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特開2022-173675スティックスリップ検出システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173675
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】スティックスリップ検出システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/003 20190101AFI20221115BHJP
   F16K 37/00 20060101ALI20221115BHJP
   G01N 19/02 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G01M13/003
F16K37/00 B
G01N19/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079520
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】平尾 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 史明
【テーマコード(参考)】
2G024
3H065
【Fターム(参考)】
2G024AA15
2G024BA27
2G024CA04
2G024DA28
2G024FA06
3H065BA01
3H065CA01
(57)【要約】
【課題】バルブ等の診断対象に対する専門家の知見を容易に反映する。
【解決手段】スティックスリップ検出システムは、診断対象のバルブの弁軸変位に基づく第1の状態量と変位に基づく第2の状態量との比であるスティックスリップ指標を蓄積する運転データ蓄積部1と、スティックスリップ指標に基づいて診断対象にスティックスリップ現象が発生しているかどうかを判定する異常診断部3と、診断対象のバルブの中間開度において制御指令値のステップ的な変化を検出した時に、異常診断部3の判定動作を停止させる診断動作制御部42とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触摺動部を有する可動部を備えた診断対象における前記可動部の変位に基づく第1の状態量と前記変位に基づく第2の状態量との比であるスティックスリップ指標を蓄積するように構成された蓄積部と、
前記スティックスリップ指標に基づいて前記診断対象にスティックスリップ現象が発生しているかどうかを判定するように構成された異常診断部と、
前記可動部の位置を制御するための信号のステップ的な変化を検出した時に、前記異常診断部の判定動作を停止させるように構成された診断動作制御部とを備えることを特徴とするスティックスリップ検出システム。
【請求項2】
請求項1記載のスティックスリップ検出システムにおいて、
前記診断動作制御部は、前記可動部の位置が上限位置と下限位置との間の中間位置で前記可動部の位置を制御するための制御指令値のステップ的な変化を検出した時に、前記異常診断部の判定動作を停止させることを特徴とするスティックスリップ検出システム。
【請求項3】
請求項2記載のスティックスリップ検出システムにおいて、
前記可動部が前記中間位置にあって前記制御指令値がステップ的に変化しているどうかを、前記制御指令値の変化量と所定の変化量閾値との比較により判定するように構成された変化量判定部をさらに備えることを特徴とするスティックスリップ検出システム。
【請求項4】
請求項1記載のスティックスリップ検出システムにおいて、
前記診断動作制御部は、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時に、前記異常診断部の判定動作を停止させることを特徴とするスティックスリップ検出システム。
【請求項5】
請求項4記載のスティックスリップ検出システムにおいて、
前記診断対象はバルブで、前記可動部は弁軸であり、
前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時かどうかを、前記バルブの開度を制御するポジショナが電空変換器に出力する制御信号に基づいて判定するように構成された全開閉判定部をさらに備えることを特徴とするスティックスリップ検出システム。
【請求項6】
請求項4記載のスティックスリップ検出システムにおいて、
前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時かどうかを、前記可動部の位置を制御するための制御指令値に基づいて判定するように構成された全開閉判定部をさらに備えることを特徴とするスティックスリップ検出システム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスティックスリップ検出システムにおいて、
