(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173331
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】寛容を誘導するために正常B細胞を枯渇させるためのCART19の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20221111BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20221111BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221111BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20221111BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20221111BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221111BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P37/06
A61K35/17 Z
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150897
(22)【出願日】2022-09-22
(62)【分割の表示】P 2020113687の分割
【原出願日】2013-07-12
(31)【優先権主張番号】61/671,508
(32)【優先日】2012-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】レービン ブルース エル.
(72)【発明者】
【氏名】カロス マイケル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ジューン カール エイチ.
(57)【要約】
【課題】ヒトにおける寛容を誘導するための組成物および方法の提供。
【解決手段】CARを発現する遺伝子改変されたT細胞を投与する段階を含み、該CARは抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるB細胞を枯渇させる方法であって、
CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を対象に投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階
を含み、それにより、該対象におけるB細胞を枯渇させる、方法。
【請求項2】
対象における寛容を促進する方法であって、
CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を対象に投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階
を含み、それにより、該対象における寛容を促進する、方法。
【請求項3】
前記寛容が移植組織に対する移植寛容である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子改変された細胞がB細胞を枯渇させる、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子改変された細胞が移植組織と同時に投与される、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子改変された細胞が移植組織の投与の前に投与される、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子改変された細胞が移植組織の投与後に投与される、請求項2記載の方法。
【請求項8】
移植片対宿主病(GVHD)を治療するための方法であって、
それを必要とする対象に、CARを発現するように遺伝子改変された細胞を投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階
を含み、それにより、該対象におけるGVHDを治療する、方法。
【請求項9】
前記遺伝子改変された細胞がB細胞を枯渇させる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子改変された細胞が移植組織と同時に投与される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記遺伝子改変された細胞が移植組織の投与の前に投与される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子改変された細胞が移植組織の投与後に投与される、請求項8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年7月13日に提出された米国仮出願第61/671,508号の優先権を主張し、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
遺伝子移入技術を用いて、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に依存しない新規な抗原特異性を付与する抗体結合ドメインを表面に安定的に発現するように、T細胞を遺伝子改変することができる。キメラ抗原受容体(CAR)は、特異的抗体の抗原認識ドメインとCD3-z鎖またはFcgRIタンパク質の細胞内ドメインとを組み合わせて単一のキメラタンパク質とするこのアプローチを適用したものの1つである(Gross et al., 1989 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:10024-10028(非特許文献1);Irving et al., 1991 Cell 64:891-901(非特許文献2))。CARを試験する治験が現在、いくつかの大学医療センターで進行中である(Kohn et al. 2011 Mol. Ther. 19:432-438(非特許文献3);Jena et al., 2010 Blood 116:1035-1044(非特許文献4))。ほとんどの癌では、腫瘍特異的抗原はまだあまり明確になっていないが、B細胞悪性腫瘍では、CD19が注目される腫瘍標的である。CD19の発現は正常B細胞および悪性B細胞に限られ(Uckun et al., 1988 Blood 71: 13-29(非特許文献5))、そのため、CD19はCARを安全に試験するための標的として広く受け入れられている。CARは内因性T細胞受容体と類似した様式でT細胞活性化を誘発しうるものの、CAR+ T細胞のインビボでの増大(expansion)が限定的なこと、輸注後の細胞の急速な消失、および臨床活性が期待にそぐわないことが、この技術の臨床適用に対する主な障害となっている(Jena et al., 2010 Blood 116: 1035-1044(非特許文献4);Sadelain et al., 2009 Curr. Opin. Immunol. 21: 215-223(非特許文献6))。
【0003】
CAR媒介性T細胞応答は、共刺激ドメインの追加によってさらに強化される可能性がある。ある前臨床モデルでは、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメインを含めることにより、CD3-z鎖のみを含めたものと比較して、CARの抗腫瘍活性およびインビボ存続性が有意に増加することが見いだされた(Milone et al., 2009 Mol. Ther. 17, 1453-1464(非特許文献7);Carpenito et al., 2009 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106: 3360-3365(非特許文献8))。そのようなCARを発現するように遺伝子改変されたT細胞の養子移入に関する安全性および実現可能性を評価するために、CD19+悪性腫瘍を標的とするように、CD3-zおよび4-1BB共刺激ドメインの両方を含む抗CD19 CARを発現する自己T細胞(CART19細胞)を用いるパイロット臨床試験が実施された。3人の患者がこのプロトコール下で治療されている。これらの患者のうち1人からの所見のいくつかが記載されており(Porter et al., 2011 N. Engl. J. Med. 365: 8(非特許文献9))、これには、この治療が腫瘍退縮、CART19細胞の存続性、および予期されなかった遅発性腫瘍溶解症候群の発生をもたらすことが報告されている。また、CART19細胞が、治療を受けた患者3人の全例において強力な臨床的抗腫瘍効果を媒介したことも観察された。輸注された各CAR T細胞および/またはそれらの子孫は、進行した化学療法抵抗性慢性リンパ性白血病(CLL)の患者において、平均で1000個を上回る白血病細胞をインビボで消失させた。CART19細胞は、頑健なインビボT細胞増大を起こし、血液中および骨髄(BM)内に少なくとも6カ月にわたって高いレベルで存続し、メモリー表現型を有する細胞上に機能性受容体を発現し続け、インビボで抗CD19エフェクター機能を維持した。しかし、CAR19構築物が、マウス配列(抗体決定因子)と、CAR19構築物の異なる構成要素間にある特有の接合フラグメントとの両方を含むことを考慮すれば、CART19細胞がヒト宿主による拒絶反応をどのようにして回避するかは依然として不明である。
【0004】
したがって、CART19細胞の長期存続性の機序、およびこれらの細胞がヒト宿主によって拒絶されない理由に関して、当技術分野には依然として需要が存在する。本発明はこの需要に応える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gross et al., 1989 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:10024-10028
【非特許文献2】Irving et al., 1991 Cell 64:891-901
【非特許文献3】Kohn et al. 2011 Mol. Ther. 19:432-438
【非特許文献4】Jena et al., 2010 Blood 116:1035-1044
【非特許文献5】Uckun et al., 1988 Blood 71: 13-29
【非特許文献6】Sadelain et al., 2009 Curr. Opin. Immunol. 21: 215-223
【非特許文献7】Milone et al., 2009 Mol. Ther. 17, 1453-1464
【非特許文献8】Carpenito et al., 2009 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106: 3360-3365
【非特許文献9】Porter et al., 2011 N. Engl. J. Med. 365: 8
【発明の概要】
【0006】
本発明は、対象におけるB細胞を枯渇させる方法を提供する。1つの態様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を対象に投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階を含み、それにより、該対象におけるB細胞を枯渇させる。
【0007】
本発明は、対象における寛容を促進する方法を提供する。1つの態様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を対象に投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階を含み、それにより、該対象における寛容を促進する。
【0008】
1つの態様において、寛容は移植組織に対する移植寛容である。
【0009】
1つの態様において、遺伝子改変された細胞はB細胞を枯渇させる。
【0010】
1つの態様において、遺伝子改変された細胞は移植組織と同時に投与される。
【0011】
1つの態様において、遺伝子改変された細胞は移植組織の投与の前に投与される。
【0012】
1つの態様において、遺伝子改変された細胞は移植組織の投与後に投与される。
【0013】
本発明は、移植片対宿主病(GVHD)を治療するための方法を提供する。1つの態様において、本方法は、それを必要とする対象に、CARを発現するように遺伝子改変された細胞を投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階を含み、それにより、該対象におけるGVHDを治療する。
【0014】
1つの態様において、遺伝子改変された細胞はB細胞を枯渇させる。
【0015】
1つの態様において、遺伝子改変された細胞は移植組織と同時に投与される。
【0016】
1つの態様において、遺伝子改変された細胞は移植組織の投与の前に投与される。
【0017】
1つの態様において、遺伝子改変された細胞は移植組織の投与後に投与される。
[本発明1001]
対象におけるB細胞を枯渇させる方法であって、
CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を対象に投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階
を含み、それにより、該対象におけるB細胞を枯渇させる、方法。
[本発明1002]
対象における寛容を促進する方法であって、
CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を対象に投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階
を含み、それにより、該対象における寛容を促進する、方法。
[本発明1003]
前記寛容が移植組織に対する移植寛容である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記遺伝子改変された細胞がB細胞を枯渇させる、本発明1002の方法。
