備える電池、も知られており、電圧は1.7Vである(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開昭63-2266
【特許文献2】特開2007-214125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、下記従来技術の抱える問題点を解決できる、亜鉛系電池、さらに具体的には、亜鉛金属電池を提供することである。
【0008】
マンガン乾電池およびアルカリマンガン乾電池は、電圧は1.5Vと水系電解液を用いる電池の中では、高くない。これらは、充電すると、負極に亜鉛のデンドライトが生じて内部短絡のおそれがあるため、充電はできない。
【0009】
亜鉛空気電池は電解液に強アルカリ性の水酸化カリウムを使用しており、空気中の二酸化炭素を吸収して、劣化する。また、二次電池として用いる場合、充電時の酸素発生に対する過電圧が高く、充電効率が低下することや、亜鉛のデンドライトが生じて内部短絡のおそれがあることが課題である。
【0010】
従来のニッケル亜鉛電池は、電圧は1.7Vとマンガン乾電池より高いが、水系電解液を用いる電池の中では、高くはない。また、充電すると、負極に亜鉛のデンドライトが生じて、劣化の可能性がある。
【0011】
特許文献2記載のニッケル亜鉛電池では、緩衝作用を得るため電解液に4Mないし9Mの範囲の水酸化カリウム等の遊離アルカリに加え、0.025Mないし0.25Mの範囲のりん酸塩が添加されてデンドライトの生成が抑制されているが、適当な緩衝作用を得るためにりん酸塩の濃度は0.025Mないし0.25Mに制限されている。また、電解液のインピーダンスはりん酸塩濃度0.05M以上で上昇するため、上限は0.25Mに制限されている。
遊離アルカリを含み、りん酸塩濃度の上限が0.25Mに制限されているため、電池反応は従来のニッケル亜鉛電池と同じであり、電圧は1.7Vに止まっている。
また、遊離アルカリを含むため、二酸化炭素による電解液の劣化がある。
【0012】
特許文献2記載のニッケル亜鉛電池では、正極に水酸化ニッケルを用いるため、比較的高価である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は正極に鉄、ニッケル、鉛のいずれか1種、負極に亜鉛、電解液にりん酸アルカリ水溶液を用いることにより、水系電解液を用いる電池の中では高電圧であり、比較的低価格で、電解液の二酸化炭素吸収による電解液の劣化がなく、亜鉛のデンドライト生成が防止できることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来の亜鉛系電池の正極は酸化物や水酸化物であるが、本発明ではりん酸アルカリ水溶液を用いて金属電極に充電するため、高原子価の金属りん酸塩が正極表面に生成して活物質として働いていると推測される。
【0015】
従来の亜鉛系電池の充放電時には負極で反応(1)~(3)が利用されているが、本発明では電解液に遊離アルカリを含まないりん酸アルカリ水溶液を用いるため、
3Zn+2PO4
3-→Zn3(PO4)2+6e- (4)
のようにりん酸塩が生成しているものと考えられる。以上のように、正極、負極で、従来の亜鉛系電池とは異なる電池反応が起こるため、水系電解液を用いる電池の中では高電圧を得ることができる。
なお、遊離アルカリは反応(4)の代わりに(2)、(3)を促進し、電圧を低下させるため、電解液は遊離アルカリを含まないことが好ましい。
【0016】
電解液は遊離アルカリを含まないため、二酸化炭素による劣化がなく、反応(3)による可溶性亜鉛化合物が生成せず、充電時の亜鉛成分再配置による電極の変形やデンドライト生成を抑制できる。りん酸アルカリのアルカリとしては、Li、Na、K、Rb、Csを使用できるが、入手のしやすさから、Na、Kが好ましく、Na3PO4、K3PO4やそれらの水和物を用いることができる。
【0017】
電解液中のりん酸アルカリの濃度は、反応(4)が促進されるため、高い方が良いが、0.26M以上が好ましく、さらに好ましくは0.70M以上である。ただし、遊離アルカリを含まない場合は、0.26M未満であっても良い。
【0018】
正極の金属としては、鉄、ニッケル、鉛のいずれか1種を用いる。これらは3価以上の酸化状態を持ち、高い電位を示すこと、りん酸塩の溶解度が小さく電解液に溶解して消耗し難いことから、正極材として適している。
【0019】
負極には亜鉛板や、亜鉛粉を圧縮整形した形状等で用いることができる。
【0020】
正極と負極の間には、セパレータとして多孔質の樹脂フィルムやセラミックを必要に応じて設けることができる。
【実施例0021】
亜鉛板(0.5×12×50mm)を負極とし、鉄板(0.5×12×50mm)を正極とした。100mlのビーカーで、りん酸ナトリウム(日本細菌検査製、Na3PO4)4.3gをイオン交換水30mlに溶解し、電解液とした。上記正極と負極を電解液に両極が接触しないように浸漬した。
次に、直流電源を正極と負極に接続し、室温で正極の方が高電位になるように3.0Vの電圧を5min印加し、電流を測定したところ、40mAの電流を計測した。その後、開放電圧を測定すると1.6Vであった。
測定後、ビーカーから亜鉛板を取り出し表面を肉眼で観察すると、デンドライトではなく、皮膜状の亜鉛が析出していることが分かった。
以上から、安価な鉄電極を用いて、マンガン乾電池より高電圧が得られることが分かった。