(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173292
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂物品、及びそれを含む積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20221111BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20221111BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20221111BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
B32B5/28
B29C43/18
B29C70/68
B29C70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146228
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2021507167の分割
【原出願日】2020-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2019050909
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 一明
(72)【発明者】
【氏名】伊崎 健晴
(57)【要約】
【課題】ランダムシートのような大理石調の独特な外観を有し、且つ厚みが比較的薄い場合であっても欠陥(穴など)が無い繊維強化樹脂物品を提供すること。
【解決手段】一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と、前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の少なくとも一方の面に位置する、複数のチョップドシート(CS)と、を含む、繊維強化樹脂物品。前記チョップドシート(CS)は、前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と同一又は異なる一方向性繊維強化樹脂シートの小片であり、前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)100質量部に対する前記チョップドシート(CS)の割合が、40質量部以上100質量部以下であり、前記複数のチョップドシート(CS)は、他のチョップドシート(CS)と重なり合っていないチョップドシート(CS)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と、
前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の少なくとも一方の面に位置する、複数のチョップドシート(CS)と、を含み、
前記チョップドシート(CS)は、前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と同一又は異なる一方向性繊維強化樹脂シートの小片であり、
前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)100質量部に対する前記チョップドシート(CS)の割合が、40質量部以上100質量部以下であり、
前記複数のチョップドシート(CS)は、他のチョップドシート(CS)と重なり合っていないチョップドシート(CS)を含む、繊維強化樹脂物品。
【請求項2】
前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及び前記チョップドシート(CS)がいずれも、熱可塑性樹脂を含む請求項1に記載の繊維強化樹脂物品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がいずれも、ポリプロピレン系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の熱可塑性樹脂である請求項2に記載の繊維強化樹脂物品。
【請求項4】
前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と前記チョップドシート(CS)が、同じ種類の樹脂を含む請求項1に記載の繊維強化樹脂物品。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂物品の厚みが0.1mm以上1.0mm以下である請求項1に記載の繊維強化樹脂物品。
【請求項6】
前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及び前記チョップドシート(CS)がいずれも、炭素繊維及びガラス繊維からなる群より選択される少なくとも一種の繊維を含む請求項1に記載の繊維強化樹脂物品。
【請求項7】
前記繊維強化樹脂物品の、前記チョップドシート(CS)が位置する表面に、強化繊維を含まない樹脂シートを有する請求項1に記載の繊維強化樹脂物品。
【請求項8】
前記チョップドシート(CS)の単位面積当たりの個数が500~7000個/m2である請求項1に記載の繊維強化樹脂物品。
【請求項9】
請求項1に記載の繊維強化樹脂物品と、発泡体層とを含む積層体。
【請求項10】
前記発泡体層の密度が0.2~0.7g/ccである請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
前記発泡体層の一方の面上に、前記繊維強化樹脂物品が位置し、
前記繊維強化樹脂物品の前記発泡体層側の面とは反対側の面が前記チョップドシート(CS)を複数含む請求項9に記載の積層体。
【請求項12】
前記発泡体層の一方の面上に、前記繊維強化樹脂物品が位置し、
前記発泡体層の他方の面上に、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)が位置し、
前記繊維強化樹脂物品の前記発泡体層側の面とは反対側の面が前記チョップドシート(CS)を複数含む請求項9に記載の積層体。
【請求項13】
前記発泡体層の両方の面上に、前記繊維強化樹脂物品が各々位置し、
各々の前記繊維強化樹脂物品の前記発泡体層側の面とは反対側の面が前記チョップドシート(CS)を複数含む請求項9に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランダムシートのような大理石調の独特な外観を有し、且つ厚みが比較的薄い場合であっても欠陥(穴など)が無い繊維強化樹脂物品、その製造方法、及びそれを含む積層体に関する。特に本発明は、電気部品、PC筐体、携帯カバー、自動車部品、家具、建築材の壁紙等の用途において非常に有用な繊維強化樹脂物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強化繊維をマトリックス樹脂と複合させた繊維強化樹脂物品が様々な分野で利用されている。この繊維強化樹脂物品としては、例えば、一方向性繊維強化樹脂シート、複数の一方向性繊維強化樹脂シートを積層してなる積層体、あるいはランダムシートが知られている。
【0003】
