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特開2022-173720アイオノマ修飾疎水性粒子、触媒層、並びに、触媒インク及びその製造方法
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  • 特開-アイオノマ修飾疎水性粒子、触媒層、並びに、触媒インク及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173720
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】アイオノマ修飾疎水性粒子、触媒層、並びに、触媒インク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221115BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20221115BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20221115BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221115BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/88 K
B01J23/42 M
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079596
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 尚美
(72)【発明者】
【氏名】工藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
5H018AA06
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB16
5H018EE03
5H018EE06
5H018EE08
5H018EE17
5H018EE18
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】プロトン伝導助剤として好適なアイオノマ修飾疎水性粒子、これを含む触媒層、並びに、これを含む触媒インク及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】アイオノマ修飾疎水性粒子は、疎水性粒子と、疎水性粒子の表面を被覆する、カチオン性官能基を有する芳香族ビニル共重合体と、カチオン性官能基とイオン結合しているアイオノマAとを備えている。触媒層は、電極触媒と、アイオノマBからなる触媒層アイオノマと、アイオノマ修飾疎水性粒子とを備えている。触媒インクは、電極触媒と、アイオノマBからなる触媒層アイオノマと、アイオノマ修飾疎水性粒子と、これらを分散させるための水を含む親水性溶媒とを備えている。このような触媒インクは、アイオノマ修飾疎水性粒子が分散している第1分散液と、電極触媒及びアイオノマCが分散している第2分散媒液とを混合することにより得られる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えたアイオノマ修飾疎水性粒子。
(1)前記アイオノマ修飾疎水性粒子は、
疎水性粒子の表面が芳香族ビニル共重合体で被覆された表面修飾疎水性粒子と、
前記表面修飾疎水性粒子の表面をさらに被覆するアイオノマAと
を備えている。
(2)前記芳香族ビニル共重合体は、
疎水性官能基とカチオン性官能基とを備え、
前記疎水性官能基を介して前記疎水性粒子の表面に吸着している。
(3)前記アイオノマAは、
アニオン性官能基を備え、
前記アニオン性官能基を介して、前記カチオン性官能基とイオン結合している。
【請求項2】
前記疎水性粒子は、
シート状粒子からなり、
平均長径が1μm以上10μm以下であり、
平均厚さが10nm以上300nm以下である
請求項1に記載のアイオノマ修飾疎水性粒子。
【請求項3】
前記疎水性粒子は、薄片化黒鉛粒子である請求項1又は2に記載のアイオノマ修飾疎水性粒子。
【請求項4】
前記アイオノマAの吸着量が0.03mass%以上35.0mass%以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載のアイオノマ修飾疎水性粒子。
【請求項5】
前記カチオン性官能基は、ピリジル基、アミノ基、4級アンモニウム基、イミノ基、イミダゾール基、グアニジン基、及び、ビグアニド基からなる群から選ばれるいずれか1以上の官能基からなる請求項1から4までのいずれか1項に記載のアイオノマ修飾疎水性子。
【請求項6】
前記芳香族ビニル共重合体は、
次の式(1)で表されるビニル芳香族モノマー単位と、
前記カチオン性官能基を有するビニルモノマーからなる第2モノマー単位と
を備えた共重合体からなる請求項1から5までのいずれか1項に記載のアイオノマ修飾疎水性粒子。
-(CH2-CHX)- …(1)
但し、
Xは、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、及びピレニル基からなる群から選ばれるいずれか1以上の前記疎水性官能基を表し、これらの基は置換基を有していても良い、
前記カチオン性官能基は、ピリジル基、アミノ基、4級アンモニウム基、イミノ基、イミダゾール基、グアニジン基、及び、ビグアニド基からなる群から選ばれるいずれか1以上の官能基。
【請求項7】
前記アイオノマAは、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマからなる請求項1から6までのいずれか1項に記載のアイオノマ修飾疎水性粒子。
【請求項8】
カーボン担体の表面に触媒粒子が担持された電極触媒と、
アイオノマBからなる触媒層アイオノマと、
請求項1から7までのいずれか1項に記載のアイオノマ修飾疎水性粒子と
を備えた触媒層。
【請求項9】
次の式(2)~式(4)の関係を満たす請求項8に記載の触媒層。
35.0≦x≦70.0mass% …(2)
0.4<y/x<1.6 …(3)
1.0≦z≦45.0mass% …(4)
但し、
x(mass%)は、前記触媒層に含まれる前記電極触媒と、前記アイオノマ修飾疎水性粒子と、前記アイオノマBの総質量に対する、前記電極触媒の質量の割合、
y/xは、前記触媒層に含まれる前記電極触媒の質量に対する、前記アイオノマBと、前記表面修飾疎水性粒子の表面を被覆する前記アイオノマAの総質量の比、
z(mass%)は、前記触媒層に含まれる前記電極触媒と、前記表面修飾疎水性粒子の総質量に対する、前記表面修飾疎水性粒子の質量の割合。
【請求項10】
前記アイオノマBは、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマからなる請求項8又は9に記載の触媒層。
【請求項11】
カーボン担体の表面に触媒粒子が担持された電極触媒と、
アイオノマBからなる触媒層アイオノマと、
請求項1から7までのいずれか1項に記載のアイオノマ修飾疎水性粒子と、
前記電極触媒、前記触媒層アイオノマ、及び前記アイオノマ修飾疎水性粒子を分散させるための水を含む親水性溶媒と、
を備えた触媒インク。
【請求項12】
次の式(2)~式(4)の関係を満たす請求項11に記載の触媒インク。
35.0≦x≦70.0mass% …(2)
0.4<y/x<1.6 …(3)
1.0≦z≦45.0mass% …(4)
但し、
x(mass%)は、前記触媒インクに含まれる前記電極触媒と、前記アイオノマ修飾疎水性粒子と、前記アイオノマBの総質量に対する、前記電極触媒の質量の割合、
