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特開2022-173700磁気記録媒体、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記憶装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173700
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/65 20060101AFI20221115BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20221115BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20221115BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20221115BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20221115BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20221115BHJP
   G11B 5/012 20060101ALI20221115BHJP
   G11B 5/02 20060101ALI20221115BHJP
   H01F 10/14 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G11B5/65
G11B5/706
G11B5/82
G11B5/851
G11B5/714
G11B5/84 B
G11B5/012
G11B5/02 R
H01F10/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079564
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】福島 隆之
(72)【発明者】
【氏名】茂 智雄
(72)【発明者】
【氏名】梅本 裕二
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 和也
【テーマコード(参考)】
5D006
5D091
5D112
5E049
【Fターム(参考)】
5D006BB01
5D006BB05
5D006BB07
5D006CA04
5D006CA05
5D006DA03
5D006DA08
5D006EA03
5D006FA09
5D091AA10
5D091CC12
5D091CC30
5D112AA05
5D112AA24
5D112BA03
5D112BB02
5D112BB05
5D112BB06
5E049AA01
5E049BA06
(57)【要約】
【課題】磁気記録層の表層及びその近傍に微細な結晶粒径を有する磁性粒子を含むことができる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】本発明に係る磁気記録媒体は、基板と、L1構造を有する磁性粒子を含む磁気記録層と、を備え、前記磁気記録層は、(001)配向し、前記磁気記録層の成長面は、(001)面と、(111)面及びその等価面を有し、前記成長面における(111)面及びその等価面の面積比率(((111)面+(111)等価面)/((001)面+(111)面+(111)等価面)))が、0.2~0.7である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
L1構造を有する磁性粒子を含む磁気記録層と、を備え、
前記磁気記録層は、(001)配向し、
前記磁気記録層の成長面は、(001)面と、(111)面及びその等価面を有し、
前記成長面における(111)面及びその等価面の面積比率(((111)面+(111)等価面)/((001)面+(111)面+(111)等価面)))が、0.2~0.7である磁気記録媒体。
【請求項2】
基板と、
L1構造を有する磁性粒子を含む磁気記録層と、を備え、
前記磁気記録層は、(001)配向し、
前記磁気記録層の成長面は、(001)面と、(111)面及びその等価面を有し、
前記成長面におけるRkuが4~5である磁気記録媒体。
【請求項3】
上記磁性粒子は、結晶粒径が8nm以下であり、FePt、CoPt、FePd及びCoPdからなる群から選択される少なくとも一つの成分を含む請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
基板上に、L1構造を有する磁性粒子を含み、(001)配向した磁気記録層を、(001)面と、(111)面及びその等価面を成長面として形成させて、前記成長面における(111)面及びその等価面の面積比率(((111)面+(111)等価面)/((001)面+(111)面+(111)等価面)))を0.2~0.7とし、
次いで、前記磁気記録層の上に保護膜を形成し、前記保護膜の表面を研摩加工してRkuを2.5~3.5にする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
