(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173764
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】状態検出システム、タイヤ、状態検出プログラム、及び、状態検出装置
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20221115BHJP
B60C 23/08 20060101ALI20221115BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B60C19/00 H
B60C19/00 B
B60C23/08 Z
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079669
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 智博
【テーマコード(参考)】
2G050
3D131
【Fターム(参考)】
2G050AA05
2G050BA09
2G050BA12
2G050EA10
2G050EC01
3D131BB03
3D131LA05
3D131LA06
3D131LA21
(57)【要約】
【課題】ICチップや電源供給が不要な簡易な構成で、車両に装着されたタイヤの劣化状態を高精度に検出することを可能とする状態検出システムを提供すること。
【解決手段】車両に装着されたタイヤMの劣化状態を検出する状態検出システムであって、タイヤMの最外側に配設されたトレッド部材の最外側の表面よりも内側に配設された電磁波応答材1と、タイヤMの外部から、電磁波を送信すると共に電磁波応答材1からの反射波を受信するリーダー2と、リーダー2が受信した反射波に基づいて、タイヤMの劣化状態を推定する解析装置3と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着されたタイヤの劣化状態を検出する状態検出システムであって、
前記タイヤの最外側に配設されたトレッド部材の最外側の表面よりも内側に配設された電磁波応答材と、
前記タイヤの外部から、電磁波を送信すると共に前記電磁波応答材からの反射波を受信するリーダーと、
前記リーダーが受信した前記反射波に基づいて、前記タイヤの劣化状態を推定する解析装置と、
を備える、状態検出システム。
【請求項2】
前記ゴム部材は、前記タイヤのトレッドゴムであり、
前記電磁波応答材は、前記トレッドゴムの外側表面に生じた摩耗に感応して自身の電磁波反射特性を変化させる、
請求項1に記載の状態検出システム。
【請求項3】
前記ゴム部材は、前記タイヤのサイドウォールゴムであり、
前記電磁波応答材は、前記サイドウォールゴムに生じたクラック又はゴム硬化に感応して自身の電磁波反射特性を変化させる、
請求項1又は2に記載の状態検出システム。
【請求項4】
前記電磁波応答材は、前記タイヤの外部から照射された特定周波数の電磁波と共振する共振器を有するチップレスセンサタグであって、
前記電磁波応答材は、前記ゴム部材の状態の変化に感応して、前記共振器の共振ピーク位置及び/又はピーク強度に係る前記電磁波反射特性を変化させる、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項5】
互いに異なる前記電磁波反射特性を有し、前記ゴム部材の内部の異なる深さ位置に配設された複数個の前記電磁波応答材を含む、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項6】
前記ゴム部材の内部の異なる深さ位置に配設された複数個の前記電磁波応答材は、前記リーダー側からの視点で、重なり合う位置又は近接した位置に配設され、
前記リーダーが取得する前記周波数スペクトルには、前記タイヤの摩耗が進行するにつれて、複数個の前記電磁波応答材それぞれの前記電磁波反射特性が段階的に表出する、
請求項5に記載の状態検出システム。
【請求項7】
前記タイヤの全周に亘って分散して配設された複数個の前記電磁波応答材を含み、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項8】
前記タイヤのトレッド部の幅方向の全域に亘って分散して配設された複数個の前記電磁波応答材を含む、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項9】
前記リーダーは、前記車両内の前記タイヤと対向する位置に搭載され、前記車両が走行している際に、前記タイヤに対して電磁波を送信すると共にその反射波を受信する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項10】
前記リーダーは、路面に設置され、前記車両が自身の上方を通過する際に、前記タイヤに対して電磁波を送信すると共にその反射波を受信する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項11】
前記電磁波応答材は、前記ゴム部材の内周面上又はカーカスの外周面上に、貼付されることで配設されている、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項12】
前記電磁波応答材は、前記ゴム部材の内周面上又はカーカスの外周面上に、塗布形成されている、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項13】
前記電磁波応答材は、前記ゴム部材を構成する複数のゴム層の前記ゴム層同士の間に、埋設されている、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項14】
前記解析装置は、前記リーダーに取得された前記周波数スペクトルに基づいて、前記タイヤに発生している摩耗、クラック又はゴム硬化の度合いを推定する、
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項15】
前記解析装置は、機械学習により学習済みの学習モデルを用いて、前記タイヤの劣化状態を推定する、
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項16】
前記解析装置は、前記リーダーに取得された前記反射波の周波数スペクトルに基づいて、前記タイヤの劣化状態を推定する、
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項17】
前記電磁波応答材は、前記タイヤのカーカスよりも外側のゴム部材内又は当該ゴム部材と接触して配設されている、
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の状態検出システム。
【請求項18】
電磁波応答材が、タイヤの最外側に配設されたトレッド部材の最外側の表面よりも内側に配設されたことを特徴とする、タイヤ。
【請求項19】
車両に装着されたタイヤの劣化状態を検出する状態検出プログラムであって、
前記タイヤは、前記タイヤの最外側に配設されたトレッド部材の最外側の表面よりも内側に配設された電磁波応答材を備えており、
コンピュータに、
前記タイヤの外部から、電磁波を送信すると共に前記電磁波応答材からの反射波を受信する送受信ステップと、
前記送受信ステップで受信した前記反射波に基づいて、前記タイヤの劣化状態を推定する解析ステップと、
