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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173169
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20221111BHJP
【FI】
A61B18/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019179474
(22)【出願日】2019-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】周 拓
(72)【発明者】
【氏名】大久保 到
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK18
4C160KK36
4C160KK70
4C160MM33
(57)【要約】
【課題】病変部における密着性と、弁体や術者による変形の抑制を両立した電極部を有する医療デバイスを提供する。
【解決手段】長尺なシャフト部21と、シャフト部21の先端部に配置され、シャフト部21の軸に沿って細長く、径方向に拡張可能な電極部40と、を有し、電極部40は、電極部40の先端部を含む第1の部分41と、電極部40の基端部を含み、第1の部分41の基端側に配置され、表面が絶縁された第2の部分42とを有し、第1の部分41は、電極部40の拡張方向に露出する表面導電層55を含む通電部43を有し、第2の部分42より柔軟に形成される医療デバイス10である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺なシャフト部と、
前記シャフト部の先端部に配置され、前記シャフト部の軸に沿って細長く、径方向に拡張可能な電極部と、を備え、
前記電極部は、該電極部の先端部を含む第1の部分と、前記電極部の基端部を含み、前記第1の部分の基端側に配置され、表面が絶縁された第2の部分とを有し、
前記第1の部分は、前記電極部の拡張方向に露出する表面導電層を含む通電部を有し、前記第2の部分より柔軟に形成される医療デバイス。
【請求項2】
前記第1の部分は、前記電極部の先端部に配置された先端絶縁部と、該先端絶縁部より基端側に配置された前記通電部と、を有し、
前記通電部は前記第2の部分より柔軟に形成され、前記先端絶縁部は前記通電部より柔軟に形成される請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記第1の部分は、前記第2の部分より厚みが小さいことにより柔軟に形成される請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記第1の部分は、前記第2の部分より柔軟な材料を有していることにより柔軟に形成される請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記電極部は複数の層が積層されて形成されており、前記第1の部分は、前記第2の部分より層が少ないことにより柔軟に形成される請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記第1の部分は、前記電極部の長さ方向の少なくとも一部に幅方向における切欠部を有することにより柔軟に形成される請求項1または2に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記シャフト部は、長尺な外管と、該外管の先端部から突出するように前記外管内に挿通され、前記外管に対して軸方向にスライド可能な内管と、を有し、
前記電極部の先端部は、前記内管の先端部に固定されており、前記電極部の基端部は、前記外管の先端部に固定されている請求項1~6のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記シャフト部の先端部には、前記電極部を拡張させるバルーンが設けられ、前記電極部は前記第1の部分の少なくとも一部が前記バルーンに接合されている請求項1~7のいずれか1項に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記第2の部分は拡張した前記バルーンに接触しない請求項8に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に挿入され生体組織に対し通電による治療を行う医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスとして、不可逆電気穿孔法(IRE:Irreversible Electroporation)による治療を行うものが知られている。不可逆電気穿孔法は、非熱性であり、周囲の血管や神経への損傷を抑えることができることから、注目されている。例えば、外科手術での除去が困難ながんに対して、不可逆電気穿孔法を用いて治療を行う医療装置が知られている。
