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特開2022-173811光ファイバの処理装置および処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173811
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】光ファイバの処理装置および処理方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20221115BHJP
   C03C 25/607 20180101ALI20221115BHJP
【FI】
G02B6/02 376A
C03C25/607
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079763
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 仁広
(72)【発明者】
【氏名】椿山 仁士
【テーマコード(参考)】
2H250
4G060
【Fターム(参考)】
2H250AA08
2H250AB04
2H250AB05
4G060AD12
4G060AD41
(57)【要約】
【課題】装置の大型化を抑制しつつ、重水素含有ガスの回収および再利用を行う。
【解決手段】処理槽は、光ファイバを内部に収容する。ガス供給装置は、処理槽に重水素含有ガスを供給する。ポンプは、処理槽内の重水素含有ガスを吸引する。昇圧ユニットは、ポンプから排出される前記重水素含有ガスの圧力を昇圧する。配管は、昇圧ユニットで昇圧された前記重水素含有ガスを前記処理槽に供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを内部に収容する処理槽と、
前記処理槽に重水素含有ガスを供給するガス供給装置と、
前記処理槽内の前記重水素含有ガスを吸引するポンプと、
前記ポンプから排出される前記重水素含有ガスの圧力を昇圧する昇圧ユニットと、
前記昇圧ユニットで昇圧された前記重水素含有ガスを前記処理槽に供給する配管と、
を備えている、光ファイバの処理装置。
【請求項2】
前記配管に設けられたフィルタユニットをさらに備えている、請求項1に記載の光ファイバの処理装置。
【請求項3】
複数の前記処理槽を備えている、請求項1または請求項2に記載の光ファイバの処理装置。
【請求項4】
処理槽に光ファイバを収容する第一ステップと、
前記第一ステップの後、前記処理槽内に配管を通して重水素含有ガスを供給する第二ステップと、
前記第二ステップの後、前記処理槽に収容された前記光ファイバを前記重水素含有ガスの雰囲気に曝す第三ステップと、
前記第三ステップの後、前記処理槽内の重水素含有ガスを吸引し、吸引した前記重水素含有ガスを昇圧して、前記配管に戻す第四ステップと、
を有している、光ファイバの処理方法。
【請求項5】
前記第二ステップは、大気圧の状態である前記処理槽内において前記重水素含有ガスを吹き流すステップを有している、請求項4に記載の光ファイバの処理方法。
【請求項6】
前記第一ステップの後で第二ステップの前に、前記処理槽内の圧力が絶対圧で20kPa以上90kPa以下の範囲になるように、前記処理槽を減圧する第五ステップを有している、請求項4または請求項5に記載の光ファイバの処理方法。
【請求項7】
前記第四ステップにおいて、前記処理槽内の圧力が絶対圧で20kPa以上90kPa以下の範囲になるように、前記処理槽内の重水素含有ガスを吸引する、請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の光ファイバの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバの処理装置および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、光ファイバが巻回されたボビンを収容する反応槽を減圧し、当該反応槽内に重水素(D2)含有ガスを導入して光ファイバを重水素含有ガスに曝す光ファイバの処理方法を開示している。この処理方法では、さらに、反応槽内の重水素含有ガスを回収して貯蔵槽に貯蔵することにより、重水素含有ガスの回収および供給が行われている。
【0003】
