(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173848
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】異常診断システム、異常診断方法、及び異常診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079824
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】白石 朋史
(72)【発明者】
【氏名】堀 嘉成
(72)【発明者】
【氏名】望月 義則
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 大介
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF03
3C223FF26
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH04
3C223HH15
(57)【要約】
【課題】設備の機器が非常に多い場合でも、部位間の影響の伝播関係を表現でき、正常運転と異なる状態を起こさせた原因となる部位を容易に判別する異常診断システムを提供する。
【解決手段】複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常診断システムであって、設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段と、状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定する原因推定手段とから構成され、状態変化検知手段は、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶し、運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知し、原因推定手段は、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定することを特徴とする異常診断システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常診断システムであって、
設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段と、前記状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定する原因推定手段とから構成され、
前記状態変化検知手段は、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶し、運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知し、
前記原因推定手段は、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定することを特徴とする異常診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準の一つは、複数の部位を移動する物質による影響の伝播関係が上流側にある検知ユニットほど高い得点を与えるものであることを特徴とする異常診断システム。
【請求項3】
請求項1に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準の一つは、複数の部位を移動する物質について、検知時間が早い検知ユニットほど高い得点を与えることを特徴とする異常診断システム。
【請求項4】
請求項1に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準の一つは、複数の部位を移動する物質について、状態変化の原因となった運転データに入力条件が含まれていない検知ユニットに得点を与えることを特徴とする異常診断システム。
【請求項5】
請求項1に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準の一つは、複数の部位を移動する物質について、状態変化の原因となった運転データが制御ロジックの操作端である場合、制御端を含む検知ユニットに得点を与えることを特徴とする異常診断システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の異常診断システムであって、
表示手段に、総合得点の高い設備が状態変化の原因となる部位である可能性が高いことを表示することを特徴とする異常診断システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準における得点の配分を調整するパラメータ調整手段を有することを特徴とする異常診断システム。
【請求項8】
請求項7に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準における得点の配分調整は、最上流の検知ユニットからの距離やユニットの順番の一次関数となるように得点配分を設定しておき、一次関数の切片と傾きを最適化するものであることを表示することを特徴とする異常診断システム。
【請求項9】
請求項7に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準における得点の配分調整は、検知時間が最も早い検知ユニットからの経過時間の一次関数となるように得点配分を設定しておき、一次関数の切片と傾きを最適化するものであることを表示することを特徴とする異常診断システム。
【請求項10】
請求項7に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準における得点の配分調整は、状態変化の原因となった運転データに入力条件が含まれていない検知ユニットに与える得点を最適化するものであることを表示することを特徴とする異常診断システム。