【0003】
不可逆電気穿孔法を行う医療デバイスは、径方向に拡張可能な電極を周方向に沿って複数有し、電極が生体組織に密着した状態で、電極間に電気を流すことができる。このような医療デバイスとして、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6013186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医療デバイスは、予め生体内に挿入された管体を介して生体に挿入される。生体に挿入された管体の入口には、血液が流出しないように弁体が設けられている。医療デバイスの電極を柔軟にすると、病変部に対する密着性は良好になるが、弁体を通過する際に変形しやすく、電極の拡張不良などに繋がる可能性がある。また、電極部を術者が手で持って挿入する際にも、電極部を変形させてしまう可能性がある。
【0006】
一方で、医療デバイスの電極を硬くすると、弁体を通過する際等における変形は抑えられるが、病変部での密着性が低下する。特に、病変部が異形な場合に、電極が生体組織に密着しにくい。特許文献1の医療デバイスの電極は、先端部と基端部の幅が小さく、中間部の幅が大きいので、病変部で拡張する中間部の剛性が高く、病変部での密着性が低いと考えられる。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、病変部における密着性と、弁体や術者による変形の抑制を両立した電極部を有する医療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る医療デバイスは、長尺なシャフト部と、前記シャフト部の先端部に配置され、前記シャフト部の軸に沿って細長く、径方向に拡張可能な電極部と、を備え、前記電極部は、該電極部の先端部を含む第1の部分と、前記電極部の基端部を含み、前記第1の部分の基端側に配置され、表面が絶縁された第2の部分とを有し、 前記第1の部分は、前記電極部の拡張方向に露出する表面導電層を含む通電部を有し、前記第2の部分より柔軟に形成される。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した医療デバイスは、電極部のうち病変部に接触する第1の部分は柔軟で、それ以外の部分は硬いため、電極部の病変部における密着性と、弁体による変形抑制を両立することができる。また、電極部のうち第2の部分を手で持つことで、挿入時に電極部を破損等することを防止できる。
【0010】
また、前記第1の部分は、前記電極部の先端部に配置された先端絶縁部と、該先端絶縁部より基端側に配置された前記通電部と、を有し、前記通電部は前記第2の部分より柔軟に形成され、前記先端絶縁部は前記通電部より柔軟に形成されるようにすれば、長さ方向における柔軟性の非連続性を緩和できる。
【0011】
また、前記第1の部分は、前記第2の部分より厚みが小さいことにより柔軟に形成されるようにすれば、厚みを調整することで簡単に第1の部分を柔軟に形成できる。
【0012】
また、前記第1の部分は、前記第2の部分より柔軟な材料を有していることにより柔軟に形成されるようにすれば、材料の選択により簡単に第1の部分を柔軟に形成できる。
【0013】
また、前記電極部は複数の層が積層されて形成されており、前記第1の部分は、前記第2の部分より層が少ないことにより柔軟に形成されるようにすれば、積層状態を設定することで簡単に第1の部分を柔軟に形成できる。
【0014】
また、前記第1の部分は、前記電極部の長さ方向の少なくとも一部に幅方向における切欠部を有することにより柔軟に形成されるようにすれば、切欠部の形状や大きさ及び数などの設定により簡単に第1の部分を柔軟に形成できる。
【0015】
また、前記シャフト部は、長尺な外管と、該外管の先端部から突出するように前記外管内に挿通され、前記外管に対して軸方向にスライド可能な内管と、を有し、前記電極部の先端部は、前記内管の先端部に固定されており、前記電極部の基端部は、前記外管の先端部に固定されているようにすれば、外管と内管とが軸方向にスライドすることにより、柔軟な部分を有する電極部を拡張、収縮させることができる。
【0016】
また、前記シャフト部の先端部には、前記電極部を拡張させるバルーンが設けられ、前記電極部は前記第1の部分の少なくとも一部が前記バルーンに接合されているようにすれば、柔軟な第1の部分がバルーンに接合されているので、バルーンの拡張を電極部が妨げないようにすることができる。
【0017】
また、前記第2の部分は拡張した前記バルーンに接触しないようにすれば、電極部のうち柔軟な領域のみ生体組織に接触させるようにして、電極部の密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態における医療デバイスの概略を示す正面図である。
図2】医療デバイスの先端部付近の拡大断面図である。
図3】電極部の平面図である。
図4】電極部を長さ方向と平行な面で切断した断面図である。
