(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173636
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】織機の耳糸開口装置
(51)【国際特許分類】
D03C 11/00 20060101AFI20221115BHJP
D03C 7/00 20060101ALI20221115BHJP
D03C 13/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
D03C11/00
D03C7/00 D
D03C13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079451
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000215109
【氏名又は名称】津田駒工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】名木 啓一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩章
(72)【発明者】
【氏名】野原 直人
(57)【要約】
【課題】
本発明は、耳糸が挿通されるヘルドを支持するキャリアロッド、両端部にキャリアロッドが取り付けられるスライドガイドを備える2つの支持体、正逆回転駆動される駆動モータ、スライドガイドの上下方向への変位を案内する案内部材を含む支持フレーム、及び駆動モータの出力軸の回転を各支持体の上下方向への往復動に変換する運動変換機構を備えた織機の耳糸開口装置に関する。そして、本発明は、その耳糸開口装置において、各支持体の変位に伴う摺動抵抗を可及的に軽減することができる構成を提供することを目的とする。
【解決手段】
各支持体が、キャリアロッドの上方でキャリアロッドの長手方向におけるスライドガイドからヘルドが存在する側に延在する延在部分を含む連結部であって、延在部分においてスライドガイドと運動変換機構とを連結する連結部を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耳糸が挿通されるヘルドを支持するキャリアロッド及び両端部に前記キャリアロッドが取り付けられるスライドガイドを備える2つの支持体と、正逆回転駆動される駆動モータと、織機フレームに固定されると共に前記駆動モータが取り付けられる支持フレームであって前記スライドガイドの上下方向への変位を案内する案内部を含む支持フレームと、前記駆動モータの出力軸と両前記支持体とを連結して前記出力軸の回転を各前記支持体の上下方向への往復動に変換する運動変換機構とを備えた織機の耳糸開口装置において、
各前記支持体は、前記キャリアロッドの上方で前記キャリアロッドの長手方向における前記スライドガイドから前記ヘルドが存在する側に延在する延在部分を含む連結部であって、前記延在部分において前記スライドガイドと前記運動変換機構とを連結する連結部を有する
ことを特徴とする織機の耳糸開口装置。
【請求項2】
各前記連結部は、前記長手方向における前記ヘルドの存在範囲内で前記運動変換機構に連結される
ことを特徴とする請求項1に記載の織機の耳糸開口装置。
【請求項3】
各前記連結部は、前記スライドガイドとは別体で形成されると共に、前記スライドガイドに対して着脱可能に取り付けられる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の織機の耳糸開口装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耳糸が挿通されるヘルドを支持するキャリアロッド及び両端部にキャリアロッドが取り付けられるスライドガイドを備える2つの支持体と、正逆回転駆動される駆動モータと、織機フレームに固定されると共に駆動モータが取り付けられる支持フレームであってスライドガイドの上下方向への変位を案内する案内部材を含む支持フレームと、駆動モータの出力軸と両支持体とを連結して出力軸の回転を各支持体の上下方向への往復動に変換する運動変換機構とを備えた織機の耳糸開口装置に関する。
【背景技術】
【0002】
織機における前記のような耳糸開口装置として、例えば、特許文献1に開示されたものがある。その特許文献1に開示された耳糸開口装置においては、スライドガイドとしての摺動体の両端部にキャリアロッドとしての上枠及び下枠が取り付けられ、その上下のキャリアロッドにより、耳糸が挿通される綜絖(ヘルド)が複数本、支持されている。なお、そのようなスライドガイドとキャリアロッドとの組立体は、耳糸開口装置において、2つで1組として設けられており、その各組立体が前記で言う支持体に相当する。