[本発明1005]
前記遺伝子改変された細胞が移植組織と同時に投与される、本発明1002の方法。
[本発明1006]
前記遺伝子改変された細胞が移植組織の投与の前に投与される、本発明1002の方法。
[本発明1007]
前記遺伝子改変された細胞が移植組織の投与後に投与される、本発明1002の方法。
[本発明1008]
移植片対宿主病(GVHD)を治療するための方法であって、
それを必要とする対象に、CARを発現するように遺伝子改変された細胞を投与する段階であって、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該抗原結合ドメインがB細胞表面マーカーを標的とする、段階
を含み、それにより、該対象におけるGVHDを治療する、方法。
[本発明1009]
前記遺伝子改変された細胞がB細胞を枯渇させる、本発明1008の方法。
[本発明1010]
前記遺伝子改変された細胞が移植組織と同時に投与される、本発明1008の方法。
[本発明1011]
前記遺伝子改変された細胞が移植組織の投与の前に投与される、本発明1008の方法。
[本発明1012]
前記遺伝子改変された細胞が移植組織の投与後に投与される、本発明1008の方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の好ましい態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことにより、より良く理解されるであろう。本発明を実例で説明するために、現時点で好ましい態様を図面として示している。しかし、本発明は、図面中に示された態様の厳密な配置および手段には限定されないことが理解されるべきである。
【
図1A】血液におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 01から入手した試料である、全血から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3つ組の測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3つのうち少なくとも2つで、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日および第2日に輸注した。
【
図1B】血液におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 02から入手した試料である、全血から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3つ組の測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3つのうち少なくとも2つで、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日、第2日および第11日に輸注した。
【
図1C】血液におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 03から入手した試料である、全血から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3つ組の測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3つのうち少なくとも2つで、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日および第2日に輸注した。
【
図1D】骨髄におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 01から入手した試料である、骨髄から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3つ組の測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3つのうち少なくとも2つで、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日および第2日に輸注した。
【
図1E】骨髄におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 02から入手した試料である、骨髄から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3つ組の測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3つのうち少なくとも2つで、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日、第2日および第11日に輸注した。
【
図1F】骨髄におけるCART19細胞の持続的なインビボ増大および存続性を明示している一連の画像である。UPN 03から入手した試料である、骨髄から単離されたDNAを、CART19配列を検出および定量するための認定アッセイを用いるQ-PCR分析に一括して供した。各データポイントは100~200ngのゲノムDNAに対する3つ組の測定値の平均を表しており、最大% CVは1.56%未満であった。アッセイの合格/不合格パラメーターには、増幅の勾配および効率、ならびに参照基準試料の増幅に関してあらかじめ定めた範囲を含めた。標準曲線の範囲によって確定されたアッセイの定量下限は、導入遺伝子2コピー/μgゲノムDNAであった;その数を下回る試料の値は推定値とみなし、反復試験値(replicate)3つのうち少なくとも2つで、15%の値を% CVに用いてCt値が生成される場合に提示した。CART19細胞は、第0日、第1日および第2日に輸注した。
【
図2A】
図2A~2Cで構成される
図2は、インビボでの長期にわたる表面CART19発現および機能的なメモリーCARの樹立を描写している一連の画像である。
図2Aは、CARを発現するCD3+リンパ球の検出、ならびに末梢および骨髄におけるB細胞の欠如を描写している。CART19細胞輸注後の第169日にUPN 03から入手した、新たに処理した末梢血または骨髄の単核細胞を、CAR19の表面発現(上)またはB細胞の存在(下)に関して、フローサイトメトリーによって評価した;対照として、健常ドナーND365から入手したPBMCを染色した。CD3+リンパ球におけるCAR19発現を評価するために、試料をCD14-PE-Cy7およびCD16-PE-Cy7(ダンプチャンネル)ならびにCD3-FITCに対する抗体で共染色し、CD3+に対する陽性ゲーティングを行い、CD8+およびCD8-リンパ球区画におけるCAR19発現に関して、CD8a-PEおよびAlexa-647結合抗CAR19イディオタイプ抗体による共染色によって評価した。プロット内のデータはダンプチャンネル陰性/CD3陽性細胞集団に対してゲーティングされている。B細胞の存在を評価するために、試料をCD14-APCおよびCD3-FITCに対する抗体で共染色し(ダンプチャンネル)、CD20-PEおよびCD19-PE-Cy-7に対する抗体による共染色によって、ダンプチャンネル陰性画分におけるB細胞の存在に関して評価した。いずれの場合にも、
図2Bおよび2Cに描写されているように、非染色対照に対する陰性ゲート象限が確定された。CD4+(
図2B)およびCD8+(
図2C)T細胞サブセットのT細胞免疫表現型判定を示している。T細胞輸注後の第56日および第169日にアフェレーシスによって入手したUPN 03由来の凍結末梢血試料を、因子を添加せずに培地中に一晩静置し、洗浄して、T細胞の記憶、活性化および枯渇のマーカーの発現に関する多パラメーター免疫表現型判定に供した。
図6に描写したようなゲーティング戦略は、ダンプチャンネル(CD14、CD16、Live/Dead Aqua)陰性およびCD3陽性の細胞に対する初期ゲーティング、ならびにその後のCD4+およびCD8+細胞に対する陽性ゲートを伴う。ゲートおよび象限は、FMO対照(CAR、CD45RA、PD-1、CD25、CD127、CCR7)を用いて、または陽性細胞集団(CD3、CD4、CD8)および明確に描出されるサブセット(CD27、CD28、CD57)に対するゲーティングによって確定された;データは、事象の客観的可視化のための二指数(bi-exponential)変換後に提示した。存続CAR細胞の機能的応答能(competence)が以下の実験において示された。T細胞輸注後の第56日および第169日にアフェレーシスによって入手したUPN 03由来の凍結末梢血試料を、因子を加えずに培地中で一晩静置し、洗浄した上で、CD19を発現する標的細胞を認識する能力を、CD107脱顆粒アッセイを用いてエクスビボで直接的に評価した。抗CD28、抗CD49dおよびCD107-FITCの存在下における2時間のインキュベーション後に、細胞混合物を採取し、洗浄して、CART19細胞がCD19を発現する標的に対して反応して脱顆粒を行う能力を評価するための多パラメーターフローサイトメトリー分析に供した。ゲーティング戦略には、ダンプチャンネル(CD14-PE-Cy7、CD16-PE-Cy7、Live/Dead Aqua)陰性およびCD3-PE-陽性の細胞に対する初期ゲート、ならびにその後のCD8-PE-テキサスレッド陽性細胞に対するゲーティングを含めた;提示されているデータは、CD8+ゲート集団に関するものである。いずれの場合にも、陰性ゲート象限が非染色対照に対して確定された。
【
図3A】CART19細胞の輸注後の臨床的奏効を評価する実験の結果を描写している画像である。UPN 02を、2サイクルのリツキシマブおよびベンダムスチンで治療したところ、奏効がわずかであったことを描写している(R/B、矢印)。ベンダムスチンのみの投与の4日後から、CART19 T細胞を輸注した(B、矢印)。リツキシマブおよびベンダムスチンに対して抵抗性の白血病は、輸注から18日以内にリンパ球絶対数(ALC)が60,600/μlから200/μlに減少したことによって指し示されるように、血液から急速に除去された。疲労感および非感染性発熱症候群を理由として、輸注後の第18日にコルチコステロイド治療を開始した。基準線(点線)は、ALCに関する正常上限を指し示している。
【
図3B】CART19細胞の輸注後の臨床的奏効を評価する実験の結果を描写している画像である。患者UPN 01および03由来の連続的な骨髄生検試料または血塊標本をCD20に関して染色した実験例の結果を描写している。両方の患者に存在した白血病の治療前浸潤は治療後標本には存在せず、これは細胞密度(cellularity)および三血球系造血の正常化を伴った。UPN 01は骨髄中にも血液中にも、フローサイトメトリー、細胞遺伝学検査および蛍光インサイチューハイブリダイゼーションによる評価で検出されるCLL細胞も、フローサイトメトリーによって検出される正常B細胞も有しなかった。UPN 03は、第+23日のフローサイトメトリーによって、残留正常CD5陰性B細胞を5%有することが確かめられ、それらがポリクローナル性であることも示された;第+176日に正常B細胞は検出されなかった。
【
図3C】CART19細胞の輸注後の臨床的奏効を評価する実験の結果を描写している画像である。化学療法抵抗性の全身性リンパ節症の急速な消散を評価するために連続CTイメージングを用いた実験の結果を描写している。両側性の腋窩腫瘤が、矢印および丸印によって指し示されるように、輸注後の第83日(UPN 01)および第31日(UPN 03)までに消散した。
【
図4】
図4A~4Cで構成される
図4は、UPN 01、02、03について流血中のリンパ球絶対数および総CART19+細胞を描写している一連の画像である。対象3人全員について、CBC値によるリンパ球絶対数を用い、かつ血液容量5.0Lと仮定した上で、流血中のリンパ球の総数(正常細胞とCLL細胞の合計)を総CART19+細胞に対してプロットしている。流血中のCART19細胞の総数は、
図1に描写したように、タンデムCBC値をリンパ球絶対数およびQ-PCR表示値とともに用いることによって算出し、本明細書中の別所に記載したようにして、コピー数/ug DNAを平均%表示値に換算した。Q-PCR %表示値は、輸注製品のフローサイトメトリー特性、およびCART19細胞を染色によって直接的に計数するための同時フローサイトメトリーデータが入手可能であった試料からのデータとよく相関すること(偏差の2倍未満)が見いだされた。
【
図5】
図5A~5Dで構成される
図5は、T細胞輸注後71日のUPN-01 PBMCにおけるCART19陽性細胞の直接的なエクスビボ検出を伴う実験を描写している一連の画像である。輸注後の第71日にアフェレーシス直後に収集したか、またはアフェレーシス時点でT細胞製品の製造のために凍結して(ベースライン)、染色前に生存性を保って解凍したかのいずれかであるUPN-01 PBMCを、CAR19モイエティーを表面で発現するCART19細胞の存在を検出するためのフローサイトメトリー分析に供した。リンパ球におけるCAR19の発現を評価するために、試料をCD3-PEおよびAlexa-647結合抗CAR19イディオタイプ抗体で共染色するか、またはCD3-PEのみ(CAR19に対してはFMO)で共染色した。
図5Aは、初期リンパ球ゲートを前方散乱および側方散乱(FSC 対 SSC)に基づいて確定し、その後にCD3+細胞に対するゲーティングを行ったことを描写している。
図5BはCD3+リンパ球ゲートを描写している;
図5CはCARイディオタイプ染色を描写している;
図5Dは、CARイディオタイプFMOを描写している。CAR19陽性ゲートが、CAR19 FMO試料に対して確定された。
【
図6】
図6A~6Cで構成される
図6は、UPN 03血液標本において多染性フローサイトメトリーを用いることによってCART19発現を同定するためのゲーティング戦略を描写している一連の画像である。
図6Cに関するゲーティング戦略はUPN 03の第56日試料について示されており、これはUPN 03の第169日試料に対して用いた戦略の代表である。
図6Aは一次ゲートを描写している:ダンプ(CD14、CD16、LIVE/dead Aqua)陰性、CD3陽性。
