(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173350
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】立体造形物及び立体造形物の造形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/112 20170101AFI20221111BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221111BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221111BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20221111BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20221111BHJP
【FI】
B29C64/112
B33Y80/00
B33Y10/00
B29C64/393
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152800
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2017150838の分割
【原出願日】2017-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八角 邦夫
(57)【要約】
【課題】カラー領域において好適な発色を実現することができる立体造形物等を提供する。
【解決手段】積層方式により形成された立体造形物であって、表面の法線方向に一定の厚みを有するカラー領域14を備え、カラー領域14は、カラーインクだけではカラー領域のインクが所定のインク充填密度を満たさない箇所について、白色インク及び透明インクによって、カラー領域14のインク充填密度が補填されている。また、白色インクは、透明インクに比して内部側に補填される割合が多く、透明インクは、白色インクに比して表層側に補填される割合が多い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層方式により形成された立体造形物であって、
表面の法線方向に一定の厚みを有するカラー領域を備え、
前記カラー領域は、カラーインクだけでは前記カラー領域のインクが所定のインク充填密度を満たさない箇所について、白色インク及び透明インクによって、前記カラー領域の前記インク充填密度が補填されていることを特徴とする立体造形物。
【請求項2】
前記白色インクは、前記透明インクに比して内部側に補填される割合が多く、
前記透明インクは、前記白色インクに比して表層側に補填される割合が多いことを特徴とする請求項1に記載の立体造形物。
【請求項3】
前記白色インクと前記透明インクとは、半々に補填されていることを特徴とする請求項1または2に記載の立体造形物。
【請求項4】
前記カラー領域の内部側に設けられる光反射領域を、さらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の立体造形物。
【請求項5】
前記カラー領域と前記光反射領域との間に設けられる分離領域を、さらに備えることを特徴とする請求項4に記載の立体造形物。
【請求項6】
前記カラー領域の表層側に設けられる保護領域を、さらに備え、
前記保護領域及び前記分離領域の少なくとも一方は、前記透明インクにより形成されることを特徴とする請求項5に記載の立体造形物。
【請求項7】
表面の法線方向に一定の厚みを有するカラー領域を備えた立体造形物を積層方式によって造形する立体造形物の造形方法であって、
カラーインクだけでは前記カラー領域のインクが所定のインク充填密度を満たさない箇所について、白色インク及び透明インクによって、前記カラー領域の前記インク充填密度を補填することを特徴とする立体造形物の造形方法。
【請求項8】
