(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173344
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】ヒト脂肪性肝炎(NAFLD/NASH)の治療及び回復に対するピルフェニドンを含む持続放出性の組成物の薬学的使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4418 20060101AFI20221111BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20221111BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221111BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20221111BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221111BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20221111BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
A61K31/4418
A61P1/16
A61P29/00
A61P3/06
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P3/04
A61P37/02
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152261
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2019547064の分割
【原出願日】2017-11-09
(31)【優先権主張番号】MX/A/2016/014775
(32)【優先日】2016-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MX
(71)【出願人】
【識別番号】519168561
【氏名又は名称】セル セラピー アンド テクノロジー,エス.エー. デーイー シー.ヴィ.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】アルメンダリズ ボルンダ,ユアン ソコロ
(72)【発明者】
【氏名】マガニャ カストロ,ホセ アグスティン ロゲリオ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルナンデス アルダナ,ナディエル
(57)【要約】
【課題】NAFLD/NASH及び進行した肝線維症の回復をもたらすこと。
【解決手段】巨視的脂肪変性及び微視的脂肪変性の両方の形態において、血清コレステロール及びトリグリセリドの減少と並んで、肝臓の脂肪蓄積の量を減少させることによるNAFLD/NASH及び進行した肝線維症の治療に対する、ピルフェニドンを含む持続放出性錠剤の形態の医薬組成物の使用。さらに、肝臓の脂肪分解の代謝及び炎症に重要な分子である、PPARガンマ(ペルオキシソーム増殖因子受容体活性化ガンマ)、PPARアルファ(ペルオキシソーム増殖因子受容体活性化アルファ)、LXR及びCPT1に対するアゴニストとしてのその使用。さらに、別の使用は、肝臓炎症過程因子の転写誘導因子であるNFkBマスター遺伝子の発現減少の誘導である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療のための、100mg、200mg、300mg、400mg、又は600mgのピルフェニドンを含む持続放出性錠剤の形態の医薬組成物。
【請求項2】
血清コレステロールレベル及びトリグリセリドレベルを減少させるための、NAFLD/NASHの治療に対する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
肝臓の脂肪蓄積を減少させるための、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記肝臓の脂肪蓄積は、小滴性脂肪変性である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記肝臓の脂肪蓄積は、大滴性脂肪変性である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
過剰な肝臓脂肪の排出を誘導するための、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
NFκBの発現の減少のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
肝臓の炎症の減少のための、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
IL-17A、IL-10、IL-6、IL-1β、IFN-γ及びTNF-αから選ばれる1以上のサイトカインの血清レベルの減少のための、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
