(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173351
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221111BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20221111BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C08L101/00
C08F290/06
C09J4/02
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152889
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2020555688の分割
【原出願日】2019-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018214280
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 伸也
(57)【要約】
【課題】自動車業界において求められる特性、すなわち硬化体が低温で高い伸び率を有し、かつ、高温環境でも高い弾性率を有する組成物を提供すること。
【解決手段】下記(A)~(D)を含有する組成物。(A)数平均分子量が5000以上のウレタン(メタ)アクリレートを、(A)と(B)の合計100質量部に対して40~75質量部、(B-1)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレート及び(B-2)(メタ)アクリル酸を(A)と(B)の合計100質量部に対して15~25質量部を含有する(B)(メタ)アクリル化合物、(C)重合開始剤、(D)還元剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)を含有する組成物。
(A)数平均分子量が5000以上のウレタン(メタ)アクリレートを、(A)と(B)の合計100質量部に対して40~75質量部
(B)
(B-1)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレート、及び
(B-2)(メタ)アクリル酸を(A)と(B)の合計100質量部に対して15~25質量部
を含有する(メタ)アクリル化合物
(C)重合開始剤
(D)還元剤
【請求項2】
請求項1に記載の組成物を第一剤と第二剤に分けたときの第一剤が少なくとも(C)重合開始剤を含有し、第二剤が少なくとも(D)還元剤を含有する二剤型の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の組成物を含有する接着剤組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の接着剤組成物により接合された接合体。
【請求項6】
引張速度10mm/分での破断伸びが-20℃で20%以上であり、かつ、80℃における引張弾性率が100MPa以上である組成物。
【請求項7】
JIS K7161-2:2014の附属書Aに規定する1BA型ダンベル試験片形状に硬化させた硬化体の、引張速度10mm/分での破断伸びが-20℃で20%以上、23℃で100%以上であり、かつ、80℃における引張弾性率が100MPa以上である組成物。
【請求項8】
組成物が、(A)ウレタン(メタ)アクリレートと(B)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリル化合物を含有する請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
(B)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリル化合物が、(B-1)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレートと(B-2)(メタ)アクリル酸を含有する請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
(A)ウレタン(メタ)アクリレートの使用量が、(A)と(B)の合計100質量部に対して、40~75質量部である請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
(A)ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量が5000以上である請求項8~10のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
(B-2)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリル酸の使用量が、(A)と(B)の合計100質量部に対して、15~25質量部である請求項8~11のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
更に、(C)重合開始剤と(D)還元剤を含有する請求項8~12のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項13に記載の組成物を第一剤と第二剤に分けたときの第一剤が少なくとも(C)重合開始剤を含有し、第二剤が少なくとも(D)還元剤を含有する二剤型の組成物。