前記立体造形物の内部側に、前記透明インクに比して前記白色インクを補填する割合が多くなるように形成し、前記立体造形物の表層側に、前記白色インクに比して前記透明インクを補填する割合が多くなるように形成することを特徴とする請求項7に記載の立体造形物の造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部側から表層側に亘って形成されるカラー領域を備えた立体造形物及び立体造形物の造形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カラー領域を備えた立体造形物として、積層方式により形成されたカラー領域を有する造形物が知られている(例えば、特許文献1参照)。この造形物は、カラー領域のインク充填密度が所定のインク充填密度を満たさない箇所について、補填インクによってカラー領域のインク充填密度が補填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1の造形物では、カラー領域の補填インクとして透明インクが用いられており、カラー領域の内側(中心部側)に白色インクを用いて形成された光反射層が設けられている。このため、造形物に入射した光はカラー領域を通過し、光反射層で反射され、反射した光は再びカラー領域を通過して外部に出射する。その結果、カラー領域の色彩に応じたカラー表面の造形物が得られる。
【0005】
しかしながら、特許文献1の造形物では、光の反射が光反射層による反射だけであるため、カラー領域の発色を向上させることが困難である。特に造形物が薄い平板状の場合やカラー領域が厚い場合は、十分な光反射層の厚さが確保できず、色彩の品質が低下してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、カラー領域において好適な発色を実現することができる立体造形物及び立体造形物の造形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の立体造形物は、積層方式により形成された立体造形物であって、表面の法線方向に一定の厚みを有するカラー領域を備え、前記カラー領域は、カラーインクだけでは前記カラー領域のインクが所定のインク充填密度を満たさない箇所について、白色インク及び透明インクによって、前記カラー領域の前記インク充填密度が補填されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の立体造形物の造形方法は、表面の法線方向に一定の厚みを有するカラー領域を備えた立体造形物を積層方式によって造形する立体造形物の造形方法であって、カラーインクだけでは前記カラー領域のインクが所定のインク充填密度を満たさない箇所について、白色インク及び透明インクによって、前記カラー領域の前記インク充填密度を補填することを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、白色インクと透明インクとを混在させてカラー領域のインク充填密度を補填することができる。このため、白色インクにより、カラー領域に入射した光を反射させることができる。また、透明インクにより、カラー領域に入射した光を通過させることができる。よって、カラー領域の内部側に光反射領域が設けられる場合、カラー領域において光が反射されると共に、光反射領域において光が反射されるため、カラー領域において鮮やかな発色を実現することができる。
【0010】
また、前記白色インクは、前記透明インクに比して内部側に補填される割合が多く、前記透明インクは、前記白色インクに比して表層側に補填される割合が多いことが好ましい。
【0011】
また、前記立体造形物の内部側に、前記透明インクに比して前記白色インクを補填する割合が多くなるように形成し、前記立体造形物の表層側に、前記白色インクに比して前記透明インクを補填する割合が多くなるように形成することが好ましい。
【0012】
これらの構成によれば、白色インクは、光を反射させる機能を有すると共に、光を遮蔽する機能を有する。このため、立体造形物の表層側に透明インクを多く配置することで、カラー領域への光の入射時において透明インクによる光の遮蔽を抑制することができる。また、立体造形物の内部側に白色インクを多く配置することで、カラー領域のカラー要素への光の通過時において白色インクによる光の遮蔽を抑制することができる。
【0013】
また、前記白色インクと前記透明インクとは、半々に補填されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、白色インクと透明インクとが均等な割合であるため、立体造形物を作成するための造形データを生成する場合、白色インクと透明インクとの割付を容易に行うことができ、造形データの生成に関する計算負荷を軽減することができる。
【0015】
また、前記カラー領域の内部側に設けられる光反射領域域を、さらに備えることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、光反射領域において、カラー領域を通過した光を好適に反射することができるため、カラー領域における発色を良好なものにすることができる。
