(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173567
(43)【公開日】2022-11-18
(54)【発明の名称】注腸剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/58 20060101AFI20221111BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20221111BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221111BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221111BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
A61K31/58
A61P1/00
A61P1/04
A61K9/08
A61K9/12
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161133
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2020013974の分割
【原出願日】2015-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2015012723
(32)【優先日】2015-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://www.ecco-ibd.eu/images/2_Congresses_Events/2015/ Discover_the_programme/MASTER_ECCO’ 15%20Final%20programme_Web.pdf、平成27年1月22日 〔刊行物等〕 Inflammatory Bowel Diseases 10▲th▼ Congress of ECCO、Europe an Crohn’s and Colitis Organization主催、平成27年2月18日~平成27年2月21日開催
(71)【出願人】
【識別番号】513001606
【氏名又は名称】EAファーマ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509274005
【氏名又は名称】ドクトル ファルク ファルマ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100106574
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山多 洋司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 省司
(72)【発明者】
【氏名】梶岡 季史
(57)【要約】
【課題】炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のためのブデソニドを有効成分とする注腸剤を提供する。
【解決手段】ブデソニドを有効成分とし、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日2回、6週間服用されることを特徴とする、注腸剤;ブデソニドの1回あたりの投与量が2.0mgである、前記記載の注腸剤;潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために服用される、前記いずれかに記載の注腸剤;泡沫又は液である、前記いずれかに記載の注腸剤である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブデソニドを有効成分とし、潰瘍性大腸炎の再燃予防のために、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、6週間投与されることを特徴とする、潰瘍性大腸炎の再燃予防剤。
【請求項2】
ブデソニドを有効成分とし、直腸からS字結腸までの病変が存在する潰瘍性大腸炎の治療又は再燃予防のために、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、6週間投与されることを特徴とする、潰瘍性大腸炎治療剤。
【請求項3】
請求項1に記載の潰瘍性大腸炎の再燃予防剤又は請求項2に記載の潰瘍性大腸炎治療剤を含む注腸剤であって、
ブデソニドの投与量が1回あたり2mgである、注腸剤。
【請求項4】
泡沫状又は液状である、請求項3に記載の注腸剤。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の注腸剤で1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを含有する注腸剤を、14回分投与可能な注腸剤パッケージ。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の注腸剤で1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを含有する注腸剤を、14回分投与可能なよう調整する、注腸剤パッケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のためのブデソニドを有効成分とする注腸剤に関する。
本願は、2015年1月26日に、日本に出願された特願2015-012723号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎は、主に大腸粘膜に潰瘍やびらんができる原因不明の非特異性炎症性腸疾患であり、クローン病は、主として口腔から肛門までの全消化管に、非連続性の慢性肉芽腫性炎症を生じる原因不明の炎症性腸疾患である。いずれも、血便、粘血便、下痢、腹痛等がよくみられる症状であり、症状が酷くなると、一般的な社会生活にも支障がでる。また、これらは根治的治療が確立しておらず、一度発症すると、再燃と寛解を繰り返すことになる。このため、患者のQOL(quality of life)の向上のためには、寛解期をできるだけ長く維持することが重要である。
【0003】
一般的に、投薬治療は、臨床的寛解に至ることを目的として行われる。このため、例えば潰瘍性大腸炎では、血便がなくなり、排便回数が日常生活に支障がない程度にまで減少するなど、臨床的症状が消失又は日常生活に支障がない程度にまで改善された場合には、腸管の粘膜の炎症が完全に消失しておらず、軽度の炎症が確認される場合であっても、寛解したとされる。しかしながら、近年、投薬治療終了時において、腸管粘膜が正常に回復した(粘膜治癒に至った)患者群では、腸管粘膜に発赤が残っていたり、血管透見像が減少したままであった患者群に比べて、予後が長期間良好であり、寛解維持が有意に改善されているとの報告がなされている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。つまり、寛解期をなるべく長期間維持するためには、活動期の治療時に、臨床的寛解だけではなく、腸管粘膜の治癒を目指すことが重要である。
【0004】
ブデソニド((+)-[(RS)-16α,17α-Butylidenedioxy-11β,21-dihydroxy-1,4-pregnadiene-3,20-dione])は、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患の治療剤として適用されているステロイド剤である。ブデソニドは、局所投与に有効であり、一般的に、圧縮ガス充填パックされた医薬泡沫剤や浣腸製剤等の注腸剤として使用されている(例えば、特許文献1参照。)。潰瘍性大腸炎等の治療としては、一般的に、2mgのブデソニドを1日1回、6週間投与することにより行われている。また、2mgのブデソニドを1日2回(1日当たりの投与量が4mg)、2週間投与した後、2mgのブデソニドを1日1回、4週間投与した潰瘍性大腸炎患者群では、プラセボ投与群と比較して、改変Mayo疾患活動性指数(modified Mayo Disease Activity Index:MMDAI)が0又は1に改善する効果が有意に高かったことが報告されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特許第3421348号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0349982号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Colombel, et al., GASTROENTEROLOGY, 2011, vol.141, p.1194-1201.
