(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173851
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 1/14 20060101AFI20221115BHJP
G01P 15/125 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G01L1/14 L
G01P15/125 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079827
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 則一
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 貴志
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 基弘
(57)【要約】
【課題】振動子を用いて構成したセンサを提供する。
【解決手段】センサは、第1および第2固定電極を備える。センサは、第1および第2固定電極に第1および第2電圧を与える電源を備える。センサは、第1および第2固定電極の近傍に配置されている可動電極を備える。可動電極は、第1および第2固定電極に対して高インピーダンス状態である。可動電極は、第1および第2固定電極の一方に接近すると他方から離反するように動くことが可能に構成されている。センサは、第1および第2固定電極の少なくとも一方と可動電極との間に接続されている容量素子を備える。センサは、可動電極、第1固定電極および第2固定電極の何れかに接続されている信号検出回路を備える。センサは、第1固定電極と可動電極とを接続している抵抗素子を備える。容量素子の容量値または抵抗素子の抵抗値が入力物理量に応じて変化することが可能に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1固定電極および第2固定電極と、
前記第1固定電極に第1電圧を与えるとともに前記第2固定電極に第2電圧を与える電源と、
前記第1固定電極および前記第2固定電極の近傍に配置されている可動電極であって、前記第1固定電極および前記第2固定電極に対して高インピーダンス状態とされており、前記第1固定電極および前記第2固定電極の一方に接近すると他方から離反するように動くことが可能に構成されている、前記可動電極と、
前記第1固定電極および前記第2固定電極の少なくとも一方と前記可動電極との間に接続されている容量素子と、
前記可動電極、前記第1固定電極および第2固定電極の何れかに接続されている信号検出回路と、
前記第1固定電極と前記可動電極とを接続している抵抗素子と、
を備え、
前記容量素子の容量値または前記抵抗素子の抵抗値が入力物理量に応じて変化することが可能に構成されている、センサ。
【請求項2】
前記可動電極は、前記第1固定電極および前記第2固定電極の間で自励振動状態となることが可能に構成されており、
前記自励振動状態では、前記可動電極が前記第2固定電極から離反しているとともに前記第1固定電極に最も接近している第1のピーク位置と、前記可動電極が前記第1固定電極から離反しているとともに前記第2固定電極に接触している第2のピーク位置と、の間での振動が行われ、
前記信号検出回路は、前記自励振動状態を検出可能に構成されている、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記容量素子の容量値が、入力物理量に応じて変化することが可能に構成されており、
前記容量値の変化に応じて、前記第1のピーク位置が変化する、請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記容量素子の容量値が小さくなることに応じて、前記第1のピーク位置における前記可動電極と前記第1固定電極との距離が大きくなるとともに、前記自励振動状態の振動周波数が大きくなるように変化する、請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記容量素子の容量値が所定のしきい容量値よりも大きい場合に、前記第1のピーク位置が、前記可動電極が前記第1固定電極に接触している位置になる、請求項3または4に記載のセンサ。
【請求項6】
前記抵抗素子の抵抗値が、入力物理量に応じて変化することが可能に構成されており、
前記抵抗値の変化に応じて、前記第1のピーク位置が変化する、請求項2に記載のセンサ。
【請求項7】
前記抵抗素子の抵抗値が小さくなることに応じて、前記第1のピーク位置における前記可動電極と前記第1固定電極との距離が大きくなるとともに、前記自励振動状態の振動周波数が大きくなるように変化する、請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記抵抗素子の抵抗値が所定のしきい抵抗値よりも大きい場合に、前記第1のピーク位置が、前記可動電極が前記第1固定電極に接触している位置になる、請求項6または7に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される技術は、振動子を用いて構成することが可能なセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