y/xは、前記触媒インクに含まれる前記電極触媒の質量に対する、前記アイオノマBと、前記表面修飾疎水性粒子の表面を被覆する前記アイオノマAの総質量の比、
z(mass%)は、前記触媒インクに含まれる前記電極触媒と、前記表面修飾疎水性粒子の総質量に対する、前記表面修飾疎水性粒子の質量の割合。
【請求項13】
請求項1から7までのいずれか1項に記載のアイオノマ修飾疎水性粒子が第1分散媒中に分散している第1分散液を調製する第1工程と、
電極触媒、及びアイオノマCが第2分散媒中に分散している第2分散媒液を調製する第2工程と、
前記第1分散液と前記第2分散液を混合し、触媒インクを得る第3工程と
を備えた触媒インクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイオノマ修飾疎水性粒子、触媒層、並びに、触媒インク及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、疎水性粒子の表面がアイオノマで被覆されたアイオノマ修飾疎水性粒子、これを用いた触媒層、並びに、これを用いた触媒インク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。通常、触媒層の外側には、さらにガス拡散層が配置される。触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の触媒粒子を担持したカーボンと固体高分子電解質(触媒層アイオノマ)との複合体からなる。また、ガス拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。
【0003】
固体高分子形燃料電池(PEFCs)は、酸素と水素の反応によって電気エネルギーを発生させる発電装置である。PEFCsは、従来の内燃機関に比べて高効率・高出力密度が期待できる。また、燃料となる水素は,多様な一次エネルギー源から製造することができる。そのため、PEFCsは、将来の車載用動力源として有力な候補の一つである。
【0004】
PEFCsを車載用動力源として普及させるためには、白金触媒の使用量の低減によるコスト低減や耐久性向上の課題がある。PEFCsの水素酸化反応及び酸素還元反応は触媒層中で起こるため、課題克服のためには、触媒層を構成する材料の特性向上と触媒層の構造の制御が重要である。
このような触媒層は、通常、触媒インクを塗工して調製される。触媒インクは、白金担持カーボン及びアイオノマを水と有機溶媒の混合溶媒に分散させて作るスラリーである。また、触媒層は、白金担持カーボン及びアイオノマからなるサブマイクロメーターオーダーの細孔を持つ多孔膜である。
【0005】
PEFCsの低コスト化のためには触媒に利用する白金量を減らす必要があり、白金量を減らすためには触媒層内のプロトン伝導性を高める必要がある。プロトン伝導性を高める方法としては、触媒層に用いるアイオノマとして酸素透過性の高いアイオノマを用いる方法が提案されている(特許文献1)。
また、触媒層の構造でプロトン伝導性を高める方法としては、
(a)紡糸装置を用いてアイオノマを不織布とし、得られた不織布を触媒インクでコートしたものを触媒層として用いる方法(非特許文献1)、
(b)アイオノマで不織布を作製する際に、短軸方向の長さが20nm以上100μm以下であるカーボンフィラーを高分子電解質溶液中に配合する方法(特許文献2)
などが知られている。
【0006】
アイオノマからなる不織布を触媒層に用いると、プロトン伝導パスがつながりやすくなるために、触媒層内のプロトン伝導性が向上する。また、不織布を作製する際に電解質溶液にカーボンフィラーを添加すると、電子伝導性を向上させることもできる。しかしながら、アイオノマからなる不織布は、紡糸装置を用いて製造する必要があるため、触媒インクを用いて触媒層を製造する従来の方法に比べて生産性が低いという問題があった。
一方、プロトン伝導性と生産性とを両立させるために、触媒インクにプロトン伝導率を向上させるための添加物(以下、これを「プロトン伝導助剤」ともいう)を添加し、アプリケーターやダイコーターなどの量産に適した塗布装置を用いて触媒層を製造することも考えられる。しかし、触媒インクへの添加に適したプロトン伝導助剤が提案された例は従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-216157号公報
【特許文献2】特開2019-183295号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Power Sources, 476(2020)228584
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、触媒インクに添加するプロトン伝導助剤として好適な新規なアイオノマ修飾疎水性粒子を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなアイオノマ修飾疎水性粒子を備えた触媒層を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなアイオノマ修飾疎水性粒子を備えた触媒インク及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子は、以下の構成を備えている。
(1)前記アイオノマ修飾疎水性粒子は、
疎水性粒子の表面が芳香族ビニル共重合体で被覆された表面修飾疎水性粒子と、
前記表面修飾疎水性粒子の表面をさらに被覆するアイオノマAと
を備えている。
(2)前記芳香族ビニル共重合体は、
疎水性官能基とカチオン性官能基とを備え、
前記疎水性官能基を介して前記疎水性粒子の表面に吸着している。
(3)前記アイオノマAは、
アニオン性官能基を備え、
前記アニオン性官能基を介して、前記カチオン性官能基とイオン結合している。
【0011】
本発明に係る触媒層は、
カーボン担体の表面に触媒粒子が担持された電極触媒と、
アイオノマBからなる触媒層アイオノマと、
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子と
を備えている。
【0012】
本発明に係る触媒インクは、
カーボン担体の表面に触媒粒子が担持された電極触媒と、
アイオノマBからなる触媒層アイオノマと、
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子と、
前記電極触媒、前記触媒層アイオノマ、及び前記アイオノマ修飾疎水性粒子を分散させるための水を含む親水性溶媒と、
を備えている。
【0013】
さらに、本発明に係る触媒インクの製造方法は、
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子が第1分散媒中に分散している第1分散液を調製する第1工程と、
電極触媒、及びアイオノマCが第2分散媒中に分散している第2分散媒液を調製する第2工程と、
前記第1分散液と前記第2分散液を混合し、触媒インクを得る第3工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0014】
疎水性粒子の表面を芳香族ビニル共重合体で修飾すると、疎水性粒子の表面にカチオン性官能基が導入された表面修飾疎水性粒子が得られる。次いで、表面修飾疎水性粒子とアイオノマAとを溶媒中に分散させると、カチオン性官能基とアイオノマAのアニオン性官能基とがイオン結合し、アイオノマ修飾疎水性粒子が得られる。
【0015】
このようにして得られたアイオノマ修飾疎水性粒子は、疎水性粒子の表面に連続したプロトン伝導パスが形成されるので、プロトン伝導助剤として機能する。さらに、アイオノマ修飾疎水性粒子は、アイオノマAが吸着することによって表面電荷量が増大しているために、水を含む親水性溶媒に分散させることができる。