基板上に、L1構造を有する磁性粒子を含み、(001)配向した磁気記録層を、(001)面と、(111)面及びその等価面を成長面として形成させて、前記成長面におけるRkuを4~5とし、
次いで、前記磁気記録層の上に保護膜を形成し、前記保護膜の表面を研摩加工してRkuを2.5~3.5にする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載の磁気記録媒体を備える磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、一般に、基板及び磁気記録層をこの順に積層して備える。磁気記録媒体に磁気情報を記録する方法として、磁気記録媒体にレーザー光又はマイクロ波を照射して局所的に保磁力を低下させて記録する熱アシスト記録方式又はマイクロ波アシスト記録方式がある。これらのアシスト記録方式は、2Tbit/inchクラスの高い面記録密度を実現することができることから、磁気記録媒体の小型化、高記録密度化に伴い、記憶容量を高めることができる次世代記録方式として検討されている。
【0003】
このようなアシスト記録方式では、室温において数十kOeの保磁力を有する磁気記録層を備える磁気記録媒体を用いることができる。このため、磁気記録層に含まれる磁性粒子として、結晶磁気異方性定数(Ku)が高い磁性粒子を用いることができる。Kuが高い磁性粒子としては、7×10J/m程度のKuを有するFePt合金粒子、5×10J/m程度のKuを有するCoPt合金粒子等のL1構造を有する磁性粒子が知られている。
【0004】
Kuが高い磁性粒子を含む磁気記録層を有する磁気記録媒体として、例えば、基板上に形成された、MgO下地層等の複数の下地層の上に、L10構造を有するFePt若しくはCoPtを主成分として含む磁性層を備える磁気記録媒体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、MgO上のFePt粒子は、その側面に(111)面のファセットが出現することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-26368号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】PHYSICAL REVIEW APPLIED 9, 034023(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁気記録媒体の磁気記録層を構成する磁性層に情報を書き込む場合、磁性層は磁性粒子単位で磁化するため、磁気記録媒体の記録密度を高めるためには磁性粒子を微細化することが重要である。一方、磁性層は成長初期には磁性粒子の核発生密度は高いが、成長中期以降になると、磁性粒子同士が結合して核発生密度が低下して結晶粒径が増大し、磁性粒子が粗大化する、という問題があった。
【0009】
本発明の一態様は、磁気記録層の表層及びその近傍に微細な結晶粒径を有する磁性粒子を含むことができる磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る磁気記録媒体の一態様は、基板と、L1構造を有する磁性粒子を含む磁気記録層と、を備え、前記磁気記録層は、(001)配向し、前記磁気記録層の成長面は、(001)面と、(111)面及びその等価面を有し、前記成長面における(111)面及びその等価面の面積比率(((111)面+(111)等価面)/((001)面+(111)面+(111)等価面)))が、0.2~0.7である。
【0011】
本発明に係る磁気記録媒体の他の態様は、基板と、L1構造を有する磁性粒子を含む磁気記録層と、を備え、前記磁気記録層は、(001)配向し、前記磁気記録層の成長面は、(001)面と、(111)面及びその等価面を有し、前記成長面におけるRkuが4~5である。
【0012】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一態様は、基板上に、L1構造を有する磁性粒子を含み、(001)配向した磁気記録層を、(001)面と、(111)面及びその等価面を成長面として形成させて、前記成長面における(111)面及びその等価面の面積比率(((111)面+(111)等価面)/((001)面+(111)面+(111)等価面)))を0.2~0.7とし、次いで、前記磁気記録層の上に保護膜を形成し、前記保護膜の表面を研摩加工してRkuを2.5~3.5にする。
【0013】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の他の態様は、基板上に、L1構造を有する磁性粒子を含み、(001)配向した磁気記録層を、(001)面と、(111)面及びその等価面を成長面として形成させて、前記成長面におけるRkuを4~5とし、次いで、前記磁気記録層の上に保護膜を形成し、前記保護膜の表面を研摩加工してRkuを2.5~3.5にする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る磁気記録媒体の一態様によれば、磁気記録層の表層及びその近傍に微細な結晶粒径を有する磁性粒子を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】L1構造を有する磁性粒子を(001)配向させた際の結晶面を示す模式図である。