を実行させるための状態検出プログラム。
【請求項20】
車両に装着されたタイヤの劣化状態を検出する状態検出装置であって、
前記タイヤの外部から、電磁波を送信すると共にその反射波を受信するリーダーと、
前記リーダーが受信した前記反射波に基づいて、前記タイヤの劣化状態を推定する解析装置と、
を備える、状態検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態検出システム、タイヤ、状態検出プログラム、及び、状態検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に装着されるタイヤは、使用される中で経年劣化する。かかるタイヤの経年劣化の代表例としては、トレッド部の摩耗、サイドウォール部のひびや亀裂(以下、「クラック」と総称する)、及び、タイヤのゴム硬化等が挙げられる。かかるタイヤの経年劣化への対処法としては、定期的な車検の際の目視点検に頼っているのが現状である。
【0003】
しかしながら、かかるタイヤの経年劣化は、突発的な事故を誘発する可能性が高いため、かかるタイヤの経年劣化の状態を、より高精度且つ高頻度に検出する要請がある。かかるタイヤの経年劣化に対処するには、目視点検では限界があり、正確なタイヤ情報の入手が必要不可欠である。
【0004】
このような背景から、例えば、種々のセンシング手法にて、タイヤの経年劣化の状態を検出する状態検出システムが開発されている。例えば、特許文献1には、タイヤ内側に加速度センサを貼り付け、走行時のタイヤの変形をAIで解析して路面状態(Dry/Wet/Snow/Ice)とタイヤの摩耗量を判定する技術が開示されている。又、特許文献2には、タイヤ内側に静電容量センサを貼り付けて、タイヤを介して戻ってくる電波の変化分からタイヤの摩耗量を判定する技術が開示されている。又、特許文献3には、タイヤ内にマイクロホンを設置し、ブロック形状が奏でる音響特性の変化からタイヤの摩耗量を計測する技術が開示されている。又、特許文献4には、タイヤ内に磁気センサを設置し、タイヤ材料に混ぜ込んだ磁性体の磁束密度の変化から摩耗量を計測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-32990号公報
【特許文献2】特開2014-178271号公報
【特許文献3】特開2020-27040号公報
【特許文献4】特開2019-203831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、タイヤ内は、高気圧である上、走行中には常に変形と遠心力、温度変化を受ける過酷環境である。
【0007】
この点、特許文献1~4等で開示される従来技術では、精密部品(例えば、ICチップ)で構成されるセンサモジュールをタイヤ内に埋設する必要があり、かかるセンサモジュールは、数年間の使用が見込まれるタイヤ寿命の途中で破損する可能性が高い。加えて、かかる従来技術のセンサモジュールは、電源を必要とするため、電池や自家発電装置が当該センサモジュールと共に組み込まれる必要があり、時には電池交換のためだけに当該センサモジュールをタイヤから着脱する必要性が生じる。
【0008】
又、特許文献1~4等で開示される従来技術では、一個のセンサモジュールにて、タイヤ全体の状態を推定する構成となっているため、タイヤに局所的な劣化状態(例えば、偏摩耗やフラットスポット)が発生している場合、誤推定を引き起こすおそれがある。
【0009】
本開示は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、ICチップや電源供給が不要な簡易な構成で、車両に装着されたタイヤの劣化状態を高精度に検出することを可能とする状態検出システム、タイヤ、状態検出プログラム、及び、状態検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
車両に装着されたタイヤの劣化状態を検出する状態検出システムであって、
前記タイヤの最外側に配設されたトレッド部材の最外側の表面よりも内側に配設された電磁波応答材と、
前記タイヤの外部から、電磁波を送信すると共に前記電磁波応答材からの反射波を受信するリーダーと、
前記リーダーが受信した前記反射波に基づいて、前記タイヤの劣化状態を推定する解析装置と、
を備える、状態検出システムである。
【0011】
又、他の局面では、
電磁波応答材が、タイヤの最外側に配設されたトレッド部材の最外側の表面よりも内側に配設されたことを特徴とする、タイヤである。
【0012】
又、他の局面では、
車両に装着されたタイヤの劣化状態を検出する状態検出プログラムであって、
前記タイヤは、前記タイヤの最外側に配設されたトレッド部材の最外側の表面よりも内側に配設された電磁波応答材を備えており、
コンピュータに、
前記タイヤの外部から、電磁波を送信すると共に前記電磁波応答材からの反射波を受信する送受信ステップと、
前記送受信ステップで受信した前記反射波に基づいて、前記タイヤの劣化状態を推定する解析ステップと、
を実行させるための状態検出プログラムである。
【0013】
又、他の局面では、
車両に装着されたタイヤの劣化状態を検出する状態検出装置であって、
前記タイヤの外部から、電磁波を送信すると共にその反射波を受信するリーダーと、
前記リーダーが受信した前記反射波に基づいて、前記タイヤの劣化状態を推定する解析装置と、
を備える、状態検出装置である。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る状態検出システムによれば、ICチップや電源供給が不要な簡易な構成で、車両に装着されたタイヤの劣化状態を高精度に検出することを可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る状態検出システムの基本構成の一例を示す図
【
図2】第1の実施形態に係る状態検出システムの基本構成の一例を示す図
【
図3】第1の実施形態に係るセンサタグの構成の一例を示す図
【
図4】
図3に示すセンサタグの反射波スペクトルの一例を示す図
【
図5】タイヤの状態変化に応じたセンサタグの電磁波反射特性の変化の一例を示す図
【
図6】第1の実施形態に係るリーダー及び解析装置の構成の一例を示す図
【
図7】タイヤ内におけるセンサタグの配設位置の一例を示す図
【
図8】タイヤ内におけるセンサタグの配設位置の一例を示す図
【
図9】タイヤ内におけるセンサタグの配設位置の他の一例を示す図
【
図10】センサタグを埋設したタイヤにおいて、トレッドゴムの外周面に摩耗が生じた場合に観察される反射波スペクトルの変化の一例を示す図
【
図11】比較例として、センサタグを埋設していないタイヤにおいて、トレッドゴムの摩耗が生じた場合に観察される反射波スペクトルの変化の一例を示す図
【
図13】解析装置によるタイヤの劣化状態の表示態様の一例を示す図
【
図14】タイヤへのセンサタグの埋設方法の一例を示す図
【
図15】第1の実施形態に係る状態検出システムの動作の一例を示すフローチャート
【
図16】第2の実施形態に係るセンサタグの配設位置の一例を示す図
【
図17】第2の実施形態に係るセンサタグの配設位置の他の一例を示す図
【
図18】第2の実施形態に係るセンサタグの配設態様により得られる反射波スペクトルの時間的変化の一例を示す図
【
図19】第3の実施形態に係るタグの配設位置の一例を示す図
【
図20】タイヤにクラックが発生した際に、リーダーにより取得される反射波スペクトルの変化の一例を示す図
【
