(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173822
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】高速炉の原子炉保護装置及び原子炉保護方法
(51)【国際特許分類】
G21C 17/108 20060101AFI20221115BHJP
G21D 3/00 20060101ALI20221115BHJP
G21C 17/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G21C17/108 100
G21D3/00 H
G21C17/00 010
G21C17/00 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079781
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】307041573
【氏名又は名称】三菱FBRシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】平松 貴志
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 仁
(72)【発明者】
【氏名】▲土▼肥 明
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075AA07
2G075BA03
2G075CA08
2G075DA08
2G075FA06
2G075FB07
2G075FB09
2G075FB18
2G075FC05
2G075GA29
(57)【要約】
【課題】原子炉の異常発生に対してトリップ信号が出力されるまでの時間を短くする。
【解決手段】高速炉の原子炉保護装置1は、高速炉の原子炉の出力値を特定する出力値特定部121と、原子炉の出力領域における中性子束のレベルを取得する取得部122と、出力値特定部121が特定した出力値が所定の閾値未満である場合、取得部122が取得した中性子束のレベルに基づく中性子束のレベルの変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力し、出力値特定部121が特定した出力値が所定の閾値以上である場合、当該変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間よりも短い第2時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力する信号出力部123と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速炉の原子炉の出力値を特定する出力値特定部と、
前記原子炉の出力領域における中性子束のレベルを取得する取得部と、
前記出力値特定部が特定した前記出力値が所定の閾値未満である場合、前記取得部が取得した前記中性子束のレベルに基づく前記中性子束のレベルの変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力し、前記出力値特定部が特定した前記出力値が前記所定の閾値以上である場合、前記変化率が、当該変化率に対して定められた前記第1時間よりも短い第2時間継続したことを条件として前記トリップ信号を出力する信号出力部と、
を有する高速炉の原子炉保護装置。
【請求項2】
前記信号出力部は、前記出力値が前記所定の閾値未満である場合に、取得した前記中性子束のレベルに対して第1微分時間で不完全微分を行うことにより、前記中性子束のレベルの予測変化量を算出し、算出した予測変化量が第1判定値を超えると前記トリップ信号を出力し、前記出力値が前記所定の閾値以上である場合に、取得した前記中性子束のレベルに対して前記第1微分時間とは異なる第2微分時間で不完全微分を行うことにより、前記中性子束のレベルの予測変化量を算出し、算出した予測変化量が第2判定値を超えると前記トリップ信号を出力し、
前記第1微分時間と前記第1判定値とは、前記出力値が前記所定の閾値未満である場合における、前記変化率と前記第1時間との関係に基づいて設定され、前記第2微分時間と前記第2判定値とは、前記出力値が前記所定の閾値以上である場合における、前記変化率と前記第2時間との関係に基づいて設定される、
請求項1に記載の高速炉の原子炉保護装置。
【請求項3】
前記信号出力部は、前記出力値が前記所定の閾値未満である場合に、取得した前記中性子束のレベルに基づいて前記中性子束のレベルの変化率を算出するとともに、算出したレベルの変化率に対応する前記第1時間を特定し、算出した変化率が、当該第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力し、前記出力値が前記所定の閾値以上である場合に、取得した前記中性子束のレベルに基づいて前記中性子束のレベルの変化率を算出するとともに、算出したレベルの変化率に対応する前記第2時間を特定し、算出した変化率が、当該第2時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力する、
請求項1に記載の高速炉の原子炉保護装置。
【請求項4】
前記信号出力部は、特定した前記中性子束のレベルを、ローパスフィルタに入力した後に微分することにより、前記変化率を算出する、
請求項3に記載の高速炉の原子炉保護装置。
【請求項5】
コンピュータが実行する、