図2】L1構造を有するFePt合金を用いた場合の結晶形状(四角錘台高さ)と、(111)面及びその等価面の比率との関係を示す図である。
図3】(111)面及びその等価面の比率が0.2~0.7である領域を示す図である。
図4】本実施形態に係る磁気記録媒体の層構成の一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。
図6】磁気ヘッドの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0017】
<磁気記録媒体>
本実施形態に係る磁気記録媒体は、基板上に、L1構造を有する磁性材料である磁性粒子を含む磁気記録層を備え、磁気記録層は、(001)配向している。磁気記録層に含まれるL1構造を有する磁性粒子を(001)配向させることで、磁気記録層は、高い規則度が得られる。
【0018】
本実施形態では、磁気粒子を(001)配向で成長させるに際し、成長面として(001)面と、(111)面及びその等価面を有するように成長させる。
【0019】
図1は、L1構造を有する磁性粒子を(001)配向させた際の結晶面を示す模式図である。L1構造を有する磁性粒子を(001)面と(111)面も有するように成長させると、図1に示すような四角錘台の結晶となり、(111)面の等価面として、(-111)面、(1-11)面、(-1-11)面が生ずる。(001)面がなくなるように成長させると、結晶は四角錘となる。(111)面がなくなるように成長させると、正方形の(001)面のみの平坦な結晶となる。
【0020】
本実施形態では、成長面における(111)面及びその等価面の面積比率、即ち、(111)面と(111)等価面の面積を、(001)面と(111)面と(111)等価面の合計面積で割った値は、0.2~0.7であることが好ましく、0.25~0.6がより好ましく、0.3~0.6がさらに好ましい。本実施形態では、磁気記録層に含まれる磁性留粒子が上記のように構成を有することで、磁性粒子同士の結合を抑制できるため、磁性粒子の粗大化を抑制できる。そのため、磁気記録媒体は、磁気記録層に含まれる磁性粒子の粒径の増大を低減できる。
【0021】
成長面における(111)面及びその等価面の面積比率が0.2以上であると、隣接する粒子の(001)面との距離が大きくなるため、隣り合う粒子の(001)面同士が結合することが抑制される。一方、成長面における(111)面及びその等価面の面積比率が0.2より小さいと、隣接する磁性粒子と(001)面との距離が近づき、隣り合う磁性粒子の(001)面同士が結合し、磁性粒子が粗大化し易くなる。また、成長面における(111)面及びその等価面の面積比率が0.7より大きくなると、成長面の凹凸が大きくなり、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化するので、磁気ヘッドの浮上走行安定性が低下し、電磁変換特性が悪化する。
【0022】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を例示する。
【0023】
本実施形態に係る磁気記録媒体では、例えば、磁気記録層に含まれる磁性層が、磁性粒子とその周囲を非磁性の粒界部としたグラニュラー構造を含み、磁性層の成膜に際して、粒界部の体積比率を徐々に下げることで実現できる。また、磁気記録層を多層構造とし、各磁性層における粒界部の体積比率を徐々に下げてもよい。
【0024】
また、磁気記録層は、多層構造を有し、各層の成膜工程の間に真空加熱工程を含んでよい。L1構造を有する磁性粒子において、(111)面及びその等価面は最密充填面であるため、真空中で結晶面をさらし易い。そのため、磁性粒子の成長面を真空加熱することで、磁性粒子の成長を促進できる。
【0025】
面積比率は、磁気記録媒体の断面をTEMで観察することによって計算できる。即ち、基板面に対して約53°の傾きを持った結晶面が(111)面及びその等価面であり、基板面に対して水平な結晶面が(001)面であるので、断面をTEMで観察することでその割合を算出できる。
【0026】
また、成長面における(111)面及びその等価面と(001)面との比率は、原子散乱表面分析の方位角測定によっても測定できる。即ち、測定試料を方位角方向で回転させ、角度毎の散乱強度を計測し、測定試料表面の軸方位や対称性から各結晶面の比率を知ることができる。
【0027】
図2は、L1構造を有する磁性粒子としてFePt合金を用いた場合の結晶形状(四角錘台高さ)と、(111)面及びその等価面の比率の関係を示す。FePt合金の(111)面は底角53°、頂角74°の2等辺三角形であるので、横軸で100%の場合は結晶形状は四角錘、ゼロの場合は平面(正方形)となる。
【0028】
(111)面及びその等価面の比率が0.2~0.7である範囲は、FePt合金の場合では、四角錘の下からおおよそ10%~40%の位置となる(図3中、斜線部分)。よって、磁気記録媒体の断面をTEMで観察して磁性粒子を構成する四角錘台の高さを計測することで、面積比率を算出できる。