TGF-β1の発現の減少のための、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
CD11b及びMCP1の発現の減少のための、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
COL1A1及びTNF-αの下方調節のための、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
LXR及びPPARアルファのレベルの増加のための、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
SREBP1、CPT1A、PPARアルファ及び/又はPPARガンマの1つ以上の発現の増加のための、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
PPARガンマ、PPARアルファ、LXR及び/又はCPT1の1つ以上の刺激のための、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記持続放出性錠剤が100mgのピルフェニドンを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記持続放出性錠剤が400mgのピルフェニドンを含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記持続放出性錠剤が200mgのピルフェニドンを含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記持続放出性錠剤が300mgのピルフェニドンを含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記持続放出性錠剤が600mgのピルフェニドンを含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記治療が、少なくとも8週間に亘って前記持続放出性錠剤を投与することを含む、前記請求項1~20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記治療が、少なくとも13週間に亘って前記持続放出性錠剤を投与することを含む、前記請求項1~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記治療が、対象の体重を減少させる、前記請求項1~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓の脂質蓄積又は脂肪変性の減少/排除を誘導するためのピルフェニドンを含む持続放出性錠剤(PFD-LP)における医薬組成物の使用、並びに進行した肝線維症及び非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease)/非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis)(NAFLD/NASH)の回復におけるその治療適用に関する。
【背景技術】
【0002】
肝硬変
肝硬変は、細胞外マトリックス(ECM:extracellular matrix)の過剰蓄積又は慢性的な肝障害の結果である間質性の瘢痕として定義される進行した肝線維症(ALF:advanced liver fibrosis)の最終段階である。
【0003】
肝臓の再生能により、肝硬変はゆっくりと進行し得る病理過程である。さらに、肝硬変は遺伝的要因も関与するプロセスであることが知られている。
【0004】
進行した肝線維症に対する医学的処置は進歩し続けており、抗線維化療法及び予防療法の実施に結び付いて、現在、世界中の何百万人もの患者に希望を与えているようである。
【0005】
ALFは、ECM合成の増加と並んでその組成の変化を特徴とし、肝臓組織の異常なリモデリング及びその結果として臓器の構造の歪みをもたらす。これは肝機能の低下に結びつく。
【0006】
生理病理学
この疾患の生理病理学は、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-1β(IL-1β)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)等の炎症性サイトカインの発現が増加する、炎症過程によって与えられる。炎症には、とりわけ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)及びカタラーゼ(CAT)等の抗酸化酵素の発現減少、並びにスーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルアニオン及び過酸化水素等のフリーラジカルの産生増加によって引き起こされる酸化ストレスが付随する。同様に、特にECM(細胞外マトリックス)の主成分であるI型コラーゲン(COL-1)の発現増加を誘導するトランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGF-β1)によって媒介される線維化プロセスが存在し、ここでは、肝星細胞の増殖を支持する増殖因子、及び組織メタロプロテアーゼ阻害因子1(TIMP-1:Tissue Inhibitor of Metalloprotease 1)が増加される。上に言及される情報に加えて、ECMメタロプロテアーゼの発現減少がある。これはいずれも、ECMの合成と分解との間の不均衡をもたらし、それがECMを蓄積させる。