高速炉の原子炉の出力値を特定するステップと、
前記原子炉の出力領域における中性子束のレベルを取得するステップと、
特定した前記出力値が所定の閾値未満である場合、取得した前記中性子束のレベルに基づく前記中性子束のレベルの変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力し、特定した前記出力値が所定の閾値以上である場合、前記変化率が、当該変化率に対して定められた前記第1時間よりも短い第2時間継続したことを条件として前記トリップ信号を出力するステップと、
を有する高速炉の原子炉保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速炉の原子炉保護装置及び原子炉保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速炉の原子炉保護装置においては、原子炉に設けられている各種検出器からの入力信号が所定のレベルに達した場合に、原子炉の保護動作を開始させるためのトリップ信号を出力し、原子炉停止系において原子炉の保護動作を行わせることが行われている。例えば、非特許文献1には、保護装置において出力される原子炉トリップ信号の種類が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Nobuyuki ISHIKAWA,et al. “Design Study on Safety Protection System of JSFR”, 2012 International Congress on the Advances in Nuclear Power Plants (ICAPP'12), June 24-28, 2012, paper 12383
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子炉においては、異常発生時に、原子炉の熱的余裕を保ち燃料健全性を確保するため、所定のレベルをできるだけ低い設定値にし、早期に異常を検出して保護動作を行えるようにすることが求められている。
【0005】
これに対し、トリップ信号を出力する閾値である所定のレベルは、原子炉の通常運転中に正常な動作として発生し得る入力信号の変動では作動しないレベルに定める必要がある。例えば、原子炉の正常な動作の一つである原子炉の出力上昇時に、検出器からの入力信号によりトリップ信号が出力されないようにする必要がある。しかしながら、原子炉の出力上昇時にトリップ信号が出力されないようにするために所定のレベルを設定すると、原子炉の異常発生に対してトリップ信号が出力されるまでの時間が遅くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、原子炉の異常発生に対してトリップ信号が出力されるまでの時間を短くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る高速炉の原子炉保護装置は、高速炉の原子炉の出力値を特定する出力値特定部と、前記原子炉の出力領域における中性子束のレベルを取得する取得部と、前記出力値特定部が特定した前記出力値が所定の閾値未満である場合、前記取得部が取得した前記中性子束のレベルに基づく前記中性子束のレベルの変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力し、前記出力値特定部が特定した前記出力値が前記所定の閾値以上である場合、前記変化率が、当該変化率に対して定められた前記第1時間よりも短い第2時間継続したことを条件として前記トリップ信号を出力する信号出力部と、を有する。
【0008】
前記信号出力部は、前記出力値が前記所定の閾値未満である場合に、取得した前記中性子束のレベルに対して第1微分時間で不完全微分を行うことにより、前記中性子束のレベルの予測変化量を算出し、算出した予測変化量が第1判定値を超えると前記トリップ信号を出力し、前記出力値が前記所定の閾値以上である場合に、取得した前記中性子束のレベルに対して前記第1微分時間とは異なる第2微分時間で不完全微分を行うことにより、前記中性子束のレベルの予測変化量を算出し、算出した予測変化量が第2判定値を超えると前記トリップ信号を出力し、前記第1微分時間と前記第1判定値とは、前記出力値が前記所定の閾値未満である場合における、前記変化率と前記第1時間との関係に基づいて設定され、前記第2微分時間と前記第2判定値とは、前記出力値が前記所定の閾値以上である場合における、前記変化率と前記第2時間との関係に基づいて設定されてもよい。
【0009】
前記信号出力部は、前記出力値が前記所定の閾値未満である場合に、取得した前記中性子束のレベルに基づいて前記中性子束のレベルの変化率を算出するとともに、算出したレベルの変化率に対応する前記第1時間を特定し、算出した変化率が、当該第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力し、前記出力値が前記所定の閾値以上である場合に、取得した前記中性子束のレベルに基づいて前記中性子束のレベルの変化率を算出するとともに、算出したレベルの変化率に対応する前記第2時間を特定し、算出した変化率が、当該第2時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力してもよい。
【0010】
前記信号出力部は、特定した前記中性子束のレベルを、ローパスフィルタに入力した後に微分することにより、前記変化率を算出してもよい。
【0011】