特許文献1には、強化繊維束として、特定の炭素繊維束を用いた一方向性繊維強化樹脂シート(一方向性材)、複数の一方向性繊維強化樹脂シートを積層してなる積層体(一方向性積層材)、及び、ランダムシート(ランダムスタンパブルシート)が記載されている。
【0004】
ランダムシートとは、一般にCTT材(chopped carbon fiber tape reinforced thermoplastics)と呼ばれる面内等方性のシートであり、大理石調の独特な外観を有し、スタンプ成形やプレス成形等の成形法によって3次元形状を付与することも容易なシートである。このランダムシートは、例えば、一方向性繊維強化樹脂シートをチップ状にカットした多数のチョップドシートをランダムに積層し、これをプレス成形して一体化することにより得られる。
【0005】
特許文献2には、ランダムシート成形体と一方向シート成形体の積層体であり、かつそのランダムシート成形体が少なくとも片面に配置された構造体が記載されている。そしてこの構造体は、強度、強度異方性、成形性及び成形外観が優れていることが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/114352号
【特許文献2】特開2013-208725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、繊維強化樹脂物品に対しても薄膜化及び軽量化の要望が高まって来ている。しかし、ランダムシートは面内等方性を発現させる為にチョップドシートを通常8層以上重ねて積層一体化したシートなので、一方向性繊維強化樹脂シートよりもかなり厚くなる。このランダムシートを薄膜化する為には、チョップドシートの積層数を少なくする必要があるが、積層数を極端に少なくするとチョップドシートが重なり合うことができなかった箇所に穴が開いてしまい、不連続なシートになってしまう傾向にある。
【0008】
特許文献2に記載の構造体は、ランダムシート成形体を一方向シート成形体(一方向性繊維強化樹脂シート)に積層した積層体なので、上述した薄膜化及び軽量化の要望を十分満たすことはできない。なぜならば、特許文献2で使用されているランダムシート成形体は、上述したランダムシートと同様に、チョップドプリプレグ(チョップドシート)を多数(実施例では約7層~約9層)重ねて積層一体化した成形体であり、それ自体がかなり厚いからである。しかも、この厚いランダムシート成形体を一方向シート成形体に積層しているので、その構造体の合計厚みはさらに厚くなる。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決する為になされたものである。すなわち本発明の目的は、ランダムシートのような大理石調の独特な外観を有し、且つ厚みが比較的薄い場合であっても欠陥(穴など)が無い繊維強化樹脂物品、その製造方法、及びそれを含む積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意検討した結果、一方向性繊維強化樹脂シートの少なくとも一方の面にチョップドシートを一体化することが非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の事項により特定される。
【0011】
[1]一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の少なくとも一方の面に、この一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と同一又は異なる一方向性繊維強化樹脂シートのチョップドシート(CS)を複数含み、
前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)100質量部に対する前記チョップドシート(CS)の割合が、40質量部以上100質量部以下である繊維強化樹脂物品。
【0012】
[2]前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及び前記チョップドシート(CS)が、熱可塑性樹脂を含む[1]に記載の繊維強化樹脂物品。
【0013】
[3]前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の熱可塑性樹脂である[2]に記載の繊維強化樹脂物品。
【0014】
[4]前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と前記チョップドシート(CS)が、同じ種類の樹脂を含む[1]に記載の繊維強化樹脂物品。
【0015】
[5]厚みが0.1mm以上1.0mm以下である[1]に記載の繊維強化樹脂物品。
【0016】
[6]前記一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及び前記チョップドシート(CS)が、炭素繊維及びガラス繊維からなる群より選択される少なくとも一種の繊維を含む[1]に記載の繊維強化樹脂物品。
【0017】
[7]前記チョップドシート(CS)を含む側の表面に、強化繊維を含まない樹脂シートを有する[1]に記載の繊維強化樹脂物品。
【0018】
[8]前記チョップドシート(CS)の単位面積当たりの個数が500~7000個/m2である[1]に記載の繊維強化樹脂物品。
【0019】
[9]一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の少なくとも一方の面に、この一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と同一又は異なる一方向性繊維強化樹脂シートのチョップドシート(CS)を複数配置する工程と、
前記配置する工程で得られた配置後の物品を加熱及び加圧する工程とを有する繊維強化樹脂物品の製造方法。
【0020】
[10][1]に記載の繊維強化樹脂物品と、発泡体層とを含む積層体。
【0021】
[11]前記発泡体層の密度が0.2~0.7g/ccである[10]に記載の積層体。
【0022】
[12]前記発泡体層の一方の面上に、前記繊維強化樹脂物品が位置し、
前記繊維強化樹脂物品の前記発泡体層側の面とは対向する面が前記チョップドシート(CS)を複数含む[10]に記載の積層体。
[10]に記載の積層体。
【0023】
[13]前記発泡体層の一方の面上に、前記繊維強化樹脂物品が位置し、
前記発泡体層の他方の面上に、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)が位置し、
前記繊維強化樹脂物品の前記発泡体層側の面とは対向する面が前記チョップドシート(CS)を複数含む[10]に記載の積層体。
【0024】
[14]前記発泡体層の両方の面上に、前記繊維強化樹脂物品が各々位置し、
各々の前記繊維強化樹脂物品の前記発泡体層側の面とは対向する面が前記チョップドシート(CS)を複数含む請求項10に記載の積層体。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ランダムシートのような大理石調の独特な外観を有し、且つ厚みが比較的薄い場合であっても欠陥(例えば穴)が無い繊維強化樹脂物品、その製造方法、及びそれを含む積層体を提供できる。
【0026】