図21】タイヤにゴム硬化が発生した際に、リーダーにより取得される反射波スペクトルの変化の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
[状態検出システムの基本構成]
本願の発明者らは、ICチップや電源供給が不要な簡易な構成で、車両に装着されたタイヤの状態を検出することを可能とする状態検出システムについて鋭意検討した結果、以下に示す電磁波読取式のチップレスセンサタグ(以下、「センサタグ」と略称する)を用いる構成に想到した。
【0018】
以下、本開示の一実施形態に係る状態検出システム(以下、「状態検出システムU」と称する)の構成について説明する。
【0019】
図1、
図2は、状態検出システムUの基本構成の一例を示す図である。
【0020】
状態検出システムUは、センサタグ1(本発明の「電磁波応答材に相当」)、リーダー2、及び、解析装置3を備えている。
【0021】
ここで、センサタグ1は、車両に装着されたタイヤMの内部に配設され、タイヤMの外周面のゴム部材(典型的には、トレッドゴムやサイドウォールゴム)の状態の変化に感応して自身の電磁波反射特性(以下、「センサタグ1の反射波スペクトル」とも称する)を変化させる部材である。つまり、センサタグ1は、タイヤMの状態変化を検出し、かかる状態変化に係る情報を反射波スペクトルの変化として、リーダー2に対して受け渡す。
【0022】
センサタグ1は、例えば、タイヤMのトレッドゴムやサイドウォールゴムに発生した摩耗、クラック又はゴム硬化の度合いを検出する(詳細は後述)。タイヤM内には、例えば、タイヤMの各部位の状態を検出し得るように、複数個のセンサタグ1が、タイヤMの全域に亘って、分散して配設されている(
図7、
図8を参照)。尚、タイヤMは、例えば、一般的な車両に搭載されるラジアルタイヤやバイアスタイヤ等の空気入りタイヤである。
【0023】
リーダー2は、タイヤMのセンサタグ1の存在位置に対して電磁波を送信すると共にその反射波を受信して、タイヤM(即ち、センサタグ1)の現時点の反射波スペクトルのデータを取得する。リーダー2は、例えば、車両内のタイヤMと対向する位置に搭載されたり、路面に埋設されている(
図2を参照)。そして、リーダー2は、車両が走行している際に、タイヤMに対して電磁波を送信すると共にその反射波を受信して、反射波スペクトルを取得する構成となっている。
【0024】
解析装置3は、リーダー2に取得されたタイヤM(即ち、センサタグ1)の現時点の反射波スペクトルのデータ解析を行って、タイヤMの現時点の状態を推定する。
【0025】
[センサタグの詳細構成]
図3は、センサタグ1の構成の一例を示す図である。
【0026】
図4は、
図3に示すセンサタグ1の反射波スペクトル(反射波の周波数スペクトル)の一例を示す図である。
【0027】
図5(
図5A、
図5B)は、タイヤMの状態変化に応じたセンサタグ1の電磁波反射特性の変化の一例を示す図である。
【0028】
センサタグ1は、例えば、導電材料11と、導電材料11に形成された共振器10Qと、によって構成されている。
【0029】
導電材料11は、例えば、板状、シート状、箔状、又は層状の導電材料である。導電材料11は、例えば、アルミ材や銅材等の金属材料で形成されている。
【0030】
共振器10Qは、外部から所定の周波数の電磁波が照射された際に共振し、当該電磁波を吸収又は反射(本実施形態では、吸収)する。つまり、センサタグ1は、リーダー2から電磁波を照射された際に、共振器10Qの共振周波数に合致する周波数の電磁波を吸収し、それ以外の周波数の電磁波が照射された場合には反射する反射スペクトルを有する(
図4を参照)。
【0031】
共振器10Qの共振周波数は、共振器10Qの形状で定まる。本実施形態に係る共振器10Qは、導電材料11に形成された長方形状のスロット10(10a~10e)により構成されている(スロットアンテナとも称される)。より具体的には、本実施形態に係るセンサタグ1は、互いに異なる共振周波数を有する5つの共振器10Qa~10Qe(以下、「第1共振器10Qa」、「第2共振器10Qb」、「第3共振器10Qc」、「第4共振器10Qd」、「第5共振器10Qe」とも称する)を有している。第1共振器10Qaは、第1周波数faに対応する波長の略λ/2程度の長さの長方形状のスロット10aにより構成され、第2共振器10Qbは、第2周波数fbに対応する波長の略λ/2程度の長さの長方形状のスロット10bにより構成され、第3共振器10Qcは、第3周波数fcに対応する波長の略λ/2程度の長さの長方形状のスロット10cにより構成され、第4共振器10Qdは、第4周波数fdに対応する波長の略λ/2程度の長さの長方形状のスロット10dにより構成され、第5共振器10Qeは、第5周波数feに対応する波長の略λ/2程度の長さの長方形状のスロット10eにより構成されている。
【0032】
図4の反射波スペクトル中の周波数fa、fb、fc、fd、feにおける共振ピークは、それぞれ、第1共振器10Qa、第2共振器10Qb、第3共振器10Qc、第4共振器10Qd、第5共振器10Qeの共振による電力損失(吸収)を表している。
【0033】
但し、共振器10Qの形態は、
図3の態様に限定されない。共振器10Qは、例えば、リング状に形成されてもよいし、U字状に形成されてもよい。又、共振器10Qは、ストリップ導体により形成されてもよい。
【0034】
尚、センサタグ1の反射波は、タイヤM自体の反射波に重畳する形で、リーダー2に取得されることになるが、センサタグ1の反射波スペクトルは、タイヤMの材料状態毎に、共振器10の共振ピーク位置を中心とした独特のパターンを描く。そのため、センサタグ1の反射波スペクトルのパターン(例えば、
図4を参照)は、タイヤM自体の反射波スペクトルのパターンから明確に識別することが可能なものとなっている。
【0035】
センサタグ1は、例えば、タイヤMの材料状態の変化に連動して、共振器10の共振特性が変化するように構成される(
図10を参照して後述)。タイヤMの状態を示すセンサタグ1の電磁波反射特性は、典型的には、リーダー2から電磁波を照射された際に発生するセンサタグ1の反射波の強度(
図5B)、又は、センサタグ1の共振周波数(
図5A)によって、規定される。換言すると、センサタグ1が示すタイヤMの状態情報は、センサタグ1の反射波スペクトルのパターン(例えば、共振ピークの位置、共振ピークの数、又は、複数の共振ピークのピーク間の間隔)により表現される。
【0036】
尚、本実施形態に係る状態検出システムUは、典型的には、UWB帯域、ミリ波帯域又はサブミリ波帯域の周波数帯域(3.1GHz~3THzの範囲)の電磁波を用いることを基調として構築されている。即ち、かかる帯域の電磁波に応答するようにセンサタグ1を構成すると共に、かかる帯域の電磁波を用いてタイヤの位置毎の材料特性を検出するようにリーダー2を構成している。かかる帯域の電磁波は、波長が短い上、電磁波の指向特性(即ち、直進性)が高く、且つ、検出時の周波数分解能も高いという特性を有する。かかる帯域の電磁波を用いることで、タイヤMの材料特性の分布を把握する際に高い面積分解能を実現することが可能となり、且つ、センサタグ1を小型化することもできる。
【0037】
[リーダーの詳細構成]
図6は、リーダー2及び解析装置3の構成の一例を示す図である。
【0038】
本実施形態に係る状態検出システムUにおいては、定期的な車検のタイミングによらず、より高頻度にタイヤMの状態を検出し得るようにするため、リーダー2は、車両内のタイヤMと対向する位置に搭載されたり、路面(駐車場を含む。以下同じ)に設置される構成となっている(