図5】電極部が拡張した状態における医療デバイスの先端部付近の拡大断面図である。
図6】第1の変形例の電極部を長さ方向と平行な面で切断した断面図である。
図7】第2の変形例の電極部を長さ方向と平行な面で切断した断面図である。
図8】第3の変形例の電極部を長さ方向と平行な面で切断した断面図である。
図9】第4~6の変形例の電極部を長さ方向と平行な面で切断した断面図である。
図10】第2の実施形態における医療デバイスの先端部付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、医療デバイス10の生体内腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0020】
本実施形態の医療デバイス10は、生体内腔に対し経皮的に挿入され、目的部位の生体組織に接触して電流を印加し、不可逆電気穿孔法を実施するものである。また、医療デバイス10は、高周波焼灼や電気化学療法(Electro-Chemicaltherapy)にも使用することができる。
【0021】
図1に示すように、医療デバイス10は、長尺管状のシャフト部21の先端部に電極部40を有している。シャフト部21は、外管30と内管24とを有している。内管24は、外管30の先端部から突出するように外管30内に挿通され、外管30に対して軸方向にスライド可能である。また、医療デバイス10はバルーン22を有している。医療デバイス10は、電極部40に電圧を印加するための接続線33を長さ方向に沿って有している。接続線33は、医療デバイス10の外部に設けられる電源部12に接続されている。電源部12は、電極部40に対して電圧を与えることができる。また、外管30の先端部には、電極部40の基端部を固定する先端部材31が、内管24の先端部には、電極部40の先端部を固定する先端固定部材45が、それぞれ設けられている。
【0022】
バルーン22は、内管24の先端部に設けられている。内管24の基端部には、ハブ23が設けられる。
【0023】
図2に示すように、内管24は、内側の第1管体25と外側の第2管体26とが同心円状に配置された二重管構造となっている。第1管体25の中空内部には、ガイドワイヤ11を挿通させるガイドワイヤルーメン27が形成される。また、第2管体26の中空内部であって、第1管体25の外側には、バルーン22の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン28が形成される。
【0024】
第1管体25は、第2管体26の先端よりもさらに先端側まで突出している。バルーン22は、基端側端部が第2管体26に固定され、先端側端部が第1管体25に固定されている。これにより、バルーン22の内部が拡張ルーメン28と連通している。拡張ルーメン28を介してバルーン22に拡張用流体を注入することで、バルーン22を拡張させることができる。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、COガス、Oガス、笑気ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤、およびその混合剤等の液体を用いることができる。
【0025】
外管30と内管24は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されるのが好ましい。そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が挙げられる。
【0026】
バルーン22は、薄膜状のバルーン膜によって形成されており、外管30や内管24と同様に、可撓性を有する材料によって形成される。また、電極部40を確実に押し広げる程度の強度も必要とされる。バルーン22の材質には、外管30や内管24について上で挙げたものを用いることができ、また、それ以外であってもよい。
【0027】
次に、電極部40について説明する。電極部40は可撓性を有した線状の部材であり、シャフト部21の軸に沿って細長く、周方向に複数設けられる。図1等では、簡略化のため、電極部40は2本のみ示されているが、実際には電極部40は周方向により多数が設けられる。電極部40間の間隔は、3~10mmの範囲が望ましいが、この範囲以外であってもよい。また、電極部40は、周方向に不均等に配置されていてもよい。
【0028】
先端部材31は、電極部40の基端部を固定するため、周方向に複数の固定孔31aを有している。固定孔31aの数は、電極部40の数に一致し、固定孔31aは、先端部材31の周方向に均等に配置される。
【0029】
先端固定部材45は、電極部40の先端部を固定するため、周方向に複数の収容部45aを有している。収容部45aの数は、電極部40の数に一致し、収容部45aは、先端固定部材45の周方向に均等に配置される。
【0030】