そのため、アイオノマ修飾疎水性粒子を触媒インクに添加し、触媒インクを塗布・乾燥させると、プロトン伝導性の高い触媒層が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る触媒層の断面模式図である。
図2】アイオノマ修飾疎水性粒子の合成スキームである。
図3図3(A)は、水に表面修飾疎水性粒子を分散させた分散液の写真である。図3(B)は、水にアイオノマ修飾疎水性粒子を分散させた分散液の写真である。
図4】実施例1~2及び比較例1~2で得られた燃料電池の過加湿条件下におけるIV曲線(IR補正後)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 表面修飾疎水性粒子]
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子は、表面修飾疎水性粒子を備えている。
また、表面修飾疎水性粒子は、
表面が疎水性である疎水性粒子と、
前記疎水性粒子の表面を被覆する芳香族ビニル共重合体と
を備えている。
【0018】
[1.1. 疎水性粒子]
[1.1.1. 材料]
「疎水性粒子」とは、表面が疎水性である粒子をいう。
「表面が疎水性である」とは、水の接触角θが90°以上であることをいう。
疎水性粒子は、表面修飾疎水性粒子のコアとなる粒子である。疎水性粒子を構成する材料は、導電体であっても良く、あるいは、絶縁体であっても良い。
【0019】
疎水性粒子の材料としては、例えば、
(a)黒鉛、
(b)窒化ホウ素、
(c)表面に疎水性表面処理を施したマイカ、タルク、セリサイト、アルミニウム、アルミナ、酸化チタン、シリカ
などがある。
これらの中でも、疎水性粒子の材料は、黒鉛が好ましい。黒鉛は、薄片化処理によって容易に劈開し、薄片化黒鉛粒子が得られるので、疎水性粒子の材料として好適である。
ここで、「薄片化黒鉛粒子」とは、黒鉛の層を所定の厚さに薄く剥がし取ったシート状の粒子をいう。薄片化黒鉛粒子の製造方法については、後述する。
【0020】
[1.1.2. 形状]
疎水性粒子は、粒状粒子であっても良く、あるいは、シート状粒子であっても良い。ここで、「シート状粒子」とは、厚さ方向の寸法に比べて平面方向の寸法が大きい形状(2次元形状又は2次元形状に近い形状)をいう。
シート状の疎水性粒子の表面を芳香族ビニル共重合体で被覆すると、シート状の表面修飾疎水性粒子が得られる。また、シート状の表面修飾疎水性粒子の表面をさらにアイオノマAで被覆すると、シート状のアイオノマ修飾疎水性粒子が得られる。
このようなアイオノマ修飾疎水性粒子を触媒層に添加すると、粒子の一部は、触媒層の表面に対して平行な方向(以下、これを「面内方向」ともいう)に配向するが、他の一部は、触媒層の表面に対して非平行な方向(以下、これを「面外方向」ともいう)に配向する。その結果、触媒層の厚さ方向のプロトン伝導率が向上する。
【0021】
[1.1.3. 大きさ]
疎水性粒子の大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
例えば、疎水性粒子が薄片化黒鉛粒子のようなシート状粒子である場合、シート状の表面修飾疎水性粒子及びシート状のアイオノマ修飾疎水性粒子が得られる。この場合、疎水性粒子の平均長径及び平均厚さは、以下の条件を満たしているのが好ましい。
【0022】
[A. 平均長径]
「長径」とは、シート状粒子のシート面(最も面積が広い面、xy平面)の法線方向(z軸方向)から見た時の、シート状粒子の最も離れた2箇所を結ぶ線(最長直線)の長さをいう。
「平均長径」とは、無作為に選んだ20個以上のシート状粒子の長径の平均値をいう。
【0023】
アイオノマ修飾疎水性粒子を触媒層に添加する場合において、疎水性粒子の平均長径は、触媒層のプロトン伝導率に影響を与える。一般に、疎水性粒子の平均長径が長くなるほど、触媒層のプロトン伝導率が高くなる。これは、平均長径が長くなるほど、表面修飾疎水性粒子の表面に吸着しているアイオノマAのプロトンパスが長くなるためと考えられる。このような効果を得るためには、平均長径は、1μm以上が好ましい。平均長径は、さらに好ましくは、2μm以上である。
【0024】
一方、平均長径が長くなりすぎると、かえって触媒層の性能が低下する。これは、アイオノマ修飾疎水性粒子が触媒層の面内方向に配向することにより、排水が阻害されるためと考えられる。従って、平均長径は、10μm以下が好ましい。平均長径は、さらに好ましくは、8μm以下、さらに好ましくは、6μm以下である。
【0025】
[B. 平均厚さ]
「厚さ」とは、シート状粒子のシート面(xy平面)に対して平行方向から見たときの、シート状粒子の法線方向(z軸方向)の長さの最大値をいう。
「平均厚さ」とは、無作為に選んだ20個以上のシート状粒子の厚さの平均値をいう。
【0026】
アイオノマ修飾疎水性粒子を触媒層に添加する場合において、疎水性粒子の平均厚さは、触媒層のプロトン伝導率に影響を与える。一般に、疎水性粒子の平均厚さが厚くなるほど、触媒層のプロトン伝導率が高くなる。これは、平均厚さが厚くなるほど、アイオノマ修飾疎水性粒子がシート構造を維持しやすくなり、触媒層内において粒子が折れ曲がりにくくなるためと考えられる。また、これによって、表面修飾疎水性粒子の表面に吸着しているアイオノマAのプロトンパスが長くなるためと考えられる。このような効果を得るためには、平均厚さは、10nm以上が好ましい。平均厚さは、さらに好ましくは、15nm以上である。
【0027】
一方、平均厚さが厚くなりすぎると、触媒層の耐久性が低下する。これは、触媒層の表面に対して垂直に配向したアイオノマ修飾疎水性粒子が電解質膜に穴をあけ、クロスリークが生じて燃料電池の劣化を早める可能性があるためである。従って、平均厚さは、300nm以下が好ましい。平均厚さは、さらに好ましくは、250nm以下、さらに好ましくは、200nm以下である。
【0028】
[1.2. 芳香族ビニル共重合体]
[1.2.1. 材料]
疎水性粒子の表面は、芳香族ビニル共重合体で被覆されている。本発明において、芳香族ビニル共重合体には、疎水性官能基とカチオン性官能基とを備えているものが用いられる。この場合、芳香族ビニル共重合体は、疎水性官能基を介して疎水性粒子の表面に吸着している。
また、後述するように、表面修飾疎水性粒子の表面は、さらにアイオノマAで被覆されている。本発明において、アイオノマAには、アニオン性官能基を備えているものが用いられる。アイオノマAは、アニオン性官能基を介してカチオン性官能基とイオン結合している。
【0029】
すなわち、本発明において、「芳香族ビニル共重合体」とは、
(a)疎水性粒子に吸着しやすい疎水性官能基を含むビニル芳香族モノマーと、
(b)アイオノマAのアニオン性官能基とイオン結合可能なカチオン性官能基を有する第2ビニルモノマーと
を共重合させることにより得られる共重合体をいう。
【0030】
疎水性官能基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基などがある。芳香族ビニル共重合体は、これらのいずれか1種の疎水性官能基を備えているものでも良く、あるいは、2種以上を備えているものでも良い。
【0031】
カチオン性官能基としては、例えば、ピリジル基、アミノ基、4級アンモニウム基、イミノ基、イミダゾール基、グアニジン基、ビグアニド基などがある。芳香族ビニル共重合体は、これらのいずれか1種のカチオン性官能基を備えているものでも良く、あるいは、2種以上を備えているものでも良い。
【0032】
芳香族ビニル共重合体は、特に、
次の式(1)で表されるビニル芳香族モノマー単位と、
前記カチオン性官能基を有するビニルモノマーからなる第2モノマー単位と