【0007】
細胞外マトリックスの産生
ECMの細胞成分の明確化は、その疾患に対する医学療法の分野における進歩を可能とした。肝星細胞(HSC:Hepatic stellate cells)は、肝硬変におけるECMの主な供給源である。これらの細胞は、ディッセ腔、すなわち肝類洞と肝細胞との間の部位に見られる。HSCは、ビタミンAがレチノイドの形態で貯蔵される主な部位であり、このビタミンは、静止表現型(quiescent phenotype)においてHSCを特徴づけるものである。
【0008】
しかしながら、HSCは、走化性サイトカイン(ケモカイン)によって遊走することができる。ケモカインとして作用し得る様々な分子には、PDGF、MCP-1及びCXCR3がある。最近、PDGFがこのプロセスに関与する機構が説明された。PDGFは、他の細胞の細胞膜における拡散によって上記プロセスに関与し、HSCを他の部位へと引き込むことで移動させると言われている。
【0009】
線維化
HSCは、ECM産生の増加によるのみならず、ECM産生細胞の増殖によっても線維症を発生する。肝臓瘢痕の調査された主な成分はI型コラーゲン(COL-1)である。COL-1の発現は、刺激及び経路の数を増やすことで、転写と転写後の両方で調節される。最も強力な刺激は、TGF-β1によって観察されるものであり、これはパラクリン剤とオートクリン剤の両方によって与えられる。TGF-β1カスケードにおけるシグナル伝達の下流には、Smadとして知られる二官能分子のファミリーが関わる。TGF-β1は、フィブロネクチン及びプロテオグリカン等のECMの他の成分の産生も刺激する。HSCに対するTGF-β1の刺激は、水素の過酸化及びC/EBPβの依存的機構によって媒介される。
【0010】
また、脂質の過酸化も、ECMの産生において刺激を発生させる重要な産物である。その効果は、HSCの抗酸化能の喪失によって増強される。
【0011】
結合組織増殖因子(CTGF/CCN2)も、ECMの産生に対するHSCにおける重要な刺激とされている。また、CTGF/CCN2は高血糖及び高インスリン血症のときにも活性化されている場合がある。CTGFの刺激は、TGF-β1に依存すると考えられている。
【0012】
収縮性
HSCの収縮性は、肝硬変において門脈抵抗の早期の又は後期の増加の主な決定因子となる場合がある。コラーゲンバンドは、類洞の狭窄及び硬変肝全体の収縮性に起因して門脈経路における血液の正常な流れを妨げる。
【0013】
エンドセリン-1及び一酸化窒素は、HSCにおける収縮性の主な調節因子である。同様にこの一覧に含まれるものは、多数あるなかで、アンギオテンシノゲンII、エイコサノイド、心房性ナトリウム利尿ペプチド、ソマトスタチン、一酸化炭素である。細胞骨格のα-SMAタンパク質の発現が増加され、これはHSCに対して潜在的な収縮性を与える。
【0014】
発明の直接的な背景
先進国の公衆衛生上の主な問題は、過体重及び肥満である[非特許文献1]。そのため、非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪性肝炎(以下、NAFLD/NASHとする)等のメタボリックシンドロームと関連する病態の罹患率は、世界中で増加し続けている。非アルコール性脂肪肝は、今後数十年に亘って肝臓に関連する罹患率及び死亡率の主な原因となることが予想されている。
【0015】
アルコールによる脂肪肝の発症機序、及び非アルコール性脂肪性肝炎等のアルコール摂取以外の原因によって誘導される発症機序は、トリグリセリドの蓄積に基づき、それが肝脂肪症に結び付く。慢性的な異常な脂質の貯蔵の後、炎症反応と細胞及びサイトカインの産生及び浸潤とからなる炎症によって二次的な損傷がもたらされる[非特許文献2]。非アルコール性脂肪肝の最も重篤な組織学的病態は、肝硬変の存在下又は不在下での、炎症細胞の浸潤及び肝損傷を特徴とする非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である。
【0016】
西洋諸国の20%~30%の人々が非アルコール性脂肪肝を患っていると推測され、この状態を発生する傾向は、人種民族の起源と関連するようであり、ヒスパニック45%、白人33%及びアフリカ系アメリカ人24%によって表すことができた。正常血糖の状態で正常又は中程度の体重の場合、NAFLDは、糖尿病及び肥満で観察されるものに類似する実験室レベル及び臨床データを特徴とすることが観察された[非特許文献1、非特許文献3]。
【0017】
