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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173270
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】光電変換素子および固体撮像装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/42 20060101AFI20221111BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20221111BHJP
   H01L 27/30 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01L31/08 T
H01L27/146 E
H01L27/30
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143270
(22)【出願日】2022-09-08
(62)【分割の表示】P 2020218925の分割
【原出願日】2016-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2015110900
(32)【優先日】2015-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016072197
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】松澤 伸行
(72)【発明者】
【氏名】尾花 良哲
(72)【発明者】
【氏名】竹村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 典一
(72)【発明者】
【氏名】下川 雅美
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲司
(72)【発明者】
【氏名】八木 巖
(72)【発明者】
【氏名】茂木 英昭
(57)【要約】
【課題】優れた分光形状、高い応答性および高い外部量子効率を向上させることが可能な光電変換素子および固体撮像装置を提供する。
【解決手段】本開示の一実施形態の光電変換素子は、対向配置された第1電極および第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、第2有機半導体材料は、単層膜の状態における第1有機半導体材料および第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、第3有機半導体材料は、単層膜における正孔の移動度が第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高く、光電変換層は、可視光領域に吸収帯を有すると共に、該吸収帯の相対強度がピーク値の1/3になる2点の間隔が115nm以下となる分光形状を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、
前記第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、
前記第2有機半導体材料は、単層膜の状態における前記第1有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、
前記第3有機半導体材料は、単層膜における正孔の移動度が前記第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高く、
前記光電変換層は、可視光領域に吸収帯を有すると共に、該吸収帯の相対強度がピーク値の1/3になる2点の間隔が115nm以下となる分光形状を有する
光電変換素子。
【請求項2】
前記第3有機半導体材料は、前記第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有する、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記光電変換層では、前記第2有機半導体材料の光吸収により発生した励起子が、前記第1有機半導体材料、前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料のうちの2つから選ばれる有機半導体材料の界面において励起子分離される、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記光電変換層は、450nm以上650nm以下の範囲に極大吸収波長を有する、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記第3有機半導体材料は、炭素(C)および水素(H)以外のヘテロ元素を分子内に含んでいる、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記光電変換層は、前記第1有機半導体材料を10体積%以上35体積%以下の範囲で含む、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記光電変換層は、前記第2有機半導体材料を30体積%以上80体積%以下の範囲で含む、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記光電変換層は、前記第3有機半導体材料を10体積%以上60体積%以下の範囲で含む、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の一方は、下記式(1)で表わされるキナクリドン誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【化1】
(R1、R2は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、または複素環基である。R3、R4は、各々独立してアルキル鎖、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シアノ基、ニトロ基、シリル基であり、2つ以上のR3もしくはR4が共同して環を形成してもよい。n1,n2は、各々独立した0または1以上整数である。)
【請求項10】
前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の一方は、下記式(2)で表わされるトリアリルアミン誘導体または下記式(3)で表わされるベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【化2】
(R20~R23は各々独立して、式(2)’で表わされる置換基である。R24~R28は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アリール基、芳香族炭化水素環基またはアルキル鎖または置換基を有する芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基またはアルキル鎖または置換基を有する芳香族複素環基である。隣接するR24~R28は、互いに結合して環を形成する飽和もしくは、不飽和の2価の基でもよい。)
【化3】
(R5,R6は、各々独立して水素原子または式(3)’で表わされる置換基である。R7は、芳香環基あるいは置換基を有する芳香環基である。)
【請求項11】
前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の一方は、下記式(4)で表わされるサブフタロシアニン誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【化4】
(R8~R19は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基からなる群から選択され、且つ、隣接する任意のR8~R19は縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。Mはホウ素または2価あるいは3価の金属である。Xはアニオン性基である。)
【請求項12】
前記第2有機半導体材料は、サブフタロシアニン誘導体であり、前記第3有機半導体材料は、キナクリドン誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項13】
前記第2有機半導体材料は、サブフタロシアニン誘導体であり、前記第3有機半導体材料は、トリアリルアミン誘導体またはベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項14】
前記フラーレンおよび前記フラーレン誘導体は、下記式(5)または式(6)で表わされる、請求項1に記載の光電変換素子。
【化5】
(Rは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基あるいはそれらの誘導体である。n,mは0または1以上の整数である。)
【請求項15】
前記光電変換層は、前記第1有機半導体材料、前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料のいずれかと同じ母骨格を有すると共に、異なる置換基を備えた第4有機半導体材料を含む、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項16】
前記可視光領域は、450nm以上800nm以下である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項17】
前記第1有機半導体材料は、フラーレンである、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項18】
前記第1有機半導体材料は、C60フラーレンである、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項19】
前記第1有機半導体材料は、C70フラーレンである、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項20】
前記第1有機半導体材料は、C60フラーレンとC70フラーレンである、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項21】
各画素が1または複数の有機光電変換部を含み、
前記有機光電変換部は、
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、
前記第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、
前記第2有機半導体材料は、単層膜の状態における前記第1有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、
前記第3有機半導体材料は、単層膜における正孔の移動度が前記第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高く、
前記光電変換層は、可視光領域に吸収帯を有すると共に、該吸収帯の相対強度がピーク値の1/3になる2点の間隔が115nm以下となる分光形状を有する
固体撮像装置。
【請求項22】
各画素では、1または複数の前記有機光電変換部と、前記有機光電変換部とは異なる波長域の光電変換を行う1または複数の無機光電変換部とが積層されている、請求項21に記載の固体撮像装置。
【請求項23】
前記無機光電変換部は、半導体基板内に埋め込み形成され、
前記有機光電変換部は、前記半導体基板の第1面側に形成されている、請求項22に記載の固体撮像装置。
【請求項24】
前記有機光電変換部が緑色光の光電変換を行い、
前記半導体基板内に、青色光の光電変換を行う無機光電変換部と、赤色光の光電変換を行う無機光電変換部とが積層されている、請求項23に記載の固体撮像装置。
【請求項25】
前記第1有機半導体材料は、フラーレンである、請求項21に記載の固体撮像装置。