を備えた共重合体が好ましい。
【0033】
-(CH2-CHX)- …(1)
但し、
Xは、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、及びピレニル基からなる群から選ばれるいずれか1以上の疎水性官能基を表し、これらの基は置換基を有していても良い、
前記カチオン性官能基は、ピリジル基、アミノ基、4級アンモニウム基、イミノ基、イミダゾール基、グアニジン基、及び、ビグアニド基からなる群から選ばれるいずれか1以上の官能基。
【0034】
疎水性官能基Xに含まれることがある置換基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、水酸基、アミド基、イミノ基、グリシジル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基)、カルボニル基、イミド基、リン酸エステル基などがある。疎水性官能基Xには、これらのいずれか1種の置換基が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0035】
式(1)で表される芳香族ビニル共重合体において、ビニル芳香族モノマー単位は、疎水性粒子に対する吸着性を示す。疎水性官能基Xが疎水性粒子の表面に吸着すると、疎水性粒子同士の凝集力が低くなり、溶媒中において分散しやすくなる。
但し、表面修飾疎水性粒子のみでは、水を主体とする親水性溶媒には良好に分散しない。一方、芳香族ビニル共重合体のカチオン性官能基にアイオノマAが吸着してアイオノマ修飾疎水性粒子となった場合、アイオノマ修飾疎水性粒子は水を主体とする親水性溶媒中に良好に分散する。
【0036】
芳香族ビニル共重合体は、ランダム共重合体であっても良く、あるいは、ブロック共重合体であっても良い。但し、アイオノマAを吸着させた時に、アイオノマ修飾疎水性粒子同士の凝集を十分に抑制するためには、芳香族ビニル共重合体は、ブロック共重合体が好ましい。
【0037】
[1.2.2. ビニル芳香族モノマー単位の含有量]
「ビニル芳香族モノマー単位の含有量」とは、芳香族ビニル共重合体の総質量に対するビニル芳香族モノマー単位の質量の割合をいう。
ビニル芳香族モノマー単位の含有量が多くなるほど、芳香族ビニル共重合体が疎水性粒子に吸着しやすくなる。このような効果を得るためには、ビニル芳香族モノマー単位の含有量は、10mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、30mass%以上、さらに好ましくは、50mass%以上である。
【0038】
一方、ビニル芳香族モノマー単位の含有量が過剰になると、表面修飾疎水性粒子が過度に疎水化し、アイオノマAの吸着量が低下する。その結果、アイオノマ修飾疎水性粒子が水を主体とする親水性溶媒に分散しにくくなる。また、アイオノマAの吸着量が過度に低下すると、アイオノマ修飾疎水性粒子のプロトン伝導率が低下する。従って、ビニル芳香族モノマー単位の含有量は、98mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、95mass%以下である。
【0039】
[1.3. 表面修飾疎水性粒子の特性]
[1.3.1. 大きさ]
表面修飾疎水性粒子の大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
本発明において、疎水性粒子の表面を被覆する芳香族ビニル共重合体の量は、相対的に少ない。そのため、芳香族ビニル共重合体で被覆された疎水性粒子(すなわち、表面修飾疎水性粒子)の大きさは、疎水性粒子の大きさとほぼ同等となる。疎水性粒子の大きさの詳細についは、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0040】
[1.3.2. 芳香族ビニル共重合体の含有量]
「芳香族ビニル共重合体の含有量」とは、表面修飾疎水性粒子の総質量に対する芳香族ビニル共重合体の質量の割合をいう。
但し、本発明において、「芳香族ビニル共重合体の含有量」という時は、便宜上、疎水性粒子の表面が芳香族ビニル共重合体からなる被膜で均一に被覆されていると仮定した時の、芳香族ビニル共重合体からなる単分子膜の厚さ(t0)に対する被膜の厚さ(t)の比率(=t/t0)で表す。
以下、芳香族ビニル共重合体の含有量が、疎水性粒子の表面がn層の単分子膜で被覆されていると仮定した時の量に相当する場合、この時の芳香族ビニル共重合体の含有量を「n分子膜相当量」ともいう。
【0041】
芳香族ビニル共重合体の含有量が少なくなりすぎると、アイオノマAの吸着量が少なくなるために、粒子の凝集を十分に抑制することができない。従って、芳香族ビニル共重合体の含有量は、1分子膜相当量以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、2分子膜相当量以上、さらに好ましくは、3分子膜相当量以上である。
一方、芳香族ビニル共重合体の含有量が過剰になると、疎水性粒子に吸着していない芳香族ビニル共重合体の割合が増加する。過剰の芳香族ビニル共重合体は、アイオノマAと粒子表面以外のところでポリイオンコンプレックスを作るため、電気化学反応に悪影響を与える不純物となる場合がある。従って、芳香族ビニル共重合体の含有量は、10分子膜相当量以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、9分子膜相当量以下、さらに好ましくは、8分子膜相当量以下である。
【0042】
[2. アイオノマ修飾疎水性粒子]
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子は、以下の構成を備えている。
(1)前記アイオノマ修飾疎水性粒子は、
疎水性粒子の表面が芳香族ビニル共重合体で被覆された表面修飾疎水性粒子と、
前記表面修飾疎水性粒子の表面をさらに被覆するアイオノマAと
を備えている。
(2)前記芳香族ビニル共重合体は、
疎水性官能基とカチオン性官能基とを備え、
前記疎水性官能基を介して前記疎水性粒子の表面に吸着している。
(3)前記アイオノマAは、
アニオン性官能基を備え、
前記アニオン性官能基を介して、前記カチオン性官能基とイオン結合している。
【0043】
[2.1. 表面修飾疎水性粒子]
「表面修飾疎水性粒子」とは、疎水性粒子の表面が芳香族ビニル共重合体で被覆されている粒子をいう。表面修飾疎水性粒子、疎水性粒子、及び芳香族ビニル共重合体の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0044】
[2.2. アイオノマA]
[2.2.1. 材料]
アイオノマAは、芳香族ビニル共重合体のカチオン性官能基とイオン結合することが可能なアニオン性官能基を備えているものであれば良い。
アニオン性官能基としては、例えば、スルホン酸基(-SO3H)、カルボキシル基、リン酸基などがある。アイオノマAは、これらのいずれか1種のアニオン性官能基を備えているものでも良く、あるいは、2種以上を備えているものでも良い。
【0045】
アイオノマAとしては、例えば、
(a)ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、アクイビイオン(登録商標)などのパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマ、
(b)脂肪族環状構造を有する高酸素透過ポリマ(参考文献1参照)、
などがある。
これらの中でも、アイオノマAは、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマが好ましい。これは、プロトン伝導性に優れ、堅牢で、耐久性に優れるためである。
