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特開2022-173909傾斜角測定方法、傾斜検知方法、及び監視システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022173909
(43)【公開日】2022-11-22
(54)【発明の名称】傾斜角測定方法、傾斜検知方法、及び監視システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 9/00 20060101AFI20221115BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G01C9/00 Z
G01C15/00 104Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079962
(22)【出願日】2021-05-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000213770
【氏名又は名称】朝日エティック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 明弘
(72)【発明者】
【氏名】島本 裕已
(72)【発明者】
【氏名】服部 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 国弘
(72)【発明者】
【氏名】江田 政則
(72)【発明者】
【氏名】原田 誠
(72)【発明者】
【氏名】樋口 知以
(57)【要約】
【課題】対象物の傾斜を精度よく検知する。
【解決手段】傾斜角測定方法は、看板10に取り付けられた加速度センサ20が検出する加速度に基づいて算出される算出角度θを取得し、加速度センサ20の複数の検出結果を一つの検出単位とし、検出単位ごとに算出角度θの平均値θμnと検出結果のばらつきを表す標準偏差とを算出し、算出角度θの平均値θμnと変動指標値との分布を回帰分析して、ばらつきがゼロのときの角度を看板10の傾斜角として取得する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の傾斜角を測定する傾斜角測定方法であって、
前記対象物に取り付けられた加速度センサが検出する加速度に基づいて算出される算出角度を取得し、
前記加速度センサの複数の検出結果を一つの検出単位とし、複数の前記検出単位のそれぞれにおいて前記算出角度の代表値と前記検出結果のばらつきを表す変動指標値とを算出し、
複数の前記検出単位の前記算出角度の前記代表値と前記変動指標値との分布を回帰分析して、ばらつきがゼロのときの角度を前記対象物の前記傾斜角として取得することを特徴とする傾斜角測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の傾斜角測定方法であって、
前記回帰分析は、最小二乗法による線形回帰分析であることを特徴とする傾斜角測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の傾斜角測定方法であって、
前記算出角度の前記代表値と前記変動指標値との分布のうち、前記変動指標値の所定範囲ごとの前記代表値の最大値又は最小値を抽出し、抽出された最大値又は最小値を回帰分析して、ばらつきがゼロのときの角度を前記対象物の前記傾斜角として取得することを特徴とする傾斜角測定方法。
【請求項4】
対象物の傾斜検知方法であって、
所定の基準設定期間内において、請求項1から3のいずれか一つに記載の傾斜角測定方法によって前記対象物の前記傾斜角を取得し、
前記基準設定期間よりも後の所定の測定期間内において、前記傾斜角測定方法によって前記対象物の前記傾斜角を取得し、
前記基準設定期間内における前記対象物の前記傾斜角と前記測定期間内における前記対象物の前記傾斜角とを比較して、前記対象物の傾斜を検知することを特徴とする傾斜検知方法。
【請求項5】
対象物の傾斜を監視する監視システムであって、
前記対象物の加速度を検出する加速度センサと、
前記加速度センサの検出結果に基づいて前記対象物の傾斜角を取得する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記加速度センサが検出する加速度に基づいて算出される算出角度を取得し、
前記加速度センサの複数の検出結果を一単位とし、単位ごとに前記算出角度の平均値と検出結果のばらつきを表す変動指標値とを算出し、