図6Bは二次ゲートを描写している:CD4陽性、CD8陽性。
図6Cは三次ゲートを描写している:CAR19陽性およびCAR19陰性、これはCAR FMO試料(最も右側のパネル)に対して確定された。
【
図7】患者の背景および奏効性をまとめた画像である。
【
図8】CART19の長期的発現を描写している画像である。
【
図9A】高度のB細胞形成不全を描写している一連の画像である。
【
図9B】高度のB細胞形成不全を描写している一連の画像である。
【
図10】患者3人の全例における形質細胞の減少を実証している画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本発明は、一部には、CD3zおよび4-1BB共刺激ドメインの両方を含む抗CD19 CARを発現するT細胞(CART19細胞)が、哺乳動物宿主内に長期間にわたって存続したという驚くべき発見に基づく。例えば、現時点で、表面CAR19を発現する細胞は、CAR19 T細胞の輸注後21カ月間にわたって哺乳動物宿主内に存在したことが観察されている。したがって、本発明は、それを必要とする哺乳動物に対して、哺乳動物における寛容を誘導するためにB細胞を標的とするCARを投与することにより、哺乳動物における正常B細胞を枯渇させるための方法を提供する。
【0020】
本発明は、B細胞を枯渇させ、それ故に寛容を誘導するための組成物および方法に関する。本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように形質導入を受けたT細胞の養子細胞移入の方法に関する。CARとは、特異的な抗B細胞細胞免疫活性を呈するキメラタンパクを作製するために、抗体に基づく標的抗原(例えば、B細胞抗原)に対する特異性と、T細胞受容体を活性化する細胞内ドメインとを組み合わせた分子のことである。
【0021】
1つの態様において、本発明のCARは、B細胞抗原を標的とする抗原認識ドメインを有する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインを含む。
【0022】
1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、所望のCARを含むレンチウイルスベクターを導入することによって作製することができる。本発明のCAR T細胞はインビボで複製することができ、これにより、持続的なB細胞枯渇および寛容につながりうる長期存続性がもたらされる。
【0023】
1つの態様において、本発明は、CARを発現する遺伝子改変されたT細胞を、移植片対宿主病(GVHD)、拒絶反応エピソード、または移植後リンパ増殖性障害の発生率、重症度または持続時間を有効に低下させるために投与することに関する。
【0024】
定義
別に定める場合を除き、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されたものと同様または同等な任意の方法および材料を本発明の試験のために実地に用いることができるが、本明細書では好ましい材料および方法について説明する。本発明の説明および特許請求を行う上では、以下の専門用語を用いる。
【0025】
また、本明細書中で用いる専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、限定的であることは意図しないことも理解される必要がある。
【0026】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は、本明細書において、その冠詞の文法的目的語の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指して用いられる。一例として、「1つの要素」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0027】
量、時間的長さなどの測定可能な値に言及する場合に本明細書で用いる「約」は、特定された値からの±20%または±10%、場合によっては±5%、場合によっては±1%、場合によっては±0.1%のばらつきを範囲に含むものとするが、これはそのようなばらつきが、開示された方法を実施する上で妥当なためである。
【0028】
「活性化」とは、本明細書で用いる場合、検出可能な細胞増殖を誘導するように十分に刺激されたT細胞の状態のことを指す。また、活性化が、サイトカイン産生の誘導および検出可能なエフェクター機能を伴うこともある。「活性化されたT細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を行っているT細胞のことを指す。
【0029】
「抗体」という用語は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子のことを指す。抗体は、天然供給源または組換え供給源に由来する無傷の免疫グロブリンであってもよく、無傷の免疫グロブリンの免疫応答部分であってもよい。抗体は、免疫グロブリン分子のテトラマーであることが多い。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、FabおよびF(ab)2、ならびに単鎖抗体およびヒト化抗体を含む、種々の形態で存在しうる(Harlow et al., 1999, In: Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY;Harlow et al., 1989, In: Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York;Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883;Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0030】
「抗体フラグメント」という用語は、無傷の抗体の一部分のことを指し、無傷の抗体の抗原決定可変領域のことも指す。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab'、F(ab')2、およびFvフラグメント、直鎖状抗体、scFv抗体、ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が非限定的に含まれる。
【0031】
本明細書で用いる「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を誘発する分子と定義される。この免疫応答には、抗体産生、または特異的免疫適格細胞の活性化のいずれかまたは両方が含まれうる。当業者は、事実上すべてのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原としての役を果たしうることを理解するであろう。その上、抗原が組換えDNAまたはゲノムDNAに由来してもよい。当業者は、免疫応答を惹起するタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、それ故に、本明細書中でその用語が用いられる通りの「抗原」をコードすることを理解するであろう。その上、当業者は、抗原が遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされる必要はないことも理解するであろう。本発明が複数の遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用を非限定的に含むこと、およびこれらのヌクレオチド配列が所望の免疫応答を惹起するさまざまな組み合わせで並べられていることは直ちに明らかである。さらに、当業者は、抗原が「遺伝子」によってコードされる必要が全くないことも理解するであろう。抗原を合成して作製することもでき、または生物試料から得ることもできることは直ちに明らかである。そのような生物試料には、組織試料、腫瘍試料、細胞または生体液が非限定的に含まれうる。
【0032】
「自己抗原」という用語は、本発明によれば、それが外来性であるかのように免疫系によって認識される、あらゆる自己抗原のことを意味する。自己抗原には、細胞表面受容体を含む、細胞タンパク質、リンタンパク質、細胞表面タンパク質、細胞脂質、核酸、糖タンパク質が非限定的に含まれる。
【0033】
本明細書で用いる「自己免疫疾患」は、自己免疫反応に起因する障害と定義される。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切かつ過剰な反応の結果である。自己免疫疾患の例には、とりわけ、アジソン病、円形脱毛症(alopecia greata)、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性耳下腺炎、クローン病、糖尿病(1型)、栄養障害型表皮水疱症、精巣上体炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー(Guillain-Barr)症候群、橋本病、溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節症、甲状腺炎、血管炎、尋常性白斑、粘液水腫、悪性貧血、潰瘍性大腸炎が非限定的に含まれる。
【0034】
本明細書で用いる場合、「自己」という用語は、後にその個体に再び導入される、同じ個体に由来する任意の材料を指すものとする。
【0035】
「同種」とは、同じ種の異なる動物に由来する移植片のことを指す。
【0036】
「異種」とは、異なる種の動物に由来する移植片のことを指す。
【0037】
「B細胞表面マーカー」とは、本明細書で用いる場合、B細胞の表面上に発現される抗原であって、それに結合する作用物質が標的とすることのできる抗原のことである。例示的なB細胞表面マーカーには、CD10、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD37、CD53、CD72、CD73、CD74、CD75、CD77、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CD84、CD85およびCD86白血球表面マーカーが含まれる。特に関心が持たれるB細胞表面マーカーは、哺乳動物の他の非B細胞組織と比較してB細胞上に選好的に発現されるものであり、前駆体B細胞および成熟B細胞の両方で発現されてよい。1つの態様において、好ましいマーカーはCD19であり、これはB細胞上に、プロ/プレ-B細胞ステージから終末分化した形質細胞ステージまでのこの系列の分化の全体を通じて見いだされる。
【0038】
本明細書で用いる場合、「B細胞枯渇」とは、薬物治療、細胞治療または抗体治療後の動物またはヒトにおける、治療前のレベルと比較した、B細胞レベルの低下のことを指す。B細胞レベルは、周知のアッセイを用いて、例えば、全血球数を求めることにより、公知のB細胞マーカーに関するFACS分析染色により、および本明細書中の他所に記載された方法により、測定可能である。B細胞枯渇は部分的であっても完全であってもよい。1つの態様において、B細胞の枯渇は25%またはそれを上回る。
【0039】
「枯渇させる」および「枯渇」という用語は、本明細書においてB細胞に言及して用いられ、本明細書および添付の特許請求の範囲において、以下のうち1つまたは複数を意味する:B細胞機能の遮断;B細胞の機能的不活性化;B細胞の細胞溶解;B細胞の増殖を阻害すること;B細胞の形質細胞への分化を阻害すること;B細胞機能不全を引き起こして治療的利益をもたらすこと;抗shed抗原抗体の産生を阻害すること;B細胞の数の減少;shed抗原による初回刺激または活性化を受けたB細胞の不活性化;shed抗原によって初回刺激または活性化を受けたB細胞の1つまたは複数の機能を遮断すること;shed抗原によって初回刺激または活性化を受けたB細胞の細胞溶解;および、shed抗原によって初回刺激または活性化を受けたB細胞の数の減少。B細胞枯渇は、クローン不活性化、アポトーシス、抗体依存的細胞性細胞傷害性、補体媒介性の細胞傷害性、およびシグナル経路媒介性不活性化、機能不全、または細胞死を非限定的に含む、1つまたは複数の機序の結果であってよい。
【0040】
本明細書で用いる「癌」という用語は、異常細胞の急速かつ制御不能な増殖を特徴とする疾患と定義される。癌細胞は局所的に広がることもあれば、または血流およびリンパ系を通じて身体の他の部分に広がることもある。さまざまな癌の例には、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵癌、結腸直腸癌、腎癌、肝臓癌、脳悪性腫瘍、リンパ腫、白血病、肺癌などが非限定的に含まれる。
【0041】
「CD19」抗原とは、約90kDaのある抗原のことを指し、これは例えば、HD237抗体またはB4抗体によって同定することができる(Kiesel et al., 1987 Leukemia Research II, 12:1119)。CD19は、プレ-B細胞、B細胞(ナイーブB細胞、抗原で刺激されたB細胞、メモリーB細胞、形質細胞、およびBリンパ球を含む)および濾胞内樹状細胞を非限定的に含む、幹細胞ステージから形質細胞への終末分化までのB系列細胞の分化の全体を通じて、細胞上に見いだされる。CD19はまた、ヒト胎児組織中のB細胞上にも見いだされる。好ましい態様において、本発明の抗体が標的とするCD19抗原はヒトCD19抗原である。
【0042】
「共刺激リガンド」には、この用語が本明細書で用いられる場合、T細胞上のコグネイト共刺激分子と特異的に結合し、それにより、例えば、ペプチドが負荷されたMHC分子のTCR/CD3複合体への結合によって与えられる一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化などを非限定的に含むT細胞応答を媒介するシグナルも与えることのできる、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上の分子が含まれる。共刺激リガンドには、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞内接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、およびB7-H3に特異的に結合するリガンドが非限定的に含まれる。共刺激リガンドはまた、とりわけ、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3などの、ただしこれらに限定されない、T細胞上に存在する共刺激分子に特異的に結合する抗体、およびCD83に特異的に結合するリガンドも包含する。