【請求項26】
前記第1有機半導体材料は、C60フラーレンである、請求項21に記載の固体撮像装置。
【請求項27】
前記第1有機半導体材料は、C70フラーレンである、請求項21に記載の固体撮像装置。
【請求項28】
前記第1有機半導体材料は、C60フラーレンとC70フラーレンである、請求項21に記載の固体撮像装置。
【請求項29】
前記光電変換層は、450nm以上650nm以下の範囲に極大吸収波長を有する、請求項21に記載の固体撮像装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、有機半導体を用いた光電変換素子およびこれを備えた固体撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、あるいはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の固体撮像装置では、画素サイズの縮小化が進んでいる。これにより、単位画素へ入射するフォトン数が減少することから感度が低下すると共に、S/N比の低下が生じている。また、カラー化のために、赤,緑,青の原色フィルタを2次元配列してなるカラーフィルタを用いた場合、赤画素では、緑と青の光がカラーフィルタによって吸収されるために、感度の低下を招いている。また、各色信号を生成する際に、画素間で補間処理を行うことから、いわゆる偽色が発生する。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、青色光(B)に感度を持つ有機光電変換膜、緑色光(G)に感度を持つ有機光電変換膜、赤色光(R)に感度を持つ有機光電変換膜が順次積層された多層構造の有機光電変換膜を用いたイメージセンサが開示されている。このイメージセンサでは、1画素から、B/G/Rの信号を別々に取り出すことで、感度向上が図られている。特許文献2では、1層の有機光電変換膜を形成し、この有機光電変換膜で1色の信号を取り出し、シリコン(Si)バルク分光で2色の信号を取り出す撮像素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-234460号公報
【特許文献2】特開2005-303266号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献2に開示された撮像素子では、入射光がほとんど光電変換させて読みだされ、可視光の使用効率は100%に近い。更に、各受光部でR,G,Bの3色の色信号が得られるため、高感度で高解像度(偽色が目立たない)な画像が生成できる。このため、このような積層型の撮像素子には、優れた分光形状を有することが求められており、加えて、光のオン/オフに伴って光電流が立ち上がるあるいは立ち下がるのに必要なレスポンスタイムの速さ(高い応答性)および高い外部量子効率(External Quantum Efficiency:EQE)の向上が求められている。しかしながら、分光形状、応答性およびEQEは、いずれか1つあるいは2つの特性を向上させた場合、その他の特性が低下するという問題があった。
【0006】
優れた分光形状、高い応答性および高い外部量子効率を向上させることが可能な光電変換素子および固体撮像装置を提供することが望ましい。
【0007】
本開示の一実施形態の光電変換素子は、対向配置された第1電極および第2電極と、
第1電極と第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備えたものであり、第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、第2有機半導体材料は、単層膜の状態における第1有機半導体材料および第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、第3有機半導体材料は、単層膜における正孔の移動度が第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高く、光電変換層は、可視光領域に吸収帯を有すると共に、該吸収帯の相対強度がピーク値の1/3になる2点の間隔が115nm以下となる分光形状を有する。
【0008】
本開示の一実施形態の固体撮像装置は、各画素が1または複数の有機光電変換部を含み、有機光電変換部として上記本開示の一実施形態の光電変換素子を有するものである。
【0009】
本開示の一実施形態の光電変換素子および一実施形態の固体撮像装置では、対向配置された第1電極と第2電極との間の光電変換層を、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を用いて形成し、光電変換層が可視光領域に吸収帯を有すると共に、該吸収帯の相対強度がピーク値の1/3になる2点の間隔が115nm以下となる分光形状を有するようにした。これにより、シャープな分光形状を維持したまま、光電変換層内における正孔移動度および電子移動度が向上する。また、光吸収により発生した励起子が電荷に分離した後の、電荷輸送効率が向上する。
【0010】
ここで、第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体である。第2有機半導体材料は、単層膜の状態において第1有機半導体材料および第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高い有機半導体材料である。第3有機半導体材料は、単層膜における正孔の移動度が前記第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高い有機半導体材料である。
【0011】
本開示の一実施形態の光電変換素子および一実施形態の固体撮像装置によれば、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を用いて光電変換層を形成し、その分光形状が可視光領域に吸収帯を有すると共に、該吸収帯の相対強度がピーク値の1/3になる2点の間隔が115nm以下となるようにした。これにより、シャープな分光形状を維持したまま、光電変換層内における正孔移動度および電子移動度が向上し、応答性を向上させることが可能となる。また、光吸収により発生した励起子が電荷に分離した後の、電荷輸送効率が向上するため、外部量子効率を向上させることが可能となる。即ち、分光形状、応答性およびEQEが良好な光電変換素子およびこれを備えた固体撮像装置を提供することが可能となる。
【0012】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の一実施の形態に係る光電変換素子の概略構成を表す断面図である。
図2】有機光電変換層、保護膜(上部電極)およびコンタクトホールの形成位置関係を表す平面図である。
図3A】無機光電変換部の一構成例を表す断面図である。
図3B図3Aに示した無機光電変換部の他の断面図である。
図4】有機光電変換部の電荷(電子)蓄積層の構成(下部側電子取り出し)を表す断面図である。
図5A図1に示した光電変換素子の製造方法を説明するための断面図である。
図5B図5Aに続く工程を表す断面図である。
図6A図5Bに続く工程を表す断面図である。
図6B図6Aに続く工程を表す断面図である。
図7A図6Bに続く工程を表す断面図である。
図7B図7Aに続く工程を表す断面図である。
図7C図7Bに続く工程を表す断面図である。
図8図1に示した光電変換素子の作用を説明する要部断面図である。
図9図1に示した光電変換素子の作用を説明するための模式図である。
図10図1に示した光電変換素子を画素として用いた固体撮像装置の機能ブロック図である。
図11図10に示した固体撮像装置を用いた電子機器の概略構成を表すブロック図である。
図12】可視光領域の各波長と線吸収係数との関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示における一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.実施の形態(有機光電変換層を3種類の材料によって形成した例)
1-1.光電変換素子の構成
1-2.光電変換素子の製造方法
1-3.作用・効果
2.適用例
3.実施例
【0015】
<1.実施の形態>
図1は、本開示の一実施の形態の光電変換素子(光電変換素子10)の断面構成を表したものである。光電変換素子10は、例えば、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ等の固体撮像装置(固体撮像装置1、図10)において1つの画素(単位画素P)を構成するものである。光電変換素子10は、半導体基板11の表面(受光面(面S1)とは反対側の面S2)側に、画素トランジスタ(後述の転送トランジスタTr1~3を含む)が形成されると共に、多層配線層(多層配線層51)を有するものである。
【0016】
本実施の形態の光電変換素子10は、それぞれ異なる波長域の光を選択的に検出して光電変換を行う1つの有機光電変換部11Gと、2つの無機光電変換部11B,11Rとが縦方向に積層された構造を有し、有機光電変換部11Gは、3種類の有機半導体材料を含んで構成されたものである。
【0017】
(1-1.光電変換素子の構成)
光電変換素子10は、1つの有機光電変換部11Gと、2つの無機光電変換部11B,11Rとの積層構造を有しており、これにより、1つの素子で赤(R),緑(G),青(B)の各色信号を取得するようになっている。有機光電変換部11Gは、半導体基板11の裏面(面S1)上に形成され、無機光電変換部11B,11Rは、半導体基板11内に埋め込み形成されている。以下、各部の構成について説明する。
【0018】
(有機光電変換部11G)
有機光電変換部11Gは、有機半導体を用いて、選択的な波長域の光(ここでは緑色光)を吸収して、電子-正孔対を発生させる有機光電変換素子である。有機光電変換部11Gは、信号電荷を取り出すための一対の電極(下部電極15a,上部電極18)間に有機光電変換層17を挟み込んだ構成を有している。下部電極15aおよび上部電極18は、後述するように、配線層13a,13b,15bやコンタクトメタル層20を介して、半導体基板11内に埋設された導電性プラグ120a1,120b1に電気的に接続されている。
【0019】
具体的には、有機光電変換部11Gでは、半導体基板11の面S1上に、層間絶縁膜12,14が形成され、層間絶縁膜12には、後述する導電性プラグ120a1,120b1のそれぞれと対向する領域に貫通孔が設けられ、各貫通孔に導電性プラグ120a2,120b2が埋設されている。層間絶縁膜14には、導電性プラグ120a2,120b2のそれぞれと対向する領域に、配線層13a,13bが埋設されている。この層間絶縁膜14上に、下部電極15aが設けられると共に、この下部電極15aと絶縁膜16によって電気的に分離された配線層15bが設けられている。これらのうち、下部電極15a上に、有機光電変換層17が形成され、有機光電変換層17を覆うように上部電極18が形成されている。詳細は後述するが、上部電極18上には、その表面を覆うように保護層19が形成されている。保護層19の所定の領域にはコンタクトホールHが設けられ、保護層19上には、コンタクトホールHを埋め込み、かつ配線層15bの上面まで延在するコンタクトメタル層20が形成されている。
【0020】
導電性プラグ120a2は、導電性プラグ120a1と共にコネクタとして機能するものである。また、導電性プラグ120a2は、導電性プラグ120a1および配線層13aと共に、下部電極15aから後述する緑用蓄電層110Gへの電荷(電子)の伝送経路を形成するものである。導電性プラグ120b2は、導電性プラグ120b1と共にコネクタとして機能するものである。また、導電性プラグ120b2は、導電性プラグ120b1、配線層13b、配線層15bおよびコンタクトメタル層20と共に、上部電極18からの電荷(正孔)の排出経路を形成するものである。導電性プラグ120a2,120b2は、遮光膜としても機能させるために、例えば、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)およびタングステン等の金属材料の積層膜により構成されることが望ましい。また、このような積層膜を用いることにより、導電性プラグ120a1,120b1をn型またはp型の半導体層として形成した場合にも、シリコンとのコンタクトを確保することができるため望ましい。