【0029】
また、本実施形態に係る磁気記録媒体は、クルトシス(RKu)によって規定することもできる。
【0030】
即ち、本実施形態に係る磁気記録媒体は、基板の上に、L1構造を有する磁性粒子を含む磁気記録層を有し、この磁気粒子は(001)配向とし、その成長面として(001)面と、(111)面及びその等価面を有する。そして、磁性粒子は、成長面におけるRkuを4~5の範囲内とする。
【0031】
RKuは、磁性粒子に含まれる結晶の面の凹凸のシャープさを表わす。面が平均したシャープさを持つ場合は、Rkuは3(Rku=3)となり、研磨面のように面の鋭さがない場合は、RKuは3未満(RKu<3)となり、面が鋭い凹凸を有する場合は、RKuは3を超える(RKu>3)。
【0032】
本願発明者の検討によると、L1構造を有する磁性粒子を含む磁気記録層を、(001)面と、(111)面及びその等価面を有するように、(001)配向させ、(111)面及びその等価面の面積比率(((111)面+(111)等価面)/((001)面+(111)面+(111)等価面)))を0.2~0.7の範囲内とした場合、その成長面のRkuは4~5となることを見出した。
【0033】
磁気記録層に含まれる磁性粒子の成長面におけるRKuが4より小さくなると、磁性粒子同士が結合し、磁性粒子が粗大化する。一方で、磁性粒子の成長面におけるRKuが5より大きくなると、磁気記録層の表面が粗くなり、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化し、電磁変換特性が悪化する。
【0034】
磁気記録層の成長面におけるRKuは、磁気記録媒体の断面をTEMで観察することによって算出できる。また、磁気記録媒体の製造プロセスにおいて、磁気記録層を形成した後のサンプルを取り出し、その表面を非接触粗さ計等の一般的な粗さ測定装置を用いて測定することで特定できる。
【0035】
図4は、本実施形態に係る磁気記録媒体の層構成の一例を示す。図4に示すように、磁気記録媒体1は、基板10と、下地層20と、磁気記録層30を有する。
【0036】
基板10は、磁気記録媒体に一般的に用いられる基板を用いてよい。基板10としては、例えば、軟化温度が500℃以上、好ましくは600℃以上である耐熱ガラス基板を用いることが好ましい。磁気記録媒体1を製造する際に、基板10を500℃以上の温度に加熱する場合があるため、500℃以上に加熱しても、耐熱ガラス基板を有することができる。
【0037】
下地層20は、MgOを含む層を含み、磁気記録層30に含まれるL1構造を有する磁性粒子を(001)配向させることが可能であれば、他の層を含んだ多層構造としてもよい。
【0038】
下地層20は、NaCl型化合物を含むことが好ましく、NaCl型化合物しては、MgO以外では、例えば、TiO、NiO、TiN、TaN、HfN、NbN、ZrC、HfC、TaC、NbC、TiC等が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
磁気記録層30は、L1構造を有する磁性粒子を含む。L1構造を有する磁性粒子としては、例えば、FePt合金粒子、CoPt合金粒子等が挙げられる。
【0040】
磁性粒子の粒径は、3nm~10nmが好ましく、4nm~7nmがより好ましい。なお、磁性粒子の粒径は、平面をTEMで観察することにより測定できる。
【0041】
磁性粒子間の距離は、4nm~12nmが好ましく、5nm~9nmがより好ましい。なお、磁性粒子間の距離とは、隣接する磁性粒子の重心同士の間の距離をいう。磁性粒子間の距離は、平面をTEMで観察することにより測定できる。
【0042】
また、磁気記録層30は、粒界部を含むグラニュラー構造を有してよい。
【0043】
磁気記録層30がグラニュラー構造を有する場合は、磁気記録層30中の粒界部の含有量は、25体積%~50体積%が好ましく、35体積%~45体積%がより好ましい。磁気記録層30中の粒界部の含有量が上記の好ましい範囲内であれば、磁気記録層30に含まれる磁性粒子の異方性を高めることができる。
【0044】
ここで、粒界部は、炭化物、窒化物、酸化物、ホウ化物等を含むことができる。具体的には、BN、BC、C、MoO、GeO等が挙げられる。
【0045】
磁性粒子は、基板10に対して、c軸配向させる、即ち(001)配向させることが好ましい。
【0046】
磁気記録層30の厚さは、8nm~20nmであることが好ましく、より好ましくは10nm~18nmであり、さらに好ましくは10nm~15nmである。磁気記録層30の厚さが、上記の好ましい範囲内であれば、高記録密度化を図れる。
【0047】
なお、本明細書において、磁気記録層30の厚さとは、磁気記録層30の主面に垂直な方向の長さをいう。磁気記録層30の厚さは、例えば、磁気記録層30の断面において、任意の場所を測定した時の厚さである。磁気記録層30の断面において、任意の場所で数カ所測定した場合は、これらの測定箇所の厚さの平均値としてもよい。以下、他の層も磁気記録層30の厚さと同様の測定方法を用いることができる。
【0048】
磁気記録層30は、下地層20の上にスパッタリング法等により形成できる。
【0049】
