(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173073
(43)【公開日】2022-11-17
(54)【発明の名称】歯科用成形体の生成のための透明な破壊靭性重合樹脂
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20221110BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20221110BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022059245
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】21172707
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト モスツナー
(72)【発明者】
【氏名】イェルク アンゲルマン
(72)【発明者】
【氏名】イーリス ランパルト
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン カテル
(72)【発明者】
【氏名】カイ リスト
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BC02
4C089BC08
4C089BC12
4C089BC20
4C089BD01
4C089BD02
4C089BD05
4C089BE01
4C089BE02
4C089BE05
4C089BE08
4C089BE09
4C089BE11
4C089CA08
(57)【要約】
【課題】歯科用成形体の生成のための透明な破壊靭性重合樹脂を提供すること。
【解決手段】少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、好ましくは少なくとも1種の単官能ラジカル重合性モノマー(a)、および好ましくは少なくとも1種のラジカル重合性ウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル(b)を含有する、ラジカル重合性歯科材料。本発明の目的は、アディティブプロセスのために最適化された特性プロファイルを有する、歯科用成形体の生成のための材料を提供することである。特に、材料は、良好な破壊靱性および高破壊仕事と合わせて、高透明度を有するべきである。さらに、それらは、水中での貯蔵後に低粘度および良好な機械的特性、ならびに良好な生体適合性を示すべきである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、好ましくは少なくとも1種の単官能ラジカル重合性モノマー(a)、および好ましくは少なくとも1種のラジカル重合性ウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル(b)を含む、ラジカル重合性歯科材料。
【請求項2】
いずれも前記材料の全質量に対して、
(a)30~70重量%、好ましくは30~61重量%、特に好ましくは40~60重量%の、少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノ(メタ)アクリレート、
(b)20~60重量%、好ましくは30~55重量%、特に好ましくは33~55重量%の、750~2000g/molの数平均モル質量を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0~30重量%、好ましくは0~20重量%、特に好ましくは0重量%のジ(メタ)アクリレートモノマー(複数可)、
(d)1~12重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは2~10重量%の、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマーであって、前記Aブロック(複数可)は成分(a)~(c)の混合物と均質に混和可能であり、前記Bブロックは成分(a)~(c)の前記混合物と均質に混和可能でない、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマー、ならびに
(e)0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4.0重量%、特に好ましくは0.3~3.0重量%の、ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤
を含む、請求項1に記載のラジカル重合性歯科材料。
【請求項3】
成分(a)として、式(I)の少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノメタクリレート
【化18】
[式中、可変要素は以下の意味を有する:
Aは、6~15個の炭素原子を有する芳香族基または7~10個の炭素原子を有する二環式もしくは三環式脂肪族基であり、Aは、非置換であっても、1個もしくはそれより多くのC
1~C
5アルキル基、C
1~C
5アルコキシ基および/もしくは塩素原子によって置換されていてもよく;
Rは、水素またはメチルであり;
X
1、X
2は互いに独立して、いずれの場合にも存在しない、またはエーテル、エステルもしくはウレタン基であり、Y
1が存在しない場合にX
1は存在せず、Y
2が存在しない場合にX
2は存在せず;
Y
1、Y
2は互いに独立して、いずれの場合にも存在しない、または1~3個の酸素原子で中断されていてもよい1~10個の炭素原子を有する分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状脂肪族炭化水素ラジカルである]
を含む、請求項1に記載の歯科材料。
【請求項4】
成分(a)として、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(o-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルオキシカルボニル)-アミノ]-エチル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルカルバモイル)-オキシ]-エチル(メタ)アクリレート、1-フェノキシプロパン-2-イル(メタ)アクリレートおよび2-(p-クミルフェノキシ)-エチル(メタ)アクリレート、2-(ベンジルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ベンジルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸メチルエステル、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、2-(p-クミルフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート、4,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタニル(メタ)アクリレート、オクタヒドロ-1H-4,7-メタノインデン-5-イル(メタ)アクリレートまたはそれらの混合物を含む、請求項3に記載の歯科材料。
【請求項5】
成分(b)として、ジイソシアネートをジオールと反応させ、次いでα,ω-イソシアネート官能化ウレタンテレケルをHEMAまたはHPMAと反応させることによって得ることができる少なくとも1種のウレタンジメタクリレートテレケルを含む、請求項1から4のうちの一項に記載の歯科材料。
【請求項6】
成分(b)として、一般式(II)によるテレケル
【化19】
[式中、可変要素は以下の意味を有する:
R
1、R
2は互いに独立して、いずれの場合にもHまたはメチル、好ましくはメチルであり、
R
3、R
4は互いに独立して、いずれの場合にもHまたはメチル、好ましくはメチルであり、
x、yは互いに独立して、いずれの場合にも1~11、好ましくは1~5の整数であり、
nは、1、2または3、好ましくは1であり、
Zは、
【化20】
好ましくは
【化21】
であり、
DAは、ジオールHO-DA-OHに由来する、前記ヒドロキシル基から前記水素原子を切断することによる構造要素であり、前記ジオールHO-DA-OHは、以下の化合物:2~6個のエトキシ基またはプロポキシ基を有する、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、o-ジフェニルまたはp-ジフェニル、炭素鎖に1~4個のOまたはS原子を含有することができるC
2~C
18アルカンジオール、好ましくは2、3または4個のエトキシ基またはプロポキシ基を有するエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、ヘキサン-1,6-ジオール、オクタン-1,8-ジオール、ノナン-1,9-ジオール、デカン-1,10-ジオール、ウンデカンジオールまたはドデカン-1,12-ジオール、テトラまたはペンタエチレングリコール、環式または多環式脂肪族ジオール、特にシクロヘキサンジオール、ノルボルナンジオール、トリシクロデカンジオールおよびトリシクロデカンジメタノール(オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメタノール)から選択される]
を含む、請求項5に記載の歯科材料。
【請求項7】
成分(d)として、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマーを含み、前記Aブロックは、以下のモノマー:環式脂肪族エステルまたはエーテル、アリーレンオキシド、アルキレンオキシド、ラジカル重合性モノマー、例えばα,β-不飽和酸およびα,β-不飽和酸エステル、のうち1つまたは複数から構成されているオリゴマーであり、前記Bブロックは、ポリシロキサンオリゴマーおよび/またはポリビニルオリゴマーおよび/またはポリアルケンオリゴマーおよび/またはポリジエンオリゴマーである、請求項1から6のうちの一項に記載の歯科材料。
【請求項8】
成分(d)として、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマーを含み、前記Aブロックは、オリゴマーのポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)またはポリ(メタ)アクリレートビルディングブロックであり、前記Bブロックは、オリゴマーのポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリ(イソプレン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(イソブテン)、cis-ポリ(ブタジエン)またはポリ(エチレン)ビルディングブロックである、請求項7に記載の歯科材料。
【請求項9】
成分(d)として、0.1~5のA:Bのモル比および3~25kDa、好ましくは4~20kDa、特に好ましくは5~10kDaのモル質量を有する、PCL-b-PDMS-b-PCLおよび/またはPMMA-b-PDMS-b-PMMA型の少なくとも1種のABAトリブロックコポリマーを含む、請求項8に記載の歯科材料。
【請求項10】
成分(e)として、好ましくはベンゾフェノン、ベンゾインもしくはその誘導体、α-ジケトンもしくはその誘導体、例えば9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルもしくは4,4’-ジクロロベンジル、カンファーキノン(CQ)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、または還元剤であるアミン、例えば4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-sym.-キシリジンもしくはトリエタノールアミンと組み合わせたα-ジケトン、モノアシルトリアルキルゲルマニウム、ジアシルジアルキルゲルマニウム、テトラアシルゲルマニウム、テトラアシルスタンナン、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウム、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム、テトラキス(2-メチルベンゾイル)ゲルマンもしくはテトラキス(メシトイル)スタンナンまたはそれらの混合物など、
アセトフェノン、例えば2,2-ジエトキシ-1-フェニルエタノン、ベンゾインエーテル、例えばIrgacure 651(ベンジルジメチルケタール)、ヒドロキシアルキルフェニルアセトフェノン、例えばIrgacure 184(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、例えばIrgacure TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)もしくはIrgacure 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン(Irgacure 369)および/または1-ブタノン-2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルフェニル)メチル-1-4-(4-モルホリニル)フェニル(Irgacure 379)などノリッシュI型光開始剤
から選択される少なくとも1種の光開始剤を含む、請求項1から9のうちの一項に記載の歯科材料。
【請求項11】
いずれも前記材料の全質量に対して、以下の組成:
(a)30~70重量%、好ましくは30~61重量%、特に好ましくは40~60重量%の、少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノ(メタ)アクリレート、
(b)20~60重量%、好ましくは30~55重量%、特に好ましくは33~55重量%の、750~2000g/molの数平均モル質量を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0~30重量%、好ましくは0~20重量%、特に好ましくは0重量%のジ(メタ)アクリレートモノマー(複数可)、
(d)1~12重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは2~10重量%の、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、
(e)0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4.0重量%、特に好ましくは0.3~3.0重量%の、ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤、
(f)0~15重量%、好ましくは0~5重量%、特に好ましくは0重量%のコアシェルポリマー粒子、
(g)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、特に好ましくは0~10重量%の充填剤、
(h)0~1.0重量%、好ましくは0~0.7、特に好ましくは0~0.5重量%の紫外線吸収剤、
(i)0~0.5重量%、好ましくは0~0.1重量%、特に好ましくは0~0.05重量%の蛍光増白剤、および
(j)0~15重量%、好ましくは0~10重量%、特に好ましくは0.2~5重量%のさらなる添加剤
を有する、請求項1から10のうちの一項に記載の歯科材料。
【請求項12】
いずれも前記材料の全質量に対して、
(a)40~61重量%の、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(o-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]エチル(メタ)アクリレート、1-フェノキシプロパン-2-イル(メタ)アクリレート、2-(ベンジルオキシ)-エチル(メタ)アクリレート、2-(メタクリロイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ベンジルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸メチルエステル、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレートおよび/または2-(p-クミルフェノキシ)エチルメタクリレート、
(b)33~55重量%の、1molのエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、デカンジオールまたはドデカンジオールを2molのイソホロンジイソシアネート(IPDI)と反応させ、次いで2molの2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)またはヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)と反応させることによって調製された、750~2000g/molの数平均モル質量および少なくとも4個のウレタン基を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0重量%のさらなるジ(メタ)アクリレートモノマー、
(d)2~10重量%の、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマーであって、前記Aブロックは、オリゴマーのポリカプロラクトン、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)またはポリ(メタ)アクリレートビルディングブロックから構成され、前記Bブロックは、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(イソプレン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(イソブテン)、cis-ポリ(ブタジエン)またはポリ(エチレン)ビルディングブロックから構成されている、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、