前記算出角度の前記平均値と前記変動指標値との分布を回帰分析して、ばらつきがゼロのときの角度を前記対象物の前記傾斜角として取得することを特徴とする監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜角測定方法、傾斜検知方法、及び監視システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3軸加速度センサと、3軸加速度センサからのx軸出力値、y軸出力値およびz軸出力値に基づき、合成加速度を出力する合成加速度算出部と、合成加速度からの偏差値を求め、その値が所定の範囲内にあるとき、計測命令を出力する計測可否判定部と、計測可否判定部から計測命令を受けたとき、3軸加速度センサからのx軸出力値、y軸出力値およびz軸出力値に基づき、x軸方向の傾斜角、または、y軸方向の傾斜角またはその両方を計測値として出力する傾斜角算出部と、を備える傾斜計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-2744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、特許文献1に開示されるような加速度センサを備える傾斜計によって対象物の角度を測定して、対象物の傾斜を検知する技術が知られている。対象物の傾斜角を測定するには、対象物に外乱が作用していない静止状態において、加速度センサによって加速度を測定する必要がある。
【0005】
しかしながら、対象物に外乱が頻繁に作用する場合には、静止状態における加速度を測定することが困難である。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、対象物に外乱が作用する場合であっても、対象物の傾斜を精度よく検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、対象物の傾斜角を測定する傾斜角測定方法であって、対象物に取り付けられた加速度センサが検出する加速度に基づいて算出される算出角度を取得し、加速度センサの複数の検出結果を一つの検出単位とし、検出単位ごとに算出角度の平均値と検出結果のばらつきを表す変動指標値とを算出し、算出角度の平均値と変動指標値との分布を回帰分析して、ばらつきがゼロのときの角度を対象物の傾斜角として取得することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、対象物の傾斜を監視する監視システムであって、対象物の加速度を検出する加速度センサと、加速度センサの検出結果に基づいて対象物の傾斜角を算出する制御部と、を備え、制御部は、加速度センサが検出する加速度に基づいて算出される算出角度を取得し、加速度センサの複数の検出結果を一単位とし、単位ごとに算出角度の平均値と検出結果のばらつきを表す変動指標値とを算出し、算出角度の平均値と変動指標値との分布を回帰分析して、ばらつきがゼロのときの角度を対象物の傾斜角として取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加速度センサの複数の検出結果を含む検出単位ごとに実測角度の平均値と変動指標値を算出し、平均値と変動指標値の分布を回帰分析することで、ばらつきがゼロの状態、つまり、静止状態での傾斜角を取得することができる。これにより、対象物に外乱が作用する場合であっても、対象物の傾斜を精度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る監視システムが適用される看板の斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る監視システムの構成図である。
図3】本発明の実施形態に係る傾斜角測定方法を説明するためのグラフ図であり、横軸を標準偏差、縦軸を角度として、検出単位ごとにプロットした図である。
図4】本発明の実施形態に係る傾斜角測定方法の変形例を説明するためのグラフ図であり、図3に対応したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態に係る監視システム100及び傾斜検知方法について説明する。
【0012】
まず、図1及び図2を参照して、対象物の傾斜を監視する監視システム100について説明する。
【0013】
監視システム100は、対象物の傾斜角を測定し、正常状態からの対象物の傾斜を検知するシステムである。本実施形態では、対象物は、屋外に設置される構造物である内照式看板10(以下、単に「看板10」と称する。)である場合について説明する。
【0014】
図1に示すように、看板10は、箱状の看板本体12と、看板本体12を地面(設置面)に対して支持する支柱14と、を備える。本実施形態では、看板10は、水平な地面に対して支柱14が垂直となるように設置される。つまり、支柱14は、鉛直方向に沿って設けられる。
【0015】
図2に示すように、監視システム100は、看板10の加速度を検出する加速度センサ20と、加速度センサ20の検出結果を取得する制御部30と、を備える。
【0016】