【0043】
「共刺激分子」とは、共刺激リガンドに特異的に結合し、それにより、増殖などの、ただしこれに限定されない、T細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上のコグネイト結合パートナーのことを指す。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLAおよびTollリガンド受容体が非限定的に含まれる。
【0044】
「共刺激シグナル」とは、本明細書で用いる場合、TCR/CD3連結などの一次シグナルとの組み合わせで、T細胞の増殖、および/または鍵となる分子のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションを導く分子のことを指す。
【0045】
「疾患」とは、動物が恒常性を維持することができず、その疾患が改善しなければその動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態のことを指す。対照的に、動物における「障害」とは、その動物が恒常性を維持することはできるが、その動物の健康状態が、障害の非存在下にあるよりもより不都合である健康状態のことである。治療されないままであっても、障害は必ずしもその動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすとは限らない。
【0046】
本明細書で用いる「有効量」とは、治療的または予防処置的な有益性をもたらす量のことを意味する。
【0047】
本明細書で用いる場合、「内因性」とは、生物体、細胞、組織もしくは系に由来するか、またはその内部で産生される任意の材料のことを指す。
【0048】
本明細書で用いる場合、「外因性」という用語は、生物体、細胞、組織もしくは系の外部で産生された、該生物体、細胞、組織もしくは系に導入された任意の材料のことを指す。
【0049】
本明細書で用いる「発現」という用語は、そのプロモーターによって作動する特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0050】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列と機能的に連結した発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターのことを指す。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用エレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給されうる。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み入れたコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソーム中に含まれるもの)およびウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)といった、当技術分野において公知であるすべてのものが含まれる。
【0051】
「相同な」とは、2つのポリペプチドの間または2つの核酸分子の間の配列類似性または配列同一性のことを指す。比較する2つの配列の両方において、ある位置が同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおいて、ある位置がアデニンによって占められている場合には、それらの分子はその位置で相同である。2つの配列間の相同度(percent of homology)は、2つの配列が共通して持つ一致する位置または相同な位置の数を、比較する位置の数によって除算した上で100を掛けた関数である。例えば、2つの配列中の10個の位置のうち6個が一致するかまたは相同であるならば、2つの配列は60%相同である。一例として、DNA配列ATTGCCおよびTATGGCは50%の相同性を有する。一般に、比較は、最大の相同性が得られるように2つの配列のアラインメントを行った上で行われる。
【0052】
「免疫グロブリン」または「Ig」という用語は、本明細書で用いる場合、抗体として機能するタンパク質のクラスと定義される。B細胞によって発現される抗体は、BCR(B細胞受容体)または抗原受容体と称されることも時にある。このタンパク質のクラスに含まれる5つのメンバーは、IgA、IgG、IgM、IgDおよびIgEである。IgAは、唾液、涙液、母乳、消化管分泌物、ならびに気道および泌尿生殖路の粘液分泌物などの身体分泌物中に存在する主要な抗体である。IgGは、最も一般的な流血中抗体である。IgMは、ほとんどの哺乳動物で一次免疫応答において産生される主な免疫グロブリンである。これは凝集反応、補体固定および他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌およびウイルスに対する防御に重要である。IgDは抗体機能が判明していない免疫グロブリンであるが、抗原受容体として働いている可能性がある。IgEは、アレルゲンに対する曝露時にマスト細胞および好塩基球からのメディエーターの放出を引き起こすことによって即時型過敏症を媒介する免疫グロブリンである。
【0053】
本明細書で用いる場合、「免疫応答」という用語は、T細胞媒介性および/またはB細胞媒介性免疫応答を含む。例示的な免疫応答には、T細胞応答、例えばサイトカイン産生、および細胞性細胞傷害性が含まれる。加えて、免疫応答という用語には、T細胞活性化によって間接的に生じる免疫応答、例えば、抗体産生(体液性応答)およびサイトカイン応答細胞、例えばマクロファージの活性化も含まれる。免疫応答に関与する免疫細胞には、リンパ球、例えばB細胞およびT細胞(CD4+、CD8+、Th1およびTh2細胞);抗原提示細胞(例えば、専門的な抗原提示細胞、例えば樹状細胞、マクロファージ、Bリンパ球、ランゲルハンス細胞など、および専門的でない抗原提示細胞、例えばケラチノサイト、内皮細胞、アストロサイト、線維芽細胞、オリゴデンドロサイトなど);ナチュラルキラー細胞;骨髄性細胞、例えばマクロファージ、好酸球、マスト細胞、好塩基球、および顆粒球などが含まれる。
【0054】
本明細書で用いる場合、「免疫寛容」という用語は、治療されていない対象と比較して、ある割合の治療された対象に対して行われた方法のことを指し、ここで、a)特異的免疫応答(少なくとも一部には抗原特異的なエフェクターTリンパ球、Bリンパ球、抗体、またはそれらの同等物によって媒介されると考えられる)のレベルが低下する;b)特異的免疫応答の開始もしくは進行が遅延する;またはc)特異的な免疫応答の開始もしくは進行のリスクが低下する。「特異的」免疫寛容は、免疫寛容が、他と比較して、ある抗原に対して選好的に惹起される時に生じる。
【0055】
本明細書で用いる場合、「説明材料(instructional material」には、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために用いうる、刊行物、記録、略図または他の任意の表現媒体が含まれる。本発明のキットの説明材料は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器に添付してもよく、または核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器と一緒に出荷してもよい。または、説明材料および化合物がレシピエントによって一体として用いられることを意図して、説明材料を容器と別に出荷してもよい。
【0056】
「単離された」とは、天然の状態から変更されるかまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きた動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然の状態で共存する物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは、「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することもでき、または例えば宿主細胞などの非ネイティブ性環境で存在することもできる。
【0057】
本明細書で用いる「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミリーの属のことを指す。レンチウイルスは、非分裂細胞を感染させうるという点で、レトロウイルスの中でも独特である;それらはかなりの量の遺伝情報を宿主細胞のDNA中に送達することができるため、それらは遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIVおよびFIVはすべて、レンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボでかなり高いレベルの遺伝子移入を達成するための手段を与える。
【0058】
「モジュレートする」という用語は、本明細書で用いる場合、治療もしくは化合物の非存在下でのその対象における反応のレベルと比較して、および/または他の点では同一であるが治療を受けていない対象における反応のレベルと比較して、対象における反応のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は、対象、好ましくはヒトにおいて、ネイティブ性のシグナルまたは反応を擾乱させるか、および/またはそれに影響を及ぼして、それにより、有益な治療反応を媒介することを包含する。
【0059】
免疫原性組成物の「非経口的」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)または胸骨内の注射法または輸注法が含まれる。
【0060】
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、本明細書において互換的に用いられ、本明細書に記載の方法を適用しうる、インビトロまたはインサイチューの別を問わない、任意の動物またはその細胞のことを指す。ある非限定的な態様において、患者、対象または個体はヒトである。
【0061】
「拒絶反応」という用語は、移植された臓器または組織がレシピエントの身体によって受け入れられない状態のことを指す。拒絶反応は、移植された臓器または組織を攻撃するレシピエントの免疫系が原因となって起こる。拒絶反応は、移植後数日から数週間で起こることもあれば(急性)、または移植後数カ月から数年経って起こることもある(慢性)。
【0062】
「特異的に結合する」という用語は、抗体に関して本明細書で用いる場合、試料中の特異的な抗原を認識するが、他の分子は実質的に認識もせず、それらと結合もしない抗体のことを意味する。例えば、1つの種由来の抗原と特異的に結合する抗体が、1つまたは複数の種由来のその抗原と結合してもよい。しかし、そのような種間反応性はそれ自体では、抗体の分類を特異的として変更させることはない。もう1つの例において、抗原と特異的に結合する抗体が、その抗原の異なるアレル形態と結合してもよい。しかし、そのような交差反応性はそれ自体では、抗体の分類を特異的として変更させることはない。場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語を、抗体、タンパク質またはペプチドの第2の化学種との相互作用に言及して、その相互作用が、化学種での特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味して用いることができる;例えば、ある抗体は、タンパク質全体ではなく特定のタンパク質構造を認識してそれと結合する。抗体がエピトープ「A」に対して特異的であるならば、エピトープAを含有する分子(または遊離した非標識A)の存在は、標識「A」およびその抗体を含む反応において、その抗体と結合した標識Aの量を減少させると考えられる。
【0063】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)がそのコグネイトリガンドと結合して、それにより、TCR/CD3複合体を介するシグナル伝達などの、ただしこれには限定されないシグナル伝達イベントを媒介することによって誘導される、一次応答のことを意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、および/または細胞骨格構造の再構築などのような、ある種の分子の発現の改変を媒介してもよい。
【0064】
「刺激分子」とは、この用語が本明細書で用いられる場合、抗原提示細胞上に存在するコグネイト刺激リガンドに特異的に結合する、T細胞上の分子のことを意味する。
【0065】
「刺激リガンド」とは、本明細書で用いる場合、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上に存在する場合に、T細胞上のコグネイト結合パートナー(本明細書では「刺激分子」と称する)と特異的に結合して、それにより、活性化、免疫応答の開始、増殖などを非限定的に含む、T細胞による一次応答を媒介することのできるリガンドのことを意味する。刺激リガンドは当技術分野において周知であり、とりわけ、ペプチドが負荷されたMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーアゴニスト抗CD28抗体およびスーパーアゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0066】
「対象」という用語は、免疫応答を惹起させることができる、生きている生物(例えば、哺乳動物)を含むことを意図している。対象の例には、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、およびそれらのトランスジェニック種が含まれる。
