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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173898
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20221115BHJP
【FI】
B60C11/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079947
(22)【出願日】2021-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】橋本 侑
(72)【発明者】
【氏名】兼松 義明
(72)【発明者】
【氏名】堀口 俊樹
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC18
3D131BC19
3D131BC34
3D131BC35
3D131EB11X
3D131EB83X
3D131EB99X
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好なウェット性能及びドライ性能の利点を活かしながら、陸部の損傷を抑制するタイヤを提供する。
【解決手段】陸部5にタイヤ軸方向に延びる複合サイプ8が設けられたタイヤ1である。複合サイプ8は、サイプ本体9と、サイプ本体9よりも幅の大きい拡幅部10とを含んでいる。拡幅部10のタイヤ軸方向の内側部分10Aの横断面積は、拡幅部10のタイヤ軸方向の外側部分10Bの横断面積よりも大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、陸部が設けられており、
前記陸部には、タイヤ軸方向に延びる複合サイプが設けられており、
前記複合サイプは、前記陸部の踏面からタイヤ半径方向の内側に延びるサイプ本体と、前記サイプ本体のタイヤ半径方向の内側に繋がり、かつ、前記サイプ本体よりも幅の大きい拡幅部とを含み、
前記拡幅部のタイヤ軸方向の内側部分の横断面積は、前記拡幅部のタイヤ軸方向の外側部分の横断面積よりも大きい、
タイヤ。
【請求項2】
前記陸部は、トレッド端を含むショルダー陸部である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記拡幅部の横断面積は、タイヤ軸方向の外側に向かって連続的に小さくなる、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記拡幅部のタイヤ軸方向の内端での前記拡幅部のタイヤ半径方向の長さは、前記拡幅部のタイヤ軸方向の外端での前記拡幅部のタイヤ半径方向の長さの115%~140%である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記拡幅部のタイヤ軸方向の内端での前記拡幅部の溝幅は、前記拡幅部のタイヤ軸方向の外端での前記拡幅部の溝幅の115%~140%である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記拡幅部のタイヤ半径方向の長さは、前記サイプ本体の深さの1.0~1.3倍である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記拡幅部のタイヤ半径方向の長さは、前記拡幅部の幅の1.2~1.6倍である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記トレッド部は、前記陸部のタイヤ軸方向の内側に隣接してタイヤ周方向に連続して延びる周方向溝を含み、
前記複合サイプは、前記周方向溝に繋がっている、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記サイプ本体は、一対のサイプ壁面を有し、
前記一対のサイプ壁面のそれぞれは、タイヤ軸方向及びタイヤ半径方向にジグザグ状に延びている、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記サイプ本体のタイヤ軸方向のジグザグ振幅は、前記拡幅部の幅の1/3以下である、請求項9に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に、サイプが設けられた空気入りタイヤが記載されている。前記サイプは、サイプ深さ方向に一様な幅を有するとともに、サイプ深さ方向端部に拡幅部を有する複合形サイプである。