【非特許文献2】Yokoyama, et al., Gastroenterology Research and Practice, 2013, vol.2013, Article ID 192794.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のためのブデソニドを有効成分とする注腸剤において、従来よりも粘膜治癒効果が有意に優れている注腸剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ブデソニドを有効成分とする注腸剤を、1日2回、6週間投与することにより、従来の1日1回6週間投与した場合に比べて、粘膜治癒効果が有意に高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の実施態様は、以下の[1]~[6]の注腸剤に関する。
[1] ブデソニドを有効成分とし、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを1日あたり2回、6週間投与されることを特徴とする、注腸剤。
[2] ブデソニドの投与量が1回あたり2.0mgである、前記[1]又は[2]の注腸剤。
[3] 潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために投与される、前記[1]~[2]のいずれかの注腸剤。
[4] 泡沫状又は液状である、前記[1]~[3]のいずれかの注腸剤。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の注腸剤で1回分あたり1.5~2.5mgのブデソニドを含有する注腸剤を、14回分投与可能な注腸剤パッケージ。
[6] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の注腸剤で1回分あたり1.5~2.5mgのブデソニドを含有する注腸剤を、14回分投与可能なよう調整する、注腸剤パッケージの製造方法。
【0010】
また、本発明の実施態様の別の側面では、以下のような態様を提供する。
[1A] 炎症性腸疾患である対象又は炎症性腸疾患の症状改善後の対象に、1回あたり1.5~2.5mgのブデソニドを、1日あたり2回、6週間の間、経肛門的に投与する、炎症性腸疾患の治療方法又は再燃予防方法。
[2A] 前記ブデソニドを1回あたり2.0mg投与する、前記[1A]の炎症性腸疾患の治療方法又は再燃予防方法。
[3A] 前記炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎又はクローン病である、前記[1A]~[2A]の炎症性腸疾患の治療方法又は再燃予防方法。
[4A] 前記投与は、前記ブデソニドを含有する注腸剤を服用する、前記[1A]~[3A]の炎症性腸疾患の治療方法又は再燃予防方法。
[5A] 前記注腸剤が泡沫状又は液状である、前記[4A]の炎症性腸疾患の治療方法又は再燃予防方法。
[6A]前記1日2回の投与は、1回目と2回目の投与の間を少なくとも6時間あけて行う、前記[1A]~[5A]の炎症性腸疾患の治療方法又は再燃予防方法。
[1B] 1.5~2.5mgのブデソニドを含有する炎症性腸疾患の治療又は再燃予防用組成物。
[2B] 2.0mgのブデソニドを含有する前記[1B]の炎症性腸疾患の治療用又は再燃予防用組成物。
[3B] 前記[1B]又は[2B]の炎症性腸疾患の治療用又は再燃予防用組成物を14回定量投与できる注腸フォーム剤を含むパッケージとされている、炎症性腸疾患の治療用又は再燃予防用組成物のパッケージ。
[1C] 注腸剤の製造における、前記[1B]又は[2B]の炎症性腸疾患の治療用又は再燃予防用組成物の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る注腸剤は、炎症により、潰瘍やびらんが生じた腸管粘膜に対する治癒効果が顕著に高い。このため、本発明に係る注腸剤は、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のための注腸剤として非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1において、各群の粘膜寛解率(%)を示した図である。
【