【0021】
層間絶縁膜12は、半導体基板11(シリコン層110)との界面準位を低減させると共に、シリコン層110との界面からの暗電流の発生を抑制するために、界面準位の小さな絶縁膜から構成されることが望ましい。このような絶縁膜としては、例えば、酸化ハフニウム(HfO)膜と酸化シリコン(SiO)膜との積層膜を用いることができる。層間絶縁膜14は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン(SiON)等のうちの1種よりなる単層膜か、あるいはこれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。
【0022】
絶縁膜16は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン(SiON)等のうちの1種よりなる単層膜か、あるいはこれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。絶縁膜16は、例えば、その表面が平坦化されており、下部電極15aとほぼ段差のない形状およびパターンを有している。この絶縁膜16は、光電変換素子10が、固体撮像装置1の単位画素Pとして用いられる場合に、各画素の下部電極15a間を電気的に分離する機能を有している。
【0023】
下部電極15aは、半導体基板11内に形成された無機光電変換部11B,11Rの受光面と正対して、これらの受光面を覆う領域に設けられている。この下部電極15aは、光透過性を有する導電膜により構成され、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)により構成されている。但し、下部電極15aの構成材料としては、このITOの他にも、ドーパントを添加した酸化スズ(SnO)系材料、あるいはアルミニウム亜鉛酸化物(ZnO)にドーパントを添加してなる酸化亜鉛系材料を用いてもよい。酸化亜鉛系材料としては、例えば、ドーパントとしてアルミニウム(Al)を添加したアルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム(Ga)添加のガリウム亜鉛酸化物(GZO)、インジウム(In)添加のインジウム亜鉛酸化物(IZO)が挙げられる。また、この他にも、CuI、InSbO、ZnMgO、CuInO、MgIN、CdO、ZnSnO等が用いられてもよい。なお、本実施の形態では、下部電極15aから信号電荷(電子)の取り出しがなされるので、光電変換素子10を単位画素Pとして用いた後述の固体撮像装置1では、この下部電極15aは画素毎に分離されて形成される。
【0024】
有機光電変換層17は、第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料の3種類を含んで構成されたものである。有機光電変換層17は、p型半導体およびn型半導体のうちの一方または両方を含んで構成されていることが好ましく、上記3種類の有機半導体材料のいずれかは、p型半導体またはn型半導体である。有機光電変換層17は、選択的な波長域の光を光電変換する一方、他の波長域の光を透過させるものであり、本実施の形態では、例えば、450nm以上650nm以下の範囲において極大吸収波長を有するものである。
【0025】
第1有機半導体材料としては、高い電子輸送性を有する材料であることが好ましく、例えば、下記式(1)で示したC60フラーレンまたはその誘導体、あるいは、下記式(2)で示したC70フラーレンまたはその誘導体が挙げられる。なお、本実施の形態では、フラーレンは、有機半導体材料として取り扱う。
【0026】
【化1】
(Rは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基あるいはそれらの誘導体である。n,mは0または1以上の整数である。)
【0027】
第1有機半導体材料の具体例としては、式(1-1)に示したC60フラーレンおよび式(2-1)に示したC70フラーレンの他、それらの誘導体として、例えば、以下の式(1-2),(1―3)および式(2-2)等の化合物が挙げられる。
【0028】
【化2】
【0029】
表1は、C60フラーレン(式(1-1))、C70フラーレン(式(2-1))および上記式(1-2),(1―3)および式(2-2)に示したフラーレン誘導体の電子移動度をまとめたものである。高い電子移動度、好ましくは、10-7cm/Vs以上、より好ましくは、10-4cm/Vs以上を有する有機半導体材料を用いることにより、励起子が電荷に分離した結果生じる電子の移動度が改善され、有機光電変換部11Gの応答性が向上する。
【0030】
【表1】
【0031】
第2有機半導体材料としては、単層膜として形成した状態において、第1有機半導体材料の単層膜および後述する第3有機半導体材料の単層膜よりも可視光領域における極大吸収波長の線吸収係数が高いものが好ましい。これにより、有機光電変換層17の可視光領域の光の吸収能を高めることができ、かつ分光形状をシャープにすることも可能となる。なお、ここで、可視光領域とは、450nm以上800nm以下の範囲とする。ここで、単層膜とは、1種類の有機半導体材料から構成されたものである。以下の第2有機半導体材料および第3有機半導体材料における単層膜についても同様である。
【0032】
第3有機半導体材料としては、第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有すると共に、高い正孔輸送性を有する材料であることが好ましい。具体的には、単層膜として形成した状態における正孔の移動度が第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高くなる材料であることが好ましい。
【0033】
第2有機半導体材料の具体的な材料としては、式(6)に示したサブフタロシアニンおよびその誘導体が挙げられる。第3有機半導体材料の具体的な材料としては、例えば、下記式(3)に示したキナクリドンおよびその誘導体、式(4)に示したトリアリルアミンおよびその誘導体、式(5)に示したベンゾチエノベンゾチオフェノンおよびその誘導体が挙げられる。
【0034】
【化3】
(R8~R19は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基からなる群から選択され、且つ、隣接する任意のR8~R19は縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。Mはホウ素または2価あるいは3価の金属である。Xはアニオン性基である。)
【0035】
【化4】
(R1、R2は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、または複素環基である。R3、R4はいかなるものでもよく、特に制限はないが、例えば、各々独立してアルキル鎖、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シアノ基、ニトロ基、シリル基であり、2つ以上のR3もしくはR4が共同して環を形成してもよい。n1,n2は、各々独立した0または1以上整数である。)
【0036】
【化5】
(R20~R23は各々独立して、式(4)’で表わされる置換基である。R24~R28は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アリール基、芳香族炭化水素環基またはアルキル鎖または置換基を有する芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基またはアルキル鎖または置換基を有する芳香族複素環基である。隣接するR24~R28は、互いに結合して環を形成する飽和もしくは、不飽和の2価の基でもよい。)
【0037】
【化6】
(R5,R6は、各々独立して水素原子または式(5)’で表わされる置換基である。R7は、芳香環基あるいは置換基を有する芳香環基である。)
【0038】
式(6)に示したサブフタロシアニン誘導体の具体例としては、以下の式(6-1)~(6-5)等の化合物が挙げられる。
【0039】
【化7】
【0040】
式(3)に示したキナクリドン誘導体の具体例としては、以下の式(3-1)~(3-3)等の化合物が挙げられる。
【0041】
【化8】
【0042】
式(4)に示したトリアリルアミン誘導体の具体例としては、以下の式(4-1)~(4-13)等の化合物が挙げられる。
【0043】
【化9】
【0044】
式(5)に示したベンゾチエノベンゾチオフェノン誘導体の具体例としては、以下の式(5-1)~(5-8)等の化合物が挙げられる。
【0045】
【化10】
【0046】
第3有機半導体材料としては、上記キナクリドンおよびその誘導体、トリアリルアミンおよびその誘導体、ベンゾチエノベンゾチオフェノンおよびその誘導体の他に、例えば、下記式(8)に示したルブレンまたは上記式(4-2)に示したN,N'-ジ(1-ナフチル-N,N'-ジフェニルベンジジン(αNPD)およびその誘導体が挙げられる。但し、第3有機半導体材料としては、その分子内に、炭素(C)および水素(H)以外のヘテロ元素を含んでいることがより好ましい。ヘテロ元素とは、例えば、窒素(N)、リン(P)および酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)等のカルコゲン元素である。
【0047】
【化11】
【0048】
表2および表3は、第2有機半導体材料として用いることが可能な材料の一例として、式(6-3)で表わされるSubPcOCおよび式(6-2)で表わされるFSubPcClおよび第3有機半導体材料として用いることが可能な材料の一例として、式(3-1)で表わされるキナクリドン(QD)、式(3-2)で表わされるブチルキナクリドン(BQD)、式(4-2)で表わされるαNPD、式(5-1)で表わされる[1]ベンゾチエノ[3,2-b][1]ベンゾチオフェン(BTBT)、式(8)で表わされるルブレン、また、参考として、後述する式(7)で表わされるDu-HのHOMO準位(表2)および正孔移動度(表3)をまとめたものである。なお、表2および表3に示したHOMO準位および正孔移動度は、後述する実施例の実験2-1,2-2に説明する方法を用いて算出したものである。第3有機半導体材料としては、第2有機半導体材料以上のHOMO準位を有することが好ましい。また、第3有機半導体材料としては、単層膜における正孔の移動度が、第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高いことが好ましい。第3有機半導体材料の好ましいHOMO準位は、例えば、10-7cm/Vs以上であり、より好ましくは10-4cm/Vs以上である。このような有機半導体材料を用いることにより、励起子が電荷に分離した結果生じる正孔の移動度が改善される。これによって、第1有機半導体材料によって担持される高い電子輸送性とのバランスがとられ、有機光電変換部11Gの応答性が向上する。なお、QDのHOMO準位-5.5eVと、FSubPcOClのHOMO準位-6.3eVとでは、QDの方が、FSubPcOClよりもHOMO準位が高い。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
なお、トリアリルアミン誘導体を第3有機半導体材料として用いる場合には、上記式(4-1)~(4-13)に示した化合物に限らず、第2有機半導体材料以上のHOMO準位を有するものであればよい。また、単層膜における正孔移動度が、第2有機半導体材料の単層膜における正孔移動度よりも高いものであればよい。
【0052】