【0017】
また、前記カラー領域と前記光反射領域との間に設けられる分離領域を、さらに備えることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、分離領域において、カラー領域と光反射領域との物理的な干渉を抑制することができる。このため、カラー領域における光の透過を好適に機能させることができ、また、光反射領域における光の反射を好適に機能させることができる。
【0019】
また、前記カラー領域の表層側に設けられる保護領域を、さらに備え、前記保護領域及び前記分離領域の少なくとも一方は、前記透明インクにより形成されることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、保護領域によりカラー領域を保護することができる。また、透明インクを用いて、保護領域と分離領域とを形成できるため、透明インクを兼用することができ、インクの種類の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る立体造形物及び立体造形物の造形方法は、カラー領域において好適な発色を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る立体造形物の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る立体造形物の断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る立体造形物のスライス層の一部に係る部分断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る立体造形物を構成する各要素(ボクセル)の配置を示す説明図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る立体造形物の造形方法において用いられる造形装置の概略を示す概略構成図である。
【
図6】
図6は、Z方向から見たときのキャリッジの構成を示す図である。
【
図7】
図7は、X方向から見たときのキャリッジの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0024】
[本実施形態]
本実施形態に係る立体造形物1は、インクジェットヘッドを用いた、いわゆるインクジェット方式により造形される三次元の造形物となっている。なお、本実施形態では、インクジェット方式を用いた造形に適用して説明するが、この方式に限定されず、積層方式によって立体造形物を形成する方式であれば何れに適用してもよい。例えば、樹脂等の紛体に色のついた結着材インクをインクジェット方式で吐出してカラー領域を積層形成する方式にも適用可能である。
【0025】
図1は、本実施形態に係る立体造形物の外観を示す斜視図である。
図2は、本実施形態に係る立体造形物の断面図である。
図3は、本実施形態に係る立体造形物の一部に係る部分断面図である。
【0026】
立体造形物1は、
図1に示す本実施形態において、例えば、中心軸Iが長軸方向となり、中心軸Iに直交する方向が短軸方向となる楕円形を、中心軸Iを中心に回転させた回転楕円形状となっており、いわゆるラグビーボール形状となっている。ここで、
図1では、長軸方向がY方向となり、水平方向における短軸方向がX方向となり、鉛直方向における短軸方向がZ方向となる、XYZ三次元座標系となっている。なお、本実施形態では、ラグビーボール形状の立体造形物1に適用して説明するが、形状は特に限定されず、いずれの形状であってもよい。
【0027】
図2は、
図1の中心軸Iを通るYZ平面の断面図となっており、
図3は、
図2における立体造形物1の側面におけるスライス層の一部を拡大した図となっている。
図2及び
図3に示すように、立体造形物1は、内部側から表層側(外部側)に亘って複数の領域が形成されている。具体的に、立体造形物1は、その外表面の法線方向において、内部側から順に、造形領域11と、光反射領域12と、分離領域13と、カラー領域14と、保護領域15と、を備えている。さらに、立体造形物1のオーバーハング部(立体造形物1を支持する下方の底面から外側に突き出した部位)の下方には、オーバーハング部の造形を可能にするためのサポート部2を構成している(
図3では省略)。このサポート部2は、後述のように、造形後の立体造形物1に対して分離可能となっている。
