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特開2022-173812光ファイバの製造装置および製造方法
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  • 特開-光ファイバの製造装置および製造方法 図1
  • 特開-光ファイバの製造装置および製造方法 図2
  • 特開-光ファイバの製造装置および製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173812
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】光ファイバの製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/10 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
C03B37/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079764
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和泉 有治
(57)【要約】
【課題】線引き開始時に溶融されたガラスが管状炉の内部に詰まることを防止する。
【解決手段】光ファイバの製造装置1は、加熱炉2と、徐冷炉3と、樹脂塗布装置4とを備えている。加熱炉2は、光ファイバ母材Gを加熱する。樹脂塗布装置4は、光ファイバ母材Gから線引きされた光ファイバG1に樹脂を塗布する。徐冷炉3は、加熱炉2と樹脂塗布装置4との間に配置され、内部に光ファイバG1が通過する。徐冷炉3は、光ファイバG1が通過するラインから退避可能に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、
前記光ファイバ母材から線引きされた光ファイバに樹脂を塗布する樹脂塗布装置と、
前記加熱炉と前記樹脂塗布装置との間に配置されており、内部に前記光ファイバが通過する管状炉と、を備えており、
前記管状炉は、前記光ファイバが通過するラインから退避可能に配置されている、光ファイバの製造装置。
【請求項2】
前記管状炉の内径は、10mm以上50mm以下である、請求項1に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項3】
前記管状炉を前記光ファイバが通過するラインに対して直交する方向に移動可能とするリニアガイドを備えている、請求項1または請求項2に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項4】
前記管状炉が移動されて停止する際に前記管状炉に生じる衝撃を緩和する衝撃緩衝機構を備えている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項5】
前記管状炉は、一対の半管状炉を有する開閉可能な半割構造を有している、請求項1から4のいずれか一項に記載の光ファイバの製造装置。
【請求項6】
光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、前記光ファイバ母材から線引きされた光ファイバに樹脂を塗布する樹脂塗布装置と、前記加熱炉と前記樹脂塗布装置との間に配置されており、内部に前記光ファイバが通過する管状炉と、を備える光ファイバの製造装置により光ファイバを製造する方法であって、
前記管状炉を前記光ファイバの通過ラインから退避させた状態で、前記加熱炉により加熱されて溶融された前記光ファイバ母材の先端のガラスを引き落とす作業を行うステップと、
前記引き落とし作業後に、前記管状炉を前記光ファイバの通過ラインに配置して前記光ファイバを製造するステップと、を備えている、光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバの製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、線引き開始時に溶融されたガラスの非有効部分を引き落とす光ファイバの製造装置を開示している。
【0003】
特許文献2は、徐冷炉を備えている光ファイバの製造装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-199613号公報