(e)0%のコアシェルポリマー、
(f)0.1~5.0重量%の少なくとも1種の光開始剤、ならびに
(g)0.2~5重量%の1種またはそれより多種のさらなる添加剤
を含む、請求項11に記載の歯科材料。
【請求項13】
≧60%の透明度、および25℃において≦10.0Pa・sの粘度を有する、請求項1から12のうちの一項に記載の歯科材料。
【請求項14】
300~5000mol/m3の硬化後架橋密度を有する、請求項1から13のうちの一項に記載の歯科材料。
【請求項15】
歯科用成形パーツの生成のためのプロセスであって、
(i)修復対象の歯(複数可)をコンピューターで直接または間接デジタル化することにより、歯の状況のバーチャル画像を創出し、
(ii)次いで、この画像に基づいて、前記コンピューターで歯科修復物または補綴物のモデルを構築し、
(iii)次いで、前記歯科修復物を形成するための選択的光照射により、請求項1から14のうちの一項に記載の歯科材料を層状に重合し、
(iv)次いで、必要に応じて溶媒による処理により、被加工物を清掃し、
(v)次いで必要に応じて、光の照射および/または50℃を超える温度への加熱により前記被加工物をさらに硬化する、
プロセス。
【請求項16】
請求項1から14のうちの一項に記載の材料の、歯科材料としてのまたは歯科用成形パーツの生成もしくは修理のための使用。
【請求項17】
歯科用成形パーツの生成または修理のための、請求項1から14のいずれか一項に記載の歯科材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、アディティブプロセス(additive processes)による人工歯、歯科補綴物、インレー、アンレー、スプリント(バイトスプリント)、クラウン、ブリッジ、ベニアリング材料および歯科用矯正装置など歯科用成形体の生成のための歯科材料として特に適したラジカル重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
通常の歯科重合系は大半が、透明な液体モノマー、開始剤成分、安定剤および顔料の混合物からなる(J. Viohl, K. Dermann, D. Quast, S. Venz, Die Chemie zahnarztlicher Fullungskunststoffe, Carl Hanser Verlag, Munich-Vienna1986, 21-27)。ジメタクリレートの混合物は大半が、例えば充填材料においてポリマー網目を構築するためのモノマーとして使用される(A. Peutzfeldt, Resin composites in dentistry: The monomer systems, Eur. J. Oral. Sci. 105 (1997) 97-116;N. Moszner, T. Hirt, New Polymer-Chemical Developments in Clinical Dental Polymer Materials: Enamel-Dentin Adhesives and Restorative Composites, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 50 (2012) 4369-4402を参照のこと)。これらの例は、希釈モノマーとして使用される、高粘度ジメタクリレートの2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)および1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,4,4-トリメチルヘキサン(UDMA)、ならびに低粘度ジメタクリレートのビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)、デカンジオール-1,10-ジメタクリレート(D3MA)およびトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)である。対照的に、単官能モノマーのメチルメタクリレート(MMA)は低粘度であるが、非常に揮発性が高く、主に歯科補綴物に使用される。
【0003】
使用分野に応じて、ラジカル重合を開始するのに適した別の添加剤および開始剤が添加される。青色光でラジカルを形成し、良好な硬化深さおよび非常に良好なホワイトニング特性によって特徴づけられる可視域光開始剤が、光を使用して重合を開始するのに使用される。補綴材料は、MMAとペーストを形成する粉末ポリメチルメタクリレート(PMMA)を必須成分として含有する。硬化は熱またはレドックス開始剤を用いて行われる。充填複合体およびルーティングセメントの場合に、無機充填剤の割合が高いと、高曲げ強さおよび表面硬度がもたらされるが、しかし、充填剤は透明度に不利な効果を及ぼすおそれがある。
【0004】
ラジカルのメタクリレートポリマーの大きな問題は、使用されたメタクリレートモノマーの重合中に生じる重合収縮(ΔVP)、すなわち体積収縮であり、充填複合体の場合に、例えば辺縁の間隙の非常に不利な形成に至るおそれがあり、補綴材料の場合に、寸法安定性に悪影響を与える(ΔVPは、純粋なMMAの場合に例えば21.0体積%である)。
【0005】
PMMAまたはジメタクリレートポリマーの別の不利な点は、材料の脆性レベルが高いことである。低破壊靱性は、非晶質PMMAガラスの固有の特性であり、ジメタクリレート混合物によって形成されたポリマー網目の場合に、とりわけそれらの非常に不規則な網目構造によって引き起こされる。
【0006】
近年、アディティブマニュファクチャリングプロセスは、ますます高まる関心を集め、歯科用成形体の生成のために広範囲に使用された。生産能力のある製造プロセスと呼ばれることもあるアディティブマニュファクチャリングプロセスでは、3D成形体は、CADデータセットから始めて重合性材料から層状に生み出され、層が露光制御により硬化される。ステレオリソグラフィー(SL)では、UVレーザーが光源として使用される。DLPプロセス(デジタルライトプロセッシング)では、投影可能な画像が、層状の光重合樹脂の硬化に使用される。
【0007】
歯科用成形体のアディティブ生成のためのビルディング材料は、このプロセスの特有の特徴を考えると、さまざまな要件に応じなければならない。それらは、低粘度、ならびに硬化後に高透明度および良好な機械的特性を有するべきである。現況技術に開示された材料は特定の特性に対して最適化され、他の特性を犠牲にすることが多い。
【0008】
単官能および多官能メタクリレートのアディティブプロセスの樹脂としての使用は、多数の特許および特許出願の主題である。
【0009】
US 10,562,995 B2には、OHまたはCOOH基を有さない芳香族ジ(メタ)アクリレートと少なくとも1個のOHまたはCOOH基を含有する(メタ)アクリル系モノマーとの混合物をベースにした、歯科補綴物のステレオリソグラフィック生成のための重合樹脂が開示される。
【0010】
US 10,568,814 B2には、3D印刷による人工歯および義歯床の生成のための光重合性組成物が開示され、それらは、硬化後に高曲げ強さおよび高弾性率を有するといわれる。材料は、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、単官能メタクリレートおよびウレタンジメタクリレートの混合物をベースにする。
【0011】
EP 3 020 361 A1は、ラジカル重合性ポリシロキサンおよびジシロキサンを含有する、アディティブマニュファクチャリングプロセスのための硬化性組成物に関する。材料は、高寸法安定性および改善された生体適合性によって特徴づけられるといわれる。
【0012】
EP 3 494 954 A1には、200~800g/molのモル質量を有する芳香族アクリレートと芳香族環および非芳香族環を含有することができる別の少なくとも1種の(メタ)アクリレートとの混合物を含有する、歯科補綴物の生成のための光重合性組成物が開示される。材料は、良好なシャルピー破壊靱性によって特徴づけられるといわれる。
【0013】
EP 3 564 206 A1には、アディティブマニュファクチャリングプロセスの反応性希釈剤として適しているといわれる(メタ)アクリルオキシ置換安息香酸エステルが開示される。
【0014】
歯科用成形体は、良好な破壊靱性、それと同時に良好な曲げ強さおよび高弾性率を有しなければならない。破壊靱性の改善は、例えば可撓性モノマーの添加を通して、内部可塑化により達成することができる。これらは、ポリマーの曲げ強さおよび弾性率を著しく低減させるという不利な点を有する。したがって、従来技術によれば、比較的良好な曲げ強さおよび比較的高い弾性率をもたらすコアシェル構造を有するポリマー粒子を、通常いわゆる耐衝撃性改良剤として重合樹脂に添加して、破壊靱性を改善する。
【0015】
WO 2014/078537 A1には、単官能および多官能メタクリレートをベースにした、3D印刷プロセスによる歯科用成形体の生成のための樹脂混合物が開示され、それらは、耐衝撃性および破壊靱性を改善するためのコアシェル構造を有する、シリコーンアクリレートベースの耐衝撃性改良剤を含有する。
【0016】
US 2018/0000570 A1は、歯科コンポーネントのアディティブ生成のための単官能および多官能(メタ)アクリレートをベースにしたビルディング材料に関する。ビルディング材料は、耐衝撃性改良剤であるコアシェル構造を有するシリコーンアクリリックをベースにしたゴム粒子(三菱レイヨン株式会社からの製品S2006)、ならびにトリメチル1,6-ジイソシアネート、ビスフェノールAプロポキシレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を反応させることによって調製されるオリゴマーを含有する。硬化されたコンポーネントは、良好な機械的および物理的特性ならびに良好な生体適合性を有するといわれる。
【0017】
US 10,299,896 B2およびUS 2019/0053883 A1には、異なる組成を有するビルディング材料の少なくとも2層を有する、アディティブプロセスによって生成された歯科コンポーネントが開示される。1層は、末端イソシアネート基を有する中間生成物を、ヒドロキシルベースのメタクリレート、重合性アクリリック化合物および耐衝撃性改良剤と反応させることによって得られるオリゴマーを含有する材料によって形成される。別の少なくとも1層が、ウレタンモノマー、グリコールジメタクリレートおよび充填剤を含有する材料によって形成される。異なる機械的および物理的特性を有する材料の組合せは、コンポーネントを異なる要件に順応させるのに有利であるといわれる。例えば、カネカからの製品M570などコアシェル構造を有する市販のポリマーは、耐衝撃性改良剤として使用される。
【0018】
EP 3 564 282 A1には、ガラス転移温度改変剤であるオリゴマーのウレタンジメタクリレート、靭性改変剤である(ポリ)カーボネート-(ポリ)ウレタンジメタクリレートを含有し、コアシェル粒子を必要に応じて含有する、高温光重合プロセスのための硬化性組成物が開示される。それらは、良好な熱機械的特性および良好な生体適合性を有し、歯科用矯正装置の生成に適しているといわれる。
【0019】
コアシェル構造を有する耐衝撃性改良剤の作用様式は、形成中の亀裂の先端とコアシェルポリマー粒子との相互作用に基づいている。これらの粒子は、比較的軟質のポリマーコアおよび硬質のポリマーシェルを有する。亀裂先端がそのような粒子に遭遇した場合、コアに空洞が形成され、ポリマーシェルが重合樹脂マトリックスから分離し、さらにコアもシェルから分離し、したがって塑性変形表面のために間隙が形成される(空洞化)。歯科用途にとって重大な不利な点は、コアシェルポリマー(CSP)が材料の透明度を著しく低減させ、ステレオリソグラフィック構築プロセスに不利な効果を及ぼすことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第10,562,995号明細書
【特許文献2】米国特許第10,568,814号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3 020 361号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第3 494 954号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第3 564 206号明細書
【特許文献6】国際公開第2014/078537号
【特許文献7】米国特許出願公開第2018/0000570号明細書
【特許文献8】米国特許第10,299,896号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2019/0053883号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第3 564 282号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】J. Viohl, K. Dermann, D. Quast, S. Venz, Die Chemie zahnarztlicher Fullungskunststoffe, Carl Hanser Verlag, Munich-Vienna1986, 21-27
【非特許文献2】A. Peutzfeldt, Resin composites in dentistry: The monomer systems, Eur. J. Oral. Sci. 105 (1997) 97-116
【非特許文献3】N. Moszner, T. Hirt, New Polymer-Chemical Developments in Clinical Dental Polymer Materials: Enamel-Dentin Adhesives and Restorative Composites, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 50 (2012) 4369-4402
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は、アディティブプロセスのために最適化された特性プロファイルを有する、歯科用成形体の生成のための材料を提供することである。特に、材料は、良好な破壊靱性および高破壊仕事と合わせて、高透明度を有するべきである。さらに、それらは、水中での貯蔵後に低粘度および良好な機械的特性、ならびに良好な生体適合性を示すべきである。
【0023】
本発明によれば、この目的は、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマーを含有するラジカル重合性歯科材料によって達成される。さらに、歯科材料は、好ましくは少なくとも1種の単官能ラジカル重合性モノマー(a)を含有し、好ましくは少なくとも1種のラジカル重合性ウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル(b)も含有する。
本出願は、例えば以下の項目を提供する。
(リクレーム)
(項目1)
少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、好ましくは少なくとも1種の単官能ラジカル重合性モノマー(a)、および好ましくは少なくとも1種のラジカル重合性ウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル(b)を含む、ラジカル重合性歯科材料。
(項目2)
いずれも前記材料の全質量に対して、
(a)30~70重量%、好ましくは30~61重量%、特に好ましくは40~60重量%の、少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノ(メタ)アクリレート、
(b)20~60重量%、好ましくは30~55重量%、特に好ましくは33~55重量%の、750~2000g/molの数平均モル質量を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0~30重量%、好ましくは0~20重量%、特に好ましくは0重量%のジ(メタ)アクリレートモノマー(複数可)、
(d)1~12重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは2~10重量%の、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマーであって、前記Aブロック(複数可)は成分(a)~(c)の混合物と均質に混和可能であり、前記Bブロックは成分(a)~(c)の前記混合物と均質に混和可能でない、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマー、ならびに
(e)0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4.0重量%、特に好ましくは0.3~3.0重量%の、ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤
を含む、項目1に記載のラジカル重合性歯科材料。
(項目3)
成分(a)として、式(I)の少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノメタクリレート
【化1】
[式中、可変要素は以下の意味を有する:
Aは、6~15個の炭素原子を有する芳香族基または7~10個の炭素原子を有する二環式もしくは三環式脂肪族基であり、Aは、非置換であっても、1個もしくはそれより多くのC
1~C