また、本発明の繊維強化樹脂物品は、一方向性繊維強化樹脂シートと比較した場合、0°方向(一方向性繊維強化樹脂シートの繊維方向に対し平行な方向)以外の方向における強度(例えば引張強度)が向上する。
【0027】
また、本発明の繊維強化樹脂物品は、ランダムシートと比較した場合、あるいは特許文献2に記載のようなランダムシートと一方向性繊維強化樹脂シートの積層体と比較した場合、薄膜化及び軽量化の要望を満たすことが容易である。
【0028】
また、繊維強化樹脂物品をシートインサート射出成形に用いたり、発泡シート又はハニカム板をサンドウィッチパネル等の積層体に加工する際の表面材として用いることで、軽量で高強度の製品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の繊維強化樹脂物品の一実施形態を示す模式的平面図である。
【
図2】実施例1で得た繊維強化樹脂物品の外観の一部を斜め方向から撮影した写真である。
【
図3】比較例3で得た繊維強化樹脂物品の外観の一部を斜め方向から撮影した写真である。
【
図4】比較例4で得た繊維強化樹脂物品の外観の一部を斜め方向から撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<繊維強化樹脂物品>
図1は、本発明の繊維強化樹脂物品の一実施形態を示す模式的平面図である。本発明の繊維強化樹脂物品は、
図1に示すように、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1の少なくとも一方の面(シート面)に、一方向性繊維強化樹脂シートのチョップドシート(CS)2を複数含む物品である。
【0031】
図1に示すチョップドシート(CS)2は一方向性繊維強化樹脂シートの小片であり、例えば、一方向性繊維強化樹脂シートをチップ状にカットすることにより得られる。このチョップドシート(CS)2の原材となる一方向性繊維強化樹脂シートは、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1と同一のものであっても良いし、異なるものであっても良い。一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1及びチョップドシート(CS)2の原材となる一方向性繊維強化樹脂シートの具体例は、後に詳述する。
【0032】
図1に示す繊維強化樹脂物品は、その表面に多数のチョップドシート(CS)2がランダムに分散配置されているので、繊維の配向方向のランダム性により光線の反射が複雑に変化し、大理石調の独特な外観になる。しかも、これらチョップドシート(CS)2は一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1の表面に一体化されているので、チョップドシート(CS)2が互いに重なり合っていなくても穴は生じない。また、従来のランダムシートにおいてはチョップドシート(CS)の端面が破壊の起点となり易いが、本発明の繊維強化樹脂物品においては、チョップドシート(CS)2の端面の数の割合が少なく、しかも一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1が存在するので破壊しにくい。また、チョップドシート(CS)2の繊維方向がランダムであるため、極端なカールが生じにくい。
【0033】
図1に示す一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1は0°方向(一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の繊維方向に対し平行な方向)の強度(例えば引張強度)が高く、0°方向以外の方向の強度に関してはチョップドシート(CS)2によって向上する。したがって、本発明の繊維強化樹脂物品は極端な局所異方性は示さない。これにより、例えば、繊維強化樹脂物品にスタンプ成形やプレス成形等の成形法によって3次元形状を付与する場合においても繊維強化樹脂物品が裂けにくく、形状追従性に優れている。さらに、繊維強化樹脂物品を射出成形金型内にインサートして行うインサート成形やオーバーインジェクション成形を行うことも容易である。
【0034】
図1に示す一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1は、特許文献2に記載のような多数のチョップドシート(CS)をシート状に成形して得られるランダムシートを一方向性繊維強化樹脂シートに積層した構成の積層体とは異なり、複数のチョップドシート(CS)2が一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1の少なくとも一方の面(シート面)に含まれる構成を有するので、薄膜化及び軽量化の要望を満たすことが容易である。
【0035】
図1に示す実施形態においては、各々のチョップドシート(CS)2は互いに重なり合わないように配置されている。このように出来る限り重なり合わないように配置することは、例えば、繊維強化樹脂物品の薄膜化の点で好ましい。ただし本発明はこれに限定されない。多数のチョップドシート(CS)2のうちの幾つかが互いに重なり合っていても構わない。チョップドシート(CS)2の重なり合いの有無やその積層数は、例えば繊維強化樹脂物品の目的とする厚みに応じて適宜決定すれば良い。
【0036】
図1に示す実施形態においては、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1の片面の全体が複数のチョップドシート(CS)2を含むが、本発明はこれに限定されない。例えば、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1の両面が複数のチョップドシート(CS)2を含んでいても良いし、片面又は両面の一部分のみに複数のチョップドシート(CS)2を含んでいても良い。また、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1を複数積層した積層体の少なくとも一方の面に複数のチョップドシート(CS)2を含んでいても良い。
【0037】
図1に示す実施形態においては、配置されている多数のチョップドシート(CS)2のサイズは均一であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、サイズが異なる2種以上のチョップドシート(CS)を用いても良いし、そのサイズに分布を持たせても良い。また、チョップドシート(CS)の形状も四角に限定されず、それ以外の形状であっても構わない。
【0038】
図1に示す実施形態においては、チョップドシート(CS)2を含む側の表面には何も積層されていないが、本発明はこれに限定されない。例えば、チョップドシート(CS)2を含む側の表面に、強化繊維を含まない樹脂シート(保護フィルムなど)を有していても良い。この樹脂シートは繊維強化樹脂物品の表面を保護するだけでなく、例えば、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の0°方向以外の方向の強度をさらに向上したり、インサート成形、オーバーインジェクション成形を行った場合のそり変形を軽減したり、あるいは耐候性や難燃性を付与することもできる。樹脂シートは、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1のマトリックス樹脂及び/又はチョップドシート(CS)2のマトリックス樹脂と同じ種類の樹脂を含むことが好ましい。また、耐候安定剤、難燃剤などの添加剤を含んでいても良い。このような樹脂シートは、例えば、チョップドシート(CS)2を含む側の表面に熱ラミネートすることにより設けることができる。