本発明の第2の態様に係る高速炉の原子炉保護方法は、コンピュータが実行する、高速炉の原子炉の出力値を特定するステップと、前記原子炉の出力領域における中性子束のレベルを取得するステップと、特定した前記出力値が所定の閾値未満である場合、取得した前記中性子束のレベルに基づく前記中性子束のレベルの変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力し、特定した前記出力値が所定の閾値以上である場合、前記変化率が、当該変化率に対して定められた前記第1時間よりも短い第2時間継続したことを条件として前記トリップ信号を出力するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子炉の異常発生に対してトリップ信号が出力されるまでの時間を短くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る高速炉の原子炉保護装置の概要を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る原子炉保護装置の構成を示す図である。
【
図3】原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合において、ステップ応答又はランプ応答により原子炉出力が変化した場合の中性子束のレベルの変化率を示す図である。
【
図4】原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合における、中性子束レベルの変化率と、トリップ信号が出力されるまでの経過時間との関係を示す図である。
【
図5】原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合において、第1微分時間により不完全微分を行った場合の中性子束の予測変化量を示す図である。
【
図6】原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合において、ステップ応答又はランプ応答により原子炉出力が変化した場合の中性子束のレベルの変化率を示す図である。
【
図7】原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合における、中性子束レベルの変化率と、トリップ信号が出力されるまでの経過時間との関係を示す図である。
【
図8】原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合において、第2微分時間により不完全微分を行った場合の中性子束の予測変化量を示す図である。
【
図9】原子炉保護装置においてトリップ信号が出力されるまでの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[高速炉の概要]
図1は、本実施形態に係る高速炉の原子炉保護装置1の概要を示す図である。高速炉の原子炉保護装置1は、原子炉に所定のレベルを超える異常が発生した場合に異常の拡大を防ぐために、原子炉の保護動作を開始させるためのトリップ信号を出力し、原子炉停止系に原子炉の緊急停止を行わせる装置である。高速炉の原子炉保護装置1は、例えば、コンピュータである。以下、高速炉の原子炉保護装置1を、原子炉保護装置1という。
【0015】
原子炉保護装置1は、中性子束検出器2から、出力領域における中性子束のレベルを示す中性子束信号を取得する。原子炉保護装置1は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合、取得した中性子束のレベルに基づく中性子束のレベルの変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間継続したことを条件としてトリップ信号をトリップ制御装置3に出力する。
【0016】
一方、原子炉の出力値が所定の閾値以上であり、100%の出力の近傍である場合には、所定の閾値未満である場合に比べて出力上昇幅が小さい。このため、原子炉保護装置1は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合、取得した中性子束のレベルに基づく中性子束のレベルの変化率が、当該変化率に対して定められた、第1時間よりも短い第2時間継続したことを条件としてトリップ信号をトリップ制御装置3に出力する。トリップ制御装置3は、トリップ信号が入力されると、原子炉停止系に原子炉の緊急停止を行わせる装置である。
【0017】
このようにすることで、原子炉保護装置1は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合に、通常の出力上昇に対してトリップ信号を出力しないようにすることができる。また、原子炉保護装置1は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合、通常の出力上昇に対してトリップ信号を出力しないようにしつつも、原子炉の異常発生に対してトリップ信号が出力されるまでの時間を短くすることができる。
以下、原子炉保護装置1の構成について説明する。
【0018】
[原子炉保護装置1の構成例]
続いて、高速炉の原子炉保護装置1の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る原子炉保護装置1の構成を示す図である。
図2に示すように、原子炉保護装置1は、記憶部110と、制御部120とを有する。制御部120は、出力値特定部121と、取得部122と、信号出力部123とを備える。