最近の研究により、食事性コレステロールの量の増加が、より重篤な炎症、肝細胞障害及び線維症をもたらすことが示されている[非特許文献4]。一方、高炭水化物食は、トリグリセリドレベルの上昇に寄与するインスリンレベルの増加と関連付けられた[非特許文献5]。フルクトース及びスクロースには代謝障害の発症に一定の重要な役割がある。さらに、高フルクトース食が肝臓の炎症、NASH及び確立された線維症の発症と関連することが研究により示された[非特許文献6]。慢性的なカロリー過剰に応じて、炎症誘発性軸の主な関与物質であるIL-17の上方調節が観察された。かかる事象は、肝細胞、内皮細胞又は好中球によってではなく、クッパー細胞及び肝星細胞(HSC)のメディエータ放出に起因する肝損傷と関連付けられる[非特許文献7]。
【0018】
肥満に関して、脂肪生成は、ホルモン、脂質、糖代謝産物及びアディポカイン、並びに他の炎症性サイトカインによって複雑な方法で調節される。まとめると、肝臓の炎症に結び付くTGF-β1、IL-1β、IL-16等の幾つかの炎症性サイトカインの分泌を促進するこれらの因子は、NASHの発症を悪化させる[非特許文献8]。さらに、IL-17Aは肝細胞によるC反応性タンパク質(CRP)の産生を刺激することが観察された[非特許文献9]。最近の研究により、TGF-β1及びIL-6等の免疫調節サイトカインの組み合わせが調節性T細胞(Treg)の生成を阻害し、これによりTh17細胞の産生増加、そして結果的に或る種の炎症促進性のフィードバック反応を発生させるより高いレベルのIL-17Aを誘発する免疫寛容の喪失が引き起こされることが示された[非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12]。
【0019】
脂肪酸の酸化及び合成を調節する転写因子は、抗炎症過程と並んで、非アルコール性脂肪肝の発症に関係があるとされている[非特許文献13、非特許文献14]。この意味で、核受容体PPARアルファ、PPARガンマ及びLXRは、肝脂肪症及び炎症の改善を目的とする治療戦略の主なターゲットとなる。PPARアルファは、CPT1A等の遺伝子の発現を増加させることによって脂肪酸の酸化を調節し、次に脂質をミトコンドリアへ内部移行させることで、そこからエネルギーを得る[非特許文献15]。一方、LXRは、SREBP1等の別のマスター転写因子の発現を促進することによってその脂質生合成速度を増加させる能力で長く知られている[非特許文献16]。
【0020】
最後に、LXRアルファの活性化が炎症のメディエータをコードする遺伝子の発現を阻害することが示された[非特許文献14、非特許文献16]。
【0021】
ピルフェニドン
ピルフェニドンは、化学名が5-メチル-1-フェニル-2-(1H)ピリドンである低分子で構成された医薬である。ピルフェニドンは、185.23ダルトンの分子量を有する非ペプチド合成分子である。ピルフェニドンの化学式はC12H11NOであり、その構造が知られている。現在、ピルフェニドンは、広域スペクトルの抗線維化薬として臨床評価中である。ピルフェニドンは、TGF-β1、TNF-α、PDGFの発現、また最も重要なことには、様々なタイプのコラーゲンの発現を減少させるその活性に反映される抗線維化特性及び抗炎症特性を有する。現在、肺線維症、腎糸球体硬化症に次ぐ慢性腎不全、肝硬変及び乳房莢膜拘縮(capsular breast contracture)に関して、ヒトで臨床研究が行われている。線維症を伴う病変の進行(progressive progress)をピルフェニドンが減少させることを示した基礎研究及び臨床研究が、既に公開されている又は公開手続き中である。最も重要なことには、ピルフェニドンは安全で無毒な方法でその細胞機能及び分子機能を発揮する。また、ピルフェニドンが特定の臓器、例えば肝臓、皮膚、腎臓等に対する損傷後の線維化病変の形成を予防することが知られている。
【0022】
ピルフェニドンがその治療効果を発揮する機構の1つが、幾つかのサイトカインの作用の調節によるものであることが知られている。ピルフェニドンは線維形成性サイトカイン及びTNF-αの強力な阻害剤である。
【0023】
持続放出性ピルフェニドン(PFD-LP)の作用の新たな分子機構が発見され、該化合物が、本発明の目的である、アルコール性及び非アルコール性の両方の脂肪性肝炎の有害作用を減少させることにおいて活性であることを示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Marra F, Lotersztajn S. Pathophysiology of NASH: perspectives for a targeted treatment. Curr Pharm Des 2013;19(29):5250-5269
【非特許文献2】Ferramosca A, Vincenzo Zara. Modulation of hepatic steatosis by dietary fatty acids. World J Gastroenterol 2014;20(7):1746-1755
【非特許文献3】Paschos P, Paletas K. Non alcoholic fatty liver disease and metabolic syndrome. Hippokratia 2009;13(1):9-19