可動電極の両側に固定電極を配置し、固定電極間に直流電圧を印加することで、静電気力により自励振動する振動子(フランクリン振動子)が知られている。また非特許文献1および2には、フランクリン振動子を、クロックやアクチュエータに用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】D.A. Kassie, et.al, Proc. of IEEE Int. conf. MEMS 2020, pp230-233
【非特許文献2】Z. Liu, et.al, Proc. of IEEE Int. conf. MEMS 2018, pp588-591
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フランクリン振動子をクロックやアクチュエータに用いることは開示があるが、センサに用いることについては開示がない。本明細書では、フランクリン振動子を用いて構成したセンサを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示されるセンサは、第1固定電極および第2固定電極を備える。センサは、第1固定電極に第1電圧を与えるとともに第2固定電極に第2電圧を与える電源を備える。センサは、第1固定電極および第2固定電極の近傍に配置されている可動電極を備える。可動電極は、第1固定電極および第2固定電極に対して高インピーダンス状態とされている。可動電極は、第1固定電極および第2固定電極の一方に接近すると他方から離反するように動くことが可能に構成されている。センサは、第1固定電極および第2固定電極の少なくとも一方と可動電極との間に接続されている容量素子を備える。センサは、可動電極、第1固定電極および第2固定電極の何れかに接続されている信号検出回路を備える。センサは、第1固定電極と可動電極とを接続している抵抗素子を備える。容量素子の容量値または抵抗素子の抵抗値が入力物理量に応じて変化することが可能に構成されている。
【0006】
上記のセンサでは、容量素子の容量値または抵抗素子の抵抗値の変化量がある条件を満たすと、第1固定電極および第2固定電極の間で可動電極が自励振動する場合がある。具体的に説明する。可動電極が第1固定電極に接触すると、可動電極の電圧が第1電圧と同等になる。すると静電気力により、可動電極は第1固定電極から斥力を受けるとともに第2固定電極から引力を受けるため、可動電極は第2固定電極側へ移動する。可動電極が第2固定電極に接触すると、可動電極の電圧が第2電圧と同等になる。すると静電気力により、可動電極は第2固定電極から斥力を受けるとともに第1固定電極から引力を受けるため、可動電極は第1固定電極側へ移動する。これにより、容量素子の容量値の変化または抵抗素子の抵抗値の変化を、振動子を用いて機械的に、振動周波数の変化に変換することができる。そして、可動電極が第1固定電極側へ移動する場合には、抵抗素子を経由して、可動電極と第1固定電極との間で電荷の移動が発生する。可動電極が第1固定電極へ近づく時の静電気力は徐々に弱められるため、可動電極の移動速度は低速となり、この位相での挙動が振動周波数に大きく影響するようになる。容量素子の容量値の変化または抵抗素子の抵抗値の変化に対する振動周波数の変化量を増加させることができるため、センサの感度を高めることが可能となる。
【0007】
可動電極は、第1固定電極および第2固定電極の間で自励振動状態となることが可能に構成されていてもよい。自励振動状態では、可動電極が第2固定電極から離反しているとともに第1固定電極に最も接近している第1のピーク位置と、可動電極が第1固定電極から離反しているとともに第2固定電極に接触している第2のピーク位置と、の間での振動が行われてもよい。信号検出回路は、自励振動状態を検出可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
容量素子の容量値が、入力物理量に応じて変化することが可能に構成されていてもよい。容量値の変化に応じて、第1のピーク位置が変化してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
容量素子の容量値が小さくなることに応じて、第1のピーク位置における可動電極と第1固定電極との距離が大きくなるとともに、自励振動状態の振動周波数が大きくなるように変化してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
容量素子の容量値が所定のしきい容量値よりも大きい場合に、第1のピーク位置が、可動電極が第1固定電極に接触している位置になってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
