(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173802
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】T継手構造、その溶接方法、及び鉄道車両の生産方法
(51)【国際特許分類】
B23K 15/00 20060101AFI20221115BHJP
B61C 17/00 20060101ALI20221115BHJP
B61D 17/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
B23K15/00 501A
B61C17/00 Z
B61D17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079729
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川下 道宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛志
(72)【発明者】
【氏名】片桐 優
(72)【発明者】
【氏名】来栖 修
(72)【発明者】
【氏名】塚本 乾
(72)【発明者】
【氏名】田中 行平
【テーマコード(参考)】
4E066
【Fターム(参考)】
4E066CA09
4E066CA14
(57)【要約】
【課題】 T継手の縦板側からのビーム溶接を可能にするT継手構造を提供する。
【解決手段】 縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手構造であって、溶接部の長手方向に沿う位置に、縦板と一体又は別体の凸条が設けられ、凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となり溶接部を溶接し、溶接前における凸条の外面のうち、横板との接触面でない露出面よりも外側に、溶接後の溶接金属が盛り上げた。また、溶接前における凸条の外面のうち、横板との接触面でない露出面は、接触面と平行である。あるいは、溶接前の凸条で、横板との接触面でない露出面は、接触面に対して鋭角で交わっても良い。また、凸条は、溶接前から縦板と一体形成されているか、溶接前の縦板に別部材を予め接合しても良い。あるいは、溶接前の凸条は、縦板と横板の何れにも属さない別体であっても良い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手構造であって、
前記溶接部の長手方向に沿う位置に、前記縦板と一体又は別体の凸条が設けられ、
該凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となり前記溶接部を溶接し、
溶接前における前記凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面よりも外側に、溶接後の前記溶接金属が盛り上がっている、
T継手構造。
【請求項2】
溶接前における前記凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面は、前記接触面と平行な面を有する、
請求項1に記載のT継手構造。
【請求項3】
溶接前における前記凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面は、前記接触面に対して鋭角で交わる面を有する、
請求1に記載のT継手構造。
【請求項4】
前記凸条は、溶接前から前記縦板と一体形成されている、
請求項2又は3に記載のT継手構造。
【請求項5】
前記凸条は、溶接前の前記縦板に別部材を予め接合して一体形成されている、
請求項4に記載のT継手構造。
【請求項6】
溶接前の前記凸条は、前記縦板と前記横板の何れにも属さない別体の鋳物である、
請求項2又は3に記載のT継手構造。
【請求項7】
前記横板は、鉄道車両用電機品の筐体の上面を形成し、
前記縦板は、前記筐体の上面にT継手の構造をなして溶接される複数の吊り耳の一部を形成する、
請求項1~6の何れか1項に記載のT継手構造。
【請求項8】
縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手の溶接方法であって、
前記溶接部の長手方向に沿う位置に、前記縦板と一体又は別体の凸条を設け、
該凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となり前記溶接部を溶接し、
溶接前における前記凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面よりも外側に、溶接後の前記溶接金属が盛り上げる、
T継手の溶接方法。
【請求項9】
溶接前の前記凸条は、該凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面を、前記接触面と平行に組み合わされる、
請求項8に記載のT継手の溶接方法。
【請求項10】
溶接前の前記凸条は、該凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面を、前記接触面に対して鋭角に面交差させる、
請求項8に記載のT継手の溶接方法。
【請求項11】
前記凸条は、溶接前から前記縦板と一体形成されている、