特許文献2は、光ファイバが巻回されたボビンを収容する反応容器を減圧し、当該反応容器内に重水素含有ガスを導入して光ファイバを重水素含有ガスに曝す光ファイバの処理装置を開示している。この処理装置は、さらに、反応容器内の重水素含有ガスを回収して貯蔵する貯蔵容器を備えており、吸引ポンプを利用して重水素含有ガスの回収および供給を行っている。
【0004】
特許文献3および特許文献4は、ボビンに巻回された光ファイバを密閉容器内に配置し、重水素ガスを供給して密閉容器内のガスを重水素含有ガスで置換し、密閉容器内の光ファイバを重水素含有ガスに曝す光ファイバの処理方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/062088号公報
【特許文献2】特開2005-301118号公報
【特許文献3】特開2019-127412号公報
【特許文献4】特開2005-292465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、装置の大型化を抑制しつつ、重水素含有ガスの回収および再利用を行うことが可能な光ファイバの処理装置および処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の光ファイバの処理装置は、
光ファイバを内部に収容する処理槽と、
前記処理槽に重水素含有ガスを供給するガス供給装置と、
前記処理槽内の前記重水素含有ガスを吸引するポンプと、
前記ポンプから排出される前記重水素含有ガスの圧力を昇圧する昇圧ユニットと、
前記昇圧ユニットで昇圧された前記重水素含有ガスを前記処理槽に供給する配管と、
を備えている。
【0008】
本開示の光ファイバの処理方法は、
処理槽に光ファイバを収容する第一ステップと、
前記第一ステップの後、前記処理槽内に配管を通して重水素含有ガスを供給する第二ステップと、
前記第二ステップの後、前記処理槽に収容された前記光ファイバを前記重水素含有ガスの雰囲気に曝す第三ステップと、
前記第三ステップの後、前記処理槽内の重水素含有ガスを吸引し、吸引した前記重水素含有ガスを昇圧して、前記配管に戻す第四ステップと、
を有している。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、装置の大型化を抑制しつつ、重水素含有ガスの回収および再利用を行うことが可能な光ファイバの処理装置および処理方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る光ファイバの処理装置の構成を示す概念図である。
図2図2は、一実施形態に係る光ファイバの処理方法における処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
本開示の光ファイバの処理装置は、
(1)光ファイバを内部に収容する処理槽と、
前記処理槽に重水素含有ガスを供給するガス供給装置と、
前記処理槽内の前記重水素含有ガスを吸引するポンプと、
前記ポンプから排出される前記重水素含有ガスの圧力を昇圧する昇圧ユニットと、
前記昇圧ユニットで昇圧された前記重水素含有ガスを前記処理槽に供給する配管と、
を備えている。
【0012】
上記構成によれば、処理槽内に供給された重水素含有ガスを回収して再利用することができる。また、再利用する重水素含有ガスを大気圧の状態で貯蔵する場合、専用の大型のガスタンクが必要となる。しかしながら、処理槽から回収された重水素含有ガスは昇圧されるので、重水素含有ガスの貯蔵するための容器の容積を小さくすることができる。これにより、専用の大型のガスタンクが不要となり、例えば、昇圧された重水素含有ガスは、重水素含有ガスを処理槽に供給する配管内に貯蔵されうる。また、処理槽には昇圧された重水素含有ガスが供給されるので、処理槽へ重水素含有ガスを供給する際に使用されるポンプが不要となる。したがって、装置の大型化を抑制しつつ、重水素含有ガスの回収および再利用を行うことが可能な光ファイバの処理装置を提供することができる。
【0013】
(2)前記光ファイバの処理装置は、前記配管に設けられたフィルタユニットをさらに備えてもよい。
【0014】
上記構成によれば、回収されたガスに含まれる塵や埃を除去できるので、処理槽内で再利用された重水素含有ガスの雰囲気に曝される光ファイバに塵や埃が付着することを抑制することができる。
【0015】
(3)光ファイバの処理装置は、複数の前記処理槽を備えてもよい。
【0016】