接続線33は、螺旋状に券回されて内管24の第1管体25内に埋設されている。接続線33は第1管体25の先端から先端固定部材45内に引き出され、収容部45a内に配置された電極部40の先端部に接続される。接続線33を介して各電極部40は電源部12に接続されている。これにより、周方向に隣接する電極部40間には、電源部12から電圧を印加できる。
【0031】
電極部40は、図3に示すように、当該電極部40の先端部を含み、通電部43を有する第1の部分41と、当該電極部40の基端部を含み、第1の部分41の基端側に配置される第2の部分42とが長さ方向に連続している。第2の部分42は、表面が絶縁されている。第1の部分41は、先端部に導電接続部54を有しており、接続線33が接続される。第1の部分41は、電極部40の拡張方向に露出する導電接続部54と通電部43の表面は導電性を有し、それ以外の部分は表面が絶縁されている。第1の部分41は第2の部分42より柔軟に形成されている。また、第1の部分41のうち、通電部43より先端側の先端絶縁部44がより柔軟に形成されている。このため、電極部40は、第2の部分42より通電部43が、通電部43より先端絶縁部44が、それぞれ柔軟に形成されている。
【0032】
図4に示すように、電極部40は、複数の層が積層されて形成されている。図4において下面はバルーン22に接する側であり、上面は生体に接する側である。電極部40には、ほぼ全長に渡って導電層50が設けられている。導電層50は、銅で形成されている。ただし、導電層50は導電性を有する材料で形成されていればよく、銅以外の金属等で形成されていてもよい。
【0033】
導電層50の下面側には、接着層56を介して第1絶縁層51が設けられている。第1絶縁層51は、硬質で絶縁性の高い樹脂材で形成される。このような樹脂材としては、例えばポリイミド、PET、PEEKなどが挙げられる。
【0034】
導電層50の上面側のうち、第2の部分42の領域には、接着層56を介して第2絶縁層52が設けられている。第2絶縁層52は、第1絶縁層51と同様の材料で形成される。これにより、第2の部分42は、接着層56を除くと、第1絶縁層51と導電層50及び第2絶縁層52の3層で形成される。また、第1絶縁層51と第2絶縁層52は、基端部において接着層56により互いに接合されている。これにより、導電層50は電極部40の基端面に露出しない。
【0035】
導電層50の上面側のうち、通電部43の領域には、表面導電層55が設けられており、電極部40の拡張方向に露出する。表面導電層55は、金で形成されており、良好な導電性及びX線不透過性を有している。ただし、表面導電層55は、金以外の導電性及びX線不透過性を有する材料で形成されていてもよい。通電部43は、厚み方向において第1絶縁層51と導電層50が共通するので、表面導電層55の柔軟性によって、第2の部分42より柔軟か否かが定まる。このため、表面導電層55は、第2の部分42より通電部43が柔軟となるように厚みが設定される。
【0036】
導電層50の上面側のうち、先端絶縁部44の領域には、第3絶縁層53と導電接続部54が設けられている。第3絶縁層53は、材料は第1絶縁層51や第2絶縁層52と同様であり、厚みは第2絶縁層52よりも小さい。これにより、先端絶縁部44は第2の部分42より柔軟に形成される。また、第3絶縁層53は、先端絶縁部44が通電部43よりも柔軟となるように厚みが設定される。導電接続部54は、表面導電層55と同様の材料で形成される。第1絶縁層51と第3絶縁層53は、先端部において接着層56により互いに接合されている。これにより、導電層50は電極部40の先端面に露出しない。
【0037】
電極部40の各層の厚みは、例えば以下のように設定することができる。導電層50は10μm、第1絶縁層51は15μm、第2絶縁層52は25μm、第3絶縁層53は10μm、表面導電層55は10μmである。ただし、各層の厚みは、前述のように、第2の部分42より通電部43が、通電部43より先端絶縁部44が、それぞれ柔軟となるのであれば、これら以外の数値に設定されてもよい。
【0038】
このように、第3絶縁層53及び表面導電層55の厚みを調整することで、第1の部分41の曲げ弾性率は、第2の部分42の25~75%の範囲となることが好ましい。ただし、この範囲外であってもよい。
【0039】
また、第1絶縁層51や第3絶縁層53につき、図4では電極部40の長さ方向に沿って一定の厚みを有しているが、先端側に向かって次第に薄くなるようにしてもよい。これにより、電極部40の先端側ほど柔軟に形成することができる。
【0040】
電極部40は、図2に示すように、先端絶縁部44がバルーン22の表面に対し接着により接合される。通電部43及び第2の部分42はバルーン22には接合されない。ただし、通電部43については、一部あるいは全体をバルーン22に接合してもよい。
【0041】