【請求項11】
請求項7に記載の異常診断システムであって、
複数の評価基準における得点の配分調整は、状態変化の原因となった運転データが制御ロジックの操作端である場合、該当する制御ロジックの制御端を含む検知ユニットに与える得点を最適化することを表示することを特徴とする異常診断システム。
【請求項12】
複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常診断方法であって、
設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段により、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶して運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知し、
前記状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定するために、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定することを特徴とする異常診断方法。
【請求項13】
請求項12に記載の異常診断方法であって、
複数の評価基準における得点の配分を調整することを表示することを特徴とする異常診断方法。
【請求項14】
計算機を用いて、複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常を診断する異常診断プログラムであって、
設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段により、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶して運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知する第1のプログラムと、
前記状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定するために、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定する第2のプログラムと、複数の評価基準における得点の配分を調整する第3のプログラムを備えることを特徴とする異常診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置、設備やプラント等の操業時における異常を検知し、それを運転者や運転システムに通知・伝達する異常診断システム、異常診断方法、及び異常診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の機器で構成される設備やプラントにおいて、各機器に設置されたセンサで計測される計測値により運転データを取得し、その運転データを基にして設備やプラントの異常診断を実行する手法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、運転データを複数のカテゴリに分類、記録して、正常運転時の運転データとして記憶したデータと異なる新たなカテゴリの運転データを取得した場合に、これまでに記憶した運転状態とは異なる運転状態であると判断する異常診断方法が述べられている。また、この方法を基に、物質流れの方向を考慮して設備の異常個所を判別する方法も述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す技術では、設備やプラントの中における機器が単一のまとまりで診断対象となるため、対象となる機器が多い場合や、一つの機器の異常の影響が広範囲に及ぶ場合には、原因となる機器の特定が困難であった。
【0006】
本発明の目的は、設備やプラントにおける機器が多い場合でも、機器間の影響の伝播関係を表現でき、正常運転とは異なる運転状態を起こさせた原因となる機器(部位)を容易に判別する異常診断システム、異常診断方法、及び異常診断プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、「複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常診断システムであって、設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段と、状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定する原因推定手段とから構成され、状態変化検知手段は、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶し、運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知し、原因推定手段は、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定することを特徴とする異常診断システム」としたものである。
【0008】
また本発明は、「複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常診断方法であって、設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段により、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶して運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知し、状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定するために、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定することを特徴とする異常診断方法」としたものである。