【0003】
また、その耳糸開口装置は、織機フレームに取り付けられた取付板に支持されるかたちで上下方向に延在するように織機上に設けられる案内部(案内部材)を備えている。そして、各支持体は、そのスライドガイド(摺動体)において、上下方向への変位が案内部材によって案内されるように設けられている。さらに、その耳糸開口装置は、取付板に取り付けられた駆動モータを備えると共に、その駆動モータの出力軸と各支持体とが、出力軸の回転を支持体の上下方向への往復動に変換する運動変換機構を介して連結されるように構成されている。したがって、その耳糸開口装置においては、駆動モータが正逆回転駆動されることにより、両支持体が上下方向において互いに逆方向に変位するように往復駆動される。そして、そのように各支持体が往復駆動されることにより、各支持体に支持されたヘルドに挿通された耳糸が上下方向に変位し、耳糸に開口運動が与えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記のような耳糸開口装置では、耳糸が挿通されるヘルドが、各支持体において、スライドガイドからキャリアロッドの長手方向に離間した位置で支持されている。また、前記のように耳糸に開口運動を与えるべく各支持体を上下方向における一方に変位させると、ヘルドが耳糸をその方向に変位させることとなるが、その変位に対し耳糸の張力が抵抗となり、ヘルドを支持するキャリアロッドに対し、その支持体が変位する方向とは逆方向に耳糸の張力による負荷が作用する。それにより、キャリアロッドが取り付けられるスライドガイドには、その負荷に起因するモーメントが作用することとなる。
【0006】
なお、各支持体の上下方向における変位は、前記のようにスライドガイドが案内部材に案内され、スライドガイドが案内部材に対し摺動するかたちで行われる。しかし、スライドガイドに対し前記のようなモーメントが作用すると、そのモーメントはスライドガイドを案内部材に押し付けるように作用するため、スライドガイドが変位する際の摺動抵抗が大きくなってしまう。
【0007】
そのため、スライドガイド及び案内部材が早期に摩耗し、支持体や支持フレームが破損するといった問題が発生する虞がある。また、前記のように変位時に支持体(スライドガイド)に対し大きな摺動抵抗が作用するため、その摺動抵抗に対応すべく、支持体を往復駆動するための駆動モータを容量の大きなものとしなければならない場合があり、その場合には、装置コストが増加するといったことも発生する。
【0008】
そこで、本発明は、前記のような問題の原因となる支持体の変位に伴う摺動抵抗を可及的に軽減することができる織機の耳糸開口装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明は、前述のような耳糸開口装置を前提とし、各支持体が、キャリアロッドの上方でキャリアロッドの長手方向におけるスライドガイドからヘルドが存在する側に延在する延在部分を含む連結部であって、延在部分においてスライドガイドと運動変換機構とを連結する連結部を有することを特徴とする。なお、本発明で言う「耳糸」は、織布の耳部分を形成する糸や、捨て耳を形成するための糸を指す。
【0010】
また、本発明において、各連結部は、長手方向におけるヘルドの存在範囲内で運動変換機構に連結されていても良い。さらに、各連結部は、スライドガイドとは別体で形成されると共に、スライドガイドに対して着脱可能に取り付けられても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明による織機の耳糸開口装置によれば、スライドガイドと運動変換機構とを連結する連結部が、キャリアロッドの上方でスライドガイドからキャリアロッドの長手方向に延在する延在部分を含むように形成されている。その上で、その耳糸開口装置は、各支持体のスライドガイドと運動変換機構とが、前記長手方向におけるヘルドの存在する側で連結部によって連結されるように構成されている。すなわち、耳糸開口装置は、キャリアロッドの上方であって、ガイド部よりも前記長手方向におけるヘルドの存在する側の位置で各スライドガイドと運動変換機構とが連結されるように構成されている。それにより、前記したような支持体の変位に伴う摺動抵抗が可及的に軽減される。
【0012】