【0019】
記憶部110は、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等である。記憶部110は、原子炉保護装置1を機能させるための各種プログラムを記憶する。例えば、記憶部110は、原子炉保護装置1の制御部120を、出力値特定部121、取得部122、及び信号出力部123として機能させるプログラムを記憶する。
【0020】
制御部120は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。制御部120は、記憶部110に記憶されているプログラムを実行することにより、出力値特定部121、取得部122、及び信号出力部123として機能する。
【0021】
出力値特定部121は、高速炉の原子炉の出力値を特定する。例えば、出力値特定部121は、中性子束検出器2から、出力領域における中性子束のレベルを示す中性子束信号を受信する。出力値特定部121は、受信した中性子束信号が示す中性子束のレベルに基づいて原子炉の出力値を特定する。
【0022】
取得部122は、高速炉の原子炉の出力領域における中性子束のレベルを取得する。具体的には、取得部122は、中性子束検出器2から、出力領域における中性子束のレベルを示す中性子束信号を受信することにより、中性子束信号が示す中性子束のレベルを示す情報を取得する。
【0023】
信号出力部123は、原子炉の通常運転時において発生するステップ応答及びランプ応答のいずれにおいてもトリップ信号が出力されず、異常が発生している可能性が高い場合においてのみトリップ信号が出力されるように、トリップ信号の出力条件を制御する。出力条件の詳細については後述する。
【0024】
ステップ応答は、所定の時間内に原子炉の出力指示値の変化量が第1変化量以上の第1指示に対する原子炉の出力変化である。第1指示は、第1規定時間内に出力指示値が出力目標値に達するように入力される指示である。ステップ応答は、例えば、電力系統において瞬間的に要求電力が変化した場合に行われる出力変更により発生する。ステップ応答においては、中性子束のレベルが変化する期間はランプ応答時よりも短いが、ランプ応答時よりも急峻に中性子束のレベルが変化する。
【0025】
ランプ応答は、所定の時間内に原子炉の出力指示値の変化量が第1変化量未満の第2指示に対する原子炉の出力変化である。第2指示は、第1規定時間に比べて長い第2規定時間内に出力指示値が出力目標値に達するように入力される指示である。ランプ応答は、例えば、1日の日中と夜間に電力需要の違いがあるため、電力需要が大幅に変動する時間に合わせて行われる出力変更により発生する。ランプ応答においては、中性子束のレベルがステップ応答時よりも緩やかに変化するが、ステップ応答時よりも長時間にわたって中性子束のレベルが変化する。
【0026】
図3は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合において、ステップ応答又はランプ応答により原子炉出力が変化した場合の中性子束のレベルの変化率を示す図である。ここで、所定の閾値は、例えば通常運転時における原子炉の最大出力値の95%である。
図3において、実線は、上昇率が最大のステップ応答が発生した場合の中性子束のレベルの変化率を示している。破線は、上昇率が最大のランプ応答が発生した場合の中性子束のレベルの変化率を示している。一点鎖線は、通常のランプ応答が発生した場合の中性子束のレベルの変化率を示している。
【0027】
図3では、上昇率が最大のステップ応答に対応する出力指示が行われてから時間T
11までの間の中性子束のレベルの変化率が第1変化率を示すR1であることが確認できる。また、
図3では、上昇率が最大のランプ応答に対応する出力指示が行われた場合の中性子束のレベルの変化率が第1変化率よりも小さい第2変化率を示すR2であることが確認できる。また、
図3では、通常のランプ応答が発生した場合の中性子束のレベルの変化率が第2変化率よりも低い変化率を示すR3であることが確認できる。
【0028】
図3に示す例では、ステップ応答に対応する中性子束のレベルの変化率の例として、上昇率が最大のステップ応答に対応する出力指示が行われてからの中性子束のレベルの変化率を示したが、ステップ応答に対応する上昇率により、中性子束のレベルの変化率が継続可能な時間が異なる。
【0029】
そこで、信号出力部123は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合に、通常運転時に実施される複数の上昇率それぞれに対応するステップ応答が発生した場合、及びランプ応答が発生した場合の両方の場合においても、トリップ信号が出力されず、異常が発生している可能性が高い場合においてのみトリップ信号が出力されるように、トリップ信号を出力する。信号出力部123は、出力値特定部121が特定した出力値が所定の閾値未満である場合、取得部122が取得した中性子束のレベルに基づく中性子束のレベルの変化率が、第1変化率R1よりも大きいか、第1変化率R1以下で第2変化率R2よりも大きい場合に当該変化率に対して定められた第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力する。
【0030】