5アルキル基、C
1~C
5アルコキシ基および/もしくは塩素原子によって置換されていてもよく;
Rは、水素またはメチルであり;
X
1、X
2は互いに独立して、いずれの場合にも存在しない、またはエーテル、エステルもしくはウレタン基であり、Y
1が存在しない場合にX
1は存在せず、Y
2が存在しない場合にX
2は存在せず;
Y
1、Y
2は互いに独立して、いずれの場合にも存在しない、または1~3個の酸素原子で中断されていてもよい1~10個の炭素原子を有する分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状脂肪族炭化水素ラジカルである]
を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目4)
成分(a)として、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(o-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルオキシカルボニル)-アミノ]-エチル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルカルバモイル)-オキシ]-エチル(メタ)アクリレート、1-フェノキシプロパン-2-イル(メタ)アクリレートおよび2-(p-クミルフェノキシ)-エチル(メタ)アクリレート、2-(ベンジルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ベンジルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸メチルエステル、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、2-(p-クミルフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート、4,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタニル(メタ)アクリレート、オクタヒドロ-1H-4,7-メタノインデン-5-イル(メタ)アクリレートまたはそれらの混合物を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目5)
成分(b)として、ジイソシアネートをジオールと反応させ、次いでα,ω-イソシアネート官能化ウレタンテレケルをHEMAまたはHPMAと反応させることによって得ることができる少なくとも1種のウレタンジメタクリレートテレケルを含む、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目6)
成分(b)として、一般式(II)によるテレケル
【化2】
[式中、可変要素は以下の意味を有する:
R
1、R
2は互いに独立して、いずれの場合にもHまたはメチル、好ましくはメチルであり、
R
3、R
4は互いに独立して、いずれの場合にもHまたはメチル、好ましくはメチルであり、
x、yは互いに独立して、いずれの場合にも1~11、好ましくは1~5の整数であり、
nは、1、2または3、好ましくは1であり、
Zは、
【化3】
好ましくは
【化4】
であり、
DAは、ジオールHO-DA-OHに由来する、前記ヒドロキシル基から前記水素原子を切断することによる構造要素であり、前記ジオールHO-DA-OHは、以下の化合物:2~6個のエトキシ基またはプロポキシ基を有する、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、o-ジフェニルまたはp-ジフェニル、炭素鎖に1~4個のOまたはS原子を含有することができるC
2~C
18アルカンジオール、好ましくは2、3または4個のエトキシ基またはプロポキシ基を有するエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、ヘキサン-1,6-ジオール、オクタン-1,8-ジオール、ノナン-1,9-ジオール、デカン-1,10-ジオール、ウンデカンジオールまたはドデカン-1,12-ジオール、テトラまたはペンタエチレングリコール、環式または多環式脂肪族ジオール、特にシクロヘキサンジオール、ノルボルナンジオール、トリシクロデカンジオールおよびトリシクロデカンジメタノール(オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメタノール)から選択される]
を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目7)
成分(d)として、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマーを含み、前記Aブロックは、以下のモノマー:環式脂肪族エステルまたはエーテル、アリーレンオキシド、アルキレンオキシド、ラジカル重合性モノマー、例えばα,β-不飽和酸およびα,β-不飽和酸エステル、のうち1つまたは複数から構成されているオリゴマーであり、前記Bブロックは、ポリシロキサンオリゴマーおよび/またはポリビニルオリゴマーおよび/またはポリアルケンオリゴマーおよび/またはポリジエンオリゴマーである、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目8)
成分(d)として、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマーを含み、前記Aブロックは、オリゴマーのポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)またはポリ(メタ)アクリレートビルディングブロックであり、前記Bブロックは、オリゴマーのポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリ(イソプレン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(イソブテン)、cis-ポリ(ブタジエン)またはポリ(エチレン)ビルディングブロックである、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目9)
成分(d)として、0.1~5のA:Bのモル比および3~25kDa、好ましくは4~20kDa、特に好ましくは5~10kDaのモル質量を有する、PCL-b-PDMS-b-PCLおよび/またはPMMA-b-PDMS-b-PMMA型の少なくとも1種のABAトリブロックコポリマーを含む、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目10)
成分(e)として、好ましくはベンゾフェノン、ベンゾインもしくはその誘導体、α-ジケトンもしくはその誘導体、例えば9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルもしくは4,4’-ジクロロベンジル、カンファーキノン(CQ)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、または還元剤であるアミン、例えば4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-sym.-キシリジンもしくはトリエタノールアミンと組み合わせたα-ジケトン、モノアシルトリアルキルゲルマニウム、ジアシルジアルキルゲルマニウム、テトラアシルゲルマニウム、テトラアシルスタンナン、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウム、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム、テトラキス(2-メチルベンゾイル)ゲルマンもしくはテトラキス(メシトイル)スタンナンまたはそれらの混合物など、
アセトフェノン、例えば2,2-ジエトキシ-1-フェニルエタノン、ベンゾインエーテル、例えばIrgacure 651(ベンジルジメチルケタール)、ヒドロキシアルキルフェニルアセトフェノン、例えばIrgacure 184(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、例えばIrgacure TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)もしくはIrgacure 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン(Irgacure 369)および/または1-ブタノン-2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルフェニル)メチル-1-4-(4-モルホリニル)フェニル(Irgacure 379)などノリッシュI型光開始剤
から選択される少なくとも1種の光開始剤を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目11)
いずれも前記材料の全質量に対して、以下の組成:
(a)30~70重量%、好ましくは30~61重量%、特に好ましくは40~60重量%の、少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノ(メタ)アクリレート、
(b)20~60重量%、好ましくは30~55重量%、特に好ましくは33~55重量%の、750~2000g/molの数平均モル質量を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0~30重量%、好ましくは0~20重量%、特に好ましくは0重量%のジ(メタ)アクリレートモノマー(複数可)、
(d)1~12重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは2~10重量%の、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、
(e)0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4.0重量%、特に好ましくは0.3~3.0重量%の、ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤、
(f)0~15重量%、好ましくは0~5重量%、特に好ましくは0重量%のコアシェルポリマー粒子、
(g)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、特に好ましくは0~10重量%の充填剤、
(h)0~1.0重量%、好ましくは0~0.7、特に好ましくは0~0.5重量%の紫外線吸収剤、
(i)0~0.5重量%、好ましくは0~0.1重量%、特に好ましくは0~0.05重量%の蛍光増白剤、および
(j)0~15重量%、好ましくは0~10重量%、特に好ましくは0.2~5重量%のさらなる添加剤
のを有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目12)
いずれも前記材料の全質量に対して、
(a)40~61重量%の、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(o-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]エチル(メタ)アクリレート、1-フェノキシプロパン-2-イル(メタ)アクリレート、2-(ベンジルオキシ)-エチル(メタ)アクリレート、2-(メタクリロイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ベンジルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸メチルエステル、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレートおよび/または2-(p-クミルフェノキシ)エチルメタクリレート、
(b)33~55重量%の、1molのエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、デカンジオールまたはドデカンジオールを2molのイソホロンジイソシアネート(IPDI)と反応させ、次いで2molの2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)またはヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)と反応させることによって調製された、750~2000g/molの数平均モル質量および少なくとも4個のウレタン基を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0重量%のさらなるジ(メタ)アクリレートモノマー、
(d)2~10重量%の、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマーであって、前記Aブロックは、オリゴマーのポリカプロラクトン、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)またはポリ(メタ)アクリレートビルディングブロックから構成され、前記Bブロックは、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(イソプレン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(イソブテン)、cis-ポリ(ブタジエン)またはポリ(エチレン)ビルディングブロックから構成されている、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、
(e)0%のコアシェルポリマー、
(f)0.1~5.0重量%の少なくとも1種の光開始剤、ならびに
(g)0.2~5重量%の1種またはそれより多種のさらなる添加剤
を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目13)
≧60%の透明度、および25℃において≦10.0Pa・sの粘度を有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目14)
300~5000mol/m
3の硬化後架橋密度を有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
(項目15)
歯科用成形パーツの生成のためのプロセスであって、
(i)修復対象の歯(複数可)をコンピューターで直接または間接デジタル化することにより、歯の状況のバーチャル画像を創出し、
(ii)次いで、この画像に基づいて、前記コンピューターで歯科修復物または補綴物のモデルを構築し、
(iii)次いで、前記歯科修復物を形成するための選択的光照射により、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料を層状に重合し、
(iv)次いで、必要に応じて溶媒による処理により、被加工物を清掃し、
(v)次いで必要に応じて、光の照射および/または50℃を超える温度への加熱により前記被加工物をさらに硬化する、
プロセス。
(項目16)
先行する項目のいずれか一項に記載の材料の、歯科材料としてのまたは歯科用成形パーツの生成もしくは修理のための使用。
((項目17)
歯科用成形パーツの生成または修理のための、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科材料。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、好ましくは少なくとも1種の単官能ラジカル重合性モノマー(a)、および好ましくは少なくとも1種のラジカル重合性ウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル(b)を含有する、ラジカル重合性歯科材料を提供する。
【0025】
本発明による歯科材料は、好ましくは以下の組成:
(a)30~70重量%、好ましくは30~61重量%、特に好ましくは40~60重量%の、少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノ(メタ)アクリレート、
(b)20~60重量%、好ましくは30~55重量%、特に好ましくは33~55重量%の、750~2000g/molの数平均モル質量を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0~30重量%、好ましくは0~20重量%、特に好ましくは0重量%のジ(メタ)アクリレートモノマー(複数可)、
(d)1~12重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは2~10重量%の、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマーであって、Aブロック(複数可)は成分(a)~(c)の混合物と均質に混和可能であり、Bブロックは成分(a)~(c)の混合物と均質に混和可能でない、少なくとも1種のABAおよび/またはABブロックコポリマー、ならびに
(e)0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4.0重量%、特に好ましくは0.3~3.0重量%の、ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤
を有する。
【0026】
別段の記載がない限り、本明細書における重量百分率はすべて、材料の全質量に関係づけられる。
【0027】
本発明による歯科材料は、好ましくは、成分(a)として、式(I)の少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノ(メタ)アクリレート
【化5】
[式中、可変要素は以下の意味を有する:
Aは、6~15個の炭素原子を有する芳香族基または7~10個の炭素原子を有する二環式もしくは三環式脂肪族基であり、Aは、非置換であっても、1個もしくはそれより多くのC
1~C
5アルキル基、C
1~C
5アルコキシ基および/もしくは塩素原子によって置換されていてもよく;
Rは、水素またはメチルであり;
X
1、X
2は互いに独立して、いずれの場合にも存在しない、またはエーテル、エステルもしくはウレタン基であり、Y
1が存在しない場合にX
1は存在せず、Y
2が存在しない場合にX
2は存在せず;
Y
1、Y
2は互いに独立して、いずれの場合にも存在しない、または1~3個の酸素原子で中断されていてもよい1~10個の炭素原子を有する分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状脂肪族炭化水素ラジカルである]
を含有する。
【0028】
本明細書では、(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタクリレートまたはそれらの混合物を表し、どの場合でもメタクリレートを意味することが好ましい。
【0029】
本明細書において示される式はすべて、化学原子価の理論と適合する化合物にしか及ばない。ラジカルが例えば1個またはそれより多くの酸素原子で中断されているという表現は、これらの原子がいずれの場合にもラジカルの炭素鎖に挿入されていることを意味すると理解されるものとする。したがって、これらの原子は、C原子によって両側と隣接し、末端ではあり得ない。C1ラジカルは、枝分かれすることも中断されることもあり得ない。普通の命名法に対応して、芳香族炭化水素ラジカルは、芳香族基および非芳香族基を含有するラジカルも意味する。好ましい芳香族ラジカルは、例えば2,2-ジフェニルプロパンである。
【0030】
個々の可変要素に与えられた好ましい、特に好ましい、極めて特に好ましい定義は、いずれの場合にも互いに独立して選択することができる。可変要素がすべて好ましい、特に好ましい、極めて特に好ましい定義を有する化合物が、本発明によれば当然特に適している。
【0031】
好ましい芳香族基Aは、ベンゼン、ビフェニルおよび2,2-ジフェニルプロパンである。
【化6】
【0032】
好ましい二環式脂肪族基Aは、ビシクロ[4.4.0]デカン、ビシクロ[4.3.0]ノナン、ビシクロ[2.2.2]オクタンおよびビシクロ[2.2.1]ヘプタンである。
【化7】
【0033】
好ましい三環式脂肪族基Aは、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンである。
【化8】
【0034】
好ましい芳香族モノ(メタ)アクリレート(a)は、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(o-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルオキシカルボニル)-アミノ]-エチル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルカルバモイル)-オキシ]-エチル(メタ)アクリレート、1-フェノキシプロパン-2-イル(メタ)アクリレートおよび2-(p-クミルフェノキシ)-エチル(メタ)アクリレートである。特に好適な芳香族モノ(メタ)アクリレートは、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(o-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]-エチル(メタ)アクリレート、1-フェノキシプロパン-2-イル(メタ)アクリレート、2-(ベンジルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ベンジルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸メチルエステル、2-フェニルエチル(メタ)アクリレートおよび/または2-(p-クミルフェノキシ)エチル(メタ)アクリレートである。
【0035】
好ましい二環式または三環式モノ(メタ)アクリレート(a)は、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、特に4,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタニル(メタ)アクリレートである。
【化9】
【0036】
本発明に従って使用される式(I)の芳香族二環式または三環式モノメタクリレートは、良好なラジカル重合性によって特徴づけられる。さらに、これらのモノメタクリレートのポリマーは、比較的低い重合収縮および良好な機械的特性を有する。式(I)のモノ(メタ)アクリレートは、それらの比較的高いモル質量(150~350g/mol)および比較的非極性の構造のために、低揮発性および比較的低い粘度も有する。
【0037】
本発明による歯科材料は、成分(b)として、750~2000g/molのモル質量を有する少なくとも1種のウレタンジメタクリレートテレケルを含有する。成分(b)は、2個のラジカル重合性基を含有し、したがって本発明による材料の重合中に架橋剤として働き、すなわち、ポリマー網目の形成を導く。成分(b)のモル質量が比較的高いため、低網目密度および低重合収縮を有するポリマーが得られる。
【0038】
別段の記載がない限り、本明細書におけるオリゴマーおよびポリマーのモル質量は、数平均モル質量であり、その絶対値は、凝固点降下(凝固点降下法)、沸点上昇(沸点上昇法)の公知方法を使用して、または蒸気圧の低下(蒸気圧浸透圧法)から決定することができる。オリゴマーおよびポリマーの数平均モル質量は、好ましくはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって決定される。これは、分子がそれらのサイズに基づいて、さらに詳細にはそれらの流体力学的体積に基づいて分離されるという関連方法である。絶対モル質量は、公知の標準物質を用いた較正により決定される。
【0039】
ウレタンジメタクリレートテレケル(b)は、好ましくはジイソシアネートをジオール(HO-DA-OH)と反応させ、次いでα,ω-イソシアネート官能化ウレタンテレケルをHEMAまたはHPMAと反応させることによって得られる。DAは、好ましくは6~33個の炭素原子を有する芳香族または脂肪族の炭化水素ラジカル、好ましくは2価の多環式炭化水素ラジカル、特にo-ジフェニル、p-ジフェニルもしくはビスフェノールAラジカル、または分枝鎖状もしくは好ましくは直鎖状C2~C18アルキレン基を表す。炭化水素ラジカルは、1個またはそれより多くのO原子および/またはS原子を含有することができ、O原子が好ましい。
【0040】
式HO-DA-OHの好ましいジオールは、2~6個のエトキシ基またはプロポキシ基を有する、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、o-ジフェニルまたはp-ジフェニル、および炭素鎖に1~4個のOまたはS原子を含有することができるC2~C18アルカンジオールである。特に好ましいジオールは、2、3または4個のエトキシ基またはプロポキシ基を有するエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、ヘキサン-1,6-ジオール、オクタン-1,8-ジオール、ノナン-1,9-ジオール、デカン-1,10-ジオールまたはドデカン-1,12-ジオール、テトラまたはペンタエチレングリコールである。2または3個のエトキシ基またはプロポキシ基を有するエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、デカンジオール、ウンデカンジオールまたはドデカンジオール、ならびに環式または多環式脂肪族ジオール、特にシクロヘキサンジオール、ノルボルナンジオール、トリシクロデカンジオールおよびトリシクロデカンジメタノール(オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメタノール)は、極めて特に好ましい。
【0041】
好ましいジイソシアネートは、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(HMDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート(TMDI)、1-イソシアナト-3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン、TMXDI)、トルエン-2,4-ジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)および1-イソシアナト-4-[(4-イソシアナトシクロヘキシル)メチル]シクロヘキサン(H12MDI)であり、IPDIが特に好ましい。
【0042】
一般式(II)によるテレケルが、本発明によれば好ましい
【化10】
[式中、可変要素は以下の意味を有する:
R
1、R
2は互いに独立して、いずれの場合にもHまたはメチル、好ましくはメチルであり、
R
3、R
4は互いに独立して、いずれの場合にもHまたはメチル、好ましくはメチルであり、
x、yは互いに独立して、いずれの場合にも1~11の整数、好ましくは1~5の整数であり、
nは、1、2または3、好ましくは1であり、
Zは、
【化11】
好ましくは
【化12】
であり、
DAは、ジオールHO-DA-OHに由来する、2個のヒドロキシル基から水素原子を切断することによる構造要素である]。
【0043】
本発明による好ましいウレタンジメタクリレートテレケルは、良好なラジカル重合性によって特徴づけられる。さらに、それらによって、硬化材料に良好な凝集特性が付与される。
【0044】
単官能メタクリレート(a)、ウレタンジメタクリレートテレケル(b)および必要に応じて別のラジカル重合性モノマーは、好ましくはνc=300~5000mol/m3未満、特に好ましくは400~3000mol/m3の網目密度を有する架橋ポリマーが得られるような割合で使用される。架橋密度は、架橋モノマーの単官能モノマーに対する比によって実質的に決定される。架橋モノマーのモル分率が0.1~0.6、特に好ましくは0.15~0.45の範囲にある歯科材料が、本発明によれば好ましい。本発明による材料のすべてのラジカル重合性成分、すなわち特に成分(a)~(c)および必要に応じて別のラジカル重合性モノマーを使用して、モル分率を計算する。架橋モノマーは、2個またはそれよりも多いラジカル重合性基を有するすべてのラジカル重合性成分、すなわち特に成分(b)および(c)を意味する。架橋モノマーは、多官能モノマーと呼ばれることもある。単官能モノマーは、唯1個のラジカル重合性基を有するモノマーである。
【0045】
網目密度は、1体積単位当たりのノード数(単位mol)に対応し、動的機械的測定を通して弾性領域における貯蔵弾性率G’のプラトー値から計算することができる。ガラス転移温度Tgおよび網目密度νcは、レオメーター、好ましくはAnton Paar MCR301レオメーターを使用して決定される。このために、試験片(25×5×1mm、長手方向にクランプする)の貯蔵および損失弾性率は25℃~250℃の間(周波数1Hz、変形0.05%、加熱速度2K/分)で測定される。Tgは、損失係数tan δの最大値(損失弾性率の貯蔵弾性率に対する比)である。網目密度は、式νc=G’/(RT)(式中、G’は、温度Tg+50Kにおける貯蔵弾性率であり、Rは、一般気体定数であり、Tは、Tg+50Kにおける温度(単位ケルビン)である)に従って計算される。
【0046】
ポリマーの架橋密度をさらに設定し、機械的特性に影響を及ぼすために、本発明による歯科材料は、成分(a)および(b)に加えて別のジ(メタ)アクリレートモノマー(c)を追加的に含有することができる。
【0047】
好ましいジ(メタ)アクリレート(c)は、ビスフェノールAジメタクリレート(ビス-GMA、メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物)、例えば3個のエトキシ基を有するビスフェノールAジメタクリレートSR-348c(Sartomer)などのエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(UDMA、HEMAとTMDIの付加生成物)、V380(0.7molの2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび0.3molの2-ヒドロキシプロピルメタクリレートの混合物と1molのα,α,α’,α’-テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネートの付加生成物)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ジ、トリまたはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ならびにグリセロールジメタクリレートおよびグリセロールトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)および1,12-ドデカンジオールジメタクリレートである。
【0048】
ジ(メタ)アクリレートモノマー(c)は、比較的低いモル重量によって特徴づけられる。200~800g/mol、好ましくは220~650g/molの範囲のモル重量を有するジ(メタ)アクリレート(c)が、本発明によれば好ましい。ウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル(b)と比べて低モル重量であるために、ジ(メタ)アクリレートモノマー(c)は、ポリマーの比較的強い架橋をもたらし、したがって高網目密度になり、破壊靱性に不利な効果を及ぼすおそれがある。したがって、別のジ(メタ)アクリレートの割合は、最大30重量%、好ましくは最大10重量%に限定される。特に好ましい実施形態によれば、本発明による歯科材料は、排他的にウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル(b)を架橋剤として含有する。
【0049】
さらに、本発明による歯科材料は、別のモノ(メタ)アクリレートを成分(a)に加えて含有することができる。別のモノ(メタ)アクリレートの割合は、好ましくは10重量%未満であり、別のモノ(メタ)アクリレートを含有しない材料が特に好ましい。
【0050】
本発明による歯科材料は、成分(d)として、少なくとも1種のABAおよび/または1種のABブロックコポリマーを含有する。ブロックコポリマーは、相互に共有結合している2種またはそれよりも多いホモポリマーブロックからなる高分子を意味する。
【0051】
本発明による好ましいブロックコポリマーは、リビング重合または制御重合の公知方法を使用して、例えばラジカル重合またはイオン(アニオンおよびカチオン)重合によって調製することができ、制御ラジカル重合およびリビングアニオン重合が好ましい。しかし、ブロックコポリマーは、ホモポリマーの末端基をカップリングすることによって得ることもできる。本発明に従って使用されるブロックコポリマーは、ジブロックコポリマーおよびトリブロックコポリマーとして存在することができる。
【0052】
ABブロックコポリマーは、例えばCOOH基を有するBブロックとのエステル化によって、末端OH基を有するAブロックをカップリングすることによって調製することができる。末端基官能化ホモポリマーブロックは、制御ラジカル重合方法を使用して、またはアニオン重合の場合にエンドキャッピングによって比較的容易に調製することができる。
【0053】
例えば、モノマーAはアニオン重合され、OH基は、エンドキャッピングによって挿入される。次いで、OH末端基を、例えばα-ブロモイソ酪酸でエステル化することができる。次いで、前記プロセスにおいて得られる臭素末端基は、例えばCu(I)、Ru(I)またはFe(II)の金属錯体によって開始されるモノマーBのATRP(原子移動ラジカル重合)を通して、Bブロックの形成の出発中心として機能する。
【0054】
トリブロックコポリマーは、同じように調製することができる。例えば、Bブロックは、ジアニオン機序を介したモノマーBのアニオン重合により調製される。形成されたB中間ブロックは、アニオン末端基をそれぞれの側に有し、モノマーAのアニオン重合を開始し、2つのAブロックを形成する(方法1)。いずれの場合にも両端に好適な官能基、例えばOH基を有するテレケリックBブロックを、例えばCOOH基で片側だけ官能化されている2つのAブロックでエステル化することにより、ABAトリブロックコポリマーが得られる(方法2)。最後に、モノマーBのOH-テレケリックホモポリマーは、α-ブロモイソ酪酸でエステル化することができる。次いで、ホモポリマーブロックBにおけるこうして形成された2個の臭素末端基は、ATRPによる2つのAブロックの形成の出発中心として利用することができる(方法3)。
【0055】
ブロックコポリマーの合成中に、末端のまたはペンダント型の重合性メタクリレート基を挿入することもできる。これらによって、ブロックコポリマーの、メタクリレート基のラジカル共重合により形成されたポリマー網目への、より良好な統合がもたらされる。
【0056】
モノマーは、好ましくはAブロックが樹脂マトリックス、すなわち、構成要素(a)~(c)の混合物と混和可能であり、Bブロックが樹脂マトリックスと混和可能でないように選択される。
【0057】
ここで、混和性は、単相状態に関して熱力学の意味で述べられる。これによれば、混和可能なポリマーブロックは、モノマーからなるポリマーブロックを意味し、そのホモポリマーは、樹脂マトリックスに可溶であり、その結果として、混合物は少なくとも95%の透明度を有する。対照的に、混合物が濁っているまたは不透明である場合、すなわち透明度が95%より低い場合、ホモポリマー、したがって対応するポリマーブロックは、樹脂マトリックスと混和可能でない。透明度は、高光沢まで磨かれた厚さ1mmの試験片で、分光光度計、例えばKonika-Minolta CM-5型分光光度計を使用して、ISO 10526:1999規格に従って透過(D65)で測定される。