より詳しくは、スライドガイドと運動変換機構とを連結する連結部には、前記のように各支持体を上下方向における一方に変位させる際に、運動変換機構を介し、その支持体を変位させようとする方向に駆動モータによる駆動力が作用する。その場合において、スライドガイドと運動変換機構とが前記のような位置で連結されていることにより、その駆動力は、ガイド部に対し前記長手方向において離間した位置で、スライドガイドに対し作用することとなる。それにより、スライドガイドには、その駆動力によるモーメントが作用する。なお、前記駆動力は、耳糸の張力による負荷が作用する方向とは逆方向に作用する。したがって、前記駆動力によるモーメントは、前記負荷によるモーメントとは逆方向に、スライドガイドに対し作用することとなる。
【0013】
それにより、スライドガイドに作用するモーメントが全体として小さくなるため、前記した支持体の変位に伴う摺動抵抗も可及的に軽減される。その結果として、スライドガイド及び案内部材が早期に摩耗することが防止されると共に、容量の小さな駆動モータを用いて装置コストを削減することが可能となる。
【0014】
また、前記長手方向におけるヘルドの存在範囲内で連結部と運動変換機構とが連結されるように耳糸開口装置を構成することで、連結部と運動変換機構との連結が前記長手方向におけるヘルドの存在範囲外で行われる場合と比べ、前記した摺動抵抗の軽減がより効果的に実現される。
【0015】
また、各連結部をスライドガイドに対して着脱可能な構成とすることで、製織条件等が変更された場合であっても、その変更された製織条件等に応じた最適な位置で運動変換機構と連結されるような連結部を採用することができ、前記した摺動抵抗の軽減がより効果的に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る一実施形態における織機の耳糸開口装置の背面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下では、
図1~
図4に基づき、本発明が適用された織機における耳糸開口装置の一実施形態(実施例)について説明する。なお、耳糸開口装置は、図示しない経糸開口用の綜絖枠の両端側で、綜絖枠よりも織機の前方側(図示しない巻取装置の側)の位置に設けられている。
【0018】
耳糸開口装置1は、耳糸が挿通される複数本のヘルド26を支持する2つの支持体20、20と、織機フレームに取り付けられて支持体20の変位を案内する支持フレーム30と、支持フレーム30に取り付けられる駆動モータ40と、各支持体20及び駆動モータ40を連結する運動変換機構50とを備えている。
【0019】
また、各支持体20は、ヘルド26を支持するキャリアロッド24と、キャリアロッド24が取り付けられるスライドガイド22とを含んでいる。より詳しくは、スライドガイド22は、板状の部材であり、板厚方向に見てその端面の長辺方向の寸法が短辺方向の寸法よりも十分に長い矩形状を成すように形成されている。また、スライドガイド22は、前記短辺方向における両側の面に開口すると共に、前記長辺方向に亘って延在するように形成された一対の溝部22a、22aを有している。
【0020】
キャリアロッド24は、板状の部材であり、板厚方向に見て略L字型を成すように形成されている。そして、キャリアロッド24は、そのL字に屈曲された部分(屈曲部)よりも一端側の部分(一端部)24aの幅寸法がスライドガイド22の前記短辺方向の寸法よりも若干小さいように形成されている。その上で、キャリアロッド24は、スライドガイド22における前記端面に対し、その一端部24aにおいてネジ部材25で取り付けられている。また、各支持体20においては、2つのキャリアロッド24、24が、スライドガイド22に対し前記長辺方向に離間して取り付けられている。
【0021】
但し、その各キャリアロッド24の取り付けは、各キャリアロッド24における前記屈曲部よりも他端側の部分(他端部)24bがスライドガイド22の前記短辺方向と平行を成して延在すると共に、両キャリアロッド24、24が前記長辺方向において対称的であるようなかたちで行われている。そして、そのように2つのキャリアロッド24、24がスライドガイド22に取り付けられることで、その各キャリアロッド24における他端部24bが各支持体20におけるヘルド26を支持する部分となる。また、各キャリアロッド24の取り付けは、両キャリアロッド24、24の間隔がヘルド26の長さ寸法に応じた大きさとなるようなかたちで行われている。
【0022】