【特許文献2】特開2000-335935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、線引き開始時に溶融されたガラスが管状炉の内部に詰まることを防止する光ファイバの製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の光ファイバの製造装置は、
光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、
前記光ファイバ母材から線引きされた光ファイバに樹脂を塗布する樹脂塗布装置と、
前記加熱炉と前記樹脂塗布装置との間に配置され、内部に前記光ファイバが通過する管状炉と、を備えており、
前記管状炉は、前記光ファイバが通過するラインから退避可能に配置されている。
【0007】
本開示の光ファイバの製造方法は、
光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、前記光ファイバ母材から線引きされた光ファイバに樹脂を塗布する樹脂塗布装置と、前記加熱炉と前記樹脂塗布装置との間に配置されており、内部に前記光ファイバが通過する管状炉と、を備える光ファイバの製造装置により光ファイバを製造する方法であって、
前記管状炉を前記光ファイバの通過ラインから退避させた状態で、前記加熱炉により加熱されて溶融された前記光ファイバ母材の先端のガラスを引き落とす作業を行うステップと、
前記引き落とし作業後に、前記管状炉を前記光ファイバの通過ラインに配置して前記光ファイバを製造するステップと、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、線引き開始時に溶融されたガラスが管状炉の内部に詰まることを防止する光ファイバの製造装置および製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る光ファイバの製造装置を示す概略構成図である。
図2図2は、徐冷炉を示す概略構成図である。
図3図3は、徐冷炉の別の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
本開示の光ファイバの製造装置は、
(1)光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、
前記光ファイバ母材から線引きされた光ファイバに樹脂を塗布する樹脂塗布装置と、
前記加熱炉と前記樹脂塗布装置との間に配置されており、内部に前記光ファイバが通過する管状炉と、を備えており、
前記管状炉は、前記光ファイバが通過するラインから退避可能に配置されている。
【0011】
線引き開始時には、光ファイバ母材の先端部分を加熱して溶融し、溶融されたガラスの塊を引き落とす引き落とし作業が行われる。上記構成によれば、ガラスの塊を引き落とす際に、管状炉を光ファイバが通過するラインから退避させておくことができる。これにより、ガラスの塊の外径が大きい場合でも、管状炉内部にガラスの塊が詰まるおそれがない。すなわち、線引き開始時に溶融されたガラスが管状炉の内部に詰まることを防止することができる。また、管状炉を退避したことで生じるスペースにより引き落とし作業を効率的に行うことができる。
【0012】
(2)前記管状炉の内径は、10mm以上50mm以下でもよい。
【0013】
上記構成によれば、ガラスの塊を引き落とす際に、管状炉を光ファイバが通過するラインから退避させておくことにより、管状炉内部にガラスの塊が詰まるおそれがないので、管状炉の内径を小さくすることができる。これにより、管状炉が徐冷炉である場合、光ファイバを効率よく徐冷することができる。
【0014】
(3)前記光ファイバの製造装置は、
前記管状炉を前記光ファイバが通過するラインに対して直交する方向に移動可能とするリニアガイドを備えていてもよい。
【0015】
上記構成によれば、管状炉を簡単な構成で移動可能にすることができる。
【0016】
(4)前記光ファイバの製造装置は、
前記管状炉が移動されて停止する際に前記管状炉に生じる衝撃を緩和する衝撃緩衝機構を備えていてもよい。
【0017】
上記構成によれば、例えば、管状炉がヒータを有する場合、管状炉が停止する際に生じる衝撃や振動によりヒータが断線することを抑制することができる。
【0018】
(5)前記管状炉は、一対の半管状炉を有する開閉可能な半割構造を有してもよい。
【0019】
上記構成によれば、管状炉を光ファイバの通過ラインから退避させる際に、例えば、半割構造を開いて一対の半管状炉を離れる方向に移動させることにより、管状炉の移動距離を短くすることができる。
【0020】
本開示の光ファイバの製造方法は、