[参考文献1]特開2014-216157号公報
【0046】
[2.2.2. アイオノマAの吸着量]
「アイオノマAの吸着量」とは、アイオノマ修飾疎水性粒子の総質量に対する、アイオノマAの質量の割合をいう。
アイオノマAの吸着量が少なすぎると、アイオノマ修飾疎水性粒子のプロトン伝導率が低下する。従って、アイオノマAの吸着量は、0.03mass%以上が好ましい。吸着量は、さらに好ましくは、0.1mass%以上、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
一方、アイオノマAの吸着量が過剰になると、発電時に発生する水の排水を阻害するために、性能が低下する場合がある。従って、アイオノマAの吸着量は、35.0mass%以下が好ましい。吸着量は、さらに好ましくは、30.0mass%以下、さらに好ましくは、25.0mass%以下である。
【0047】
[2.3. アイオノマ修飾疎水性粒子の特性]
[2.3.1. 大きさ]
アイオノマ修飾疎水性粒子の大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
表面修飾疎水性粒子の表面を被覆するアイオノマAの量が相対的に少ない場合、アイオノマ修飾疎水性粒子の大きさは、表面修飾疎水性粒子、あるいは、疎水性粒子の大きさとほぼ同等となる。一方、アイオノマAによる被覆量が相対的に多い場合、アイオノマ修飾疎水性粒子の大きさは、表面修飾疎水性粒子、あるいは、疎水性粒子の大きさより大きくなる。アイオノマAによる被覆量を最適化すると、アイオノマ修飾疎水性粒子の大きさは、疎水性粒子の大きさの約1.0倍~1.5倍となる。
【0048】
[2.3.2. 水分散性]
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子は、最表面がアイオノマAからなるので、水を含む溶媒に対して良好な分散性を示す。そのため、これをプロトン伝導助剤として触媒インクに添加すると、プロトン伝導率の高い触媒層が得られる。
【0049】
[2.3.3. 発電性能]
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子は、最表面がアイオノマAからなるので、良好なプロトン伝導助剤として機能する。これを触媒層に添加すると、これを添加しない触媒層に比べて、発電性能が1.5倍以上に向上する。
【0050】
[3. アイオノマ修飾疎水性粒子の製造方法]
アイオノマ修飾疎水性粒子は、
(a)芳香族ビニル共重合体を調製し、
(b)疎水性粒子の表面に芳香族ビニル共重合体を吸着させて表面修飾疎水性粒子とし、
(c)表面修飾疎水性粒子の表面にさらにアイオノマAを吸着させる
ことにより製造することができる。
【0051】
[3.1. 芳香族ビニル共重合体の調製]
まず、芳香族ビニル共重合体を調製する。芳香族ビニル共重合体は、具体的には、
(a)疎水性粒子に吸着しやすい疎水性官能基を含むビニル芳香族モノマーと、
(b)アイオノマAのアニオン性官能基とイオン結合可能なカチオン性官能基を有する第2ビニルモノマーと
を共重合させることにより得られる。
【0052】
ビニル芳香族モノマーとしては、例えば、スチレンモノマー、ビニルナフタレンモノマー、ビニルアントラセンモノマー、ビニルアニソールモノマー、ビニル安息香酸エステルモノマー、アセチルスチレンモノマーなどがある。
第2ビニルモノマーとしては、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、アリルアミンモノマー、アジリジン、ビニルアミン、4-ビニルベンジルアミン、2-ビニルベンジルアミン、3-ビニルベンジルアミン、2-ビニルアニリン、3-ビニルアニリン、4-ビニルアニリンなどがある。
ビニル芳香族モノマーと第2ビニルモノマーの共重合方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
【0053】
[3.2. 芳香族ビニル共重合体の吸着]
次に、疎水性粒子の表面に芳香族ビニル共重合体を吸着させる。これにより、表面修飾疎水性粒子が得られる。
疎水性粒子と芳香族ビニル共重合体とを適当な溶媒中に分散させると、芳香族ビニル共重合体の疎水性官能基が疎水性粒子の表面に吸着する。その結果、溶媒中に表面修飾疎水か粒子が分散している分散液が得られる。
【0054】
疎水性粒子が黒鉛である場合、黒鉛と芳香族ビニル共重合体とを分散させた溶液中にさらに過酸化水素化物を添加しても良い。溶液中に過酸化水素化物を添加し、湿式微粒化装置を用いて高圧下で分散処理を施すと、過酸化水素化物がグラフェン層間に侵入して層表面を酸化しながら劈開を進行させる。また、これと同時に芳香族ビニル共重合体が劈開したグラフェン層間に侵入して劈開面を安定化させ、層間剥離が促進される。その結果、薄片化黒鉛の表面に芳香族ビニル共重合体が吸着している表面修飾疎水化粒子が得られる。
【0055】
黒鉛の劈開に使用される過酸化水素化物としては、例えば、
(a)カルボニル基を有する化合物(例えば、ウレア、カルボン酸(安息香酸、サリチル酸など)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトンなど)、カルボン酸エステル(安息香酸メチル、サリチル酸エチルなど))と過酸化水素との錯体、
(b)四級アンモニウム塩、フッ化カリウム、炭酸ルビジウム、リン酸、尿酸などの化合物に過酸化水素が配位したもの
などがある。
【0056】
[3.3. アイオノマAの吸着]
次に、表面修飾疎水性粒子の表面にアイオノマAを吸着させる。これにより、アイオノマ修飾疎水化粒子が得られる。
表面修飾疎水性粒子とアイオノマAとを適当な溶媒中に分散させると、芳香族ビニル共重合体のカチオン性官能基とアイオノマAのアニオン性官能基とがイオン結合する。その結果、溶媒中にアイオノマ修飾疎水化粒子が分散している分散液が得られる。
【0057】
[4. 触媒層]
図1に、本発明に係る触媒層の断面模式図を示す。
図1において、触媒層10は、
カーボン担体の表面に触媒が担持された電極触媒20と、
アイオノマBからなる触媒層アイオノマ30と、
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子40と
を備えている。
また、触媒層10は、電解質膜50の表面に形成されている。
【0058】
[4.1. 電極触媒]
[4.1.1. 材料]
電極触媒20は、カーボン担体(図示せず)の表面に触媒粒子(図示せず)が担持されたものからなる。本発明において、カーボン担体の材料及び触媒粒子の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
カーボン担体としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、黒鉛化炭素粒子、サーマルブラックなどがある。
触媒粒子の材料としては、例えば、
(a)Pt、Pd、Ru、Irなどの貴金属、又は、これらの合金、
(b)Pt-M合金(Mは、Fe、Ni、Coなどの卑金属元素)
などがある。
【0059】
[4.1.2. 担持率]
「担持率」とは、電極触媒20の総質量に対する触媒粒子の質量の割合をいう。
一般に、触媒の担持率が多くなるほど、触媒層10の活性が高くなる。このような効果を得るためには、担持率は、30mass%以上が好ましい。
一方、触媒粒子の担持率が過剰になると、高コスト化を招く。従って、担持率は、70mass%以下が好ましい。
【0060】
[4.2. 触媒層アイオノマ]
触媒層アイオノマ30は、触媒粒子の表面にプロトンを供給するためのものであって、アイオノマBからなる。本発明において、アイオノマBの材料は、特に限定されない。アイオノマBは、アイオノマAと同一の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。