【0058】
ブロックコポリマーは、硬化後に本発明による材料の破壊靱性を大幅に改善する。ブロックコポリマーのBブロックと本発明による組成物の残りの構成要素の不混和性によって、ミクロ相分離が起こり、したがってナノスケールレベルの形態が形成されると考えられる。ここで、ABAまたはABブロックコポリマーの高分子は、モノマー樹脂においてまたは硬化中に自己集合によって、球状または蠕虫様の相を形成し、それらの相は、亀裂先端と相互作用することができ、すなわち、亀裂先端は相と遭遇し、破壊エネルギーは、亀裂が材料を通ってもっと先に移動せず、サイズも増加しないように相中に分配される。亀裂の成長は、透明材料に電子顕微鏡下で観察することができる。破壊力学では、亀裂の最前部は亀裂先端と呼ばれる。
【0059】
本発明による好ましいブロックコポリマーは、ABジブロックおよびABAトリブロックコポリマーである。
【0060】
Aブロックは、次のモノマー:環式脂肪族エステルまたはエーテル、アリーレンオキシド、アルキレンオキシド、ラジカル重合性モノマー、例えばα,β-不飽和酸およびα,β-不飽和酸エステル、のうち1つまたは複数から構成されているポリマー、好ましくはオリゴマーである。Aブロックは、好ましくはポリ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリラクトンオリゴマー、フェニレンオキシドオリゴマーまたはポリアルキレンオキシドオリゴマーである。極めて特に好ましくは、Aブロックは、カプロラクトン、2,6-ジアルキル-1,4-フェニレンオキシド、特に2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド、エチレンオキシド、プロピレンオキシドまたは(メタ)アクリレートのポリマーである。したがって、Aブロックは、好ましくはポリカプロラクトン(PCL)オリゴマー、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)オリゴマー、ポリ(エチレンオキシド)オリゴマー、ポリ(プロピレンオキシド)オリゴマーまたはポリ(メタ)アクリレートオリゴマーである。
【0061】
Bブロックは、好ましくはポリシロキサンオリゴマーおよび/またはポリビニルオリゴマーおよび/またはポリアルケンオリゴマーおよび/またはポリジエンオリゴマーである。特に好ましくは、Bブロックは、ポリジエンオリゴマー、ポリビニルアルカノエートオリゴマーまたは式-O-(SiR5
2-O)p-によるポリシロキサンオリゴマーである[式中、
R5は、直鎖状C1~C20アルキル、分枝鎖状C3~C12アルキルまたはC6~C20アリール基であり、個々のR5ラジカルは、同一でも、異なってもよく、
pは、3~100の数、好ましくは10~50の数である]。
【0062】
極めて特に好ましくは、Bブロックは、ジメチルクロロシラン、シクロトリまたはシクロテトラジメトキシシラン、イソプレン、ビニルアセテート、イソブテン、cis-ブタジエンまたはエチレンのポリマーである。したがって、Bブロックは、好ましくはポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)オリゴマー、ポリ(イソプレン)オリゴマー、ポリ(ビニルアセテート)オリゴマー、ポリ(イソブテン)オリゴマー、cis-ポリ(ブタジエン)オリゴマーまたはポリ(エチレン)オリゴマーである。
【0063】
Bブロックは、比較的高い可撓性によって特徴づけられる。可撓性ブロックは、モノマーから形成されるブロックを意味し、そのホモポリマーは、50℃未満、好ましくは0℃未満、極めて特に好ましくは-30~-110℃の範囲のガラス転移温度TGを有する。可撓性ブロックを有するブロックコポリマーは、破壊靱性を改善するが、ポリマーの曲げ強さおよび弾性率を内部可塑剤ほどにはあまり損なわない。
【0064】
以下の一般式によるポリエステル-ポリシロキサンブロックコポリマーが、本発明によれば好ましい:
(PCL)q-b-(PDMS)r-b-(PCL)q
[式中、
qは、いずれの場合にも5~40の数、好ましくは10~20の数であり、
rは、10~100の数、好ましくは30~60の数である]。
【0065】
(PCL)qは、q個のカプロラクトンモノマーから構成されているポリカプロラクトンを表し、(PDMS)rは、r個のジメチルシロキサンモノマーから構成されているポリ(ジメチルシロキサン)を表す。文字bは、ブロックを表す。
【0066】
AブロックとしてポリメチルメタクリレートラジカルおよびBブロックとしてポリシロキサンラジカルを含有するポリ(メタ)アクリレート-ポリシロキサンブロックコポリマーであって、ポリシロキサンラジカルは好ましくは以上に定義した通りであり、極めて特に好ましくはポリ(ジメチルシロキサン)ラジカルである、ポリ(メタ)アクリレート-ポリシロキサンブロックコポリマーは、さらに好ましい。
【0067】
特に好ましくは、ABAトリブロックコポリマーは、PCL-b-PDMS-b-PCLおよびPMMA-b-PDMS-b-PMMAであり、モル比A:Bは0.1~5であり、モル質量は、好ましくは3~25kDa、特に好ましくは4~20kDa、極めて特に好ましくは5~10kDaである。好ましいブロックコポリマーは、PCL-b-PDMS-b-PCLであり、PDMSブロックは、約3200g/molのモル質量を有し、PCLブロックは、いずれの場合にも約1600g/molのモル質量を有する。PCLは、ポリカプロラクトンを表し、PDMSは、ポリ(ジメチルシロキサン)を表し、PMMAは、ポリメチルメタクリレートを表す。
【0068】
ブロックコポリマー(複数可)は、歯科材料の全重量に対して好ましくは1~12重量%の量、特に好ましくは2~10重量%の量、極めて特に好ましくは3~8重量%の量で使用される。
【0069】
本発明に従って使用されるブロックコポリマーは、ポリマー網目の破壊靱性を、透明度を損なうことなく大幅に改善することが見出された。さらに、それらは、粘度の増加が比較的わずかにすぎない。本発明に従って使用されるブロックコポリマーの別の利点は、それらが材料の残りの成分と容易に均質に混合できることであるが、コアシェルポリマー粒子の均質な分散は、はるかにより複雑である。さらに、粒子は沈降する傾向があり、その結果としてコアシェル粒子をベースにする組成物は、安定でない。一方、ブロックコポリマーは、樹脂混合物に十分に組み込むことができ、その結果として材料を計画された用途に合わせ、所望の破壊靱性および破壊仕事を問題なく設定することができる。
【0070】
本発明による歯科材料は、成分(e)として、ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤、好ましくは光開始剤を含有する。
【0071】
好ましい光開始剤は、ベンゾフェノン、ベンゾインおよびそれらの誘導体、ならびにα-ジケトンおよびそれらの誘導体、例えば9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルまたは4,4’-ジクロロベンジルなどである。カンファーキノン(CQ)および2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノンが特に好ましく使用され、還元剤であるアミン、例えば4-(ジメチルアミノ)安息香酸エステル(EDMAB)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-sym.-キシリジンまたはトリエタノールアミンなどと組み合わせたα-ジケトンが、極めて特に好ましく使用される。可視域の好ましい単分子光開始剤は、モノアシルトリアルキルゲルマニウム、ジアシルジアルキルゲルマニウムおよびテトラアシルゲルマニウム、ならびにテトラアシルスタンナン、例えばベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウム、ビス(4-メトキシベンゾイル)-ジエチルゲルマニウム、テトラキス(2-メチルベンゾイル)ゲルマンまたはテトラキス(メシトイル)スタンナンなどである。例えば、カンファーキノンおよび4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせたビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムなど異なる光開始剤の混合物も使用することができる。
【0072】
本発明による歯科材料をUV線で硬化させるのに好ましい開始剤は、ノリッシュI型光開始剤、とりわけアセトフェノン、例えば2,2-ジエトキシ-1-フェニルエタノン、ベンゾインエーテル、例えばIrgacure 651(ベンジルジメチルケタール)、ヒドロキシアルキルフェニルアセトフェノン、例えばIrgacure 184(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、アシルホスフィンオキシドまたはビスアシルホスフィンオキシド、例えばIrgacure TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)およびIrgacure 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド)である。さらに好ましい光開始剤は、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン(Irgacure 369)および1-ブタノン-2-(ジメチルアミノ)-2-(4-メチルフェニル)メチル-1-4-(4-モルホリニル)フェニル(Irgacure 379)である。特に好ましい光開始剤は、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム、Irgacure TPOおよびIrgacure 819、ならびにカンファーキノン/4-(ジメチルアミノ)安息香酸エステルである。後焼戻しでは、吸収範囲が異なる2種の光開始剤、例えばIrgacure TPOおよびカンファーキノン/4-(ジメチルアミノ)安息香酸エステルなどを使用することが有利である。
【0073】
本発明による歯科材料は、熱開始剤、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス-(4-シアノ吉草酸)などのアゾ化合物、または過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、tert-ブチルペルオクトエート、tert-ブチルペルベンゾエートもしくは過酸化ジ-(tert-ブチル)などの過酸化物も代替としてまたは追加的に含有することができる。芳香族アミンとの組合せを、過酸化物による開始を促進するために使用することもできる。好ましい酸化還元系は、過酸化ジベンゾイルと、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、または構造的に関連した系などのアミンとの組合せである。
【0074】
開始剤(複数可)は、好ましくは0.1~5.0重量%、特に好ましくは0.2~4重量%、極めて特に好ましくは0.3~3.0重量%の全量で使用され、これらの量は、例えば還元剤などすべての開始剤構成要素を含む。
【0075】
破壊靱性および耐衝撃性をさらに改善するために、本発明による歯科材料は、ある一定の割合の1種またはそれより多種のコアシェルポリマー(成分(f))も含有することができる。例えば架橋ブチルアクリレートからなる軟質ポリマーコアおよび幾分硬質ポリマーシェル、例えばPMMAを有するコアシェルポリマー(CSP)が好ましい。軟質または可撓性のポリマーは、50℃未満、好ましくは0℃未満、極めて特に好ましくは-30~-110℃の範囲のガラス転移温度TGを有するポリマーを意味する。約-110℃のTGを有するPDMSは、好ましい具体例である。硬質ポリマーは、50℃超、好ましくは80℃超のガラス転移温度を有するポリマーを意味する。100℃のTGを有するPMMAは、好ましい具体例である。
【0076】
ラジカルジメタクリレートポリマー網目におけるCSP粒子の破壊靱性改良作用は、とりわけCSP粒子の型、粒径、架橋密度およびコアのシェルに対する重量比、好ましくは1:1~200:1の範囲にある重量比に依存する。架橋密度は、粒子コアにおける架橋モノマーの割合によって実質的に決定される。これは、好ましくはコアの質量に対して1~10重量%の範囲にある。0.20~5.0μmの粒径を有する粒子が、本発明によれば好ましい。
【0077】
ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブチルアクリレート、MMA-ブタジエン-スチレンコポリマー(MBS)またはポリジメチルシロキサンなど軟質プラスチックで作製されたコアおよびPMMAまたはMMA-スチレンコポリマーなど硬質プラスチックで作製されたシェルを有するCSP粒子が、本発明によれば好ましい。本発明によれば好適なCSP粒子は、例えばArkema(Clearstrength)、綜研化学(Chemisnow)またはカネカ(例えば、M521またはM210)から市販されている。
【0078】
コアシェルポリマーは、最大15重量%の量で添加することができる。コアシェルポリマーの使用の不利な点は、それらが組成物の透明度を大いに損なうおそれがあり、光重合の場合に硬化深さにマイナスの効果を及ぼし、歯科用成形体の場合にマイナスの美的効果を追加的に有することである。したがって、多くとも5重量%のコアシェル粒子を含有し、特に好ましくはコアシェル粒子を含有しない材料が、本発明によれば好ましい。CSP粒子を歯科材料に組み込むと、良好な分散を確実にすることができる。
【0079】
機械的特性に影響を及ぼすために、本発明による歯科材料を無機粒状充填剤(g)で強化することができる。
【0080】
好ましい無機充填剤は、SiO2、ZrO2およびTiO2またはSiO2、ZrO2、ZnOおよび/もしくはTiO2の混合酸化物などの酸化物、ヒュームドシリカまたは沈降シリカなどのナノ粒状またはマイクロファイン充填剤、石英、ガラスセラミック、ボロシリケートまたは放射線不透過性ガラス粉末、好ましくはバリウムまたはストロンチウムアルミニウムシリケートガラスなどのガラス粉末、および三フッ化イッテルビウム、酸化タンタル(V)、硫酸バリウム、またはSiO2と酸化イッテルビウム(III)もしくは酸化タンタル(V)との混合酸化物などの放射線不透過性充填剤である。本発明による歯科材料は、繊維充填剤、ナノ繊維、ウィスカーまたはそれらの混合物をさらに含有することができる。好ましい実施形態によれば、本発明による材料は、フルオロアルミノシリケートガラスも、カルシウムアルミニウムシリケートガラスも、酸塩基反応の意味で有機酸と反応する他の充填剤も含有しない。
【0081】
好ましくは、酸化物は、0.010~15μmの粒径を有し、ナノ粒状またはマイクロファイン充填剤は、10~300nmの粒径を有し、ガラス粉末は、0.01~15μmの粒径、好ましくは0.2~1.5μmの粒径を有し、放射線不透過性充填剤は、0.2~5μmの粒径を有する。
【0082】
特に好ましい充填剤は、10~300nmの粒径を有する、SiO2とZrO2の混合酸化物、0.2~1.5μmの粒径を有するガラス粉末、特に例えばバリウムまたはストロンチウムアルミニウムシリケートガラスの放射線不透過性ガラス粉末、ならびに0.2~5μmの粒径を有する放射線不透過性充填剤、特に三フッ化イッテルビウムおよび/またはSiO2と酸化イッテルビウム(III)の混合酸化物である。
【0083】
充填剤粒子と架橋重合マトリックスの間の結合を改善するために、SiO2ベースの充填剤をメタクリレート官能化シランで表面改質することができる。そのようなシランの好ましい例は、3-メタクリロイルオキシプロピル-トリメトキシシランである。ZrO2またはTiO2などの非シリケート充填剤の表面改質には、例えば10-メタクリロイルオキシデシルジヒドロゲンホスフェートなどの官能化酸性ホスフェートも使用することができる。
【0084】
さらに好ましい充填剤は、好ましくは1~10μmの粒径を有する、粒状蝋、特にカルナウバ蝋、好ましくは500nm~10μmの粒径を有する、非架橋または部分架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子、ならびに好ましくは5~10μmの粒径を有するポリアミド-12粒子である。
【0085】
さらに、本発明による歯科材料は、いわゆるプレポリマー充填剤またはイソ充填剤、すなわち、好ましくはブロードな粒径分布を有し、例えば0.05~20μm、特に約0.1~約10μmの粒径を有する粉砕複合体を含有することができる。プレポリマー充填剤またはイソ充填剤は、好ましくは表面改質され、特にシラン処理される。
【0086】
別段の記載がない限り、本明細書において粒径はすべて、重量平均粒径であり、0.1μm~1000μmの範囲の粒径決定は、静的光散乱によって、好ましくはLA-960静的レーザー散乱式粒径分析計(堀場製作所、日本)を使用して行われる。ここで、655nmの波長を有するレーザーダイオードおよび405nmの波長を有するLEDが光源として使用される。異なる波長を有する2種の光源の使用により、試料の粒径分布全体をわずか1回の測定試行で測定することが可能になり、測定は、湿式測定として実施される。このために、充填剤0.1~0.5%の水性分散体を調製し、フローセルでその散乱光を測定する。粒径および粒径分布を計算するための散乱光分析は、Mie理論に従ってDIN/ISO 13320によって行われる。
【0087】
