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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173772
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】打込工具
(51)【国際特許分類】
   B25C 1/06 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
B25C1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079682
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006301
【氏名又は名称】マックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森村 隆志
(72)【発明者】
【氏名】小林 久詞
【テーマコード(参考)】
3C068
【Fターム(参考)】
3C068AA01
3C068BB01
3C068CC07
3C068HH04
3C068JJ20
(57)【要約】
【課題】プランジャの停止位置を安定させることが可能となる打込工具を提供すること。
【解決手段】本開示に係る打込工具は、プランジャと、前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と、前記プランジャの前記下死点から前記上死点への移動中に、前記モータに印加される電圧の変動量を示す電圧変動情報を取得するための電圧変動情報取得手段と、前記電圧変動情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャと、
前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、
前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と、
前記プランジャの移動中に、前記モータに印加される電圧の変動量を示す電圧変動情報を取得するための電圧変動情報取得手段と、
前記電圧変動情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、
を備える打込工具。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電圧の変動量の変曲点に基づいて前記モータを制御するように構成される、請求項1に記載の打込工具。
【請求項3】
プランジャと、
前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、
前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と、
前記プランジャの移動中に、前記モータに流れる電流の変動量を示す電流変動情報を取得するための電流変動情報取得手段と、
前記電流変動情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、
を備える打込工具。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電流の変動量の変曲点に基づいて前記モータを制御するように構成される、請求項3に記載の打込工具。
【請求項5】
プランジャと、
前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、
前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と、
前記プランジャの前記上死点から前記下死点へ移動した後に、前記プランジャの移動速度を示す速度情報を取得するための速度情報取得手段と、
前記速度情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、
を備える打込工具。
【請求項6】
前記制御手段は、更に前記速度情報に基づいて前記モータの回転速度を減速する制御を開始するように構成される、
請求項5に記載の打込工具。
【請求項7】
プランジャと、
前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、
前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と
を備える打込工具であって、
前記打込工具に搭載される電装部品の温度情報を取得するための温度情報取得手段と、
前記温度情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、
を備える打込工具。
【請求項8】
前記制御手段は、更に前記温度情報に基づいて前記モータの回転速度を減速する制御を開始するように構成される、
請求項7に記載の打込工具。
【請求項9】
前記モータに電圧を印加するためのバッテリを更に備え、
前記電圧変動情報取得手段は、前記バッテリの電源電圧の変動量を示す情報を前記電圧変動情報として取得するように構成される、
請求項1又は2に記載の打込工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打込工具に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを用いてプランジャを駆動して、釘、鋲、ステープル、ピン等(以下、「ファスナ」という。)を打ち込むための打込工具が知られている。
【0003】
特許文献1には、バッテリ電圧の低下に伴いプランジャの停止位置が変動してしまい、その結果ファスナの打ち込みに要する時間が変動してしまうことを抑制するための発明が記載されている。具体的には、バッテリ電圧に基づいて、モータへの通電時間を制御する打込工具が記載されている。
【0004】
特許文献2には、モータを流れる電流のピークを検出した時を基準としてモータを停止させるタイミングを定めることにより、プランジャの位置精度を向上させることが可能となる打込工具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-136656号公報
【特許文献2】特開2015-30052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の打込工具の場合、バッテリ電圧のみに基づいてモータへの通電時間が設定される。このため、毎回、同じ速度でプランジャが移動していると仮定すれば、プランジャは、同じ位置で停止するとも考え得る。しかしながら実際には、プランジャ速度が部品の摩耗等、様々な影響によりばらつきを有するため、プランジャの停止位置を安定させることが困難である。
【0007】
また、特許文献2記載の打込工具の場合、電流のピークが検出できないとモータを停止させるタイミングを定めることが困難になってしまう。例えば、想定される停止位置よりも上死点側にプランジャが停止したことにより起動負荷が増加し、その結果、起動時に電流の上限値に到達した場合、電流ピークを検出することができない。そのため、プランジャの停止位置の基準となるタイミングを定めることができない。
【0008】
そこで本発明は、プランジャの停止位置を安定させることが可能となる打込工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る打込工具は、プランジャと、前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と、前記プランジャの移動中に、前記モータに印加される電圧の変動量を示す電圧変動情報を取得するための電圧変動情報取得手段と、前記電圧変動情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、を備える。
【0010】
電圧変動情報取得手段は、プランジャが下死点から上死点へ移動中に、前記モータに印加される電圧の変動量を示す電圧変動情報を取得するように構成されてもよい。
【0011】
電圧変動情報取得手段は、プランジャが上死点から下死点へ移動中に、前記モータに印加される電圧の変動量を示す電圧変動情報を取得するように構成されてもよい。
【0012】
ここで「電圧の変動量」は、電圧の時間当たりの変動量を示す情報である。電圧の変動量を示す情報は、電圧の微分値でよい。
【0013】
また、「モータに印加される電圧」は、バッテリからモータに直流電圧が印加される打込工具においては、バッテリ電圧であってもよい。
【0014】