アイオノマBは、特にパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマが好ましい。これは、プロトン伝導性に優れ、堅牢で、耐久性に優れるためである。アイオノマBに関するその他の点は、アイオノマAと同様であるので、説明を省略する。
【0061】
[4.3. アイオノマ修飾疎水性粒子]
本発明に係る触媒層10は、電極触媒20及び触媒層アイオノマ30に加えて、さらにアイオノマ修飾疎水性粒子40を含む。この点が従来とは異なる。アイオノマ修飾疎水性粒子40は、表面修飾疎水性粒子42と、表面修飾疎水性粒子42の表面を被覆するアイオノマA 44とを備えている。アイオノマ修飾疎水性粒子40の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0062】
[4.4. 触媒層の組成]
触媒層10は、次の式(2)~式(4)の関係を満たしているのが好ましい。
35.0≦x≦70.0mass% …(2)
0.4<y/x<1.6 …(3)
1.0≦z≦45.0mass% …(4)
【0063】
但し、
x(mass%)は、触媒層10に含まれる電極触媒20と、アイオノマ修飾疎水性粒子40と、アイオノマB(触媒層アイオノマ30)の総質量に対する、電極触媒20の質量の割合、
y/xは、触媒層10に含まれる電極触媒20の質量に対する、アイオノマB(触媒層アイオノマ30)と、表面修飾疎水性粒子42の表面を被覆するアイオノマA 44の総質量の比、
z(mass%)は、触媒層10に含まれる電極触媒20と、表面修飾疎水性粒子42の総質量に対する、表面修飾疎水性粒子42の質量の割合。
【0064】
触媒層10に含まれる電極触媒20の量(x)が少なくなりすぎると、触媒層10の活性が低下し、性能が低下する場合がある。従って、xは、35.0mass%以上が好ましい。xは、さらに好ましくは、45.0mass%以上、さらに好ましくは、50.0mass%以上である。
一方、xが過剰になると、触媒の使用量が増えるために、高コスト化する。従って、xは、70.0mass%以下が好ましい。xは、さらに好ましくは、65.0mass%以下、さらに好ましくは、60.0mass%以下である。
【0065】
電極触媒20の質量に対するアイオノマB及びアイオノマAの質量の比(y/x)が小さくなりすぎると、プロトンパスが形成されず、プロトン伝導性が低下する場合がある。従って、y/xは、0.4超が好ましい。y/xは、さらに好ましくは、0.43以上、さらに好ましくは、0.46以上である。
一方、y/xが過剰になると、過剰なアイオノマにより発電時に発生する水の排水が阻害され、性能が低下する場合がある。従って、y/xは、1.6未満が好ましい。y/xは、さらに好ましくは、1.3以下、さらに好ましくは、1.0以下である。
【0066】
触媒層10に含まれる表面修飾疎水性粒子42(すなわち、アイオノマ修飾疎水性粒子40)の量(z)が多くなるほど、触媒層10のプロトン伝導率が向上する。このような効果を得るためには、zは、1.0mass%以上が好ましい。zは、さらに好ましくは、5.0mass%以上、さらに好ましくは、10.0mass%以上である。
一方、zが大きくなりすぎると、単位面積当たりの電極触媒20の量が減少するために、かえって活性が低下する。従って、zは、45.0mass%以下が好ましい。zは、さらに好ましくは、30.0mass%以下、さらに好ましくは、20.0mass%以下である。
【0067】
[4.5. 用途]
本発明に係る触媒層10は、各種電気化学デバイスの触媒層として用いることができる。本発明に係る触媒層10は、特に固体高分子形燃料電池の酸素還元反応の効率を上げるために、カソードに用いるのが好ましい。
【0068】
[5. 触媒インク]
本発明に係る触媒インクは、
カーボン担体の表面に触媒粒子が担持された電極触媒と、
アイオノマBからなる触媒層アイオノマと、
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子と、
前記電極触媒、前記触媒層アイオノマ、及び前記アイオノマ修飾疎水性粒子を分散させるための水を含む親水性溶媒と、
を備えている。
【0069】
[5.1. 電極触媒、触媒層アイオノマ、及びアイオノマ修飾疎水性粒子]
電極触媒、触媒層アイオノマ、及びアイオノマ修飾疎水性粒子の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0070】
[5.2. 親水性溶媒]
親水性溶媒は、電極触媒、触媒層アイオノマ、及びアイオノマ修飾疎水性粒子を分散させるためのものであって、少なくとも水を含むものからなる。
親水性溶媒は、水のみからなるものでも良く、あるいは、水と有機溶媒との混合溶媒であっても良い。有機溶媒としては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールなどがある。
親水性溶媒が水と有機溶媒との混合溶媒である場合、それらの含有量は特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。
【0071】
[5.3. 触媒インクの組成]
触媒インクは、次の式(2)~式(4)の関係を満たしているのが好ましい。なお、式(2)~式(4)の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
35.0≦x≦70.0mass% …(2)
0.4<y/x<1.6 …(3)
1.0≦z≦45.0mass% …(4)
【0072】
但し、
x(mass%)は、前記触媒インクに含まれる前記電極触媒と、前記アイオノマ修飾疎水性粒子と、前記アイオノマBの総質量に対する、前記電極触媒の質量の割合、
y/xは、前記触媒インクに含まれる前記電極触媒の質量に対する、前記アイオノマBと、前記表面修飾疎水性粒子の表面を被覆するアイオノマAの総質量の比、
z(mass%)は、前記触媒インクに含まれる前記電極触媒と、前記表面修飾疎水性粒子の総質量に対する、前記表面修飾疎水性粒子の質量の割合。
【0073】
[5.4. 固形分濃度]
「触媒インクの固形分濃度」とは、触媒インクの総質量に対する固形分(電極触媒、触媒層アイオノマ、及びアイオノマ修飾疎水性粒子)の質量の割合をいう。
触媒インクの固形分濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。触媒インクの固形分濃度は、通常、1mass%~40mass%程度である。
【0074】
[6. 触媒インクの製造方法]
本発明に係る触媒インクの製造方法は、
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子が第1分散媒中に分散している第1分散液を調製する第1工程と、
電極触媒、及びアイオノマCが第2分散媒中に分散している第2分散媒液を調製する第2工程と、
前記第1分散液と前記第2分散液を混合し、触媒インクを得る第3工程と
を備えている。
【0075】
[6.1. 第1工程]
まず、本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子が第1分散媒中に分散している第1分散液を調製する(第1工程)。
第1分散媒は、アイオノマ修飾疎水性粒子を均一に分散させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。第1分散媒としては、例えば、
(a)エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールなどの有機溶媒、