前記スティックスリップ指標を算出するように構成されたスティックスリップ指標算出部をさらに備えることを特徴とするスティックスリップ検出システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスティックスリップ検出システムにおいて、
前記第1の状態量は、前記可動部の変位の1階差分値の絶対値の平均であり、
前記第2の状態量は、前記可動部の変位の1階差分値の2乗平均の平方根であることを特徴とするスティックスリップ検出システム。
【請求項9】
接触摺動部を有する可動部を備えた診断対象における前記可動部の変位に基づく第1の状態量と前記変位に基づく第2の状態量との比であるスティックスリップ指標を蓄積する第1のステップと、
前記スティックスリップ指標に基づいて前記診断対象にスティックスリップ現象が発生しているかどうかを判定する第2のステップと、
前記可動部の位置を制御するための信号のステップ的な変化を検出した時に、前記第2のステップの判定動作を停止させる第3のステップとを含むことを特徴とするスティックスリップ検出方法。
【請求項10】
請求項9記載のスティックスリップ検出方法において、
前記第3のステップは、前記可動部の位置が上限位置と下限位置との間の中間位置で前記可動部の位置を制御するための制御指令値のステップ的な変化を検出した時に、前記第2のステップの判定動作を停止させるステップを含むことを特徴とするスティックスリップ検出方法。
【請求項11】
請求項10記載のスティックスリップ検出方法において、
前記第3のステップは、前記可動部が前記中間位置にあって前記制御指令値がステップ的に変化しているどうかを、前記制御指令値の変化量と所定の変化量閾値との比較により判定するステップを含むことを特徴とするスティックスリップ検出方法。
【請求項12】
請求項9記載のスティックスリップ検出方法において、
前記第3のステップは、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時に、前記第2のステップの判定動作を停止させるステップを含むことを特徴とするスティックスリップ検出方法。
【請求項13】
請求項12記載のスティックスリップ検出方法において、
前記診断対象はバルブで、前記可動部は弁軸であり、
前記第3のステップは、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時かどうかを、前記バルブの開度を制御するポジショナが電空変換器に出力する制御信号に基づいて判定するステップを含むことを特徴とするスティックスリップ検出方法。
【請求項14】
請求項12記載のスティックスリップ検出方法において、
前記第3のステップは、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時かどうかを、前記可動部の位置を制御するための制御指令値に基づいて判定するステップを含むことを特徴とするスティックスリップ検出方法。
【請求項15】
請求項9乃至14のいずれか1項に記載のスティックスリップ検出方法において、
前記スティックスリップ指標を算出する第4のステップをさらに含むことを特徴とするスティックスリップ検出方法。
【請求項16】
請求項9乃至15のいずれか1項に記載のスティックスリップ検出方法において、
前記第1の状態量は、前記可動部の変位の1階差分値の絶対値の平均であり、
前記第2の状態量は、前記可動部の変位の1階差分値の2乗平均の平方根であることを特徴とするスティックスリップ検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ等の診断対象のスティックスリップを検出するスティックスリップ検出システムおよび方法に係り、特にスティックスリップの誤検出を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バルブのスティックスリップは、弁軸の停止(スティック)とすべり(スリップ)が繰り返される現象である。スティックスリップを検出する方法として、特許文献1に開示された方法がある。特許文献1に開示された方法では、弁軸の変位xiから弁軸速度の絶対値の平均値Xと弁軸速度の二乗平均の平方根Yとを式(1)、式(2)のように算出し(Nは状態量の算出に用いた変位データの数)、YをXで割った値SSpvを算出する。
【0003】
【数1】
【0004】
SSpvは、バルブのスティックスリップ現象が増えると大きくなる特徴がある。特許文献1に開示された方法では、スティックスリップ指標SSpvが閾値以上のときにスティックスリップと判定している。
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、バルブに異常が発生していなくても、弁軸変位の制御指令値自体が大きく変化したときに弁軸変位の測定値の挙動がスティックスリップの状態と同様となる場合があり、誤ってスティックスリップ状態であると判断してしまう場合があった。
【0005】