なお、前記制御手段は、前記電圧の変曲点に基づいて前記モータを制御するように構成してもよい。
【0015】
ここで「電圧の変曲点」は、電圧の時間当たりの変動量の変動量が正から負になるとき、又は、負から正になるときである。電圧の時間当たりの変動量の変動量が正から負になるとき、又は、負から正になるときは、電圧の二回微分値がゼロになる時、または、その時を近似する時であってよい。
【0016】
本開示の別の態様に係る打込工具は、プランジャと、前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と、前記プランジャの移動中に、前記モータに流れる電流の変動量を示す電流変動情報を取得するための電流変動情報取得手段と、前記電流変動情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、を備える。
【0017】
電流変動情報取得手段は、プランジャが下死点から上死点へ移動中に、前記モータに流れる電流の変動量を示す電流変動情報を取得するように構成されてもよい。
【0018】
電流変動情報取得手段は、プランジャが上死点から下死点へ移動中に、前記モータに流れる電流の変動量を示す電流変動情報を取得するように構成されてもよい。
【0019】
ここで「電流の変動量」は、電流の時間当たりの変動量を示す情報である。電流の変動量を示す情報は、電流の微分値でよい。
【0020】
また、「モータに流れる電流」は、三相ブラシレスモータでプランジャを駆動する打込工具においては、いずれかの相の巻線に流れる巻線電流であってもよい。
【0021】
なお、前記制御手段は、前記電流の変曲点に基づいて前記モータを制御するように構成してもよい。
【0022】
ここで「電流の変曲点」は、電流の時間当たりの変動量の変動量が正から負になるとき、又は、負から正になるときである。電流の時間当たりの変動量の変動量が正から負になるとき、又は、負から正になるときは、電流の二回微分値がゼロになる時、または、その時を近似する時であってよい。
【0023】
更に、前記プランジャの前記上死点から前記下死点へ移動した後に、前記プランジャの移動速度を示す速度情報を取得するための速度情報取得手段を更に備え、前記制御手段は、更に前記速度情報に基づいて前記モータを制御するように構成されてもよい。
【0024】
前記速度情報取得手段は、前記プランジャの前記下死点から待機位置へ移動中における前記プランジャの移動速度を示す速度情報を取得するように構成されてもよい。待機位置は、下死点と上死点との間に設定される。
【0025】
前記速度情報取得手段は、上記に替えて、前記ファスナを打ち込んだ後に前記プランジャの移動速度を示す速度情報を取得するように構成されてもよい。
【0026】
加えて、前記制御手段は、更に前記速度情報に基づいて前記モータの回転速度を減速する制御を開始するように構成してもよい。
【0027】
また、本開示の一態様は、前記モータの温度情報を取得するための温度情報取得手段を更に備え、前記制御手段は、更に前記温度情報に基づいて前記モータを制御するように構成してもよい。
【0028】
ここで、前記制御手段は、更に前記温度情報に基づいて前記モータの回転速度を減速する制御を開始するように構成してもよい。
【0029】
なお、前記モータに電圧を印加するためのバッテリを更に備え、前記電圧変動情報取得手段は、前記バッテリの電源電圧の変動量を示す情報を前記電圧変動情報として取得するように構成してもよい。
【0030】
本開示の別の態様に係る打込工具は、プランジャと、前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と、前記プランジャの前記上死点から前記下死点へ移動した後に、前記プランジャの移動速度を示す速度情報を取得するための速度情報取得手段と、前記速度情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、を備える。
【0031】
本開示の別の態様に係る打込工具は、プランジャと、前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段と、前記プランジャを用いて前記ファスナを打ち込んだ後に、前記プランジャの移動速度を示す速度情報を取得するための速度情報取得手段と、前記速度情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、を備える。
【0032】
前記速度情報取得手段は、前記プランジャの前記下死点から待機位置へ移動中における前記プランジャの移動速度を示す速度情報を取得するように構成されてもよい。待機位置は、下死点と上死点との間に設定される。
【0033】
前記制御手段は、更に前記速度情報に基づいて前記モータの回転速度を減速する制御を開始するように構成されてもよい。
【0034】
本開示の別の態様に係る打込工具は、プランジャと、前記プランジャを下死点から上死点に移動させるためのモータと、前記プランジャを上死点から下死点に移動させることにより、前記プランジャを用いてファスナを打ち込ませるための駆動手段とを備える打込工具であって、前記打込工具に搭載される電装部品の温度情報を取得するための温度情報取得手段と、前記温度情報に基づいて前記モータを制御するための制御手段と、を備える。
【0035】
電装部品とは、打込工具に搭載される電子機器を含む。
【0036】
電装部品は、前記モータ(ステータ巻線を含む)であってよい。
【0037】
電装部品は、前記制御手段でよく、特に、前記制御手段のスイッチング素子であってよい。
【0038】
温度情報取得手段は、電装部品の温度を直接的に取得するように、電装部品に当接して、若しくは、密接して取り付けられてもよいし、電装部品の温度を間接的に取得可能なように、電装部品と離間した位置に取り付けられてもよい。例えば、温度情報取得手段は、インバータ回路を搭載するプリント配線基板上に設けられてもよいし、或いは、モーターに近接して設けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、一実施形態に係る打込工具の正面図である。
図2図2は、一実施形態に係る打込工具の断面図である。
図3図3は、一実施形態に係るプランジャアセンブリの斜視図である。
図4図4は、一実施形態に係るプランジャアセンブリの断面図(正面視)である。
図5図5は、一実施形態に係るプランジャアセンブリの断面図(側面視)である。
図6図6は、一実施形態に係るプランジャアセンブリの断面図(平面視)である。
図7図7は、一実施形態に係るプランジャ及びワイヤを含む斜視図である。
図8図8は、一実施形態に係る打込工具の制御ブロック図である。
図9図9は、バッテリの出力電圧(電源電圧)の波形の一例である。
図10図10は、一実施形態に係る打ち込み方法を示すタイミングチャートである。
図11図11は、一実施形態に係る打込工具のプランジャの上死点到達時における電圧変動量を示す図である。
図12図12は、一実施形態に係る打ち込み方法のフローチャートである。
図13図13は、一実施形態に係る打込工具のバッテリの出力電圧と、巻線電流を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。
【0041】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る電動式の打込工具10の正面図(但しマガジン部については一部断面図を示している。)を示し、図2は、同じ方向から見た打込工具10の断面図を示している(但しマガジン14内の全てのファスナFを打ち出した後の状態を示している)。この打込工具10は、モータ(図2)を用いてプランジャ32(図2)を駆動することにより、釘(「ファスナF」の一例)を打込可能に構成される電動釘打機である。なお、本明細書の「上下」、「前後」、「左右」は、図1及び図2の打込工具10の姿勢に基づいている。図1及び図2における紙面左方向は、ファスナFが打ち出される方向に相当するため、打ち出し方向DR1又は射出方向DR1等と呼ばれる場合があり、反対の紙面右方向は、ファスナFが打ち出される射出口12Aから離れる方向であるため、離反方向DR2と呼ばれる場合がある。方向は、図面に示される方向X1、方向X2、方向Y及び方向Zを用いて表現される場合がある。
【0042】