図2を参照)。
【0039】
車両内のタイヤMと対向する位置に搭載されたリーダー2は、車両が走行している際に、タイヤMに対して電磁波を送信すると共にその反射波を受信して、反射波スペクトルを取得する。又、路面に設置されたリーダー2は、車両が自身の上方を通過する際に、タイヤMに対して電磁波を送信すると共にその反射波を受信して、反射波スペクトルを取得する。
【0040】
リーダー2を、車両内のタイヤMと対向する位置に搭載することによって、タイヤMの状態を逐次的にセンシングすることが可能となる。尚、リーダー2を、車両内に搭載する場合、例えば、泥はね等を考慮して、車両内のタイヤMの前側で、数cm~数m離間する位置に配設されるのが好ましい。
【0041】
一方、リーダー2を、路面に設置することによって、リーダー2が搭載されていない車両にも、本実施形態に係る状態検出システムUを適用することが可能となる。尚、リーダー2を、路面に埋設する場合、例えば、路面直下の数cm~数mの位置に配設されるのが好ましい。他方、リーダー2は、車両が自身の上方を走行し得るように、路面上に配設されてもよい。
【0042】
リーダー2は、送信部21、受信部22、及び、制御部23を備えている。
【0043】
送信部21は、センサタグ1に対して所定の周波数の電磁波を送信する。送信部21は、例えば、送信アンテナ、及び発振器等を含んで構成される。
【0044】
送信部21は、例えば、単一の周波数にピーク強度を有する正弦波状の電磁波を送信する。そして、送信部21は、送信アンテナから送信させる電磁波の送信周波数を時間的に変化させ、予め設定した所定周波数帯域内の周波数スイープを行う。送信部21は、例えば、UWB帯域、ミリ波帯域又はサブミリ波帯域の周波数帯域(3.1GHz~3THzの範囲)内で、例えば、500MHz以下の帯域幅毎、好ましくは10MHzの帯域幅毎にステップ状に送信周波数を変化させながら、周波数スイープを行う。尚、送信部21が送信する電磁波の周波数帯域は、センサタグ1の共振器1aの共振周波数が含まれるように設定される。
【0045】
尚、送信部21は、周波数スイープに代えて、所定周波数帯において特定の強度プロファイルを有する電磁波を一時的に一括して照射を行ってもよい(即ち、インパルス方式)。
【0046】
受信部22は、例えば、受信アンテナ、及び受信アンテナが取得した反射波の受信信号に基づいて、反射波の強度や位相を検出する受信信号処理回路等を含んで構成される。そして、受信部22は、受信アンテナにて、送信部21が電磁波を送信した際に発生するタイヤM(即ち、センサタグ1)からの反射波を受信し、受信信号処理回路にて、反射波の受信信号を受信処理して、電磁波の各送信周波数において検出される反射波の強度から、タイヤMの反射波スペクトルを生成する。
【0047】
尚、送信部21及び受信部22は、タイヤM内に配設された複数個のセンサタグ1(例えば、
図7を参照)それぞれから反射波スペクトルを取得し得るように、タイヤMの所定領域を、電磁波走査し得るように構成されてもよい。かかる電磁波走査の方法は、任意であるが、例えば、フェーズドアレーアンテナを用いた電子走査等を適用することができる。
【0048】
一方、送信部21及び受信部22は、送信アンテナ及び受信アンテナを複数有する構成として、一括して、タイヤMの複数位置から反射波スペクトルを取得する構成としてもよい。
【0049】
他方、送信部21及び受信部22は、車両が走行している際のタイヤMの回転運動にあわせて、時分割で、タイヤMの周方向に配設された複数個のセンサタグ1(例えば、
図8を参照)それぞれから反射波スペクトルを取得してもよい。
【0050】
尚、送信部21及び受信部22の信号処理回路は、ベクトルネットワークアナライザによって、一体的に構成されてもよい。
【0051】
制御部23は、リーダー2を統括制御する。尚、制御部23は、例えば、タイヤMの状態を逐次監視するため、所定の時間間隔で、送信部21及び受信部22に上記した処理を実行させる。
【0052】
尚、リーダー2を、路面に埋設して、1個のリーダー2にて、不特定多数の車両のタイヤMの状態をセンシングする場合には、リーダー2は、個々の車両の特定を可能とするため、車両と通信する機能等を有するのが好ましい。
【0053】
[解析装置の詳細構成]
解析装置3は、リーダー2から、センサタグ1の現時点の反射波スペクトル情報を取得して、センサタグ1の現時点の反射波スペクトル情報に基づいて、センサタグ1の検出対象の現時点の状態を推定する。尚、解析装置3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、及び出力ポート等を含んで構成されるコンピュータであり、リーダー2と相互にデータ通信可能に構成されている。
【0054】
解析装置3は、教師データを用いて学習モデル30Dに対して学習処理を施す学習部31と、センサタグ1の現時点の反射波スペクトルの複数の周波数位置における反射波強度の情報を、学習モデル30Dに適用することでタイヤMの現時点の劣化状態を推定する推定部32と、を備えている。
【0055】
センサタグ1の状態を示す指標としては、センサタグ1の共振周波数が挙げられる。しかしながら、実際には、リーダー2にて得られた反射波スペクトルには、多くのノイズが混入しており、センサタグ1の共振周波数を正確に特定することが困難な場合も多い。かかる観点から、本実施形態に係る解析装置3は、センサタグ1の反射波スペクトルから共振周波数を特定する処理を行うことなく、センサタグ1の反射波スペクトルのパターン全体から、パターン認識により、センサタグ1の状態(即ち、タイヤMの劣化状態)を特定する。尚、ここで言う「センサタグ1の反射波スペクトルのパターン全体」とは、センサタグ1の反射波スペクトル中の複数の周波数位置における反射強度のことを意味する。
【0056】
パターン認識の手法としては、ロバスト性の観点から、機械学習を基調とした手法が特に有用である。かかる観点から、本実施形態に係る解析装置3は、センサタグ1の反射波スペクトルのパターンからセンサタグ1の状態検出を行うべく、機械学習により最適化された学習モデル30Dを用いる。かかる学習モデル30Dとしては、例えば、SVM(Support Vector Machine)、k近傍法、ロジスティック回帰、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクター回帰、又は、決定木等が用いられる。尚、学習モデル30Dの構成は、公知のものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0057】
この種の学習モデル30Dは、学習処理が施されることによって、識別対象のパターンの特徴を抽出し、ノイズ等が重畳するデータからも識別対象のパターンを正確に識別し得るように自律的に最適化される。この点、センサタグ1の反射波スペクトルは、検出対象の状態(例えば、
図10を参照して後述するように、タイヤMのトレッドゴムの摩耗量)毎に、共振器10Qの共振ピーク位置を中心とした独特のパターンを描く。つまり、この種の学習モデル30Dは、タイヤMの状態(例えば、タイヤMのトレッドゴムの摩耗量)をラベルとする反射波スペクトル情報を教師データとして学習処理が施されることで、ある反射波スペクトル情報が入力された際に、教師データとして用いられた状態毎の反射波スペクトル情報のうち、最も類似する反射波スペクトル情報の状態を特定し得るようになる。