加速度センサ20は、3軸の加速度センサである。加速度センサ20は、所定のサンプリング周期によってX軸、Y軸、及びZ軸方向の加速度を測定する。つまり、加速度センサ20が検出する加速度には、X,Y,Z軸方向の3成分が含まれる。加速度センサ20は、Z軸が鉛直方向に沿うようにして、看板10の内部に設けられる筐体16内に取り付けられる(図1参照)。
【0017】
制御部30は、加速度センサ20の検出結果に基づいて看板10の傾斜角を算出し、傾斜角に基づいて看板10の傾斜を検知する。本実施形態では、傾斜角は、鉛直方向に対する角度を意味する。また、看板10が傾斜しているとは、鉛直方向に対して傾斜していることを意味するのではなく、看板10が基準となる状態(例えば、看板10の設置直後の初期状態)から傾斜していることを意味する。
【0018】
制御部30は、加速度センサ20の検出結果が入力されるコントローラ31と、コントローラ31から加速度センサ20の検出結果を取得して、看板10の傾斜を検知するサーバ35と、を有する。
【0019】
コントローラ31は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)等を備えたコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは接続された機器との情報の入出力に使用される。
【0020】
コントローラ31は、加速度センサ20と共に、看板10の看板本体12の内部に取り付けられた筐体16内に設けられる(図1参照)。
【0021】
サーバ35は、CPU等の演算処理装置、記憶装置、通信装置等を備えるコンピュータにより構成される。記憶装置には予めプログラム、アプリケーション等が記憶されており、CPUがこれを実行することにより、本明細書に記載の各種処理を実行する。サーバ35は、例えばクラウドサーバとして構成される。
【0022】
コントローラ31とサーバ35とは、ネットワークNWを介して相互に通信可能に接続される。ネットワークNWは、有線又は無線によって他の機器との通信を行うための通信網である。本実施形態では、コントローラ31とサーバ35とは、互いに無線通信可能に構成される。コントローラ31に入力された加速度センサ20の検出結果は、無線通信によってネットワークNWを通じてサーバ35に送信される。
【0023】
次に、監視システム100による看板10の傾斜角測定方法及びこれを用いた傾斜検知方法について説明する。
【0024】
監視システム100では、サーバ35が以下に説明する処理を実行することにより、看板10の傾斜角の測定及び傾斜検知が行われる。
【0025】
本実施形態の傾斜検知方法では、ある所定の期間(以下、「測定期間」と称する。)に測定した傾斜角(以下、「対象傾斜角θi」と称する。)を、看板10の基準となる傾斜角(以下、「基準傾斜角θ0」と称する。)と比較することで看板10の傾斜を検知する。基準傾斜角θ0は、基準傾斜角θ0を設定するための所定期間(以下、「基準設定期間」と称する。)において実際に測定された看板10の傾斜角である。測定期間は、基準設定期間よりも後の期間である。本実施形態では、看板10の支柱14が鉛直方向に沿って設けられると共に、加速度センサ20のZ軸が鉛直方向に沿って設けられる。よって、看板10の基準傾斜角θ0は、0[deg]である。
【0026】
このように看板10の基準傾斜角θ0が0[deg]である場合には、基準傾斜角θ0を測定しなくても看板10が傾斜しているかを検知することは可能である。しかしながら、加速度センサ20の個体差、看板10への加速度センサ20の取付誤差、設置面への看板10の取付誤差などにより、基準傾斜角θ0が厳密には0[deg]にはならないことがある。このため、実際に看板10を測定して得られた基準傾斜角θ0に基づくことで、看板10の傾斜をより正確に検知することができる。
【0027】
以下、看板10の傾斜角の測定方法について説明する。基準傾斜角θ0の測定方法と現在の対象傾斜角θiの測定方法とは、基本的に同様であるため、主に基準傾斜角θ0を測定する場合を例に説明する。
【0028】
まず、サーバ35は、基準設定期間に加速度センサ20が検出した検出結果を取得する。基準設定期間は、例えば看板10を設置した直後の期間など、看板10が正常状態にある場合の期間であることが望ましい。本実施形態では、基準設定期間は、30日間である。
【0029】
次に、サーバ35は、基準設定期間内の加速度センサ20の複数の検出結果を一つの検出単位Uとして設定する。これにより、基準設定期間内の加速度センサ20の検出結果は、複数の検出単位にわけられる。そして、サーバ35は、検出した加速度の合成加速度Aの標準偏差σと、加速度を変換して得られる角度(以下、「算出角度θ」と称する。)の代表値としての平均値θμと、を複数の検出単位Uのそれぞれについて算出する。
【0030】