そこで、スティックスリップの誤検出抑制の方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2に開示された方法では、弁軸変位の測定値だけではなく、弁軸変位の制御指令値についても弁軸速度の絶対値の平均値Xと二乗平均の平方根Yとを式(1)、式(2)により算出し、YをXで割った値SSspを算出する。そして、弁軸変位の測定値のスティックスリップ指標SSpvと制御指令値のスティックスリップ指標SSspとが式(3)を満たす場合のみ、スティックスリップ現象が発生しているか否かを判定することでスティックスリップの誤検出抑制を実現している。
SSpv>SSsp ・・・・(3)
【0006】
また、上述したスティックスリップ誤検出抑制方法に対して、一律にSSpvとSSspで判定するのではなく、式(3)に対して設定パラメータα,βを式(4)のように導入することで、判定を行うSSpvの範囲を設定する手法が提案されている(特許文献3参照)。
SSpv>α・SSsp+β ・・・・(4)
【0007】
上記のように式(4)の設定パラメータα,βによって判定を行う範囲を設定することは可能である。しかし、スティックスリップ指標SSpv,SSspは複雑に計算された後の値であるため、ある特定の動作をした時のデータを判定から除外するなどの、バルブに対する専門家の知見を式(4)に反映することは容易ではない。そのため、専門家の知見を容易に反映出来るようなスティックスリップ誤検出抑制方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3254624号広報
【特許文献2】特許第5571346号広報
【特許文献3】特許第5824333号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、バルブ等の診断対象に対する専門家の知見を容易に反映することが可能なスティックスリップ検出システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスティックスリップ検出システムは、接触摺動部を有する可動部を備えた診断対象における前記可動部の変位に基づく第1の状態量と前記変位に基づく第2の状態量との比であるスティックスリップ指標を蓄積するように構成された蓄積部と、前記スティックスリップ指標に基づいて前記診断対象にスティックスリップ現象が発生しているかどうかを判定するように構成された異常診断部と、前記可動部の位置を制御するための信号のステップ的な変化を検出した時に、前記異常診断部の判定動作を停止させるように構成された診断動作制御部とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出システムの1構成例において、前記診断動作制御部は、前記可動部の位置が上限位置と下限位置との間の中間位置で前記可動部の位置を制御するための制御指令値のステップ的な変化を検出した時に、前記異常診断部の判定動作を停止させることを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出システムの1構成例は、前記可動部が前記中間位置にあって前記制御指令値がステップ的に変化しているどうかを、前記可動部の位置を制御するための前記制御指令値の変化量と所定の変化量閾値との比較により判定するように構成された変化量判定部をさらに備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のスティックスリップ検出システムの1構成例において、前記診断動作制御部は、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時に、前記異常診断部の判定動作を停止させることを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出システムの1構成例において、前記診断対象はバルブで、前記可動部は弁軸であり、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時かどうかを、前記バルブの開度を制御するポジショナが電空変換器に出力する制御信号に基づいて判定するように構成された全開閉判定部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出システムの1構成例は、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時かどうかを、前記可動部の位置を制御するための制御指令値に基づいて判定するように構成された全開閉判定部をさらに備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のスティックスリップ検出システムの1構成例は、前記スティックスリップ指標を算出するように構成されたスティックスリップ指標算出部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出システムの1構成例において、前記第1の状態量は、前記可動部の変位の1階差分値の絶対値の平均であり、前記第2の状態量は、前記可動部の変位の1階差分値の2乗平均の平方根である。