上記構成によれば、複数の光ファイバに対して同時に重水素処理が実行されるので、光ファイバの生産性が向上する。
【0017】
本開示の光ファイバの処理方法は、
(4)処理槽に光ファイバを収容する第一ステップと、
前記第一ステップの後、前記処理槽内に配管を通して重水素含有ガスを供給する第二ステップと、
前記第二ステップの後、前記処理槽に収容された前記光ファイバを前記重水素含有ガスの雰囲気に曝す第三ステップと、
前記第三ステップの後、前記処理槽内の重水素含有ガスを吸引し、吸引した前記重水素含有ガスを昇圧して、前記配管に戻す第四ステップと、
を有している。
【0018】
上記方法によれば、処理槽内に供給された重水素含有ガスを回収して再利用することができる。また、再利用する重水素含有ガスを大気圧の状態で貯蔵する場合、専用の大型のガスタンクが必要となる。しかしながら、処理槽から回収された重水素含有ガスは昇圧されるので、重水素含有ガスの貯蔵するための容器の容積を小さくすることができる。これにより、専用の大型のガスタンクが不要となり、例えば、昇圧された重水素含有ガスは、重水素含有ガスを処理槽に供給する配管内に貯蔵されうる。また、処理槽には昇圧された重水素含有ガスが供給されるので、処理槽へ重水素含有ガスを供給する際に使用されるポンプが不要となる。したがって、装置の大型化を抑制しつつ、重水素含有ガスの回収および再利用を行うことが可能な光ファイバの処理方法を提供することができる。
【0019】
(5)前記第二ステップは、大気圧の状態である前記処理槽内において前記重水素含有ガスを吹き流すステップを有してもよい。
【0020】
上記構成によれば、大気圧の状態である処理槽内に空気が残っている場合に、吹き流し工程により処理槽内に残った空気を重水素含有ガスで置換することができる。また、回収された重水素含有ガスは昇圧されるので、大気圧の状態である処理槽内にポンプを使うことなく重水素含有ガスを供給することができる。
【0021】
(6)前記光ファイバの処理方法は、前記第一ステップの後で第二ステップの前に、前記処理槽内の圧力が絶対圧で20kPa以上90kPa以下の範囲になるように、前記処理槽を減圧する第五ステップを有してもよい。
【0022】
上記構成によれば、処理槽が減圧されるので、例えば、光ファイバがファイバボビンに巻回されている場合、重水素含有ガスをボビンの巻き芯付近まで行き渡らせることができる。また、減圧量が少ないので、短時間で処理槽を減圧することができる。また、処理槽の減圧時と常圧時の圧力差が大きすぎると、例えば、ファイバボビンに対する光ファイバの巻きが緩むおそれがある。しかしながら、減圧量が少ないので、ファイバボビンに対する光ファイバの巻きが緩むことを抑制することができる。
【0023】
(7)前記第四ステップにおいて、前記処理槽内の圧力が絶対圧で20kPa以上90kPa以下の範囲になるように、前記処理槽内の重水素含有ガスを吸引してもよい。
【0024】
処理槽の減圧時と常圧時の圧力差が大きすぎると、例えば、ファイバボビンに対する光ファイバの巻きが緩むおそれがある。しかしながら、上記構成によれば、減圧量が少ないので、ファイバボビンに対する光ファイバの巻きが緩むことを抑制することができる。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光ファイバの処理装置および処理方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以下の説明に用いられる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0026】
(光ファイバの処理装置)
図1は、一実施形態に係る光ファイバの処理装置1の構成を示す概略図である。光ファイバの処理装置1は、線引きにより製造された光ファイバ10の重水素処理を行い、重水素分子を光ファイバ10中に拡散させるように構成されている。
【0027】
光ファイバ10は、光ファイバ母材を線引きすることにより生成されたガラスファイバの外周に樹脂を被覆することにより製造される。光ファイバ母材は、ガラスファイバの外径が例えば125μmとなるように、線引きされる。ガラスファイバは、例えば、ゲルマニウムまたはゲルマニウムを含む化合物(例えばGeO)が添加されたシリカガラスからなるコア部と、コア部の外周に設けられた高純度シリカガラス(純シリカガラスの一例)からなるクラッド部とを有する。ガラスファイバの周囲に樹脂が被覆された光ファイバは、ファイバボビン11に巻取られる。