具体的には、信号出力部123は、取得部122が取得した中性子束のレベルに対して第1微分時間で不完全微分を行うことにより、中性子束のレベルの予測変化量を算出する。そして、信号出力部123は、算出した予測変化量が第1判定値を超えるとトリップ信号を出力する。第1微分時間及び第1判定値は、後述するように、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合における、中性子レベルの変化率と、当該変化率に対して定められる第1時間と、第2変化率R2との関係に基づいて設定される。
【0031】
図4は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合における、中性子束のレベルの変化率と、トリップ信号が出力されるまでの経過時間(第1時間)との関係を示す図である。
図4の縦軸は中性子束変化率を示し、横軸は同じ変化率の継続時間を示している。
図4には、算出された予測変化量が判定値に到達し、トリップ信号を出力するまでの経過時間を示すトリップ設定曲線を示している。各々の変化率に対して、
図4に示すトリップ設定曲線が示す経過時間で、信号出力部123はトリップ信号を出力する。このトリップ設定曲線は
図4に示すように、上昇率が最大のステップ応答に対応する出力指示が行われた場合の中性子束のレベルの変化率R1でも、上昇率が最大のランプ応答に対応する出力指示が行われた場合の中性子束のレベルの変化率R2でも到達しないように高めに遠ざけて、通常運転時においてトリップ信号が出力されないようにしている。
【0032】
複数の変化率のそれぞれに対応する出力指示が行われてから、トリップ信号が出力されるまでの経過時間は、以下のように定められる。まず、想定しうる複数の変化率のそれぞれに対し、不完全微分器を用いて、変化率に対応する予測変化量を算出する。予測変化量は、変化率が一定である場合に予測される中性子束レベルの変化量である。不完全微分器は、以下の式(1)の伝達関数により示される。T
Dは微分時間、ηは微分ゲインの逆数である。
【0033】
中性子束のレベルの変化率をα、経過時間をtとすると、不完全微分器へのランプ入力に対し、予測変化量aは、以下の(2)式により算出することができる。ここで、経過時間tが無限大のとき、予測変化量aは、T
D・αに漸近するものとする。
【0034】
通常運転中の原子炉の出力上昇制御において起こり得る変動の大きな応答には、上述のとおりステップ応答及びランプ応答があり、これらステップ応答及びランプ応答に対してトリップ信号が出力されないようにする必要がある。出力値特定部121が特定した出力値が所定の閾値未満である場合における通常運転中に発生しうる複数のステップ応答及びランプ応答に対応する変化率αと、トリップ信号が出力されるまでの経過時間tとの組み合わせ、及び最大のランプ応答に対応する第2変化率R2と、第2変化率R2に対してトリップ信号が出力されないことを示す経過時間t(t=∞)との組み合わせを式(2)に入力し、当該組み合わせに対してトリップ信号が出力されないようにするために、T
Dとaとを調整する。式(2)を変形すると、以下の式(3)が示される。式(3)におけるT
D1は調整後の微分時間(第1微分時間)であり、a
1は調整後の予測変化量(第1判定値)である。このようにすることで、第1微分時間と、第1判定値とを設定することができる。
【0035】
式(3)は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合に、変化率αの入力に対し、当該変化率αに対してトリップ信号が出力されるまでの原子炉の運転継続時間である経過時間tを出力する第1関数である。第1関数が示す変化率αと、経過時間tとの関係を示す曲線は、原子炉の出力が所定の閾値未満である場合に、中性子束のレベルの変化率αが継続したときに、トリップ信号を出力するまでの経過時間tを示すトリップ設定曲線となる。
【0036】
図5は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合において、第1微分時間により不完全微分を行った場合の中性子束の予測変化量を示す図である。
図5における横軸のタイムスケールは、
図3に示す横軸のタイムスケールと同一である。
図5において、実線は、上昇率が最大のステップ応答が発生した場合、すなわち、中性子束のレベルの変化率がR1である場合の中性子束のレベルの予測変化量を示している。破線は、上昇率が最大のランプ応答が発生した場合、すなわち、中性子束のレベルの変化率がR2である場合の中性子束のレベルの予測変化量を示している。一点鎖線は、通常のランプ応答が発生した場合の中性子束の予測変化量を示している。
【0037】
不完全微分を用いることで、
図5に示されるように、予測変化量a
1(第1判定値)への到達時間tは、ランプ入力(変化率α)の値が大きいと早く、ランプ入力の値が小さいと遅い負の対数になる。このように、微分時間T
Dと予測変化量a(判定値に等しくなる)を調整することにより、ステップ応答に対して短い経過時間tとなるとともに、ランプ応答に対して長い経過時間tとなるように設定することができる。
【0038】
信号出力部123は、設定された第1微分時間T
D1を式(1)に示される不完全微分器に適用し、適用後の不完全微分器を用いて、取得部122が取得した中性子束のレベルの予測変化量を算出する。そして、信号出力部123は、算出した予測変化量が、トリップ判定値(第1判定値)を超えるとトリップ信号を出力する。
図5に示す例では、上昇率が最大のステップ応答が予め定められた時間発生した場合、上昇率が最大のランプ応答が発生した場合、通常のランプ応答が発生した場合のいずれにおいても、中性子束のレベルの予測変化量がトリップ判定値(第1判定値)を超えることなく、トリップ信号が出力されないことが確認できる。