【0013】
また、本発明のスティックスリップ検出方法は、接触摺動部を有する可動部を備えた診断対象における前記可動部の変位に基づく第1の状態量と前記変位に基づく第2の状態量との比であるスティックスリップ指標を蓄積する第1のステップと、前記スティックスリップ指標に基づいて前記診断対象にスティックスリップ現象が発生しているかどうかを判定する第2のステップと、前記可動部の位置を制御するための信号のステップ的な変化を検出した時に、前記第2のステップの判定動作を停止させる第3のステップとを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出方法の1構成例において、前記第3のステップは、前記可動部の位置が上限位置と下限位置との間の中間位置で前記可動部の位置を制御するための制御指令値のステップ的な変化を検出した時に、前記第2のステップの判定動作を停止させるステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出方法の1構成例において、前記第3のステップは、前記可動部が前記中間位置にあって前記制御指令値がステップ的に変化しているどうかを、前記可動部の位置を制御するための前記制御指令値の変化量と所定の変化量閾値との比較により判定するステップを含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のスティックスリップ検出方法の1構成例において、前記第3のステップは、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時に、前記第2のステップの判定動作を停止させるステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出方法の1構成例において、前記診断対象はバルブで、前記可動部は弁軸であり、前記第3のステップは、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時かどうかを、前記バルブの開度を制御するポジショナが電空変換器に出力する制御信号に基づいて判定するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出方法の1構成例において、前記第3のステップは、前記可動部が上限位置まで動く時、前記可動部が下限位置まで動く時、前記可動部が前記上限位置から前記下限位置の方向に動き始めた時、前記可動部が前記下限位置から前記上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時かどうかを、前記可動部の位置を制御するための制御指令値に基づいて判定するステップを含むことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のスティックスリップ検出方法の1構成例は、前記スティックスリップ指標を算出する第4のステップをさらに含むことを特徴とするものである。
また、本発明のスティックスリップ検出方法の1構成例において、前記第1の状態量は、前記可動部の変位の1階差分値の絶対値の平均であり、前記第2の状態量は、前記可動部の変位の1階差分値の2乗平均の平方根である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スティックスリップ検出方法に対して、診断対象に対する専門家の知見を容易に反映することができる。また、本発明では、長期の使用による診断対象の経年変化にも対応したデータ除外が可能となり、長期的に同一基準を使った比較・判断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施例に係るスティックスリップ検出システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施例に係るスティックスリップ検出システムの動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施例に係るスティックスリップ検出システムの動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、バルブの全閉動作時、および全閉状態からの開き始め時における制御指令値、バルブ開度の測定値、制御信号の例を示す図である。
図5図5は、バルブの全開動作時、全開状態からの閉じ始め時における制御指令値、バルブ開度の測定値、制御信号の例を示す図である。
図6図6は、本発明の実施例に係るスティックスリップ検出システムの変化量判定部の判定動作を説明する図である。
図7図7は、バルブの中間開度において制御指令値がステップ的に変化する例を示す図である。