0.1μmより小さい粒径は、好ましくは動的光散乱(DLS)によって決定される。5nm~0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは水性粒子分散体の動的光散乱(DLS)によって、好ましくはMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、Malvern UK)を使用し、波長633nmのHe-Neレーザーを用いて、散乱角90°、25℃で行われる。
【0088】
光散乱は、粒径が低下するにつれて減少する。0.1μmより小さい粒径は、SEMまたはTEM分光法によって決定することもできる。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、好ましくはPhilips CM30 TEMを300kVの加速電圧で使用して実施される。試料の調製では、粒子分散体の滴を、炭素でコーティングされている厚さ50Åの銅グリッド(メッシュサイズ300)に適用し、次いで溶媒を蒸発させる。
【0089】
充填剤は、それらの粒径に従ってマクロ充填剤およびマイクロ充填剤に分けられ、0.2~10μmの平均粒径を有する充填剤がマクロ充填剤と呼ばれ、約5~100nmの平均粒径を有する充填剤がマイクロ充填剤と呼ばれる。例えば、マクロ充填剤は、例えば石英、放射線不透過性ガラス、ボロシリケートまたはセラミックを粉砕することによって得られ、通常割れやすい部分からなる。ヒュームドSiO2もしくは沈降シリカ、または金属アルコキシドの加水分解共縮合によって入手可能な混合酸化物、例えばSiO2-ZrO2が、好ましくはマイクロ充填剤として使用される。マイクロ充填剤は、好ましくは約5~100nmの平均粒径を有する。小粒径を有する充填剤は、より大きい増粘作用を有する。
【0090】
好ましい実施形態では、本発明による歯科材料は、2種またはそれよりも多い充填剤、特に異なる粒径を有する2種またはそれよりも多い充填剤の混合物を含有する。そのような充填剤の混合物の使用により、材料の粘度は過度に上昇せず、したがってアディティブプロセス、例えばステレオリソグラフィーなどを使用して、組成物を十分に加工できることが見出された。全充填剤含有量は、好ましくは0~20重量%の範囲、特に好ましくは0~10重量%の範囲にある。
【0091】
本発明による歯科材料は、1種またはそれより多種の紫外線吸収剤(h)をさらに含有することができる。紫外線吸収剤は、本発明による組成物の光誘導硬化中に、光の浸透深度、ひいては重合深度を低減する働きをする。これは、薄層のみステレオリソグラフィーで硬化することができるので、特にステレオリソグラフィック用途の場合に有利であるとわかる。紫外線吸収剤の使用により、ステレオリソグラフィックプロセスで精度を改善することができる。
【0092】
ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンまたはトリアジンをベースにした紫外線吸収剤が好ましい。特に好ましい紫外線吸収剤は、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-tert-ブチル-6-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェノール(ブメトリゾール)、2,2’-ベンゼン-1,4-ジイルビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2-(4,6-ビス-(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(オクチルオキシ)-フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノンおよび2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノンである。ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートおよびビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネートなどのいわゆるヒンダードアミン光安定剤がさらに好ましい。極めて特に好ましい紫外線吸収剤は、ブメトリゾールおよび2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンである。
【0093】
紫外線吸収剤は、好ましくは、硬化に使用される光の波長に対応する吸収極大を有する。320~500nm、好ましくは380~480nmの範囲の吸収極大を有する紫外線吸収剤が有利であり、400nm未満の吸収極大を有する紫外線吸収剤が特に好ましい。
【0094】
紫外線吸収剤は、好ましくは0~1.0重量%、特に好ましくは0.01~0.5重量%の量で必要に応じて使用される。ブメトリゾールは、好ましくは0.01~0.2重量%、特に好ましくは0.02~0.15重量%の量で使用され、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンは、0.01~0.07重量%の量で使用される。すべてのデータは、材料の全重量に関連する。紫外線吸収剤を含有しない歯科材料が好ましい。
【0095】
本発明による歯科材料は、1種またはそれより多種の蛍光増白剤(i)も含有することができる。UV範囲の光、すなわち400nm未満の波長を有する光を吸収する蛍光増白剤が、本発明によれば好ましい。蛍光増白剤の添加により、光の浸透深度、ひいては硬化深さを低減することができ、したがってステレオリソグラフィックプロセスにおける精度を増大させることができる。UV範囲において吸収された光を400~450nmの波長を有する光として再び発することができる蛍光増白剤が特に好ましい。そのような蛍光増白剤は、それらの蛍光のために、吸収された短波光をより長波の青色光として発し、したがって光開始のための追加の光度パワーをもたらすので、材料の反応性を増加させる。本発明によれば好ましい蛍光増白剤は、2,5-ビス(5-tert-ブチル-ベンゾオキサゾール-2-イル)チオフェン、および例えば2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルエステルまたはジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレートなどのテレフタル酸誘導体の形をした蛍光剤である。
【0096】
蛍光増白剤(複数可)は、いずれの場合にも材料の全重量に対して好ましくは0~0.1重量%、特に好ましくは0.001~0.05重量%、極めて特に好ましくは0.002~0.02重量%の量で必要に応じて使用される。蛍光増白剤を含有しない歯科材料が好ましい。
【0097】
蛍光増白剤を、紫外線吸収剤と組み合わせて使用することができる。この場合、紫外線吸収剤の蛍光増白剤に対する重量比は、2:1~50:1、特に好ましくは2:1~30:1、極めて特に好ましくは2:1~5:1または10:1~25:1の範囲にあることが好ましい。紫外線吸収剤として2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンまたはブメトリゾール、および蛍光増白剤として2,5-ビス(5-tert-ブチル-ベンゾオキサゾール-2-イル)チオフェンを含有する組合せが好ましい。2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンと2,5-ビス(5-tert-ブチル-ベンゾオキサゾール-2-イル)チオフェンの2:1~10:1、好ましくは2:1~5:1の重量比の組合せ、またはブメトリゾールと2,5-ビス(5-tert-ブチル-ベンゾオキサゾール-2-イル)チオフェンの5:1~30:1、好ましくは10:1~20:1の重量比の組合せが、極めて特に好ましい。
【0098】
本発明による歯科材料は、別の添加剤(j)、とりわけ安定剤、着色剤、可塑剤、チキソトロピー添加剤、殺微生物活性成分および/または起泡剤を追加的に含有することができる。
【0099】
本発明による歯科材料は、好ましくは1種またはそれより多種の安定剤を含有する。これらは、早期の多反応を防止するためのフリーラジカル捕捉物質である。安定剤は、重合阻害剤とも呼ばれる。阻害剤または安定剤は、材料の貯蔵安定性を改善する。
【0100】
好ましい阻害剤は、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)または2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)などのフェノールである。フェノールは、好ましくは0.001~0.50重量%の濃度で使用される。さらに好ましい阻害剤は、フェノチアジン、2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル、ガルビノキシルラジカル、トリフェニルメチルラジカルおよび2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)ラジカルである。これらの阻害剤は、好ましくは0.001~0.02重量%の量で使用される。これらの添加剤が使い尽くされるまで、重合は起こらない。量は、いずれの場合にも材料の全質量に関連する。好ましくは、少なくとも1種のフェノールおよび少なくとも1種のさらなる開始剤を含有する阻害剤の混合物が使用される。
【0101】
さらに、本発明による歯科材料は、着色剤も、好ましくは0.0001~0.5重量%の濃度で含有することができる。着色剤は、主に美的目的で使用される。本発明によれば好ましい着色剤は、有機染料および顔料、特にアゾ染料、カルボニル染料、シアニン染料、アゾメチンおよびメチン、フタロシアニンおよびジオキサジンである。本発明による材料に可溶な染料、特にアゾ染料が特に好ましい。さらに、本発明による歯科材料に十分に分散されうる無機顔料および特に有機顔料は、着色剤として適している。好ましい無機顔料は、例えば白色顔料として二酸化チタンもしくはZnO、赤色顔料として酸化鉄(Fe2O3)、または黄色顔料として水酸化鉄(FeOOH)など、金属酸化物または水酸化物である。好ましい有機顔料は、例えばモノアゾ黄色および橙色顔料、ジアゾ顔料またはβ-ナフトール顔料などのアゾ顔料、ならびに例えばフタロシアニン、キナクリドン、ペリレンおよびフラバントロン顔料などの非アゾまたは多環式顔料である。アゾ顔料および非アゾ顔料が特に好ましい。
【0102】
さらに、本発明による歯科材料は、1種またはそれより多種の可塑剤を含有することができる。可塑剤は、ポリマーが光化学硬化およびありうる乾燥後に脆性になるのを防止する。さらに、可塑剤により、十分な可撓性が確保される。可塑剤は、好ましくは0.2~5重量%の濃度で添加される。好ましい可塑剤は、例えばフタル酸ジブチルまたはジヘキシルなどのフタレート、例えばリン酸トリブチルまたはトリクレシルなどの非酸性ホスフェート、n-オクタノール、グリセロールまたはポリエチレングリコールである。良好な生体適合性によって特徴づけられる、酒石酸エステルまたは例えばクエン酸トリエステルなどのクエン酸エステルが特に好ましい。
【0103】
本発明による歯科材料は、さらに1種またはそれより多種のチキソトロピー添加剤を含有することができる。これらの添加剤は、材料の増粘をもたらし、したがって例えば充填剤の沈降を防止することができる。特に、充填剤を含有する材料は、したがって好ましくは少なくとも1種のチキソトロピー添加剤を含有する。好ましいチキソトロピー添加剤は、例えばセルロース誘導体などのOH基を含有するポリマー、および例えば層状シリケートなどの無機物質である。材料の粘度をあまり増加させないために、本発明による歯科材料は、材料の全重量に対して好ましくはたった0~3.0重量%、特に好ましくは0~2.0重量%、極めて特に好ましくは0.1~2.0重量%だけのチキソトロピー添加剤を含有する。
【0104】
例えば高分散性SiO2、すなわち小さい一次粒子径(<20nm)および大表面積(>100m2)を有するSiO2などのある種の充填剤には、同様にチキソトロピー効果がある。そのような充填剤は、チキソトロピー添加剤に置き換わることができる。
【0105】
本発明による歯科材料のレオロジー特性は、所望の対象とする用途に適合される。ステレオリソグラフィック加工のための材料は、好ましくはそれらの粘度が50mPa・s~100Pa・s、好ましくは100mPa・s~10Pa・s、特に好ましくは100mPa・s~5Pa・sの範囲にあるように調整される。粘度は、コーンプレート粘度計(せん断速度100/秒)を使用して25℃で決定される。本発明による歯科材料は、25℃で特に好ましくは<10Pa・s、極めて特に好ましくは<5Pa・sの粘度を有する。粘度は、好ましくはCP25-2コーンプレート測定システムを備えたAnton Paar MCR 302型粘度計を使用し、せん断速度100/秒での回転中53μmの測定ギャップで決定される。低粘度のため、本発明による歯科材料は、例えば3D印刷またはステレオリソグラフィーなどのアディティブマニュファクチャリングプロセス(additive manufacturing processes)を使用して加工するのに特に適している。加工温度は、好ましくは10~70℃、特に好ましくは20~30℃の範囲にある。
【0106】
本発明によれば、以下の組成を有する歯科材料が特に好ましい。
(a)30~70重量%、好ましくは30~61重量%、特に好ましくは40~60重量%の、少なくとも1種の芳香族二環式または三環式モノ(メタ)アクリレート、
(b)20~60重量%、好ましくは30~55重量%、特に好ましくは33~55重量%の、750~2000g/molの数平均モル質量を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0~30重量%、好ましくは0~20重量%、特に好ましくは0重量%の、ジ(メタ)アクリレートモノマー(複数可)、
(d)1~12重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは2~10重量%の、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、
(e)0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4.0重量%、特に好ましくは0.3~3.0重量%の、ラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤、
(f)0~15重量%、好ましくは0~5重量%、特に好ましくは0重量%のコアシェルポリマー粒子、
(g)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、特に好ましくは0~10重量%の充填剤、
(h)0~1.0重量%、好ましくは0~0.7重量%、特に好ましくは0~0.5重量%の紫外線吸収剤、
(i)0~0.5重量%、好ましくは0~0.1重量%、特に好ましくは0~0.05重量%の蛍光増白剤、および
(j)0~15重量%、好ましくは0~10重量%、特に好ましくは0.05~5重量%のさらなる添加剤。
【0107】
以下の組成を有する歯科材料が極めて特に好ましい。
(a)30~70重量%、好ましくは30~61重量%、特に好ましくは40~60重量%の、式(I)の少なくとも1種のモノ(メタ)アクリレート、
(b)20~60重量%、好ましくは30~55重量%、特に好ましくは33~55重量%の、式(II)の少なくとも1種のウレタンジ[メタ]アクリレートテレケル、
(c)0~30重量%、好ましくは0~20重量%、特に好ましくは0重量%のさらなるジ(メタ)アクリレートモノマー、
(d)2~12重量%、好ましくは2~10重量%、特に好ましくは3~8重量%の、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、
(e)0.1~5.0重量%、好ましくは0.2~4重量%、特に好ましくは0.3~3.0重量%の少なくとも1種の光開始剤、
(f)0~15重量%、好ましくは0~5重量%、特に好ましくは0重量%のコアシェルポリマー粒子、
(g)0~20重量%、好ましくは0~15重量%、特に好ましくは0~10重量%の充填剤、
(h)0~1.0重量%、好ましくは0~0.7、特に好ましくは0~0.5重量%の紫外線吸収剤、
(i)0~0.5重量%、好ましくは0~0.1重量%、特に好ましくは0~0.05重量%の蛍光増白剤、および
(j)0~15重量%、好ましくは0~10重量%、特に好ましくは0.02~5重量%のさらなる添加剤。
【0108】
別段の記載がない限り、本明細書において重量百分率はすべて、歯科材料の全質量に関係づけられる。
【0109】
(a)40~61重量%の2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-(o-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]エチル(メタ)アクリレート、1-フェノキシプロパン-2-イル(メタ)アクリレート、2-(ベンジルオキシ)-エチル(メタ)アクリレート、2-(メタクリロイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ベンジルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸メチルエステル、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレートおよび/または2-(p-クミルフェノキシ)エチルメタクリレート、
(b)33~55重量%の、1molのエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールA、デカンジオールまたはドデカンジオールを2molのイソホロンジイソシアネート(IPDI)と反応させ、次いで2molの2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)またはヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)と反応させることによって調製された、750~2000g/molの数平均モル質量および少なくとも4個のウレタン基を有する少なくとも1種のウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル、