【0039】
このようにすることで、原子炉保護装置1は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合に、通常運転時に実施される複数の上昇率それぞれに対応するステップ応答が発生した場合、及びランプ応答が発生した場合の両方の場合においても、トリップ信号が出力されず、異常が発生している可能性が高い場合においてのみトリップ信号が出力されるようにすることができる。
【0040】
なお、信号出力部123は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合に、取得部122が取得した中性子束のレベルを第1微分時間により不完全微分を行うことで算出した予測変化量が第1判定値を超えたことを条件としてトリップ信号を出力したが、これに限らない。
【0041】
記憶部11は、原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合における、中性子束のレベルの変化率と、トリップ信号が出力されるまでの経過時間である第1時間との組み合わせを記憶してもよい。この場合、信号出力部123は、取得部122が取得した中性子束のレベルに基づいて、単位時間当たりの中性子束のレベルの変化率を算出するとともに、記憶部11を参照し、算出した変化率に関連付けられている第1時間を特定する。そして、信号出力部123は、算出した中性子束のレベルの変化率が、特定した第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力する。このようにすることで、原子炉保護装置1は、不完全微分を用いてトリップ信号を出力するのと同様に、トリップ信号を出力することができる。
【0042】
また、信号出力部123は、中性子束のレベルの変化率を算出する場合に、取得した中性子束のレベルを、ローパスフィルタに入力した後に微分する不完全微分器に入力することにより、変化率を算出してもよい。このようにすることで、原子炉保護装置1は、中性子束信号に入力に含まれる高周波成分を抑制することができるので、外乱の影響が抑制された変化率を算出することができる。
【0043】
続いて、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合にトリップ信号が出力される条件について説明する。
図6は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合において、ステップ応答又はランプ応答により原子炉出力が変化した場合の中性子束のレベルの変化率を示す図である。
【0044】
まず、
図6における横軸のタイムスケールは、
図3に示す横軸のタイムスケールと同一である。
図6において、実線は、上昇率が最大のステップ応答が発生した場合の中性子束のレベルの変化率を示している。また、破線は、上昇率が最大のランプ応答が発生した場合の中性子束のレベルの変化率を示している。また、一点鎖線は、所定上昇率のランプ応答が発生した場合の中性子束のレベルの変化率を示している。
【0045】
原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合、原子炉の出力値に上限が設けられていることにより、上昇率が最大のステップ応答に対応する出力指示は、所定の閾値未満である場合よりも短い時間で行われる。
図6に示すように、上昇率が最大のステップ応答が行われてから時間T
11よりも短い時間T
21までの間の中性子束のレベルの変化率がR1であることが確認できる。また、同様に上昇率が最大のランプ応答に対応する出力指示も、所定の閾値未満である場合よりも短い時間で行われる。
図6では、上昇率が最大のランプ応答に対応する出力指示が行われてから時間T
22までの間に、中性子束のレベルの変化率がR2であることが確認できる。また、
図6では、所定上昇率のランプ応答が発生した場合の中性子束のレベルの変化率がR3であることが確認できる。
【0046】
図6に示す例では、変化率がR1である状態が時間T
21を超えた場合、又は変化率がR2である状態が時間T
22を超えた場合、異常が発生したものとして、トリップ信号を出力する必要がある。また、
図6に示す例では、所定上昇率のランプ応答が発生した場合であっても、変化率R3である状態が時間T
23を超えると、原子炉の出力値が原子炉において許容されている出力値を超える可能性が高いため、変化率がR3である状態が時間T
23を超えたことに応じてトリップ信号を出力する必要がある。
【0047】
これに対応するために、信号出力部123は、出力値特定部121が特定した出力値が所定の閾値以上である場合、取得部122が取得した中性子束のレベルに基づく中性子束のレベルの変化率が、第1変化率R1以下で第2変化率R2よりも大きい場合に、当該変化率に対して定められた第1時間よりも短い第2時間継続したこと、又は第中性子束のレベルの変化率が第2変化率R2以下の場合に当該変化率に対して定められた第3時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力する。
【0048】
具体的には、信号出力部123は、取得部122が取得した中性子束のレベルに対して第1微分時間よりも長い第2微分時間で不完全微分を行うことにより、中性子束のレベルの予測変化量を算出する。そして、信号出力部123は、算出した予測変化量が第1判定値よりも低い第2判定値を超えるとトリップ信号を出力する。