【請求項15】
請求項6~14のうちのいずれか1項に記載の組成物を含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項6~14のうちのいずれか1項に記載の組成物を含有する接着剤組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の接着剤組成物により接合された接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部材には鋼板が用いられているが、環境負荷を鑑み、部材の軽量化の需要が高まっている。そのために、鋼板より軽量のアルミニウムやCFRP等の部材が併用されている。それらの組み合わせによる異種材料を接合して製造された自動車も既に製造・販売されている。
【0003】
しかしながら、その接合には主にリベット接合等の機械的接合が用いられており、異種材料の接合において使用されるエポキシ系等の構造用接着剤は、適用部位が限定されている。これは構造用接着剤の耐久信頼性に問題があるためである。具体的には、構造用接着剤は硬化後の伸び性が乏しく、異種材料を接合した際の線膨張係数差による応力を緩和できないため、耐久劣化し接着面が剥がれる問題がある(特許文献1~4)。このため、異種材料を接合した際の応力を緩和するために、エポキシ樹脂と潜在型硬化剤を用いた、硬化後の伸び率が15%である一液エポキシ系接着剤が提案されている(特許文献5)。低温から高温まで高い弾性率と伸びを有し、耐水性、耐熱性に優れる樹脂組成物として、ウレタンアクリレートと単官能性不飽和化合物とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物が報告されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-145185号公報
【特許文献2】特開平5-148337号公報
【特許文献3】特開平5-156227号公報
【特許文献4】特開平7-145225号公報
【特許文献5】特開2009-108278号公報
【特許文献6】特開昭63-090525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動車業界においては自動車部材が広範囲の温度に曝されることを想定する必要がある。自動車業界では一般に低温環境とは-20℃以下、高温環境とは80℃以上(通常使用の車室内では想定されない温度範囲)のことをいう。特許文献5に示される方法では、硬化体の伸びが小さく、異種材料を接合した際の線膨張係数差による応力を十分に緩和できない。特に、エポキシ系接着剤は低温環境下での伸び性に乏しく、-20℃若しくはそれ以下の寒冷地では接着強度が著しく低下してしまう問題がある。一方で、例えば一部のウレタン系接着剤は低温環境下でも高い伸びを有するが、高温環境における弾性率が低い傾向にあり、高温条件下では十分な接着強度を維持できない。特許文献6に示される硬化性樹脂組成物では、硬化体が低温から高温まで高い弾性率と伸びを有すると謳われており、20℃から60℃まで高い弾性率を持つことが示されてはいる。しかし特許文献6には、伸び率の温度依存性(特に低温環境での伸び)について記載はないし、また自動車業界でいうところの高温環境での引張弾性率についても記載がない。
【0006】
そこで本発明は、自動車業界において求められる特性、すなわち硬化体が低温で高い伸び率を有し、かつ、高温環境でも高い弾性率を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下を提供できる。
【0008】
<1>下記(A)~(D)を含有する組成物。
(A)数平均分子量が5000以上のウレタン(メタ)アクリレートを、(A)と(B)の合計100質量部に対して40~75質量部
(B)
(B-1)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレート、及び
(B-2)(メタ)アクリル酸を(A)と(B)の合計100質量部に対して15~25質量部
を含有する(メタ)アクリル化合物
(C)重合開始剤
(D)還元剤
【0009】
<2><1>に記載の組成物を第一剤と第二剤に分けたときの第一剤が少なくとも(C)重合開始剤を含有し、第二剤が少なくとも(D)還元剤を含有する二剤型の組成物。
【0010】
<3><1>又は<2>に記載の組成物を含有する硬化性樹脂組成物。
【0011】
<4><1>又は<2>に記載の組成物を含有する接着剤組成物。
【0012】
<5><4>に記載の接着剤組成物により接合された接合体。
【0013】
<6>引張速度10mm/分での破断伸びが-20℃で20%以上であり、かつ、80℃における引張弾性率が100MPa以上である組成物。
【0014】
<7>JIS K7161-2:2014の附属書Aに規定する1BA型ダンベル試験片形状に硬化させた硬化体の、引張速度10mm/分での破断伸びが-20℃で20%以上、23℃で100%以上であり、かつ、80℃における引張弾性率が100MPa以上である組成物。
【0015】
<8>組成物が、(A)ウレタン(メタ)アクリレートと(B)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリル化合物を含有する<6>又は<7>に記載の組成物。
【0016】