図2】実施例1において、各群の粘膜治癒率(%)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を示して本発明を詳細に説明する。本実施形態に係る注腸剤は、ブデソニドを有効成分とし、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために、1.5~2.5mgのブデソニドを1日2回、6週間投与(服用)されることを特徴とする。ブデソニドは従来、炎症性腸疾患の治療剤として、2mgを1日1回、6週間、直腸に直接投与されることによって使用されている。これに対して、本実施形態に係る注腸剤は、1回当たりの投与量や投与期間は従来法と同様であるが、腸管粘膜の炎症を治癒する効果が、従来の1日1回服用の場合よりも有意に優れている。また、本実施形態に係る注腸剤は、1日当たりの投与量が従来法の2倍量になるが、従来法と比較して特段の副作用もなく、従来法と同程度に安全に服用できる。従来、前記注腸剤を2週間までは1日2回投与した例があるが、本実施形態では、2週間を超えて1日2回投与することができる。さらに、充分な効果を得るには、6週間の間、1日2回服用することが好ましい。すなわち、投与期間は2週間を超えて6週間以下から選ぶことができ、好ましいのは6週間である。ここで週間とはおよその期間であり、対象への投与の都合上で投与期間が数日増減しても効果を得られるため、目安として±3日程度を含む。なお、本明細書において服用は広く対象に投与することを指すが、本実施形態においては後述するように、坐剤等によって経肛門的に投与する方法を含む。
【0014】
ブデソニドには、22Rと22Sの2種類のジアステレオマーがある。本実施形態に係る注腸剤の有効成分としては、これらのジアステレオマーのいずれか一方であってもよく、混合されたもの(例えば、ジアステレオマーの両方をほぼ等量含むラセミ体)であってもよい。幾つかの薬理学的側面において、ブデソニドの2種類のジアステレオマーのうち22Rのほうが22Sよりも活性が高いため、本実施形態に係る注腸剤の有効成分としては、ラセミ体又は22Rジアステレオマーを用いることが好ましく、22Rジアステレオマーを用いることがより好ましい。
【0015】
本実施形態に係る注腸剤は、1日に2回服用されるが、1日のうちの服用時点は特に限定されるものではないが、少なくとも6時間以上、1日(24時間)未満あけることが好ましく、朝と夜に服用することがより好ましい。また、可能な限り、排便後に服用されることが好ましい。
【0016】
本実施形態に係る注腸剤は、ブデソニドを成人に対して1回の投与量につき1.5~2.5mgの範囲で1日2回服用するものであることが好ましく、1回の投与量につき2mgとなるように1日2回服用するものであることが特に好ましい。
【0017】
本実施形態に係る注腸剤が液剤の場合、ブデソニドの安定性が高いことから、当該液剤のpHは6.0以下であることが好ましく、生理学的な認容性の点から3.0~6.0であることがより好ましく、3.5~6.0であることがさらに好ましい。
【0018】
また、ブデソニドは水への溶解性が低いため、本実施形態に係る注腸剤が液剤の場合、ブデソニドを溶解させる溶媒としては、アルコール類、又は水とアルコール類の混合溶媒であることが好ましい。当該アルコール類としては、プロピレングリコール、エタノール、及びイソプロパノール等が挙げられる。溶媒として用いるアルコール類は、1種類のみであってもよく、2種類以上のアルコール類を混合して用いてもよい。水とアルコール類の混合溶媒を用いる場合は、アルコール類の水に対する比率は、水:アルコールの質量比において100:0~80:20が好ましく、98:2~93:7がより好ましい。
【0019】
本実施形態に係る注腸剤は、ブデソニドの安定性を向上させられることから、EDTAナトリウム塩(エチレンジアミン四酢酸ナトリウム)及び/又はシクロデキストリン類を含有することが好ましい。シクロデキストリン類としては、β-シクロデキストリン、ヒドロキシ-β-シクロデキストリン、又はγ-シクロデキストリンが好ましい。
【0020】
