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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173303
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】ロール
(51)【国際特許分類】
   B32B 1/08 20060101AFI20221111BHJP
   B05C 1/02 20060101ALI20221111BHJP
   B05C 1/08 20060101ALI20221111BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
B32B1/08 Z
B05C1/02 102
B05C1/08
C23C16/27
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147158
(22)【出願日】2022-09-15
(62)【分割の表示】P 2019125490の分割
【原出願日】2019-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】391052622
【氏名又は名称】株式会社都ローラー工業
(71)【出願人】
【識別番号】312008833
【氏名又は名称】町田 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】町田 成司
(72)【発明者】
【氏名】町田 成康
(57)【要約】
【課題】 めっき層を備えた製品の輸入が禁止されている諸外国でも使用可能なめっきレスのDLC膜被覆カーボンロールを提供する。
【解決手段】 本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、炭素繊維強化プラスチックを含む材料からなるロール母材1の外側にDLC膜5が設けられたものである。ロール母材1の外側に硬質管4を設け、その硬質管4の外側にDLC膜5を設けることもできる。ロール母材1の外側に、硬質管4に代えてハードコート層を設け、そのハードコート層の外側にDLC膜5を設けることもできる。いずれの場合もDLC膜5の膜厚は2μm以上とするのが好ましい。ロール母材1とDLC膜5の間、硬質管4とDLC膜5の間、又はハードコート層とDLC膜5の間にはミキシング層を設けることもできる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物への塗液の塗布に用いるDLC膜被覆カーボンロールにおいて、
炭素繊維強化プラスチックを含む材料からなるロール母材の外側にDLC膜が設けられた、
ことを特徴とするDLC膜被覆カーボンロール。
【請求項2】
対象物への塗液の塗布に用いるDLC膜被覆カーボンロールにおいて、
炭素繊維強化プラスチックを含む材料からなるロール母材の外側に当該ロール母材よりも硬度の高い硬質管が設けられ、
前記硬質管の外側にDLC膜が設けられた、
ことを特徴とするDLC膜被覆カーボンロール。
【請求項3】
対象物への塗液の塗布に用いるDLC膜被覆カーボンロールにおいて、
炭素繊維強化プラスチックを含む材料からなるロール母材の外側に当該ロール母材よりも硬度の高いハードコート層が設けられ、
前記ハードコート層の外側にDLC膜が設けられた、
ことを特徴とするDLC膜被覆カーボンロール。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のDLC膜被覆カーボンロールにおいて、
DLC膜の膜厚が2μm以上である、
ことを特徴とするDLC膜被覆カーボンロール。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のDLC膜被覆カーボンロールにおいて、
ロール母材とDLC膜の間、硬質管とDLC膜の間、又はハードコート層とDLC膜の間にミキシング層が設けられた、
ことを特徴とするDLC膜被覆カーボンロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックロール(以下「CFRP」という)を含む材料からなるカーボンロール(塗布ロール)に関し、より詳しくは、カーボンロールの外周にDLC膜を備えたDLC膜被覆カーボンロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗布ロールの一種として、CFRPを含む材料からなるカーボンロール(特許文献1)が知られている。カーボンロールは、軽量、高強度、高剛性、高熱伝導率、低熱膨張等の特性を有し、様々な場面で利用されている。
【0003】