図8図8は、バルブの中間開度において制御指令値がステップ的に変化したときの制御指令値の変化量とスティックスリップ指標との関係を示す図である。
図9図9は、本発明の実施例に係るスティックスリップ検出システムを実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[発明の原理]
バルブにおいてスティックスリップ現象が発生しているか否かを判断する際に、ベテランの保守員は制御指令値自体が大きく変化するような場合に誤った判断がなされることが多いという知見を有している。そして、制御指令値が大きく変化していることは計測値から確認することができる。本発明は、保守員が有する知見に基づき、制御指令値の変化量に関する情報に基づいて、スティックスリップ現象の誤判定を引き起こすデータを除外した上でスティックスリップ現象が発生しているか否かを判断する方法を提示する。
【0019】
スティックスリップ現象の誤判定を引き起こす可能性のある制御指令値の変化量が大きいデータとして、例えば、バルブが全開位置まで動作する全開動作時、全閉位置まで動作する全閉動作時、全開状態からの閉じ始め時、全閉状態からの開き始め時のデータが該当する。これらのときには、ステップ的に制御指令値が変化するため、弁軸の変位もステップ的に変化し、スティックスリップ指標SSpvの値が大きく算出される。全開動作時、全閉動作時、全開状態からの閉じ始め時、全閉状態からの開き始め時は、バルブに設置されているポジショナが電空変換器へ出力する制御量を用いることで検出することが可能である。そこで、これらの時の区間がスティックスリップ指標SSpvの算出範囲に含まれている場合、対象のスティックスリップ指標SSpvをスティックスリップの判定から除外する。
【0020】
中間開度においても、制御指令値の変化により、弁軸の変位がステップ的に変化し、スティックスリップ指標SSpvの値が大きく算出される場合がある。中間開度におけるステップ的な変化は、微小区間における、制御指令値の変化量を用いて検出する。スティックスリップ指標SSpvの算出区間内に、設定された閾値を上回る変化量の微小区間が含まれている場合、対象のスティックスリップ指標SSpvを判定から除外する。また、ここで設定されている閾値は、目視で変化を確認することが可能である制御指令値に対する値であるため、バルブの動作状況を反映した閾値設定が容易に実施できる。
以上の方法により、容易にバルブの知見を反映することができるスティックスリップの誤検出抑制方法を実現した。
【0021】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例に係るスティックスリップ検出システムの構成を示すブロック図である。スティックスリップ検出システムは、接触摺動部を有する可動部(例えば弁軸)を備えた診断対象(例えばバルブ)のデータを蓄積する運転データ蓄積部1と、可動部の変位(弁軸変位)に基づく第1の状態量と可動部の変位に基づく第2の状態量との比であるスティックスリップ指標を算出するスティックスリップ指標算出部2と、運転データ蓄積部1に蓄積されたスティックスリップ指標に基づいて診断対象にスティックスリップ現象が発生しているかどうかを判定する異常診断部3と、可動部が上限位置(全開)と下限位置(全閉)との間の中間位置(中間開度)にあって可動部を制御するための制御指令値がステップ的に変化する時、可動部が上限位置まで動く時、可動部が下限位置まで動く時、可動部が上限位置から下限位置の方向に動き始めた時、可動部が下限位置から上限位置の方向に動き始めた時のいずれかの時に、異常診断部3の判定動作を停止させる除外判定部4と、診断結果を出力する診断結果出力部5と、外部のポジショナ等から診断対象のデータを取得するデータ取得部6とを備えている。
【0022】
除外判定部4は、全開閉判定部40と、変化量判定部41と、診断動作制御部42とから構成される。
【0023】
本実施例では、第1の状態量を算出する第1の状態量算出部7と、第2の状態量を算出する第2の状態量算出部8と、スティックスリップ指標を算出するスティックスリップ指標算出部2とがスティックスリップ検出システムの外部の装置(例えば診断対象のバルブの開度を制御するポジショナ)に設けられている例で説明するが、運転データ蓄積部1と異常診断部3と除外判定部4と診断結果出力部5とが設けられる装置内に、第1の状態量算出部7と第2の状態量算出部8とスティックスリップ指標算出部2とが設けられている構成であってもよい。
【0024】
図2図3は本実施例のスティックスリップ検出システムの動作を説明するフローチャートである。
第1の状態量算出部7は、ポジショナ(不図示)によって検出された診断対象のバルブの弁軸変位xiの1階差分値の絶対値の平均X(式(1))を第1の状態量として算出する(図2ステップS100)。
【0025】
第2の状態量算出部8は、弁軸変位xiの1階差分値の2乗平均の平方根Y(式(2))を第2の状態量として算出する(図2ステップS101)。