なお、各キャリアロッド24の他端部24bには、その他端部24bからのヘルド26の脱落を防止するための凹部24b1が形成されている。その凹部24b1は、前記のような取り付け状態における各キャリアロッド24をその板厚方向に見て、他端部24bにおける他方のキャリアロッド24と対向しない側の部分が凹むようなかたちで形成されている。その上で、各ヘルド26は、その凹部24b1に掛けられるかたちで、キャリアロッド24(他端部24b)に支持された状態とされる。それにより、各ヘルド26は、その凹部24b1によって他端部24bの延在方向(キャリアロッド24の長手方向)における位置が規制された状態とされる。したがって、その凹部24b1が他端部24bにおけるヘルド26を支持する部分であり、他端部24bの延在方向(キャリアロッド24の長手方向)における凹部24b1の存在範囲が、耳糸開口装置1におけるヘルド26の存在範囲となる。
【0023】
支持フレーム30は、支持体20(スライドガイド22)の変位を案内する部分である案内部34と、その案内部34を支持するベース部32とを含んでいる。そして、支持フレーム30は、そのベース部32において、織機フレームにおける左右のサイドフレーム(図示略)に架設されて織幅方向に延在するステー10に対し、取付ブラケット12、14を介して取り付けられている。なお、ベース部32は、板状の部材として形成されている。そして、そのベース部32のステー10に対する取り付けは、ベース部32の板厚方向における両端面が上下方向及び織幅方向と平行を成すようなかたちで行われている。
【0024】
また、案内部34は、両支持体20、20の変位を案内する2つのレール部材34b、34bと、両レール部材34b、34bをベース部32に対し取り付けられた状態とするための取付部材34aとを有している。すなわち、本実施例では、2つのレール部材34b、34bから成る1組のレール対で2つの支持体20、20の変位を案内するようにその支持フレーム30が構成されている。
【0025】
なお、取付部材34aは、両レール部材34b、34bが固定される支持部34a1と、その支持部34a1をベース部32に取り付けるための取付部34a2とを含むように形成されている。また、その支持部34a1は、両側面及び上下面が矩形状を成す略直方体形状のブロック状に形成されたものとなっている。その上で、取付部34a2は、支持部34a1の前記両側面のそれぞれから、支持部34a1の幅方向(上下面の長辺方向)に突出するようなかたちで2つ形成されている。但し、その取付部34a2は、板状を成しており、その板厚方向が支持部34a1の厚さ方向(上下面の短辺方向)と一致するように設けられている。
【0026】
そして、取付部材34aは、取付部34a2に挿通されたネジ部材35がベース部32に螺挿されることで、ベース部32に対し取り付けられている。但し、その取付部材34aのベース部32に対する取り付けは、ベース部32の前記両端面のうち、ステー10への前記のような取り付け時においてステー10側となる端面(前側面)とは反対側の端面(後側面)に対して行われている。
【0027】
各レール部材34bは、長尺の略角柱状の部材であって、その長手方向の寸法が、支持体20におけるスライドガイド22の前記長辺方向の寸法よりも長い部材である。そして、両レール部材34b、34bは、ベース部32に取り付けられた状態の取付部材34aにおける下面から前記側面と平行に延在するように、その一端部において取付部材34aの支持部34a1に固定されている。なお、その支持部34a1に対する両レール部材34b、34bの固定は、両レール部材34b、34bが支持部34a1における前記幅方向に離間すると共に、前記厚さ方向における位置が略一致する(互いに対向する)ようにして行われている。また、両レール部材34b、34bは、その対向した状態における間隔が維持されるように、その他端部において板状の連結部材34cによって連結されている。
【0028】
さらに、両レール部材34b、34bは、その対向する側の面(対向面)に、支持体20(スライドガイド22)の上下方向への変位を案内するためのレール34b1を有している。そのレール34b1は、その前記対向面から支持部34a1の前記幅方向に突出すると共に、レール部材34bの長手方向に亘って延在するように形成されている。さらに、本実施例では、前述のように2つのレール部材34b、34b(1組のレール対)によって2つの支持体の変位を案内するように支持フレーム30が構成されるものであることから、そのレール34b1は、レール部材34bが取付部材34a(支持部34a1)に取り付けられた状態で前記厚さ方向に離間するようにして、2つ形成されている。