【0058】
学習モデル30Dのハイパーパラメータは、公知の学習アルゴリズムにより、最適化されており、当該最適化の手法としては、例えば、グリッドサーチが用いられてもよい。又、学習モデル30Dの学習アルゴリズムには、例えば、SVM、k近傍法、ロジスティック回帰、ラッソ回帰、リッジ回帰、エラスティックネット回帰、サポートベクター回帰、又は、決定木のうちの少なくともいずれか一つを用いたアンサンブル学習が適用されてもよい。
【0059】
学習モデル30Dは、例えば、反射波スペクトルの複数の周波数位置における反射波強度を入力とし、タイヤMの状態の種別(例えば、
図10を参照して後述するように、タイヤMの摩耗量)を出力とする構成を有する。
【0060】
ここで、学習モデル30Dへの入力対象となる反射波強度の周波数位置としては、例えば、反射波スペクトル情報が取得される周波数帯域内における、少なくとも500MHzの帯域幅毎、好ましくは10MHzの帯域幅毎の周波数位置が設定される。
【0061】
学習部31は、例えば、実測又はシミュレーションにより得られたセンサタグ1の状態毎(即ち、タイヤMの状態毎)の反射波スペクトル情報を教師データとして、学習モデル30Dに対して学習処理を施す。つまり、学習部31は、タイヤMの状態に係るラベルが正解データとして付与された種々の状態におけるセンサタグ1の反射波スペクトル情報を教師データとして、学習モデル30Dに対して学習処理を施す。これにより、学習モデル30Dは、入力された反射波スペクトルに適合するパターンの反射波スペクトルが発生するときの検出対象の状態を、出力し得るように最適化される。
【0062】
推定部32は、学習部31により学習処理が施された学習モデル30Dに対して、センサタグ1の現時点の反射波スペクトルにおける反射波強度の情報を入力し(例えば、500MHz毎の反射波強度の情報)、学習モデル30Dの出力結果から、タイヤMの現時点の状態を推定する。
【0063】
[センサタグ1の配設位置の詳細]
次に、タイヤM内におけるセンサタグ1の配設位置の詳細について、説明する。
【0064】
図7、
図8は、タイヤM内におけるセンサタグ1の配設位置の一例を示す図である。尚、
図7は、タイヤMの内部構成を示す縦断面図である。
図8は、タイヤMを側面視した図である。又、
図9は、タイヤM内におけるセンサタグ1の配設位置の他の一例を示す図である。
【0065】
タイヤMは、一般に、トレッド部R1から、タイヤMの側面側に向かって、ショルダー部R2、サイドウォール部R3、及び、ビード部R4を有する構造となっている。尚、トレッド部R1は、トレッドパターンが刻まれ、直接路面と接する部分である。ショルダー部R2は、路面と摩擦で発生するトレッド部R1の発熱や内部の熱を発散する部位である。サイドウォール部R3は、タイヤMの側面領域で、スムーズに屈曲することで、タイヤMの衝撃吸収を行う部位である。ビード部R4は、ホイールと組み合わせる部分で、タイヤMとリムを固定させる部位である。
【0066】
タイヤMのトレッド部R1には、直接路面と接地する部分であるトレッドゴムMaから、タイヤMの径方向内側に向かって、カーカスMb、及び、インナーライナーMc等が配設されている。
【0067】
トレッドゴムMaは、カーカスMbのタイヤ径方向外周に配置されて、タイヤ接地面を構成するゴム部材である。尚、トレッドゴムMaは、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。
【0068】
カーカスMbは、タイヤMの左右端に配されるビードコアMd間にトロイダル状に架け渡されてタイヤMの骨格を構成する。カーカスMbは、スチールあるいは有機繊維材等からなる複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成されている。カーカスMbの両端部は、環状のビードコアMdを包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。カーカスMbの外周には、一般に、スチールあるいは有機繊維材等からなる複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成されたベルト層(図示せず)が配設され、カーカスMbを締め付ける構成となっている。尚、以下で、カーカスMbの外側と言う場合、カーカスMbの外周に設けられるベルト層の外側を意味している。
【0069】
インナーライナーMcは、カーカスMbの内側に配設され、チューブの役割を果たす、タイヤMの内部に貼り付けられたゴム部材である。
【0070】
尚、タイヤMのショルダー部R2及びサイドウォール部R3を構成するゴム部材(ショルダーゴム及びサイドウォールゴムとも称される)は、トレッドゴムMaと一体的に構成されている。
【0071】
センサタグ1は、例えば、トレッドゴムMaの内部又は当該トレッドゴムMaの内周面と接触して配設される。
図7では、センサタグ1がトレッドゴムMaとカーカスMbとの間の界面に配設された態様を示している。又、
図9では、センサタグ1の配設位置の他の一例として、センサタグ1がトレッドゴムMaの内部に埋設された態様を示している。
【0072】
センサタグ1は、例えば、タイヤMのトレッドゴムMaに発生している摩耗を検出するべく設けられる。ここで、センサタグ1は、典型的には、自身の周囲の誘電率の変化から、トレッドゴムMaに発生した摩耗を検出する構成となっている。即ち、センサタグ1は、自身の周囲の誘電率の変化に伴う共振ピークのピーク位置の変化として、これらを検出することとなる(即ち、短波長効果)。
【0073】
但し、センサタグ1は、タイヤMのサイドウォールゴム内又は当該サイドウォールゴムの内周面と接触して配設され、クラック及び/又はゴム硬化を検出する用途で適用されてもよい(第3の実施形態で後述)。
【0074】
本願の発明者らの鋭意検討の結果、センサタグ1が有する共振器10Qは、当該共振器10Qが直接的に接触する領域のみならず、当該共振器10Qの周囲の近接する領域の誘電率の変化に対しても感応することが分かってきた。例えば、タイヤMのトレッドゴムMaの外周面に摩耗が発生した場合、この摩耗した領域は、空気層となるが、共振器10Qは、この摩耗に伴って未摩耗状態のときにはトレッドゴムMa(高誘電率材料)であった領域が、空気層(即ち、比誘電率1の層)に変化した状態に対しても感応する。即ち、本願の発明者らの検証によると、センサタグ1を、タイヤMのカーカスMbよりも外側に位置するトレッドゴムMa内又は当該トレッドゴムMaと接触して配設することによって、トレッドゴムMaに発生したこれらの状態の変化に感応し得るように機能させることができる。
【0075】
尚、カーカスMbは、ゴムの層とポリエステル、鉄鋼、または他の繊維材料で作られたコードの層を複数重ね合わせた構造で作られた厚さ数mm程度の薄い材料層である。しかしながら、本願の発明者らの実験結果によると、カーカスMbが存在すると、センサタグ1は、トレッドゴムMaの外周面の摩耗を検出することが困難であった。これは、カーカスMbは、電磁界の発生を阻害する材料(例えば、スチール材)を含んでいたり、トレッドゴムMaの材料よりも高誘電率の材料を含んでいたりするためであると推定される。
【0076】
図10(
図10A、
図10B、
図10C)は、センサタグ1を埋設したタイヤMにおいて、トレッドゴムMaの外周面に摩耗が生じた場合に観察される反射波スペクトル(リーダー2にて取得される反射波スペクトル)の変化の一例を示す図である。
