(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173353
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】注腸剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/58 20060101AFI20221111BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
A61K31/58
A61P1/04
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153076
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2017253179の分割
【原出願日】2017-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2016254999
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】513001606
【氏名又は名称】EAファーマ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509274005
【氏名又は名称】ドクトル ファルク ファルマ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100106574
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 省司
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 森夫
(72)【発明者】
【氏名】山多 洋司
(57)【要約】
【課題】炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のためのブデソニドを有効成分とする注腸剤の提供。
【解決手段】ブデソニドを有効成分とし、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日2回、12週間服用されることを特徴とする、注腸剤;ブデソニドの1回あたりの投与量が2.0mgである、前記記載の注腸剤;潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために服用される、前記いずれかに記載の注腸剤;泡沫又は液である、前記いずれかに記載の注腸剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブデソニドを有効成分とし、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、12週間投与されることを特徴とする、潰瘍性大腸炎治療剤。
【請求項2】
ブデソニドの投与量が1回あたり2.0mgである、請求項1に記載の潰瘍性大腸炎治療剤。
【請求項3】
潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために投与される、請求項1又は2に記載の潰瘍性大腸炎治療剤。
【請求項4】
泡沫状又は液状である、請求項1から3のいずれか一項に記載の潰瘍性大腸炎治療剤。
【請求項5】
1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、6週間投与された時点において、治療反応が認められたが大腸粘膜治癒(内視鏡所見スコア0点)には至らなかった炎症性腸疾患の患者に対して、さらに1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、6週間投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の潰瘍性大腸炎治療剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の潰瘍性大腸炎治療剤で1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを含有する潰瘍性大腸炎治療剤を、14回分投与可能な潰瘍性大腸炎治療剤パッケージ。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の潰瘍性大腸炎治療剤で1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを含有する潰瘍性大腸炎治療剤を、14回分投与可能なように調製する、潰瘍性大腸炎治療剤パッケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のためのブデソニドを有効成分とする注腸剤に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎は、主に大腸粘膜に潰瘍やびらんができる原因不明の非特異性炎症性腸疾患であり、クローン病は、主として口腔から肛門までの全消化管に、非連続性の慢性肉芽腫性炎症を生じる原因不明の炎症性腸疾患である。いずれも、血便、粘血便、下痢、腹痛等がよくみられる症状であり、症状が酷くなると、一般的な社会生活にも支障がでる。また、これらは根治的治療が確立しておらず、一度発症すると、再燃と寛解を繰り返すことになる。このため、患者のQOL(quality of life)の向上のためには、寛解期をできるだけ長く維持することが重要である。
【0003】
一般的に、投薬治療は、臨床的寛解に至ることを目的として行われる。このため、例えば潰瘍性大腸炎では、血便がなくなり、排便回数が日常生活に支障がない程度にまで減少するなど、臨床的症状が消失又は日常生活に支障がない程度にまで改善された場合には、腸管の粘膜の炎症が完全に消失しておらず、軽度の炎症が確認される場合であっても、寛解したとされる。しかしながら、近年、投薬治療終了時において、腸管粘膜が正常に回復した(粘膜治癒に至った)患者群では、腸管粘膜に発赤が残っていたり、血管透見像が減少したままであった患者群に比べて、予後が長期間良好であり、寛解維持が有意に改善されているとの報告がなされている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。つまり、寛解期をなるべく長期間維持するためには、活動期の治療時に、臨床的寛解だけではなく、腸管粘膜の治癒を目指すことが重要である。
【0004】
ブデソニド((+)-[(RS)-16α,17α-Butylidenedioxy-11β,21-dihydroxy-1,4-pregnadiene-3,20-dione])は、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患の治療剤として適用されているステロイド剤である。ブデソニドは、局所投与に有効であり、一般的に、圧縮ガス充填パックされた医薬泡沫剤や浣腸製剤等の注腸剤として使用されている(例えば、特許文献1参照。)。潰瘍性大腸炎等の治療としては、一般的に、2mgのブデソニドを1日1回、6週間投与することにより行われている。また、2mgのブデソニドを1日2回(1日当たりの投与量が4mg)、2週間投与した後、2mgのブデソニドを1日1回、4週間投与した潰瘍性大腸炎患者群では、プラセボ投与群と比較して、改変Mayo疾患活動性指数(modified Mayo Disease Activity Index:MMDAI)が0又は1に改善する効果が有意に高かったことが報告されている(特許文献2参照。)。さらに、2mgのブデソニドを1日2回、6週間投与した潰瘍性大腸炎患者群では、2mgのブデソニドを1日1回、6週間投与した潰瘍性大腸炎患者群と比較して、大腸粘膜の治癒効果が有意に高いことも報告されている(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3421348号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0349982号明細書
【特許文献3】国際公開第2016/121147号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Colombel, et al., GASTROENTEROLOGY, 2011, vol.141, p.1194-1201.