磁気記録層30は、1つの磁性層を含んでもよいし、複数の磁性層を積層して含んでもよい。磁気記録層30が複数の磁性層を含む場合、それぞれの磁性層は、同一種類の材料を用いて形成されてもよいし、異なる種類の材料を用いて形成されてもよい。また、それぞれの磁性層同士の間には、非磁性層を含んでよい。非磁性層は、磁気記録媒体に使用される一般的な材料を用いて形成してよい。
【0050】
磁気記録媒体1は、磁気記録層30上に、保護層をさらに有することが好ましい。
【0051】
保護層としては、例えば、硬質炭素膜等が挙げられる。
【0052】
保護層の形成方法としては、例えば、炭化水素ガス(原料ガス)を高周波プラズマで分解して成膜するRF-CVD(Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して成膜するIBD(Ion Beam Deposition)法、原料ガスを用いずに、固体炭素ターゲットを用いて成膜するFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等が挙げられる。
【0053】
保護層の厚さは、1nm~6nmであることが好ましい。保護層の厚さが1nm以上であると、磁気ヘッドの浮上特性が良好となり、6nm以下であると、磁気スペーシングが小さくなり、磁気記録媒体1のSNR(信号/ノイズ比(S/N比))が向上する。
【0054】
磁気記録媒体1は、保護層上に、潤滑剤層をさらに有していてもよい。
【0055】
潤滑剤層は、液体潤滑剤層を用いて形成できる。液体潤滑剤としては、化学的に安定で、低摩擦で、低吸着性を有するものが好適に用いられ、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含むパーフルオロポリエーテル系潤滑剤等のフッ素樹脂系潤滑剤が挙げられる。
【0056】
潤滑剤層の厚さは、1nm~3nmの範囲内であることが好ましい。
【0057】
このように、本実施形態に係る磁気記録媒体は、基板上に、L1構造を有する磁性材料である磁性粒子を含む磁気記録層を備え、この磁気記録層は、(001)配向とする。そして、磁気記録層の成長面は、(001)面と、(111)面及びその等価面を有し、成長面における(111)面及びその等価面の面積比率を、0.2~0.7とする。これにより、磁気記録層は、成長初期から成長後期にわたって磁性粒子同士の結合を抑制することで、結晶粒径の増大を抑え、磁性粒子の粗大化を抑えることができる。そのため、磁性粒子の成長後期である磁気記録層の表層(上層)及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径を、磁性粒子の成長初期である磁気記録層の下層及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径と略同じ大きさに維持できる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体は、磁気記録層の上層及びその近傍の領域に微細な結晶粒径を有する磁性粒子を含むことができる。
【0058】
本実施形態に係る磁気記録媒体は、磁気記録層の表層及びその近傍に存在する磁性粒子の結晶粒径を微細にすることで、磁気記録層の成長面の表面平滑性を高めることができるため、記録密度を高める等の優れた電磁変換特性を発揮することができる。
【0059】
本実施形態に係る磁気記録媒体は、基板上に、L1構造を有する磁性材料である磁性粒子を含む磁気記録層を備え、この磁気記録層は、(001)配向とする。そして、磁気記録層の成長面は、(001)面と、(111)面及びその等価面を有し、成長面におけるRkuを4~5とする。この場合も、上記と同様、磁性粒子の成長後期である磁気記録層の表層(上層)及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径を、磁性粒子の成長初期である磁気記録層の下層及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径と略同じ大きさに維持できる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体は、磁気記録層の上層及びその近傍の領域に微細な結晶粒径を有する磁性粒子を含むことができる。本実施形態に係る磁気記録媒体は、磁気記録層の成長面の表面平滑性を高めることができるため、記録密度を高める等の優れた電磁変換特性を発揮することができる。
【0060】
本実施形態に係る磁気記録媒体は、磁性粒子を、結晶粒径が8nm以下とし、FePt、CoPt、FePd及びCoPdからなる群から選択される少なくとも一つの成分を含むことができる。これにより、本実施形態に係る磁気記録媒体は、磁性粒子の結晶粒径を微細にすることで磁気特性を高めることができる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体は、さらに高い記録密度を有することができる。