【非特許文献4】Van Rooyen DM, Larter CZ, Haigh WG, Yeh MM, Ioannou G, Kuver R, et. al. Hepatic free cholesterol accumulates in obese, diabetic mice and causes nonalcoholic steatohepatitis. Gastroenterology 2011;141:1393-403
【非特許文献5】Kang H, Greenson JK, Omo JT, Guillot C, Peterman D, Anderson L, et. al. Metabolic syndrome is associated with greater histologic severity, higher carbohydrate, and lower fat diet in patients with NAFLD. Am J Gastroenterol 2006;101:2247-53
【非特許文献6】Lim JS, Mietus-Snyder M, Valente A, Schwarz JM, Lustig RH. The role of fructose in the pathogenesis of NAFLD and the metabolic syndrome. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2010;7:251-64
【非特許文献7】Harley IT, Stankiewicz TE, Giles DA, Softic S, Flick LM, Cappelletti M, et al. IL-17 signaling accelerates the progression of nonalcoholic fatty liver disease in mice. Hepatology. 2014;59(5):1830-9
【非特許文献8】Zuniga LA, Shen W-J, Joyce-Shaikh B, Pyatnova EA, Richards AG, Thom C, et al. IL-17 Regulates Adipogenesis, Glucose Homeostasis, and Obesity. J Immunol. 2010 Dec 1;185(11):6947-59. Lafdil F, Miller AM, Ki SH, Gao B. Th17 cells and their associated cytokines in liver diseases. Cell Mol Immunol 2010;7(4):250-254
【非特許文献9】Weaver CT, Hatton RD. Interplay between the TH17 and Treg cell lineages: a co-evolutionary perspective. Nat Rev Immunol 2009;9:883-9
【非特許文献10】Korn T, Bettelli E, Oukka M, Kuchroo VK. IL-17 and Th17 Cells. Annu Rev Immunol 2009;27:485-517
【非特許文献11】Tang Y, Bian Z, Zhao L, Liu Y, Liang S, Wang Q, et. al. Interleukin-17 exacerbates hepatic steatosis and inflammation in non-alcoholic fatty liver disease. Clin Exp Immunol 2011;166(2):281-90
【非特許文献12】Wang Y-X. PPARs: diverse regulators in energy metabolism and metabolic diseases. Cell Res. 2010;20(2):124-37
【非特許文献13】Yan Xing, Tingting Zhao, Xiaoyan Gao, Yuzhang Wu. Liver X receptor α is essential for the capillarization of liver sinusoidal endothelial cells in liver injury
【非特許文献14】Yoshikawa T, Ide T, Shimano H, Yahagi N, Amemiya-Kudo M, Matsuzaka T, et al. Cross-Talk between Peroxisome Proliferator-Activated Receptor (PPAR) α and Liver X Receptor (LXR) in Nutritional Regulation of Fatty Acid Metabolism. I. PPARs Suppress Sterol Regulatory Element Binding Protein-1c Promoter through Inhibition of LXR Signaling. Mol Endocrinol. 2003;17(7):1240-54