本実施形態では、1日の検出結果を一つの検出単位とする。よって、本実施形態では、基準設定期間内の検出結果として30単位の検出結果U1、U2・・・U30が取得される。なお、以下では、一般化して、検出単位Un、標準偏差σn、算出角度θn、平均値θμnとして表記する。
【0031】
また、合成加速度Aの標準偏差σnと算出角度θnの平均値θμnとの算出においては、検出単位Unである1日のうちに検出されたすべての検出結果を使用しなくてもよい。例えば、1日のうち定められた時刻に加速度センサ20が検出した5つの加速度(検出結果)から、その検出単位Unの合成加速度Aの標準偏差σn及び算出角度θnの平均値θμnを算出するものでもよい。よって、以下では、各検出単位Unの合成加速度Aの標準偏差σnと算出角度θnの平均値θμnとは、検出単位Un内の5つの検出結果に基づいて算出されるものとする。
【0032】
加速度センサ20が検出する加速度には、X軸、Y軸、及びZ軸方向の3成分が含まれる。各加速度のX軸方向成分をAx、Y軸成分をAy、Z軸成分をAzとすると、合成加速度Aは、以下の式によって算出される。検出単位Unに含まれる5つの検出結果のそれぞれについて合成加速度Aを求め、5つの合成加速度Aの標準偏差σnを算出する。なお、加速度センサ20は、Z軸が鉛直方向に沿うようにして看板10に取り付けられており、正常状態での合成加速度Aは、重力加速度と理論上一致する。
【0033】
【数1】
【0034】
次に、検出単位Unごとに、5つの検出結果のそれぞれについて加速度成分から算出角度θnを算出し、その平均値θμnを求める。算出角度θnは、以下の式(2)により算出される。
【0035】
【数2】
【0036】
式(2)において、Ax0、Ay0、及びAz0は、角度算出のための基準となる基準加速度の各成分である。本実施形態では、基準加速度は、重力加速度に一致する。よって、基準加速度の各成分は、(Ax0,Ay0,Az0,)=(0,0,1)となる。なお、本実施形態では、加速度センサ20のZ軸の出力値Azは、鉛直方向下向きに作用する加速度を正の値としている。
【0037】
次に、図3に示すように、各検出単位Unの標準偏差σnと算出角度θnの平均値θμnとの分布を回帰分析する。図3は、横軸を標準偏差σ、縦軸を角度θとして、各検出単位Unをプロットしたグラフ図である。
【0038】
本実施形態では、回帰分析として、最小二乗法による線形回帰分析(単回帰分析)を用いる。そして、ばらつきがゼロ(σ=0)のときの角度を外挿法によって取得する。具体的には、回帰分析によって得られる回帰式θ=a0・σ+b0における切片b0で表される角度値を取得し、この角度値を看板10の基準傾斜角θ0とする(θ0=b0)。なお、最小二乗法による線形回帰分析については、公知の手法により行うことができるため、詳細な説明は省略する。以上のようにして、基準傾斜角θ0が取得される。
【0039】
次に、測定期間において看板10の対象傾斜角θiを測定し、基準傾斜角θ0と測定した対象傾斜角θiとを比較することで看板10の傾斜を検知する。
【0040】
対象傾斜角θiの測定では、上述の基準傾斜角θ0の測定と同様に、測定期間内の検出単位Unごとに算出角度θnの平均値θμnと標準偏差σnとを算出する。以下では、基準傾斜角の測定と同様、測定期間を30日とし、検出単位は1日として説明する。
【0041】
対象傾斜角θiの測定において、算出角度θnは、式(2)を利用して算出される。この際に利用する基準加速度は、基準設定期間における基準加速度と同様、重力加速度である。つまり、基準加速度は、基準傾斜角θ0の算出と対象傾斜角θiの算出とで共通である。
【0042】
そして、図3に示すように、平均値θμnと標準偏差σnの分布を回帰分析して、標準偏差σnがゼロのときの角度値b1を対象傾斜角θiとして取得する(θi=b1)。
【0043】
このようにして取得した基準傾斜角θ0と対象傾斜角θiとを比較することにより、正常状態(傾斜角が基準傾斜角θ0である状態)からの看板10の傾斜を検知することができる。具体的には、対象傾斜角θiと基準傾斜角θ0との差が、予め定められる閾値以上であれば、看板10が傾斜したとする。看板10の傾斜が検知されると、例えば、表示装置上に傾斜を示す情報が表示されるなどの手法により、報知される。これにより、看板10のメンテナンスなど、傾斜した看板10に対して速やかに対処することができる。
【0044】
ここで、一般に、看板のような屋外構造物には、日光や昼夜の温度変化、風などの外乱が作用する。看板は、このような外乱の影響によって一時的に傾斜角が変化することがある。よって、看板の傾斜角を測定しても、外乱の影響によってばらつきが大きくなり、これに伴い看板が静止した状態での傾斜角を取得することが困難である。
【0045】