【0028】
造形領域11は、立体造形物1の構造体となる領域であり、所定のインクを用いて形成されている。造形領域11は、例えば、白色インクを用いて形成されており、その内部は、中実であってもよいし、一部中空となる骨組み形状(フレーム形状)であってもよく、特に限定されない。なお、インクの種類は、白色インクのみに限定されず、透明インク、着色したカラーインク、または、これらインクの混合であっても良い。
【0029】
光反射領域12は、造形領域11の外部側に形成され、造形領域11の外面の全面を覆う層状の領域となっている。光反射領域12は、後述するカラー領域14を通過した光を反射する領域となっている。光反射領域12は、光を反射すべく、例えば、白色インクを用いて形成されている。なお、光反射領域12は、白色インクを用いて形成したが、光を反射可能なインクであれば、いずれのインクであってもよい。また、外表面の法線方向における光反射領域12の厚さは、場所によらず一定であり、且つ可視光の反射率が少なくとも60%以上であり、80%以上であることが望ましい。
【0030】
分離領域13は、光反射領域12の外部側に形成され、光反射領域12の外面の全面を覆う層状の領域となっている。分離領域13は、光反射領域12と後述するカラー領域14との物理的な干渉を抑制する領域となっている。分離領域13は、カラー領域14と光反射領域12との間の光の通過を阻害しないように、透明インクを用いて形成されている。なお、分離領域13は物理的な干渉が少なければ不要である。
【0031】
カラー領域14は、分離領域13の外部側に形成され、分離領域13の外面の全面を覆う層状の領域となっている。カラー領域14は、立体造形物1の表面の色彩を表現する領域となっている。カラー領域14は、予め設定された色彩で発色させるべく、カラーインク及び補填インクを適宜用いて形成されている。カラー領域14は、表面の色彩の解像度を低下させないように、法線方向における層厚が、光反射領域12の層厚に比して、薄く形成されている。カラー領域14の層厚は、例えば、500μm以下であり、200μm以下がより望ましい。
【0032】
保護領域15は、カラー領域14の外部側に形成され、カラー領域14の外面の全面を覆う層状の領域となっている。保護領域15は、カラー領域14を紫外線による退色及び物理的な擦り傷から保護する領域となっている。保護領域15は、カラー領域14における色を隠さないように、透明インクを用いて形成されている。なお、カラー領域14の層厚が十分な場合や、透明インクによる光沢を嫌う場合は、保護領域15は不要である。
【0033】
このように形成される立体造形物1は、インクジェット方式を用いた、積層方式によって形成されている。つまり、立体造形物1は、水平面(XY面)内に延びる層状のスライス層17を、鉛直方向(Z方向)に複数積層することで形成される。なお、各スライス層17は、スライスデータに基づいて下記する造形装置が、各インクを吐出して各インクを硬化させることにより形成される。なお、全てのインクは、紫外線を照射することにより硬化するが、サポート部2を形成するサポート用インクのみ硬化後に水溶性であり、造形完了後に水に浸漬させることで除去される。
【0034】
次に、
図4を参照して、立体造形物1の各領域を構成する各要素のスライスデータについて説明する。
図4は、本実施形態に係る立体造形物を構成する各要素(インク滴、ボクセル)の配置を示す説明図である。
図4に示すように、立体造形物1は、複数のスライスデータに基づいて下記する造形装置によりスライス層17を形成すると共に、スライス層17を鉛直方向(Z方向)に複数積層して形成される。なお、
図4ではサポート部2を省略している。
【0035】
ここで、
図4に示すスライスデータは、2層分のスライスデータを示しており、第nスライスデータと、第nスライスデータに対して鉛直方向の上方側に位置する第n+1スライスデータと、を表している。第nスライスデータは、下層となる第m層と、第m層の上層となる第m+1層と、を含んで構成され、第n+1スライスデータは、第m+1層の上層となる第m+2層と、第m+2層の上層となる第m+3層と、を含んで構成されている。すなわち、1層分のスライスデータに対して、1つのボクセルで形成される層を2層重ねて構成されている。第m層から第m+3層までの各層は、Z方向における厚さが、主にカラー領域14の減法混色による多色形成に適切な各要素(インク滴、ボクセル)の値となっており、一例として、15μm~50μmの範囲となっている。