この打込工具10は、ハウジング12と、打込工具10によって打ち出されるファスナFを収容するマガジン14と、ファスナFを打ち出すためのドライバ34と、ドライバ34が取り付けられるプランジャ32と、プランジャ32を下死点から上死点に移動させるためのモータ20及びギア22と、プランジャ32を上死点から下死点に移動させるための駆動力を付与するコイルばね36(「付勢部材」乃至「駆動手段」の一例)と、コイルばね36の伸長する端部に配置される移動部材38と、プランジャ32及び移動部材38に係合し両者を連動させるワイヤ40(「紐状部材」の一例)と、ワイヤ40が掛けられるプーリ42(「方向変換部材」の一例)とを備える。更に打込工具10には、バッテリBが着脱自在に設けられる。
【0043】
打込工具10は、プランジャ32を含む打込工具10の主要部品を収納するハウジング12(以下、ハウジング12及びハウジング12に固定される部分を「工具本体」という場合がある。)を備える。ハウジング12には、操作者が把持するためのグリップ部12B及びバッテリBが取り付けられたバッテリ取付部とモータ20とを繋ぐ架橋部12Cと、ファスナFを打ち出すためのノーズ部12Dが設けられる。グリップ部12B及び架橋部12Cは、操作者が把持しやすいように、例えば、上下方向に延在する柱状にそれぞれ形成される。ハウジング12の前端(及び打込工具10の前端)には、ファスナFを紙面左方向に打ち出すための射出口12Aが形成されたノーズ部12Dが設けられる。ノーズ部12Dの先端には、コンタクトアーム12D1が取り付けられてもよい。コンタクトアーム12D1は、射出口12Aの周囲に射出口12Aから出没可能に設けられており、コンタクトアーム12D1が打込対象物に押しつけられており、かつ、トリガ12Eが押下されている状態にのみ、ファスナFの打ち出しを許可する安全装置として機能する。
【0044】
ハウジング12には、トリガ12Eが設けられる。トリガ12Eは、使用者が押下することによりバッテリBとモータ20とを導通させる。トリガ12Eは、グリップ部12Bの前方(ファスナFの打ち出し方向DR1)を向いた表面に露出して設けられ、例えば、ばね等のトリガ付勢部材12Fによって前方(打ち出し方向DR1)に付勢されている。
【0045】
バッテリBは、グリップ部12B及び架橋部12Cの下端部に着脱自在に取り付け可能に構成されている。バッテリBは、モータ等を駆動するための電力を供給する直流電源として機能し、所定(例えば、14V~20V)の直流電圧を出力可能な、例えば、リチウムイオン電池から構成される。打込工具10は、バッテリBを取り付けることにより携帯して使用することが可能となる。ただし、バッテリBをハウジング12内に収納するように構成してもよいし、バッテリ以外の手段により電力を供給するように構成してもよい。
【0046】
打込工具10は、ノーズ部12Dの下方に取り付けられるマガジン14を備える。マガジン14は、連結された複数のファスナF(図1)が装填可能に構成される。マガジン14は、ファスナFをノーズ部12Dに向かって付勢するプッシャ14Aを備える。プッシャ14Aは、先頭のファスナFがドライバ34によって打ち出されると隣接するファスナFがノーズ部12Dの射出路に供給されるように不図示の付勢部材により付勢されている。
【0047】
打込工具10は更に、プランジャアセンブリ30を備える。図3は、プランジャアセンブリ30の斜視図であり、図4及び図5はそれぞれコイルばね36が最も圧縮した状態(「第1状態」の一例)及び最も伸長した状態(「第2状態」の一例)におけるプランジャアセンブリ30の断面図である(但し図4が正面図における断面図とすると図5は左側面図における断面図に相当する)。図6は平面視におけるプランジャアセンブリ30の断面図を示している。図7はプランジャ32と、移動部材38の一部であるピン38Aと、これらプランジャ32及び移動部材38に係合するワイヤ40を示す斜視図である。プランジャアセンブリ30は、ドライバ34、プランジャ32、コイルばね36、移動部材38、ワイヤ40及びプーリ42と共に、更に、コイルばね36を収容するシリンダ44と、プランジャ32の移動方向を規制する一対のガイドレール46とを備える。
【0048】
ドライバ34は、ファスナFに接触してこれを打撃することによりファスナFを打ち出す部材である。これら図面に示されるように、本実施形態に係るドライバ34は、ファスナFの打ち出し方向DR1に延在する細長い棒状に形成された金属製の剛体から構成されている。ドライバ34の延長線上には、ファスナFが配置されているため、ドライバ34が打ち出し方向DR1に移動すると、ドライバ34の前端がファスナFを打撃する。ドライバ34の後端はプランジャ32に連結され、プランジャ32と一体的に移動するように構成されている。
【0049】
プランジャ32は、上死点から下死点に移動することによりドライバ34と一体的に移動してファスナFを打ち出すための部材である。図7に示されるようにプランジャ32は、4つの側壁部を備えており、ワイヤ40が係合する第1側壁部32Aと、第1側壁部32Aに略直角に接続し、ガイドレール46に係合する第2側壁部32Bと、第2側壁部32Bに略直角に接続し第1側壁部32Aと略平行に設けられ、ドライバ34が係合する第3側壁部32Cと、第3側壁部32C及び第1側壁部32Aにそれぞれ略直角に接続し第2側壁部32Bと略平行に設けられ、ガイドレール46に係合する第4側壁部32Dとを備える。4つの側壁部で囲まれた中空の領域には、後述するシリンダ44が配置される。第1側壁部32Aの外壁面には、異なる高さに設けられた2つの凸部であるギア係合部32A1が設けられており、このギア係合部32A1と後述するギア22とが係合することにより、プランジャ32は、コイルばね36の弾性力(付勢力)に抗して下死点から上死点に向かって移動するように構成されている。ここでプランジャ32の上死点は工具本体の後端側の領域に設定され、下死点は上死点とノーズ部12Dとの間の領域に設定される。このため、プランジャ32が上死点から下死点に移動するとき、プランジャ32は、射出口12Aに接近する打ち出し方向DR1に移動し、プランジャ32が下死点から上死点に移動するとき、プランジャ32は、射出から離反する離反方向DR2に移動する。
【0050】
プランジャ32の第1側壁部32Aには更にワイヤ係合部32A2が設けられる。ワイヤ係合部32A2は、第1側壁部32Aの内壁面から内側に向かう方向(即ち、第3側壁部32Cに接近する方向)に突出して形成される第1部分32A21と第1部分32A21の端部から上死点に接近する方向に延在する第2部分32A22を備える。第1部分32A21の上死点を向いた面は、ワイヤ40からプランジャ32に打ち出し方向DR1の力を作用させるための受圧面となる。また、第2部分32A22は、ワイヤ40が第3壁部に接近する方向にずれることを規制する。更に、第1部分32A21を第3側壁部32Cに接近する方向に突出して形成したことにより、第1部分32A21の受圧面に係合するワイヤ40を第1側壁部32Aの内壁面に沿って延在させることが可能となる。このため、ワイヤ40が第3側壁部32Cから離間する方向にずれることを抑制することも可能となる。加えてワイヤ係合部32A2は、第2側壁部32B及び第4側壁部32Dを近似する平面に平行で、両平面との距離が等しい仮想平面IP1(図6)に対して対称的に形成されている。このような構成により、ワイヤ40からプランジャ32に作用する力のバランスが崩れてプランジャ32が傾くことを抑制することが可能になる。
【0051】
第2側壁部32Bと第4側壁部32Dとは、仮想平面IP1に対して対称的に形成されている。第2側壁部32B及び第4側壁部32Dには、それぞれ、ガイドレール46に係合するためのガイドローラ32B1、32D1が設けられている。ガイドローラ32B1、32D1は上死点側及び下死点側にそれぞれ2個設けられるため、各2個のガイドローラ32B1、32D1をそれぞれガイドレール46に係合させることにより、移動時にプランジャ32が傾くことを抑制することが可能になる。
【0052】
第3側壁部32Cには、仮想平面IP1に対して対称的に形成され、ドライバ34の後端が連結されるドライバ係合部32C1が設けられている。このため、ドライバ34がファスナFを打撃したときにプランジャ32が受ける反力によりプランジャ32が傾くことを抑制することが可能になる。
【0053】
なお、これら図面に示されるように、プランジャ32の移動方向(上死点と下死点を結ぶ方向)を基準としたときに、ドライバ係合部32C1と射出口12Aとの距離は、ワイヤ係合部32A2と射出口12Aとの距離よりも小さくなるようにプランジャ32は構成されている。
【0054】
シリンダ44は、コイルばね36を収容し、移動部材38の一部をなすピン38Aの移動方向をガイドする部材である。本実施形態に係るシリンダ44は、円筒状に形成される円筒部44Aと円筒部44Aの蓋に相当するキャップ部44Cとを備えている。シリンダ44は、プランジャ32の4つの側壁部で囲まれた中空の領域を貫通し、プランジャ32の移動方向とシリンダ44の中心軸とが略平行となるようにハウジング12に固定され、キャップ部44Cはガイドレール46を固定する。