【0029】
なお、各レール34b1は、その厚さ寸法が支持体20のスライドガイド22における溝部22aの溝幅よりも若干小さいように形成されている。また、両レール部材34b、34bは、前記幅方向において、対向するレール34b1、34b1の間隔が各スライドガイド22における両溝部22a、22aの底面22a1、22a1間の寸法よりも若干大きいように形成されている。それにより、支持フレーム30は、案内部34において前記幅方向に対向する両レール部材34b、34bのレール34b1、34b1間で、スライドガイド22を受け入れることが可能に構成されたものとなっている。
【0030】
そして、耳糸開口装置1においては、両支持体20、20が、そのスライドガイド22、22において支持フレーム30における一対のレール部材34b、34b間に受け入れられた状態とされている。それにより、両支持体20、20は、その上下方向への変位がレール34b1、34b1に沿って案内されるかたちで設けられた状態となっている。その上で、各支持体20における一対のキャリアロッド24、24には、耳糸が挿通されるヘルド26が、それぞれにおいて複数本ずつ支持されている。
【0031】
また、駆動モータ40は、前記のように織機フレームのステー10に固定された支持フレーム30のベース部32に対し、ネジ部材44によって取り付けられている。なお、駆動モータ40の取り付けは、ベース部32における前記前側面において、ステー10に対して上方に離間した位置で行われている。また、ベース部32には、その駆動モータ40の取り付け位置において、駆動モータ40の出力軸42の貫通を許容する貫通孔32aが形成されている。それにより、駆動モータ40は、ベース部32に取り付けられた状態において、その出力軸42が貫通孔32aに挿通されると共に、その出力軸42の先端部がベース部32から突出した状態とされている。
【0032】
また、運動変換機構50は、駆動モータ40の出力軸42に取り付けられる揺動アーム52と、揺動アーム52に連結されると共に両支持体20、20に連結される一対の連結ロッド54、54とを有している。その揺動アーム52は、レバー状の部材であって、その長手方向における中央部において、駆動モータ40の出力軸42の先端部に対し、相対回転不能に固定されている。
【0033】
また、各連結ロッド54は、連結アーム52と同じくレバー状の部材である。そして、各連結ロッド54は、その一端部54aにおいて、揺動アーム52の両端部の一方に対し相対回転可能に連結されると共に、その他端部54bにおいて、対応する支持体20におけるスライドガイド22に対し相対回転可能に連結されている。したがって、2つの支持体20、20のうちの一方の支持体20が、駆動モータ40の出力軸42に固定された揺動アーム52の一端部に対し一方の連結ロッド54によって連結され、他方の支持体20が、揺動アーム52の他端部に対し他方の連結ロッド54によって連結された状態となっている。それにより、両支持体20、20は、運動変換機構50を介して駆動モータ40の出力軸42に連結された状態となっている。
【0034】
そして、そのように構成された運動変換機構50によれば、駆動モータ40の出力軸42の回転が各支持体20の上下方向への往復動に変換される。詳しくは、駆動モータ40の出力軸42が正逆回転方向に往復反転駆動されると、出力軸42を挟んで両側に位置する揺動アーム52と各連結ロッド54との両連結点は、それぞれ互いに逆方向へ出力軸42の軸線周りで揺動する。それに伴い、各連結ロッド54に連結された両支持体20、20は、各前記連結点が揺動される方向に応じて、支持フレーム30の案内部34に案内されるかたちで上下方向に往復動されるものとなる。そして、そのように両支持体20、20が上方若しくは下方に変位されることにより、キャリアロッド24に支持された各ヘルド26が上方若しくは下方に変位し、その各ヘルド26に挿通された耳糸に開口運動が与えられることとなる。
【0035】
以上のような織機の耳糸開口装置において、本発明では、各支持体20は、キャリアロッド24の上方で前記長手方向におけるスライドガイド22からヘルド26側に延在する延在部分を含む連結部であって、その延在部分においてスライドガイド22と運動変換機構50とを連結する連結部を有している。そして、本実施例は、前記長手方向におけるキャリアロッド24に支持されるヘルド26の存在範囲内で、連結部28と運動変換機構50とが連結された例である。さらに、本実施例は、その連結部28がスライドガイド22とは別部材として形成された例であり、その連結部28がスライドガイド22に対し着脱可能とされた例である。そのような本実施例の支持体20について、詳しくは以下の通りである。