【0061】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、L1構造を有する磁性粒子を含み、(001)配向した磁気記録層を、(001)面と、(111)面及びその等価面を成長面として形成させて、成長面における(111)面及びその等価面の面積比率を0.2~0.7とする。そして、磁気記録層の上に保護膜を形成し、保護膜の表面を研摩加工してRkuを2.5~3.5にする。これにより、磁気記録層の形成時において、磁性粒子の成長初期から成長後期にわたって磁性粒子同士の結合を抑制することで、結晶粒径の増大を抑え、磁性粒子の粗大化を抑えることができる。そのため、磁性粒子の成長後期である磁気記録層の表層(上層)及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径を、磁性粒子の成長初期である磁気記録層の下層及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径と略同じ大きさに維持できる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録層の上層及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径は小さくし、磁性粒子は微細にできる。得られる磁気記録層の成長面の表面平滑性を高めることができるため、記録密度を高める等の優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【0062】
本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、L1構造を有する磁性粒子を含み、(001)配向した磁気記録層を、(001)面と、(111)面及びその等価面を成長面として形成させて、成長面におけるRkuを4~5とする。そして、磁気記録層の上に保護膜を形成し、保護膜の表面を研摩加工してRkuを2.5~3.5にする。この場合も、上記と同様、磁性粒子の成長後期である磁気記録層の表層(上層)及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径を、磁性粒子の成長初期である磁気記録層の下層及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径と略同じ大きさに維持できる。よって、本実施形態に係る磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録層の上層及びその近傍の領域に存在する磁性粒子の結晶粒径は小さくし、磁性粒子は微細にできる。得られる磁気記録層の成長面の表面平滑性を高めることができるため、記録密度を高める等の優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【0063】
本実施形態に係る磁気記録媒体は、上記のような特性を有することにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体との距離が狭くなり、磁気ヘッドの浮上量がさらに小さくなっても磁気ヘッド4との衝突を低減しながら使用できる。よって、磁気記録再生装置1は、更に高い記録密度を有する磁気記録再生装置に好適に用いることができる。
【0064】
なお、磁気記録媒体1は、保護層及び潤滑剤層の他に、適宜任意の層を含んでもよい。例えば、磁気記録媒体1は、基板10と磁気記録層30との間に、密着層、軟磁性下地層、配向制御層等を必要に応じて適宜備えてよい。軟磁性下地層は、例えば、第1軟磁性層、中間層及び第2軟磁性層を含んで構成されてもよい。配向制御層は、1層でもよいし、2層(例えば、第1の配向制御層、第2の配向制御層等)以上でもよい。密着層、軟磁性下地層、配向制御層等を形成する材料は、磁気記録媒体に使用される一般的な材料を用いることができる。
【0065】
[磁気記憶装置]
本実施形態に係る磁気記録媒体を備える磁気記憶装置について説明する。本実施形態に係る磁気記憶装置は、本実施形態に係る磁気記録媒体を有していれば、形態は特に限定されない。なお、ここでは、磁気記憶装置が熱アシスト記録方式を用いて磁気情報を磁気記録媒体に記録する場合について説明する。
【0066】
本実施形態に係る磁気記憶装置は、例えば、本実施形態に係る磁気記録媒体を回転させる磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子が設けられている磁気ヘッドと、磁気ヘッドを移動させる磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理部とを有することができる。
【0067】
磁気ヘッドは、熱アシスト記録方式の磁気ヘッドであり、例えば、レーザー光を発生させて、磁気記録媒体を加熱するレーザー光発生部と、レーザー光発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路を有する。
【0068】
図5は、本実施形態に係る磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。図5に示すように、磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101と、磁気記録媒体101を回転させるための磁気記録媒体駆動部102と、先端部に近接場光発生素子を備えた磁気ヘッド103と、磁気ヘッド103を移動させるための磁気ヘッド駆動部104と、記録再生信号処理部105とを有することができる。磁気記録媒体101は、上述の本実施形態に係る磁気記録媒体1が用いられる。