【0036】
造形領域11は、第nスライスデータにおいて、第m層と第m+1層との2層に亘る造形要素11aに基づいて形成され、また、第n+1スライスデータにおいて、第m+2層と第m+3層との2層に亘る造形要素11aに基づいて形成される。具体的に、造形要素11aは、後述する他の要素を1×1×1のボクセルとすると、2×2×2のボクセルとなっており、他の要素よりも大きなボクセルとなっている。このため、造形要素11aに基づいて造形領域11を造形する場合には、造形領域11のインクの吐出量を多くしたり、後述する造形用のインクジェットヘッドの数を多く配置(例えば、2倍)したり、異なる複数の種類のインクを複数のインクジェットヘッドから同時に吐出することで、造形領域11の形成の高速化を図ることが可能となる。また、造形要素11aは、上記したように、例えば、造形用インクMoとして、白色インクWを用いて光反射領域12と一体に形成してもよい。なお、造形要素11aも他の要素と同様に1×1×1のボクセルとしてもよい。
【0037】
光反射領域12は、第m層から第m+3層までの各層において、反射要素12aに基づいて形成される。具体的に、反射要素12aは、1×1×1のボクセルとなっており、上記したように、白色インクWを用いて形成される。光反射領域12は、立体造形物1の外表面に対する法線方向における厚みが、一例として、500μmとなっている。
【0038】
分離領域13は、第m層から第m+3層までの各層において、分離要素13aに基づいて形成される。具体的に、分離要素13aは、1×1×1のボクセルとなっており、上記したように、透明インクTを用いて形成される。
【0039】
カラー領域14は、第m層から第m+3層までの各層において、カラー要素14a及び補填要素14bに基づいて形成される。具体的に、カラー要素14aは、1×1×1のボクセルとなっており、スライスデータに含まれるカラーデータに応じてカラー領域14の中で、誤差拡散法やディザマトリクス法により各カラーインクが配置される。また、補填要素14bは、1×1×1のボクセルとなっており、上記したように、カラーインクが配置されなかったボクセルが補填インクを用いて配置、補填される。
【0040】
カラー要素14aは、減法混色法によるプロセスカラーであるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のカラーインクを用いて構成され、立体造形物1の色調に基づいて適宜配置される。
図4では、カラー要素14aとして、例えば、マゼンタ(M)とシアン(C)とが混在した状態で配置されている。なお、本実施形態では、YMCK色のカラーインクを用いたが、各色の炎色、赤(R)、緑(G)、青(B)のカラーインク、さらにメタリック(銀色)インク等を用いてもよく、特に限定されない。
【0041】
補填要素14bは、白色インク(W)を用いた白色補填要素Wと、透明インク(T)を用いた透明補填要素Tとを含んで構成され、立体造形物1の色調に基づいて適宜配置される。つまり、立体造形物1の色調が、低濃度の明るい色調の場合、カラーインクのみでは、カラー領域14のインクが所定のインク充填密度を満たさないことから、補填インク(つまり、白色インク及び透明インク)によってカラー領域14のインク充填密度を満たしている。
【0042】
ここで、白色補填要素Wは、カラー領域14に入射した光を反射させる機能を有すると共に、光を遮蔽する機能を有する。このため、白色補填要素Wは、カラー領域14に入射した光を好適に反射させるべく、透明補填要素Tに比して内部側に配置される割合を多くする。また、透明補填要素Tは、透明補填要素Tは、カラー領域14に入射した光を透過させる機能を有する。このため、透明補填要素Tは、カラー領域14に入射した光を好適に通過させるべく、白色補填要素Wに比して表層側に配置される割合を多くする。
【0043】
また、補填要素14bにおいて、白色補填要素W(白色インク)と透明補填要素T(透明インク)とは、半々に補填されている。このとき、立体造形物1の外表面に対する法線方向において、カラー領域14の厚みを、中央を境界として2等分に均等に分けた場合、カラー領域14の内部側における厚みの領域に、白色補填要素Wを配置し、カラー領域14の表層側における厚みの領域に、透明補填要素Tを配置する。なお、補填要素14aの補填インクの量は少なくとも各層の厚さが不足しない範囲で補填されれば良く、多過ぎたインクは、後述の平坦化ローラーRで除去される。
【0044】