【0036】
連結部28は、板状の部材であり、板厚方向に見て略L字型を成すように形成されている。より詳しくは、その連結部28は、その板厚方向に見て、L字に屈曲された部分(屈曲部)よりも一端側の部分(一端部)28aの屈曲部からの延在方向と、他端側の部分(他端部)28bの屈曲部からの延在方向とが略直交するような形状であるように形成されている。
【0037】
そして、連結部28は、スライドガイド22に対し、一対のキャリアロッド24、24が取り付けられた前記端面の上端部において取り付けられている。なお、各支持体20においては、一対のキャリアロッド24、24のうちの上側のキャリアロッド24は、スライドガイド22の前記長辺方向に関し、スライドガイド22の上端から下方に若干離間した位置で、スライドガイド22に対し取り付けられている。その上で、連結部28は、そのスライドガイド22における前記上端部(前記上端と上側のキャリアロッド24が取り付けられる位置との間の部分)に対し取り付けられている。
【0038】
また、その連結部28の取り付けは、一端部28aの延在方向をスライドガイド22の前記長辺方向に一致させると共に、スライドガイド22に対する他端部28bの向きがキャリアロッド24における他端部24bの向きと同じとなるようなかたちで行われている。それにより、連結部28は、その他端部28bの前記延在方向がキャリアロッド24の前記長手方向と平行を成すと共に、その他端部28bがキャリアロッド24の上方に位置する状態となっている。なお、スライドガイド22に対する連結部28の取り付けは、連結部28の一端部28aに挿通したネジ部材29をスライドガイド22に螺挿するかたちで行われている。そして、連結部28は、そのネジ部材29の締結を緩めることでスライドガイド22から取り外すことが可能となっている。
【0039】
また、連結部28における他端部28bの長さ寸法は、前記のような取り付け状態において、他端部28bの先端部分が、キャリアロッド24の前記長手方向における前記したヘルド26の存在範囲の略中央に位置するような大きさとされている。その上で、各支持体20のスライドガイド22に取り付けられた連結部28は、その他端部28bの先端部分において、運動変換機構50における対応する連結ロッド54の他端部54bに対し相対回転可能に連結されている。したがって、各支持体20は、スライドガイド22に対するキャリアロッド24の他端部24bが存在する側と同じ側で、運動変換機構50における対応する連結ロッド54に連結された状態となっている。そして、本実施例では、連結部28における他端部28bが、本発明で言う連結部の延在部分に相当する。
【0040】
以上のように構成された本実施例の耳糸開口装置1によれば、前記のように駆動モータ40が回転駆動されることで、駆動モータ40による駆動力が運動変換機構50を介して各支持体20に作用する。それにより、各支持体20は、その駆動力によって上方若しくは下方に変位されることとなる。そして、そのように各支持体20が変位されるのに伴い、各支持体20のスライドガイド22には、各ヘルド26に挿通された耳糸の張力による負荷が、ヘルド26及びキャリアロッド24を介して作用する。なお、その前記負荷は、支持体20を変位させようとする方向(前記駆動力が作用する方向)とは逆方向に作用する。また、ヘルド26が前記のようなかたちでキャリアロッド24に支持されていることから、その前記負荷は、前記長手方向におけるスライドガイド22から離間した位置において作用することとなる。その結果として、耳糸張力によるモーメントが、前記負荷が作用する方向の回転力としてスライドガイド22に作用することとなる。
【0041】
それに対し、スライドガイド22と運動変換機構50とが前記のように構成された連結部28を介して連結されていることから、前記駆動力は、スライドガイド22に対する前記長手方向における前記負荷が作用する側と同じ側において、スライドガイド22から前記長手方向において離間した位置で作用する。したがって、スライドガイド22には、その前記駆動力によるモーメントも、前記駆動力が作用する方向の回転力として作用することとなる。
【0042】
そして、前記のように前記駆動力が作用する方向と前記負荷が作用する方向とは逆方向であることから、前記した前記駆動力によるモーメントと耳糸張力によるモーメントとは逆方向の回転力としてスライドガイド22に対し同時に作用することとなり、両モーメントが打ち消し合うかたちとなる。それにより、スライドガイド22に作用するモーメントが全体として小さくなる。