このような複合形サイプを有する空気入りタイヤは、耐偏摩耗性能を損なうことなく、優れたウェット性能を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-104111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような空気入りタイヤでは、複合形サイプが設けられた陸部のタイヤ軸方向の外側の領域において、損傷が生じやすいという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、複合サイプを設けたことによる良好なウェット性能及びドライ性能を損ねずに、陸部の損傷を抑制することができるタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部には、陸部が設けられており、前記陸部には、タイヤ軸方向に延びる複合サイプが設けられており、前記複合サイプは、前記陸部の踏面からタイヤ半径方向の内側に延びるサイプ本体と、前記サイプ本体のタイヤ半径方向の内側に繋がり、かつ、前記サイプ本体よりも幅の大きい拡幅部とを含み、前記拡幅部のタイヤ軸方向の内側部分の横断面積は、前記拡幅部のタイヤ軸方向の外側部分の横断面積よりも大きい。
【0007】
本発明に係るタイヤは、前記陸部が、トレッド端を含むショルダー陸部である、のが望ましい。
【0008】
本発明に係るタイヤは、前記拡幅部の横断面積が、タイヤ軸方向の外側に向かって連続的に小さくなる、のが望ましい。
【0009】
本発明に係るタイヤは、前記拡幅部のタイヤ軸方向の内端での前記拡幅部のタイヤ半径方向の長さが、前記拡幅部のタイヤ軸方向の外端での前記拡幅部のタイヤ半径方向の長さの115%~140%である、のが望ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤは、前記拡幅部のタイヤ軸方向の内端での前記拡幅部の溝幅が、前記拡幅部のタイヤ軸方向の外端での前記拡幅部の溝幅の115%~140%である、のが望ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤは、前記拡幅部のタイヤ半径方向の長さが、前記サイプ本体の深さの1.0~1.3倍である、のが望ましい。
【0012】
本発明に係るタイヤは、前記拡幅部のタイヤ半径方向の長さが、前記拡幅部の幅の1.2~1.6倍である、のが望ましい。
【0013】
本発明に係るタイヤは、前記トレッド部が、前記陸部のタイヤ軸方向の内側に隣接してタイヤ周方向に連続して延びる周方向溝を含み、前記複合サイプは、前記周方向溝に繋がっている、のが望ましい。
【0014】
本発明に係るタイヤは、前記サイプ本体が、一対のサイプ壁面を有し、前記一対のサイプ壁面のそれぞれは、タイヤ軸方向及びタイヤ半径方向にジグザグ状に延びている、のが望ましい。
【0015】
本発明に係るタイヤは、前記サイプ本体のタイヤ軸方向のジグザグ振幅が、前記拡幅部の幅の1/3以下である、のが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のタイヤは、上記の構成を採用することで、複合サイプを設けたことによる良好なウェット性能及びドライ性能の利点を活かしながら、陸部の損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示す陸部を拡大した平面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】(a)は、図1のB-B線断面図、(b)は、図1のC-C線断面図である。
図4】本実施形態のトレッド部の平面図である。
図5】(a)は、図1のD-D線断面図、(b)は、図1のE-E線断面図である。
図6】本実施形態のトレッド部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本発明のタイヤ1のトレッド部2を展開して拡大した平面図である。図1には、乗用車用の空気入りタイヤのトレッド部2が示される。但し、本発明は、重荷重用のタイヤ、及び、他のカテゴリーのタイヤに適用されてもよい。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態のトレッド部2には、陸部5が設けられている。陸部5は、踏面5aを含んでいる。踏面5aは、正規荷重負荷状態において、平面と接地する領域である。前記「正規荷重負荷状態」とは、タイヤ1が正規内圧で正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規荷重を負荷して、キャンバー角0度で前記平面に接地させた状態をいう。なお、図1では、その右側がタイヤ軸方向の外側である。
【0020】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0021】