本実施形態に係る注腸剤は、その他にも、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容され得る各種添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、pH調整剤、保存剤、増粘剤、又は乳化剤等が挙げられる。pH調整剤としては、例えば、酢酸、クエン酸、酒石酸、塩酸、若しくはリン酸等の酸類;水酸化カリウム、若しくは水酸化ナトリウム等の塩基類;又は、塩酸緩衝液、フタール酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、硼酸塩緩衝液、酢酸塩緩衝液若しくはクエン酸塩緩衝液等の緩衝液等が挙げられる。保存剤としては、例えば、エタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、ソルビン酸、安息香酸、二亜硫酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸塩、フェノール、m-グレゾール、p-クロロ-m-クレゾール、四級アンモニウム塩、又はクロールヘキシジン等が挙げられる。増粘剤としては、例えば、ゼラチン、トラガカント、ペクチン、セルロース誘導体(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸類、キサンタンガム、又はザンサンガム等が挙げられる。乳化剤としては、例えば、セテアリールアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、若しくはミリスチルアルコール等の脂肪族アルコール;又は、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテル、若しくはポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る注腸剤の剤型は、経肛門的に直接腸管内に投与するものであれば特に限定されるものではない。本実施形態においては泡沫状又は液状等の形態の注腸剤が使用でき、例えば、直腸泡沫(フォーム)剤、浣腸剤、又は坐剤等が挙げられる。浣腸剤は、液剤として流通可能なものであってもよく、ブデソニドを含有する錠剤を、服用直前に水等の溶媒に溶解させて調製するものであってもよい。本実施形態に係る注腸剤としては、肛門からより広い大腸内に直接投与することが可能であることから、直腸泡沫剤又は浣腸剤が好ましく、直腸泡沫剤が特に好ましい。ここで泡沫剤は、液剤の水溶液により気泡を形成し、気泡の集合の泡沫を形成する形態などを言う。泡沫剤は、前記泡沫を対象に噴霧する等によって投与する。
【0022】
ブデソニドを有効成分とする直腸泡沫剤、浣腸剤、及び坐剤は、1回分の投与量が1.5~2.5mgのブデソニドを含むように調製される以外は、従来公知の手法により製造できる。ブデソニド及び上述した他の成分を含む、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防用組成物を、上述の各種の注腸剤の形態に調整することができる。例えば、ブデソニドを有効成分とする直腸泡沫剤及び浣腸剤は、特許文献1に記載方法で製造できる。例えば、ブデソニドを有効成分とする直腸泡沫剤は、アルコール類又は水とアルコール類との混合溶媒に、保存剤や泡沫形成に必要な乳化剤を溶解させた溶液に、アルコール類に溶解させたブデソニドを添加して混合した後、EDTAナトリウム塩と酸を溶解させた水溶液を、攪拌して均質化しながら混入し、得られた溶液を、単回又は多回投与器具として市販のバルブシステムを備えたガス充填パックに封入し、次いで噴射ガスを添加することによって製造できる。噴射ガスとしては、イソブタン、n-ブタン又はプロパン/n-ブタン混合物等の炭化水素類が好ましい。当該ガス充填パックには、更にプラスチック製のアプリケーターチップが付けられていてもよい。
【0023】
本実施形態に係る注腸剤は、1回分の投与量の薬包ごとに提供してもよいが、1日2回、6週間の間投与しやすいような形態を適宜調整して提供してもよい。例えば注腸フォーム剤としては、14回分(1週間分)の泡沫剤をアルミ缶に包装したり、2週間分(28回分)をアルミ缶(エアゾール)に包装して提供することもできる。また、これらを組み合わせて2~6週間分としてもよい。このようなパッケージは、1人に対する処方に適宜使用しやすい。
【0024】