【0055】
シリンダ44の内部には、シリンダ44の中心軸方向、即ち、プランジャ32の移動方向に伸縮可能な圧縮ばねからなるコイルばね36が収容される。コイルばね36の一端36Aは、射出口側(プランジャ32の下死点側)のシリンダ底面に固定される。コイルばね36の他端36Bには、移動部材38が配置され、移動部材38には、ワイヤ40によりコイルばね36の一端36A側に張力がかけられている。このためコイルばねの他端36B及び移動部材38は共に移動可能に構成され、コイルばね36が伸長状態から圧縮するときコイルばねの他端36B及び移動部材38は打ち出し方向DR1に移動し、コイルばね36が圧縮状態から伸長して復元するときコイルばねの他端36B及び移動部材38は射出口12Aから離反する離反方向DR2に移動する。シリンダ44の壁部には、中心軸に平行に、即ち、コイルばね36の伸長方向に平行に延在する一対の孔44Bが形成される。
【0056】
移動部材38は、ワイヤ40の一部分及と直接的又は間接的に係合することにより、コイルばねの他端36Bの伸長と共にワイヤ40を移動させる。本実施形態に係る移動部材38は、コイルばねの他端36Bに配置される円環部38Bと、円環部38Bに固定され、ワイヤ40の両端部が係合されるピン38Aとを備える。本実施形態において、シリンダ44の壁部に形成される一対の孔44Bは、プランジャ32の第1側壁部32A及び第3側壁部32Cを近似する2つの平面に平行で、シリンダ44やコイルばね36の中心軸を通る仮想平面IP2(図6)と交わるように形成されている。また、ピン38Aは、その延在方向がこの仮想平面と略平行となるように、ピン38Aの両端部が一対の孔44Bに係合する。このため、ピン38Aを含む移動部材38がコイルばね36の伸長又は圧縮に伴ってシリンダ44の中心軸方向に移動しても、ピン38Aがシリンダ44の円周方向に捩れることを抑制することが可能になる。
【0057】
ワイヤ40は、移動部材38及びプランジャ32に取り付けられることにより移動部材38とプランジャ32を連動させる部材である。本実施形態においてワイヤ40は、一端において、ワイヤ40の一方の端部と、ワイヤ40の端部から離間した部分とを接続することにより輪状に形成され、この輪状に形成された部分を貫通させることによりピン38Aがワイヤ40に係合する。ピン38Aに係合するワイヤ40は、移動部材38の円環部38Bの孔を通過してコイルばね36の中心軸に沿って打ち出し方向DR1に延在し、シリンダ44の底面に形成された孔を通過した後プーリ42に掛け回されることによって方向転換し、離反方向DR2に延在し、プランジャ32のワイヤ係合部32A2の受圧面に係合する。続いてワイヤ40は、打ち出し方向DR1に延在し、プーリ42に掛け回されることによって方向転換し、コイルばね36の中心軸に沿って離反方向DR2に延在する。ワイヤ40は、他端において、ワイヤ40の他方の端部と、ワイヤ40の端部から離間した部分とを接続することにより輪状に形成され、この輪状に形成された部分を貫通させることによりピン38Aがワイヤ40に係合する。従って、ワイヤ40の両端は共にピン38Aに係合し、ワイヤ40の中間部分はプランジャ32に係合する。
【0058】
即ちワイヤ40は、移動部材38に係合する一端部を含む第1部分40Aと、第1部分40Aに接続し打ち出し方向DR1に延在する部分を含む第2部分40Bと、第2部分40Bに接続し略離反方向に延在する部分を含む第3部分40Cと、第3部分40Cに接続しプランジャ32に係合する第4部分40Dと、第4部分40Dに接続し略打ち出し方向DR1に延在する部分を含む第5部分40Eと、第5部分40Eに接続し離反方向DR2に延在する部分を含む第6部分40Fと、第6部分40Fに接続し移動部材38に係合する他端部を含む第7部分40Gとを備える。
【0059】
プランジャ32を下死点から上死点に移動させるための駆動機構は、モータ20及びギア22から構成される。図2に示される本実施形態に係るモータ20は、三相DCブラシレスモータから構成されており、例えば、架橋部12C内に、モータ20の出力軸が打ち出し方向DR1及び離反方向DR2と略垂直となるように配置されている。モータ20の出力軸を回転軸とするギアとギア22を構成する第1ギア22Aは噛合し、第1ギア22Aはギア22を構成する第2ギア22Bと噛合する。モータ20の出力軸のギアに対して第1ギア22Aは離反方向DR2に配置され、第1ギア22Aに対して第2ギア22Bは離反方向DR2に配置される。第1ギア22A及び第2ギア22Bには、それぞれ、回転軸に平行で、プランジャ32の第1側壁部32Aの外壁面に接近する方向に突出するトルクローラ(不図示)が設けられる。トルクローラは第1ギア22A(第2ギア22B)の回転に伴って第1ギア22A(第2ギア22B)の中心軸を中心に回転する。第1ギア22A(第2ギア22B)の中心軸は、モータ20の出力軸と平行であるから、第1ギア22A(第2ギア22B)の回転に伴ってトルクローラは、打ち出し方向DR1及び離反方向DR2に往復運動する。プランジャ32が下死点付近に存在するとき、ギア係合部32A1として下死点側に設けられた一方の凸部には、第1ギア22Aのトルクローラが係合する。そして第1ギア22Aの回転に伴いトルクローラは離反方向DR2に移動するため、プランジャ32のギア係合部32A1を離反方向DR2に押し上げるから、プランジャ32を離反方向DR2に移動させることが可能となる。第1ギア22Aのトルクローラが最も離反方向DR2に移動するとき、ギア係合部32A1として上死点側に設けられた他方の凸部には、第2ギア22Bのトルクローラが係合する。そして第2ギア22Bの回転に伴いトルクローラは離反方向DR2に移動するため、プランジャ32のギア係合部32A1を更に離反方向DR2に押し上げるから、プランジャ32を更に離反方向DR2に移動させることが可能となる。第2ギア22Bのトルクローラが最も離反方向DR2に移動するとき、プランジャ32は上死点に到達し、ギア係合部32A1と第2ギア22Bとの係合が解除されるように構成される。
【0060】
打込工具10は更にモータ20を駆動するための制御部50を備える。制御部50は、架橋部12C内のモータ20とバッテリBとの間隙に配置されるPCB基板24(図2)に搭載されている。
【0061】
図8は、打込工具10の制御ブロック図を示している。制御対象であるモータ20は、ロータ(回転子)と三相巻線(「ステータ巻線」の一例)を有するステータ(固定子)を備える。モータ20は、三相巻線に三相交流電流を流して回転磁場を発生させることにより、永久磁石を有するロータを回転可能に構成される。なお、モータ20には、ホールIC等、モータ20のロータの位置を検出するための位置検出センサが設けられていない。但し、モータ20には、ロータの位置を検出するための位置検出センサを設けてもよい。
【0062】
制御部50は、モータ20の三相巻線に電圧を印加するためのインバータ回路50Aと、インバータ回路50Aをスイッチングするための制御信号を生成しインバータ回路50Aに供給するCPU50Bと、バッテリBの電圧を検出する電圧検出回路50Cと、バッテリBから出力される電力をCPU50B等の各能動部品に供給する電源回路50Dとを備える。
【0063】
インバータ回路50Aは、例えば、バッテリBの出力端子に接続される正極母線(電源線)及び負極母線(グランド線)との間に三相ブリッジ接続された、例えば、FET(Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)からなる6つのスイッチング素子と、これらスイッチング素子にそれぞれ並列接続されたフリーホイールダイオードとから構成されている。このインバータ回路の3つの出力端子は、モータ20の三相巻線にそれぞれ接続されている。
【0064】
CPU50Bは、モータ20の制御プログラム等、本実施形態に記載される演算処理等を実行するためのコンピュータプログラムを格納する不揮発性の半導体メモリ(例えば、フラッシュメモリ)と、演算処理結果等のデータを一時的に格納する揮発性の半導体メモリ(SRAM及びDRAM)と、半導体メモリから読み出されたコンピュータプログラムを実行しインバータ回路50Aを制御するための制御信号を生成するプロセッサと、プロセッサにより生成された制御信号に基づいてインバータ回路50Aの各スイッチング素子のベース(又はゲート)に供給されるPWM(パルス幅変調された)の駆動信号(PWM信号)を生成するドライバ回路とを備えるハードウェアから構成される。