【0009】
また本発明は、「計算機を用いて、複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常を診断する異常診断プログラムであって、設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段により、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶して運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知する第1のプログラムと、状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定するために、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定する第2のプログラムと、複数の評価基準における得点の配分を調整する第3のプログラムを備えることを特徴とする異常診断プログラム」としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設備やプラントにおける機器が多い場合でも、機器間の影響の伝播関係を表現でき、正常運転とは異なる運転状態を起こさせた原因となる機器(部位)を容易に判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例に係る異常診断システム1の構成例を示すブロック図。
【
図2】異常診断システム1の監視対象であるプラントの機器の構成例を示す図。
【
図3】検知ユニットA2において、状態変化を検知した場合の運転データの変化を示した図。
【
図4】検知ユニット間関係情報の一例を示した図である。
【
図6】検知ユニットA2、A4、A5において、状態変化を検知した場合の運転データの変化を示した図である。
【
図7】制御ロジックの制御端と操作端の表示例を示した図である。
【
図9】表示手段に原因推定結果を別の方法で示した図である。
【
図10】本発明の実施例に係る異常診断システム1の処理フローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例0013】
図1は、本発明の実施例に係る異常診断システム1の構成例を示すブロック図である。一例としての異常診断システム1は、プラント2の計測・制御装置3、外部出力装置4、および外部入力装置5と双方向通信可能に接続される。また、計算機で構成される異常診断システム1は、運転データデータベース110、状態変化検知手段120、検知ユニット間関係情報データベース130、原因推定手段140、パラメータ調整手段150、および表示手段160からなる。
【0014】
このうち運転データデータベース110は、プラント2の計測・制御装置3と接続されており、プラントの温度、圧力、流量等の計測データや、バルブ開度などの操作量データ、制御の設定値データが時系列で格納されている。以下では、計測データ、操作量データ、設定値データを合わせて運転データと呼ぶ。
【0015】
状態変化検知手段120は、プラントの機器(部位であってもよい。以下単に機器ということにする。)毎に設定された検知ユニットにより、各機器の状態変化を検知する。ここで、検知ユニットとは、対象となる機器に関する複数の運転データを利用し、これらの運転データの関係から状態変化を検知するものである。
【0016】
検知ユニット間関係情報データベース130は、検知ユニットAに対応するプラントの機器(部位)B間の影響の伝播関係が格納されている。例えば、検知ユニットA1と検知ユニットA2が、それぞれプラントの機器B1と機器B2の状態変化を検知するときに、機器B1が機器B2の上流側の機器であった場合、機器B1の影響が機器B2に及ぶ。この場合、検知ユニット間関係情報には、検知ユニットA1から検知ユニットA2に影響が及ぶという情報が格納されている。
【0017】
原因推定手段140は、状態変化検知手段120の検知ユニットAが状態変化を検知した情報と、検知ユニット間関係情報データベース130を用いて状態変化を引き起こした原因となる機器Bを推定する。
【0018】
パラメータ調整手段150は、原因推定手段140が状態変化を引き起こした原因となる機器Bを推定する際に使用するパラメータを調整する。
【0019】
表示手段160は、原因推定手段140で推定した原因機器Bを画面上に表示する。
【0020】
次に、異常診断システム1の動作について詳細に説明するが、この前提として
図2のプラント構成例を参考例として説明する。
図2のプラントは、複数の機器B(この例では機器B1から機器B5)による物質の移動経路を示しており、機器B1からの物質が反応器V1を主体に構成された機器B2に流入し、機器B2から機器B3および、反応器V2を主体に構成された機器B4に分流し、さらに機器B4から機器B5に流入する経路を示している。これら経路の各所には適宜制御弁V-(V-F4,V-P5,V-F7)が配置されており、流入、流出する物質を適宜制御している。
【0021】
図1の運転データデータベース110には、
図2のプラントの各部における運転データが、各センサにより検知されて記録されている。ここでの運転データの具体例は例えば、
図2に示したプラントの機器B2の場合、流量F1、圧力P2、温度T1、T2、T3、レベルL2が、機器B2に対応する検知ユニットA2に用いられる運転データとなる。同様に、機器B4に対応する検知ユニットA4に用いられる運転データは、流量F4、圧力P6、温度T4、T6、レベルL6である。
【0022】
図1に戻り、異常診断システム1には、学習フェーズと診断フェーズがある。学習フェーズは、異常診断システム1を稼働させる前の準備段階のフェーズであり、状態変化検知手段120のみが動作する。また診断フェーズは、プラントの機器Bの診断を実施し、状態変化検知手段120で機器の状態変化を検知すると、原因推定手段140が動作する。また、診断フェーズでの診断状況は、表示手段160に表示される。