【0077】
図10Aのグラフは、初期状態であり、トレッドゴムMaに摩耗が生じていないときに観察される反射波スペクトルの波形を示しており、
図10Bのグラフは、トレッドゴムMaが4mm摩耗したときに観察される反射波スペクトルの波形を示しており、
図10Cのグラフは、トレッドゴムMaが8mm摩耗したときに観察される反射波スペクトルの波形を示している。尚、
図10A、
図10B、
図10Cの各反射波スペクトルにおいて、5つのピークfa、fb、fc、fd、及びfeは、それぞれ、センサタグ1の共振器10Qa、10Qb、10Qc、10Qd、及び10Qeの共振ピークである。
【0078】
図11は、比較例として、センサタグ1を埋設していないタイヤMにおいて、トレッドゴムMaの摩耗が生じた場合に観察される反射波スペクトルの変化の一例を示す図である。
【0079】
図10から分かるように、トレッドゴムMaの摩耗量が大きくなるにつれて、センサタグ1の反射波スペクトルを特徴付ける共振ピークfa、fb、fc、fd、及びfeの位置が高周波側にシフトしている。これは、上記したように、トレッドゴムMaの摩耗量が大きくなるにつれて、センサタグ1の周囲の誘電率が全体として低下し、センサタグ1(共振器10Q)は、このセンサタグ1の周囲の誘電率の低下に感応し、共振ピークのピーク位置の変化を誘起していると考えられる(即ち、短波長効果)。
【0080】
センサタグ1は、トレッドゴムMaの外周面に摩耗に対する感度をより高める観点からは、
図9のように、トレッドゴムMaの内部に配設されるのがより好ましいが、
図7のように、トレッドゴムMaとカーカスMbとの間の界面に配設されても、トレッドゴムMaの外周面に摩耗に伴う誘電率の変化に感応することが可能である。但し、センサタグ1は、カーカスMbよりもタイヤMの径方向外側に位置する条件下で、トレッドゴムMaの非溝部の最外周面から深さ方向に向かって、12mm以下の位置に配設されるのが好ましい。トレッドゴムMaの内部に配設するか、又はトレッドゴムMaとカーカスMbとの間の界面に配設するかは、トレッドゴムMaの外周面に摩耗に対する感度、及びタイヤMの製造プロセスへの影響(
図14を参照)を考慮して適宜選択されればよい。
【0081】
尚、センサタグ1を埋設していない場合、
図11に示すように、トレッドゴムMaの摩耗量の相違に起因して、反射波強度(タイヤM自体からの反射波の強度)に若干の違いは観察される。しかしながら、良好なSN比を得られない実環境下で、かかる反射波強度の違いから、トレッドゴムMaの摩耗量を特定するのは困難である。
【0082】
又、本願の発明者らの検証結果によると、
図10に示すように、トレッドゴムMaの摩耗量と、センサタグ1の反射波スペクトルの共振ピーク位置の周波数シフト量と、の間には明確な相関関係が得られた。つまり、センサタグ1の反射波スペクトルの共振ピーク位置の周波数シフト量から、トレッドゴムMaの摩耗量を推定することが可能である。
【0083】
かかる観点から、解析装置3が用いる学習モデル30Dは、予め得られた、タイヤMのトレッドゴムMaの摩耗量と、当該摩耗時に得られる反射波スペクトルのパターン(即ち、センサタグ1の共振ピーク位置の周波数シフト量を示す反射波スペクトルのパターン)とを関連付けたデータセットを、教師データとして用いて、機械学習が施されている。これにより、学習モデル30Dは、実使用時にリーダー2に取得された反射波スペクトルの情報(例えば、各周波数における反射波強度の情報)から、タイヤMのトレッドゴムMaの摩耗量を推定し得るように構成される。
【0084】
尚、本実施形態では、具体的には、学習モデル30DをSVMで構築し、学習モデル30Dに対して、予め得られた、タイヤMのトレッドゴムの摩耗量と、当該摩耗時に得られる反射波スペクトルのパターンとを関連付けたデータセットを、教師データとして用いて、機械学習を施した。この際、教師データとしては、初期状態から限界摩耗時までの反射波スペクトルの波形データを、摩耗量0.1mmピッチで収集したものを用いた。その結果、ピークピック法では、摩耗量の特定は、mm単位での検出が限界であったが、本実施形態に係る学習モデル30Dを用いた推定処理によると、7割の正答率で100μm単位での検出が実現できた。又、学習モデル30Dを、K-近傍法機械学習モデルに変更したところ、8割の正答率で100μm単位での検出が実現できた。又、学習モデル30DをSVMからアンサンブル機械学習モデルに変更したところ、9割の正答率で100μm単位での検出が実現できた。
【0085】
ここまで、タイヤM内に配設された一個のセンサタグ1の挙動について説明したが、タイヤM内においては、複数個のセンサタグ1が分散して配設されるのが好ましい。
【0086】
より具体的には、タイヤM内においては、複数個のセンサタグ1が、タイヤMのトレッド部R1の幅方向の全域に亘って分散して配設されるのが好ましい(
図7を参照)。これによって、タイヤMに生じた偏摩耗(タイヤMの幅方向の不均一摩耗を意味する。以下同じ)を高精度に検出することが可能となる。
【0087】
又、タイヤM内においては、複数個のセンサタグ1が、タイヤMの周方向の全周に亘って分散して配設されるのが好ましい(
図9を参照)。これによって、タイヤMに生じたフラットスポット(タイヤMの周方向の一部に特異点的に発生する摩耗を意味する。以下同じ)を高精度に検出することが可能である。
【0088】
図12は、タイヤMの偏摩耗状態の一例を示す図であり、
図12Aは、タイヤMに均一摩耗が生じた状態を示しており、
図12Bは、タイヤMに偏摩耗が生じた状態を示している。
【0089】
一般的な車の使用状況下において、タイヤMのタイヤ面に対して均等に圧力がかかるケースは少ない。乗車人数、及び積載貨物量等によって車軸の角度が変わり、タイヤMの内側あるいは外側への負担は、変化する。それらは不正改造および整備不良によって加速される。結果、目視点検しやすいタイヤMの外側は溝が十分残った状態でも、タイヤMの内側は摩耗状態というケースも見られる。
【0090】
又、車両において、急ブレーキがなされたり、凹凸の多い路面中での走行がなされたりすると、タイヤMにフラットスポットが発生する。
【0091】
このように、安全性の観点から、タイヤMに発生している偏摩耗やフラットスポットの検出も重要な点検項目である。
【0092】
この点、本実施形態に係る状態検出システムUにおいては、一個のセンサタグ1が、タイヤMの一箇所の領域の摩耗を検出することになる。そのため、タイヤMが均一に摩耗していく現象を捉える上では、一個のセンサタグ1のみであっても問題はないが、タイヤMに生じた偏摩耗を検出する上では、タイヤMのトレッド部R1の幅方向の各位置で、トレッドゴムMaの厚さの変化を検出する必要がある。又、同様に、タイヤMに生じたフラットスポットを検出する上では、タイヤMの周方向の各位置で、トレッドゴムMaの厚さの変化を検出する必要がある。
【0093】
かかる観点から、タイヤM内には、全周全幅に亘って、複数個のセンサタグ1が分散して配設されるのが好ましい。尚、この際、解析装置3に対して、複数個のセンサタグ1それぞれが示すタイヤMの摩耗量に基づいて、タイヤMに生じた偏摩耗の程度、及び/又はタイヤMに生じたフラットスポットの程度を推定する機能構成を保有させればよい。
【0094】
図13は、解析装置3によるタイヤMの劣化状態の表示態様の一例を示す図である。解析装置3は、例えば、タイヤMの一部に異常(例えば、
図13では、フラットスポットを示す)が発生していると推定した場合、