<9>(B)(メタ)アクリル化合物が、(B-1)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレートと(B-2)(メタ)アクリル酸を含有する<8>に記載の組成物。
【0017】
<10>(A)ウレタン(メタ)アクリレートの使用量が、(A)と(B)の合計100質量部に対して、40~75質量部である<8>又は<9>に記載の組成物。
【0018】
<11>(A)ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量が5000以上である<8>~<10>のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【0019】
<12>(B-2)(メタ)アクリル酸の使用量が、(A)と(B)の合計100質量部に対して、15~25質量部である<8>~<11>のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【0020】
<13>更に、(C)重合開始剤と(D)還元剤を含有する<8>~<12>のうちのいずれか1項に記載の組成物。
【0021】
<14><13>に記載の組成物を第一剤と第二剤に分けたときの第一剤が少なくとも(C)重合開始剤を含有し、第二剤が少なくとも(D)還元剤を含有する二剤型の組成物。
【0022】
<15><6>~<14>のうちのいずれか1項に記載の組成物を含有する硬化性樹脂組成物。
【0023】
<16><6>~<14>のうちのいずれか1項に記載の組成物を含有する接着剤組成物。
【0024】
<17><16>に記載の接着剤組成物により接合された接合体。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、自動車業界で求められる特性として低温で高い伸び率を有し、かつ、高温環境でも高い弾性率を有する組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書における数値範囲は、別段の断わりがないかぎりはその上限値及び下限値を含むものとする。
【0027】
本実施形態は、(A)ウレタン(メタ)アクリレートと(B)(メタ)アクリル化合物を含有することが好ましい。更に、本実施形態は、(C)重合開始剤、(D)還元剤を含有することが好ましい。
【0028】
本実施形態は、JIS K7161-2:2014の附属書Aに規定される1BA型ダンベル試験片形状に硬化させた硬化体の、引張速度10mm/分での破断伸びが-20℃で20%以上であることが好ましい。本実施形態は、80℃における引張弾性率が100MPa以上であることが好ましい。
【0029】
更に、本実施形態は、JIS K7161-2:2014の附属書Aに規定される1BA型ダンベル試験片形状に硬化させた硬化体の、引張速度10mm/分での破断伸びが23℃で100%以上であることが好ましい。
【0030】
上記限定により、硬化体が低温から高温まで高い伸び率を有し、かつ、高温環境でも高い弾性率を有する組成物が得られる。
【0031】
((A)ウレタン(メタ)アクリレート)
(A)ウレタン(メタ)アクリレートとは、例えば、ポリオール化合物(以後、Xで表す)と有機ポリイソシアネート化合物(以後、Yで表す)とヒドロキシ(メタ)アクリレート(以後、Zで表す)とを反応(例えば、重縮合反応)させることにより得られる、分子内にウレタン結合を有するウレタン(メタ)アクリレートをいう。
【0032】
ポリオール化合物(X)(以下、単にポリオールということもある)としては、ポリエーテル型、ポリエステル型等が挙げられる。ポリオールは、多価アルコールであっても良い。ポリオールの中では、ネオペンチルグリコール、テトラメチレンエーテルグリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエステルポリオールから選ばれる1種以上が好ましい。
【0033】
ポリエステルポリオールとは、(1)ポリオールと、(2)多塩基酸との縮合物をいう。
【0034】
多塩基酸の中では、ジカルボン酸が好ましい。ジカルボン酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、無水イタコン酸、イタコン酸、アジピン酸、イソフタル酸から選ばれる1種以上が好ましく、アジピン酸がより好ましい。
【0035】
ウレタン(メタ)アクリレートの製法は、例えば、特開平7-25957号公報、特開2002-173515号公報、特開平7-292048号公報、特開2000-351819号公報等に記載されている。
【0036】
有機ポリイソシアネート化合物(Y)(以下、単にイソシアネートということもある)としては、例えば、芳香族系、脂肪族系、環式脂肪族系、脂環式系等のポリイソシアネートが使用できる。イソシアネートの中では、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)から選ばれる1種以上が好ましく、イソホロンジイソシアネートがより好ましい。
【0037】
ヒドロキシ(メタ)アクリレート(Z)(以下、単にヒドロキシ(メタ)アクリレートということもある)としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0038】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの中では、式(1)で表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