【0039】
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)100質量部に対するチョップドシート(CS)の割合は40質量部以上100質量部以下であり、好ましくは50質量部以上90質量部以下である。チョップドシート(CS)の量をそのような特定の量以上にすることは、例えば、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の0°方向以外の方向の強度を向上する点及び大理石調の独特な外観を得る点で好ましい。また、この量をそのような特定の量以下にすることは、例えば、繊維強化樹脂物品の薄膜化及び軽量化の点、チョップドシート(CS)同士の重なり合う箇所を低減すること及び重なり合っている箇所の積層数のばらつきを低減することにより繊維強化樹脂物品の厚みの均一性を向上する点、並びに、破壊の起点となり易い箇所(チョップドシート(CS)の端面など)の数を少なくする点で好ましい。
【0040】
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及びチョップドシート(CS)の各々の厚みは、好ましくは50μm以上500μm以下、より好ましくは100μm以上250μm以下である。これらの厚みをそのような特定の厚み以上にすることは、例えば、光の透過を抑制して大理石調の独特な外観を得る点で好ましい。また、これらの厚みをそのような特定の厚み以下にすることは、例えば、繊維強化樹脂物品の薄膜化及び軽量化の点、繊維強化樹脂物品の厚みの均一性を向上する点及び破壊の起点となる箇所の数を少なくする点で好ましい。
【0041】
繊維強化樹脂物品の厚みは、好ましくは0.1mm以上1.0mm以下、より好ましくは0.15mm以上0.5mm以下である。維強化樹脂物品の厚みをそのような特定の厚み以上にすることは、例えば、繊維強化樹脂物品を用いるシートインサート射出成形や、繊維強化樹脂物品を表面材として用いるサンドウィッチパネル等の積層体への加工に適する点で好ましい。また、これらの厚みをそのような特定の厚み以下にすることは、例えば、繊維強化樹脂物品の薄膜化及び軽量化の点で好ましい。
【0042】
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及びチョップドシート(CS)の各々の繊維体積分率Vfは、好ましくは0.3以上0.7以下、より好ましくは0.35以上0.6以下である。繊維体積分率Vfの具体的な算定方法は、後述する実施例の欄に記載する。
【0043】
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)のサイズ(長さ及び幅)は特に限定されず、繊維強化樹脂物品が使用される用途に応じて適宜決定すれば良い。通常、その長さ(一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の繊維方向に対し平行な方向の長さ)は好ましくは10mm以上2000mm以下であり、その幅(一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の繊維方向に対し直角な方向の長さ)は好ましくは100mm以上600mm以下である。
【0044】
チョップドシート(CS)の幅(チョップドシート(CS)の繊維方向に対し直角な方向の長さ)は、好ましくは3mm以上50mm以下、より好ましくは10mm以上25mm以下である。チョップドシート(CS)の幅をそのような特定の範囲内の幅にすることは、例えば、大理石調の独特な外観を得る点で好ましい。
【0045】
チョップドシート(CS)の長さ(チョップドシート(CS)の繊維方向に対し平行な方向の長さ)は、好ましくは10mm以上50mm以下、より好ましくは10mm以上25mm以下である。チョップドシート(CS)の長さをそのような特定の範囲内の長さにすることは、例えば、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の0°方向以外の方向の強度を向上する点で好ましい。
【0046】
チョップドシート(CS)のアスペクト比(長さ/幅)は、好ましくは0.5以上5.0以下、より好ましくは1.0以上3.0以下である。通常、チョップドシート(CS)をプレス成形すると、チョップドシート(CS)の繊維方向には広がりにくいが、繊維方向に対し直角な方向には広がり易い傾向がある。したがって、チョップドシート(CS)のアスペクト比をそのような特定の範囲内のアスペクト比にすることは、例えば、プレス成形する際のシートの広がりを適度に抑制する点で好ましい。
【0047】
チョップドシート(CS)の単位面積当たりの個数は、好ましくは500~7000個/m2、より好ましくは700~7000個/m2である。この個数をそのような特定値以上にすることは、例えば、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の0°方向以外の方向の強度を向上する点及び大理石調の独特な外観を得る点で好ましい。また、この個数をそのような特定値以下にすることは、例えば、繊維強化樹脂物品の薄膜化及び軽量化の点、チョップドシート(CS)同士の重なり合う箇所を低減すること及び重なり合っている箇所の積層数のばらつきを低減することにより繊維強化樹脂物品の厚みの均一性を向上する点、並びに、破壊の起点となり易い箇所(チョップドシート(CS)の端面など)の数を少なくする点で好ましい。なお、この個数における「単位面積」とは、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)のシート面に対し平行な面の単位面積を意味する。
【0048】
複数のチョップドシート(CS)は、その繊維方向が互いにランダムな方向になるよう配置されていることが好ましい。その配置のランダム性が高くなるほど大理石調の独特な外観が特に得られる傾向にあり、かつ一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の0°方向以外の方向の強度向上の度合いが均一になる傾向にある。なお、「ランダムな方向になるよう配置されている」とは、その繊維方向が互いに特定の方向には揃えられておらず、不規則に配置されていることを意味する。
【0049】
以上説明した各サイズのチョップドシート(CS)は、例えば、カッターナイフ、はさみ、ギロチンカッター、シアカッター、レーザーカッター等の器具を用いて一方向性繊維強化樹脂シートをカットすることにより得ることができる。
【0050】
本発明において、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及びチョップドシート(CS)の種類は特に限定されず、公知の一方向性繊維強化樹脂シート及びチョップドシートを使用できる。