第1の状態量算出部7と第2の状態量算出部8とは、第1の状態量X、第2の状態量Yの算出を弁軸変位xiの1サンプリング毎に行う。
【0026】
スティックスリップ指標算出部2は、第2の状態量Yを、この第2の状態量Yと同一時刻の第1の状態量Xで割ったスティックスリップ指標SSpvを算出する(図2ステップS102)。スティックスリップ指標算出部2は、このような算出を第1の状態量Xと第2の状態量Yの1サンプリング毎に行う。
SSpv=Y/X ・・・(5)
【0027】
データ取得部6は、第1の状態量X、第2の状態量Y、スティックスリップ指標SSpv、ポジショナに与えられる、バルブ開度の制御指令値(設定開度)SP、ポジショナによって検出された弁軸変位xi、ポジショナが電空変換器に出力する制御信号MV(EPM駆動信号)の各時系列データを取得して運転データ蓄積部1に格納する(図2ステップS103)。周知のとおり、ポジショナは、制御指令値SPに応じた制御信号MVを電空変換器に出力し、電空変換器は、制御信号MVを空気圧に変換して操作器に出力し、操作器がバルブを駆動する。第1の状態量X、第2の状態量Y、制御指令値SP、弁軸変位xi、制御信号MVの各データには時刻の情報が付加されている。時刻の情報は、ポジショナ側で付加してもよいし、データ取得部6が付加してもよい。
【0028】
一方、除外判定部4の全開閉判定部40は、運転データ蓄積部1に蓄積されたデータに基づいて、診断対象のバルブが全開位置まで動作する全開動作時、全閉位置まで動作する全閉動作時、全開状態からの閉じ始め時、全閉状態からの開き始め時のいずれかの時かどうかを判定する(図3ステップS104)。診断対象のバルブが全開動作時、全閉動作時、全開状態からの閉じ始め時、全閉状態からの開き始め時のいずれかの時かどうかは、ポジショナが電空変換器に出力する制御信号MVに基づいて判断することができる。制御信号MVは、バルブが全開状態もしくは全閉状態のときには100%以上もしくは0%以下に振り切れた値となる。また、制御信号MVは、バルブが中間開度のときには50%付近の値となる。全開閉判定部40は、以上のような判定を制御信号MVの1サンプリング毎に行う。
【0029】
除外判定部4の診断動作制御部42は、全開閉判定部40が診断対象のバルブが全開動作時、全閉動作時、全開状態からの閉じ始め時、全閉状態からの開き始め時のいずれかの状態にあると判定した場合(ステップS104においてYES)、これらいずれかの状態の時刻範囲を算出範囲に含むスティックスリップ指標SSpvを用いて判定をしないよう異常診断部3に対して指示する。診断動作制御部42からの指示により、異常診断部3は後述する判定を実施しない(図3ステップS105)。
【0030】
図4(A)、図4(B)はバルブの全閉動作時、および全閉状態からの開き始め時における制御指令値SP、バルブ開度の測定値PV、制御信号MVの例を示す図である。図5(A)、図5(B)はバルブの全開動作時、全開状態からの閉じ始め時における制御指令値SP、バルブ開度の測定値PV、制御信号MVの例を示す図である。
【0031】
一方、除外判定部4の変化量判定部41は、診断対象のバルブの中間開度において制御指令値SPがステップ的に変化する時かどうかを判定する(図3ステップS106)。中間開度とは、全閉、全閉以外の全ての開度のことをいう。中間開度において制御指令値SPがステップ的に変化する時かどうかは、一定時間(一定のサンプリング数)あたりの制御指令値SPの変化量が所定の変化量閾値を超えるかどうかで判断することができる。
【0032】
図6は変化量判定部41の判定動作を説明する図である。変化量判定部41は、制御指令値SPの連続したデータの一定のサンプリング数の区間を抽出して、その区間で制御指令値SPの変化量を算出する。本実施例では、区間幅を5サンプル、変化量閾値を10とした。また、一定のサンプリング数の区間における制御指令値SPの最大値と最小値との差をその区間における変化量とした。なお、本実施例では、区間幅を5サンプル、変化量閾値を10としているが、これらは1例であって、他の値に設定してもよいことは言うまでもない。
【0033】
図6の例では、区間t1,t2における制御指令値SPの変化量は変化量閾値(=10)より小さい。一方、区間t3では制御指令値SPの最大値SPmaxと最小値SPminとの差が変化量閾値より大きくなるため、変化量判定部41は、制御指令値SPがステップ的に変化していると判定する。変化量判定部41は、以上のような判定を制御指令値SPの1サンプリング毎に行う。
なお、上記の内容で制御指令値SPの変化量を定義したが、変化量の算出を別の算出方法(例えば1サンプル毎のSPの差分を5サンプル分足した和など)に変更しても実施可能である。
【0034】
変化量閾値は、目視で変化を確認することが可能である制御指令値SPに対する値のため、従来技術の設定パラメータα,βと比較すると、バルブの動作状況を反映した設定が容易に実施できる。
【0035】