カーボンロールの外周には、高硬度、低摩擦係数、耐摩耗性、電気絶縁性、耐薬品性といった特性を有するDLC膜が設けられることがある。カーボンロールの外周にDLC膜を設ける場合、カーボンロールをロール母材とし、そのロール母材の外周にクロム(HCr)めっきやニッケル(Ni)めっき等のめっき層を形成し、そのめっき層の外側にDLC膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-189694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、ヨーロッパをはじめとする諸外国では、環境対策の一環としてHCrめっきやNiめっき等のめっき層を備えた製品の輸入が禁止される場合がある。このため、ヨーロッパ諸国へも輸出することができる、めっき層のない(めっきレスの)DLC膜被覆カーボンロールの提案が望まれている。
【0006】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、めっきレスのDLC膜被覆カーボンロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、炭素繊維強化プラスチックを含む材料からなるロール母材の外側にDLC膜が設けられたものである。ロール母材の外側に硬質管を設け、その硬質管の外側にDLC膜を設けることもできる。ロール母材の外側に、硬質管に代えてハードコート層を設け、そのハードコート層の外側にDLC膜を設けることもできる。いずれの場合もDLC膜の膜厚は2μm以上とするのが好ましい。ロール母材とDLC膜の間、硬質管とDLC膜の間、又はハードコート層とDLC膜の間にはミキシング層を設けることもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、めっき層を備えていないため、環境への影響が小さく、めっき層を備えた製品の使用が禁止されているヨーロッパ等でも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は本発明のDLC膜被覆カーボンロールの一例を示す正面図、(b)は(a)のIb部拡大図。
図2】DLC膜被覆カーボンロールの製造工程の一例を示すフローチャート。
図3】DLC膜の形成に用いる装置の一例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
本発明のDLC膜被覆カーボンロールの実施形態の一例を、図面を参照して説明する。ここでは、DLC膜被覆カーボンロールがグラビアロールの場合を一例として説明する。
【0011】
一例として図1(a)(b)に示すDLC膜被覆カーボンロールは、ロール母材1の外側に硬質管4が設けられ、その硬質管4の外側にDLC膜5が設けられている。この実施形態のロール母材1は、炭素繊維と熱硬化性樹脂(バインダー)が混練された材料をロール状に巻きつけて硬化させたカーボンロールである。ロール母材1は押出し成型(射出成型)によって成型することもできる。
【0012】
図1(a)(b)に示すように、この実施形態のロール母材1はパイプ状であり、ベアリング2を介して軸材3の外側に装備して使用される。ロール母材1は無垢材であってもよい。ロール母材1の外径や内径、長さ等は用途に応じて適宜設計することができる。
【0013】
ロール母材1の外側には、ロール母材1よりも硬度の高い硬質管4が設けられている。硬質管4には、例えば、SUS製やアルミニウム製のスリーブを用いることができる。
【0014】
この実施形態では、ロール母材1と硬質管4を図示しない接着剤で接着して両者の密着度を高めている。硬質管4は焼嵌めによってロール母材1の外側に装着することもできる。具体的には、ロール母材1の外側に熱膨張させた硬質管4を被せたのち、その硬質管4を冷却して収縮させることで、硬質管4をロール母材1に密着させることができる。
【0015】
図示は省略しているが、硬質管4の表面にはセルや彫刻などの凹凸を形成することもできる。硬質管4の表面に凹凸を設けることで、グラビアロールとして用いることができる。
【0016】
硬質管4の外周にはDLC膜5が設けられている。この実施形態のDLC膜5は、厚さ0.5~50μm程度、硬さ800~6000HV程度としてある。DLC膜5は膜厚2μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは6μm以上とする。
【0017】
DLC膜5の形成には、ソースガスにCH(メタン)やC(トルエン)、C(アセチレン)、C(ベンゼン)などの炭化水素系のガスを用いることができる。DLC膜5の構造に特に指定はないが、内部応力の緩和にSi(ケイ素)やO(酸素)、B(ホウ素)、N(窒素)、Cr(クロム)、Ti(チタン)などの第三元素を含有してもよい。
【0018】