【0067】
本明細書で用いる場合、「実質的に精製された」細胞とは、他の細胞型を本質的に含まない細胞のことである。また、実質的に精製された細胞とは、その天然の状態に本来付随する他の細胞型から分離された細胞のことも指す。場合によっては、実質的に精製された細胞の集団とは、均一な細胞集団のことを指す。また別の場合には、この用語は、単に、天然の状態において本来付随する細胞から分離された細胞のことを指す。いくつかの態様において、細胞はインビトロで培養される。他の態様において、細胞はインビトロでは培養されない。
【0068】
本明細書で用いる「治療的」という用語は、治療および/または予防処置のことを意味する。治療効果は、疾病状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0069】
「治療的有効量」という用語は、研究者、獣医、医師または他の臨床専門家が詳しく調べようとしている、組織、系または対象の生物学的または医学的な反応を誘発すると考えられる対象化合物の量のことを指す。「治療的有効量」という用語には、投与された場合に、治療される障害または疾患の徴候または症状のうち1つもしくは複数の発生を予防するか、またはそれをある程度改善するのに十分な、化合物の量が含まれる。治療的有効量は、化合物、疾患およびその重症度、ならびに治療される対象の年齢、体重などに応じて異なると考えられる。
【0070】
「移植片」という用語は、本明細書で用いる場合、個体に導入される細胞、組織または臓器のことを指す。移植材料の供給源は、培養細胞、別の個体由来の細胞、または同じ個体由来の細胞(例えば、細胞をインビトロで培養した後)であってよい。例示的な臓器移植片には、腎臓、肝臓、心臓、肺および膵臓がある。
【0071】
ある疾患を「治療する」とは、この用語が本明細書で用いられる場合、対象が被っている疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を軽減することを意味する。
【0072】
本明細書で用いる「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞内に移入または導入される過程のことを指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞とは、外因性核酸によってトランスフェクトされた、形質転換された、または形質導入されたもののことである。この細胞には初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0073】
「寛容な」という用語は、特定の抗原または一群の抗原に対する免疫応答が低下しているかまたは存在しない個体のことを指す。本発明の文脈において、個体は、もし彼または彼女がその移植細胞を拒絶しなければ(すなわち、それに対する明らかな免疫応答を開始しなければ)、寛容であると判断される。場合によっては、寛容な個体は、免疫抑制療法を受けなくても移植細胞を拒絶しない。本発明の文脈において、個体は移植細胞を拒絶するならば「寛容でない」と判断される。寛容でない個体には、移植細胞に対する活発な免疫応答が起こっている者のほかに、免疫抑制療法(例えば、標準的な免疫抑制)を用いて拒絶が制御されている者も含まれる。
【0074】
本明細書で用いる場合、「インビボ寛容」とは、外来性組織に対して特異的な免疫応答の実質的な欠如のことを指す。免疫応答は、外来性組織に対する免疫応答を開始するレシピエント対象に起因することもあれば、またはその反対に、免疫応答がレシピエント対象に対する免疫応答を開始する外来性組織に起因すること(例えば、GVHD)もある。インビボ寛容を測定する方法は当技術分野において一般的に公知である。
【0075】
範囲:本開示の全体を通じて、本発明のさまざまな局面を、範囲形式で提示することができる。範囲形式による記載は、単に便宜上かつ簡潔さのためであって、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定とみなされるべきではないことが理解される必要がある。したがって、ある範囲の記載は、その範囲内におけるすべての可能な部分的範囲とともに、個々の数値も具体的に開示されていると考慮されるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分的範囲とともに、その範囲内の個々の数、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3および6も、具体的に開示されていると考慮されるべきである。これは範囲の幅広さとは関係なく適用される。
【0076】
説明
本発明は、哺乳動物における正常B細胞を枯渇させるための組成物および方法を提供する。1つの態様において、本発明のCARを用いたB細胞の枯渇により、哺乳動物における寛容が誘導される。
【0077】
1つの態様において、本発明は、移植された外来性組織に対するインビボ寛容を誘導する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、一部には、移植組織の拒絶反応を予防および/または治療するために用いることができる。一般的に言えば、本方法は、本発明のCAR T細胞を、移植された外来性組織に曝露された対象に投与する段階を含む。「外来性組織」という用語は、本明細書で用いる場合、骨髄移植片、臓器移植片、輸血血液、または、対象に意図的に導入される他の任意の外来性組織もしくは細胞を包含しうる。
【0078】
もう1つの態様において、本方法は、一部には、移植片対宿主病(GVHD)を予防および/または治療するために用いることができる。一般的に言えば、本方法は、本発明のCAR T細胞を、移植された外来性組織に曝露された対象に投与する段階を含む。「外来性組織」という用語は、本明細書で用いる場合、骨髄移植片、臓器移植片、輸血血液、または、対象に意図的に導入される他の任意の外来性組織もしくは細胞を包含しうる。
【0079】
1つの態様において、本発明のCARは、T細胞抗原受容体複合体ζ鎖(例えば、CD3ζ)の細胞内シグナル伝達ドメインと融合した、B細胞抗原を標的とする抗原結合ドメインを有する細胞外ドメインを含むように操作することができる。例示的なB細胞抗原はCD19であるが、これは、この抗原が悪性B細胞上で発現されるためである。しかし、本発明は、CD19を標的とすることには限定されない。より正確には、本発明は、そのコグネイト抗原と結合している場合、あらゆるB細胞抗原結合モイエティーを含む。抗原結合モイエティーは、共刺激分子およびζ鎖のうち1つまたは複数からの細胞内ドメインと融合していることが好ましい。抗原結合モイエティーは、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン、CD3ζシグナルドメイン、およびそれらの任意の組み合わせの群から選択される1つまたは複数の細胞内ドメインと融合していることが好ましい。
【0080】
1つの態様において、本発明のCARは、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメインを含む。これは、本発明が一部には、CARにより媒介されるT細胞応答を、共刺激ドメインの追加によってさらに強化しうるという発見に基づくためである。例えば、CD137(4-1BB)シグナル伝達ドメインを含めることにより、CD137(4-1BB)を発現するように操作されていないこと以外は同一なCAR T細胞と比較して、CAR T細胞の、CARにより媒介される活性およびインビボ存続性が有意に増加した。しかし、本発明は特定のCARには限定されない。より正確には、B細胞を標的とするあらゆるCARを本発明に用いることができる。組成物、およびCARを作製する方法はPCT/US11/64191号に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0081】
方法
本発明は、本発明のCARおよびCAR T細胞を、B細胞を枯渇させるため、および寛容を促進するために用いる方法に関する。1つの態様において、本方法は、患者における(例えば、臓器または組織移植片の)移植寛容を促進する段階を含む。もう1つの態様において、本方法は、GVHDの予防および/または治療を含む。1つの具体的な態様において、本発明のCARはB細胞上のCD19を標的とする。
【0082】
1つの態様において、ドナーの持続的な体液性寛容を誘導しうることは、頑健な移植寛容を達成するため、および/またはGVHDを予防もしくは治療するための鍵となる。本発明は、臓器または組織移植片に付随する1つまたは複数の疾患、障害、症状または病状(例えば、移植片拒絶反応、GVHDおよび/またはそれらに付随する病状)を治療することを目的とする、CAR T細胞を動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトの患者に対して投与することによる、B細胞を枯渇させるため、および寛容を誘導するための本発明のCAR T細胞の使用を包含する。
【0083】
臓器拒絶反応は、免疫応答を通じての移植組織の宿主免疫細胞破壊によって起こる。同様に、免疫応答はGVHDにもかかわるが、この場合には、外来性移植免疫細胞が宿主組織を破壊する。例えば、臓器拒絶および/またはGVHDは、心臓、心臓弁、肺、腎臓、肝臓、膵臓、腸、皮膚 血管、骨髄、幹細胞、骨、または膵島細胞の移植後に起こることがある。しかし、本発明は、特定の種類の移植には限定されない。非限定的な一例を挙げると、膵島細胞移植は、糖尿病の発症を予防するため、または糖尿病の治療として行うことができる。免疫応答、特にB細胞の増殖、分化または生存を阻害する本発明のCAR T細胞の投与は、臓器および/もしくは組織の拒絶反応またはGVHDを予防する上で有効な治療法である。また、本発明のCAR T細胞の投与を、臓器および/または組織の移植後の移植寛容を促進するために用いることもできる。
【0084】
また、本発明のCAR T細胞を、移植寛容を促進するため;臓器および/もしくは組織移植片の拒絶反応を治療、低下、阻害および/もしくは予防するため;ならびに/または、臓器もしくは組織移植片を移植された患者における抗体価を低下させるために用いることもできる。1つの態様において、本発明のCAR T細胞の有効量を患者に投与し、それにより移植片拒絶反応を予防するかまたは遅延させることによって、患者における移植寛容を促進するために、本発明のCAR T細胞を用いることができる。もう1つの態様において、本発明のCAR T細胞の有効量を患者に投与し、それにより移植臓器または組織の拒絶反応を阻害することによって、患者における臓器または移植片の拒絶反応を治療するために、本発明のCAR T細胞を用いることができる。さらにもう1つの態様において、本発明のCAR T細胞の有効量を患者に投与し、それにより抗体価を低下させることによって、臓器または組織移植片を移植されたかまたは移植される予定の患者における抗体価を低下させるために、本発明のCAR T細胞を用いることができる。
【0085】
1つの態様において、本発明は、患者における移植寛容を促進する方法であって、本発明のCAR T細胞の有効量を患者に投与し、それによって患者における移植片拒絶反応を遅延させる段階を含む方法を提供する。
【0086】
もう1つの態様において、本発明は、患者における移植臓器または組織の拒絶反応を治療する方法であって、本発明のCAR T細胞の有効量を患者に投与し、それによって患者における移植臓器または組織の拒絶反応を阻害する段階を含む方法を提供する。
【0087】
もう1つの態様において、本発明は、臓器または組織移植片を移植されたかまたは移植される予定の患者における抗体価を低下させる方法であって、本発明のCAR T細胞の有効量を患者に投与し、それによって患者における抗体価を低下させる段階を含む方法を提供する。
【0088】
1つの態様において、本発明は、患者における免疫グロブリン産生を阻害するかまたは低下させる方法であって、本発明のCAR T細胞の有効量を患者に投与する段階を含む方法を提供する。
【0089】
1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、B細胞機能を低下させるかまたは阻害する。もう1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、B細胞を対象から枯渇させるかまたは排除する。例えば、本発明のCAR T細胞は、該T細胞がB細胞に対するエフェクター機能を呈することを可能にするために、B細胞表面抗原を標的とするように操作することができる。
【0090】
移植後の有害な免疫応答を阻害するための治療法
本発明は、本発明のCAR T細胞を、移植後のGVHDまたは移植片拒絶反応を阻害するための治療法として用いる方法を含む。したがって、本発明は、ドナー移植片、例えば生体適合性格子またはドナー組織、臓器もしくは細胞を、レシピエントへの移植片の移植の前、それと同時、またはその後に、本発明のCAR T細胞と接触させる方法を包含する。本発明のCAR T細胞は、ドナー移植片によるレシピエントに対する有害反応を緩和すること、阻害すること、または低下させることにより、GVHDを予防または治療するのに役立つ。
【0091】
本明細書中の他所で考察したように、T細胞は、移植片のレシピエントに対する該移植片による望まれない免疫応答を消失または低下させる用途のために、任意の供給源、例えば、組織ドナー、移植片レシピエント、または本発明のCAR T細胞を作製するためのその他の無関係な供給源(異なる個体または種のすべて)から得ることができる。したがって、本発明のCAR T細胞は、組織ドナー、移植片レシピエントまたは他の無関係な供給源に対して、自己、同種または異種のいずれであってもよい。
【0092】
本発明の1つの態様において、移植片は、レシピエントへの該移植片の移植の前、それと同時、またはその後に、本発明のCAR T細胞に対して曝露される。この状況において、あらゆる同種反応性レシピエント細胞によって引き起こされる該移植片に対する免疫応答は、該移植片の中に存在する本発明のCAR T細胞によって抑制されると考えられ、なぜなら、CAR T細胞がB細胞を枯渇させて寛容を誘導することができるためである。