前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0022】
前記「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0023】
陸部5には、タイヤ軸方向に延びる複合サイプ8が設けられている。図2は、図1のA-A線断面図である。図3(a)は、図1のB-B線断面図である。図3(b)は、図1のC-C線断面図である。図2及び図3に示されるように、本実施形態の複合サイプ8は、踏面5aからタイヤ半径方向の内側に延びるサイプ本体9と、サイプ本体9のタイヤ半径方向の内側に繋がり、かつ、サイプ本体9よりも幅の大きい拡幅部10とを含んでいる。このような複合サイプ8は、良好なウェット性能及びドライ性能をバランス良く発揮することができる。
【0024】
拡幅部10のタイヤ軸方向の内側部分10Aの横断面積Aは、拡幅部10のタイヤ軸方向の外側部分10Bの横断面積B(網掛け線で示される)よりも大きく形成されている。このような複合サイプ8は、旋回走行時に大きな横力の作用する陸部のタイヤ軸方向の外側部分のパターン剛性を高め、ひいては、偏摩耗や陸部の損傷を抑制する。本明細書では、拡幅部10とサイプ本体9とは、タイヤ半径方向の外側へ向かってその幅が最小となるタイヤ半径方向の内端で区分される。内側部分10Aは、本実施形態では、外側部分10Bよりもタイヤ軸方向の内側に位置すればよい。
【0025】
図4は、トレッド部2の平面図である。図4に示されるように、トレッド部2には、例えば、タイヤ赤道Cの両側に配される一対のクラウン周方向溝3a、3aと、各クラウン周方向溝3aとトレッド端Teとの間に配される一対のショルダー周方向溝3b、3bとが設けられている。クラウン周方向溝3a及びショルダー周方向溝3bは、それぞれ、タイヤ周方向に連続して延びている。
【0026】
トレッド端Teは、前記正規荷重負荷状態において、最もタイヤ軸方向外側の接地位置として定められる。また、特に断りがない場合、タイヤ1の各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。
【0027】
陸部5は、一対のクラウン周方向溝3aで区分されるクラウン陸部5A、クラウン周方向溝3aとショルダー周方向溝3bとで区分される一対のミドル陸部5B、及び、ショルダー周方向溝3bとトレッド端Teとで区分される一対のショルダー陸部5Cを含んでいる。換言すると、ショルダー周方向溝3bは、ショルダー陸部5Cのタイヤ軸方向の内側に隣接して設けられている。
【0028】
各ショルダー陸部5Cは、例えば、クラウン陸部5A及びミドル陸部5Bのタイヤ軸方向の幅Wc、Wmよりも大きいタイヤ軸方向の幅Wsを有している。これにより、旋回走行時に大きな横力の作用するショルダー陸部5Cの横剛性が高められるので、偏摩耗や陸部の損傷が抑制される。
【0029】
特に限定されるものではないが、ショルダー陸部5Cの幅Wsは、クラウン陸部5Aの幅Wc及びミドル陸部5Bの幅Wmの1.5倍以上が望ましく、1.7倍以上がより望ましく、2.5倍以下が望ましく、2.3倍以下がより望ましい。ショルダー陸部の幅Wsは、トレッド幅TWの15%~25%であるのが望ましい。トレッド幅TWは、両側のトレッド端Te間のタイヤ軸方向の距離である。
【0030】
本明細書では、タイヤ軸方向の一方側(図では右側)のショルダー陸部5Cを第1ショルダー陸部5rとし、タイヤ軸方向の他方側の(図では左側)のショルダー陸部5Cが第2ショルダー陸部5sとされる。また、本明細書では、タイヤ軸方向の一方側のミドル陸部5Bを第1ミドル陸部5uとし、タイヤ軸方向の他方側のミドル陸部5Bが第2ミドル陸部5vとされる。
【0031】
複合サイプ8は、本実施形態では、いずれか一方のショルダー陸部5Cに設けられている。複合サイプ8は、例えば、第1ショルダー陸部5rに設けられており、第2ショルダー陸部5sには設けられていない。なお、複合サイプ8は、第2ショルダー陸部5sに設けられており、第1ショルダー陸部5rには設けられていなくてもよい。
【0032】
車両装着の向きが指定されたトレッド部2の場合、複合サイプ8は、旋回時により大きな横力が作用する車両外側となるショルダー陸部5Cに設けられるのがより望ましい。また、複合サイプ8は、両側のショルダー陸部5Cに設けられても良い。
【0033】
複合サイプ8は、例えば、ショルダー周方向溝3bに繋がっている。また、複合サイプ8は、本実施形態では、トレッド端Teを越えて延びている。このような複合サイプ8は、排水性を高めてウェット性能を向上する。
【0034】