以上のことから、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料の具体的な組み合わせとしては、例えば、第2有機半導体材料としてサブフタロシアニン誘導体を用いた場合には、第3有機半導体材料としては、キナクリドン誘導体、トリアリルアミン誘導体、ベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体およびルブレンのいずれかが選択される。
【0053】
有機光電変換層17を構成する第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料の含有率は、以下の範囲であることが好ましい。第1有機半導体材料は、例えば、10体積%以上35体積%以下であることが好ましく、第2有機半導体材料は、例えば、30体積%以上80体積%以下であることが好ましく、第3有機半導体材料は、例えば、10体積%以上60体積%以下であることが好ましい。更に、第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料が略同量ずつ含有されていることが望ましい。第1有機半導体材料が少なすぎる場合は、有機光電変換層17の電子輸送性能が低下するため応答性が悪化する。多すぎる場合には、分光形状が悪化する虞がある。第2有機半導体材料が少なすぎる場合には、可視光領域の光吸収能および分光形状が悪化する虞がある。多すぎる場合には、電子および正孔の輸送性能が低下する。第3有機半導体材料が少なすぎる場合には、正孔輸送性が低下するため応答性が悪化する。多すぎる場合には、可視光領域の光吸収能および分光形状が悪化する虞がある。
【0054】
有機光電変換層17の下部電極15aとの間、および上部電極18との間には、図示しない他の層が設けられていてもよい。例えば、下部電極15a側から順に、下引き膜、正孔輸送層、電子ブロッキング膜 、有機光電変換層17、正孔ブロッキング膜、バッファ膜、電子輸送層および仕事関数調整膜が積層されていてもよい。
【0055】
上部電極18は、下部電極15aと同様の光透過性を有する導電膜により構成されている。光電変換素子10を画素として用いた固体撮像装置では、この上部電極18が画素毎に分離されていてもよいし、各画素に共通の電極として形成されていてもよい。上部電極18の厚みは、例えば、10nm~200nmである。
【0056】
保護層19は、光透過性を有する材料により構成され、例えば、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸窒化シリコン等のうちのいずれかよりなる単層膜、あるいはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜である。この保護層19の厚みは、例えば、100nm~30000nmである。
【0057】
コンタクトメタル層20は、例えば、チタン(Ti)、タングステン(W)、窒化チタン(TiN)およびアルミニウム(Al)等のいずれか、あるいはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜により構成されている。
【0058】
上部電極18および保護層19は、例えば、有機光電変換層17を覆うように設けられている。図2は、有機光電変換層17、保護層19(上部電極18)およびコンタクトホールHの平面構成を表したものである。
【0059】
具体的には、保護層19(上部電極18も同様)の周縁部e2は、有機光電変換層17の周縁部e1よりも外側に位置しており、保護層19および上部電極18は、有機光電変換層17よりも外側に張り出して形成されている。詳細には、上部電極18は、有機光電変換層17の上面および側面を覆うと共に、絶縁膜16上まで延在するように形成されている。保護層19は、そのような上部電極18の上面を覆って、上部電極18と同等の平面形状で形成されている。コンタクトホールHは、保護層19のうちの有機光電変換層17に非対向の領域(周縁部e1よりも外側の領域)に設けられ、上部電極18の表面の一部を露出させている。周縁部e1,e2間の距離は、特に限定されるものではないが、例えば、1μm~500μmである。なお、図2では、有機光電変換層17の端辺に沿った1つの矩形状のコンタクトホールHを設けているが、コンタクトホールHの形状や個数はこれに限定されず、他の形状(例えば、円形、正方形等)であってもよいし、複数設けられていてもよい。
【0060】
保護層19およびコンタクトメタル層20上には、全面を覆うように、平坦化層21が形成されている。平坦化層21上には、オンチップレンズ22(マイクロレンズ)が設けられている。オンチップレンズ22は、その上方から入射した光を、有機光電変換部11G、無機光電変換部11B,11Rの各受光面へ集光させるものである。本実施の形態では、多層配線層51が半導体基板11の面S2側に形成されていることから、有機光電変換部11G、無機光電変換部11B,11Rの各受光面を互いに近づけて配置することができ、オンチップレンズ22のF値に依存して生じる各色間の感度のばらつきを低減することができる。
【0061】
なお、本実施の形態の光電変換素子10では、下部電極15aから信号電荷(電子)を取り出すことから、これを画素として用いる固体撮像装置においては、上部電極18を共通電極としてもよい。この場合には、上述したコンタクトホールH、コンタクトメタル層20、配線層15b,13b、導電性プラグ120b1,120b2からなる伝送経路は、全画素に対して少なくとも1箇所に形成されればよい。
【0062】
半導体基板11は、例えば、n型のシリコン(Si)層110の所定の領域に、無機光電変換部11B,11Rと緑用蓄電層110Gとが埋め込み形成されたものである。半導体基板11には、また、有機光電変換部11Gからの電荷(電子または正孔)の伝送経路となる導電性プラグ120a1,120b1が埋設されている。本実施の形態では、この半導体基板11の裏面(面S1)が受光面となっていえる。半導体基板11の表面(面S2)側には、有機光電変換部11G,無機光電変換部11B,11Rのそれぞれに対応する複数の画素トランジスタ(転送トランジスタTr1~Tr3を含む)が形成されると共に、ロジック回路等からなる周辺回路が形成されている。
【0063】
画素トランジスタとしては、例えば、転送トランジスタ、リセットトランジスタ、増幅トランジスタおよび選択トランジスタが挙げられる。これらの画素トランジスタは、いずれも例えば、MOSトランジスタにより構成され、面S2側のp型半導体ウェル領域に形成されている。このような画素トランジスタを含む回路が、赤、緑、青の光電変換部毎に形成されている。各回路では、これらの画素トランジスタのうち、例えば、転送トランジスタ、リセットトランジスタおよび増幅トランジスタからなる、計3つのトランジスタを含む3トランジスタ構成を有していてもよいし、これに選択トランジスタを加えた4トランジスタ構成であってもよい。ここでは、これらの画素トランジスタのうち、転送トランジスタTr1~Tr3についてのみ図示および説明を行っている。また、転送トランジスタ以外の他の画素トランジスタについては、光電変換部間あるいは画素間において共有することもできる。また、フローティングディフージョンを共有する、いわゆる画素共有構造を適用することもできる。
【0064】
転送トランジスタTr1~Tr3は、ゲート電極(ゲート電極TG1~TG3)と、フローティングディフージョン(FD113,114,116)とを含んで構成されている。転送トランジスタTr1は、有機光電変換部11Gにおいて発生し、緑用蓄電層110Gに蓄積された、緑色に対応する信号電荷(本実施の形態では電子)を、後述の垂直信号線Lsigへ転送するものである。転送トランジスタTr2は、無機光電変換部11Bにおいて発生し、蓄積された、青色に対応する信号電荷(本実施の形態では電子)を、後述の垂直信号線Lsigへ転送するものである。同様に、転送トランジスタTr3は、無機光電変換部11Rにおいて発生し、蓄積された、赤色に対応する信号電荷(本実施の形態では電子)を、後述の垂直信号線Lsigへ転送するものである。
【0065】
無機光電変換部11B,11Rはそれぞれ、pn接合を有するフォトダイオード(Photo Diode)であり、半導体基板11内の光路上において、面S1側から無機光電変換部11B,11Rの順に形成されている。これらのうち、無機光電変換部11Bは、青色光を選択的に検出して青色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、例えば、半導体基板11の面S1に沿った選択的な領域から、多層配線層51との界面近傍の領域にかけて延在して形成されている。無機光電変換部11Rは、赤色光を選択的に検出して赤色に対応する信号電荷を蓄積させるものであり、例えば、無機光電変換部11Bよりも下層(面S2側)の領域にわたって形成されている。なお、青(B)は、例えば、450nm~495nmの波長域、赤(R)は、例えば、620nm~750nmの波長域にそれぞれ対応する色であり、無機光電変換部11B,11Rはそれぞれ、各波長域のうちの一部または全部の波長域の光を検出可能となっていればよい。
【0066】
図3Aは、無機光電変換部11B,11Rの詳細構成例を表したものである。図3Bは、図3Aの他の断面における構成に相当するものである。なお、本実施の形態では、光電変換によって生じる電子および正孔の対のうち、電子を信号電荷として読み出す場合(n型半導体領域を光電変換層とする場合)について説明を行う。また、図中において、「p」「n」に上付きで記した「+(プラス)」は、p型またはn型の不純物濃度が高いことを表している。また、画素トランジスタのうち、転送トランジスタTr2,Tr3のゲート電極TG2,TG3についても示している。
【0067】
無機光電変換部11Bは、例えば、正孔蓄積層となるp型半導体領域(以下、単にp型領域という、n型の場合についても同様。)111pと、電子蓄積層となるn型光電変換層(n型領域)111nとを含んで構成されている。p型領域111pおよびn型光電変換層111nはそれぞれ、面S1近傍の選択的な領域に形成されると共に、その一部が屈曲し、面S2との界面に達するように延在形成されている。p型領域111pは、面S1側において、図示しないp型半導体ウェル領域に接続されている。n型光電変換層111nは、青色用の転送トランジスタTr2のFD113(n型領域)に接続されている。なお、p型領域111pおよびn型光電変換層111nの面S2側の各端部と面S2との界面近傍には、p型領域113p(正孔蓄積層)が形成されている。
【0068】
無機光電変換部11Rは、例えば、p型領域112p1,112p2(正孔蓄積層)間に、n型光電変換層112n(電子蓄積層)を挟み込んで形成されている(p-n-pの積層構造を有する)。n型光電変換層112nは、その一部が屈曲し、面S2との界面に達するように延在形成されている。n型光電変換層112nは、赤色用の転送トランジスタTr3のFD114(n型領域)に接続されている。なお、少なくともn型光電変換層111nの面S2側の端部と面S2との界面近傍にはp型領域113p(正孔蓄積層)が形成されている。
【0069】
図4は、緑用蓄電層110Gの詳細構成例を表したものである。なお、ここでは、有機光電変換部11Gによって生じる電子および正孔の対のうち、電子を信号電荷として、下部電極15a側から読み出す場合について説明を行う。また、図4には、画素トランジスタのうち、転送トランジスタTr1のゲート電極TG1についても示している。
【0070】
緑用蓄電層110Gは、電子蓄積層となるn型領域115nを含んで構成されている。n型領域115nの一部は、導電性プラグ120a1に接続されており、下部電極15a側から導電性プラグ120a1を介して伝送される電子を蓄積するようになっている。このn型領域115nは、また、緑色用の転送トランジスタTr1のFD116(n型領域)に接続されている。なお、n型領域115nと面S2との界面近傍には、p型領域115p(正孔蓄積層)が形成されている。
【0071】