この実施形態のDLC膜被覆カーボンロールは、硬質管4の表面に直接DLC膜5を形成するものであるが、両者の密着性を向上させるため、硬質管4とDLC膜5の間にHCrめっき層とは異なる中間層(以下「ミキシング層」という)を設けることもできる。
【0019】
ミキシング層は、SiやCr、Tiを主とするもの、窒素と化合物化したもの、又は、C(炭素)やH(水素)を一緒に含有したもの等とすることができる。ミキシング層は必要に応じて設ければよく、不要な場合は省略することができる。
【0020】
次に、前記DLC膜被覆カーボンロールの製造方法の一例について説明する。
【0021】
図2に示すように、前記DLC膜被覆カーボンロールは、例えば、母材製作工程S1、硬質管装着工程S2、クリーニング工程S3、ミキシング層形成工程S4及び成膜工程S5を経て製造することができる。クリーニング工程S3及びミキシング層形成工程S4は必要な場合のみ実施すればよく、不要な場合には省略することができる。
【0022】
前記各工程のうち、クリーニング工程S3、ミキシング層形成工程S4及び成膜工程S5は、図3に示す装置を用いて実施することができる。図3において、7は真空チャンバー、8はRF高周波電源、9はRF電極、10は高電圧パルス電源、11はガス注入口である。
【0023】
前記装置では、RF高周波電源8に代えてICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)電源を用いることもできる。ICP電源を用いることでRF高周波電源8よりもプラズマ密度が高くなり、RF高周波電源8を用いる場合よりも短時間でDLC膜5を厚くすることができる。
【0024】
前記母材製作工程S1では、CFRPと熱硬化性樹脂が混練された材料をロール状に巻きつけて硬化させ、ロール母材1を製作する。ロール母材1は、押出し成型(射出成型)によって製作することもできる。
【0025】
前記硬質管装着工程S2では、製作したロール母材1の外周に硬質管4を被せる。具体的には、ロール母材1の外径よりも内径が小さな硬質管4を加熱して膨張させ、ロール母材1の外側に被せる。その後、被せた硬質管4を自然冷却或いは強制冷却させることによってロール母材1の外周に密着させる。ロール母材1と硬質管4の間には接着剤(図示しない)を介在させることもできる。
【0026】
なお、硬質管4の表面に凹凸を設ける場合、凹凸は硬質管4をロール母材1の外周に被せる前に形成することも、硬質管4をロール母材1の外周に被せたあとに形成することもできる。
【0027】
前記クリーニング工程S3では、硬質管4を被せたロール母材1を真空チャンバー7のRF電極9内にセットし、真空チャンバー7内を真空状態にする。この状態で、硬質管4の表面の洗浄及び付着力向上を目的として、硬質管4の表面をアルゴン、水素イオンによりエッチング処理してクリーニングする。エッチング処理は従来と同様の方法で行うことができる。クリーニングは、例えば次の条件で行うことができる。
使用ガス :Ar、H
負パルス電圧:-1~-15kV
RF出力 :50~1500W
【0028】
前記ミキシング層形成工程S4では、ロール母材1の外側に被せた硬質管4の表面にHCrめっきを目的としないミキシング層(図示しない)を形成する。具体的には、硬質管4を被せたロール母材1を真空チャンバー7のRF電極9内にセットし、真空チャンバー7内を真空状態にする。ガス注入口11から原料ガス(例えば、C、Si)を真空チャンバー7内に注入し、Cラジカルを生成して硬質管4の表面にミキシング層を形成してDLCの付着力(密着性)を高める。
【0029】
なお、原料ガスとしてSiイオンを注入すると、Siがプライマーの役割を担うことができる。また、原料ガスとして、N、Ar(アルゴン)、CH、C、CF(四フッ化炭素)、C、H、B等の混合ガスを注入することもできる。ミキシング層の形成は、例えば次の条件で行うことができる。
使用ガス :HMDSOやHMDSやTMS(Si系ガス)、CH、C
負パルス電圧:-1~-15kV
RF出力 :50~1500W
【0030】
前記成膜工程S5では、ロール母材1の外側の硬質管4の表面(ミキシング層を形成した場合はその表面。以下同じ。)にDLC膜5を形成する。具体的には、硬質管4を被せたロール母材1がセットされた真空チャンバー7内を常温(望ましくは20℃~50℃程度)且つ真空状態にする。
【0031】
この状態で、RF高周波電源8により高周波電圧を印加して、硬質管4の周辺(具体的には、真空チャンバー7内のRF電極9の周辺)にプラズマを発生させ、高電圧パルス電源10によりロール母材1に負の高電圧パルスを印加する。
【0032】
その後、ガス注入口11から原料ガス(例えば、C、O)を真空チャンバー7内に注入して、その原料ガスを真空チャンバー7内で反応させ、硬質管4の表面にDLCを堆積させることによって、硬質管4の表面にDLC膜5を形成する。
【0033】