【0043】
したがって、その耳糸開口装置1によれば、前記した各支持体20の往復動に伴う(各支持体20のスライドガイド22及び案内部34のレール部材34b間での)摺動抵抗も可及的に軽減されるため、スライドガイド22及びレール部材34bが早期に摩耗することが防止される。また、その摺動抵抗が軽減されることによって、容量の小さな駆動モータ40を用いることが可能となり、そのような駆動モータ40を採用することで装置コストを削減することも可能となる。
【0044】
しかも、本実施例では、スライドガイド22と運動変換機構50(連結ロッド54)との連結位置が、前記長手方向におけるヘルド26の存在範囲内の位置となっている。それにより、各支持体20の上下方向への往復動に伴う摺動抵抗の軽減がより効果的に実現される。詳しくは、耳糸の張力による前記負荷は、キャリアロッド24の前記長手方向に関し、耳糸が挿通されるヘルド26の前記した存在範囲において作用することとなる。そこで、連結部28と運動変換機構50の連結ロッド54とを前記長手方向におけるヘルド26の存在範囲内の位置で連結するような構成とすることで、前記した駆動モータ40による駆動力を、前記長手方向における前記負荷が作用する位置の近傍で作用させることができる。それにより、連結部28と連結ロッド54との連結が前記長手方向におけるヘルド26の存在範囲外で行われるように構成された耳糸開口装置と比べて、前記した支持体20の往復動に伴う摺動抵抗をより効果的に軽減することができる。
【0045】
さらに、本実施例では、連結部28は、そのスライドガイド22上にネジ部材29で取り付けられており、ネジ部材29の締結状態を緩めることによってスライドガイド22から着脱可能となっている。それにより、例えば、製織条件の変更でヘルド26に挿通される耳糸の本数が変更された場合は、製織時の耳糸張力も変化することとなるため、その耳糸張力に応じた最適な位置で運動変換機構50と連結されるような連結部を採用することで、前記した支持体20の往復動に伴う摺動抵抗をさらに効率的に軽減できる。
【0046】
以上では、本発明が適用された織機の一実施形態(以下、「前記実施例」と言う。)について説明した。しかし、本発明は、前記実施例において説明した構成に限定されるものではなく、以下のような別の実施形態(変形例)での実施も可能である。
【0047】
(1)連結部について、前記実施例では、スライドガイド22と運動変換機構50とを連結する連結部28は、板厚方向に見てL字型を成すように形成されている。しかし、本発明における連結部は、運動変換機構に対して連結される延在部分を含むように構成されていれば良く、前記実施例のようなL字型に限らず、例えば、T字型や十字型であっても良い。いずれの場合も、前記長手方向におけるスライドガイド22からヘルド26側に延在する部分が延在部分となる。また、連結部は、そのような延在部分に加え、スライドガイド22に固定される部分を含むように構成されたものに限らず、延在部分に相当する部分のみで構成され、その延在部分においてスライドガイドに固定されるように構成されたものであっても良い。
【0048】
また、その連結部における延在部分について、前記実施例では、その延在部分である連結部28における他端部28bは、前記長手方向におけるヘルド26の存在範囲内の位置で運動変換機構50と連結されるように構成されている。具体的には、連結部28の他端部28bの長さ寸法は、連結部28のスライドガイド22への取り付け状態において、その他端部28bの先端部分が、前記長手方向におけるヘルド26の存在範囲内の位置に位置するような大きさとされている。そして、連結部28は、その他端部28bの先端部分において連結ロッド54と連結されている。
【0049】
しかし、本発明において、連結部と運動変換機構50との連結位置は、連結部の延在部分における先端部分には限られず、前記長手方向においてスライドガイド22から離間した延在部分上の位置であれば良い。すなわち、連結部は、延在部分上の任意の位置で運動変換機構50と連結されるように構成されても良い。
【0050】
また、その連結位置は、連結部における延在部分上の位置であって、ヘルド26の存在範囲とは重複しない位置であっても良い。例えば、連結部の延在部分が、前記長手方向におけるヘルド26の存在範囲とスライドガイド22との間の部分において運動変換機構50との連結が許容されるようなスペースを有するように形成された上で、その部分において運動変換機構50と連結されるように連結部が構成されても良い。また、連結部の延在部分が、前記長手方向におけるヘルド26の存在範囲を越えた位置まで延在するような長さ寸法を有するように形成された上で、ヘルド26の存在範囲外の位置において運動変換機構50と連結されるように連結部が構成されても良い。