バルーン22が拡張すると、図5に示すように、電極部40は径方向に拡張する。電極部40のうち、先端絶縁部44は、前述のようにバルーン22に接着により接合されているため、バルーン22に支持されて先端から基端に向かって拡径する。また、先端絶縁部44は、バルーン22との間に隙間がないように接着されていることが好ましい。これにより、先端絶縁部44とバルーン22との間で血栓が形成されることを防止できる。通電部43は、バルーン22の最も径の大きい中央部付近に位置し、バルーン22に支持されて生体組織に密着する。第2の部分42は、バルーン22に接することなく先端から基端に向かって縮径する。
【0042】
電極部40は、バルーン22に接合されて支持される先端絶縁部44が最も柔軟で、バルーン22に支持される通電部43が次に柔軟で、バルーン22に接しない第2の部分42が最も硬くなるように形成されている。このため、病変部で電極部40を拡張させた際に、電極部40が病変部の形状に合わせて柔軟に変形することができ、電極部40の生体組織に対する密着性を良好にすることができる。また、第2の部分42より第1の部分41が柔軟であることから、第1の部分41がバルーン22に接合されていても、バルーンの拡張を妨げないようにすることができる。
【0043】
その一方で、生体組織に直接接触しない第2の部分42については硬くなるように形成されているので、電極部40を弁体に挿通させる際に、その変形を抑制できる。また、第2の部分42を手で持って電極部40を弁体に挿通させても、第2の部分42が剛性を有しているため、電極部40を変形あるいは破壊することを防止できる。
【0044】
次に、電極部の変形例について説明する。図6に示すように、第1の変形例の電極部60は、先端側の第1の部分60aと基端側の第2の部分60bとを有している。電極部60は、ほぼ全長に渡る導電層63を有し、その下面側には接着層69を介して第1絶縁層65aが設けられている。また、導電層63の上面側のうち、第2の部分60bの領域には、接着層69を介して第2絶縁層65bが、通電部61には表面導電層68が、それぞれ設けられている。第1絶縁層65aと第2絶縁層65bは、基端部において接着層69により接合されている。
【0045】
先端絶縁部62には、導電層63の上面側に、第3絶縁層65cが形成されている。また、先端絶縁部62には、導電接続部67も形成される。第3絶縁層65cは、第2の部分60bの第2絶縁層65bと同じ厚みを有し、第2絶縁層65bより柔軟な材料で形成されている。第2絶縁層65bは、前述の電極部40と同様、ポリイミド、PET、PEEKなどの硬質な樹脂材で形成されているのに対し、第3絶縁層65cは、ナイロン、ウレタン、エラストマーなどのより柔軟でかつ絶縁性を有する樹脂材で形成されている。また、第3絶縁層65cの材料としては、感光性・熱硬化性樹脂を主成分とするフォトソルダーレジストであってもよい。なお、第3絶縁層65cの先端部は、接着層69を介して第1絶縁層65aと接合されている。
【0046】
また、本変形例では、第2絶縁層65bより第3絶縁層65cの方が柔軟な材料で形成されていればよく、第3絶縁層65cが前述の電極部40における第3絶縁層53と同様な材料で形成され、第2絶縁層65bがより硬質な材料で形成されてもよいし、第2絶縁層65bと第3絶縁層65cの両方の材料を変更してもよい。
【0047】
このように、材料の選択により第3絶縁層65cの第2絶縁層65bに対する柔軟性を調整することで、第1の部分60aの曲げ弾性率は、第2の部分60bの25~75%の範囲となることが好ましい。ただし、この範囲外であってもよい。
【0048】
次に、第2の変形例の電極部70について説明する。図7に示すように、本変形例の電極部70は、先端側の第1の部分70aと基端側の第2の部分70bとを有している。電極部60は、第2の部分70bと通電部71に渡る導電層73を有し、導電層73の下面側には、電極部70の全長に渡り第1絶縁層75aが接着層79を介して形成されている。導電層73の上面側には、第2の部分70bの領域に第2絶縁層75bが、通電部71の領域に表面導電層78が、それぞれ形成されている。先端絶縁部72には、第1絶縁層75aの上面側に接着層79を介して第3絶縁層75cが形成されている。すなわち、本変形例では、先端絶縁部72が導電層73を有しておらず、その分、先端絶縁部72は第2の部分70に比べて厚みが小さく、柔軟に形成される。
【0049】
本変形例では、先端絶縁部72に導電層73を有していないので、導電接続部77は第2の部分70に形成される。このため、電源部12からの接続線33は、これまでの例と異なり、電極部70の基端部に接続される。
【0050】
このように、電極部70を構成する各部の層構造を変えることで、第1の部分70aの曲げ弾性率は、第2の部分70bの25~75%の範囲となることが好ましい。ただし、この範囲外であってもよい。
【0051】
また、本例においても、第1絶縁層75aや第3絶縁層75cにつき、先端側に向かって次第に薄くなるようにしてもよい。これにより、電極部70の先端側ほど柔軟に形成することができる。
【0052】