【0028】
石英ガラス(シリカガラス)製の光ファイバは、波長が赤外帯域にある伝送光を伝送する光ファイバであり、石英ガラス中に水素(H)ガスが拡散すると伝送損失が増加することが知られている。この伝送損失の増加の主な要因としては、ガラス内に拡散したH分子と石英ガラス内に存在する格子欠陥(Si-O・)との反応生成物(Si-OH)による伝送光の吸収が挙げられる。
【0029】
重水素処理では、ファイバボビン11に巻き取られた光ファイバ10を重水素含有ガスの雰囲気に曝すことにより、重水素によりSi-O結合の欠陥を埋めて、Si-O結合の欠陥に起因する伝送損失の増加を抑制する。
【0030】
光ファイバの処理装置1は、図1に例示されるように、処理槽2と、ガス供給装置3と、真空ポンプ4と、昇圧ユニット5と、ガス流路6とを備えている。真空ポンプ4は、ポンプの一例である。
【0031】
処理槽2は、光ファイバ10を収容する空間2Aを備えており、空間2Aを密閉状態に保つことが可能なように構成されている。本例においては、光ファイバの処理装置1は、二つの処理槽2を備えている。光ファイバ10は、ファイバボビン11に巻回された状態で処理槽2に配置される。なお、処理槽2には、内部の圧力を測定する圧力計などの機器が取り付けられうる。
【0032】
ガス供給装置3は、処理槽2に重水素含有ガスを供給する。重水素含有ガスは、重水素ガスを含有する混合ガス、または、重水素ガス単独のガスを含みうる。ガス供給装置3には、図示しない重水素ガスを蓄えた重水素ガス供給部と希釈ガスを蓄えた希釈ガス供給部とが接続されている。ガス供給装置3は、重水素ガスと希釈ガスとを混合して重水素含有ガスを生成し、重水素含有ガスを処理槽2に供給する。ガス供給装置3は、処理槽2に供給される重水素含有ガス中の重水素ガスの濃度(重水素濃度)が例えば2%になるように、重水素ガスと希釈ガスとの混合比率を制御する。
【0033】
真空ポンプ4は、処理槽2内のガスを吸引する。例えば、真空ポンプ4は、処理槽2内に重水素含有ガスが供給される前に、処理槽2内の空気を吸引して、処理槽2内を減圧状態にする。また、真空ポンプ4は、処理槽2内の光ファイバ10が重水素含有ガスに曝された後に、処理槽2内の重水素含有ガスを吸引する。
【0034】
昇圧ユニット5は、真空ポンプ4から排出された重水素含有ガスの圧力を昇圧する。昇圧ユニット5は、例えば、大気圧以上になるように重水素含有ガスの圧力を昇圧する。
【0035】
ガス流路6は、第一流路61と第二流路62を備えている。第一流路61と第二流路62は、配管の一例である。ガス供給装置3は、第一流路61を介して処理槽2に連通されている。昇圧ユニット5は、第二流路62および第一流路61を介して処理槽2に連通されている。第一流路61には、第一流路61の開閉を切り替えるオン・オフ弁71が設けられている。第二流路62には、第二流路62の開閉を切り替えるオン・オフ弁72が設けられている。
【0036】
ガス流路6は、さらに第三流路63と第四流路64を備えている。真空ポンプ4は、第三流路63を介して処理槽2に連通されている。昇圧ユニット5は、第四流路64を介して真空ポンプ4に連通されている。第三流路63には、第三流路63の開閉を切り替えるオン・オフ弁73が設けられている。第四流路64には、三方弁74が設けられており、三方弁74にはガス排出路65が接続されている。三方弁74は、真空ポンプ4を昇圧ユニット5に連通した状態と、真空ポンプ4をガス排出路65に連通した状態とに切り替える弁である。
【0037】
(光ファイバの処理方法)
次に、図2を用いて、光ファイバの処理装置1を使用して光ファイバに重水素処理を行う光ファイバの処理方法について説明する。図2は、一実施形態に係る光ファイバの処理方法における処理の流れを示す図である。
【0038】
まず、処理槽2内に光ファイバ10が巻回されたファイバボビン11が収納されて(ステップS1)、処理槽2の空間2Aが密閉状態とされる。
【0039】
続いて、処理槽2内が真空ポンプ4により減圧される(ステップS2)。具体的には、オン・オフ弁71、72、73が操作されて、第一流路61および第二流路62が閉状態となり第三流路63が開状態となる。また、三方弁74が操作されて、真空ポンプ4がガス排出路65に接続される。そして、処理槽2内の空気は、第三流路63を介して真空ポンプ4により吸引されて、ガス排出路65を介して大気に放出される。例えば、処理槽2は、処理槽2内の圧力が絶対圧で20kPa以上90kPa以下の範囲になるように、減圧される。