(b)水とエタノール等の有機溶媒との混合溶媒、
などがある。
第1分散液の固形分濃度は、触媒インクを製造可能な限りにおいて、特に限定されない。固形分濃度は、通常、1mass%~80mass%程度である。
また、第1分散液には、遊離のアイオノマAが含まれていても良い。
【0076】
[6.2. 第2工程]
次に、電極触媒、及びアイオノマCが第2分散媒中に分散している第2分散媒液を調製する(第2工程)。
第2分散媒は、電極触媒及びアイオノマCを均一に分散させることが可能なものである限りにおいて、特に限定されない。第2分散媒としては、例えば、
(a)エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールなどの有機溶媒、
(b)水とエタノール等の有機溶媒との混合溶媒、
などがある。
アイオノマCは、溶媒除去後にアイオノマBとなるものである。第1分散液に遊離のアイオノマAが含まれる場合、遊離のアイオノマAもアイオノマBの一部を構成する。
第2分散媒に添加する電極触媒及びアイオノマCの量は、上述した式(2)~式(4)を満たす量とするのが好ましい。
第2分散液の固形分濃度は、触媒インクを製造可能な限りにおいて、特に限定されない。固形分濃度は、通常、1mass%~40mass%程度である。
【0077】
[6.3. 第3工程]
次に、第1分散液と第2分散液を混合する(第3工程)。これにより、触媒インクが得られる。
第1分散液と第2分散液の混合方法及び条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
また、第1分散液と第2分散液の混合比率は、上述した式(2)~式(4)を満たす比率とするのが好ましい。
【0078】
[7. 作用]
疎水性粒子の表面を芳香族ビニル共重合体で修飾すると、疎水性粒子の表面にカチオン性官能基が導入された表面修飾疎水性粒子が得られる。次いで、表面修飾疎水性粒子とアイオノマAとを溶媒中に分散させると、カチオン性官能基とアイオノマAのアニオン性官能基とがイオン結合し、アイオノマ修飾疎水性粒子が得られる。
【0079】
このようにして得られたアイオノマ修飾疎水性粒子は、疎水性粒子の表面に連続したプロトン伝導パスが形成されるので、プロトン伝導助剤として機能する。さらに、アイオノマ修飾疎水性粒子は、アイオノマAが吸着することによって表面電荷量が増大しているために、水を含む親水性溶媒に分散させることができる。
そのため、アイオノマ修飾疎水性粒子を触媒インクに添加し、触媒インクを塗布・乾燥させると、プロトン伝導性の高い触媒層が得られる。
【0080】
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子が添加された触媒インクを用いると、アプリケーターやダイコーターなどの量産に適した塗布装置を用いて触媒層を製造することができる。また、アイオノマ修飾疎水性粒子の平均長径や塗布条件を最適化すると、アイオノマ修飾疎水性粒子が面外方向に配向している触媒層が得られる。その結果、触媒層のプロトン伝導率が向上する。
【実施例0081】
(実施例1~4、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. アイオノマ修飾疎水性粒子の調製]
図2に、アイオノマ修飾疎水性粒子の合成スキームを示す。図2に示す合成スキームに従い、アイオノマ修飾疎水性粒子を合成した。芳香族ビニル共重合体には、ポリ(スチレン-2-ピリジン)共重合体(Poly(ST-2VP))を用いた。疎水性粒子には、黒鉛を用いた。
【0082】
[1.1.1. 芳香族ビニル共重合体の調製]
スチレン(ST):18g、2-ビニルピリジン(2VP):2g、2,2’-アゾジイソブチロニトリル:50mg、及び、トルエン:100mLを混合し、窒素雰囲気下、85℃で6時間重合させた。
放冷後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にヘキサンを用いて再沈殿精製した。さらに、精製物を真空乾燥し、3.3gのPoly(ST-2VP)を得た。
【0083】
[1.1.2. 表面修飾疎水性粒子の調製]
グラファイト(日本黒鉛工業(株)製、EXP-P):12.5g、過酸化水素-ウレア錯体:12.5g、Poly(ST-2VP):1.25g、及び、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を混合した。湿式微細化装置((株)スギノマシン製、スターバースト、斜向衝突チャンバー)を用いて、混合液を圧力:200MPaで10passの処理を行った。これにより、黒鉛粒子が層間剥離して薄片化黒鉛になると同時に、薄片化黒鉛の表面に、Poly(ST-2VP)が吸着した(図2(A)、図2(B))。得られた分散液をろ過し、DMFで洗浄した後、真空乾燥して表面修飾疎水性粒子を得た。
【0084】
[1.1.3. アイオノマ修飾疎水性粒子の調製]
表面修飾疎水性粒子を、0.943gの水と0.432gのエタノールの混合溶媒に分散させた。表面修飾疎水性粒子の添加量は、0.054g(実施例1)、0.113g(実施例2)、0.255g(実施例3)、又は、0.85g(実施例4)とした。
分散液を超音波分散させながら、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製、D2020、21.6mass%溶液)を0.125g滴下した。さらに、超音波分散を1h行い、アイオノマ修飾疎水性粒子水分散液を得た(図2(C))。
【0085】
[1.2. 触媒インクの調製]
[1.2.1. 実施例1~4]
[A. 触媒インク原液の調製]
白金担持カーボン(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E、担体:Vulcan(登録商標) XC72R):1.050gに超純水:4.052gを加え、遊星式攪拌・脱泡装置(KURABO製、MAZERUSTAR KK-50S)を用いて、脱泡と攪拌を各1minずつ行った。そこにナフィオン(登録商標)(デュポン社製、D2020、21.6mass%):2.363gとエタノール:1.428gを加えて、脱泡と攪拌を各1minずつ行った。さらに、遊星攪拌ボールミル(フリッチュ社製、P-7)で400rpmの回転速度で25minの分散処理を行った。その後、さらに脱泡と攪拌を各1minずつ行い、触媒インク原液を得た。
【0086】
[B. アイオノマ修飾疎水性粒子の添加]
アイオノマ修飾疎水性粒子水分散液(以下、単に「水分散液」ともいう)と、触媒インク原液とを混合し、遊星式攪拌・脱泡装置を用いて、脱泡と攪拌を各2minずつ行い、アイオノマ修飾疎水性粒子を含む触媒インクを得た。
なお、この場合、触媒インクのI/C比(白金担持カーボンに含まれるカーボンの質量に対する、触媒インク中に含まれるアイオノマの総量(=アイオノマA+アイオノマB)の質量の比)は、0.75であった。
また、白金担持カーボンと表面修飾疎水性粒子の総質量に対する表面修飾疎水性粒子の質量の割合(z)は、4.89mass%~44.74%であった。
【0087】
[1.2.2. 比較例1]
水分散液調整時に表面修飾疎水性粒子を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして触媒インクを調製した。
[1.2.3. 比較例2]
水分散液調整時に表面修飾疎水性粒子に代えて、グラフェンナノプレートレット(GNP)(XG sciences社製、R-7)を用いた以外は、実施例1と同様にして触媒インクを調製した。なお、GNPは、購入したものをそのまま用いており、芳香族ビニル共重合体による表面修飾は行っていない。