請求項9又は10に記載のT継手の溶接方法。
【請求項12】
前記凸条は、溶接前の前記縦板に別部材を予め接合して一体形成されている、
請求項11に記載のT継手の溶接方法。
【請求項13】
前記縦板と前記横板の何れにも属さない別体の鋳物でなる前記凸条を組み合わせて溶接する、
請求項9又は10に記載のT継手の溶接方法。
【請求項14】
鉄道車両用電機品の筐体の上面を前記横板で形成し、
前記筐体の上面にT継手構造で溶接される複数の吊り耳の一部を前記縦板により形成する、
請求項8~13の何れか1項に記載のT継手の溶接方法。
【請求項15】
縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせた溶接部をT継手構造で溶接した部材を用いる、
鉄道車両の生産方法であって、
鉄道車両用電機品が収納された筐体の上面が横板で形成され、
複数の吊り耳の一部が形成された縦板を、前記筐体の上面にT継手構造で溶接するために、
長手方向に延在する溶接部に沿う位置に、前記縦板と一体又は別体の凸条を設け、
該凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となって前記溶接部を溶接し、
溶接前に前記凸条の外形をなしていた面のうち、前記横板との接触面でない露出面よりも外側に、溶接後の前記溶接金属を盛り上げる、
鉄道車両の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビーム溶接に対応したT継手構造、その溶接方法、及びそれを適用した鉄道車両の生産方法、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子銃で発生させる高密度エネルギーを対象箇所に照射し、高温溶融させて行う電子ビーム溶接(electron beam welding)のほか、レーザビーム溶接(Laser beam welding)(まとめて「ビーム溶接」と略称する)が、精密で高品質、しかも高能率である点で、自動車や航空機の部品等に適用されている。しかし、一般的に、このビーム溶接に用いる電子銃は大掛かりな天吊り構造であるため、溶接部の真上から垂下させる方向にビーム照射させるロボット施工に限られる。
【0003】
そのため、ビーム溶接では、ビーム照射方向に対する自由度に制約がある。例えば、1つの板の端面を他の板の表面に載せてT形に溶接するT継手には、斜め方向の隅肉溶接が必要であるため、斜め方向にビーム照射することが困難なため、自由度の高い手作業を交えたアーク溶接等による補完を必要とする場合が多かった。これに対し、ビーム溶接を前提とした、特許文献1に記載のT継手の貫通溶接方法により、T継手の裏面から高エネルギー密度のビームを照射する接合方法が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたT継手の貫通溶接方法は、斜め方向の隅肉溶接に代えて、T継手の裏面、すなわち縦板の反対側から溶接を行うことになるので、対象物の形態によっては、縦板方向からの溶接作業を必要とする場合、現行構造のままではビーム溶接が困難であった。
【0006】
したがって、対象物の形態によっては、ビーム溶接だけでは目的を達成できず、従来のアーク溶接等に依存せざるを得ない一面もあった。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、T継手の縦板側からのビーム溶接を可能にするT継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明は、縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手構造であって、溶接部の長手方向に沿う位置に、縦板と一体又は別体の凸条が設けられ、凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となり溶接部を溶接し、溶接前における凸条の外面のうち、横板との接触面でない露出面よりも外側に、溶接後の溶接金属を盛り上がっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、T継手の縦板側からのビーム溶接を可能にするT継手構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例1に係るT継手構造を適用して吊り耳を平板に溶接する組立構成の斜視図である。
【
図2】
図1の組立構成における接合部を説明するための拡大斜視図である。
【
図3】
図2の破線で示した接合部を説明するための要部拡大断面図である。
【
図4】比較例に係るT継手構造を適用して吊り耳を平板に溶接する組立構成の斜視図である。
【
図5】
図4の破線で示した接合部にアーク溶接を適用した場合の要部拡大断面図である。
【
図6】
図4の破線で示した接合部にビーム溶接を適用する場合の要部拡大断面図である。
【
図7】
図3の凸条断面に傾斜を設けた変形例であり、その要部拡大断面図である。
【
図8】本発明の実施例2に係る蹄鉄状の凸条部材を用いたT継手構造を適用して、吊り耳と筐体との溶接を説明するための斜視図である。
【
図9】
図8の凸条部材を用いた吊り耳のT継手構造を示す斜視図である。
【
図10】
図8及び