【0040】
続いて、ガス供給装置3により処理槽2内に重水素含有ガスが供給される(ステップS3)。具体的には、オン・オフ弁71、73が操作されて、第一流路61が開状態となり第三流路63が閉状態となる。そして、ガス供給装置3により第一流路61を介して重水素含有ガスが処理槽2内に供給される。ガス供給装置3は、例えば、処理槽2に供給される重水素含有ガス中の重水素ガスの濃度(重水素濃度)が例えば2%になるように、重水素ガスと希釈ガスとの混合比率を制御する。重水素含有ガスが供給されることにより、処理槽2内は大気圧となる。
【0041】
続いて、処理槽2に収容された光ファイバ10が重水素含有ガスの雰囲気に曝される(ステップS4)。具体的には、オン・オフ弁71が操作されて、第一流路61が閉状態となる。そして、処理槽2に収容された光ファイバ10は、重水素濃度が例えば2%である重水素含有ガスの雰囲気に所定時間曝される。すなわち、光ファイバ10に対して重水素処理が行われる。
【0042】
光ファイバ10に対する重水素処理が完了すると、真空ポンプ4により処理槽2内の重水素含有ガスが吸引される。具体的には、オン・オフ弁73が操作されて、第三流路63が開状態となる。そして、真空ポンプ4により第三流路63を介して処理槽2内の重水素含有ガスが吸引される(ステップS5)。
【0043】
真空ポンプ4により吸引された重水素含有ガスは、昇圧ユニット5により昇圧される(ステップS6)。具体的には、三方弁74が操作されて、真空ポンプ4が昇圧ユニット5に接続される。そして、真空ポンプ4により吸引された重水素含有ガスは昇圧ユニット5へ搬送されて、昇圧ユニット5により例えば大気圧以上に昇圧される。昇圧された重水素含有ガスは、例えば、第二流路62内に貯蔵される。
【0044】
続いて、オン・オフ弁73が操作されて、第三流路63が閉状態になる。そして、処理槽2には、図示しない流路から空気が送り込まれ、処理槽2内が大気圧となった後に、光ファイバ10が処理槽2から取り出される(ステップS7)。
【0045】
第二流路62内に貯蔵された重水素含有ガスは、次の重水素処理に再利用される。すなわち、第二流路62内に貯蔵された重水素含有ガスは、新たな光ファイバ10が収容された処理槽2内に供給される。具体的には、処理槽2内が減圧された後、オン・オフ弁71および72が操作されて、第一流路61および第二流路62が開状態になる。そして、第二流路62に貯蔵された重水素含有ガスが第二流路62および第一流路61を介して処理槽2へ供給される。
【0046】
この時、ガス供給装置3は、図示せぬ濃度計により測定された第二流路62に貯蔵されている重水素含有ガスの重水素濃度の測定値に応じて、処理槽2へ重水素含有ガスを排出する。ガス供給装置3から排出された重水素含有ガスは、第一流路61において第二流路62から搬送された再利用される重水素含有ガスと混合されて、処理槽2へ供給される。例えば、再利用される重水素含有ガスの重水素濃度が2%未満の場合、処理槽2へ供給される重水素含ガスの重水素濃度が2%になるように、ガス供給装置3は、排出する重水素含有ガスの重水素濃度を調節する。
【0047】
処理槽2内に重水素含有ガスが供給された後は、上述のように、光ファイバ10に対して重水素処理が行われる。
【0048】
上記のように、本開示の実施形態に係る光ファイバの処理装置1および処理方法は、処理槽2内から排出される重水素含有ガスの圧力を昇圧して、昇圧された重水素含有ガスを処理槽2に供給している。これにより、処理槽2内に供給された重水素含有ガスを回収して再利用することができる。また、再利用する重水素含有ガスを大気圧の状態で貯蔵する場合、専用の大型のガスタンクが必要となる。しかしながら、処理槽2から回収された重水素含有ガスは昇圧されるので、重水素含有ガスの貯蔵するための容器の容積を小さくすることができる。これにより、専用の大型のガスタンクが不要となり、例えば、昇圧された重水素含有ガスは、第二流路62内に貯蔵されうる。また、処理槽2には昇圧された重水素含有ガスが供給されるので、処理槽2へ重水素含有ガスを供給する際に使用されるポンプが不要となる。したがって、装置の大型化を抑制しつつ、重水素含有ガスの回収および再利用を行うことが可能な光ファイバの処理装置1および方法を提供することができる。