DLC膜5は膜厚1μm以上、好ましくは6μm以上とする。この製造方法では、DLC膜5を常温環境下で成膜するため、硬質管4が熱膨張しにくく、長時間かけて成膜してもロール母材1や硬質管4が変形しにくい。このため、長時間かけることで膜厚6μm以上のDLC膜5を成膜することができる。
【0034】
一般に、DLC膜5は高温下で形成されることがあるが、この場合、冷却後のロール母材1の収縮によってDLC膜5がロールの軸方向中心側に寄せられて、軸方向両外側に比べて中心に近い部分が膜厚となる(膜厚が不均一である)。
【0035】
これに対し、この成膜方法のようにDLC膜5を常温下で形成する場合、ロール母材1及び硬質管4が熱膨張しにくく、冷却時の収縮量が小さいため、ロール全体に略均一の膜厚のDLC膜5を得ることができる。なお、DLC膜5の膜厚は、例えば、成膜時間(高周波電源の印加時間)を長くすることで厚くすることができ、短くすることで薄くすることができる。
【0036】
DLC膜5については特に指定はなく、構成される主元素である炭素や水素の他にケイ素や窒素などの第三元素を有してもよい。また、DLC膜5は酸素を含む親水性DLC膜であってもよい。DLC膜5の形成は、例えば次の条件で行うことができる。
使用ガス :CH、C
負パルス電圧:-1~-15kV
RF出力 :50~1500W
【0037】
DLC膜5は2回以上に分けて形成することもできる。この場合、前記条件で1回目の成膜を行った後、例えば、次の条件で2回目の成膜を行うことができる。
使用ガス :C、C
負パルス電圧:-1~-15kV
RF出力 :50~1500W
【0038】
なお、DLC膜5の形成後、特に研磨などの工程を行わずに製品となる。
【0039】
本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、DLC膜5の形成後でも硬質管4の表面の凹凸形状は成膜前とほとんど変化せず、面積比にして10%以下である。
【0040】
なお、図2に示す製造工程は一例であり、本発明のDLC膜被覆カーボンロールはこれ以外の方法で製造することもできる。例えば、硬質管4の外側にめっき層を設けない場合には、図2に示す製造工程のうち、ミキシング層形成工程S4は省略することができる。
【0041】
また、ロール母材1として市販されている既製品を用いる場合、母材製作工程S1は省略することができる。
【0042】
(その他の実施形態)
前記実施形態では、ロール母材1の外側に硬質管4を被せ、その硬質管4の外側にDLC膜5を設ける場合を一例としているが、ロール母材1の外側には硬質管4に代えて、無機系コート剤を含むハードコート層(図示しない)を設け、そのハードコート層の外側にDLC膜5を設けることもできる。ハードコート層はロール母材1よりも硬度の高い層とする。
【0043】
ハードコート層は従来の各種方法で形成することができる。ハードコート層の厚さは特に限定されないが、一例として、0.1~1.0mm程度とすることができる。
【0044】
また、本発明のDLC膜被覆カーボンロールでは、ロール母材1の外側に硬質管4やハードコート層を設けずに、ロール母材1の外側に直接DLC膜5を設けることもできる。この場合も、DLC膜5は膜厚2μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは6μm以上とすることができる。ただし、一定の強度を確保するためには、膜厚6μm以上とするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、フィルムやガラス板等の機能性素材に塗液を塗布する各種塗布ロールとしても用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ロール母材(カーボンロール)
2 ベアリング
3 軸材
4 硬質管
5 DLC膜
7 真空チャンバー
8 RF高周波電源
9 RF電極
10 高電圧パルス電源
11 ガス注入口
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックロール(以下「CFRP」という)を含む材料からなるカーボンロール(塗布ロール)に関し、より詳しくは、カーボンロールの外周にDLC膜を備えたDLC膜被覆カーボンロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗布ロールの一種として、CFRPを含む材料からなるカーボンロール(特許文献1)が知られている。カーボンロールは、軽量、高強度、高剛性、高熱伝導率、低熱膨張等の特性を有し、様々な場面で利用されている。
【0003】