【非特許文献15】Cui G, Qin X, Wu L, Zhang Y, Sheng X, Yu Q, Sheng H, Xi B, Zhang JZ, Zang YQ. Liver X receptor (LXR) mediates negative regulation of mouse and human Th17 differentiation. J Clin Invest. 2011;121(2):658-670
【非特許文献16】Ducheix S, Montagner A, Polizzi A, Lasserre F, Marmugi A, Bertrand-Michel J, et al. Essential fatty acids deficiency promotes lipogenic gene expression and hepatic steatosis through the liver X receptor. J Hepatol. 2013;58(5):984-92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、アルコール性脂肪性肝炎及び非アルコール性脂肪性肝炎(NAFLD/NASH)の回復及び治療に対する、100mg、200mg、300mg、400mg又は600mgのピルフェニドンを含む持続放出性錠剤の形態の医薬組成物の使用である。
【0026】
本発明の更なる目的は、進行した肝線維症の軽減に対する、持続放出性錠剤の形態の医薬組成物の使用である。
【0027】
本発明の別の更なる目的は、血清コレステロール及びトリグリセリドを減少させることによって生じる、NAFLD/NASHの軽減に対する、持続放出性錠剤の形態の医薬組成物の使用である。
【0028】
本発明の別の更なる目的は、巨視的脂肪変性及び微視的脂肪変性の両方の形態における肝臓の脂肪蓄積の量を減少させることによって生じるNAFLD/NASHの軽減及び治療に対する、持続放出性錠剤の形態の医薬組成物の使用である。
【0029】
さらに、本発明の更なる目的は、進行した肝線維症及びNAFLD/NASHの回復及び治療に対する持続放出性医薬組成物におけるピルフェニドンの使用であり、その治療効果は、PPARガンマ(ペルオキシソーム増殖因子受容体活性化ガンマ)、PPARアルファ(ペルオキシソーム増殖因子受容体活性化アルファ)、LXR及びCPT-1に対するアゴニストとして作用するピルフェニドンに起因する。これらの作用に付随して、ピルフェニドン-LPは、肝臓炎症過程の誘導因子であるNFkBマスター遺伝子の発現減少を誘導する。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明を解説するが、進行した肝線維症、並びにアルコール性及び非アルコール性の脂肪性肝炎(NAFLD/NASH)の治療又は軽減という前述の目的に限定されず、本発明は、ピルフェニドンを含む持続放出性錠剤の形態の医薬組成物が、現在の技術水準において先に開示されるピルフェニドンの肝毒性効果の減少に好都合であることを実証する。
【0031】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の目的の詳細な記載及び好ましい実施の形態、添付の特許請求の範囲、及び付随する図面から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1A~
図1Dは、マウスの体重、グルコースレベル、並びにALT及びASTの肝酵素のレベルを示す図である。
【
図2】対照、HFに含まれるマウス、及びPFD-LPで治療されるマウスの肝臓組織の組織学的検査を示す図である。
【
図3】
図3A~
図3Fは、指定の各群に含まれるマウスの血清中の炎症性サイトカインの分析を示す図である。
【
図4】線維化促進性及び炎症誘発性のマーカー遺伝子の発現を示す図である。
【
図5】NAFLD/NASHにおける脂肪代謝のメディエータのタンパク質発現によるウェスタンブロットを示す図であり、重要な代謝性転写因子であるLXR及びPPARアルファを肝臓組織で評価した。
【
図6】PPARガンマ及びNFkB等の肝臓における炎症過程の調節に重要な転写因子のタンパク質発現によるウェスタンブロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実験で使用される動物
6週齢~8週齢の雄性C57BL/6NHsd(Harlan、メキシコシティ)マウスを、12時間の明/暗サイクルの22±2℃の雰囲気で収容した。5匹~7匹のマウスを16週間に亘り、標準飼料(standard Chow diet)(対照)又は高脂肪/高炭水化物(HF)飼料に無作為に割り当てた。対照群は、Harlan TM-2018(脂肪由来カロリーが18%)の飼料を受け、純水に対して自由にアクセスさせたが、HF群はHarlan飼料TD-06414(脂質由来カロリーが60%)を受け、42g/L(55%フルクトース及び45%スクロースの割合)の濃度に濃縮した高フルクトースを含む水に自由にアクセスさせた。PFDマウス群(HF+PFD)は、HF飼料を8週間、続いてHF飼料及び100mg/kg/日のPFD持続放出製剤を8週間に亘って受けた。全ての投薬計画でビヒクル0.1mlを受けた。一晩絶食させた後、血液試料を分析した。開始から屠殺するまで、マウスの重量及びグルコースを毎週記録した。
【0034】