抵抗素子の抵抗値が、入力物理量に応じて変化することが可能に構成されていてもよい。抵抗値の変化に応じて、第1のピーク位置が変化してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
抵抗素子の抵抗値が小さくなることに応じて、第1のピーク位置における可動電極と第1固定電極との距離が大きくなるとともに、自励振動状態の振動周波数が大きくなるように変化してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
抵抗素子の抵抗値が所定のしきい抵抗値よりも大きい場合に、第1のピーク位置が、可動電極が第1固定電極に接触している位置になってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】圧力センサ1の概略を示すブロック図である。
【
図2】容量値Cpと回転角との関係を示すグラフである。
【
図3】容量値Cpと振動周波数fとの関係を示すグラフである。
【
図8】抵抗値R1と回転角との関係を示すグラフである。
【
図9】抵抗値R1と振動周波数fとの関係を示すグラフである。
【
図10】実施例3の圧力センサ1aの概略を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0015】
(圧力センサ1の構成)
図1に、本実施形態に係る圧力センサ1を示す。圧力センサ1は、振動素子2、信号検出回路3、第1電源4、第2電源5、を備えている。
【0016】
振動素子2は、基板10、固定電極11および12、可動電極13、容量素子14、出力端子15、抵抗素子16、を備えている。実施例1では、固定電極11が第1固定電極の一例であり、固定電極12が第2固定電極の一例であり、所定電圧Vsが第1電圧の一例であり、基準電圧V0が第2電圧の一例である。
【0017】
振動素子2は、フランクリン振動子とも呼ばれる。基板10は、例えばシリコン基板である。固定電極11および12、可動電極13は、基板10上にMEMS技術によって形成されていてもよい。可動電極13は、固定電極11および12の近傍に配置されている。可動電極13は、固定電極11および12の一方に接近すると他方から離反するように動くことが可能に構成されている。本実施例では、可動電極13の支点部13aが、基板10に固定されている。可動電極13は、支点部13aを中心にして、シーソーのように揺動できる構造を有している。可動電極13の両先端部の下方には、固定電極11および12が配置されている。可動電極13は、出力端子15に接続されている。出力端子15からは、可動電極電圧Vmonが出力される。
【0018】
容量素子14は、固定電極11および12の少なくとも一方と可動電極13との間に接続されている。本実施例では、容量素子14は、固定電極12と可動電極13との間に接続されている。容量素子14は、入力される各種の物理量が変化することに応じて、容量値Cpが変化する可変容量素子である。すなわち実施例1では、容量素子14がセンサ素子である。物理量の一例としては、圧力、変位、加速度などが挙げられる。本実施例では、容量素子14は、入力される接触圧力が高くなることに応じて容量値Cpが大きくなる素子である。
【0019】
抵抗素子16は、固定電極11と可動電極13との間に接続されている。抵抗素子16は、一定値である抵抗値R1を有している。よって可動電極13は、固定電極11および12に対して高インピーダンス状態とされている。
【0020】
第1電源4は、固定電極11と12の間に電位差を与えている。第1電源4は、固定電極11に直流の所定電圧Vsを与えるとともに、固定電極12に基準電圧V0を与えている。本実施例では、基準電圧V0は0[V]であり、所定電圧Vsは正の電圧である。
【0021】
信号検出回路3は、入力端子30、第1電源端子31、第2電源端子32、第1出力端子33、第2出力端子34、を備えている。入力端子30は、振動素子2の出力端子15に接続されており、可動電極電圧Vmonが入力される。第1電源端子31および第2電源端子32は、第2電源5に接続されている。第1電源端子31には高位基準電圧VDDが入力され、第2電源端子32には低位基準電圧VGNDが入力されている。第1出力端子33からは出力電圧Voutが出力され、第2出力端子34からは低位基準電圧VGNDが出力される。出力電圧Voutは、可動電極13の振動周波数fに対応した周波数で出力されるバルス信号である。これにより、容量素子14の容量値Cpの変化を検出可能な圧力センサ1を構築することができる。
【0022】
(圧力センサ1の動作)
振動素子2を自励振動させた場合の動作を、回路シミュレーションで解析した。
図2に、容量素子14の容量値Cpと可動電極13の回転角との関係を示す。固定電極11および12の上面に平行な基準面RPに対して、固定電極11側への回転角を正とし、固定電極12側への回転角を負としている。また
図3に、容量素子14の容量値Cpと振動周波数fとの関係を示す。
【0023】