図13のように、ユーザーに対して、その異常発生箇所とともに、当該異常状態を報知する。
【0095】
図14は、タイヤMへのセンサタグ1の埋設方法の一例を示す図である。
図14では、センサタグ1を、カーカスMbとトレッドゴムMaとの間の界面に埋設する場合における、タイヤMへのセンサタグ1の埋設方法の一例を示している。
【0096】
一般に、タイヤMの製造工程においては、トレッドゴムMa、カーカスMb、インナーライナーMc(
図14中では図示せず)、及び、ビード(ビードコアMd等)等を構成する部品が、別工程で形成された後、これらの部品が貼り合わされて、成形されることでタイヤMが形成される。
【0097】
センサタグ1は、例えば、この成形工程において、カーカスMbとトレッドゴムMaとの間に挿入される(即ち、インサート成形)。具体的には、タイヤMの製造工程において、トレッドゴムMa、カーカスMb、インナーライナーMc、及び、ビードを組み立てる工程の直前に、カーカスMbの上面又はトレッドゴムMaの下面に対して、センサタグ1を貼り合わせる工程を追加し、これによって、カーカスMbとトレッドゴムMaとの間にセンサタグ1を埋設する。
【0098】
但し、タイヤMの内部へのセンサタグ1の埋設方法は、上記した手法に限られない。
【0099】
例えば、センサタグ1の貼り合わせ工程は、トレッドゴムMa又はカーカスMbが、タイヤM本分の長さに枚葉カットされた後に実施される態様に代えて、この枚葉カット前の帯状の状態の時に行われてもよい。
【0100】
又、センサタグ1は、トレッドゴムMaの下面又はカーカスMbの上面に、導電性インクを用いて直接印刷で形成されてもよい。かかる製造方法を用いることで、センサタグ1を薄膜化することが可能であり、トレッドゴムMaとカーカスMbとの間の接着性の悪化を抑制することができる。
【0101】
又、センサタグ1をトレッドゴムMaの内部に埋設する場合には(
図9又は後述する
図16を参照)、センサタグ1を埋設する工程を、トレッドゴムMaを製作するためのゴム混合工程に挿入する手法が好ましい。具体的には、トレッドを複数のゴム層に分割して押出し成形し、それらのゴム層の間にセンサタグ1を貼合してからそれらの複数のゴム層を重ね合わせる。尚、分割したゴム層は、タイヤ製造の最終工程である加硫プロセスにて高温高圧を掛ける事で一体化するので、トレッドゴムMaを製作する際に、複数のゴム層に分割する事で、トレッドゴムMaの耐久性に悪影響が出ることはない。かかる製造方法を用いることで、センサタグ1をトレッドゴムMaの内部に配設することができるため、センサタグ1の感度をより高めることができる。
【0102】
図15は、状態検出システムUの動作の一例を示すフローチャートである。
【0103】
ステップS11において、リーダー2は、送信周波数を変化させながら、送信アンテナからタイヤMに対して電磁波を送信し、受信アンテナでタイヤM(即ち、センサタグ1)からの反射波を受信する。これによって、リーダー2は、センサタグ1の現時点の反射波スペクトル情報を取得する。
【0104】
このステップS11は、例えば、車両の走行中に実行される。リーダー2(ここでは、車両内搭載されるリーダー2)は、例えば、タイヤMの幅方向の各位置における反射波スペクトルを取得するため、送信アンテナ及び受信アンテナを幅方向に電磁波走査する。そして、車両の走行とともに、タイヤMが回転し、リーダー2は、その回転位置毎に、タイヤMに対して電磁波を送信し、受信アンテナでセンサタグ1からの反射波を受信する。
【0105】
ステップS12において、解析装置3(推定部32)は、学習済みの学習モデル30Dに対して、ステップS11で得られたタイヤMの各位置のセンサタグ1の現時点の反射波スペクトル情報を入力し、学習モデル30Dを用いて、タイヤMの各位置の摩耗量を算出する。
【0106】
ステップS13において、解析装置3(推定部32)は、ステップS12で算出されたタイヤMの各位置の摩耗量を表示部(図示せず)に表示する。
【0107】
[効果]
以上のように、本実施形態に係る状態検出システムUは、
前記タイヤの最外側に配設されたトレッド部材の最外側の表面よりも内側に配設された電磁波応答材と、
前記タイヤの外部から、電磁波を送信すると共に前記電磁波応答材からの反射波を受信するリーダーと、
前記リーダーが受信した前記反射波に基づいて、前記タイヤの劣化状態を推定する解析装置と、
を備える。
【0108】
従って、本実施形態に係る状態検出システムUによれば、電源供給が不要な簡易な手法で、経年劣化に伴うタイヤMの異常状態の発生(例えば、摩耗、クラック又はゴム硬化)を高精度に検出することが可能である。
【0109】
特に、本実施形態に係る状態検出システムUで採用したセンサタグ1は、電源及びICを必要とせず安価であるため、メンテナンスフリーである事はもちろん、タイヤMの複数箇所への設置が可能である。そのため、本実施形態に係る状態検出システムUによれば、タイヤMの全幅全周に渡る計測を実現でき、偏摩耗やフラットスポットの検出が可能となる。又、センサタグ1をタイヤM側面の計測に使用すれば(後述する第3の実施形態を参照)、トレッドゴムMaに生じたクラックを検出でき、空気充填時のタイヤバーストの予防管理にも活用できる。
【0110】
(第2の実施形態)
次に、
図16~
図18を参照して、第2の実施形態に係る状態検出システムUの構成について説明する。本実施形態に係る状態検出システムUは、タイヤM内におけるセンサタグ1の配設態様の点で、第1の実施形態と相違する。尚、第1の実施形態と共通する構成については、説明を省略する。
【0111】
図16は、本実施形態に係るセンサタグ1の配設位置の一例を示す図である。
図17は、本実施形態に係るセンサタグ1の配設位置の他の一例を示す図である。
【0112】
本実施形態に係る状態検出システムUでは、互いに異なる電磁波反射特性(典型的には、互いに異なる共振周波数を有する)を有する複数個のセンサタグ1が、トレッドゴムMaの内部の異なる深さ位置に配設された構成となっている。これによって、リーダー2が取得する反射波スペクトル中には、常時、異なる深さ位置に配設されたセンサタグ1のいずれかの共振ピークを鮮明に表出させることが可能であり、これにより、より高感度に、タイヤMの摩耗状態を検出することが可能となる。
【0113】
尚、より好ましくは、かかる複数個のセンサタグ1は、リーダー2側からの視点で、重なり合う位置又は近接した位置に配設される構成とする。この際、かかる複数個のセンサタグ1は、タイヤMの回転中心から同一直線状に配設されてもよいし(
図16を参照)、タイヤMの回転中心から引いた直線に対して周方向に位置をずらされてもよい(
図17を参照)。これによって、リーダー2が同一の検出領域で取得する反射波スペクトルに、タイヤMの摩耗が進行した際、複数個のセンサタグ1のうちのいずれか一つのセンサタグ1の反射波スペクトル(共振ピーク)を常に表出させることができる(
図18を参照)。
【0114】
図18は、本実施形態に係るセンサタグ1の配設態様により得られる反射波スペクトルの時間的変化の一例を示す図である。
図18Aに示す反射波スペクトルは、タイヤMが未摩耗の状態のときに観察される反射波スペクトルであり、
図18B、
図18C、
図18D、
図18Eは、それぞれ、タイヤMの摩耗が段階的に進んだ状態のときに観察される反射波スペクトルである。