【非特許文献2】Yokoyama, et al., Gastroenterology Research and Practice, 2013, vol.2013, Article ID 192794.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のためのブデソニドを有効成分とする注腸剤において、従来よりも粘膜治癒効果が有意に優れている注腸剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ブデソニドを有効成分とする注腸剤を、1日2回、6週間投与した時点において治療反応が認められたが粘膜治癒(内視鏡所見スコア0点)には至らなかった患者(内視鏡所見スコア1点)に対して、さらに1日2回、6週間投与することにより、重篤な副作用を引き起こさずに粘膜治癒に至る患者の割合が、プラセボ投与群に比較して有意に高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の実施態様は、以下の[1]~[7]に関する。
[1] ブデソニドを有効成分とし、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、12週間投与されることを特徴とする、注腸剤。
[2] ブデソニドの投与量が1回あたり2.0mgである、前記[1]の注腸剤。
[3] 潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために投与される、前記[1]又は[2]の注腸剤。
[4] 泡沫状又は液状である、前記[1]~[3]のいずれかの注腸剤。
[5] 1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、6週間投与された時点において、治療反応が認められたが大腸粘膜治癒(内視鏡所見スコア0点)には至らなかった炎症性腸疾患の患者に対して、さらに1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、6週間投与される、前記[1]~[4]のいずれかの注腸剤。
[6] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の注腸剤で1回分あたり1.5~2.5mgのブデソニドを含有する注腸剤を、14回分投与可能な注腸剤パッケージ。
[7] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の注腸剤で1回分あたり1.5~2.5mgのブデソニドを含有する注腸剤を、14回分投与可能なように調製する、注腸剤パッケージの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る注腸剤は、炎症により、潰瘍やびらんが生じた腸管粘膜に対する治癒効果が顕著に高い。このため、本発明に係る注腸剤は、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のための注腸剤として非常に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を示して本発明を詳細に説明する。本実施形態に係る注腸剤は、ブデソニドを有効成分とし、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために、1.5~2.5mgのブデソニドを1日2回、12週間投与(服用)されることを特徴とする。ブデソニドは従来、炎症性腸疾患の治療剤として、2mgを1日1回、6週間、直腸に直接投与されることによって使用されている。これに対して、本実施形態に係る注腸剤は、1回当たりの投与量は従来法と同様であるが、腸管粘膜の炎症を治癒する効果が、従来の1日1回服用の場合よりも有意に優れている。また、本実施形態に係る注腸剤は、投与期間が従来法の2倍の12週間であり、このように長期間投与することにより、6週間投与では粘膜治癒に至らなかった炎症性腸疾患患者が粘膜治癒に至る割合を高めることができる。さらに、充分な効果を得るには、12週間の間、1日2回服用することが好ましい。すなわち、投与期間は6週間を超えて12週間以下から選ぶことができ、好ましいのは12週間である。ここで週間とはおよその期間であり、炎症性腸疾患患者への投与の都合上で投与期間が数日増減しても効果を得られるため、目安として±3日程度を含む。なお、本明細書において服用は広く炎症性腸疾患患者に投与することを指すが、本実施形態においては後述するように、坐剤等によって経肛門的に投与する方法を含む。