【0051】
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及びチョップドシート(CS)は、加熱成形(プレス成形など)による一体化の容易性の点から熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。
【0052】
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及びチョップドシート(CS)は、一体化後に剥離しにくい等の安定性の点から、同じ種類の樹脂を含むことが好ましい。この樹脂は、通常、マトリックス樹脂として含まれる樹脂である。したがって、例えば、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)がマトリックス樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含む場合はチョップドシート(CS)もマトリックス樹脂としてポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましく、また、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)がマトリックス樹脂としてポリアミド系樹脂を含む場合はチョップドシート(CS)もマトリックス樹脂としてポリアミド系樹脂を含むことが好ましい。
【0053】
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及びチョップドシート(CS)は、炭素繊維及びガラス繊維からなる群より選択される少なくとも一種の繊維を含むことが好ましい。特に大理石調の外観を得る為には、炭素繊維を含むことがより好ましい。
【0054】
<繊維強化樹脂物品の製造方法>
以上説明した本発明の繊維強化樹脂物品は、その製造方法について特に制限されない。ただし、本発明の繊維強化樹脂物品の製造方法は、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の少なくとも一方の面に、この一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と同一又は異なる一方向性繊維強化樹脂シートのチョップドシート(CS)を複数配置する工程と、この配置する工程で得られた配置後の物品を加熱及び加圧する工程とを有する繊維強化樹脂物品の製造方法である。
【0055】
チョップドシート(CS)を複数配置する工程においては、各々のチョップドシート(CS)が互いに重なり合わないように配置することが好ましい。ただし本発明はこれに限定されない。先に説明したとおり、多数のチョップドシート(CS)のうちの幾つかが互いに重なり合っていても構わない。チョップドシート(CS)の重なり合いの有無やその積層数は、例えば、繊維強化樹脂物品の目的とする厚みに応じて適宜決定すれば良い。例えば、複数配置する工程と同時にまたは複数配置する工程の後に、チョップドシート(CS)の重なりを少なくするために、チョップドシート(CS)を再配置する工程を有していてもよい。
【0056】
チョップドシート(CS)を複数配置する工程においては、先に述べたように、複数のチョップドシート(CS)を、その繊維方向が互いにランダムな方向になるよう配置することが好ましい。その配置のランダム性が高くなるほど大理石調の独特な外観が特に得られる傾向にあり、かつ一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の0°方向以外の方向の強度向上の度合いが均一になる傾向にある。
【0057】
加熱及び加圧する工程において、その加熱温度は一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及びチョップドシート(CS)に用いられるマトリックス樹脂の融点以上であることが好ましい。その加熱温度は、通常165℃以上250℃以下である。また圧力は、通常0.5MPa以上5.0MPa以下である。
【0058】
繊維強化樹脂物品の製造方法は、加熱及び加圧工程を経て得られた繊維強化樹脂物品に対して、必要に応じて、先に説明した樹脂シートを設ける工程(例えば熱ラミネート工程や貼着する工程)をさらに有していても良い。
【0059】
<繊維強化樹脂組成物>
本発明に用いる一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)及びチョップドシート(CS)を構成する繊維強化樹脂組成物の種類は特に限定されない。その具体例を以下に説明する。
【0060】
繊維強化樹脂組成物は、通常、強化繊維(好ましくは強化繊維束)とマトリックス樹脂を含む組成物である。強化繊維束は、例えば、強化繊維をサイジング剤で処理することにより得られる。そして、この強化繊維束を引き揃えて、例えば溶融したマトリックス樹脂と接触させることにより繊維強化樹脂組成物が得られる。
【0061】
強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維等の高強度、高弾性率繊維を使用できる。これらは2種以上を併用してもよい。強化繊維は、特に、炭素繊維及びガラス繊維からなる群より選択される少なくとも一種の繊維を含むことが好ましい。単糸の平均直径は特に限定されないが、機械特性及び表面外観の点から、好ましくは1~20μm、より好ましくは4~10μmである。炭素繊維束の単糸数も特に限定されないが、生産性及び特性の点から、好ましくは100~100,000本、より好ましくは1,000~50,000本である。
【0062】
強化繊維束に用いるサイジング剤としては、例えば変性ポリオレフィンが挙げられる。この変性ポリオレフィンは、重合体鎖に結合するカルボン酸金属塩を少なくとも含む変性ポリオレフィンであることが好ましい。変性ポリオレフィンの原料(未変性ポリオレフィン)としては、例えば、エチレン起因の骨格含量が50モル%を超えるエチレン系重合体、プロピレン起因の骨格含量が50モル%を超えるプロピレン系重合体が挙げられる。エチレン系重合体の具体例としては、エチレン単独重合体、エチレンと炭素原子数3~10のα-オレフィンの共重合体が挙げられる。プロピレン系重合体の具体例としては、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン及び/又は炭素数4~10のα-オレフィンの共重合体が挙げられる。より具体的には、ホモポリプロピレン、ホモポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体が挙げられる。
【0063】
変性ポリオレフィンは、例えば、未変性ポリオレフィンの重合体鎖に、カルボン酸基、カルボン酸無水物基又はカルボン酸エステル基をグラフト導入し、且つその基をカチオンとの塩の状態に変換することにより得られる。
【0064】
例えば、強化繊維をサイジング剤(及び必要に応じてアミン化合物等の添加剤)を含むエマルションに浸漬し、その後乾燥することにより、サイジング剤で処理された強化繊維束が得られる。エマルション中のサイジング剤の含有量は、好ましくは0.001質量%以上10質量%以下である。強化繊維束に対するサイジング剤の付着量は、好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下である。