【0023】
まず、学習フェーズについて説明する。学習フェーズでは、運転データデータベース110に格納されている、機器Bが正常な状態の運転データを用い、状態変化検知手段120の検知ユニットAにより、正常な運転状態における各部位の運転データの関係をデータクラスタリング技術の1つである例えば適応共鳴理論(Adaptive Resonance Theory、以下、ARTと称す)を用いて学習する。
【0024】
具体的には、各検知ユニットに対応する複数の運転データを、多次元データとしてARTに入力する。ここでの入力が
図2で例示した運転データである。
【0025】
入力された運転データは、正規化処理や補数の追加などのデータの前処理を経て、データの類似度に応じて、複数のカテゴリーに分類される。分類されるカテゴリーの数は、分類の詳細度を決める分解能パラメータ、運転データの数、データのばらつきなどによって異なるが、分類されたカテゴリーが正常状態を表すカテゴリーと定義される。
【0026】
例えば、プラントが正常な状態の時に入手した運転データがカテゴリー1からカテゴリー10の10個のカテゴリーに分かれたとすると、1から10のカテゴリーが正常な状態のカテゴリーとなる。
【0027】
次に、診断フェーズについて説明する。診断フェーズでは、正常な運転データを学習したARTに診断したい運転データ(診断データ)を入力する。その結果、学習データとの類似度が高いデータは、学習フェーズと同じカテゴリー(1から10の10個のカテゴリーのいずれか)に分類される。しかし、設備になんらかの異常が生じ、データの傾向が変わった場合には、学習データとは異なる新たなカテゴリー(新規カテゴリーとして、例えば11)に分類される。このように、検知ユニットでは、ARTにより分類されたカテゴリーから機器の状態変化を検知することができる。
【0028】
次に、診断フェーズで新規カテゴリーが発生した場合について詳細に説明する。ここでは検知ユニットA2で新規カテゴリーが発生し、状態変化を検知した場合について記載する。なお
図2のプラント構成の場合に、検知ユニットA(A1からA5)は機器B(B1からB5)の単位で設けられており,検知ユニットA2は、
図2の反応器V1を主体に構成された機器B2に関連するセンサからの運転データ(流量F1、圧力P2、温度T1、T2、T3、レベルL2)を検知し、クラスタリングによりその異常を検知したものである。
【0029】
その際の検知ユニットA2の各計測項目の値の変化を
図3に示す。横軸が運転データの項目(流量F1、圧力P2、温度T1、T2、T3、レベルL2)であり、縦軸が規格化された測定値である。破線で示したものが、正常運転時と同じカテゴリーのデータ(状態変化を検知する直前のデータ)の特性であり、実線で示したものが新規カテゴリーになったデータの特性を示している。検知ユニットA2では圧力P2と温度T3で正常運転時と異なる値が計測されており、これが新規カテゴリーとなった要因となっている。
【0030】
なお、
図3の運転データの下に”E”と示してあるものは、対象とした機器Bに対し、入力条件となるものを示している。例えば、
図2の検知ユニットA2の例では、流量F1、温度T1は設備の上流側の機器B1に依存するデータであり、機器B2の状態に関係なく変化するものである。一方、温度T2、圧力P2、温度T3、レベルL2は、上流側の機器B1によっても変化するが、反応器V1の状態によっても影響を受ける運転データである。このように、全ての検知ユニットで対象となる運転データは、入力条件となるか否かで区別することができる。
【0031】
すなわち、検知ユニットAでは、プラントの機器Bの状態が変化したか否かを検知すると同時に、分類されたデータの特性から、どの運転データが変化したかについても、検出することができる。また、変化した運転データが入力条件か否かについても判定することができる。
【0032】
次に
図1の原因推定手段140の動作について説明する。原因推定手段140では、状態変化検知手段120で各検知ユニットAが状態変化を検知した時間と状態変化の原因となった運転データと、検知ユニット間関係情報データベース130に格納された設備の部位間の影響の伝播関係から異常の原因となった部位を推定する。
【0033】
検知ユニット間関係情報データベース130の格納情報の具体例について
図4に示す。
図4では
図2に示した機器B1~B5に対応する検知ユニットA1~A5の関係が示されている。各検知ユニット間の矢印が影響の伝播関係を表している。これは、対応する部位の物質の移動から決まる伝播関係である。例えば、
図2のプラントの機器B2に着目すると、上流側の機器B1から流入した物質が、反応器V1を経由して機器B3とB4へ移動する。そのため、検知ユニットAにおいても、
図4に示したようにA1からA2、A2からA3とA4に影響が伝播する。このように、検知ユニット間関係情報データベース130に格納された設備の部位間の影響の伝播関係は、複数の運転データを一括して扱う検知ユニットの間の関係を表すため、個別の運転データ間の関係を表す方法に比べて格段に容易に構築することができる。
【0034】
原因推定手段140では、これらの影響の伝播関係と、状態変化検知手段120で各検知ユニットAが状態変化を検知した時間および状態変化の原因となった運転データから総合的に異常の原因となった部位を推定する。
【0035】
図10は、原因推定手段140及びパラメータ調整手段150における処理内容を示すフローチャートである。
図10において、処理ステップS10は原因推定手段140を稼働させる前の準備段階において行われるパラメータ調整手段150での処理であり、原因推定手段140で使用する基準についてのパラメータを調整しておく。なお、パラメータ調整手段150である処理ステップS10について、詳細に後述する。
【0036】
処理ステップS11では、各検知ユニットA(A1からA5)からデータを入力して取り込み、処理ステップS12では以下に示す評価基準の考え方に沿って、検知ユニットA(A1からA5)に得点を付与する。