導電性プラグ120a1,120b1は、後述の導電性プラグ120a2,120b2と共に、有機光電変換部11Gと半導体基板11とのコネクタとして機能すると共に、有機光電変換部11Gにおいて生じた電子または正孔の伝送経路となるものである。本実施の形態では、導電性プラグ120a1は、有機光電変換部11Gの下部電極15aと導通しており、緑用蓄電層110Gと接続されている。導電性プラグ120b1は、有機光電変換部11Gの上部電極18と導通しており、正孔を排出するための配線となっている。
【0072】
これらの導電性プラグ120a1,120b1はそれぞれ、例えば、導電型の半導体層により構成され、半導体基板11に埋め込み形成されたものである。この場合、導電性プラグ120a1はn型とし(電子の伝送経路となるため)、導電性プラグ120b1は、p型とする(正孔の伝送経路となるため)とよい。あるいは、導電性プラグ120a1,120b1は、例えば、貫通ビアにタングステン(W)等の導電膜材料が埋設されたものであってもよい。この場合、例えば、シリコン(Si)との短絡を抑制するために、酸化シリコン(SiO2)または窒化シリコン(SiN)等の絶縁膜でビア側面が覆われていることが望ましい。
【0073】
半導体基板11の面S2上には、多層配線層51が形成されている。多層配線層51では、複数の配線51aが層間絶縁膜52を介して配設されている。このように、光電変換素子10では、多層配線層51が受光面とは反対側に形成されており、いわゆる裏面照射型の固体撮像装置を実現可能となっている。この多層配線層51には、例えば、シリコン(Si)よりなる支持基板53が貼り合わせられている。
【0074】
(1-2.光電変換素子の製造方法)
光電変換素子10は、例えば、次のようにして製造することができる。図5A図7Cは、光電変換素子10の製造方法を工程順に表したものである。なお、図7A図7Cでは、光電変換素子10の要部構成のみを示している。
【0075】
まず、半導体基板11を形成する。具体的には、シリコン基体1101上にシリコン酸化膜1102を介して、シリコン層110が形成された、いわゆるSOI基板を用意する。なお、シリコン層110のシリコン酸化膜1102側の面が半導体基板11の裏面(面S1)となる。図5A図5Bでは、図1に示した構造と上下を逆転させた状態で図示している。続いて、図5Aに示したように、シリコン層110に、導電性プラグ120a1,120b1を形成する。この際、導電性プラグ120a1,120b1は、例えば、シリコン層110に貫通ビアを形成した後、この貫通ビア内に、上述したような窒化シリコン等のバリアメタルと、タングステンを埋め込むことにより形成することができる。あるいは、例えば、シリコン層110へのイオン注入により導電型不純物半導体層を形成してもよい。この場合、導電性プラグ120a1をn型半導体層、導電性プラグ120b1をp型半導体層として形成する。この後、シリコン層110内の深さの異なる領域に(互いに重畳するように)、例えば、図3Aに示したようなp型領域およびn型領域をそれぞれ有する無機光電変換部11B,11Rを、イオン注入により形成する。また、導電性プラグ120a1に隣接する領域には、緑用蓄電層110Gをイオン注入により形成する。このようにして、半導体基板11が形成される。
【0076】
次いで、半導体基板11の面S2側に、転送トランジスタTr1~Tr3を含む画素トランジスタと、ロジック回路等の周辺回路を形成したのち、図5Bに示したように、半導体基板11の面S2上に、層間絶縁膜52を介して複数層の配線51aを形成することにより、多層配線層51を形成する。続いて、多層配線層51上に、シリコンよりなる支持基板53を貼り付けたのち、半導体基板11の面S1側から、シリコン基体1101およびシリコン酸化膜1102を剥離し、半導体基板11の面S1を露出させる。
【0077】
次に、半導体基板11の面S1上に、有機光電変換部11Gを形成する。具体的には、まず、図6Aに示したように、半導体基板11の面S1上に、上述したような酸化ハフニウム膜と酸化シリコン膜との積層膜よりなる層間絶縁膜12を形成する。例えば、ALD(原子層堆積)法により酸化ハフニウム膜を成膜した後、例えば、プラズマCVD(ChemicalVapor Deposition:化学気相成長)法により酸化シリコン膜を成膜する。この後、層間絶縁膜12の導電性プラグ120a1,120b1に対向する位置に、コンタクトホールH1a,H1bを形成し、これらのコンタクトホールH1a,H1bをそれぞれ埋め込むように、上述した材料よりなる導電性プラグ120a2,120b2を形成する。この際、導電性プラグ120a2,120b2を、遮光したい領域まで張り出して(遮光したい領域を覆うように)形成してもよいし、導電性プラグ120a2,120b2とは分離した領域に遮光層を形成してもよい。
【0078】
続いて、図6Bに示したように、上述した材料よりなる層間絶縁膜14を、例えば、プラズマCVD法により成膜する。なお、成膜後、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法により、層間絶縁膜14の表面を平坦化することが望ましい。次いで、層間絶縁膜14の導電性プラグ120a2,120b2に対向する位置に、コンタクトホールをそれぞれ開口し、上述した材料を埋め込むことにより、配線層13a,13bを形成する。なお、この後、例えば、CMP法等を用いて、層間絶縁膜14上の余剰の配線層材料(タングステン等)を除去することが望ましい。次いで、層間絶縁膜14上に下部電極15aを形成する。具体的には、まず、層間絶縁膜14上の全面にわたって、例えば、スパッタ法により、上述した透明導電膜を成膜する。この後、フォトリソグラフィ法を用いて(フォトレジスト膜の露光、現像、ポストベーク等を行い)、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチングを用いて、選択的な部分を除去することにより、下部電極15aを形成する。この際、下部電極15aを、配線層13aに対向する領域に形成する。また、透明導電膜の加工の際には、配線層13bに対向する領域にも透明導電膜を残存させることにより、正孔の伝送経路の一部を構成する配線層15bを、下部電極15aと共に形成する。
【0079】
続いて、絶縁膜16を形成する。この際、まず半導体基板11上の全面にわたって、層間絶縁膜14、下部電極15aおよび配線層15bを覆うように、上述した材料よりなる絶縁膜16を、例えば、プラズマCVD法により成膜する。この後、図7Aに示したように、成膜した絶縁膜16を、例えば、CMP法により研磨することにより、下部電極15aおよび配線層15bを絶縁膜16から露出させると共に、下部電極15aおよび絶縁膜16間の段差を緩和する(望ましくは、平坦化する)。
【0080】
次に、図7Bに示したように、下部電極15a上に有機光電変換層17を形成する。この際、上述した材料よりなる3種の有機半導体材料を、例えば、真空蒸着法によりパターン形成する。なお、上述のように、有機光電変換層17の上層または下層に、他の有機層(電子ブロッキング層等)を形成する際には、真空工程において連続的に(真空一貫プロセスで)形成することが望ましい。また、有機光電変換層17の成膜方法としては、必ずしも上記のような真空蒸着法を用いた手法に限られず、他の手法、例えば、プリント技術等を用いても構わない。
【0081】
続いて、図7Cに示したように、上部電極18および保護層19を形成する。まず、上述した透明導電膜よりなる上部電極18を基板全面にわたって、例えば、真空蒸着法またはスパッタ法により、有機光電変換層17の上面および側面を覆うように成膜する。なお、有機光電変換層17は、水分、酸素、水素等の影響を受けて特性が変動し易いため、上部電極18は、有機光電変換層17と真空一貫プロセスにより成膜することが望ましい。この後(上部電極18をパターニングする前に)、上部電極18の上面を覆うように、上述した材料よりなる保護層19を、例えば、プラズマCVD法により成膜する。次いで、上部電極18上に保護層19を形成した後、上部電極18を加工する。
【0082】
この後、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、上部電極18および保護層19の選択的な部分を一括除去する。続いて、保護層19に、コンタクトホールHを、例えば、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより形成する。この際、コンタクトホールHは、有機光電変換層17と非対向の領域に形成することが望ましい。このコンタクトホールHの形成後においても、上記と同様、フォトレジストを剥離して、薬液を用いた洗浄を行うため、コンタクトホールHに対向する領域では、上部電極18が保護層19から露出することになる。このため、ピン正孔の発生を考慮すると、有機光電変換層17の形成領域を避けて、コンタクトホールHが設けられることが望ましい。続いて、上述した材料よりなるコンタクトメタル層20を、例えば、スパッタ法等を用いて形成する。この際、コンタクトメタル層20は、保護層19上に、コンタクトホールHを埋め込み、かつ配線層15bの上面まで延在するように形成する。最後に、半導体基板11上の全面にわたって、平坦化層21を形成した後、この平坦化層21上にオンチップレンズ22を形成することにより、図1に示した光電変換素子10が完成する。
【0083】
上記のような光電変換素子10では、例えば、固体撮像装置1の単位画素Pとして、次のようにして信号電荷が取得される。即ち、図8に示したように、光電変換素子10に、オンチップレンズ22(図8には図示せず)を介して光Lが入射すると、光Lは、有機光電変換部11G、無機光電変換部11B,11Rの順に通過し、その通過過程において赤、緑、青の色光毎に光電変換される。図9に、入射光に基づく信号電荷(電子)取得の流れを模式的に示す。以下、各光電変換部における具体的な信号取得動作について説明する。
【0084】
(有機光電変換部11Gによる緑色信号の取得)
光電変換素子10へ入射した光Lのうち、まず、緑色光Lgが、有機光電変換部11Gにおいて選択的に検出(吸収)され、光電変換される。これにより、発生した電子-正孔対のうちの電子Egが下部電極15a側から取り出された後、伝送経路A(配線層13aおよび導電性プラグ120a1,120a2)を介して緑用蓄電層110Gへ蓄積される。蓄積された電子Egは、読み出し動作の際にFD116へ転送される。なお、正孔Hgは、上部電極18側から伝送経路B(コンタクトメタル層20、配線層13b,15bおよび導電性プラグ120b1,120b2)を介して排出される。
【0085】
具体的には、次のようにして信号電荷を蓄積する。即ち、本実施の形態では、下部電極15aに、例えば、所定の負の電位VL(<0V)が印加され、上部電極18には、電位VLよりも低い電位VU(<VL)が印加される。なお、電位VLは、例えば、多層配線層51内の配線51aから、伝送経路Aを通じて、下部電極15aへ与えられる。電位VLは、例えば、多層配線層51内の配線51aから、伝送経路Bを通じて、上部電極18へ与えられる。これにより、電荷蓄積状態(図示しないリセットトランジスタおよび転送トランジスタTr1のオフ状態)では、有機光電変換層17で発生した電子-正孔対のうち、電子が、相対的に高電位となっている下部電極15a側へ導かれる(正孔は上部電極18側へ導かれる)。このようにして、下部電極15aから電子Egが取り出され、伝送経路Aを介して緑用蓄電層110G(詳細には、n型領域115n)に蓄積される。また、この電子Egの蓄積により、緑用蓄電層110Gと導通する下部電極15aの電位VLも変動する。この電位VLの変化量が信号電位(ここでは、緑色信号の電位)に相当する。
【0086】
そして、読み出し動作の際には、転送トランジスタTr1がオン状態となり、緑用蓄電層110Gに蓄積された電子Egが、FD116に転送される。これにより、緑色光Lgの受光量に基づく緑色信号が、図示しない他の画素トランジスタを通じて後述の垂直信号線Lsigに読み出される。この後、図示しないリセットトランジスタおよび転送トランジスタTr1がオン状態となり、n型領域であるFD116と、緑用蓄電層110Gの蓄電領域(n型領域115n)とが、例えば、電源電圧VDDにリセットされる。