(c)0重量%のさらなるジ(メタ)アクリレートモノマー、
(d)2~10重量%の、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマーであって、Aブロックは、オリゴマーのポリカプロラクトン、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)またはポリ(メタ)アクリレートビルディングブロックから構成され、Bブロックは、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(イソプレン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(イソブテン)、cis-ポリ(ブタジエン)またはポリ(エチレン)ビルディングブロックから構成されている、少なくとも1種のABAまたはABブロックコポリマー、
(e)0%のコアシェルポリマー、
(f)0.1~5.0重量%の少なくとも1種の光開始剤、ならびに
(g)0.2~5重量%の1種またはそれより多種のさらなる添加剤
を含有する歯科材料は、本発明によれば特に好ましい。
【0110】
本発明による歯科材料は、口腔状態に相当する37℃の水中で測定して、高破壊靱性および破壊仕事、同時に良好な曲げ強さおよび比較的高い弾性率を有することを特徴とする。材料は、高透明度および低粘度も有する。歯科材料は、硬化後でさえ依然として高透明度および低内色素を有することが特に有利である。
【0111】
それとは対照的に、従来技術において耐衝撃性改良剤として使用されるコアシェルポリマーは、通常、透明度の多かれ少なかれ明白な低減をもたらし、アディティブプロセスに不利である。ブロックコポリマー(d)により、破壊靱性を改善することが可能になるが、コアシェルポリマーと比べて、透明度は比較的小さい低下にすぎないことが見出された。さらに、コアシェルポリマーと比較して、はるかに少量のブロックコポリマー(d)が、所望の破壊靱性を達成するのに必要であるので、ブロックコポリマー(d)により、高透明度を有する材料を生成することが可能になり、アディティブプロセスに抜きん出て適している。
【0112】
ブロックポリマー(d)の破壊靱性増加作用は、材料の架橋密度νcが300~5000mol/m3、好ましくは400~3000mol/m3の範囲にあるとき特に顕著である。より高い架橋密度により、曲げ強さおよび弾性率が増加するが、それによって、ポリマーの破壊強度が低下する。架橋密度の低減は、破壊靱性を増加させるが、曲げ強さおよび弾性率に不利な効果を及ぼす。
【0113】
好ましい範囲の架橋密度は、750~2000g/molの数平均モル質量を有するウレタンジ(メタ)アクリレートテレケル(b)を架橋剤として使用することによって達成され、架橋密度は、少量のモノマージ(メタ)アクリレートの添加により微調整することができる。
【0114】
本発明によれば、≧60%、好ましくは≧70%、極めて特に好ましくは≧80%の透明度、および≦10.0Pa・s、好ましくは≦5.0Pa・sの粘度を有する材料が特に好ましい。透明度は、上記のようにISO 10526:1999規格に従って測定される。粘度は、コーンプレート粘度計を上記のように使用して決定される。
【0115】
硬化後に、本発明による材料は、1.1MPa・m1/2超、好ましくは1.2MPa・m1/2超、特に好ましくは1.4MPa・m1/2超の破壊靱性Kmax、および250J/m2超、好ましくは300J/m2超、特に好ましくは400J/m2超の破壊仕事FWを有する。したがって、これらの材料から生成される被加工物は、破砕することなく、変形に高度に耐える。コアシェルポリマーでは、高透明度を高破壊仕事と合わせて達成することはできない。
【0116】
破壊靱性K
maxおよび破壊仕事FWの決定は、ISO 20795-1:2013に従って、32mmの支持スパンで3点曲げ試験において行われる。K
maxおよびFWの決定は、応力拡大係数K
1Cの理論的原理に基づく。破壊靱性K
maxは、応力拡大の最大因子であり、最大負荷における応力拡大係数とも呼ばれ、以下の通り計算される。
【数1】
、ここで、
【数2】
式中、
【数3】
Wは、試験片の高さ(=8mm)であり、Bは、試験片の厚さ(=4mm)であり、aは、亀裂の長さ(=3mm+かみそり刃による亀裂深度)、Sは、支持スパン(=32mm)であり、P
maxは、試験における最大圧力である。
【0117】
破壊仕事FW(破壊仕事、全破壊仕事)は、以下のように計算される。
【数4】
式中、Uは、試料を破壊するのに必要とされ(負荷/距離グラフの積分)、新しい2つの破壊面B(W-a)を創出するために必要とされる全エネルギーである。このパラメーターは、材料の亀裂伝播に対する抵抗性を示す。
【0118】
硬化後に、本発明による材料は、良好な曲げ強さおよび比較的良好な曲げ弾性率、ならびに良好な破壊靱性および高破壊仕事を有する。本発明による材料を硬化することによって得られる成形パーツは、高剛性を有し、破砕することなく高レベルの抵抗性で変形に対抗する。硬化後に、ISO20795-1:2013に従って決定して、少なくとも40MPa、特に好ましくは50MPaまたはそれよりも大きい、極めて特に好ましくは60MPaまたはそれよりも大きい曲げ強さを有する材料が好ましい。さらに、硬化材料は、好ましくはISO20795-1:2013に従って決定して、少なくとも1000MPa、好ましくは1300MPaまたはそれよりも大きい、特に好ましくは1500MPaまたはそれよりも大きい、極めて特に好ましくは2000MPaまたはそれよりも大きい、最も好ましくは2500MPaの曲げ弾性率を有する。さらに、材料は、1.1MPa・m1/2またはそれよりも大きい、好ましくは1.2MPa・m1/2またはそれよりも大きい、特に好ましくは1.4MPa・m1/2またはそれよりも大きい破壊靱性Kmax、および250J/m2またはそれよりも大きい、好ましくは300J/m2またはそれよりも大きい、特に好ましくは400J/m2またはそれよりも大きい破壊仕事FWを有する。したがって、60~100MPaの曲げ強さ、2000~2500MPaの曲げ弾性率、1.4~2.5MPa・m1/2の破壊靱性Kmaxおよび400~800J/m2の破壊仕事FWを有する材料が特に好ましい。
【0119】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、硬化後に、材料は、ISO20795-1:2013に従って測定して50MPaまたはそれよりも大きい曲げ強さ、および250J/m2またはそれよりも大きい破壊仕事および少なくとも1.2MPa・m0.5のKmax値(応力拡大の最大因子)を有する。
【0120】
上記の特性のために、本発明による材料は、歯科材料として、例えば補綴材料またはベニアリング材料としての使用、特に例えば歯科修復物、補綴物、人工歯、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、ドリルテンプレート、スプリント(バイトスプリント)、試適体、および例えばプラスチック矯正スプリント、いわゆるアライナーやポジショナーなどの歯科用矯正装置など歯科用成形パーツの生成または修理に抜きん出て適している。言及された成形パーツも、本発明の対象である。本発明による歯科材料は、好ましくは口腔外で、すなわち非治療的に使用される。
【0121】
本発明のさらなる対象は、歯科用成形パーツの生成のためのプロセス、特に以上で言及された歯科用成形パーツの生成のためのプロセスであり、歯科用成形パーツをもたらすために、光を使って本発明による組成物を硬化する。歯科用成形パーツの生成または修理は、好ましくは口腔外で、特に好ましくはアディティブプロセス、極めて特に好ましくは3D印刷または例えばステレオリソグラフィーなどのリソグラフィーベースのプロセスによって行われる。
【0122】
成形パーツのステレオリソグラフィック生成は好ましくは、修復対象の歯(複数可)をコンピューターで直接または間接デジタル化することにより、歯の状況のバーチャル画像を創出し、次いで、この画像に基づいて、コンピューターで歯科修復物または補綴物のモデルを構築し、引き続いてこのモデルをアディティブステレオリソグラフィック製造によって生成することによって行われる。
【0123】
生成対象の歯科被加工物のバーチャルモデルが創出されると、本発明による組成物は選択的光照射によって重合される。歯科修復物または補綴物は、好ましくは所望の断面を有する複数の薄層を次々に重合することによって層状に構築される。修復物または補綴物の積層構築後に、過剰の残留樹脂は、好ましくは除去される。これは、好適な機械的プロセス(例えば、遠心またはサンドブラスト)によって、あるいは例えばエタノールもしくはイソプロパノールなどのアルコール、例えばアセトンなどのケトン、または例えば酢酸エチルなどのエステルなど好適な溶媒による処理によって行うことができる。次いで、後焼戻しは、好ましくは被加工物を加熱することによって、または特に好ましくは例えば、405nmで例えば160mW/cm2の強度の光を照射することなど好適な波長の光を照射することによって行われる。2種の光開始剤を使用するとき、異なる2波長の照射が有利である。被加工物を、好ましくは同時にまたはその後のステップで、50℃を超える温度に加熱する。機械的特性は、光化学的および/または熱的後焼戻しを通して改善することができる。
【0124】
以下で実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例0125】
(実施例1)
2-(2-ビフェニルオキシ)-エチルメタクリレート(芳香族モノメタクリレート)の合成
第1段階:2-(2-ビフェニル)-オキシエタノール
【化13】
二重ジャケット付きの反応器において、2.55kg(15.0mol)の2-フェニルフェノール、0.12kg(0.75mol)のヨウ化カリウムおよび0.17kg(0.75mol)のベンジルトリエチルアンモニウムクロリドを、0.90kg(22.5mol)の水酸化ナトリウムの水(15.0kg)溶液に添加した。溶液を60℃(内部温度)に加熱し、同時に1.81kg(22.5mol)の2-クロロエタノールの滴下添加を始めた。添加の終了後、バッチを60℃で48時間撹拌した。後処理のために、バッチを6.0lのトルエンで希釈し、相分離後に、水性相を、各回3.0lのトルエンでもう2回抽出した。合わせたトルエン相を、各回4.0lの1N水酸化ナトリウム溶液で3回、各回4.0lの1N塩酸で3回、および各回3.0lの水で3回洗浄した。トルエンを真空で留去した。トルエンから再結晶した後、2.77kg(収率86%)の2-(2-ビフェニル)-オキシエタノールを、純度(GC)>99%で無色結晶質固体(m.p.:74~75℃)として得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3) δ (ppm) = 1.86 (t, J = 6.5 Hz, 1H, OH), 3.78-3.81 (m, 2H, HOCH
2), 4.04 (t, J = 4.6 Hz, 2H, OCH
2), 6.98-7.08, 7.28-7.34, 7.38-7.42 and 7.50-7.52 (4 m, 2H, 3H, 2H, 2H, =CH).
13C-NMR (100 MHz, CDCl
3) δ (ppm) = 61.4 and 70.3 (OCH
2), 113.5 (C-6), 121.7 (C-4), 127.1, 128.7 and 131.0 (C-3, C-5, C-4’), 128.1 and 129.4 (C-2’, C-3’, C-5’, C-6’), 131.5 and 138.4 (C-2, C-1’), 155.4 (C-1).
IR(ダイヤモンドATR):ν(cm
-1)=3329(br,m,OH),3056(m,=CH),2918および2866(m,CH
2),1596および1584(m,C=C),1502および1483(s,芳香族化合物),1431(s,CH
2),1260および1077(s,COC),1054(s,COH),749,730および700(vs,=CH).
【0126】
第2段階:2-(2-ビフェニルオキシ)-エチルメタクリレート
【化14】
二重ジャケット付きの反応器において、0.75kg(7.4mol)のトリエチルアミン、37.9g(0.31mol)の4-ジメチルアミノピリジンおよび0.35gの2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを、1.33kg(6.2mol)の2-(2-ビフェニル)-オキシエタノールの塩化メチレン(13.0l)溶液に添加した。1.14kg(7.4mol)のメタクリル酸無水物の溶液を、0℃(内部温度)で滴下して添加し、この温度でさらに2時間撹拌し、20℃で20時間撹拌した。次いで、溶液を、各回4.0lの1N塩酸で3回、各回4.0lの1N水酸化ナトリウム溶液で3回、各回4.0lの水で3回洗浄した。有機相を0.09gのフェノチアジンで安定化した。溶媒を除去した後、1.71kg(収率98%)の2-(2-ビフェニルオキシ)-エチルメタクリレート(BPOEMA)を、純度(GC)96.45%でほとんど無色の油として得た。
1H-NMR (400 MHz, CDCl
3) δ (ppm) = 1.93 (s, 3H, CH
3), 4.19 and 4.41 (2 t, each J = 4.8 Hz, each 2H, OCH
2), 5.55 and 6.08 (2 s, each 1H, =CH
2), 6.95-7.06, 7.26-7.30, 7.33-7.37 and 7.52-7.55 (4 m, 2H, 2H, 3H, 2H, =CH).
13C-NMR (100 MHz, CDCl
3) δ (ppm) = 18.3 (CH
3), 63.0 and 66.5 (OCH
2), 113.1 (C-6), 121.7 (C-4), 126.0 (C=CH
2), 126.9, 128.6, 131.1 (C-3, C-5, C-4’), 127.9 and 129.6 (C-2’, C-3’, C-5’, C-6’), 131.3 and 138.3 (C-2, C-1’), 136.1 (C=CH
2), 155.4 (C-1), 167.2 (C=O).
IR(ダイヤモンドATR):ν(cm
-1)=3027(w,=CH),2955および2900(w,CH
2,CH
3),1716(vs,C=O),1636(m,C=C
メタクリル),1598および1584(m,C=C
芳香族化合物),1504および1482(m,s,芳香族化合物),1434(s,CH
2,CH
3),1261および1125(s,COC
エーテル),1157(vs,COC
エステル),939(s,=CH
メタクリル),751,733および697(vs,=CH
芳香族化合物).
【0127】
MCRレオメーター(Anton Paar GmbH、Austria)を使用して、BPOEMAの回転粘度をη=0.01Pa・sと決定した。ABBE 5屈折計(Bellingham+Stanley、UK)によって、BPOEMAの屈折率をnD
20=1.5729と決定した。曲げ共振子密度メーターDS 7000(Kruss)によって、BPOEMAの密度を1.119g/cm3と決定した。モノマーの重合収縮は7.4体積%だけであると決定した。
【0128】
(実施例2)
本発明によるウレタンジメタクリレートテレケルの合成
ジオールとジイソシアネートおよびHEMAエンドキャッピング(1:2:2)を反応させる一般仕様
1当量のジオール、2当量のイソホロンジイソシアネート(IPDI)および(IPDIに対して)700ppmのMetatin 712の混合物を40℃に加熱した。ジオールは完全に溶解し、混合物を約110℃まで加熱した。発熱がおさまった後、2当量の2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、(100%の生成物に対して)30ppmのBHTで安定化)を滴下して添加する前に、混合物を浴温80℃で1時間撹拌した。再び発熱がおさまった後、撹拌を90℃でさらに10分間継続した。反応の完結は、IRおよびNMR分光法によってチェックした。付加体は、非常に高粘性~脆性の無色樹脂として得られた。
【0129】
A. 1,10-デカンジオール-IPDI-HEMA付加体(1:2:2)、異性体混合物(DMAテレケル1、モル質量:879.15g/mol)
【化15】
1,10-デカンジオールをジオールとして使用した。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ (ppm) = 0.85-0.97, 1.01-1.06, 1.19-1.38 and 1.59-1.75 [4 m, 46H, (CH
2)
8, CH
2, cycl., CH
3, 環), 2.03 (s, 6H, CH
3, メタクリル), 2.81-2.98および3.20-3.33 (2 m, 4H, NCH
2), 3.65-3.88 [m, 2H, NCH], 3.98-4.11 (m, 4H, OC
H
2(CH
2)
8), 4.26-4.40 (m, 8H, O(CH
2)
2O), 4.57-4.94 (m, 4H, NH), 5.60および6.14 (2 s, 各2H, =CH
2).
IR(ダイヤモンドATR):ν(cm
-1)=3341(br,NH),2927および2856(m,C-H),1695(vs,C=O),1638(m,C=C),1526(s,NH),1456(m,CH
2,CH
3),1366(m,CH
3),1236(C-N),1167および1039(s,m,COC),942(m,=CH),774[m,(CH
2)
8].