【0093】
本発明のもう1つの態様において、レシピエントに対する移植片の免疫原性を低下させることによってGVHDまたは移植片拒絶反応を低下および/または予防する目的で、レシピエントへの移植の前に移植片を処理することによって、ドナー移植片を「プレコンディショニングすること(preconditioned)」または「前処理すること」ができる。移植片を、移植片に付随する可能性のあるT細胞を活性化する目的で、移植の前にレシピエント由来の細胞または組織と接触させることができる。レシピエント由来の細胞または組織によって移植片を処理した後に、細胞または組織を移植片から取り除いてもよい。続いて、処理した移植片を、レシピエント由来の細胞または組織による処理によって活性化されたT細胞および/またはB細胞の活性を低下させる、阻害する、または消失させる目的で、本発明のCAR T細胞とさらに接触させる。本発明のCAR T細胞による移植片のこの処理の後、レシピエントへの移植の前に移植片からCAR T細胞を取り除いてもよい。しかし、一部のCAR T細胞は移植片に付着しており、それ故に移植片とともにレシピエントに導入されると考えられる。この状況において、レシピエントに導入されたCAR T細胞は、移植片に付随するあらゆる細胞によって引き起こされる、レシピエントに対する免疫応答を抑制することができる。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、レシピエントへの移植片の移植の前に、移植片をCAR T細胞によって処理することは、活性化されたT細胞および/またはB細胞の活性を低下させること、阻害すること、または消失させることにより、再刺激を防ぐか、またはレシピエント由来の組織および/もしくは細胞によるその後の抗原性刺激に対するTおよび/もしくは細胞の反応性低下を誘導するのに、役立つ。当業者は、本開示に基づき、移植の前の移植片のプレコンディショニングまたは前処理により、移植片対宿主応答が低下するかまたは消失する可能性があることを理解するであろう。
【0094】
治療適用
1つの態様において、本発明は、CARを発現するようにT細胞を遺伝子改変し、そのCAR T細胞をそれを必要とするレシピエントに輸注する、一種の細胞療法を含む。輸注された細胞は、標的細胞を死滅させることができる。1つの態様において、標的細胞はB細胞である。抗体療法とは異なり、CAR T細胞はインビボで複製して、持続的なB細胞枯渇および寛容につながりうる長期存続性をもたらすことができる。
【0095】
1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、頑強なインビボT細胞増大を起こすことができ、より延長した時間にわたって存続することができる。もう1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、B細胞増殖を阻害するように再活性化されうる、特異的なメモリーT細胞になることができる。例えば、CART19細胞は、CD19を発現する細胞に対して特異的な免疫応答を惹起する。
【0096】
本発明のCAR改変T細胞はまた、哺乳動物におけるエクスビボ免疫処置および/またはインビボ治療法のためのワクチンの一種としても役立つことができる。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0097】
エクスビボ免疫処置に関しては、細胞を哺乳動物に投与する前に、以下の少なくとも1つをインビトロで行う:i)細胞の増大、ii)CARをコードする核酸を細胞に導入すること、および/またはiii)細胞の凍結保存。
【0098】
エクスビボ手順は当技術分野において周知であり、以下でより詳細に考察する。手短に述べると、細胞を哺乳動物(好ましくはヒト)から単離した上で、本明細書で開示されたCARを発現するベクターによって遺伝子改変する(すなわち、インビトロで形質導入またはトランスフェクトを行う)。CAR改変細胞を哺乳動物レシピエントに投与することにより、治療的利益を得ることができる。哺乳動物レシピエントはヒトであってよく、CAR改変細胞はレシピエントに対して自己であることができる。または、細胞がレシピエントに対して同種、同系または異種であることもできる。
【0099】
エクスビボ免疫処置に関して細胞ベースのワクチンを用いることに加えて、本発明はまた、患者におけるB細胞抗原に対する免疫応答を誘発するためのインビボ免疫処置のための組成物および方法も提供する。
【0100】
一般に、本明細書に記載の通りに活性化および増大された細胞は、B細胞の枯渇および寛容の誘導に利用することができる。特に、本発明のCAR改変T細胞は、臓器または組織移植片に付随する1つまたは複数の疾患、障害、症状または病状(例えば、GVHDおよび/またはそれに付随する病状)の治療に用いられる。したがって、本発明は、臓器拒絶反応およびGVHDの治療または予防のための方法であって、それを必要とする対象に対して、本発明のCAR改変T細胞の治療的有効量を投与する段階を含む方法を提供する。
【0101】
1つの態様において、本発明のCAR T細胞は、免疫抑制剤とともに投与される。当技術分野において公知である任意の免疫抑制剤を用いることができる。例えば、免疫抑制剤は、シクロスポリン、アザチオプリン、ラパマイシン、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸、プレドニゾン、シロリムス、バシリキシマブもしくはダクリズマブ、またはそれらの任意の組み合わせであってよい。用いうる、そのほかの具体的な免疫抑制剤には、オルソクローン(ORTHOCLONE)OKT(商標)3(ムロモナブ-CD3)、サンディミュン(SANDIMMUNE)(商標)、ネオーラル(NEORAL)(商標)、サングディア(SANGDYA)(商標)(シクロスポリン)、プログラフ(PROGRAF)(商標)(FK506、タクロリムス)、セルセプト(CELLCEPT)(商標)(ミコフェノール酸モフェチル、この活性代謝産物はミコフェノール酸である)、イムラン(IMURAN)(商標)(アザチオプリン)、グルココルチコステロイド、副腎皮質ステロイド、例えばデルタゾン(DELTASONE)(商標)(プレドニゾン)およびヒデルトラゾール(HYDELTRASOL)(商標)(プレドニゾン)、フォレックス(FOLEX)(商標)およびメキサート(MEXATE)(商標)(メトトレキサート(methotrxate))、オクソラレン-ウルトラ(OXSORALEN-ULTRA)(商標)(メトキサレン)、リツキサン(RITUXAN)(商標)(リツキシマブ)、ならびにラパミューン(RAPAMUNE)(商標)(シロリムス)が非限定的に含まれる。
【0102】
本発明のCAR T細胞は、免疫抑制剤の前に、その後に、またはそれと同時に、患者に投与することができる。例えば、本発明のCAR T細胞は、免疫抑制剤が患者に投与された後に投与することもでき、または本発明のCAR T細胞を、免疫抑制剤が患者に投与される前に投与することもできる。代替的または追加的に、本発明のCAR T細胞は、免疫抑制剤が患者に投与されるのと同時に投与される。
【0103】
本発明のCAR T細胞および/または免疫抑制剤は、移植後に患者に投与することができる。代替的または追加的に、本発明のCAR T細胞および/または免疫抑制剤を、移植前に患者に投与することもできる。また、本発明のCAR T細胞および/または免疫抑制剤を、移植手術の間に患者に投与することもできる。
【0104】
いくつかの態様において、CAR T細胞を患者に投与する本発明の方法は、免疫抑制療法が開始された後に1回実施することができる。いくつかの態様において、本方法は、例えば、移植片レシピエントを経時的にモニターするために複数回実施され、および該当する場合には、異なる複数の免疫抑制療法レジメンにおいて実施される。いくつかの態様において、移植片レシピエントが移植片に対して寛容であると予想される場合には、免疫抑制療法は弱められる。いくつかの態様において、移植片レシピエントが移植片に対して寛容であると予想される場合には、免疫抑制療法は全く処方されず、例えば、免疫抑制療法は停止される。移植片レシピエントが寛容性でないバイオマーカーの徴候を示す場合には、免疫抑制療法を再開すること、または標準的なレベルで継続することができる。
【0105】
臓器または組織移植片は、心臓、心臓弁、肺、腎臓、肝臓、膵臓、腸、皮膚、血管、骨髄、幹細胞、骨、または膵島細胞であってよい。
【0106】
本発明のCAR T細胞は、移植片の臓器または組織拒絶反応の診断後に投与することができ、臓器または組織拒絶反応の症状が沈静化するまで、本発明のCAR T細胞および免疫抑制剤を複数回投与することができる。
【0107】
いくつかの態様において、本発明のCAR T細胞は、抗体価増大の診断後に投与することができ、抗体価が低下するまで、本発明のCAR T細胞および免疫抑制剤を複数回投与することができる。
【0108】
本発明のCAR T細胞を用いる治療は、本発明のCAR T細胞の有効量を患者に投与することによって実現されることが好ましい。
【0109】
本発明のCAR T細胞は、単独で、または希釈剤および/またはIL-2もしくは他のサイトカインもしくは細胞集団などの他の成分と組み合わせた薬学的組成物として投与することができる。手短に述べると、本発明の薬学的組成物は、本明細書に記載の標的細胞集団を、1つまたは複数の薬学的または生理的に許容される担体、希釈剤または添加剤と組み合わせて含みうる。そのような組成物は、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水などの緩衝液;ブドウ糖、マンノース、ショ糖またはデキストラン、マンニトールのような炭水化物;タンパク質;ポリペプチドまたはグリシンのようなアミノ酸;酸化防止剤;EDTAまたはグルタチオンのようなキレート剤;アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);並びに保存剤を含有してもよい。本発明の組成物は、静脈内投与用に製剤されることが好ましい。
【0110】
本発明の薬学的組成物は、治療(または予防)される疾患に適した方法で投与することができる。投与量および投与回数は、患者の状態、並びに患者の疾患の種類および重症度などの因子により決定されるが、適量は臨床試験により決定され得る。
【0111】
「有効量」が指示される場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、年齢、体重、抗体力価、および患者(対象)の状態の個体差を考慮して、医師が決定することができる。一般に、本明細書に記載のT細胞を含む薬学的組成物は、細胞104~109個/kg体重、好ましくは細胞105~106個/kg体重であって、これらの範囲内のすべての整数値を含む投与量で投与することができる。また、T細胞組成物をこれらの用量で多回投与することもできる。細胞は、免疫療法において一般的に公知である輸注手法を用いることによって投与することができる(例えば、Rosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319:1676, 1988を参照)。特定の患者に関する最適な投与量および治療レジメンは、疾患の徴候に関して患者をモニタリングして、それに応じて治療を調節することによって、医療の当業者によって容易に決定されうる。
【0112】
ある態様においては、活性化されたT細胞を対象に投与し、続いてその後に血液を再び採取して(またはアフェレーシスを行って)、それ由来のT細胞を本発明に従って活性化した上で、これらの活性化および増大されたT細胞を患者に再び輸注することが望まれると考えられる。この過程を2、3週毎に複数回行うことができる。ある態様において、T細胞は10cc~400ccの採取血から活性化させることができる。ある態様において、T細胞は20cc、30cc、40cc、50cc、60cc、70cc、80cc、90ccまたは100ccの採取血から再活性化される。理論に拘束されるわけではないが、この複数回の採血/複数回の再輸注プロトコールを用いることは、T細胞のある特定の集団を選別するために役立つ可能性がある。
【0113】
本組成物の投与は、エアゾール吸引、注射、経口摂取、輸液、植え付けまたは移植を含む、任意の好都合な様式で実施することができる。本明細書に記載された組成物は、患者に対して、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射により、または腹腔内に投与することができる。1つの態様において、本発明のT細胞組成物は、患者に対して、皮内注射または皮下注射によって投与される。もう1つの態様において、本発明のT細胞組成物は、好ましくは静脈内注射によって投与される。T細胞の組成物を腫瘍内、リンパ節内または感染部位に直接注射してもよい。
【0114】
本発明のある態様においては、本明細書に記載の方法、またはT細胞を治療的レベルまで増大させることが当技術分野において公知である他の方法を用いて活性化および増大された細胞を、MS患者に対する抗ウイルス療法、シドホビルおよびインターロイキン-2、シタラビン(ARA-Cとしても公知)もしくはナタリズマブ治療、乾癬患者に対するエファリズマブ治療、またはPML患者に対する他の治療などの薬剤による治療を非限定的に含む、任意のさまざまな妥当な治療様式とともに(例えば、前に、同時に、または後に)患者に投与する。さらなる態様において、本発明のT細胞を、化学療法、放射線照射、免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノレートおよびFK506など、抗体、またはCAMPATHなどの他の免疫除去薬、抗CD3抗体または他の抗体療法、サイトキシン、フルダリビン、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、ミコフェノール酸、ステロイド、FR901228、サイトカイン、および照射と組み合わせて用いてもよい。これらの薬物は、カルシウム依存型ホスファターゼのカルシニューリンを阻害するか(シクロスポリンおよびFK506)、または増殖因子が誘導したシグナル伝達に重要であるp70S6キナーゼを阻害する(ラパマイシン)かのいずれかである(Liu et al., Cell, 66:807-815, 1991;Henderson et al., Immun., 73:316-321, 1991;Bierer et al., Curr. Opin. Immun. 5:763-773, 1993)。1つのさらなる態様において、本発明の細胞組成物は、骨髄移植、フルダラビンなどの化学療法薬、外部ビーム照射(XRT)、シクロホスファミド、またはOKT3もしくはCAMPATHなどの抗体のいずれかを用いるT細胞除去療法と組み合わせて(例えば、その前、同時またはその後に)、患者に投与される。もう1つの態様において、本発明の細胞組成物は、CD20と反応する薬剤、例えばリツキサンなどによるB細胞除去療法の後に投与される。例えば、1つの態様において、対象は、高用量の化学療法薬に続いて末梢血幹細胞移植を行う標準治療を受けることができる。ある態様においては、移植後に、対象は本発明の増大された免疫細胞の輸注を受ける。1つの追加的な態様において、増大された細胞は、手術の前または後に投与される。