カーボンロールの外周には、高硬度、低摩擦係数、耐摩耗性、電気絶縁性、耐薬品性といった特性を有するDLC膜が設けられることがある。カーボンロールの外周にDLC膜を設ける場合、カーボンロールをロール母材とし、そのロール母材の外周にクロム(HCr)めっきやニッケル(Ni)めっき等のめっき層を形成し、そのめっき層の外側にDLC膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-189694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、ヨーロッパをはじめとする諸外国では、環境対策の一環としてHCrめっきやNiめっき等のめっき層を備えた製品の輸入が禁止される場合がある。このため、ヨーロッパ諸国へも輸出することができる、めっき層のない(めっきレスの)DLC膜被覆カーボンロールの提案が望まれている。
【0006】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、めっきレスのDLC膜被覆カーボンロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、炭素繊維強化プラスチックを含む材料からなるロール母材の外側にDLC膜が設けられたものである。ロール母材の外側に硬質管を設け、その硬質管の外側にDLC膜を設けることもできる。ロール母材の外側に、硬質管に代えてハードコート層を設け、そのハードコート層の外側にDLC膜を設けることもできる。いずれの場合もDLC膜の膜厚は2μm以上とするのが好ましい。ロール母材とDLC膜の間、硬質管とDLC膜の間、又はハードコート層とDLC膜の間にはミキシング層を設けることもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、めっき層を備えていないため、環境への影響が小さく、めっき層を備えた製品の使用が禁止されているヨーロッパ等でも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は本発明のDLC膜被覆カーボンロールの一例を示す正面図、(b)は(a)のIb部拡大図。
図2】DLC膜被覆カーボンロールの製造工程の一例を示すフローチャート。
図3】DLC膜の形成に用いる装置の一例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態)
本発明のDLC膜被覆カーボンロールの実施形態の一例を、図面を参照して説明する。ここでは、DLC膜被覆カーボンロールがグラビアロールの場合を一例として説明する。
【0011】
一例として図1(a)(b)に示すDLC膜被覆カーボンロールは、ロール母材1の外側に硬質管4が設けられ、その硬質管4の外側にDLC膜5が設けられている。この実施形態のロール母材1は、炭素繊維と熱硬化性樹脂(バインダー)が混練された材料をロール状に巻きつけて硬化させたカーボンロールである。ロール母材1は押出し成型(射出成型)によって成型することもできる。
【0012】
図1(a)(b)に示すように、この実施形態のロール母材1はパイプ状であり、ベアリング2を介して軸材3の外側に装備して使用される。ロール母材1は無垢材であってもよい。ロール母材1の外径や内径、長さ等は用途に応じて適宜設計することができる。
【0013】
ロール母材1の外側には、ロール母材1よりも硬度の高い硬質管4が設けられている。硬質管4には、例えば、SUS製やアルミニウム製のスリーブを用いることができる。
【0014】
この実施形態では、ロール母材1と硬質管4を図示しない接着剤で接着して両者の密着度を高めている。硬質管4は焼嵌めによってロール母材1の外側に装着することもできる。具体的には、ロール母材1の外側に熱膨張させた硬質管4を被せたのち、その硬質管4を冷却して収縮させることで、硬質管4をロール母材1に密着させることができる。
【0015】
図示は省略しているが、硬質管4の表面にはセルや彫刻などの凹凸を形成することもできる。硬質管4の表面に凹凸を設けることで、グラビアロールとして用いることができる。
【0016】
硬質管4の外周にはDLC膜5が設けられている。この実施形態のDLC膜5は、厚さ0.5~50μm程度、硬さ800~6000HV程度としてある。DLC膜5は膜厚2μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは6μm以上とする。
【0017】
DLC膜5の形成には、ソースガスにCH(メタン)やC(トルエン)、C(アセチレン)、C(ベンゼン)などの炭化水素系のガスを用いることができる。DLC膜5の構造に特に指定はないが、内部応力の緩和にSi(ケイ素)やO(酸素)、B(ホウ素)、N(窒素)、Cr(クロム)、Ti(チタン)などの第三元素を含有してもよい。
【0018】
この実施形態のDLC膜被覆カーボンロールは、硬質管4の表面に直接DLC膜5を形成するものであるが、両者の密着性を向上させるため、硬質管4とDLC膜5の間にHCrめっき層とは異なる中間層(以下「ミキシング層」という)を設けることもできる。