(6)光ファイバ母材を加熱する加熱炉と、前記光ファイバ母材から線引きされた光ファイバに樹脂を塗布する樹脂塗布装置と、前記加熱炉と前記樹脂塗布装置との間に配置されており、内部に前記光ファイバが通過する管状炉と、を備える光ファイバの製造装置により光ファイバを製造する方法であって、
前記管状炉を前記光ファイバの通過ラインから退避させた状態で、前記加熱炉により加熱されて溶融された前記光ファイバ母材の先端のガラスを引き落とす作業を行うステップと、
前記引き落とし作業後に、前記管状炉を前記光ファイバの通過ラインに配置して前記光ファイバを製造するステップと、を備えていてもよい。
【0021】
線引き開始時には、光ファイバ母材の先端部分を加熱して溶融し、溶融されたガラスの塊を引き落とす引き落とし作業が行われる。上記方法によれば、ガラスの塊を引き落とす際に、管状炉を光ファイバが通過するラインから退避させている。これにより、ガラスの塊の外径が大きい場合でも、管状炉内部にガラスの塊が詰まるおそれがない。すなわち、線引き開始時に溶融されたガラスが管状炉の内部に詰まることを防止することができる。また、管状炉を退避したことで生じるスペースにより引き落とし作業を効率的に行うことができる。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光ファイバの製造装置および製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
図1は、一実施形態に係る光ファイバの製造装置1の構成を示す概略構成図である。図2は、徐冷炉3の構成を示す概略構成図である。各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0024】
光ファイバの製造装置1は、図1に例示されるように、加熱炉2と、徐冷炉3と、樹脂塗布装置4とを備えている。徐冷炉3は、管状炉の一例である。加熱炉2、徐冷炉3および樹脂塗布装置4は、光ファイバ母材Gを線引きする方向に、加熱炉2、徐冷炉3、樹脂塗布装置4の順で配置されている。
【0025】
加熱炉2は、光ファイバの製造装置1の最も上流側に配置されている。光ファイバ母材Gは、不図示のフィーダによって加熱炉2内に送られる。加熱炉2は、例えば、円筒状の炉心管21と、炉心管21を囲むヒータ22を備えている。光ファイバ母材Gは、炉心管21の内部に供給されて、その下端側がヒータ22により加熱される。加熱されて軟化した光ファイバ母材Gの下端側は、下方に引き伸ばされて細径化される。これにより、ガラス体の光ファイバG1が形成される。
【0026】
徐冷炉3は、加熱炉2の下流側に配置されている。加熱炉2を出た光ファイバG1は、徐冷炉3により加熱されながら徐冷される。徐冷炉3は、図2に例示されるように、例えば、円筒状の炉心管31と、炉心管31を囲むヒータ32を備えている。炉心管31の内部を通過する光ファイバG1は、例えば、1000℃/秒以下の冷却速度で徐冷される。
【0027】
炉心管31は、例えば、10~50mmの内径Dを有する。炉心管31は、例えば、アルミナ、ジルコニア、またはシリカにより形成される。ヒータ32は、例えば、カンタル(登録商標)線、カンタル(登録商標)スーパー、または、スーパータル(登録商標)により形成される。
【0028】
徐冷炉3は、図1に例示されるように、光ファイバG1が通過するラインから退避可能に配置されている。図中において、退避された徐冷炉3は破線で示されている。本実施形態では、徐冷炉3は、エアシリンダ5により光ファイバG1が通過するラインに対して直交する方向に移動可能に構成されている。具体的には、徐冷炉3の背面にはエアシリンダ5のロッド51が取り付けられており、徐冷炉3はロッド51が進退されることにより移動される。エアシリンダ5は、リニアガイドの一例である。
【0029】
徐冷炉3は、徐冷炉3の全体が光ファイバG1の通過ラインから退避するように移動される。具体的には、徐冷炉3は、退避距離Lが少なくとも徐冷炉3の退避方向の幅Rより大きくなるように構成される。例えば、徐冷炉3の退避方向の幅Rが300mmである場合、徐冷炉3は、少なくとも300mm以上移動可能に構成される。徐冷炉3は、例えば、30mm/秒以下の速度で移動される。この場合、徐冷炉3の移動の開始時や停止時の振動によりヒータ32に損傷を与えることを抑制することができる。
【0030】
樹脂塗布装置4は、徐冷炉3の下流側に配置されている。樹脂塗布装置4は、光ファイバG1の周囲に例えば紫外線硬化樹脂を塗布する。光ファイバG1に塗布された樹脂は、樹脂硬化装置6aにより硬化される。光ファイバG1は、ガイドローラ6bおよびキャプスタン6cにより下流に引き取られて、巻取り装置6dにより巻き取られる。これにより、光ファイバG1が製造される。