【0065】
以上説明した強化繊維束を引き揃えて、例えば溶融したマトリックス樹脂と接触させることにより繊維強化樹脂組成物が得られる。マトリックス樹脂の種類は限定されないが、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスルホン樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。特にマトリックス樹脂は、ポリプロピレン系樹脂及びポリアミド系樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。また、マトリックス樹脂は変性ポリオレフィンを含んでいても良い。
【0066】
<積層体>
以上説明した本発明の繊維強化樹脂物品は、他の物品に積層して積層体として使用することも好ましい。積層体の種類は特に限定されず、具体的には、先に述べたような発泡シート又はハニカム板の片面、あるいは両面に本発明の繊維強化樹脂物品を積層したサンドウィッチパネルであっても良いし、またそれ以外の種類の積層体であっても良い。
【0067】
本発明の積層体は、本発明の繊維強化樹脂物品と発泡体層とを含む積層体である。この積層体において、繊維強化樹脂物品と発泡体層とは、直接接していても良いし、他の層(中間層など)を介して積層されていても良い。好ましい態様は、繊維強化樹脂物品と発泡体層とが接する箇所を有する積層構造である。さらに、積層体の少なくとも一つの表面がチョップドシート(CS)を複数含む面である(すなわち大理石調の外観を有する面である)ことが好ましい。
【0068】
本発明の積層体の好ましい態様の一つとして、発泡体層の一方の面上に繊維強化樹脂物品が位置し、繊維強化樹脂物品の発泡体層側の面とは対向する面がチョップドシート(CS)を複数含む積層体が挙げられる。この態様は、代表的には、繊維強化樹脂物品(CS/UDS)/発泡体層の順で積層された構成を有する積層体である。この態様においては、発泡体層の一方の面が繊維強化樹脂物品により補強され、かつ積層体の補強された側の表面が大理石調の外観を有する。
【0069】
本発明の積層体の好ましい態様の一つとして、発泡体層の一方の面上に前記繊維強化樹脂物品が位置し、前記発泡体層の他方の面上に一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)が位置し、前記繊維強化樹脂物品の前記発泡体層側の面とは対向する面が前記チョップドシート(CS)を複数含む積層体が挙げられる。この態様は、代表的には、繊維強化樹脂物品(CS/UDS)/発泡体層/一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の順で積層された構成を有する積層体である。この態様においては、発泡体層の両方の面が繊維強化樹脂物品又は一方向性繊維強化樹脂シートにより補強され、かつ積層体のチョップドシート(CS)を有する側の表面が大理石調の外観を有する。
【0070】
本発明の積層体の好ましい態様の他の一つとして、発泡体層の両方の面上に繊維強化樹脂物品が各々位置し、各々の繊維強化樹脂物品の発泡体層側の面とは対向する面がチョップドシート(CS)を複数含む積層体が挙げられる。この態様は、代表的には、繊維強化樹脂物品(CS/UDS)/発泡体層/繊維強化樹脂物品(UDS/CS)の順で積層された構成を有する積層体(サンドウィッチパネル)である。この態様においては、発泡体層の両面が繊維強化樹脂物品により補強され、かつ積層体の補強された両方の表面が大理石調の外観を有する。
【0071】
本発明の積層体において、発泡体層に含まれる樹脂(以下、「発泡体樹脂」と称す]は特に限定されず、公知の各種樹脂を使用できる。発泡体樹脂は、架橋樹脂でも良いし、無架橋体でも良い。発泡体樹脂の具体例としては、ポリエチレン系樹脂発泡体、ポリプロピレン系樹脂発泡体、ポリスチレン系樹脂発泡体、ポリプロピレン系樹脂発泡体を外層に有するポリスチレン系樹脂発泡体等の熱可塑性樹脂発泡体が挙げられる。特に発泡体樹脂は、繊維強化樹脂物品に含まれるマトリックス樹脂と同じ種類の熱可塑性樹脂で構成されることが好ましく、どちらもプロピレン系樹脂であることが好ましい。このような構成とすることで、接着強度がより向上される傾向にある。なお、「同じ種類の熱可塑性樹脂」とは、マトリックス樹脂と発泡体層のいずれもが、例えばポリオレフィン系樹脂を含むことを指す。例えば、マトリックス樹脂がポリプロピレン系樹脂を含み、発泡体層がポリブテン系樹脂を含んでいても、どちらもポリオレフィン系樹脂を含むので、マトリックス樹脂と発泡体層は「同じ種類の熱可塑性樹脂」を含んでいる。ポリオレフィン系樹脂の他にも、例えば、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、液晶ポリエステル、ポリアリーレート、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、塩化ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、変性ポリオレフィン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂についても同様である。また、「どちらもプロピレン系樹脂である」とは、マトリックス樹脂と発泡体層のいずれもが、プロピレンを構成単位として50質量%以上含む重合体を含むことを意味する。
【0072】
発泡体層の密度は、好ましくは0.2~0.7g/cc、より好ましくは0.25~0.4g/ccである。発泡体樹脂中の気泡は、独立気泡でも良いし、連通気泡でも良い。一般に、独立気泡の発泡体樹脂は強度が高い傾向にある。
【0073】
発泡体層の発泡倍率は、好ましくは1.3~5倍、より好ましくは2~4倍である。
【0074】
発泡体層は、リブ構造を含んでいても良く、より具体的には、発泡体層の一部に非発泡リブ構造を含んでいても良い。リブ構造は、例えば、発泡体の収縮や変形を抑制する作用を奏する。リブ構造の形態は特に制限されず、例えば格子状、ストライプ状、円柱状、リング状等の形態をとることができる。これらの形状は相互に重なった形態をとっても良い。リブ構造は、発泡体層の表面及び裏面の全面に格子状等の形状の断面方向のリブを形成した態様であっても良いし、表面又は裏面のどちらか一方の全面又は一部の面に格子状等の形状の断面方向のリブを形成した態様であっても良い。また、表面の構造と裏面の構造がつながっていてもかまわない。発泡体層の一部に非発泡リブ構造を形成する方法としては、例えば、発泡体層の一部に熱したナイフを接触させて、所望の位置を熱溶融させる方法がある。また、熱した棒状の金属を発泡体層に押し当てて、円柱状の形状を形成する方法や、熱したパイプ状の金属を発泡体層に押し当てて、リング状の形状を形成する方法を挙げることが出来る。
【0075】
本発明の積層体の厚み(繊維強化樹脂物品及び発泡体層を含む全体の厚み)は、好ましくは2~16mm、より好ましくは2~10mmである。
【0076】