【0012】
本実施形態に係る注腸剤は、1日当たりの投与量が従来法の2倍量であり、投与期間も2倍の12週間であるが、従来法と比較して特段の副作用もなく、従来法と同程度に安全に服用できる。なお、本発明に係る注腸剤は、局所投与剤であるが、有効成分であるブデソニドはステロイド剤であるため、従来は投与期間は6週間に限定されていた。6週間を超えて比較的安全に服用可能であることは、後記実施例において見いだされた知見である。
【0013】
ブデソニドには、22Rと22Sの2種類のジアステレオマーがある。本実施形態に係る注腸剤の有効成分としては、これらのジアステレオマーのいずれか一方であってもよく、混合されたもの(例えば、ジアステレオマーの両方をほぼ等量含むラセミ体)であってもよい。幾つかの薬理学的側面において、ブデソニドの2種類のジアステレオマーのうち22Rのほうが22Sよりも活性が高いため、本実施形態に係る注腸剤の有効成分としては、ラセミ体又は22Rジアステレオマーを用いることが好ましく、22Rジアステレオマーを用いることがより好ましい。
【0014】
本実施形態に係る注腸剤は、1日に2回服用されるが、1日のうちの服用時点は特に限定されるものではないが、少なくとも6時間以上、1日(24時間)未満あけることが好ましく、朝と夜に服用することがより好ましい。また、可能な限り、排便後に服用されることが好ましい。
【0015】
本実施形態に係る注腸剤は、ブデソニドを成人に対して1回の投与量につき1.5~2.5mgの範囲で1日2回服用するものであることが好ましく、1回の投与量につき2mgとなるように1日2回服用するものであることが特に好ましい。
【0016】
本実施形態に係る注腸剤が液剤の場合、ブデソニドの安定性が高いことから、当該液剤のpHは6.0以下であることが好ましく、生理学的な認容性の点から3.0~6.0であることがより好ましく、3.5~6.0であることがさらに好ましい。
【0017】
また、ブデソニドは水への溶解性が低いため、本実施形態に係る注腸剤が液剤の場合、ブデソニドを溶解させる溶媒としては、アルコール類、又は水とアルコール類の混合溶媒であることが好ましい。当該アルコール類としては、プロピレングリコール、エタノール、及びイソプロパノール等が挙げられる。 溶媒として用いるアルコール類は、1種類のみであってもよく、2種類以上のアルコール類を混合して用いてもよい。水とアルコール類の混合溶媒を用いる場合は、アルコール類の水に対する比率は、水:アルコールの質量比において100:0~80:20が好ましく、98:2~93:7がより好ましい。
【0018】
本実施形態に係る注腸剤は、ブデソニドの安定性を向上させられることから、EDTAナトリウム塩(エチレンジアミン四酢酸ナトリウム)及び/又はシクロデキストリン類を含有することが好ましい。シクロデキストリン類としては、β-シクロデキストリン、ヒドロキシ-β-シクロデキストリン、又はγ-シクロデキストリンが好ましい。
【0019】
本実施形態に係る注腸剤は、その他にも、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容され得る各種添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、pH調整剤、保存剤、増粘剤、又は乳化剤等が挙げられる。pH調整剤としては、例えば、酢酸、クエン酸、酒石酸、塩酸、若しくはリン酸等の酸類;水酸化カリウム、若しくは水酸化ナトリウム等の塩基類;又は、塩酸緩衝液、フタール酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、硼酸塩緩衝液、酢酸塩緩衝液若しくはクエン酸塩緩衝液等の緩衝液等が挙げられる。保存剤としては、例えば、エタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、ソルビン酸、安息香酸、二亜硫酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸塩、フェノール、m-グレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、四級アンモニウム塩、又はクロールヘキシジン等が挙げられる。