【0031】
上記のように光ファイバG1を製造する方法では、線引き開始時において、光ファイバ母材Gの先端部分を加熱して溶融し、溶融されたガラスの塊を引き落とす引き落とし作業が行われる。この引き落とし作業は、徐冷炉3を光ファイバG1の通過ラインから退避させた状態で行われる。
【0032】
ガラスの塊が引き落とされて切断された後、徐冷炉3は、エアシリンダ5により移動させられて光ファイバG1の通過ラインに配置される。そして、加熱炉2から線引きされた光ファイバG1は、徐冷炉3、樹脂塗布装置4、樹脂硬化装置6a内を通過し、ガイドローラ6b及びキャプスタン6cを経由して巻取り装置6dに巻き取られる。
【0033】
このような構成によれば、線引き開始時にガラスの塊を引き落とす際に、徐冷炉3を光ファイバG1が通過するラインから退避させる。これにより、ガラスの塊の外径が大きい場合でも、徐冷炉3内部にガラスの塊が詰まるおそれがない。すなわち、線引き開始時に溶融されたガラスの塊が徐冷炉3の内部に詰まることを防止することができる。また、徐冷炉3を退避したことで生じるスペースにより引き落とし作業を効率的に行うことができる。
【0034】
特に、本実施形態においては、徐冷炉3は、その内径Dが10mm以上50mm以下になるように形成されている。このように、徐冷炉3内部にガラスの塊が詰まるおそれがないために徐冷炉3の内径Dを小さくすることができるので、光ファイバG1を効率よく徐冷することができる。
【0035】
また、本実施形態においては、光ファイバの製造装置1は、光ファイバG1の通過ラインに対して直交する方向に移動可能とするリニアガイドとしてエアシリンダ5を備えている。このような構成によれば、徐冷炉3を簡単な構成で移動可能にすることができる。なお、リニアガイドは、エアシリンダ5以外により構成することも可能である。リニアガイドの他の例としては、例えば、ボールねじにより構成することも可能である。具体的には徐冷炉に取りつけたナットにねじ軸を通し、ねじ軸をモータで回転させて徐冷炉3を移動する。
【0036】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【0037】
上記の実施形態において、徐冷炉3は、光ファイバG1の通過ラインに対して直交する方向に移動している。しかしながら、徐冷炉3は、例えば、その長手方向が光ファイバG1の通過ラインに対して平行な方向から直交する方向に回転して移動するように構成されてもよい。
【0038】
上記の実施形態において、徐冷炉3は、図3に例示されるように、一対の半管状炉3a,3bを有する開閉可能な半割構造を有しうる。この場合、半割構造を開いて一対の半管状炉3a,3bを離れる方向に移動させることにより、徐冷炉3を光ファイバG1の通過ラインから退避させてもよい。これにより、徐冷炉3の移動距離を短くすることができる。例えば、半管状炉3aおよび半管状炉3bのそれぞれにはエアシリンダ5が取り付けられ、半管状炉3aおよび半管状炉3bは、互いに接近する方向または離れる方向に移動される。
【0039】
上記の実施形態において、光ファイバの製造装置1は、図1に例示されるように、徐冷炉3が移動されて停止する際に徐冷炉3に生じる衝撃を緩和する衝撃緩衝機構7を備えてもよい。図1においては、徐冷炉3が退避されて停止する位置に二つの衝撃緩衝機構7が配置されている。衝撃緩衝装置7の例としては、油の粘性抵抗を用いたショックアブソーバーやゴム材などの弾性体が挙げられる。衝撃緩衝機構7は、リニアガイドのストッパ部分に設けられてもよい。このような構成によれば、徐冷炉3が停止する際に生じる衝撃や振動によりヒータ32が断線することを抑制することができる。
【0040】
上記の実施形態において、光ファイバの製造装置1は、図1に例示された装置以外の装置を有しうる。例えば、徐冷炉3と樹脂塗布装置4の間には、例えば、冷却装置が設けられてもよい。この場合、徐冷炉3を出た光ファイバG1を、冷却媒体により数百℃から室温近くまで急速に冷却することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:光ファイバの製造装置
2:加熱炉
3:徐冷炉
3a、3b:半管状炉
4:樹脂塗布装置
5:エアシリンダ
6a:樹脂硬化装置
6b:ガイドローラ
6c:キャプスタン
6d:巻取り装置
7:衝撃緩衝機構
21:炉心管
22:ヒータ
31:炉心管
32:ヒータ
51:ロッド
D:内径
G:光ファイバ母材
G1:光ファイバ
L:退避距離
R:退避方向の幅
図1
図2
図3