本発明の積層体の製造方法は特に限定されない。例えば、各層を順番に積層して、そのまま積層体として用いても良いし、接着剤を用いて各層の界面の一部又は全部を接着しても良いし、プレス機やアイロン等の機器を用いて加圧及び加熱して各層の界面の一部又は全部を融着しても良い。また、粘着テープを用いて各層の端部を固定しても良いし、樹脂製のピンを用いて各層の任意の部分に刺し込んで位置がずれないようにしても良い。特に、加圧及び加熱して各層の界面の一部又は全部を融着する方法が好ましい。
【0077】
本発明の積層体は、三次元形状が付与された積層体であっても良い。三次元形状の具体的な形態は特に制限されず、その表面に平面形状以外の形状が付与された場合はこれに該当する。三次元形状を付与する方法の具体例としては、熱プレス法(例えばヒートアンドクール法、スタンピング法)、真空成型法が挙げられる。本発明の積層体は、発泡体シートを一方向性繊維強化樹脂シートのみで補強した従来の積層体と比較して、熱プレス等の加工法によって三次元形状を付与する際に割れ等の外観上の不具合が生じにくい。
【0078】
本発明の繊維強化樹脂物品及びこれを含む積層体は、様々な分野で好適に利用できる。特に、電気部品、PC筐体、携帯カバー、自動車部品、家具、パーティション、スクリーンウォール、ドア、引き戸等の軽量でかつ比較的強度が要求される物品の用途において非常に有用である。さらに、建築材の壁紙、床材、化粧ボード等の意匠性が要求される物品の用途においても非常に有用である。
【実施例0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。実施例において用いた評価方法は以下の通りである。
【0080】
<引張試験>
島津製作所製引張試験機AG-X 100kNを使用し、引張速度0.45mm/分、23℃にて測定を行った。試験片の厚み以外はJIS K7164に準拠した条件で引張試験を行ない、ヤング率と引張強度を測定した。
【0081】
<シート厚み>
ミツトヨ社製デジマチック標準外側マイクロメータMDE-MXを使用し、サンプルの1辺あたり3点、合計8点(隣合う2辺では1点を共有)測定し、平均値を厚みとした。
【0082】
<繊維体積分率Vf>
サンプルのシートを50mm×50mmの正方形に切り出し、質量Wc(g)を測定した。この切り出したサンプルを480℃で1時間加熱し、樹脂を熱劣化させ取り除き、炭素繊維のみの質量Wf(g)を測定し、次の式によって繊維堆積分率Vfを求めた。
繊維体積分率Vf=(Wf/Wc)×ρc/ρf
ここで、ρcはサンプルの密度(g/cm3)、ρfはサンプルに用いられている炭素繊維の密度(g/cm3)である。
【0083】
<実施例1>
(一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の作製)
国際公開第2016/114352号の実施例6に記載された方法で一方向性繊維強化樹脂シート(但し、厚みは162.4μm、繊維体積分率Vfは0.53)を作製し、これを切り出すことによって、200mm×200mmの一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)を得た。この一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の質量は8.98gであった。
【0084】
(チョップドシート(CS)の作製)
以上のようにして作製した一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)と同じものである一方向性繊維強化樹脂シートを、12.5mm幅でスリットしてテープ状とし、これをさらに約15mmの長さで切断して多数のチョップドシート(CS)を得た。
【0085】
(繊維強化樹脂物品の作製)
以上の様にして作製した多数のチョップドシート(CS)4.49gを、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の上に、できるだけ重ならないようにランダムに配置した(一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)100質量部に対するチョップドシート(CS)の割合=50質量部、チョップドシート(CS)の単位面積当たりの個数=約3200個/m2)。次いで、この一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の上に多数のチョップドシート(CS)が配置された物品を、2枚のステンレス板の間に挟み、185℃に加熱したプレス装置(東洋精機製作所製、ミニテストプレスMP-WCH)を用いて2MPaの圧力を3分間かけた。その後、15℃に調節したプレス装置に移動させて30秒間2MPa、さらに30秒間4MPaの圧力をかけて冷却を行った。このようなプレス成形により、厚み255μmの平滑な繊維強化樹脂物品を得た。繊維強化樹脂物品の総質量は13.47gであり、一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の質量に対する繊維強化樹脂物品の総質量の比率(以下「質量比」と称す)は1.5であった。
【0086】
この繊維強化樹脂物品に対して0°方向、45°方向及び90°方向の引張試験を行ない、ヤング率と引張強度を測定した。ここで、0°方向とは一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の繊維方向に対し平行な方向であり、45°方向とはその繊維方向に対し45°の方向であり、90°方向とはその繊維方向に対し直角な方向である。各々の試験片のサイズは、25mm×150mmとした。その結果、繊維強化樹脂物品の0°方向のヤング率は61.53GPa、引張強度は587MPa、45°方向のヤング率は5.44GPa、引張強度は10.9MPa、90°方向のヤング率は4.05GPa、引張強度は9.0MPaであった。繊維強化樹脂物品のチョップドシート(CS)側の外観は大理石調であった。
図2は、その外観の一部を斜め方向から撮影した写真である。
【0087】
<実施例2>
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の上に配置するチョップドシート(CS)の質量を5.39gに変更したことと以外は、実施例1と同様にして平滑な繊維強化樹脂物品を作製し、引張試験を行なった(一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)100質量部に対するチョップドシート(CS)の割合=60質量部、チョップドシート(CS)の単位面積当たりの個数=約3840個/m2)。繊維強化樹脂物品の厚みは251μm、総質量は14.37gであり、質量比は1.6であった。繊維強化樹脂物品の0°方向のヤング率は69.64GPa、引張強度は609MPa、45°方向のヤング率は6.53GPa、引張強度は13.1MPa、90°方向のヤング率は5.42GPa、引張強度は7.9MPaであった。また、繊維強化樹脂物品のチョップドシート(CS)側の外観は大理石調であった。
【0088】
<実施例3>