【0065】
CPU50Bは、電圧検出回路50Cからモータ20に印加される電圧を示す電圧情報を取得する電圧情報取得部50B1と、電圧情報取得部50B1により取得された電圧情報に基づいて電圧の時間当たりの変動量を示す情報を取得する電圧変動情報取得部50B2と、電圧変動情報取得部50B2により取得された電圧変動情報に基づいて電圧の時間当たりの変動量の変動量が正から負になる電圧の変動量の変曲点(極大点)を検出する変曲点検出部50B3と、モータ20の回転速度を示す情報を取得する回転速度取得部50B4と、変曲点検出部50B3による変曲点検出時におけるモータ20の回転速度に基づいて、変曲点検出時からモータ20のブレーキ制御を開始するまでの時間(以下、「ブレーキ開始タイミング」という。)を設定するブレーキ制御時間決定部50B5とを備える。
【0066】
電圧情報取得部50B1は、電圧検出回路50Cからモータ20に印加される電圧を示す情報を取得する。本出願の発明者らは、打込工具10の1サイクルの動作中にモータ20に印加される電圧が変動する点に着目し、電圧変動情報に基づいてプランジャ32の位置推定を行い、これに基づいてモータ20を制御することを着想した。但し、電圧検出回路50Cから取得される信号は、インバータ回路50Aのスイッチング素子がスイッチングするたびにリップルが発生するため細かく変動していることに気が付いた。図9は、電圧検出回路50Cから取得されるバッテリBの出力電圧(電源電圧)の元波形と、その拡大図を示してる(但し、便宜的に拡大図の縮尺を変更している)。電圧情報取得部50B1は、電圧検出回路50Cから取得される信号のうち、インバータ回路50Aのスイッチング素子がスイッチングを実行する直前の信号値をサンプリングすることにより、リップルの影響が低減されたバッテリBの電圧を取得可能に構成されている。図10(E)には、スイッチングを実行する直前の信号値をサンプリングし、隣接する信号値を結ぶことにより得られた取得されるバッテリBの電圧を示している。
【0067】
電圧変動情報取得部50B2は、電圧情報取得部50B1が所定周期(例えば、3m秒から6m秒)でサンプリングする電圧情報に基づいて電圧変動情報を取得する。具体的には、1つ前にサンプリングされた電圧情報に対するサンプリングされた電圧情報の差分を取得することにより、電圧の微分値に相当する情報を取得する。但しノイズ等の影響を低減するために、複数のサンプルを平均して得られた電圧情報に基づいて電圧変動情報を取得するように構成してもよい。
【0068】
変曲点検出部50B3は、電圧変動情報取得部50B2が取得する電圧変動情報に基づいて電圧変動量の変動量が正から負に転じる変曲点(電圧変動量の極大点)を検出する。具体的には、電圧変動情報取得部50B2が取得した電圧変動情報に基づいて電圧変動量の変動量が0以上であるか否かを判断し、0以上でないこと(即ち負であること)を検出することにより変曲点を検出する。但しノイズ等の影響を低減するために、電圧変動量の変動量が0以上でないことを連続して検出することにより変曲点を検出するように構成してもよい。
【0069】
後述するように、電圧変動量の変動量が正から負に転じる変曲点(電圧変動量の極大点)は、プランジャ32が上死点に到達したときに観測される。このため、電圧変動量の変曲点を検出することにより、プランジャ32が上死点付近に存在することを推定することが可能になる。このため、電圧変動量の変動量が正から負に転じる変曲点を検出することに基づいてモータ20を制御することによりプランジャ32の停止位置を安定させることが可能となる。
【0070】
回転速度取得部50B4は、モータ20のロータの時間当たりの回転数(回転速度)を示す情報を取得する。回転速度取得部50B4は、例えば、モータ20の相電圧に基づいて回転数を取得する。より具体的には、通電していない相に生じる逆起電圧がバッテリBの電圧の中点電位と等しくなるゼロクロス点になる時を示す情報を取得しゼロクロス点の間隔を取得することにより、モータ20のロータの回転速度を示す情報を取得することが可能である。なお、ゼロクロス点は、三相巻線のうち一つの巻線の相電圧について検出してもよいし、二相又は全ての相の巻線の相電圧のゼロクロス点を検出してもよい。また、相電圧に基づいて回転数を取得することに替えて、ホールIC等の位置検出センサを用いて回転速度を示す情報を取得するように構成してもよい。
【0071】
ブレーキ制御時間決定部50B5は、変曲点検出部50B3による変曲点検出時におけるモータ20の回転速度に基づいて、変曲点検出時からモータ20のブレーキ制御を開始するまでのブレーキ開始タイミングを決定する。変曲点が検出される時、プランジャ32が上死点付近に存在することが推定されるから、プランジャ32が上死点から下死点に到達するまでに要する時間等を考慮してモータ20のブレーキ制御を開始するまでの時間を設定することが可能となる。ここでブレーキ制御時間決定部50B5は更に、変曲点検出部50B3による変曲点検出時におけるモータ20の回転速度に基づいて、ブレーキ開始タイミングを変更可能に構成されていてもよい。例えば、モータ20の回転速度が大きい場合、そうでない場合と比較して、待機位置到達までの時間が短くなると考えられることから、ブレーキ開始タイミングを通常より短く設定し、早めにモータ20にブレーキがかかるように制御することが可能である。一方で、モータ20の回転速度が小さい場合、そうでない場合と比較して、待機位置到達までの時間が長くなると考えられることから、ブレーキ開始タイミングを通常より長く設定し、遅めにモータ20にブレーキがかかるように制御することが可能である。
【0072】
このような構成とすることにより部品摩耗等の経時変化、バッテリBの残量等に起因するばらつきの影響を抑制したプランジャ32の位置制御が可能となる。
【0073】
電圧検出回路50Cは、モータ20に印加される電圧を示す電圧情報を取得し、CPU50Bに供給する。具体的には、電圧検出回路50Cは、バッテリBの出力端子に接続される正極母線に直列接続された複数の抵抗素子を備え、分圧された電圧値をCPU50Bに供給するように構成される。他の実施形態に係る電流検出回路と比較して電圧検出回路は、複数の抵抗素子から構成することが可能であり、能動素子が不要であるため、コスト的に有利である。
【0074】
電源回路50Dは、バッテリBから出力される電力をCPU50B等の各能動部品に供給する。
【0075】
以下、本実施形態に係る打込工具10を用いた打ち込み方法について説明する。図10は、打込工具10による打ち込み方法を示すタイミングチャートである。
【0076】
図10において横軸は、時間を示している。図10(A)は、コンタクトアーム12D1がファスナFを打ち込む打込対象物に接触しているか否かを示すコンタクトSW信号を示している。時刻t0において、コンタクトアーム12D1が打込対象物に接触すると、コンタクトSW信号がONとなる。CPU50Bは、コンタクトSW信号を受け取り、コンタクトアーム12D1が対象物に接触していることを検出する。以後、コンタクトアーム12D1が打込対象物に接触している限り、コンタクトSW信号は、ONの状態を継続する。
【0077】
図10(B)は、トリガ12Eが押下されているか否かを示すトリガSW信号を示している。時刻t1において、操作者がトリガ12Eを押下すると、トリガSW信号がONとなる。CPU50Bは、トリガSW信号を受け取り、トリガ12Eが押下されていることを検出する。以後、トリガ12Eが押下されている限り、トリガSW信号は、ONの状態を継続する。
【0078】
図10(C)は、モータ20の状態を示している。時刻t1において、トリガSW信号及びコンタクトSW信号の双方がONの状態になると、CPU50Bは、モータ20を駆動するためのPWM信号をインバータ回路50Aに供給する。インバータ回路50Aの各スイッチング素子は、CPU50BからのPWM信号に基づいてスイッチング動作する。スイッチング素子がオンになると、バッテリBの出力電圧がモータ20のステータを構成する三相巻線に印加されるため、各相の巻線に巻線電流が流れる。モータ20のロータは、三相巻線によって発生する回転磁界に従って回転を開始する。
【0079】
図10(D)は、プランジャ32の位置を示している。時刻t1よりも前の初期状態において、プランジャ32は、上死点及び下死点の中間の待機位置に静止している。時刻t1にモータ20が駆動を開始すると、第2ギア22Bに設けられるトルクローラは、プランジャ32のギア係合部32A1に接触してプランジャ32を離反方向DR2に押し上げる。プランジャ32はワイヤ40によって移動部材38に接続されているため、プランジャ32が離反方向DR2に移動することに連動して移動部材38はコイルばね36を圧縮させながら打ち出し方向DR1に移動する。