【0019】
ミキシング層は、SiやCr、Tiを主とするもの、窒素と化合物化したもの、又は、C(炭素)やH(水素)を一緒に含有したもの等とすることができる。ミキシング層は必要に応じて設ければよく、不要な場合は省略することができる。
【0020】
次に、前記DLC膜被覆カーボンロールの製造方法の一例について説明する。
【0021】
図2に示すように、前記DLC膜被覆カーボンロールは、例えば、母材製作工程S1、硬質管装着工程S2、クリーニング工程S3、ミキシング層形成工程S4及び成膜工程S5を経て製造することができる。クリーニング工程S3及びミキシング層形成工程S4は必要な場合のみ実施すればよく、不要な場合には省略することができる。
【0022】
前記各工程のうち、クリーニング工程S3、ミキシング層形成工程S4及び成膜工程S5は、図3に示す装置を用いて実施することができる。図3において、7は真空チャンバー、8はRF高周波電源、9はRF電極、10は高電圧パルス電源、11はガス注入口である。
【0023】
前記装置では、RF高周波電源8に代えてICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)電源を用いることもできる。ICP電源を用いることでRF高周波電源8よりもプラズマ密度が高くなり、RF高周波電源8を用いる場合よりも短時間でDLC膜5を厚くすることができる。
【0024】
前記母材製作工程S1では、CFRPと熱硬化性樹脂が混練された材料をロール状に巻きつけて硬化させ、ロール母材1を製作する。ロール母材1は、押出し成型(射出成型)によって製作することもできる。
【0025】
前記硬質管装着工程S2では、製作したロール母材1の外周に硬質管4を被せる。具体的には、ロール母材1の外径よりも内径が小さな硬質管4を加熱して膨張させ、ロール母材1の外側に被せる。その後、被せた硬質管4を自然冷却或いは強制冷却させることによってロール母材1の外周に密着させる。ロール母材1と硬質管4の間には接着剤(図示しない)を介在させることもできる。
【0026】
なお、硬質管4の表面に凹凸を設ける場合、凹凸は硬質管4をロール母材1の外周に被せる前に形成することも、硬質管4をロール母材1の外周に被せたあとに形成することもできる。
【0027】
前記クリーニング工程S3では、硬質管4を被せたロール母材1を真空チャンバー7のRF電極9内にセットし、真空チャンバー7内を真空状態にする。この状態で、硬質管4の表面の洗浄及び付着力向上を目的として、硬質管4の表面をアルゴン、水素イオンによりエッチング処理してクリーニングする。エッチング処理は従来と同様の方法で行うことができる。クリーニングは、例えば次の条件で行うことができる。
使用ガス :Ar、H
負パルス電圧:-1~-15kV
RF出力 :50~1500W
【0028】
前記ミキシング層形成工程S4では、ロール母材1の外側に被せた硬質管4の表面にHCrめっきを目的としないミキシング層(図示しない)を形成する。具体的には、硬質管4を被せたロール母材1を真空チャンバー7のRF電極9内にセットし、真空チャンバー7内を真空状態にする。ガス注入口11から原料ガス(例えば、C、Si)を真空チャンバー7内に注入し、Cラジカルを生成して硬質管4の表面にミキシング層を形成してDLCの付着力(密着性)を高める。
【0029】
なお、原料ガスとしてSiイオンを注入すると、Siがプライマーの役割を担うことができる。また、原料ガスとして、N、Ar(アルゴン)、CH、C、CF(四フッ化炭素)、C、H、B等の混合ガスを注入することもできる。ミキシング層の形成は、例えば次の条件で行うことができる。
使用ガス :HMDSOやHMDSやTMS(Si系ガス)、CH、C
負パルス電圧:-1~-15kV
RF出力 :50~1500W
【0030】
前記成膜工程S5では、ロール母材1の外側の硬質管4の表面(ミキシング層を形成した場合はその表面。以下同じ。)にDLC膜5を形成する。具体的には、硬質管4を被せたロール母材1がセットされた真空チャンバー7内を常温(望ましくは20℃~50℃程度)且つ真空状態にする。
【0031】
この状態で、RF高周波電源8により高周波電圧を印加して、硬質管4の周辺(具体的には、真空チャンバー7内のRF電極9の周辺)にプラズマを発生させ、高電圧パルス電源10によりロール母材1に負の高電圧パルスを印加する。
【0032】
その後、ガス注入口11から原料ガス(例えば、C、O)を真空チャンバー7内に注入して、その原料ガスを真空チャンバー7内で反応させ、硬質管4の表面にDLCを堆積させることによって、硬質管4の表面にDLC膜5を形成する。
【0033】
DLC膜5は膜厚1μm以上、好ましくは6μm以上とする。この製造方法では、DLC膜5を常温環境下で成膜するため、硬質管4が熱膨張しにくく、長時間かけて成膜してもロール母材1や硬質管4が変形しにくい。このため、長時間かけることで膜厚6μm以上のDLC膜5を成膜することができる。