また、これまで説明した先端絶縁部の構成を、2つまたは3つ同時に採用してもよい。例えば、電極部40のように、第3絶縁層53の厚みを第2絶縁層52より小さくしつつ、電極部60のように、第3絶縁層65cの材質を第2絶縁層65bより柔軟な素材とし、さらに、電極部70のように、先端絶縁部72の部分には導電層73を設けず、第3絶縁層75cが接着層79を介して第1絶縁層75aの上面側に形成されるようにしてもよい。
【0053】
次に、第3の変形例の電極部80について説明する。図8に示すように、第3の変形例の電極部80は、先端側の第1の部分80aと基端側の第2の部分80bとを有している。第1の部分80aの構成は図4の電極部40と同様であり、通電部81と先端絶縁部82とを有している。また、導電層83の一方側に第1絶縁層85aが、他方側に表面導電層88と第3絶縁層85c及び導電接続部87が設けられる。第2の部分80bは、第2の絶縁層85bの一層で形成されている。このように、第2の部分80bを一層のみで形成してもよい。この場合にも、第1の部分80aの曲げ弾性率は、第2の部分80bの25~75%の範囲となることが好ましい。ただし、この範囲外であってもよい。
【0054】
次に、第4~6の変形例の電極部90,100,110について説明する。これらは、いずれも先端絶縁部の幅方向における切欠部によって、第1の部分を柔軟に形成している。図9(a)に示すように、第3の変形例の電極部90は、第2の部分90bと、通電部91及び先端絶縁部92を有する第1の部分90aとを有している。先端絶縁部92は、第2の部分90bより幅が狭い。これにより、先端絶縁部92の両側部には、幅方向において空間の切欠部94が形成される。先端絶縁部92が切欠部94を有していることで、第1の部分90aは第2の部分90bより柔軟に形成される。切欠部94の幅により、先端絶縁部92の幅が変化し、柔軟性を調整することができる。本例においても、第1の部分90aの曲げ弾性率は、第2の部分90bの25~75%の範囲となることが好ましいが、この範囲外であってもよい。
【0055】
図9(b)に示すように、第4の変形例の電極部100は、第2の部分100bと、通電部101及び先端絶縁部102を有する第1の部分100aとを有している。先端絶縁部102は、両側の一部が切り欠かれた切欠部104を複数有している。この切欠部104によって、第1の部分100aは第2の部分100bより柔軟に形成される。切欠部104の大きさや数によって、第1の部分100aの柔軟性を調整することができる。本例においても、第1の部分100aの曲げ弾性率は、第2の部分100bの25~75%の範囲となることが好ましいが、この範囲外であってもよい。
【0056】
図9(c)に示すように、第5の変形例の電極部110は、第2の部分110bと、通電部111及び先端絶縁部112を有する第1の部分110aとを有している。先端絶縁部112には、孔状の切欠部114が複数形成されている。この切欠部114によって、第1の部分110aは第2の部分110bより柔軟に形成される。切欠部114の大きさや数によって、第1の部分110aの柔軟性を調整することができる。本例においても、第1の部分110aの曲げ弾性率は、第2の部分110bの25~75%の範囲となることが好ましいが、この範囲外であってもよい。
【0057】
また、第4~6の変形例と、それ以前に説明した電極部の構成とを組み合わせることで、第1の部分を第2の部分より柔軟に形成してもよい。
【0058】
次に、第2の実施形態の医療デバイス120について説明する。第1の実施形態では、電極部40を拡張させるためにバルーン22を用いているが、第2の実施形態ではバルーンを有していない。図10に示すように、シャフト部121は、外管122と内管123を有し、外管122の内腔に挿通される内管123は、単一のルーメンを有している。外管122の先端部には、固定部材125が設けられて電極部124の基端部を固定する。内管123の先端部には、先端固定部材126が設けられて電極部124の先端部を固定する。電極部124には、第1の実施形態の電極部40及びその変形例の電極部のいずれかをそのまま用いることができる。術者が内管123を外管122に対して軸方向に引っ張ることで、電極部124を拡張させることができる。
【0059】
次に、医療デバイス10を用いた処置方法の例について説明する。始めに、セルジンガー法などによりイントロデューサー(図示しない)を経皮的に血管に穿刺する。次に、ガイドワイヤ(図示しない)を挿入後、ガイディングカテーテル(図示しない)を、イントロデューサーに挿入し、ガイドワイヤを先端側に突出させてから、ガイディングカテーテルの先端部をイントロデューサーの先端部開口から血管内へ挿入する。この後、ガイドワイヤを先行させつつ、ガイディングカテーテルを目的部位まで徐々に押し進める。
【0060】
次に、バルーン22及び電極部40が収縮した状態において、内管24のガイドワイヤルーメン27の先端部開口部に、ガイドワイヤの末端を挿入し、ハブ23からガイドワイヤを出す。次に、血管内に挿入されているガイディングカテーテル内に、医療デバイス10を先端部から挿入し、ガイドワイヤに沿わせて電極部40及びシャフト部21を押し進める。電極部40をガイディングカテーテルに挿入する際には、電極部40の第2の部分42を手で持って、第1の部分41からガイディングカテーテル内に挿入する。第2の部分42は第1の部分41より硬いので、電極部40を破損等することなく挿入することができる。