増粘剤としては、例えば、ゼラチン、トラガカント、ペクチン、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸類、キサンタンガム、又はザンサンガム等が挙げられる。乳化剤としては、例えば、セテアリールアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、若しくはミリスチルアルコール等の脂肪族アルコール;又は、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテル、若しくはポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0020】
本実施形態に係る注腸剤の剤型は、経肛門的に直接腸管内に投与するものであれば特に限定されるものではない。本実施形態においては泡沫状又は液状等の形態の注腸剤が使用でき、例えば、直腸泡沫(フォーム)剤、浣腸剤、又は坐剤等が挙げられる。浣腸剤は、液剤として流通可能なものであってもよく、ブデソニドを含有する錠剤を、服用直前に水等の溶媒に溶解させて調製するものであってもよい。本実施形態に係る注腸剤としては、肛門からより広い大腸内に直接投与することが可能であることから、直腸泡沫剤又は浣腸剤が好ましく、直腸泡沫剤が特に好ましい。ここで泡沫剤は、液剤の水溶液により気泡を形成し、気泡の集合の泡沫を形成する形態などを言う。泡沫剤は、前記泡沫を炎症性腸疾患患者の腸管に噴霧する等によって投与する。
【0021】
ブデソニドを有効成分とする直腸泡沫剤、浣腸剤、及び坐剤は、1回分の投与量が1.5~2.5mgのブデソニドを含むように調製される以外は、従来公知の手法により製造できる。ブデソニド及び上述した他の成分を含む、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防用組成物を、上述の各種の注腸剤の形態に調整することができる。例えば、ブデソニドを有効成分とする直腸泡沫剤及び浣腸剤は、特許文献1に記載方法で製造できる。例えば、ブデソニドを有効成分とする直腸泡沫剤は、アルコール類又は水とアルコール類との混合溶媒に、保存剤や泡沫形成に必要な乳化剤を溶解させた溶液に、アルコール類に溶解させたブデソニドを添加して混合した後、EDTAナトリウム塩と酸を溶解させた水溶液を、攪拌して均質化しながら混入し、得られた溶液を、単回又は多回投与器具として市販のバルブシステムを備えたガス充填パックに封入し、次いで噴射ガスを添加することによって製造できる。噴射ガスとしては、イソブタン、n-ブタン又はプロパン/n-ブタン混合物等の炭化水素類が好ましい。当該ガス充填パックには、更にプラスチック製のアプリケーターチップが付けられていてもよい。
【0022】
本実施形態に係る注腸剤は、1回分の投与量の薬包ごとに提供してもよいが、1日2回、12週間の間投与しやすいような形態を適宜調整して提供してもよい。例えば注腸フォーム剤としては、14回分(1週間分)の泡沫剤をアルミ缶に包装したり、2週間分(28回分)をアルミ缶(エアゾール)に包装して提供することもできる。また、これらを組み合わせて6~12週間分としてもよい。このようなパッケージは、1人に対する処方に適宜使用しやすい。
【0023】
本実施形態に係る注腸剤は、腸管粘膜治癒効果に優れているため、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために好適に用いられる。中でも、潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために服用されることが好ましく、直腸からS状結腸までに病変が存在する潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために服用されることがより好ましい。中でも、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、6週間投与された時点において、大腸粘膜治癒(後記の内視鏡所見スコアが0の状態)には至らなかった炎症性腸疾患の患者に対して、さらに6週間、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回投与されることが好ましい。従来の投与期間である6週間を超えてブデソニドを1日あたり2回投与し続けることにより、6週間の投与では粘膜治癒には至らなかった炎症性腸疾患の患者に対しても充分な治療効果を得ることができる。