【0080】
プランジャ32が上死点から下死点に移動している間、CPU50Bの電圧情報取得部50B1はモータ20に印加される電圧を示す情報を取得し、電圧変動情報取得部50B2は電圧変動情報を取得し、変曲点検出部50B3は定期的に電圧変動量の変動量が0以上であるか否かを判断する。
【0081】
図10(E)は、CPU50Bの電圧情報取得部50B1によって取得されるバッテリBの電圧(モータ20に印加される電圧を示す情報に相当する。)を示している。図10(F)は、CPU50Bの電圧変動情報取得部50B2によって取得されるバッテリBの電圧の変動量(モータ20に印加される電圧の変動量を示す電圧変動情報に相当する。)を示している。バッテリBの電圧の変動量は、サンプリング周波数を高めることにより、バッテリBの微分値に近似する。図10(G)は、バッテリBの電圧の変動量の変動量を示している。バッテリBの電圧の変動量の変動量は、サンプリング周波数を高めることにより、バッテリBの2回微分値に近似する。
【0082】
図10(E)に示されるように、打込工具10の1サイクルの動作中にモータ20に印加される電圧は変動する。時刻t1においてモータ20が駆動を開始すると、巻線電流が流れるためバッテリBの出力電圧は低下する。起動負荷が大きいために巻線電流が上限値に到達した場合、出力電圧は同図に示されるように低下した状態を維持する。バッテリBの出力電圧の低下量は、打込工具10の仕様等によるが、例えば、3V~8Vである。
【0083】
その後、巻線電流が上限値よりも小さくなると、バッテリBの出力電圧は増加する。しかしながら、時刻t2以降に示されるように、プランジャ32が上死点に近づくほどコイルばね36が圧縮するため、コイルばね36の付勢力は大きくなる。この付勢力に抗してプランジャ32を上死点方向に移動させるため巻線電流が増加する。このため、バッテリBの出力電圧は減少に転じる。このとき図10(F)に示されるようにバッテリBの電圧の変動量は、負の値を有する場合がある。
【0084】
時刻t3においてプランジャ32が上死点に到達する。この時、プランジャ32とギア22の係合は解除される。このため圧縮状態にあったコイルばね36は、一気に伸長する。移動部材38はコイルばね36の他端と共に、コイルばね36の伸長方向に相当する離反方向DR2に移動する。移動部材38はワイヤ40によってプランジャ32に接続されているため、移動部材38が離反方向DR2に移動することに連動してプランジャ32及びドライバ34は打ち出し方向DR1に移動する。
【0085】
図11は、時刻t3においてプランジャ32が上死点に到達したときのバッテリBの電圧及びバッテリBの電圧の変動量の拡大図である。同図に示されるようにプランジャ32が上死点に到達したとき、コイルばね36による付勢が解除されモータ20の付加が急減するため、モータ電流は急減しバッテリBの出力電圧は急増する瞬間が現れ、然る後バッテリBの出力電圧は緩やかに増加する。このためプランジャ32が上死点に到達したことに基づいて、時刻t4においてバッテリBの出力電圧の微分値は極大点となる。時刻t5において変曲点検出部50B3は、この極大点に基づいてバッテリ電圧の変曲点を検出する。変曲点検出部50B3が変曲点を検出するためには、バッテリBの出力電圧の2回微分値(電圧変動量の変動量)が負であることを検出する必要があるため、時刻t4と時刻t5との間には時差が生じる。そのため、本実施形態において、変曲点検出部50B3は、プランジャ32が下死点に到達し、下死点から上死点に移動中に(又はプランジャ32が下死点から待機位置に移動中に)極大点を検出するように構成されている。
【0086】
時刻t5において回転速度取得部50B4は、変曲点検出部50B3が変曲点を検出した時のモータ20のロータの時間当たりの回転数(回転速度)を示す情報を取得する。
【0087】
同じく時刻t5においてブレーキ制御時間決定部50B5は、回転速度取得部50B4から取得したモータ20の回転速度に基づいて、ブレーキ開始タイミングを決定する。具体的には、CPU50Bの不揮発性の半導体メモリに、回転速度に基づいてブレーキ開始タイミングを決定するためのルックアップテーブルを記憶させてもよい。
【0088】
同じく時刻t5においてブレーキ制御時間決定部50B5がブレーキ開始タイミングを決定すると、CPU50Bのカウンタは、カウントアップを開始する(図10(H))。
【0089】
プランジャ32が上死点から下死点に移動している間、CPU50Bは、モータ20のロータを回転させるための制御信号をインバータ回路50Aに供給するので、モータ20のロータは回転を継続する。モータ20の回転を妨げる力が解放されるため、モータ20のロータの回転速度は増加する場合がある。プランジャ32が下死点付近に到達するとき(又は到達する直前)に、プランジャ32と共に打ち出し方向DR1に移動するドライバ34は、ノーズ部12Dに供給されるファスナFを打ち出し方向DR1に打ち出す。ファスナFは、射出口12Aから打ち出される。
【0090】
プランジャ32が下死点に到達すると、モータ20のロータと同期して回転する第1ギア22Aは、プランジャ32のギア係合部32A1と係合するように構成されている。このため、プランジャ32は、下死点から上死点に向かって移動を開始する。プランジャ32の上死点方向への移動に伴って、コイルばね36は、圧縮される。
【0091】
時刻t6において、CPU50Bのカウントが所定値に到達すると、CPU50Bは、モータ20の回転を減速させるための減速制御、例えば、減速制御の一例として、ブレーキ制御を開始する。具体的には、CPU50Bは、通常回転時よりもデューティ比が小さいPWM信号を生成し、インバータ回路50Aの各スイッチング素子に出力する。
【0092】
CPU50Bによる減速制御によりモータ20のロータの回転速度は大きく減少する。このときモータ20の減速に伴い回生電力が発生するため、図10(E)に示されるようにバッテリBの電圧は更に増加する。
【0093】
なお、図10(D)に示されるように、回転速度が減少しても、モータ20は回転しているため、プランジャ32は、緩やかに上死点に向かって移動を継続する。
【0094】
なお、モータ20のロータの回転速度を減少させるための減速制御は、様々な方法を採用することが可能である。例えば、インバータ回路の上アームへの通電をオフし、下アームのみに通電する短絡ブレーキ(ショートブレーキ)を採用しても良い。この場合、制動力(ブレーキ力)は高く、但し、モータ発熱量は大きい。また、回生ブレーキを利用することができない。
【0095】
また、インバータ回路の上アームへの通電をオフし、下アームのみに通電するためのPWM信号を生成し、これに基づいて下アームのみに通電することにより、短絡ブレーキにチョッパ制御(チョッパブレーキ)を施しても良い。この場合、短絡ブレーキと比較して、制動力(ブレーキ力)は低下するが、モータ発熱量を抑えることが可能になる。また、回生ブレーキを利用することが可能になる。
【0096】
更に、インバータ回路の上アーム及び下アームへの通電をオフするオープンブレーキを採用してもよい。この場合、制動力は大きく低下するが、モータ発熱量も大きく抑えることが可能になる。また、回生ブレーキを利用することができない。
【0097】
その後、時刻t7において、モータ20のロータは、回転を停止する。モータ20の回転を停止させるタイミングは、適宜設定可能である。例えば、CPU50Bが所定のパターンに従った制御信号をインバータ回路50Aに出力すれば、モータ20が停止するようなブレーキ制御用の制御信号パターンを準備してもよい。
【0098】
図12は、以上の一連のプロセスのうち、プランジャ32の停止位置を制御するためのプロセスを示すフローチャートである。
【0099】
ステップS10において、CPU50Bは、基準位置を検出するためのプロセスを開始する。なお、基準位置の検出プロセスは、必ずしも、モータ20の駆動開始時点である時刻t1から開始しなくてもよい。例えば、モータ20の駆動開始後、カウンタを用いて所定時間経過後(例えば、プランジャ32が上死点に到達する前のタイミング)に、基準位置の検出プロセスを実行してもよい。
【0100】
次いでCPU50Bの電圧情報取得部50B1は、バッテリBの電圧情報を取得し(ステップS11)、電圧変動情報取得部50B2は、取得された電圧情報に基づいて、バッテリBの電圧変動情報を取得する(ステップS12)。
【0101】