【0115】
患者に投与される上記の治療の投与量は、治療される病状および治療のレシピエントの正確な性質に応じて異なると考えられる。ヒトへの投与に関する投与量の増減は、当技術分野において許容される実践に従って行うことができる。例えば、CAMPATHの用量は、一般に成人患者について1~約100mgの範囲であり、通常は1~30日の期間にわたって毎日投与される。好ましい一日量は1~10mg/日であるが、場合によっては、最大40mg/日までのより多くの用量を用いることもできる(米国特許第6,120,766号に記載)。
【実施例0116】
実験例
ここで本発明を、以下の実験例を参照しながら説明する。これらの例は例示のみを目的として提供されるものであり、本発明はこれらの例に限定されるとは全くみなされるべきではなく、本明細書で提供される教示の結果として明らかになる任意かつすべての変更も包含するとみなされるべきである。
【0117】
それ以上の説明がなくても、当業者は、前記の説明および以下の例示的な例を用いて、本発明の化合物を作成して利用し、請求される方法を実施することができる。以下の実施例は、このため、本発明の好ましい態様を具体的に指摘しており、本開示の残りを限定するものとは全くみなされるべきでない。
【0118】
実施例1:キメラ受容体を発現するT細胞は、正常なB細胞を枯渇させ、寛容を誘導する
本明細書で提示された結果は、当該CART19細胞が、少なくとも18ヶ月にわたり患者内で存続して治療上の利点を提供することを実証している。操作されたT細胞はインビボで1000倍を上回って増大し、骨髄に輸送されて、機能的CARを少なくとも6カ月にわたって高レベルで発現し続けた。平均して、輸注された各CAR+ T細胞は少なくとも1000個のCLL細胞を根絶させた。血液および骨髄におけるCD19特異的な免疫応答が実証され、これは患者3人中2人における完全寛解を伴った。細胞の一部分はメモリーCAR+ T細胞として存続したが、このことは、B細胞悪性腫瘍の有効な治療のためのこのMHC非拘束的アプローチの潜在能力を指し示している。
【0119】
これらの実験に用いた材料および方法について以下に説明する。
【0120】
材料および方法
プロトコールのデザイン
その全体が参照により本明細書に組み入れられるPCT/US11/64191に記載されたように、臨床試験(NCT01029366)を実施した。
【0121】
ベクターの作製
記載の通りに(Milone et al., 2009, Mol Ther. 17:1453-1464)、CD19-BB-z導入遺伝子(GeMCRIS 0607-793)を設計して構築した。レンチウイルスベクターは、記載の通りに(Zufferey et al., 1997, Nature biotechnol 15:871-875)、Lentigen Corporationにおいて、3プラスミド作製アプローチを用いる優良製造規範に従って作製された。
【0122】
CART19細胞製品の調製
抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体でコーティングした常磁性ポリスチレンビーズを用いるT細胞調製の方法は記載されている(Laport et al., 2003, Blood 102:2004-2013)。レンチウイルス形質導入は記載の通りに行った (Levine et al., 2006, Proc Natl Acad Sci U S A 103:17372-17377)。
【0123】
実験の結果を以下に記す。
【0124】
CART19のインビボ増大および存続性ならびに骨髄への輸送
CD3/CD28ビーズを用いて増大された、4-1BBシグナル伝達ドメインを発現するCAR+ T細胞は、4-1BBを持たないCARよりも改良されていると考えられる。血液および骨髄におけるCART19細胞の定量的追跡を可能にするQ-PCRアッセイを開発した。
図1Aおよび1Cに描写されているように、患者は全員、血液中のCART19細胞の増大および存続性を少なくとも6カ月にわたって有していた。注目されることとして、患者UPN 01およびUPN 03では、輸注後の最初の1カ月の間に、血液中のCAR+ T細胞の1,000~10,000倍への増大が生じた。ピーク増大レベルは、患者UPN 01(第15日)および患者UPN 03(第23日)における輸注後臨床症状の発生と一致した。その上、患者3人全員で、一次速度論を用いてモデル化しうる初期減衰の後、輸注後の第90日から第180日までにCART19 T細胞レベルは安定化した。重要なこととして、すべての患者で、CART19 T細胞は骨髄にも輸送されたが、
図1D~1Fに描写されているように、血液中で観察されたレベルよりも5分の1~10分の1という低いレベルであった。患者UPN 01および03では、骨髄において対数線形減衰がみられ、消失T1/2はほぼ35日であった。
【0125】
血液中でのメモリーCART19細胞の集団の長期的発現および樹立
CARにより媒介される癌免疫療法における核心的な課題は、最適化された細胞製造および共刺激ドメインが、遺伝子改変されたT細胞の存続性を増強するか否か、および患者におけるCAR+メモリーT細胞の樹立を可能にするか否かである。以前の研究では、輸注後のT細胞上のCARの頑強な増大、長期にわたる存続性および/または発現は実証されていない(Kershaw et al., 2006, Clin Cancer Res 12:6106-6115;Lamers et al., 2006, J Clin Oncol 24:e20-e22;Till et al., 2008, Blood, 112, 2261-2271;Savoldo et al., 2011, J Clin Invest doi:10.1172/JC146110)。輸注から169日後の血液および骨髄の両方からの試料のフローサイトメトリー分析により、UPN 03(
図2Aおよび2B)におけるCAR19を発現する細胞の存在、および
図2Aに描写されているようにB細胞の欠如が明らかになった。注目されることとして、
図1および
図4に描写されているように、Q-PCRアッセイによれば、患者3人の全員が4カ月およびそれ以後の時点で存続CAR+細胞を有する。フローサイトメトリーによるCAR+細胞のインビボ頻度は、CART19導入遺伝子に関するPCRアッセイから得られた値とよく一致した。重要なこととして、
図2Aに描写されているように、患者UPN 03では、CD16陽性サブセットまたはCD14陽性サブセットでCAR19+細胞が検出不能であったため、CD3+細胞のみがCAR19を発現した。
図5に描写されているように、患者UPN 01の血液中では輸注後の第71日にもCAR発現がT細胞の4.2%の表面上で検出された。
【0126】
次に、多染性フローサイトメトリーを用いることにより、抗CARイディオタイプ抗体(MDA-647)および
図6に示されたゲーティング戦略を用いて、UPN 03におけるCART19細胞の発現、表現型および機能をさらに特徴づけるための詳細な試験を行った。CAR19発現に基づき、CD8+細胞およびCD4+細胞の両方においてメモリーおよび活性化のマーカーの発現に著しい差が観察された。
図2Cに描写されているように、第56日の時点で、CART19 CD8+細胞は、抗原への長期的および頑強な曝露に整合するように、主としてエフェクターメモリー表現型(CCR7-CD27-CD28-)を提示した。対照的に、CAR陰性CD8+細胞はエフェクター細胞およびセントラルメモリー細胞の混合物からなり、細胞のあるサブセットはCCR7発現を伴い、CD27+/CD28-およびCD27+/CD28+画分にかなりの数があった。CART19細胞集団およびCAR陰性細胞集団は両方ともCD57をかなり発現したものの、CART19細胞ではこの分子はPD-1とともに均一に共発現され、このことはこれらの細胞の高度な複製履歴を反映している可能性がある。CAR陰性細胞集団とは対照的に、CART19 CD8+集団はすべて、CD25およびCD127の両方の発現を欠いていた。第169日までに、CAR陰性細胞集団の表現型は第56日の試料に類似したままであったが、CART19集団は、とりわけCCR7の発現、より高レベルのCD27およびCD28といったセントラルメモリー細胞の特徴を有する少数集団、ならびにPD-1陰性、CD57陰性かつCD127陽性であるCAR+細胞を含むようになった。
【0127】
CD4+区画では、
図2Bに描写されているように、第56日の時点で、CART19細胞は、CCR7を一様に欠くこと、ならびにCD57+区画およびCD57-区画の両方に分布するCD27+/CD28+/PD-1+細胞が優位であること、ならびにCD25およびCD127の発現が本質的に存在しないことによって特徴づけられた。対照的に、CAR陰性細胞はこの時点でCCR7、CD27およびPD-1の発現に関して異種混交的であり、CD127を発現し、CD25+/CD127-(調節性T細胞の可能性のある)集団もかなり含んでいた。第169日までに、CAR+CD4+細胞ではすべて、CD28発現は一様に陽性のままであったが、CART19 CD4+細胞のある画分は、CCR7の発現を伴い、CD27-細胞のパーセンテージがより高く、PD-1陰性サブセットが出現し、かつCD127発現を獲得するというセントラルメモリー表現型に向かった。CAR陰性細胞はその第56日の対応物とかなり一致したままであったが、ただし、CD27発現の低下、CD25+/CD127-細胞のパーセンテージの減少は例外であった。
【0128】
CART19細胞は血液中で6カ月後もエフェクター機能を保ちうる
CAR+ T細胞を用いた以前の試験の限界には、短い存続性およびインビボ増殖が不十分であることのほかに、輸注したT細胞のインビボでの機能的活性の急速な損失もあった。患者UPN 01および03における高レベルのCART19細胞存続性およびCAR19分子の表面発現により、凍結保存した末梢血試料から回収した細胞における抗CD19特異的エフェクター機能を直接検査するという機会がもたらされた。患者UPN 03からのPBMCを、CD19発現に関して陽性または陰性のいずれかである標的細胞とともに培養した。表面CD107a発現による評価で、CART19 T細胞の頑強なCD19特異的エフェクター機能が、CD19陰性標的細胞とは異なる、CD19陽性標的細胞に対する特異的脱顆粒によって実証された。注目されることとして、標準的なフローサイトメトリー染色での同じエフェクター細胞におけるCAR19の表面発現に関して
図6に描写されているように、CD19陽性標的に対するCART19集団の曝露により、表面CAR-19の急速な内部移行が誘導された。NALM-6株はCD80もCD86も発現しないことからみて、標的細胞上の共刺激分子の存在は、CART19細胞の脱顆粒を誘発するために必要ではなかった(Brentjens et al., 2007, Clin Cancer Res 13:5426-5435)。エフェクター機能は輸注後の第56日の時点で明らかであり、第169日の時点でも保たれた。CAR+およびCAR-T細胞の頑強なエフェクター機能を、薬理刺激によって実証することも可能と考えられる。
【0129】
CART19細胞の臨床的活性
いずれの患者においても、輸注後の4日間には、一過性の発熱反応以外に目立った毒性は観察されなかった。しかし、すべての患者で、その後、初回輸注後の第7日~第21日の間に、目立った臨床的毒性および検査値上の毒性が生じた。これらの毒性は短期的かつ可逆的であった。標準的な基準によれば(Hallek et al., 2008, Blood 111:5446)、これまでに治療した3人の患者のうち、CART19輸注後6カ月を上回った時点でのCRは2人であり、PRは1人である。各患者についての既往歴および治療法に対する反応の詳細は、
図7に描写されている。
【0130】
手短に述べると、患者UPN 01は、輸注の10日後から、硬直および一過性低血圧を伴う発熱症候群を発症した。発熱はおよそ2週間持続してから解消した;この患者ではこれ以上に体質症状を起こさなかった。この患者では、
図3に描写されているように、急速かつ完全な奏効が達成された。輸注後1カ月~6カ月の間に、フローサイトメトリーにより、血液中の流血中CLL細胞は全く検出されなかった。
図3Bに描写されているように、形態学的検査およびフローサイトメトリー検査により、CART-19細胞輸注後1カ月、3カ月および6カ月の骨髄では、リンパ性浸潤物の持続的欠如が示されている。
図3Cに描写されているように、輸注後1カ月および3カ月のCTスキャンにより、リンパ節肥大の消散が示されている。完全寛解は、この報告の時点から10カ月超にわたって持続した。
【0131】
患者UPN 02は2サイクルのベンダムスチンおよびリツキシマブによって治療され、その結果、