複合サイプ8は、本実施形態では、タイヤ軸方向に沿って延びている。前記「タイヤ軸方向に沿って」とは、本明細書では、複合サイプ8のタイヤ軸方向の内端8iと外端8eとを結ぶ仮想直線c1のタイヤ軸方向に対する角度θ1が10度以下の態様をいう。
【0035】
図5は、図1のD-D線断面図である。図2、3及び図5に示されるように、サイプ本体9は、本実施形態では、踏面5aからタイヤ半径方向の内側に延びる一対のサイプ壁面11、11を有している。一対のサイプ壁面11、11は、互いにタイヤ軸方向及びタイヤ半径方向へ互いに平行に延びている。このようなサイプ本体9は、ショルダー陸部5Cのパターン剛性の変化を小さくする。
【0036】
サイプ本体9は、本実施形態では、一対のサイプ壁面11、11のそれぞれがタイヤ軸方向及びタイヤ半径方向にジグザグ状に延びているジグザグ部12を含んでいる。このようなジグザグ部12は、車両走行時、それぞれのサイプ壁面11、11が互いに噛み合って、トレッド部2の見かけの剛性を高めて、偏摩耗や陸部5の損傷を効果的に抑制する。このようなジグザグ部12は、所謂、ミウラ折り状に形成されたものである。
【0037】
また、一対のサイプ壁面11、11のそれぞれは、タイヤ軸方向及びタイヤ半径方向に直線状に延びている直線部13を含んでいる。本実施形態の直線部13は、ジグザグ部12のタイヤ軸方向の外側に配される第1部分13aと、ジグザグ部12のタイヤ軸方向の内側に配される第2部分13bとを含んでいる。第1部分13aは、例えば、トレッド端Teを跨って延びている。第2部分13bは、例えば、ショルダー周方向溝3bに繋がっている。このような第1部分13a及び第2部分13bは、サイプ本体9内に集積された水をスムーズにトレッド端Teの外側及びショルダー周方向溝3bに排出してウェット性能を高める。
【0038】
図1に示されるように、ジグザグ部12のタイヤ軸方向の長さL1は、第1ショルダー陸部5rの幅Ws(図4に示す)の30%以上が望ましく、40%以上がさらに望ましく、60%以下が望ましく、50%以下がさらに望ましい。ジグザグ部12の長さL1が第1ショルダー陸部5rの幅Wsの30%以上であるので、偏摩耗や第1ショルダー陸部5rの損傷が効果的に抑制される。ジグザグ部12の長さL1が第1ショルダー陸部5rの幅Wsの60%以下であるので、ウェット性能が向上する。
【0039】
サイプ本体9のタイヤ軸方向のジグザグ振幅λは、拡幅部10の幅(最大幅)Wa(図3(a)に示す)の1/3以下であるのが望ましい。サイプ本体9のジグザグ振幅λが拡幅部10の幅Waの1/3以下であるので、サイプ本体9内の水の流れスムーズさが維持される。サイプ本体9のジグザグ振幅λが拡幅部10の幅Waよりも過度に小さいと、走行時、サイプ壁面11、11が互いに噛み合わず、第1ショルダー陸部5rの見かけの剛性を高めることができなくなるおそれがある。このため、サイプ本体9のジグザグ振幅λは拡幅部10の幅Waの1/3.5以下がさらに望ましく、1/4.5以上が望ましく、1/4.0以上がさらに望ましい。
【0040】
図2に示されるように、サイプ本体9の深さD1は、タイヤ軸方向の外側に向かって大きくなっている。このようなサイプ本体9は、旋回走行時の横力を利用して、サイプ本体9内の水をスムーズにトレッド端Teの外側に排出することができる。サイプ本体9の深さD1は、本実施形態では、ジグザグ部12において、タイヤ軸方向の外側に向かって連続して大きくなっている。これにより、タイヤ軸方向の外側において、サイプ壁面11同士の噛み合いが強固になり、さらにショルダー陸部5Cの損傷の抑制が図られる。
【0041】
サイプ本体9の幅W1(図3(a)に示す)は、例えば、0.3mm~0.6mmであるのが望ましい。このようなサイプ本体9は、路面と踏面5aとの間の水膜をスムーズに吸い上げし、かつ、偏摩耗やショルダー陸部5Cの損傷を抑制するのに役立つ。
【0042】
図5に示されるように、拡幅部10の横断面は、例えば、楕円形状である。このような拡幅部10は、陸部5の剛性低下を抑制して、耐偏摩耗や陸部5の損傷を抑制する。このような作用を効果的に発揮させるために、拡幅部10のタイヤ半径方向の長さH1は、拡幅部10の幅W2の1.2倍以上が望ましく、1.3倍以上がさらに望ましく、1.6倍以下が望ましく、1.5倍以下がさらに望ましい。
【0043】
拡幅部10の横断面積は、タイヤ軸方向の外側に向かって連続的に小さくなっている。このような拡幅部10は、陸部5の接地圧をタイヤ軸方向で均等化させるので、偏摩耗や陸部5の損傷を一層抑制する。
【0044】