CPU50Bの変曲点検出部50B3は、電圧変動量が極大点であるか否かを判断する(ステップS13)。具体的には、電圧変動情報取得部50B2が取得した電圧変動情報に基づいて電圧変動量の変動量が0以上であるか否かを判断する。極大点でない場合(NO)、ステップS11以降を定期的に繰り返す。なお、極大点の判断ロジックは、種々設定可能である。例えば、電圧変動量の変動量が2連続で正であり、続く電圧変動量の変動量が2連続で負の場合に、極大点を迎えたと判断してもよい。
【0102】
極大点である場合(YES)、CPU50Bは、プランジャ32の基準位置として上死点を検出したと判断する(ステップS14)。
【0103】
CPU50Bの回転速度取得部50B4は、上死点が検出されたときのモータ20の回転速度情報を取得し(ステップS15)、ブレーキ制御時間決定部50B5は、モータ20の回転速度に基づいてブレーキ開始タイミングを決定する(ステップS16)。例えば、ステップS15において取得されたロータの回転速度が大きい場合、ブレーキ開始タイミングが早くなるように閾値を小さく設定し、ロータの回転速度が小さい場合、ブレーキ開始タイミングが遅くなるように閾値を大きく設定する。打込工具10の各部品の経時変化等に応じて同様の打ち込みを実行しても、プランジャ32の速度及びモータ20のロータの回転速度等はばらつきを有する場合がある。そこで、打込工具10は、モータ20のロータの回転速度を取得し、これに基づいてモータ20を制御するように構成されている。ここでCPU50Bが制御に使用するロータの回転速度は、プランジャ32が下死点に到達した後のロータの回転速度である。モータ20のロータの回転速度は、プランジャ32が下死点に到達した後の方が大きくなり、従って、ロータの回転速度のばらつきが大きくなるため、プランジャ32が下死点に到達した後のロータの回転速度を示す情報に基づいてモータ20を制御することにより、プランジャ32の停止位置をより安定させることが可能になる。なお、回転速度に基づいて、減速制御を開始するための基準となるブレーキ開始タイミングを決定するためのロジックは、実際の打込工具の構成に応じて、適宜設計することが可能である。
【0104】
更にCPU50Bは、ステップS17においてカウントアップが開始されたカウント値が、ブレーキ開始タイミングに基づいて設定された閾値以上になったか否かを判断する(ステップS18)。
【0105】
ステップS18においてカウント値が、閾値以上になったと判断された場合(YES)、CPU50Bは、モータ20の回転を減速させるための減速制御(例えば、ブレーキ制御)を開始する(ステップS19)。ブレーキ制御方法の一例は、上述したので説明を省略する。
【0106】
なお、ステップS18においてカウント値が閾値以上と判断されなかった場合(NO)、定期的にステップS18が再実行される。
【0107】
CPU50Bがブレーキ制御を完了すると、CPU50Bを含む制御部50は、モータ20の制御を終了する(ステップS20)。このとき、モータ20のロータは、回転を停止する。また、プランジャ32は、停止位置(待機位置)に停止する。
【0108】
なお、ファスナを連続的に打ちこむ場合、図10における時刻t1以降の動作が繰り返される。
【0109】
以上のような打込工具10において制御部50は、モータ20に印加される電圧の変動量に基づいて、モータ20を制御するように構成されている。このため、バッテリ電圧の低下や部品の経時変化等に起因して回転速度の絶対値にばらつきが生じる場合であっても、プランジャの停止位置を安定させることが可能となる。従って、停止位置から打ち込みを実行するまでのレスポンスタイムのばらつきを低減することが可能となる。
【0110】
更に、上死点を検出するためのセンサ(典型的には、マイクロスイッチ)を削減することも可能になる。打込工具には、高い防塵及び防水性能が求められるため、マイクロスイッチを、粉塵、機械油、外部からの水の侵入等を考慮して適切に設置する必要がある。しかしながら、打ち込み時の衝撃のためにマイクロスイッチの機械接点が摩耗するにつれチャタリングが発生する問題や、センサが正常に上死点を検出することができなくなる問題が生じる。チャタリング対策としてフィルタ回路を設けることも考えられるが、フィルタリングにより信号確定までのタイムラグが発生する。本実施形態に係る打込工具10によれば、マイクロスイッチを用いることなくモータを制御することが可能になる。但し、マイクロスイッチを設置し、マイクロスイッチから取得される情報と併せて、モータ及びプランジャ位置を制御するように変形してもよい。
【0111】
同様に、ホールICを削減することも可能になる。ホールICにも、マイクロスイッチと同様に防塵性能及び防水性能が求められるため、ホールICの設置は、打ち込み装置の大型化及び高コスト化につながる。本実施形態に係る打込工具10によれば、ホールICを用いることなくモータを制御することが可能になる。但し、ホールICを設置し、回転速度の変動量を示す情報をホールICからの情報に基づいて取得し、これに基づいて、モータ及びプランジャ位置を制御するように変形してもよい。
【0112】
なお、制御部50は、電圧の変動量を示す情報として電圧変動の極大点を検出し、これをモータ20の制御に利用したがこれに限られるものではない。例えば、電圧変動量が閾値を越えた時を検出し、これをモータの制御に利用してもよい。このような態様の場合であっても、バッテリの消耗等に起因する電圧の絶対値のばらつきの影響を軽減することが可能になる。あるいは、電圧変動のその他の変曲点を検出し、これをモータの制御に利用してもよい。更に、想定される電圧変動の波形を予め準備しておき、実際の電圧変動波形と比較してこれに基づいてモータを制御してもよい。但し、電圧変動の極大点は、プランジャが上死点から下死点に移行する時に発生する特徴であるため、極大点を検出することにより、プランジャの安定的な位置制御が容易になる。
【0113】
更に、本出願の発明者らは、電圧の変動量が同様であっても、モータの回転速度の絶対値が異なる場合がある点に着目し、回転速度に基づいて、プランジャ位置を制御する構成を採用した。例えば、打込工具の主要部品の摩耗により、同じタイミングにもかかわらず、ロータの回転速度が異なる場合がある。そこで電圧変動量に加え、モータの回転速度に基づいて、プランジャ位置を制御した。このように構成することにより、より精度良くプランジャの停止位置を制御することが可能になる。
【0114】
例えば、モータの回転速度の絶対値が大きい場合、通常のブレーキ制御を実行してしまうと、想定よりも上死点側にプランジャが停止する場合がある。一方でモータの回転速度の絶対値が小さい場合、通常のブレーキ制御を実行してしまうと、想定よりも下死点側にプランジャが停止する場合がある。そこで、所定のタイミングにおけるロータの回転速度に基づいて、モータを制御することにより、ロータの回転速度のばらつきによるプランジャに停止位置のばらつきを抑制することが可能になる。
【0115】
また、本実施形態に係る打込工具10は、相電圧に基づいてモータの回転速度を示す情報を取得したが、例えば、相電流に基づいてモータの回転速度を示す情報を取得するように構成してもよい。
【0116】
更に打込工具10は、ブレーキ開始タイミングを決定する手段として、カウンタを利用したが、これに限られるものではなく、例えば、モータ20の回転量(回転回数)を計測し、これに基づいて、ブレーキ開始タイミングを決定してもよい。例えば、上死点検出から、モータ20が20回転したときにブレーキ開始タイミングを決定するような打込工具を構成してもよい。モータ20の回転量を計測する手段は、例えば、回転速度取得部50B4を利用し相電圧変化に基づいて回転量を計測してもよいし、ホールIC等を利用して回転量を計測してもよい。
【0117】
なお、モータによって駆動されるギア等を用いてプランジャを移動させ、上死点において、ギア等とプランジャの係合を解除させてプランジャを下死点に向かって移動させる手段は、様々な技術を使用することが可能である。例えば、上述した特許文献1乃至特許文献2に記載されている手段を採用してもよい。
【0118】
また、本発明は、当業者の通常の創作能力の範囲内で、さまざまな変形が可能である。例えば、釘以外のファスナを打ち込む打込工具に本発明を適用することが可能である。
【0119】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態に係る打込工具について説明する。他の実施形態と同様又は類似する機能を有する構成要素については、同様の名称を付して説明を省略する。
【0120】
第1実施形態に係る打込工具10は、電圧変動情報及びモータ20の回転速度情報に基づいてブレーキ開始のタイミングを決定することによりモータ20を制御する構成を備える。