【0037】
本実施例では、以下の4つの評価基準で、状態変化を検知した検知ユニットAに得点を与え、総合得点の高い順に異常の原因である可能性が高い部位であると推定した。これらの評価基準は、複数の部位を移動する物質に関連して定められた基準である。
【0038】
基準1:影響の伝播関係が上流側にある検知ユニットほど高い得点を与える。
【0039】
基準2:検知時間が早い検知ユニットほど高い得点を与える。
【0040】
基準3:状態変化の原因となった運転データに入力条件が含まれていない検知ユニットに得点を与える。
【0041】
基準4:状態変化の原因となった運転データが制御ロジックの操作端である場合、制御端を含む検知ユニットに得点を与える。
【0042】
これらの基準の妥当性判断については以下のようである。まず、基準1は、影響の伝播関係が上流にあるものほど異常の原因である可能性が高いためである。基準2は、早期に状態変化を検知したものほど原因の可能性が高いためである。基準3は、運転データのうち入力条件が変化していないにもかかわらず、状態が変化したことを示すものであり、根本的な原因である可能性が高いためである。基準4は、制御ロジックの制御端側に根本的な原因がある可能性が高いためである。これは、運転データのうち制御ロジックに関連するデータは、操作端は変動するが制御端は変動しないためである。
【0043】
ここで、基準4の具体的な例を、
図2を用いて説明する。プラントの機器(部位)B2において反応器V1のレベルL2は、機器(部位)B4の流量F4を調整するバルブV-F4によって一定に保たれている。この時、レベルL2と流量F4の間には、点線で示すような制御ロジックが存在し、レベルL2を制御端、流量F4を操作端と呼ぶ。
【0044】
このような制御ロジックが存在する場合、レベルL2は一定値に保たれている一方で、流量F4は変動している。そこで基準4では、状態変化の原因となった運転データが制御ロジックの操作端である場合、その根本原因として制御ロジックの制御端である可能性が高いと考えるものである。
【0045】
次に、具体的な得点の与え方は基準毎に以下の通りである。
【0046】
基準1:
伝播関係が最上流の検知ユニットに100点を与える。最上流の検知ユニットのすぐ下流側の検知ユニット、かつ、状態変化を検知した検知ユニットに50点を与える。最上流の検知ユニットから2番目の下流側の検知ユニット、かつ、状態変化を検知した検知ユニットに30点を与える。最上流の検知ユニットから3番目の下流側の検知ユニット、かつ、状態変化を検知した検知ユニットに20点を与える。最上流の検知ユニットから4番目の下流側の検知ユニット、かつ、状態変化を検知した検知ユニットに10点を与える。最上流の検知ユニットから5番目以降の下流側の検知ユニットには、得点を与えない。
【0047】
基準2:
検知時間が最も早い検知ユニットに50点を与える。以下、検知時間が1分遅くなるごとに1点ずつ減点する。例えば、最も早い検知ユニットから15分後に状態変化を検知した検知ユニットには、35点を与える。検知時間が50分以上遅い検知ユニットには、得点を与えない。
【0048】
基準3:
状態変化の原因となった運転データに入力条件が含まれていない検知ユニットに100点を与える。
【0049】
基準4:
状態変化の原因となった運転データが制御ロジックの操作端である場合、該当する制御ロジックの制御端を含む検知ユニットに50点を与える。
【0050】
なお、本実施例の得点の付与方法は一例であり、本発明を限定するものではない。
【0051】
図10の処理ステップS13では、検知ユニットに対して各基準に基づいて付与された得点の合計を求め、この内容を表示手段160に表示する。表示手段160の例と、これらの評価基準で実際に原因を推定した例について以下に示す。表示手段160の表示例を
図5に示す。表示手段160には、検知ユニット間関係情報データベース130を表す図が図示されている。
図5は、機器B1~B5に対応する検知ユニットA1~A5の関係が示された
図4に、さらに状態変化を検知した時刻の情報を重ねて表示したものである。
【0052】
図5において背景色を付した検知ユニットA2,A4,A5は、正常運転時と異なる分類の新規カテゴリーが生じたと判定され、状態変化を検知した検知ユニットである。検知ユニットA2,A4,A5の右上の数字は時刻を表し、その時刻で状態変化を検知したことを表わしている。すなわち検知ユニットA2は8時30分に状態が変化し、検知ユニットA4は、8時20分に、検知ユニットA5は8時40分にそれぞれ状態変化を検知している。
【0053】
また、
図5の例で、検知ユニットA2、A4、A5の各計測項目の値の変化を
図6に示す。横軸が運転データの項目であり、縦軸が規格化された測定値である。破線で示したものが、正常運転時と同じカテゴリーのデータ(状態変化を検知する直前のデータ)の特性であり、実線で示したものが新規カテゴリーになったデータの特性を示している。
【0054】
図6の運転データの下に”E”と示してあるものは、対象とした機器に対し、入力条件となるものを示している。
図6の運転データの下に”C”と示してあるものは、制御ロジックが存在して制御端であることを示し、”O”と示してあるものは、制御ロジックが存在して操作端であることを示している。
【0055】
制御ロジックの別の表現方法を
図7に示す。
図7では、制御ロジックの制御端と操作端を表にまとめて示したものである。
図7によると、制御ロジックNo.1の制御端はレベルL2であり、操作端は流量F4であることが分かる。また制御ロジックNo.2の制御端はレベルL6であり、操作端は流量F7である。
【0056】
図5、
図6、