これに対し、本実施形態では、算出角度θnの平均値θμnと標準偏差σnとの分布から、ばらつきがゼロのときの角度を外挿法によって求めることで、傾斜角(基準傾斜角θ0、対象傾斜角θi)を取得する。このため、ばらつきが大きい場合でも、静止状態(ばらつきがゼロの状態)の角度を容易に算出することができるため、外乱が作用する看板10の静止状態での傾斜も容易に検知することができる。つまり、本実施形態では、外乱による一時的な傾斜ではなく、経年劣化や破損などに起因する定常的な看板10の傾斜を検知することができる。
【0046】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0047】
まず、図4を参照して、算出角度θnの平均値θμnと標準偏差σnとの分布の回帰分析及び外挿法についての変形例を説明する。
【0048】
上記実施形態では、分布の全体を回帰分析して傾斜角を取得した。これに対して、分布の一部に対して回帰分析を行ってもよい。また、回帰分析は、重回帰分析でもよい。別の観点からいうと、回帰分析の回帰式は、上記実施形態のように線形関数に限定されず、多項式関数、指数関数、対数関数、累乗関数など非線形関数式であってもよい。
【0049】
図4は、変形例を示すグラフ図であり、測定期間の検出単位をプロットしたものである。図4に示す変形例では、検出単位Unの分布から、標準偏差σnの所定範囲Δσごとに角度(平均値θμn)の最小値(図中ハッチングで示すプロット)を抽出し、抽出された最小値を回帰分析する。図4に示す変形例では、回帰式は、3次の多項式であり、この回帰式よりばらつきがゼロのときの角度値b1が対象傾斜角θiとして取得される。このような変形例は、例えば、各検出単位Unの標準偏差σnが比較的大きいような場合に有用である。なお、図4に示す変形例では、最小値ではなく最大値を回帰分析するものでもよい。また、最小値又は最大値を回帰分析する場合には、分布するすべての標準偏差σnの範囲内から最大値又は最小値を抽出してもよいし、特定の標準偏差σnの範囲内において最大値又は最小値の抽出をするものでもよい。例えば、図4に示すように、σ1以下の範囲内で最小値を抽出して回帰分析を行って傾斜角を測定してもよい。
【0050】
このように、回帰分析の手法は、実際の分布に合わせて適切なものを選定するのが望ましい。
【0051】
次に、その他の変形例について説明する。
【0052】
上記実施形態では、対象物は、屋外構造物である看板10である。これに対し、対象物は、看板10以外の屋外構造物、例えば、標識や街路灯であってもよい。また、対象物は、外乱の影響を受ける屋外構造物に限定されず、外乱があまり作用しない対象物(例えば屋内の構造物)に適用されてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、加速度センサ20は、3軸の加速度センサである。これに対し、加速度センサ20は、3軸に限定されず、単軸、2軸、4軸以上の複数の軸を有するものでもよい。また、加速度センサ20は、単一のセンサに限定されず、複数のセンサを組み合わせて構成されるものでもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、制御部30は、看板10に設置されるコントローラ31と、コントローラ31と通信するサーバ35と、を備える。そして、主として、サーバ35によって看板10の傾斜角の測定と傾斜の検知とが行われる。これに対し、上記実施形態で実行される各処理は、コントローラ31とサーバ35とによって分散して処理されるものでもよい。また、サーバ35は、クラウド環境によるものに限定されない。また、制御部30は、サーバ35を備えず、看板10に設置されるコントローラ31によって傾斜角の測定と傾斜の検知が実行されてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、加速度センサ20の検出結果の代表値として、平均値θμが用いられる。これに対し、代表値は、平均値に限定されず、その検出単位Unに含まれる検出結果を表すものであれば、任意の値を利用することができる。例えば、代表値は、最頻値、中央値、最大値、最小値など、検出単位Unに含まれる検出結果のいずれかの値を利用してもよい。また、代表値は、検出結果そのものに限らず、平均値のように検出結果から算出した値を利用してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、加速度センサ20の検出結果のばらつきを表す変動指標値として、標準偏差σnが用いられる。これに対し、変動指標値は、標準偏差σnに限定されず、例えば分散など、ばらつきを表すその他の指標を用いてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、傾斜角は鉛直軸に対する角度として定義しているため、重力加速度である基準加速度のX軸方向成分Ax0、Y軸方向成分Ay0、及びZ軸方向成分Az0は、(Ax0,Ay0,Az0,)=(0,0,1)となる。これに対し、基準加速度の各成分は、基準傾斜角θ0の算出と対象傾斜角θiの算出とで共通とされる限り、上記実施形態のものに限定されず、傾斜角の定義に応じて任意の値とすることができる。