【0087】
(無機光電変換部11B,11Rによる青色信号,赤色信号の取得)
続いて、有機光電変換部11Gを透過した光のうち、青色光は無機光電変換部11B、赤色光は無機光電変換部11Rにおいて、それぞれ順に吸収され、光電変換される。無機光電変換部11Bでは、入射した青色光に対応した電子Ebがn型領域(n型光電変換層111n)に蓄積され、蓄積された電子Ebは、読み出し動作の際にFD113へと転送される。なお、正孔は、図示しないp型領域に蓄積される。同様に、無機光電変換部11Rでは、入射した赤色光に対応した電子Erがn型領域(n型光電変換層112n)に蓄積され、蓄積された電子Erは、読み出し動作の際にFD114へと転送される。なお、正孔は、図示しないp型領域に蓄積される。
【0088】
電荷蓄積状態では、上述のように、有機光電変換部11Gの下部電極15aに負の電位VLが印加されることから、無機光電変換部11Bの正孔蓄積層であるp型領域(図2のp型領域111p)の正孔濃度が増える傾向になる。このため、p型領域111pと層間絶縁膜12との界面における暗電流の発生を抑制することができる。
【0089】
読み出し動作の際には、上記有機光電変換部11Gと同様、転送トランジスタTr2,Tr3がオン状態となり、n型光電変換層111n,112nにそれぞれ蓄積された電子Eb,Erが、FD113,114に転送される。これにより、青色光Lbの受光量に基づく青色信号と、赤色光Lrの受光量に基づく赤色信号とがそれぞれ、図示しない他の画素トランジスタを通じて後述の垂直信号線Lsigに読み出される。この後、図示しないリセットトランジスタおよび転送トランジスタTr2,3がオン状態となり、n型領域であるFD113,114が、例えば、電源電圧VDDにリセットされる。
【0090】
このように、縦方向に有機光電変換部11Gを、無機光電変換部11B,11Rを積層することにより、カラーフィルタを設けることなく、赤、緑、青の色光を分離して検出すし、各色の信号電荷を得ることができる。これにより、カラーフィルタの色光吸収に起因する光損失(感度低下)や、画素補間処理に伴う偽色の発生を抑制することができる。
【0091】
(1-3.作用・効果)
前述したように、近年、CCDイメージセンサ、あるいはCMOSイメージセンサ等の固体撮像装置では、高い色再現性、高フレームレートおよび高感度が求められている。これらを実現するためには、優れた分光形状、高い応答性および高い外部量子効率(EQE)が求められる。有機材料から構成された光電変換部(有機光電変換部)とSi等の無機材料から構成された光電変換部(無機光電変換部)とが積層され、有機光電変換部で1色の信号を、無機光電変換部で2色の信号を取り出す固体撮像装置では、有機光電変換部には、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料を共蒸着することで電荷分離界面を増やし変換効率を向上させることが可能なバルクヘテロ構造が用いられている。このため、一般的な固体撮像装置では、2種類の材料を用いて有機光電変換部の分光形状、応答性およびEQEの向上が図られている。2種類の材料(2元系)からなる有機光電変換部には、例えば、フラーレン類とキナクリドン類またはサブフタロシアニン類、キナクリドン類とサブフタロシアニン類等が用いられている。
【0092】
しかしながら、一般に、固体膜においてシャープな分光形状を有する材料は、高い電荷輸送特性を有していない傾向がある。分子性材料を用いて高い電荷輸送特性を発現するには、各分子同士が構成している軌道が、固体状態で重なりを有することが求められるが、この軌道間の相互作用が発現した場合、固体状態おける吸収スペクトルの形状はブロード化してしまう。例えば、ジインデノペリレン類は、その固体膜において最大で10-2cm2/Vs程度の高い正孔移動度を有する。特に、基板温度を90℃に上げて成膜されたジ
インデノペリレン類の固体膜は、高い正孔移動度を有する。これは、ジインデノペリレン類の結晶性および配向性が変化するためで、基板温度90℃で成膜した場合には、分子間相互作用の1種であるπ-スタッキングが形成される方向に電流を流しやすい固体膜が成膜されるためである。このように、固体膜中でより強い分子間の相互作用を有する材料は、より高い電荷移動度を発現しやすい。
【0093】
一方、ジインデノペリレン類の吸収スペクトルは、ジクロロメタン等の有機溶媒に溶解した場合には、シャープな形状の吸収スペクトルを有するものの、固体膜ではブロードな吸収スペクトルを示す知見が得られている。これは、溶液中では、ジインデノペリレン類はジクロロメタンによって希釈されているため単分子状態であるが、固体膜では、分子間相互作用が発現するためと推察される。このように、シャープな分光形状を有し、且つ、高い電荷輸送特性を有する固体膜を形成することは、原理的に困難であることがわかる。
【0094】
また、2元系のバルクヘテロ構造を有する有機光電変換部では、固体膜内におけるP/N界面で発生した電荷(正孔および電子)はそれぞれ、正孔はp型有機半導体材料によって、電子はn型有機半導体材料によって輸送される。このため、高い応答性を実現するためには、p型有機半導体材料およびn型有機半導体材料の両方が高い電荷輸送特性を有する必要がある。従って、優れた分光形状と高い応答性とを両立するためには、p型有機半導体材料およびn型有機半導体材料のどちらか一方は、シャープな分光特性および高い電荷移動度の両方を有する必要がある。しかしながら、上述した理由からシャープな分光形状を有し、且つ、高い電荷輸送特性を有する材料を用意することは困難であり、2種類の材料によって優れた分光形状、高い応答性および高いEQEを実現することは困難であった。
【0095】
これに対して、本実施の形態では、有機光電変換層17を、互いに異なる母骨格を有する3種類の有機半導体材料、具体的には、フラーレンまたはフラーレン誘導体(第1有機半導体材料),単層膜の状態において第1有機半導体材料および第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高い有機半導体材料(第2有機半導体材料)および第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有する有機半導体材料(第3有機半導体材料)を用いて形成するようにした。これにより、2元系においてp型半導体およびn型半導体の少なくとも一方に求められる、シャープな分光形状および高い電荷移動度のうち、その一方を他材料に委ねることが可能となる。このように、優れた分光特性、正孔移動度および電子移動度の3つの特性を、3種類の材料それぞれに担わせること、即ち、機能分離することにより、シャープな分光形状、高い応答性および高い外部量子効率を実現することが可能となる。即ち、第1有機半導体材料によって高い電子移動度が、第2有機半導体材料によって高い光吸収能力およびシャープな分光形状が、第3有機半導体材料によって高い正孔移動度が得られる。
【0096】
以上、本実施の形態では、有機光電変換層17を上記第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料の3種類を用いて形成するようにした。これにより、以下の効果が得られる。第1有機半導体材料および第3有機半導体材料によって高い電荷移動度が得られるため、応答性を向上させることが可能となる。第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を混合して用いることによって形成される界面での励起子の分離によって生じる電荷の輸送効率が向上するため、外部量子効率が向上する。第2有機半導体材料によって、高い光吸収能と、シャープな分光形状を得ることが可能となる。即ち、優れた分光形状、高い応答性および高EQEが実現した光電変換素子およびこれを備えた固体撮像装置を提供することが可能となる。
【0097】
なお、シャープな分光形状が必要とされない場合においても、第2有機半導体材料は高い光吸収能力を有しているため、第1有機半導体材料および第3有機半導体材料と共に用いることで、良好なEQEと応答性を有する有機光電変換層17を得られることが期待される。
【0098】
また、本実施の形態では、有機光電変換層17は上記3種類の有機半導体材料(1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料)を用いて構成されるとしたが、これら以外の材料を含んでいてもよい。例えば、第4有機半導体材料として、上記第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料のいずれかと同じ母骨格を有すると共に、異なる置換基を備えた有機半導体材料を用いるようにしてもよい。
【0099】
<2.適用例>
(適用例1)
図10は、上記実施の形態において説明した光電変換素子10を単位画素Pに用いた固体撮像装置(固体撮像装置1)の全体構成を表したものである。この固体撮像装置1は、CMOSイメージセンサであり、半導体基板11上に、撮像エリアとしての画素部1aを有すると共に、この画素部1aの周辺領域に、例えば、行走査部131、水平選択部133、列走査部134およびシステム制御部132からなる周辺回路部130を有している。
【0100】
画素部1aは、例えば、行列状に2次元配置された複数の単位画素P(光電変換素子10に相当)を有している。この単位画素Pには、例えば、画素行ごとに画素駆動線Lread(具体的には行選択線およびリセット制御線)が配線され、画素列ごとに垂直信号線Lsigが配線されている。画素駆動線Lreadは、画素からの信号読み出しのための駆動信号を伝送するものである。画素駆動線Lreadの一端は、行走査部131の各行に対応した出力端に接続されている。
【0101】
行走査部131は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成され、画素部1aの各画素Pを、例えば、行単位で駆動する画素駆動部である。行走査部131によって選択走査された画素行の各画素Pから出力される信号は、垂直信号線Lsigの各々を通して水平選択部133に供給される。水平選択部133は、垂直信号線Lsigごとに設けられたアンプや水平選択スイッチ等によって構成されている。
【0102】
列走査部134は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成され、水平選択部133の各水平選択スイッチを走査しつつ順番に駆動するものである。この列走査部134による選択走査により、垂直信号線Lsigの各々を通して伝送される各画素の信号が順番に水平信号線135に出力され、当該水平信号線135を通して半導体基板11の外部へ伝送される。
【0103】
行走査部131、水平選択部133、列走査部134および水平信号線135からなる回路部分は、半導体基板11上に直に形成されていてもよいし、あるいは外部制御ICに配設されたものであってもよい。また、それらの回路部分は、ケーブル等により接続された他の基板に形成されていてもよい。
【0104】
システム制御部132は、半導体基板11の外部から与えられるクロックや、動作モードを指令するデータ等を受け取り、また、固体撮像装置1の内部情報等のデータを出力するものである。システム制御部132はさらに、各種のタイミング信号を生成するタイミングジェネレータを有し、当該タイミングジェネレータで生成された各種のタイミング信号を基に行走査部131、水平選択部133および列走査部134等の周辺回路の駆動制御を行う。
【0105】
(適用例2)
上述の固体撮像装置1は、例えば、デジタルスチルカメラやビデオカメラ等のカメラシステムや、撮像機能を有する携帯電話等、撮像機能を備えたあらゆるタイプの電子機器に適用することができる。図11に、その一例として、電子機器2(カメラ)の概略構成を示す。この電子機器2は、例えば、静止画または動画を撮影可能なビデオカメラであり、固体撮像装置1と、光学系(光学レンズ)310と、シャッタ装置311と、固体撮像装置1およびシャッタ装置311を駆動する駆動部313と、信号処理部312とを有する。
【0106】