【0121】
本実施形態に係る打込工具は、電圧変動情報及びモータの回転速度情報に基づいて減速制御時の制御パターンを決定することによりモータを制御する構成を備える。かかる制御パターンを利用する期間は、一定期間であっても、変動期間であってもよい。一例として、本実施形態に係る打込工具は、電圧変動情報及びモータの回転速度情報に基づいて、PWM信号のデューティ比を異ならせた制御パターンを選択することによりモータを制御する構成を備える。より具体的には、電圧変動情報及びモータの回転速度情報に基づいて、モータの回転速度が第1回転速度のときには、モータの回転を減速させるためのブレーキ・デューティが、モータの回転速度が第1回転速度より小さい第2回転速度のときのブレーキ・デューティより大きい制御信号をモータのインバータ回路に供給するように構成される。
【0122】
このような打込工具によっても、電圧変動情報に基づいてプランジャの位置制御をするから、プランジャの待機位置を安定させることが可能になる。
【0123】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態に係る打込工具について説明する。他の実施形態と同様又は類似する機能を有する構成要素については、同様の名称を付して説明を省略する。
【0124】
第1実施形態に係る打込工具10は、電圧変動情報に基づいてモータ20を制御する構成を備える。本実施形態に係る打込工具は、電流変動情報及びモータの回転速度情報に基づいて減速制御時の制御パターンを決定することによりモータを制御する構成を備える。
【0125】
図13は、時刻t0~t7を含む打込工具の1サイクルにおけるバッテリBの出力電圧と、巻線電流を示すグラフである。本出願の発明者らは、このグラフに示されるように、バッテリBの出力電圧と巻線電流は相関性を有する。特にバッテリBの出力電圧の包絡線A1と巻線電流の包絡線A2は、対称的な形状を有する点に本出願の発明者らは、着目した。
【0126】
そこで本実施形態に係る打込工具は、プランジャ32の移動中におけるモータ20に流れる電流の変動量を示す電流変動情報を取得するための電流変動情報取得手段を備え、電流変動情報に基づいてモータ20を制御するように構成される。打込工具は更に、電流変動情報に基づいて電流変動の極小点を検出し、極小点の検出時を基準としてモータ20の制御を行うように構成されてもよい。プランジャ32が上死点に到達したとき、負荷が急減するために電流変動は極小点を有する。このため、電流変動の極小点を検出することによりプランジャ32が上死点に到達したことを推測することが可能である。
【0127】
なお、制御部50は、電流の変動量を示す情報として電流変動の極小点を検出し、これをモータ20の制御に利用したがこれに限られるものではない。例えば、電流変動量が閾値を越えた時を検出し、これをモータの制御に利用してもよい。このような態様の場合であっても、バッテリの消耗等に起因する電圧の絶対値のばらつきの影響を軽減することが可能になる。あるいは、電流変動のその他の変曲点を検出し、これをモータの制御に利用してもよい。更に、想定される電流変動の波形を予め準備しておき、実際の電流変動波形と比較してこれに基づいてモータを制御してもよい。但し、電流変動の極小点は、プランジャが上死点から下死点に移行する時に発生する特徴であるため、極小点を検出することにより、プランジャの安定的な位置制御が容易になる。
【0128】
電流変動情報の基礎となる電流情報を取得するための手段としては、知られた電流検出回路を用いることが可能である。具体的には、巻線電流の一部を抵抗素子に流すことにより巻線電流に応じた微小電圧を発生させ、電圧増幅回路により増幅してCPU50Bに供給することにより、電流情報を取得することが可能となる。また、CPU50Bは、電圧情報取得部及び電圧変動情報取得部に替えて、又は、これらに追加して電流情報取得部及び電流変動情報取得部を備えてよい。また、CPU50Bに搭載される変曲点検出部は、電流変動情報が負から正になったときに極小点を検出することが可能である。これら構成は、CPU50Bに搭載されるプロセッサ(計算機)が、不揮発性(非一時的(Non-transient)と呼ばれる場合もある。)に情報を記憶可能な半導体メモリに格納されるコンピュータプログラムを実行することにより実現可能である。
【0129】
[第4実施形態]
以下、第4実施形態に係る打込工具について説明する。他の実施形態と同様又は類似する機能を有する構成要素については、同様の名称を付して説明を省略する。本出願の発明者らは、モータの特性が、温度によって変動する点に着目した。モータ(特に、ブラシレスモータ)は、高負荷の領域において、高温になると常温の場合と比較して、回転数が低下する。一方で、低負荷の領域において、高温になると常温の場合と比較して、回転数が増加するという特性を有する。
【0130】
一方、各実施形態に係る打込工具等において、上死点近傍においてモータは高負荷であり、その後の減速制御開始時においてモータは低負荷である。このため、高温時において、上死点近傍におけるモータの回転速度は常温時の回転速度より小さく、一方で、減速制御期間におけるモータの回転速度は常温時より大きい。このため、常温(低温)のときと同一の減速制御を高温時に適用すると、プランジャの停止位置が上死点側にずれてしまう可能性がある。
【0131】
そこで、本実施形態に係る打込工具は、他の実施形態に係る打込工具に更にモータの温度を示す温度情報を取得する温度センサを備え、この温度情報に基づいてモータを制御する制御手段を備える。より具体的には、常温(低温)時に適用する低温時停止制御と、高温時に適用する高温停止制御は、異なるものとなる。仮に、常温時に高温停止制御を適用すると、プランジャは、本来の停止位置より下死点側に停止し、仮に、高温時に常温停止制御を適用すると、プランジャは、本来の停止位置より上死点側に停止する。例えば、停止判断時間を温度情報に基づいて補正し、高温の場合、常温(低温)の場合と比較して、停止判断時間を小さく設定する。なお、停止判断は時間でなく、モータの回転量で行っても良い。この場合、実際のモータ回転量が所定のモータ回転量に到達したときに、停止判断を実行するように制御手段は構成される。所定のモータ回転量は、温度に応じて補正される。
【0132】
このような構成を採用することにより、プランジャの停止位置を安定させることが可能になる。上記構成は、第1実施形態に係る打込工具10に適用してもよいし、それ以外の打込工具に適用してもよい。また、温度検出は、モータ温度を検出する様に構成しても良いし、モータ温度と相関性を有する情報(例えば、インバータ回路近傍の温度、スイッチング素子の温度、基板上の温度など)でも良い。例えば、モータの温度を示す温度情報を取得することに替えて、モータ以外の他の電装部品(例えば、インバータ回路のスイッチング素子)の温度を取得するように本実施形態に係る打込工具を変形し、取得された温度情報に基づいてモータを制御するように構成してもよい。
【0133】
また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。たとえば、当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態に追加することができる。また、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態の対応する構成要素と置換することができる。
【0134】
例えば、第3実施形態に係る打込工具において、第1実施形態に係る打込工具に搭載され得る一部の構成要素を適用させてもよい。
【符号の説明】
【0135】
10 打込工具
12 ハウジング
12A 射出口
12B グリップ部
12C 架橋部
12D ノーズ部
12E トリガ
12F トリガ付勢部材
14 マガジン
14A プッシャ
20 モータ
22 ギア
22A 第1ギア
22B 第2ギア
24 PCB基板
30 プランジャアセンブリ
32 プランジャ
32A 第1側壁部
32A1 ギア係合部
32A2 ワイヤ係合部
32B 第2側壁部
32C 第3側壁部
32C1 ドライバ係合部
32D 第4側壁部
34 ドライバ
36 コイルばね
36A コイルばねの一端
36B コイルばねの他端
38 移動部材
38A ピン
38B 円環部
40 ワイヤ
42 プーリ
44 シリンダ
44A 円筒部
44B 孔
44C キャップ部
46 ガイドレール
B バッテリ
DR1 打ち出し方向
DR2 離反方向
F ファスナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13