【0049】
特に、本実施形態においては、光ファイバの処理装置1は、複数の処理槽2を備えている。これにより、複数の光ファイバ10に対して同時に重水素処理が実行されるので、光ファイバ10の生産性が向上する。
【0050】
また、本実施形態においては、ステップS2において、処理槽2は、処理槽2内の圧力が絶対圧で20kPa以上90kPa以下の範囲になるように、減圧される。このように処理槽2は減圧されるので、重水素含有ガスをファイバボビン11の巻き芯付近まで行き渡らせることができる。また、減圧量が少ないので、短時間で処理槽を減圧することができる。また、処理槽2の減圧時と常圧時の圧力差が大きすぎると、例えば、ファイバボビン11に対する光ファイバ10の巻きが緩むおそれがある。しかしながら、減圧量が少ないので、ファイバボビン11に対する光ファイバ10の巻きが緩むことを抑制することができる。
【0051】
なお、光ファイバの処理装置1は、図1に例示されるように、昇圧ユニット5と処理槽2の間に設けられたフィルタユニット8をさらに備えてもよい。これにより、回収されたガスに含まれる塵や埃を除去できるので、処理槽2内で再利用された重水素含有ガスの雰囲気に曝される光ファイバ10に塵や埃が付着することを抑制することができる。
【0052】
また、光ファイバの処理方法の処理槽2内に重水素含有ガスを供給する工程では、大気圧の状態となった処理槽2内において、重水素含有ガスを吹き流すことにより、処理槽2内のガスを重水素含有ガスで置換してもよい。
【0053】
重水素含有ガスの吹き流しにより処理槽2から排出されたガスは、例えば、図示せぬガス排出路に排出されて大気に放出される。または、処理槽2から排出されたガスは、真空ポンプを介して回収されて処理槽2に供給される重水素含有ガスとして再利用されてもよい。処理槽2内のガス置換は、例えば、処理槽2から排出されたガスに含まれる重水素濃度が処理槽2内に供給される重水素含有ガスの重水素濃度(例えば、2%)と同じ値になった場合に終了される。
【0054】
このような構成によれば、大気圧の状態である処理槽2内に空気が残っている場合に、吹き流し工程により処理槽2内に残った空気を重水素含有ガスで置換することができる。また、回収された重水素含有ガスは昇圧されるので、大気圧の状態である処理槽2内にポンプを使うことなく重水素含有ガスを供給することができる。
【0055】
また、処理槽2内の重水素含有ガスが吸引される工程では、処理槽2内の重水素含有ガスは、処理槽2内の圧力が絶対圧で20kPa以上90kPa以下の範囲になるように、吸引されてもよい。処理槽2の減圧時と常圧時の圧力差が大きすぎると、例えば、ファイバボビン11に対する光ファイバ10の巻きが緩むおそれがある。しかしながら、減圧量が少ないので、ファイバボビン11に対する光ファイバ10の巻きが緩むことを抑制することができる。
【0056】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【0057】
上記の実施形態において、処理槽2には、一つのファイバボビン11が配置されている。しかしながら、処理槽2には、複数のファイバボビン11が配置されてもよい。
【0058】
上記の実施形態において、光ファイバの処理装置1は、二つの処理槽2が配置されている。しかしながら、光ファイバの処理装置1は、一つの処理槽2、または、三つ以上の処理槽2が配置されてもよい。
【0059】
上記の実施形態において、光ファイバ10は、ファイバボビン11に巻回された状態で処理槽2内に配置されている。しかしながら、処理槽2内に配置されている光ファイバ10の状態は、ファイバボビン11に巻回された状態に限定されない。
【0060】
上記の実施形態において、昇圧された重水素含有ガスは、第二流路62内に貯蔵されている。しかしながら、例えば、ガス供給装置3と処理槽2の間に小型のバッファタンクを配置して、当該バッファタンクに昇圧された重水素含有ガスを貯蔵してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1:光ファイバの処理装置
2:処理槽
2A:空間
3:ガス供給装置
4:真空ポンプ
5:昇圧ユニット
6:ガス流路
8:フィルタユニット
10:光ファイバ
11:ファイバボビン
61:第一流路
62:第二流路
63:第三流路
64:第四流路
65:ガス排出路
71,72,73:オン・オフ弁
74:三方弁
図1
図2