【0130】
B. ビスフェノールA-IPDI-HEMA付加体(1:2:2)、異性体混合物(DMAテレケル2、モル質量:1049.31g/mol)
【化16】
次式によるペンダント型イソプロポキシ基を有するビスフェノールA誘導体をジオールとして使用した。
【化17】
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ (ppm) = 0.86-1.06, 1.18-1.21, 1.29-1.40 and 1.62-1.75 [4 m, 42H, CH
2, cycl., CH
3), 1.95 (s, 6H, CH
3, メタクリル), 2.87-2.99および3.19-3.36 (2 m, 4H, NCH
2), 3.67-3.88 [m, 2H, NCH], 3.91-4.03および4.09-4.22 (2 m, 4H, OC
H
2CH), 4.26-4.40および4.50-5.18 (2 m, 14H, O(CH
2)
2O, OCH
2C
H, NH), 5.59および6.15 (2 s, 各2H, =CH
2), 6.80および7.12 (2 d, 各4H, =CH).
IR(ダイヤモンドATR):ν(cm
-1)=3341(br,NH),2955および2860(m,C-H),1705(vs,C=O),1640(w,C=C),1608(w,芳香族化合物),1507(s,NH),1456(m,CH
2,CH
3),1385(m,CH
3),1231(C-N),1155および1043(s,m,COC),941(m,=CH),829(m,=CH
芳香族化合物).
【0131】
(実施例3)
PCL(1600)-b-PDMS(3200)-b-PCL(1600)ブロックコポリマー(PO-277)の合成
第1段階:テトラメチルアンモニウム3-アミノプロピルジメチルシラノエート
保護ガス雰囲気中、テトラヒドロフラン(THF;10ml)中1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(2.49g、10.0mmol)およびテトラメチルアンモニウムヒドロキシド5水和物(3.62g、20mmol)の混合物を還流させながら3時間加熱した。溶媒を留去し、残渣を、精密真空中で50℃に加熱した。黄色がかった残渣をTHF(20ml)から再結晶させた。3.17g(15.4mmol;77%)の白色固体を得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ = 3.16 (s, 12H; N+-CH3), 2.37 (t, 2H; J = 7.1 Hz; N-CH2), 1.28 (m, 2H; CH2), 0.14 (m, 2H; Si-CH2), -0.33 (s, 6H; Si-CH3).
第2段階:ポリジメチルシロキサン-αω-ジプロピル-3-アミン:PDMS(3200)
【0132】
保護ガス雰囲気中、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(4.98g、20.0mmol)とオクタメチルシクロテトラシロキサン(12.00g、40mmol)の混合物を80℃に加熱した。テトラメチルアンモニウム3-アミノプロピルジメチルシラノエート(20mg)を添加し、撹拌を80℃で継続した。30分後、アルゴンで飽和したオクタメチルシクロテトラシロキサン(56.00g、0.192mol)をゆっくり滴下して添加した。反応混合物を80℃でさらに18時間撹拌し、次いで150℃に30分間加熱して、触媒を分解した。次いで、揮発性成分を精密真空で除去した。65.30g(88%)の無色油を得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ =2.64 (t, 4H; J = 7.0 Hz; N-CH2), 1.43 (m, 4H; CH2), 0.51 (m, 4H; Si-CH2), 0.05 (s, 250H; Si-CH3).
第3段階:PCL(1600)-b-PDMS(3200)-b-PCL(1600)ブロックコポリマー
【0133】
PDMS(3200)(20.00g)とε-カプロラクトン(20.40g)の混合物を80℃に加熱した。1時間後、スズビス(2-エチルヘキサノエート)(10mg)を添加し、浴温を、30分にわたって段階的に130℃に上げた。現在の清澄な反応混合物を130℃でさらに5時間撹拌した。次いで、揮発性成分を精密真空で留去した。39.50g(98%)のブロックコポリマーを、蝋質の若干黄色がかった固体として得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ = 3.99 (t, 55H; J = 6.8 Hz; O-CH2), 3.57 (t, 4H; J = 6.8 Hz; HO-CH2), 3.15 (q, 4H; J = 6.8 Hz; N-CH2), 2.24 (t, 55H; J = 7.5 Hz; C(O)-CH2), 2.10 (t, 4H; J = 7.5 Hz; N-CH2), 1.58 (m, 118H; CH2), 1.32 (m, 59H; CH2), 0.46 (m, 4H; Si-CH2), 0.02 (s, 250H; Si-CH3).
【0134】
(実施例4)
PMMA(1200)-b-PDMS(3200)-b-PMMA(1200)ブロックコポリマーの合成
第1段階:α,ω-(2-ブロモイソブチリルアミノプロピル)-ポリ(ジメチルシロキサン)
α-ブロモイソ酪酸ブロミド(1.44g;6.24mmol)を、0℃でTHF(100ml)に溶解したPDMS(3200)(6.66g;2.08mmol)およびトリエチルアミン(0.84g;8.44mmol)の溶液に滴下して添加した。反応混合物を氷冷しながら2時間撹拌し、周囲温度で18時間撹拌した。懸濁液を濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した。無色油をジクロロメタン(100ml)に溶解し、飽和Na2CO3水溶液(50mlで2回)、塩酸(0.2N、50mlで2回)および飽和NaCl水溶液(100ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水し、濾過し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。揮発性成分を精密真空で除去した。6.32g(1.81mmol;87%)の若干黄色がかった液体を得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ = 3.22 (m, 4H; N-CH2), 1.92 (s, 12H; C-CH3), 1.54 (m, 4H; CH2), 0.53 (m, 4H; Si-CH2), 0.05 (s, 258H; Si-CH3).
第2段階:PMMA(1200)-b-PDMS(3200)-b-PMMA(1200)ブロックコポリマー
【0135】
不活性ガス条件下で、トルエン(50ml)を、α,ω-(2-ブロモイソブチリルアミノプロピル)-ポリ(ジメチルシロキサン)(6.22g;1.78mmol)、塩化銅(I)(0.35g;3.56mmol)およびN,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(0.62g;3.56mmol)に添加し、溶液を脱気した。メタクリル酸メチルエステル(7.78g;77.7mmol)を添加した。溶液を周囲温度で30分間撹拌し、次いで90℃に20時間加熱した。冷却後、溶液を中性酸化アルミニウムで濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮した。残渣をジクロロメタンに溶解し、シリカゲルで濾過した。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、残渣を精密真空中で乾燥した。8.77g(1.49mmol;84%)のブロックコポリマーを黄色がかった固体として得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ = 3.53 (s, 72H; O-CH3), 3.28-3.03 (m, 4H; N-CH2), 2.20-1.12 (m, 64H; C-CH3, CH2), 1.13-0.63 (m 72H, CH3), 0.55-0.40 (m, 4H; Si-CH2), 0.0 (s, 252H, Si-CH3).
【0136】
(実施例5)
PCL(2500)-b-PDMS(3200)-b-PCL(2500)ブロックコポリマーの合成
PDMS(3200)(20.00g)とε-カプロラクトン(30.60g)の混合物を、80℃に加熱した。1時間後、スズビス(2-エチルヘキサノエート)(10mg)を添加し、浴温を、30分にわたって段階的に130℃に上げた。現在の清澄な反応混合物を、130℃でさらに5時間撹拌した。次いで、揮発性成分を精密真空で留去した。49.00g(97%)の蝋質の若干黄色がかった固体を得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ = 3.99 (t, 86H; J = 6.8 Hz; O-CH2), 3.57 (t, 4H; J = 6.8 Hz; HO-CH2), 3.15 (q, 4H; J = 6.8 Hz; N-CH2), 2.24 (t, 86H; J = 7.5 Hz; C(O)-CH2), 2.10 (t, 4H; J = 7.5 Hz; N-CH2), 1.60-1.54 (m, 180H; CH2), 1.34-1.29 (m, 90H; CH2), 0.51-0.40 (m, 4H; Si-CH2), 0.02 (s, 250H; Si-CH3).
【0137】
(実施例6)
PCL(3200)-b-PDMS(3200)-b-PCL(3200)ブロックコポリマーの合成
PDMS(3200)(15.00g)とε-カプロラクトン(30.60g)の混合物を80℃に加熱した。1時間後、スズビス(2-エチルヘキサノエート)(10mg)を添加し、浴温を、30分にわたって段階的に130℃に上げた。現在の清澄な反応混合物を130℃でさらに5時間撹拌した。次いで、揮発性成分を精密真空で留去した。44.20g(97%)の蝋質の若干黄色がかった固体を得た。
1H-NMR (CDCl3, 400 MHz): δ = 3.99 (t, 106H; J = 6.8 Hz; O-CH2), 3.57 (t, 4H; J = 6.8 Hz; HO-CH2), 3.15 (q, 4H; J = 6.8 Hz; N-CH2), 2.24 (t, 106H; J = 7.5 Hz; C(O)-CH2), 2.10 (t, 4H; J = 7.5 Hz; N-CH2), 1.60-1.54 (m, 220H; CH2), 1.34-1.29 (m, 110H; CH2), 0.51-0.40 (m, 4H; Si-CH2), 0.02 (s, 250H; Si-CH3).
【0138】
(実施例7)
重合およびSL樹脂の調製
表1に列挙した成分を記載の量で互いに均質に混合した。このために、すべての固体成分(ブロックコポリマーまたはコアシェル粒子、光開始剤)を、遊星形ミキサーまたはSpeedmixerで撹拌しながら、また必要に応じて50℃に加熱しながら、モノマーに溶解した。次いで、ウレタンジメタクリレートテレケルを添加し、均質な混合物が達成されるまで撹拌を継続した。ブロックコポリマーは、問題なく混合物に組み込むことができた。コアシェル粒子の組込みのために、ローターステーターミキサー(Ultra-Turrax T-25)によって、回転速度3000rpmで30分間追加的に均質化した。次いで、混合物を遊星形ミキサーで脱気した。
【0139】
試験片は、ステレオリソグラフィック印刷機(PrograPrint PR5、Ivoclar Vivadent AG、Schaan、Liechtensteinから)を使用して、配合物No.5およびNo.6を用いてボトムアッププロセスで生成した。印刷機は、積層構築においてDLP技法を波長388nm、出力10mW/cm2および画素サイズ50μmで使用して試料を曝露した。層厚さはいずれの場合にも100μmであった。イソプロパノールを使用して、付着している残留樹脂を除去した。このために、PrograPrint Cleanデバイス(Ivoclar Vivadent AG、Schaan、Liechtensteinから)を使用して、試験片をビルドプラットフォーム(PrograPrint Stage)と一緒に、撹拌しながら新鮮なイソプロパノール中で2回(1回目浴10分、2回目浴5分)清掃し、この直後に、圧縮空気でブロー乾燥した。次いで、試験片を波長405nmの光に90秒間曝露することによって後焼戻しを行った。これは、PrograPrint Cureデバイス(Ivoclar Vivadent AG、Schaan、Liechtensteinから;ソフトウェア:ProArt Print Splint、2020)によって行った。次いで、試験片をビルドプラットフォームから引き離した。
【0140】
表1の残りの組成を用いて、試験片を金型で調製し、歯科用光源(PrograPrint Cure、Ivoclar Vivadent AG、Schaan、Liechtensteinから;ソフトウェア:ProArt Print Splint、2020)を用いて両側を照射し、したがって硬化した。
【0141】
試験片のさらなる機械加工および貯蔵は、以下に言及する明細事項の関連規定に従って行った。曲げ強さ(FS)および曲げ弾性率(FM)は、ISO規格ISO-4049(歯科-ポリマーベースの充填、修復およびルーティング材料)に従って決定した。このために、試験片を予め、室温で24時間乾式貯蔵し、または37℃の水中で24時間貯蔵した。さらに、曲げ強さおよび曲げ弾性率を、ISO 20795-1:2013規格(歯科-ベースポリマー-パート1:義歯ベースポリマー)に従って測定した。それに応じて、測定前に、試験片を37℃の脱イオン水中で50時間貯蔵し、次いでサーモスタット制御式槽中、37℃の水中で測定を実施した。破壊靱性Kmaxおよび破壊仕事FWの決定は、ISO 20795-1:2013に従って行った。測定の結果を表2に示す。
【0142】
配合物No.1およびNo.10は参考例であり、コアシェルポリマーもブロックコポリマーも含有しない。これらの参考例は、良好な曲げ強さおよび良好な曲げ弾性率を有するが、破壊靱性および破壊仕事の値は、所期のステレオリソグラフィック用途に不十分であり、使用できない。実施例No.3、No.4およびNo.14はいずれの場合もコアシェルポリマー粒子を含有する。いずれの場合も、粒子の添加により、破壊靱性Kmaxおよび破壊仕事FWの改善がもたらされる。
【0143】
実施例No.14では、5重量%のコアシェル粒子を配合物No.10に添加した。コアシェルポリマーの添加により、破壊靱性の改善だけでなく、透明度の著しい低下がもたらされる。実施例No.12、No.13およびNo.15では、いずれの場合にも、コアシェル粒子の代わりに、5重量%のブロックコポリマーを耐衝撃性改良剤として添加した。表2から、どの場合でも、ブロックコポリマーはコアシェル粒子より、破壊靱性の改善がはるかに大きいが、透明度は比較的小さい低下にすぎないことが示される。実施例No.11は、3重量%のブロックコポリマーの添加が、5重量%のコアシェル粒子と同様な破壊靱性の改善を達成するのに十分であることを示す。
【0144】
実施例No.2とNo.3の比較により、この場合も3重量%ブロックコポリマーの添加は、5重量%のコアシェル粒子とほぼ同じ破壊靱性の改善をもたらすことが示される。実施例No.2は、実施例No.3と比較して高い透明度によって特徴づけられ、ブロックコポリマーの使用により、高い破壊靱性および透明度を有する材料を生成することが可能であると認められる。
【0145】
実施例No.3とNo.4の比較により、コアシェル粒子の量を5~10重量%に増加させることによって、破壊靱性をさらに改善することができるが、これには透明度のさらなる低下が伴うことが示される。
【表1】
【表2】