【0034】
一般に、DLC膜5は高温下で形成されることがあるが、この場合、冷却後のロール母材1の収縮によってDLC膜5がロールの軸方向中心側に寄せられて、軸方向両外側に比べて中心に近い部分が膜厚となる(膜厚が不均一である)。
【0035】
これに対し、この成膜方法のようにDLC膜5を常温下で形成する場合、ロール母材1及び硬質管4が熱膨張しにくく、冷却時の収縮量が小さいため、ロール全体に略均一の膜厚のDLC膜5を得ることができる。なお、DLC膜5の膜厚は、例えば、成膜時間(高周波電源の印加時間)を長くすることで厚くすることができ、短くすることで薄くすることができる。
【0036】
DLC膜5については特に指定はなく、構成される主元素である炭素や水素の他にケイ素や窒素などの第三元素を有してもよい。また、DLC膜5は酸素を含む親水性DLC膜であってもよい。DLC膜5の形成は、例えば次の条件で行うことができる。
使用ガス :CH、C
負パルス電圧:-1~-15kV
RF出力 :50~1500W
【0037】
DLC膜5は2回以上に分けて形成することもできる。この場合、前記条件で1回目の成膜を行った後、例えば、次の条件で2回目の成膜を行うことができる。
使用ガス :C、C
負パルス電圧:-1~-15kV
RF出力 :50~1500W
【0038】
なお、DLC膜5の形成後、特に研磨などの工程を行わずに製品となる。
【0039】
本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、DLC膜5の形成後でも硬質管4の表面の凹凸形状は成膜前とほとんど変化せず、面積比にして10%以下である。
【0040】
なお、図2に示す製造工程は一例であり、本発明のDLC膜被覆カーボンロールはこれ以外の方法で製造することもできる。例えば、硬質管4の外側にめっき層を設けない場合には、図2に示す製造工程のうち、ミキシング層形成工程S4は省略することができる。
【0041】
また、ロール母材1として市販されている既製品を用いる場合、母材製作工程S1は省略することができる。
【0042】
(その他の実施形態)
前記実施形態では、ロール母材1の外側に硬質管4を被せ、その硬質管4の外側にDLC膜5を設ける場合を一例としているが、ロール母材1の外側には硬質管4に代えて、無機系コート剤を含むハードコート層(図示しない)を設け、そのハードコート層の外側にDLC膜5を設けることもできる。ハードコート層はロール母材1よりも硬度の高い層とする。
【0043】
ハードコート層は従来の各種方法で形成することができる。ハードコート層の厚さは特に限定されないが、一例として、0.1~1.0mm程度とすることができる。
【0044】
また、本発明のDLC膜被覆カーボンロールでは、ロール母材1の外側に硬質管4やハードコート層を設けずに、ロール母材1の外側に直接DLC膜5を設けることもできる。この場合も、DLC膜5は膜厚2μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは6μm以上とすることができる。ただし、一定の強度を確保するためには、膜厚6μm以上とするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のDLC膜被覆カーボンロールは、フィルムやガラス板等の機能性素材に塗液を塗布する各種塗布ロールとしても用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ロール母材(カーボンロール)
2 ベアリング
3 軸材
4 硬質管
5 DLC膜
7 真空チャンバー
8 RF高周波電源
9 RF電極
10 高電圧パルス電源
11 ガス注入口
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素繊維強化プラスチックを含む材料からなるロール母材を備えたロールにおいて、
前記ロール母材の外側に、当該ロール母材よりも硬度の高い硬質管が焼嵌めによって設けられた、
ことを特徴とするロール。
【請求項2】
請求項1記載のロールにおいて、
硬質管の外側にDLC膜が設けられた、
ことを特徴とするロール。
【請求項3】
請求項2記のロールにおいて、
DLC膜の膜厚が2μm以上である、
ことを特徴とするロール。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記のロールにおいて、
質管とDLC膜の間にミキシング層が設けられた、
ことを特徴とするロール。
【請求項5】
請求項1又は請求項2記載のロールにおいて、
ロール母材と硬質管の間、硬質管とDLC膜の間及びDLC膜の外側のいずれにもめっき層が設けられていない、
ことを特徴とするロール。