図3Aに描写されているように、疾患の安定がもたらされた。この患者は、CART19 T細胞輸注の前に、リンパ除去化学療法としてベンダムスチンの3回目の投与を受けた。患者は40℃に至る発熱、硬直および呼吸困難を発症し、初回輸注後の第11日であってCART19細胞の2回目の追加投与の当日に、24時間の入院が必要となった。発熱および体質症状は持続し、患者は第15日に一過性心機能不全を起こした;コルチコステロイド療法を第18日に開始した後に、症状はすべて消失した。CART19輸注の後に、高熱の発生と同時に、この患者では、
図3Aに描写されているように末梢血からのp53欠損性CLL細胞の急速な消失、およびリンパ節肥大の部分的縮小が起こり、骨髄では、高度の末梢血細胞除去を行ったにもかかわらず、治療の1カ月後にはCLLの持続性広範浸潤が示された。患者は無症候性のままであった。
【0132】
患者UPN 03は、CART19細胞輸注の前に、ペントスタチンおよびシクロホスファミドをリンパ除去化学療法として投与された。化学療法の3日後であるが細胞輸注の前の時点で、骨髄は過形成性(60%)であり、CLLの関与がおよそ50%であった。この患者は低用量のCART19細胞(1.5×10
5個のCAR+T細胞/kgを3日間に分けて)の投与を受けた。この場合も急性輸注毒性はみられなかった。しかし、初回輸注から14日後に、患者は硬直、発熱、悪心および下痢を起こし始めた。輸注後の第22日までに、入院を必要とする腫瘍溶解症候群と診断された。患者の体質症状は消散し、CART19輸注から1カ月以内に、形態学的検査、フローサイトメトリー、細胞遺伝学検査およびFISH分析によれば、患者の流血中CLLは血液および骨髄から消失した。
図3Bおよび3Cに描写されているように、CTスキャンによって、異常リンパ節肥大の消散が示された。完全寛解はCART19細胞の初回輸注から8カ月を上回って持続した。
【0133】
インビボでのCART19エフェクターとCLL標的細胞との比の検討
前臨床試験により、ヒト化マウスで大きな腫瘍を除去することができたこと、および、2.2×10
7個のCARの輸注によって、インビボでのE:T比が1:42となる1×10
9個の細胞で構成される腫瘍を根絶させることができたことが示されているが(Carpenito et al., 2009, Proc Natl Acad Sci U S A 106:3360-3365)、これらの計算は注射後のT細胞の増大を考慮に入れていない。 CLL腫瘍総量の経時的な推定により、輸注されたCAR+ T細胞の数に基づく、3人の対象においてインビボで達成された腫瘍縮小および推定CART19 E:T比の算出が可能になった。骨髄、血液および二次リンパ組織におけるCLL量(CLL load)を測定することによって、腫瘍総量を算出した。
図7に示されたベースライン腫瘍総量は、各患者がCART19輸注の前に10
12個という桁数のCLL細胞(すなわち、腫瘍量1kg)を有していたことを指し示している。患者UPN 03は、第-1日(すなわち、化学療法の後およびCART19輸注の前)の時点で、骨髄内での推定ベースライン腫瘍総量がCLL細胞8.8×10
11個であり、二次リンパ組織における腫瘍量の計測値は、体積分析用CTスキャン分析の方法に応じてCLL細胞3.3~5.5×10
11個であった。UPN 03にはCART19細胞が1.4×10
7個しか輸注されなかったことと、初期腫瘍総量の推定値(CLL細胞1.3×10
12個)を用いた上で、さらに治療後にはCLL細胞が全く検出不能であったことを考慮すると、1:93,000という際立ったE:T比が達成された。同様の計算により、UPN 01およびUPN 02については、1:2200および1:1000というインビボでの有効E:T比が算出された。最終的には、CART19 T細胞による連続死滅の寄与と、1,000倍を上回るインビボでのCART19増大とが相まって、CART19細胞によって媒介される強力な抗白血病効果の原因になっている可能性が高い。
【0134】
キメラ受容体を発現するT細胞は、進行した白血病の患者においてメモリー効果および強力な抗腫瘍効果を成立させる
CARのインビボ発現およびエフェクター機能が限定されていることは、第一世代CARを試験する治験において中心的な限界となってきた(Kershaw et al., 2006, Clin Cancer Res 12:6106-6115;Lamers et al., 2006, J Clin Oncol 24:e20-e22;Till et al., 2008, Blood, 112, 2261-2271;Park et al., 2007, Mol Ther 15:825833;Pule et al., 2008, Nat Med 14:1264-1270)。4-1BBシグナル伝達モジュールを含むCARの存続性の強化を実証した前臨床モデリングに基づき(Milone et al., 2009, Mol Ther. 17:1453-1464;Carpenito et al., 2009, Proc Natl Acad Sci U S A 106:3360-3365)、レンチウイルスベクター技術によって操作された第二世代のCARを開発するための実験をデザインした。この第二世代のCARは、慢性HIV感染の状況で安全であることが見いだされた(Levine et al., 2006, Proc Natl Acad Sci U S A 103:17372-17377)。今回の結果は、この第二世代CARをT細胞において発現させ、セントラルメモリーT細胞の生着を促すように設計された条件下で培養した場合に(Rapoport et al., 2005, Nat Med 11:1230-1237;Bondanza et al., 2006, Blood 107:1828-1836)、以前の報告と比較して輸注後のCAR T細胞の増大の向上が観察されたことを示している。CART19細胞はCD19特異的なメモリー細胞を樹立させ、これまでに達成されていないインビボでのE:T比で腫瘍細胞を死滅させる。
【0135】
CART19は4-1BBシグナル伝達ドメインを組み入れた初のCAR治験であり、レンチウイルスベクター技術を用いた初めてのものである。今回の結果は腫瘍部位へのCARの効率的な輸送を実証しており、CD19特異性を呈する「腫瘍浸潤リンパ球」の事実上の樹立を伴う。顕著なインビボ増大により、患者から直接回収したCARがインビボでエフェクター機能を数カ月にわたって保ちうることの初めての実証が可能となった。以前の研究では、ウイルス特異的T細胞への第一世代CARの導入が一次T細胞にとって好ましいことが示唆された(Pule et al., 2008, Nat Med 14:1264-1270)が、最適な共刺激を受けた一次T細胞に導入された第二世代CARを用いた結果はこの考え方に疑問を投げかける。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、臨床的効果が著明かつ空前無比であり、患者3人のすべてでキログラム規模の腫瘍総量の溶解が起こり、患者のうち2人では危険な恐れのある高レベルのサイトカインの遅延放出が伴うという、警告を促す事項が提起された。古典的なサイトカインストーム効果は観察されなかった。しかし、本研究は、3日という期間をかけたCART19の慎重な輸注によって、この可能性を軽減するように設計した。
【0136】
極めて低用量のCARが強力な臨床的奏効を誘発しうることが見いだされた。これはCART19ベクターのデザインの安全性を実証したパイロット試験であった。以前の試験で検討されたものよりも数桁少ないCART19細胞の用量が臨床的有益性を有しうるという観察所見は、CAR療法のより大きな規模での将来の実施のため、およびCD19以外の標的に向けられたCARを試験する試験のデザインのために重要な意味を有するであろう。
【0137】
本研究はさらに、CART19がセントラルメモリーT細胞およびエフェクターT細胞の両方で発現されることを指し示しており、このことは、以前の報告と比較したそれらの長期生存に寄与している可能性が高い。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、CAR T細胞は、インビボでサロゲート抗原を発現する標的細胞(例えば、CLL腫瘍細胞または正常B細胞)に遭遇するとセントラルメモリー様の状態に分化して、その後にそれを排除することができる。事実、4-1BBのシグナル伝達は、TCRシグナル伝達に関連してメモリーの発達を促進することが報告されている(Sabbagh et al., 2007, Trends Immunol 28:333-339)。
【0138】
CART19の増殖性および生存性の拡大により、これまで報告されていなかったCAR T細胞の薬物動態の諸局面が明らかになった。血清および骨髄におけるサイトカイン放出の動態はピークCART19レベルと相関しており、そのため、CD19を発現する細胞標的が限定的になった時点で遅延を開始させることが可能である。CART19の生存性の拡大の機序は、4-1BBドメインの前記の組み入れ、または天然のTCRおよび/もしくはCARを通じてのシグナル伝達と関係している可能性もある。興味深い可能性は、生存性の拡大が、骨髄標本で同定されたCART19の集団と関係していることであり、これはCD19 CARを骨髄内でB細胞始原細胞と遭遇させることによって維持しうるという仮説を生み出す。この問いかけと関係するのは、インビボでCART19細胞の初期増大を作動させるものは何かということである。稀な例外はあるが(Savoldo et al., 201 1, J Clin Invest doi:10.1172/JCI46110;Pule et al., 2008, Nat Med 14:1264-1270)、本研究はIL-2輸注を省いた唯一の試験であり、そのため、CART19細胞は、おそらくは恒常性サイトカインに反応するか、またはさらに可能性が高いものとしては白血病標的および/または正常B細胞上に発現されるCD19に反応して増大した可能性が高い。後者の場合には、CART19の自己再生が正常細胞上で起こって、「自己ワクチン接種/追加接種」を介したCARメモリーの機序をもたらし、それ故に、長期的な腫瘍免疫監視機構をもたらした可能性があるため、これは、正常APC上の標的、例えばCD19およびCD20などに対して向けられたCARの注目される特徴と考えうる可能性がある。CART19恒常性の機序については、細胞の内因性および外因性の存続機構を解明するためにさらに研究が必要であろう。これらの成果の以前には、ほとんどの研究者はCAR療法を免疫療法の一過性形態と捉えていたが、最適化されたシグナル伝達ドメインを備えたCARは、寛解の誘導および強化、ならびに長期的な免疫監視機構のいずれにおいても役割を果たす可能性がある。
【0139】
強力な抗白血病効果が、p53欠損性白血病の患者2人を含む、患者3人のすべてで観察された。CARを用いた以前の研究では、リンパ除去化学療法による抗腫瘍効果を区別することが困難であった。しかし、本研究においてインビボCAR増大と同時に、おそらくはそれに依存して起こった、フルダラビン抵抗性患者における腫瘍溶解の動態を兼ね備えた遅延サイトカイン放出は、CART19が強力な抗腫瘍効果を媒介することを指し示している。今回の結果は、CARの効果を増強する上での化学療法の役割を否定するものではない。
【0140】
インビボでCAR T細胞の持続的機能を得るために必要な鍵となる特徴について十分な理解を得るためには、ベクター、導入遺伝子および細胞製造手順と、他の施設で進行中の試験による結果との徹底的な比較が必要であろう。抗体療法とは異なり、CAR改変T細胞はインビボで複製する潜在能力を有しており、長期存続性は持続的な腫瘍制御につながりうるであろう。非交差耐性キラーT細胞で構成される汎用的(off the shelf)療法が利用可能であれば、B細胞悪性腫瘍の患者の転帰を改善しうる可能性がある。例えばリツキシマブおよびベバシズマブ(bevicizumab)などの薬剤を用いる抗体療法の限界は、治療法が、不便である上に費用もかかる反復的な抗体輸注を必要とすることにある。CART19細胞の単回輸注後にT細胞上で発現された抗CD19 scFvによる長期にわたる抗体療法の送達(この場合、現在までに治療した患者3人中3人で少なくとも6カ月にわたって)には、便利さおよび費用節約を含む、数多くの実用上の利点がある。
【0141】
輸注後18カ月でのCART19の持続的検出
本明細書に提示された結果は、患者3人の全例における、CART19の長期的発現および高度のB細胞形成不全(
図8および9)、ならびに形質細胞の減少(
図10)を示している。CART19治験で大きな驚きであったことの1つは、高免疫原性の表現型を呈したマウスscFvを有するCART19細胞が宿主患者の免疫系によって事実上拒絶されなかったことであった。このことは、CART19細胞が宿主患者における正常B細胞を枯渇させ、その結果として寛容を誘導したことを示唆する。
【0142】
いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、CART19細胞は以下の用途に用いることができる:1)「交差適合試験」陽性である実質臓器移植患者;既存のメモリーB細胞の排除により、これらの免疫処置患者において現在は可能でない臓器移植が行えるようになる可能性がある;2)患者(一例としては血友病)に投与される免疫原性タンパク質に対する寛容の誘導;3)リツキシマブは関節炎および他の自己免疫障害において治療的有効性がある;CART19は同程度またはより良好に作用する可能性がある。
【0143】
場合によっては、CART19細胞を、すべてのB細胞サブセット(例えば、ナイーブ、メモリー、形質細胞前駆細胞、および「抑制性B reg」)を排除するために用いることができる。Bregはある種の癌の免疫抑制に寄与しており、そのため、CART19はBregを除去することによって免疫応答を向上させる可能性がある。
【0144】
本明細書に引用された特許、特許出願および刊行物のそれぞれおよびすべての開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。具体的な態様を参照しながら本発明を開示してきたが、本発明の真の趣旨および範囲を逸脱することなく、本発明の他の態様および変形物も当業者によって考案されうることは明らかである。添付された特許請求の範囲は、そのようなすべての態様および等価な変形物を含むことを意図している。