図7の一連の例によれば、検知ユニットA2では、圧力P2と温度T3で正常運転時と異なる値が計測されており、これが新規カテゴリーとなった要因となっている。検知ユニットA4では、流量F4、温度T4で正常運転時と異なる値が計測されており、これが新規カテゴリーと判定された要因である。また、状態変化の原因となった流量F4、温度T4は、いずれも検知ユニットA4の入力条件となっている。さらに、状態変化の原因となった流量F4は、制御ロジックの操作端となっている。また検知ユニットA5では、圧力P8と温度T8で正常運転時と異なる値が計測されており、これが新規カテゴリーとなった要因となっている。
【0057】
これらの条件に基づき、上記に示した評価基準で各検知ユニットに得点を付与すると、以下のようになる。
【0058】
基準1:検知ユニットA1~0点、検知ユニットA2~100点、検知ユニットA3~0点、検知ユニットA4~50点、検知ユニットA5~30点
基準2:検知ユニットA1~0点、検知ユニットA2~40点、検知ユニットA3~0点、検知ユニットA4~50点、検知ユニットA5~30点
基準3:検知ユニットA1~0点、検知ユニットA2~100点、検知ユニットA3~0点、検知ユニットA4~0点、検知ユニットA5~100点
基準4:検知ユニットA1~0点、検知ユニットA2~50点、検知ユニットA3~0点、検知ユニットA4~0点、検知ユニットA5~0点
したがって、合計得点は、検知ユニットA1~0点、検知ユニットA2~290点、検知ユニットA3~0点、検知ユニットA4~100点、検知ユニットA5~160点となり、異常の原因となった部位は、合計得点が最も高い検知ユニットA2と推定できる。
【0059】
本実施例では、
図5に示す”原因推定”ボタンを押下すると
図8に示すように付与した得点に基づく推定結果を表示する。なお、
図8の右端の列に表示された”可能性”は、検知ユニットの合計得点に対する各検知ユニットの得点の割合から評価した。
【0060】
図5において、原因推定ボタンを押下した場合の画面は、
図9に示すように色の濃淡や色相で示しても良い。
【0061】
次に、パラメータ調整手段150について述べる。パラメータ調整手段150は、原因推定手段140が状態変化を引き起こした原因となる機器を推定する際に使用するパラメータ(基準1~4で与える得点配分方法)を調整する。
図10の処理ステップS10の処理がこれに相当する。
【0062】
パラメータの調整は、原因推定手段140が状態変化を引き起こした原因となる機器を推定した結果と、実際のプラントで異常が生じた場合の原因となった機器との間に、差が生じたと判断されたタイミングで実施する。
【0063】
具体的には、実際のプラントで異常が生じた場合の原因となった機器の合計得点が最も高くなるように、基準1~4で与える得点配分方法を最適化する。
【0064】
基準1では、例えば、最上流の検知ユニットからの距離やユニットの順番の一次関数となるように得点配分を設定しておき、一次関数の切片と傾きを最適化する。
【0065】
基準2では、例えば、検知時間が最も早い検知ユニットからの経過時間の一次関数となるように得点配分を設定しておき、一次関数の切片と傾きを最適化する。
【0066】
基準3では、例えば、状態変化の原因となった運転データに入力条件が含まれていない検知ユニットに与える得点を最適化する。
【0067】
基準4では、例えば、状態変化の原因となった運転データが制御ロジックの操作端である場合、該当する制御ロジックの制御端を含む検知ユニットに与える得点を最適化する。
【0068】
基準1~4で与える得点配分方法を最適化する(パラメータを調整する)ことで、実際のプラントで異常が生じた場合の原因となった機器(部位)と、原因推定手段140が状態変化を引き起こした原因となる機器(部位)を推定した結果とを一致させることができる。
【0069】
以上に示したように、本実施例では、プラントの機器(部位)の状態変化を検知でき、状態変化を引き起こした原因となる機器(部位)を推定することができる。
【0070】
なお、本実施例では、状態変化検知手段120のクラスタリング技術として、適応共鳴理論を用いたが、ベクトル量子化、k-平均法など、他のデータクラスタリング技術を用いても良い。
【0071】
なお以上の説明においては主に、システム構成の観点から説明をしたが、これは方法、或はプログラムとして実現することができる。方法として実現する場合には、「複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常診断方法であって、設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段により、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶して運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知し、状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定するために、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定することを特徴とする異常診断方法」とするのがよい。
【0072】
またプログラムとして実現する場合には、「計算機を用いて、複数の部位により物質の移動経路を形成する設備の異常を診断する異常診断プログラムであって、設備の部位毎に設定され、物質の状態変化を検知する複数の状態変化検知手段により、検知ユニットが検知した、その対象となる部位に関する複数の運転データの正常運転時の関係を記憶して運転データの関係が正常状態と変化したことから状態変化を検知する第1のプログラムと、状態変化検知手段が状態の変化を検知した場合に、その原因となる部位を推定するために、複数の部位を移動する物質に関連して定められた複数の評価基準を用いて、状態変化を検知した各部位の検知ユニットに対して得点を付与し、複数評価基準による付与された得点の合計に応じて設備の状態変化の原因となる部位を推定する第2のプログラムと、複数の評価基準における得点の配分を調整する第3のプログラムを備えることを特徴とする異常診断プログラム」とするのがよい。