光学系310は、被写体からの像光(入射光)を固体撮像装置1の画素部1aへ導くものである。この光学系310は、複数の光学レンズから構成されていてもよい。シャッタ装置311は、固体撮像装置1への光照射期間および遮光期間を制御するものである。駆動部313は、固体撮像装置1の転送動作およびシャッタ装置311のシャッタ動作を制御するものである。信号処理部312は、固体撮像装置1から出力された信号に対し、各種の信号処理を行うものである。信号処理後の映像信号Doutは、メモリ等の記憶媒体に記憶されるか、あるいは、モニタ等に出力される。
【0107】
<3.実施例>
以下、本開示の実施の形態および変形例に係る実施例および比較例の各種サンプルを作製し、分光特性、HOMO準位、正孔移動度、外部量子効率(EQE)および応答性を評価した。
【0108】
(実験1:分光特性の評価)
UV/オゾン処理にて洗浄した該ガラス基板上に、有機蒸着装置を用い、1×10-5Pa以下の真空下で基板ホルダを回転させながら抵抗加熱法によってキナクリドン(QD;式(3-1))を蒸着した。蒸着速度は0.1nm/秒とし、合計50nm成膜し、サンプル1とした。この他、QDの代わりに、SubPcCl(式(6-1))を用いたサンプル2、C60(式(1-1))を用いたサンプル3、αNPD(式(4-2))を用いたサンプル4、BTBT(式(5-1))を用いたサンプル5、BQD(式(3-2))を用いたサンプル59およびルブレン(式(8))を用いたサンプル60をそれぞれ作製し、各サンプルの分光特性を評価した。
【0109】
分光特性は、紫外可視分光光度計を用い波長毎の透過率と反射率を測定し、各単層膜で吸収された光吸収率(%)を求めた。この光吸収率および単層膜の膜厚をパラメータとして、ランベルトベールの法則から、各単層膜における波長毎の線吸収係数α(cm-1)を評価した。
【0110】
図12は、サンプル1~5およびサンプル59,60の可視光領域(ここでは、450nm以上700nm以下の範囲)と線吸収係数との関係を表したものである。図12から、第2有機半導体材料であるSubPcClは、その他の第1、第3有機半導体材料に比べ、可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高いことがわかる。なお、各有機半導体材料は、母骨格が同一である化合物であれば、一般的に図12に示した吸収係数の傾向は保たれる。
【0111】
(実験2-1:HOMO準位の評価)
上記表2にまとめた有機半導体材料のHOMO準位は、実験1と同様の方法を用いて作製した、QD(式(3-1)),αNPD(式(4-2)),BTBT(式(5-1)),SubPcOC(式(6-3)),Du-H(下記式(7)),FSubPcCl(式(6-2)),BQD(式(3-2))およびルブレン(式(8))の単層膜からそれぞれ算出した。なお、各有機半導体材料からなる単層膜の膜厚は、20nmとした。
【0112】
【化12】
【0113】
HOMO準位は、各サンプルに21.2eVの紫外光を照射してサンプル表面から放出される電子の運動エネルギー分布を取得し、そのスペクトルのエネルギー幅を、照射した紫外光のエネルギー値から減じた値である。
【0114】
(実験2-2:正孔移動度の評価)
上記表3にまとめた有機半導体材料の正孔移動度は、以下の方法を用いて作製したサンプルから算出した。まず、UV/オゾン処理にて厚み50nmのPt電極が設けられたガラス基板を洗浄したのち、このガラス基板上に、LiFを合計0.5nmの厚みで成膜した。続いて、有機蒸着装置を用い、1×10-5Pa以下の真空下で基板ホルダを回転させながら抵抗加熱法によってQD(式(3-1))を蒸着した。蒸着速度は0.1nm/秒とし、合計100nm成膜した。次に、ガラス基板上に、LiFを合計0.5nmの厚みで成膜したのち、QDの単層膜を覆うようにAuを蒸着法にて膜厚100nmで成膜し、1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子を作製した。その他のサンプルとして、QDの代わりに、αNPD(式(4-2)),BTBT(式(5-1)),SubPcOC(式(6-3)),Du-H(式(7)),F6SubPcCl(式(6-2)),BQD(式(3-2))およびルブレン(式(8))の単層膜を備えた光電変換素子を作製し、それぞれの正孔移動度を算出した。
【0115】
正孔移動度の算出は、半導体パラメータアナライザを用いて行った。具体的には、電極間に印加されるバイアス電圧を0Vから-5Vまで掃引し、電流―電圧曲線を得た。この曲線を空間電荷制限電流モデルに従いフィッティングすることで、移動度と電圧の関係式を求め、-1Vにおける正孔移動度の値を得た。
【0116】
(実験3:分光特性、外部量子効率および応答性の評価)
(実験例3-1)
まず、実施例(サンプル6)として、膜厚50nmのITO電極が設けられたガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄したのち、有機蒸着装置を用い、1×10-5Pa以下の真空下で基板ホルダを回転させながら抵抗加熱法によって、第1有機半導体材料(第1種)としてC60(式(1-1)),第2有機半導体材料(第2種)としてSubPcOC(式(6-3))、第3有機半導体材料(第3種)としてBQD(式(3-2))を同時蒸着して有機光電変換層を成膜した。蒸着速度は、C60,SubPcOCおよびBQDに対して、それぞれ0.075nm/秒、0.075nm/秒、0.05nm/秒、合計100nmの厚みに成膜した。更に、この有機光電変換層上に、ITOをスパッタ法により膜厚50nmで成膜した分光特性評価用のサンプルを作製した。また、有機光電変換層上に、AlSiCuを蒸着法にて膜厚100nmで成膜し、これを上部電極とする、1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子を作製した。更に、比較例として、サンプル6と同様の方法を用いて、有機光電変換層をSubPcOCおよびBQDから成膜したサンプル7、C60およびBQDから成膜したサンプル8およびC60およびSubPcOC65から成膜したサンプル9を作製し、その分光特性、光電変換効率および応答性を以下のように評価した。
【0117】
(分光特性の評価方法)
分光特性の評価は、紫外可視分光光度計を用いて行った。波長毎の透過率および反射率を測定し、有機光電変換層で吸収された光吸収率(%)を求め、この光吸収率と有機光電変換層の膜厚をパラメータとして、ランベルトベールの法則から、有機光電変換層の波長毎の線吸収係数α(cm-1)を算出した。この波長毎の線吸収係数α(cm-1)を基に分光形状を表す分光特性図を作成し、可視光領域にみられる吸収帯の、相対強度がピーク値の1/3になる2点の波長を求め、その2点間の間隔を計算した。分光形状の可否の目安として、2点間の間隔が115nm以下である場合をNarrow、それより大きい場合をBroadと判定した。
【0118】
(外部量子効率の評価方法)
外部量子効率の評価は、半導体パラメータアナライザを用いて行った。具体的には、フィルタを介して光源から光電変換素子に照射される光の光量を1.62μW/cmとし、電極間に印加されるバイアス電圧を-1Vとした場合の明電流値および暗電流値から、外部量子効率を算出した。
【0119】
(応答性の評価方法)
応答性の評価は、半導体パラメータアナライザを用いて光照射時に観測される明電流値が、光照射を止めてから立ち下がる速さを基に行った。具体的には、フィルタを介して光源から光電変換素子に照射される光の光量を1.62μW/cmとし、電極間に印加されるバイアス電圧を-1Vとした。この状態で定常電流を観測した後、光照射を止めて、電流が減衰していく様子を観測した。続いて、得られた電流-時間曲線から暗電流値を差し引いた。これによって得られる電流-時間曲線を用い、光照射を止めてからの電流値が、定常状態において観測される電流値が3%にまで減衰するのに要する時間を応答性の指標とした。
【0120】
更に、実験例3-2~3-12として、上記実験例3-1と同様に、他の材料および構成を有する実施例および比較例となるサンプル10~39,サンプル44~55を作製し、それらの分光特性、光電変換効率および応答性をそれぞれ評価した。表4~6は、サンプル6~39,サンプル44~55の有機光電変換層の構成および分光形状(分光特性)、光電変換効率および応答性をまとめたものである。なお、サンプル36が、上記第4有機半導体材料を加えた4種類の有機半導体材料から構成された光電変換層の例である。ここで、第4有機半導体材料は、第1有機半導体材料からさらに1種選択した。また、表4~6における比較例に記した数値は、各材料構成における実施例の値を1.0とした場合の相対値である。
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
表4~6から、上記実施の形態の光電変換素子の構成を有するサンプル(実施例;例えば、サンプル6)と比較して、サンプル6に用いた3種の有機半導体材料のいずれか2種の有機半導体材料で構成したサンプル(比較例;例えば、サンプル7~9)では、分光形状、応答速度あるいはEQEのいずれかの特性が特に劣ることがわかった。即ち、有機光電変換層を3種の有機半導体材料を用いて構成することにより、優れた分光形状、高い応答速度および高いEQEを実現することができることがわかった。
【0125】
(実験4:組成比および有機半導体材料の組み合わせについて)
(実験例4-1~実験例4-3)
実験例4-1では、第1有機半導体材料、第2有機半導体材料および第3有機半導体材料の組成比を変化させたサンプル61,40,41を作製し、分光特性、光電変換効率および応答性を評価した。実験例4-2では、第2有機半導体材料として、単層膜として形成した状態において、第1有機半導体材料の単層膜および後述する第3有機半導体材料の単層膜よりも可視光領域における極大吸収波長の線吸収係数が低い材料(式(4-2))を用いた有機光電変換層を有する光電変換素子を作製(サンプル42)し、サンプル6を基準としてその分光特性、光電変換効率および応答性を評価した。実験例4-3では、第3有機半導体材料として、第2有機半導体材料よりも低いHOMO準位を有する材料(式(7))を用いた有機光電変換層を有する光電変換素子を作製(サンプル43)し、サンプル6を基準としてその分光特性、光電変換効率および応答性を評価した。各実験例における各サンプルの組成および評価を表7にまとめた。
【0126】
【表7】
【0127】
実験例4-1の結果から、シャープな分光形状を保つためには、第1有機半導体材料の組成比が40%未満であることが望ましいことがわかった。実験例4-2の結果から、シャープな分光形状および高いEQEを得るためには、第2有機半導体材料は、単層膜の状態において第1有機半導体材料および第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高いことが望ましいことがわかった。実験例4-3の結果から、高い応答速度を得るためには、第3有機半導体材料には、第2有機半導体材料以上のHOMO準位を有する材料を選択することが望ましいことがわかった。
【0128】
(実験5:第3有機半導体材料について)
実験例5では、第1有機半導体材料(第1種)としてC60(式(1-1)),第2有機半導体材料(第2種)としてSubPcOCl(式(6-2))、第3有機半導体材料(第3種)としてQD(式(3-1))を用い、上記実験3と同様の方法を用いて、1mm×1mmの光電変換領域を有する光電変換素子(サンプル56)を作製した。また、サンプル57,58として、それぞれQDの代わりに、αNPD(式(4-2);サンプル57)およびルブレン(式(8);サンプル58)を用いた以外、サンプル56と同じ構成を有する光電変換素子を作製した。これらサンプル56~58について、その分光特性、光電変換光率および応答性を評価し、その結果を表8にまとめた。
【0129】
【表8】
【0130】