本実施形態に係る注腸剤は、腸管粘膜治癒効果に優れているため、炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のために好適に用いられる。中でも、潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために服用されることが好ましく、直腸からS状結腸までに病変が存在する潰瘍性大腸炎又はクローン病の治療又は再燃予防のために服用されることがより好ましい。なお、本実施形態における治療は、対象の症状の改善を広く指す。本実施形態における再燃予防は、疾患の症状が完全に、又はある程度、改善後の対象に対して、症状の悪化(再燃)を防ぐことを広く指す。本実施形態に係る注腸剤の服用により、従来の1日1回ブデソニドを服用する方法よりも粘膜の炎症をより改善し得るため、本実施形態に係る注腸剤を服用した患者では、服用後、より長期間寛解を維持できることが期待できる。また、本実施形態に係る注腸剤は、従来のブデソニド注腸剤と同様に(Gionchetti et al.,Alimentary Pharmacology & Therapeutics,2007,vol.25,p.1231-1236;Sambuelli et al. ,Alimentary Pharmacology & Therapeutics,2002,vol.16,p.27-34)、潰瘍性大腸炎の結腸全摘出後の回腸嚢(パウチ状に形成)に生じる炎症である回腸嚢炎(Pouchitis)の治療又は再燃予防のために服用されてもよい。
【実施例0025】
次に実施例等を示して本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]プラセボ対照無作為化二重盲検多施設共同並行群間比較試験
活動期潰瘍性大腸炎患者を対象に、プラセボを対照とした二重盲検比較試験によりブデソニド2mgを1日1回又は1日2回、6週間直腸内投与した際の用量反応性、有効性及び安全性について調べた(治験番号:JapicCTI-132294)。
【0027】
なお、本治験は、「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則、「薬事法第14条第3項及び第80条の2」に規定する基準及び「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守して実施した。また、治験の実施に先立ち、治験審査委員会において本治験の倫理的、科学的及び医学的・薬学的妥当性が審査され、承認された。
【0028】
<被験薬及び対照薬>
試験には、被験薬として、1回の噴射でブデソニド2mgを含む25mL(1.35g)の白色のクリーム状の泡沫が放出される定量噴射式の注腸用エアゾール剤(直腸泡沫剤)を用いた。当該注腸用エアゾール剤は、病変が直腸及びS状結腸に限局する活動期潰瘍性大腸炎の寛解導入治療薬として、ブデソニド2mgを1日1回の用法・用量で欧州において承認されたものである(商品名:Budenofalk 2mg/dose rectal foam、ドクターファルクファーマ社製)。
また、対照薬として、外観、重量等が被験薬と識別不能で、ブデソニドを含有しない定量噴射式注腸用エアゾール剤を用いた。
【0029】
<被験者>
活動期の潰瘍性大腸炎患者を被験者とし、被験薬を1日1回投与する群(以下、1日1回群、54例)、被験薬を1日2回投与する群(以下、1日2回群、55例)、及び対照薬を投与する群(以下、プラセボ群、56例)に分けた。
【0030】
<投与量、投与方法及び投与期間>
被験薬又は対照薬を、1日2回(朝1回、及び夜1回)、なるべく排便後に直腸内投与した。ただし、被験薬の1日1回群は、朝に対照薬を、夜に被験薬を投与した。1投与当たりの噴射回数は1回であり、投与期間は6週間とし、評価前日の夜まで投与した。各群のブデソニド投与量は、1日1回群が2mg/日であり、1日2回群が4mg/日であり、プラセボ群が0mg/日であった。
なお、直腸内投与の行為によって症状が改善する患者(プラセボ効果による改善例)や直腸内投与に起因する愁訴を発現する患者を除外するために、本投与前に単盲検下で対照薬を1日2回(朝1回、及び夜1回)、1週間投与する事前観察期間を設定した。
【0031】
<結果>