【0069】
図6は、磁気ヘッド103の一例を示す模式図である。図6に示すように、磁気ヘッド103は、記録ヘッド110と、再生ヘッド120を有する。
【0070】
記録ヘッド110は、主磁極111と、補助磁極112と、磁界を発生させるコイル113と、レーザー光発生部であるレーザーダイオード(LD)114と、LD114から発生したレーザー光Lを近接場光発生素子115まで伝送する導波路116とを有する。
【0071】
再生ヘッド120は、シールド121と、シールド121で挟まれている再生素子122を有する。
【0072】
図6に示すように、磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101の中心部をスピンドルモータの回転軸に取り付けて、スピンドルモータにより回転駆動される磁気記録媒体101の面上を磁気ヘッド103が浮上走行しながら、磁気記録媒体101に対して情報の書き込み又は読み出しを行う。
【0073】
本実施形態に係る磁気記憶装置100は、磁気記録媒体101に本実施形態に係る磁気記録媒体1を用いることで、磁気記録媒体101を高記録密度化することができるため、記録密度を高めることができる。
【0074】
なお、磁気記憶装置は、磁気ヘッド103に熱アシスト記録方式の磁気ヘッドに代えて、マイクロ波アシスト記録方式の磁気ヘッドを用いてもよい。
【実施例0075】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0076】
<磁気記録媒体の製造>
[実施例1]
(100)面を露出したMgO単結晶基板上に、下地層として、厚さ100nmのCr-50at%Ti合金層と、厚さ30nmのCo-27at%Fe-5at%Zr-5at%B合金層とを順次形成した。次に、ガラス基板を250℃まで加熱した後、厚さ10nmのCr層と、厚さ5nmのMgO-C層とを順次形成した。次に、MgO単結晶基板を450℃まで加熱した後、磁気記録層として、厚さ1nmのFePt―40mol%C(第1磁性層)を成膜した。次に、基板を650℃で20秒間10-5Paの高真空中でアニールを行ったのち、厚さ2nmのFePt―40mol%C(第2磁性層)を成膜した。その後、厚さ3nmのFePt-16SiO(第3磁性層)、厚さ2nmのFePt-25BN(第4磁性層)を成膜し、基板を550℃で20秒間、3Paでアニールした後、厚さ5nmのFePt-16SiO(第5磁性層)を成膜した。
【0077】
その後、磁気記録層の表面(第5磁性層の表面)の、磁性粒子の平均粒径と、近接する磁性粒子同士の間の平均距離(磁性粒子間距離)と、(111)面及びその等価面の面積比率(((111)面+(111)等価面)/((001)面+(111)面+(111)等価面)))と、RKuを測定した。
【0078】
その後、保護層として、厚さ3nmのカーボン膜を形成した。その後、平均粒径1μmのアルミナ砥粒を固着したアルミナテープを用いて保護層の表面を研摩加工した。研磨加工の条件は、基板の回転数を500回転/分、基板へのアルミナテープの押し当て力は0.1MPa、研磨時間は3秒とした。その後、保護層の表面を研摩加工した後のRKuを測定した。
【0079】
磁気記録層の表面の、結晶粒径と、磁性粒子同士間距離と、(111)面及びその等価面の面積比率と、RKuと、保護層表面の研摩加工後のRKuの測定結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2~11、比較例1~7]
実施例1において、磁気記録媒体の作製条件を表1に示すように変更して磁気記録媒体を製造して評価したこと以外は、実施例1と同様にして行った。磁気記録層の表面の、結晶粒径と、磁性粒子同士間距離と、(111)面及びその等価面の面積比率と、RKuと、保護層表面の研摩加工後のRKuの測定結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、実施例1~実施例11では、第5磁性層の表層の磁性粒子の結晶粒径が8.7nm以下であった。一方、比較例1~7では、第5磁性層の表層の磁性粒子の結晶粒径が9.3nm以上であった。
【0083】
よって、実施例1~実施例11の磁気記録媒体は、比較例1~7の磁気記録媒体と異なり、磁気記録層表面の、(111)面及びその等価面の面積比率を、23%~63%とした。これにより、実施例1~実施例11の磁気記録媒体は、磁性記録層の第5磁性層の表層及びその近傍に含まれる磁性粒子の粒径を小さくできる。よって、実施例1~実施例11の磁気記録媒体は、磁気記憶装置に用いることで、優れた電磁変換特性を発揮することができるといえる。
【0084】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
1、101 磁気記録媒体
10 基板
20 下地層
30 磁気記録層
100 磁気記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6