図2に示すように、第1ピーク角度A1と第2ピーク角度A2との間で、可動電極13の自励振動が行われる。第1ピーク角度A1と第2ピーク角度A2との差が、可動電極13の振幅を表している。第2ピーク角度A2は、可動電極13が固定電極11から離反しているとともに固定電極12に接触している状態における回転角を示している。第2ピーク角度A2は、可動電極13が固定電極12に接触している状態の角度であり、その値は約-0.55度である。第1ピーク角度A1は、可動電極13が固定電極12から離反しているとともに固定電極11に最も接近している状態における回転角を示している。第1ピーク角度A1は、容量値Cpの変化に応じて、-0.55度~+0.55度の範囲で変化する。
【0024】
例として、容量値Cp1~Cp3のそれぞれにおける第1ピーク角度A1および第2ピーク角度A2を、
図2(A)~
図2(C)を用いて説明する。なお
図2(A)~
図2(C)では、見易さのために、回転角を実際の角度よりも大きく記載している。容量値Cp1(4.0pF)では、
図2(A)に示すように、第1ピーク角度A1は最大値である+0.55度であり、第2ピーク角度A2は-0.55度である。すなわち容量値Cp1では、可動電極13は、固定電極11および12の両方に接触するようにフルスイングする。一方、容量値Cp2(2.0pF)では、
図2(B)に示すように、第2ピーク角度A2は-0.55度であるが、第1ピーク角度A1は約+0.3度まで低下する。また容量値Cp3(0.6pF)では、
図2(C)に示すように、第2ピーク角度A2は-0.55度であるが、第1ピーク角度A1は約-0.35度まで低下する。すなわち容量値Cp2およびCp3では、可動電極13は、固定電極12には接触するが固定電極11には接触しないように振動する。
【0025】
(振動モード)
可動電極13は、容量値Cpがしきい容量値Cthよりも小さい領域では第1振動モードVM1で振動し、しきい容量値Cthよりも大きい範囲では第2振動モードVM2で振動する。第1振動モードVM1は、抵抗素子16が接続されている固定電極11とは接触しない振動モードである。第2振動モードVM2は、固定電極11および12の両方の固定電極と接触する振動モードである。換言すると、容量値Cpがしきい容量値Cthよりも大きい場合に、第1ピーク角度A1は、可動電極13が固定電極11に接触している最大角度(+0.55度)になる。
【0026】
第2振動モードVM2では、容量素子14の容量値Cpに関わらず、第1ピーク角度A1および第2ピーク角度A2が一定である。すなわち第2振動モードVM2では、可動電極13の振幅は一定値である。一方、第1振動モードVM1では、容量素子14の容量値Cpが小さくなることに応じて、第1ピーク角度A1が小さくなる(可動電極13が固定電極11に最も接近している状態での両者間の距離が大きくなる)。すなわち第1振動モードVM1では、容量素子14の容量値Cpが小さくなることに応じて、可動電極13の振幅が小さくなる。また
図3に示すように、第1振動モードVM1では、容量値Cpが小さくなることに応じて、振動周波数fが大きくなる。このような振動が行われる原理を以下に説明する。
【0027】
(第2振動モードVM2の動作原理)
図4を用いて、第2振動モードVM2の動作を説明する。
図4は、容量値Cp1(4.0pF)での動作である。
図4(A)は、可動電極13の回転角の時間変化を示している。
図4(B)は、可動電極電圧Vmonの時間変化を示している。
【0028】
時刻t11において可動電極13は固定電極12に接触し、可動電極13に蓄積されている正の電荷が固定電極12へ放電される。可動電極13が固定電極12と同電位(0V)になると、可動電極13と固定電極11との間の静電引力により、可動電極13は固定電極11に近づく方向に回転を始める。可動電極13と固定電極12が非接触状態になると、抵抗素子16を経由して流れ込む正電荷により可動電極電圧Vmonは上昇する(領域RE11参照)。電位上昇とともに、可動電極13と固定電極11との間の静電引力は減少する一方で、可動電極13と固定電極12との間の静電引力は増加する。
【0029】
容量値Cp1は、容量値Cp2およびCp3に比して十分に容量値が大きく、RC時定数が大きい。よって可動電極13の電位上昇速度は遅い。このため可動電極13と固定電極12との間の静電引力が可動電極13と固定電極11との間の静電引力よりも大きくなる前に、可動電極13が固定電極11に接触する(時刻t12)。これにより、可動電極13には正の電荷が瞬時に充電され、固定電極11と同電位(0.8V)になる。
【0030】
可動電極13は、可動電極13と固定電極12との間の静電引力により、固定電極12に近づく方向に回転を始める。可動電極13と固定電極11とが非接触状態になるが、可動電極13と固定電極11は同電位であるため、抵抗素子16を経由した電流のやり取りは生じない(領域RE12参照)。そして時刻t13において、可動電極13は固定電極12に接触する。以降、同様の動作が繰り返され、可動電極13は第2振動モードVM2で自励振動を継続する。