保護領域15は、第m層から第m+3層までの各層において、保護要素15aに基づいて形成される。具体的に、保護要素15aは、1×1×1のボクセルとなっており、上記したように、透明インクTを用いて形成される。
【0045】
次に、
図5を参照して、立体造形物1を造形する造形装置20について説明する。
図5に示すように、造形装置20は、載置台21と、Yバー22と、キャリッジ23と、インクジェットヘッド24と、紫外線照射器25と、平坦化ローラーRと、キャリッジ駆動部26と、載置台駆動部27と、制御部28と、入力部29と、表示部30と、を備える。
【0046】
載置台21は、水平面内において延在する板状に形成されており、鉛直方向の上面が作業面21aとなっている。作業面21aは、水平面と平行な面となっており、平坦に形成されている。この作業面21aは、層状の造形材が積層されることで、立体造形物1及びサポート部2が造形される平面となっている。載置台21の作業面21aは、例えば、略矩形状に形成されるが、これに限らない。
【0047】
Yバー22は、載置台21の鉛直方向上側に所定の間隔をあけて設けられる。Yバー22は、水平方向(Y軸)と平行な主走査方向(Y方向)に沿って直線状に設けられる。Yバー22は、主走査方向に沿って往復移動するキャリッジ23を支持する。
【0048】
キャリッジ23は、Yバー22に保持され、当該Yバー22に沿って主走査方向に移動制御される。また、キャリッジ23は、鉛直方向において載置台21の作業面21aと対向する面に、インクジェットヘッド24を保持している。
【0049】
インクジェットヘッド24は、機能性インクとしてのカラーインク、補填インク及び造形用インクMoを、作業面21aに向かって吐出するものである。機能性インクとしては、例えば、紫外線硬化型インクが用いられる。また、インクジェットヘッド24は、紫外線照射器25と一体となっており、紫外線照射器25は、作業面21aに吐出された紫外線硬化型インクに対して紫外線を照射する。
【0050】
インクジェットヘッド24は、キャリッジ23に搭載され、キャリッジ23の主走査方向に沿う移動に伴って、主走査方向に往復移動可能となっている。インクジェットヘッド24は、例えば、各種インク流路、レギュレータ、ポンプ等を介して、キャリッジ23に搭載される不図示のインクタンクに接続されている。インクジェットヘッド24は、立体造形物1の造形に用いられる紫外線硬化型インクの種類に応じて、複数設けられている。このインクジェットヘッド24は、インクタンク内の紫外線硬化型インクを、載置台21の作業面21aに向けてインクジェット方式で吐出する。
【0051】
具体的に、インクジェットヘッド24は、Y方向の一方側(
図6の左側)から順に、イエロー(Y)のカラーインクを吐出するインクジェットヘッド24yと、マゼンダ(M)のカラーインクを吐出するインクジェットヘッド24mと、シアン(C)のカラーインクを吐出するインクジェットヘッド24cと、ブラック(K)のカラーインクを吐出するインクジェットヘッド24kと、を有している。また、インクジェットヘッド24は、Y方向の一方側(
図6の左側)から順に、白色(W)のカラーインクを吐出するインクジェットヘッド24wと、透明インク(T)を吐出するインクジェットヘッド24tと、サポート用インクを吐出するインクジェットヘッド24sと、を有している。これらのインクジェットヘッド24は、制御部28と電気的に接続され、制御部28によってその駆動が制御される。なお、本実施形態では、造形用インク(Mo)は白色(W)のカラーインクで形成している。
【0052】
平坦化ローラーRは、キャリッジ23に搭載され、ボクセルからなるスライス層17の厚さ(Z方向における厚さ)を均一にする。平坦化ローラーRは、例えば、インクジェットヘッド24sと後述する第3UVLED25cとの間に設けられている。
図5及び
図7において、キャリッジ23がY方向の左側(
図5及び
図7の左側)へ走査する際に、平坦化ローラーRが時計方向に回転することにより、スライス層17の上面の余分なインクを除去して均一化する。
【0053】
紫外線照射器25は、上記したように、インクジェットヘッド24と一体となっており、例えば、紫外線を照射可能なLEDモジュールを有している。具体的に、紫外線照射器25は、第1UVLED25aと、第2UVLED25bと、第3UVLED25cとを有している。第1UVLED25aと第3UVLED25cとは、インクジェットヘッド24において、Y方向の両側の端部に設けられている。第2UVLED25bは、カラーインクのインクジェットヘッド24y,24m,24c,24kと、白色インクのインクジェットヘッド24wとの間に設けられている。なお、表面がカラーの立体造形物1を造形する場合には、上記3つのUVLEDを使用するが、表面が白や透明でカラーが不要となる場合には、第2UVLED25bと第3UVLED25cのみ使用すれば良く、その場合、Y方向の走査距離が短いので、高速の造形が可能となる。