【0058】
また、上記実施形態では、測定期間は、基準設定期間と同じ30日であり、検出単位に含まれる検出結果の個数も5個で同じである。これに対し、対象傾斜角θiを測定するのにあたり、測定期間と検出単位に含まれる検出結果の個数は、それぞれ基準傾斜角θ0の測定の場合と異なっていてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、対象傾斜角θiは、測定期間が経過して測定期間内での加速度の検出がすべて完了した後に、取得される。これに対し、少なくとも2つの検出単位Unの算出角度θnの平均値θμnと標準偏差σnとが求められれば、傾斜角は取得できる。よって、測定期間経過後に限らず、それまでに取得された検出結果に基づいて、測定期間中に現在の傾斜角を取得するようにしてもよい。例えば、測定期間中、一つの検出単位の加速度の検出が完了するごと(1日ごと)に対象傾斜角θiを取得して更新するようにしてもよい。これによれば、測定期間中に看板10の傾斜が進行して、基準傾斜角θ0との角度の差が閾値を超えるような場合であっても、測定期間が経過する前に速やかに看板10の傾斜を検知することができる。
【0060】
また、看板10の傾斜の検知においては、対象傾斜角θiは、測定期間内に検出された検出単位Unのうちもっとも標準偏差σnが小さい検出単位における平均値θμ(代表値)を利用してもよい。この方法(以下、「変形例による傾斜角の測定方法」と称する。)は、測定期間経過後に対象傾斜角θiを取得する場合と、測定期間中に対象傾斜角θiを取得する場合と、のいずれにも利用することができる。上記実施形態において説明した回帰分析による傾斜角の測定方法は、検出結果のデータ量(プロット数)が少ない場合には回帰式の傾きが負になるなどして精度が低くなる場合がある。これに対し、変形例による傾斜角の測定方法は、例えば測定期間開始直後など検出結果が少ない場合であっても極端に精度が低下することがないので、この点において有用である。よって、例えば、測定期間中には、変形例による傾斜角の測定方法によって標準偏差σnが小さい検出単位Unの平均値θμnを対象傾斜角θiとして取得して対象物の傾斜を検知し、測定期間経過後には、上記実施形態で説明した回帰分析による方法によって対象傾斜角θiを取得して対象物の傾斜を検知するようにしてもよい。つまり、少なくとも基準傾斜角θ0が上記実施形態で説明した回帰分析による傾斜角の測定方法によって取得されればよく、対象傾斜角θiは、外挿法による方法と変形例による傾斜角の測定方法とのいずれか又はその両方によって測定することができる。
【0061】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0062】
本実施形態に係る傾斜角測定方法は、看板10に取り付けられた加速度センサ20が検出する加速度に基づいて算出される算出角度θnを取得し、加速度センサ20の複数の検出結果を一つの検出単位Unとし、検出単位Unごとに算出角度θnの平均値θμnと検出結果のばらつきを表す標準偏差σnとを算出し、算出角度θnの平均値θμnと標準偏差σnとの分布を回帰分析して、ばらつきがゼロのときの角度を看板10の傾斜角として取得する。
【0063】
この構成では、加速度センサ20の複数の検出結果を含む検出単位Unごとに算出角度θnの平均値θμnと標準偏差σnを算出し、平均値θμnと標準偏差σnの分布を回帰分析することで、ばらつきがゼロの状態、つまり、静止状態での傾斜角を取得することができる。これにより、看板10に外乱が作用する場合であっても、看板10の傾斜を精度よく検知することができる。
【0064】
また、本実施形態の傾斜角測定方法では、回帰分析は、最小二乗法による線形回帰分析である。
【0065】
また、本実施形態の変形例に係る傾斜角測定方法では、算出角度θnの平均値θμnと変動指標値との分布のうち、変動指標値の所定範囲ごとの平均値θμnの最大値又は最小値を抽出し、抽出された最大値又は最小値を回帰分析して、ばらつきがゼロのときの角度を看板10の傾斜角として取得する。
【0066】
また、本実施形態の看板10の傾斜検知方法は、所定の基準設定期間内において、傾斜角測定方法によって看板10の傾斜角を取得し、基準設定期間よりも後の所定の測定期間内において、傾斜角測定方法によって看板10の前記傾斜角を取得し、基準設定期間内における看板10の傾斜角と測定期間内における看板10の傾斜角とを比較して、看板10の傾斜を検知する。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0068】
100 監視システム
10 内照式看板(対象物)
20 加速度センサ
30 制御部
図1
図2
図3
図4