図9の凸条部材を用いたT継手構造に対する一般的なビーム溶接を説明するための拡大斜視図である。
【
図11】
図10を吊り耳に特化した変形例であり、斜め方向のビーム照射を説明するための拡大斜視図である。
【
図12】
図8及び
図9の凸条部材を用いたT継手構造に対するビーム溶接を説明するための拡大斜視図である。
【
図13】
図8及び
図9の凸条部材の断面を三角形に形成した変形例であり、その要部拡大断面図である。
【
図14】本発明の実施例3に係るT継手構造を適用して吊り耳を平板に溶接する組立構成の斜視図である。
【
図15】
図14の破線で示した接合部を説明するための要部拡大断面図である。
【
図16】
図15に対し凸条部材の断面を三角形に形成した変形例であり、その要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
【実施例0011】
図1は、本発明の実施例1に係るT継手構造(以下、「本構造」ともいう)を適用して吊り耳2を筐体3に溶接する組立構成の斜視図である。
図1に示すように、鉄道車両用電機品1を主要構成する筐体3には電力制御に必要なパワーユニット(図示せず)などが搭載される。
図1では吊り耳2が4つの場合を示しているが、吊り耳2の数は、4つに限定されるものではない。
【0012】
図2は、
図1の組立構成における接合部を説明するための拡大斜視図である。
図2に示すように、上段が正面斜視図、下段が背面斜視図である。筐体3の上面を構成する平板(以下、「上面」、「横板4」又は「平板」という)4に吊り耳2が接する面に沿うような、縦板5の端部に凸条6が設けられる。
【0013】
図3は、
図2の破線で示した接合部を説明するための要部拡大断面図である。
図3に示す縦板5に凸設した凸条6に電子ビームを照射することにより、凸条6の端部を溶融させた接金属7によって、縦板5を平板4に接合している。ビーム溶接の性質により、溶融した金属が電子ビームの照射位置に寄り集まるため、凸条6における接触面と対向する面よりも、溶接金属7が盛り上がった形状を理想的な本構造とする。
【0014】
ここで、
図4~
図6を用いて比較例を説明する。比較例と比較することにより、実施例1で得られる効果について説明する。
図4は、比較例に係るT継手構造を適用して吊り耳2を平板4に溶接する組立構成の斜視図である。
図4及び
図5において、比較例における吊り耳2と平板4との接合部を示す。比較例は、実施例1と異なり、吊り耳2の縦板5に凸条6を設けない。
【0015】
図5及び
図6に比較例における縦板5と平板4との接合部断面の模式図を示す。
図5は、
図4の破線で示した接合部にアーク溶接を適用した場合の要部拡大断面図である。
図6は、
図4の破線で示した接合部にビーム溶接を適用する場合の要部拡大断面図である。
図5に示すように、手作業によるアーク溶接によれば、比較例の構造のままでも、斜めから施工を行うことができるため、凸条6がなくても、溶接金属7によって縦板5と平板4とを接合できる。
【0016】
一方、ビーム溶接の場合は、真空チャンバー内で施工されるため、手作業による溶接ができない。したがって、真空チャンバーの天井面からのロボット施工、すなわち
図6に示すように、真上からの電子ビーム照射による施工に限られる。そのため、
図6に比較例として示した現行構造のままでは、ビーム溶接による接合が困難である。
【0017】
さらに、
図5のアーク溶接により、縦板5と平板4とを、直に接合する場合、応力集中部となるL字部8は、強度的に弱い溶接金属7で大部分を支持する構成であるため、接合強度の脆弱さが懸念される。これらの課題を解決するため、
図1~
図3の実施例1に示したように、吊り耳2の縦板5に凸条6を設けた構造を導入した。
【0018】
このような構造により、真上からの電子ビーム照射によって、凸条6の端部を溶融させて、吊り耳2と平板4とを強固に接合できる。すなわち、縦板5に凸条6を設けた実施例1の構造は、L字部8から離れた場所に溶接金属7を配置できるため、接合強度の低下を防止できる。さらに、凸条6を溶融させて溶接金属7にするため、溶接金属7の不足によるアンダーカットを抑制できる。
【0019】
なお、
図3で示した縦板5と平板4との接合部の断面を示す模式図において、凸条6の断面形状を矩形としたが、本発明は矩形に限定されるものではない。
図7は、
図3の凸条6断面に傾斜を設けた変形例であり、その要部拡大断面図である。
図7に示すように、凸条6の断面を例えば三角形にした場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0020】
また、吊り耳2の製造方法について説明する。比較例の吊り耳2については、板金の曲げ加工によって製造することが多い。一方、実施例1の吊り耳2は、まず、板金の曲げ加工で製造した比較例と同様のものに対し、追加工としての機械加工によって凸条6を凸設する製造方法がある。さらに、実施例1の吊り耳2として、別工程により鋳造した凸条6を付設する製造方法などもある。
しかし、懸垂固定式の筐体3を用いた製品の量産においては、多数の吊り耳2を必要とするため、一括して予備加工された多数の吊り耳2を、筐体3に順次溶接する生産方法が有益である。したがって、吊り耳2と凸条部材9の接合に特化した特別な予備加工工程を量産において採用することで、生産効率を向上できる。