【0031】
(第1振動モードVM1の動作原理)
図5および
図6を用いて、第1振動モードVM1の動作を説明する。
図5は、容量値Cp2(2.0pF)での動作である。
図6は、容量値Cp3(0.6pF)での動作である。
図5および
図6の内容は、
図4と同様であるため、説明を省略する。
【0032】
時刻t21において可動電極13が固定電極12に接触し、可動電極13が固定電極12と同電位(0V)になると、可動電極13は固定電極11に近づく方向に回転を始める。可動電極13と固定電極12が非接触状態になると、抵抗素子16を経由して流れ込む正電荷により可動電極電圧Vmonは上昇する(領域RE21参照)。
【0033】
可動電極13と固定電極12との間の静電引力の方が、可動電極13と固定電極11との間の静電引力を超えて大きくなると、可動電極13の回転速度は減速に転じる。そして時刻t22において、可動電極13が固定電極11に到達する前に、固定電極11に近づく方向の回転速度がゼロとなる。その後、固定電極12に近づく方向に回転を開始する。
【0034】
時刻t22以降も可動電極13には抵抗素子16を経由して正電荷が流れ込むため、可動電極電圧Vmonの値は、固定電極11の電位(所定電圧Vs=0.8V)に漸近する。この間、可動電極13は固定電極12との間の静電引力により固定電極12に近づくように回転を続け、時刻t23で固定電極12に接触する。以降、同様の動作が繰り返され、可動電極13は第1振動モードVM1で自励振動を継続する。
【0035】
また、
図5および
図6の領域RE21の傾き比較から分かるように、容量値Cpが小さくなるほど、可動電極電圧Vmonが上昇する速度は速くなる。これはRC時定数が小さくなるためである。その結果、固定電極11に近づく方向の回転から固定電極12に近づく方向の回転へ反転するまでの時間(時刻t21からt22までの時間)が短くなる。よって可動電極13の振幅は、容量値Cp2の振幅AM2(
図5(A))から、容量値Cp3の振幅AM3(
図6(A))まで減少する。また
図3に示すように、振動周波数fは、容量値Cp2の約3kHzから、容量値Cp3の約7kHzまで上昇する。
【0036】
(効果)
図3に示すように、第2振動モードVM2(固定電極11および12と交互に接触する振動モード)では、容量値Cpの変化に対する振動周波数fの変化割合が小さい。すなわち、容量値Cpの変化に対する振動周波数fの感度が低い。これは、第2振動モードVM2では、容量値Cpが変化しても可動電極13の振幅が変化しないためである。本実施例の技術では、抵抗素子16を備えることにより、可動電極13と固定電極11との間で電荷を移動させることができる。これにより、第1振動モードVM1(固定電極11と接触しない振動モード)で可動電極13を動作させることが可能になる。
図3に示すように、第1振動モードVM1では、第2振動モードVM2に比して、容量値Cpの変化に対する振動周波数fの変化割合が大きい。これは、第1振動モードVM1では、容量値Cpの変化に応じて可動電極13の振幅が変化するためである(
図2参照)。すなわち、第1振動モードVM1で動作させることにより、容量値Cpの変化に対する振動周波数fの感度を高めることができる。その結果、容量素子14への入力物理量(接触圧力)に対する検出感度を高めることが可能となる。
【0037】
(第1振動モードVM1と第2振動モードVM2との境界条件)
比較例として、振動素子2が抵抗素子16を備えない場合を考える。この場合、可動電極13は、固定電極11および12の両方の固定電極と接触するように振動するため、第2振動モードVM2で振動する。一方、本実施例では、抵抗素子16を備えているため、可動電極13に蓄積された電荷を固定電極11に流す経路を備えている。これにより、所定の境界条件をみたすことで、固定電極11に接触する以前に固定電極12との静電気力の方が優位になり、固定電極11とは接触せずに振動する第1振動モードVM1が実現できる。
【0038】
この境界条件は、可動電極13に蓄積される電荷量(=容量値Cp×所定電圧Vs)と、抵抗素子16による電荷リーク(∝R1)と、の大小関係で決まる。
図7に、固定電極11と12との間に印加する所定電圧Vsをパラメータにして、2つの振動モードの境界条件を回路シミュレーションで解析した結果を示す。横軸は容量値Cpであり、縦軸は抵抗値R1である。グラフG1は所定電圧Vsが0.8Vの場合を示しており、グラフG2は所定電圧Vsが1.6Vの場合を示している。グラフG1およびG2の下側が第1振動モードVM1で動作する領域を示しており、上側が第2振動モードVM2で動作する領域を示している。
図7から境界条件は、「所定電圧Vs×容量値Cp×抵抗値R1=一定」の関係を満たしていることが分かる。この関係式を用いることにより、容量値Cpが変化する範囲(すなわち接触圧力の測定可能レンジ)の全域に亘って第1振動モードVM1で動作するように、抵抗値R1や所定電圧Vsを設計することが可能となる。検出感度の高い圧力センサ1を構成することが可能となる。