【0061】
電極部40を目的位置まで挿入したら、拡張ルーメン28を介して拡張用流体をバルーン22内に供給し、バルーン22を拡張させる。これにより、図5に示すように、電極40がバルーン22によって径方向に拡張した形状となる。この状態で、電源部12から電極40間に電圧が印加される。
【0062】
電圧の印加が完了したら、バルーン22及び電極部40を収縮させる。その後、血管内に挿入された全ての器具を抜出し、処置を完了する。
【0063】
以上のように、本実施形態に係る医療デバイス10は、長尺なシャフト部21と、シャフト部21の先端部に配置され、シャフト部21の軸に沿って細長く、径方向に拡張可能な電極部40と、を備え、電極部40は、電極部40の先端部を含む第1の部分41と、電極部40の基端部を含み、第1の部分41の基端側に配置され、表面が絶縁された第2の部分42とを有し、第1の部分41は、電極部40の拡張方向に露出する表面導電層55を含む通電部43を有し、第2の部分42より柔軟に形成される。これにより、電極部40のうち病変部に接触する第1の部分41は柔軟で、それ以外の部分は硬いため、電極部40の病変部における密着性と、弁体による変形抑制を両立することができる。また、電極部40のうち第1の部分を手で持つことで、挿入時に電極部40を破損等することを防止できる。
【0064】
また、第1の部分41は、先端側の先端絶縁部44と基端側の通電部43とを有し、通電部43は第2の部分42より柔軟に形成され、先端絶縁部44は通電部43より柔軟に形成されるようにすれば、長さ方向における柔軟性の非連続性を緩和できる。
【0065】
また、第1の部分41は、第2の部分42より厚みが小さいことにより柔軟に形成されるようにすれば、厚みを調整することで簡単に第1の部分41を柔軟に形成できる。
【0066】
また、第1の部分60aは、第2の部分60bより柔軟な材料を有していることにより柔軟に形成されるようにすれば、材料の選択により簡単に第1の部分60aを柔軟に形成できる。
【0067】
また、電極部70は複数の層が積層されて形成されており、第1の部分70aは、第2の部分70bより層が少ないことにより柔軟に形成されるようにすれば、積層状態を設定することで簡単に第1の部分70aを柔軟に形成できる。
【0068】
また、第1の部分80aは、電極部40の長さ方向の少なくとも一部に幅方向における切欠部84を有することにより柔軟に形成されるようにすれば、切欠部84の形状や大きさ及び数などの設定により簡単に第1の部分80aを柔軟に形成できる。
【0069】
また、シャフト部21は、長尺な外管30と、外管30の先端部から突出するように外管30内に挿通され、外管30に対して軸方向にスライド可能な内管24と、を有し、電極部40の先端部は、内管24の先端部に固定されており、電極部40の基端部は、外管30の先端部に固定されているようにすれば、外管30と内管24とが軸方向にスライドすることにより、柔軟な部分を有する電極部40を拡張、収縮させることができる。
【0070】
また、シャフト部21の先端部には、電極部40を拡張させるバルーン22が設けられ、電極部40は第1の部分41の少なくとも一部がバルーン22に接合されているようにすれば、柔軟な第1の部分41がバルーン22に接合されているので、バルーン22の拡張を電極部40が妨げないようにすることができる。
【0071】
また、第2の部分42は拡張したバルーン22に接触しないようにすれば、電極部40のうち柔軟な領域のみ生体組織に接触させるようにして、電極部40の密着性を向上させることができる。
【0072】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、各例における電極部は、通電部が1つ設けられているが、複数の通電部を有していてもよい。この場合に各通電部は、直列あるいは並列に接続されることができる。
【0073】
また、複数の層が積層された各例の電極部について、これら以外の層をさらに有していてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 医療デバイス
12 電源部
20 バルーンカテーテル
21 シャフト部
22 バルーン
23 ハブ
24 内管
25 第1管体
26 第2管体
27 ガイドワイヤルーメン
28 拡張ルーメン
30 外管
31 先端部材
33 接続線
40 電極部
41 第1の部分
42 第2の部分
43 通電部
44 先端絶縁部
45 先端固定部材
50 導電層
51 第1絶縁層
52 第2絶縁層
53 第3絶縁層
54 導電接続部
55 表面導電層
56 接着層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10