【0024】
なお、本実施形態における治療は、炎症性腸疾患患者の症状の改善を広く指す。本実施形態における再燃予防は、疾患の症状が完全に、又はある程度、改善後の炎症性腸疾患患者に対して、症状の悪化(再燃)を防ぐことを広く指す。本実施形態に係る注腸剤の服用により、従来の1日1回ブデソニドを服用する方法よりも粘膜の炎症をより改善し得るため、本実施形態に係る注腸剤を服用した患者では、服用後、より長期間寛解を維持できることが期待できる。また、本実施形態に係る注腸剤は、従来のブデソニド注腸剤と同様に(Gionchetti et al.,Alimentary Pharmacology & Therapeutics,2007,vol.25,p.1231-1236;Sambuelli et al. ,Alimentary Pharmacology & Therapeutics,2002,vol.16,p.27-34)、潰瘍性大腸炎の結腸全摘出後の回腸嚢(パウチ状に形成)に生じる炎症である回腸嚢炎(Pouchitis)の治療又は再燃予防のために服用されてもよい。
【実施例0025】
次に実施例等を示して本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]プラセボ対照無作為化二重盲検多施設共同並行群間比較試験
活動期潰瘍性大腸炎患者を対象に、プラセボを対照とした二重盲検比較試験によりブデソニド2mgを1日2回、6週間、直腸内投与した際の粘膜治癒率を主要評価項目としてブデソニドのプラセボに対する優越性を検証するとともに安全性を調べた。また、6週間投与にて治療反応が認められたが粘膜治癒には至らなかった患者を対象に、ブデソニド2mg1日2回を更に6週間継続投与(計12週間投与)した際の安全性及び有効性を調べた(治験番号:JapicCTI-142704)。
【0027】
なお、本治験は、「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則、「薬事法第14条第3項及び第80条の2」に規定する基準及び「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守して実施した。また、治験の実施に先立ち、治験審査委員会において本治験の倫理的、科学的及び医学的・薬学的妥当性が審査され、承認された。
【0028】
<被験薬及び対照薬>
試験には、被験薬として、1回の噴射でブデソニド2mgを含む25mL(1.35g)の白色のクリーム状の泡沫が放出される定量噴射式の注腸用エアゾール剤(直腸泡沫剤)を用いた。当該注腸用エアゾール剤は、病変が直腸及びS状結腸に限局する活動期潰瘍性大腸炎の寛解導入治療薬として、ブデソニド2mgを1日1回の用法・用量で欧州において承認されたものである(商品名:Budenofalk 2mg/dose rectal foam、ドクターファルクファーマ社製)。
また、対照薬として、外観、重量等が被験薬と識別不能で、ブデソニドを含有しない定量噴射式注腸用エアゾール剤を用いた。
【0029】
<被験者>
活動期の潰瘍性大腸炎患者を被験者とし、被験薬を1日2回投与する群(以下、ブデソニド投与群)及び対照薬を投与する群(以下、プラセボ群)に分けた。
【0030】
<投与量、投与方法及び投与期間>
被験薬又は対照薬を、1日2回(朝1回、及び夜1回)、なるべく排便後に直腸内投与した。1投与当たりの噴射回数は1回であり、投与期間は6週間とし、粘膜治癒(内視鏡所見スコアが0点)に至らなかった場合は12週間投与可能とし、評価前日の夜まで投与した。各群のブデソニド投与量は、1日2回群が4mg/日であり、プラセボ群が0mg/日であった。12週間投与した被験者はブデソニド投与群が20例、プラセボ群が18例であった。
【0031】
<結果>
各被験者について、投与開始前(0週目)、6週間投与時点、及び12週間投与時点において、大腸内視鏡検査を行い、MMDAIの内視鏡所見スコア(0=正常又は非活動性所見、1=軽症(発赤、血管透見像の減少)、2=中等症(著明に発赤、血管透見像の消失、脆弱、びらん)、3=重症(自然出血、潰瘍))を調べた。内視鏡所見スコアの判定は、試験実施医療機関の担当医師による評価と内視鏡中央判定委員会による評価の2つを実施した。試験実施医療機関の担当医師による評価は、試験に被験者を登録する際の判断と6週間投与時にさらに6週間投与を継続するかの判断に用いた。内視鏡中央判定委員会による評価は、有効性を評価するために用いた。表1から3に示す内視鏡所見スコアは内視鏡中央判定委員会による評価を示す。12週間投与した被験者の測定結果を表1に示す。また、プラセボ群の各被験者の6週目から12週目への内視鏡所見スコアの変化を表2に、ブデソニド投与群の各被験者の6週目から12週目への内視鏡所見スコアの変化を表3に、それぞれ示す。