本実験では、第3有機半導体材料としてQDを用いたサンプル56が応答性およびEQE共に、最も良好な値を示した。次いで、第3有機半導体材料としてαNPDを用いたサンプル57が応答性およびEQE共に、良好な値を示した。ルブレンを用いたサンプル58は、応答性およびEQEの値がサンプル56,57と比較して低かった。これは、応答性については、ヘテロ元素を含む有機半導体材料(ここでは、QDおよびαNPD)の方が、炭素および水素から構成されている有機半導体材料(ここでは、ルブレン)より高い電荷(特に、正孔)の移動度を保ちやすい性質を有するためと推察される。EQEについては、光吸収によって発生した励起子が、炭素および水素から構成されている有機半導体材料とその他の有機半導体材料とによって形成される界面よりも、ヘテロ元素を含む有機半導体材料とその他の有機半導体材料とによって形成される界面において効率よく電荷へ分離されるためと推察される。このことから、第3有機半導体材料としては、分子内にヘテロ元素を含む有機半導体材料を用いることが好ましいといえる。更に、分子内にカルコゲン元素を含む有機半導体材料がより好ましいといえる。また、環内にヘテロ元素を含む有機半導体材料がより好ましいといえる。
【0131】
以上、実施の形態、変形例および実施例を挙げて説明したが、本開示内容は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、光電変換素子(固体撮像装置)として、緑色光を検出する有機光電変換部11Gと、青色光,赤色光をそれぞれ検出する無機光電変換部11B,11Rとを積層させた構成としたが、本開示内容はこのような構造に限定されるものではない。即ち、有機光電変換部において赤色光あるいは青色光を検出するようにしてもよいし、無機光電変換部において緑色光を検出するようにしてもよい。
【0132】
また、これらの有機光電変換部および無機光電変換部の数やその比率も限定されるものではなく、2以上の有機光電変換部を設けてもよいし、有機光電変換部だけで複数色の色信号が得られるようにしてもよい。更に、有機光電変換部および無機光電変換部を縦方向に積層させる構造に限らず、基板面に沿って並列させてもよい。
【0133】
更にまた、上記実施の形態では、裏面照射型の固体撮像装置の構成を例示したが、本開示内容は表面照射型の固体撮像装置にも適用可能である。また、本開示の固体撮像装置(光電変換素子)では、上記実施の形態で説明した各構成要素を全て備えている必要はなく、また逆に他の層を備えていてもよい。
【0134】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0135】
なお、本開示は、以下のような構成であってもよい。
[1]
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、
前記第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、
前記第2有機半導体材料は、単層膜の状態における前記第1有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、
前記第3有機半導体材料は、単層膜における正孔の移動度が前記第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高く、
前記光電変換層は、可視光領域に吸収帯を有すると共に、該吸収帯の相対強度がピーク値の1/3になる2点の間隔が115nm以下となる分光形状を有する
光電変換素子。
[2]
前記第3有機半導体材料は、前記第2有機半導体材料のHOMO準位以上の値を有する、前記[1]に記載の光電変換素子。
[3]
前記光電変換層では、前記第2有機半導体材料の光吸収により発生した励起子が、前記第1有機半導体材料、前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料のうちの2つから選ばれる有機半導体材料の界面において励起子分離される、前記[1]または[2]に記載の光電変換素子。
[4]
前記光電変換層は、450nm以上650nm以下の範囲に極大吸収波長を有する、前記[1]乃至[3]のいずれかに記載の光電変換素子。
[5]
前記第3有機半導体材料は、炭素(C)および水素(H)以外のヘテロ元素を分子内に含んでいる、前記[1]乃至[4]のいずれかに記載の光電変換素子。
[6]
前記光電変換層は、前記第1有機半導体材料を10体積%以上35体積%以下の範囲で含む、前記[1]乃至[5]のいずれかに記載の光電変換素子。
[7]
前記光電変換層は、前記第2有機半導体材料を30体積%以上80体積%以下の範囲で含む、前記[1]乃至[6]のいずれかに記載の光電変換素子。
[8]
前記光電変換層は、前記第3有機半導体材料を10体積%以上60体積%以下の範囲で含む、前記[1]乃至[7]のいずれかに記載の光電変換素子。
[9]
前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の一方は、下記式(1)で表わされるキナクリドン誘導体である、前記[1]乃至[8]のいずれかに記載の光電変換素子。
【化1】
(R1、R2は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、または複素環基である。R3、R4は、各々独立してアルキル鎖、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シアノ基、ニトロ基、シリル基であり、2つ以上のR3もしくはR4が共同して環を形成してもよい。n1,n2は、各々独立した0または1以上整数である。)
[10]
前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の一方は、下記式(2)で表わされるトリアリルアミン誘導体または下記式(3)で表わされるベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体である、前記[1]乃至[8]のいずれかに記載の光電変換素子。
【化2】
(R20~R23は各々独立して、式(2)’で表わされる置換基である。R24~R28は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、アリール基、芳香族炭化水素環基またはアルキル鎖または置換基を有する芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基またはアルキル鎖または置換基を有する芳香族複素環基である。隣接するR24~R28は、互いに結合して環を形成する飽和もしくは、不飽和の2価の基でもよい。)
【化3】
(R5,R6は、各々独立して水素原子または式(3)’で表わされる置換基である。R7は、芳香環基あるいは置換基を有する芳香環基である。)
[11]
前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の一方は、下記式(4)で表わされるサブフタロシアニン誘導体である、前記[1]乃至[8]のいずれかに記載の光電変換素子。
【化4】
(R8~R19は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐,または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基およびニトロ基からなる群から選択され、且つ、隣接する任意のR8~R19は縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。前記縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。Mはホウ素または2価あるいは3価の金属である。Xはアニオン性基である。)
[12]
前記第2有機半導体材料は、サブフタロシアニン誘導体であり、前記第3有機半導体材料は、キナクリドン誘導体である、前記[1]乃至[9]または前記[11]のいずれかに記載の光電変換素子。
[13]
前記第2有機半導体材料は、サブフタロシアニン誘導体であり、前記第3有機半導体材料は、トリアリルアミン誘導体またはベンゾチエノベンゾチオフェン誘導体である、前記[1]乃至[8]または前記[10]あるいは前記[11]のいずれかに記載の光電変換素子。
[14]
前記フラーレンおよび前記フラーレン誘導体は、下記式(5)または式(6)で表わされる、前記[1]乃至[13]のいずれかに記載の光電変換素子。
【化5】
(Rは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基あるいはそれらの誘導体である。n,mは0または1以上の整数である。)
[15]
前記光電変換層は、前記第1有機半導体材料、前記第2有機半導体材料および前記第3有機半導体材料のいずれかと同じ母骨格を有すると共に、異なる置換基を備えた第4有機半導体材料を含む、前記[1]乃至[14]のいずれかに記載の光電変換素子。
[16]
前記可視光領域は、450nm以上800nm以下である、前記[1]乃至[15]のいずれかに記載の光電変換素子。
[17]
前記第1有機半導体材料は、フラーレンである、前記[1]乃至[16]のうちのいずれか1つに記載の光電変換素子。
[18]
前記第1有機半導体材料は、C60フラーレンである、前記[1]乃至[16]のうちのいずれか1つに記載の光電変換素子。
[19]
前記第1有機半導体材料は、C70フラーレンである、前記[1]乃至[16]のうちのいずれか1つに記載の光電変換素子。
[20]
前記第1有機半導体材料は、C60フラーレンとC70フラーレンである、前記[1]乃至[16]のうちのいずれか1つに記載の光電変換素子。
[21]
各画素が1または複数の有機光電変換部を含み、
前記有機光電変換部は、
対向配置された第1電極および第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられると共に、互いに異なる母骨格を有する第1有機半導体材料,第2有機半導体材料および第3有機半導体材料を含む光電変換層とを備え、
前記第1有機半導体材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、
前記第2有機半導体材料は、単層膜の状態における前記第1有機半導体材料および前記第3有機半導体材料の各単層膜よりも可視光領域における極大光吸収波長の線吸収係数が高く、
前記第3有機半導体材料は、単層膜における正孔の移動度が前記第2有機半導体材料の単層膜における正孔の移動度よりも高く、
前記光電変換層は、可視光領域に吸収帯を有すると共に、該吸収帯の相対強度がピーク値の1/3になる2点の間隔が115nm以下となる分光形状を有する
固体撮像装置。
[22]
各画素では、1または複数の前記有機光電変換部と、前記有機光電変換部とは異なる波長域の光電変換を行う1または複数の無機光電変換部とが積層されている、前記[21]に記載の固体撮像装置。
[23]
前記無機光電変換部は、半導体基板内に埋め込み形成され、
前記有機光電変換部は、前記半導体基板の第1面側に形成されている、前記[22]に記載の固体撮像装置。
[24]
前記有機光電変換部が緑色光の光電変換を行い、
前記半導体基板内に、青色光の光電変換を行う無機光電変換部と、赤色光の光電変換を行う無機光電変換部とが積層されている、前記[23]に記載の固体撮像装置。
[25]
前記第1有機半導体材料は、フラーレンである、前記[21]乃至[24]のうちのいずれか1つに記載の固体撮像装置。
[26]
前記第1有機半導体材料は、C60フラーレンである、前記[21]乃至[24]のうちのいずれか1つに記載の固体撮像装置。
[27]
前記第1有機半導体材料は、C70フラーレンである、前記[21]乃至[24]のうちのいずれか1つに記載の固体撮像装置。
[28]
前記第1有機半導体材料は、C60フラーレンとC70フラーレンである、前記[21]乃至[24]のうちのいずれか1つに記載の固体撮像装置。
[29]
前記光電変換層は、450nm以上650nm以下の範囲に極大吸収波長を有する、前記[21]乃至[24]のうちのいずれか1つに記載の固体撮像装置。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12