体重、血糖、コレステロール、トリグリセリド、VLDLコレステロール及びアミノトランスフェラーゼ
高脂肪飼料(FH)によって誘導される脂肪性肝炎(NASH/NAFLD)を有するマウスの特徴を
図1A~
図1Dに示す。最も多く体重が増加した(対照に対して最大37%)HF群のマウスと、HF群よりも11%体重が少ないHF+PFD-LP群との間に顕著な差が見られた(
図1A)。血糖に関して、9週目~13週目の有意差を伴って、対照群と比較してより高い血清グルコースレベルがHF群で観察された。しかしながら、治療の終わりの5週間で、HF+PFD-LPと対照群との間で有意差はなかった(
図1B)。また、本発明者らは、HF+PFD群又は対照群と比較して、HF群においてより高いAST(
図1C)、ALT(
図1D)、並びにコレステロール、トリグリセリド及びVLDL-コレステロール(表1)の血清レベルを見出した。
【0035】
【0036】
組織学
HF群の肝臓組織の組織学的検査は、炎症性変化による相当量の小滴性脂肪変性及び大滴性脂肪変性を示した(
図2)。HF群における脂肪変性は、主に大滴性であり、腺房ゾーン1で重篤であり、腺房ゾーン2では重篤な小滴性脂肪変性及び大滴性脂肪変性を伴った。重篤な小滴性脂肪変性の痕跡は腺房ゾーン3で見られ、その領域での肝細胞中の中程度の風船様変性、すなわち、炎症が好中球及び単核細胞を伴って主に門脈周囲にあり、またそれがスコア1(0~4)の門脈周囲の線維症を示し、かかる組織学的な変化はステージ1Cの肝線維症及びクラス3のNAFLDと一致する。PFD-LPは、肝臓脂肪含量の劇的な減少を誘導した。これらの結果は、巨視的な肝臓の観察と相関する。中心及び周囲の脂肪に関して、HF+PFD-LPは、HF群と比較して、より低い脂肪レベルを示した。
【0037】
血清中のサイトカインの分析
組織学の結果を全身マーカーと関連付けるため、血清IL-17A、IL-6、IL-1β、IFN-γ及びTNF-αの炎症性サイトカインを分析した。血清IL-6レベル(
図3A)は、HF群(211±30ng/ml)と比較して、HF+PFD群(145.8±15.0ng/ml)で有意に減少された。IL-1βの血清レベル(
図3B)は、HF群(177.4±20.6ng/ml)と比較して、HF+PFD群(69.3±13ng/ml)において有意な減少を示す。IFN-γは
図3Cに示され、HF群(221.3±50ng/ml)と比較して、PFD-LP群(18.2±8ng/ml)で有意に低かった。同様に、TNF-α(
図3D)は、HF群(254.6±70ng/ml)と比較して、HF+PFD群(32.9±21.1ng/ml)において血清レベルの有意な減少を示す。IL-17Aのレベル(
図3F)は、IL-17Aの血清レベルの有意な増加を示したHF群(1983.5±400ng/ml)と比較して、PFD-LPで治療したマウス(271.1±149.6ng/ml)で劇的な減少を示したことは言及するに値する。HF群で分析したサイトカインはいずれも、対照群と比較して非常に有意な増加を示した。最後に、抗炎症性サイトカインIL-10(
図3E)の血清レベルは、HF群(15.4±9.1ng/ml)と比較して、HF+PFD群(37.8±10.4ng/ml)で有意に高かったことが観察された。
【0038】
線維化促進性及び炎症誘発性のマーカー遺伝子の発現
肝臓メッセンジャーRNAのレベルは、PFD-LP+HF群において、TGF-β1の発現減少、並びにCOL1A1及びTNF-αの有意な下方調節を示した。さらに、HF群と比較してCD11b及びMCP1の遺伝子発現の有意な減少が観察された(
図4)。
【0039】
PFD-LPは、肝臓脂肪の代謝のメディエータを調節する
NAFLD/NASHにおける脂肪代謝メディエータの調節に対するPFDの効果を分析するため、重要な代謝性転写因子であるLXR及びPPARアルファを肝臓組織において評価した。
図5に示されるように、PFD+HF群におけるLXR(8082±847)及びPPARアルファ(11506±1167)のタンパク質レベルは、対照(それぞれ2634±1042及び3890±1130)及びHF群(それぞれ3375±898及び7308±1117)と比較して有意に増加した。また、LXR及びPPARによってそれぞれ標的とされるSREBP1及びCPT1A等のキータンパク質に対するPFD-LPの効果をより良く理解するため、それらも評価した。
図5に示されるように、PFD-LPは、対照(785±396)及びHF群(2622±1161)と比較して、前駆タンパク質であるSREBP1の増加(6057±847)を誘導した。一方で、その切断形態(活性形態)のSREBP1は減少傾向を示したが、3つの群間、すなわち(4567±1620)、HF(1776±893)及びPFD+HF(1638±303)で有意差は見られなかった。さらに、対照(4303±820)及びHF群(6.172±1.356)と比較して、PFD+HF群においてCPT1A(「燃焼」されるミトコンドリア中の肝臓脂肪の内部移行を担う酵素)発現において著しい増加(9303±809)が観察された。
【0040】
最後に
図6は、PPARガンマ及びNFkB等の肝臓における炎症過程の調節に重要な転写因子が、結果的に肝臓の炎症の減少をもたらすように特異的に調節されることを示している。