図3に示されるように、拡幅部10のタイヤ軸方向の内端10iでの拡幅部10のタイヤ半径方向の長さHaは、拡幅部10のタイヤ軸方向の外端10eでの拡幅部10のタイヤ半径方向の長さHbの115%~140%であるのが望ましい。拡幅部10の内端10iでの長さHaが外端10eでの長さHbの115%以上かつ140%以下であるので、ショルダー陸部5Cのタイヤ軸方向の外側部分のパターン剛性を高めつつ、パターン剛性がタイヤ軸方向の内外で均等化されて偏摩耗等が抑制される。このような観点より、拡幅部10の内端10iでの長さHaは、拡幅部10の外端10eでの長さHbの120%以上がさらに望ましく、135%以下がさらに望ましい。
【0045】
上述の作用を効果的に発揮させるために、拡幅部10の内端10iでの溝幅Wa(最大幅)は、拡幅部10の外端10eでの溝幅Wb(最小幅)の115%以上が望ましく、120%以上がさらに望ましく、140%以下が望ましく、135%以下がさらに望ましい。
【0046】
拡幅部10のタイヤ半径方向の長さH1(図2に示す)は、サイプ本体9の深さD1の1.0~1.3倍であるのが望ましい。本実施形態では、拡幅部10の内端10iにおいて、そのタイヤ半径方向の長さHaがサイプ本体9の深さDaの1.0~1.3倍である。
【0047】
図1及び図4に示されるように、複合サイプ8が設けられた第1ショルダー陸部5rにおいては、タイヤ軸方向に延びる第1ショルダー横溝21がさらに設けられている。第1ショルダー横溝21は、例えば、ショルダー周方向溝3bからタイヤ軸方向の外側へ向かってトレッド端Teを越えて延びている。このような第1ショルダー横溝21は、ウェット性能を高める。
【0048】
図5(b)は、図1のE-E線断面図である。図5(b)に示されるように、本実施形態の第1ショルダー横溝21は、溝底21aと、溝底21aの両側からタイヤ半径方向の外側に延びる一対の壁部21b、21bとを含んでいる。また、第1ショルダー横溝21は、踏面5aと壁部21bとを緩斜面で繋ぐ第1面取り21cを含んでいる。このような第1ショルダー横溝21は、ショルダー陸部5Cの接地圧をより均一化するのに役立つ。
【0049】
本実施形態の一対の壁部21bのそれぞれは、タイヤ半径方向の外側に向かって溝中心線21s側に傾斜している。換言すると、壁部21bにおいて、第1ショルダー横溝21の溝幅W3は、タイヤ半径方向の外側に向かって小さくなっている。
【0050】
第1面取り21cは、例えば、タイヤ半径方向の外側へ凸の円弧状で形成されている。第1面取り21cは、本実施形態では、タイヤ半径方向の外側へ向かって溝中心線21sから遠ざかる向きに傾斜している。
【0051】
第1ショルダー横溝21は、例えば、ショルダー周方向溝3bからタイヤ軸方向の内側へ向かって同じ溝幅で延びる等幅部21Aと、等幅部21Aとトレッド端Teの間をタイヤ軸方向の外側へ向かって溝幅が連続して小さくなる縮幅部21Bとを含んでいる。第1ショルダー横溝21の溝幅は、本明細書では、第1面取り21cを含む長さである。
【0052】
第1ショルダー横溝21の溝深さD2は、複合サイプ8の深さDAよりも大きいのが望ましい。特に限定されるものではないが、複合サイプ8の深さDAは、第1ショルダー横溝21の溝深さD2の85%以上が望ましく、87%以上がさらに望ましく、95%以下が望ましく、93%以下がさらに望ましい。
【0053】
図6は、トレッド部2の平面図である。図6に示されるように、本実施形態の第2ショルダー陸部5sには、第2ショルダー横溝23と、第2ショルダーサイプ24とが設けられている。本明細書では、前記「サイプ」は、幅が1.5mm未満の切込み状体であり、周方向溝や横溝などの溝幅が1.5mm以上の「溝」とは明確に区分される。
【0054】
第2ショルダー横溝23は、溝底からタイヤ半径方向の外側に延びる一対の溝壁23a、23aと、各溝壁23aと踏面5aとを斜面で繋ぐ一対の第2面取り23bとを含んでいる。
【0055】
第2面取り23bは、タイヤ軸方向の外側へ面取り幅W4が大きくなる幅増加部25aと、幅増加部25aに連なってタイヤ軸方向の外側へ面取り幅W4が小さくなる幅縮小部25bとを含んでいる。
【0056】
第2ショルダー横溝23のタイヤ周方向の一方側(図では上側)の第2面取り23Aでは、幅増加部25aのタイヤ軸方向の長さが幅縮小部25bのタイヤ軸方向の長さよりも大きく形成されている。また、第2ショルダー横溝23のタイヤ周方向の他方側(図では下側)の第2面取り23Bでは、幅増加部25aのタイヤ軸方向の長さが幅縮小部25bのタイヤ軸方向の長さよりも小さく形成されている。
【0057】
第2ショルダー横溝23及び第2ショルダーサイプ24は、本実施形態では、ショルダー周方向溝3bからタイヤ軸方向の外側へトレッド端Teを越えて延びている。本実施形態の第2ショルダー横溝23及び第2ショルダーサイプ24は、タイヤ軸方向に沿って延びている。第2ショルダーサイプ24は、例えば、第2ショルダー横溝23とタイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜している。