【0054】
このように、紫外線照射器25は、インクジェットヘッド24と一体となっていることから、キャリッジ23の主走査方向に沿う移動に伴って、主走査方向に往復移動可能となっている。紫外線照射器25は、制御部28と電気的に接続され、制御部28によってその駆動が制御される。
【0055】
キャリッジ駆動部26は、Yバー22に対してキャリッジ23を、すなわちインクジェットヘッド24、平坦化ローラーR及び紫外線照射器25を、主走査方向に相対的に往復移動させる(走査する)駆動装置である。キャリッジ駆動部26は、例えば、キャリッジ23に連結された搬送ベルト等の伝達機構、搬送ベルトを駆動するモーター等の駆動源を含んで構成され、駆動源が発生させた動力を、伝達機構を介してキャリッジ23を主走査方向に沿って移動させる動力に変換し、当該キャリッジ23を主走査方向に沿って往復移動させる。キャリッジ駆動部26は、制御部28と電気的に接続され、制御部28によってその駆動が制御される。
【0056】
載置台駆動部27は、
図5に示すように、鉛直方向移動部27aと、副走査方向移動部27bとを備える。鉛直方向移動部27aは、載置台21をZ軸と平行な鉛直方向に沿って上下移動することで、載置台21に形成された作業面21aを、平坦化ローラーRに対して相対的に鉛直方向に沿って上下移動させるものである。これにより、平坦化ローラーRは、スライス層17毎のZ方向における厚さを均一化させる。
【0057】
副走査方向移動部27bは、載置台21を主走査方向に対して直交するX軸と平行な副走査方向に移動させることで、載置台21に形成された作業面21aをインクジェットヘッド24に対して相対的に副走査方向に沿って往復移動させるものである。これにより、載置台駆動部27は、インクジェットヘッド24、紫外線照射器25等に対して、作業面21aを副走査方向に沿って往復移動させることができる。つまり、副走査方向移動部27bは、インクジェットヘッド24及び紫外線照射器25と、作業面21aとを副走査方向に相対的に往復移動可能とする。本実施形態では、副走査方向移動部27bは、載置台21を副走査方向に移動させるが、本発明では、これに限定されることなく、Yバー22毎、インクジェットヘッド24及び紫外線照射器25を副走査方向に移動させてもよい。
【0058】
制御部28は、インクジェットヘッド24、平坦化ローラーR、紫外線照射器25、キャリッジ駆動部26、載置台駆動部27等を含む造形装置20の各部を制御する。制御部28は、演算装置、メモリ等のハードウェア及びこれらの所定の機能を実現させるプログラムから構成される。制御部28は、インクジェットヘッド24を制御し、紫外線硬化インクの吐出量、吐出タイミング、吐出期間等を制御する。制御部28は、紫外線照射器25を制御し、照射する紫外線の強度、露光タイミング、露光期間等を制御する。制御部28は、キャリッジ駆動部26を制御し、キャリッジ23の主走査方向に沿った相対移動を制御する。制御部28は、載置台駆動部27を制御し、載置台21の鉛直方向及び副走査方向に沿った相対移動を制御する。
【0059】
入力部29は、制御部18に接続され、立体造形物1の造形に関する造形データを入力したり、立体造形物1の造形条件を設定したりするためのものである。入力部29は、例えば、制御部28に有線/無線で接続されるPC、種々の端末等のデバイスによって構成される。
【0060】
表示部30は、制御部28に接続され、立体造形物1の造形に関する情報を表示するものである。表示部30は、例えば、ディスプレイ等のデバイスによって構成される。なお、表示部30としては、入力部29と一体となるタッチパネルディスプレイを適用してもよい。
【0061】
次に、上記の造形装置20による立体造形物1の造形方法に関する制御(以下、造形制御という。)について説明する。造形装置20の制御部28は、立体造形物1の造形データに基づいて、立体造形物1の造形に関する造形制御を実行している。造形データは、立体造形物1の形状に関するデータ(例えば、ポリゴンデータ等)であるの形状データと、立体造形物1のカラー領域14の色彩に関するデータ(例えば、RGBカラーまたはCMYKカラー等)であるカラーデータとを含んでいる。
【0062】