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の上に配置するチョップドシート(CS)の質量を8.08gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして平滑な繊維強化樹脂物品を作製し、引張試験を行なった(一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)100質量部に対するチョップドシート(CS)の割合=90質量部、チョップドシート(CS)の単位面積当たりの個数=約5760個/m2)。繊維強化樹脂物品の厚みは313μm、総質量は17.06gであり、質量比は1.9であった。繊維強化樹脂物品の0°方向のヤング率は64.94GPa、引張強度は588MPa、45°方向のヤング率は22.7GPa、引張強度は24.3MPa、90°方向のヤング率は4.72GPa、引張強度は11.3MPaであった。また、繊維強化樹脂物品のチョップドシート(CS)側の外観は大理石調であった。
【0089】
<比較例1>
実施例1で作製したものと同じ一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)2枚を0°方向に積層し、実施例1と同じ条件でプレス成形を行ない、厚み323μmの平滑な繊維強化樹脂物品を得た。繊維強化樹脂物品の総質量は17.96gであり、質量比は2.0であった。なお、比較例1における質量比は、下地となる一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の質量に対する繊維強化樹脂物品の総質量の比率である。実施例1と同じ引張試験を行なったところ、0°方向のヤング率は105.42GPa、引張強度は1499MPa、45°方向のヤング率は5.03GPa、引張強度は9.3MPa、90°方向のヤング率は3.43GPa、引張強度は5.6MPaであり、実施例1の繊維強化樹脂物品と比較して45°方向及び90°方向の強度が低かった。また、この比較例1のような一方向性の繊維強化樹脂物品は、プレス成形により3次元形状を付与する場合は割れが発生する可能性が高い。
【0090】
<比較例2>
実施例1で作製したものと同じ一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)1枚を0°方向、他の1枚を90°方向にして積層し、実施例1と同じ条件でプレス成形を行なって、厚み314μmの繊維強化樹脂物品を得た。繊維強化樹脂物品の総質量は17.96g、質量比は2.0であった。なお、比較例2における質量比は、下地となる一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の質量に対する繊維強化樹脂物品の総質量の比率である。得られた繊維強化樹脂物品は、0°方向と90°方向の収縮率の違いによって大きくカールしてしまった。実施例1と同じ引張試験を行なったところ、0°方向(下側の一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の繊維方向に対し平行な方向)のヤング率は57.84GPa、引張強度は699MPa、45°方向のヤング率は4.92GPa、引張強度は36.5MPa、90°方向(下側の一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の繊維方向に対し直角な方向)のヤング率は50.0GPa、引張強度は604MPaであった。また、この比較例2のような二方向性(0°及びと90°方向)の繊維強化樹脂物品は形状追従性が劣り、プレス成形により3次元形状を付与する場合は割れやしわが発生する可能性がある。
【0091】
<比較例3>
一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の上に配置するチョップドシート(CS)の質量を2.70gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂物品を作製し、引張試験を行なった(一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)100質量部に対するチョップドシート(CS)の割合=30質量部、チョップドシート(CS)の単位面積当たりの個数=約1920個/m
2)。繊維強化樹脂物品の厚みは210μm、総質量は11.67gであり、質量比は1.3であった。繊維強化樹脂物品の0°方向のヤング率は58.50GPa、引張強度は516MPa、45°方向のヤング率は4.70GPa、引張強度は8.2MPa、90°方向のヤング率は2.78GPa、引張強度は4.5MPaであり、実施例に比べて劣っていた。また、繊維強化樹脂物品のチョップドシート(CS)側の外観は隙間が大きく、まだら状態で大理石調とは言えないものであった。
図3は、その外観の一部を斜め方向から撮影した写真である。
【0092】
<比較例4>
実施例1で作製したものと同じ多数のチョップドシート(CS)17.96gを、ステンレス板の上に、200mm×200mmのサイズで、できるだけ2層を超える重なりができないようにランダムに配置し、実施例1と同じ条件でプレス成形を行なって、厚み321μmの繊維強化樹脂物品(ランダムシート)を得た。しかし、繊維強化樹脂物品のところどころに穴が生じ、均一なシートは得られなかった。
図4は、その外観の一部を斜め方向から撮影した写真である。
【0093】
以上の実施例1~3及び比較例1~4の各結果を表1にまとめて記載する。
【0094】
【0095】
<実施例4>
(繊維強化樹脂物品の作製)
実施例1と同じ厚み255μmの繊維強化樹脂物品を2枚作製した。
【0096】
(積層体の作製)
厚み5mmのポリプロピレン製発泡シート(三井化学東セロ株式会社製、商品名パロニア、密度=0.3g/cc、発泡倍率=3倍)を、200mm×200mmの形状に切り出した。そして、繊維強化樹脂物品/発泡シート/繊維強化樹脂物品の順で積層した。この積層工程においては、各々の繊維強化樹脂物品の発泡体シートに接する面(内側面)は一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の面とし、その面とは対向する面(外側面)はチョップドシート(CS)側の面とした。また、各々の繊維強化樹脂物品の一方向性繊維強化樹脂シート(UDS)の繊維方向は、同じ方向(0°方向)にした。
【0097】
そして、各々の繊維強化樹脂物品の外側面に離型フィルムを配置し、これを200℃に加熱したプレス装置(株式会社東洋精機製作所社製、装置名ミニテストプレスMP-WCL)に入れ、圧力0.8MPaで1分間加圧した。次いで、これを40℃の冷却水で冷却したプレス装置(株式会社東洋精機製作所社製、装置名ミニテストプレスMP-WC)に移し、圧力0.2MPaで10分間冷却した。その後これを取り出し、離型フィルムを剥がし、繊維強化樹脂物品(CS/UDS)/発泡体層/繊維強化樹脂物品(UDS/CS)の積層構成を有する厚み5mmの積層体(サンドウィッチパネル)を得た。この積層体の両外側面は繊維強化樹脂物品のチョップドシート(CS)側の面であり、その外観は大理石調であった。
本発明の繊維強化樹脂物品は、様々な分野で好適に利用できる。特に、電気部品、PC筐体、携帯カバー、自動車部品、家具、パーティション、スクリーンウォール、ドア、引き戸等の軽量でかつ比較的強度が要求される物品の用途において非常に有用である。さらに、建築材の壁紙、床材、化粧ボード等の意匠性が要求される物品の用途においても非常に有用である。