【0058】
第1ミドル陸部5uは、本実施形態では、第1ミドル横溝30と、第1ミドルサイプ31とを含んでいる。第1ミドル横溝30及び第1ミドルサイプ31は、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜している。第1ミドル横溝30及び第1ミドルサイプ31は、ショルダー周方向溝3bとクラウン周方向溝3aとに連なっている。
【0059】
第2ミドル陸部5vは、本実施形態では、ショルダー周方向溝3bから延びる外側横溝33と、クラウン周方向溝3aから延びる内側横溝34と、ミドルサイプ35とを含んでいる。
【0060】
外側横溝33は、例えば、他の横溝やサイプと繋がることなく第2ミドル陸部5vで終端する第1外側横溝33Aと、ミドルサイプ35に連なる第2外側横溝33Bとを含んでいる。内側横溝34は、本実施形態では、外側横溝33とタイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜している。ミドルサイプ35は、本実施形態では、第1外側横溝33Aと内側横溝34とに連なる連通ミドルサイプ35Aと、クラウン周方向溝3aから延びて他のサイプや溝と繋がることなく第2ミドル陸部5vで終端する終端ミドルサイプ35Bとを含んでいる。
【0061】
第1ショルダー陸部5r及び第2ショルダー陸部5sは、本実施形態では、それぞれ、異なるパターン形状で形成されている。なお、第1ショルダー陸部5r及び第2ショルダー陸部5sは、このような態様に限定されるものではなく、それぞれが同じパターン形状でもよい。また、第1ミドル陸部5u及び第2ミドル陸部5vは、本実施形態では、それぞれ、異なるパターン形状で形成されているが、例えば、それぞれが同じパターン形状でもよい。
【0062】
クラウン陸部5Aは、本実施形態では、クラウン横溝38とクラウンサイプ39とを含んでいる。クラウン横溝38及びクラウンサイプ39は、例えば、他の溝やサイプに連なることなくクラウン陸部5Aで終端している。クラウン横溝38は、本実施形態では、タイヤ軸方向の一方側(図では右側)のクラウン周方向溝3aからタイヤ赤道Cを越えて延びている。クラウンサイプ39は、例えば、他方側のクラウン周方向溝3aから延びる第1クラウンサイプ39Aと、前記一方側のクラウン周方向溝3aから延びる第2クラウンサイプ39Bとを含んでいる。クラウン横溝38及びクラウンサイプ39は、例えば、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜している。
【0063】
以上、本発明の特に好ましい形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0064】
図3の基本パターンを有するのタイヤが試作された。そして、各試供タイヤのドライ性能、ウェット性能、スノー性能及び耐損傷性能がテストされた。各試供タイヤの共通の仕様及びテスト方法は、以下の通りである。
【0065】
<ドライ性能、ウェット性能、スノー性能及び耐損傷性能>
各試供タイヤが、下記の条件にて、乗用車(排気量2400cc)の全輪に装着された。そして、テストドライバーが、前記車両を用いて、乾燥アスファルト路面、ウェットアスファルト路面及び雪路面のそれぞれのテストコースを走行し、そのときのハンドル操作性、高速安定性及び制動時の安定性の程度が、テストドライバーの官能により評価された。また、乾燥アスファルト路面での走行後、偏摩耗やクラック等の発生状況がテストドライバーの官能により評価された。結果は、それぞれ、比較例1を100とする評点で示される。各性能は、数値が大きい方が優れている。合計点が415以上あれば合格である。
サイズ、リム、内圧:215/60R16、16×6.5、240kPa
テストの結果が表1に示される。
表1の「X」は、複合サイプが周方向溝に繋がっていることを意味する。
同「Y」は、複合サイプが周方向溝に繋がっていないことを意味する。
また、表1の「Ha」及び「Wa」は、実施例及び比較例ともにそれぞれ同じ値である。
【0066】
【表1】
【0067】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、良好なウェット性能及びドライ性能を有しつつ、陸部の損傷が抑えられていることが理解される。
【0068】
1 タイヤ
5 陸部
8 複合サイプ
9 サイプ本体
10 拡幅部
10A 内側部分
10B 外側部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6