そして、制御部28は、載置台21の作業面21aに相当する作業設定領域40上に配置された造形データに基づいて、スライスデータを作成する。スライスデータは、立体造形物1を構成する層状の造形材(スライス層17)を造形するためのデータであり、例えば、上記の
図4に示すスライスデータである。このスライスデータには、各領域11,12,13,14,15の各要素11a,12a,13a,14a,14b,15aに関するデータが含まれている。そして、制御部28は、スライスデータに基づいて、スライス層17を造形すると共に、スライス層17を積層するように、各部を造形制御することで、カラー領域14を含む立体造形物1を造形する。
【0063】
ここで、造形制御において立体造形物1を造形する場合、カラー領域14に対して、カラーインクを用いてカラー要素14aを形成すると共に、補填インクを用いて補填要素14bを形成する(カラー領域形成工程)。具体的に、カラー領域形成工程では、補填インクとしての白色インクを用いて白色補填要素Wを形成すると共に、補填インクとしての透明インクを用いて透明補填要素Tを形成する。このとき、カラー領域形成工程では、立体造形物1の内部側に、透明補填要素Tに比して白色補填要素Wの割合が多くなるように形成し、立体造形物1の表層側に、白色補填要素Wに比して透明補填要素Tの割合が多くなるように形成する。
【0064】
以上のように、本実施形態によれば、白色インクと透明インクとを混在させてカラー領域のインク充填密度を補填することができる。このため、白色インクにより、カラー領域14に入射した光を反射させることができる。また、透明インクにより、カラー領域14に入射した光を通過させることができる。よって、カラー領域14の内部側に光反射領域12が設けられる場合、カラー領域14において光が反射されると共に、光反射領域12において光が反射されるため、カラー領域14において鮮やかな発色を実現することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、白色補填要素W(白色インク)は、光を反射させる機能を有すると共に、光を遮蔽する機能を有する。このため、立体造形物1の表層側に透明補填要素T(透明インク)を多く配置することで、カラー領域14への光の入射時において透明補填要素Tによる光の遮蔽を抑制することができる。また、立体造形物1の内部側に白色補填要素Wを多く配置することで、カラー領域14のカラー要素14aへの光の通過時において白色補填要素Wによる光の遮蔽を抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、カラー領域14において、白色インクと透明インクとを半々に補填することで、白色補填要素Wと透明補填要素Tとを均等な割合にできるため、立体造形物1を作成するための造形データを生成する場合、白色補填要素Wと透明補填要素Tとの割付を容易に行うことができ、造形データの生成に関する計算負荷を軽減することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、光反射領域12を設けることで、カラー領域14を通過した光を好適に反射することができるため、カラー領域14における発色を良好なものにすることができる。また、分離領域13により、カラー領域14と光反射領域12との物理的な干渉を抑制することができる。このため、カラー領域14における光の透過を好適に機能させることができ、また、光反射領域12における光の反射を好適に機能させることができる。
【0068】
また、本実施形態によれば、保護領域15を設けることで、保護領域15によりカラー領域14を保護することができる。また、透明補填要素Tに用いられる透明インクを用いて、保護領域15と分離領域13とを形成できるため、透明インクを兼用することができ、インクの種類の増大を抑制することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 立体造形物
2 サポート部
11 造形領域
11a 造形要素
12 光反射領域
12a 反射要素
13 分離領域
13a 分離要素
14 カラー領域
14a カラー要素
14b 補填要素
15 保護領域
15a 保護要素
17 スライス層
20 造形装置
21 載置台
22 Yバー
23 キャリッジ
24 インクジェットヘッド
25 紫外線照射器
26 キャリッジ駆動部
27 載置台駆動部
28 制御部
29 入力部
30 表示部
I 中心軸
W 白色補填要素
T 透明補填要素
R 平坦化ローラー