【0049】
図7は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合における、中性子束レベルの変化率と、トリップ信号が出力されるまでの経過時間との関係を示す図である。
図4に示したトリップ設定曲線と比較すると、同一の変化率に対して、
図4に示したトリップ設定曲線よりも短い経過時間においてトリップ信号が出力されるようにトリップ設定曲線が作成されている。
【0050】
第2微分時間及び第2判定値は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合における、中性子レベルの変化率と、当該変化率に対して定められる第2時間との関係に基づいて設定される。具体的には、第2微分時間及び第2判定値は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合における、中性子束のレベルの変化率が第1変化率R1以下で第2変化率R2よりも大きい場合における当該変化率と第2時間との関係(例えば、第1変化率R1と時間T21との組み合わせ、及び第2変化率R2と時間T22との組み合わせ)と、中性子束のレベルの変化率が第2変化率R2以下の場合における当該変化率と第3時間(例えば、第3変化率R3と時間T23との組み合わせ)との関係とに基づいて設定される。
【0051】
すなわち、出力値特定部121が特定した出力値が所定の閾値以上である場合における通常運転中に発生しうる複数のステップ応答及びランプ応答に対応する変化率αと、トリップ信号が出力されるまでの経過時間tとの組み合わせを特定する。そして、特定した組み合わせを、式(2)に入力した場合に、式(2)が成り立つようにT
Dとaとを調整する。式(2)を変形すると、以下の式(4)が示される。式(4)におけるT
D2は調整後の微分時間(第2微分時間)であり、a
2は調整後の予測変化量(第2判定値)である。このようにすることで、第2微分時間と、第2判定値とを設定することができる。
【0052】
調整されたTD2とa2とにより定められる式(4)は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合に、変化率αの入力に対し、当該変化率αに対してトリップ信号が出力されるまでの原子炉の運転継続時間である経過時間tを出力する第2関数である。第2関数が示す変化率αと、経過時間tとの関係を示す曲線は、原子炉の出力が所定の閾値以上である場合に、中性子束のレベルの変化率αが継続したときに、トリップ信号を出力するまでの経過時間tを示すトリップ設定曲線となる。
【0053】
図7に示されるトリップ設定曲線において、各変化率αに対応する経過時間が、
図4に示される各変化率αに対応する経過時間よりも短くなっていることが確認できる。例えば、
図7に示すように、中性子束のレベルの変化率αがR1となってから経過時間T
11よりも短い経過時間T
21を超えると、トリップ設定曲線に対応する経過時間となり、トリップ信号が出力されることとなる。また、中性子束のレベルの変化率αがR2となってからT
22を超えた場合、中性子束のレベルの変化率αがR3となってからT
23を超えた場合も、トリップ設定曲線に対応する経過時間となり、トリップ信号が出力されることとなる。
【0054】
図8は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合において、第2微分時間により不完全微分を行った場合の中性子束の予測変化量を示す図である。
図8において、実線は、上昇率が最大のステップ応答が発生した場合、すなわち、中性子束のレベルの変化率がR1である場合の中性子束のレベルの予測変化量を示している。破線は、上昇率が最大のランプ応答が発生した場合、すなわち、中性子束のレベルの変化率がR2である場合の中性子束のレベルの予測変化量を示している。一点鎖線は、上昇率が所定の上昇率のランプ応答が発生した場合、すなわち、中性子束のレベルの変化率がR3である場合の中性子束のレベルの予測変化量を示している。
【0055】
信号出力部123は、設定された第2微分時間TD2を式(1)に示す不完全微分器に適用し、適用後の不完全微分器を用いて、取得部122が取得した中性子束のレベルの予測変化量を算出する。そして、信号出力部123は、算出した予測変化量が、第2判定値を超えるとトリップ信号を出力する。
【0056】
信号出力部123は、
図8に示すように、上昇率が最大のステップ応答に対応する出力指示が行われた場合、上昇率が最大のランプ応答に対応する出力指示が行われた場合のいずれも、トリップ判定値(第2判定値)a
2を超えないので、トリップ信号を出力しない。一方、信号出力部123は、上昇率が所定の上昇率のランプ応答に対応する出力指示が行われてから異常状態に当たる時間T
23(第3時間)が経過すると、算出された予測変化量が第2判定値a
2を超えることから、トリップ信号を出力する。このようにすることで、原子炉保護装置1は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合に、通常の出力上昇に対してトリップ信号を出力しないようにしつつも、原子炉の異常発生に対してトリップ信号が出力されるまでの時間を短くすることができる。
【0057】