式(1)
Z-O-(R1-O-)p-H
(式中、Zは(メタ)アクリロイル基、R1はアルキレン基、pは1~10の整数を表す。)
【0039】
式(1)におけるR1のアルキレン基の炭素数は1~8が好ましく、2~6がより好ましい。
【0040】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの中では、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0041】
ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量は、5,000以上が好ましく、7,000以上がより好ましく、18,000以上が最も好ましい。5,000以上だと、低温での破断伸びが大きい。ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量は、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましい。
【0042】
本実施形態の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定される標準ポリスチレン換算の値である。具体的には、数平均分子量は、下記の条件にて、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、GPCシステム(東ソー社製SC-8010)を使用し、市販の標準ポリスチレンで検量線を作成して求める。
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃
カラム構成:東ソー社製「TSK guardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、及び東ソー社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
サンプル注入量:100μl(試料液濃度1mg/ml)
送液圧力:39kg/cm2
検出器:RI検出器
【0043】
(A)ウレタン(メタ)アクリレートの使用量は、(A)と(B)の合計100質量部に対して、40~75質量部が好ましく、44~75質量部がより好ましい。40質量部以上だと低温での破断伸びが大きい。75質量部以下だと接着性が大きい。
【0044】
((B)(メタ)アクリル化合物)
(B)(メタ)アクリル化合物とは、(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性化合物である。(B)(メタ)アクリル化合物は、(A)ウレタン(メタ)アクリレートを除くものとする。
【0045】
(B)(メタ)アクリル化合物は、(B-1)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレートと(B-2)(メタ)アクリル酸を含有することが好ましい。
【0046】
(B-1)(メタ)アクリレートとは、(B-2)(メタ)アクリル酸を除く(メタ)アクリル化合物をいう。
【0047】
(メタ)アクリレートとしては、単官能(メタ)アクリレート及び/又は多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能(メタ)アクリレートとは、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル化合物をいう。単官能(メタ)アクリレートとは、1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル化合物をいう。(メタ)アクリレートの中では、単官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0048】
(メタ)アクリレートとしては、炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が好ましい。(メタ)アクリレートの中では、炭化水素基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。炭化水素基としては、非置換が好ましい。炭化水素基としては、炭素数が2~16であることが好ましい。炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0049】
炭化水素基としては、アルキル基、アルキレン基から選ばれる1種以上が好ましい。炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、脂環式炭化水素基、非脂環式炭化水素基から選ばれる1種以上が好ましく、脂環式炭化水素基がより好ましい。
【0050】
脂環式炭化水素基としては、イソボルニル基が好ましい。非脂環式炭化水素基としては、エチルヘキシル基が好ましい。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、上述のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0051】
(B)(メタ)アクリル化合物の使用量は、(A)と(B)の合計100質量部に対して、25~60質量部が好ましく、25~56質量部がより好ましい。25質量部以上だと接着性が大きい。60質量部以下だと低温での破断伸びが大きい。
【0052】