図18に示す各反射波スペクトルにおいて、ftAは、センサタグ1Aの共振器10Qの共振現象に起因して観察される共振ピーク、ftBは、センサタグ1Bの共振器10Qの共振現象に起因して観察される共振ピーク、ftCは、センサタグ1Cの共振器10Qの共振現象に起因して観察される共振ピークである。
【0115】
本実施形態に係るセンサタグ1の配設態様では、
図18のように、タイヤMの摩耗が進行するにつれて、タイヤMから得られる反射波スペクトルに表出する誘電率の変化に起因してセンサタグ1(3つのセンサタグ1A、1B、1Cのいずれか)の共振ピーク位置が変化するに加えて、複数個のセンサタグ1A、1B、1Cそれぞれの反射波スペクトルが段階的に表出する。そして、タイヤMから得られる反射波スペクトルには、常に、3つのセンサタグ1A、1B、1Cのいずれか1つの共振ピーク(摩耗量によっては2本)が表出することになる。
【0116】
つまり、解析装置3は、リーダー2が取得した反射波スペクトルに基づいてタイヤMの摩耗量を推定する際、共振ピークのピーク位置に加えて、共振ピークの本数の情報を得て、タイヤMの摩耗量を推定することが可能である。これによって、誤推定に対するロバスト性を高めることが可能であり、且つ、より高精度にタイヤMの摩耗量を推定することが可能となる。
【0117】
以上のように、本実施形態に係る状態検出システムUによれば、より高精度にタイヤMの摩耗量を推定することが可能となる。
【0118】
(第3の実施形態)
次に、
図19~
図21を参照して、第3の実施形態に係る状態検出システムUの構成について説明する。本実施形態に係る状態検出システムUは、センサタグ1の配設態様の点で、第1の実施形態と相違する。
【0119】
図19は、本実施形態に係るタグの配設位置の一例を示す図である。
【0120】
本実施形態に係る状態検出システムUでは、センサタグ1が、トレッド部R1に加えて、サイドウォール部R3にも配設された構成となっている。
【0121】
タイヤMを使用している中では、外周ゴム部材(ここでは、カーカスMbよりも外側のゴム部材を意味する)の摩耗の他、外周ゴム部材のクラック及びゴム硬化といった劣化が生じる場合がある。外周ゴム部材のクラックは、主に、太陽光(紫外線)に起因して発生し、特にサイドウォール部R3の外周ゴム部材(以下では、サイドウォールゴムMaaと称する)に発生しやすい。又、外周ゴム部材のゴム硬化は、主にゴム材料そのものの経時変化に起因するもので、同様に、特にサイドウォールゴムMaaに発生しやすい。
【0122】
そこで、本実施形態に係る状態検出システムUでは、センサタグ1を、サイドウォールゴムMaaの内部又は当該サイドウォールゴムMaaと接触して配設し、このセンサタグ1から得られる反射波スペクトルによって、タイヤMに生じたクラック及びゴム硬化を検出する。
【0123】
図20は、タイヤM(ここでは、サイドウォールゴムMaa)にクラックが発生した際に、リーダー2により取得される反射波スペクトル(即ち、センサタグ1の反射波スペクトル)の変化の一例を示す図である。
【0124】
図21は、タイヤM(ここでは、サイドウォールゴムMaa)にゴム硬化が発生した際に、リーダー2により取得される反射波スペクトル(即ち、センサタグ1の反射波スペクトル)の変化の一例を示す図である。尚、
図21では、タイヤMのサイドウォールゴムMaaの硬度が、75[Hs]から90[Hs]に変化したときに得られたデータである。
【0125】
センサタグ1にて、タイヤMのサイドウォールゴムMaaに生じたクラック及びゴム硬化を検出する原理は、センサタグ1にて、タイヤMのトレッドゴムMaの摩耗を検出する原理と同様である。つまり、タイヤMのサイドウォールゴムMaaにクラックが発生した場合、そのクラックによりサイドウォールゴムMaaの一部が空気層となるが、センサタグ1は、このクラックに伴ってクラック未発生状態のときにはゴム部材(高誘電率材料)であった領域が、空気層(即ち、比誘電率1の層)に変化した状態(即ち、誘電率の低下)に対して感応する。又、同様に、タイヤMのサイドウォールゴムMaaがゴム硬化した場合には、センサタグ1は、サイドウォールゴムMaaのゴム硬化に伴う誘電率の増加に感応する。
【0126】
図20から分かるように、タイヤMのサイドウォールゴムMaaにクラックが発生した場合には、空気層の発生により(即ち、誘電率の低下)、共振ピークのピーク位置が高周波側にシフトする。又、
図21から分かるように、タイヤMのサイドウォールゴムMaaにゴム硬化が発生した場合には、誘電率の上昇により、共振ピークのピーク位置が低周波側にシフトする。尚、タイヤMのサイドウォールゴムMaaにゴム硬化が発生した場合には、電磁波は、タイヤMの外周ゴム部材を通過する際に大きく減衰するため、反射波強度の低下も発生する。
【0127】
又、本願の発明者らの検証結果によると、トレッドゴムMaの摩耗量と同様に、サイドウォールゴムMaaに生じたクラックの程度又はゴム硬化の程度と、センサタグ1の反射波スペクトルの共振ピーク位置の周波数シフト量と、の間には明確な相関関係が得られた。つまり、センサタグ1の反射波スペクトルの共振ピーク位置の周波数シフト量から、サイドウォールゴムMaaに生じたクラックの程度又はゴム硬化の程度を推定することが可能である。
【0128】
尚、かかる観点から、解析装置3には、例えば、摩耗量検出用の学習モデル30Dとは別個に、クラック及び/又はゴム硬化検出用の学習モデル30Dを準備しておくのが好ましい。そして、クラック及び/又はゴム硬化検出用の学習モデル30Dに対しては、予め得られた、サイドウォールゴムMaaに生じたクラックの程度(又はゴム硬化の程度)と、当該クラック時(又はゴム硬化時)に得られる反射波スペクトルのパターン(即ち、センサタグ1の共振ピーク位置の周波数シフト量を示す反射波スペクトルのパターン)とを関連付けたデータセットを、教師データとして用いて、機械学習が施しておく。これにより、学習モデル30Dは、実使用時にリーダー2に取得された反射波スペクトルの情報(例えば、各周波数における反射波強度の情報)から、タイヤMのサイドウォールゴムMaaに生じたクラックの程度又はゴム硬化の程度を推定し得るように構成される。
【0129】
以上のように、本実施形態に係る状態検出システムUによれば、摩耗に起因するタイヤMの劣化状態の他、クラックやゴム硬化に起因するタイヤMの劣化状態を、高精度に検出することが可能である。
【0130】
尚、上記実施形態では、センサタグ1を、タイヤMのトレッド部R1とサイドウォール部R3の両方に配設する態様を示したが、タイヤMの摩耗状態について検出する必要がない場合には、センサタグ1を、サイドウォール部R3のみに配設してもよい。
【0131】
又、上記実施形態では、タイヤM中に配設する電磁波応答材の一例として、チップレスセンサタグ1を示した。しかしながら、本開示に係る状態検出システムUにおいては、タイヤMの状態に感応して、自身の電磁波反射特性を変化させる電磁波応答材であれば、チップレスセンサタグ1のように共振器10Qを有するものでなくてもよい。
【0132】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本開示に係る状態検出システムによれば、ICチップや電源供給が不要な簡易な構成で、車両に装着されたタイヤの劣化状態を高精度に検出することを可能である。
【符号の説明】
【0134】
U 状態検出システム
1 センサタグ(電磁波応答材)
10 スロット
10Q 共振器
11 導電部材
2 リーダー
21 送信部
22 受信部
23 制御部
3 解析装置
31 学習部
32 推定部
30D 学習モデル
M タイヤ