なお、信号出力部123は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合に、取得部122が取得した中性子束のレベルを第2微分時間により不完全微分を行うことで算出した予測変化量が第2判定値を超えたことを条件としてトリップ信号を出力したが、これに限らない。
【0058】
記憶部11は、原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合における、中性子束のレベルの変化率と、トリップ信号が出力されるまでの経過時間である第2時間との組み合わせを記憶してもよい。この場合、信号出力部123は、取得部122が取得した中性子束のレベルに基づいて、単位時間当たりの中性子束のレベルの変化率を算出するとともに、記憶部11を参照し、算出した変化率に関連付けられている第2時間を特定する。そして、信号出力部123は、算出した中性子束のレベルの変化率が、特定した第2時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力する。このようにすることで、原子炉保護装置1は、不完全微分を用いてトリップ信号を出力するのと同様に、トリップ信号を出力することができる。
【0059】
[フローチャート]
続いて、原子炉保護装置1においてトリップ信号が出力されるまでの処理の流れを説明する。
図9は、原子炉保護装置1においてトリップ信号が出力されるまでの処理の流れを示すフローチャートである。
【0060】
まず、出力値特定部121は、高速炉の原子炉の出力値を特定する(S1)。
続いて、取得部122は、高速炉の原子炉の出力領域における中性子束のレベルを取得する(S2)。
【0061】
続いて、信号出力部123は、高速炉の原子炉の出力値が所定の閾値未満であるか否かを判定する(S3)。信号出力部123は、出力値が所定の閾値未満であると判定すると、S4に処理を移し、出力値が所定の閾値以上であると判定すると、S6に処理を移す。
【0062】
S4において、信号出力部123は、取得した中性子束のレベルを第1微分時間により不完全微分を行い、予測変化量を算出する。
続いて、信号出力部123は、算出した予測変化量が第1判定値a1に到達したか否かを判定し、算出した予測変化量が第1判定値a1に到達したと判定すると、トリップ信号を出力する(S5)。
【0063】
S6において、信号出力部123は、取得した中性子束のレベルを第2微分時間により不完全微分を行い、予測変化量を算出する。
続いて、信号出力部123は、算出した予測変化量が第2判定値a2に到達したか否かを判定し、算出した予測変化量が第2判定値a2に到達したと判定すると、トリップ信号を出力する(S7)。
【0064】
信号出力部123は、S5において出力された信号と、S7において出力された信号の論理和を出力する(S8)。これにより、信号出力部123は、高速炉の原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合に、算出した予測変化量が第1判定値に到達したとき、又は高速炉の原子炉の出力値が所定の閾値以上である場合に、算出した予測変化量が第2判定値に到達したときに、トリップ信号を出力する。
【0065】
[従来技術との比較]
同一の高速炉の原子炉をモデルとし、原子炉出力に基づいてトリップ信号を出力する従来技術と、本実施形態に係る原子炉保護装置1とで、トリップ信号が出力されるまでの経過時間のシミュレーションを行った。従来技術は、原子炉出力が116%になるとトリップ信号を出力するものであり、原子炉出力が100%の状態から、変化率2%/分で原子炉出力を上昇させるシミュレーションを行ったところ、約500秒でトリップ信号が出力されることが確認できた。これに対し、本実施形態に係る原子炉保護装置1は、同条件でシミュレーションを行ったところ、約200秒でトリップ信号が出力されることが確認できた。これにより、本実施形態に係る原子炉保護装置1により、トリップ信号が出力されるまでの時間が従来技術に比べて半分以下となることが確認できた。
【0066】
[本実施形態における効果]
以上のとおり、本実施形態に係る原子炉保護装置1は、高速炉の原子炉の出力値を特定するとともに、高速炉の原子炉の出力領域における中性子束のレベルを取得し、高速炉の原子炉の出力値が所定の閾値未満である場合、取得した中性子束のレベルに基づく中性子束のレベルの変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力し、出力値が所定の閾値以上である場合、当該変化率が、当該変化率に対して定められた第1時間よりも短い第2時間継続したことを条件としてトリップ信号を出力する。このようにすることで、原子炉保護装置1は、通常運転時に実施されるステップ応答及びランプ応答が発生した場合の両方の場合においても、トリップ信号が出力されないようにするとともに、トリップ信号が出力されるまでの時間を短くすることができる。
【0067】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。また、装置の分散・統合の具体的な実施の形態は、以上の実施の形態に限られず、その全部又は一部について、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を合わせ持つ。
【符号の説明】
【0068】
1・・・高速炉の原子炉保護装置、110・・・記憶部、120・・・制御部、121・・・出力値特定部、122・・・取得部、123・・・信号出力部、2・・・中性子束検出器、3・・・トリップ制御装置