表1に、実施例1~4及び比較例1~2で得られた触媒インクの配合量及び仕込み組成を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
[1.3. 触媒層の作製]
ポリテトラフルオロエチレンシート上に触媒インクを塗工した。塗工には、アプリケーターとビコドライブ(BYK Gardner Company社製)を用いた。塗工速度は10mm/sとした。塗膜を室温(24℃、70~75%RH)で乾燥させた後、熱処理(80℃、30min)を行い、触媒層を得た。
【0090】
[2. 試験方法]
[2.1. 表面修飾疎水性粒子及びアイオノマ修飾疎水性粒子の評価]
[2.1.1. 水分散性の評価]
表面疎水性粒子又はアイオノマ修飾疎水性粒子を水に分散させ、水への分散性を目視で評価した。
【0091】
これとは別に、0.1gの表面修飾疎水性粒子を5mLの水に加えた。この混合液を超音波分散させながら、アイオノマ:0.043gを滴下した。超音波分散を1時間行った後、静置し、粒子の沈降又は凝集を目視で評価した。以下、これを「超音波分散試験」ともいう。
【0092】
[2.1.2. アイオノマ吸着量の評価]
シリンジフィルタでアイオノマ修飾疎水性粒子水分散液からアイオノマ修飾疎水性粒子をろ過し、ろ液の質量を測定した。次に、ろ液を80℃で1時間加熱し、溶媒を揮発させた。残った固形分の質量を測定し、そこからろ液に含まれるアイオノマAの濃度(Cp)を算出した。さらに、Cpと初期のアイオノマAの濃度(Cp0)を式(6)に代入し、アイオノマの吸着率Γを算出した。
Γ=(Cp0-Cp)/Cp0 …(6)
【0093】
アイオノマ修飾疎水性粒子に含まれるアイオノマAの吸着量Wは、水分散液の組成を基に、式(7)より算出した。
W=W1×Γ/(W2+W1×Γ) …(7)
但し、
1は、水分散液へのアイオノマAの添加量、
2は、水分散液への表面修飾疎水性粒子の添加量。
【0094】
[2.2. 粒子のサイズ計測]
得られた表面修飾疎水性粒子及びアイオノマ修飾疎水性粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。SEM観察の際には、試料にスパッタ法でPtコートをした。SEMには、(株)日立ハイテク製SU3500型を用い、加速電圧は15.0kVとした。
【0095】
触媒層断面の作製には、集束イオンビーム装置((株)日立ハイテク製、NB500)を用いた。加工は、粗加工と仕上げ加工の2段階で行った。粗加工はビーム制限アパーチャを300μmにして2時間行い、仕上げ加工はビーム制限アパーチャを150μmにして30分行った。イオン源には液体金属ガリウムを用い、加速電圧は40kVとした。
触媒層断面の観察には、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡((株)日立ハイテク製、Regulus 8230)を用いた。
さらに、画像解析ソフト(Image J)を用いて、撮影された顕微鏡画像に含まれる表面疎水性粒子及びアイオノマ修飾疎水性粒子の長径と厚さを測定した。
【0096】
[2.3. 発電性能評価]
調製した触媒層をナフィオン(登録商標)膜(Nafion NR211)に対して、145℃、4minの条件でホットプレスを行い、膜電極接合体(MEA)を得た。MEAの両面に、ガス拡散層として撥水層付きカーボンペーパーを配置し、これをセパレータで挟み、固体高分子形燃料電池を得た。
発電性能評価は、慣らし運転を実施した後、過加湿条件における性能を評価するために、両極45℃、165%RHの条件下で実施した。測定されたセル電圧はIR補正電圧で整理した。さらに、0.6Vにおける電流密度で性能の比較を行った。
【0097】
[3. 結果]
[3.1. 表面修飾疎水性粒子及びアイオノマ修飾疎水性粒子の評価]
図3(A)に、水に表面修飾疎水性粒子を分散させた分散液の写真を示す。図3(B)に、水にアイオノマ修飾疎水性粒子を分散させた分散液の写真を示す。表面修飾疎水性粒子は、水には分散しなかった。この理由は、表面修飾疎水性粒子の表面には疎水性の高いPoly(ST-2VP)が吸着しているためと考えられる。
一方、アイオノマ修飾疎水性粒子は、水に良好に分散した。この理由は、Poly(ST-2VP)のピリジン環を足場として、アイオノマAをイオン結合により表面修飾疎水性粒子表面に結合させ、表面電荷を増大させることができたためと考えられる。
【0098】
[3.2. SEM観察]
表面修飾疎水性粒子及びアイオノマ修飾疎水性粒子は、いずれも板状であった。表面修飾疎水性粒子の長径(≒アイオノマ修飾疎水性粒子の長径)は、1~7μmであり、表面は滑らかであった。また、触媒層の断面観察から算出された表面修飾疎水性粒子の厚さ(≒アイオノマ修飾疎水性粒子の厚さ)は、50~180nmであることが分かった。
【0099】
[3.3. 発電性能評価]
図4に、実施例1~2及び比較例1~2で得られた燃料電池の過加湿条件下におけるIV曲線(IR補正後)を示す。表2に、発電性能評価の結果を示す。図4及び表2より、以下のことが分かる。
【0100】
【表2】
【0101】
なお、表2には、アイオノマ修飾疎水性粒子の仕様、触媒層に含まれる表面修飾疎水性粒子の質量割合(mass%)、及び、アイオノマ修飾疎水性粒子の水への分散性(超音波分散試験)も併せて示した。
表2中、「アイオノマAの吸着量」は、式(7)から算出された値である。
「表面修飾疎水性粒子の質量割合」とは、白金担持カーボンと表面修飾疎水性粒子の総質量に対する、表面修飾疎水性粒子の質量割合をいう。
【0102】
表2中、水分散性(超音波分散試験)に関し、
「○」は、超音波分散を停止させた後、1時間経過後も、すべての粒子が均一に水に分散していることを表し、
「△」は、超音波分散を停止させた後、1時間経過後に、一部の粒子が水に分散しているが、残りの一部は沈降し又は凝集して浮遊していることを表し、
「×」は、超音波分散を停止させた後、1時間経過後にすべての粒子が沈降し又は凝集して浮遊していることを表す。
【0103】
(1)実施例1~4で得られたアイオノマ修飾疎水性粒子は、いずれも水分散安定性に優れていた。すなわち、薄片化黒鉛粒子にピリジン環を有する芳香族ビニル共重合体を吸着させ、さらに、ピリジン環とイオン結合するアイオノマAを吸着させることによって、親水化された薄片化黒鉛粒子が得られることが分かった。
(2)比較例2は、アイオノマを加えて超音波分散処理を行っても水には分散せず、凝集した。これは、芳香族ビニル共重合体で表面修飾を行わなかったためと考えられる。
【0104】
(3)高電流密度域では、実施例1~4の電圧は、比較例1、2の電圧より高くなった。生成水量は電流密度に比例して増大することから、比較例1の高電流密度領域での性能低下は、水による目詰まり(フラッディング)が原因と考えられる。
(4)比較例2は、比較例1より高い性能を示した。これは、GNPを触媒層に添加することによって形成されるフラッディングしにくい構造の効果と考えられる。
(5)実施例1~4の性能は、比較例2より高くなった。その理由は、表面修飾疎水性粒子の表面にアイオノマが吸着してプロトン伝導パスが形成されたことに加えて、表面に吸着した分散剤(芳香族ビニル共重合体)の影響で触媒層の水はけが良くなり、フラッディングしにくい構造になっていることが影響していることが考えられる。
【0105】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明に係るアイオノマ修飾疎水性粒子は、固体高分子形燃料電池の触媒層へのプロトン伝導度を向上させるための添加剤、電気分解による水素製造用の電極への添加剤、水素センサー用の添加剤、水素分離膜用の添加剤などに用いることができる。
図1
図2
図3
図4