MMDAIのうち、血便スコアが0点であり、内視鏡所見スコアが1点以下であり、排便回数スコアが0点或いは0週(本投与開始時点)より1点以上減少した患者を、寛解したと評価した。各群の寛解率の平均値(両側95%信頼区間)は、プラセボ群が20.4%(11.8%~32.9%)、1日1回群が50.9%(38.1%~63.6%)(P=0.0015)、及び1日2回群が48.2%(35.7%~61.0%)(P=0.0029)であった。モデルを主効果モデルとし、寛解率を目的変数、投与群及び割付因子を説明変数としたロジスティック回帰モデルにおけるプラセボ群に対するオッズ比の点推定値(両側95%信頼区間)は、1日1回群が3.994(1.734~9.711)であり、1日2回群が3.674(1.594~8.930)であり、両群とも両側95%信頼区間の下限値は1を上回った。
つまり、ブデソニド2mgを1日1回、6週間投与した場合、及びブデソニド2mgを1日2回、6週間投与した場合における寛解率は、プラセボ群と比較し有意に高く、本剤の活動期潰瘍性大腸炎患者に対する有効性が確認された。
【0032】
MMDAIの内視鏡所見スコア(0=正常又は非活動性所見、1=軽症(発赤、血管透見像の減少)、2=中等症(著明に発赤、血管透見像の消失、脆弱、びらん)、3=重症(自然出血、潰瘍))が1以下の患者を粘膜が寛解したと評価した。各群の粘膜寛解率(内視鏡所見スコア≦1点の被験者の割合)(%)の平均値(両側95%信頼区間)は、プラセボ群が46.3%(33.7%~59.4%)、1日1回群が69.1%(56.0%~79.7%)、及び1日2回群が76.8%(64.2%~85.9%)であった。また、プラセボ群との差の点推定値(両側95%信頼区間)は、1日1回群が22.8%(4.3%~39.3%)であり、1日2回群が30.5%(12.3%~46.0%)であり、1日1回群及び1日2回群は、プラセボ群と比較し有意差が認められた。結果を表1及び
図1に示す。図表中、「ブデソニド1日1回投与群」は1日1回群の結果を、「ブデソニド1日2回投与群」は1日2回群の結果を、それぞれ示す。
【0033】
【0034】
MMDAIの内視鏡所見スコアが0の患者を粘膜が治癒したと評価した。各群の粘膜治癒率(内視鏡所見スコア=0点の被験者の割合)(%)の平均値(両側95%信頼区間)は、プラセボ群が5.6%(1.9%~15.1%)であり、1日1回群が23.6%(14.4%~36.3%)(P=0.0159)であり、1日2回群が46.4%(34.0%~59.3%)(P<0.0001)であった。また、プラセボ群との差の点推定値(両側95%信頼区間)は、1日1回群が18.1%(4.8%~31.3%)であり、1日2回群が40.9%(25.2%~54.2%)であり、1日1回群及び1日2回群は、プラセボ群と比較し有意差が認められた。さらに、1日2回群は、1日1回群と比較して粘膜治癒率が有意に高かった。
【0035】
粘膜治癒率を目的変数、投与群及び割付因子を説明変数としたロジスティック回帰モデルでの解析の結果、プラセボ群に対する1日1回群及び1日2回群のオッズ比の点推定値(両側95%信頼区間)は、それぞれ5.143(1.516~23.716)であり、15.553(4.850~70.232)であり、両側95%信頼区間の下限値は1を上回った。結果を表2及び
図2に示す。図表中、「ブデソニド1日1回投与群」は1日1回群の結果を、「ブデソニド1日2回投与群」は1日2回群の結果を、それぞれ示す。
【0036】
【0037】
一方で、安全性に関しては、被験薬投与により、有害事象として血中コルチゾール減少及び血中コルチコトロピン減少が発現した。1日2回群は1日1回群と比較し、有害事象の発現頻度が高くなることが示されたが、グルココルチコイドに関連する有害事象の発現率の上昇は認められず、重篤な有害事象、又は重度な有害事象の発現はなかった。これらの結果から、潰瘍性大腸炎患者へのブデソニド2mgの1日1回、6週間又は1日2回、6週間、直腸内投与することの忍容性は許容し得るものと考えられた。
【0038】
実施例1の投薬期間を表3に示す。1日2回投与群は、15~45日間投与が行われ、42日以上投与した群が78.6%であった。投与日程は患者の通院の便を考慮し、±3日間を適合とした。
【表3】
本発明に係る注腸剤は、炎症により、潰瘍やびらんが生じた腸管粘膜に対する治癒効果が顕著に高い。このため、本発明に係る注腸剤は、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患の治療又は再燃予防のための注腸剤として非常に優れている。