(B-1)(メタ)アクリレートの使用量は、(A)と(B)の合計100質量部に対して、1~38質量部が好ましく、5~38質量部がより好ましい。1質量部以上だと接着性が大きい。38質量部以下だと接着性が大きい。
【0053】
(B-2)(メタ)アクリル酸は、(メタ)アクリレートとは異なり、高温環境下でも高い引張弾性率を与える成分である。仮説ではあるが、(メタ)アクリル酸はそのカルボキシル基により他分子との水素結合を生じ、引張弾性率に寄与すると本発明者は考えている。この効果は、たとえイソボルニル(メタ)アクリレートのような嵩高い高分子量のものであったとしても(メタ)アクリレート単独では得られないものであって、あくまで(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸が共存することでの相乗効果であると考えられる。(B-2)(メタ)アクリル酸としては、メタクリル酸が好ましい。
【0054】
(B-2)(メタ)アクリル酸の使用量は、(A)と(B)の合計100質量部に対して、15~25質量部が好ましく、15~24質量部がより好ましい。15質量部以上だと高温での引張弾性率が大きい。25質量部以下だと低温での破断伸びが大きい。
【0055】
((C)重合開始剤)
本実施形態で使用する重合開始剤としては、反応性の点で、有機過酸化物が好ましい。
【0056】
有機過酸化物としては、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの中では、反応性の点で、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0057】
(C)重合開始剤の使用量は、(A)と(B)の合計100質量部に対して(すなわち、外割で)、0.1~20質量部が好ましく、0.5~15質量部がより好ましい。0.1質量部以上だと硬化速度が速くなり、20質量部以下だと貯蔵安定性が良い。
【0058】
((D)還元剤)
本実施形態で使用する還元剤としては、前記重合開始剤と反応し、ラジカルを発生する公知の還元剤であれば使用できる。還元剤としては、第3級アミン、チオ尿素誘導体及び遷移金属塩から選ばれる1種以上が好ましく、遷移金属塩がより好ましい。遷移金属塩としては、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅及びバナジルアセチルアセトナート等が挙げられる。遷移金属塩の中では、バナジルアセチルアセトナートが好ましい。
【0059】
(D)還元剤の使用量は、(A)と(B)の合計100質量部に対して(すなわち、外割で)、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。0.01質量部以上だと硬化速度が速くなり、10質量部以下だと貯蔵安定性が良い。
【0060】
本実施形態は、例えば、二剤型の硬化性樹脂組成物として使用できる。二剤型については、本実施形態の硬化性樹脂成分の必須成分全てを貯蔵中は混合せずに第一剤と第二剤に分け、一方に少なくとも(C)重合開始剤を、もう一方に少なくとも(D)還元剤を含有する。この場合、第一剤、第二剤を同時、又は別々に塗布し接触、硬化することにより二剤型の硬化性樹脂組成物として使用できる。
【0061】
本実施形態は、例えば、接着剤組成物として使用できる。本実施形態の接着剤組成物により被着体を接合して接合体を作製できる。被着体の各種材料については、紙、木材、セラミック、ガラス、陶磁器、ゴム、プラスチック、モルタル、コンクリート及び金属等、特に制限はない。
【実施例0062】
以下実験例により本実施形態を詳細に説明する。以下、各種物質の使用量の単位は質量部で示す。
【0063】
ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオール、イソシアネート、ヒドロキシ(メタ)アクリレートを反応することにより得られた。
【0064】
(各種物質)
ウレタンアクリレートA:数平均分子量20,000。ポリオールはポリオールAとジカルボン酸を重縮合したポリエステルポリオール。ポリオールAはブタンジオールとヘキサンジオール。ジカルボン酸はアジピン酸。イソシアネートはイソホロンジイソシアネート。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルアクリレート。
ウレタンアクリレートB:数平均分子量7,000。ポリオールはポリオールBとジカルボン酸を重縮合したポリエステルポリオール。ポリオールBはネオペンチルグリコール。ジカルボン酸はアジピン酸。イソシアネートはイソホロンジイソシアネート。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルアクリレート。
ウレタンアクリレートC:数平均分子量5,000。ポリオールはテトラメチレングリコール。イソシアネートは水添ジフェニルメタンジイソシアネート。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルアクリレート。
ウレタンアクリレートD:数平均分子量3,500。ポリオールはポリオールAとジカルボン酸を重縮合したポリエステルポリオール。ポリオールAはブタンジオールとヘキサンジオール。ジカルボン酸はアジピン酸。イソシアネートはイソホロンジイソシアネート。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルアクリレート。