【0032】
【0033】
表1に示す通り、両群とも、6週目と12週目のいずれにおいても、スコアの低値方向への変化が認められたが、プラセボ群よりもブデソニド投与群のほうが、スコアの低値方向への変化、すなわち粘膜の改善方向への変化が大きかった。
【0034】
【0035】
【0036】
表2に示す通り、プラセボ群では、12週目において内視鏡所見スコア0と改善された被験者は認められなかった。これに対して、ブデソニド投与群では、表3に示す通り、0から1へ1/20例(5.0%)、1から0へ5/20例(25.0%)、1から2へ1/20例(5.0%)、2から0へ1/20例(5.0%)であり、12週目における内視鏡所見スコアが0となった被験者の内訳は、6週目の内視鏡所見スコア1から0となった5例とスコア2から0となった1例の計6例(40.0%)であった。すなわち、6週目時に内視鏡所見スコアが1であった被験者を対象に更に被験薬を6週間継続投与した結果、12週目における内視鏡所見スコア0の割合は、未測定の被験者を除いた場合、プラセボ群0%(0/13例)に対しブデソニド投与群40.0%(6/15例)であり、ブデソニド投与群はプラセボ群と比較して明らかに高かった。これらの結果から、ブデソニドを有効成分とする注腸剤を1日2回、6週間投与した場合に治療反応が認められたが粘膜治癒には至らなかった炎症性腸疾患の患者に対して、さらに6週間、ブデソニドを1日2回投与することにより、粘膜治癒に至る治療効果が有意に得られることが明らかである。
【0037】
一方で、安全性に関しては、ブデソニド投与群における有害事象の発現頻度は、プラセボ群よりも高かったが、被験薬との因果関係ありの有害事象の発現はプラセボ群と差は認められなかった。また、被験薬の12週間投与により、死亡、重篤な有害事象及び重度の有害事象は観察されなかった。
【0038】
血液学的検査及び血液生化学的検査を行ったところ、ブデソニド投与群における6週目と12週目における血漿コルチゾール濃度は、0週目(投与前)と比較し低値であったが、12週投与終了から2~4週後の後観察においては0週目の値に回復していた。その他は、ブデソニド投与群は、0週目及びプラセボ群と比較し、白血球分画の好酸球の割合の減少が4週目以降12週目まで認められたが、その他の項目は、いずれの群においても明らかな変動は認められなかった。ブデソニド投与群とプラセボ群の0週目(投与前)、12週目(投与終了時点)、及び後観察の時点における、血漿コルチゾール濃度及び血漿ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)濃度の基準値未満の症例の割合を表4に示す。
【0039】
【0040】
表4に示すように、血漿コルチゾール濃度の基準値未満の症例の割合は、0週目、12週目、及び後観察の順で、プラセボ群0%(0/18例)、5.6%(1/18例)、0%(0/16例)、ブデソニド投与群0%(0/20例)、57.9%(11/19例)、10.0%(2/20例)であり、血漿ACTH濃度の基準値未満の症例の割合は、プラセボ群0%(0/18例)、0%(0/18例)、0%(0/16例)、ブデソニド投与群15.0%(3/20例)、42.1%(8/19例)、10.0%(2/20例)であり、12週目で血漿コルチゾール濃度及び血漿ACTH濃度が基準値未満となった被験者も後観察で基準値内にほぼ回復した。なお、ブデソニド投与群において、12週間の投与期間内、及び投与後の観察期において、グルココルチコイドの副作用に該当する有害事象は認められなかった。これらの結果から、潰瘍性大腸炎患者へのブデソニド2mgの1日2回、12週間、直腸内投与することの忍容性は許容し得るものと考えられた。
本発明に係る注腸剤は、炎症により、潰瘍やびらんが生じた腸管粘膜に対する治癒効果が顕著に高い。このため、本発明に係る注腸剤は、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のための注腸剤として非常に優れている。