【0051】
さらに、連結部は、運動変換機構50との連結位置を変更可能であるように構成されても良い。例えば、延在部分上に運動変換機構50と連結するための貫通孔を複数形成した上で、その複数の貫通孔の内のいずれか1つにおいて運動変換機構50と連結されるように連結部が構成されても良い。また、そのような複数の貫通孔を形成する代わりに、延在部分を前記長手方向に延在する長孔が形成されたものとし、その長孔の範囲内の適宜な位置で運動変換機構50が連結されるように連結部を構成しても良い。
【0052】
さらに、前記実施例では、連結部28は、スライドガイド22とは別体で形成されており、そのスライドガイド22上に着脱可能に取り付けられている。しかし、連結部は、スライドガイドと一体的に形成されても良く、例えば、スライドガイドに対して溶接等で固着されるかたちで一体化されても良い。なお、そのように連結部をスライドガイドと一体化した場合は、スライドガイドが連結部を含むように構成されたものとなる。
【0053】
(2)駆動モータ40の出力軸42の回転を各支持体20の往復動に変換する運動変換機構について、前記実施例の運動変換機構50は、駆動モータ40の出力軸42に取り付けられる揺動アーム52と、揺動アーム52に連結されると共に両支持体20、20に連結される一対の連結ロッド54、54とで構成されている。しかし、本発明においては、運動変換機構は、そのように構成されたものに限らない。
【0054】
例えば、運動変換機構は、揺動アームに代えて歯車列を採用したものであっても良い。具体的には、運動変換機構を、その歯車列として、駆動モータ40の出力軸42に取り付けられる駆動歯車と、駆動歯車にそれぞれ咬合する一対の従動歯車とを有するように構成する。その上で、一端部において対応する支持体20に対し連結される各連結ロッドが、その他端部において、対応する従動歯車に対し、その従動歯車の中心から偏心した位置で相対回転可能に連結されるように運動変換機構を構成すれば良い。
【0055】
そして、その運動変換機構によれば、駆動モータ40が駆動歯車を正逆回転駆動すると、それに伴って両従動歯車が回転され、従動歯車と連結ロッドとの両連結点が駆動モータ40における出力軸42の軸線周りに揺動する。それに伴い、各連結ロッドに連結された両支持体20、20が、各連結点が揺動される方向に応じて、支持フレーム30の案内部34に案内されるかたちで上下方向に往復動される。
【0056】
(3)支持体20(スライドガイド22)の変位を案内する案内部を含む支持フレームについて、前記実施例では、支持フレーム30は、2つのレール部材34b、34bから成る案内部34(1組のレール対)で2つの支持体20、20の変位を案内するように構成されている。しかし、本発明においては、支持フレームは、各支持体20の変位を、支持体毎に1組ずつ設けられた2組のレール対で案内するように構成されても良い。すなわち、支持フレームは、その案内部が2組のレール対を備えるように構成され、その2組のレール対で2つの支持体20、20の変位を案内するものであっても良い。
【0057】
なお、そのように2組のレール対で案内部が構成される場合においては、その2組のレール対の前記長手方向における位置は、同じ位置とは限らず、異なる位置であっても良い。また、そのように案内部が構成される場合において、案内部をベース部32に取り付けるための取付部材は、2組のレール対に共通な部材として備えられても良いし、レール対毎に個別に備えられても良い。
【0058】
また、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々に変更することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 耳糸開口装置
20 支持体
22 スライドガイド
22a 溝部
22a1 底面
24 キャリアロッド
26 ヘルド
28 連結部
28a 一端部
28b 他端部
30 支持フレーム
32 ベース部
34 案内部
34a 取付部材
34a1 支持部
34a2 取付部
34b レール部材
34b1 レール
34c 連結部材
40 駆動モータ
42 出力軸
50 運動変換機構
52 揺動アーム
54 連結ロッド