ウレタンアクリレートE:数平均分子量12,000。ポリオールはテトラメチレングリコール。イソシアネートはイソホロンジイソシアネート。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルアクリレート。
メタクリル酸:市販品
ヒドロキシプロピルメタクリレート:市販品
エチルヘキシルメタクリレート:市販品
イソボルニルアクリレート:市販品
クメンハイドロパーオキサイド:市販品
バナジルアセチルアセトナート:市販品
【0065】
各種物性は次のように測定した。
【0066】
(破断伸び・引張弾性率)
表1記載の温度における物性を測定した。JIS K7161-1:2014及びK7161-2:2014の「プラスチック-引張特性の求め方」による試験方法に準拠した。23℃、相対湿度50%の環境下で24時間養生した1BA型ダンベル形状の試験片の硬化体を用い、23℃の雰囲気下で引張速度10mm/分の条件で測定した。引張試験機は、「INSTRON5967」(インストロン社製)を使用し、破断伸び・引張弾性率を測定した。高温下での評価として、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間養生した試料を、80℃の高温槽SPHH-201(エスペック社製、登録商標)で30分加温したのち80℃雰囲気下で同様に評価した。低温下での評価として、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間養生した試料を-20℃の低温恒温器WU-200(エスペック社製、登録商標)で30分冷却し、-20℃の雰囲気下で同様に評価した。引張弾性率はJIS K7161-2:2014に準拠し、応力/ひずみ曲線のひずみ0.05%から0.2%の間の線形回帰による傾きから求めた。
【0067】
破断伸びが-20℃の雰囲気下で20%以上であり、破断伸びが23℃の雰囲気下で100%以上であり、破断伸びが80℃の雰囲気下で100%以上であり、80℃の雰囲気下での引張弾性率が100MPa以上であることが、自動車業界における低温環境でも十分な伸びがあり、高温環境でも構造用接着剤として使用できる点で、好ましい。
【0068】
(せん断接着強さ)
表1記載の温度における物性を測定した。JIS K6850:1999に準拠した。一枚の試験片(100×25×5mmのSPCC)の片面に二剤を混合した接着剤組成物を塗布し、もう一方の試験片(100×25×5mmのSPCC)と直ちに重ね合わせて貼り合わせた後、室温で24時間養生し、これを引張剪断接着強さ(以下、単にせん断接着強さということもある)測定用試料とした。接着剤組成物層の厚さを均一化するため、粒径125μmのガラスビーズを接着剤組成物に微量添加した。引張剪断接着強さ(単位:MPa)は、温度23℃、湿度50%の環境下で引張速度10mm/分で測定した。
【0069】
引張剪断接着強さが23℃の雰囲気下で20MPa以上であることが、構造用接着剤として使用できる点で、好ましい。
【0070】
(実験例1~10)
表1~2の組成比で各種物質を混合し、表1に示す第一剤と第二剤からなる接着剤組成物を調製した。第一剤と第二剤を、質量比で等量ずつ混合した。得られた二剤型接着剤組成物につき、物性を測定した。結果を表1~2に併記した。なお(C)及び(D)の量は、(A)と(B)の合計100質量部に対しての外割で表記したものである。
【0071】
【0072】
【0073】
表1~2に示す通り、以下のことが判る。本実施形態の組成では、-20℃の低温環境での破断伸びが20%以上であり、23℃の常温環境で破断伸びが100%以上であり、かつ、80℃の高温環境での引張弾性率が100MPa以上である。
【0074】
実験例5は、ウレタン(メタ)アクリレートの使用量が少ないため、低温での破断伸びが小さい。実験例6は、ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量が小さいため、低温での破断伸びが小さい。実験例7は、(メタ)アクリル酸の使用量が少ないため、高温での引張弾性率が小さい。実験例8は、(メタ)アクリル酸の使用量が多いため、低温での破断伸びが小さい。実験例9は、(メタ)アクリル酸を使用していないため、高温での引張弾性率が小さい。実験例10は、ウレタン(メタ)アクリレートの使用量が多すぎるため、高温での引張弾性率が小さい。
【0075】
従って、本実施形態により、硬化体が低温から高温まで高い伸び率を有し、かつ、高温環境でも高い弾性率を有する硬化性樹脂組成物が得られる。
【0076】
本実施形態は、例えば異種材料で構成された自動車部材に対し、低温環境から高温環境まで、異種材料間の線膨張係数差による応力を十分に緩和でき、十分な接着強度を有する接着剤組成物を提供できる。
【0077】
自動車部材や電気製品筐体等といった用途では、実用に際して破壊されないことが求められる。このため、高い引張弾性率(例えば、剛性)を維持したまま高い破断伸び(例えば、耐衝撃性)も維持することが求められる。即ち、弾性率と引張破断点伸びが大きい組成物が求められる。
【0078】
本実施形態の接着剤組成物は、高い剛性と高い耐衝撃性を有するので、自動車部材や電気製品筐体の異種接合等に使用できる。
JIS K7161-2:2014の附属書Aに規定する1BA型ダンベル試験片形状に硬化させた硬化体の、引張速度10mm/分での破断伸びが-20℃で20%以上、23℃で100%以上であり、かつ、80℃における引張弾性率が100MPa以上である組成物。