除外判定部4の診断動作制御部42は、変化量判定部41が診断対象のバルブの中間開度において制御指令値SPがステップ的に変化する状態にあると判定した場合(ステップS106においてYES)、この状態の時刻範囲を算出範囲に含むスティックスリップ指標SSpvを用いて判定をしないよう異常診断部3に対して指示する。診断動作制御部42からの指示により、異常診断部3は後述する判定を実施しない(図3ステップS105)。
【0036】
図7はバルブの中間開度において制御指令値SPがステップ的に変化する例を示す図である。図8図7に示した区間のように制御指令値SPがステップ的に変化したときの制御指令値SPの変化量とスティックスリップ指標SSpvとの関係を示す図である。図8の700で示す点が、図7に示した区間に対応する値である。
【0037】
次に、異常診断部3は、スティックスリップ指標算出部2によって算出されたスティックスリップ指標SSpvと所定の指標閾値Thとを比較することにより、診断対象のバルブの異常診断を行う(図3ステップS107)。異常診断部3は、スティックスリップ指標SSpvが指標閾値Thより大きいとき、診断対象のバルブにスティックスリップ現象が発生していると判定し、スティックスリップ指標SSpvが指標閾値Th以下のとき、診断対象のバルブにスティックスリップ現象が発生していないと判定する。異常診断部3は、このような判定をスティックスリップ指標SSpvの1サンプリング毎に行う。
【0038】
なお、本実施例では、異常診断部3は、スティックスリップ指標SSpvと指標閾値Thとを比較して診断対象のバルブの異常診断を行っているが、これに限るものではなく、スティックスリップ指標SSpvから更に別の指標を算出して、この指標を基にバルブの異常診断を行うようにしてもよい。
【0039】
診断結果出力部5は、異常診断部3の診断結果を出力する(図3ステップS108)。出力方法としては、診断結果の表示、または診断結果を示す情報の外部への送信などがある。
【0040】
上記のとおり、異常診断部3は、除外判定部4の診断動作制御部42から指示があったときには判定動作を停止する。異常診断部3は、スティックスリップ指標SSpvの基になる第1の状態量Xと第2の状態量Yの算出に用いたN個の弁軸変位xiの時刻(スティックスリップ指標SSpvの算出範囲)の中に、バルブが全開動作時、全閉動作時、全開状態からの閉じ始め時、全閉状態からの開き始め時のいずれかである時刻の少なくとも一部が含まれるときに、診断動作制御部42からの指示に応じて判定動作を停止する。同様に、異常診断部3は、スティックスリップ指標SSpvの算出範囲の中に、制御指令値SPの変化量が変化量閾値を超えた区間の時刻の少なくとも一部が含まれるときに、診断動作制御部42からの指示に応じて判定動作を停止する。
【0041】
こうして、本実施例では、スティックスリップ検出方法に対して、バルブの専門家が有する知見を容易に反映することができる。また、本実施例では、指標閾値、変化量閾値を柔軟に変更できるので、長期のバルブ使用による経年変化にも対応したデータ除外が可能となり、長期的に同一基準を使った比較・判断が可能となる。
【0042】
なお、全開閉判定部40は、診断対象のバルブが全開動作時、全閉動作時、全開状態からの閉じ始め時、全閉状態からの開き始め時のいずれかの時かどうかを、制御指令値SPに基づいて判定するようにしてもよい。
【0043】
本実施例で説明した運転データ蓄積部1と異常診断部3と除外判定部4と診断結果出力部5とデータ取得部6とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図9に示す。
【0044】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、診断結果出力部5のハードウェアやポジショナ等が接続される。本発明のスティックスリップ検出方法を実現させるためのプログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【0045】
上記のとおり、第1の状態量算出部7と第2の状態量算出部8とスティックスリップ指標算出部2とは、運転データ蓄積部1と異常診断部3と除外判定部4と診断結果出力部5とデータ取得部6と同じコンピュータによって実現してもよいし、別のコンピュータ(例えばポジショナのマイクロコンピュータ)によって実現してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、バルブのスティックスリップを検出する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…運転データ蓄積部、2…スティックスリップ指標算出部、3…異常診断部、4…除外判定部、5…診断結果出力部、6…データ取得部、7…第1の状態量算出部、8…第2の状態量算出部、40…全開閉判定部、41…変化量判定部、42…診断動作制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9